【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ラジカル重合活性を示すアゾ基を種々の化合物に導入する方法に関する。 得られたアゾ化合物は、例えばラジカル重合法によるブロック共重合体の製造に特に有用である。 【0002】 【従来の技術】高分子材料の高機能化、高性能化を目的として、異種高分子が分子的に複合化しているブロック共重合体やグラフト共重合体が種々合成されている。 【0003】ブロック共重合体の製造法としては、リビングアニオン重合法が知られているが、リビングアニオン重合法は、使用するモノマーや溶媒が高純度である必要があり、極低温で重合を行うことが多く、工業的な製造法としては必ずしも適しているとはいえない。 【0004】最近、比較的取り扱いの容易なラジカル重合法によりブロック共重合体を合成するという試みがなされている。 【0005】ラジカル重合法によるブロック共重合体の合成法の1つとして、重合活性なアゾ基を含有する重合体を合成して、これを重合開始剤として使用してビニルモノマーの重合を行うという方法がある。 【0006】このような重合活性なアゾ基含有重合体の合成方法としては、カルボン酸基を有するアゾ化合物とアミノ基や水酸基を有する化合物とを縮合反応させるという方法やアミノ基または水酸基を有するアゾ化合物とカルボン酸基を有する化合物とを縮合反応させるという方法が知られている。 【0007】縮合反応は、通常、高温や減圧下で行われるが、重合活性を示すアゾ基を縮合反応により導入する際には、アゾ基の分解を抑制するため、その反応は温和な条件で行う必要がある。 例えば、高分子論文集、33 巻、131頁(1976)には、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)を酸クロライド化して反応させる方法が示されている。 【0008】しかし、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)の酸クロライド化は、収率が低い上、得られた酸クロライドの安定性が著しく悪いため保存が困難という問題があった。 【0009】酸クロライドを経由しない方法として、1 −メチル−2−クロロピリジニウムアイオダイドを縮合剤として使用して反応させる方法が、Chemistr yExpress、2巻、33頁に示されている。 【0010】この方法には、高収率で合成できるという長所があるが、1−メチル−2−クロロピリジニウムアイオダイドが着色しているため、得られるアゾ基含有化合物が着色してしまい、そのため、このようなアゾ基含有化合物を重合開始剤として使用して重合を行った場合、得られるポリマーの色相が悪くなるという問題があった。 【0011】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、重合活性を示すアゾ基を種々の化合物に導入するにあたり、取り扱いが容易でアゾ基を変質させることのない温和な条件で、しかも高収率かつ反応時の着色なく行うことを特徴とする方法を提供するものである。 【0012】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、1,1'−カルボニルジイミダゾールを縮合剤として使用して縮合反応させることにより、上記の目的を達成し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。 【0013】すなわち本発明は、アゾ化合物をアミノ基、水酸基またはカルボン酸基を有する化合物と縮合反応させてアゾ基を化合物に導入させる方法において、 1,1'−カルボニルジイミダゾールを縮合剤として使用することを特徴とするアゾ基の導入方法に関する。 【0014】本発明で使用されるアゾ化合物としては、 ラジカル重合活性を示すものであれば特に限定されず、 カルボン酸基、アミノ基または水酸基を有する化合物が好ましい。 【0015】カルボン酸基を有するアゾ化合物としては、2,2'−アゾビス(2−シアノプロパン酸)、 3,3'−アゾビス(3−シアノブタン酸)、4,4' −アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン酸)、1−((1−シアノ− 1−メチルエチル)アゾ)蟻酸などがあげられる。 【0016】アミノ基または水酸基を有するアゾ化合物としては、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(イソブチルアミド)、2, 2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2'− アゾビス(2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)、2,2'−アゾビス(2−(ヒドロキシプロピル)プロピオニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(1,1 −ビス (ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(1,1 −ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル) プロピオンアミド)などがあげられる。 【0017】本発明においてアゾ基を導入される、アミノ基、水酸基またはカルボン酸基を有する化合物は特に限定されず、これら官能基の1分子中の数は1つ以上であればよい。 また、これら化合物のうち、アミノ基と水酸基を比較した場合、アミノ基のほうが反応性が高く有利である。 