【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、電気抵抗の比較的に高い高抵抗再結晶炭化珪素、その製造方法、およびこの再結晶炭化珪素を利用した耐蝕性部材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】再結晶炭化珪素は、通常500℃以下の低温下において、0.1−50Ω・cm程度の低い体積抵抗率を有しており、通常の炭化珪素の特徴である半導体的性質を有していない。 このため、再結晶炭化珪素の用途は耐火物に限定されていた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】再結晶炭化珪素に半導体的な性質を付与するために、本出願人は、特願平10 −72644号明細書において、炭化珪素の再結晶時の焼成雰囲気を制御することによって、再結晶炭化珪素の抵抗を上昇させ得ることを開示した。 この方法は極めて有効であったが、焼成用の筐体(さや)内の成形体の量や成形体の設定位置によって、抵抗率がばらつくという問題が残されている。 また、体積抵抗率の高い再結晶炭化珪素からなる基体を作製した後に、基体の表面に化学的気相成長法によってSiC膜を成膜すると、基体の抵抗率が50Ω・cm以下に低下するという問題があった。 【0004】本発明の課題は、体積抵抗率の大きな再結晶炭化珪素を提供することであり、また高抵抗再結晶炭化珪素を製造する方法を提供することである。 【0005】また、本発明の課題は、こうした再結晶炭化珪素を利用し、高抵抗再結晶炭化珪素からなる基体の表面に、耐蝕性が高く、基体よりも体積抵抗率の小さい炭化珪素膜を備えている耐蝕性部材を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者は、再結晶炭化珪素の電気抵抗について詳細な研究を行った結果、再結晶炭化珪素の抵抗率は、開気孔表面に生成した、C(カーボン)からなる低抵抗層によって支配されており、この低抵抗層をエッチングで除去することにより、再結晶炭化珪素の高抵抗化が可能であることを発見した。 【0007】例えば、本発明者は、再結晶炭化珪素を混酸中に浸漬した状態で、好ましくは100℃以上の熱処理を行うことにより、開気孔の内壁面上の低抵抗層を除去し、抵抗率が10、000Ω・cm以上の再結晶炭化珪素を作製することに成功した。 【0008】酸は、再結晶炭化珪素の開気孔に浸透して、その内壁面をエッチングできるようであれば、その種類は問わないが、酸溶液が少なくともフッ化水素酸を含んでいることが特に好ましい。 この場合には、酸溶液がフッ化水素酸と硝酸の混合溶液であるか、あるいは、 フッ化水素酸、硝酸および硫酸の混合溶液であることが好ましい。 【0009】エッチング時の温度は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることが更に好ましい。 【0010】再結晶炭化珪素は、以下のものであることが好ましい。 (1)SiとC以外の不純物が0.5重量%以下であり、かつ相対密度が80%以上、90%以下である多孔質焼結体。 (2)SiとC以外の不純物が2.0重量%以下であり、かつ相対密度が70%以上である多孔質焼結体。 【0011】エッチング前の再結晶炭化珪素は、通常法で作製できる。 即ち、炭化珪素粉末原料から、鋳込み等の方法によって成形体を作製し、これを例えば2200 ℃−2400℃で熱処理することによって、再結晶炭化珪素が得られる。 【0012】また、本発明は、開気孔を有する再結晶炭化珪素であって、SiおよびC以外の不純物の含有量が0.2重量%以下であり、前記開気孔の内壁面のカーボン層が除去されており、室温抵抗率が100000Ω・ cm以上である、高抵抗再結晶炭化珪素に係るものである。 