【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、応力腐食割れ等のき裂欠陥を有するプラント配管の構造健全性を評価する装置に関し、特にステンレス鋳鋼材からなるプラント配管の不安定破壊を防止する手段として有用なプラント配管構造健全性評価装置に関する。 【0002】 【従来の技術】き裂欠陥を有するプラント配管の構造健全性を評価する手法として、R6法が以前から知られている。 このR6法は英国で開発された破壊力学評価手法であり、1つのダイヤグラムで評価対象の脆性破壊から塑性破壊までを取り扱うことができるため、き裂欠陥の不安定破壊を比較的容易に評価できるという利点を有している。 【0003】しかし、上述したR6法は評価材料の応力−歪特性と破壊靭性特性が必要であり、このうち応力− 歪特性に依存する破壊評価曲線(FAC:Failure Asse ssment Curve)は配管の材料特性以外にも配管の口径やき裂形状などの影響を受けるため、装置化が困難であった。 また、ステンレス鋳鋼材は300℃以上の高温環境下に長時間さらされると、靭性が低下し、熱時効劣化を起こすことが知られるようになってきたが、時効条件によって劣化度が異なり、定量的な評価の指針もないため、装置化が困難であった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】上述したように、ステンレス鋳鋼材からなるプラント配管の構造健全性を評価する手法としてR6法があるが、R6法は配管の材料特性以外にも配管の形状(口径等)に関する特性やき裂欠陥の形状(き裂長さ、き裂深さ等)に関する特性を考慮する必要があり、繁雑な計算を要するため、装置化が困難であった。 本発明が上述した問題点に鑑みてなされたもので、プラント配管の構造健全性を比較的容易に評価することができ、プラント配管の不安定破壊を未然に防止することのできるプラント配管構造健全性評価装置を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するために、本発明に係るプラント配管構造健全性評価装置は、プラント配管のき裂欠陥発生箇所に設置される温度センサと、この温度センサで得られた温度データから前記プラント配管に発生したき裂欠陥の線形破壊力学パラメータと塑性破壊力学パラメータとを求める演算部と、 この演算部で得られた前記線形破壊力学パラメータおよび前記塑性破壊力学パラメータを予め設定された破壊評価曲線データと比較して前記プラント配管のき裂安定性を判定評価する判定部とを備えてなることを特徴とする。 【0006】すなわち、本発明は評価対象配管の材料特性、配管形状およびき裂形状を考慮して、パラメトリックサーベイにより保守側の評価曲線となる破壊評価曲線を設定し、これを評価ツールとして装置に組み込んだことを特徴とする。 【0007】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 図1は本発明の一実施形態に係るプラント配管健全性評価装置の概略構成を示す図であり、図中Pは評価対象であるプラント配管を示している。 また、図中10は本発明の一実施形態に係るプラント配管構造健全性評価装置を示しており、このプラント配管構造健全性評価装置10はプラント配管Pのき裂欠陥発生箇所に設置される温度センサ11と、この温度センサ11で得られた温度データTとプラント配管Pの材料及び形状特性とプラント配管Pに発生したき裂欠陥の形状特性とに基づいてプラント配管Pに発生したき裂欠陥の線形破壊力学パラメータKrと塑性破壊力学パラメータSrとを求める演算部12と、この演算部12で得られた線形破壊力学パラメータKrと塑性破壊力学パラメータSrを予め設定された破壊評価曲線データと比較してプラント配管Pのき裂安定性を判定評価する判定部13と、この判定部13の判定結果を出力する出力部1 4とを備えて構成されている。 【0008】ここで、線形破壊力学パラメータKrはき裂欠陥の発生部位における応力拡大係数をK、同じくき裂欠陥の発生部位における破壊靭性をKcとすると、 Kr=K/(Kc 1/2 ) … (1) にて求めることができ、応力拡大係数Kはプラント配管Pの外径を2r、その管厚をt、き裂欠陥の長さをl、 き裂欠陥の深さをa、き裂欠陥の発生部位に作用する負荷モーメントをMとすると、 K=M(π・l) 1/2・f(r/t,a,l) … (2) にて求めることができる。 