【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、磁性積層体と、それを用いた磁気抵抗効果素子(MR素子)とに関する。 【0002】 【従来の技術】各種磁気センサ(MRセンサ)や磁気ヘッド(MRヘッド)などのMR素子は、磁界による磁性膜の電気抵抗変化を検出して磁界強度やその変化を測定するものであり、一般に、室温における磁気抵抗変化率が大きく、動作磁界強度が小さいことが要求される。 【0003】MR素子の磁性膜としては、従来、異方性磁気抵抗効果を利用するFe−Ni合金(パーマロイ) やNi−Co合金が代表的に用いられている。 しかし、 Fe−Ni合金やNi−Co合金では、動作磁界強度は小さいが、縦磁気抵抗変化と横磁気抵抗変化との差、すなわち異方性磁気抵抗効果が2%と小さい。 【0004】 【本発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は、磁気抵抗変化率が大きく、しかも動作磁界強度を小さくでき、また動作磁界強度を変化させることのできる磁性積層体と、この積層体を用いた磁気抵抗変化素子とを提供することである。 【0005】 【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(4)の本発明により達成される。 (1) 4〜20Åの厚さのNi x M 1-x (MはFeおよび/またはCoを表し、xは0<x<1の関係を満たす。)の組成の磁性薄膜と、2〜60Åの厚さのAg薄膜とが積層されており、前記磁性薄膜とAg薄膜とのユニットのくり返し回数を2回以上として積層し、面内に磁化容易軸をもち、磁化容易軸方向の角形比Br/Bs が0.5以下であることを特徴とする磁性積層体。 (2) 反強磁性を示す上記(1)の磁性積層体。 (3) 前記磁性薄膜とAg薄膜とを分子線エピタキシー法によって積層した上記(1)または(2)の磁性積層体。 (4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁性積層体を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子。 【0006】 【0007】 【0008】 【0009】 【0010】 【0011】なお、近年、薄膜技術の進歩により、分子線エピタキシー(MBE)法を用いた人工格子が登場している。 この人工格子は、分子線エピタキシー(MB E)法を用いた金属の原子オーダーの厚さの薄膜が周期的に積層された構成をもち、バルク状の金属とは異なった特性を示す。 【0012】このような人工格子の1つとして、FeとCrを交互に積層したFe/Cr系磁性積層体の巨大磁気抵抗変化材料が開発されている。 このものでは、Cr 薄膜をはさんだFe薄膜が、反平行に磁気的に結合している。 そして、外部磁場により、このFeのスピンが一方向に揃いだし、それに従い抵抗が減少していく。 この結果4.2Kで46%、室温で16%の巨大な磁気抵抗変化を示す(PhysicalReview Letters 61巻、247 2ページ、1988年等)。 【0013】しかし、Fe/Cr系磁性積層体は、磁気抵抗変化率(MR変化率)は大きいものの動作磁界強度が20kOe程度と極めて大きく、MR素子としては実用上の制約がある。 【0014】このような反強磁性を示す人工格子磁性積層体については、その後世界中で活発な研究開発が開始されており、現在までに、Co/Cr系、Co/Ru系磁性積層体で、反強磁性的なスピンの層間結合が発見されている(Physical ReviewLetters 64巻、2304 ページ、1990年)。 しかし、MR変化率は、Co/ Cr系で6.5%(4.5K)、Co/Ru系で6.5 %(4.5K)ときわめて小さな値である。 【0015】また、CoとCuを交互に積層したCo/ Cu系磁性積層体の巨大磁気抵抗変化材料が開示されている[DHMosca, et al., J. Magnetism and Magnetic Material, vol.94 (1991), L1]。 