【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、生体適合性複合体の製法に関し、さらに詳しくは、骨組織と結合して優れた生体活性を有し、強度が大きく、生体用インプラント材の如き生体代替材料、例えば、医科の分野では人工骨材、 骨固定及び接合材、骨充填材或いは骨補綴材、人工股関節の部分的代替材料など、そして歯科材料の分野では人工歯根、根管充填材、骨修復及び充填材、人工歯材料などとして有用な生体適合性複合体の製法に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、生体代替材料の発展は著しく、特にセラミックスは体内で溶解、腐食、膨潤などの化学的変化を受けにくく、生体適合性に優れているとされている。 【0003】そして、例えばハイドロキシアパタイト(以下HAPと略称する)の微結晶を1000〜130 0℃の高温で分解させずに焼結することにより、成形し人工歯根や人工骨を製造することが行なわれている。 【0004】また、結晶質サファイアや多結晶アルミナを人工骨、人工関節、人工歯根などに使用する例が知られている。 【0005】さらに、アパタイトの焼結体で外套部を作製し、この外套部に金属芯をインサートし、外套部と金属芯の間を焼結ガラスで結合することによってアパタイトの外表層を有するインプラント材が提案されている(1985年4月,理工学会予稿集第138頁)。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】上記従来技術のうち、 のものはHAP単独焼結体であり、強度は大きいものの、もろく、また焼結による成形が難しく、製造コストが高く、また純HAPであるために生体組織との親和性が優れている反面、生体内への長期にわたる埋入により誘起される生体内での複雑な生物化学反応による溶解が無視できないという問題があった。 【0007】また、のものは、材料自体が高価であり、それ自体が骨と直接接合しにくいためにネジ型等複雑な形状にして、物理的に骨に埋め込む方法をとらざるを得ず、そのことから、成形が困難で製造コストが大となる問題があった。 【0008】さらに、のものは、と同様に、HAP の外装材を作製するのに寸法精度や微細形状加工に多大の困難を伴い、また外装材が純HAPであるために生体内での長期にわたる生物化学反応による溶解という問題も考慮する必要があり、また、熱膨張係数が著しく異なる金属(Ti:8.5×10 -6 /℃)とHAP焼結体(焼結体は十数×10 -6 /℃)を溶融ガラスで接合するために大きな残留歪が生じ、熱衝撃並びに、HAP焼結体の層の強度及びHAP焼結体とガラス層界面との接合強度が弱くなるという問題がある。 また、HAP外装材の焼結の際に高温高圧をかけているために表面がどうしても緻密な平滑組織となり、生体組織となじみ難いという問題があった。 【0009】 【課題を解決するための手段及び作用】本発明によれば、金属上にコーティングによって中間ガラス層を形成させ、次に、ガラス粉末とリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトの粉末を混合分散し、この分散混合物を前記中間ガラス層上にコーティングし、焼成後、表面のガラスを酸で溶解エッチングし、無数の空孔を有するとともにリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトが露出した複合体を得ることを特徴とする生体適合性複合体の製法が提供される。 【0010】本発明において、金属基材として使用される金属としては、特に特定されてないが、チタン;Ti −6Al−4V合金、Ti−6Al−4V+20容量% Mo、Ti−6Al−4V+40容量%Mo等のチタン系合金;Ni−Cr系合金;Co−Cr系合金、ステンレス鋼等が挙げられる。 このうち、生体内耐蝕性に優れ、生体とのなじみも良いという点でチタン、チタン系合金が好ましく、材料強度が大きいということからTi −Al系合金が特に好ましく、且つ複雑な形状のものまで精密微細加工ができる。 