【0018】アゾ基を導入されるアミノ基を有する化合物としては、例えば、メチルアミン,エチルアミンのような脂肪族アミン類、シクロヘキシルアミンのような脂環式アミン類、アニリン,1−ナフチルアミン,2−ナフチルアミンのような芳香族アミン類、エチレンジアミン,テトラメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン類、 1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン,ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン類、p−フェニレンジアミン,m−フェニレンジアミンのような芳香族ジアミン類といった低分子化合物や、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリエチレングリコール、アミノ変性ポリプロピレングリコール、アミノ変性ポリテトラメチレングリコール、アミノ変性のアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、末端アミンのポリスチレンおよびポリアミドのようなアミノ基を有する高分子化合物、更にはアミノ基を有するシリカゲルなどがあげられる。 【0019】アゾ基を導入される水酸基を有する化合物としては、メタノール,エタノール等の脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールのような脂環式アルコール類、フェノール類、エチレングリコール,プロピレングリコール, 1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール類、ヒドロキノン,ビフェノールのような芳香族ジオール類といった低分子化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、ポリカーボネート、水酸基変性ポリジメチルシロキサン、水酸基変性ポリブタジエンといった水酸基を有する高分子化合物があげられる。 【0020】更に、アゾ基を導入されるカルボン酸基を有する化合物としては、蟻酸,酢酸のような脂肪族カルボン酸類、ヘキサヒドロ安息香酸のような脂環式カルボン酸類、安息香酸のような芳香族カルボン酸類、アジピン酸,セバシン酸のような脂肪族ジカルボン酸類、テレフタル酸,イソフタル酸のような芳香族ジカルボン酸類といった低分子化合物や、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエステル、ポリアミド、カルボン酸変性ポリジメチルシロキサン、カルボン酸変性ポリブタジエン、カルボン酸変性のNBRといったカルボン酸基を有する高分子化合物があげられる。 【0021】本発明の反応は、通常溶媒中で行われ、溶媒としては例えば、ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジメトキシエタン,ジオキサン等のエーテル類、 ジクロロメタン,クロロホルム,四塩化炭素,ジクロロエタン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン,石油エーテル,石油ベンジン,ベンゼン,トルエン,キシレン等の炭化水素類、アセトニトリル、N, N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等をあげることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。 【0022】本発明において、アゾ化合物とアゾ基を導入される化合物との使用割合は特に限定されず、目的とする生成物により適宜決定されるが、1モルのカルボン酸基を有するアゾ化合物と1モルのアミノ基または水酸基を有する化合物を反応させるためには、1モルの1, 1'−カルボニルジイミダゾールが必要である。 【0023】溶媒の使用量は、使用する原料化合物あるいは生成化合物の溶解度や反応溶液の粘度等に応じて適宜決定される。 【0024】反応温度は、アゾ基の分解を抑制するためにはできるだけ低温で行うことが望ましいが、反応速度は温度の低下に従って遅くなるので、使用するアゾ化合物のアゾ基の分解する速度を考慮して適宜決定される。 具体的には、通常−20〜60℃程度が適当であり、一定の温度で反応を行ってもよく、また、段階的に温度を上昇または下降させてもよい。 【0025】反応時間は特に限定されないが、通常0. 1〜48時間程度であり、好ましくは0.1〜5時間である。 【0026】本発明の反応では、1,1'−カルボニルジイミダゾールから由来するイミダゾールとの混合物として生成物が得られるが、イミダゾールは、水、アルコール類、エーテル類等により抽出することにより除去できる。 【0027】 【実施例】以下本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。 【0028】なお、分析は以下の方法で行った。 【0029】IR測定は、赤外分光光度計((株)島津製作所、IR−460)で行った。 生成したアゾ基含有化合物の分子量は、GPC(東ソー(株)、HLC−8 02A)を用い、ポリスチレン換算により求めた。 【0030】生成したアゾ基含有化合物の着色度合は、 光線透過率をダブルビーム分光光度計((株)日立製作所、220形)を用い、アゾ基含有化合物をテトラヒドロフランに溶解し(濃度1g/l)、厚さ1cmのセルを用いて測定し、その目安とした。 【0031】実施例1 300ml3つ口丸底フラスコに乾燥した4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)5.6gを仕込み、ジクロロメタン140mlに分散させた。 これに1,1' −カルボニルジイミダゾール7.1gを加えると反応し、二酸化炭素が発生した。 室温で1時間攪拌した後、 アミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)、X−22−161B、分子量約3000)60 gを乾燥した後に加え、室温で5時間反応させた。 反応の進行とともに反応系は不均一系からしだいに均一系へと変わってゆき、4時間後には透明均一な溶液(ほとんど無色)となった。 反応終了後、副生物のイミダゾールを水で抽出して除去した後、室温で溶媒を減圧下留去して、ほぼ無色の粘性体64g(収率98%)を得た。 