保護基が結合した酸基の脱保護方法

申请号 JP2013511035 申请日 2012-04-19 公开(公告)号 JP6060898B2 公开(公告)日 2017-01-18
申请人 旭硝子株式会社; 发明人 石橋 雄一郎; 松村 靖;
摘要
权利要求

アセトニトリルとの混合溶媒存在下で、水酸基がt−ブチルジメチルシリル基で保護されたアルコールのt−ブチルジメチルシリル基を、水中でのpKaが1.0以上3.0以下の、カルボン酸またはアルカリ金属及びアンモニウムの硫酸水素塩から選ばれる少なくとも1種の酸性無機酸塩の存在下で脱保護することを特徴とする、保護基が結合した水酸基の脱保護方法。カルボン酸および酸性無機酸塩の水中でのpKaが1.0以上2.0以下である、請求項1に記載の方法。カルボン酸が1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する、請求項1または2に記載の方法。カルボン酸がシュウ酸またはマレイン酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。酸性無機酸塩が硫酸水素ナトリウムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。混合溶媒中の水の割合が体積比で0.01≦水/(アセトニトリル+水)≦0.8である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。反応温度が0℃から100℃である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。脱保護されたアルコールが、ビニルエーテル部位、アリルエーテル部位、アリルアルコール部位、アセタール部位、ベータヒドロキシカルボニル部位、テトラヒドロピラニルオキシ基、エポキシ基、アミド結合、エステル結合およびポリエン部位から選ばれる少なくとも1種の酸に不安定な部位を有するアルコールである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。脱保護されたアルコールが、酸に不安定な部位を有するプロスタグランジン類である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

说明书全文

本発明は、t−ブチルジメチルシリル基で保護されたアルコール化合物を効率よく脱保護する方法に関するものである。

従来、種々の有機合成反応を行う場合、原料化合物中のアルコール性酸基を不活性な形に保護することがしばしば行われている。通常、「保護」は、不活性化したいアルコール性水酸基に、保護基と総称される化合物を直接結合させることにより行われる。必要な反応の終了後は、水酸基に結合された化合物を適当な反応により外すことで保護された水酸基が元通りの状態で遊離される。この操作が「脱保護」である。 比較的穏やかな条件下で保護や脱保護が可能な保護基として、t−ブチルジメチルシリル基(TBS基)が知られている。

TBS基で保護する方法は、アルコールに塩化t−ブチルジメチルシランとイミダゾールを室温、ジメチルホルムアミド溶媒中作用させる方法や、塩化t−ブチルジメチルシランと硫化リチウムを室温、アセトニトリル溶媒中作用させる方法などが知られており、穏やかな条件で容易にTBSエーテルへと変換できる。ここでTBSエーテルとはt−ブチルジメチルシリル基(TBS基)で保護されたアルコールを指す。

TBSエーテルは塩基性条件で安定であり、アルコキシドやエノラート、水素化リチウムアルミニウムのような求核剤およびn−ブチルリチウムやグリニャール試剤、リチウムヘキサメチルジシラジドのような有機金属化合物、クロム酸のような酸化剤などとの反応にも不活性であることから、アルドール反応やWittig反応、Swern酸化などの反応にアルコール保護基として広く用いられている。特に、天然物やその誘導体、中間体などで酸に不安定な化合物の保護基として極めて有用である。天然物としては、β‐ラクタムやマクロライドなどの抗生物質、プロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質関連物質、核酸や糖類、タキサン類やフラキノシン類のような抗がん剤、ギンゴライド、パリトキシンなどが挙げられ、これらの誘導体や中間体などに多用される。

TBS基の脱保護方法に関しては非特許文献1にまとめられている。TBS基の一般的な脱保護方法は、フッ化物イオンによる方法と酸(ブレンステッド酸、ルイス酸)による方法に大別される。これら以外の方法としてはN−ブロモスクシンイミドや水素化ジイソブチルアルミニウム、パラジウム錯体を用いる例が報告されているが、いずれも基質一般性のある方法ではない。

