【技術分野】 【0001】 本発明は陽イオン交換体を用いて低減したカルシウム含有量を有する陽イオン修正(cation-modified)乳タンパク濃縮物(milk protein concentrates:MPCs)を生産することに関する。 また本発明はそのようなMPCsを食用ゲルの生産に使用することにも関する。 さらに本発明はチーズ、チーズ様製品、塩味(savoury)製品、デザート、菓子製品および中間食品を調製するために該ゲルを使用することに関する。 【背景技術】 【0002】 その技術に熟練したチーズ製造業者は、チーズ製造パラメータを変えることで、世界のいろいろな地方で長く利用されるナチュラルチーズ種類の組成、表面組織(テクスチャ)、官能的性質を広範囲で調整することが可能である。 伝統的ナチュラルチーズは、水和したタンパク質マトリックス中に脂肪粒子が分配された食品ゲルとして分類できる。 チーズでは、このタンパク質マトリックスは、水和したカゼインおよびその反応生成物(種々のリン酸カルシウム塩から主に構成されるミネラル類と錯化されている)から主に構成される。 全体組成(脂肪、水および塩濃度)は別にして、チーズ製造業者が様々な表面組織を与えるために操作できる主な変数は大樽内の化学処理条件、例えばレンネット濃度、時間、温度、イオン濃度およびpHである。 これらの変数は生成プロセスの間に凝乳(カード)粒子から乳清(ホエー)が排除される速度および範囲に影響する。 生成の間に、ミネラル類が乳清の他の構成成分とともに凝乳粒子から追い出される。 チーズ凝乳の表面組織に影響する主なミネラル類の一つがカルシウムである1, 2 。 多様な伝統的チーズ種類のカルシウム含有量はフォックス(Fox) 3により与えられる。 【0003】 非伝統的チーズ製造においては、生成物のカルシウム含有量は、以前より明らかになっている多様な処理(プロセス)によって操作できる。 最近の例として、限外濾過に先立って乳の酸性化を行うことによってMPCのカルシウム含有量を調整(すなわち低下)できることを教示するモラン(Moran)ら(米国特許第6,183,804号)を参照。 加えて、カルシウム含有量を低下するために限外濾過に先立って乳に塩化ナトリウムを添加し得ることも教示されている。 これらの技術を用いる場合に、タンパク質沈殿4 、保持物(retentate)粘度およびダイアフィルトレーション範囲に対する制限などの要因のために乳の限外濾過時に除去できるカルシウムの割合に対して実際の限界がある。 さらに、限外濾過流量が妨げられ5 、その値が添加される塩または酸による透過物(permeate)の汚染により低下され得る。 通常、商業的プラントでの膜技術を用いた実際の除去限界は約20%のカルシウムになる。 本発明の記載を通じて、カルシウムは当該修正された処理(プロセス)の流れ及び生成物における二価陽イオンを比較するための参照ミネラルとして用いられる。 他のミネラル、例えばマグネシウムのレベルも修正されることが留意されるべきである。 【0004】 アルノー(Arnard)ら(ヨーロッパ特許出願EP 16292)は、一価陽イオンで装填されるときの陽イオン交換樹脂による処理を用いて乳および乳製品から本質的に100%のカルシウムを除去できることを教示している。 【0005】 カゼインミセルからカルシウムを除去するための別の方法は、それをリン酸塩またはクエン酸塩などの食用に適した金属イオン封鎖剤を用いて化学的に結合されることである。 ナチュラルチーズをプロセスチーズ、プロセスチーズスプレッドおよびその様な製品に変換するそのような物質が当該技術分野で知られている。 そのような物質は「溶解塩」(melting salt)として知られている。 MPCの溶解度特性の改良においてEDTA等のような物質を用いたカルシウムキレート化が WO 01/41578においてブレージー(Blazey)らにより教示されている。 【0006】 アルノー(Arnard)ら(ヨーロッパ特許出願EP 16292)は、溶解塩の使用を必要とせずに、陽イオン交換により処理されたチーズをプロセスチーズスプレッドに変換できることを開示している。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明者は、陽イオン交換樹脂処理を使用すること及びカルシウム除去の範囲を限定することによって、凝固酵素、例えばレンネット等、溶解塩またはガムを使用することなく、様々な新規タンパク質ゲル、チーズおよびチーズ様製品を生成する機会を生み出す、モラン(Moran)らにより教示されている濃度よりも高く、かつ、アルノー(Arnard)らにより教示されている濃度よりも低い中間のカルシウム濃度範囲があることを発見した。 【0008】 本発明の目的は、この要求を実現し又は少なくとも社会一般に対し有用な選択肢を提供することである。 【0009】 EP 16292 明細書に与えられた唯一の実施例において、酪農製品(プロセスチーズ)が調製される前に、「酪農製品」前駆体、チェダーチーズから殆ど完全なカルシウム除去を行うことが記載されている。 しかし、該発明者がカルシウム除去を所定レベルに制限する試みを行ったことについて何ら記載も示唆もない。 除去されるカルシウムイオン濃度を制御することによって、所定の特性をもった食品ゲルまたはチーズ様製品の調製における使用に適したMPCを生成可能であることについて何ら示唆していない。 【課題を解決するための手段】 【0010】 従って、本発明は広く、ゲルを生成するために適した修正MPCの生産方法であって、未修正MPCの水溶液を、一価陽イオンを含有する食用に承認された陽イオン交換体を用いた陽イオン交換により処理して、前記修正MPC中の二価陽イオンの代わりに一価陽イオンへの所定量の置換を得ること、および前記修正MPCを回収することを含む方法にあると言える。 【0011】 一つの選択肢において、前記方法は、前記修正MPCを脱水および乾燥してパウダーにする工程を含む。 【0012】 一つの態様では、未修正MPCの前記水溶液を2つの処理の流れに分け、その第1の流れを前記陽イオン交換により処理し、前記第1の流れが前記イオン交換により処理された後の前記第1の流れと第2の流れを混ぜ合わせて、前記修正MPCの流れを生じさせる。 【0013】 好ましくは、前記修正MPCのカルシウム含有量が未修正MPCのカルシウム含有量の20〜80%になるように減損される。 【0014】 より好ましくは、カルシウム含有量が未修正MPCのカルシウム含有量の40〜60%となるように減損される。 【0015】 あるいは、カルシウム含有量が未修正MPCのカルシウム含有量の25〜45%になるように減損される。 【0016】 特に好ましい態様では、カルシウム含有量が未修正MPCのカルシウム含有量の50%になるように減損される。 