耐つまとび性に著しく優れた連続鋳造ほうろう用鋼板およびその製造方法

申请号 JP2007544239 申请日 2006-11-09 公开(公告)号 JPWO2007055400A1 公开(公告)日 2009-04-30
申请人 新日本製鐵株式会社; 发明人 村上 英邦; 英邦 村上; 西村 哲; 哲 西村;
摘要 本発明は鋼板内での空隙形成能を向上させることで 水 素トラップ能を増大した、耐つまとび性に著しく優れた連続鋳造ほうろう用鋼板及びその製造方法を提供するもので、鋼成分を質量%でC:0.010%以下、Mn:0.03〜1.30%、Si:0.100%以下、Al:0.030%以下、N:0.0055%以下、P:0.035%以下、S:0.08%以下、O:0.005〜0.085%、B:0.0003〜0.0250%、とし、鋼板内に、BまたはMnの質量濃度が異なる一体でない、または一体の 酸化 物を存在させる。その最高濃度と最低濃度の比を、1.2以上とするとともに、一体でない場合は、濃度が異なる酸化物の中心間の直線距離を0.10μm以上、20μm以内、かつ、両方の酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°以内の 角 度となるように存在させる。
权利要求
  • 質量%でC:0.010%以下、
    Mn:0.03〜1.30%、
    Si:0.100%以下、
    Al:0.030%以下、
    N:0.0055%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.08%以下、
    O:0.005〜0.085%、
    B:0.0003〜0.0250%
    を含有し残部がFeと不可避的不純物から成り、板断面における100μm×100μmの観察単位視野内の直径0.10μm以上のFe、Mn、Si、Al、Bなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物について、B質量濃度が異なる接触していない任意の2個の複合酸化物が存在し、最高濃度のB質量濃度(B max%)と最低濃度のB質量濃度(B min%)の比が、B max/B min≧1.2であることを特徴とする耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 板断面における100μm×100μmの観察単位視野内の直径0.10μm以上のFe、Mn、Si、Al、Bなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物について、Mn質量濃度が異なる接触していない任意の2個の複合酸化物が存在し、最高濃度のMn質量濃度(Mn max%)と最低濃度のMn質量濃度(Mn min%)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であることを特徴とする請求項1に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • さらに質量%で、
    Nb:0.004%未満(ゼロを含む。)
    V:0.003〜0.15%
    の内、一種または二種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • さらに質量%で、
    Cu:0.01〜0.500%、
    を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • さらに、質量%で、
    Cr、Ni、As、Ti、Se、Ta、W、Mo、Sn、Sb、La、Ce、Ca、Mgの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 鋼板中に存在する一つのFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物内において、B質量濃度の分布が存在し、高濃度部のB質量濃度(B max%)と低濃度部のB質量濃度(B min%)の比が、B max/B min≧1.2であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 鋼板中に存在する一つのFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物内において、Mn濃度の変動が存在し、高濃度部のMn質量濃度(Mn max%)と低濃度部のMn質量濃度(Mn min%)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 板内部のあるFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物のB質量濃度(%)の1.2倍以上または1/1.2倍以下のB質量濃度の別の複合酸化物が両方の複合酸化物の中心間の直線距離で0.10μm以上、20μm以内、かつ、両方の酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°以内の角度で、存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 板内部のあるFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物のMn質量濃度(%)の1.2倍以上または1/1.2倍以下のMn質量濃度(%)の別の複合酸化物が両方の複合酸化物の中心間の直線距離で0.10μm以上、20μm以内、かつ、両方の複合酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°以内の角度で、存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
  • 質量%でC:0.010%以下、
    Mn:0.03〜1.3%、
    Si:0.100%以下、
    Al:0.030%以下、
    N:0.0055%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.08%以下、
    O:0.005〜0.085%、
    B:0.0003〜0.0250%
    を含有させ残部をFeと不可避的不純物とし、鋼の溶製、鋳造工程において、Mn、Bの溶鋼への添加手順に関し、Mnの総添加量の80%以上を添加した後、1分以上経過させ、Bの総添加量の80%以上を添加し、60分以内に鋳造を行うことを特徴とする耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • さらに質量%で、
    Nb:0.004%未満(ゼロを含む)、
    V:0.003〜0.15%
    の内、一種または二種を含有させることを特徴とする請求項10に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • さらに質量%で、
