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Artificial life simulation apparatus and method

阅读:1018发布:2020-05-22

专利汇可以提供Artificial life simulation apparatus and method专利检索,专利查询,专利分析的服务。并且PROBLEM TO BE SOLVED: To consider hierarchization of life on earth and to truly simulate properties of life on earth. SOLUTION: Each biomolecule composing an artificial life has a hierarchical structure comprising a plurality of hierarchies of a virtual biological material. A device for simulating artificial life has a table which contains the amount of energy in decomposition from a virtual biological material in higher hierarchy to a plurality of virtual biological materials in lower hierarchy and the amount of energy in composition from a virtual biological material in lower hierarchy to a plurality of virtual biological materials in higher hierarchy. When an incompatibility degree in an environment of an individual exceeds a threshold value or an age of the individual exceeds a predetermined value, the amount of energy in decomposition in the table decomposes the virtual biological material in higher hierarchy into the plurality of virtual biological materials in lower hierarchy, and its data in the table is changed, on the other hand, the amount of energy in composition in the table composes the virtual biological materials in lower hierarchy into the plurality of virtual biological materials in higher hierarchy at a probability in the table corresponding to a mutation, and its data in the table is changed. COPYRIGHT: (C)2009,JPO&INPIT,下面是Artificial life simulation apparatus and method专利的具体信息内容。

  • 人工生命の個体に対して演算処理を行う演算手段と、
    (A)上記演算処理において自己複製を行うための情報及びオートマトンとして機能する情報であって、 個体が合成を実行するか否かの確率である実行確率及び突然変異を行う確率である突然変異率を含む個体に関する情報のデータを格納する第1のテーブルと、
    (B)上記シミュレーションするときの制約条件である環境条件を格納する第2のテーブルとを記憶する記憶手段とを備え、
    上記演算手段は、上記第1と第2のテーブルを参照して、自己複製を行うための情報に基づいて、 上記第1のテーブル内の当該個体の実行確率で当該個体に対応する第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製することにより自己複製を行い、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の 突然変異率で当該個体に対応する第1のテーブルのデータを変更し、上記個体の状態の変化に対応して上記個体を解体する人工生命シミュレーション装置において、
    上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、
    上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、
    上記第2のテーブルの環境条件は環境温度もしくは環境内pHを含み、
    上記個体がもつ最適条件は最適温度もしくは最適pHを含み、
    上記演算手段は、上記第2のテーブルの環境条件が上記個体がもつ最適条件と比較して低下しかつ異なるときの差分が大きいほど当該個体の生命活動の活性を低下させるように上記個体の実行確率を低下させ、
    上記演算手段は、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更 し、
    上記演算手段は、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値以下、かつ当該個体の年齢が所定値以下のとき、上記第1のテーブル内の当該個体の 実行確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の 複数の仮想生体物質から上位の階層 仮想生体物質へ合成 することにより当該個体に対応する上記第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製し、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の突然変異率で上記第1のテーブル内の当該個体のデータを変更することを特徴とする人工生命シミュレーション装置。
  • 上記階層構造は、仮想生体高分子の階層と、仮想生体単量体の階層と、仮想生体有機素材の階層と、仮想生体無機素材の階層とを含むことを特徴とする請求項 記載のシミュレーション装置。
  • (A)人工生命の個体に対する演算処理において自己複製を行うための情報及びオートマトンとして機能する情報であって、 個体が合成を実行するか否かの確率である実行確率及び突然変異を行う確率である突然変異率を含む個体に関する個体情報のデータを格納する第1のテーブルと、
    (B)上記シミュレーションするときの制約条件である環境条件を格納する第2のテーブルとを記憶する記憶手段とを備え、
    コンピュータにより実行され、上記第1と第2のテーブルを参照して、自己複製を行うための情報に基づいて、 上記第1のテーブル内の当該個体の実行確率で当該個体に対応する第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製することにより自己複製を行い、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の 突然変異率で当該個体に対応する第1のテーブルのデータを変更し、上記個体の状態の変化に対応して上記個体を解体する演算ステップを含む人工生命シミュレーション方法において、
    上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、
    上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、
    上記第2のテーブルの環境条件は環境温度もしくは環境内pHを含み、
    上記個体がもつ最適条件は最適温度もしくは最適pHを含み、
    上記演算ステップは、上記第2のテーブルの環境条件が上記個体がもつ最適条件と比較して低下しかつ異なるときの差分が大きいほど当該個体の生命活動の活性を低下させるように上記個体の実行確率を低下させ、
    上記演算ステップは、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更 し、
    上記演算ステップは、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値以下、かつ当該個体の年齢が所定値以下のとき、上記第1のテーブル内の当該個体の 実行確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の 複数の仮想生体物質から上位の階層 仮想生体物質へ合成 することにより当該個体に対応する上記第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製し、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の突然変異率で上記第1のテーブル内の当該個体のデータを変更することを特徴とする人工生命シミュレーション方法。
  • 上記階層構造は、仮想生体高分子の階層と、仮想生体単量体の階層と、仮想生体有機素材の階層と、仮想生体無機素材の階層とを含むことを特徴とする請求項 記載のシミュレーション方法。
  • 说明书全文

    本発明は、自己複製が可能な個体から成る系の時間発展をシミュレーションする人工生命シミュレーション装置及び方法に関し、より具体的には、生物系の時間発展をシミュレーションすることが可能な人工生命シミュレーション装置及び方法に関する。 また、本発明は、地球生命にプログラムされた自己解体メカニズムを発現し、実行し、停止しもしくは保留するように制御する自己解体メカニズム自動制御装置及び方法に関する。

    従来から人工生命の発生・繁栄・進化などの現象をコンピュータ上でシミュレーションすることが広く行われている。 このようなシミュレーションにおける人工生命は、1948年に発表されたフォン・ノイマン型自己増殖オートマトンを基本としている。 このフォン・ノイマン型自己増殖オートマトンは、
    (a)自身を作成するための命令テープと、
    (b)この命令テープの複製を行う機能と、
    (c)命令テープに従って工作する機能と、
    (d)この(b)及び(c)の機能を連携して作動させる機能とを有するものとされていた。

    しかしながら、これらの機能以外にも、例えば地球生命においては、死亡した生命が自己解体するという作用があることが知られている。 ここで、「自己解体」とは、生物が死滅後、自己の生体を解体して、原状回復を行う作用を意味する。 原状回復作用としては、いわゆる「食物連鎖」によるものも考えられるが、「自己解体」は、他の生物からの作用ではなく、生物自身に組み込まれた機能である点で異なる。 つまり、現実の生物の例では、例えば、(i)DNAからメッセンジャーRNA(MRNA)への転生を阻害すると、生物の死滅後の解体の効率が低下し、さらに、(ii)酸素と栄養物を除去すると、死滅後もほとんどの細胞の解体が行われなくなる、という事実が存在する場合が知られている。 このような事実からすると、この自己解体は、予め生物の遺伝情報として生物中に組み込まれた作用であると考えることができる。 従って、現実の生物系の時間発展をシミュレートするためには、このような生物の自己解体作用を考慮したシミュレーションが必要である。

    しかしながら、従来、地球生命の実態に近いとされるプログラムされた自己解体を持つ生命体を用いて、生命現象や社会現象についてのシミュレーションをする必要がある場合でも、実用性や汎用性を備えたシミュレーション方法やシミュレーション装置がないという問題があった。

    以上の問題点を解決するために、自己解体モデルに基づく人工生命体を用いて、生命現象や社会現象についてのシミュレーションをすることができるシミュレーション装置及び方法が特許文献1において開示されている。 この従来技術に係る「シミュレーション装置は、複数の個体にそれぞれ対応する複数の演算処理を行うことが可能な演算処理部と、演算処理部に対してデータの授受を行うための記憶手段とを備え、記憶手段は、個体に対応する演算処理に対して、自己複製を行うための情報とオートマトンとして機能するための情報とを格納するための個体情報記憶領域と、複数の個体の生息領域中の各位置に対する、少なくとも自己複製についての制約条件を格納するための環境条件記憶領域とを含み、個体に対応する演算処理は、自己複製を行うための情報に基づいて、当該個体に対応する個体情報記憶領域のデータを個体情報記憶領域に複製する処理と、突然変異に対応して所定の確率で個体情報記憶領域のデータの一部を変更する処理と、何らかの内部状態の変化もしくは何らかの入変化に応じて、当該個体に対応する個体情報記憶領域中のデータを解体する処理とを含む」ことを特徴としている。

    特開2002−042040号公報。

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    しかしながら、従来技術に係る人工生命シミュレーション装置では、地球生命の階層化について考慮されておらず、地球生命の特性を忠実に再現することができないという問題点があった。 また、地球生命にプログラムされた自己解体メカニズムを発現し、実行し、停止しもしくは保留するように制御する制御装置や方法については考案されていなかった。

    本発明の第1の目的は以上の問題点を解決し、地球生命の階層化について考慮し、地球生命の特性を忠実に再現することができるシミュレーション装置及び方法を提供することにある。

    また、本発明の第2の目的は以上の問題点を解決し、地球生命にプログラムされた自己解体メカニズムを発現し、実行し、停止しもしくは保留するように制御することができる制御装置や方法を提供することにある。

    第1の発明に係る人工生命シミュレーション装置は、人工生命の個体に対して演算処理を行う演算手段と、
    (A)上記演算処理において自己複製を行うための情報及びオートマトンとして機能する情報であって、個体の解体の第1の確率及び合成時の第2の確率を含む個体に関する個体情報のデータを格納する第1のテーブルと、
    (B)上記シミュレーションするときの制約条件である環境条件を格納する第2のテーブルとを記憶する記憶手段とを備え、
    上記演算手段は、上記第1と第2のテーブルを参照して、自己複製を行うための情報に基づいて、当該個体に対応する第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製することにより自己複製を行い、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第1の確率で第1のテーブルのデータを変更し、上記個体の状態の変化に対応して上記個体を解体する人工生命シミュレーション装置において、
    上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、
    上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、
    上記演算手段は、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更する一方、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第2の確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質へ合成して上記第1のテーブルのデータを変更することを特徴とする。

    上記人工生命シミュレーション装置において、上記演算手段はさらに、上記第2のテーブルの環境条件が上記個体がもつ最適条件と異なるときの差分が大きいほど当該個体の生命活動の活性を低下させるように上記第1のテーブルのデータを変更することを特徴とする。

    また、上記人工生命シミュレーション装置において、上記階層構造は、仮想生体高分子の階層と、仮想生体単量体の階層と、仮想生体有機素材の階層と、仮想生体無機素材の階層とを含むことを特徴とする。

    第2の発明に係る人工生命シミュレーション方法は、
    (A)人工生命の個体に対する演算処理において自己複製を行うための情報及びオートマトンとして機能する情報であって、個体の解体の第1の確率及び合成時の第2の確率を含む個体に関する個体情報のデータを格納する第1のテーブルと、
    (B)上記シミュレーションするときの制約条件である環境条件を格納する第2のテーブルとを記憶する記憶手段とを備え、
    コンピュータにより実行され、上記第1と第2のテーブルを参照して、自己複製を行うための情報に基づいて、当該個体に対応する第1のテーブルのデータを当該第1のテーブルに複製することにより自己複製を行い、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第1の確率で第1のテーブルのデータを変更し、上記個体の状態の変化に対応して上記個体を解体する演算ステップを含む人工生命シミュレーション方法において、
    上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、
    上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、
    上記演算ステップは、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更する一方、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第2の確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質へ合成して上記第1のテーブルのデータを変更することを特徴とする。

    上記人工生命シミュレーション方法において、上記演算ステップはさらに、上記第2のテーブルの環境条件が、上記個体がもつ最適条件と異なるときの差分が大きいほど当該個体の生命活動の活性を低下させるように上記第1のテーブルのデータを変更することを特徴とする。

    また、上記人工生命シミュレーション方法において、上記階層構造は、仮想生体高分子の階層と、仮想生体単量体の階層と、仮想生体有機素材の階層と、仮想生体無機素材の階層とを含むことを特徴とする。

    第3の発明に係る自己解体メカニズム自動制御装置は、動物に対して、当該動物が生存する環境条件を生存に適した条件から生存不適合な条件に速やかに変化させることにより上記動物の遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを起動させる第1の処理手段と、
    上記第1の処理手段の動作ののち所定の時間後に、上記動物に対して、当該動物が生存する環境条件を、上記生存不適合な条件から上記生存に適した条件に変化させることにより適合生育環境に戻す第2の処理手段と、
    上記第1の処理手段の動作の前又は後の所定の時点で、上記動物に対して遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤を印加することにより当該動物の遺伝子転写を阻害し、若しくはタンパク合成を阻害することによって、上記自己解体プログラムの誘導を停止し保留させる第3の処理手段とを備えたことを特徴とする。

    上記自己解体メカニズム自動制御装置において、上記条件は環境温度又は環境pH値であることを特徴とする。

    また、上記自己解体メカニズム自動制御装置において、上記動物は単細胞原生動物テトラヒメナであり、上記阻害剤はアクチノマイシンDであることを特徴とする。

    第4の発明に係る自己解体メカニズム自動制御方法は、
    動物(人間を除く。)に対して、当該動物が生存する環境条件を生存に適した条件から生存不適合な条件に速やかに変化させることにより上記動物の遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを起動させる第1の処理ステップと、
    上記第1の処理ステップののち所定の時間後に、上記動物に対して、当該動物が生存する環境条件を、上記生存不適合な条件から上記生存に適した条件に変化させることにより適合生育環境に戻す第2の処理ステップと、
    上記第1の処理ステップの前又は後の所定の時点で、上記動物に対して遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤を印加することにより当該動物の遺伝子転写を阻害し、若しくはタンパク合成を阻害することによって、上記自己解体プログラムの誘導を停止し保留させる第3の処理ステップとを備えたことを特徴とする。

    上記自己解体メカニズム自動制御方法において、上記条件は環境温度又は環境pH値であることを特徴とする。

    また、上記自己解体メカニズム自動制御方法において、上記動物は単細胞原生動物テトラヒメナであり、上記阻害剤はアクチノマイシンDであることを特徴とする。

    本発明に係る人工生命シミュレーション装置及び方法によれば、上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、上記演算ステップは、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更する一方、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第2の確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質へ合成して上記第1のテーブルのデータを変更する。 従って、地球生命の階層化について考慮し、地球生命の特性を忠実に再現することができる。

    また、本発明に係る自己解体メカニズム自動制御装置及び方法によれば、動物に対して、当該動物が生存する環境条件を生存に適した条件から生存不適合な条件に速やかに変化させることにより上記動物の遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを起動させた後、所定の時間後に、上記動物に対して、当該動物が生存する環境条件を、上記生存不適合な条件から上記生存に適した条件に変化させることにより上記自己解体プログラムを誘導し、所定の時点で、上記動物に対して遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤を印加することにより当該動物の遺伝子転写を阻害し、若しくはタンパク合成を阻害することによって、上記自己解体プログラムの誘導を停止し保留させる。 従って、地球生命にプログラムされた自己解体メカニズムを発現し、実行し、停止しもしくは保留するように制御することができる。

    以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。 なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。

    第1の実施形態.
    人工化学(AChem)のパラダイムと「プログラムされた自己解体(PSD)」モデルのもとに、本発明者らは、「生体分子共有結合の階層的モデル(HBCBモデル)」を提案する。 このモデルでは、地球生命は、共有結合の結合エネルギーの強さに従って、自らの生体分子を階層構造に整理していると仮定している。 同時にこのモデルは、地球生命は、効率の高い生体分子の再利用戦略として、生体高分子から生体モノマーに変換するプログラムされた自己解体メカニズムを進化的に選択してきたと仮定している。 本発明者らは、2つの相補的な方法、すなわち実在する地球生命を使った生物学的実験と人工化学系システムを使ったシミュレーション実験を連携して用いることによって、HBCBモデルの妥当性と有効性を検討した。

    詳細後述するように、本発明者よる生物学的実験においては、地球生命は、プログラムされた自己解体メカニズムを遺伝子によって制御されたエネルギー吸収性の(すなわちエネルギーを要求する)過程として持っていること、そして生体高分子を生体単量体に分解する加分解がそのメカニズムの主たるプロセスとなることを示した。 シミュレーション実験においては、異なる仮想自己解体過程を比較した。 その結果、生体高分子階層から生体単量体階層への共有結合の開裂を主として伴っている自己解体過程をもつ仮想生物種は、生体高分子階層から生体単量体よりもさらに低い階層への共有結合への開裂を伴う自己解体を持つ他の生物種よりも進化的な優位性を示した。 これらの一致した知見はPSDの存在とHBCBモデルの妥当性と有効性を強力に支持した。 以下、これらについて詳述する。

    1. 概要.
    コンピュータ上でアナログな化学反応がシミュレーションされる人工化学(例えば、非特許文献5参照。)の特筆すべき特徴の一つは、「現実の地球生命のすべての基礎的なステップは例外なく化学現象から構成されている」ことを前提に据えたところにある(例えば、非特許文献3参照。)。 また、人工化学は、現存する地球生命とのより緊密な関係性の構築を高遠なゴールとしている(例えば、非特許文献1,2,5,26参照。)。 このように、人工化学研究は、現実の細胞内で発生する様々な生命活動やその進化を研究するための強力なアプローチ法を提供(例えば、非特許文献5,17,23,24,27参照。)することにより、従来の人工生命研究に大きな前進をもたらすことが期待される。 そうしたアプローチの中でも鈴木が提案した「ネットワーク人工化学(Network Artificial Chemistry(NAC))(以下、NACという。)」(例えば、非特許文献24,25参照。)は、基礎研究から応用開発におよぶ幅広い様々な可能性を包含する一つの有用なパラダイムとみなすことができる。

    NACの主要な特徴の一つは、要素間の関係をトポロジカルにネットワーク化して定義することにある。 この概念的なフレームワークとアプローチの方法論は、これまでの人工化学研究で要素間の関係を表すのに使われていた記号配列(例えば、非特許文献4参照。)やラティス構造(例えば、非特許文献29参照。)では十分に定義できず、ダイナミックに連続的に変化する関係を表現することを可能にした。 NACはまた、要素間結合の強さに着目して、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力というハイアラーキーを導入した。 そして、要素間結合の強さの違いや、分子間及び分子内のユニット間相互作用の違いが分子の構造と分子の反応性とを導き出すモデルを構築した。 現実の化学現象をふまえたこれら二つの特色は、分子が折り畳まれてクラスターが生成されるメカニズムに光を放射するとともに(例えば、非特許文献25参照。)、実在する分子の時間空間構造を証明するものとなりうることを示唆している。

    NACのもつ有望な特徴のうち、要素間の結合の強さ(結合力)のハイアラーキー構造について、本発明者らは特に強い関心を刺激された。 地球生命の代謝系を構成する実在する化学システムに結合力の階層構造を導入することで、それら化学システム総体のもつ隠された機能やその合理性を明らかにすることが期待できるからである。

    この目的に向けて本発明者らは、細胞分子生物学についての本発明者らの知識に基づいて、結合力の階層構造が、地球生命の基礎単位、すなわち個々の分子やその相互作用、変容によって構成される自己完結した化学系である細胞の中の結合力の階層構造のモデルを建てた。 具体的には、本発明者らは細胞内の生体分子を原子間ネットワークの複雑性に基づき、分類し、4階層に分けた。 その上で、鈴木による結合力ハイアラーキー中の一つの階層をなす共有結合を結合力に基づき3階層に分けた。 本発明者らは、これら2つの階層構造の間には互いに十分に一致がとれていることを見出した。 これらの分類に従い、本発明者らは<共有結合階層化モデル>すなわち、HBCBモデルを構築し、実在する地球生命系と人工化学という二つの互いに独立したアプローチを連携させることよって、この妥当性及び有効性を検証した。

    人工化学の特色を積極的に活かそうとするこの研究では、<モデル構築、実在する地球生命系を用いた検証、人工化学(AChem)を用いた検証の連携が、特に強力な効果を発揮するであろうと期待される。 なぜなら、人工化学パラダイムのもとでは、まず、モデルそれ自体を、実在する地球生命系に高度に緊密に対応する化学結合形式のオートマトンとして記述することが可能だからである。 もしこのモデルがそのような形式によって地球生命の活性の記述に成功した場合、そのモデルの表現型が地球生命体に実在するかを、細胞生物学的手法を使って確かめることができる。

    とはいえ、実在の地球生命を材料とした生物学の研究の範囲内では、提案したモデルの進化的優位性について、代替モデルとの比較検討ができない。 その一つの理由は、代替モデルの表現型としての生命種が存在しないかもしれないということである。 さらに進化的優越性を検証する実験に必要な時間の長さが、実在する生命の実験の操作可能性を超越してしまうということがある。

    そのため、人工化学(AChem)が最終的な検証への道を開くことができるだろう。 人工化学は現実の地球生命のすべての基本的なステップが例外なく化学現象から構成されていることを前提としているため、そのパラダイムのもとに実在する地球生命に対応する<化学結合形式のオートマトン>を構築し、その挙動を進化シミュレーションの中で観察することが実現可能である。

    このような展望を採用するための第一歩として、この本実施形態では、<共有結合階層化モデル>を、NACに触発された人工化学パラダイム下にさきに本発明者らが提唱したプログラムされた自己解体モデルに従って構築した。 このモデルは、地球生命は共有結合の結合力に従った階層構造の中の生体分子を整理し、階層構造を効果的に利用しているということを仮定している。 次に、このモデルを反映したメカニズムの実在性を、実在する地球生命を実験材料にして、細胞生物学及び生化学的手法によって検証した。 これに並行して、本発明者らが先に開発した人工生態系SIVAシリーズ(例えば、特許文献1及び非特許文献19−21参照。)に<共有結合階層化モデル>を導入することにより、新しい実験的人工化学(AChem)を構築し、共有結合階層構造を活用した生命活動が進化的に優越性をもっていることを検証した。

    2. 生体分子共有結合階層化モデルの構築.
    2.1. 生体分子のもつ共有結合における階層構造の進化的発達可能性について.
    生命がその生存と自己増殖を実現するうえで必須かつ特異的な活性を担う生体高分子は、非常に大型であり、また同時に、高度に特異的な構造と機能を有している。 従って、それらは他の個体にとってはもちろん、同一個体の組織や他の器官においても、再利用するのが難しい。

    生命体が生体高分子を再利用するためには、生体高分子を構成する化学結合の相当部分をいったん開裂し、より小型の材料に解体し、必要な要素を組み立て直さなければならない。 それら材料の構造機能の特異性を減少させることにより、汎用性が高まる。 よって、生体高分子をできるだけ細かく壊すほど、解体された産物を再利用できる可能性が向上する。 このように、各々の分解物は生体資源としてレベルの異なる汎用性を持っている。 本発明者らはこのような汎用性を共同利用性と呼んでいる。 しかし、材料を再び結びつけて大型の分子を構築するためには、それに見合った結合エネルギーの注入が必要である。 従って、材料が細ければ細かいほど、組み立てに要するエネルギーが大きなものになる。 つまりここには、一種のトレードオフ関係が横たわっている。