そして、このものは、層間でCoが反強磁性的結合をしていると考えられ、上記のFe/Cr系磁性積層体と同様のメカニズムで、4.2Kで78%、室温で48%の巨大な磁気抵抗を示すことも記載されている。 【0016】さらに、CoおよびFeと、Cuを交互に積層したCo−Fe/Cu系磁性積層体の巨大磁気抵抗変化材料が開示されている[Saito, et al., JJAP, vol.30(1991), L1733]。 このものも、反強磁性的結合に基づき、磁気抵抗変化を示すと考えられ、その変化は、室温で40%程度の大きなものであることが示されている。 【0017】しかし、Co/Cu系やCo−Fe/Cu 系の磁性積層体は、上記のように、磁気抵抗変化率は大きいものの、いずれもイオンビームスパッタ法により作製されている。 イオンビームスパッタ法では、被着される粒子をもつ運動エネルギーが数十〜数百eVと高いため、界面において各々の元素が相互拡散を起こし組成の分布が生じてしまう。 その結果、異種元素が直接接することによって生じると考えられる人工格子本来の特異な特性が得られにくくなってしまう。 【0018】また、NiとAgを交互に積層した磁性積層体が開示されており[B. Rodmacq, et al., First Ky oto-Duisburg Workshop on Ultrathin Magnetic Films andMultilayers (1991):CA dos Santos, et al., Ap plied Physics Letters, Vol.59 (1991): P126]、反強磁性的結合に基づき、磁気抵抗変化を示すことも記載されている。 そして、このときの磁気抵抗変化は、4.2 Kで25%程度である。 【0019】しかし、このものはスパッタ法により作製されるものであり、上記のものと同様の欠点がある。 【0020】しかしながら、Fe−Niパーマロイ系合金を用いた磁性積層体の反強磁性結合については従来知られていない。 【0021】 【具体的構成】以下、本発明の具体的構成を詳細に説明する。 【0022】本発明の磁性積層体は、基体上に、Ni x M 1-x (MはFeおよび/またはCoを表し、xは0< x<1の関係を満たす。 )の組成の磁性薄膜を有し、各磁性薄膜は、非磁性中間層であるAg薄膜と交互に積層されている。 本発明における磁性薄膜は、上記のように、Ni−Fe合金(パーマロイ合金)組成あるいはN i−Co合金組成を有するものであり、さらにはNi− Fe−Co合金組成を有するものであってもよく、Ni のほかに、FeおよびCoの少なくとも一方を含有する。 【0023】MがFeのとき、xは、好ましくは0.4 <x<1、特に0.7≦x≦0.9の関係を満足することが好ましい。 xを、このような範囲とすることにより、結晶磁気異方性が小さくなって等方的になり、磁性積層体としたとき層間の反強磁性的結合が結晶磁気異方性に比べて相対的に大きくなり、このような反強磁性に基づく磁気抵抗変化(MR変化)が大きくなりやすい。 すなわち、MR素子としたときの感度上昇の効果が得られる。 これに対し、xが小さくなって、Feの割合が大となると結晶磁気異方性が大きくなり反強磁性が十分に得られにくくなり、十分な磁気抵抗変化(MR変化)を示さなくなる。 x=0のときが、この端的な例となる。 また、xが大きくなると、人工格子構造をとった場合においてはNiがキュリー温度の低下により十分な磁化を示さなくなり、MR変化が極端に減少する。 x=1のときが、この端的な例となる。 【0024】また、MがCoの時には、0<x≦0.9 の関係を満足することが好ましい。 xを、このような範囲とすることにより、室温で強磁性を示しやすくなり、 十分なMR変化が得られる。 これに対し、xが大きくなってNi単体に近くなると、本発明における磁性膜の厚さでは、室温で強磁性を示さなくなる。 このため、MR センサやMRヘッドへの実質的な利用が不可能となる。 