【0017】 一つの態様では、前記方法は、前記修正MPCを35〜95℃の温度に加熱し、ゲルが形成されるまで前記温度を維持し、そこから前記ゲルを回収する追加の工程を含む。 【0018】 好ましくは、前記修正MPCを50℃〜90℃の温度に加熱する。 【0019】 別の態様では、前記ゲルが形成される前に、酪農製品を構成する成分が前記修正MPCに加えられる。 【0020】 別の態様では、前記ゲル形成処理の間に、酪農製品を構成する成分が前記修正MPCに加えられる。 【0021】 別の態様では、前記ゲルが形成された後に、酪農製品を構成する成分を前記修正MPCに加える。 【0022】 一つの選択肢において、前記未修正MPCがスキムミルク限外濾過保持物から生産される。 【0023】 別の選択肢において、前記未修正MPCが全乳限外濾過保持物から生産される。 【0024】 好ましくは、前記未修正MPCが少なくとも20%の全固形分を含有するまで、限外濾過を継続する。 【0025】 好ましくは、前記イオン交換を4.5〜8.0のpHで行う。 【0026】 好ましくは、前記イオン交換がイオン交換カラム中で行われ、前記カラムがカリウムもしくはナトリウムイオンで装填された食用に承認された陽イオン交換樹脂で充填される。 【0027】 最も好ましくは、前記樹脂がナトリウムイオンで装填される。 【0028】 一つの選択肢において、前記ゲルを形成すべく加熱する前に、チーズ構成成分が前記修正MPCに加えられる。 【0029】 一つの選択肢において、前記イオン交換工程の後に、前記修正MPCを膜濾過により濃縮する。 【0030】 一つの選択肢において、未修正MPCを含有する前記溶液を陽イオン交換により処理する前にタンパク質イオン交換により処理する。 【0031】 一つの態様では、本発明は上記方法により調製された修正MPCパウダーにある。 【0032】 別の態様では、本発明は上記方法により調製された前記修正MPCパウダーから誘導されたゲルにある。 【0033】 一つの選択肢において、前記ゲルは別の食品中の成分として作用し得る食品である。 【0034】 別の選択肢において、前記ゲルはチーズの化学的および物理的特性を有する。 【0035】 別の選択肢において、前記ゲルはプロセスチーズまたはプロセスチーズ型製品に更に修正され得る。 【0036】 本発明は広く、独立して又は集合して本願の明細書中で言及され又は表示された部分、要素および特徴、ならびに前記部分、要素および特徴のいずれかの2以上のいずれか又は全ての組合せにあると言うこともでき、本発明が関連する技術分野において既知の均等物を有する特定の完全体が本願明細書中で言及されている場合には、そのような既知の均等物は独立して記載されているように本願明細書中に取り込まれるものとみなされる。 【0037】 本発明は、本発明による方法の流れ図である図1を参照することによって更に十分に理解できるであろう。 【発明を実施するための最良の形態】 【0038】 図1を参照すると、好ましい出発物質は乳(ミルク)である。 より詳しくは、脂肪をクリームとして除去するために分離を使用して、又は適当なクリームもしくはスキムミルク製品を添加することによって脂肪分を強化または低減するために規格化を使用して、全乳の脂肪分が所望のように調整される。 分離および/または規格化により、スキムミルクから脂肪増強全乳までの範囲にわたる出発材料を生じさせることができる。 より好ましい出発材料は脂肪分0.06〜0.08%のスキムミルクか又は全乳である。 乳は標準的手順を用いて必要により低温殺菌され冷却される。 必要であれば、乳中の脂肪小球のサイズをホモジェナイゼーションにより小さくすることができる。 【0039】 乳から水、ラクトース、乳塩類の所望部分および(任意的に)乳清タンパク質の一部または全部を除去して所望のMPC溶液を生じさせるために、多数の濾過手順を用いることができる。 連続式膜濾過が乳成分を分ける好ましい方法である。 より好ましくは、この調製された乳は2ないし8倍の体積濃度因子(VCF=乳の体積/保持物の体積)を達成できる適した膜システムを用いた限外濾過(UF)によりMPC溶液を生成する。 好ましいUFシステムは3ないし6倍のVCFをもったUF保持物を生成するために使用される10,000〜30,000よりも大きな分子量をもった化合物群を保持できる膜を備えている。 タンパク質濃度はUF時にダイアフィルトレーション(DF):すなわち水を添加してラクトースおよび溶解している乳塩類を増加させるとともに保持物粘度を減少させる処理により濃縮される。 適したUF/DFシステムは、14%〜50%の全固形分(TS)をもった保持物を生じさせるものである。 好ましいUF/DFシステムは、スキムミルクから14%〜30%のTSをもった保持物を、また全乳から14%〜30%のTSをもった保持物を生じさせる。 好ましいUF/DFシステムは、当初の乳供給流れに存在しているカゼインおよび乳清タンパク質の本質的に全てを含有するUF保持物を生じさせる。 MPCsの製造における濾過の使用は文献によく記載されている6, 7, 8 。 【0040】 本書類の背景技術の欄で論じたように、濾過に先立ち乳のpHを調整することによってMPCの二価ミネラル含有量を操作できることは既に知られている。 乳のpHは食用に適した酸および/またはアルカリの添加により3.0〜9.5の範囲内に調整し得る。 このpH調整の程度がカゼイン中の二価イオンの溶解を促進し、これらのミネラルを乳清に移動させて濾過時に乳から除去することを可能とする。 好ましい手順は、カゼイン中に存在している二価ミネラル錯体の溶解を高めるために食用に適した酸を添加することにより、18℃以下の温度で乳のpHを低下することである。 別法として、二価イオンの除去の向上は、酸を添加して乳のpHを低下させ、該乳を所定時間保持し、アルカリの添加によりpHを上昇させることによっても達成し得る。 pH操作によりカゼインミセルからの二価イオンの除去の向上を達成するために好ましい手順は、(1)15℃以下の温度で食品用銘柄(food grade)の有機酸により乳のpHを4.9ないし5.4に低下させること、(2)30ないし45分間穏やかに攪拌しながら、この温度に該乳を保持すること、(3)食品用銘柄のアルカリを添加して該乳のpHを5.8ないし6.2に上昇させ、そして直ちに所望の処理を継続することを含む。 pH調整のためにより好ましい酸は食用に適した有機酸であり、最も好ましい有機酸は乳酸である。 【0041】 酸に代えて、又は酸に加えて、一価陽イオンを含有する食用に適した塩類も、濾過に先立って乳に任意的に添加し得る。 一価陽イオンの添加の後に、UFに先立って穏やかに攪拌しながら乳を30分間保持することが好ましい。 