【0001】 【技術分野】 本発明は,溶剤やガソリン等の回収,吸着ヒートポンプ,温度調節,水処理及び脱臭等に用いることができる吸着剤や,排気ガスの浄化,有機合成,石油の改質及びクラッキング等に用いることができる触媒等として使用可能な,高密度多孔体及びその製造方法に関する。 【0002】 【従来技術】 多孔体の中で,特に細孔径(本明細書において,細孔の直径を意味する。)が1〜10nmの範囲にあり,かつ上記細孔径が特に狭い範囲に分布している多孔体をメソ多孔体と称する。 上記メソ多孔体の製造方法としては,例えば,層状シリケートに界面活性剤を作用させて製造する方法がある(特開平4−238810号,特開平6−24867号)。 また,シリカ及びSiアルコキシドを界面活性剤と反応させて製造する方法もある(特開平5−503499号)。 【0003】 【解決しようとする課題】 しかしながら,従来の製造方法では,嵩密度の小さいメソ多孔体しか製造することができなかった。 そのため,これらのメソ多孔体を吸着剤または触媒等として用いる場合,吸着剤または触媒等を保持するための充填容器等に比較的少量のメソ多孔体しか充填することができなかった。 この場合には,上記メソ多孔体の性能を充分発現させることができなかった。 【0004】 また,上記メソ多孔体の性能を充分発現させるため,該メソ多孔体を充填する充填容器等を大きくすることも考えられる。 しかし,充填容器等が大きくなることで,該充填容器等を収納する装置(例えば,吸着ヒートポンプ)が大型化してしまうという問題が生じていた。 【0005】 本発明は,かかる問題点に鑑み,嵩密度が高く,均一な細孔径を有し,吸着剤または触媒等として使用する際に,その特性を充分発現することができる高密度多孔体及びその製造方法を提供しようとするものである。 【0006】 【課題の解決手段】 請求項1の発明は,細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径が1〜10nmの範囲内にあり, かつ上記細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径の−40〜+40%の細孔径範囲内に,全細孔容積の60%以上が含まれており, 更に,嵩密度が0.5g/cc以上であることを特徴とする高密度多孔体にある。 【0007】 本発明の作用につき,以下に説明する。 本発明の高密度多孔体は,後述する細孔径分布曲線において,上述の特徴を有する。 また,その嵩密度が特定の範囲内にある。 このような条件を満たす高密度多孔体は,後述の図1(a)に示すごとく,細孔を多量に有するサブミクロンオーダーの一次粒子が集合することにより構成され,該一次粒子同士の間の隙間は大変小さいか,または殆ど存在しない。 【0008】 一方,前述した従来の嵩密度が低いメソ多孔体は,図1(b)に示すごとく,上記と同様のサブミクロンオーダーの一次粒子同士の間に大きな隙間を持った構造を有している。 上記メソ多孔体特有の吸着特性または触媒特性等は,主に一次粒子内部の細孔により発現される。 本発明の高密度多孔体は,吸着特性または触媒特性等の発現とは関係のない一次粒子同士の間の隙間が大変小さいか,または殆ど存在しない構造を有している。 このため,本発明の高密度多孔体においては,吸着特性または触媒特性等を損ねることなく,嵩密度の高い構造を実現することができる。 【0009】 以上のように,本発明によれば,嵩密度が高く,均一な細孔径を有し,吸着剤または触媒等として使用する際に,その特性を充分発現することができる高密度多孔体を得ることができる。 【0010】 また,上記に関して,更に詳細に説明する。 まず,メソ多孔体における水蒸気の吸着等温線において,相対蒸気圧(P/P0)が0.1〜0.81で,水蒸気の吸着/脱離が急激に発生することが一般に知られている。 そして,ある特定のメソ多孔体の吸着等温線が上記条件を満たすか否かは,ケルビン式における細孔径と相対蒸気圧との関係から導くことができる。 【0011】 ここにケルビン式とは,メソ多孔体の細孔半径(r)と,吸着質が毛管凝縮を起こす相対蒸気圧(P/P0)との関係を示す式であり,以下の(1)式により示すことができる。 ln(P/P0)=(2VLγcosΘ)/(rRT). . . (1) なお,上記VLは,吸着質が液体状である場合のモル体積,γは吸着質が液体状である場合の表面張力,Θは接触角,Rは気体定数,Tは絶対温度である。 【0012】 ここに吸着質が水蒸気である場合には,VL=18.05・10 −6 m 3 /mol,γ=72.59・10 −3 N/m,R=8.3143J/deg・mol,Θ=0という数値を(1)式に代入することができる。 