x=1のときが、この端的な例となる。 【0025】さらに、MがFeおよびCoのとき、その組成をNi x Fe y Co 1-xyで示すと、xは0<x≦ 0.5の関係を満足することが好ましい。 xをこのような範囲とすることによってMR変化が大きくなる。 xが大きくなると、相対的にNiの割合が増加してしまい、 室温で十分な磁化を示さなくなる。 その結果、室温でのMR変化が減少し、MRセンサやMRヘッドとしての機能を果さなくなってしまう。 x=1のときが、この端的な例となる。 また、yは0.1≦y≦0.6、特に0. 1≦y≦0.4の関係を満足することが好ましい。 yをこのような範囲とすることによって、磁性膜のもつスピンの方向が反平行のときと平行のときとの電子の散乱度が大きくなり、そのためMR変化が増大する。 yが小さくなりすぎたり、大きくなりすぎたりすると、電子の散乱度が小さくなり、あまり大きなMR変化を示さなくなる。 【0026】本発明における磁性薄膜の厚さは4〜20 Å、好ましくは6〜16Åとするのがよい。 厚さが大きくなりすぎると、層間の磁性元素間の距離が相対的に遠くなり、反強磁性的結合がなくなり、巨大磁気抵抗変化が示されなくなってくる。 これに対し、磁性薄膜の厚さが小さすぎると、形成面内に磁性元素が連続して配列しなくなり、強磁性を示さなくなる。 【0027】Ag薄膜は、Agのみから形成されることが好ましく、その厚さは60Å以下、特に50Å以下、 より好ましくは45Å以下とすることが好ましい。 膜厚が大きくなると、磁性薄膜間の距離が大きくなり、反強磁性的結合が失われてくる。 また、Ag薄膜の厚さは、 2Å以上とすることが好ましい。 膜厚が小さくなると、 連続とならず、非磁性中間層の機能が失われてくる。 【0028】このような場合、本発明の磁性積層体では、磁性層のくり返し周期、とりわけAg薄膜の膜厚変化によって、磁気交換結合エネルギーが周期的に振動しつつ変化する。 より具体的には、主にAg薄膜の膜厚による振動型磁気結合によって、Ag薄膜の膜厚を2〜6 0Åの範囲で変化させると、飽和印加磁界Hsatが周期的に変化する。 Hsatは、1kOe 〜10kOe の範囲にて周期的に変化し、しかもHsatの極大値および極小値も変化する。 この際、磁気抵抗変化率も周期的に変化し、振動するが、室温にて8%をこえる磁気抵抗変化率が得られるAg薄膜膜厚領域が存在する。 【0029】この結果、2〜60Åの範囲にてAg薄膜の厚さを選択することにより、動作磁界強度0.01〜 20kOe にて、室温にて1〜15%の磁気抵抗変化率をもつ磁性積層体を自由に設計することができる。 【0030】なお、磁性薄膜やAg薄膜の厚さは、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光分析等により測定することができ、また、その結晶構造等はX線回折や高速反射電子線回折(RHEED)等により確認することができる。 【0031】また、膜組成の分析は、X線マイクロアナリシス(EPMA)や蛍光X線分析(ICP)等により行なうことができる。 【0032】本発明の磁性積層体において、磁性薄膜の積層数および磁性薄膜/Ag薄膜ユニットのくり返し回数に特に制限はなく、目的とする磁気抵抗変化率等に応じて適宜選定すればよいが、十分な磁気抵抗変化率を得るためには、くり返し回数を2回以上、特に8回以上とする。 くり返し回数が多いほど自由電子が散乱される割合が多くなり好ましい。 また、くり返し回数をあまりに多くすると膜質の劣化が大きくなり、特性の向上が望めなくなるので、500回以下、特に200回以下とすることが好ましい。 なお、長周期構造は、小角X線回折パターンにて、くり返し周期に応じた1次2次ピーク等の出現により確認することができる。 【0033】このような積層体は、磁性薄膜の層間の反強磁性的結合の結果、反強磁性を示すものである。 反強磁性は、例えば偏極中性子線回折によって容易に確認することができる。 