【0042】 しかしながら、上記の既知の手順の全てが僅か約20%に過ぎないカルシウム減損という最大の実際のレベルに制限される。 これらの既知の手順は、低下したpHにおける幾つかの濾過膜を通じた実質的に減少した流量ならびに酸および/または塩透過物の生成に起因して同様に好ましくない。 MPC溶液中の二価陽イオンレベルを減少させる上記の既知の方法は、本発明による方法を実行する前の予備的な工程として使用できる。 【0043】 本明細書の目的のために、カルシウム減損(depletion)の割合は、新鮮な乳の典型的pHすなわち6.6〜6.8における乳の濾過により生じる等価なMPC溶液中に典型的に見出される全タンパク質のkg当たりのカルシウムのミリモル数を基準とされる。 【0044】 図1に関して記載される方法は新鮮な乳からのMPCの生成およびイオン交換カラム中の当該保持物の即時の処理を企図するが、乾燥MPCを再構成することによって水性タンパク質溶液を調製して本発明による更なる処理を行うことも等しく可能である。 【0045】 本発明による方法においては、適当に装填した樹脂を含有するイオン交換反応器中で10〜100%のMPC溶液を処理することによって、MPC溶液のミネラル含有量が修正される。 好ましいイオン交換反応器は水素(H + )、カリウム(K + )またはナトリウム(Na + )イオンのような一価陽イオンで装填された陽イオン交換樹脂を含有する。 より好ましくは、陽イオン交換樹脂は、MPC溶液から二価陽イオン、特にCa +2およびMg +2の所望の量の交換および除去を行うためにナトリウムイオンで装填される。 【0046】 MPC溶液の100%をイオン交換樹脂に通す場合に、カルシウム除去が当初のMPC溶液中の20%以上であって80%以下に限定されることが好ましい。 この目的カルシウム減損レベルを達成するための手順は、MPC溶液の一部をイオン交換し、これをイオン交換処理しなかったMPC溶液とブレンドすることである。 好ましくは、当初のMPC溶液の10%よりも多いが100%よりも少ない部分がイオン交換により処理されて、イオン交換MPC溶液中のカルシウムの20〜95%が除去され、これが好ましくはナトリウムで置換される。 より好ましくは、陽イオン交換によりイオン交換MPC溶液中のカルシウムの60〜85%が除去され、これが好ましくはナトリウムで置換される。 次に、イオン交換MPC溶液がイオン交換されなかったMPC溶液とブレンドされて、当初のMPC溶液中の20%以上であって80%以下のカルシウム減損レベルをもったブレンドを生じる。 【0047】 イオン交換反応器の設計および使用するイオン交換樹脂の量は、二価陽イオンを一価陽イオンで交換するために適度に速い反応速度を促進するべきである。 MPC溶液から除去されるカルシウムイオンの量は適当な樹脂の選択、MPC濃度、イオン交換カラム中の粘度およびイオン交換カラム内の処理条件によって制御される。 そのような条件としては、滞留時間、pH、温度、液体の体積、樹脂の体積、交換体積および樹脂床の破過特性が含まれる。 イオン交換処理の操作は当業者により実行できる9, 10, 11 。 【0048】 イオン交換反応器に加えられる好ましいMPC溶液は約10%の全固形分を含有する。 イオン交換に先立って適当な食品用銘柄の酸を添加してpHを約5.9に調整して、イオン交換カラム中の流体の粘度を低下させる。 好ましいイオン交換樹脂は、食用に承認されているアンバーライト(Amberlite)(商標) SR1L Naである。 好ましくは、イオン交換は2〜60℃の温度で行われる。 より高い温度はイオン交換器中の流体粘度を減少させるが、微生物の増殖を抑制するために10℃が好ましい。 【0049】 好ましくは、ブレンドしたMPCの流れ中で、カルシウムが20%よりも多くて80%よりも少ない分だけ減損されている。 MPC中のカルシウム減損のレベルは、最終生成物に所望される物理的および化学的特性ならびにゲル形成処理、例えばMPCパウダー水和、乳化およびゲル化の必要とされる速度に基づいて選択される。 このカルシウム減損の範囲は、濾過前の酸もしくは塩の添加という既知の方法により実際に達成可能なカルシウム減損レベルよりも高く、EPA16292においてアルノー(Arnard)により教示されているカルシウム減損レベルよりも低い。 【0050】 チェダーチーズ様ゲルを生じさせるためには、スキムMPC溶液の約25%〜約60%をイオン交換により処理して、約80%〜約90%のカルシウムを除去する。 この処理した溶液を、イオン交換処理にかけなかったMPC溶液と組み合わせて、ブレンド中で約25%〜約45%の目標カルシウム減損レベルを生じさせる。 本明細書の実施例は、修正MPCsの範囲から生じる他の最終生成物用途の範囲を例示する。 【0051】 MPC溶液を、ミネラルイオン交換に加えてタンパク質含有量を修正するために別個のイオン交換システムに任意的に通してもよい。 好ましくは、タンパク質含有量を修正するためのイオン交換システムは、ミネラル含有量を修正するためのイオン交換の前の順序で行われる。 より好ましくは、濃縮されたタンパク質溶液のタンパク質含有量を修正するために使用されるイオン交換システムが、β−ラクトグロブリン(β−Lg)を除去できる樹脂を含有する。 したがって、そのようなイオン交換システムは、その後のミネラル含有量の修正のためのイオン交換の使用に先立って、β−Lgおよび類似のタンパク質が全体的または部分的に除去されたMPC溶液を生じさせることになる。 【0052】 加えて、ミネラルおよび場合によりMPCのタンパク質含有量を更に修正するためのイオン交換の使用後にタンパク質溶液の濃度を任意的に持続してもよい。 好ましくは、タンパク質の流れを濃縮するとともに全タンパク質のkg当たりの一価陽イオン含有量を減少させるために、UFおよびDFの組合せが使用される。 【0053】 塩類をMPCに添加する場合には、一価陽イオンを含む塩類を濾過後のMPC溶液に添加することが好ましい。 塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムを約0.05〜2.5%のレベルで濃縮タンパク質溶液に添加することが好ましい。 【0054】 任意的に、蒸発を含む標準的手順によって、MPC溶液の更なる濃縮を行うことができる。 蒸発の方法としては、限定されないが、流下薄膜、筒状および掃引曲面(ワイプド・フィルム)エバポレータの使用が挙げられる。 修正MPC溶液の蒸発は、約25%〜約75%の全固形分(TS)レベルまで継続する。 ミネラル調整後の又は蒸発後のMPC溶液の脂肪分(脂肪含有量)は、適当な脂肪分を含有するクリームの添加によって所望のように調整し得る。 修正MPC溶液の塩分(塩含有量)も、蒸発の前または後に、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムの添加によって調整し得る。 