【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリートまたはモルタルに関し、詳しくは膨張・崩壊によって有効利用が妨げられていた製鋼スラグを、高炉水砕スラグと混合することで確実に膨張・崩壊を抑制し、JIS規定の骨材粒度範囲内に適合する骨材として用いるコンクリートまたはモルタルに関するものである。 【0002】 【従来の技術】高炉スラグはコンクリートまたはモルタル材料としてJISに規定されるに至っているが、製鋼スラグは膨張・崩壊するといった問題があるためにコンクリートまたはモルタル材料として利用することは不可能であった。 そこで、特開平10-152364号公報では、潜在水硬性を有するシリカ含有物質とポゾラン反応性を有するシリカ含有物質のうち1種または2種をセメントの5 0%以上含有させることによって製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制し、コンクリートあるいはモルタルのような水和固化体として利用する方法が記載されている。 【0003】また、特開平10-287454号公報では、製鋼スラグ100容量部と含有するシリカとアルミナの合計が80%以上の石炭灰14〜400容量部、若しくは製鋼スラグ100容量部と、高炉スラグ10〜400容量部と、シリカとアルミナの合計が80%以上の石炭灰1 0〜600容量部とからなることを特徴とする細骨材を用いてコンクリートあるいはモルタル等として利用する方法が記載されている。 【0004】以上の技術は全て、製鋼スラグの膨張因子である未反応CaOが水和して著しく体積膨張する代わりに、潜在水硬性を有するシリカ含有物質やポゾラン反応性を有するシリカ含有物質あるいはシリカとアルミナを含む石炭灰から溶出したシリカ、アルミナといったポゾラン物質と未反応CaOをポゾラン反応させることによって体積膨張を抑制させるものである。 ポゾラン反応とは、ポゾラン(シリカ質またはシリカおよびアルミナ質の微粉末)が、水酸化カルシウムと水の存在のもとで常温で結合し、不溶性の化合物をつくるというものである。 【0005】製鋼スラグの膨張を抑制する物質の扱いは上記2つの公報においては異なっており、特開平10-152 364号公報では、潜在水硬性を有するシリカ含有物質やポゾラン反応性を有するシリカ含有物質は、潜在水硬性を有するシリカ含有物質が高炉水砕スラグを4000c m2/gの微粉末としたものの他、ポゾラン反応性を有するシリカ含有物質もフライアッシュまたはシリカフュームという粉末状のものであるため、これら製鋼スラグの膨張を抑制する材料はセメントの混和材としてと扱い、結合材としている。 しかし、これでは製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制する材料である潜在水硬性を有するシリカ含有物質やポゾラン反応性を有するシリカ含有物質を、骨材として用いる製鋼スラグに一定の割合で配合するのが困難となる。 即ち、確実な製鋼スラグの膨張抑制を保証しにくいという課題がある。 【0006】これに対して特開平10-287454号公報では、シリカとアルミナの合計が80%以上の石炭灰を製鋼スラグと同じ細骨材として扱うことにより、製鋼スラグに対してその膨張抑制を行う物質(シリカとアルミナの合計が80%以上の石炭灰)を一定の割合で配合することとしている。 しかし、結合材であるセメントと細骨材の一部となる石炭灰が粉分であるため、全体的に粉分が多いコンクリートとなり、コンクリート配合の際に、 一般コンクリートで得られている細骨材率、単位粗骨材容積および単位水量の概略値は用いることができず、独自の配合を見出す必要がある。 特に単位水量は多くなる傾向にある。 この他、粉分の増加はコンクリートの粘性増を招いて微細な気泡を入りにくくし、コンシステンシー(やわらかさの程度で示されるまだ固まらないコンクリートの性質)の悪化や凍結融解作用に対する耐久性低下を引き起こす他、さらにはフライアッシュがポゾランであることも微細な空気が入らないことと相俟って、ブリージング(コンクリートを打設した後、水が分離上昇してコンクリートの上面に浮いてくる現象)を極めて少なくし、コンクリートの表面仕上げを困難なものとしてしまう。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】製鋼スラグは鉄分が豊富であるため、水田の土壌改良材として用いられる他、 多量の石灰、珪酸、苦土分を持っていることから酸性土壌の改良材として用いられている。 