【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は石油系高分子炭化水素化合物の脱硫触媒の予備硫化方法と、この方法で用いられる予備硫化促進剤とに関するものであり、特に、水素化脱硫精製処理で用いられる脱硫触媒を固定床等に新たに充填した際に必要となる運転開始前の予備硫化処理すなわち脱硫触媒中の金属酸化物の予備硫化処理で用いられる新規な予備硫化促進剤に関するものである。 【0002】 【従来の技術】石油系高分子炭化水素化合物の精製工程では一般に水素化脱硫が行われる。 この水素化脱硫処理では一般に金属、特にコバルト、ニッケル、モリブデンまたはタングステンの酸化物または硫化物をアルミナ等の担体に付けたものが触媒として用いられる。 この水素化脱硫法および水素化脱硫触媒は多くの文献に記載されており、本発明の直接の対象ではないので、その詳細は省略する。 その簡単な解説は「化学大辞典5」共立出版、昭和56年10月15日発行、第64〜65頁とその関連記事を参照されたい。 【0003】この水素化脱硫処理では、運転開始前あるいは新しい脱硫触媒を固定床に充填後に通常の運転モードに入る前に、触媒に担持された金属酸化物を硫化水素で予備硫化する必要がある。 この予備硫化方法はフィード硫化法とケミカルスパイキング法に大別できる。 フィード硫化法はフィード(供給原料)中に含まれる硫黄化合物を高温領域(260 〜320℃)で水素化分解しながら硫化水素を発生させ、この硫化水素を新しい触媒の金属酸化物と接触させて、金属酸化物から硫化物を形成させる。 ケミカルスパイキング法では人為的に合成された硫黄含有量の高い有機硫黄化合物をフィードに添加し、低温領域(180 〜260℃)で有機硫黄化合物を水素化分解させて硫化水素を発生させ、この硫化水素を新しい触媒の金属酸化物と接触させて金属酸化物から硫化物を形成させる。 【0004】フィード硫化法はフィード中に存在する硫黄化合物を高温領域の280℃近辺で熱分解し、循環水素と反応させて、硫化水素を発生する方法であるため、各種コーク類の生成原因となる不飽和炭化水素類が同時に生成するという好ましくない欠点がある。 それを防ぐために、一般には反応塔内の温度を穏やかに上昇させて、 硫化水素を徐々に発生させ、長時間かけて予備硫化するため生産性が犠牲になる。 ケミカルスパイキング法では大幅に時間を短縮できるが、かなりの量の有機硫黄化合物をフィードに添加する必要があるため、コストが上昇する。 【0005】 【発明が解説しようとする課題】本発明者は、水素化脱硫用の新触媒を予備硫化するのに必要な硫化水素の発生源となる供給原料(フィード)中の硫黄化合物と、メルカプトアルキルチオ基を有する化合物とを共存させることによって、硫化水素の発生量が顕著に増加するということを発見した。 すなわち、本発明はコーク生成の原因となる不飽和炭化水素類が発生し難い低温領域(180 〜 260℃)でフィード中にメルカプトアルキルチオ基を有する化合物を共存させることによって、フィード中に含まれる硫黄化合物の水素化分解を促進させ、硫化水素を多量に発生させ、それを触媒の金属酸化物と接触させて金属酸化物から硫化物を形成させるものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、供給原料中に含まれる硫黄化合物から生じる硫化水素を用いて脱硫触媒中の金属酸化物を硫化することによって、石油系高分子炭化水素化合物の水素化脱硫精製処理で用いられ脱硫触媒を予備硫化する方法において、少なくとも一つのメルカプトアルキルチオ基を有する少なくとも一種の化合物を供給原料の全量に対して10ppm〜0.5 重量%の範囲で添加して予備硫化を行うことを特徴とする方法を提供する。 本発明の他の対象は、メルカプトアルキルチオ基を有する化合物からなる石油系高分子炭化水素化合物の水素化脱硫精製処理で用いられる脱硫触媒の予備硫化促進剤にある。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明方法は相対的に低温度で実施でき、温度に格別の制限はないが、コーク生成の原因となる不飽和炭化水素類の発生を防ぐための本発明方法の好ましい実施温度は180 〜260℃である。 本発明で用いられる少なくとも一つのメルカプトアルキルチオ基を有する化合物とは、メルカプト基と硫黄原子とが炭素数2〜4のアルキレン基で隔てられたメルカプトアルキルチオ基を分子内に一個又は複数個有する化合物すなわちメルカプトアルキルチオ基: HS−C m H 2m −S− (ここで、mは2〜4の整数)を有する少なくとも一つの有機化合物であれば特に制限はない。 上記式で表されるメルカプトアルキルチオ基含有化合物の中でも式中のmが2または3の整数である化合物が本発明方法では特に好ましく使用できる。 【0008】例としては下記一般式で表される化合物を挙げることができる: (R 1 ,R 2 ,R 3 ,R 4 ,R 5 ,R 6 )-(S−C m H 2m −SH) n (ここで、R 1 ,R 2 ,R 3 ,R 4 ,R 5およびR 6は有機残基を表し、少なくとも一つは必ず存在し、一つまたは複数の化学結合を介して互いに結合していてもよく、R 1 ,R 2 ,R 3 ,R 4 ,R 5およびR 6全体の炭素数は2〜28であり、mは2〜4の整数であり、nは1〜6の整数を表す) 【0009】具体式な化合物としては下記を挙げることができる。 HSCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH 、HSCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SCH 2 C H 2 SH、HOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH 、HO(CH 2 CH 2 S)xH (ただしx は3以上の整数)、HO(CH 2 CH(CH 3 )S) y H (ただしyは2 以上の整数)、CH 3 SCH 2 CH 2 SH 、CH 3 SCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH 、CH 3 CH 2 CH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH 、CH 3 SCH 2 CH(CH 3 )SH、CH 3 CH 2 CH 2 CH 2 SCH 2 CH(CH 3 )SH 、C 6 H 5 SCH 2 CH 2 SH 、C 6 H 5 SCH 2 CH (CH 3 )SH 、CH 3 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SH、CH 3 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH 、CH 3 OCOCH 2 SCH 2 CH(CH 3 )SH、CH 3 OCOCH 2 SCH 2 C(C H 3 ) 2 SH、C 8 H 17 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SH、CH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 S H 、CH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH、CH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH(CH 3 )SH 、CH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 CH 2 SH、(HSCH 2 COOC H 2 ) 3 C(CH 2 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SH) 、(HSCH 2 COOCH 2 ) 2 C(CH 2 OCO CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、(HSCH 2 COOCH 2 )C(CH 2 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SH) 3 、C(CH 2 OCOCH 2 SCH 2 CH 2 SH) 4 (HSCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 3 C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 、(HSCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 2 C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、(HSCH 2 CH 2 COO CH 2 )C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 3 、C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 4 、(HOCH 2 ) 3 C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH)、 【0010】(HOCH 2 ) 2 C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、(H OCH 2 )C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 3 (HSCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 2 C(C 2 H 5 )(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 、(HSCH 2 CH 2 COOCH 2 )C(C 2 H 5 )(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、C 2 H 5 C(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SC H 2 CH 2 SH) 3 、(HOCH 2 ) 3 CCH 2 -O-CH 2 C(CH 2 OH) 2 (CH 2 OCOCH 2 C H 2 SCH 2 CH 2 SH)、(HSCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 COOCH 2 )(HOCH 2 ) 2 CCH 2 - O-CH 2 C(CH 2 OH) 2 (CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 、(HSCH 2 CH 2 S CH 2 CH 2 COOCH 2 )(HOCH 2 ) 2 CCH 2 -O-CH 2 C(CH 2 OH)(CH 2 OCOCH 2 C H 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、(HSCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 2 (HOCH 2 )CCH 2 -O-CH 2 C(CH 2 OH)(CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 2 、(HSC H 2 CH 2 SCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 2 (HOCH 2 )CCH 2 -O-CH 2 C(CH 2 OCOCH 2 C H 2 SCH 2 CH 2 SH) 3 、(HSCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 COOCH 2 ) 3 CCH 2 -O-CH 2 C (CH 2 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH) 3 【0011】本発明では、メルカプトアルキルチオ基を有する化合物を単独または二種以上混合して使用することができる。 