濃縮された修正MPC溶液は、後述のように食品ゲルの配合および形成において直接に使用できる。 【0055】 あるいは、濃縮された修正MPC溶液は、任意的にパウダーに乾燥することもできる。 乾燥の方法としては、限定されないが、噴霧(スプレー)、流動床、および凍結乾燥の使用が挙げられる。 乾燥後の生成物の好ましいTSは約95%である。 乾燥した修正MPCパウダーは保存安定であり、場合によっては別の場所で、後日にゲル形成/チーズ製造を完了するために必要とされるまでパック(詰込み)および貯蔵できる。 任意的に、パウダーを所望の食品ゲルに変換することが所望されるときに、更なる処理を開始することもできる。 【0056】 修正MPCsからの食品ゲルの形成 任意的に、濃縮された修正MPC溶液、乾燥した修正MPCパウダー、または修正MPC溶液と修正MPCパウダーの組合せを、適当な脂肪源と組み合わせることもできる。 適当な脂肪源としては、クリーム、バター、無水乳脂肪、溶かした(clarified)バター、および食用油が挙げられる。 最も好ましい脂肪源は、プラスチッククリーム(約80%の乳脂肪を含有する酪農製品)、バター、および/または無水乳脂肪である。 乾燥した修正MPCパウダーを使用する場合の任意的な手順は、その修正MPCパウダーを脂肪に十分攪拌しながらブレンドして、均質なペースト状生成物を生じさせることである。 【0057】 ゲル形成は、約35℃〜約95℃の台所用スチームを加えることにより直接的に又は加熱ジャケットにより間接的に加熱することによって、上記混合物中で誘導できる。 チーズ品種(例えば限定されることなくチェダーチーズを含む)の生成のためのゲル形成は約35℃ないし約75℃の温度で誘導されることが好ましい。 冷却時に所望の本体、表面組織、脂肪小球サイズおよび融解特性を有する食品ゲルを生成するために、攪拌のレベルが選択される。 任意的に、ゲル化プロセスの間に剪断速度を変更し得る。 【0058】 これらのゲルを形成するために凝固酵素、例えばレンネット等、溶解塩またはガムを全く必要としないが、必要であればゲルの表面組織を操作するためにこれらの成分を添加し得る。 食品ゲルを望ましければ更に処理することができ、例えば、プロセスチーズ様製品を生成するために標準的プロセスチーズ製造技法を用いてチーズ様食品ゲルを処理することができる。 【0059】 一連の実験において、本発明者は、所与の食品ゲル生成物について、有用ゲルの生成のためのカルシウム減損レベルの最適範囲があることを発見した。 実施例1に示される手順に従い、種々のカルシウム濃度範囲を有する一連の修正MPCパウダーを調製した。 この連には、全乳のみならずスキムミルクから調製されたパウダーが含まれる。 この連には、イオン交換カルシウム減損手順を行わなかったスキムミルク参照MPCパウダーおよび全乳参照MPCパウダーの対も含まれる。 実施例3においてブレンテック調理機内で行われた実験では、これらのパウダーがチェダーチーズの公称組成(35%水分)を有するゲルを生成する能力を検討した。 これらの二連のパウダーより生成したゲルの特性の結果を表1にまとめる。 許容できるゲルと許容できないゲルの組合せが生じた。 これらの結果をMPC中のカルシウムレベル(kg Ca/kg タンパク質)に従って分類し、結果を表2に示す。 【0060】 表2は、当初の乳源(スキムミルクまたは全乳)とは無関係に、チェダーチーズの公称組成を有する許容できるゲルの生成のためのカルシウム濃度の好ましい範囲があることを示す。 【0061】 表2に示す結果は、チェダーチーズ様製品を調製する用途のためには、約25%よりも低いカルシウム減損レベルがMPCパウダー水和不良を招き、加熱しても有用なゲルを形成しないという結論に本発明者を導いた。 さらに本発明者は、約70%よりも高いカルシウム減損レベルでは、脂肪分散性不良および加熱時のゲル形成不良という許容できない組合せを見出した。 【0062】 別の一連の実験において、本明細書中の例は、いかに異なるMPCパウダー(乾燥物を基準として70%および85%タンパク質を有する)および異なるカルシウム減損レベルが広範囲の酪農食品ゲルを生成するために使用できるかを示す。 【0063】 【表1】
【0064】 【表2】
【0065】
完成した食用ゲルを生成するためのゲル化処理の前、間または後に、必要に応じて他の適当な成分を処理容器内のタンパク質・脂肪混合物に添加し得る。 添加し得る成分としては、限定されないが、追加的なタンパク質溶液またはパウダー、イオン交換によるミネラル調整後のタンパク質溶液またはパウダー、適当なスターター培養微生物および/またはフレーバー生成酵素による発酵後のタンパク質溶液またはパウダー、水、動物性および/または植物性脂肪および/または油、塩類、乳ミネラル類、酵素処理チーズ(enzyme modified cheese)、フレーバー(香味料)、フレーバー生成酵素および培養物、脂肪分解バター油、食品ガムおよび/またはハイドロコロイド、着色料、保存料、流れ剤、食用に適した酸などが挙げられる。 レンネット等のような凝固酵素は、ゲル化処理に不可欠ではない。 加えて、プロセスチーズ製造に通常使用される溶解塩、限定されないが例えば当該技術分野で既知のリン酸ナトリウム塩は、ゲル形成を達成するために必要とされない。
【0066】
タンパク質、脂肪および水分レベル、修正MPC中のカルシウム減損レベル、塩濃度およびpH等のような配合変数、ならびに温度、剪断速度および滞留時間等のようなプロセス変数を選択することによって、冷却したゲル化生成物の物理的および化学的特性を制御できる。 好ましくは、ゲル化生成物は、ナチュラルチーズと類似の化学的および物理的特性を有するので、ナチュラルチーズとして包装し市場に出すことができる。
【0067】
あるいは、ゲル化生成物は、更なる処理のための成分として使用できる。 例えば、溶解塩、限定されないが当該技術分野で既知のリン酸ナトリウム塩類の添加後に、チーズ様ゲルを更に処理して、標準的プロセスチーズ製造設備および技術を用いてチーズ様生成物を生成することができる。 チーズ様ゲル生成物は、チーズ様ゲルの形成直後にプロセスチーズ様生成物に変換できる。 あるいは、プロセスチーズ様生成物の製造のために必要とされるまで、チーズ様ゲル生成物を通常のナチュラルチーズ貯蔵条件の下で貯蔵できる。
【0068】
プロセスチーズ型製品の製造のためのチーズ様生成物の使用には、標準的なプロセスチーズ成分、例えば限定されないが、ナチュラルチーズ、脂肪、クリーム、酸、塩、溶解塩、フレーバー(香味料)、食用ガム、またはハイドロコロイド、酵素処理チーズ、フレーバー用脂肪生成物、着色剤、保存料、流れ剤などを添加することが含まれる。 該生成物は、攪拌しながら通常の処理温度(例えば80℃より高い)まで加熱され、所望のように包装され、プロセスチーズ型製品の製造のために標準的であるように取り扱われる。