    Cu:0.01〜0.500%、
    を含有させることを特徴とする請求項10または11に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • さらに、質量%で、Cr、Ni、As、Ti、Se、Ta、W、Mo、Sn、Sb、La、Ce、Ca、Mgの1種以上を合計で1.0%以下含有させることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • 鋳造工程において、鋳片の板厚1/4層で、凝固時の冷却速度≦10℃/秒として行うことを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • 酸化物の平均直径が1.0μm以上、かつ厚さ50mm以上の鋼片を600℃以上の熱間で圧延加工するに際し、1000℃以上、かつ歪速度1/秒以上の条件で真歪の総和で0.4以上の圧延を行なった後、1000℃以下、かつ歪速度10/秒以上の条件で真歪の総和で0.7以上の圧延を行なうことを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
  • 说明书全文

    本発明はほうろう特性(耐泡・黒点性、密着性、耐つまとび性)および加工特性の優れたほうろう用鋼板およびその製造方法に関し、特に連続鋳造によって得ることを特徴とするものである。

    今日のほうろう用鋼板は、製造コストの低減をはかるべく、連続鋳造法によって製造されるのが通常である。 そして、加工性とほうろう性を両立させるため、様々な添加元素を含めた成分調整が行われている。 その1例として、例えばBにより加工性が良好なほうろう用鋼板が製造できることは特許第3260446号、特許第3358410号に開示されている。 この技術は鋼中のNを窒化物として固定し良好な加工性を付与することが可能な元素としてBを添加したものである。 更に、特許文献1は、Bの脱酸能が小さいため鋼中の酸素量を高く保持することが可能であることを開示している。 特許第3613810号は、詳細は不明だがBが爪飛びや泡の発生を防止するうえで有効であること、ほうろう前の硫酸酸洗で鋼板表面の粒界の異常エッチング防止に有効であることが開示されている。
    さらに本発明者らは、Bを含有するつまとび性、深絞り性に優れたほうろう用鋼板についての改良を試み、特開2002−80934号、特開2004−18860号で出願した。 これらの技術の要点は従来のほうろう用鋼板の主たる窒化物制御元素であったBに加え、Alや熱延条件も考慮し、窒化物の形態を制御し、最適な特性を造り込んでいることが、それまでにない特徴となっている。 これらの技術による鋼板は、良好な耐つまとび性が得られるだけでなく、Bという比較的安価な元素を使用し、製造コストの上昇を抑えていると同時に、特に高い伸びに起因する良好な加工性を有するため、主として高級材市場での使用量が伸びつつある。 しかし、近年の鋼板使用の二極化、すなわち、汎用品にはできるだけ低コストな材料を使用し、一方、高級品には従来以上の特性レベルが求められるような状況では、これらの材料に、さらなる加工性、ほうろう性ともが求められるようになってきた。 特に、ほうろう用鋼板の最大の特徴とも言える、耐つまとび性に対しては、さらなる向上の要望が非常に強くなっている。 ほうろう用鋼板のつまとびを抑制するためには鋼板中に空隙を形成しここにほうろう焼成中に鋼板に侵入する素をトラップすることが有効であることが知られているが、単に空隙を形成しただけでは水素トラップ能が向上するとは限らず、例えば、特許文献3や4のように、窒化物の形態を好ましく制御する効果も明確であった。 しかし、これらの従来鋼では、酸化物の形態にまで踏み込んで、空隙の量、形態および性質といった観点からの最適な制御がなされているとは言いがたい。

    本発明は、前述したほうろう用鋼板の技術を発展させ、窒化物のみならず酸化物の形態にまで踏み込んで制御することにより、つまとび性の更なる向上を図ることができる時効性が小さい一回かけほうろうが可能な耐つまとび性が優れた連続鋳造ほうろう用鋼板及びその製造法を提供することを目的とするものである。
    本発明は、従来の鋼板、鋼板製造法を極限まで最適化するため種々の検討を重ねて得られたもので、ほうろう用鋼板のほうろう特性について、特にB含有鋼を対象として、製造条件、特に溶製条件の影響を検討した結果、1)〜5)の項目を新たに知見した。
    即ち、ほうろう性について、パウダー塗布(ドライ)にて、下釉薬、上釉薬の各膜厚100μmの二回かけほうろう処理を行い、つまとび性、泡・黒点性表面欠陥、密着性を調査した。 その結果以下の知見をした。
    1) 耐つまとび性は、酸化物内の元素の偏析が大きいほど良好となる傾向がある。
    2) B添加量が同等でも、酸化物内のBの偏析が大きい場合、加工性、特にr値が向上する傾向がある。
    3) この時、高価な添加元素であるBの添加歩留まりも向上する。
    4) 酸化物内の元素濃度の変動は、圧延により延伸・破砕され、離散している酸化物についても考慮する必要がある。
    5) 酸化物内の元素濃度の変動の大きさは、溶製時の元素添加、特に酸化物形成元素の添加時期により制御が可能である。
    本発明は以上の知見に基づき完成したもので、本発明においては、圧延を熱間または冷間の一方または両方で行う工程を経た最終製品において、組成が異なる酸化物または一体となった酸化物であっても、その内部に大きな組成変動を有するようにし、さらにこれらを特定の好ましい形態で存在させることを特徴とする。 本発明の要旨は以下の通りである。
    (1) 質量%で、
    C:0.010%以下、
    Mn:0.03〜1.30%、
    Si:0.100%以下、
    Al:0.030%以下、
    N:0.0055%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.08%以下、
    O:0.005〜0.085%、
    B:0.0003〜0.0250%
    を含有し残部がFeと不可避的不純物から成り、板断面における100μm×100μmの観察単位視野内の直径0.10μm以上のFe、Mn、Si、Al、Bなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物について、B質量濃度が異なる接触していない任意の2個の複合酸化物が存在し、最高濃度のB質量濃度(B max%)と最低濃度のB質量濃度(B min%)の比が、B max/B min≧1.2であることを特徴とする耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (2) 板断面における100μm×100μmの観察単位視野内の直径0.10μm以上のFe、Mn、Si、Al、Bなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物について、Mn質量濃度が異なる接触していない任意の2個の複合酸化物が存在し、最高濃度のMn質量濃度(Mn max%)と最低濃度のMn質量濃度(Mn min%)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であることを特徴とする上記(1)に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (3) さらに質量%で、