    この関係は、生体内や生態系自体での生体分子のリサイクルにおいて、エネルギーの損失をできるだけ少なく抑えて、分解物の共同利用性をできるだけ大きくしようとする進化圧を地球生命に対して加えてきたと思われる。 また、地球生命の生命活動を行うエネルギーは基本的に化学結合エネルギーとして供給されるため、解体時に放出されるエネルギーをできるだけ少なくし、分解生成物が保持する結合エネルギーをより大きくしようとする進化圧も、同時に作用してきたと考えられる。 こうした進化圧により、合理的な共有結合の階層構造や、その階層的構造を効果的に活用する生体分子再利用メカニズムを、進化的に選択してきたと思われる。 もし本発明者らの仮説が正しければ、現存する地球生命のなかにそのようなメカニズムの存在を反映する証拠を見出すことができるに違いない。 そこで、まず、<化学結合形式のオートマトン>というシステム要因という視点から、地球生命を構成する生体分子群の階層化を試みた。

    2.2. 生体分子群を階層構造に整理する.
    地球生命の生体構造には、解剖学的に複雑な階層構造が認められる。 それは最上位から最下位まで5つの階層−<個体>、<器官>、<組織>、<細胞>、<細胞内小器官>−に分けられる。 本発明者らは、上記の構造を構成する生体分子群について、原子間ネットワークの複雑度に応じて、階層的に分類することができる。 その5階層とは、<生体高分子>、<生体単量体>、<生体有機素材>、<生体無機素材>、<生体基礎元素>である。

    図16は当該生体分子の五段階階層構造における、生体分子の階層名と、分子の種類と、所属する物質例とを示す表である。 図16において、最も低い階層(第V階層)である生体基礎元素は、わずか5種類の要素から構成される。 二番目に低い階層(第IV階層)である生体無機素材は、生体基礎元素に属するメンバーの組み合わせによる素材から形作られる。 中間の階層である生体有機素材(第III階層)は、生体無機素材に属するメンバーの組み合わせによる素材から形作られる。 生体無機素材及び生体有機素材を構成するメンバーは、それぞれ単独で安定して存在することができる。 これらは、互いに明確に区別できる化学的性質をもつ。 生体単量体の階層(第II階層)は、生体有機素材に属するメンバーの組み合わせによる素材から形作られる。 この階層に属する数十種類の化学物質は、さらに機能により4つのグループに分けられる。 生体単量体階層のメンバーは、順列と組合せにより、著しい多様性を生み出すことが可能になる。 こうして、最高位の階層(第I階層)である生体高分子が構築される。 この階層は、自己増殖の活性において基本的な役割を果たし、とてつもなく多数のメンバーを擁している。

    図1aは地球生命の生体分子の階層構造を示す図であり、図1bは整体分子の共同利用性を示す図であり、図1cは生体分子の解体字の自由エネルギーの放出を示す図である。 図1bにおいて、生体高分子の個体内及び個体間の共同利用性は双方ともにきわめて限られている。 しかし、生体高分子の一階層下に分類されるほとんどすべての生体単量体は、ほとんどの地球生命の中で再利用されている。 図1cは生体分子の解体時の自由エネルギーの放出を示すが、それぞれのバーはヘキソースポリマーの分解において生体結合開裂の各ステップに関する放出エネルギー量を示す。

    第V階層の元素は安定した生体分子として独立して存在しない。 そこで、本実施形態では、複雑度に応じた生体分子の階層構造として、上位4階層(第I階層〜第IV階層)に焦点を当てることにする(図1a参照。)。

    次に、生体分子の各階層間の移行に注目する。 これらの移行は、共有結合の生成−開裂現象に他ならず、結合の生成に伴うエネルギーの吸収及び結合の開裂に伴うエネルギーの放出を必須の属性としてもっている。 この階層間の移行の実態となっている共有結合の生成−開裂が導く結合エネルギーの出入りの落差に注目すると、それは、より上位の階層間の移行ではより小さく、より下位の階層間の移行ではより大きいという顕著な傾向が認められた。 このようにして本発明者らは、結合エネルギーをもとに、生体分子間の共有結合を階層的に3つに分けた。

    糖類を例に見てみよう(図1c参照。)。 生体高分子に属する多糖類、六炭糖ポリマーから生体単量体に属する単糖類への移行には、グリコシド結合の開裂による約13kJ/molのエネルギーの解放を伴う。 同様に、生体単量体に属する単糖類から生体有機素材に属するTCA回路の構成要素への移行は約200kJ/mol(グルコース1分子から乳酸2分子への分解の場合)のエネルギーの解放を伴う。 さらに、生体有機素材と生体無機素材である二酸化炭素や水との間のC−C結合の開裂を伴う移行は約2700kJ/mol(乳酸2分子の分解の場合)のエネルギーの解放を伴う(例えば、非特許文献11参照。)。 このように、地球生命を構成する分子において、結合エネルギーに基づくと、共有結合の中に見られる階層構造は、大きく3つの階層に分けられる。 この傾向は糖類に限らず蛋白質、核酸、脂質を含むすべての生体高分子に共通して見られる。 その中で注目されるのは、生体高分子から生体単量体への移行に伴うエネルギーの解放が特異的に軽微であることである。 グリコシド結合、ペプチド結合など生体単量体を互いに結びつける生体高分子結合は、すべて、水の介入によって開裂する<加水分解>の形式をとり、それらは共通して、化学反応に伴うエネルギー落差が僅少であるという特徴をもつ。

    本発明者らは、複雑度に基づく生体分子の4つの階層構造と、結合エネルギーに基づく共有結合の3つの階層構造が、互いに完全に対応していることを見出した。

    2.3. プログラムされた自己解体モデル.
    生体分子の共有結合における階層構造の特徴を掘り下げて検討するにあたり、生体を構成する材料として生体分子を捉えることとした。 その素材の共同利用性に注目すると、地球生態系における物質循環、すなわち生体分子の再利用メカニズムは重要な洞察を提供する。 以下に、この研究で検討するメカニズムとして、本発明者らがさきに提唱した<プログラムされた自己解体モデル>について簡略に述べる。

    地球生態系は物質と空間においてほぼ有限な閉鎖系をなしている。 それゆえ、地球上で生命活動を安定して維持するためには、生命活動において環境から浸食した物質と空間とは、環境に返還されなければならない。 すなわち生態系の原状回復がなされなければならない。 地球生態系の原状回復メカニズム(すなわち地球生命にとっては生体分子再利用メカニズム)は、従来、食物連鎖と呼ばれる生物学的な循環原理によって説明されてきた(例えば、非特許文献16参照。)。 本発明者らは、食物連鎖に対して補完的な、新しい仮説を用意した。 それは、現在の地球生態系では、食物連鎖によって環境の原状回復が行われるのと並行して、個々の細胞それ自体が積極的に自己を解体して環境の復元に寄与する、というもう一つのメカニズムが、すべての地球生命に基本的に組み込まれているというものである(例えば、非特許文献18,21参照。)。 本発明者らは生体自身の力による自身の解体現象、すなわち自己解体を、生体が獲得し保有していた物質及び空間を環境に返還して生態系の原状回復に貢献するよう制御された生化学的過程として捉えた。 本発明者らはこの過程を<プログラムされた自己解体(programmed self-decomposition)>と名付けた。 本発明者らは、フォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデル(例えば、非特許文献30,31参照。)を使って、自己増殖し自己解体するオートマトンモデルという新しいコンセプトをプロトタイプとして開発した(図2参照。)

    図2aはフォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデルを示す図であり、図2bは大橋の自己増殖自己解体オートマトン(SRSD)モデルを示す図である。 図2aのフォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデルは、物質機械としての生命が自己増殖し、時にはその過程で進化する様子を表現している。 これは、自律的な環境の原状回復機構を持たない不死型モデルである。 また、図2bの大橋の自己増殖自己解体オートマトン(SRSD)モデルは、フォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデルをそのプロトタイプとして使っている。 地球生命の本質の一つである自己解体による自律的な個体の死による環境の原状回復に寄与するメカニズムがプログラムされている。

    フォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデルは次のように要約される。 オートマトンAは、テープI(テープには情報が記述されている。ここで、テープは仮想的な記録媒体である。)にそってオートマトンを作る。 オートマトンBはテープIを複製する。 オートマトンCはA及びBと結合し、それらを制御する。 オートマトンDはA+B+Cである。 指令テープIはオートマトンを記述する指令が記載され、I はDの指令(もしくは、命令ともいう。)が記載されている。 オートマトンEはD+I から構成され、自分自身を再生産することができる。 指令テープI D+Fには、D及び任意のオートマトンであるFとの双方を記述する指令が記載されている。 指令テープI がI D+Fによって置き換えられたオートマトンE は、E を再生産し、もう一つ別にオートマトンFを作ることができる。 このモデルは、生命の自己増殖のシーケンスとその過程における進化を、循環論法に陥ることなく、物質機械として表現している。 オートマトンEは細胞に相当し、指令テープIはそのDNAに相当するという点も興味深い。 しかし、これは不死型モデルであり、生態系の原状回復のための自律的メカニズムを持っていない。

    大橋の自己増殖解体(SRSD)オートマトン(例えば、非特許文献18,21参照。)は、フォン=ノイマンの自己増殖オートマトンにおけるオートマトンE をプロトタイプとしている。 オートマトンFZは、フォン=ノイマンのオートマトンFと対応するモジュール・サブシステムである。 その機能は、自身が合体しているオートマトン全体を、構成要素に解体することである。 指令テープI D+FZにはオートマトンDを記述する指令と、解体のために新しく定義されたFZを記述する指令が記載されている。 オートマトンE FZはフォン=ノイマンのオートマトンE に対応し、そのテープであるI D+FはテープI D+FZに置き換えられる。 オートマトンGはE FZとFZから構成され、それはすなわちD+FZ+I D+FZである。 このオートマトンGは自分自身を再生産することができ、FZをG内のモジュールとして生産することができる。 FZは通常潜在的であるが、あるきっかけによって活性化するとGを解体する。 自己解体オートマトンFZには2つの活性化モードが定義されている。 第一のモードは生命とその棲息環境との間に不適合があることを示す外部からの信号のインプットである。 第二のモードは、いわゆる生命の寿命である。 ある生物学的な時間が経過した後、又は、ある一群のイベントが発生した後になお動作のきっかけとなる信号インプットがなかった場合、その状況自体が内部トリガーとなり、FZを活性化する。 なお、ここでいう増殖と解体の概念は、単細胞生物における同化と異化という化学反応を含んでいることに留意すべきである。

    以上のような自己増殖解体オートマトンと現実の生命とを対応させたとき浮上する重要な問題の一つは、オートマトンFZによる自己解体に伴う共有結合開裂が導く共同利用性の獲得と結合エネルギーロスとの間の「コスト対効果比」である。 その効率向上への要求が進化的な圧力として作用し、現存する地球生命においては自己解体メカニズムに関わる遺伝子プログラムができるだけ効率よく物質の再利用を実現する方向へと発達してきた可能性がある。

    2.4. 生体分子共有結合階層化モデル(HBCBモデル).
    地球生命の生体分子について、そのリソースとしての共同利用性に注目すると、そこにもきわめて重要な階層性の存在が認められる(図1b参照)。 すなわち、最上位の階層に属する生体高分子は、個体毎に異なる分子構造を持つ。 それらは同じ個体内でも所在する生体部位の違いに対応して相異なる。 このことは、他の個体はもとより同一個体内の他の組織や器官との間でも、共同利用性は保証されていないことを意味する。 これに対して、生体高分子が生体単量体の階層に移行すると、生体分子の共同利用性が格段に向上することが注目される。 同一個体内のあらゆる組織・器官はもとより、ほとんどの生命種の間で普遍的に再利用可能になるのである。 もちろん、この共同利用性は生体単量体よりさらに下層の階層(生体有機素材又は生体無機素材)への移行によって増える場合はあるが、その増加の程度は生体高分子から生体単量体への移行によるものより小さい。

    ここで、生体分子の共有結合の開裂が導く共同利用性の獲得と、開裂に伴うエネルギーロスとをコスト対効果比の観点からみると、先に述べたように、この二者はトレードオフの関係にある。 結合の開裂という点においては、共同利用性をできるだけ高く確保し、エネルギーの放出をできるだけ小さく抑えることが生存能力を高めるであろう。 この要請は進化圧として作用し、それに応える進化的選択の成果を、現存する地球生命に普遍的なメカニズムとして遺している可能性がある。 その具体的な結着の一つとして、生体分子の結合力の面からみて合理的な階層化が存在し、それは、ある特定の階層から別の特定の階層への分解が、その他の分解に比べて特異的に有利となる最適点をもっている可能性が高い。

    本発明者らは、生体高分子が生体単量体に開裂される過程が、この特異点であろうと考えた。 生体単量体階層に属する生体分子はほとんどの生命種で普遍的に再利用可能であると同時に、上位の生体高分子階層との間での移行がきわめて小さいエネルギーの出入りで実現される。 進化のプロセスの中で、この特異点を指向する進化圧が有効に作用してきたであろうことは想像に難くない。

    本発明者らは、現存する地球生命は生体単量体階層を経由地点とすることによってコスト対効果比を最適化した生体分子再利用メカニズムを進化的に選択してきたという作業仮説をたてた。 言い換えると、地球生命の生体分子階層構造には、多様性と再利用可能性と階層間移行エネルギー効率との間にトレードオフの関係が認められる。 生体単量体階層は、あらゆる地球生命にとってほぼ完全に再利用可能であると同時に、その上の階層からの移行の時に放出されるエネルギー量を最低限の規模にとどめることができるという点で、特異点となっている。 そこで、生体単量体階層を経由地点とすることによってコスト対効果比を最適化した生体分子再利用メカニズムが進化的に選択されてきたものと想定したのである。

    この仮説を生体分子共有結合階層化(HBCB)モデルと呼ぶ。 ここに想定される生体分子再利用メカニズムが実在することを明白に示すことができれば、プログラムされた自己解体メカニズムの地球生命における実在はもちろん、HBCBモデルの進化的優位性、妥当性、有効性も明確に示されるだろう。 そこで、この研究では、地球生命系での実験によってプログラムされた自己解体メカニズムが実在するという確固たる証拠を得るとともに、それと連携させた人工化学(AChem)でのシミュレーションによって、共有結合階層化モデルの妥当性及び有効性を検証することにしたのである。

    3. 生きた地球生命系を用いた<プログラムされた自己解体モデル>及び<共有結合階層モデル>の検証.
    3.1. 実験材料と方法.
    3.1.1. 研究デザイン.
    地球生命の生きた細胞を材料にして、HBCBモデルが提唱する生体分子の物質循環メカニズムの実在を実験で検証した。 すなわち、自己解体メカニズムがPSDモデルに矛盾しない状態で存在するかと、さらにHBCBモデルに基づいて、その化学反応としてのメインストリームが生体高分子の加水分解による生体単量体の生成であるかどうかを検討した。 ここで自己解体過程を実験対象にすることには大きなメリットがある。 すなわち、地球生命では一般に、合成や分解を含む雑多なプロセスが同時並行で進行しているので、共有結合階層化の有効性を検討することは、容易にはできない。 それに対して、自らを死と解体に導く過程では、自己解体反応が圧倒的な勢力を占める一方で、それ以外の夾雑するプロセスが同時に進行する余地はきわめて限定されるはずである。 従って、実在の生命を用いた実験的研究で生命それ自体の自律性に基づく生体分子の共有結合の分解プロセスをできるだけコヒーレントな状態で調べるためには、自己解体過程は最も適した選択であると考えられる。

    そこで、まず次の四つの検証課題を設定した。
    (i)まず最も基本的な課題は、現存する地球生命の中から適切な生物種を発掘することである。 そのような生物種を使って、PSDモデルと矛盾のない自己解体として解釈できる細胞の自律的な解体を探索した。
    (ii)自己解体が発現する際、それが遺伝子にプログラムされた過程であることの支持材料を調査検討した。
    (iii)現実の生命の自己解体がエネルギーを費やしつつ行われる能動的に制御された生命活動の過程(吸エルゴン反応)であって、エネルギーを放出しながら進む生体成分のアトランダムな自然崩壊(発エルゴン反応)ではないことの支持材料を調査検討した。
    (iv)生体高分子階層から単量体階層への加水分解反応が、自己解体プロセスとして解釈可能な細胞の自律的な解体の主な経路であることを示す証拠を探索した。
    これら四つの検証課題を以下に述べるように検討した。

    3.1.2. 供試生物.
    原生動物テトラヒメナ・ピリフォミス・ストレイン・ダブリュー(Tetrahymena pyriformis strain W)(例えば、非特許文献6,15参照。)を実験材料として選択した。 その理由は以下の通りである。

    (i)テトラヒメナは単細胞生物であり、細胞死は個体死を意味する。 従ってテトラヒメナを使った実験は、それ故、多細胞生物を材料とした場合には不可避である、アポトーシスを含む「生体の部分的な死」と「個体死」との混在という問題を排除できる。
    (ii)テトラヒメナは真核細胞で細胞内に機能粒子である各種の独立したオルガネラ(細胞小器官)が存在している。 テトラヒメナはこのオルガネラを機能分子サブシステムと定義することによって、オートマトンモデルとのアナロジーが容易に成り立つ。
    (iii)テトラヒメナはテロメア短縮による分裂限界がなく、無限増殖能を持つ。 またテトラヒメナの中には大核と小核を持ち接合による生殖を行う株もあるが、今回実験に用いたピリフォミス(pyriformis)株のように大核のみを持ち無性生殖にて無限増殖を続ける株がある。 この点でもオートマトンモデルとのアナロジーが容易に成り立つ。
    (iv)テトラヒメナは、多種多様の加水分解酵素群を高濃度に集積したオルガネラである<リソソーム>が発達している。 これらの酵素は、加水分解反応によって生体高分子を生体単量体に分解する。 リソソームのこうした特徴は本発明者らの自己増殖解体オートマトンモデルにおいて、解体のための機能的サブシステムと定義されているオートマトンFZときわめて良く対応している(例えば、非特許文献18,21参照。)点でとりわけ注目される。
    (v)オーセンティックな系統保存株と、純粋培養の手法が確立しており、また他の遺伝子体系の細胞内共生がない。 この純粋培養の結果、実験条件は単純化される。

    上記5つの特徴から、テトラヒメナは現存する生物のうちで、HBCBモデルとPSDモデルとを検証するための実験材料として、適した選択となっている。

    3.1.3. 自己解体の誘導.
    明解な細胞生物学的実験を実現するためには、対象となる膨大な個体数(培養液1mLあたり約10 個の個体を含む。)の培養された原生動物において、全個体の自己解体を同期した状態でリリースさせるよう、個々の細胞の生理活性が互いにできるだけコヒーレントな状態に制御された実験条件を構築する必要がある。

    PSDモデル(例えば、非特許文献18,21参照。)では、自己解体が開始される契機として、2つの異なるものが定義されている。 すなわち高度に不適合な環境という外部要因(第1のモード)と寿命という内部要因(第2のモード)である。

    このうち寿命の到来による自然死としての自己解体は、自然界では普通に観察できる現象である。 自然死は、個々の細胞に自律的に生起する内因性の事象であるので、大多数の正常細胞の中に少数の自己解体過程にある細胞が培養液内でアトランダムに共存する状態を避けることが難しい。 そのため、すべての個体の生命活動の位相が時間的によく揃った状態で精密に制御されることを要求するような厳密な実験を行うことは困難である。 よってこの方法は、今回の実験には採用しなかった。

    一方、生存するには高度に不適合な環境との遭遇による自己解体の誘導は、人為操作を含む外的要因に導かれるという本質をもつので、実験条件を適切にコントロールすることにより、実験目的に沿った状態で自己解体を発現・進行させることが可能となる。 一つの実験系内に存在する全培養細胞に自己解体を一斉にリリースする実験法を構築するためには、まず、遺伝子の中にあるはずの自己解体プログラムを起動させる外部要因となるメッセージ、言い換えれば適応不能を意味する環境情報シグナルがいかなるものかを発見し、それを培養中の個々の細胞にあまねく一斉に受容させる手法を開発する必要がある。 ただし、こうしたシグナルはすべての生命活性に対してきわめて過酷に作用する可能性が高い。 従って、このシグナル自体が自己解体の発現や進行を妨げる可能性もある。 本発明者らは、この二律背反を克服すると思われる次のような実験プロトコルを考案した。 まず、自己解体発現を誘導するシグナルを瞬時に与えて遺伝子のスイッチを入れる。 次に、培養環境を速やかに生存に最適な条件に戻し、自己解体を担っている生理的プロセスを大きく抑制すること無く進行させる、というものである。 この原理に基づいて、「インパルス・ショック法」と名付ける以下に述べる手法を開発した。

    まず、個々の培養細胞(例えば、非特許文献14参照。)の生理状態を均質に揃えるために、原生動物テトラヒメナ細胞の細胞周期の同調化を確立された方法に従い行う(例えば、非特許文献32参照。)。 次に、この培養環境に対して以下の2種類の処理を適用する。
    (i)インパルス熱ショック処理:培養液全体の温度を迅速に生存不適合な値に上昇させ短時間維持した後、速やかに元の最適条件に戻す。 今回の実験では、培養液の温度を39°Cに上昇させ、21分間保ったのち元の26°Cに戻した。
    (ii)インパルスpHショック処理:同じくテトラヒメナ培養液の水素イオン濃度(pH)を生存不適合な値に迅速に移行させごく短時間維持した後、速やかに元の最適条件に戻す。 具体的には、塩酸を投与して培養液の水素イオン濃度をpH4.0に迅速に低下させ、450秒間保った時点でトリスベース(弱塩基)を加えて素早く中和し、元のpH7に戻した。 これらのパラメータの具体例は、実験条件によって若干異なる可能性がある。 インパルス・ショックを与え始めた時刻を0時間とし、これを起点に経時的に各種の観察と測定を行った。

    3.1.4. 自己解体現象の観察.
    インパルス・ショック法による処理によって個々の細胞に誘導される現象が、自己解体過程であることを確認するために、まず形態的な経時変化を観察した。 インパルス熱ショック処理とアクリジンオレンジ生体染色法を用いて、PSDモデルにおいてオートマトンFZと想定された細胞内のリソソームを染色した(例えば、非特許文献13参照。)。 アクリジンオレンジは、酸性状態にあるリソソームとその内容物だけを特異的に染色する。 そして、蛍光顕微鏡下にてそれらの挙動を観察した。

    3.1.5. 自己解体プロセスの阻害.
    自己解体がどのような生化学的プロセスであるかを検討するために、培養細胞群にインパルス・ショック処理を施してから最適培養条件に戻した直後に以下の処置を行い、その処置がその後の細胞の解体に及ぼす影響を個体数、個体の状態(形態、運動)、加水分解酵素活性などを指標にして調べた。