この結果,上記(1)式は,次の(2)式となるln(P/P0)=−1.058/r. . . (2) なお,rの単位はnmである。 【0013】 上記(2)式より,細孔径分布において,より細孔径が狭い範囲に分布している場合には,水蒸気の吸着/脱着がより狭いP/P0の範囲で発生することが分かる。 つまり,吸着等温線における,吸着が立ち上がるところのP/P0と,吸着が飽和に達したところのP/P0の差が小さい。 【0014】 本発明の高密度多孔体においては,その細孔径が1〜10nmの範囲内にある。 そして,上記(2)式より,細孔径が1〜10nmの範囲にある場合,吸着等温線における水蒸気の吸着/脱離を起こすP/P0の範囲は0.12〜0.81となることが分かる。 この範囲は,上述したごとく,水蒸気の吸着/脱離が急激に生じる範囲である。 これにより,本発明の高密度多孔体(P/P0が0.12〜0.81の範囲において)は,吸着ヒートポンプ,温度調節器等における吸着剤として最適な,小さなP/P0の変化で大きく吸着量が変化するという特性を有することが分かる。 【0015】 なお,上記細孔分布曲線につき以下に説明する。 上記細孔径分布曲線とは,メソ多孔体の細孔容積(V)を細孔径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔径(D)に対しプロットした曲線を示している(図3参照)。 上記細孔径分布曲線は,例えば,以下に示す気体吸着法により作成することができる。 なお,上記気体吸着法において最もよく用いられる気体は窒素である。 【0016】 まず,対象となるメソ多孔体に,液体窒素温度(−196℃)で窒素ガスを導入し,その吸着量を定容量法または重量法において求める。 その後,導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ,各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットすることにより吸着等温線を作成する。 この吸着等温線から,例えばCranston−Inclay法,Pollimore−Heal法の計算法を用いて,上記細孔径分布曲線を導くことことができる。 【0017】 次に,上記請求項1における,『上記細孔径分布曲線における最大のピークを示す直径の+−40%の直径範囲には全細孔容積の60%以上が含まれている』という表現は,以下の状態を表現している。 例えば,上述した細孔径分布曲線における最大のピークが2.7nmとなるメソ多孔体αを仮定する。 このメソ多孔体αにおいて,細孔径が1.62(=2.7×0.6)〜3.78(=2.7×1.4)nmの範囲にある細孔の容積を総計した細孔容積Vを求める。 一方,上記メソ多孔体αにおいて,全細孔容積の総計Vallを求める。 【0018】 そして,V/Vallの値が,仮に0.6(60%)以上である場合には,上記メソ多孔体αが本発明にかかる高密度多孔体のひとつであるといえる。 または,上記メソ多孔体αの細孔径分布曲線において,細孔径が1.62〜3.78nmとなる範囲の積分値が,細孔径分布曲線の全積分面積の60%以上である場合にも,上記メソ多孔体αは本発明にかかる高密度多孔体であるといえる。 【0019】 このような条件を満たす本発明の高密度多孔体は,細孔径が狭い範囲に分布しているため,小さなP/P0の変化に対し,吸着量が大きく変化するという効果を得ることができる。 なお,上記細孔径分布曲線における最大のピークを示す直径の+−40%の直径範囲に,全細孔容積の60%未満しか含まれていなかった場合には,P/P0の変化に対する吸着量変化が小さく,調湿機能や吸着ヒートポンプ特性が十分発現されないおそれがある。 【0020】 また,本発明の高密度多孔体の嵩密度は0.5g/cc以上である。 このため,上記高密度多孔体を吸着剤または触媒等として使用する際に,充填容器等には,従来と比較して,より多量の高密度多孔体を充填することができる。 これにより,より高い吸着特性または触媒特性の発現が可能となる。 あるいは,高密度多孔体の充填容器等を小さくすることが可能となり,該充填容器等をセットする装置を小型とすることができる。 【0021】 なお,上記嵩密度が0.5g/cc未満である場合には,充填容器等に少量の高密度多孔体しか充填できず,必要な特性が十分に発現されないか,あるいは,必要な特性を確保するためには,充填容器を大きくする必要があり,装置が大型化して,例えば車載が困難になるおそれがある。 【0022】 以上より知られるごとく,本発明の高密度多孔体は,前記のごとき優れた効果を有することが分かる。 【0023】 次に,請求項2の発明のように,細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径が1〜10nmの範囲内にあり,かつ水蒸気吸着等温線において,相対蒸気圧が0.2変化したときの吸着量変化が0.1g/cc以上の部分を有することが好ましい。 