    Nb:0.004%未満(ゼロを含む)、
    V:0.003〜0.15%
    の内、一種または二種を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (4) さらに質量%で、
    Cu:0.01〜0.500%、
    を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (5) さらに、質量%で、
    Cr、Ni、As、Ti、Se、Ta、W、Mo、Sn、Sb、La、Ce、Ca、Mgの1種以上を合計で1.0%以下含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (6) 鋼板中に存在する一つのFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物内において、B質量濃度の分布が存在し、高濃度部のB質量濃度(B max%)と低濃度部のB質量濃度(B min%)の比が、B max/B min≧1.2であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (7) 鋼板中に存在する一つのFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物内において、Mn濃度の変動が存在し、高濃度部のMn質量濃度(Mn max%)と低濃度部のMn質量濃度(Mn min%)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (8) 板内部のあるFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物のB質量濃度(%)の1.2倍以上または1/1.2倍以下のB質量濃度の別の複合酸化物が両方の複合酸化物の中心間の直線距離で0.10μm以上、20μm以内、かつ、両方の複合酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°以内の度で、存在することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (9) 板内部のあるFe、Mn、Si、Al、Nb、B、V、Crなどの酸化物が複合して一体となった複合酸化物のMn質量濃度(%)の1.2倍以上または1/1.2倍以下のMn質量濃度(%)の別の複合酸化物が両方の複合酸化物の中心間の直線距離で0.10μm以上、20μm以内、かつ、両方の複合酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°以内の角度で、存在することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板。
    (10) 質量%でC:0.010%以下、
    Mn:0.03〜1.3%、
    Si:0.100%以下、
    Al:0.030%以下、
    N:0.0055%以下、
    P:0.035%以下、
    S:0.08%以下、
    O:0.005〜0.085%、
    B:0.0003〜0.0250%
    を含有させ残部をFeと不可避的不純物とし、鋼の溶製、鋳造工程において、Mn、Bの溶鋼への添加手順に関し、Mnの総添加量の80%以上を添加した後、1分以上経過させ、Bの総添加量の80%以上を添加し、60分以内に鋳造を行うことを特徴とする耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
    (11) さらに質量%で、
    Nb:0.004%未満(ゼロを含む)、
    V:0.003〜0.15%
    の内、一種または二種を含有させることを特徴とする上記(10)に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
    (12) さらに質量%で、
    Cu:0.01〜0.500%、
    を含有させることを特徴とする上記(10)または(11)に記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
    (13) さらに、質量%で、
    Cr、Ni、As、Ti、Se、Ta、W、Mo、Sn、Sb、La、Ce、Ca、Mgの1種以上を合計で1.0%以下含有させることを特徴とする上記(10)〜(12)いずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
    (14) 鋳造工程において、鋳片の板厚1/4層で、凝固時の冷却速度≦10℃/秒として行うことを特徴とする上記(10)〜(13)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。
    (15) 酸化物の平均直径が1.0μm以上、かつ厚さ50mm以上の鋼片を600℃以上の熱間で圧延加工するに際し、1000℃以上、かつ歪速度1/秒以上の条件で真歪の総和で0.4以上の圧延を行なった後、1000℃以下、かつ歪速度10/秒以上の条件で真歪の総和で0.7以上の圧延を行なうことを特徴とする上記(10)〜(14)のいずれか記載の耐つまとび性に優れた連続鋳造ほうろう用鋼板の製造方法。

    図1は、B、Mnの大きな濃度差が存在する粗大複合酸化物を含む鋼を圧延する際の酸化物の状態を説明する図である。
    図2は、従来の粗大酸化物を含む鋼を圧延する際の酸化物の状態を説明する図である。
    図3は、微細酸化物を含む鋼を圧延する際の酸化物の状態を説明する図である。
    図4は、B、Mnの大きな濃度差が存在する粗大複合酸化物を含む鋼を圧延した際に、複合酸化物の周囲の空隙が大きくなることを説明する図である。
    図5は、濃度差が存在しない粗大複合酸化物を含む鋼を圧延した際に、複合酸化物の周囲の空隙が小さいことを説明する図である。

    以下に本発明について詳述する。
    まず、本発明で制御の対象とする酸化物の直径は0.10μm以上とする。 この範囲より小さな酸化物は、本発明鋼の特性上の大きな特徴である、耐つまとび性、すなわち水素透過阻止能を向上させる効果が非常に小さくなるので、特段制御の対象とする必要が無い。 好ましくは、0.50μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上の酸化物を対象にしても、以下に説明する酸化物の特徴が認識されるものである。 直径の上限は、本発明の効果を考える上では特に限定する必要はない。 ただし含有酸素量にもよるが、粗大な酸化物が多くなると酸化物の数密度が減少し、水素透過阻害効果が小さくなる。 また、あまりに粗大な酸化物は一般的に知られているように製品板の加工の際に鋼板の割れ起点となり加工性を阻害する。 これらを考えると、酸化物の平均直径は15μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下にとどめることが好ましい。
