【0001】 【発明が属する技術分野】 本発明は、焼結体の製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 リン酸カルシウム系セラミックス(リン酸カルシウム系化合物)のうちの一つである、ハイドロキシアパタイトは骨や歯の主成分であり、優れた生体親和性を有しており、人工骨、人工歯根、医科用あるいは、歯科用セメント等の生体材料として利用されている。 【0003】 このようなハイドロキシアパタイトは、所望の形状の成形体に成形した後、この成形体を焼成することにより焼結体とされ、かかる焼結体が人工骨や人工歯根等として臨床的に用いられている。 【0004】 また、この焼結体を、特に、人工骨や人工歯根等として用いる場合、焼結体には、十分な機械的強度と、生体適合性との両立が求められる。 【0005】 しかしながら、従来の焼結体の製造方法により焼結体を製造した場合、十分な機械的強度を確保するために相対密度を大きくすると、骨芽細胞等の骨成形因子が進入し難くなり生体適合性の低下を招き、一方、生体適合性を確保するために相対密度を小さくすると、逆に機械的強度の低下を招くという問題がある。 【0006】 すなわち、従来の焼結体の製造方法では、十分に相対密度を小さくしつつ(十分な空孔率を確保しつつ)、十分な機械的強度を有する焼結体を得ることが極めて困難である。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、十分に相対密度を小さくしつつ、十分な機械的強度を有する焼結体を製造することができる焼結体の製造方法を提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】 このような目的は、下記(1)〜 (13)の本発明により達成される。 【0009】 (1) 人工骨または人工歯根に用いられる焼結体の製造方法であって、 リン酸カルシウム系化合物を含む組成物を成形して、成形体を得る工程と、 前記成形体を大気中で仮焼成する工程と、 前記仮焼成された前記成形体を、湿度が30%RH以下で、かつ、酸素含有量が25vol%以上の酸素含有雰囲気中で焼成して焼結体を得る工程とを有し、 前記焼成は、前記仮焼成された前記成形体の少なくとも一部を、焼結補助材で覆った状態で行われ、 前記焼結体の相対密度が92%以下であることを特徴とする焼結体の製造方法。 これにより、生体適合性に優れ、かつ、機械的強度に優れる焼結体を得ることができる。 また、製造コストの増大を抑制することができるとともに、得られる焼結体に変形や、機械的強度のムラが生じるのを防止または抑制することができる。 【0011】 (2)前記焼成における温度は、1000℃以上で、かつ、前記リン酸カルシウム系化合物が熱分解する温度未満である上記(1)に記載の焼結体の製造方法。 これにより、得られる焼結体では、機械的強度を好適なものにするとともに、品質の低下を防止することができる。 【0012】 (3)前記焼成における時間は、30分〜8時間である上記(1)または(2)に記載の焼結体の製造方法。 これにより、得られる焼結体の機械的強度がより向上し、また、過焼結等による品質の低下を防止することもできる。 【0014】 (4)前記焼結補助材は、粉末状をなしている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、得られる焼結体の機械的強度が全体的により均一となる。 【0015】 (5)前記粉末状の焼結補助材は、平均粒径が3〜300μmである上記(4)に記載の焼結体の製造方法。 これにより、得られる焼結体の機械的強度が全体的により均一となる。 【0016】 (6)前記焼結補助材は、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成されている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、焼成時間の延長を防止することができるとともに、得られる焼結体に焼結補助材が付着や混入した場合でも、生体安全性を確保することができる。 【0017】 (7)前記焼結補助材は、前記成形体を焼成する温度以上の温度で焼成が施されたものである上記(6)に記載の焼結体の製造方法。 これにより、焼結補助材の得られる焼結体への付着や混入を、より確実に防止することができる。 【0019】 (8)前記焼成は、雰囲気炉で行われ、前記仮焼成は、大気炉で行われる上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、製造コストの増大を抑制することができる。 【0020】 (9)相対密度67〜77%、厚さ3mmの焼結体を作製し、該焼結体に、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いた85Wのハロゲンランプの光を照射し、その透過光の色を調べた場合、 CIE色度図の色度座標上で、y≧−20/23x+79/92の範囲である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、十分な機械的強度を有する焼結体が得られたものと判断することができる。 【0021】 (10)相対密度45〜55%、厚さ8mmの焼結体を作製し、該焼結体に、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いた85Wのハロゲンランプの光を照射し、その透過光の輝度を調べた場合、 15cd/m 2以下である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、十分な機械的強度を有する焼結体が得られたものと判断することができる。 【0022】 (11)前記焼結体は、着色した部分を有する上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 これにより、十分な機械的強度を有する焼結体が得られたものと判断することができる。 【0023】 (12)前記着色した部分を取り出し、2θ=25〜40°の範囲でX線回折を行った場合、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しない上記(11)に記載の焼結体の製造方法。 