これにより,より少量の多孔体で湿度制御や吸着ヒートポンプ特性が発現されるという効果を得ることができる。 なお,上記吸着量変化が,0.1g/cc未満である場合には,多量の多孔体が必要となり,充填容器や装置全体が大型化するという問題を生じるおそれがある。 【0024】 なお,上記『相対蒸気圧が0.2変化したときの吸着量変化が0.1g/cc以上の部分を有する』とは,水蒸気吸着等温線において,相対蒸気圧(P/P0)が0.1と0.3の時の吸着量がそれぞれV 0.1 =0.2g/cc,V 0.3 =0.5g/ccだとしたとき,相対蒸気圧が0.2変化したときの吸着量変化はV 0.3 −V 0.1 =0.3g/ccとなり,「0.1g/cc以上」に該当する,との意味である。 相対蒸気圧の変化は0〜1のどの範囲においてでも良く,又,吸着量変化が0.1g/cc以上の部分が高密度多孔体の一部だけであっても良い。 【0025】 次に,請求項3の発明のように,細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径が1〜10nmの範囲内にあり,かつ粉末X線回折パターンにおいて,1nm以上の範囲内のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを持つことが好ましい。 これは,1nm以上の周期的な結晶構造が高密度多孔体中に存在することを示しており,細孔径が1〜10nmの範囲にあり,かつ細孔径が均一な分布であることを示す。 これにより,例えば水蒸気等が狭いP/P0の範囲内で吸・脱着を起こす,という吸着ヒートポンプや調湿剤としての優れた特性を持つことが分かる。 【0026】 次に,請求項4の発明のように,上記高密度多孔体は,全体の80wt%以上が珪素及び酸素よりなることが好ましい。 これにより,吸着分子(例えば水分子)と多孔体表面との結合は比較的弱いものとなり,吸着した分子が比較的脱離し易く,可逆的に吸・脱着を繰り返すことができる。 なお,珪素及び酸素の含有率が80wt%未満である場合には,珪素と酸素とは異なる元素が混合されることにより,表面に固体酸性等が発現され,吸着分子が容易に脱離しないおそれがある。 【0027】 次に,請求項5の発明は,原料であるアルコキシシラン,水及び界面活性剤を混合,反応させ,シリカ/界面活性剤複合体を形成し, 次いで,上記シリカ/界面活性剤複合体から界面活性剤を除去することにより高密度多孔体を製造する方法において, 上記原料中のH 2 O/Siモル比が10以下であることを特徴とする高密度多孔体の製造方法にある。 【0028】 上記『原料中のH 2 O/Siモル比』とは,上記原料の混合において,添加したH 2 Oの総量に対する他の原料に含有されるSiの総量の比を示している。 上記『H 2 O/Siモル比』が10以下であることにより,製造した多孔体の密度を高めることができる。 なお,上記『H 2 O/Siモル比』が10より大きい場合には,例えば,アルコキシシランが加水分解・縮合して生成するシリカの微粒子同士の隙間が大きくなり,結果として,生成したシリカの密度が低下するおそれがある。 よって,高密度多孔体を得ることができなくなるおそれがある。 【0029】 また,上記『H 2 O/Siモル比』の下限は1以上であることが好ましい。 上記値が1未満である場合には,アルコキシシランの加水分解が起こらず,結果としてシリカが得られないおそれがある。 よって,高密度多孔体を得ることができなくなるおそれがある。 【0030】 次に,上記原料の混合方法としては,特に限定しないが,最初にアルコキシシランに水を添加し,室温で10分〜3時間攪拌した後に,界面活性剤を添加することが好ましい。 また,上記水は,上記アルコキシシランが含有する珪素1モルに対し,0.5〜10モル添加することが好ましい。 この混合方法により,アルコキシシランが直鎖状のアルコキシシラン重合物を経て,ゆっくり縮合することにより,ち密なシリカの組織が形成され,密度が高まるという効果を得ることができる。 【0031】 上記水の添加量が0.5モル未満である場合には,アルコキシシランの加水分解が不十分となり,強固な高密度多孔体の骨格が形成されない,あるいは多孔体の密度が低下するおそれがある。 一方,10モルよりも多く添加した場合には,アルコキシシランの加水分解及び縮合が急速に行われ,シリカ組織が粗となり高密度多孔体の密度が低下するおそれがある。 【0032】 また,上記攪拌時間が10分未満である場合には,高密度多孔体の密度が低下するおそれがある。 一方,3時間を越えた場合には,均一な細孔が形成されないおそれがある。 