【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は光触媒タイル及びその製造方法に係り、特に、タイル表面に厚膜の光触媒機能を有する被膜(以下「光触媒性被膜」と称す場合がある。)を形成することで光触媒効果を高めると共に、干渉による虹彩現象を防止した光触媒タイルと、このような光触媒タイルを化学的蒸着法(CVD)により製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、鏡やレンズ、板ガラス等の透明基材の表面を高度に親水化することにより、基材の曇りや水滴形成を防止することを目的として、或いは、建材や機械装置或いは各種物品の表面を高度に親水化することにより、表面の汚れを防止し、表面の自己浄化(セルフクリーニング)機能を付与すると共に、汚れを落とし易くして清掃を容易にするために、基材表面に光触媒性チタニア(TiO 2 )等の光触媒性被膜を形成することが行われている(特開平9−241038号公報、国際公開WO96/29375、特開昭61−83106号公報)。 光触媒性チタニア等の光触媒機能を有する物質は、光励起による親水化効果で基材表面を高度に親水化し、水滴の形成を防止して、光の散乱による曇りを防止する。 また、親油性成分を多く含む汚れが付着し難くなると共に、表面の自己浄化及び作用が得られ、付着した汚れも落ち易くなる。 また、光触媒効果でNOxやSO x或いは有機物の分解が促進されることによっても上記効果が高められる。 【0003】従来においてはTiO 2等の光触媒性被膜は、100〜800nm(特開平9−241038号公報)或いは、約0.2μm以下(国際公開WO96/2 9375)といった薄膜に形成されている。 このような光触媒機能を有する膜の形成方法として、特開平9−2 41038号公報及び国際公開WO96/29375には、TiO 2粒子を含む懸濁液の塗布、焼成によるゾルゲル法が記載されている。 【0004】特開昭61−83106号公報には被膜形成法としてCVDが記載されているが、その成膜条件や被膜厚みについては特に考慮されていない。 なお、従来、タイル表面にCVDによりTiO 2被膜を形成する場合、一般的には、図1に示す如く、タイル搬送ベルト1上にタイル2を載せ、加熱ゾーン3に搬送して加熱した後、TiCl 4 (四塩化チタン)蒸気発生炉5で発生させたTiCl 4蒸気が導入される蒸着室4に搬送し、 蒸着室4内で下記式の加水分解反応で生じたTiO 2をタイル表面に蒸着させ、その後、冷却ゾーン6で冷却することにより成膜が行われる。 【0005】 TiCl 4 +2H 2 O→TiO 2 +4HCl このようなCVDによるTiO 2被膜の形成に当り、従来では加熱ゾーンの温度は300〜500℃、TiCl 4蒸気発生炉の温度は35℃程度とされ、0.08μm 程度の厚さのTiO 2被膜が形成されている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】光触媒性被膜を800 nm(=0.8μm)以下の厚さに形成する従来の技術では、光の干渉による虹彩現像を生じ易く、意匠上の問題があった。 また、膜厚が薄いと、それだけ、光触媒効果も劣るものとなる。 【0007】また、従来のゾルゲル法による成膜では均一な膜を形成することが困難である。 CVD法によれば均一な膜を形成することができるが、従来のCVD条件では被膜の厚膜化を図ることが難しい。 【0008】本発明は上記従来の問題を解決し、タイル表面に厚膜の光触媒性被膜を形成することで光触媒効果を高めると共に、光の干渉による虹彩現象を防止した光触媒タイル、及びこのような光触媒タイルをCVD法により製造する方法を提供することを目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明の光触媒タイルは、表面に光触媒機能を有する被膜を形成してなる光触媒タイルにおいて、該被膜の厚みが0.8μmよりも大きいことを特徴とする。 【0010】光触媒性被膜の厚みが0.8μmより大きい厚膜であれば、膜厚が可視光の波長よりも厚いため、 干渉による虹彩現象が防止される。 また、光触媒性被膜が厚いことから、光触媒効果も向上し、良好な汚染防止等の効果が得られる。 【0011】この被膜は、ピンホール等の未被覆部分がないようにタイル全面に均一に形成されるのが好ましい。 【0012】本発明の一態様では、被膜は実質的にTi O 2のみにて構成される。 【0013】このような本発明の光触媒タイルは、タイルを加熱ゾーンで加熱した後、TiCl 4蒸気発生炉で発生させたTiCl 4蒸気が導入される蒸着室にて、該TiCl 4蒸気の加水分解で生じたTiO 2を該タイル表面に蒸着させることにより、タイル表面に厚みが0.8 μmよりも大きいTiO 2被膜を形成することを特徴とする本発明の光触媒タイルの製造方法により容易に製造することができる。 