【0012】硫化促進剤の使用量は、供給原料の全量に対して10ppm〜0.5 重量%の範囲、好ましくは50重量ppm〜0.5 重量%、さらに好ましくは100 重量ppm 〜0.1 重量%とする。 10ppm以下では本発明の効果は期待できず、0.5 重量%を越えても効果に大きな差はなく、また、経済的に好ましくない。 硫化促進剤の使用温度範囲は180〜260 ℃、好ましくは200〜245 ℃にする。 180 ℃未満の温度では硫化に時間がかり過ぎ、260 ℃を越える温度ではコーク類の生成原因となる不飽和炭化水素類が生成するので好ましくない。 以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0013】 【実施例】図1に示す予備硫化実験装置を用いて、石油の直接蒸留で得られた硫黄濃度が1.6重量%である軽油に本発明の硫化促進剤を添加してその硫化水素生成促進効果を調べた。 【0014】図1は本実施例で使用した予備硫化実験装置を示す。 本発明の硫化促進剤が添加された軽油をタンク1からポンプを用いて反応部2へ連続的に送った。 水素ガスは反応部2へ供給される軽油中に水素ガスボンベ供給した。 反応部2の内部には市販の脱硫触媒(コバルト・モリブデン触媒)が30g 充填されている。 反応部2に新しい脱硫触媒を充填した後に、反応部2の内部の温度を230 ℃にした後、軽油を流速LHSV=1.5 hr -1 で供給した。 水素ガスの注入量は軽油1リットル当たり 25nLにした。 反応部2から出る混合物を気液分離器4 で気相と液相に分離し、気相分を水酸化ナトリウム水溶液に通して気相中に含まれている硫化水素を吸収させた。 実験を6 時間行い、実験終了後に水酸化ナトリウム水溶液を中和滴定することによって生成・吸収された硫化水素の量を求めた。 なお、比較のために無添加の軽油で同じ実験を行った。 【0015】実施例1 実施例1では硫化促進剤として、CH 3 OCOCH 2 S CH 2 CH 2 SH(日本触媒製)を1000ppmの重量濃度で軽油に添加した。 無添加のものでは6時間で硫化水素が128mgしか生成しなかったが、本発明の添加剤を添加することによって硫化水素の生成量は6時間で 2 88 mg に増加した。 相対増加率は 125 %である[(288-1 28)100/128]。 【0016】案施例2 硫化促進剤としてCH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 C H 2 SH(日本触媒製)と、CH 3 OCOCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SCH 2 CH 2 SH(日本触媒製)との重量比90:10の混合物を使用し、1000ppmの濃度で直留軽油に添加し、実施例1と同じ実験を行った。 本発明の硫化促進剤の添加によって硫化水素の生成量は6 時間で325 mg に増加した。 相対増加率は 154 %である。 【0017】比較例1 実施例1と同じ操作を繰り返したが、添加剤としてペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオン酸(エルフ・アトケム製)を使用し、1000ppmの濃度で直留軽油に添加した。 しかし、この添加剤を場合には硫化水素の生成量は6時間で 207 mg で、相対増加率62 %にしか増加しなかった。 【0018】比較例2 実施例1と同じ操作を繰り返したが、添加剤として3- メルカプトプロピオン酸メチル(エルフ・アトケム製) を用い、1000ppmの濃度で直留軽油に添加した。 しかし、この添加剤を場合には硫化水素の生成量は6時間で 170 mg で、相対増加率33 %にしか増加しなかった。 【0019】比較例3 実施例1と同じ操作を繰り返したが、添加剤としてジメチルジスルフィド(エルフ・アトケム製)を用い、1000 ppmの濃度で直留軽油に添加した。 しかし、この添加剤を場合には硫化水素の生成量は6 時間で185 mg で、 相対増加率45%にしか増加しなかった。 【0020】比較例4 実施例1と同じ操作を繰り返したが、添加剤としてジメチルスルフィド(エルフ・アトケム製)を用い、1000p pmの濃度で直留軽油に添加した。 しかし、この添加剤を場合には硫化水素の生成量は6時間で157 mg で、相対増加率23%にしか増加しなかった。 【0021】比較例5 実施例1と同じ操作を繰り返したが、添加剤として2- メルカプトエタノール(エルフ・アトケム製)を用い、 1000ppmの濃度で直留軽油に添加した。 しかし、この添加剤を場合には硫化水素の生成量は6時間で123 mg で、相対増加率に実質的な向上は見られず、むしろ減少した。 結果は〔表1〕にまとめてある。 本発明のメルカプトアルキルチオ基含有化合物は比較例の有機硫黄化合物に比べて顕著な硫化水素発生促進効果を示すことがわかる。 【0022】 【表1】 【0023】 【発明の効果】本発明のメルカプトアルキルチオ基を有する予備硫化促進剤をフィードに少量添加することによって、予備硫化処理における硫化水素の生成量を顕著に増加させることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施例で用いた予備硫化実験装置の概念図。 【符号の説明】 1 タンク 2 反応部 3 水素ガス 4 気−液分離器 5 硫化水素吸収器 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 伊藤 広一 大阪府吹田市西御旅町5番8号 株式会社 日本触媒内 (72)発明者 阿部 一徹 大阪府吹田市西御旅町5番8号 株式会社 日本触媒内 (72)発明者 有田 義広 大阪府吹田市西御旅町5番8号 株式会社 日本触媒内 (72)発明者 浄土 栄之介 京都府京都市下京区中堂寺粟田町1 エル フ・アトケム・ジャパン株式会社京都テク ニカルセンター内 (72)発明者 端 一哉 東京都千代田区紀尾井町3ー23 文藝春秋 新館2F エルフ・アトケム・ジャパン 株式会社内 (72)発明者 河村 徹志 東京都千代田区紀尾井町3ー23 文藝春秋 新館2F エルフ・アトケム・ジャパン 株式会社内 Fターム(参考) 4G069 AA02 BE21A CC02 4H006 AA03 AB40 AB81 TA04 TB54 TB56 TB75 |