【0033】 更に,上記混合の際には,pH調整剤として少量の酸を添加することが好ましい。 これにより,各成分が溶解しやすくなり,均一な溶液が調製しやすくなる。 そして,上記混合の際のpHは1〜4の範囲に調整されることが好ましい。 上記pHが1未満である場合には,加水分解及び縮合が急速に進行し,均一な細孔の形成が妨げられるおそれがある。 あるいは,生成した多孔体の密度が低下するおそれがある。 一方,上記pHが4より大きい場合には,各成分の溶解が不十分であり,必要な加水分解が行われないおそれがある。 また,上記酸としては,希塩酸(例えば2規定)を用いることができるが,硫酸等の他の酸でもよい。 【0034】 また,上記界面活性剤は粉末のまま添加してもよいが,少量の水に溶解させて添加してもよい。 そして,上記界面活性剤の添加量は,全原料中に含有されるSi1モルに対して,1〜10モルとなるように添加することが好ましい。 上記界面活性剤の添加量が10モルより多い場合には,上記シリカ/界面活性剤複合体の形成に寄与しない余剰の界面活性剤が,上記シリカ/界面活性剤複合体に混在し,高密度多孔体の密度が低下するあるいは製造コストが高くなるおそれがある。 【0035】 一方,上記添加量が1モル未満である場合には,上記シリカ/界面活性剤複合体の形成に寄与しない余剰のシリカが,上記シリカ/界面活性剤複合体に混在し,均一な細孔が形成されている部分の比率が低下し,必要な機能が充分発現されないおそれがある。 更に,上記シリカがシリカ/界面活性剤の表面に厚い層を形成して付着し,これにより得られた高密度多孔体の細孔容積が減少するおそれもある。 【0036】 次いで,上記シリカ/界面活性剤複合体から界面活性剤を除去し,高密度多孔体となす方法につき説明する。 即ち,上記シリカ/界面活性剤複合体は原料を混合した溶液において生成されるが,まずはこの溶液中よりシリカ/界面活性剤複合体を分離する。 その後,得られた単独のシリカ/界面活性剤複合体より界面活性剤を除去し,高密度多孔体となす。 これらの工程につき,以下に説明する。 【0037】 まず,シリカ/界面活性剤を含有した溶液は,そのまま放置すると次第に溶液全体が均一な状態を保ったまま固化する。 従って,上記溶液を,密閉容器中,あるいは開放容器中において放置することにより,上記溶液は塊状となる。 これにより得られた塊を乾燥した後,粉砕する。 更にその後,ふるいにかけて,粉砕物の粒径を揃える。 これにより,所望の粒径を有する粉末状のシリカ/界面活性剤複合体を得ることができる。 【0038】 また,上記溶液をアルミニウム等よりなる基板の上にコートし,放置する。 これにより,上記溶液は基板の上で固化し,膜状のシリカ/界面活性剤複合体を得ることができる。 なお,上記基板に溶液をコートする方法としては,スピンコート法,キャスティング法,ディップコート法等が挙げることができる。 【0039】 次に,上記粉末状あるいは膜状のシリカ/界面活性剤複合体より界面活性剤を除去し,高密度多孔体となす。 この除去方法としては,例えば,焼成による方法と,溶剤を使用する方法とが挙げれられる。 まず,焼成による除去方法を示す。 上記シリカ/界面活性剤複合体を,400℃〜1000℃の範囲で,好ましくは500℃〜700℃の範囲で加熱する。 上記加熱時間は30分以上とすれば,実用上において差し支えない程度に界面活性剤を除去することができる。 しかし,上記シリカ/界面活性剤複合体より,上記界面活性剤を完全に除去するためには,1時間以上加熱することが好ましい。 【0040】 また,上記加熱温度が400℃未満である場合には,温度が低すぎるため,界面活性剤を充分に燃焼除去することができないおそれがある。 また,上記加熱温度が1000℃を越えた場合には,温度が高すぎるために,細孔構造が崩壊するおそれがある。 なお,上記加熱に当たっての雰囲気は空気を流通させればよい。 しかし,多量の燃焼ガスが発生するため,加熱の初期は,窒素ガス等の不活性ガスを流通させることがより好ましい。 【0041】 次に,溶剤を使用する除去方法を示す。 まず,界面活性剤に対する溶解度の大きい溶媒に少量の陽イオン成分を添加した溶剤を作成する。 上記溶剤に,上記シリカ/界面活性剤複合体を分散させ,攪拌する。 これにより,上記シリカ/界面活性剤複合体より,界面活性剤が溶剤中に溶解し,分離する。 その後,上記溶剤より固形分を回収する。 上記固形分が求める高密度多孔体である。 【0042】 上記溶媒としては,例えば,エタノール,メタノール等のアルコール,またアセトン等を使用することができる。 また,上記陽イオン成分を溶媒に添加するためには,該溶媒に以下の物質を添加することが好ましい。 上記物質としては,塩酸,酢酸,塩化ナトリウム,塩化カリウム等を使用することができる。 