【0013】本発明者は、さらなる高抵抗化のために、 焼成方法も検討した結果、室温から1600−2000 ℃の温度まで0.01Torr以下の圧力下で昇温することにより、再結晶炭化珪素が高純度化し、その高純度な再結晶炭化珪素を混酸中に浸漬した状態で100℃以上の熱処理を行うことにより、低低抗層を除去でき、室温抵抗率が100000Ω・cm以上である再結晶炭化珪素を作製できることを見いだした。 【0014】この際には、室温から1600〜2000 ℃の温度まで0.01atm以下の圧力下で昇温後、1 600〜2000℃の前記温度で不活性ガスを0.5〜 2atmの圧力まで導入し、再び0.01atm以下の圧力まで減圧し、更に再び不活性ガスを0.5〜2at mの圧力まで導入した後、2200〜2400℃の温度に昇温することが好ましい。 【0015】また、本発明者は、耐蝕性部材であって、 前記の高抵抗再結晶炭化珪素からなる基体と、この基体のうち少なくとも腐食性物質に対して暴露される面を被覆している炭化珪素膜であって、室温抵抗率が20Ω・ cm以上、500Ω・cm以下の炭化珪素膜とを備える耐蝕性部材を想到した。 【0016】即ち、超純水や滅菌水等の溶液を加熱する場合、これらの溶液の汚染を防ぐため、テフロン樹脂で被覆されたヒーターを用いて加熱することが行われている。 具体的には、棒状の金属発熱体の表面をテフロンコートしてヒーターを得、このヒーターを、溶液を入れた容器中に投入したり、容器の内壁面をテフロンコートし、外部から加熱する方法が知られている。 近年、超純水や滅菌水に加え、フッ酸、硝酸、塩酸、および王水等の混酸を含む超高純度の腐食性溶液も、金属イオンや有機物によって全く汚染することなく、加熱することが求められるようになってきた。 【0017】炭化珪素膜の純度は、好ましくは99.9 999%以上である。 基体の厚みは、好ましくは8mm 以上である。 【0018】好ましくは、炭化珪素膜は、高純度で理論密度と同じ完全緻密体であり、種々の溶液によって腐食され難い。 本発明品は、高純度で緻密な炭化珪素被覆が接液部全面を覆っているため、不純物を大量に含む基材が溶液と接触しない。 従って、加熱対象となる溶液への汚染が、ほとんど無視できるほどに少ない。 従って、溶液中への汚染度を、超純水で必要されるpptレベル以下に抑えることができる。 また、こうした炭化珪素膜の腐食は非常に遅く、長期にわたって良好な特性が維持できる。 そして、腐食性物質に接触する接触面が直接発熱するために、腐食性物質の加熱効率が高い。 【0019】特に、腐食性物質に接触する炭化珪素膜の抵抗率が、室温で20〜500Ω・cmに制御されているために、容器の電極および炭化珪素膜に電圧を印加することが可能であり、電源に特別な工夫を要さず、加熱ヒーターとして適切な発熱量を有することができる。 炭化珪素膜の抵抗率が20Ω・cmより低いと、電極に対して過大な電流を流さなければならず、電源が大きくなり、サイリスター等の特別な部品が必要となる。 抵抗率が500Ω・cmより高いと、電流が小さくなりすぎ、 ヒーターとしての用をなさない。 【0020】腐食性物質を誘導加熱で加熱する場合も、 抵抗率が20Ω・cmより低いと、急激な発熱により、 熱衝撃で基材に破壊が生じることがあり、抵抗率が50 0Ω・cmより高いと、発熱量が小さくなり、加熱できなくなる。 【0021】本発明の耐蝕性部材においては、特に、抵抗率が均一に制御されている面で発熱するために、均一な加熱が可能となり、加熱効率が高くなる利点もある。 炭化珪素被覆の抵抗分布が大きいと、抵抗の低い所に電流が集中し、発熱部分と溶液、ガスの接液面積が相対的に減少し、発熱効率が悪くなる。 【0022】腐食性物質として、前述した腐食性溶液が好適である。 なお、例えば半導体製造用途等においては、反応性プラズマガスに対して暴露される気密性部品の需要がある。 このような反応性プラズマガスとしては、CF 4 、NF 3 、ClF 3 、HF、HCl、HBr 等があるが、いずれも強い腐食性を有している。 