【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、燃料電池,ガスセンサー用の多孔質支持体、あるいはバイオセンサー,バイオリアクターの酵素担体として好適に使用できる円筒状、 あるいは平板状ジルコニア多孔質体とその製造法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、かかる用途に用いられる円筒状セラミックス多孔質体として、例えば、特開昭63−10 9010号公報,特開平3−34259号公報等に記載されているように、ジルコニア系のセラミックスが使用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】従来より多孔質体の性質を評価するのには気孔率で評価されてきた。 しかし、 気体が実際にこの多孔質体を通り抜ける目安には、これだけでは不十分である。 むしろ、気体が物質を通過する際に用いられる通気率(cm 3・cm/cm 2・sec ・cmH 2 O)を用いる方がより的確である。 【0004】ところが、従来の発明は開気孔率を40% 程度に決めているだけで、この通気率についての考察がなされておらず、「気体が物質を通過する」といった考えがなされていない。 【0005】また、多孔性が大きくなると、実際の強度が不足しがちで、これに対処するために様々な高強度セラミックスを用いて対応を図ることが考えられている。 SiCやSi 3 N 4などの非酸化物セラミックスは確かに高強度にはなるが、作製法HIP等の特殊な条件でしか用いられず、目的には合致しない。 【0006】そこで、成形や焼結が比較的容易な酸化物セラミックス、例えばアルミナやシリカを用いれば、多孔質支持体とすることができる。 しかしながら、これらセラミックスでも多孔性を大きくすると強度が著しく減少してしまう。 こういった経緯で多孔質体の原料としては焼成が容易で、且つ多孔性を高めてもその強度が強く維持できるものでなければならない。 【0007】ところで、上記の従来のセラミックス多孔質円筒体を燃料電池やセンサーの支持体として使用する場合には、 イ. 薄膜状の電極材料を担持するものであるので、十分な強度を有すること ロ. 通過する流体に対し、十分な空隙率が確保されていること の要件を充足することが必要である。 【0008】ところが、従来、かかる発明では、十分な強度と大きな通過率を持つような要求を満たすことはできなかった。 【0009】更には従来法では十分な強度を保ちつつ通気率を任意に変えることは全くできなかった。 【0010】本発明の目的は薄肉で制御された、気体通過性を有し、しかも耐熱衝撃性において優れ、とくに、 燃料電池,センサーおよびバイオリアクター等の担体用に適したセラミックス多孔質体を得ることにある。 【0011】 【課題を解決するための手段】本発明の担体用ジルコニ ア多孔質体は、ジルコニアの薄肉焼結体からなり、且 つ、 10〜50×10 -4 cm 3・cm/cm 2・sec ・cmH 2 O 以上の通気率と、70MPa以上の強度を 有することを特徴とする。 【0012】この多孔質体は、粒子径がサブミクロンのジルコニア粉末を100容積部と300μm以下の水酸基含有有機化合物の結合材微粉末5〜30容積部と、可塑剤20〜55容積部とジルコニア粉末100重量部に対し分散剤0.1〜2.0重量部とを混合して得られた坏土を押出し成形後、成形助剤を分解除去したのち焼成することによって得られる。 【0013】本発明のジルコニアとしては、体積変化を伴う変態を防止する目的でカルシア、あるいはイットリア、あるいはセリア等を3〜15モル%固溶させた安定化ジルコニアを用いる。 【0014】配合する結合剤微粉末としては、有機結合剤、無機結合剤等が使用できるが、混合の際、ジルコニアと反応せずまた仮焼時には容易にグリーン体から分解除去され、燃焼の炭素分や灰分の残留を防止するために有機結合剤、なかでもメチルセルロースやヘミセルロースをはじめとする多糖類誘導体の使用が好ましい。 【0015】この微粉末の配合はセラミック粉末同士の結合を高め、押出し時の良好な強度や成形性を保つ上で最も重要な要素であるが、少なすぎると成形が低く保形性が保てない。 また多すぎてもかえって押出し時に坏土が硬くなって押出しが困難となるので、成形性と強度の面からセラミック100容積部に対して5〜30容積部、好ましくは15〜25容積部の範囲である。 【0016】可塑剤としては、有機性可塑剤と無機性可塑剤等があるが、微粉末の場合と同じく、仮焼時の分解除去の容易さの面より有機性可塑剤、なかでもグリセロールやポリビニルアルコール等の水酸基含有有機化合物の使用が最も好ましい。 その配合量は押出し時のグリーン表面の平滑性と取扱作業性の面からセラミック100 容積部に対して20〜55容積部とくに30〜50容積部が最適である。 