【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、着色セラミックスの製造方法に関し、さらに詳しくは、セラミックス材料に発色剤を配合したり塗料を塗布したりすることなくセラミックス材料を着色する方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来、セラミックス材料を着色する方法としては、例えば、 セラミックス原料素地中に発色剤(例えば、鉛、コバルト、鉄、クロム、マンガン、あるいはそれらの酸化物等)を添加し、成形後に焼成することにより発色させるようにしたもの 釉薬(顔料)に所望の発色剤を配合し、これをセラミックス成形品の表面に焼き付けることにより着色するようにしたもの セラミックス材料による成形品を焼成した後にそのセラミックス成形品の表面に有機塗料等を塗布して着色するようにしたもの スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法などによりセラミックス焼結体の表面に他の酸化物や金属等をコーティングすることにより着色するようにしたもの 等が一般的に知られている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、セラミックス原料素地に発色剤を添加するものでは、焼成ラインでの焼成温度や焼成雰囲気の不均一による発色ムラがそのセラミックス成形品に生じ、また発色剤が不純物(焼結阻害剤)として作用して材料によっては密度の低下や強度の低下等諸特性の劣下を招き、対象製品や使用条件が制約されるという問題があった。 また釉薬(顔料)による着色方法によるものでは、セラミックス成形品の表面に釉薬を塗布する工程およびこれを高温度に焼成する工程が入るために、製品が得られるまでに手間と時間を要する。 【0004】さらに有機塗料による着色方法によるものでは、セラミックスと塗膜との相性(塗着性)が悪くすぐに剥がれてしまい、また塗料との接触をきらう用途には使えない等の問題があった。 さらにまたスパッタ法、 真空蒸着法、イオンプレーティング法などの着色方法によるものでは、セラミックス成形品の表面全体への均一なコーティングが難しく、特に形状の複雑なものは入り組んだ部分へのコーティングが非常にやり難いという問題があった。 また処理コストも一般に高くなり、耐薬品性にも劣る等の問題もあって、やはり対象製品が限られていた。 【0005】本発明は、このような問題点に鑑み為されたものであり、その目的とするところは、セラミックス材料へ発色剤を添加することなく、またセラミックス材料の表面に塗料等を塗布することなく、簡便な方法によりセラミックス材料による成形品あるいは粉粒体を発色させるようにすることにある。 これによりセラミックス材料への発色剤の混合による機械的諸特性の低下を回避し、恒久的呈色状態を保持させると共に各種形状のものに適用でき、陶磁器,人工宝石,指輪・タイピン・ペンダント等の各種アクセサリー,あるいは人工骨・ICパッケージ等の特殊用途にも適用できるようにするものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】この目的を達成するため本発明に係る着色セラミックスの製造方法は、セラミックス材料に放射線を照射することにより該セラミックス材料を発色させるようにしたことを要旨とするものである。 そしてここに「セラミックス材料」には、セラミックス成形品の焼結体、およびセラミックスの粉粒体が含まれるものであり、また非品質(ガラス質)のものよりも結晶質のもの特に多結晶質体において有用性の高いものである。 【0007】 【実施例】以下に本発明の実施例を詳細に説明する。 (セラミックス焼結体)表1は、セラミックス成形品の焼結体についての試験結果を表にまとめて示したものである。 試験に供した各種セラミックス材料の名称,組成および焼成温度は表1に示された通りである。 焼成により得られた焼結体に放射線(γ線)を照射した結果も表1に合わせて示している。 γ線の照射は、コバルト60 照射装置を用いて行なった。 γ線の照射線量は取り敢えず25KGy(2.5Mrad )とした。 具体的には、10KGy /Hr.のγ線量を2.5時間照射している。 ここに1Gy (国際単位系)は、吸収放射線量の単位で物質1kg当り1ジュールのエネルギーの吸収がある時の線量を意味するものである。 これの「rad」への変換は、1Gy=10 0rad、したがって 25KGy=2.5×10 6 rad(=2.5 Mrad)ということになる。 【0008】かくしてその結果表1にも示されるように、アルミナ系セラミックス焼結体は、本来白色であったものが薄黄褐色に発色している。 またアパタイト系セラミックスは、本来青白色であったものが深みのある青色の重厚感のある色合いに変化し、ジルコニア焼結体は、本来白色であったものが琥珀色に発色していることが大きな特徴となっている。 そしてこのような発色現象は、放射線(γ線)をセラミックス材料に照射することにより結晶内に格子欠陥が生じ、電子や正孔が欠陥内に捕えられることに起因するものと思われる。 【0009】またジルコニアセラミックス焼結体について、γ線照射前と照射後の諸特性(曲げ強度,結晶相の構成及び表面祖度)の比較を行なったので、その結果を表2に示す。 その結果、曲げ強度についてはγ線照射前に較べてもほとんど遜色のない結果が得られた。 また結晶相についてはX線回析による測定の結果、照射前後で変化はなく、単斜晶0%、すなわちほぼ100%の正方晶により構成されていることが明かである。 