また、製鋼スラグには燐酸が含まれているため、土壌改良とともに肥料としての役割も果す。 【0008】しかし、このような有効的な利用は製鋼スラグ生成量の1%程度でしかなく、現状は、大半が土木工事での仮設材料といった低級な用途に利用されている。 これは、製鋼スラグは製鋼工程で発生するものであり、製銑工程で発生する高炉スラグが非常に均質なのと比べると、鋼種が異なると製鋼スラグ品質も異なるといった問題があるのに加え、何よりも製鋼スラグには遊離石灰が含有されており、その水和反応によってスラグ自体が膨張・崩壊するためである。 【0009】以上のような背景から製鋼スラグの有効利用は強く望まれており、それに対応して製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制してコンクリート骨材として利用可能とする技術が本発明である。 しかし、製鋼スラグを確実に膨張抑制して骨材として用い、普通コンクリートと同様の配合、および打設作業ができ、凍結融解作用に対する耐久性などの諸性能も普通コンクリートと同等以上のコンクリート、あるいはモルタルを提供する技術は、未だ開示されていない。 【0010】本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、骨材として製鋼スラグに高炉水砕スラグを混ぜたものを用い、製鋼スラグの膨張因子であるフリーCaOを高炉水砕スラグの水硬反応材料に置き換えることによってコンクリートやモルタルを提供することを目的とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】上記課題は、製鋼スラグと、製鋼スラグの20質量%以上70質量%以下の高炉水砕スラグを含有する骨材を用いることを特徴とするコンクリートまたはモルタルにより解決される。 本発明者らが上記目的を達成すべく検討した結果、製鋼スラグをコンクリートもしくはモルタルの骨材に用いる場合、製鋼スラグの20質量%以上から70質量%以下にあたる高炉水砕スラグを細骨材として加えることで、硬化後のコンクリートあるいはモルタルが製鋼スラグの膨張・崩壊によって破壊することを防ぎ得ることを新規に知見した。 【0012】上記の製鋼スラグ量と高炉水砕スラグ量の関係さえ満たしていれば、細骨材には高炉徐冷スラグ、 フェロニッケルスラグ、銅スラグ、スラグレータによって粉化・崩壊しないように加工された電気炉スラグ、 砂、砕砂、人工軽量骨材のうち1種あるいは2種類以上の組み合わせを混合でき、粗骨材には高炉徐冷スラグ、 砂利、砕石、人工軽量骨材のうち1種あるいは2種類以上の組み合わせを混合させることができる。 また、製鋼スラグを細骨材のみに用いる場合、高炉水砕スラグは粒径の都合上、細骨材のみに混合するものであるから、粗骨材の全量にこれらの骨材を用いることになる。 これらの骨材のうちで好ましいものは、省資源と大量発生する高炉スラグの利用につながる高炉徐冷スラグである。 【0013】課題を解決するために用いる製鋼スラグは、水浸膨張比が0%超から3.0%以下が好ましい。 水浸膨張比とは、JIS A 5015:1992附属書2に規定された鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法に準拠して測定するものである。 3.0%以下とした理由は、実験によって骨材利用が可能な水浸膨張比の上限を確認した際、用いた製鋼スラグの膨張比が3.0%であり、これ以上の膨張比における骨材利用の可否を把握できていないためである。 【0014】水浸膨張比が高い製鋼スラグは、エージング処理によって予め3.0%以下の水浸膨張比にする必要がある。 エージングの処理方法には、自然エージングや蒸気エージングがあり、どちらを用いてもよい。 課題を解決するために用いる高炉水砕スラグは、粒径が0. 15mm以上5mm以下である。 なお、実用上、0.1 5mmふるいに85%以上とどまり、5mmふるいを重量で85%以上とおるものとし、15%の許容範囲を見るものとする。 0.15mm未満のみにすると、コンクリートやモルタル中の粉分の増加によってまだ固まらないコンクリートの粘性が増加し、ワーカビリチー(打ち込み易さの程度で示されるまだ固まらないコンクリートの性質)が悪化する他、コンクリート配合における単位水量の増加により耐久性の低下が心配される。 また、5 mm以下である理由は、現状では5mm超の粒径のものが製造されていないためである。 製造プロセスの変化によって5mm超の粒径のものが発生した場合は、利用が可能と思われる。 