また、反強磁性を示す結果、振動型磁力計やB−Hトレーサーにて、積層体面内の印加磁場− 磁化曲線ないしB−Hループを測定すると、角形比Br /Bsは0.5以下、特に0.3以下の値となり、場合によってはBr/Bsはほぼ0となる。 この際、印加磁場−磁化曲線やB−Hループの減磁カーブと昇磁カーブとはきわめて近接する。 そして、振動型磁力計やB−H トレーサーやトルク計で、面内および面内法線方向面の磁化のしやすさ、あるいは異方性エネルギーを測定すると、磁化容易軸は面内に存在する。 なお、面内のBr/ Bsが0.5をこえると積層体の内部において反強磁性を示す割合が急激に減少してしまい、その結果、MR変化率が減少してしまう。 【0034】積層体を形成する基体の材質に特に制限はなく、アモルファスガラス基板、結晶化ガラス基板の他、通常用いられる各種基板、例えば、マグネシア、サファイヤ、シリコン、ガリウム−ヒ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム等の各種酸化物等の単結晶基板や、アルミナ−チタンカーバイド、チタン酸カルシウム等の多結晶基板はいずれも使用可能である。 【0035】Fe/Cr系ではガラス基板を用いると特性劣化が生じるが、本発明では、ガラス基板を用いても十分に良好な特性が得られる。 このような場合、一般に、中角領域でのX線回折によれば、ガラス基板上では、Ag薄膜は(111)配向しており、Ni x Fe 1-x 、Ni x Co 1-x 、Ni x Fe y Co 1-xyではいずれもfcc(111)配向をとっており、多結晶となっていると考えられる。 また、MgO基板上では、Ag (200)ピークと、Ni x Fe 1-x 、Ni x Co 1- x 、Ni x Fe y Co 1-xyのいずれでも、(20 0)ピークとが確認され、(100)のエピタキシャル成長が主になっていると考えられる。 【0036】なお、基体の寸法にも特に制限はなく、適用される素子に応じて適宜選定すればよい。 基体の磁性積層体が形成される側の表面には、必要に応じて各種下地膜が形成されていてもよい。 【0037】さらに、最上層表面には、窒化けい素や酸化けい素および種々の金属層等の酸化防止膜が設けられてもよく、電極引き出しのための金属導電層が設けられてもよい。 【0038】本発明の磁性積層体を製造するには、分子線エピタキシー(MBE)法を用いることが好ましい。 本発明の場合、形成する磁性薄膜およびAg薄膜の層厚が極めてうすいため、ゆっくりと被着させることが必要となる。 成膜中の不純物混入を避けるため、超高真空領域での成膜が必要となる。 また、各々の層を生成する際に相互拡散を起こし、反強磁性が失われることのないよう、被着粒子のエネルギーは低い程よい。 この目的にもっとも適しているのは、MBE法である。 【0039】これに対し、イオンビームスパッタ法による磁性積層体では、被着粒子のエネルギーが高いため、 層間において各々の元素の組成分布が生じる等、膜質に難点があり、これに起因して、MR変化率の減少等が生じる。 【0040】MBE法は、超高真空蒸着法の1種であり、超高真空中で蒸着源から蒸発した分子ないし物質を基体表面に付着させて薄膜を成長させる方法である。 具体的には、シャッタの開閉により蒸着源を選択し、膜厚計で測定しながら磁性薄膜と非磁性薄膜とを交互に蒸着する。 【0041】この際、通常、10 -11 〜10 -9 Torr程度の到達圧力とし、蒸着中の圧力10 -11 〜10 -7 Torr、 特に10 -10 〜10 -7 Torr程度にて、成膜速度0.01 〜10Å/sec 、特に0.1〜1.0Å/sec 程度で成膜することが好ましい。 また、被着粒子は0.01〜5 eV、好ましくは0.01〜1eVの運動エネルギーを有する。 そして、中心エネルギーは0.05〜0.5eVである。 【0042】また、Ni x M 1-x (MまたはFeおよび/またはCoを表し、xは0<x<1の関係を満たす。)の組成の磁性薄膜を作製する際に用いる蒸着源となる母合金としては、Ni x M 1-x (MまたはFeおよび/またはCoを表し、xは0<x<1の関係を満たす。)