このような高度に腐食性のガスを、気密性容器内で加熱するための製品が要望されており、本発明の耐蝕性部材は、こうした製品に対しても適用できる。 【0023】 【実施例】(実験A)出発原料として、平均粒径100 μmの粗粒炭化珪素粉末を45重量部と、平均粒径2μ mの微粒炭化珪素粉末を55重量部とを混合し、20重量部の水と2重量部のバインダーとを添加して、スラリーを得た。 このスラリーを、100mm×100mm× 深さ20mmの石膏型に流し込み、密度2.6g/c c、気孔率20%の成形体を作製した。 得られた成形体を、高温雰囲気炉(カーボン炉)を用いて、圧力1at mのアルゴン中で、2200℃まで昇温し、2200℃ で2時間保持することにより、再結晶炭化珪素焼結体を作製した。 【0024】フッ化水素酸、硝酸、硫酸をそれぞれ6, 5,4ccずつ混合し、これに水15cc加え、混酸溶液を作製した。 上記の焼結体から、3mm×4mm×4 0mmの直方体の試料を切り出し、この試料を前記混酸溶液中に浸漬し、図1に示す容器に収容し、150℃で16時間熱処理した。 【0025】図1においては、ステンレス製保持容器3 中にテフロン容器1が収容され、テフロン容器1にテフロン製の蓋2がはめ込まれている。 容器1の下には下板7が敷設されており、下板7の下側にはガス抜き孔8が設けられている。 蓋2の上には上板6が設置されている。 テフロン製容器1中に前記試料と混酸溶液とを収容し、蓋2をはめ合わせ、上板6を設置し、ステンレス蓋4を容器3にはめ合わせ、締めつけボルト5で上板6を押圧し、加熱する。 【0026】混酸によるエッチング時の温度を、表1に示すように変更し、エッチング時の各温度における保持時間を16時間とした。 エッチング前の前記試料(比較例1)、および表1に示す各試料について、室温における体積抵抗率を測定し、得られた結果を表1に示す。 【0027】体積抵抗率の測定時には、各焼結体から、 図2に示すように、3mm×4mm×40mmの直方体の試料10を切り出し、白金導線12を試料10の4箇所に巻き付け、白金導線12を電流計14および電圧計13に接続し、四端子法にて各試料の電気抵抗率を測定した。 試料10と導線12の導通を確実にするため、白金ペースト11を導線と試料表面との間に塗布した。 4 本の導線のうち、外側の2本の導線(電流端子)に一定の電流を流し、その時の内側の2本の導線(電圧端子) 間の電圧を測定した。 測定は、20℃に保たれた室内で行った。 この時の電気抵抗率を、次式により計算した。 電気抵抗率=(試料の幅×厚み×電圧)/(電圧端子間距離×電流) 【0028】 【表1】 【0029】この結果から分かるように、本発明の処理によって、再結晶炭化珪素の室温における体積抵抗率が著しく上昇した。 実施例1−3の再結晶炭化珪素の開気孔中には混酸が浸透しており、開気孔の内壁面がエッチングされていた。 また、エッチング時の温度は、100 ℃以上が好ましく、150℃−200℃が特に好ましい。 【0030】(実験B)実験Aと同様な方法により、成形体を作製し、この成形体を、炉内体積1000リットル、有効体積200リットル(カーボン製さや内体積) である焼成炉に収容し、Arガスを30l/minで流しながら、1atmの圧力下で、14時間かけて230 0℃まで昇温し、2300℃で5時間保持し、再結晶炭化珪素焼結体を作製した。 こうして得られた焼結体の室温抵抗率は、2000Ω・cmであった。 【0031】次に、この再結晶炭化珪素焼結体をCVD 装置内に設置し、四塩化珪素とメタンを原料ガスとして用い、1430℃で5時間、成膜を行った。 得られたC VD−SiC/再結晶炭化珪素積層体の再結晶炭化珪素の部分から、3×4×40mmの直方体の試料を切り出し、その室温抵抗率を測定した。 得られた結果を、表2 に示す(比較例2)。 【0032】フッ化水素酸、硝酸、硫酸をそれぞれ6, 5,4ccずつ混合し、これに水15cc加え、混酸溶液を作製した。 