【0015】高炉水砕スラグを製鋼スラグの70質量% 以下としているのは、製鋼スラグの利用量を確保するためである。 20質量%以上としたのは、20質量%未満の混合割合でコンクリートを製作した結果、製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制しきれずにコンクリートが破壊したためである。 高炉スラグとは、銑鉄を製造する高炉で溶融された鉄鉱石のうち、鉄以外の成分を副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒に分離回収したものであり、 天然の岩石に類似した成分を有しているものである。 高炉から取り出されたばかりのスラグは約1,500℃の溶融状態であるが、冷却の方法により、徐冷スラグ(徐冷処理)と水砕スラグ(急冷処理)になる。 それぞれの性状は、徐冷スラグが結晶質の岩質状スラグであるのに対し、水砕スラグは急激な冷却によってガラス質(非結晶)の粒状スラグとなるのが特徴である。 【0016】製鋼スラグとは、高炉で製造された硬くて脆い銑鉄から、不要な成分を除去し、靭性・加工性のある鋼にする製鋼過程で生じるものである。 コンクリートは、セメント、水、細骨材、粗骨材および必要に応じて混和材を練り混ぜ、一体化したものをいう。 なお、モルタルはコンクリートのうち粗骨材を欠くものである。 【0017】細骨材は5mm網ふるい(ふるい目の開き4.76mm)を通るもの、粗骨材は5mm網ふるいにとどまるものであり、実用上不都合が起こらないように、細骨材は10mmふるいを全部通り、5mmふるいを重量で85%以上通るもの、粗骨材は5mmふるいに重量で85%以上とどまるものとし、15%の許容範囲が設定されている。 【0018】この知見により、製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制するための材料として、細骨材と同様の粒径を持つ高炉水砕スラグを用いることができるため、JISや土木学会の標準粒径を逸脱しない骨材粒径を保つことができ、また、同じ骨材の中に製鋼スラグと膨張・崩壊抑制材料を用いることができるため、コンクリートのワーカビリチーを損なうことなく、確実に製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制可能な膨張・崩壊抑制材(高炉水砕スラグ)量を保たせながら容易にコンクリート配合を行うことができる。 【0019】粒径が0.15mm以上から5mm以下である高炉水砕スラグが製鋼スラグの膨張・崩壊を抑制する理由は、高炉水砕スラグが製鋼スラグやセメントのアルカリ刺激を受けて水硬する際、水硬に寄与する物質である生石灰(CaO)、シリカ(SiO 2 )そしてアルミナ(Al 2 0 3 )のうち、シリカやアルミナの含有量に比べて生石灰含有量が不足しており、この生石灰を補うために製鋼スラグ中の膨張因子であるフリーCaOを奪い取るためであると考えられる。 【0020】 【発明の実施の形態】本発明である製鋼スラグと、製鋼スラグの20質量%以上70質量%以下の高炉水砕スラグを含有する骨材を用いることを特徴とするコンクリートまたはモルタルのセメント、粗骨材、細骨材、水の割合は、通常のコンクリートの場合と同様に決定すればよい。 【0021】製鋼スラグは、転炉スラグ、溶銑予備処理スラグおよび電気炉スラグを用いることができる。 高炉水砕スラグは、炉前水砕および炉外水砕を用いることができ、その粒径は0.15mm以上5mm以下である。 これより小さな粒径のものを用いると、JISおよび土木学会の標準粒径と比べて粉分が多くなり、コンクリート配合の際の単位水量を増加させるばかりでなく、ワーカビリチーを損なう原因となる。 このようなことを回避するため、製鋼スラグと高炉水砕スラグを混合して作る細骨材は、JIS A 5011に示される高炉スラグ細骨材の粒度に適合することが望ましい。 【0022】セメントは、普通ポルトランドセメントの他、各種混合セメントを用いてもよい。 まだ固まらないコンクリート若しくはモルタル、または硬化したコンクリート若しくはモルタルの性質を改善するため、コンクリートに通常用いられる混和剤を添加してもよい。 【0023】コンクリートの混練方法、打設・成形方法、養生は通常のコンクリートの場合と同様でよい。 製鋼スラグの膨張を促進させ、長期的なコンクリートあるいはモルタルの耐久性を調査する際には、100℃以下、好ましくは80℃の恒温水槽における養生を行う必要がある。 