の組成のものを用いることが好ましい。 【0043】また、薄膜の結晶構造を整えるために、必要に応じ、成膜時に基体を加熱してもよい。 加熱温度は、各薄膜間での拡散を防ぐため800℃以下とすることが好ましい。 なお、磁性薄膜を磁界中で成膜し、面内磁気異方性を強めてもよい。 【0044】本発明の磁性積層体は、MRセンサやMR ヘッドなどの各種MR素子に好ましく適用され、使用する際には、必要に応じてバイアス磁界が印加される。 さらに、薄膜型の磁気ヘッドのギャップ内、あるいは同一トラック内に、本発明の磁性積層体を配置し、読み出しをMR素片で行なうものであってもよい。 【0045】 【実施例】以下、具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。 【0046】実施例1 マグネシア単結晶基体上にNi x Fe 1-x (x=0.8 1)の組成の磁性薄膜と、Ag薄膜とを交互に蒸着し、 8ÅのNi x Fe 1-xと24ÅのAgを1単位として、 これを30回積層した磁性積層体サンプルNo. 1を作製した。 以下において、このような場合を [NiFe(8)−Ag(24)] 30と表示する。 各薄膜の厚さは、透過型電子顕微鏡により測定した。 【0047】また、薄膜の組成はICPにより測定した。 【0048】蒸着は、到達圧力7×10 -11 Torrの真空槽内において、MBE法により行なった。 動作圧力は9 ×10 -10 Torr、成膜速度は約0.5Å/sec とし、基体を30rpm で回転させながら蒸着を行なった。 蒸着の際の基体温度は30℃とした。 被着粒子の中心運動エネルギーは、約0.1eVである。 【0049】また、Ni x Fe 1-x磁性薄膜作製の蒸着源に用いる母合金は、Ni 0.8 Fe 0.2の組成のものとした。 【0050】このものの印加磁場−磁化曲線を振動型磁力計により測定した。 【0051】図1には、試料面内方向の印加磁場−磁化曲線が示される。 この場合の角形比(面内Br/Bs) は0.1であった。 【0052】このものは面内に磁化容易軸をもち、上記のように、角形比は0.1と小さく、反強磁性を示すことが推定された。 実際、偏極中性子線回折の結果も、積層ユニット厚の2倍周期に対応したブラッグ角に回折線が認められ、層間の反強磁性的結合が確認された。 【0053】サンプルNo. 1を0.5mm×1.0mmの短冊状とし、外部磁界を最大−20〜+20kOe まで変化させたときの抵抗を4端子法により測定した。 【0054】サンプルNo. 1について、試料面内、電流と直角方向に外部磁界を印加した場合(Trans )の、室温RTでの磁気抵抗変化率Δρ/ρ Sを求めた。 ここで、ρ Sは飽和抵抗率(印加磁場を増加させたときにρ が飽和したときの値)である。 また、Δρ=ρ−ρ S で、ρは各々の印加磁場での抵抗率であり、本発明の反強磁性によるMR変化の場合のΔρは、印加磁場をHとして、Δρ=ρ(H=O)−ρ(H=20kOe )で表すことができる。 【0055】この結果、Δρ/ρ Sは7.9%であった。 またρ Sは11.4μΩcm、Δρは0.9μΩcmであった。 【0056】実施例2 実施例1のサンプルNo. 1において、基体をアモルファスガラスにかえたほかは同様にして[NiFe(8)− Ag(24)] 30の磁性積層体を形成し、サンプルNo. 2を作製した。 このものも面内Br/Bsが0.2で、 面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0057】サンプルNo. 2について、実施例1と同様にしてΔρ/ρ Sを求めたところ、7.1%であった。 またρ Sは12.0μΩcm、Δρは0.85μΩcmであった。 【0058】実施例3 実施例1のサンプルNo. 1において、Agの1単位当たりの厚さを12Åとするほかは同様にして、[NiFe (8)−Ag(12)] 30で表示されるサンプルNo. 