    本発明で規定する酸化物の特徴の一つは、酸化物のB濃度である。 本発明では、濃度が高いものと低いものを特定する必要があり、100μm×100μm視野のうち大きさ0.1μm以上の100個を測定するものとする。 すなわち、板断面における100μm×100μmの観察視野内の酸化物について測定された濃度において、B濃度が異なる一体でない酸化物が存在し、高濃度のB濃度(B max)と低濃度のB濃度(B min)の比が、B max/B min≧1.2であることを特徴とする。 このB濃度比が1.2以上になると、後述するように、圧延時の酸化物の形態変化およびそれに伴う空隙の形成が効率的に行われるようになり、結果として耐つまとび性が顕著に向上する。 好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは、2.0以上、さらに好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、6.0以上である。
    また、Mn量についても同様の組成差が存在することを特徴とする。 すなわち、板断面における100μm×100μmの観察視野内の鋼板中に、Mn濃度が異なる一体でない酸化物が存在し、高濃度のMn濃度(Mn max)と低濃度のMn濃度(Mn min)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であることを特徴とする。 このMn濃度比が1.2以上になると、Bと同様に、圧延時の酸化物の形態変化およびそれに伴う空隙の形成が効率的に行われるようになり、結果として耐つまとび性が顕著に向上する。 好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは、2.0以上、さらに好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、6.0以上である。 本発明を規定するための、酸化物中の各元素の濃度を測定する方法は特に限定されるものではないが、各酸化物の濃度が特定される必要がある。 また、後述するように、一つの酸化物内の濃度変化も規定する必要があることから、例えばエネルギー分散型X線分散型分析装置(EDAX)を用いると都合がよい。 測定方法は通常の方法で構わないが、特に微小領域の濃度を決定する必要があるため、電子線のビーム径は十分に小さくする等の注意が必要である。 また、Nb濃度は絶対値を決定する必要はなく、相対的な値がわかれば十分である。 EDAXを用いる場合には、検出ピークの高さの比を用いれば良い。 注意を要するのは、測定領域の大きさが小さくなるほど、高濃度部と低濃度部の濃度比は大きくなる傾向がある。 極限的には、原子1個ずつの大きさの領域の濃度を測定すれば、高濃度部は100%で低濃度部は0%という状況も想定される。 本発明においては、本発明者が通常使用している一般的なTEMやSEMの電子線の照射エリアを考え、0.01〜0.1μm程度の領域での平均的な値を用いるものとする。 正確には被照射物内での電子線の拡がりがあり、得られる情報は設定した電子線径より広い領域からのものとなる。 本発明では、電子線径を想定する領域と同程度の径に設定し得られる値を用いることも可能であるし、ある程度の微小領域で電子線を走査し、その平均値を用いることも可能である。
    このように、酸化物組成に濃度差が存在すると、特に耐つまとび性、すなわち水素透過阻止能が向上する理由は明確ではないが、以下のように考えられる。 本発明鋼で、分散させている酸化物は、後述のように、元は一体の酸化物であったものと考えられる。 すなわち、成分調整が終了した溶鋼を鋳造した時点では、大きな一つの酸化物であったものが、延伸、破砕され、微細に分散したものと考えられる。 このような延伸・破砕は、主として、圧延工程で起き、特に熱延工程では酸化物は主として延伸し、冷延工程では主として破砕される。 このような工程において酸化物内に組成差が存在すると、酸化物の部位により延伸の程度が異なり、酸化物の形状は複雑なものとなり、また、細く(薄く)なった部位は優先的に破砕し、また形状の変動が大きい部位は変形応の集中により優先して破砕することが予想される。 結果として、組成が異なる部位は効率的に破砕され、分散することになる。 このような効率的な破砕の際に、多くの空隙が形成され、これが鋼中で水素トラップサイトとなり、琺瑯用鋼板に必要とされる水素透過阻止能、すなわち耐つまとび性を顕著に向上させるものと考えられる。 以上を図を使って具体的に説明する。 酸化物にB、Mnの大きな濃度差が存在すると、図1のように粗大複合酸化物1は、熱延2、延伸3、冷延4によって破砕され効率的に鋼板中に破砕空隙5が形成され、耐つまとび性が向上する。 これに対し、従来のように単に複合酸化物を含有するだけのものでは、図2のごとく粗大酸化物6は、熱延2、冷延4によって延伸3、破砕されにくいので破砕空隙7が形成されても本発明鋼のように好ましい破砕空隙を得ることができない。 図3のようにスラブ段階で微細な複合酸化物8では、熱延2、冷延4によって延伸せず9、あまり破砕されないため、更に空隙10が生じにくい。 また、図1、2では、破砕された複合酸化物間の距離が比較的短く、複合酸化物間に有効に空隙が残存する場合を示しているが、熱延や冷延で延伸、破砕して形成された複合酸化物間の空隙が同じ熱延や冷延工程で圧延により潰れて消失するような場合にも、本発明の効果は充分に得ることができる。 この様子を模式的に図4、5に示す。 複合酸化物そのもののサイズや配置は同じでも、複合酸化物にB、Mnの大きな濃度差が存在し空隙形成能が大きな複合酸化物を含有する図4に示すような発明鋼では、複合酸化物の周囲の空隙11もより大きく、耐つまとび性向上に好ましいものとなる。 図5に示す濃度が同じ酸化物では空隙が小さい。 また、組成が異なる複合酸化物が、鋼板中で特定の相対的な位置関係を有していることも特徴である。 すなわち、高いB濃度を示す複合酸化物と低いB濃度を示す複合酸化物が、濃度比で1.2倍以上で当該複合酸化物の中心を結ぶ直線が圧延方向から±10°の角度内、かつ当複合該酸化物中心間の直線距離で0.10μm以上、20μm以内に存在することを特徴とする。 角度については、好ましくは±7°の角度内、さらに好ましくは±5°の角度内、さらに好ましくは±3°の角度内であり、圧延方向に線状に配置することを特徴とする。