これは、一般的な製鋼スラグの膨張促進方法であるオートクレーブ養生では養生温度が高すぎ、高炉水砕スラグの含有硫黄分が硫化水素に変化するためである。 硫化水素が発生すると、コンクリートのひび割れ発生や破壊には至らないまでもモルタル部が劣化して強度が著しく低下するため、製鋼スラグの微小な膨張による強度低下が定量的に把握できなくなる。 また、80℃は JIS A 5015附属書2に規定されている水浸膨張試験の養生温度と同じであるため、骨材として用いた製鋼スラグのみの水浸膨張試験結果と比較することができ、高炉水砕スラグによる膨張抑制効果が定量的に把握できるという利点もある。 【0024】しかし、硫化水素の発生で破壊まで至ることはないため、短時間で破壊の有無だけを調査し、簡単な膨張抑制効果検討を行うにあたっては、オートクレーブ養生でもよいものと考える。 発明者らが膨張量比の極めて小さな製鋼スラグ(水浸膨張比が0.04%(水浸2日目以降は膨張比の増加が見られず、一定値となった)を用いてオートクレーブ養生を行った結果、水砕スラグを膨張・崩壊抑制材量として用いなければオートクレーブ後のコンクリートは破壊することが確認されたことから考えると、オートクレーブ養生でも製鋼スラグのある程度小さな膨張まで見落とさずに確認できると思われる。 【0025】 【実施例】自然エージング処理され、5mmアンダー粒径分の長期水浸膨張比(30日水浸)が3.0%である製鋼スラグ(溶銑予備処理スラグ)と高炉水砕スラグ、 そして高炉徐冷スラグを混合した粗骨材と細骨材を、普通ポルトランドセメント、水、粗骨材(高炉スラグ徐冷材)と混練してコンクリートを作成した。 表1の基準配合をもとに、骨材中の製鋼スラグ、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグの配合割合を表2のように変えてコンクリートを作成した。 【0026】なお、コンクリートのスランプは12c m、空気量4.5%とした。 コンクリート作成後は、JI SA 1108に基づいて水中養生後に圧縮試験を行う他、製鋼スラグの膨張を促進させるために80℃の水中養生を行った後に圧縮試験を行い、コンクリートの品質を確認した。 80℃水中養生の期間を30日としたのは、製鋼スラグの水浸膨張試験を行った結果、30日で膨張が止まったため、30日で養生期間が十分であると判断したためである。 【0027】 【表1】 【0028】 【表2】 【0029】比較例として実施した配合1、2では高炉水砕スラグの量が足りず、80℃の水中養生で製鋼スラグの膨張を促進させるとコンクリートが破壊し、圧縮強度は測定不可能であった。 これに対し、実施例3から2 0に示すように、骨材中の製鋼スラグに対して高炉水砕スラグ量を20質量%以上とすると、28日の水中養生で水セメント比に見合う強度が発現しているのに加え、 80℃の水中養生で製鋼スラグの膨張を促進させてもコンクリートは破壊しなかった。 【0030】 【発明の効果】本発明により、コンクリートやモルタルの骨材の全てに、有効利用が望まれている鉄鋼スラグを利用することが可能となり、さらに、鉄鋼スラグの中でも特に有効利用が強く望まれている製鋼スラグも用いることが可能となる。 しかも、従来では不可能であった、 製鋼スラグを確実に膨張抑制して骨材として用いることを可能とし、かつ普通コンクリートと同様の感覚で配合、および打設作業が可能なコンクリート、あるいはモルタルを作成することが可能となる。 【0031】また、製鋼スラグの膨張・崩壊を同じ骨材として用いる高炉水砕スラグの水硬反応で抑制するため、普通のコンクリートよりも高い圧縮強度を得ることができる。 この圧縮強度を考慮してコンクリート配合を行えば、単位セメント量を減らした経済的なコンクリート配合を行うことも可能である他、単に固化体を得たいのであれば、セメントを全く使用しない固化体を作れる可能性もある。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 7識別記号 FI テーマコート゛(参考) // C04B 111:32 C04B 111:32 111:76 111:76 (72)発明者 小林 茂雄 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内 (72)発明者 高野 良広 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式 会社技術開発本部内 Fターム(参考) 4G012 PA29 PC12 PC13 PE01 |