    (i)自己解体が遺伝子にプログラムされた過程であるかどうかを確かめるために、デオキシリボ核酸(DNA)からメッセンジャーリボ核酸(mRNA)への転写を阻害する試薬アクチノマイシンDを培地に投与した。
    (ii)自己解体が吸エルゴン反応すなわちエネルギーを必要とする能動的過程であるかどうかを確かめるために、培地への酸素供給を遮断してエネルギー代謝を阻害した。
    (iii)自己解体が生体高分子から生体単量体への加水分解を主たる反応として進行する過程であるかを検討するために、大橋のSRSDオートマトンモデルにおける解体モジュールFZの有力な候補であるリソソーム内に産生される加水分解酵素群(リソソーム起源酵素群)全体の活性を特異的かつ包括的に阻害する試薬クロロキン(例えば、非特許文献8参照。)を投与した。

    なお、本実験における培地組成は、テトラヒメナの実験研究で広く使われる培地組成を採用し、インパルスpHショック法とインパルス熱ショック法とで以下のように濃度組成が異なる培地をそれぞれ使用した。
    (1)インパルスpHショック法の際用いた培地の組成は、proteose peptone(ディフコ(Difco)社製)1%(w/v)と、yeast extract(ディフコ社製)0.5%(w/v)と、D-(+)-glucose(アルドリッヒ(Aldrich)社他各社製)0.8%(w/v)とを含み、超純水に溶解後オートクレーブ(121°C20分)にて滅菌してなる(例えば、非特許文献32参照。)。
    (2)インパルス熱ショック法の際用いた培地の組成は、proteose peptone(ディフコ社製)2%(w/v)と、yeast extract(ディフコ社製)0.2%(w/v)と、D-(+)-glucose(アルドリッヒ社他各社製)0.5%(w/v)とを含み、超純水に溶解後オートクレーブ(121°C20分)にて滅菌してなる(例えば、非特許文献14,15参照。)。

    3.2. 実験結果.
    3.2.1. インパルス熱ショック処理によって誘導された自己解体過程におけるテトラヒメナ細胞とリソソームの形態変化.
    図3はインパルス熱ショック処理によって誘導された自己解体過程におけるテトラヒメナの細胞とリソソームの形態変化を示す図である。 ここで、インパルス熱ショック処理で誘導される細胞とリソソームの存在の変化を観察するために、アクリジンオレンジ生体染色法を用いて細胞内pH分布を可視化し経時変化を蛍光顕微鏡で撮影した。 図3の写真中の黒い部分が、リソソーム顆粒を含む酸性の領域又は部位、又はその内容物が拡散した領域を示す。

    図3において、実験当初(0時間)では、通常の生細胞。 リソソーム顆粒はごく僅かに存在する。 細胞質全体は中性を示している。 次いで、1時間経過後、リソソーム顆粒数は増大し、リソソームの生合成の増大を示す。 細胞は可動性を失い、やや膨潤している。 次いで、2時間経過後、リソソーム顆粒数はさらに増えている。 細胞は球状化し容積が減少し、その結果、細胞内のリソソームの相対的な密度が一層高まっている。 次いで、4時間経過後、リソソーム膜が破裂し内容物が細胞全体に拡散することによって、細胞内の環境が酸性化している。 この条件はリソソームの酸性加水分解酵素を活性化する。 これは、生体高分子を生体単量体に転じる加水分解が一気に進んでいることを示唆している。 ほとんどの細胞膜は残っており、各々の細胞は酸性になった内部に分解すべき細胞成分とそれらを加水分解する酵素とをまだ含まれている。 この状態は、リソソーム酵素群による細胞内容物の徹底した分解するために合理的であると考えられる。 次いで、6時間経過後、細胞膜が溶解し細胞はホモジネート状態にまで解体されている。 以下、以上の経過について詳細説明する。

    テトラヒメナ細胞にインパルス熱ショック処置を施し、細胞の形態変化と、自己解体機能を持つオートマトンFZに相当するリソソームの挙動変化を観察した。 リソソームの挙動は、アクリジンオレンジ蛍光生体染色法を用いて観察した(図3参照。)。 この染色法では、中性状態にある部分、すなわち細胞質や各オルガネラなどは緑色に染色されるのに対して、酸性を示す部分、すなわちリソソームはオレンジ色に染色される(なお、図3では蛍光写真をモノクロ化しているために、酸性を示す部分が黒く示されている)。 その結果、殆どすべての細胞が同期して、次の一連の自己解体過程を呈した(図3参照。)。

    まず、細胞周期を同調化した通常の生細胞(0時間)では、細胞質や各オルガネラが通常の代謝活動に適した中性pH状態にある。 小数のリソソームと判定される酸性顆粒が観察される。 細胞は、洋梨状の形態で運動していることが観察された。

    インパルス熱ショック処置から1時間後には、殆どすべての細胞が運動停止するとともに、その形態はやや膨潤化した。 自己解体過程にある細胞では、細胞質や核は通常の生命活動を維持している中性状態を示す一方で、酸性顆粒、すなわちリソソームの数が顕著に増えている。 こうした観察結果は、リソソームとその内容物すなわち加水分解酵素群の生合成を示している。 また、リソソーム起源の加水分解酵素群は、すべてリソソーム顆粒内に隔離されている。 これらは、低いpHの酸性条件で特異的に活性化し、中性ないしアルカリ性の環境では、ほとんど活性を示さない。 従ってこの段階では未だ細胞質内の生体高分子群の加水分解はほとんど行われていないといってよい。 このフェーズは自己解体の実行の準備段階であることが示唆される。

    続く2時間後には、リソソームの酸性顆粒数がさらに増大する一方で、細胞質はまだ中性に保たれている。 また、細胞の球状化、容積の減少を示した。 これら2つの要因の相乗効果によって細胞内のリソソーム顆粒の密度は顕著に増加した。 また、この間のリソソーム酸性顆粒の増加は、リソソームと加水分解酵素群の生合成が新規に行われた結果を示しており、自己解体の加水分解を行う準備が能動的な生化学的過程として進行していることを示唆している。

    パルス熱ショック処理の4時間後には、リソソーム酸性顆粒が破裂した。 リソソーム内容物が細胞内全体に高濃度に広がり生体高分子と混じり合っている。 このフェーズにおいて、細胞膜はまだ維持されている。 この段階では細胞内環境は酸性になり、リソソームの酵素は活性化し、加水分解が急速に進行していることをうかがわせる。 この過程は、リソソーム酵素群による細胞内容物を徹底して分解するために合目的的であるといえる。 一方、生体単量体群の解体に機能する解糖系やTCA回路は中性環境に最適化されているので、これらの経路がこのフェーズで解体に寄与することはあまり期待できない。 従って、ここで観察された自己解体現象が、リソソーム起源の酸性加水分解酵素群の活動を主力とする生体高分子から生体単量体への加水分解による共有結合の分解過程として主に進行していることが示唆される。 この仮説は、後述するリソソーム起源加水分解酵素活性推移の計測によって裏付けられた。

    6時間後には細胞膜は溶解し、細胞はホモジネート状態にまで解体した。 すなわち、分解された細胞由来の生体高分子群が、共同利用性が劇的に高められた生体単量体として環境に還元されて自己解体過程が終了したことが示唆される。

    3.2.2. 自己解体が遺伝子プログラムの発現によることの検証.
    図4は自己解体が遺伝子プログラムの発現によることの検証を示す図であり、図4aは細胞の自己解体とその阻害を示す図であり、図4bは細胞数減少の経時変化を示す図である。 図4aの上段において、インパルスpHショック処置で細胞の自己解体が誘導され、細胞は急速に解体されて、およそ1.5時間から2時間でホモジネート状態にまで至る。 また、図4aの下段において、インパルスpHショック処置で自己解体を誘導した直後、転写阻害剤アクチノマイシンDを投与することによって遺伝子プログラムの発現を抑制すると一部の細胞は自己解体せずに残り、さらにその一部の細胞は細胞運動、自己増殖を再開するものもある。 図4bにおいて、各経時点の細胞数はゼロ時間の細胞数を基準とするパーセントで示す。 インパルスpHショック処置直後、細胞数は急速に減少する。 このとき、遺伝子プログラムの発現を抑制すると細胞数の減少度合いが抑制される。 以上の結果は、自己解体メカニズムが遺伝子にプログラムされており、この遺伝子の発現によって引き起こされる制御された生化学的過程であることを示唆している。

    遺伝子プログラムの読み出しプロセスを抑制する目的で、DNAからmRNAへの転写を阻害する化学物質アクチノマイシンDを培養系に投与したところ、再現性は必ずしも高いとはいえないが、細胞群の中の無視できないポピュレーションにおいて自己解体の発現が抑制された。 さらに、一旦停止した細胞運動や増殖を後に再開する細胞が少なからず存在することも、観察された(図4参照。)。 これらの実験結果は、インパルス・ショック処置によって誘導された細胞群の解体現象が遺伝子の転写を必要とする過程、すなわち、<セントラル・ドグマ>に則って遺伝子の制御下に進行する過程であることを支持する。 この知見はPSDモデルで想定された遺伝子プログラム群が実際に存在し、上述したような機能を発揮していることを示唆する。 図19は本実施例において、パルスpHショック法によるアクチノマイシンDの投与による自己解体抑制、細胞運動再開効果が見られた条件例を示す表である。 図19から明らかなように、30%ないし40%の割合で細胞が運動を再開したことを示している。

    3.2.3. 自己解体が代謝エネルギーを必要とする能動的過程であることの検証.
    図5は自己解体が代謝エネルギーを必要とする能動的過程であることの検証を示す図であって、図5aは細胞の自己解体とその阻害を示す図であり、図5bは細胞数減少の経時変化を示す図である。 ここで、自己解体は代謝エネルギーを必要とする代謝過程であり、リソソーム起源酸性加水分解酵素群の加水分解反応を主な過程の一つとして含んでいる。 図5aの上段では、インパルス熱ショック処置による細胞の自己解体の誘導。 細胞は急速に解体されて、およそ4時間から6時間でホモジネート状態にまで至ることが明かである。 また、図5aの中段では、インパルス熱ショック処置の直後、酸素供給を制限してエネルギーを要する代謝過程を抑制し、細胞の自己解体が著しく抑制されることが明かである。 さらに、図5aの下段では、インパルス熱ショック処置の直後、酸性指向性試薬のクロロキンを投与することによりリソソーム起源酸性加水分解酵素群の活性全体を阻害し、細胞の自己解体は著しく抑制されたことが明かである。 図5bでは、各経時点の細胞数はゼロ時間の細胞数を基準とするパーセントで示す。 インパルス熱ショック処置後、細胞数は急速に減少する。 一方で、エネルギーを要求する代謝過程を阻害あるいはリソソーム起源酸性加水分解酵素群の分解活性を阻害すると、細胞数の減少度合いが著しく抑制されたことが明かである。

    上述の結果は、自己解体が、エネルギーを消費する、つまり、エネルギー吸収性の能動的な代謝過程であり、かつ、生体高分子を生体単量体へと分解するリソソーム起源酸性加水分解酵素群が活動する加水分解反応が主な要因となっていることを示唆している。

    培養系への酸素供給を制限することによって、エネルギーの供給を必要とする生化学的代謝過程全般を阻害すると、解体は明瞭に抑制された(図5参照。)。 この知見も重要な意義を持つ。 なぜなら、もしもこの系で実現している細胞の解体が、エネルギーを放出しエントロピーを増大させつつ生体が無秩序に崩壊する単なる脱制御過程であるならば、エネルギー供給が絶たれても解体は変わりなく進行するはずだからである。 それに対して、この解体過程はエネルギー供給無しでは進行しなかった。 ここで、見いだされた事実は、この観察された解体が、エネルギーを費やしエントロピーを減少させなければ進行しない能動的に制御された過程であることを示す。 こうした実験結果は、自己解体がエネルギー供給を必要とする遺伝子で制御された過程であることを示しており、本発明者らのPSDモデルを支持している。

    3.2.4. 自己解体過程が生体高分子から生体単量体への加水分解を主流として進行していることの検証.
    リソソーム起源の加水分解酵素群は、生体高分子の共有結合を単量体に向かって分解する。 リソソーム起源加水分解酵素群の活性を包括的かつ網羅的に阻害する試薬クロロキンを培地に投与すると、細胞の自己解体が顕著に阻害された(図5参照。)。 このことは、リソソーム酵素の加水分解活性が、ここで観察された解体にとって必須の要因である事を意味する。 この知見はHBCBモデルをさらに支持している。

    3.2.5. 自己解体がリソソーム起源の加水分解反応によるエネルギー要求性の遺伝子で制御された過程であることの検証.
    図6は自己解体過程におけるリソソーム起源酸性加水分解酵素の挙動は、この過程がエネルギー要求性の遺伝子によって制御された過程であることを示す図であって、図6aは、インパルスpHショック処置によって誘導される自己解体過程において、リソソーム起源酸性加水分解酵素群の代表的な指標酵素のうちβ−N−ヘキソサミニダーゼの細胞内活性の経時変化を測定した結果を示す図であり、図6bはそのうち酸性フォスファターゼの細胞内活性の経時変化を測定した結果を示す図である。

    図6の検証では、インパルスpHショック処置によって誘導される自己解体過程において、リソソーム起源酸性加水分解酵素群の代表的な指標酵素(図6a:β−N−ヘキソサミニダーゼと;図6b:酸性フォスファターゼ)の細胞内活性の経時変化を測定した。 自己解体の誘導後2時間後には当初の約10倍にまで酵素の活性が上昇した。 アクチノマイシンDによって遺伝子プログラムの転写を阻害したり、酸素供給を制限することによってエネルギー要求性の代謝過程を阻害したりすると、この加水分解酵素の活性増大は顕著に抑制された。 これらの知見は、自己解体が生体高分子を生体単量体に分解するリソソーム加水分解酵素に媒介された、エネルギー要求性の、つまりエネルギー吸収性の、遺伝子で制御された過程であることを一層裏付けている。

    自己解体が、リソソーム起源の加水分解反応によって仲介されるエネルギー要求性の遺伝子で制御された過程であることをさらに検証ために、本発明者らは自己解体過程におけるリソソーム起源酵素の活性を直接測定し、この活性変化が遺伝子プログラムの発現の阻害やエネルギー要求性の能動的代謝過程の阻害によって影響を受けるかどうかを調べた。 リソソーム起源酸性加水分解酵素活性全体を代表する2つの最も代表的な指標酵素を調べた。 両方の指標酵素活性は、自己解体の進行に伴いいずれも当初の約10倍にまで増加した(図6参照。)。 これらの事実は、細胞内pH分布の推移(図3参照。)とあいまって、自己解体過程が、生体高分子がリソソーム起源加水分解酵素群によって生体単量体へ切り分けられる多様な加水分解反応の集積として発現していることを示す。 さらに、この酵素活性の上昇は、遺伝子プログラムの発現を阻害したり、エネルギー要求性の能動的代謝過程を抑制したりすることによって、顕著に抑制された。 これは、リソソームの活性と遺伝子プログラム発現あるいはエネルギー消費との間に因果関係が存在することを意味している。 こうした結果は、自己解体が、リソソーム起源の加水分解反応によって実現される、エネルギー要求性の遺伝子で制御された過程であることを裏付けるものである。

    以上の実験結果は、複数の指標上で、互いに矛盾しないだけでなく互いに相補強調しあっており、実在する地球生命が、本発明者らのHBCBモデルで示した階層構造を合理的に活用し、自己解体によって、物質の再利用を効率よく実現しているという考えを支持している。 自己解体によって生体高分子群を生体単量体階層にまで分解して再利用性の高い状態で環境に還元することは、地球生命が進化及び淘汰によって獲得し保存してきた生存戦略であろうと考えることができる。

    しかし、これを他の可能性と並列してモデル化し、進化的に検証することは、先に述べたように、現実の地球生命そのものを使った実験では不可能である。 それについては、モデルの妥当性をコンピュータを使った進化シミュレーションによって検証しなければならない。 人工化学の活性を活かすことが最善の選択であることはいう迄もない。

    4. 共有結合階層構造のもつ進化的優越性に関する人工化学(AChem)によるシミュレーション.
    共有結合階層構造を合理的に活用するプログラムされた自己解体メカニズムの存在は、地球生命系を材料にした生物学的実験によって検証された。 このことは、生体高分子階層から生体単量体階層への解体が進化的に選択された可能性を示唆している。 この解体過程がどれほど進化的に有利なのかを検討するために、人工化学実験系の人工生命シミュレーション装置20(SIVA−T05(Simulator for Individuals of Virtual Automata-Terra2005);第3の実施形態において詳細後述する。)を開発し、シミュレーション実験を実施した。

    4.1. 人工生命シミュレーション装置の構成.
    4.1.1. 人工生命シミュレーション装置の主な設計コンセプト.
    本発明者らはこれまで、化学反応する仮想生体分子から構成される有限・不均質な環境に大橋の自己増殖自己解体オートマトンを実装した人工生態系SIVAシリーズを開発してきた(例えば、特許文献1及び非特許文献19参照。)。 SIVA−3(1996)(例えば、特許文献1及び非特許文献19参照。)で人工化学(AChem)への先駆的祖型を構築して以来、人工化学に基づく仮想生態系として発展させてきた。 今回開発した人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)は、人工化学(AChem)のもつ最大の特色である「現存する地球生命とのより緊密な関係性の構築」を実現するために、以下のコンセプトに基づいた設計が行われている。

    (i)人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)内で人工生命が棲息する環境は、地球環境に準じて、有限の広がりをもった空間であり、そこに有限量の物質とエネルギーが存在するものとする。 物質、エネルギー及び温度は、環境全体に不均質に分布している構造をとる。
    (ii)人工生命を構成する仮想生体分子はHBCBモデルに基づく階層構造をもつ。 また地球生命において、例えばアミノ酸の重合によりタンパクが、ヌクレオチドの重合により核酸ができるように、下位の階層に属する要素の重合によって上位の階層に属する要素が構成され、仮想生体分子の合成や分解といった階層間の移行には、階層に応じたエネルギーの吸収と放出が伴う。
    (iii)仮想生体分子階層構造の上位に位置する仮想生体高分子と仮想生体単量体は、地球生命に準じて、生命体の構造と機能に関する情報を保持する遺伝子の役割を果たす構成的情報群と、生体内で実際に生命活動を発現するタンパクや酵素の役割を果たす機能モジュール群に整理される。 構成的情報群と機能モジュール群とは、地球生命における遺伝子型と表現型とに対応し、機能モジュール群に属する生体分子はそれぞれ対応する構成的情報に保持されたプログラムに基づいて合成される。
    (iv)仮想生命個体は、機能モジュール群に属する仮想生体分子によって構成された自己増殖と自己解体を可能にするいくつかの機能オートマトン(表現型)と、構成的情報群に属する仮想生体分子によって構成された仮想遺伝子(遺伝子型)とを備えている。
    (v)仮想生命個体は、環境に存在する物質とエネルギーを取り込んで増殖する。 仮想生命個体の活性は、個体が棲息する環境に存在する物質、エネルギーの量、及び温度に依存する。
    (vi)それぞれの仮想生命個体には、生命活動を行うために最適な環境条件がアプリオリに定められており、棲息場所の環境条件がそれから著しく乖離すると生命活動を行うことができない。
    (vii)仮想生命個体に変異前に設定されていた最適環境が、その個体が棲息する場所の環境条件から著しく乖離した時や、寿命が来た時に、自らの個体をその構成要素に分解する自己解体機能を発現するよう設定することができる。 また仮想生命個体が解体するときに発生する物質とエネルギーは環境に戻される。
    (viii)仮想遺伝子に突然変異が発生し、その結果、仮想生命個体に設定された最適環境が変化することにより、これまで生存できなかった環境でも生存可能になる「進化」が起こりうる。

    以上のコンセプトが人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の中で具体的にどのように実現されているかについて、次節以降で順に述べる。

    4.1.2. 人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の環境構成.
    図7aは仮想生態系の人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の環境条件は有限で不均質にデザインされている場合においてその空間設計を示す図であり、図7bはその環境条件の空間的分布を示す図である。 図7aにおいて、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の仮想空間は16×16(=256)の空間ブロックによって構成される2次元格子で、各空間ブロックは、8×8(=64)の棲息点から構成される。 一つの棲息点は一つの仮想生命個体によって占有され、逆もまた同じである。 各空間ブロックの環境条件は独立して定義することが可能であり、同じ空間ブロック内の64棲息点の環境条件は常に均質である。 また、図7bの左上は環境温度の分布を示す図であり、図7bの左下は各空間ブロックに蓄えられているエネルギーの初期分布を示す図であり、太陽エネルギーをシミュレートするために、前もって定義された量のエネルギーが仮想生態系の外から補充される。 さらに、図7bの右は、4種の仮想生体無機素材(VI)の初期分布を示す図であり、物質量が前もって定義された水準以上に増加あるいは以下に減少したとき、環境を初期条件に回復する方向に隣接領域間で各物質は流動する。

    図7bは二次元仮想空間における環境条件分布の例を示しており、この例では、温度は向かって奥の空間ブロックほど高くなり、エネルギー分布は中央の空間ブロックが周辺の空間ブロックよりも多くのエネルギーを蓄積している。 また物質については、それぞれ向かって左、右、奥、手前の空間ブロックにより多く分布するという互いに異なる分布をもつ4種類の物質(仮想生体分子)が存在している。

    本実施形態では、仮想生態系の中心に位置する4つの空間ブロックのすべての環境条件は開始時に同じであるように設定された。 これは、最初に同一条件下に配置した4種の異なる仮想生命の増殖過程を比較できるようにするためである。

    すなわち、有限の広がりをもった空間に有限量の物質とエネルギーが不均質に分布するという地球環境の特徴をシミュレートするために、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)において人工生命が棲息する仮想空間を、16×16(計256)の空間ブロックから成る2次元格子として設計している。 一つの空間ブロックは8×8(計64)の棲息点をもつものと定義される。 一つの棲息点は一個体の人工生命に占有され、逆に一つの個体は一つの棲息点のみを占有することができる(図7a参照。)。 環境条件は空間ブロック毎に独立に定義可能であり、同じ空間ブロックに属する64の棲息点の間では環境条件は常に均質である。 一つの空間ブロックではすべての人工生命個体は同じ環境条件を共有するため、ブロック内の人工生命個体の数は、そのブロックの環境条件に大きな影響を与える。 結果として、生態系全体にわたる環境条件の不均一性は、地球上の生態系と同様に、人工生命個体の増殖に従って徐々に強調される。