フッ化物イオンによる脱保護方法には、フッ酸を用いる方法、ピリジン・nHFやトリエチルアミン・nHFのようなフッ化水素のアミン錯体を用いる方法、フッ化セシウム、フッ化カリウム、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、フッ化アンモニウムのような無機塩を用いる方法、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)のような有機塩を用いる方法が挙げられる。しかしながら、フッ酸は毒性が高いため取り扱いが容易でない。フッ化水素のアミン錯体はフッ酸と比べれば安全性は高いもののやはりフッ化水素が遊離する危険性があり、かつ脱保護剤としての能がフッ酸に比べ低く、価格も高い。無機のフッ化物塩は脱保護で通常用いられる有機溶媒への溶解度が低いため、脱保護剤としての能力も十分ではない。

フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)は安全性、有機溶媒への溶解度、脱保護剤としての能力の点で他のフッ化物イオンを有する脱保護剤と比べて優れていることから、TBS基の脱保護において頻繁に用いられている。 しかしTBAFを用いると反応後に大量のアンモニウム塩が残存し、その除去のために水を加えて抽出洗浄を行う必要がある。この操作は特に大スケールでの製造時には非常に煩雑な工程となるため、大スケールでの製造には向かない。脱保護後の抽出洗浄工程を回避するため、非特許文献2ではアルコール性水酸基をTBAFで脱保護した後、反応液にイオン交換樹脂と炭酸カルシウムを加えてTBAFやその他のアンモニウム塩をイオン交換樹脂にイオン結合させ、ろ過を行うことでアンモニウム塩を除去している。しかしながらこの方法では抽出洗浄工程の代わりにろ過を行う必要がある。 またTBAFは塩基性化合物でありフッ化物イオンが求核性を有するため、塩基性条件に弱い化合物や求核剤と反応してしまう化合物には使用できないという欠点も持つ。さらにTBAFは立体的に混み合ったTBSエーテルを脱保護するのが困難であるという性質を持つため、例えば2級アルコールのTBSエーテルの脱保護にはしばしば高温、長時間が必要となる。

一方、ブレンステッド酸やルイス酸を用いた脱保護ではTBS保護されたアルコールの酸素原子がプロトンやルイス酸に配位し、TBS基が脱離すると考えられている。従って脱保護の速度は用いる酸の強さと濃度に大きく依存する。非特許文献1に挙げられているTBS基の脱保護に用いられる主なプロトン酸は以下の通りである。なお、カッコ内の数字は酸の強さを表す指標であるpKa(水中)であり、数字が小さいほど強い酸であることを示す。なお、電離可能な活性水素を複数持ついわゆる多塩基酸の場合は1段階目の酸解離定数(Ka)に基づくpKaを記載している。トリフルオロメタンスルホン酸(−14)、塩酸(−8)、硫酸(−3)、メタンスルホン酸(−3)、パラトルエンスルホン酸(−1)、パラトルエンスルホン酸基を末端に有するイオン交換樹脂、トリフルオロ酢酸(0.2)、過ヨウ素酸(1.6)、フッ酸(3.2)、ギ酸(3.8)、酢酸(4.8)。非特許文献1によれば、TBS基で保護されたアルコールはpH4以下の水溶液中では脱保護される(High Reactivity)が、pH4以上の水溶液中では脱保護されない(Low Reactivity)。トリフルオロメタンスルホン酸のような強い酸を用いればTBS基の脱保護は容易になるが、酸に弱い部分を含む化合物の脱保護では脱保護中の分解が起きてしまう。一方酢酸、ギ酸の様な弱い酸を用いるとTBS基の脱保護が速やかに進行しない場合がある。反応を加速するために加熱する、あるいは濃度を上げる方法もあるが、この場合酸に弱い部分を含む化合物が分解することがある。また酢酸、ギ酸は有機溶媒への溶解度が高く沸点も高いため、反応後の抽出洗浄でアルカリ性水溶液を使えない場合、例えば目的のアルコールがアルカリ性条件に不安定な場合や目的化合物自身も酸である場合は、抽出洗浄、減圧留去のいずれの方法でも酢酸やギ酸の除去が困難になるという欠点もある。