また、破壊靭性Kcは温度センサ11で得られた温度データをT、プラント配管Pのフェライト含有量をF、化学成分をx i (i=1,…, N)、プラント配管Pのヤング率をE、時間をhとすると、 Kc=(E・Jc) 1/2 … (3) ただし、Jc=A+B/(h+C) A=g1(F,T) B=g2(x i ,T) C=g3(x i ,T) にて求めることができる。 なお、上式において、g1, g2,g3はF,x i及び時効温度Tの関数である。 【0009】一方、塑性破壊力学パラメータSrはき裂欠陥の発生箇所における塑性崩壊モーメントをMy、き裂欠陥の発生箇所に作用する三次元方向の負荷モーメントをM(=(M X 2 +M Y 2 +M Z 2 ) 1/2 )とすると、 Sr=M/My … (4) にて求めることができ、塑性崩壊モーメントMyはプラント配管Pの外径を2r、その管厚をt、プラント配管P内の圧力をp、き裂欠陥の発生箇所における降伏応力をσy、き裂欠陥の深さをa、き裂欠陥の開口角度を2 θとすると、 My=2σy・r 2・t(2sinβ−x・sinθ) … (5) ただし、β=0.5(π−xθ)−0.25(πrp/tσy) x=a/t にて求めることができる。 また、降伏応力σyは温度センサ11で得られた温度データをT、プラント配管Pのフェライト含有量をF、化学成分をx i (i=1,…, N)、時間をhとすると、 σy=σy 0・H(h,T) …(6) ただし、σy 0 =I(F,x i ) H:時効時間hと時効温度Tの関数 σy 0 :熱時効前の降伏応力を表し、Fとx iの関数I にて求めることができ、き裂欠陥の発生部位に作用する負荷モーメントMはプラント全体モデルに対してFEM 解析を実施し、評価部位の温度とモーメント(又は応力)との関係を予め求めておけば、温度センサ11で測定された温度Tから求めることができる。 【0010】また、判定部13には図2に示されるような破壊評価曲線FACが破壊評価曲線データとして記憶されており、この破壊評価曲線データと演算部12の演算結果とを比較することによりプラント配管Pが危険領域にあるか健全領域にあるかを判定することができる。 【0011】すなわち、本発明の一実施形態では、き裂欠陥の発生箇所に設置した温度センサ11からの信号に基づいて負荷モーメントMと運転条件(温度及び時間) をモニタする一方、プラント配管Pのフェライト含有量Fと運転条件から破壊靭性Kcおよび降伏応力σyを求める。 また、負荷モーメントMから求められる荷重データと非破壊検査若しくは無制限許容欠陥寸法より設定されるき裂形状とから応力拡大係数Kを求め、さらに降伏応力σyとき裂形状とから塑性崩壊モーメントMyを計算する。 そして、計算によって求められた破壊靭性Kc と応力拡大係数Kとから線形破壊力学パラメータKrが求められ、また塑性崩壊モーメントMyと荷重データとから塑性破壊力学パラメータSrが求められる。 判定部13では演算部12で求められた線形破壊力学パラメータKrと塑性破壊力学パラメータSrのプロット点が破壊評価曲線図の破壊評価曲線FACより上側の危険領域にあるときは警報を発して対策を促す。 【0012】上述した本発明の一実施形態では、事前に配管材料の引張特性、配管形状およびき裂形状に対するパラメーターベイを実施し、R6法に定められる評価手順に従ってFACを求める。 ここで、配管材料の引張特性は熱時効によって劣化するが、時効材および非時効材を用いて保守性を確認する。 FACが定まれば、破壊評価線図上にほぼ手計算ベースで評価点をプロットできるため、配管の健全性評価装置としてのツール化が可能となり、全ての影響因子を考慮した保守側の評価を与える破壊評価曲線を用いることにより、ステンレス鋳鋼材からなるプラント配管の不安定破壊を未然に防止することができる。 【0013】 【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、 評価対象配管の材料特性、配管形状およびき裂形状を考慮して、パラメトリックサーベイにより保守側の評価曲線となる破壊評価曲線を設定し、これを評価手段として装置に組み込んだことにより、プラント配管の不安定破壊を未然に防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施形態に係るプラント配管健全性評価装置の概略構成を示す図である。 【図2】評価対象配管の材料特性、配管形状およびき裂形状を考慮した破壊評価曲線を示す線図である。 【符号の説明】 P プラント配管 11 温度センサ 12 演算部 13 判定部 |