【0014】このような方法において、加熱ゾーンにおいてタイルを300〜800℃に加熱しておくことにより、付着強度の高い被膜を形成することができる。 また、加熱ゾーンの温度を500〜700℃とすると共に、TiCl 4蒸気発生炉の温度を45℃以上とすることにより、膜厚の大きな光触媒性被膜を1回の成膜操作により形成することができる。 【0015】蒸着により形成されたTiO 2被膜を50 0〜900℃で焼成(結晶化アニール)することにより、被膜中のTiO 2結晶相を更に増加させ、光触媒性能をより一層高めることができる。 【0016】 【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。 【0017】本発明において、タイル表面に形成する光触媒性被膜の光触媒機能を有する物質としては、TiO 2の他、ZrO 2 、ZnO、SnO 2 、WO 3 、Bi 2 O 3 、 SrTiO 3 、Fe 2 O 3 、V 2 O 5等の金属酸化物が挙げられる。 これらの金属酸化物は1種を単独で用いても良く、また2種以上を併用しても良い。 【0018】本発明の一態様では、被膜はTiO 2のみにて構成される。 このTiO 2のみからなる被膜は光触媒機能がきわめて高い。 【0019】本発明においては、このような光触媒性被膜を0.8μmより厚い被膜に形成する。 光触媒性被膜の厚みが0.8μm以下では干渉による虹彩の問題があり、また、十分な光触媒効果を得ることができない。 この光触媒性被膜が過度に厚いと被膜形成コストが高騰するため、光触媒性被膜の厚みは0.8μmより大きく2 μm以下、特に0.8〜1.2μmとするのが好ましい。 【0020】このような光触媒性被膜は、ゾルゲル法により形成することも可能であるが、前述の如く、ゾルゲル法では形成される光触媒性被膜中のTiO 2等の光触媒性物質の分布が不均一となり、均一性状の高特性光触媒性被膜を形成することができないことから、好ましくはCVDにより形成する。 【0021】以下に、TiO 2光触媒性被膜をCVDにより形成して光触媒タイルを製造する本発明の光触媒タイルの製造方法について説明する。 【0022】本発明では、下記のような好適なCVD条件を採用すること以外は、図1に示す従来法と同様にしてCVD−TiO 2被膜を形成することができる。 【0023】 加熱ゾーン3の温度 加熱ゾーン3の温度を300〜800℃とすることにより、被膜の付着強度を高めることができる。 とりわけ、 本発明では、0.8μmより厚い厚膜のTiO 2被膜を形成するために、この加熱ゾーン3の温度を500〜7 00℃とするのが好ましい。 このように、タイル2の予熱温度を高めることにより、厚膜のTiO 2被膜を1回の成膜操作にて形成することが可能となる。 【0024】 TiCl 4蒸気発生炉5の温度 従来法では、TiCl 4蒸気発生炉5の温度は35℃程度とされているが、本発明では、0.8μmより厚い厚膜のTiO 2被膜を形成するために、このTiCl 4蒸気発生炉5の温度は45℃以上、特に50〜70℃とするのが好ましい。 このように、TiCl 4蒸気発生炉5の温度を高めることにより、大量のTiCl 4蒸気を発生させて膜厚の厚いTiO 2被膜を形成することができる。 なお、蒸着室4では、雰囲気中の湿気により加水分解が進行するが、この蒸着室の湿度が低く、加水分解のための水分が不足する場合には、蒸着室内に水を入れた容器を入れておき、水蒸気を発生させるようにすれば良い。 また、蒸着室に大気を供給したり、この大気に水蒸気を添加しても良い。 【0025】形成されるTiO 2蒸着膜の膜厚は、蒸着室4の滞留時間を調節したり、TiCl 4蒸気発生炉5 の温度を調節してTiCl 4蒸着量を増減することにより容易に調節することができる。 【0026】なお、その他のCVD条件は次のような条件を採用するのが好ましい。 【0027】 加熱ゾーンの滞留時間 : 15〜30分 蒸着室の雰囲気 : 大気(必要に応じ加湿) 蒸着室の雰囲気圧力 : 大気圧 蒸着室の温度 : 150〜250℃ 冷却ゾーンの冷却速度 : 30〜40℃/分 このようなCVD法によりTiO 2蒸着膜を形成した後は、形成されたTiO 2蒸着膜を500〜900℃で焼成して結晶化アニール処理するのが好ましい。 このような結晶化アニール処理を行うことにより、TiO 2結晶相を更に増加させてTiO 2光触媒性被膜の光触媒性能を高めることができる。 