【実施例】
【0069】
実施例1 − 本発明の修正MPCの調製 新鮮な全乳を受け取り、5℃以下での分離によりクリームを除去して、スキムミルクを生成した。 スキムミルクを標準的方法により低温殺菌し、10℃に冷却し、10,000の分子量カットオフを有するコッホ(Koch)(商標)S4 HFK 131型膜を含むシステム内でVCF値3までUFにより処理した。 次に、ダイアフィルトレーションを適用して、MPC溶液のタンパク質含有量が全固形分の85%を構成するまで継続した。 2当量/Lのナトリウムの全交換容量をもった、強酸性陽イオン交換樹脂である、食用に承認されているアンバーライト(AMBERLITE)(商標) SRIL Naの中にMPC溶液の一部を導入した。
【0070】
約70Lのナトリウム装填樹脂を140リットルのステンレス鋼容器に充填して、55cmの樹脂床高さを生じさせた。 MPC溶液をイオン交換カラム中で133kg/時間の流量で処理し、貯蔵容器に採集した。 イオン交換処理の完了時に、貯蔵容器中の液体は85%のカルシウム減損レベルを有した。
【0071】
十分な量の修正MPC溶液を未処理MPC溶液と組み合わせて、378ミリモルのカルシウム/kg全タンパク質をもった、すなわち未処理MPC85溶液に対して約33%カルシウム減損された修正MPCブレンドを生じさせた。 このブレンドした修正MPC溶液を蒸発させ、標準的手順により乾燥させて、以下の組成を有する乳タンパク質濃縮パウダーを生成した:TS 95.6%、(水分 4.4%)、脂肪 2.3%、タンパク質(%N×6.38) 82.46%、ラクトース 3.74%、灰分 7.1%および378ミリモルCa/kgタンパク質。 修正MPCを工業標準包装材料で包装し、ゲル製造用に使用されるまで周囲温度に保持した。
【0072】
単純にUF/DFの度合いの変更およびイオン交換MPC溶液と非イオン交換MPC溶液の混合比の変更による同一の基本プロセスを用いて、所定のタンパク質レベルおよびカルシウム減損レベルをもった修正MPCパウダーを製造した。
【0073】
実施例2 − 本発明の修正MPCsのゲル化特性とEP16292のアルノーにより示された方法によって製造されたMPCsのゲル化特性との比較
アルノーパウダーの製造 全乳を受け取り、分離によりクリームを除去して、スキムミルクを生成した。 約1150Lのスキムミルクを、VCF値4を用いて(10,000の分子量カットオフを有するコッホ(Koch) HFK 131型膜を使用する)10℃でのUFにより濾過して、MPC溶液を生成した。 このMPC溶液を脱イオン水で希釈して、全固形分を10%以下に減少させ、次に、3%乳酸を使用してpH5.9に調整した後に、ナトリウムイオンで装填された150Lの陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース(Rohm and Haas)アンバーライト(商標) SRIL Na)を含有するイオン交換カラム中での処理を行った。
【0074】
55℃の約85kgのクリームを、3%乳酸によりpH5.9に調整して、ナトリウムイオンで装填された5リットル以下の食用に適した陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース アンバーライト(商標) SRIL Na)を含有する、ファルマシア(Pharmacia)イオン交換カラムに通した。
【0075】
表3は、ミルクオスカン(MILKOSCAN)(商標)FT120および滴定により決定される、陽イオン交換後のクリームおよびMPC溶液の組成を示す。 こうして、(EP16292のアルノーの教示に従って)これらのイオン交換プロセスによりカルシウムの本質的に全部すなわち98%よりも多くがMPC溶液およびクリームから除去される。
【0076】
【表3】
【0077】
処理済MPC溶液の290リットルの部分をpH約6.4に調整し、標準的手順により蒸発および乾燥させて、EP16292でアルノーにより教示されている本質的にカルシウムを含まないMPC70パウダーを生成した。 残りの処理済MPC溶液(240L)を32kgのカルシウムを含まないクリームとブレンドし、pH約6.4に調整し、次に蒸発および乾燥させて、固形非脂肪分を基準として約70%のタンパク質を含有する高脂肪MPCパウダーを生成した。 この高脂肪パウダーもEP16292でアルノーにより教示されているように本質的にカルシウムを含まない。
【0078】
表4は、これら2種類の「アルノー」パウダーの組成を示し、それらを以下と比較するものである。
・アルノーの実施例2に用いられている出発チェダーチーズ(EP16292)。
・アルノーの実施例2からイオン交換後のチェダーチーズ(EP16292)。
・商業的に生産されるMPC70パウダー(アラプロ(ALAPRO)(商標)4700、NZMP、ウェリントン)。
・本発明に記載されるようにカルシウム含有量が48%低減した修正MPC70パウダー。
【0079】
【表4】
【0080】
「アルノー」MPCsと本発明のMPCとのゲル化挙動の比較。 280gバッチサイズを用いて、ファリノグラフ(FARINOGRAPH)(商標)ブレンダー(モデル820500、ブラベンデル、デゥイスブルグ、ドイツ)を使用してゲル化実験を行った。 このファリノグラフ(商標)ブレンダーは、2つの二重反転Z−ブレードにより攪拌された水ジャケット付き混合室から成る。 ブレードの一方が他方の回転速度の2倍の速度で回転する。 この2つの速度の設定は、遅い方の回転ブレードにつき、31.5または63rpmである(したがって速い方の回転ブレードが63または126rpmである)。 攪拌駆動軸上のトルクをロードセルにより測定した。
【0081】
上述のようにして製造したこれらのパウダーを使用して、3種類の実験を行った。 各パウダーを適量の脱イオン水、プラスチッククリーム(79%)および塩化ナトリウムとブレンドして、チェダーチーズに類似の目的生成物組成物、すなわち、脂肪35%、水分34%、タンパク質22%を生成した。 使用した3種類のパウダーは、以下のものである。
・48%カルシウム減損した本発明の修正MPC70パウダー。
・98%よりも多くカルシウム減損した「アルノー」MPC70パウダー。
・98%よりも多くカルシウム減損した「アルノー」高脂肪MPCパウダー(固形非脂肪分を基準として70%タンパク質)。
【0082】
