【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、Δ−Σ型モジュレータおよびそれを有するΔ−Σ型アナログ−デジタル変換回路に関し、例えばソフトウエア無線など超高速通信器や高周波の測定器などに適用することができる。 【0002】 【従来の技術および発明が解決しようとする課題】アナログ−デジタル変換回路(以下、A/D変換回路という)は、アナログ信号をデジタル信号に変換する機能回路であり、アナログ情報から成り立つ実世界とデジタル信号処理回路のインターフェイスとして、かかすことのできない回路である。 【0003】従来から用いられている主なA/D変換回路としては、フラッシュ型とΔ−Σ型の二種類があげられる。 フラッシュ型A/D変換回路は、通常、多数の抵抗により入力電圧を分割し、それを並列にコンパレータにかけることにより、アナログ入力値をデジタル値に変換する。 このため、非常に高速な動作が可能であるが、 素子特性のばらつきに弱く、高い精度(ビット数)を得ることは困難である。 【0004】これに対し、Δ−Σ型A/D変換回路では、入力信号をまず非常に高いサンプリングレートで低ビット精度のデジタル信号に変換する。 次に、そこから必要とする周波数の信号を取り出し、時間軸方向の精度をビット精度に変換することにより、高い精度のデジタルデータを得る。 この回路はデバイスパラメータの変動に強く、非常に高精度な変換が可能である。 このΔ−Σ 型A/D変換回路の動作原理を文献(C.Marven、G.Ewers 著、山口博訳「デジタル信号処理の基礎」、丸善)にしたがって説明する。 図1にそのブロック図を示す。 【0005】Δ−Σ型A/D変換回路は、Δ−Σモジュレータ(Δ−Σ量子化器)と、デジタルフィルタからなる。 Δ−Σモジュレータは、入力信号を非常に高い周波数でサンプリングし、パルス密度信号に変換する。 デジタルフィルタは、この信号の高周波成分を落とし、時間軸方向の精度をビット精度に変換することにより高い精度をもつデジタル信号を取り出す。 【0006】Δ−Σ型A/D変換回路の中心部分であるΔ−Σモジュレータの最も簡単な構成を図2に示す。 この回路は、積分器、コンパレータから構成されている。 この回路により、入力信号と出力信号の偏差が積分され、それが最小になるように出力が制御される。 出力信号は、パルス信号となるが、上記の結果として、そのパルス密度が入力値に一致するように制御され、入力値に比例したパルス密度信号が得られることになる。 このとき、サンプリングのためのクロック信号をナイキスト周波数より非常に高くすることにより、A/D変換回路としては高い精度が得られる。 【0007】このように本回路はサンプリングレートを高くすることにより精度を上げているため、フラッシュ型に比較して回路パラメータのばらつきに強く、また高い精度を得るために高精度なアナログ素子を必要としないという利点がある。 【0008】このような特長を持つΔ−Σ型A/D変換回路においては、目的とする信号周波数に対して非常に高いサンプリング周波数が必要であるため、トランジスタやオペアンプによって構成される従来技術では、比較的信号周波数の低い音声信号などにしか用いることができないという問題点がある。 【0009】本発明は、上記従来技術の問題点を克服した新しいΔ−Σモジュレータおよびそれを用いたΔ−Σ 型A/D変換回路を提供することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に記載のΔ−Σ型モジュレータは、N型の微分負性抵抗を示す負性抵抗素子が2つの端子間で複数個直列に接続され、少なくとも1つの負性抵抗素子に並列に比較入力用トランジスタが接続され、前記2つの端子間にクロックパルス電圧が印加されるコンパレータと、入力電圧を電流に変換する変換入力用トランジスタと、前記変換入力用トランジスタの出力電流端子と前記コンパレータの比較入力用トランジスタの入力端子に接続された容量素子と、前記コンパレータの出力を入力とし、前記容量素子に対して前記変換入力用トランジスタと逆向きの電流が流れるフィードバック用トランジスタとを備えたことを特徴としている。 【0011】請求項2に記載のΔ−Σ型モジュレータは、請求項1に記載のΔ−Σ型モジュレータにおいて、 負性抵抗素子の個数を2とし、2つの負性抵抗素子のうちの一方に前記比較入力用トランジスタを並列接続した構成としている。 