    この理由は明確ではないが、本鋼板に必要とされる水素透過阻止能は、鋼板の板厚中心から表面に向かう水素透過を効率的に阻止することが重要で、このため、例えば複合酸化物が板厚方向に配列してしまうと複合酸化物を伝わって板厚方向への水素の流れが形成されることになり、本発明の目的にとって不都合なものとなる。 このため、本発明で特徴となる複合酸化物は、鋼板表面に平行に配置することで、さらなる特性の向上を可能にしていると推測される。 なお、鋼板表面に平行であれば、上記のように圧延方向からの特定角度に限定されるものでないことは言うまでもないが、通常の製法においては、例えば板幅方向に複合酸化物を配列させることは困難であり、圧延により複合酸化物を分散させることを想定し、本発明では圧延方向からの角度で配置を規定するものである。
    また、対象となる複合酸化物間の距離は、直線距離で0.10μm以上、20μm以内に存在することを特徴とする。 この範囲を外れると、耐つまとび性が劣化する。 好ましくは0.20μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上、さらに好ましくは0.40μm以上、さらに好ましくは0.50μm以上離れていることが好ましい。 距離の下限により発明の効果が影響する理由は明確ではないが、対象となる複合酸化物の間には、より微細な複合酸化物や濃度の差が小さい複合酸化物も存在し、水素透過阻止能はこれらの複合酸化物によっても影響されていることが考えられる。 すなわち、対象となる複合酸化物間があまりに近い場合、水素トラップ能を有する列状の複合酸化物全体の長さが短くなるため、表面に向かう水素の流れを止めるための隙間が多く生じるようになり、水素透過阻止能が低下するものと思われる。 また、上限は、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。 上限を規定した理由は、対象とする複合酸化物が余りに遠くに離れた場合、本発明で想定しているような、本来一体であった粗大複合酸化物の延伸・破砕という考えにそぐわなくなるためである。 通常の製法によれば、0.5μm以内に配置している場合が多い。
    また、本発明の効果は組成の異なる複合酸化物が完全に分離していなくても発揮される。 すなわち、鋼板中に存在する一つの複合酸化物内において、B濃度の変動が存在し、高濃度部のB濃度(B max)と低濃度部のB濃度(B min)の比が、B max/B min≧1.2であれば十分である。 好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは、2.0以上、さらに好ましくは、2.5以上、さらに好ましくは、3.0以上である。 また同様に、鋼板中に存在する一つの複合酸化物内において、Mn濃度の変動が存在し、高濃度部のMn濃度(Mn max)と低濃度部のMn濃度(Mn min)の比が、Mn max/Mn min≧1.2であれば十分である。 好ましくは、1.5以上、さらに好ましくは、2.0以上、さらに好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、6.0以上である。
    この理由は、上述したように本来、一体であった粗大な複合酸化物が延伸・破砕する過程で、完全に分離しなくとも、少なくとも通常の観察においては部分的にでも結合している状態が考えられるからである。 このような場合にも、複合酸化物の形状は非常に複雑となり、その周囲に効果的に空隙が形成され、水素トラップサイトとして作用するとともに、複合酸化物の主として濃度変化に起因した変形能の変化に沿って形成された欠陥が水素をトラップし、本発明の効果が検知可能である。
    本発明においては特に望ましい複合酸化物を、B−Mn−Fe複合酸化物として存在させることを想定している。 この複合酸化物の組成、形態(配置)を最適に制御することが本発明の特徴である。 すなわち、複合酸化物の組成が異なることは複合酸化物の特性、例えば硬度や延性が異なることを意味し、熱間圧延および冷間圧延での複合酸化物の延伸および破砕の状態に大きな影響を及ぼすことで、好ましい形態に制御するものである。
    鋼の組成や製造条件、特に、製鋼条件と熱延加熱条件により、複合酸化物中にSi、Al、V、Nb等の多くの種類の元素が含有される場合には状況はより複雑なものとなっており、各元素の複合酸化物中の含有量を、制御することは鋼板の特性を向上させる上で非常に重要なものとなる。 また、S量を増加するとMnSが複合酸化物に複合析出し、硫化物と酸化物との延伸性、破砕性の大きな差により、本発明の効果をより顕著にすることも可能である。 特に耐つまとび性へのMnSと酸化物との相互作用的な効果は従来鋼以上に、Bを含む鋼で効果が現れることから、Mn、Bを含有する複合酸化物を核として析出が促進されたMnSの特徴と考えられる。
    次に、鋼組成について詳述する。
    Cは従来から低いほど加工性が良好となることが知られており、本発明においては、0.010%以下とする。 高い伸びおよびr値を得るためには、0.0025%以下にするのが望ましい。 更に好ましい範囲は0.0015%以下である。 下限は特に限定する必要がないが、C量を低めると製鋼コストを高めるので0.0003%以上が望ましい。
    Siは、酸化物の組成を制御するためにわずかに含有させることもできる。 この効果を得るには0.001%以上とする。 一方で過剰な含有は、ほうろう特性を阻害する傾向であるばかりでなく、熱間圧延での延性に乏しいSi酸化物を多量に形成し、耐つまとび性を低下させる場合があるため、0.100%以下とする。 好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.015%以下である。 耐泡、耐黒点性などを向上させ、更なる良好なほうろう表面性状を得る点からは、好ましい範囲は0.008%以下である。
    Mnは酸素、Nb添加量と関連して酸化物組成変動に影響する重要な成分である。 同時に熱間圧延時にSに起因する熱間脆性を防止する元素で、酸素を含む本発明では0.03%以上とする。 望ましくは0.05%以上である。 一般的には、Mn量が高くなるとほうろう密着性が悪くなり、泡や黒点が発生しやすくなるが、酸化物としてMnを最大限に活用する本発明鋼では、Mn添加によりこれらの特性の劣化は小さい。 むしろ、Mn増加により酸化物組成の制御が容易になるので積極的に添加する。 即ち、Mn量の上限を1.30%に特定する。 上限は望ましくは0.80%で、更に好ましくはMnの上限は、0.60%である。
    Oはつまとび性、加工性に直接に影響すると同時に、Mn、Nb量と関連して耐つまとび性に影響するので本発明では必須の元素である。 これらの効果を発揮するには0.005%以上が必要である。 好ましくは、0.010%以上、さらに好ましくは、0.015%以上、さらに好ましくは、0.020%以上である。 一方、酸素量が高くなると酸素が高いことにより直接に加工性を劣化させると共に、本発明に必要なNb添加量も増加し、間接的な添加コストが上昇するので、上限0.085%とするのが望ましい。 好ましくは、0.065%以下、さらに好ましくは、0.055%以下である。