1) 本発明のMPC70パウダーを使用するゲル化実験: 該ファリノグラフ(FARINOGRAPH)(商標)ブレンダーを40℃に予備加熱し、遅い方のZ−ブレードが31.5rpmで回転する混合室に120gの高脂肪クリームを加えた。 89gの修正MPC70パウダーおよび3gの塩化ナトリウムを該クリームに添加した。 混合を5分間継続して、脂肪が融解した時に、砕け易い黄色のペーストが形成された。 次に、68gの脱イオン水(40℃に予備加熱)を該混合物に加えた。 攪拌を更に17分間継続して、完全に脂肪が取り込まれた滑らかな不透明で黄色の混合物を生成した。 次に、該混合物を水ジャケットにより12分間にわたり60℃まで徐々に加熱し、この時間にわたって攪拌軸上のトルクを測定した。 5分後のトルクは0.80Nm以下から上昇し始めて10分以内に2.2Nmの最大値に達した。 このトルク応答は、該混合物がその処理の間に固いゲルに変換されたことを反映する。 約5℃まで冷却した時に、このゲルの本体(ボディ)および表面組織(テクスチャ)がチェダーチーズの本体および表面組織と等しくなった。
【0083】
2) 「アルノー」MPC70パウダーを使用するゲル化実験: 該ファリノグラフ(FARINOGRAPH)(商標)ブレンダーを40℃に予備加熱し、遅い方のZ−ブレードが31.5rpmで回転する混合室に120gの高脂肪クリームを加えた。 89gの「アルノー」MPC70パウダーを該クリームに加えた。 「アルノー」MPCパウダーは本発明により生成したMPCよりも高いナトリウムレベルを有していたので、塩化ナトリウムは必要でなかった。 混合を5分間継続して、僅かな量の遊離脂肪を含む砕け易い黄色のペーストを生じた。 次に、68gの水(40℃に予備加熱)を該混合物に加え、攪拌を更に2分間継続した。 水の添加により脂肪分散物が直ちに壊れて、水和したタンパク質の粘着性の塊と多量の遊離脂肪を生じた。 脂肪分散体を再構成しようと試みて30分間にわたって攪拌を継続したが、これは不成功に終わった。 水和タンパク質および遊離脂肪から成る2相を一緒に12分にわたって60℃まで徐々に加熱し、この時間にわたって攪拌軸上のトルクを測定した。 その過程のどの時点においても0Nmより大きなトルクが記録されず、単に融解した脂肪の液溜り中で回転するだけの攪拌ブレートにタンパク質相が付着したという観察を反映した。 どの段階においても脂肪分散体やゲルが形成されなかった。
【0084】
脂肪を再分散させゲルを形成しようと更に試みて、該混合物を80℃および次に90℃まで加熱した。 これも、30分にわたって63rpmのオーガー速度(augur speed)で攪拌した後でも、乳化やゲル化を誘導しなかった。
【0085】
3) 「アルノー」高脂肪MPCパウダーを使用するゲル化実験: 該ファリノグラフ(FARINOGRAPH)(商標)ブレンダーを40℃に予備加熱し、遅い方のZ−ブレードが31.5rpmで回転する混合室に55gの高脂肪クリームを入れた。 44gの「アルノー」高脂肪MPCパウダーを該クリームに加えた。 混合を5分間継続して、僅かな量の遊離脂肪を含む砕け易い黄色のペーストを生じた。 次に、78gの水(40℃に予備加熱)を加え、混合を更に2分間継続した。 水の添加により脂肪分散物が壊れて、水和したタンパク質の粘着性の塊と遊離脂肪を生じた。 その生成物を12分にわたって60℃まで徐々に加熱し、この時間にわたって攪拌軸上のトルクを測定した。 該混合物は脂肪分散体またはゲルを生成しなかった。 脂肪分散体を形成しようと試みて、温度を80℃まで上昇させたが、30分間にわたって63rpmで攪拌しても脂肪分散体やゲルを生成しなかった。 どの時点においても0Nmより大きなトルクが記録されず、単に融解した脂肪の液溜り中で回転するだけの攪拌ブレートにタンパク質相が付着したという観察を反映した。
【0086】
ゲル化実験からの結論 ・本発明の方法により生成したMPC70パウダーは、比較的低い温度において比較的低い剪断力で、脂肪を容易に乳化し、固いゲルを形成する。
・本質的にカルシウムを含まない「アルノー」MPCパウダーは、水の添加により許容できる脂肪エマルジョンを生成または維持することができず、目視できる又は測定できるゲルを形成しなかった。 長時間の高い剪断力および温度でこれらのパウダーを処理することは、脂肪を乳化し又はゲルを形成するための脂肪分散やゲル形成を促進しなかった。
【0087】
実施例3 − チェダー様チーズの調製 低温殺菌した全乳を50℃の温度に調整し、10,000の分子量カットオフを有する膜を含むUF/DFシステムを使用して、VCF値4.65まで限外濾過することによって濃縮した。 濾過後に、50℃のMPC溶液1.225kgを、5kgの容量をもった二軸プロセスチーズ調理機(モデルCC10、ブレンテック・コーポレーション(Blentech Corporation)、ローナート・パーク(Rohnert Park)、カリフォルニア州)に加えた。 二軸の回転速度を50rpmに設定し、57gの塩化ナトリウムを加えた。 その生成物を約2分間混合し、約8℃のプラスチッククリーム1.35kgを該混合物に加えた。 攪拌により2分以内に該混合物中にプラスチッククリームが完全に取り込まれた。 該混合物中にプラスチッククリームが完全にブレンドされた時に、(実施例1で詳述した手順により生成した、乾燥基準で85%のタンパク質含有量および378ミリモル/kgタンパク質のカルシウム含有量すなわち33%減損を有する)修正MPC85パウダー0.8kgおよびラクトース一水和物125gを該混合物に添加した。 攪拌速度を240rpmまで増大させて、生成物温度を約50℃に維持しながら、成分を10分間混合した。 次に攪拌速度を160rpmまで減少させ、直接スチーム注入により生成物温度を63℃まで上昇させて、ゲルを生成した。
【0088】
ゲルの形成時に、30gの乳ミネラル塩(アラミン(ALAMIN)(商標)、NZMP(USA),INC.,レモイン、ペンシルベニア州)を添加して、得られたゲルが伝統的なチェダーチーズと等価の栄養ミネラル特性を有することを確保した。 次に、該混合物を220rpmで1分間攪拌して、生成物中にアラミンを均一に分配させた。 次に、その生成物をブロック型に詰込み、該ゲルを4℃で24時間貯蔵した。
【0089】
冷却したゲルは、チェダーチーズの組成、本体および表面組織をもった未熟成チーズと等価であった。 成分の組成および生成物を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
表1は、実施例1に詳述した方法に従って製造した種々のMPCパウダー(全て乾燥基準で70%のタンパク質を含有する)のゲル化特性をまとめたものである。
【0092】