非特許文献3では天然物(−)−Lankacidin Cの全合成におけるTBS基の脱保護にギ酸を用いている。この例では、フッ化物イオンやフッ化水素に不安定な中間体である2級のアリルアルコールのTBS保護体にテトラヒドロフラン(THF)と水の混合溶媒中ギ酸を室温で3時間作用させ、脱保護されたアルコールを82%の収率で得ている。しかしながらギ酸は前述の通り有機溶媒への溶解度が高く沸点も高いため、しばしば除去が困難である。

非特許文献4ではIndolizomycinの全合成におけるTBS基の脱保護に過ヨウ素酸を用いている。この例では、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた2級アルコールのTBS保護体に過ヨウ素酸水溶液を加え、室温で8時間反応させることで脱保護されたアルコールを得ている。しかしながら過ヨウ素酸は爆発性があるため工業スケールで用いるためには、防爆対応の設備が必要となる。なお、過ヨウ素酸の水中でのpKa値を1.6としている文献もある(非特許文献5)が、その後の文献で3.3に訂正されており(非特許文献6)、最近の書籍でもpKaとして3.3の値が採用されている(非特許文献7)。

特許文献1ではギ酸より強い酸であるシュウ酸を用いて、TBS基より脱保護が容易なトリメチルシリル基で保護したアルコールの脱保護を行っている。この文献では同一化合物中の複数の水酸基をTBS基およびトリメチルシリル基で保護した化合物をメタノール中室温でシュウ酸と反応させることで脱保護を行っているが、トリメチルシリル基が容易に脱保護される一方でTBS基は脱保護されていない。TBS基はTBAFや、シュウ酸より強い酸であるヘキサフルオロケイ酸(Fluorosilicic acid、H2SiF6)水溶液を用いて脱保護されており、溶媒や温度条件によってはシュウ酸ではTBS基が脱保護されないことが分かる。

US2008/0280859 A1

「PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS(3rd ed.)」

Org. Let. 2007年、Vol.9、723頁

J. Am. Chem. Soc. 1995年、Vo117.8258頁

J. Am. Chem. Soc. 1993年、Vo115.30頁

J. Am. Chem. Soc. 1949年、Vo71.、3031頁

J. Am. Chem. Soc. 1951年、Vo73.、82頁

世界大百科事典(平凡社) 第2版 過沃素酸の項

本発明は、アルコール水酸基の新しい脱保護法を開発し、従来は困難であった酸に不安定な部分を持つアルコール類の効率的な脱保護を可能とすることを目的とする。

上記目的を達成するために本発明者らが研究を行った結果、酸の種類と溶媒を適切に選択する以下の方法により、酸に不安定な部分を持つアルコールも分解することなく脱保護できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりのものである。

(1)溶媒存在下で、水酸基がt−ブチルジメチルシリル基で保護されたアルコールのt−ブチルジメチルシリル基を脱保護する方法であって、水中でのpKaが1.0以上3.0以下の、酸または酸性塩の存在下で脱保護する方法。 (2)酸および酸性塩の水中でのpKaが1.0以上2.0以下である、(1)に記載の方法。 (3)酸がカルボン酸である、(1)または(2)に記載の方法。 (4)カルボン酸が1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する、(3)に記載の方法。 (5)カルボン酸がシュウ酸またはマレイン酸である、(3)または(4)に記載の方法。

(6)酸性塩が酸性無機酸塩である、(1)または(2)に記載の方法。 (7)酸性無機酸塩がアルカリ金属またはアンモニウムの硫酸水素塩である、(6)に記載の方法。 (8)酸性無機酸塩が硫酸水素ナトリウムである、(7)に記載の方法。