    この実験では、生態系内の温度勾配と、人工生命を構成する材料となる4種類の仮想生体無機素材(後述)の初期分布、ならびにエネルギーの初期分布を、全生態系にわたって不均質となるように設定した(図7b参照。)。 初期環境には、仮想生体無機素材以外の物質は存在しない。 またエネルギーについては、地球生態系における太陽エネルギーならびに拡散・放射の効果を模して、単位時間あたり一定の量が補充され、同時に領域あたりのエネルギー量が一定値以上にならないように設定されている。 シミュレーションが無意味にならないよう、充填されるエネルギーの量及びエネルギー総量の上限は適切なレベルに設定した。 すなわち、一つの人工生命個体も棲息できないほど少なくはなく、すべての人工生命個体が何の失敗もなく生きることができるほど大きくはない程度に設定された。 なお後に述べるように4種類の異なる仮想生命を同一条件で増殖させ比較するために、仮想生態系中央の4つの空間ブロックの初期環境条件は物質・エネルギーのすべてを同じに設定した。

    4.1.3. 人工生命の仮想生体分子構成.
    図17は生体分子の原子間ネットワークの複雑性に基づく仮想生体分子の階層構造における、仮想物質階層名と、機能モジュール群と、構成的情報群とを示す表である。 本発明者らは、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)では、HBCBモデルに基づく新しいタイプの仮想生命を開発した。 ここで、現実の生物を構成する生体分子の原子間ネットワークの複雑性に基づいて構成した、仮想生体分子の階層構造のデザインを示す。

    仮想生体高分子(VP)及び仮想生体単量体(VM)は、機能モジュール群と構成的情報群の二つのグループに分けられる。 機能モジュール群と構成的情報群とは、地球生命における表現型と遺伝子型とに対応する。

    基本的にはある階層の各物質は、一つ低い階層に属するいくつかの要素から構成される。 例えば、ある仮想生体有機素材(VO)はいくつかの仮想生体無機素材(VI)から構成され、ある仮想生体単量体(VM)はいくつかの仮想生体有機素材(VO)から構成されるなど。 いくつかの仮想生体単量体(VM)はまず仮想生体高分子(VP)のサブ階層となる機能ユニットを構成し、複数の機能ユニットが重合してさらに大きな仮想生体高分子(VP)を構成する。 今回のシミュレーションでは、どちらの群においても、5つの仮想生体単量体(VM)が一つの機能ユニットを構成するように設定した。 後述するように、機能モジュール群では一つの機能ユニットが人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の生命活性を記述するSIVA言語の一つの単語として機能し、構成的情報群では一つの機能ユニットが仮想遺伝子コドンとして機能する。

    次に、仮想生体分子がより下位階層の素材に分解されることに伴って解放されるエネルギー量と、より上位階層の生体分子への合成に伴って吸収されるエネルギー量を図18に示すように定義した。 図18は人工生命を構成する仮想物質階層間の移行にあたって解放又は吸収されるエネルギー量の落差を示す表である。 ここで留意すべきことは、仮想生体分子の複雑性における階層構造は結合エネルギーにおける階層構造によく対応していることである。 原則として、現実の地球生命においては解放エネルギーと吸収エネルギーは同じ値をとらない。 しかしながら、実験条件を単純にするために、この実験においては両者を同じ値とした。 異なる階層への移行に伴う結合エネルギー間の関係も同様に単純化した。 なお、仮想生体高分子(VP)とその中のサブ階層である機能ユニットとの間の移行に伴う結合エネルギーは、仮想生体高分子(VP)と仮想生体単量体(VM)との間の移行と同じに設定した。

    4.1.4. 人工生命の構造と機能.
    図8は本発明の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)における仮想生命個体の生命活動と環境との関係を示す図である。 本発明者らは、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の中の仮想生命個体に大橋の自己増殖自己解体(SRSD)オートマトンを実装した。 すなわち、各仮想生命個体は、自己増殖のための機能オートマトン[D(=A+B+C)]、自己解体のための機能オートマトン[FZ]、そしてこれらの設計図となる指令テープ[I D+FZ ](例えば仮想遺伝子)、から構成される。 オートマトンAは仮想遺伝子に書かれたすべての機能オートマトンを合成する。 オートマトンBは、仮想遺伝子のコピーを作成する。 オートマトンCはオートマトンAの働きによって新たに合成された機能オートマトンと、オートマトンBの働きによって生成された仮想遺伝子のコピーから新しい個体を生成し分裂させる。 オートマトンFZは、仮想生命個体が生存に不適合な環境条件に遭遇したときや、予め定められた寿命が尽きたときに自らを解体する。

    図9は大橋の自己増殖/自己解体(SRSD)オートマトンを記述するSIVA言語を示す図であり、図9aは仮想遺伝子の翻訳を示す図であり、図9bはSIVA言語で記述された機能オートマトンの例を示す図である。

    図9aにおいて、大橋の自己増殖/自己解体(SRSD)オートマトンの機能オートマトンと仮想遺伝子は、それぞれ地球生命の表現型と遺伝子型に相当する。 すなわち、仮想遺伝子に書きこまれた情報に基づいて機能オートマトンが合成される。 仮想遺伝子の中では、構成的情報群に属する4つの異なる種類の仮想生体単量体(VM)が5個並んで一つの仮想遺伝子コドンを形成する。 一つの仮想遺伝子コドンは、機能モジュール群に属する一つの仮想生体単量体(VM)(すなわち仮想アミノ酸)と対応しており、機能オートマトンを構成する仮想アミノ酸の配列は仮想遺伝子コドンの順序に従って決められる。 5個の仮想アミノ酸の配列は、SIVA言語における一つの単語に対応している。 単語がいくつか並んで文が形成され、文がいくつか集まって段落が形成される。 一つの段落が、一つの機能オートマトンに相当する。

    図9bのSIVA言語で記述された機能オートマトンの例において、実際に今回のシミュレーションの中で用いられた機能オートマトンのSIVA言語記述例を示す。 各段落の冒頭には<ID>が付られている。 ID1、ID2、ID3、ID4はそれぞれ、図8におけるオートマトンA,B,C,Dにそれぞれ対応する。 ここで使用されている<実行コマンド>と<変数>の意味は以下の通りである。

    <実行コマンド>
    (1)syntha:仮想遺伝子の情報を読み出し機能オートマトンを合成する。
    (2)movef:仮想遺伝子上の次のタグにオートマトンを移動する。
    (3)copyi:仮想遺伝子のコピーを作成する。
    (4)divid:個体を分裂させる。
    (5)decsfm:自分自身のオートマトンを仮想生体単量体(VM)にまで分解する。
    (6)decam:自分以外のオートマトンを仮想生体単量体(VM)にまで分解する。
    (7)decim:仮想遺伝子を仮想生体単量体(VM)にまで分解する。

    <変数>
    (1)length_AP:個体内に実際に存在している機能オートマトンの合計数である。
    (2)max_length_AP:個体が持ちうる機能オートマトンの最大数であり、構成的情報の中に記述されている機能オートマトンの2倍に相当する。
    (3)length_IM:個体内に存在している構成的情報の合計の長さである。
    (4)max_length_IM:は構成的情報のオリジナルとコピーをあわせた個体が持ちうるVMの最大数であり、オリジナルの2倍に相当する。
    (5)unconformity:不適合度合を表す指標である。
    (6)age:シミュレーションの時間単位で表した個体の年齢である。

    すなわち、仮想生命個体は、その棲息点が属する空間ブロック内に存在する物質とエネルギーを摂取して増殖を行うことができる。 自己解体の際、個体を構成していた仮想生体分子の分解により作り出される物質とエネルギーは空間ブロックに戻される。 占有されていた空間(つまり、棲息点)も、他の個体によって利用されることができるように、解放される。

    人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)に棲息する人工生命として、大橋らによる自己増殖自己解体(SRSD)オートマトン(例えば、特許文献1及び非特許文献18,21参照。)を実装した(図8参照。)。 すなわち仮想生命個体は、構成的情報群に属する仮想生体高分子(VP)である仮想遺伝子(図8の指令テープIに相当する。)と機能モジュール群に属する仮想生体高分子(VP)である機能オートマトン(図8のオートマトンA,B,C,FZをいう。)とから構成される。 仮想遺伝子は、人工生命の構造と機能に関する情報を保存、複製、転写し、機能オートマトンは合成、解体、増殖などの人工生命の機能を担っている。

    仮想遺伝子は、地球生命におけるヌクレオチドに相当する4種類の仮想生体単量体(VM)(図17のW,X,Y,Z)が連なったシークエンスによって構成されている(図8及び図9a参照。)。 そこでは、5個の仮想生体単量体(VM)からなる機能ユニットが仮想遺伝子コドンとして機能する。 すなわち、それぞれの仮想遺伝子コドンは、機能オートマトンを構成する18種類の仮想生体単量体(VM)(図17の[I−L],[O−R],[0−9]、仮想アミノ酸)のどれか一つに対応づけられる。 仮想遺伝子の中の連続した仮想遺伝子コドンの配列が、機能オートマトンを構成する仮想アミノ酸の配列を定義しており、また仮想遺伝子の中には、その人工生命個体がもつことのできるすべての機能オートマトンに関する仮想アミノ酸の配列情報が記述されている。 仮想生命個体の増殖にあたっては、オートマトンBによって仮想遺伝子のコピーが作成され、オートマトンAの働きによって機能オートマトンが合成される。 より具体的にはオートマトンAはまず合成される機能オートマトンの情報を記述している仮想遺伝子コドンの配列をコピーし、次に、そのコピーされた仮想遺伝子コドンの配列を仮想アミノ酸の配列に変換する。 この過程は、地球生命におけるタンパク合成時のDNAからmRNAへの転写のプロセスを燃したものである。 後述するように、このプロセスで突然変異が起こりうる(4.1.6節参照)。

    人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の中の仮想生命個体の生命活性は、SIVA言語で記述された機能オートマトンの動作を人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)がインタプリタとして実行することにより発現する。 まず、5つの仮想アミノ酸からなる機能ユニットがSIVA言語の中で一つの単語となる。 単語は、<実行コマンド>として働く機能単語と、その他の一時的情報単語に分類される(図17)。 機能単語である<実行コマンド>として、例えば仮想遺伝子に書かれた情報に基づいて機能オートマトンを合成する「syntha」や、仮想遺伝子をコピーする「copyi」、個体を分裂させる「divid」、機能オートマトンを解体する「decam」等が定義されており、仮想生命個体の生命活動の実質を担う。 一方、一時的情報単語は、<変数>(個体内に存在するオートマトンの合計数をあらわす「lengh_AP」等)、<関係演算子>(左辺は右辺以上を意味する「>=」等)、<数値>(「00000」から「99999」まで)、<ピリオド>(「.」。文末を表す)、<ID>(「ID0」から「ID255」まで。段落の開始を表す。)から構成される。

    これらの単語が一つ乃至複数組み合わさることにより<文>が構成される。 <文>は、必ず0個以上の<実行コマンド>と、文末をあらわす1個の<ピリオド>を含む。 <実行コマンド>の前には、<変数>又は<数値>と、<関係演算子>との組み合わせからなる条件節を1つ以上含むことができる。 <文>が条件節を含まないときは、直ちに<文>中に記載された順序で<実行コマンド>が実行される。 <文>が条件節を含む場合には、すべての条件節が真である時のみ<実行コマンド>が実行され、条件節のうち一つでも偽のものがあればいずれの<実行コマンド>も実行されない。

    こうした<文>が集合し、かつ冒頭に<ID>が設定されることにより、<段落>が構成される。 すなわち一つの段落は、一つの<ID>と0個以上の<文>からなる。 <段落>内の<文>は、記述された順番で実行される。 なお一つの<文>が終了した時点で、その<文>内に含まれる条件節の真偽の判定結果はリセットされるため、次の<文>の実行には影響を及ぼさない。 以上に示した<文>と<段落>の基本的な構造をBNF表記すると、以下のようになる。

    [表1]
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    <文>::=
    ([<変数><数値>]<関係演算子>[<変数><数値>])*<実行コマンド>
    *<ピリオド>
    <段落>::=
    <ID>
    <文>*
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    仮想生命個体の中では、SIVA言語で記述された一つの<段落>が、生命活動における一つの機能オートマトンに相当する。 今回のシミュレーションで用いた機能オートマトンの記述例の一つを図9bに示す。 個々で示す各<段落>と図8に示したオートマトンとの対応を見てみると、ID1はオートマトンAに相当し、仮想遺伝子に基づいて機能オートマトンを合成する。 ID2はオートマトンBに相当し、仮想遺伝子のコピーを形成する。 ID3はオートマトンCに相当し、すべての機能オートマトンが合成され、かつすべての仮想遺伝子のコピーが作成された後、すなわち、ここでは条件節[数1]
    length_AP>=max_length_AP
    と[数2]
    length_IM>=max_length_IM
    がともに真と判定されたとき、新しく合成された機能オートマトンと仮想遺伝子のコピーから娘個体をつくり親個体から分裂させる(それぞれの変数の意味については図9の説明を参照。)。 また、ID4はオートマトンFZに相当し、環境条件が生存に著しく不適合になったとき(すなわち、条件節[数3]
    unconformity>2
    が真のとき)、又は寿命が尽きたときに(すなわち、条件節[数4]
    age>20
    が真のとき)、機能オートマトンを解体し、かつ構成的情報を解体する。 さらに、個体内の仮想遺伝子がすべて解体され、かつ自分自身以外の機能オートマトンがすべて解体されたとき(すなわち、条件節[数5]
    length_IM=0
    と、条件節[数6]
    length_AP=1
    がともに真の時)、自分自身(つまりオートマトンFZ自体)を解体する。 なお、これらの機能オートマトンを記述する<段落>とは別に、最適温度を含む個体の設定条件を定義するID0という<段落>が設定されている。

    各仮想個体は、SIVA−T05における仮想時間単位である1単位時間(タイムカウント(TC))の間に、その個体のもつすべての段落を実行することにより生命活動を発現する。 同一の単位時間(TC)においてどの個体が活動するかの順番は、単位時間(TC)毎にランダムに決められる。

    4.1.5. 環境条件と機能オートマトン活性との関係.
    図10は環境条件と機能オートマトンの活性との関係の設計において用いる関係を示す図であり、図10aは機能オートマトンの活性と環境温度との関係を示すグラフであり、図10bは機能オートマトンの活性と仮想生体無機素材濃度の関係を示すグラフである。 環境条件と機能オートマトンの活性との関係の設計において、仮想生命個体を構成する各機能オートマトンの活性は、個体が固有の最適環境におかれたとき極大となり、環境条件が最適状態から乖離するに従って低下するように設計された。 図10aでは、環境温度がその個体の最適温度から離れるに従って、疑似ガウス関数にそって活性が低下するように設定した。 また、図10bでは、増殖に必要とされる仮想生体無機素材(VI)の濃度が上昇するにつれて、合成に関わる機能オートマトンの自己増殖活性が擬似的ミカエリス・メンテン(Michaelis−Menten)の式に従って漸近線様に増大するように設定した。

    すなわち、機能オートマトンの活性は、現実の地球生命における化学反応の特徴に準じて、仮想生命個体が棲息する環境のもつ温度、基質濃度及びエネルギー量の影響を受けて変化するように設計されている(図10参照。)。 まず、棲息点における環境温度がその仮想生命個体にとって最適温度の場合に、その個体のもつ機能オートマトンの活性は最大となり、温度が最適値から遠ざかるにつれて疑似ガウス関数に沿って低下するように設定してある(例えば、非特許文献12参照。)。

    次に、自己増殖に関わる機能オートマトンの活性は、化学反応における物質濃度と化学反応速度の関係を記述したミカエリス・メンテン(Michaelis−Menten)の式(例えば、非特許文献12参照。)に準じて、材料とするVI濃度が上昇するにつれて漸近的に上昇するように設定されている。 なお、地球型生命における実際の化学反応では、水素イオン濃度(pH)に典型的に見られるように、基質濃度の増加が他の物質の状態、例えばイオン化状態など、に影響を及ぼすことから、単調増加ではなくなんらかの最適点において極大を示すことが多い。 しかし、この実験においては、本発明者らの検討の着手点として、より単純な関係を採用した。

    さらに、図18に基づいて、機能オートマトンの合成や仮想遺伝子のコピーの作成には、材料となる仮想生体物質が属する階層の違いによって異なるエネルギー量が必要となるよう設定されている。 増殖に必要なエネルギー量が環境に存在する利用可能なエネルギー量に対して相対的に増加すると、機能オートマトンの活性が低下する。 なお、地球型生命では生命活動に利用可能なエネルギーをATPなどの生体分子の結合エネルギーとして個体内に貯蔵することができる。 しかし、このシミュレーション実験では、条件を単純にするために環境に存在するエネルギーのみを利用することとした。

    具体的にSIVA言語の中では、仮想生命個体が棲息する環境の温度と最適温度との差分が大きくなるほど、また増殖に必要な物質とエネルギーの量が環境に存在するそれらの量に対して相対的に増大するに従って、機能オートマトンの<実行コマンド>の成功確率が低くなるように設定することで、上述したオートマトンの活性変化を仮想的に実現している。 こうした条件のもと、生命活性の発現、すなわち<実行コマンド>の実行が失敗すると、環境不適合を示す指標である変数である不適合度合「unconformity」が1だけ増加する。 またオートマトンCの活動によって個体が分裂するときに、親個体の棲息点に隣接する場所がすでに別の個体によって占拠されている場合には、分裂は失敗し、同様に「unconformity」が1だけ増加する。 これらの結果、不適合度合「unconformity」が事前に設定された閾値を上回ると(すなわち、図9bの例では、ID4の2つめの<文>の条件節[数7]
    unconformity>2
    が真となるとき)、自己解体が行われる。 また仮想生命個体の年齢をあらわす変数「age」が予め設定した寿命に達した場合(すなわち図9bの例では、ID4の3つめの<文>の条件節[数8]
    age>20
    が真となるとき)も、自己解体が行われる。 自己解体によって発生した仮想物質とエネルギーは棲息点が属する環境ブロックに戻される。

    4.1.6. 突然変異と進化的適応.
    図11は本発明の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)における突然変異と進化適応のコンセプトを示す図である。 人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)では、仮想生命個体が自己増殖のために仮想遺伝子を複製するときに、複製された仮想遺伝子中の仮想生体単量体(VM)が構成的情報群(例えばW,X,Y,Z)に属する他のタイプの仮想生体単量体(VM)に、ある確率でランダムに置換される。 突然変異の結果生まれた新しい表現型のほとんどは、環境への適応可能性を含む生命活性において、負の変化を引き起こすか積極的変化をまったく引き起こさない。 しかし、ある一定の割合で、生命活性に正の変化が起こり得る。 その結果、この個体にとっての最適な環境条件が親のそれとは異なる突然変異体が発生する。 そのような突然変異体は、親個体が生存することのできない環境条件を持つ空間ブロックに棲息可能になる。 本実施形態では、この現象を進化的適応と呼んでいる。

    すなわち、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)では、地球生命の遺伝子に発生する様々な種類の突然変異をシミュレートすることが可能であり、図11は人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)における突然変異と進化的適応のコンセプトを示している。 今回のシミュレーション実験では、仮想遺伝子のコピーを作成するときに発生する置換のみを設定した。 仮想生命個体の生命活動において、置換が発生しうる機会は2つある。 すなわち、増殖のためにオートマトンBによって仮想遺伝子を複製するとき、及びオートマトンAによって機能オートマトンを合成するにあたり必要な仮想遺伝子コドンの配列のみをコピーするとき、すなわち地球生命におけるDNAからmRNAへの転写を模した過程である。 前者の場合、オートマトンBによって仮想遺伝子がコピーされるときに、構成的情報群に属する仮想生体単量体(VM)が、予め定めた確率「mis_copyi_rate」で同じ群の別の仮想生体単量体(VM)に置き換わる。 後者の場合、オートマトンAによって合成に必要な一部分の仮想遺伝子がコピーされるときに、予め定めた確率「mis_syntha_rate」で、同じく仮想生体単量体(VM)が置換される。 このようにして、前者は遺伝子型の変化に基づく表現型の変化を、後者は遺伝子型の変化を伴わない表現型のみの変化を導く。 その結果、個体の機能オートマトンを構成する仮想生体単量体(VM)ひいては仮想生体有機素材(VO)、仮想生体無機素材(VI)の組成が変化したり、個体に設定された最適温度が変化したりする。 このようにして出現する新しい表現型は、必ずしも生命活動に意味をなさない場合や負の影響を及ぼすことも多い。 しかし、ある程度の確率で、これまでその種(すなわち親)が棲息することのできなかった場所で棲息可能な個体(すなわち突然変異体)が出現する。 それが遺伝子型の変化に基づくものであれば、その形質は子孫に受け継がれる。 そこで、このシミュレーション実験の枠組みの中では、進化的適応とは「遺伝子型の突然変異により、親個体が棲息することのできなかった環境条件をもつ場所で棲息可能な子孫が発生する現象」と定義する。 なお突然変異の結果、SIVA言語として解釈できないVMの配列が出てきた場合には、インタプリタとしての人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)はそれを無視する。

    4.2. 人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)を用いたシミュレーション実験の方法.
    HBCBモデルの有効性を検証するために、人工化学系の人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)を用いて二つのシミュレーション実験を行った。 そこでは、プログラムされた自己解体過程で生産されるリソースの再利用効率を、仮想生体高分子(VP)がどの階層に至るまで分解されるか、すなわち分解到達階層の観点から検討した。

    この検討のために、死をもつ3種類の生命種M−I、M−O、M−Mを原初仮想生命として設計した。 これらの生命種は、自己解体機能をもつオートマトンFZによって分解される仮想生体高分子(VP)の分解到達階層が互いに異なっている。 すなわち、M−Iは仮想生体高分子(VP)の分解到達階層が仮想生体無機素材(VI)である死をもった種、M−Oは分解到達階層が仮想生体有機素材(VO)の死をもった種、M−Mは分解到達階層が仮想生体単量体(VM)の死をもった種である。 またこれらの種においては、機能オートマトンを合成するオートマトンAと、仮想遺伝子をコピーするオートマトンBが素材として利用できる物質も互いに異なった設定とした。 すなわち、M−Iでは仮想生体無機素材(VI)のみが利用可能であるが、M−Oでは仮想生体無機素材(VI)と仮想生体有機素材(VO)が、M−Mでは仮想生体無機素材(VI)、仮想生体有機素材(VO)、仮想生体単量体(VM)のいずれも利用可能であるように設定した。 なお、複数の階層の生体分子が利用可能な場合、合成に必要なエネルギーが少ない順、すなわちより上位の階層の物質から用いるものとした。

    まず、この3種の個体のそれぞれを、同一の環境条件をもつ3つの別々の生態系の中央部の棲息点に配置し、これらの種の生命力を調べるための増殖及び進化シミュレーションを行った。 対照条件として、自己解体のためのオートマトンFZを不活性化した不死の種I−Nを用いて同一の環境条件でもう一つのシミュレーションも行った。 これらの原初個体の生命活性はいずれも、配置された中央部の棲息点のもつ環境条件初期値に適合している。 なおI−NにおけるオートマトンAとオートマトンBとは、仮想生体無機素材(VI)のみを材料として利用することができる。

