【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、自己発熱性を有する炭化珪素焼結体、とくに多孔質炭化珪素焼結体の電気抵抗を所望の値に調整するための制御法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、炭化珪素粉末に炭素粉と有機バインダーを混合して所定形状に成形し、これを焼成処理した炭化珪素焼結体は古くから製造されており、そのセラミックスとしての材質ならびに電気的な抵抗発熱特性を利用して化学的に安定な高温発熱体として多様の産業分野で有用されている。 【0003】このため、炭化珪素発熱体の性能向上を目的とした改良研究も盛んにおこなわれている。 このうち材質強度や抵抗調整に関するものとしては、抵抗を低下させるための第三元素成分を添加する方法が知られている。 例えば、SiCに硼素化合物と炭素系材料を混合してアルゴン中で焼結する方法(特開昭50−78609 号公報)、SiC粉末を焼結する際にN、P、As、Sb、 Bi等を固相または気相でドープさせる方法(特開昭52 −110499号公報) がこれに当たる。 しかし、これら第三元素成分の添加による抵抗調整は分散組成の均質化が困難となるため、工業化には難点がある。 【0004】また、SiC粉末に特定量の硼素または硼素化合物および炭素または炭素質化合物を添加し、混合成形して一次焼成したのち加圧窒素ガス雰囲気中で15 00〜2300℃の温度で理論密度の80%以上、比抵抗1.0Ω−cm以下の炭化珪素発熱体に再焼結する二次焼成を施す方法(特公昭61−56187 号公報、特公昭64− 4312号公報)が提案されている。 ところが、この方法を適用するには窒素ガスを高圧で導入保持する必要があるため、製造設備が大型化、複雑化する難点があり、また材質の緻密質化を目的とする関係で多孔質炭化珪素焼結体に対してはそのまま利用することができない。 このほか、真空加熱によりSiC表面の酸化物を除去して抵抗の低下を図る方法(特開平1−97472 号公報) も提案されているが、1000℃以上の高温処理を3回反復する工程が必要であるうえ、抵抗を制御する目的には適合性がない。 【0005】近時、触媒担体や粒子捕集トラップなどの用途を対象として多孔質の炭化珪素焼結体が実用されている。 これらの部材では、通常400〜600℃の温度域で使用されるが、この際の加熱手段は部材を構成する炭化珪素焼結体を外部ヒーターによって間接加熱する方法が多く採用されている。 しかし、間接加熱方式では均一な加熱が困難となって温度むらが生じたり、所定温度まで加熱するために長時間を要する等の欠点がある。 このため、焼結体に直接通電して抵抗発熱させ、各用途に適合した電気抵抗値を備える自己発熱タイプの開発が要請されている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、第三元素成分を添加することなしに上記の要求を満たす炭化珪素焼結体を得るためになされたもので、その目的は特に多孔質組織の炭化珪素焼結体に対し材質強度を損ねずに所望の比抵抗に調整することができる電気抵抗の制御法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明による炭化珪素焼結体の電気抵抗制御法は、 炭化珪素焼結体を、雰囲気系が窒素圧1〜1000Torr の窒素ガス雰囲気、処理温度が2000〜2200℃に設定された焼結条件の範囲内で条件変動させることを構成上の特徴とする。 【0008】本発明における炭化珪素焼結体は、常法による焼結法、再結晶法等で得られる緻密質組織のものを対象とすることもできるが、とくに気孔率が80%以上の多孔質組織を備える炭化珪素焼結体が好適な処理対象となる。 多孔質組織の炭化珪素焼結体を製造する手段としては、例えば三次元網目構造を有する有機質多孔発泡体の骨格面に炭化珪素スラリーを付着したのち、乾燥、 焼成する方法、炭化珪素スラリーと発泡性粒子の混合物を乾燥、焼結する方法などを用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。 