(9)溶媒として有機溶媒と水の混合溶媒を用いる、(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。 (10)混合溶媒中の水の割合が体積比で0.01≦水/(有機溶媒+水)≦0.8である、(9)に記載の方法。 (11)反応温度が0℃から100℃である、(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。

(12)脱保護されたアルコールが、ビニルエーテル部位、アリルエーテル部位、アリルアルコール部位、アセタール部位、ベータヒドロキシカルボニル部位、テトラヒドロピラニルオキシ基、エポキシ基、アミド結合、エステル結合およびポリエン部位から選ばれる少なくとも1種の酸に不安定な部位を有するアルコールである、(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法。 (13)脱保護されたアルコールが、酸に不安定な部位を有するプロスタグランジン類である、(1)〜(12)のいずれか一項に記載の方法。

本発明によれば、TBS保護されたアルコールを穏和な条件で効率よく脱保護することができる。本発明によればさらに、酸に不安定な部位を有するアルコール類であっても、安定に脱保護することができる。

以下に本発明を詳細に説明する。 [アルコール] 本発明に用いられるアルコールは特に限定されないが、例えば1−オクタノール、2−オクタノール、のような脂肪族アルコール、フェノール、クレゾールのような芳香族アルコールのいずれでもよい。本発明は酸に不安定な部位にダメージを与えることなくTBS保護されたアルコールを脱保護できる点に特徴があり、したがって、本発明の脱保護方法は、酸に不安定な部位を有するアルコールに特に有効に適用できる。酸に不安定な部位としてはビニルエーテル部位(a)、アリルエーテル部位(b)、アリルアルコール部位(c)、アセタール部位(d)、ベータヒドロキシカルボニル部位(e)、テトラヒドロピラニルオキシ基(f)、エポキシ基(g)、アミド結合(h)、エステル結合(i)、ポリエン部位(j)が挙げられる。 以下に各部位の骨格構造を示す。

上記骨格構造の炭素原子および窒素原子には、炭素原子、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子等が結合している。上記アリルアルコール部位(c)やベータヒドロキシカルボニル部位(e)を有する化合物は、さらに水酸基を有していてもよい。また、アルコールはこれら骨格構造を2以上有していてもよい。 上記骨格構造を有するアルコールの中でもビニルエーテル部位(a)、アリルエーテル部位(b)、アリルアルコール部位(c)、ベータヒドロキシカルボニル部位(e)、エポキシ基(g)は特に酸に不安定なため、これらの部位を持つ化合物が特に好ましく、ビニルエーテル部位(a)、アリルアルコール部位(c)、ベータヒドロキシカルボニル部位(e)を持つ化合物が最も好ましい。

本発明に用いられるアルコールとしては、プロスタグランジン類が特に好ましい。本発明においてプロスタグランジン類とは天然型の各種プロスタグランジンおよびその誘導体であって少なくとも1つの水酸基を有する化合物をいう。プロスタグランジン類の多くは水酸基とともに、前記酸に不安定な部位の少なくとも1種を1つ以上有する。特に、ビニルエーテル部位(a)、アリルアルコール部位(c)またはその両者を有する。したがって、このようなプロスタグランジン類の合成においては、水酸基を保護して、各種化学変換を行い、脱保護して目的とするフリーの水酸基を有するプロスタグランジン類を得る場合、その脱保護を本発明の脱保護方法で行うことが好ましい。