3 をMBE法により作製した。 ただし、動作圧力は8×1 0 -10 Torrとした。 【0059】このものの試料面内方向の印加磁場−磁化曲線が図2に示される。 この場合の面内Br/Bsは0.4であり、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0060】サンプルNo. 3について、実施例1と同様にしてΔρ/ρ Sを求めたところ、7.1%であった。 またρ Sは18.4μΩcm、Δρは1.3μΩcmであった。 【0061】実施例4 実施例3のサンプルNo. 3において、基体をアモルファスガラスにかえたほかは同様にして[NiFe(8)− Ag(12)] 30の磁性積層体を形成し、サンプルNo. 4を作製した。 このものも面内Br/Bsは0.4で、 面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0062】サンプルNo. 4について、実施例1と同様にしてΔρ/ρ Sを求めたところ、6.3%であった。 またρ Sは19.0μΩcm、Δρは1.2μΩcmであった。 【0063】実施例5 実施例1のサンプルNo. 1(基体:マグネシア)に準じた[NiFe(8)−Ag(t)] 30において、Ag薄膜の厚さtを種々変えたときの室温RTでのAg薄膜の厚さと、Δρ/ρ Sとの関係が図3に示される。 ここでΔρは印加磁場0での抵抗率をρ Oとしたときの絶対抵抗値であり、Δρ=ρ O −ρ Sで与えられる。 【0064】図3から明らかなように、Δρ/ρ SはA g薄膜の膜厚に依存し、周期的に振動して変化し、膜厚24ÅでΔρ/ρ Sの最大値7.9%を示した。 【0065】実施例6 実施例2のサンプルNo. 2(基体:ガラス)に準じた[NiFe(8)−Ag(t)] 30において、Ag薄膜の厚さtを種々変えたときの室温RTでのAg薄膜の厚さと、Δρ/ρ Sとの関係が、実施例5と同様に、図3 に併せて示される。 【0066】図3から明らかなように、実施例5同様、 Δρ/ρ SはAg薄膜の膜厚に依存し、周期的に振動して変化し、膜厚24ÅでΔρ/ρ Sの最大値7.1%を示した。 【0067】実施例7 実施例1のサンプルNo. 1において、Ni x Fe 1-xの1単位当たりの厚さを12Åとするほかは同様にして、 [NiFe(12)−Ag(24)] 30で表示されるサンプルNo. 7を、MBE法により作製した。 ただし、動作圧力は9×10 -10 Torr とした。 【0068】サンプルNo. 7は面内Br/Bsが0.4 で、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0069】サンプルNo. 7において、実施例1と同様にしてΔρ/ρ Sを求めたところ、5.7%であった。 【0070】実施例7において、基体をガラス基板とするほかは同様にして磁性積層体を作製し、特性を調べたところ、ほぼ同等の結果が得られた。 【0071】なお、上記において、磁性薄膜の組成をN i x Fe 1-x (x=0.9)にかえて、そのほかは同様に、磁性積層体を作製し、特性を調べたところ、上記とほぼ同等の結果が得られた。 【0072】実施例8 マグネシア単結晶基体上にNi x Co 1-x (x=0.7 9)の組成の磁性薄膜と、Ag薄膜とを交互に蒸着し、 8ÅのNi x Co 1-xと10ÅのAgを1単位として、 これを30回積層した[NiCo(8)−Ag(1 0)] 30で表示される磁性積層体サンプルNo. 11を作製した。 各薄膜の厚さは、透過型電子顕微鏡により測定した。 【0073】また、薄膜の組成はICPにより測定した。 【0074】蒸着は、到達圧力9×10 -11 Torrの真空槽内において、MBE法により行なった。 動作圧力は1 ×10 -9 Torr、成膜速度は約0.3Å/sec とし、基体を30rpm で回転させながら蒸着を行なった。 蒸着の際の基体温度は28℃とした。 被着粒子の中心運動エネルギーは、約0.1eVである。 