    Alは、酸化物形成元素であり、ほうろう特性としてのつまとび性を良好にするためには、鋼中の酸素を適正量鋼材中に酸化物として存在させることが望ましい。 この効果を得るには0.0002%以上含有させる。 一方で、Alは強脱酸元素であり、多量に含有させると、本発明が必要とする酸素量を鋼中に留めることが困難となるばかりでなく、熱間圧延での延性に乏しいAl酸化物を多量に形成し、耐つまとび性を低下させる場合がある。 そのためAlは0.030%以下とする。 好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下、さらに好ましくは0.005%以下である。
    NはCと同様に侵入型固溶元素であり、多量に含有すると、Nb、さらにはVやB等の窒化物形成元素を添加しても加工性が劣化する傾向であると共に非時効性鋼板の製造が出来にくい。 この理由から、Nの上限を0.0055%とする。 望ましくは0.0045%以下である。 下限は特に限定する必要がないが、現在の製鋼技術では0.0010%未満に溶製するのはコストがかかるため、0.0010%以上が望ましい。
    Pは含有量が多くなるとほうろう焼成時の、ガラスと鋼との反応に影響し、特に鋼板の粒界に高濃度に偏析したPが泡・黒点等で、ほうろう外観を劣化させる場合がある。 本発明ではP含有量を0.035%以下とする。 好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
    Sは、Mn硫化物を形成し、特にこの硫化物を酸化物に複合析出させることで、圧延時の空隙形成を効率的にし、耐つまとび性を向上させる効果を有する。 全く含有しない0%でも構わないが、この効果を得るためには、0.002%以上必要である。 好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.015%以上、さらにである。 しかし含有量があまりに高いと本発明で主要となる酸化物の組成制御に必要なMnの効果を低下させる場合があるので上限を0.080%とする。 好ましくは0.060%以下、さらに好ましくは0.040%以下である。
    Bは本発明においては必須の元素である。 BはNを固定し、深絞り性を向上せしめると共に、非時効化し、高加工性を付与するために必要となり、また密着性向上効果も有するが、本発明ではこれとは全く異なった特殊な効果を付与するために含有させる。 つまり、添加したBは鋼中酸素と結合し酸化物を形成し、つまとび防止に有効な働きをする。 この効果を得るためには0.0003%以上必要である。 さらに好ましくは0.0008%以上、さらに好ましくは0.0012%以上、さらに好ましくは0.0015%以上、さらに好ましくは0.0020%以上である。 しかし、添加量が高くなると、B添加時に脱酸してしまい鋼中に酸化物をとどめることが困難になるばかりでなく、耐泡・黒点性が劣化するので上限は0.0250%とする。 好ましくは0.0150%以下、さらに好ましくは0.0080%以下である。
    Bと同様の効果を有する元素としては、Nb、Vがある。 Nbは単独添加の場合、r値向上効果は著しいが、伸びの劣化が大きく加工性の向上を阻害する面もあるが、本質的にBを含有する本発明鋼では、再結晶温度が顕著に上昇し、冷延・焼鈍後の良好な加工性を得るために非常に高温での焼鈍が必要になり、焼鈍の生産性を低下させる。 このため低く抑えることが好ましく、0.0040%を超えないようにすべきである。 さらに好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0015%以下で、0であればNbの悪影響は考慮する必要がない。 また、Vは加工性への影響に関してはNbと同等であるが、鋼中に残存させる酸素量との兼ね合いで上限は広く、本発明が対象とするB添加鋼に複合添加した場合も再結晶温度上昇効果はNbより小さいうえに、Bと複合添加し、複合酸化物を形成することで耐つまとび性を著しく向上させる効果も有する。 Vについての効果を得るには、0.003%以上必要である。 好ましくは、0.006%以上、さらに好ましくは、0.010%以上、さらに好ましくは、0.015%以上である。 添加コストおよび耐泡・黒点性の観点から、上限は0.15%とする。 B量として0.0015%以上含有し、B単独で発明の効果が得られている場合には、0.060%以下、さらには0.040%以下とすれば十分である。
    Cuはほうろう焼成時のガラスと鋼の反応を制御するために含有させる。 一回がけホーローにおいては前処理時に表面に偏析したCuが反応の微視的な変動を助長し密着性を向上させる効果を有する。 二回掛けホーローにおいては、表面偏析に起因した作用は小さいが、下釉薬と鋼の微視的な反応に影響を及ぼす。 このような効果を得るため必要に応じて0.01%以上添加する。 不用意に過剰な添加はガラスと鋼の反応を阻害するばかりでなく、加工性を劣化させる場合もあるため、このような悪影響を避けるには0.500%以下とすることが好ましい。 好ましい範囲は0.015〜0.200%である。
    その他の不可避的不純物は、材質特性、ほうろう特性に悪影響を及ぼす場合があるので低くすることが好ましい。 Cr、Ni、As、Ti、Se、Ta、W、Mo、Sn、Sb、La、Ce、Ca、Mgについては1種以上の合計で1.0%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下とする。 多く含有すると、酸化物形成元素との反応が無視できなくなり、酸化物の組成、形態が好ましからざるものになるただし、これ以上の量の添加が行われた場合にも、本発明の効果が失われるものではなく、本発明が想定しているメリット以外の製造上または品質上のメリットを期待して、これ以上の量を積極的に添加することも可能である。
    次に、本願に係る鋼板の製造方法の例について説明する。 本発明においては酸化物へのB含有が必要となるものであり、本発明鋼の技術的な要点はBをNではなくOと結合させ、鋼中の酸化物の形態を制御することにあるが、その制御を達成する方法は多様である。 このため、本願は以下の製造方法に限定されるものではない。
    本発明で特徴的な複合酸化物の組成変動を付与するために鋼の溶製、鋳造工程において、Mn、Bの溶鋼への添加手順に関し、Mnの総添加量の80%以上を添加した後、1分以上経過させ、Bの総添加量の80%以上を添加し、60分以内に鋳造を行うことが、生産性の観点から有利である。 Bと同様の効果を有するV、Nbを添加する場合は、基本的には、脱酸能の弱い元素から添加することが好ましく、Mn、V、Nb、Bの順で添加することで本発明の効果をより顕著に得ることが可能となる。 ここで添加は、各元素の総添加量の80%以上を添加した後、次の元素を添加するものとする。 ただし、各元素の添加後、最終的に成分調整するために、総添加量の10%未満で添加する量は、ここでの添加量の考慮からは除外するものとする。 各元素の添加時期は1分以上の時間を経過させることが好ましい。 さらに好ましくは2分以上、さらに好ましくは3分以上経過させる。 また、全元素を添加後、60分以内に鋳造を行うものとする。 好ましくは40分以内、さらに好ましくは20分以内である。 また、鋳造工程において、鋳片の板厚1/4層での凝固時の冷却速度≦10℃/秒として行うことで、発明の効果がより顕著になる。 好ましくは5℃/秒以下、さらに好ましくは2℃/秒以下、さらに好ましくは1℃/秒以下、さらに好ましくは0.5℃/秒以下、さらに好ましくは0.1℃/秒以下である。