[酸、酸性塩] 本発明においては、脱保護のための酸性物質として、水中でのpKaが1.0以上3.0以下の、酸または酸性塩が使用される。酸は有機酸であってもよく、無機酸であってもよい。酸性塩もまた、有機酸の酸性塩であってもよく、無機酸の酸性塩であってもよい。 酸または酸性塩において、pKaが3.0より大きいとTBS基の脱保護反応が遅くなり、実用的でない。またpKaが1.0より小さいと、酸に不安定な化合物にダメージを与える可能性が高まる。 好ましくは、水中でのpKaが1.0以上3.0以下のカルボン酸、または、水中でのpKaが1.0以上3.0以下の酸性無機酸塩が使用される。これら以外の酸性物質としては、水中でのpKaが1.9である亜硫酸や水中でのpKaが2.1であるリン酸などの無機酸が挙げられる。

[カルボン酸] 本発明の脱保護に用いられるカルボン酸としては、1分子中に1個のカルボキシル基を有するカルボン酸(1価カルボン酸)であってもよく、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸(多価カルボン酸)であってもよい。また、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、カルボキシル基以外の反応性基やハロゲン原子などを有していてもよい。水中でのpKaが1.0以上3.0以下であるカルボン酸として、例えばシュウ酸(pKa;1.2)、ジクロロ酢酸(pKa;1.3)、マレイン酸(pKa;1.9)、モノクロロ酢酸(pKa;2.9)、モノブロモ酢酸(pKa;2.9)、フマル酸(pKa;3.0)、マロン酸(pKa;2.8)などの脂肪族カルボン酸、ニトロ安息香酸(pKa;2.2)、フタル酸(pKa;3.0)などの芳香族カルボン酸、アラニン(pKa;2.4)、グリシン(pKa;2.3)、システイン(pKa;1.7)のようなアミノ酸が挙げられる。これらのうち、溶媒への溶解度の点でアミノ基を有しないカルボン酸がより好ましい。

[酸性無機酸塩] 水中でのpKaが1.0以上3.0以下である酸性無機酸塩としては、硫酸などの無機酸の酸性塩であり、無機酸としてはハロゲンを含まない無機酸が好ましい。酸性無機酸塩としては、特に硫酸水素塩が好ましい。硫酸水素塩としては、例えば、硫酸水素ナトリウム(pKa;2.0)、硫酸水素カリウム(pKa;2.0)、硫酸水素アンモニウム(pKa;2.0)のようなアルカリ金属塩やアンモニウム塩が挙げられる。上記の酸性無機酸塩酸が無水物、水和物の形態を取りうる場合、そのどちらを用いてもよい。水和物を用いる場合は酸性無機酸塩に含まれる水和水の量を計算し、溶媒として用いる水の量を酸性無機酸塩中の水和水の分だけ減らすことで酸性無機酸塩の無水物を用いた場合と同様の結果を得ることができる。

上記酸や酸性塩(以下、両者を総称して酸ともいう)のうち、反応速度と酸に不安定な化合物に対するダメージの小ささの点で、水中でのpKaが1.0以上2.0以下であることが特に好ましい。これらの酸は後述する溶媒を用い反応温度と時間を調節することで、TBS保護されたアルコールにダメージを与えることなく脱保護することができる。

また、目的化合物であるアルコールの構造によってはアルカリ水溶液による抽出洗浄を行えない場合があるため、中性の水による抽出洗浄で容易に除去できる酸であることが好ましく、このような酸としてはシュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸のような2価のカルボン酸や硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素アンモニウムなどの硫酸水素塩が挙げられる。 シュウ酸、マレイン酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウムおよび硫酸水素アンモニウムはpKaが1.0以上2.0以下で、抽出時の除去容易性に優れ、また室温で安定な固体として容易に取り扱うことができ、さらに人体や環境に対する毒性も低いため最も好ましい。

本発明における酸は脱保護の触媒として働くため、反応式の上では酸の量に制限は無い。実際には酸の添加量が多い方が反応は速やかに進行するが、副反応が起こる可能性も高まる。また原料コストの点から酸の添加量は少ない方が好ましい。従って酸の添加量は活性水素のモル数/TBS保護されたアルコールのモル数で0.05以上20以下が好ましく、より好ましくは0.1以上10以下、最も好ましくは0.2以上5以下である。ここでいう活性水素とは、酸に含まれる水素原子のうち反応溶液中で電離してプロトンとなるものを指す。