【0028】なお、CVD法によるTiO 2蒸着膜の形成に当り、TiCl 4と共に、SiCl 4 (四塩化珪素) やSnCl4(四塩化錫)等の他の蒸着原料を併用することにより、TiO 2 −SiO 2又はTiO 2 −SnO 2等の複合光触媒性被膜を形成することができる。 【0029】 【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。 【0030】実施例1〜3図1に示すCVD法により、 下記CVD条件でタイル表面にTiO 2蒸着膜を形成し、形成されたTiO 2蒸着膜を600℃で1時間焼成して結晶化アニール処理することにより、表1に示す厚さのTiO 2光触媒性被膜を形成した。 なお、蒸着室滞留時間は、実施例1では40秒、実施例2では60秒、 実施例3では80秒とした。 【0031】 加熱ゾーンの温度 : 650℃ 加熱ゾーン3の滞留時間 : 20分 蒸着室4の雰囲気 : 大気 蒸着室4の雰囲気圧力 : 大気圧 蒸着室4の温度 : 200℃ TiCl 4蒸気発生炉5の温度: 65℃ 冷却ゾーン6の冷却速度 : 30℃/秒 得られた光触媒タイルについて、目視により干渉による虹彩現象の有無を調べ、下記基準で評価し、結果を表1 に示した。 なお、平均1μm厚のTiO 2被膜は約0. 3mg/cm 2の付着量に相当する。 【0032】<評価基準> ○:干渉による虹彩現象なし △:干渉による虹彩現象若干あり ×:干渉による虹彩現象あり また、この光触媒タイルについて、メチレンブルーを付着させ、このメチレンブルーの分解量を測定することにより光触媒効果を調べ、結果を表1に示した。 【0033】このメチレンブルーの付着及び分解反応条件は次の通りである。 【0034】<メチレンブルー分解試験方法>タイルに2×2cmの開口部を持つマスクを置き、0.01%濃度のメチレンブルー・エタノール溶液を5マイクロリットル滴下し、乾燥させる。 乾燥後、タイルを照明室に入れ、光を照射する。 光源はBLBランプを用い、光の照射量は、試験片表面で2.0mW/cm 2のUV強度とする。 タイル表面のメチレンブルー残存量を、分光光度計を用い青色光の反射率として経時的に計測し、初期量の1/2となるまでの時間をメチレンブルー半減期として求めた。 【0035】さらに、この光触媒タイルについて、表面の被膜の付着強度も次の方法により評価した。 【0036】<被膜付着強度試験法>JIS−6909 に準拠するしゅう動摩耗試験により、研磨材を不織布ナイロンブラシ(住友3M製スコッチブライト51ライン白)、研磨荷重を1kg/70cm 2とし、被膜の剥離する研磨回数を求めた。 【0037】比較例1,2 実施例1において、蒸着室滞留時間を比較例1では30 秒、比較例2では10秒とし、加熱ゾーン3の温度を4 00℃とし、TiCl 4蒸気発生炉5の温度を35℃としたこと以外は同様にして、表1に示す厚さのTiO 2 光触媒性被膜を形成し、同様に評価を行って結果を表1 に示した。 【0038】比較例3,4 加熱ゾーンの温度を200℃又は850℃としたこと以外は、実施例1と同様にして光触媒タイルを製造し、同様の評価テストを行った。 結果を表1に示す。 【0039】比較例5 CVD法ではなくゾル−ゲル法によりタイル表面に平均して0.3mg/cm 2の割合でTiO 2を付着させた光触媒タイルを製造し、同様の評価テストを行った。 結果を表1に示す。 【0040】 【表1】 【0041】 【発明の効果】以上詳述した通り、本発明の光触媒タイル及びその製造方法によれば、干渉による虹彩現象の問題がなく、しかも光触媒性能に優れ、かつ付着強度の高い被膜を有し、汚れ防止ないし自己浄化作用等に優れた光触媒タイルが提供される。 【0042】このような本発明の光触媒タイルは、各種内外装用建材として有効に利用することができ、その表面を長期に亘り、清浄かつ美麗に保つことができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】CVDによるTiO 2蒸着膜の形成方法を説明する系統図である。 【符号の説明】 1 タイル搬送ベルト 2 タイル 3 加熱ゾーン 4 蒸着室 5 TiCl 4蒸気発生炉 6 冷却ゾーン ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 加藤 博道 愛知県常滑市鯉江本町5丁目1番地 株式 会社イナックス内 (72)発明者 杵島 健 愛知県常滑市鯉江本町5丁目1番地 株式 会社イナックス内 (72)発明者 大貫 徹 愛知県常滑市鯉江本町5丁目1番地 株式 会社イナックス内 (72)発明者 神谷 嘉夫 愛知県常滑市鯉江本町5丁目1番地 株式 会社イナックス内 (72)発明者 安永 政義 愛知県常滑市鯉江本町5丁目1番地 株式 会社イナックス内 |