実施例4 − プロセスチーズの調製 実施例3からの詰込みおよび冷却前のチーズゲル3.59kgを本プロセスの出発点として使用した。 次に、ブレンテック混合機/調理機内のゲルに以下の成分を加えた:水30g、リン酸二ナトリウム70g、リン酸三ナトリウム23g、バター100g、酵素処理チーズ350g、ラクトース一水和物25g、および塩化ナトリウム42g。 その混合物を直接スチーム注入により85℃まで加熱し、次に180rpmの攪拌速度で1分間保持した。 次に、その生成物を調理機からモールド内に排出し、5℃よりも低い温度で貯蔵した。 最終生成物の組成は以下であった:水分=39.3%、TS=60.7%、脂肪=30.6%、タンパク質=18.8%、ラクトース一水和物=5.3%および灰分=6.0%。 その生成物の本体および表面組織は市販のブロック・プロセスチーズと等価であった。
【0093】
実施例5 − 酪農デザートの調製 50℃の2.7kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)、(実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で70%のタンパク質含有量および406ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48.2%減損を有する)1.0kgの修正MPC70、500gのラクトース一水和物および2.85kgの水を、ステファン(Stephan)混合機/調理機(タイプUMM ISM25-GNI、ステファン、ハーメルン、ドイツ)内でブレンドすることによって、酪農デザートの生成を開始した。 1500rpmの高速切断ブレードおよび60rpmの壁面スクレーパを用いてブレンド処理を始めた。 加熱を始める前に該混合物を1分間ブレンドした。 次に、3分間にわたる直接スチーム注入により該混合物の温度を85℃まで上昇させた。 加熱後に、1.5kgの水および30gの結晶性クエン酸を該加熱混合物に加えた。 該混合物を更に1分間ブレンドした。 次に、その熱生成物を0.25リットルのプラスチックポットに注ぎ、5℃で貯蔵した。 その冷却生成物はゲル化して、酪農デザートに典型的な表面組織を生じた。 該生成物は典型的なカスタードよりも僅かに固く、滑らかで光沢のある本体を有していた。 最終生成物の組成は水分62.3%(TS37.7%)、脂肪21.9%、タンパク質7.9%およびpH5.8であった。
【0094】
実施例6 − 塗布可能な酪農製品の調製 50℃の5.8kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)、(実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で70%のタンパク質含有量および406ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48%カルシウム減損を有する)1.0kgの修正MPC70パウダー、0.85kgの水、184gの酵素処理チーズ、150gの塩化ナトリウム、および150gのラクトース一水和物を、実施例5で使用したステファン混合機/調理機内で混ぜ合わせることによって、酪農スプレッドを調製した。 1500rpmの切断ブレードおよび60rpmの壁面スクレーパを用いて該混合物を1分間ブレンドした。 次に、3分間にわたる直接スチーム注入により該混合物の温度を85℃まで上昇させた。 加熱後に、24gの結晶性クエン酸を加え、該混合物を更に1分間ブレンドした。 その熱生成物を0.25リットルのプラスチックポットに注ぎ、5℃で貯蔵した。 その冷蔵生成物の本体および表面組織は、低温殺菌プロセスチーズスプレッドに典型的なものであった。 最終生成物の組成は水分51.1%、脂肪29.6%、タンパク質11%およびpH5.7であった。
【0095】
実施例7 − 食肉類似物の調製 50℃の2.15kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)、(実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で70%のタンパク質含有量および406ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48%カルシウム減損を有する)2.65kgの修正MPC70パウダー、2.65kgの水、および150gの塩化ナトリウムを、実施例5および実施例6で使用したステファン混合機/調理機内に加えることによって、酪農ベースの食肉類似物の生産を開始した。 1500rpmの切断ブレードおよび60rpmの壁面スクレーパを用いて該混合物を1分間ブレンドした。 次に、3分間にわたる直接スチーム注入により該混合物の温度を85℃まで上昇させた。 その調理した混合物を更に1分間ブレンドした後に、1.5kgの水および40gの結晶性クエン酸を加えた。 その混合物を更に2分間ブレンドした後に、その熱生成物を0.25リットルのプラスチックポットに注いだ。 そのポットを周囲温度において16時間徐々に放冷した後に、5℃で貯蔵した。 その冷蔵生成物の本体および表面組織は、ソーセージとして調製される軽食食肉に典型的なものであった。 概して、生成物は粒状の表面組織を維持し、良好に薄切りされ、溶けなかった。 その生成物の組成は水分55.6%、脂肪16.5%、タンパク質20.1%およびpH5.9であった。
【0096】
実施例8 − クリームチーズの調製 (実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で85%のタンパク質含有量および406ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48%カルシウム減損を有する)1.23kgの修正MPC85パウダー、3.53kgの水(40℃)および80gの塩化ナトリウムを、前の実施例で使用したステファン混合機/調理機に加えることによって、クリームチーズの製造を開始した。 1500rpmの切断ブレードおよび60rpmの壁面スクレーパを用いて該混合物を1分間ブレンドした。 次に、高速度攪拌を止める一方で、壁面スクレーパを60rpmで更に33分間運転した。 この手順により混合物が濃厚ペーストに変換された。 該混合物を4.96kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)と混ぜ合わせた。 切断ブレードを1500rpmに戻して、3分間にわたる直接スチーム注入により該混合物の温度を85℃まで上昇させた。 次にその熱混合物を更に1分間ブレンドした。 次に、595gの12.8%乳酸を5分間にわたって加えた。 次に該混合物を更に1分間ブレンドした。 その熱生成物を0.25リットルのプラスチックポットに注ぎ、5℃で貯蔵した。 その冷蔵生成物は、典型的な市販クリームチーズの本体、表面組織および組成を有していた。 その生成物の組成は、水分54.4%、脂肪33.2%、タンパク質9.8%およびpH5.2であった。