[溶媒] 本発明においては有機溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。水を添加することにより脱保護反応が促進され、かつ基質の分解などの副反応を抑制できる。水の添加によりこうした効果が発現する機構は完全には明らかになっていないが、不安定な中間体を速やかにプロトン化して安定なアルコールに変換することで副反応を抑える効果と、酸に配位して反応性を穏やかにし、広い温度、時間条件で効率よく脱保護を進行させる効果があると考えられる。水の添加効果を発現するためには、室温で水を1体積%以上溶解する有機溶媒を用いればよく、水を5体積%以上溶解する有機溶媒が好ましく、水を20体積%以上溶解する有機溶媒が最も好ましい。

水を1体積%以上溶解する溶媒として例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリジノンのようなアミド類、アセトン、エチルメチルケトンのようなケトン類、酢酸エチルのようなエステル類、テトラヒドロフランのようなエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル類が挙げられる。反応速度と脱保護収率の点で、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトンが好ましく、その中でアセトニトリル、テトラヒドロフランが最も好ましい。

これらの有機溶媒は単独で水と混合してもよく、上記の複数の有機溶媒と水とを混合しても良い。有機溶媒に対する水の割合は、水の添加効果を発現しつつ、TBS保護されたアルコールを一定程度溶媒に溶解させるために、体積比で水/(有機溶媒+水)が0.01以上0.8以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以上0.6以下、最も好ましくは0.1以上0.4以下である。反応は有機溶媒と水が完全相溶した均一系、または有機相と水相の一部が分離した二相系のどちらでも進行する。反応初期に二相系であった場合も、反応の進行に従い脱保護されたアルコールとt−ブチルジメチルシラノールが増加し、これらが基質の良溶媒となって系が均一になることが多い。反応がより速やかに進行する点で、反応の終了時に溶液が均一になる系の方が好ましい。

[濃度] 溶液の濃度はコストの観点からは高い方が良いが、濃度が高すぎると脱保護されたアルコール同士の反応など望まない副反応が起こる可能性が高まる。このことから溶液の重量濃度は1%以上20%以下が好ましく、3%以上15%以下がより好ましく、最も好ましくは5%以上10%以下である。TBSエーテル、有機溶媒、水、酸の添加順序に特に制限は無いが、TBSエーテルと酸が高濃度で接触することを避けるため、TBS保護されたアルコールまたは酸を最後に加えることが好ましい。

[反応雰囲気、温度、圧力] 本発明の反応は空気中でも窒素やアルゴンなどの不活性ガス中でも効率よく進行する。より低コストで実施できる空気中で反応を行うことが好ましい。反応温度は溶媒が凝固や沸騰しない範囲であれば特に制限されないが、反応時間の短縮と基質へのダメージを最小限に抑える点で0℃から100℃の間が好ましく、より好ましくは0℃から70℃、最も好ましくは10℃から60℃である。本反応の反応圧力は溶媒が揮発する程低圧でなければ特に制限は無いが、反応装置の制約が無い点で常圧が好ましい。

[後処理] 本発明のアルコールの脱保護法によって得られた生成物は、通常の有機化合物の単離・精製に用いられる方法により単離・精製することができる。例えば、反応混合物を食塩水又は水で処理し、ジエチルエーテル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルムなどの有機溶媒で抽出する。抽出液を無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウムなどで乾燥し、濃縮して得られる粗生成物を必要に応じて蒸留、クロマトグラフィー、再結晶などにより精製することができる。

本発明で採用した測定法は以下の通りである。 ガスクロマトグラフィー:アジレント・テクノロジー製 Agilent 6850シリーズHPLC:アジレント・テクノロジー製 Agilent 1200シリーズNMR:日本電子製 JNM−AL300