【0017】分散剤については、ジルコニアは水と混合してスラリー状とするとこれを添加しなくても多少の分散性を保持している。 それで少量の分散剤の添加はかえって凝集性を高めしまい、良好な坏土とはならないので、その添加量はセラミック100重量部に対して0. 5〜2.0重量部が最適である。 【0018】焼成温度は、燃料電池作成の際に一体焼結を目指すため、1400℃,2〜4時間とする。 【0019】 【作用】ジルコニアは、アルミナ,シリカ等のセラミックスと比べ、800MPa以上の強度を有し、これを基材として使用することによって支持体の強度を維持できる。 焼成時の充填構造及び気体の通過による通気率を、 結合剤,可塑剤等の成形助剤の混和量によって任意に調整できる。 本発明の坏土は押出し成形に充分な流動性を有し、成形後堅固なグリーン体となり、その後の加工が容易となる。 【0020】 【実施例】通気率の大きさを求める方法はいろいろ提案されているが、「窯業工業ハンドブック」p. 407〜 9に記載の通気率評価法によって求めることができる。 【0021】本発明の多孔質体は曲げ強度と通気率が大きく、かつ任意の値に制御できる性質を持つものである。 【0022】表1に示す特性を有する混合物をそれぞれ混合機で混合し、所定の水を加えて更に混練機で練り混ぜて坏土を得た。 この坏土を押出し機で押出し圧力3〜 30kgf/cm 2の条件で押出しを行い、グリーン体として外形10〜20mm、内径が9〜15mmの円筒状体または膜厚0.06〜5mmの平型を得た。 これを乾燥して脱脂炉にいれ仮焼することで成形助剤を分解除去した。 更に、仮焼体を雰囲気を調整した炉内で140 0℃に加熱し、得られた焼結体の評価を行った。 【0023】なお、比較例1と2は従来より燃料電池支持管として用いられてきた製品の特注値である。 【0024】曲げ強度はJIS R 1601 「ファインセラミックスの曲げ強度試験方法」に準じて行った。 その結果を表2に示す。 ここで比較として従来品である比較例1と比較例2を示した。 従来品では曲げ強度は小さく、その改良型では80MPaになる。 同表を用いて本発明の多孔質体を従来品と対比すると、曲げ強度が同じでも気孔率が大きく、更に優れた強度で任意の通気率を設定できるのが分かる。 【0025】 【表1】 【0026】 【表2】 【0027】この円筒状多孔質体は曲げ強さを保持(8 0MPa)した上で、通気率を飛躍的に増大させることができ、また、この多孔質体を燃料電池の支持体として使用した結果、他の電極部材との熱膨張係数がほぼ等しくなり、一体成形を可能にすることができた。 【0028】 【発明の効果】本発明によって以下の効果を奏することができる。 【0029】(1)適度の強度と通気性を有し、また任意に通気率と気孔率を調整できる。 【0030】(2)焼成温度は1400℃で、燃料電池の支持管として用いた場合には、酸素極のセラミックス部材の性能を減少させることなく焼結が可能である。 更に従来法では1600℃で焼成を行ってきたが、本発明により1400℃と従来より200℃も温度が低く焼成が可能となった。 このことにより省エネ効果がある。 【0031】(3)セラミックスの材料としてジルコニアを用いており、燃料電池の支持管として用いた場合には、電解質,燃料極および酸素極と熱膨張係数がほぼ同じで、とくに電解質は同じジルコニアを用いているので熱膨張係数が全く同じとなり、一体成形法に用いることができる。 【0032】(4)高強度ジルコニア粉末(120kg f/mm 2 )を用いているので、他の酸化物セラミックス、例えばアルミナやシリカ等と比べて粉体自体の強度が大きい。 よって使用時に圧力がかかり、且つ流体が担体中を十分に流れるバイオセンサーおよびバイオリアクターの酵素支持体およびマトリックスに使用できる。 (5)本発明で押出したグリーン体は、大気中に押し出されて直ちに水分が蒸発し始め、硬化が始まる。 よって、取扱いが簡便であり、以降の作業の能率が向上する。 【0033】(6)溶媒として水を用いるので、有機溶媒の際に必要な換気,引火等の作業上の問題点がほとんどなく、大量生産ができ、以降の作業の能率が向上する。 【0034】(7)無機質のセラミックスを使用しており、バイオセンサーやバイオリアクターの担体として使用した際には、たとえ酸素が失活しても仮焼することで有機物を除去し、担体の再生が可能で、有機物の担体とは異なり、繰り返しの使用に耐え、リサイクルが可能となり、環境への配慮がなされている。 【0035】(8)したがって、燃料電池,センサー, バイオリアクターの支持体として好適に使用できる。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森永 健次 福岡県春日市春日公園6−1 九州大学 総合理工学研究科内 (56)参考文献 特開 昭54−126631(JP,A) |