これにより、十分な機械的強度を有する焼結体が得られたものと判断することができる。 【0025】 (13)前記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。 得られる焼結体は、より生体適合性に優れたものとすることができる。 【0027】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の焼結体の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。 【0028】 図1は、本発明の焼結体の製造方法を示す工程図、図2は、本発明の焼結体の製造方法で使用される焼結炉の全体構成を示す図である。 【0029】 図1に示す焼結体の製造方法は、リン酸カルシウム系化合物を含む組成物を得る工程S1と、組成物を成形する工程S2と、成形体を仮焼成(第1焼成)する工程S3と、仮焼成した成形体を本焼成(第2焼成)する工程S4とを有している。 以下、これらの工程について、順次説明する。 【0030】 [S1] リン酸カルシウム系化合物を含む組成物を得る工程この工程では、リン酸カルシウム系化合物を含む組成物を得る。 【0031】 ここで、リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。 これらの中でも、リン酸カルシウム系化合物としては、特にハイドロキシアパタイトを用いるのが好ましい。 ハイドロキシアパタイトは、生体親和性に富むので、得られる焼結体を、例えば、人工骨や人工歯根等として用いる場合には、特に有用である。 すなわち、得られる焼結体は、生体適合性に優れたものとすることができる。 【0032】 また、組成物としては、例えば、粉末状のもの、粉末と液体とを混合してペースト状としたもの、スラリー状のもの等を用いることができる。 【0033】 なお、粉末状のリン酸カルシウム系化合物を用いる場合には、平均粒径を1〜200μm程度とするのが好ましく、3〜30μm程度とするのがより好ましい。 平均粒径が、このような範囲の粉末を用いることにより、得られる焼結体では、十分に相対密度を小さくすること(十分な空孔率を得ること)ができる。 【0034】 [S2] 組成物を成形する工程この工程では、前記工程[S1]で得られた組成物を成形して、成形体を得る。 【0035】 前述したように、組成物としては、例えば、粉末状のもの、ペースト状のもの、スラリー状のもの等が用いられる。 【0036】 組成物として、粉末状のものを用いる場合、成形には、例えば、組成物を所定の成形型内に入れ、プレス(加圧)等により、押し固める方法(圧粉成形法)等を用いることができる。 【0037】 ペースト状のものを用いる場合、成形には、例えば、組成物を所定の成形型内に入れ、乾燥させる方法等を用いることができる。 この場合、組成物中には、増粘剤(例えばメチルセルロース等)を混合し、気泡を含ませた状態でゲル化させ、その後、乾燥させるようにしてもよい。 また、この場合、乾燥温度は、ゲル化する条件の範囲内の温度とすればよい。 【0038】 また、組成物として、スラリー状のものを用いる場合、成形には、例えば、組成物を所定の成形型内に入れ、沈殿または遠心分離により固形分を偏在させる方法や、脱水処理により固形分を成形型内に残す方法等を用いることができる。 【0039】 成形時の温度(成形温度)は、特に限定されないが、10〜70℃程度であるのが好ましい。 通常は、室温程度であればよい。 【0040】 また、成形型の内面には、離型剤を付与するようにしておいてもよい。 これにより、成形体を得た後、この成形体の成形型からの離型性をより向上することができる。 【0041】 この離型剤としては、特に限定されないが、例えば、流動パラフィン、各種ワックス等が挙げられ、この中でも、特に、次工程[S3]や[S4]の焼成において、熱分解して除去される(消失する)ものが好ましい。 具体的には、流動パラフィンが好適に使用される。 離型剤として、このような物質を用いることにより、得られる焼結体中に離型剤が残存するのを防止することができ、その結果、特に、焼結体を生体材料として用いる場合には、その生体安全性が低下するのを好適に防止することができる。 【0042】 さらに、得られた成形体に対しては、必要に応じて、例えば、真空乾燥、自然乾燥、温風乾燥、フリーズドライ等の方法による乾燥を施すようにしてもよい。 【0043】 次いで、成形型内から成形体を取り出す(離型する)。 このとき、成形型の内面には、離型剤が付与されているので、離型が容易であるとともに、成形体の形崩れ、破損等が好適に防止される。 【0044】 また、成形型内から成形体を取り出す際には、成形型を分割して行ってもよいし、そうでなくてもよい。 【0045】 なお、成形体は、成形後、そのままの形状で、次工程[S3]に供されてもよいが、例えば、切断、切削、研削、研磨等の機械加工を施して、形状を整えるようにしてもよい。 【0046】 また、成形体の形状、寸法等は、目的とする焼結体の形状、寸法等に応じて、適宜設定されるものであり、如何なるものであってもよい。 【0047】 また、成形体は、次工程[S3]や[S4]の焼成における収縮を考慮した寸法とするようにすればよい。 【0048】 [S3] 成形体を仮焼成(第1焼成)する工程この工程では、前記工程[S2]で得られた成形体を仮焼成(第1焼成)する。 これにより、仮焼成された成形体(以下、「仮焼成体」と言う。)を得る。 この第1焼成を行うことにより、次の<1>〜<5>のような利点がある。 【0049】 <1>:後述する工程[S4]における本焼成(第2焼成)では、雰囲気炉である焼結炉1を使用するため、比較的コストがかかるので、焼結体の製造コストの低減からの観点からは、第2焼成に要する時間を短縮するのが好ましい。 成形体に対して、例えば雰囲気炉よりコストの低い大気炉を用いて焼成(第1焼成)を行っておくことにより、第2焼成に要する時間を短縮して、製造コストの低減を図ることができるという利点がある。 【0050】 <2>:大型の成形体の場合には、焼成時の収縮等による焼結体の変形や、ひび割れ等が生じるのを防止する観点から、時間をかけて、すなわち、比較的ゆっくりと焼成を行うようにするのが好ましいが、前述したように雰囲気炉を長時間用いて焼成を行うと、製造コストが増大してしまう。 