【0009】電気抵抗の制御は、上記の炭化珪素焼結体を、雰囲気系が窒素圧1〜1000Torr、好ましくは1 0〜1000Torrの窒素ガス雰囲気、処理温度が200 0〜2200℃に設定された特定の焼結条件範囲内において条件変動させることによっておこなわれる。 この焼結条件の条件範囲は材質強度を高水準に維持しながら電気抵抗を所望の値に調整するために重要な要件で、窒素圧が1Torrを下廻ったり、あるいは処理温度が2200 ℃を越えると炭化珪素の昇華や分解が生じて材質強度の低下を招き、窒素圧が1000Torrを越えたり、あるいは処理温度が2000℃を下廻るようになると再結晶による焼結の進行が遅延化して同様に材質強度が減退する。 焼結処理は窒素ガスの導入および温度が制御しえる密閉型の加熱炉を用いておこなわれ、焼結時間は概ね1 〜2時間で足りる。 【0010】上記の焼結条件範囲内において、窒素圧および処理温度を適宜に変動させて炭化珪素焼結体の電気抵抗値を調整するが、予めこれら条件と比抵抗との関係を検量しておくことにより所望の電気抵抗値に制御することが可能となる。 【0011】 【作用】本発明によれば、焼結の段階で炭化珪素焼結体の組織に窒素がドープされてn型SiC半導体になり、 処理材質の電気抵抗が低下する。 この際、窒素圧および処理温度を調整して窒素のドープ量を変化させることによって抵抗値を1〜1000Ωcmの範囲で自由に制御することができる。 とくに多孔質の炭化珪素焼結体を処理する場合には、窒素のドーピングが円滑に進行して電気抵抗の制御を一層効果的におこなうことができる。 【0012】 【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。 【0013】実施例1〜5、比較例1〜4 平均粒子径2μm の炭化珪素粉末を水に分散懸濁させ、 これに0.5重量%のポリビニルアルコールを添加して粘度1000cpのスラリーを作製した。 このスラリーに軟質ポリウレタンフォーム〔ブリジストン(株)製“エバーライトスコット#20 ”〕を浸漬して引上げ、余剰のスラリーを遠心分離により除去したのち80℃の温度で乾燥した。 ついで、焼成炉に移し、大気雰囲気に保持して300℃の温度で仮焼成してポリウレタンフォームを構成する有機質成分を焼失させた。 得られた仮焼成体を300cpに粘度調整した前記のスラリーに再度浸漬して引上げ、同様に余剰のスラリーを除去したのち乾燥して嵩密度0.45g/cc、気孔率86%の多孔質炭化珪素焼結体を形成した。 【0014】上記の多孔質炭化珪素焼結体を密閉式高周波誘導加熱炉にセットし、炉内に窒素ガスを導入して系内の窒素圧を調整し、同時に加熱温度を制御して異なる焼結条件により焼結をおこなった。 処理時間は、それぞれ1時間とした。 このようにして焼結した多孔質炭化珪素焼結体の比抵抗(室温)および3点曲げ強度を測定し、結果を焼結変動条件と対比させて表1に示した。 また、焼結時(処理温度2000℃)の窒素圧と処理した多孔質炭化珪素焼結体の比抵抗値の関係グラフを図1として示した。 【0015】 【表1】 【0016】表1の結果から、本発明の条件範囲を満たす実施例はいずれも高水準の材質強度を保持した状態で変動条件に応じて比抵抗値が可変しており、図1のようにその比抵抗値は窒素圧と良好な相関関係を示している。 これに対し、本発明の条件範囲を外れる比較例ではいずれも材質強度が低下し、実用性に欠けるものであった。 【0017】 【発明の効果】以上のとおり、本発明によれば自己発熱性を有する炭化珪素焼結体を特定された可変条件下で窒素ガス雰囲気により焼結することによって、材質強度を損ねることなく円滑に所望の電気抵抗値に制御することができる。 したがって、多孔質炭化珪素焼結体を処理対象とした場合には、苛酷な条件下で使用される触媒担体、流体の加熱・濾過やパーティキュレート捕集加熱などを目的とした部材として要求発熱性に合致する抵抗値を付与することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】実施例による焼結時の窒素圧と処理した炭化珪素焼結体の比抵抗との関係を示したグラフである。 |