【0011】本発明において、リン酸カルシウムを主成分とするアパタイトとは、Ca 10 (PO 4 ) 6 (OH) 2 で示されるハイドロキシアパタイト(HAP)を多量に含有するのが好ましく、Ca/P比が1.50〜1.7 5の範囲にあるものが望ましい。 ちなみにHAPのCa /P比は1.67である。 HAPは生体骨の主要組成であり、このHAPが存在することにより生体骨との親和性が発現するのである。 【0012】次にガラス層又は中間ガラス層に使用し得るガラスとしては、以下の組成を有するアルミナホウケイ酸系ガラスが金属基材との接合強度及び線膨張係数、 さらには焼成時において分散HAPとガラスフリットが反応しないなどの観点から好ましい例として挙げられる。 【0013】 SiO 2 +B 2 O 3 +Al 2 O 3 75〜85重量% アルカリ成分 15〜20重量% ここで、アルカリ成分の割合は、Na 2 O,K 2 O,Li 2 O等の如きアルカリ金属酸化物の合計での量である。 そして、上記アルミナホウケイ酸系ガラスには必要に応じてZrO 2 ,TiO 2等の金属酸化物及びCaF 2などの少量を添加してもよい。 【0014】上記シリカアルミナ系ガラスの組成物の配合割合が選択される理由は以下の通りである。 【0015】アルカリ成分が上記範囲を超えるとガラスの線膨張係数が金属基材の線膨張係数との比較において大きすぎて、特に本発明の複合体を焼成製造する際の焼成条件を考慮すると、温度変化による歪が大きくなり好ましくなく(因みに、ガラスの線膨張係数は金属基材の線膨張係数の90%〜95%の範囲にあるのが好ましい。これは、ガラスが圧縮に対して強く、引張に対して弱いことに基づくものである。)、また、複合体とした際のアルカリの溶出の問題が起こり、生体組織や細胞への刺激が生じ、さらには焼成時においてアパタイト成分との反応が起こり、アパタイトの分解を誘発することになり、好ましくない。 【0016】アルカリ成分が上記範囲より少ないとガラスとしての溶融温度が高くなり、コーティング温度を高くせざるを得なくなり、コーティング温度を高くすれば、金属基材(特にチタン及びチタン系合金)の強度劣化が起こり、さらにはリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトとガラスとの過度の反応が起こることとなり好ましくない。 【0017】リン酸カルシウムを主成分とするアパタイトを分散したガラスの線膨張係数は該アパタイトの含量の増加に伴って増加する。 従って、該アパタイトの含量を調整することによっても混合物の線膨張係数をコントロールすることが可能であり、アパタイトを分散したガラス層に用いるガラスの線膨張係数はいかようにも採りうる。 【0018】リン酸カルシウムを主成分とするアパタイトを分散したガラス層中における、該アパタイトの含有率は、15〜70重量%とするのが好ましい。 該アパタイトの含有率が上記範囲より少ないと生体適合性が悪くなり好ましくない。 【0019】また、中間ガラスを用いることにより金属基材との接合力が増大し、且つアパタイトを過剰に含むアパタイト分散ガラス層と中間ガラス層は連続的に強固に一体となって接合しているため、該アパタイト分散ガラス層の該アパタイト含有率はそれ自体が剥離せず、しかも溶出が過大にならない70重量%以下が好ましい。 【0020】本発明において、金属基材はコーティングの前に脱脂、酸洗いの後ブラスト処理を施すのが好ましい。 ブラスト処理は金属基材の平均中心線粗さが1〜 3.4μmとなるようにするのがより好ましい。 また、 ブラスト処理の後、真空下に900〜950℃の温度で熱処理することにより酸化膜を形成してもよい。 【0021】この金属基材上に中間ガラス層をコーティングする。 中間ガラス層のコーティングの際の焼成温度は850〜1150℃が好ましい。 【0022】次にリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトとしてHAPを例にとって、コーティング処理について説明する。 【0023】HAPは公知の方法で製造されるが、そのうち、湿式法を採用した場合には、生成したHAPを乾燥後800℃で仮焼し、1200℃で焼成した後、粉砕して所定の粒度に粒度調整する。 一方、ガラスも所定の粒度に粒度調整する。 