【0012】請求項3に記載のΔ−Σ型モジュレータは、N型の微分負性抵抗を示す負性抵抗素子が2つの端子間で2個直列に接続され、一方の負性抵抗素子に並列に比較入力用トランジスタが接続され、前記2つの端子間にクロックパルス電圧が印加されるようになっており、入力電位がしきい値より高いときローレベル、低いときハイレベルのパルスを出力するコンパレータと、入力電圧を電流に変換するものであって、出力電流端子が前記比較入力用トランジスタの入力端子に接続されている変換入力用トランジスタと、前記変換入力用トランジスタに電流が流れることによって電荷量が減少し、電荷量に比例した電位を前記コンパレータの入力電位とするように設けられた容量素子と、前記コンパレータの出力を入力とし、前記コンパレータの出力がハイレベルのとき前記容量素子の電荷量を増加させるように動作するフィードバック用トランジスタとを備えたことを特徴としている。 【0013】請求項4に記載のΔ−Σ型モジュレータは、N型の微分負性抵抗を示す負性抵抗素子が2つの端子間で2個直列に接続され、一方の負性抵抗素子に並列に比較入力用トランジスタが接続され、前記2つの端子間にクロックパルス電圧が印加されるようになっており、入力電位がしきい値より高いときハイレベル、低いときローレベルのパルスを出力するコンパレータと、入力電圧を電流に変換するものであって、出力電流端子が前記比較入力用トランジスタの入力端子に接続されている変換入力用トランジスタと、前記変換入力用トランジスタに電流が流れることによって電荷量が増加し、電荷量に比例した電位を前記コンパレータの入力電位とするように設けられた容量素子と、前記コンパレータの出力を入力とし、前記コンパレータの出力がハイレベルのとき前記容量素子の電荷量を減少させるように動作するフィードバック用トランジスタとを備えたことを特徴としている。 【0014】上記した請求項1〜4に記載した構成のΔ −Σ型モジュレータによれば、いずれも従来にない高速動作を実現することができる。 【0015】また、請求項5に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のΔ−Σ型モジュレータを有してΔ−Σ型A/D変換回路を構成すれば、 超高周波で動作する高精度A/D変換回路を実現することができる。 【0016】なお、上記した負性抵抗素子としては、共鳴トンネルダイオードのような共鳴トンネル素子の他、 エサキダイオードなど微分負性抵抗を示す他の素子とすることができ、またトランジスタとしては、電界効果型トランジスタの他、バイポーラトランジスタなどとすることができる。 【0017】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を参照して具体的に説明する。 (第1実施形態)図3に、本発明の第1実施形態に係るΔ−Σモジュレータの構成を示す。 Δ−Σモジュレータは、2つの端子(クロック端子と接地端子)間に2つの共鳴トンネルダイオードRTD1、RTD2が直列に接続され、その一方の共鳴トンネルダイオードRTD1に並列に電界効果型トランジスタTr3が接続された構成のコンパレータと、入力用の電界効果型トランジスタT r1と、積分器として役割を果たすコンデンサ(容量素子)Cと、フィードバック用の電界効果型トランジスタTr2とから構成されている。 【0018】クロック端子と接地端子間にはクロックパルス電圧が印加され、入力用のトランジスタTr1には、入力電圧Vinが入力される。 【0019】共鳴トンネルダイオードRTD1、RTD 2として示される共鳴トンネル素子は、電流−電圧特性がN型(電圧制御型)の微分負性抵抗を示す負性抵抗素子である。 【0020】共鳴トンネル素子RTD1、RTD2と電界効果型トランジスタTr3からなるコンパレータは、 単安定−双安定転移論理素子(MOBILE)として知られており、高速、エッジトリガー(クロックの立ち上がり時の入力値で出力が決まる)、ラッチ動作(クロックがハイレベルの間、値を保持する)という特徴がある。 この実施形態では、下側(電位が固定された端子側)の共鳴トンネル素子RTD1に並列に入力用のトランジスタTr3が接続されているため、コンパレータは、インバータ型の動作をし、トランジスタTr3への入力電位がしきい値より高いときローレベル、低いときハイレベルのパルスを出力する。 【0021】この回路において、入力用のトランジスタTr1は、線形領域にバイアスされている。 したがって、入力用のトランジスタTr1には、入力電圧Vin に比例した電流I1が流れる。 入力用のトランジスタT r1のドレインはコンデンサCに接続されているため、 電流I1が流れると、コンデンサCに蓄えられた電荷量が減少する。 このことにより、コンデンサCの持つ電荷量は、入力電圧Vinに比例した速度で減少し、電荷量に比例した電位(A点の電位Vc)は、入力電圧Vin に比例した速度で低下することになる。 A点の電位Vc がコンパレータのしきい値より高いとき、コンパレータの出力Voutはローレベルであるが、A点の電位Vc がしきい値より低くなると、コンパレータの出力Vou tはハイレベルになる。 