したがって、例えば、第1焼成を雰囲気炉よりコストの低い大気炉を用いて行い、第2焼成を雰囲気炉を用いて行うことにより、大型の成形体の場合であっても、製造コストの増大を抑制しつつ、機械的強度に優れた焼結体とすることができるという利点がある。 【0051】 <3>:成形体に第1焼成(仮焼成)を行っておくことにより、後述する工程[S4]の第2焼成(本焼成)において、仮焼成体に焼成収縮が生じるのを防止または抑制することができるため、焼結体の変形を防止することができるという利点がある。 【0052】 <4>:成形体に第1焼成(仮焼成)を行っておくことにより、後述する工程[S4]の第2焼成(本焼成)において、仮焼成体に焼成収縮が生じるのを防止または抑制することができるため、仮焼成体を焼結補助材に埋設した状態で、第2焼成を行う場合であっても、仮焼成体と焼結補助材との間に間隙が発生するのを防止(阻止)することができる。 その結果、焼結体に焼結ムラが発生するのをより確実に防止することができ、機械的強度にムラのより少ない焼結体とすることができるという利点がある。 【0053】 <5>:成形体に第1焼成(仮焼成)を行っておくことにより、成形体(仮焼成体)の活性が低くなる。 このため、後述する工程[S4]において、仮焼成体を焼結補助材に埋設した状態で、第2焼成を行う場合であっても、焼結体への焼結補助材の付着や混入等を、好適に防止することができるという利点がある。 さらに、焼結補助材に焼成を施しておくことにより、前記効果がより顕著となる。 【0054】 このような第1焼成(仮焼成)における温度は、特に限定されないが、900〜1600℃程度が好ましく、1050〜1250℃程度がより好ましい。 【0055】 また、仮焼成における時間も、特に限定されないが、30分〜8時間程度が好ましく、2〜4時間程度がより好ましい。 【0056】 なお、この第1焼成は、大気炉を用いて行う場合に限られず、例えば後述するような焼結炉1(雰囲気炉)を用いて行うようにしてもよい。 すなわち、第1焼成における焼成雰囲気は、大気中とすることができる他、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中、酸素ガス中等としてもよい。 【0057】 また、本実施形態では、第1焼成(仮焼成)が、後述する第2焼成(本焼成)と異なる焼成条件で行われる場合について示したが、第1焼成は、第2焼成と同一の条件で行うようにしてもよい。 この場合、焼結体の機械的強度を向上させることができるという利点がある。 【0058】 また、この第1焼成は、必要に応じて、繰り返して行ってもよいし、省略してもよい。 【0059】 [S4] 仮焼成した成形体(仮焼成体)を本焼成(第2焼成)する工程ここで、本工程[S4]で使用される焼結炉1の構成について説明する。 【0060】 図2に示す焼結炉1は、仮焼成体を収納する収納空間20を有する炉本体2と、収納空間20へ酸素ガスおよびアルゴンガス(不活性ガス)をそれぞれ導入する導入路(導入ライン)3、4と、収納空間20内のガスまたは大気(空気)を排出する第1排出路(第1排出ライン)5と、収納空間20内に供給されたガス(気体)を排出する第2排出路(第2排出ライン)6とを有している。 【0061】 以下、各構成要素について説明する。 炉本体2は、箱状をなす筐体21と、筐体21に対して回動自在に設けられ、平板状をなす蓋22とを有している。 【0062】 また、筐体21の内部(収納空間20内)には、ヒータ23が設置されている。 このヒータ23の作動により、収納空間20内の温度を上昇させることができる。 これにより、収納空間20内に設置された仮焼成体を焼成することができる。 【0063】 筐体21(炉本体2)の側部には、収納空間20内に連通し、酸素ガスおよびアルゴンガス(不活性ガス)を導入する導入路3、4が設けられている。 【0064】 この導入路3の炉本体2と反対側の端部には、酸素ガスを収納したボンベ32が接続されている。 【0065】 また、この導入路4の炉本体2と反対側の端部には、アルゴンガスを収納したボンベ42が接続されている。 【0066】 導入路3、4の流路の途中には、図示しないバルブがそれぞれ設けられており、酸素ガスおよびアルゴンガスの収納空間20内への供給量が調整可能となっている。 【0067】 また、導入路3、4の流路の途中には、乾燥管31、41が設置されており、例えば、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化二リン、シリカゲル、活性アルミナ、濃硫酸等の乾燥剤が収納されている。 各ガスをこの導入路3、4を介して、収納空間20内に導入する際に、乾燥管31、41を通過させることにより、各ガスの湿度を低下させることができる。 【0068】 筐体21(炉本体2)の底部には、収納空間20内に連通する第1排出路5が設けられ、第1排出路5の流路の途中には、ポンプ51が設けられている。 ポンプ51の作動により、収納空間20内のガスまたは大気を強制的に排出可能となっている。 なお、必要に応じて、ボンベ32、42のいずれか一方を取り外し、ポンプ51を作動することにより、大気を収納空間20内に導入(供給)することもできる。 【0069】 また、筐体21(炉本体2)の上部には、収納空間20内に連通する第2排出路6が設けられ、第2排出路6の流路の途中には、チャック弁(不可逆弁)61が設けられている。 このチャック弁61は、収納空間20内から炉本体2外への気体の一方向のみの通過を許容するものである。 このため、収納空間20内にガスが供給され充満すると、収納空間20内のガスは、第2排出路6を介して徐々に、炉本体2外へ排出される。 【0070】 さて、この工程では、このような焼結炉1を用いて、前記工程[S3]で得られた仮焼成体を本焼成(第2焼成)する。 まず、仮焼成体を筐体21の収納空間20に設置し、炉本体2を密閉する。 【0071】 次いで、ポンプ51の作動により、収納空間20内から、大気を第1排出路5を介して強制的に排出する。 【0072】 次いで、ヒータ23の作動により、収納空間20(炉本体2)内を所定の温度とするとともに、酸素ガスおよびアルゴンガスを所定の比率となるように、導入管3、4を介してそれぞれ収納空間20内に導入(供給)する。 