これにより,一層効率よく上記界面活性剤を上記シリカ/界面活性剤複合体より分離することができる。 【0043】 そして,上記陽イオンの添加濃度は,上記溶媒に対して,0.1〜10モル/リットルとすることが好ましい。 上記添加濃度が0.1モル/リットル未満である場合には,界面活性剤の分離が不十分であり,高密度多孔体に界面活性剤が残存するおそれがある。 一方,上記添加濃度が10モル/リットルより大きい場合には,それ以上添加する効果がなく,コスト高となるおそれがある。 また,高密度多孔体のシリカ骨格が崩壊するおそれがある。 【0044】 次に,上記溶媒に対するシリカ/界面活性剤複合体の分散量は,溶剤100ccに対し,0.5〜50gであることが好ましい。 0.5g未満である場合には,シリカ/界面活性剤複合体の処理効率が悪く,溶剤のコストや製造コストがかかるおそれがある。 一方,50gより多い場合には,界面活性剤の分離が不十分であり,高密度多孔体中に界面活性剤が残存するおそれがある。 【0045】 また,上記溶剤にシリカ/界面活性剤複合体を分散させた後の攪拌は,25〜100℃の温度範囲において行うことが好ましい。 これにより,界面活性剤の分離のため処理時間が短縮することができる。 上記温度が25℃未満である場合には,処理時間の短縮が期待されないおそれがある。 一方,100℃を越えた場合には,加熱するためのエネルギーコストがかかる,あるいは溶剤の揮発によるロスが多くなるおそれがある。 【0046】 なお,上記高密度多孔体は,粉末とし,その粒径ごとにふるい分ける,また使用目的に応じた形状に成形することができる。 そして,これらのふるい分け,成形の工程は,上記界面活性剤を除去する工程の前に行うことができる。 この場合には,成形時の細孔の崩壊を妨げる,あるいは成形強度が向上するという効果を得ることができる。 また,最終的に要求される形状に上記シリカ/界面活性剤を成形した後に,界面活性剤の除去を行い,高密度多孔体とすることもできる。 この場合には,成形時の細孔の崩壊を防止することができる。 また,成形強度を高めることができる。 【0047】 次に,上記原料におけるアルコキシシランとしては,テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシランあるいはメチルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン等を用いることができる。 これらの1種類あるいは2種類以上の組み合わせでもよい。 【0048】 そして,請求項6の発明によれば,上記アルコキシシランは,特にテトラメトキシシランであることが好ましい。 これにより,比較的容易に高密度多孔体を製造することができる。 【0049】 また,請求項7の発明のように,上記界面活性剤は,長鎖アルキル基及び親水基を有する化合物であることが好ましい。 この化合物を使用することにより,反応溶液中で界面活性剤の分子集合体を形成され,その分子集合体の大きさに対応した1〜10nmの均一な細孔が高密度多孔体に形成されるという効果を得ることができる。 【0050】 また,上記アルキル基としては,炭素原子数が2〜18のものが好ましい。 これらのアルキル基よりなる界面活性剤を使用することにより,上記の分子集合体が効率的に形成されるという効果を得ることができる。 なお,上記炭素原子数が18よりも多い場合には,その様な界面活性剤は市販されておらず,コストがかかるおそれがある。 また,炭素原子数が1である場合,つまり上記アルキル基がメチル基である場合には,上記の分子集合体が形成され難く,1〜10nmの均一な細孔が形成されないおそれがある。 また,上記親水基としては,例えば,−N + (CH 3 ) 3 ,=N + (CH 3 ) 2 ,≡N + (CH 3 )≡N + ,−NH 2 ,−NO,−OH,−COOH等が挙げられる。 【0051】 次に,上記界面活性剤としては,以下の化学式に示される化合物を使用することができる。 また,このような化合物としては,請求項8の発明のように,アルキルトリメチルアンモニウムを使用することが好ましい。 C n H 2n+1 N(CH 3 ) 3 X ここに,nは2〜18の整数,Xは,例えば,塩化物イオン,臭化物イオン等のハロゲン化物イオンである。 【0052】 このような界面活性剤を使用することにより,反応溶液中で界面活性剤の分子集合体が効率的に形成され,その分子集合体に対応した1〜10nmの均一な細孔が形成され易いという効果を得ることができる。 