【0075】また、Ni x Co 1-x磁性薄膜作製の蒸着源に用いる母合金は、Ni 0.8 Co 0.2の組成のものとした。 【0076】このものの印加磁場−磁化曲線を振動型磁力計により測定した。 【0077】図4には、試料面内方向の印加磁場−磁化曲線が示される。 この場合の角形比(面内Br/Bs) は0.1であった。 【0078】このものは面内に磁化容易軸をもち、上記のように、角形比は0.1と小さく、反強磁性を示すことが推定された。 実際、偏極中性子線回折の結果も、積層ユニット厚の2倍周期に対応したブラッグ角に回折線が認められ、層間の反強磁性的結合が確認された。 【0079】サンプルNo. 11を0.5mm×1.0mmの短冊状とし、外部磁界を最大−20〜+20kOe まで変化させたときの抵抗を4端子法により測定した。 【0080】サンプルNo. 11について、試料面内、電流と直角方向に外部磁界を印加した場合(Trans )の、 室温RTでの磁気抵抗変化率Δρ/ρ Sを実施例1と同様にして求めたところ、7.5%であった。 またρ Sは14.9μΩcm、Δρは1.1μΩcmであった。 【0081】さらに、77KでのΔρ/ρ Sは15.8 %であり、このときのρ Sは12.8μΩcm、Δρは2.0μΩcmであった。 【0082】実施例9 実施例8のサンプルNo. 11において、Agの1単位当たりの厚さを15Åとするほかは同様にして、[NiC o(8)−Ag(15)] 30で表示されるサンプルNo. 12をMBE法により作製した。 ただし、動作圧力は9 ×10 -10 Torrとした。 【0083】このものの試料面内方向の印加磁場−磁化曲線が図5に示される。 この場合の面内Br/Bsは0.02であり、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0084】サンプルNo. 12について、実施例1と同様にして室温RTでのΔρ/ρ Sを求めたところ、6. 4%であった。 またρ Sは13.9μΩcm、Δρは0. 9μΩcmであった。 【0085】さらに、77KでのΔρ/ρ Sは17.7 %であり、このときのρ Sは10.1μΩcm、Δρは1.8μΩcmであった。 【0086】実施例10 実施例8のサンプルNo. 11(基体:マグネシア)に準じた[NiCo(8)−Ag(t)] 30において、Ag 薄膜の厚さtを種々変えたときの室温RTおよび77K でのAg薄膜の厚さと、Δρ/ρ Sとの関係が、それぞれ、図6に示される。 ここでΔρは印加磁場0での抵抗率をρ Oとしたときの絶対抵抗値であり、Δρ=ρ O − ρ Sで与えられる。 【0087】図6から明らかなように、Δρ/ρ SはA g薄膜の膜厚に依存し、周期的に振動して変化し、室温RTでは膜厚10ÅでΔρ/ρ Sの最大値7.5%を示した。 また、77Kでは膜厚15ÅでΔρ/ρ Sの最大値17.7%を示した。 【0088】なお、このとき、室温RT、77KにおけるAg薄膜の厚さとρ S 、Δρとの関係は、図7に示されるとおりである。 【0089】実施例11 実施例8のサンプルNo. 11において、Ni x Co 1-x の1単位当たりの厚さを11Åとするほかは同様にして、[NiCo(11)−Ag(10)] 30で表示されるサンプルNo. 13を、MBE法により作製した。 ただし、動作圧力は2×10 -9 Torrとした。 【0090】サンプルNo. 13は面内Br/Bsが0. 2で、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0091】サンプルNo. 13において、実施例1と同様にして室温でのΔρ/ρ Sを求めたところ、5.8% であった。 またρ Sは15.4μΩcm、Δρは0.9μ Ωcmであった。 【0092】実施例12 実施例8のサンプルNo. 11において、Ni x Co 1-x の1単位当たりの厚さを14Åとするほかは同様にして、[NiCo(14)−Ag(10)] 30で表示されるサンプルNo. 