すなわち、仮焼成体を所定の酸素含有量の酸素含有雰囲気中で焼成する。 【0073】 この酸素含有量は、25vol%以上、好ましくは45vol%以上程度とされる。 【0074】 仮に、第2焼成を、酸素含有量が約1気圧換算で25vol%未満の酸素含有雰囲気中で行った場合には、十分な機械的強度を有する焼結体が得られない。 これに対し、本発明では、酸素含有量が約1気圧換算で25vol%以上、特に45vol%以上の酸素含有雰囲気中で仮焼成体の焼成を行うので、機械的強度に優れる焼結体を得ることができる。 【0075】 また、この第2焼成は、できるだけ低湿度で行われるのが好ましく、具体的には、湿度が30%RH以下の酸素含有雰囲気中で行われるのが好ましく、20%RH以下程度で行われるのがより好ましい。 このような低湿度の酸素含有雰囲気中で、第2焼成を行うことにより、焼結体の機械的強度がより向上する。 【0076】 この第2焼成における温度(焼成温度)は、特に限定されないが、1000℃以上で、かつ、リン酸カルシウム系化合物が熱分解する温度未満であるのが好ましく、1050〜1650℃程度であるのがより好ましい。 焼成温度が前記上限値を超えると、リン酸カルシウム系化合物が、熱分解してしまい、得られる焼結体の品質の低下を招く場合がある。 一方、焼成温度が前記下限値未満であると、リン酸カルシウム系化合物の種類等によっては、焼成が十分に行えない場合がある。 【0077】 また、第2焼成における時間(焼成時間)も、前記焼成温度等によって適宜設定され、特に限定されないが、30分〜8時間程度であるのが好ましく、2〜4時間程度であるのがより好ましい。 焼成時間をこのような範囲内とすることにより、焼結体の機械的強度がより向上し、また、過焼結等を防止することもできる。 【0078】 また、本工程の焼成(第2焼成)は、仮焼成体を焼結補助材で覆った状態で行われるのが好ましい。 【0079】 仮焼成体を焼結補助材で覆った状態で焼成を行うことにより、仮焼成体全体を、均一に加熱することができるので、得られる焼結体の機械的強度が全体として、より均一になる。 【0080】 この焼結補助材の形状としては、例えば、粉末状、平板状等のいかなるものを用いてもよいが、これらの中でも、特に、粉末状のものを用いるのが好ましい。 すなわち、第2焼成は、仮焼成体を粉末状の焼結補助材に埋設した状態で行うのが好ましい。 【0081】 この状態では、粉末状の焼結補助材同士の隙間から、各ガスが容易に透過できるので、焼成雰囲気にムラが生じるのを好適に防止することができる。 これにより、得られる焼結体は、さらに機械的強度が均一なものになる。 【0082】 また、焼結補助材として粉末状のものを用いる場合、その平均粒径は、特に限定されないが、3〜300μm程度であるのが好ましく、10〜80μm程度であるのがより好ましい。 平均粒径がこのような範囲内の粉末状の焼結補助材を用いることにより、前記効果がより向上する。 なお、平均粒径が小さ過ぎると、第2焼成を行った後、焼結体から焼結補助材を取り除くのに時間を要し、一方、平均粒径が大き過ぎると、第2焼成における焼成温度等によっては、焼結体の表面付近まで機械的強度を向上させることができない場合がある。 【0083】 この焼結補助材の構成材料としては、仮焼成体に対して不活性で、かつ、熱に絶え得るものであれば、いかなるものであってもよく、特に限定されないが、例えば、リン酸カルシウム系化合物、アルミナ、チタニア、カオリナイトのような金属酸化物等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、リン酸カルシウム系化合物を主とするものであるのが好ましい。 すなわち、焼結補助材は、仮焼成体(焼結体)と、同様の材料とするのが好ましい。 これにより、焼結補助材から仮焼成体への熱伝達を効率よく行うことができ、焼成時間の延長を防止することができる。 また、得られる焼結体を、特に生体に適用する場合であっても、焼結補助材の主材料として生体材料であるリン酸カルシウム系化合物を用いることにより、仮に、焼結補助材の一部が焼結体に付着や混入(コンタミネーション)等しても、生体安全性を確保することができるという利点もある。 【0084】 さらに、この焼結補助材は、焼成が施されているのが好ましい。 これにより、焼結補助材の活性を低くすることができるので、焼結補助材の焼結体への付着や混入等を、より確実に防止することができる。 また、この場合、焼結補助材は、前記工程[S3]における第1焼成と同時に、または、同条件で行うようにすればよい。 例えば、第1焼成と同時に大気炉を用いて、焼結補助材に焼成を行うことにより、焼結体の製造コストの削減を図ることができるという利点がある。 【0085】 特に、焼結補助材は、第2焼成(本焼成)における焼成温度以上の温度で焼成が施されたものであるのが好ましい。 これにより、焼結補助材の焼結体への付着や混入等をさらに確実に防止することができる。 【0086】 なお、目的に応じて、仮焼成体は、機械的強度を向上させたい部分だけを、焼結補助材で覆った状態で焼成するようにしてもよい。 【0087】 以上のような工程を経て、焼結体が得られる。 このような焼結体は、例えば、椎弓スペーサー、耳小骨のような人工骨、人工歯根等に好適に使用される。 【0088】 また、このような焼結体は、その相対密度が92%以下(=空孔率8%以上)であるのが好ましく、85%以下であるのがより好ましい。 このような焼結体では、骨芽細胞の進入に有利であり、より生体適合性に優れたものとすることができる。 なお、本発明によれば、気孔率を比較的大きくした場合でも、十分な機械的強度を有する焼結体とすることができる。 【0089】 本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、このような焼結体が、以下の▲1▼〜▲4▼の特徴(特性)を有するか否かで、機械的強度に優れるものであるか否かを判断できることを見出した。 【0090】 なお、本発明により製造された焼結体は、以下の▲1▼〜▲4▼の特徴の1つを満足するのが好ましく、2つ以上を満足するのがより好ましい。 