次に粒度調整されたHAPとガラス粉末を混合し、この混合物をコーティングした後焼成する。 焼成温度は850〜1150℃の範囲が好ましい。 850℃未満では焼成不充分となり、金属基材との接合強度が弱くなり、また、HAP分散ガラス層自体の被膜強度も弱くなる。 1150℃を越えると金属基材(特にTi,Ti系合金)の強度低下を起こし、また、 ガラスが共存することもあってHAPの分解反応が起こり好ましくない。 【0024】次に上記のようにコーティングした後、酸でエッチング処理を行う。 エッチング処理はHFとHN O 3の混液で行うのが簡便で好ましいが、HF蒸気中で適度の時間をかけて試片表面をむらなくエッチングする方法も推賞される。 【0025】酸によって、ガラスを溶解してエッチングすることにより、HAP分散ガラス層の表層は無数の空孔を有するものとなり、且つリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトが露出した構造をとることとなる。 該空孔の大きさは数μm〜500μmが良い。 【0026】 【実施例】次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。 【0027】 実施例1下記表の組成を有するアルミナホウケイ酸系ガラスを1 400℃から水中に急冷し、フリットを作製した。 表1 SiO 2 67.6 65 Al 2 O 3 5.2 5 ZrO 2 1.05 1 TiO 2 1.05 1 Na 2 O 8.3 8 K 2 O 4.2 4 Li 2 O 2.1 2 B 2 O 3 10.4 10 Ca 3 (PO 4 ) 2 − 4 合 計 100 100 湿式法により、高純度Ca(OH) 2の水溶液(pH1 2〜13)にH 3 PO 4水溶液を滴下し沈殿物を得、仮焼、焼成を経てHAPを合成した。 フリット、HAPいずれも200メッシュ通過(74μm以下)の粉末を種々の割合(0〜90重量%)で混合し、コーティング用HAP−ガラス混合体を調合した。 【0028】チタン基板を脱脂、酸洗滌し、アランダムで平均アラサが2.3〜6.7μmにブラスト処理したもの及びこれ等を真空中950℃で10分間熱処理して酸化膜を形成したものを作製した。 【0029】HAP−ガラス混合体の錠剤を作製し、9 50℃〜1050℃で焼成した(図2)。 図2は、このHAP分散ガラス試料の2次電子線像で、(a)はHA Pが10重量%、(b)はHAPが30重量%、(c) はHAPが50重量%、(d)はHAPが70重量%である。 【0030】上記と同様にして、HAPが30重量%の試料を900℃で5分間焼成した後、10%HFで30 分間ガラスをエッチングせしめることにより、HAP微結晶が表面に均一に分散した無数の空孔を有する複合体が得られた(図3)。 図3(a)はエッチングした試料表面の2次電子線像で、表面がエッチングされていることがわかる。 同(b)は試料断面におけるエッチング表面近傍の2次電子線像で、エッチング層にHAPの濃縮層が形成されていることがわかる。 同(c)は試料断面における中央部の2次電子線像で、HAPの分散ガラス層中におけるHAP凝集体の分布がみられ、HAPの多い部分が局在していることが明確に認められる。 【0031】次いで、上記と同様にして、HAPが30 重量%の試料を900℃で3分間焼成した後、10%H F又は8%HFと15%HNO 3の混合液処理を行い、 ガラスをエッチングせしめることにより、HAP微結晶が表面に均一に分散した無数の空孔を有する複合体が得られた(図4)。 図4(a)は10%HFで3分ガラスをエッチングせしめた試料のエッチング表面の2次電子線像、同(b)は8%HFと15%HNO 3の混合液で3分間ガラスをエッチングせしめた試料のエッチング表面の2次電子線像である。 特に図4(b)に明瞭であるように、試料のエッチング表面は、HAP濃度が不均一な組織となっているばかりでなく、幅μm程度の多くのクラックや数十μmに及ぶ粒間空孔が無数にみられる凹凸の激しい組織となっている。 このような組織は、骨組織との接合に好ましいものである。 【0032】30%HAP、50%HAP混合体と比較としてガラス単独とを、950℃で溶融した試料のX線回折及び示差走査熱量分析曲線(DSC)から、本発明で得られるものはHAPとガラスが反応していないことが確認された。 