    また、進化の過程では、上記4種類の仮想生命が同一の生態系内に同時に共存する状態で生き、空間及び物質を共有することがありえるかもしれない。 そこで、一つの生態系の中央部に位置する、同一の環境条件をもつ4つの空間ブロックに、この4種の各個体を配置し、同時に増殖を開始した。 従って、スタート時には、これらの4つの個体は互いに接触していない。 本発明者らは、4つの個体を同一の空間ブロックの中に配置した実験も行った。 しかしこの場合は、各生命個体数が1乃至2個というきわめて少数のときに互いが接触し、その段階における増殖の成否が、それ以降の増殖を決定的に支配するため、きわめて偶然性の高い不安定な結果を導いた。 そこで、ある程度増殖が進み、それぞれの種がある程度安定して存在するようになってから異種の個体が接触するよう、同一環境条件をもった異なる4つの空間ブロックに配置した。

    シミュレーション結果の評価のために、生存領域サイズ、個体数、増殖頻度、累積増殖回数、突然変異の発生頻度の変化の観点から、それぞれの種の生命活性を比較した。 その他のシミュレーション条件の詳細については、既出本実施形態(例えば、非特許文献21参照。)を参照されたい。

    4.3. シミュレーション実験の結果.
    4.3.1. プログラムされた自己解体(PSD)メカニズムの有効性.
    図12は自己解体プロセスの中で生体高分子が解体して生体単量体になる、死ぬ生命種が最も顕著に生存領域を拡大して示す図であって、それぞれの種を同じ環境条件をもつ独立した生態系で別個にシミュレーションの結果を示す図である。 図12において、自己解体しない不死の種I−N(図12の最上段)は、単位時間(TC)400ののち増殖と生存領域の拡大を停止した。 自己解体メカニズムを備えた死をもった種M−I(図12の2番目の段)、M−O(図12の3番目の段)、M−M(図12の最下段)の仮想生命個体は、いずれもシミュレーション終了(単位時間(TC)=2000)まで増殖及び解体を繰り返した。 生体単量体(VM)階層を分解到達階層とする自己解体プロセスを備えた種M−Mはその生存領域を、より低次の階層に解体が集中する他の2種に比べて、生存領域をより広くまで拡大するとともにより大規模に個体数を増加させ、その優位性を示している。

    すなわち、それぞれの種を同一に条件設定された独立の生態系で増殖させたときの個体分布の経時的な推移を図12に示している。 シミュレーション開始当初、自己解体メカニズムをもたない不死の種I−Nは順調に増殖し、生存領域をひろげていった。 しかし、棲息領域の環境条件と最適条件との乖離が増大するにつれて、適応の必要性が増加した。 この傾向を反映して、種I−Nは、単位時間(TC)=400で適応可能領域の限界に達し、増殖と生存領域の拡大を停止した。

    同時に、自己解体メカニズムを備えた死をもつ種M−I、M−O、M−Mの仮想生命個体は、シミュレーションの終了(単位時間(TC)=2000)まで増殖及び自己解体を繰り返した。 それらは、自己解体メカニズムによって物質と空間を生態系に還元することの恩恵を十分に享受しつつ、動的に安定した個体群を形成した。 増殖に伴う仮想遺伝子の複製の反復を反映して、多数の突然変異が発生した。 こうしてそれらは、原初個体が生棲不可能だった領域へ進出できる新しい仮想遺伝子と表現型をもった子孫を継続的に生み出した。 結果として、個体数の増大と生存領域の拡大を導いた。

    このシミュレーション実験の結果は、地球生態系の大きな特徴である有限不均質な生存環境における自己解体メカニズムの有効性を示した本発明者らのこれまでの研究結果(例えば、非特許文献20,21参照。)と、完全な整合性をもっている。

    4.3.2. 生体分子共有結合階層化の効果.
    種M−I、M−O、M−Mは増殖と進化において顕著な違いを示した(図12及び図13参照。)。 種M−I、M−O、M−Mは、VPが解体されて行き着く先の分解到達階層が異なる自己解体メカニズムを有している。 単位時間(TC)=2000における個体数の増加度合い、生存領域の拡大度合いは、主として自己解体に伴うエネルギー放出量に関して、顕著な違いを見せた。 すなわち、それらは次の序列で増殖により有利であることが示された。
    [数9]
    (分解到達階層が仮想生体単量体(VM)の種M−M)
    >(分解到達階層が仮想生体有機素材(VO)の種M−O)
    >(分解到達階層が仮想生体無機素材(VI)の種M−I)

    加えて、単位時間(TC)=400あたりまでは、種M−Iに対して、種M−O、種M−Mは優位に立たず、むしろ劣勢であった。 その背景として、二つの要因が考えられる。 第一に、種M−O、種M−Mは、仮想生体無機素材(VI)を増殖の材料として使用することができるが、それを環境に還元しないため、シミュレーションの最初の時期には、この一方向的な消費によって増殖に不利な条件が導かれたと考えられる。 第二に、増殖の初期では、それぞれの種の個体群は最適な環境条件をもつ領域とその近傍に生棲しているため、リソースの再利用効率の違いが結果に大きく影響しなかったものと考えられる。

    図13は仮想生体高分子の解体が仮想生体単量体階層に集中する形式の自己解体を行う死ぬ生命種が増殖及び進化において優位にたつことの検証を示すグラフであって、図13aは4つの種を同じ環境条件をもつ独立した生態系で別個にシミュレーションの結果である個体数を示すグラフであり、図13bはその増殖頻度を示すグラフであり、図13cはその累積増殖数を示すグラフであり、図13dはその突然変異頻度を示すグラフである。 図13において、自己解体しない不死の種I−Nは、単位時間(TC)=480で増殖が停止し、それにともない突然変異も発生しなくなった。 自己解体メカニズムを備えた死をもつ種M−I、種M−O、種M−Mはいずれもシミュレーション終了まで増殖・解体を繰り返し、突然変異が発生し続けた。 その際、仮想生体高分子(VP)の解体生成物がVM階層に集中する形式の自己解体を行う種M−Mが、種Cより低次の階層に解体生成物が集中する形式をとる他の2種に比べて、すべての指標においてその優位性を示した。 すなわち、図13は、上記で観察された4種の生命の間の違いを詳細に分析するために、個体数、増殖頻度、増殖の累積回数、突然変異の発生頻度の推移を、四つの種の間で比較した結果を示す。

    すなわち、図13から明らかなように、自己解体機能をもたない種I−Nの個体数は、単位時間(TC)=480までに個体数320で頭打ちとなった。 これに対して、自己解体機能を備えた種M−I,M−O,M−Mの仮想個体は、単位時間(TC)=2000まで増殖及び解体を繰り返した。 彼らははっきりと区別できる程度の違いを示した。 種M−Mの増殖はすべての指標において圧倒的な優勢を示している。

    自己解体によって仮想生体有機素材(VO)や仮想生体無機素材(VI)が生成される場合に比べて、自己解体によって仮想生体単量体(VM)が生成されることは、自己の直接の子孫だけでなく同一環境に棲むあらゆる生命個体の増殖コストの大幅な軽減を導く。 なぜなら、仮想生体有機素材(VO)あるいは仮想生体無機素材(VI)は、仮想生体単量体(VM)と同等程度の高い再利用可能性を有するけれども、仮想生体高分子(VP)の生成と解体に伴って、より大量のエネルギーの放出と吸収を必要とするからである。 このことは、生態系内のすべての仮想個体が効率的に自己増殖することを可能にするだろう。 高い頻度の増殖はより多くの突然変異の発生を導き、進化的適応を加速する。 この作用によって種M−Mは他の種よりも一層活性が高められ、その原初個体が生存不可能だった新しい領域に進出することが可能になった。

    以上に示されるように、自己解体メカニズムが増殖と進化に及ぼす効果は、自己解体が仮想生体単量体(VM)へ向かう場合において最も顕著である。 反対に、自己解体が仮想生体有機素材(VO)あるいは仮想生体無機素材(VI)に向かう場合には、自己解体の増殖と進化的適応に及ぼす効果はいくばくか保たれてはいるものの、ずっと目立たないものになっている。

    図14は4つの種を同じ生態系に同時に棲息させ相互作用下においたシミュレーションの結果を示す図である。 図14から、仮想生体高分子の解体が仮想生体単量体階層に集中する形式の自己解体を行う死ぬ生命種が他の種を凌駕し、最も生存領域を拡大することがわかり、同じ生態系にすべての人工生命が共存した場合、VPの分解到達階層がVMである死をもった種M−M(黒)の優位性は他の3種よりも顕著であった。 すなわち、図14において、自己解体しない不死の種I−N(薄いグレー)は、単独で生態系を占有していた場合と比べてはるかに小さな生存領域のまま単位時間(TC)=200を超えたところで増殖が停止した。 種M−Mよりも低次の階層に解体が集中する死をもった種M−I、M−Oはシミュレーション中頃までに絶滅した。 一方、死をもった種M−Mは、それぞれ別々の生態系でシミュレーションを行った場合に近い規模にまで生存領域を拡大し、その優位性を示した。

    図15aは4つの種を同じ生態系に同時に棲息させ相互作用下においたシミュレーションの結果である個体数を示す図であり、図15bはその増殖頻度を示す図であり、図15cはその累積増殖数を示す図であり、図15dはその突然変異頻度を示す図である。 図15から、仮想生体高分子の解体が仮想生体単量体階層に集中する形式の自己解体を行う死ぬ種が増殖及び進化において優位にたつことがわかる。 すなわち、図15において、自己解体しない不死の種I−Nは、単位時間(TC)=250で増殖・突然変異発生が停止した。 仮想生体高分子(VP)の分解到達階層が仮想生体単量体(VM)よりも低い階層である2つの死をもった種M−IとM−Oはシミュレーションの途中で絶滅した(種M−I:単位時間(TC)=367、種M−O:単位時間(TC)=1167)。 分解到達階層が仮想生体単量体(VM)である死をもった種M−M(黒)は、4つの人工生命の中で、すべての指標で最大の優位性を示した。

    すなわち、4つの種が同時に同じ生態系内で増殖するときには、より明瞭な結果が得られた(図14及び図15参照。)。 不死の種I−Nの増殖はシミュレーション開始当初からきわめて制約され、単位時間(TC)=250で頭打ちとなった。 当初は、種M−I、M−O、M−Mについては、種M−Iが他よりもやや優勢を見せたてはいたが、3種の勢力はほぼ拮抗していた。 しかし、単位時間(TC)=300を過ぎた頃から、種M−Iが他種の圧迫を受けて生存領域を狭め、単位時間(TC)=367に絶滅した。

    種M−Oは、単位時間(TC)=600頃まで種M−Mと対等に存続し続けたが、単位時間(TC)=1167に、種M−Mの圧迫を受けて絶滅した。 種M−Mは、およそ単位時間(TC)=800頃から増殖速度を上昇させた。 これに対し、種M−Mは、当初は顕著な増殖をしていなかったが、しだいに勢力を増した。 それは、単位時間(TC)=800までに最大勢力となり、シミュレーションの最後まで棲息領域を拡大し続けた。 これらの結果は、自己解体する生命は、自己解体しない生命を凌駕して優性になるというこれまでの研究結果と整合している。 さらに、この結果は、自己解体する3種の間では、分解生成物の共同利用性を獲得する際のエネルギー損失が小さいほど、種は増殖と進化において有利になるという顕著な傾向を示した。 このシミュレーション結果は、現実の地球生命において存在されたPSDメカニズムが、生体高分子の分解を生体単量体にまで分解する加水分解をその主力としていることとよく対応のとれた結果になっている。

    人工化学系の人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)によるシミュレーションでは、プログラムされた自己解体メカニズムを持つ仮想生命は、自己解体メカニズムをもたない仮想生命よりも、増殖と進化的適応において優位に立つことを示唆した。 なぜなら、それらは棲息空間及び生体材料の循環再利用において有意性を持っており、その結果、進化的適応が加速されたからである。 この結果は、従来の本発明者らの以前に発表した知見を支持するとともに、地球生命である原生動物を使った生物学的実験で観察された自己解体メカニズムが、進化の結果として存在する可能性を支持している。

    また、このシミュレーション実験において、本発明者らは、自己解体が進化的適応の加速に対して及ぼす影響は、HBCBモデルに基づいて仮想生体高分子(VP)が解体して行き着く先の分解到達階層によって、顕著な差異が認められることを示した。 その結果はさらに、仮想生体高分子(VP)の階層から仮想生体単量体(VM)の階層への解体が最も高い効果をもち、最大の繁栄をもたらすことを示した。 このことは、進化の過程の中で存在したかもしれない、生体高分子を様々な階層にまで分解する種の中で、現存する地球生命のように、最も少ないエネルギー損失で分解生成物の共同利用性をできるだけ高めた、生体高分子を生体単量体にまで分解する種が、進化圧によって選択されたことを示唆する。

    鈴木の提案したNACの重要な柱である生体分子結合力に階層構造を導入するというアイデアを発展させることによって構成されたHBCBモデルは、現実の地球生命を理解するうえできわめて価値ある知見をもたらした。 また、このモデルの有効性が確認された。

    5. 考察.
    鈴木の提唱した人工化学(AChem)システムのコンセプト(例えば、非特許文献24参照。)、すなわち化学要素間の結合エネルギーに基づくハイアラーキーというコンセプトは、本発明者らを強くインスパイアするものであった。 彼のコンセプトと本発明者らの細胞分子生物学の知識にかんがみて、本発明者らは生体分子を、原子間ネットワークの複雑さに基づく4つの階層に分類した。 さらに、本発明者らは、結合エネルギーに基づいて、生体分子間共有結合を3つに分類した。 共有結合は、実際の生体分子を構成する主要な結合力であり、鈴木のハイアラーキー(例えば、非特許文献24,25参照。)の一つの階層である。 本発明者らは、この2種類の階層分類が互いによく対応していることを見出した。 そこで、実際の生体分子と密接に結びついている人工化学(AChem)システムの特徴を生かして、これまでに本発明者らが提案した「プログラムされた自己解体モデル(PSD)」との関連のもと、生体分子共有結合の階層モデル(HBCBモデル)を構築した。 本研究では、PSDモデルとHBCBモデルの妥当性と有効性とを検証するために、2つの相補的な実験を行った。 すなわち、現実の地球生命を用いた細胞における分子生物学の実験と、進化的時間スケールを制御する人工化学(AChem)シミュレーションにより、これらのモデルを検証した。

    人工化学(AChem)の基本的な特質は、地球生命を造り上げる化学物質と化学反応の特異的な性質に緊密に対応していることである(例えば、非特許文献5参照。)。 その結果として、人工化学(AChem)システムは現実の地球生命と比較することが可能で、双方を結びつけることができる。 うまく設計された人工化学(AChem)システムにおいては、ある種の実在する地球生命とほとんど等価な連携を構築することが期待される(例えば、非特許文献25,27参照。)。 このような人工化学(AChem)システムの特性が、本発明者らの相補的なアプローチを可能にした。

    本発明者らの生物学実験は、実在する地球上の生命が、実際に自己解体を伴うプログラムされた個体死を有しているということを明かにした。 この結果は、自己解体がエネルギー要求性の遺伝子によって制御される過程であり、主として生体高分子を生体単量体に解体する加水分解で構成されているということを示した。 さらに、地球生命は、共有結合の階層を活用した生体分子の再利用メカニズムを実装していることが示唆された。 これらの結果は、PSDモデルの実在とHBCBモデルの妥当性を支持している。

    人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)を用いたシミュレーション実験では、死をもち自己解体メカニズムを備えた仮想生命が、自己解体メカニズムをもたない不死の仮想生命に対して、増殖と進化において明らかな優位を示した。 この所見は、有限で不均質な棲息環境−それは地球生態系の主要な特徴である−において、自己解体メカニズムが有効性をもつことを証明している。 それに加え、このシミュレーション実験は、自己解体のメカニズムが生体高分子から生体単量体への共有結合開裂を主として動員する仮想生命の方が、自己解体のメカニズムが生体高分子からそれ以下の階層への共有結合開裂を動員する仮想生命よりも、進化的に優位であることを示した。

    このように、地球生命を用いた分子生物学実験の結果と、人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)を用いたHBCBモデルのシミュレーション実験の結果は、ほとんど完全に互いの結果を支持しており、また相補的である。 今回の結果の全体像は、HBCBモデルで提案された仮説を強く支持する。 すなわち、実在する地球生命は、生体分子リサイクルシステムが活用するところの、結合エネルギーの強さに基づく階層構造を発展させてきた。 さらに、エネルギー効率と共同利用性との間のバランスは、自己増殖自己解体オートマトンの進化の結果として最適化されてきたかもしれない。

    実りあるこの研究成果は、コンピュータを用いた人工生態系の研究や、生物を用いた生物学をそれぞれ単独で用いることでは獲得できなかった。 人工生命を使ったコンピュータ・シミュレーション研究の卓越した効用の一つは、理論的には想定可能であるが現実の地球環境では検証不可能な様々な仮説をモデル化し、シミュレーションすることで、現実世界に影響を及ぼすことなくその有効性と妥当性を評価できることである(例えば、非特許文献7,10,22参照。)。 この特徴は、生態系や進化に関連するような、操作可能な範囲を超える問題を考察するのにきわめて効果的である。 しかし、従来の人工生命研究の中では、現実の地球生命のもつ生命活動が、例外なく化学的現象から構成されるという原則が、必ずしも十分に考慮されていたとはいえない(例えば、非特許文献7,10,22参照。)。 むしろ、ある時期の人工生命研究の大多数が、そのような原則をある種の拘束条件として解釈し、実存する生命から研究を意図的に乖離させようとしてきたかもしれない(例えば、非特許文献9参照。)。 結果として、そのような従来の人工生命単独での研究は、実存する生命活動の深い理解や有効な応用に関して、関連領域からの期待に必ずしも十分に答えていたとはいえない。

    人工生命と実存生命への2つの乖離したアプローチが、地球生命の基本過程が例外なく化学現象からなるという事実にたった人工化学(AChem)というパラダイムのもと、有機的に統合されることにより、個々のアプローチで獲得しうる知見を大きく超える、稔りある知見が得られることが期待される。 本発明者らは、このような統合が、人工化学(AChem)の分野それ自体へも注目すべき貢献をもたらすことを信じる。

    6. 結論.
    地球生命における結合力に基づいた生体分子の共有結合の階層構造に注目し、本発明者らは、本発明者らがすでに提案したプログラムされた自己解体モデル(PSDモデル)との関連のもと、生体分子の共有結合に基づいた階層モデル(HBCBモデル)を構築した。 本発明者らは生物実験と人工化学(AChem)の実験を有機的に結合することで、これらのモデルの妥当性と有効性を精査した。

    生物学的手法を用いた実験は、地球生命が、共有結合の階層性を利用した生体物質の再利用システムを装備していることを明らかにした。 この結果は、自己解体によるプログラムされた個体死の存在を支持している。 それに加えて、自己解体はエネルギー要求性の、遺伝子によって制御された過程であり、主に生体高分子を生体単量体に解体する加水分解反応から構成されるものであることを明らかにした。

    人工化学(AChem)を用いた実験により、地球環境のように、有限で不均質な環境では、プログラムされた自己解体による生体物質の再利用メカニズムをもつ生命の方が、そのようなメカニズムを持たない生命より優位であることが明らかになった。 このような優位性は、自己解体のプロセスを体現する共有結合の開裂が、仮想生体高分子を仮想生体単量体−そこでは、生成物はほとんど完全な共同利用性をもち、エネルギーの損失は最小化されることから、共有結合階層化モデル(HBCBモデル)に基づく最も合理的なプロセスということができる−の階層に向けられたときに最も顕著であった。 これらの結果は共有結合階層化モデル(HBCBモデル)の妥当性と有効性を支持するものである。

    この、人工化学(AChem)システムと地球生命システムを統合したアプローチは、進化的観点から地球生命の理解を深めるには、きわめて将来有望なアプローチである。

    第2の実施形態.
    第2の実施形態では、インパルス・ショック法(Impulse Shock Method)による自己解体メカニズム自動制御装置と、それを用いた自己解体遺伝子群の発現抑制方法について以下に説明する。

    発明者らは、第1の実施形態で上述したように、地球生命が自己を解体し、その構成要素にまで分解する生命活性を遺伝子にプリセットされたプログラムの形で有しており、環境不適合条件の中でそのプログラムが発現し実行されることを、単細胞原生動物テトラヒメナを実験動物とする実験によって発見した。

    その実験の中で「遺伝子にプリセットされていて通常の生命活動では潜在している自己解体プログラムの発現を単細胞生物に効果的に誘導させる方法として、環境情報を生存不適合な値に一瞬だけ変化させることによって自己解体プログラム発現のスイッチを入れ、その直後に生命活動の代謝過程の一つである自己解体プログラムの発現を抑制しないように元の最適生育環境に戻す手法」(インパルス・ショック法(Impulse Shock Method)を考案しそのプロトコルを構築し、この手法によって誘導されるテトラヒメナの自己解体現象が遺伝子にプログラムされた能動的な代謝過程である支持材料を得ている。すなわち、この手法によって、生存不適合な環境情報を与えることによって自己解体プログラムのスイッチを入れる点、その後速やかに生存に適した環境条件に戻すことによって自己解体活動を支障無く進行させる点、この手法で誘導される解体現象が自己解体プログラムに相当する遺伝子にプログラムされた能動的代謝過程であることを支持する知見が得られている。

    本発明者らは、自己解体の遺伝子プログラムを効果的に発現誘導するインパルス・ショック法を用いて自動的に実行制御できる自己解体メカニズム自動制御装置70を考案した。 図20は本発明の第2の実施形態に係る自己解体プログラム誘導装置70の構成を示すブロック図である。 この装置70は、マイクロコンピュータ60による制御で回転振盪させたフラスコの上下左右移動を自動化し所定の温度変化プロトコルを実行することによって、設定したプロトコルを誤差無く正確に実行可能にすることによって、自己解体プログラムを再現性高く効果的に発現誘導するものである。

    図20において、中空の直方体形状の装置筐体50内に2個の恒温水槽51,52が載置される。 恒温水槽51内の水は公知のヒータ及び制御部にてなる恒温制御機構により最適生育環境温度T1(例えば26゜C)に設定され、恒温水槽52内の水は公知のヒータ及び制御部にてなる恒温制御機構により適応が不可能な環境温度T2(例えば39゜C)に設定されている。 ここで、
    [数10]
    T1<T2
    である。