【0091】 ▲1▼:相対密度67〜77%、厚さ3mmのテストピース(焼結体)を作製し、該テストピースに、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いた85Wのハロゲンランプの光を照射し、その透過光の色を調べた場合、CIE色度図の色度座標上で、y≧−20/23x+79/92の範囲(特に、y≧−20/23x+1999/2300の範囲)である。 なお、この範囲は、図5中斜線で示されている。 【0092】 ▲2▼:相対密度45〜55%、厚さ8mmのテストピース(焼結体)を作製し、該テストピースに、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いた85Wのハロゲンランプの光を照射し、その透過光の輝度を調べた場合、15cd/m 2以下(特に、10cd/m 2以下)である。 【0093】 このように、▲1▼および▲2▼を規定したのは、次のような理由からである。 まず、テストピースを用いる理由について説明する。 【0094】 実際の焼結体は、前述したように使用目的(例えば、椎弓スペーサー、耳小骨等)に応じて、形状や寸法等が適宜設定される。 このため、同一の条件で透過光(色度や輝度等)を測定した場合であっても、実際の焼結体では、その形状や寸法等によっては、一律に評価が行えない場合がある。 すなわち、実際の焼結体には、形状依存性が存在する。 【0095】 そこで、前記のような一定条件でテストピース用の成形体を作製し、かかるテストピース用の成形体と実際の成形体とを、同時にまたは同条件で焼成を行い、テストピース(焼結体)において、前記のような特性が得られれば、実際の焼結体においても、これに相当する特性が得られているものと推定することができる。 【0096】 次に、測定条件について説明する。 相対密度67〜77%、厚さ3mmのテストピースを作製し、その厚さ方向に、内径4mm長さ30cmの光ファイバーで導いた85Wのハロゲンランプの光を照射すると、比較的多くの光が透過する。 この場合には、本発明者の検討の結果、透過光の色度を測定して、かかる測定値がCIE色度図の色度座標上で前記範囲を満足すれば、このものは、機械的強度に優れるものであると判断できることがわかった。 【0097】 また、相対密度45〜55%、厚さ8mmのテストピースを作製し、その厚さ方向に、内径4mm長さ30cmの光ファイバーで導いた85Wのハロゲンランプの光を照射しても、その透過光の色度を測定するのに、十分な光の透過が見込めない。 この場合には、本発明者の検討の結果、透過光の輝度を測定して、かかる測定値が前記範囲のものであれば、このものは、機械的強度に優れるものであると判断できることがわかった。 【0098】 ▲3▼:焼結体は、目視により測色した場合、成形体の色(白色、薄いピンク色等)に対し、着色した部分を有する。 【0099】 この色(着色)は、焼成条件、焼成雰囲気等により異なるが、通常、クリーム色、小豆色、灰色(黒色)等である。 【0100】 ▲4▼:前記着色した部分を取り出し、例えば、粉砕等して、2θ=25〜40°の範囲でX線回折を行った場合、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しない。 【0101】 以上、本発明の焼結体の製造方法について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。 【0102】 例えば、本発明では、任意の目的で、工程[S1]の前工程、工程[S1]〜[S4]の間に存在する中間工程、または工程[S4]の後工程を用いられるようにしてもよい。 【0103】 【実施例】 次に、本発明の焼結体の製造方法の具体的実施例について説明する。 【0104】 (実施例1) [ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム系化合物)を含むスラリー(組成物)を得る工程] まず、水酸化カルシウム140gを純水1200mLに分散させ、これをビーカーに入れ、その中へ、リン酸水溶液(リン酸濃度10wt%)700mLを滴下し、十分に攪拌、混合して、スラリー状のハイドロキシアパタイトを合成した。 【0105】 次いで、このスラリー状のハイドロキシアパタイトを噴霧乾燥し、平均粒径18μmのハイドロキシアパタイトの粉体を得た。 【0106】 このハイドロキシアパタイトの粉体を、700℃×4時間で仮焼きし、粉砕機により粉砕した。 これにより、平均粒径16μmのハイドロキシアパタイトの粉体を得た。 【0107】 このハイドロキシアパタイトの粉体と純水とを混練して、スラリーを得た。 なお、ハイドロキシアパタイトの粉体と純水との配合比を、粉体:純水=5:6(重量比)とした。 【0108】 [ハイドロキシアパタイトを成形する工程] このスラリーを、内面に流動パラフィンを塗布した成形型内に入れ、40℃で2日間(48時間)かけて、乾燥させた。 その後、成形型内から取り出し、切り出し加工して、板状のテストピース用の成形体を得た。 なお、この成形体の寸法は、縦32mm×横17mm×厚さ5mmであった。 【0109】 [成形体を仮焼成する工程] この成形体を、湿度が50%RHの大気(酸素含有量(約1気圧換算)が20vol%)中で、1200℃×4時間で焼成(第1焼成)した。 これにより、仮焼成体を得た。 なお、得られた仮焼成体の相対密度は、70%であった。 【0110】 次いで、仮焼成体をダイヤモンドヤスリ等を用いて切削、研磨加工により、寸法:縦30mm×横15mm×厚さ3mmとした。 【0111】 この仮焼成体の背面側から、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いたハロゲンランプの光(波長375〜4000nm、出力85W)を照射し、仮焼成体の正面側にて、透過光の輝度および色度を測定した。 【0112】 なお、この測定は、仮焼成体から35cmの距離に色度計(ミノルタ社製、形式:CS−100)を置いて行った。 【0113】 その結果、透過光の輝度は、200cd/m 2であり、また、透過光の色度は、CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/460≦y<−20/23x+79/92の範囲であった。 