[実施例1] 1−オクタノールがTBS保護された化合物であるt−ブチルジメチル(オクチロキシ)シラン0.2g(0.82mmol)、アセトニトリル12ml、水4mlを合わせた懸濁液にマレイン酸0.66g(5.7mmol)を加え、空気中室温で撹拌した。2時間後に液は均一となっており、薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、水10mlを加え、クロロホルム10mlで2回抽出した。有機相を減圧下濃縮して得られた液体0.13gをガスクロマトグラフィー、HPLCで分析したところ、1−オクタノールの収率は98%であり、マレイン酸は検出されなかった。 1−オクタノールの構造特性は以下の通りである。 1H-NMR(CDCl3):δ 0.88(m, 3H), 1.29-1.55(m, 12H), 2.40(s, 1H), 3.60(t, 2H)

[実施例2] 2−オクタノールがTBS保護された化合物であるt−ブチルジメチル(オクタン−2−イルオキシ)シラン0.2g(0.82mmol)、アセトニトリル12ml、水4mlを合わせた懸濁液にマレイン酸0.66g(5.7mmol)を加え、空気中室温で撹拌した。2時間後に液は均一となっており、薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、水10mlを加え、クロロホルム10mlで2回抽出した。有機相を減圧下濃縮して得られた液体0.12gをガスクロマトグラフィー、HPLCで分析したところ、1−オクタノールの収率は96%であり、マレイン酸は検出されなかった。 1−オクタノールの構造特性は以下の通りである。 1H-NMR(CDCl3):δ 0.89(m, 3H), 1.18-1.51(m, 12H), 1.68(s, 1H), 3.80(m, 2H)

[実施例3] 下記化合物1がTBS保護された化合物である下記化合物2の脱保護を行った。 4−[(Z)−(1S,5R,6R,7R)−6−[(1E,3R,4R)−3−t−ブチルジメチルシロキシ−4−(m−トリル)−1−ペンテニル]−7−t−ブチルジメチルシロキシ−2−オキサ−4,4−ジフルオロ-ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン]−1−(テトラゾール−5−イル)ブタン(化合物2)1.5g(2.2mmol)、アセトニトリル22.5ml、水7.5mlを合わせた懸濁液にマレイン酸0.37g(3.2mmol)を加え、空気中室温で撹拌した。24時間後に液は均一となっており、薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、水30mlを加え、クロロホルム30mlで2回抽出した。有機相を減圧下濃縮して得られた固体1.1gをNMR、ガスクロマトグラフィー、HPLCで分析したところ、4−[(Z)−(1S,5R,6R,7R)−6−[(1E,3R,4R)−3−ヒドロキシ−4−(m−トリル)−1−ペンテニル]−7−ヒドロキシ−2−オキサ−4,4−ジフルオロ−ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン]−1−(テトラゾール−5−イル)ブタン(化合物1)の収率は98%であり、マレイン酸は検出されなかった。

化合物1の構造特性は以下の通りである。 1H-NMR(CD3OD):δ 1.30(d, J=7.0 Hz, 3H), 1.69(dddd, J=14.6, 7.6, 3.0, 2.6 Hz, 1H), 1.82-1.95(m, 2H), 2.10-2.16(m, 2H), 2.29(s, 3H), 2.31-2.41(m, 2H), 2.48-2.56(m, 1H), 2.72(q, J=7.0 Hz, 1H), 2.93(t, J=7.6 Hz, 2H), 3.78(q, J=7.6 Hz, 1H), 4.04-4.10(m, 1H), 4.69(dt, J=6.48, 2.96 Hz, 1H), 4.79(dt, J=7.6, 5.0 Hz, 1H), 5.36-5.46(m, 2H), 6.95-7.13(m, 4H). 19F-NMR(CD3OD):-116.6(d, J=250.5 Hz), -84.8(ddd, J=251.9, 17.3, 14.4 Hz).