【0032】得られた化合物は、IR測定で1650c m -1にアミドの吸収ピークが存在すること、および分子量(Mw)が120000に増大していることから、目的とする反応が進行していることを確認した。 得られた化合物はほぼ無色であり、このもののテトラヒドロフラン溶液(濃度1g/l)の420nmにおける光線透過率は、99.7%であった。 【0033】実施例2 300ml3つ口丸底フラスコに4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)5.6gを仕込み、ジクロロメタン140mlに分散させた。 これに1,1'−カルボニルジイミダゾール7.1gを加え、室温で1時間攪拌した後、カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)、KF−6001、分子量約15 00)36gを加え、室温で24時間反応させた。 反応終了後、不溶物をろ別し、ろ液を水洗した後、室温で溶媒を減圧下留去して、ほぼ無色の粘性オイル12g(収率29%)を得た。 【0034】得られた化合物は、IR測定で1740c m -1にエステルの吸収ピークが存在すること、および分子量(Mw)が14000に増加していることから、目的とする反応が進行していることを確認した。 得られた化合物はほぼ無色であり、このもののテトラヒドロフラン溶液(濃度1g/l)の420nmにおける光線透過率は、99.8%であった。 【0035】実施例3 300ml3つ口丸底フラスコに4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)2.2gを仕込み、ジクロロメタン140mlに分散させた。 これに1,1'−カルボニルジイミダゾール2.8gを加え、室温で1時間攪拌した後、アミノ変性ポリエチレングリコール(川研ファインケミカル(株)、PEOアミン6000、分子量約7500)60gを加え、室温で5時間反応させた。 反応終了後、副生物のイミダゾールを水で抽出して除去した後、室温で溶媒を減圧下留去して、ほぼ無色の固体60g(収率97%)を得た。 【0036】得られた化合物は、IR測定で1650c m -1にアミドの吸収ピークが存在すること、および分子量(Mw)が130000に増大していることから、目的とする反応が進行していることを確認した。 得られた化合物のテトラヒドロフラン溶液(濃度1g/l)の4 20nmにおける光線透過率は、99%であった。 実施例4 300ml3つ口丸底フラスコに4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)5.6gを仕込み、ジクロロメタン100mlに分散させた。 これに1,1'−カルボニルジイミダゾール7.1gを加え、室温で1時間攪拌した後、アミノ変性のNBR(宇部興産(株)、HY CAR ATBN 1300×16、分子量約350 0)36gを加え、室温で5時間反応させた。 反応終了後、副生物のイミダゾールを水で抽出して除去した後、 室温で溶媒を減圧下留去して、黄色の粘性体38g(収率93%)を得た。 【0037】得られた化合物は、IR測定で1650c m -1にアミドの吸収ピークが存在すること、および分子量(Mw)が70000に増大していることから、目的とする反応が進行していることを確認した。 【0038】実施例5 50mlナスフラスコに4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)2.8gを仕込み、N,N−ジメチルホルムアミド20mlに溶解した後、1,1'−カルボニルジイミダゾール3.5gを加え、室温で攪拌した。 1 時間反応させた後、攪拌を止め、アミノ基が結合したシリカゲル(和光純薬工業(株)、Wakosil 5N H 2 )1gを加え、室温で24時間反応させた。 反応終了後、シリカゲルを各種溶媒で洗浄し、精製した。 【0039】反応後のシリカゲルをIR測定したところ、1650cm -1にアミドの吸収ピークが存在していることから結合が確認された。 【0040】比較例1 300ml3つ口丸底フラスコに塩化チオニル137m lを仕込み、氷冷後、五酸化二リンで乾燥した4,4' −アゾビス(4−シアノペンタン酸)48gを添加した。 添加終了後、35℃に加熱して反応させた。 10時間後、黄色均一溶液となったところで、過剰の塩化チオニルを減圧下留去した。 残査を、クロロホルム(安定剤のエチルアルコールを水洗除去した後、蒸留して精製) で再結晶して、針状結晶10.3g(収率19%)を得た。 【0041】得られた4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸クロライド)をデシケーター中で保存していたが、塩酸ガスの発生が認められ、分解反応が進行していることが確認された。 【0042】比較例2 300ml3つ口丸底フラスコに乾燥した4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)5.6gを仕込み、ジクロロメタン140mlに分散させた。 これに1−メチル−2−クロロピリジニウムアイオダイド10.2gとトリエチルアミン4.05gを加えると黄色懸濁液となった。 1時間攪拌後、この黄色懸濁液にアミノ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)、X−22− 161B)60gとトリエチルアミン4.05gを加え、室温で5時間反応させた。 反応終了後、副生物を水で抽出除去した後、室温で溶媒を減圧留去して、橙色粘性オイル状の目的物63g(収率97%)を得た。 【0043】目的物生成の確認は、IR測定で1650 cm -1にアミドの吸収ピークが存在することから行い、 また、生成物の分子量(Mw)は40000であった。 得られたアゾ基含有化合物は橙色に着色しており、このもののテトラヒドロフラン溶液(濃度1g/l)の42 0nmにおける光線透過率は、55%であった。 【0044】 【発明の効果】本発明によれば、重合活性を有する種々のアゾ化合物を容易に高収率で、しかも反応時の着色がほとんどなく合成することができる。 |