【0114】 [仮焼成体を本焼成する工程] まず、仮焼成体の全体を、平均粒径20μmのハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム系化合物:焼結補助材)の粉体中に埋設した状態で、図2に示すような焼結炉の収納空間内に収納した。 なお、このハイドロキシアパタイトの粉体には、大気中で、1200℃×4時間の焼成を施したものを用いた。 【0115】 次に、この仮焼成体を酸素含有量(約1気圧換算)が100vol%、湿度が3%RHの酸素雰囲気中、1200℃×2時間で焼成(第2焼成)した。 これにより、仮焼成体とほぼ寸法が等しいテストピース(焼結体)を得た。 なお、得られたテストピースの相対密度は、71%であった。 【0116】 また、このテストピースに対して、仮焼成体と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 【0117】 その結果、透過光の輝度は、5cd/m 2であり、また、透過光の色度は、CIE色度図の色度座標上で、座標(0.66,0.33)であり、これは、y≧−20/23x+1999/2300の範囲であった。 【0118】 また、テストピースは、全体が小豆色に着色しており、小豆色に着色した部分を取り出し、粉末として、X線回折装置(リガク社製、型式:RINT2000)を用いて、2θ=25〜40°の範囲内で、X線回折を行った結果、図3に示すように、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0119】 (実施例2) 本焼成(第2焼成)における焼成雰囲気を、湿度が3%RHの酸素雰囲気に代えて、湿度が25%RHの酸素雰囲気とした以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0120】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0121】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0122】 ―仮焼成体― 相対密度 :75% 透過光の輝度:40cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/46 0≦y<−20/23x+79/92の範囲【0123】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :75% 透過光の輝度:3cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.66,0.33)、 y≧−20/23x+1999/2300の範囲また、テストピースは、全体が小豆色に着色しており、小豆色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0124】 (実施例3) 本焼成(第2焼成)における焼成雰囲気を、酸素含有量(約1気圧換算)が100vol%、湿度が3%RHの酸素雰囲気に代えて、酸素含有量(約1気圧換算)が50vol%(酸素50vol%+アルゴン50vol%)、湿度が25%RHの酸素含有雰囲気とした以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0125】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0126】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0127】 ―仮焼成体― 相対密度 :74% 透過光の輝度:75cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/46 0≦y<−20/23x+79/92の範囲【0128】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :76% 透過光の輝度:55cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.59,0.38)、 y≧−20/23x+1999/2300の範囲【0129】 また、テストピースは、全体がクリーム色に着色しており、クリーム色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0130】 (参考例1) 仮焼成(第1焼成)における焼成雰囲気を、湿度が50%RHの大気中に代えて、酸素含有量(約1気圧換算)が50vol%(酸素50vol%+アルゴン50vol%)、湿度が3%RHの酸素含有雰囲気とした以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0131】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0132】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0133】 ―仮焼成体― 相対密度 :75% 透過光の輝度:190cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/46 0≦y<−20/23x+79/92の範囲【0134】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :76% 透過光の輝度:45cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.59,0.38)、 y≧−20/23x+1999/2300の範囲【0135】 また、テストピースは、全体がクリーム色に着色しており、クリーム色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0136】 (参考例2) 仮焼成(第1焼成)を省略した以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0137】 なお、得られたテストピースは、以下のようなものであった。 