    なお、本発明の効果が最大限に享受できるように複合酸化物を形成させるためには、上述のようにBをMn、V、Nb、Bの順で添加することが望ましいが、本発明の本質はB酸化物を有効に形成し、他の酸化物と最適に複合させることであり、精錬中の溶鋼中酸素濃度やMn、V、NbとBとの濃度比および温度をバランスよく保つことができればMn、V、Nb、Bを一度に総添加量添加させたり、いずれか2つ以上の元素を一度に、または分けて添加しても本発明の効果は得られる。 Mn、V、Nb、Bを一度に総添加量添加させたり、いずれか2つ以上の元素を一度に、または分けて添加する場合は、溶鋼中酸素濃度を0.010〜0.070%の範囲に調整する必要があり、多少的中率・能率が落ちる場合がある。
    また、予め濃度分布を持つB系複合酸化物を調整の上で、連鋳タンディッシュやモールドにワイヤー等に内封して添加することなども、本願で特徴的な濃度分布を持つB系複合酸化物を製造する方法の一つである。 先述した特許文献には、このような添加元素の添加タイミング、凝固条件やその他本願にて規定する組成変動の大きい複合酸化物の製造に係る事項の開示は一切ない。 単にBを添加しただけでは十分な効果を得ることはできない。
    すなわち、従来公知のほうろう鋼板製造技術においては、単にBを添加しているのみであり、また従来公知の技術においてはB窒化物の形成を目的のひとつとしていることから、添加したBは、Bとの親和性が高いNと結合してB窒化物を形成してしまい、水素トラップサイトとして機能するのに十分なB酸化物が有効に形成しない。
    さらにまた、従来公知のほうろう鋼板製造技術においては、有効な濃度分布を持つ酸化物が重要であるという知見が無いため、その有効な濃度分布を持つ酸化物自体を調整の上で添加するという技術も全く存在しない。
    このため、従来公知のほうろう鋼板製造技術をもっては、本願にて規定するようなBを含有し、かつ組成変動の大きい酸化物を形成させ得ない。 なお、窒化物は酸化物と比較すると、本発明の目的である耐つまとび性の向上への効果は小さい。
    一方で、本発明においては酸化物へのB含有が必要となるものであり、このため本願では、例えば、前述の製造方法のようにMnを先に添加することによりMn酸化物を形成しその後Bを添加することや、有効な濃度分布を持つ酸化物自体を調整の上で添加することなどにより、BがMnなどの酸化物と複合している、本願にて規定する組成変動の大きい酸化物を形成させるものである。
    上述のような最適な複合酸化物の形成は、元素添加による成分変化や経過時間のみにより起きるものではなく、温度との関連も強い。 特に、元素や酸化物の添加終了後、凝固初期までの高温での反応の制御が重要となる。 特に、鋼が液体から固体になる際には、鋼中への各種元素の溶解度も大きく変化し、組成変動にも少なからざる影響を及ぼす。 このため、凝固時点での冷却速度は発明の効果を十分に得るために重要となる。 あまりに早いと元の粗大な複合酸化物とは別に微細な酸化物、析出物を形成し、発明の効果が阻害され、一方であまりに緩冷却だと、組成の均一化が起こり発明の効果が小さくなるばかりでなく、生産性も低下する。 一般的には、鋳造時の鋼片の冷却速度は板厚方向の位置で異なるため、本発明では代表的に板厚1/4層での冷却速度で規定する。 1/4層での冷却速度は、一般に認められ、操業制御などでも用いられている伝熱計算によって求められる。
    本発明で対象とする複合酸化物は、凝固が完了した鋳片の時点では、平均直径が1.0μm以上である場合に、発明の効果を顕著に得ることが可能となる。 好ましくは、4.0μm以上、さらに好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、15μm以上、さらに好ましくは、20μm以上である。 鋳造完了時点での酸化物が粗大であることが好ましいのは、微細であると鋼片加工時の酸化物の延伸性が乏しくなり、破砕も起きにくくなるためであると思われる。 ここで規定しているのは平均直径であり、通常、光学顕微鏡または低倍率の走査型電子顕微鏡で観察できる程度の大きさの複合酸化物を対象として測定するものとする。
    通常の鋼板製造工程においては、この複合酸化物を圧延により延伸・破砕し、目的とする特性にとってより好ましい形態へと変化させる。 このためにはある程度の加工量が必要であり、鋳造を完了した鋼片の厚さを50mm以上としておくことが好ましい。 製造工程では、熱延により1〜8mm程度、さらに冷延により、2〜0.2mm程度まで圧延されるので、総歪は対数歪で3から5以上にも及ぶものである。 また、より良好なつまとび性を得るためには600℃以上の熱間での圧延加工において1000℃以上、かつ歪速度1/秒以上の条件で真歪の総和で0.4以上の圧延を行なった後、1000℃以下、かつ歪速度10/秒以上の条件で真歪の総和で0.7以上の圧延を行なうことが効果的である。 これは上記の鋼中に存在する組成の異なる複合酸化物およびそれに付随する空隙の形成過程を制御し、好ましい複合酸化物・空隙の形態および性質が得られるためと思われる。 このメカニズムは明確ではないが、以下に本発明が発現する機構を説明する。 水素トラップサイトとして機能する空隙は主として熱間圧延以降の冷延工程で複合酸化物が破砕されることにより形成されるが、これ以前の熱延工程において複合酸化物の形状を制御しておくことが重要である。 つまり、熱延工程では温度が高いため複合酸化物も軟化しており母相である地鉄との硬度差が小さくなっており約1000℃以上の温度域では圧延による複合酸化物の破砕はほとんど起きず複合酸化物は延伸する。 また1000℃より低温、約900℃以下になると複合酸化物は延伸しにくくなるが冷延の場合のような顕著な破砕は起きず微小なクラックを生成する程度の割れが一部で起きる。 このように適度に延伸し、同時に微小なクラックを有する複合酸化物を冷延前に得るには熱延時の温度制御および各温度域での歪量、さらに熱間での加工であるため変形された地鉄および複合酸化物の回復が顕著に起きるため歪速度の制御が重要となる。
    熱間加工の温度域が高すぎると回復が激しくクラックを形成するだけの歪を複合酸化物に付与することができない。 また低すぎると複合酸化物の形態が伸びたものでなく球形に近いものとなるためクラックが入りにくくなる。 適度に伸びて厚さが薄くなっていることがクラックの形成には必要である。 このためには熱間圧延においてより高温域での適度な変形による複合酸化物の延伸とより低温域でのクラックの形成を制御して付与する必要がある。 そして、このようなクラックを形成する複合酸化物の形態は、前述のように複合酸化物内に濃度差が存在し変形能に差異がある場合により複雑なものとなり、効率的に有効な空隙を形成することが可能となる。