[実施例4] 4−[(Z)−(1S,5R,6R,7R)−6−[(1E,3R,4R)−3−t−ブチルジメチルシロキシ−4−(m−トリル)−1−ペンテニル]−7−t−ブチルジメチルシロキシ−2−オキサ−4,4−ジフルオロ-ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン]−1−(テトラゾール−5−イル)ブタン(前記化合物2)1.5g(2.2mmol)、アセトニトリル27ml、水3mlを合わせた懸濁液に硫酸水素ナトリウム一水和物0.60g(4.4mmol)を加え、空気中室温で撹拌した。24時間後に液は均一となっており、薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、1.2%重曹水60mlを加え、ヘプタン27mlで3回洗浄した。アセトニトリル‐水混合液相に硫酸水素ナトリウム1.2gを加え、酢酸エチル27mlで抽出し、有機相を5%食塩水30mlで洗浄した。有機相を減圧下濃縮して得られた固体1.1gをNMR、ガスクロマトグラフィー、HPLCで分析したところ、4−[(Z)−(1S,5R,6R,7R)−6−[(1E,3R,4R)−3−ヒドロキシ−4−(m−トリル)−1−ペンテニル]−7−ヒドロキシ−2−オキサ−4,4−ジフルオロ−ビシクロ[3.3.0]オクタン−3−イリデン]−1−(テトラゾール−5−イル)ブタン(前記化合物1)の収率は98%であった。

[実施例5〜12、比較例1〜5] 酸の種類、酸の添加量、溶媒、反応温度、反応時間をそれぞれ変更した以外は実施例3と同じ条件で反応を行った(実施例5〜12)。また、本発明における酸以外の酸を使用して、同様に、実施例3と同じ条件で反応を行った(比較例1〜5)。 それらの結果を表1に示す。 なお、表1における略号等は以下のとおりである。 NaHSO4:硫酸水素ナトリウム一水和物 TfOH:トリフルオロメタンスルホン酸 AN:アセトニトリル THF:テトラヒドロフラン *1:化合物2が分解した。 *2:反応が進行せず。

[実施例13] 3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールのビスTBSエーテル1.0g(2.5mmol)、アセトニトリル18ml、水2mlを合わせた懸濁液に硫酸水素ナトリウム一水和物0.72g(5.0mmol)を加え、空気中室温で18時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、飽和重曹水18mlと飽和食塩水5mlを加え、酢酸エチル18mlで2回抽出した。有機相を減圧下濃縮して得られた液体0.38gをガスクロマトグラフィー、NMRで分析したところ、3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールの収率は88%であった。 3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールの構造特性は以下の通りである。 1H-NMR(CDCl3):δ 3.49(bs, 1H), 3.69-3.83(3H), 3.96(d, 2H), 4.07(m, 1H) , 6.87(m, 2H) , 6.94(m, 1H), 7.24(m, 2H)

[比較例6] 3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールのビスTBSエーテル0.51g(1.29mmol)をテトラヒドロフラン(THF)10mlに加えた溶液にフッ化テトラブチルアンモニウム1mol/L溶液の3.8ml(3.8mmol)を加え、窒素雰囲気下室温で3時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認し、飽和重曹水10mlを加え、酢酸エチル10mlで2回抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機相を減圧下濃縮して得られた液体0.45gをガスクロマトグラフィー、NMRで分析したところ、3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールの収率は89%であった。生成粗体中にはテトラブチルアンモニウム塩が3−フェノキシプロパン‐1,2−ジオールの1.2倍モル量混入していた。

本発明の脱保護方法を用いることにより、種々のアルコールをTBSで保護して、様々な反応を行うことができ、反応設計を多様化することができる。特に、酸に不安定な部位を有するアルコール類の反応設計(例えば、分子内にビニルエーテルを有するアルコール等)に有効に寄与することができる。 なお、2011年4月21日に出願された日本特許出願2011−095211号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

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