また、このテストピースに対して、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0138】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :75% 透過光の輝度:6cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.66,0.33)、 y≧−20/23x+1999/2300の範囲【0139】 また、テストピースは、全体が小豆色に着色しており、小豆色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0140】 (参考例3) 仮焼成(第1焼成)を省略し、本焼成(第2焼成)において、成形体を焼結補助材に埋設することなく、そのままアルミナ製の板上に設置して、焼成を行った以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0141】 なお、得られたテストピースは、以下のようなものであった。 また、このテストピースに対して、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0142】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :74% 透過光の輝度:10cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.66,0.33)、 y≧−20/23x+1999/2300の範囲【0143】 また、テストピースは、内部が小豆色に着色しており、小豆色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0144】 (実施例4) [ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム系化合物)を含むスラリー(組成物)を得る工程] まず、水酸化カルシウム140gを純水1200mLに分散させ、これをビーカーに入れ、その中へ、リン酸水溶液(リン酸濃度10wt%)700mLを滴下し、十分に攪拌、混合して、スラリー状のハイドロキシアパタイトを合成した。 【0145】 次いで、このスラリー状のハイドロキシアパタイトを噴霧乾燥し、平均粒径18μmのハイドロキシアパタイトの粉体を得た。 【0146】 このハイドロキシアパタイトの粉体を、700℃×4時間で仮焼きし、粉砕機により粉砕した。 これにより、平均粒径15μmのハイドロキシアパタイトの粉体を得た。 【0147】 このハイドロキシアパタイトの粉体とメチルセルロース水溶液(1wt%)とを、泡だて器を用いて混練して、気泡を含むスラリーを得た。 なお、ハイドロキシアパタイトの粉体とメチルセルロース水溶液との配合比を、粉体:メチルセルロース水溶液=1:2(重量比)とした。 【0148】 [ハイドロキシアパタイトを成形する工程] このスラリーを、内面に流動パラフィンを塗布した成形型内に入れ、80℃で5日間(120時間)かけて、乾燥させた。 その後、成形型内から取り出し、切り出し加工して、柱状のテストピース用の成形体を得た。 なお、この成形体の寸法は、縦36.4mm×横11.2mm×厚さ11.2mmであった。 【0149】 [成形体を仮焼成する工程] この成形体を、湿度が50%RHの大気(酸素含有量(約1気圧換算)が20vol%)中で、1200℃×4時間で焼成(第1焼成)した。 これにより、仮焼成体を得た。 なお、得られた仮焼成体の相対密度は、55%であった。 【0150】 次いで、仮焼成体をダイヤモンドヤスリ等を用いた切削、研磨加工により、寸法:縦26mm×横8mm×厚さ8mmとした。 【0151】 この仮焼成体の背面側から、内径4mm長さ30cmの光ファイバーを用いて導いたハロゲンランプの光(波長375〜4000nm、出力85W)を照射し、仮焼成体の正面側にて、透過光の輝度を測定した。 測定は、仮焼成体から35cmの距離に色度計(ミノルタ社製、形式:CS−100)を置いて行った。 その結果、透過光の輝度は、115cd/m 2であった。 【0152】 [仮焼成体を本焼成する工程] まず、仮焼成体の全体を、平均粒径20μmのハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム系化合物:焼結補助材)の粉体中に埋設した状態で、図2に示すような焼結炉の収納空間内に収納した。 なお、このハイドロキシアパタイトの粉体には、大気中で、1200℃×4時間の焼成を施したものを用いた。 【0153】 次に、この仮焼成体を酸素含有量(約1気圧換算)が50vol%(酸素50vol%+アルゴン50vol%)、湿度が3%RHの酸素含有雰囲気中、温度1200℃×2時間で焼成(第2焼成)した。 これにより、仮焼成体とほぼ寸法が等しいテストピース(焼結体)を得た。 なお、得られたテストピースの相対密度は、56%であった。 【0154】 また、このテストピースに対して、仮焼成体と同じ条件で透過光の輝度を測定した。 その結果、透過光の輝度は、1cd/m 2であった。 【0155】 また、テストピースは、全体がクリーム色に着色しており、クリーム色に着色した部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在しなかった。 【0156】 なお、 前記実施例1〜4および参考例1〜3では、それぞれ椎弓スペーサー用の成形体を成形し、前記と同様にして椎弓スペーサーを製造した。 