    熱延加熱温度や巻取温度等は通常の操業範囲で通常どおりに設定することが可能である。 熱延加熱温度は、1000℃以下でも構わないが、上記の熱延での複合酸化物延伸効果を十分に得るために1000℃以上の圧延を行うのであれば、1050〜1300℃、巻取温度は400〜800℃程度である。
    冷間圧延は、複合酸化物の破砕を十分に行い、かつ深絞り性の良好な鋼板を得るために冷延率60%以上とすることが好ましい。 特に深絞り性を必要とする場合は、冷延率75%以上とすることが好ましい。
    焼鈍は箱焼鈍でも連続焼鈍でも本発明の特徴は変わらなく、再結晶温度以上の温度であれば本発明の特徴を発揮する。 特に本発明の特徴である深絞り性が優れ、ほうろう特性が良好という特徴を顕現させるには連続焼鈍が好ましい。 箱焼鈍では650〜750℃で、連続焼鈍では700〜890℃で主に実施することができる。
    以上、説明した様に本発明のように複合酸化物の組成変動を制御した鋼板は、直接1回掛けはもちろん、二回掛けでも、非常に良好な耐つまとび性を有する。 また、泡、黒点欠陥等も発生せず、優れたほうろう密着性を有するほうろう用鋼板となる。 施釉の方法も、湿潤釉薬のみならず、ドライで粉体でのほうろう掛けにも問題なく対応できる。 また、用途等も、何ら限定されるものではなく、バスタブ、食器、台所用品、建材、家電パネル他、技術的な分類としての鋼板ホーローの分野で、その特性を発揮する。

    種々の化学組成からなる連続鋳造スラブを様々な製造条件で熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行った。 引き続き1.0%の調質圧延を行った後、ほうろう特性を調査した。 成分を表1に、添加する酸化物を表1−2に、製造条件を表2に、調査結果を表3に示した。 本実施例では、製鋼時の元素添加条件の影響を検討したため、同じ成分を狙った鋼でもわずかな成分の差が生じているが、同等の成分として特性の比較を行った。 同等の成分と判断したものは、鋼符号で同じ英字を付与し、同一の英字の中で通し番号を付けたもので製造条件の影響を検討した。 なお、表2中の圧延加工の欄において、Aは1000℃以上かつ歪速度1/秒以上で付与された真歪の総和、Bは1000℃以下かつ歪速度10/秒以上で付与された真歪の総和を意味する。 また、表3中の別酸化物分布の欄においては、高濃度/低濃度比を示した酸化物についての相対的位置が、A:角度±5°以内、かつ距離0.5μm以内、B:A条件を満たさず、角度±10°以内、かつ距離20μm以内、C:B条件を満たさないことを意味する。 (ここで酸化物とはFe、Si、Mn、Al、Nb、V、B等の酸化物が複合して一体となった複合酸化物をいう。別酸化物とは接触していない任意の2個の複合酸化物をいう。同一酸化物とは分離していない任意の1つの複合酸化物をいう。)
    ほうろうは、粉体静電塗装法により乾式で、下釉薬を100μm、上釉薬を100μm塗布し、露点60℃の大気中850℃3分の焼成を行った。
    耐つまとび性は焼成した板を、160℃の恒温槽中に10時間入れるつまとび促進試験を行い、目視でつまとび発生状況を、A:非常に優れる、B:優れる:C:わずかに優れる、D:通常、E:問題ありとするA−Eの5段階で判定し、表3に耐つまとび性として示した。
    泡・黒点の表面特性は目視判定し、A:非常に優れる、B:優れる:C:わずかに優れる、D:通常、E:問題ありとするA−Eの5段階で判定し、表3に示した。
    ほうろう密着性は通常行われているP. E. I. 密着試験方法(ASTM C313−59)では密着性に差が出ないため、2kgの球頭の重りを1m高さから落下させ、変形部のほうろう剥離状態を169本の触診針で計測し、未剥離部分の面積率で評価した。
    表3の結果から明らかなように、本発明の鋼板は、ほうろう特性、特に耐つまとび性が格段に優れたほうろう用鋼板である。 特に、製造法の制御により複合酸化物の濃度差を制御することによる耐つまとび性の向上効果が明確である。
    即ち、本発明で規定する鋼成分を満たす鋼板は、表3に示すように、別酸化物のBのmax/min比(請求項1で規定)、別酸化物のMnのmax/min比(請求項2で規定)、別酸化物分布(請求項8でB、請求項9でMnを規定)、及び、同一酸化物内のmax/min比(請求項6でB、請求項7でMnを規定)について、本発明で規定する上記要件を全て満たす鋼番号の鋼板は、密着性80〜100%、泡・黒点性、密着性および耐つまとび性についてのほうろう特性は全体的に最も優れた評価となっていた。
    また、別酸化物のBのmax/min比(請求項1で規定)の要件を満たしていて、その他の上記要件のいずれかを満たしていない鋼番号(a2、a5、c4、d5、e2、h1、k1)の鋼板は、密着性は75〜85%、泡・黒点性、密着性、耐つまとび性についてのほうろう特性は優れる(B)或いはわずかに優れる(C)の評価となっているものもあったが、総合評価としては全体的に優れていて本発明の目的とする効果が得られていた。
    これに対して、比較例(l1〜n2)は、別酸化物のBのmax/min比(請求項1で規定)の要件を満たしておらず、他の要件を満たしていても、ほうろう特性(泡・黒点性、密着性、耐つまとび性)が劣っていて、本発明の目的とする効果が得られなかった。
    「圧延加工」の欄において、Aは1000℃以上かつ歪速度1/秒以上で付与された真歪の総和、Bは1000℃以下かつ歪速度10/秒以上で付与された真歪の総和を意味する。
    「別酸化物分布」の欄においては、高濃度/低濃度比を示した酸化物についての相対的位置が、A:角度±5°以内、かつ距離0.5μm以内、B:A条件を満たさず、角度±10°以内、かつ距離20μm以内、C:B条件を満たさないことを意味する。 (ここで酸化物とはFe、Si、Mn、Al、Nb、V、B等の酸化物が複合して一体となった複合酸化物をいう。別酸化物とは接触していない任意の2個の複合酸化物をいう。同一酸化物とは分離していない任意の1つの複合酸化物をいう。)
    耐つまとび性では、A:非常に優れる、B:優れる:C:わずかに優れる、D:通常、E:問題ありとするA−Eの5段階で判定した。
    泡・黒点の表面特性は目視判定し、A:非常に優れる、B:優れる:C:わずかに優れる、D:通常、E:問題ありとするA−Eの5段階で判定した。

    本発明のほうろう用鋼板は、ほうろう用鋼板として必要な耐つまとび性、耐泡・黒点性、ほうろう密着性、表面特性のすべてを満たしている。 特に耐つまとび性が著しく向上し、ホーロー製品製造工程での不良品率が大きく低下し、工業的意義は大きい。

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