【0097】
実施例9 − エダムチーズの調製 0.97kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)および(実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で85%のタンパク質含有量および291ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48.8%カルシウム減損を有する)0.94kgの修正MPC85を、実施例3で使用したブレンテック二軸混合機/調理機内でブレンドすることによって、エダムチーズの製造を開始した。 該混合物を約40℃において120rpmで3分間ブレンドした。 次に、56gの塩化ナトリウムを加え、該混合物を更に2分間ブレンドし、最後に0.69kgの水を徐々に加えた。 該混合物を更に20分間ブレンドし、次に20gの結晶性クエン酸を加え、該混合物を更に4分間ブレンドした。 該混合物を直接スチーム注入により7分間にわたって70℃まで加熱した。 ブレンド処理を更に3分間継続した。 この段階で、直接スチーム注入により温度を70℃に維持しながら、60kgの水および3gの結晶性クエン酸を加えた。 その熱生成物をプラスチック容器に詰込み、5℃で貯蔵した。 その冷蔵生成物は、エダムチーズに典型的な表面組織および組成を有していた。 その生成物の組成は水分43.6%、脂肪25.0%、乾燥基準での脂肪44.3%、タンパク質25.1%およびpH5.6であった。
【0098】
実施例10 − パスタフィラータチーズの調製 0.95kgの高脂肪クリーム(78%脂肪)、(実施例1で詳述した手順により生成した乾燥基準で85%のタンパク質含有量および291ミリモル/kg全タンパク質のカルシウム含有量すなわち48.8%カルシウム減損を有する)0.96kgの修正MPC85および45gの塩化ナトリウムを、前の実施例で使用したブレンテック二軸混合機/調理機内でブレンドすることによって、パスタフィラータチーズを製造した。 該混合物を約40℃において120rpmで5分間ブレンドした後に、1.0kgの水をゆっくりと添加した。 ブレンド処理を更に24分間継続し、次に、該混合物に65gの42%乳酸を補充した。 ブレンド処理を更に4分間継続した。 次に、該混合物の温度を直接スチーム注入により7分間にわたって70℃まで上昇させた。 その加熱工程の開始時にオーガー速度を150rpmまで増大させた。 その熱生成物を更に1分間混合した後に、プラスチック容器に詰込み、5℃で貯蔵した。 その冷蔵生成物はパスタフィラータに典型的な表面組織を有していた。 その生成物の組成は、水分48.3%、脂肪22%、タンパク質23.5%およびpH5.7であった。
【0099】
文献(脚注)
1 Robinson RK & Willbey R A. Cheesemaking 3 rd ed. Chapt. 8, Aspen Publishers, Gaithersburg, 1998.
2 Creamer L, Gilles J. & Lawrence R C. Effect of pH on the texture of Chedder and Colby cheese. New Zealand Journal of Daily Science and Technology, 23, 23-35 (1988).
3 Fox P F. Cheese: Chemistry, Physics and Microbiology. Vol. 1. General Aspects, 2 nd ed. p. 563. Chapman & Hall, London, 1993.
4 Walstra P. On the stability of casein micelles. Journal of Daily Science 73, 1965-1979 (1999) 参照.
5 Eckner KF & Zattola EA, Modelling flux of skim milk as a function of pH, acidulant and temperature. Journal of Dairy Science. 75, 2952-2958 (1992) and also Eenstorm CA, Sutherland BJ & Jameson G W. Cheese base for processing. A high yield product from whole milk by untrafiltration. Journal of Dairy Science. 63, 228-234 (1980)参照.
6 Renner E & Abd E1-Salam M H. Application of Ultrafiltration in the Dairy Industry. (1991) Elsevier Applied Science. London, England.
7 Glover F A. Ultrafiltration and Reverse Osmosis for the Dairy Industry. Technology Bulletin 5 National Institute of Research in Dairying. (1985) Reading, England.
8 Cheryan & Minir. Ultrafiltration and Microfiltration Handbook. (1998) Thechnomic Publishing, Lancaster, PA, USA.
9 Perry. Chemical Engineers Handbook. Sixth edition. Chapter 16.
10 Vermeulen T & LeVan D. Adsorption and Ion Exchange. McGraw Hill (1984)
11 Nachod FC & Schubest J. Ion Exchange Technology. Academic Press, New York, (1956). 【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】液体または乾燥状態の修正MPCsを生産するために必要とされる工程、並びにこれら修正MPCsに基づき、直ぐ食し得る様々な食品ゲル、例えばナチュラルチーズ様製品、デザート、食肉擬似物等、の製造に必要とされる処理工程を示す図である。
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