なお,上記化学式による界面活性剤の具体例としては,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド,テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド,デドシルトリメチルアンモニウムブロマイド,デシルトリメチルアンモニウムブロマイド,オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド等を挙げることができる。 【0053】 【発明の実施の形態】 実施形態例1 本発明の実施形態例にかかる高密度多孔体及びその製造方法,またその性能につき,図1〜図5,表1を用いて説明する。 本例の高密度多孔体は,細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径が1〜10nmの範囲内にあり,かつ上記細孔径分布曲線における最大のピークを示す細孔径の−40〜+40%の細孔径範囲内に,全細孔容積の60%以上が含まれており,更に,嵩密度が0.5g/cc以上である。 【0054】 そして,図1(a)に示すごとく,このような条件を満たす高密度多孔体1は,細孔を多量に有するサブミクロンオーダーの一次粒子11が集合することにより構成され,該一次粒子同士11の間の隙間10は大変小さいか,または殆ど存在しない。 【0055】 また,本例にかかる上記高密度多孔体1を製造するに当たっては,原料であるアルコキシシラン,水及び界面活性剤を混合,反応させ,シリカ/界面活性剤複合体を形成し,次いで,上記シリカ/界面活性剤複合体から界面活性剤を除去する。 そして,上記原料中のH 2 O/Siモル比は10以下の範囲内にある。 【0056】 次に,本発明にかかる高密度多孔体1である試料1,2と,従来のメソ多孔体である比較試料C1,C2とを性能比較する方法等につき説明する。 まず本発明にかかる高密度多孔体1である試料1,2の製造方法につき具体的に説明する。 【0057】 アルコキシシランであるテトラメトキシシラン(TMOS)15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌した。 この添加と攪拌とにより得られた溶液に,界面活性剤であるドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DDTA)7.71gを更に添加し,数分間激しく攪拌し,溶液に粘性を生じせしめた。 更に得られた溶液を密閉容器中において,2〜3日放置した。 以上により,透明で均一な固体を得た。 この固体が,シリカ/界面活性剤複合体である。 【0058】 上記シリカ/界面活性剤複合体を乾燥し,その後550℃,6時間,空気中において,焼成し,該シリカ/界面活性剤複合体より,界面活性剤を除去した。 上記焼成により得られた固体を粉砕し,ふるいを使用して,粒径100〜150μmに揃えた。 以上により,粒径100〜150μmの粉末状の高密度多孔体を得た。 これが試料1にかかる高密度多孔体である。 なお,試料1における原料中のH 2 O/Si比は2であった。 【0059】 また,上記製造方法において,TMOS15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌することにより得られた溶液に,DDTA7.71g及びH 2 O3.6gの混合物を添加した。 その他のプロセスは,上記試料1と同様である。 この製造方法により得られた高密度多孔体が試料2である。 そして,試料2における原料中のH 2 O/Si比は4であった。 【0060】 また,上記製造方法において,TMOS15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌することにより得られた溶液に,DDTA7.71g及びH 2 O18gの混合物を添加した。 その他のプロセスは上記試料1と同様である。 この製造方法により得られたメソ多孔体が比較試料C1である。 そして,比較試料1における原料中のH 2 O/Si比は12であった。 【0061】 また,上記製造方法において,TMOS15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌することにより得られた溶液に,DDTA7.71g及びH 2 O36gの混合物を添加した。 その他のプロセスは試料1と同様である。 この製造方法により得られたメソ多孔体が比較試料C2である。 そして,比較試料2における原料中のH 2 O/Si比は22であった。 【0062】 以上により得られた試料1,2及び比較試料C1,C2の嵩密度及び比表面積を測定した。 上記嵩密度は,各試料1,2及び比較試料C1,C2の重量と体積を,重量計及びメスシリンダーにより秤ることにより求めた。 上記比表面積は,大倉理研の自動比表面積測定装置により,BET一点法により求めた。 上記測定結果を表1に示す。 