14をMBE法により作製した。 ただし、動作圧力は9×10 -10 Torr とした。 【0093】サンプルNo. 14は面内Br/Bsが0. 5で、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0094】サンプルNo. 14について、実施例1と同様にして室温でのΔρ/ρ Sを求めたところ、3.9% であった。 【0095】実施例8〜12において、基体をガラス基板とするほかは同様にして磁性積層体を作製し、特性を調べたところ、上記とほぼ同等の結果が得られた。 【0096】また、実施例8〜12において、磁性薄膜の組成をNi x Co 1-x (x=0.7)にかえて、そのほかは同様に、磁性積層体を作製し、特性を調べたところ、上記とほぼ同等の結果が得られた。 【0097】実施例13 マグネシア単結晶基体上にNi x Fe y Co 1-xy (x =0.1、y=0.1)の組成の磁性薄膜と、Ag薄膜とを交互に蒸着し、8ÅのNi x Fe y Co 1-xyと1 2ÅのAgを1単位として、これを50回積層した[N iFeCo(8)−Ag(12)] 50で表示される磁性積層体サンプルNo. 21を作製した。 【0098】各薄膜の厚さは、透過型電子顕微鏡により測定した。 【0099】また、薄膜の組成はICPにより測定した。 【0100】蒸着は、到達圧力7×10 -11 Torrの真空槽内において、MBE法により行なった。 動作圧力は9 ×10 -10 Torr、成膜速度は約0.3Å/sec とし、基体を30rpm で回転させながら蒸着を行なった。 蒸着の際の基体温度は25℃とした。 被着粒子の中心運動エネルギーは、約0.1eVである。 【0101】また、Ni x Fe y Co 1-xy磁性薄膜作製の蒸着源に用いる母合金は、Ni 0.12 Fe 0.12 Co 0.76の組成のものとした。 【0102】このものの面内Br/Bsが0.1で、面内に磁化容易軸をもち、反強磁性を示すことが推定された。 【0103】サンプルNo. 21について、実施例1と同様にして室温でのΔρ/ρ Sを求めたところ、12%であった。 またρ Sは14μΩcm、Δρは1.7μΩcmであった。 【0104】 【発明の効果】本発明の磁性積層体は、従来の反強磁性的結合による磁気抵抗変化積層体と比較して、より低磁場でより大きな磁気抵抗変化が得られる。 そして、磁気結合エネルギーの振動周期変化を利用して、0.01〜 20kOe の任意の動作磁界にて、1〜15%の任意の磁気変化を得ることができる。 また、ガラス基体にも積層できる等、基板材質の制限がなく、成膜時の基体温度にも制限がなく、量産上有利である。 そして、外部磁場方向によって、異なるMR変化特性を得ることができるという特徴をもつ。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の磁性積層体の印加磁場−磁化曲線を示すグラフである。 【図2】本発明の磁性積層体の印加磁場−磁化曲線を示すグラフである。 【図3】本発明の磁性積層体のAg薄膜の厚さと、磁気抵抗変化率との関係を示すグラフである。 【図4】本発明の磁性積層体の印加磁場−磁化曲線を示すグラフである。 【図5】本発明の磁性積層体の印加磁場−磁化曲線を示すグラフである。 【図6】本発明の磁性積層体のAg薄膜の厚さと、磁気抵抗変化率との関係を示すグラフである。 【図7】本発明の磁性積層体のAg薄膜の厚さと、ρ S 、Δρとの関係を示すグラフである。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平2−23681(JP,A) 特開 昭63−64374(JP,A) 特開 平3−52111(JP,A) 特許3320079(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl. 7 ,DB名) H01F 10/16 H01F 1/147 H01L 43/08 H01L 43/10 |