図3に示すように、上記のCVD−Si C膜22と再結晶炭化珪素基体21とからなる積層体2 0を、混酸溶液19中に浸漬し、図3に示す容器15中に入れた。 ただし、容器15は、テフロン製であり、本体17と蓋16とからなり、容器中には混酸溶液19と積層体20とが収容されている。 容器15をホットプレート18上に設置し、150℃で16時間、熱処理した。 熱処理後の積層体の再結晶炭化珪素基体の部分から、3×4×40mmの直方体の試料を切り出し、室温抵抗率を測定した。 得られた結果を、表2に示す。 なお、エッチング後のCVD−SiC膜の室温における体積抵抗率は、40Ω・cmであった。 【0033】 【表2】 【0034】(実験C)実験Aと同様な方法により、成形体を作製し、この成形体をカーボン炉に収容した。 炉内を真空引きにより0.01atm以下の圧力とした後に、昇温を開始し、2000℃まで昇温したところでA rガスを1atmまで導入した。 Ar導入後、2200 ℃まで昇温し、2200℃で5時間保持することにより、再結晶炭化珪素焼結体を作製した。 こうして得られた焼結体の室温抵抗率は、5,300Ω・cmであった(比較例3)。 【0035】上記の比較例3の焼結体から、3mm×4 mm×40mmの直方体の試料を切り出し、この試料を、実験Aと同様な方法で混酸溶液中に浸漬し、150 ℃で16時間熱処理した。 処理後の試料の室温抵抗率は、210,000Ω・cmであった(実施例5)。 【0036】(実験D)実験Cと同様な方法により、比較例3の再結晶炭化桂素焼結体を作製した。 この再結晶炭化珪素焼結体上に、実験Bと同様の方法により、CV D−SiC膜を成膜し、CVD−SiCと再結晶炭化珪素基材との積層体を得た。 この積層体の再結晶炭化珪素の部分から、3mm×4mm×40mmの直方体の試料を切り出し、その室温抵抗率を測定した結果、50Ω・ cmであつた(比較例4)。 【0037】試料を切り出した残りの積層体を、実験B と同様な方法により、エッチング処理した。 処理後の積層体の再結晶炭化珪素の部分から、3mm×4mm×4 0mmの直方体の試料を切り出し、その室温抵抗率を測定した結果、170,000Ω・cmであった(実施例6)。 【0038】(実験E)実験Aと同様な方法により、成形体を作製し、この成形体をカーボン炉に収容した。 炉内を真空引きにより0.01atm以下の圧力とした後に、昇温を開始し、2000℃まで昇温したところで、 Arガスを1atmまで導入後、再度0.01atm以下まで真空引きした。 その後、再びArを1atmまで導入した後、昇温を再開し、2300℃で5時間保持することにより、再結晶炭化珪素焼結体を作製した。 こうして得られた照射体の室温抵抗率は7,400Ω・cm であった(比較例6)。 【0039】上記焼結体から、3mm×4mm×40m mの直方体の試料を切り出し、この試料を、実験Aと同様な方法で混酸溶液中に浸漬し、150℃×16時間熱処理した。 処理後の試料の室温抵抗率は10,000, 000Ω・cmであった(実施例7)。 【0040】 【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、体積抵抗率の大きな再結晶炭化珪素を提供でき、また高抵抗再結晶炭化珪素を製造する方法を提供できる。 また、 高抵抗再結晶炭化珪素からなる基体の表面に、耐蝕性が高く、基体よりも体積抵抗率の小さい炭化珪素膜を備えている耐蝕性部材を提供できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】実験Aにおける再結晶炭化珪素のエッチング処理装置を模式的に示す図である。 【図2】体積抵抗率の測定方法を説明するための模式図である。 【図3】実験Bにおける再結晶炭化珪素のエッチング処理装置を模式的に示す図である。 【符号の説明】 19 酸の溶液 20 積層体 21 基体 22炭化珪素膜 |