【0063】 同表によれば,試料1,2は,比較試料C1,C2よりも高い嵩密度を有することが分かった。 また,試料1,2は,比較試料C1,C2よりも高い比表面積を有することが分かった。 従って,試料1,2は比較試料C1,C2と比較して,吸着特性または触媒特性等において優れていることが分かった。 また,試料1,2は,より高い嵩密度を有しているため,同体積の充填容器に充填する場合においても,比較試料C1,C2に比べて,より多くの量を充填することができ,吸着特性または触媒特性等の性能を充分発現させることができることが分かった。 【0064】 次に,試料1の,窒素吸着等温線,細孔径分布曲線,水蒸気吸着等温線及び粉末X線回折を測定あるいは計算し,図2〜図5に示した。 まず,図2は窒素吸着等温線である。 これは液体窒素温度において,定容量法により測定した。 また,図3は細孔分布曲線である。 これは図2に示した窒素吸着等温線から,Cranston−Incaly法を用い,計算した。 【0065】 また,図4は水蒸気等温線である。 これは日本ベル製のBELSORP18を使用し,25℃において定容量法により測定した。 また,図5は粉末X線回折パターンである。 これは理学RAD−B装置を用い,CuKαをX線源として,2度(2Θ)/分にてスキャンすることにより得られた。 なお,スリット幅は1度−0.3mm−1度であった。 【0066】 図2の窒素吸着等温線より,試料1は,低相対蒸気圧(P/P0)から高い吸着性を示し,P/P0=0.2で窒素ガス(STP,標準条件)にして,200cc/gの吸着量を示した。 この値から,試料1にかかる高密度多孔体の細孔容積が0.31cc/gであることが分かった。 次に,図3の細孔径分布曲線から,試料1にかかる高密度多孔体の細孔径が1.5nmであることが分かった。 【0067】 図4の水蒸気吸着等温線では,試料1は,P/P0=0〜0.3の範囲内で大きく吸着量が変化するという特性を示した。 P/P0=0.1とP/P0=0.3の時の水蒸気の吸着量は,それぞれ0.07g/gと0.28g/gであった。 高密度多孔体0.71g/ccで,嵩あたりの吸着量に変換すると,それぞれ,0.05g/ccと0.2g/ccとなり,その差,即ち相対蒸気圧が0.2変化したときの吸着量変化は 0.15g/ccとなる。 即ち,試料1は請求項2の高密度多孔体となる。 そして,吸着側と脱着側との等温線はほぼ一致し,ヒステリシスを示さなかった。 【0068】 また,同一の試料1を使用して2回目の水蒸気吸着等温線(二次)を測定した。 しかし,1回目(一次)の水蒸気吸着等温線とほぼ同形状であったことから,水蒸気の吸着により,試料1の構造が変化しないことが分かった。 【0069】 図5の粉末X線回折パターンでは,回折角が1度〜60度の範囲において,明確なピークが観察されなかった。 よって,試料1は,規則的な結晶構造は有していないことが分かった。 【0070】 以上より,試料1は規則的な結晶構造は有していないが,1.5nmを中心とする均一な細孔と高い嵩密度を有していることが分かった。 【0071】 【表1】
【0072】 実施形態例2
本例は,実施形態例1とは異なる高密度多孔体の製造方法であって,原料を混合した溶液において生成されたシリカ/界面活性剤複合体を分離するにあたり,基板に溶液をコートする方法を採用した製造方法である。
【0073】
TMOS15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌した。 この添加と攪拌とにより得られた溶液に,DDTA7.71gを更に添加し,数分間激しく攪拌し,溶液に粘性を生じせしめた。 更に得られた溶液をアルミニウム板の表面にコートして,室温で2〜3日放置した。 以上により,上記アルミニウム板の表面において,均一な透明膜を得た。 この透明膜がシリカ/界面活性剤複合体である。
【0074】
その後,上記透明膜であるシリカ/界面活性剤複合体を乾燥し,次いで,550℃,6時間,空気中において焼成した。 以上により,本発明にかかる高密度多孔体を得た。 なお,本例の製造方法においても,その原料中のH
2 O/Si比は2であった。 その他は,実施形態例1と同様である。
【0075】
実施形態例3
本例は,実施形態例1に示す試料1,2に用いた界面活性剤とは異なる界面活性剤を用いて製造した試料3,4の性能につき説明するものである。
試料3,4の製造方法につき,説明する。
TMOS15.2gに水3.6g及び2Nの塩酸約0.1gを添加し,室温で1時間攪拌した。 この添加と攪拌とにより得られた溶液に,界面活性剤であるデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTA)7.01gを更に添加し,数分間激しく攪拌し,溶液に粘性を生じせしめた。 更に,得られた溶液を密閉容器中において,2〜3日放置した。 以上により,透明で均一な固体を得た。 この固体がシリカ/界面活性剤複合体である。