このことは、例えばこのジルコニアセラミックス焼結体を後に熱処理したり、応力質荷のかかった状態で用いるような場合に結晶相の拉散変態に伴なう荷重クラックによる耐久性低下の可能性が少ないことを意味する。 尚、表面粗度の測定でも有意差がないとの結果が得られた。 尚、γ線の照射線量を変えることにより色の濃淡は自由に調整することもできる。 例えば、ジルコニアセラミックス焼結体についてγ線照射量を50KGy (2倍量)照射すると、更に色濃く発色した。 【0010】 【表1】 【0011】このような試験結果から、γ線の照射により発色するセラミックス材料を陶磁器や各種アクセサリーに適用し、この種セラミックス材料を所望の形状に成形焼結した後γ線を照射することにより薄黄褐色,深みのある青色あるいは琥珀色などの色合いが得られる。 そしてこれらの色合いは、γ線の照射量を適宜変えることにより濃色〜淡色までの色濃さを変えることもできる。 またこのようなセラミックス材料を適宜混合したり、あるいは成形品の中で部分的に使い分けたりすることにより色合いの変化をつけたり、色模様を表わしたりすることもできる。 さらに複雑な形状のセラミックス成形品であってもγ線の透過力は強いため均質に発色させることができる。 また表には示していないが、多孔質の(ポーラスな)成形品(焼成品)の気孔内部表面まで均一に発色することも確認した。 【0012】そして更に表1に示したセラミックス材料の中でも、特にジルコニアセラミックスは人工骨などの用途があり、このジルコニア人工骨は通常蒸気滅菌されているが、これの滅菌操作をγ線照射により行なうとすれば、γ線照射により発色することから滅菌処理済みのものか否かの判断が目視により容易になし得るものであって製品管理が正しく行なえる利点もある。 そして前述の表2で説明したようにジルコニアセラミックスのγ線照射前後での特性(強度や相変化等)に差異がないことから安心して適用できる。 【0013】 【表2】 【0014】(セラミックス粉粒体)表3は、セラミックス粉粒体についての試験結果をまとめたものである。 この粉粒体セラミックス材料の名称,組成および放射線(γ線)の照射結果は表3に示す通りである。 γ線の照射条件は、前述のセラミックス焼結体の場合と同様、2 5KGy の照射線量とする。 この場合も10KGy/Hr.のγ 線量を2.5時間照射している。 尚、ここに用いられたセラミックス粉粒体は、いずれも結晶質のものである。 【0015】かくしてセラミックス粉粒体の場合にも、 例えばアルミナ系やシリカ系セラミックスについては表に示されるように発色が見られた。 したがってこのようなセラミックス材料の粉粒体を例えば粉体塗装のように被射体の表面に塗着し、しかる後γ線を照射して発色させる等、セラミックス粉粒体の用途にも本発明を適用できることが明らかである。 【0016】 【表3】 【0017】 【発明の効果】以上説明したことから明かなように本発明は、セラミックス材料中に発色剤を配合したり、セラミックス成形品の表面に釉薬(顔料)や塗料をぬったり、あるいはスパッタ法等により着色剤をコーティング等することなく、セラミックス材料の成形品(焼結体) あるいは粉粒体を放射線(γ線)を照射することにより発色させるものである。 したがってその色彩の特徴を生かして陶磁器や人工宝石,各種アクセサリーなどの装飾品に適用できるほか、その発色によって機械的特性が損なわれるものでないから、歯科材料としての適用により天然歯に近い色が出せたり、あるいは骨補填材や人工骨材料として使用する場合にはγ線照射による滅菌効果があるばかりでなく滅菌済みか否かの色別判断により製品管理が容易となる等適材適所に応じて種々の有用性を奏するものである。 【手続補正書】 【提出日】平成5年5月24日 【手続補正1】 【補正対象書類名】明細書 【補正対象項目名】0006 【補正方法】変更 【補正内容】 【0006】 【課題を解決するための手段】この目的を達成するため本発明に係る着色セラミックスの製造方法は、セラミックス材料に放射線を照射することにより該セラミックス材料を発色させるようにしたことを要旨とするものである。 そしてここに「セラミックス材料」には、セラミックス成形品の焼結体、およびセラミックスの粉粒体が含まれるものであり、また非晶質 (ガラス質)のものよりも結晶質のもの特に多結晶質体において有用性の高いものである。 【手続補正2】 【補正対象書類名】明細書 【補正対象項目名】0009 【補正方法】変更 【補正内容】 【0009】またジルコニアセラミックス焼結体について、γ線照射前と照射後の諸特性(曲げ強度,結晶相の構成及び表面粗度 )の比較を行なつたので、その結果を表2に示す。 その結果、曲げ強度についてはγ線照射前に較べてもほとんど遜色のない結果が得られた。 また結晶相についてはX線回析による測定の結果、照射前後で変化はなく、単斜晶0%、すなわちほぼ100%の正方晶により構成されていることが明かである。 このことは、例えばこのジルコニアセラミックス焼結体を後に熱処理したり、応力負荷のかかった状態で用いるような場合に結晶相の拡散変態に伴なう荷重クラックによる耐久性低下の可能性が少ないことを意味する。 尚、表面粗度の測定でも有意差がないとの結果が得られた。 尚、γ線の照射線量を変えることにより色の濃淡は自由に調整することもできる。 例えば、ジルコニアセラミックス焼結体についてγ線照射量を50KGy(2倍量)照射すると、更に色濃く発色した。 |