    装置筐体50の上部天井部には恒温水槽51,52の載置方向54aと平行である長手方向を有するレール51bが設けられ、当該レール51b上を方向54aで摺動しかつ保持するように回転振盪機54が設けられる。 ここで、回転振盪機54はそれが移動することにより設定温度が異なる2つの恒温水槽51,52を、培養フラスコ75,76を支持する支持機構57が方向54aで移動するように構成される。 回転振盪機54の下部には回転可能に設けられた支持機構55が設けられ、それに上下方向56aの移動機構であるパンダグラフ56を介して支持機構57が連結される。 支持機構57は、薬液送出器73,74がそれぞれ取り付けされた培養フラスコ75,76を支持する。 一方、各薬液ボトル71,72,73内の薬液はそれぞれマイクロコンピュータ60により制御される定量送液ポンプ61,62,63,61a,62a,63aにより所定の時刻でかつ所定量で送液送出器73,74を介して培養フラスコ75,76に送液される。 ここで、各薬液ボトル71,72,73内の薬液はそれぞれ例えば、酸、弱塩基、阻害物である。 また、マイクロコンピュータ60はさらに回転振盪機54の移動及び回転を制御するとともに、パンダグラフ56の上下方向56aの移動を制御する。 回転振盪機54から支持機構57までの機構(以下、回転振盪機構という。)により、培養フラスコ75,76を恒温水槽51の位置で下方向に移動させることにより回転振盪させた後、上方向に移動させ、別の恒温水槽52の位置に移動し、下方向に移動させることにより回転振盪させた後、上方向に移動させることができる。 そして、さらに、逆方向の動作も可能である。 ここで、恒温水槽51,52の移動順序はマイクロコンピュータ60の制御により任意に設定できる。 従って、当該回転振盪機構は、回転振盪状態の培養フラスコ75,76を設定温度の異なる恒温水槽51,52に所定の時刻及び時間期間で移し替える一連の動作を実行することができる。

    以上の構成では、インパルス熱ショック法を用いた動作について説明したが、本発明はこれに限らず、恒温水槽51のみを使用し、送液ボトル71,72から送液する薬液(酸、弱塩基)のpH及び送液量により培養フラスコ75,76内のpH値を変化させることによりインパルスpHショック法を用いて動作を行ってもよい。 具体的には、pH値を上昇させるためには塩酸などの酸溶液を薬液ボトル71から送液し、pH液を低下させるためには、トリスベースなどの塩基溶液を薬液ボトル72から送液する。

    従って、本実施形態に係る自己解体メカニズム自動制御装置70によれば、生命が生存する環境条件を生存不適合な条件に速やかに変化させる方法と、その後速やかに生存に適した条件に変化させる方法とによって、遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを発現させ実行させることができる。

    ここで、インパルス熱ショック法を用いた動作では、対象とする動物は原生動物テトラヒメナである。 具体的には、原生動物テトラヒメナを純粋培養する培養フラスコ75,76と、テトラヒメナの生存に適した温度設定の恒温水槽51と、テトラヒメナの生存に不適合な温度設定の恒温水槽52と、培養フラスコ75,76を2つの恒温水槽51,52間で移動させる移動機構(54,51a)と、その移動機構をタイマー制御する制御装置であるマイクロコンピュータ60とを備え、培養フラスコ75,76を恒温水槽51から恒温水槽52に移動させることにより、純粋培養中のテトラヒメナの温度環境を生存に適した温度環境から生存に不適合な温度環境に速やかに変化させて自己解体プログラムを起動し、その後予め定められた時間の後に、培養フラスコ75,76を恒温水槽52から恒温水槽51に移動させることにより、生存に適した適合生育温度環境に変化させて自己解体プログラムを誘導する。 テトラヒメナの遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを発現させ実行させることができる。 従って、培養液中のほぼすべての原生動物テトラヒメナに同時に自己解体プログラムを発現させ実行させることが可能となる。

    また、インパルスpHショック法を用いた動作では、対象とする原生動物テトラヒメナを純粋培養する培養フラスコ75,76と、培養フラスコ75,76を振盪する回転振盪機54と、培養フラスコ75内に強酸溶液あるいは強塩基溶液を注入する装置機構(61,61a,62,62a,71,72,73,74)と、培養フラスコ76内にインパルスpHショック後に例えばTris−HCl緩衝液(Tris baseという弱塩基と塩酸の強酸で構成される中性領域の緩衝液をいう。)などの緩衝液を注入する装置機構(図20の送液ボトル71,72の両方から送液することにより当該緩衝液を生成して送液する機構(61,61a,62,62a,71,72,73,74)と、上記二つの装置機構をタイマー制御する制御装置であるマイクロコンピュータ60とを備え、テトラヒメナ培養環境のpH条件を生存に適した条件から生存に不適合な条件に速やかに変化させて自己解体プログラムを起動し、その後予め定められた時間の後に速やかに生存に適したpH条件に変化させることによって生存に適した適合生育温度環境に変化させて自己解体プログラムを誘導する。テトラヒメナの遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを発現させ実行させることができる。従って、培養液中のほぼすべての原生動物テトラヒメナに同時に自己解体プログラムを発現させ実行させることが可能となる。なお、緩衝液については、pHショック後、先に投与した塩酸と後から投与した中和当量の弱塩基tris base)が培養液中で緩衝液(Tris−HCl緩衝液)を形成し、この後細胞が解体終了するまで、この緩衝液は存在することになる。

    上記の2つのインパルス・ショック法を用いるときに、インパルス・ショックを与えるタイミングの前又は後の時刻において、遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤であるアクチノマイシンDを薬液ボトル73より投与することにより自己解体遺伝子群の発現を抑制することができる。 すなわち、DNAからRNAへの転写を阻害する試薬アクチノマイシンDの投与によって、上述のように、単細胞生物の遺伝子にプリセットされている自己解体プログラムの発現が抑制されることを示唆する実験結果を得た。 アクチノマイシンDのような転写阻害剤が自己解体遺伝子群の発現を抑制する効果を、人間などの高等動物に応用した場合、遺伝子に書き込まれた自己解体プログラムが起動することによって誘発される様々な現代病の防御効果、さらに健康維持と延命効果に結びつく可能性が示唆される。

    図19を参照して上述したように、典型的な遺伝子転写阻害剤(又はタンパク質合成阻害剤)であるアクチノマイシンDを、インパルス・ショック開始時点から、
    (A)25分後に最終濃度0.2mMで投与し、又は(B)10分前に最終濃度0.2mMで投与し、もしくは、
    (C)10分前に最終濃度0.05mMで投与する条件で30〜40%の細胞が一旦は開始した自己解体プロセスを停止し、細胞運動を再開するという結果を得ている。 ここで、アクチノマイシンDの投与は、インパルス・ショック開始時点の10分前から25分後までの所定の期間に行ってもよい。

    以上説明したように、本実施形態によれば、生命が生存する環境条件を生存不適合な条件に速やかに変化させ、その後速やかに生存に適した条件に変化させることによって、遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを発現させ実行させることを特徴としている。 従って、自己解体を誘導する生存不適合な環境条件に原生動物テトラヒメナが曝された際、予め定められたタイミングで遺伝子転写を阻害しあるいはタンパク合成を阻害することによって、遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムの発現させ実行を停止し保留することができる。

    以上の実施例において、遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤として、アクチノマイシンDを用いているが、本発明はこれに限らず、遺伝子転写阻害剤として、α-アマニチン(α-amanitin)、DRB (5,6-Dichlorobenzimidazole Riboside)又はコルジセピン(cordycepin)を用いてもよい。 また、タンパク合成阻害剤として、シクロヘキシミド(cycloheximide)、ピューロマイシン(puromycin)又はクロラムフェニコール(chloramphenicol)を用いてもよい。

    以上の実施例において、原生動物テトラヒメナに対してインパルス・ショック法による処理及び遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤を用いた処理を行っているが、本発明はこれに限らず、原生動物テトラヒメナ以外の動物などの地球生命に対して処理を行ってもよい。 なお、上記動物には人間を含むが、処理方法では、人間を除いてもよい。

    第3の実施形態.
    第3の実施形態では、上述の人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の実施例について以下に詳述する。 図21は本発明の第3の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10の構成を示すブロック図である。

    人工生命シミュレータ装置等のSIVAシリーズの装置は、地球環境と地球生命についての本発明者らの理解を深化させるとともに、それらが現実に直面している様々な問題の解決に資するための知見を得ることを目的として開発されてきた。 そのために、現実の地球環境と地球生命が特異的に備えている様々な特性を抽出してモデル化することにより、現存する地球生命とのより緊密な関係性を構築するという戦略をとってきている。 これによって、理論的には想定可能であるが現実の地球環境や生命を操作することでは検証不可能な様々な仮説、例えば生態系や進化に関連する仮説などをモデル化し、シミュレーション装置によって検討することを可能にした。 こうしたSIVAシリーズの装置開発の根底に横たわる「現存する地球生命との緊密な関係性」は、従来の人工生命シミュレータ装置の多くが、現存する地球環境及び地球生命が備えている特異的な特性をある種の拘束条件として捉え、人工生命をできるだけそういった現実の拘束条件から乖離させる方向で開発されてきたことと好対照をなしている。

    実際にこれまでのSIVAシリーズの装置開発においては、場所毎に異なる環境条件をもった有限で不均質な空間として仮想生態系を構成し、そこに棲息する仮想生命体のあらゆる生命活動を化学反応として定義するとともに、仮想生命体が自ら増殖するだけでなく、寿命や環境条件との不適合によって自らを死に至らしめる機能(自己解体メカニズム)を備えるなど、地球環境・生命に固有の特性をモデル化したシミュレータを発明してきた。 また、実際にそれらを用いて、死を有し自己解体メカニズムを有する仮想生命が、自己解体メカニズムをもたない不死の仮想生命に対して、増殖と進化において明らかに優位であることを示し、地球生態系の主要な特徴である有限で不均質な棲息環境において、死と自己解体メカニズムが著しい有効性をもつことを証明した。 こうした背景のもと、以下の機能を実現する人工生命シミュレーション装置10を考案した。

    本実施形態の人工生命シミュレーション装置10は、図21に示すように、デジタル計算機又はコンピュータを含むように構成され、例えば図41乃至図49の処理を実行することにより、人工生命のSIVAシミュレーション処理を実行し、そのシミュレーション結果を表示して出力する。 人工生命シミュレーション装置10は、
    (a)当該人工生命シミュレーション装置10の動作及び処理を演算及び制御するコンピュータのCPU(中央演算処理装置)20と、
    (b)オペレーションプログラムなどの基本プログラム及びそれを実行するために必要なデータを格納するROM(読み出し専用メモリ)21と、
    (c)CPU20のワーキングメモリとして動作し、各処理において必要なパラメータやデータを一時的に格納するRAM(ランダムアクセスメモリ)22と、
    (d)例えばハードディスクメモリで構成され、外部記憶装置46からの入力パラメータのデータやシミュレーション結果のデータなどのデータを格納するテーブルメモリ23と、
    (e)例えばハードディスクメモリで構成され、CD−ROMドライブ装置45を用いて読みこんだ図41乃至図49の人工生命シミュレーション処理プログラムを格納するプログラムメモリ24と、
    (f)所定のデータや指示コマンドを入力するためのキーボード41に接続され、キーボード41から入力されたデータや指示コマンドを受信して所定の信号変換などのインターフェース処理を行ってCPU20に伝送するキーボードインターフェース31と、
    (g)CRTディスプレイ43上で指示コマンドを入力するためのマウス42に接続され、マウス42から入力されたデータや指示コマンドを受信して所定の信号変換などのインターフェース処理を行ってCPU20に伝送するマウスインターフェース32と、
    (h)CPU20によって処理されたデータや設定指示画面などを表示するCRTディスプレイ43に接続され、表示すべき画像データをCRTディスプレイ43用の画像信号に変換してCRTディスプレイ43に出力して表示するディスプレイインターフェース33と、
    (i)CPU20によって処理されたデータ及び所定のシミュレーション結果などを印字するプリンタ44に接続され、印字すべき印字データの所定の信号変換などを行ってプリンタ44に出力して印字するプリンタインターフェース34と、
    (j)図41乃至図49の人工生命シミュレーション処理プログラムが記憶されたCD−ROM45aから人工生命シミュレーション処理プログラムのプログラムデータを読み出すCD−ROMドライブ装置45に接続され、読み出された解析シミュレーション処理プログラムのプログラムデータを所定の信号変換などを行ってプログラムメモリ24に転送するドライブ装置インターフェース35と、
    (k)外部記憶装置46に接続され、外部記憶装置46に記憶された外部データを読み込んで所定の信号変換を行った後、CPU20又はテーブルメモリ23に転送する外部記憶装置インターフェース36とを備える。
    ここで、これらの回路20−24及び31−36はバス30を介して接続される。

    図22は図21のCPU20の内部構成を示すブロック図であり、図23は図22の仮想CPUコア20Aとテーブルメモリ23との関係を示す図である。 ここで、当該人工生命シミュレーション処理においては、人工生命体の各個体は、図22に示すように、CPU20内の仮想CPUコア20Aにおいて、仮想的に実現される仮想CPU20−1乃至20−N(Nは個体数である。)に対応づけられ、おのおの互いに独立に生命活動を行うことができる。 また、環境に関わる部分は、まず、人工生命体が生息する領域を仮想的に格子状に分割し、テーブルメモリ23上に、各格子ごとにその格子内での生物の存在の有無、エネルギー量、物質量等が記憶され、これについては詳細後述する。

    人工生命シミュレーション処理を行うにあたっては、CPU20の資源の特性として最も重要なものが以下の2つである。 1つは、CPU20の速度で、速ければ速いほどたくさんの情報処理が短い時間で行なえる。 これは、エネルギーがたくさん得られれば得られるほどたくさんの化学反応を起こして、自分の体をつくったり子孫を残したりあるいは自分を解体したりなど多くの生命活動ができることに対応する。 もう1つは、メモリ空間であって、コンピュータで実行されるプログラムやそのためのデータはテーブルメモリ23上におかれる。 大きく複雑なプログラムほど大きなメモリ空間を必要とする。 これはちょうど身体の大きな生物ほど、広い空間とその身体を構成する物質を必要とするのと同じである。

    人工生命シミュレーション装置10においては、人工生命体(デジタル生物)たちはそれぞれ、仮想CPU20−1乃至20−Nにより実行される独立したプログラムと考えられる。 それらのプログラム(デジタル生物)たちは基本的な機能として自己複製能力および自己解体能力がなければならない。 これらデジタル生物の目的は、より多く自分と同じプログラムをメモリ空間上に増やし続けていくことである。 デジタル生物たちは同時に複数存在するが、一般のコンピュータシステムではCPU20は1つしかないのが普通である。 従って、本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10においては、順番にそれぞれの生物にCPU20の利用時間を割当てる。 より多くのCPU時間を得た生物は生存競争においてそれだけ優位に立てることに相当する。

    本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10においては生物はプログラムであると述べたが、それらは専用の言語(以下、世界記述言語という。)で記述されている。 言い換えれば、当該人工生命シミュレーション装置10は、仮想コンピュータを現実のコンピュータ上で実現するものである。 本物のコンピュータから見ると、それは、オペレーティングシステムの上で実行されるプログラムの1つにすぎない。 しかしながら、シミュレーションプログラム自体は1つの完全なコンピュータシステムとしての機能を有する。 そして、デジタル生物たちのそれぞれのプロセスはこの仮想コンピュータ上の仮想プロセスとして実現されることになる。 上述のように当該シミュレータ装置10を仮想コンピュータとして実現したのは、以下のようないくつかの利点があるからである。

    まず、もし、デジタル生物が本物の機械語で記述され、それが本物のコンピュータの上で直接実行されることになれば、それはコンピュータウィルスやワームのように、コンピュータシステムに対して悪い影響を与えるおそれがある。 しかし、デジタル生物が仮想コンピュータ用の言語で記述されているならば、それは、例えば本物のコンピュータにとってはワープロソフトの文書ファイルのような単なるデータにすぎない。 ここで、本物の機械語は、それぞれのハードウェア固有の命令セットにより構成されている。 デジタル生物を、ある本物の機械語で記述してしまうとそのハードウェアが技術の進歩により陳腐化した場合、もう一度新しいハードウェア用の機械語に書き直さなければならなくなる。 これに対して、仮想コンピュータであるならば、このシミュレーション言語自体の移植さえできれば、デジタル生物の機械語を修正する必要はない。

    また、既存の多くの機械語は、それで記述されたコードが進化できるように設計されていない。 フォン・ノイマン型コンピュータの機械語は、そのわずか一部でもランダムな変更を受けるとプログラムとして機能しなくなる。 したがって、高度な突然変異などの処理を施すことはほとんど不可能である。 仮想コンピュータで使用される機械語ではこのような脆弱性を回避するための工夫をすることが可能となる。

    以下に説明する本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10においては、プログラムされた自己解体モデル(PSDモデル:programmed self-decomposition model)というモデルをその基礎としている。 PSDモデルは、地球のすべての生命体に上述したような自己解体メカニズムがプログラムされており、このメカニズムが生態系の物質的・空間的な原状回復に貢献していることを仮定している。 また、以下の人工生命シミュレーション装置10においては、地球生態系もそうであるように、有限で不均質な環境におけるシミュレーションを可能としている。

    図23は、本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10において、仮想CPU20−1乃至20−Nが行う処理を説明するための概念図である。 図23において、仮想CPU20−1乃至20−Nにそれぞれ対応して、テーブルメモリ23上には個体情報の記憶領域23−1乃至23−Nが設けられる。 個体情報の記憶領域23−1乃至23−Nの各々には、各個体の遺伝子情報に相当する構成的情報(インフォメーション)と、オートマトンとして機能するための情報(オートマトン情報)と、各個体の活動変数の情報と、各個体の状態情報とが格納されている。 すなわち、仮想CPU20−1乃至20−Nは、対応する個体情報の記憶領域23−1乃至23−Nに基づいて処理を行なうことにより「オートマトン」として機能する。 さらに、「インフォメーション」に基づいて、メモリ130中に新たな個体情報の記憶領域を複製し、新たな仮想CPUに処理時間を割り当てることで、自己増殖を行なうことができ、逆に、個体情報の記憶領域に格納された情報を分解し、仮想CPUの割り当て処理時間を削除することで、「自己解体」を行なうことができる。

    ここで、「各個体の活動変数」とは、生存領域中の各格子における物質採り込みゲイン(採り込み効率)、各格子におけるエネルギー採り込みゲイン(採り込み効率)、自己複製時の突然変異率、温度による活動率(温度に応じた処理速度)や、自己解体時において物質が解体される際の放出エネルギー効率などがある。 また、「各個体の状態情報」とは、各個体の位置(生存領域中の格子位置)、年齢、また、各個体に対応する仮想CPUのプログラム処理時に発生したエラー回数などがある。

    上述のとおり、各個体の自己複製時には、一定の確率で「インフォメーション(遺伝情報)」の一部に突然変異が発生する。 言いかえると、メモリに格納された「インフォメーション」の情報において、「0」と「1」との間の置き換えが発生する。 また、後に説明するように、現実の生物において宇宙線などの影響により突然変異が発生することに対応して、環境情報の処理中においても、テーブルメモリ23に格納された情報の一部において、「0」と「1」との置き換えを発生させる。 これに応じて、仮想CPU20−1乃至20−Nのプログラム処理時には、エラーが発生する場合があるが、仮想CPUでは、処理が停止することなく、エラーの発生が情報として記録される。 これにより、例えば、「年齢」が所定の値に達した場合(寿命)の他、「エラー」の発生回数が所定の回数を超えると、「自己解体」処理が行われるように、設定しておくことが可能となる。 また、各個体の物質の採り込み量やエネルギー採り込み量などについても、所定量を超えたか否かに応じて「自己解体」処理が行われるように、設定しておくことも可能である。

    テーブルメモリ23には、さらに、生存領域を格子状に分割した各領域の情報を格納するための領域23Aが設けられる。 上述のように、「各個体の状態情報」には、これらの格子位置のいずれに各個体が位置するかの情報が格納されており、これに基づいて、各仮想CPU20−1乃至20−Nのプログラム実行時に、その個体の位置に依存する情報が参照される。 「各領域の情報」としては、その格子中にいる生物の個体数や、物質量、例えば、後に説明するエレメントの量の情報や、エネルギー量の情報や、温度の情報などが含まれる。 例えば、オートマトンがオートマトンを作成するという処理を行なう際には、その個体の位置における物質量やエネルギー量が制約条件となり、インフォメーションをコピーする(遺伝子の複製を作成する)ときにも、その個体の位置における物質量やエネルギー量が制約条件となる。 さらに、分裂をする際には、空間の空きが存在するかが制約条件となる。

    つまり、本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10においては、システムは、MIMD型(同時に複数の命令を異なる複数のデータに対して行なう並列コンピュータのタイプ)の並列コンピュータシステムを意識して作成されている。 それぞれのデジタル生物が1つの仮想的なCPUを持つように設計されているが、これは、上述のとおり実際はCPU時間を小さなタイムスライスに分割することにより実現されているものである。 この仮想コンピュータでは、各仮想CPUは、特に限定されないが、例えば、2つのアドレス用レジスタ、2つの数値用レジスタ、エラーフラグ用レジスタ、スタックポインタ、10ワード分のスタック、そして命令ポインタなどを備えている。

    図40は図21の人工生命シミュレーション装置10によって実行されるSIVAシミュレーション処理の全体構成を示す図であり、人工生命シミュレーション処理の流れを説明するための概念図である。 図40において、人工生命シミュレーション処理の単位時間においては、CPU時間は小さなタイムスライス(以下、単位時間(タイムカウントTC)という。)に分割されており、各単位時間(TC)が各個体の処理に対応する。 さらに、当該シミュレーションの単位時間中の各個体に対する処理の前後で、環境に対する処理が行われる。 これは、例えば、生存領域における物質の拡散、エネルギーの再生産や拡散処理等に相当する。 言いかえれば、当該人工生命シミュレーションでは、物質や、エネルギー、それに対応する温度などのパラメータが不均質な場合でもシミュレーションを可能としている。

    各個体の処理においては、仮想CPUがオートマトンの処理を行なうとともに、個体の移動処理を行なう。 この各オートマトンの処理中に、上述した「自己解体」に対応するオートマトンの処理が行われることになる。 個体の移動は、ランダムな要素だけでなく、物質濃度やエネルギー分布に応じて、個体の生存により望ましい位置に向けて移動が行われように設定される。 ここで、環境は、上述のとおり有限な大きさを持つ2次元平面からなる。 これは、16×16のブロックに分かれ、存在する物質量・エネルギー量・温度などの初期値を各ブロックごとに個別に指定できる。 各ブロックは8×8ピクセルで構成されており、1つのピクセルに1つの生命個体が存在できる。 ここで挙げた数値はすべて変更可能であり、シミュレーションを実行するコンピュータのメモリ容量が許せばもっと大きなサイズの環境を作ることもできる。