【0076】
上記シリカ/界面活性剤複合体を乾燥し,その後550℃,6時間,空気中において,焼成し,該シリカ/界面活性剤複合体より,界面活性剤を除去した。
上記焼成により得られた固体を粉砕し,ふるいを使用して,粒径100〜150μmに揃えた。 以上により,粒径100〜150μmの粉末状の高密度多孔体を得た。 これが試料3にかかる高密度多孔体である。
なお,試料3における原料中のH
2 O/Si比は2であった。 【0077】
また,上記添加と攪拌とにより得られた溶液に,界面活性剤としてオクチルトリメチルアンモニウムブロマイド(OTA)6.31gを添加し,上記と同様に処理して,透明で均一な固体を得た。 更に,この固体を,上記と同様に処理して,粉末状の高密度多孔体を得た。 これが試料4にかかる高密度多孔体である。
なお,試料4における原料中のH
2 O/Si比は2であった。 【0078】
そして,試料3,4につき,実施形態例1と同様の方法にて,嵩密度及び比表面積を測定した。 この結果を表2に示した。
同表によれば,界面活性剤として,DTA,OTAを使用した場合においても,実施形態例1と同様に優れた高密度多孔体を得ることができた。
【0079】
【表2】
【0080】
実施形態例4
本例は,図6に示すごとく,本発明にかかる高密度多孔体を,吸着剤として使用した吸着ヒートポンプである。 なお,本例は密閉式吸着ポンプであるが,本発明の高密度多孔体は,解放式吸着ヒートポンプにおいても,吸着剤として使用することができる。
【0081】
次に,本例の密閉式吸着ヒートポンプ2について説明する。
上記吸着ヒートポンプ2は,図6に示すごとく,吸着器21,蒸発器22,凝縮器23,そしてこれらを互いに連結する配管25,27,28及びバルブ26よりなる。 そして,これらの間を吸着質が循環している。
【0082】
上記配管を切り換えることにより,上記吸着質は蒸気の状態で蒸発器22から吸着(Ads.)配管28を通り吸着器21へ向かう。 その後,上記吸着質は,上記吸着器21から脱着(Des.)配管25を通り,凝縮器23へと循環する。 更に,その後,上記吸着質は,上記凝縮器23より,配管27を経由して再び蒸発器22へと戻される。
なお,上記吸着器21,蒸発器22,凝縮器23の内部には,熱交換用配管210,220,230が設けてある。
【0083】
そして,温度Ta及びTreg(Ta<Treg)の低温及び高温の二つの熱源により,吸着剤の温度を上下させる。 これにより,吸着から脱着へと循環するサイクルを繰返す。
なお,冷熱(Tcold)は,蒸発器22における吸熱を,温熱(Th)は吸着器21における吸着熱をそれそれ取出すことにより得ることができる。
【0084】
本発明にかかる高密度多孔体よりなる吸着剤は,上記吸着ヒートポンプにおける上記吸着器21の内部に設置されている。
上記吸着器21の内部には,上記吸着剤と熱媒体との間の熱交換を容易にするため,多数の金属フィンが重なるように配置してある。
上記吸着剤は粒状にして,上記金属フィンと金属フィンとの間の隙間に充填することができる。 また,上記金属フィンの表面にコートすることもできる。
【0085】
なお,特に上記金属フィンに,上記吸着剤をコートする場合には,吸着器21への組付け前の金属フィン単体に対し,それぞれ吸着剤をコートしてもよい。 また,吸着器21を組み立てた後に,その内部の金属フィンに対し,上記吸着剤をコートすることもできる。
【0086】
本例によれば,本発明にかかる高密度多孔体を吸着剤として使用しているため,少量の吸着剤の使用で,高い冷凍能力が発現されるという効果を得ることができる。
【0087】
【発明の効果】
上記のごとく,本発明によれば,嵩密度が高く,均一な細孔径を有し,吸着剤または触媒等として使用する際に,その特性を充分発現することができる高密度多孔体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,(a)本発明にかかる高密度多孔体の説明図,(b)従来のメソ多孔体の説明図。
【図2】実施形態例1における,窒素吸着等温線を示す線図。
【図3】実施形態例1における,細孔分布曲線を示す線図。
【図4】実施形態例1における,水蒸気吸着等温線を示す線図。
【図5】実施形態例1における,粉末X線回折パターンを示す線図。
【図6】実施形態例4における,吸着ヒートポンプの構造を示す説明図。
【符号の説明】
1. . . 高密度多孔体,
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