【0033】 実施例2実施例1と同様にして調合されたHAPを30,50, 70及び90重量%含有するHAP−ガラス混合体を用い、Ti及びTi−6Al−4V合金棒に第一層にガラス、第二層にHAP−ガラス混合体を950℃5〜10 分間大気中で焼付コーティングしたものをインプラント材として(4mmφ×25mm)、豚の大腿骨に2ヶ月移植した。 【0034】950℃,5分で作製されたガラス−Ti 複合体では、その界面に明確な中間酸化層の生成が認められなかった。 これら試料の接合強度(引抜法による) はTi基材の表面アラサに影響され、平均アラサ2.3 μmの場合に最も大きな値285Kg/cm 2が得られた。 HAP分散ガラス−Ti複合体の接合強度はHA P分散量の増加とともに減少する(たとえば、30%H APでは約160Kg/cm 2 )が、Ti基材との間にガラスのみの層を媒介させることにより強度を保持しうる。 また、薄い中間酸化層の形成は接合強度の増加をもたらす。 ガラス層を媒介としたHAP分散−Ti複合材では、媒介ガラス−HAP分散ガラス境界は完全に融合して存在せず、HAPの分散は均一であった。 1080 ℃,20分で焼成したものでは、Ti−ガラス界面に酸化物の中間層が形成され、その外層に対応する部分でT i 5 Si 3の生成がみられた。 HAP分散ガラス−Ti複合材の骨組織との接合は極めて良好であることがわかった。 これを図1,図5に示す(尚、図5においてガラス−Ti複合体は比較例である。) 図1は、2ヶ月後のHAP分散ガラス−Ti複合体と骨界面の2次電子線像で、エネルギー分散X線分析の結果は、1の部分ではSi、2の部分ではSi>Ca>P、 3の部分ではCa>P>Si>Al、4の部分ではCa >P>(Cl、S)であった。 従って、1の部分はガラス層であり、2も部分はガラス層とHAP分散ガラス層の界面、3の部分はHAP分散ガラス層と骨との界面、 4の部分は骨であることがわかる。 また、図1から、H AP分散ガラス層と骨組織との界面が全く区別できないほどに両者の結合が強固になっていることがわかる。 【0035】図5も2ヶ月後の断面の2次電子線像で、 (a)はガラス−Ti複合体を移植したもの、(b)は30重量%HAP分散ガラス−Ti複合体を移植したものである。 (a)においては、ガラス層と皮質骨との間に間隙が認められるのに対し、(b)においては、HA P分散ガラス層とTi基材との接合はそのまま保持され、かつHAP分散ガラス層と骨組織との接合は界面が区別できないほど両者が直接的に結合していることがわかる。 【0036】 【発明の効果】本発明により得られる複合体は、金属基材が強度を発現するため、もろさがなくなり、複合体として強靭なものとなり、リン酸カルシウムを主成分とするアパタイトはガラス層によって強固に保持され、しかも表層は無数の空孔を有するとともにリン酸カルシウムを主成分とするアパタイトが露出しているために、この空孔と生体活性のある物質の存在によって生体骨との接合が容易になる。 露出した構造の該アパタイトは溶出が抑制されていて好ましい生体活性を示す。 そして、中間ガラス層により、金属基材との結合強度がより向上するとともに、分散ガラス層中の該アパタイトの含量を広い範囲で変化させることが可能となり、適用範囲の広い生体適合性複合体とすることが可能である。 また、本発明によれば、コーティング、酸によるエッチング等の処理操作によって容易に生体適合性複合体を得ることができ、従来の製法に比較すると、製法の容易さ、形状複雑なものの作製、製造コストの低さ等の面で格段のメリットを有するものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明により得られる複合体を豚の大腿骨に2 ヶ月間移植した断面の2次電子線像である。 【図2】本発明により得られる複合体の2次電子線像である。 【図3】本発明により得られる複合体の2次電子線像である。 【図4】本発明により得られる複合体の2次電子線像である。 【図5】本発明により得られる複合体とガラス−Ti複合体とを豚の大腿骨に2ヶ月間移植した後の生体骨との結合状態を示す2次電子線像である。 |