【0157】 (比較例1) 本焼成(第2焼成)における焼成雰囲気を、酸素含有量(約1気圧換算)が100vol%、湿度が3%RHの酸素雰囲気に代えて、湿度が50%RHの大気(酸素含有量(約1気圧換算)が20vol%)中とし、さらに、仮焼成体を焼結補助材に埋設することなく、そのままアルミナ製の板上に設置して、焼成を行った以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0158】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0159】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0160】 ―仮焼成体― 相対密度 :75% 透過光の輝度:180cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/46 0≦y<−20/23x+79/92の範囲【0161】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :76% 透過光の輝度:175cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.55,0.31)、 −20/23x+359/460≦y<−20/23x+79 /92の範囲【0162】 また、テストピースは、全体が薄いピンク色で着色した部分がなかったので、その中心部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、図4に示すように、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在した。 【0163】 (比較例2) 本焼成(第2焼成)における焼成雰囲気を、酸素含有量(約1気圧換算)が100vol%、湿度が3%RHの酸素雰囲気に代えて、アルゴン含有量(約1気圧換算)が100vol%、湿度が3%RHのアルゴン雰囲気とした以外は、前記実施例1と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0164】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0165】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で透過光の輝度および色度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0166】 ―仮焼成体― 相対密度 :75% 透過光の輝度:180cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、−20/23x+359/46 0≦y<−20/23x+79/92の範囲【0167】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :75% 透過光の輝度:250cd/m 2 透過光の色度:CIE色度図の色度座標上で、座標(0.47,0.40)、 −20/23x+359/460≦y<−20/23x+79 /92の範囲【0168】 また、テストピースは、全体が白色で着色した部分がなかったので、その中心部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在した。 【0169】 (比較例3) 本焼成(第2焼成)における焼成雰囲気を、酸素含有量(約1気圧換算)が50vol%、湿度が3%RHの酸素含有雰囲気中に代えて、湿度が25%RHの大気(酸素含有量(約1気圧換算)が20vol%)中とし、さらに、仮焼成体を焼結補助材に埋設することなく、そのままアルミナ製の板上に設置して、焼成を行った以外は、前記実施例4と同様にしてテストピース(焼結体)を製造した。 【0170】 なお、得られた仮焼成体およびテストピースは、それぞれ、以下のようなものであった。 【0171】 また、これらの仮焼成体およびテストピースに対して、それぞれ、前記実施例4と同じ条件で透過光の輝度を測定した。 その結果も併せて以下に示す。 【0172】 ―仮焼成体― 相対密度 :55% 透過光の輝度:80cd/m 2 【0173】 ―テストピース(焼結体)― 相対密度 :55% 透過光の輝度:65cd/m 2 また、テストピースは、全体が薄いピンク色で着色した部分がなかったので、その中心部分を取り出し、前記実施例1と同様にX線回折を行った結果、メインピークの強度の0.5%以上の強度を有するピークが、2θ=36〜36.5°の範囲に存在した。 【0174】 (評価) 3点曲げ試験(JIS R 1601)により、 実施例1〜4、参考例1〜3および比較例1〜3で製造された焼結体の強度を、それぞれ、測定した。 その結果を表1に示す。 【0175】 【表1】
【0176】 表1に示す結果から、本発明の焼結体(
実施例1〜3 )は、いずれも、これらとほぼ等しい相対密度である比較例の焼結体(比較例1、2)に対して、機械的強度に優れるものであった。 【0177】
また、本発明の焼結体(
実施例4 )も、ほぼ等しい相対密度である比較例の焼結体(比較例3)に対して、機械的強度に優れるものであった。 【0178】
以上の結果より、
実施例1〜4で製造した各椎弓スペーサーも、優れた機械的強度が得られているものと推定される。 【0179】
また、本発明
により製造された焼結体(テストピースおよび椎弓スペーサ−)は、いずれも、相対密度が十分に小さいものであった。 【0180】
このようなことから、
実施例1〜4で製造された各椎弓スペーサーは、いずれも、生体に対する使用に適するものである。 【0181】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、機械的強度を有する焼結体が得られる。
湿度が30%RH以下の酸素含有雰囲気中で行うことにより、焼結体の機械的強度がより向上する。
【0182】
また、焼結補助材を用いて行うことにより、焼結体の機械的強度がさらに向上する。
【0183】
このようなことから、本発明
により製造された焼結体は、椎弓スペーサーや耳小骨等の人工骨、人工歯根等に好適に使用される。 【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の焼結体の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の焼結体の製造方法で使用される焼結炉の全体構成を示す図である。
【図3】実施例1で製造されたテストピース(焼結体)のX線回折図である。
【図4】比較例1で製造されたテストピース(焼結体)のX線回折図である。
【図5】CIE色度図である。
【符号の説明】
1 焼結炉2 炉本体20 収納空間21 筐体22 蓋23 ヒータ3、4 導入路31、41 乾燥管32 酸素ガスボンベ42 アルゴンガスボンベ5 第1排出路51 ポンプ6 第2排出路61 チャック弁
|