【0022】コンパレータの出力Voutがハイレベルになると、フィードバック用のトランジスタTr2がオンするため、コンデンサCに電流が流れ込む。 この電流は、コンデンサCに対し入力用のトランジスタTr1と逆向きの電流となる。 このことにより、コンデンサCに蓄えられる電荷量が増加し、A点の電位Vcが上昇して、コンパレータの出力Voutがローレベルになる。 これは、負のフィードバックが生じることを示しており、本回路は、Δ−Σモジュレータとして動作することになる。 【0023】たとえば、入力電圧Vinが大きいときは、A点の電位Vcの低下速度が速いため、サンプリング時にA点の電位Vcがしきい値以下になる回数が増え、コンパレータは多くのパルスを出力する。 また、逆に入力電圧Vinが小さいときは、A点の電位Vcの低下速度が遅いため、サンプリング時にA点の電位Vcがしきい値以上になる回数が増え、パルス密度は低下する。 【0024】図4に、本回路の入出力特性のシュミレーション結果を示す。 (a)に示すように入力電圧Vin を時間に対して線形に変化させたとき、(b)に示すようにコンパレータの出力Voutのパルス密度が入力電圧Vinに比例して変化している。 したがって、図3に示すΔ−Σモジュレータに、デジタルフィルタを接続すれば、高速、高精度なA/D変換回路を得ることができる。 デジタルフィルタとしては、従来構成のデジタルフィルタを用いてもよいが、それよりも高速で動作するものが好ましい。 例えば、共鳴トンネル素子を用い、MO BILEによりデジタルフィルタを構成するようにすれば、上記したΔ−Σモジュレータと同様、高速動作させることができる。 (第2実施形態)図5に、本発明の第2実施形態に係るΔ−Σモジュレータの構成を示す。 このΔ−Σモジュレータは、第1実施形態と異なり、コンパレータの入力用トランジスタTr3が、上側の共鳴トンネル素子RTD2に並列に接続されている。 この場合、コンパレータは、入力電位がしきい値より高いときハイレベル、低いときローレベルのパルスを出力することになる。 このため、入力用のトランジスタTr1およびフィードバック用の電界効果型トランジスタTr2の接続構成が第1の実施形態のものと逆になっている。 したがって、この回路の内部では、ちょうど第1実施形態における電圧のハイレベルとローレベルが逆転した動作が行われ、出力としては、第1実施形態と同様なパルス密度信号が得られることになる。 【0025】上記した第1、第2実施形態に示すΔ−Σ モジュレータは、、共鳴トンネル素子を用いているため、1)非常に簡単な回路で実現でき回路面積を小さくできること、2)低消費電力であること、3)従来にない高速動作が可能であること、4)集積化が容易であることなど、多くの利点がある。 【0026】また、Δ−Σモジュレータを有するΔ−Σ 型A/D変換回路は、超高周波(例えば、二桁GHz) で動作する高精度A/D変換回路として用いることができ、音声、映像の高精度のA/D変換、通信用ブロードバンドモデム、ソフトウェア無線のRFバンド及びベースバンドのA/D変換などに利用することができる。 (その他の実施形態)上記した実施形態では、負性抵抗素子として共鳴トンネルダイオードを用いるものを示したが、エサキダイオードなど負性抵抗を示す他の素子を用いてもよい。 また、トランジスタとしても電界効果型トランジスタに限らず、バイポーラトランジスタなどを用いてもよい。 【0027】また、コンパレータとしては、文献「Proc eedings of 27th International Symposium on Multipl e-Valued Logic, 1997, pp. 35-40」に示されるように、直列接続する負性抵抗素子の数を増やし、多値の出力を得るコンパレータとしてもよい。 例えば、第1実施形態におけるコンパレータとして、図6に示すように構成することができる。 すなわち、2つの端子間に共鳴トンネル素子RTD11〜RTD13およびRTD21〜 RTD23が直列接続され、共鳴トンネル素子RTD1 1〜RTD13に並列にトランジスタTr3が接続される。 なお、第2実施形態のように構成する場合には、トランジスタTr3は、共鳴トンネル素子RTD21〜R TD23に並列に接続される。 【図面の簡単な説明】 【図1】Δ−Σ型A/D変換回路の構成を示す図である。 【図2】従来技術によるΔ−Σモジュレータの構成を示す図である。 【図3】本発明の第1実施形態に係るΔ−Σモジュレータの構成を示す図である。 【図4】図3に示すΔ−Σモジュレータの入出力特性図である。 【図5】本発明の第2実施形態に係るΔ−Σモジュレータの構成を示す図である。 【図6】図3中のコンパレータの他の構成例を示す図である。 【符号の説明】 RTD1、RTD2…共鳴トンネルダイオード、Tr 1、Tr2、Tr3…電界効果型トランジスタ、C…コンデンサ。 |