    次いで、プログラムされた自己解体モデルについて以下に説明する。 地球生態系の原状回復メカニズムにおける生命体の死は、生態系の原状回復に貢献し、進化を促進する、進化の結果得られた果実であると考えられる。 地球生態系は、空間的・物質的に限りがあり、ほとんど閉鎖系の性格を有している。 従って、地球の生命活動を安定して維持するためには、生命活動によって環境から摂取された空間と物質とは再び環境に還元されなくてはならない。 そこで、この原状回復メカニズムについての「食物連鎖」仮説を補うモデルとして、自己解体モデルを考慮したシミュレーションが必要になる。 すなわち、現実の地球生態系では、植物連鎖メカニズムに基づいて環境の原状回復が行われている一方で、生物が積極的に自己を解体し、環境の原状回復に貢献しているというもう1つのメカニズムを顕在的に取扱うシミュレーションを扱う。

    図24は図21の人工生命シミュレーション装置10において、自己増殖し自己解体する各オートマトン(SRSDシステム)を示す表である。 すなわち、図24において、フォン・ノイマンの自己増殖オートマトンモデルを発展させ、自己増殖し、かつ自己解体するオートマトンの概念を示す。 図24に示されるシステムGは、G自身を複製でき、また、そのシステムの一部としてFZ、すなわち全システムをその構成要素に解体する機能を持つモジュールを作ることができる。 オートマトンFZは、オートマトンGが生息している生態系全体で共同利用できるような大きさと構造とを持つ有限種類の要素にまでオートマトンGを解体する能力を持つ。 オートマトンFZの活動は以下に説明するような3つのモードのいずれをもとることができる。

    解体モジュールFZの活動モードにおいて、
    (1)通常は生産が抑制されている。 特定のメッセージの入力が、抑制を解除し、生産が活発化する。
    (2)通常は作動が抑制されている。 特定のメッセージの入力が、抑制を解除し、作動が活発化する。
    (3)上記(1)と(2)の双方が行われている。

    さらに、一定時間を過ぎても、あるいは、一定の事象が発生した後にもトリガとなる情報入力がなかった場合、(1)、(2)、(3)のいずれかが自動的に起動するものとする。 以上説明したようなオートマトンGは、自己増殖するだけでなく、自己の生を終わらせ、その元の姿に戻す能力を持っている。 すなわち、生態系の原状回復に貢献する力を持っている。 このシステムを「SRSDシステム(self-reproduction self-decomposition system)」と呼ぶことにする。

    本実施形態においては、図23に示すように、仮想生命個体情報の記憶領域23−1乃至23−Nの各々には、各仮想生命個体の遺伝子情報に相当する構成的情報と、生命活動をになう機能オートマトン情報と、各仮想生命個体の活動変数の情報と、各仮想生命個体の状態情報とが格納されている。 人工生命シミュレーション装置10においては、仮想生命個体たちのもつ機能オートマトン情報はそれぞれ、仮想CPU20−1乃至20−Nにより実行される独立したインタプリタ言語のプログラム文として取り扱われる。 これが実行されることによって自己増殖・自己解体などの仮想生命の生命活動が実現される。 仮想生命個体の自己増殖・自己解体は、例えば、上述の図24のメカニズムで実現される。 また、仮想空間に関わる部分は、まず、仮想生命個体が生息する仮想空間(例えば二次元平面)を格子状に分割し(この格子を「空間ブロック」という。)、さらに空間ブロックを格子状に分割する(この格子を「棲息点」という。)。 メモリ130上に、各棲息点での生物の存在の有無、各空間ブロック内でのエネルギー量、物質量等が記憶されているものとする(図23参照。)。

    図25は図21のテーブルメモリ23の内部構成を示すブロック図である。 テーブルメモリ23は、シミュレーション設定テーブル23aと、仮想空間の環境設定テーブル23bと、仮想生命個体の一般情報テーブル23cと、仮想生命個体の個別情報テーブル23dと、生体分子組成設定テーブル23eと、機能ユニットの対応テーブル23fと、機能モジュール群モノマーの対応テーブル23gと、解放及び吸収時のエネルギー量テーブル23hとを備えて構成される。 以下、各テーブル23a乃至23hの詳細について説明する。

    まず、図23のシミュレーション設定テーブル23aは例えば以下の設定データを記憶する。
    (1)開始タイムカウント(TC)(例:0);
    (2)終了タイムカウント(TC)(例:1000);
    (3)乱数発生のための初期値;
    (4)表示モード/非表示モードの選択;
    (5)ログ出力モード/ログ非出力モードの選択;
    (6)ログ出力先:及び(7)仮想生命個体の表示色指定ほか。

    次に、図23の仮想空間の環境設定テーブル23bは例えば以下の設定データを記憶する。 なお、シミュレーションを通じて不変の環境設定・環境条件、及びシミュレーションの進行に従って変化する環境条件変数が記載される。
    (1)仮想空間サイズ(例:128×128);
    (2)空間ブロックサイズ(例:8×8);
    (3)生体分子の空間ブロック間拡散係数;
    (4)生体分子の利用可能状態係数;
    (5)エネルギーの利用可能状態係数;
    (6)空間ブロック毎の環境条件の標準値(例:各種物質標準量、エネルギー標準量、エネルギー補充標準量、温度、pHであり、その一例を図26に示す。);及び7)空間ブロック毎の環境条件(変数)(シミュレーション開始時にはここで初期値を指定する。)(例:各種物質量、エネルギー量、温度、pHであり、3次元図で表現した環境条件分布例(各初期値及び温度のみ標準値である。)を図7bに示す。)。

    次に、図23の仮想生命個体の一般情報テーブル23cは例えば以下の情報データを記憶する。 ここで、すべての個体に共通する条件設定が記載される。 原則的にシミュレーションを通じて変化しない定数である。
    (1)生体分子の環境からの摂取効率;
    (2)エネルギーの環境からの摂取効率;
    (3)生体分子分解時の環境へのエネルギー解放効率;
    (4)突然変異率;及び(5)仮想生命個体が空間ブロック間を移動する/しないの選択。

    次に、図23の仮想生命個体の個別情報テーブル23dは例えば以下の情報データを記憶する。 シミュレーション開始時に存在する仮想生命個体について、一個体毎に次のような情報が記載される。 シミュレーション進行に従って個体は増減する。 また、個々の個体のもつ個々の値・条件内容が変化する条件と原則的に変化しない条件とがある。
    (1)棲息点の座標;
    (2)個体の有する構成的情報群の仮想生体単量体(モノマー)配列(一例を以下に示す。);

    [表2]
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    例:
    WZxxx WZzzz WZyyy WZzzz WYyyy WYyyy WWyyy Wyyyy Wyyyy Wyyyy
    XWyyy XXyyy Xwwww Xwyyy Xwxxx WYwxx WWxzz Wywzz Wyyxx Wyyzz
    XWxxx XWzzz Xwzzz Xwwww Xwyyy WYxxx WWzzz Wzyyy Wzzzz Wxyyy
    (以下同様である。)
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    (3)個体の有する機能モジュール群の仮想生体単量体(モノマー)配列(一例を以下に示す。);

    [表3]
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    例:
    LLLLK KIKKK(SIVA言語で表現すると、ID1)
    OPOOO KIKKK(SIVA言語で表現すると、syntha)
    OOOOO KILLJ(SIVA言語で表現すると、movef)
    (以下同様である。)
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    (4)生体分子を環境から摂取する際、探索する生体分子階層の順序(一例を以下に示す。);

    [表4]
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    例1:仮想生体単量体(モノマー)→仮想生体有機素材→仮想生体無機素材→終わり;
    例2:仮想生体単量体(モノマー)→仮想生体有機素材→終わり;
    例3:仮想生体無機素材→終わり。
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    (5)最適温度;
    (6)最適温度と環境温度との差分が機能単語実行確率に及ぼす影響である活性係数t(一例を図28に示す。);
    (7)最適pH;
    (8)最適pHと環境内pHとの差分が機能単語実行確率に及ぼす影響である活性係数p(一例を図29に示す。);及び(9)素材とする生体分子濃度が、生体分子合成実行確率に及ぼす影響である活性係数c(一例を図30に示す。)。

    なお、図29から明らかなように、仮想生命個体の構成的情報(遺伝情報)に記された最適pHに環境pHが近いほど機能単語実行率が高くなる。 また、図30から明らかなように、素材物質濃度が高いほど、例えばミカエリス・メンテンの式に従って機能単語実行率が高くなる。

    次に、図23の生体分子組成設定テーブル23eは例えば以下の設定データを記憶する。
    (1)生体分子の原子間ネットワークの複雑性に基づく仮想生体分子の階層構造の設定データ(一例を図17に示す。);
    (2)仮想生体有機素材の仮想生体無機素材組成と結合エネルギー(一例を図31に示す。);及び(3)仮想生体単量体の仮想生体有機素材組成と結合エネルギー(一例を図32に示す。)。

    次に、図23の機能ユニットの対応テーブル23fは例えば以下の対応情報データを記憶する。
    (1)「機能単語」:図33は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「機能単語」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。
    (2)「一時的情報単語(変数)」:図34は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(変数)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。
    (3)「一時的情報単語(ピリオド)」:図35は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(ピリオド)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。
    (4)「一時的情報単語(関係演算子)」:図36は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(関係演算子)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。
    (5)「一時的情報単語(ID:識別子)」:図37は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(ID:識別子)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。
    (6)「一時的情報単語(数値)」:図38は図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(数値)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    次に、図23の機能モジュール群モノマーの対応テーブル23gは例えば以下の対応情報データを記憶する。
    (1)仮想遺伝子コドン毎の対応する機能モジュール群モノマー:図39は図21の人工生命シミュレーション装置10における、構成情報群の「機能ユニット(仮想遺伝子コドン)」が決定する機能モジュール群モノマーの対応例を示す表である。

    さらに、図23の解放及び吸収時のエネルギー量テーブル23hは例えば以下の設定データを記憶する。
    (1)人工生命を構成する仮想物質階層間の移行にあたって解放及び吸収されるエネルギー量(一例を図18に示す。)

    さらに、図40の人工生命シミュレーション処理について図41乃至図49を参照して以下に説明する。

    図41は図40のSIVAシミュレーション処理のメインルーチンを示すフローチャートである。 図41において、まず、ステップS1において初期化処理を実行する。 ここで、図23のテーブルメモリ23の各テーブル23a乃至23hのデータについて、外部記憶装置46から読み出して、テーブルメモリ23に格納する。 ステップS2において、シミュレーションの単位時間(タイムカウント:TC)が、シミュレーション設定で指定された終了タイムになるまでループ処理を、ステップS9までの間で実行する。 次いで、ステップS3においてポーズ状態かであるか否かが判断され、YESとなったとき、ステップS4に進み、1単位時間(1TC)のシミュレーション(単位時間内の処理:図42参照。)を実行する。 そして、ステップS5において非表示モードかであるか否かが判断され、YESのときはステップS7に進む一方、NOのときはステップS6に進む。 ステップS6において画面を更新し、ステップS7においてログ出力モードかであるか否かが判断され、YESのときはステップS8に進む一方、NOのときはステップS9に進む。 ステップS8においてログを出力し、ステップS9においてループ処理が終了すれば、ステップS10に進み、後処理(テーブルメモリ23の内容を外部ファイルに出力する処理など)を実行して当該SIVAシミュレーション処理を終了する。

    図42は図41のサブルーチンである単位時間内の処理(ステップS4)を示すフローチャートである。 図42の単位時間内の処理は、ステップS11乃至S13の前処理と、ステップS14乃至S20の各仮想生命個体の処理と、ステップS23乃至S34の後処理とを含む。

    図42において、まず、ステップS11において統計カウンタをゼロにクリアし、ステップS12において放射線による突然変異の処理を行った後、ステップS13において個体の活動順序を乱数に拠って決定する。 次いで、ステップS14からステップS20までにおいて個体の数だけループ処理を実行する。 ステップS15において活動順序の個体を選択し、ステップS16において個体内に構成的情報又はオートマトンが存在するか否かが判断され、YESのときはステップS17に進む一方、NOのときはステップS21に進む。 ステップS17においてこの単位時間内に誕生した新個体であるか否かが判断され、YESのときはステップS20に進む一方、NOのときはステップS18に進む。 ステップS18において仮想生命個体を活動させ、すなわち、仮想生命個体の活動処理(図43参照。)を実行し、ステップS19において生きている個体数の統計をカウントアップし、ステップS20に進む。 一方、ステップS21において死んだ個体数の統計をカウントアップし、ステップS22において当該個体の個別情報を消滅させ、ステップS20に進む。 ステップS20においてすべての個体の数だけループ処理を実行すれば、当該ループ処理を終了してステップS23に進む。

    ステップS23において新個体の齢ageを0にリセットし、ステップS24において生まれた個体数の統計を新個体の数だけカウントアップし、ステップS25において個体を拡散する設定であるか否かが判断され、YESのときはステップS26に進む一方、NOのときはステップS27に進む。 ステップS26において個体を拡散し、ステップS27に進む。 ステップS27において生体無機素材を拡散する設定であるか否かが判断され、YESのときはステップS28に進む一方、NOのときはステップS29に進む。 ステップS28において生体無機素材を拡散し、ステップS29に進む。 ステップS29において生体有機素材を拡散する設定であるか否かが判断され、YESのときはステップS30に進む一方、NOのときはステップS31に進む。 ステップS30において生体有機素材を拡散し、ステップS31においてモノマーを拡散する設定であるか否かが判断され、YESのときはステップS32に進む一方、NOのときはステップS33に進む。 ステップS32においてモノマーを拡散し、ステップS33において環境のエネルギーを補充する。 そして、ステップS34において単位時間(TC)を1つ進め、元のメインルーチンに戻る。

    図43は図42のサブルーチンである仮想生命個体の活動処理(ステップS18)を示すフローチャートである。 図43の仮想生命個体の活動処理は、ステップS41乃至S43の前処理と、ステップS44乃至S47の各機能オートマトンの処理とを含む。

    図43において、まず、ステップS41において活動停止時間unacrive_tcを0にリセットし、ステップS42において齢ageを1だけ増加させ、ステップS43において機能オートマトンの活動順序を乱数を用いて決定し、ステップS44に進む。 ステップS44からステップS47までにおいて機能オートマトンの数だけループ処理を行う。 ただし、分裂「divid」が実行された場合はループ処理から抜けて元のサブルーチンに戻る。 ステップS45において活動順序の機能オートマトンを選択し、ステップS46において機能オートマトンを活動させ、すなわち機能オートマトンの処理(図44参照。)を実行し、ステップS47に進む。 ステップS47において、すべての機能オートマトンの数だけループ処理を実行すれば、元のサブルーチンに戻る。

    図44は図43のサブルーチンである機能オートマトンの処理(ステップS46)を示すフローチャートである。 図44の機能オートマトンの処理は、ステップS51の前処理と、ステップS52乃至S65の各機能オートマトン内の各単語の処理とを含む。

    図44において、まず、ステップS51においてSIVA言語文章解析のための変数単語待ち状態を初期化するとともに判定結果フラグの値を真とし、ステップS52に進む。 ステップS52からステップS56までの間において単語の数だけループ処理を実行する。 まず、ステップS53において単語の種類wtに従って分岐し、単語の種類wtが「ピリオド」であればステップS54に進み、単語の種類wtが「演算子又は変数、数値」であればステップS57に進み、単語の種類wtが「機能単語」であればステップS60に進む。 ステップS54では、文末処理を行い、ステップS55において単語待ち状態を初期化し、判定フラグの値を真とする。 ステップS56においてすべての単語の数だけループ処理を実行すれば当該ループ処理を終了して元のサブルーチンに戻る。 また、ステップS57において演算子単語又は変数単語、数値単語の処理を行い、その結果の条件式判定が真の場合はそのままステップS56に進み、偽の場合はステップS59で判定結果フラグの値を偽にした後にステップS56に進む。 さらに、ステップ60において判定結果フラグの値を判定し、真の場合はステップS61の機能単語の処理に進み、偽の場合は機能単語処理をスキップしてステップS56に進む。 ステップS61において機能単語の処理(図45参照。)を実行した後、ステップS62において正常終了であるか否かが判断され、YESのときはステップS63に進む一方、NOのときはステップS64に進む。 ステップS63において機能単語が「divd」、「decsfm」、「decsfg」、「decsfe」のいずれかであるか否かが判断され、NOのときはステップS65に進む一方、YESのときはループ処理を終了してリターンし、処理を終了する。 ステップS64において不適合度合(Unconformity)を1だけ増加し、ステップS66において単語待ち状態を初期化するとともに判定結果フラグの値を真にした後、ステップS56に進む。 ステップS56では、すべての単語の数だけループ処理を実行すれば当該ループ処理を終了して元のサブルーチンに戻る。

    図45は図44のサブルーチンである機能単語の処理(ステップS61)を示すフローチャートである。 図45の機能単語の処理は、ステップS71乃至S79の前処理と、ステップS80乃至S85の実質的な機能単語の処理とを含む。

    図45において、まず、ステップS71において機能単語の前に条件文があった場合その判定は真か偽かであるか否かが判断され、YESのときはステップS72に進む一方、NOのときは正常終了する。 ステップS72においてテーブル23bから環境温度を取得し、ステップS73においてテーブル23dから、最適温度を得て、環境温度との差異を計算する。 ステップS74においてテーブル23dから、最適温度と環境温度との差違が機能単語実行確率に及ぼす影響である活性係数tを得て、ステップS75においてテーブル23bから環境内pHを取得する。 次いで、ステップS76においてテーブル23dから最適pHを得て、環境内pHとの差違を計算し、ステップS77においてテーブル23dから、最適pHと環境内pHとの差違が機能単語実行確率に及ぼす影響である活性係数pを得る。 そして、ステップS78において1.0×t×pを計算し、その計算値を機能単語実行確率とする。 そして、ステップS79において0.0から1.0までの乱数を発生させ、乱数値が機能単語実行確率よりも小さいか否かが判断され、YESのときはステップS80に進む一方、NOのときは異常終了する。

    ステップS80において機能単語fwに従って分岐する。 機能単語が「syntha」であればステップS81に進み、機能オートマトン合成処理(図46乃至図47参照。以下、第1の生体分子合成処理という。)を実行し、元のサブルーチンに戻る。 また、機能単語が「copyi」であればステップS82に進み、構成的情報複製処理(図48参照。以下、第2の生体分子合成処理という。)を実行し、元のサブルーチンに戻る。 さらに、機能単語が「divid」であればステップS83に進み、個体分裂処理を実行し、元のサブルーチンに戻る。 またさらに、機能単語が「decam」等であればステップS84に進み、自己解体処理(図49参照。以下、生体分子分解処理という。)を実行し、元のサブルーチンに戻る。 さらに、機能単語がその他の機能単語であればステップS85に進み、その他の処理を実行し、元のサブルーチンに戻る。

    図46及び図47は図45のサブルーチンである第1の生体分子合成処理(ステップS81)を示すフローチャートである。

    図46のステップS91において合成対象の機能オートマトンを決定する構成的情報群機能ユニットのリストをテーブル23dから取得し、ステップS92においてテーブル23cから突然変異率を取得し、その確率で機能ユニット内モノマーを別種類のモノマーに置換し、ステップS93において構成的情報群機能ユニットに基づいて合成される機能モジュール群モノマーのリストをテーブル23gから取得する。 次いで、ステップS94において合成の素材となる各機能オートマトン群モノマーの必要量を計算し、ステップS95において生体分子階層の、素材を探索される順番(以下、階層順序という。)をテーブル23dから取得する。 そして、ステップS96において階層順序p0に従って分岐し、階層順序poの最初の階層から順次ステップS97、S102、S108又は異常終了に分岐する。 すなわち、階層順序poの選択すべき階層が「生体単量体(モノマー)階層」であるときはステップS97に分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「生体有機素材階層」であるときはステップS102に分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「生体無機素材階層」であるときはステップS108に分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「順序列が終了」であるときは物質摂取失敗と判断して異常終了する。

    ステップS97において各モノマーの環境内存在量及び利用可能状態係数をテーブル23bから取得し、ステップS98においてその個体のモノマー摂取効率をテーブル23cから取得し、ステップS99において各モノマー環境内存在量に利用可能状態係数とモノマー摂取効率とを乗じて、各モノマー摂取可能量を計算する。 そして、ステップS100において(各モノマー必要量)<(各モノマー摂取可能量)であるか否かが判断され、YESのときは図47のステップS121に進む一方、NOのときはステップS101に進む。 ステップS101において各モノマー必要量を摂取可能量だけ減算してステップS96に戻る。

    ステップS102において各生体有機素材の環境内存在量及び利用可能状態係数をテーブル23bから取得し、ステップS103においてその個体の生体有機素材摂取効率をテーブル23cから取得し、ステップS104において各生体有機素材の環境内存在量に利用可能状態係数と生体有機素材摂取効率とを乗じて、各生体有機素材摂取可能量を計算する。 そして、ステップS105において各生体有機素材摂取可能量をテーブル23dの図32に基づいて各モノマー合成可能量に変換し、ステップS106において(各モノマー必要量)<(各モノマー合成可能量)であるか否かが判断され、YESのときは図47のステップS121に進む一方、NOのときはステップS107に進む。 ステップS107において各モノマー必要量を合成可能量だけ減算し、ステップS96に戻る。

    ステップS108において各生体無機素材の環境内存在量及び利用可能状態係数をテーブル23bから取得し、ステップS109においてその個体の生体無機素材摂取効率をテーブル23cから取得し、ステップS110において各生体無機素材の環境内存在量に利用可能状態係数と生体無機素材摂取効率とを乗じて、各生体無機素材摂取可能量を計算する。 そして、ステップS111において各生体無機素材摂取可能量をテーブル23dの図31に基づいて各モノマー合成可能量に変換し、ステップS112において(各モノマー必要量)<(各モノマー合成可能量)であるか否かが判断され、YESのときは図47のステップS121に進む一方、NOのときはステップS113に進む。 ステップS113において各モノマー必要量を合成可能量だけ減算し、ステップS96に戻る。

    図47のステップS121において階層順序p0に従って分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「生体単量体(モノマー)階層」であるときはステップS122に分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「生体有機素材階層」であるときはステップS123に分岐し、階層順序poの選択すべき階層が「生体無機素材階層」であるときはステップS124に分岐し、順序列が終了したときはステップS125に分岐する。 ステップS122においてモノマーからポリマーを合成するために必要な結合エネルギー量をテーブル23hから取得し、ステップS121に戻る。 また、ステップS123において生体有機素材からポリマーを合成するために必要な結合エネルギー量をテーブル23hから取得し、ステップS121に戻る。 ステップS124において生体無機素材からポリマーを合成するために必要な結合エネルギー量をテーブル23hから取得し、ステップS121に戻る。

    次いで、ステップS125において合成に必要な総エネルギー量を計算し、ステップS126においてエネルギーの環境内存在量及び利用可能状態係数をテーブル23bから取得し、ステップS127において当該個体のエネルギー摂取効率をテーブル23cから取得する。 そして、ステップS128においてエネルギー環境内存在量に利用可能状態係数と摂取効率とを乗じて、エネルギー摂取可能量を計算し、ステップS129において(エネルギー必要量)<(エネルギー摂取可能量)であるか否かが判断され、YESのときはステップS130に進む一方、NOのときは合成失敗と判断して異常終了する。 ステップS130において生体高分子を構成するモノマーのリストをテーブル23dの当該個体の領域に追記し、元のサブルーチンに戻る。

    図48は図45のサブルーチンである第2の生体分子合成処理(ステップS82)の第1の部分を示すフローチャートである。 図48のステップS131において複製対象の構成的情報群モノマー列のリストをテーブル23dから取得し、ステップS132においてテーブル23cから突然変異率を取得し、その確率でモノマーを別種類のモノマーに置換し、ステップS133において複製の素材となる各構成的情報群モノマーの必要量を計算する。 そして、ステップS95に進む。 ステップS95からS113までの処理は図46と同様である。 また、ステップS100、S106及びS112でYESのときは図47のS121に進み、上述と同様の処理を行う。

    図49は図45のサブルーチンである生体分子分解合成処理(ステップS84)を示すフローチャートである。 図49のステップS141において分解対象ポリマー(生体高分子)を構成するモノマーのリストをテーブル23dから取得し、ステップS142においてそれぞれの個体がもつ分解処理機能単語がどの生体分子階層に分解する種類dtであるか否かに従って分岐する。 ここで、分解する種類dtが「生体単量体(モノマー)」であるときはステップS143に分岐し、分解する種類dtが「生体有機素材」であるときはステップS145に分岐し、分解する種類dtが「生体無機素材」であるときはステップS148に分岐する。

    ステップS143においてモノマーに分解する際の解放エネルギー量をテーブル23hから取得し、ステップS144においてモノマーに分解する際の総解放エネルギー量を計算し、ステップS151に進む。 また、ステップS145において生体有機素材に分解する際の解放エネルギー量をテーブル23eの図32及びテーブル23hから取得し、ステップS146において生体有機素材に分解する際の総解放エネルギー量を計算し、ステップS147において生体有機素材に分解した結果生じる生体有機素材のリストをテーブル23eの図32から取得し、ステップS151に進む。 さらに、ステップS148において生体無機素材に分解する際の解放エネルギー量をテーブル23eの図31及び図32並びにテーブル23hから取得し、ステップS149において生体無機素材に分解する際の総解放エネルギー量を計算し、ステップS150において生体無機素材に分解した結果生じる生体無機素材のリストをテーブル23eの図31及び図32から取得し、ステップS151に進む。 そして、ステップS151において分解対象のポリマーを構成するモノマーのリストをテーブル23dの当該個体の領域から削除し、ステップS152において分解生成物質のリストと総解放エネルギー量とをテーブル23bの当該環境ブロックの領域に追加し、元のサブルーチンに戻る。

    さらに、図44の機能オートマトンの処理(ステップS46)の変形例について以下に示。 図50は図44の機能オートマトンの処理(ステップS46)の変形例を示すフローチャートである。

    図50において、まず、ステップS251において機能オートマトンIDによって分岐し、その機能オートマトンIDがID1であるときはステップS252に進み、その機能オートマトンIDがID2であるときはステップS255に進み、その機能オートマトンIDがID3であるときはステップS258に進み、その機能オートマトンIDがID4であるときはステップS263に進む。 ステップS252において一つの機能オートマトンを合成し、ステップS253において合成は成功したか否かを判断し、YESのときはそのまま元のルーチンに戻る一方、NOのときはステップS254に進む。 ステップS254において上述のように当該処理対象の個体の環境に対する環境不適合の不適合度合(Unconformity)を1だけ増加し、元のメインルーチンに戻る。 また、ステップS255において一つの仮想遺伝子を複製し、ステップS256において複製は成功したか否かを判断し、YESのときはそのまま元のメインルーチンに戻る一方、NOのときはステップS257に進む。 ステップS257において不適合度合(Unconformity)を1だけ増加し、元のメインルーチンに戻る。 さらに、ステップS258において仮想遺伝子又は機能オートマトンの数は元の倍に増えたか否かを判断し、YESのときはステップS259に進む一方、NOのときは元のメインルーチンに戻る。 ステップS259において個体を分裂し、新しい個体を産み、ステップS260において分裂は成功したか否かを判断し、YESのときはステップS261で自己増殖の完了と判断して元のメインルーチンに戻る一方、NOのときはステップS262に進む。 ステップS262において不適合度合(Unconformity)を1だけ増加し、元のメインルーチンに戻る。 またさらに、ステップS263において仮想遺伝子の数が0でかつ機能オートマトンの数は一つだけかであるか否かを判断し、YESのときはステップS264に進む一方、NOのときはステップS266に進む。 ステップS264において最後の一つの機能オートマトンを解体し、ステップS265において自己解体の完了を判断し、元のメインルーチンに戻る。 ステップS266において不適合度合(Unconformity)>2であるか否かを判断し、YESのときはステップS267に進む一方、NOのときはステップS268に進む。 ステップS267において一つの仮想遺伝子及び一つの機能オートマトンを解体し、ステップS268に進む。 ステップS268において年齢(age)>20であるか否かを判断し、YESのときはステップS269に進む一方、NOのときは元のメインルーチンに戻る。 ステップS269において一つの仮想遺伝子及び一つの機能オートマトンを解体し、元のメインルーチンに戻る。

    以上の図50の機能オートマトンの処理では、図44の処理における機能単語の種類に応じた分岐処理ではなく、機能オートマトンIDに応じた分岐処理を図示している。 本実施形態及びその変形例においては、人工生命シミュレーション装置10は、テーブルメモリ23内の各テーブル23a−23hを参照して、当該個体の環境における不適合度合い(Unconformity)が所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、テーブル23e,23hの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解してテーブル23dのデータを変更する一方、突然変異に対応してテーブル23d内の当該個体の第2の確率でかつテーブル23e,23hの合成時のエネルギー量で下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質へ合成してテーブル23dのデータを変更することを特徴としている。

    なお、以上説明した人工生命シミュレーション装置20(SIVA−T05)の仕様概要について図51乃至図56に示す。

    以上の実施形態においては、図41乃至図49の人工生命シミュレーション処理プログラムのデータをCD−ROM45aに格納して実行するときにプログラムメモリ24にロードして実行しているが、本発明はこれに限らず、CD−R、CD−RW、DVD、MOなどの光ディスク又は光磁気ディスクの記録媒体、もしくは、フロッピーディスクなどの磁気ディスクの記録媒体など種々の記録媒体に格納してもよい。 これらの記録媒体は,コンピュータで読み取り可能な記録媒体である。 また、図41乃至図49の人工生命シミュレーション処理プログラムのデータを予めプログラムメモリ24に格納して当該処理を実行してもよい。

    以上のように構成された本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10の特徴及び作用効果について以下に詳述する。 当該人工生命シミュレーション装置10の特徴は以下の2点である。
    (1)階層構造をもった仮想生体分子群によって構成される仮想生命体をシミュレーションできること(以下、第1の特徴という。)。
    (2)環境条件によってその生命活性が変化する仮想生命体をシミュレーションできること(以下、第2の特徴という。)。

    まず、第1の特徴について以下に説明する。 現存する地球生命は、互いに化学反応する複数種類の生体分子によって構成されており、それらの生体分子群は内部の原子間ネットワークの複雑さに注目して階層的に分類することができる。 その特性に注目し、人工生命シミュレータの中の仮想生命体は複数の仮想生体分子群から構成されるものとし、その中に階層構造を設定した。 そこでは、ある階層に属する仮想生体分子が結合することにより、上位の階層に属する仮想生体分子となり、またある階層に属する仮想生体分子が分解することによって、下位の階層に属する仮想生体分子となる。

    次にこうした仮想生体分子群における各階層間の移行、すなわち仮想生体分子間の結合の生成と開裂に伴うエネルギーの出入りについても、階層的な設定を可能にした。 すなわち、例えば現実の地球生命に準じて、結合の生成と開裂に伴うエネルギーの出入りを、より上位の階層間の移行ではより小さく、より下位の階層間の移行ではより大きくなるといったように設定することが可能である。

    さらに、地球生命を構成する物質リソースとして生体分子を見たとき、その共同利用性に階層構造が認められる。 最上位の階層に属する生体高分子は、個体毎に異なる分子構造をもち、他の個体はもとより同一個体内の他の組織や器官との間でも、共同利用性は保証されていない。 ところが一段下位の生体単量体では、一気に生体分子の共同利用性が向上し、同一個体内のすべての器官や組織はもとより、ほとんどの生命種の間で普遍的に再利用することが可能になる。 さらに下層でも再利用可能性が増大するものの、その程度は生体高分子から生体単量体への移行の場合ほど大きくはない。 こうした地球生命の生体分子の共同利用性の階層構造に着目し、仮想生体分子群の共同利用性を階層的に設定可能にした。

    なお、仮想生命体は環境に存在する物質とエネルギーを取り込んで増殖し、仮想生命個体が解体するときに発生する物質とエネルギーは環境に戻されるものとした。 すなわち、仮想生命体の解体に伴う仮想生体分子間の結合の開裂によって発生するエネルギーと物質は、他の個体を合成する時の仮想生体分子間の結合の生成に必要なエネルギーと物質として、再利用可能であるように設定した。

    本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置によれば、人工生命の増殖及び進化をシミュレーションする装置において、生命体を構成する生体分子が階層構造をなしており、より下位の階層の生体分子がより上位の生体分子の構成要素となっていることを特徴としている。 また、上記人工生命シミュレータ装置において、より上位の階層に属する生体分子は強い個別性を示し、すなわち生態系内での他個体・他種生命との共同利用性が低く、逆に、より下位の階層に属する生体分子は高い共同利用性を示すと同時に、生体分子合成の際に必要になるエネルギー量並びに分解の際に解放されるエネルギー量が、より上位の階層間移行であるほど小さく、より下位の階層間移行であるほど大きくなることを特徴としている。 さらに、上記人工生命シミュレータ装置において、その一つの構成要素である環境が有限不均質な環境条件をもつことができること、及び同じく一つの構成要素である人工生命個体が通常は環境から物質(生体分子)及びエネルギーを摂取して自己増殖し、条件に応じて自己を解体してそれを構成する生体分子を環境に還元することを特徴としている。

    以上のように構成することにより、本実施形態によれば、地球生命の特性をより忠実に反映した進化と増殖のシミュレーションが可能になった。 特に、生命体が解体する時に、どこの階層まで分解することが、生体資源の再利用とエネルギー消費の観点で最も効率的であるかを、上記の階層構造の設定を変化させることにより、様々な仮想的な条件のもとでシミュレートし比較することが可能になった。 このことは、地球環境の循環性持続性といった現代社会における焦眉の問題を、有限環境における物質循環あるいは物質再利用という観点から検討する上で意義深い。

    次いで、第2の特徴について以下に説明する。 地球のように有限で不均質な環境に棲息する生物は、種毎に、生存のために最適な固有の環境条件をもっている。 すなわち、最適環境条件のもとで生命活動の活性、より具体的には生命活動を担う酵素などのタンパクの活性が最大となり、そこから隔たるに従って活性が低下する。 こうした地球生命の特性に着目し、人工生命シミュレータの環境及び仮想生命体に以下の特徴を持たせた。

    人工生命が棲息する環境は、物質、エネルギー及び温度が、環境全体に不均質に分布している構造をとり、仮想生命体の活性は、個体が棲息する場所の環境条件、すなわち環境に存在する物質とエネルギーの量、及び温度に依存するものとした。 それぞれの仮想生命体には、生命活動を行うために最適な環境条件をアプリオリに定め、棲息場所の環境条件が、その仮想生命体の最適環境条件から乖離するに従って、生命活動の活性が低下するように設定した。 なおそれぞれの環境条件(物質、エネルギー、温度)の乖離の度合いと、生命活動の低下の度合いの関係は、個別に任意に設定可能であるようにした。

    本実施形態に係る人工生命シミュレーション装置によれば、上記人工生命シミュレータ装置において、環境条件が人工生命のもつ最適条件と異なる場合にその差分が大きいほど人工生命の生命活動活性を低下させることを特徴としている。

    従って、有限で不均質な地球環境における、環境と個体との相互関係をより忠実に反映した進化と増殖のシミュレーションが可能になり、「棲み分け」など地球上の生物に特徴的に観察される様々な現象についての理解をより深めることに貢献できる。

    本発明に係る人工生命シミュレーション装置及び方法によれば、上記人工生命を構成する生体分子はそれぞれ仮想生体物質の複数の階層にてなる階層構造を有するように構成され、上記記憶手段は、上記複数の階層のうち、上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質への分解時のエネルギー量及び当該下位の階層の複数の仮想生体物質の組成と、下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質への合成時のエネルギー量及び当該上位の階層の複数の仮想生体物質の組成とを含む第3のテーブルをさらに記憶し、上記演算ステップは、上記第1と第2と第3のテーブルを参照して、当該個体の環境における不適合度合いが所定のしきい値を超えるとき、もしくは当該個体の年齢が所定値を超えるとき、上記第3のテーブルの分解時のエネルギー量で上位の階層の仮想生体物質から下位の階層の複数の仮想生体物質へ分解して上記第1のテーブルのデータを変更する一方、突然変異に対応して上記第1のテーブル内の当該個体の第2の確率でかつ上記第3のテーブルの合成時のエネルギー量で下位の階層の仮想生体物質から上位の階層の複数の仮想生体物質へ合成して上記第1のテーブルのデータを変更する。 従って、地球生命の階層化について考慮し、地球生命の特性を忠実に再現することができる。

    また、本発明に係る自己解体メカニズム自動制御装置及び方法によれば、動物に対して、当該動物が生存する環境条件を生存に適した条件から生存不適合な条件に速やかに変化させることにより上記動物の遺伝子にプリセットされた自己解体プログラムを起動させた後、所定の時間後に、上記動物に対して、当該動物が生存する環境条件を、上記生存不適合な条件から上記生存に適した条件に変化させることにより上記自己解体プログラムを誘導し、所定の時点で、上記動物に対して遺伝子転写阻害剤又はタンパク質合成阻害剤を印加することにより当該動物の遺伝子転写を阻害し、若しくはタンパク合成を阻害することによって、上記自己解体プログラムの誘導を停止し保留させる。 従って、地球生命にプログラムされた自己解体メカニズムを発現し、実行し、停止しもしくは保留するように制御することができる。

    aは地球生命の生体分子の階層構造を示す図であり、bは整体分子の共同利用性を示す図であり、cは生体分子の解体字の自由エネルギーの放出を示す図である。

    aはフォン=ノイマンの自己増殖オートマトンモデルを示す図であり、bは大橋の自己増殖自己解体オートマトン(SRSD)モデルを示す図である。

    インパルス熱ショック処理によって誘導された自己解体過程におけるテトラヒメナの細胞とリソソームの形態変化を示す図である。

    自己解体が遺伝子プログラムの発現によることの検証を示す図であり、aは細胞の自己解体とその阻害を示す図であり、bは細胞数減少の経時変化を示す図である。

    自己解体が代謝エネルギーを必要とする能動的過程であることの検証を示す図であって、aは細胞の自己解体とその阻害を示す図であり、bは細胞数減少の経時変化を示す図である。

    自己解体過程におけるリソソーム起源酸性加水分解酵素の挙動は、この過程がエネルギー要求性の遺伝子によって制御された過程であることを示す図であって、aは、インパルスpHショック処置によって誘導される自己解体過程において、リソソーム起源酸性加水分解酵素群の代表的な指標酵素のうちβ−N−ヘキソサミニダーゼの細胞内活性の経時変化を測定した結果を示す図であり、bはそのうち酸性フォスファターゼの細胞内活性の経時変化を測定した結果を示す図である。

    aは仮想生態系の人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)の環境条件は有限で不均質にデザインされている場合においてその空間設計を示す図であり、bはその環境条件の空間的分布を示す図である。

    本発明の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)における仮想生命個体の生命活動と環境との関係を示す図である。

    大橋の自己増殖/自己解体(SRSD)オートマトンを記述するSIVA言語を示す図であり、aは仮想遺伝子の翻訳を示す図であり、bはSIVA言語で記述された機能オートマトンの例である。

    環境条件と機能オートマトンの活性との関係の設計において用いる関係を示す図であり、aは機能オートマトンの活性と環境温度との関係を示すグラフであり、bは機能オートマトンの活性と仮想生体無機素材濃度の関係を示すグラフである。

    本発明の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置(SIVA−T05)における突然変異と進化適応のコンセプトを示す図である。

    自己解体プロセスの中で生体高分子が解体して生体単量体になる、死ぬ生命種が最も顕著に生存領域を拡大して示す図であって、それぞれの種を同じ環境条件をもつ独立した生態系で別個にシミュレーションの結果を示す図である。

    仮想生体高分子の解体が仮想生体単量体階層に集中する形式の自己解体を行う死ぬ生命種が増殖及び進化において優位にたつことの検証を示すグラフであって、aは4つの種を同じ環境条件をもつ独立した生態系で別個にシミュレーションの結果である個体数を示すグラフであり、bはその増殖頻度を示すグラフであり、cはその累積増殖数を示すグラフであり、dはその突然変異頻度を示すグラフである。

    4つの種を同じ生態系に同時に棲息させ相互作用下においたシミュレーションの結果を示す図である。

    aは4つの種を同じ生態系に同時に棲息させ相互作用下においたシミュレーションの結果である個体数を示す図であり、bはその増殖頻度を示す図であり、cはその累積増殖数を示す図であり、dはその突然変異頻度を示す図である。

    生体分子の五段階階層構造における、生体分子の階層名と、分子の種類と、所属する物質例とを示す表である。

    生体分子の原子間ネットワークの複雑性に基づく仮想生体分子の階層構造における、仮想物質階層名と、機能モジュール群と、構成的情報群とを示す表である。

    人工生命を構成する仮想物質階層間の移行にあたって解放又は吸収されるエネルギー量の落差を示す表である。

    本実施例において、パルスpHショック法によるアクチノマイシンDの投与による自己解体抑制、細胞運動再開効果が見られた条件例を示す表である。

    本発明の第2の実施形態に係る自己解体プログラム誘導装置の構成を示すブロック図である。

    本発明の第3の実施形態に係る人工生命シミュレーション装置10の構成を示すブロック図である。

    図21のCPU20の内部構成を示すブロック図である。

    図22の仮想CPUコア20Aとテーブルメモリ23との関係を示す図である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10において、自己増殖し自己解体する各オートマトン(SRSDシステム)を示す表である。

    図21のテーブルメモリ23の内部構成を示すブロック図である。

    図23の環境設定テーブル23bにおける空間ブロック毎の環境条件の標準値の一例を示す表である。

    図23の環境設定テーブル23bにおける空間ブロック毎の環境条件の変数の一例を示す表である。

    図23の仮想生命個体の個別情報テーブル23dにおいて、最適温度と環境温度との差分が機能単語実行確率に及ぼす影響を示す活性係数tのグラフである。

    図23の仮想生命個体の個別情報テーブル23dにおいて、最適pHと環境内pHとの差分が機能単語実行確率に及ぼす影響を示す活性係数pのグラフである。

    図23の仮想生命個体の個別情報テーブル23dにおいて、素材とする生体分子濃度が生体分子合成実行確率に及ぼす影響を示す活性係数cのグラフである。

    図23の生体分子組成設定テーブル23eにおいて、仮想生体有機素材の仮想生体無機素材組成と結合エネルギーを示す表である。

    図23の生体分子組成設定テーブル23eにおいて、仮想生体短量体の仮想生体無機素材組成と結合エネルギーを示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「機能単語」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(変数)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(ピリオド)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(関係演算子)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(ID:識別子)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、機能モジュール群の「一時的情報単語(数値)」の機能ユニットに対する単語及び意味を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10における、構成情報群の「機能ユニット(仮想遺伝子コドン)」が決定する機能モジュール群モノマーの対応例を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10によって実行されるSIVAシミュレーション処理の全体構成を示す図である。

    図40のSIVAシミュレーション処理のメインルーチンを示すフローチャートである。

    図41のサブルーチンである単位時間内の処理(ステップS4)を示すフローチャートである。

    図42のサブルーチンである仮想生命個体の活動処理(ステップS18)を示すフローチャートである。

    図43のサブルーチンである機能オートマトンの処理(ステップS46)を示すフローチャートである。

    図44のサブルーチンである機能単語の処理(ステップS59)を示すフローチャートである。

    図45のサブルーチンである第1の生体分子合成処理(ステップS81)の第1の部分を示すフローチャートである。

    図45のサブルーチンである第1の生体分子合成処理(ステップS81)の第2の部分を示すフローチャートである。

    図45のサブルーチンである第2の生体分子合成処理(ステップS82)の第1の部分を示すフローチャートである。

    図45のサブルーチンである生体分子分解合成処理(ステップS84)を示すフローチャートである。

    図44の機能オートマトンの処理(ステップS46)の変形例を示すフローチャートである。

    図21の人工生命シミュレーション装置10のプログラム概要を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10の仮想生命個体を構成する仮想生体分子を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10の仮想生命個体動作の第1の部分を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10の仮想生命個体動作の第2の部分を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10の環境(仮想空間)を示す表である。

    図21の人工生命シミュレーション装置10の表示及び記録を示す表である。

    符号の説明

    10…人工生命シミュレーション装置、
    20…CPU、
    20A…仮想CPUコア、
    20−1乃至20−N…仮想CPU、
    21…ROM、
    22…RAM、
    23…テーブルメモリ、
    23a…シミュレーション設定テーブル、
    23b…仮想空間の環境設定テーブル、
    23c…仮想生命個体の一般情報テーブル、
    23d…仮想生命個体の個別情報テーブル、
    23e…生体分子組成設定テーブル、
    23f…機能ユニットの対応テーブル、
    23g…機能モジュール群モノマーの対応テーブル、
    23h…解放及び吸収時のエネルギー量テーブル、
    24…プログラムメモリ、
    30…バス、
    31…キーボードインターフェース、
    32…マウスインターフェース、
    33…ディスプレイインターフェース、
    34…プリンタインターフェース、
    35…ドライブ装置インターフェース、
    36…外部記憶装置インターフェース、
    41…キーボード、
    42…マウス、
    43…CRTディスプレイ、
    44…プリンタ、
    45…CD−ROMドライブ装置、
    45a…CD−ROM、
    46…外部記憶装置、
    50…装置筐体、
    50a…支持上部架台、
    50b…レール、
    51,52…恒温水槽、
    54…回転振盪機、
    55…支持機構、
    56…パンダグラフ、
    57…支持機構、
    60…マイクロコンピュータ、
    61,61a,62,62a,63,63a…定量送液ポンプ、
    70…自己解体メカニズム自動制御装置、
    71,72,73…薬液ボトル、
    73,74…薬液送出器、
    75,76…培養フラスコ。

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