【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は金属溶湯、特にアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯(以下、単にアルミニウム溶湯と称する)の中に混入している介在物を濾過するためのフィルターに関する。 【0002】 【従来の技術】アルミニウム溶湯中には通常、介在物、 特に非金属介在物が混入しており、これら溶湯がそのまま鋳造後圧延等に供されて例えばディスク材等に製品化されると、混入された非金属介在物がピンホール等の不良発生の原因となる。 これを防ぐため、アルミニウム溶湯を濾過して介在物を除去することが一般に行なわれている。 そのためのフィルターとして例えば特公昭52-223 27号公報に記載されたもの等が挙げられる。 この公報記載のフィルターは電融アルミナ等の骨材を無機質の結合材により結合させたものであり、気孔径を適切になし得て安定した濾過を可能としたものである。 【0003】しかし、これら公報記載の如き従来のフィルターは、通常、結合材中にSiO 2を多く含んでおり、 これを用いてアルミニウム溶湯の濾過を行なった場合、 結合材中のシリコンがアルミニウム溶湯中に溶出して溶湯を汚染する畏れがあった。 このアルミニウム溶湯中へのシリコンの溶出を防止するために無機質結合材中にS iO 2を含まないフィルターが、例えば特公平 5-86459、 特公平 5-86460、及び特開平 2-34732号が開示されている。 しかし、これらのフィルターからはシリコンの溶出によるアルミニウム溶湯の汚染の問題は無いとしても、 結合材による骨材粒子の結合状態が悪いため、強度が低く、また目詰まりを起こしやすいので通湯量がばらつく等の問題を有するものであった。 そこで、シリコンの溶出の問題と目詰まり等の問題とを解決するフィルターが要望されるに到り、それらを満足するものとして結合材中にSiO 2を所定量含有させることによりアルミニウム溶湯との濡れ性を良くし、また無機質結合材中に9Al 2 O 3・2B 2 O 3の針状結晶を析出させてなるフィルターが特開平 5-138339号に開示されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近時においてはアルミニウム製品の品位に対する要求が厳しくなり、例えばディスク材等に用いられるアルミニウム合金材は僅かな表面欠陥があってもその影響は大きく、アルミニウム溶湯から可能な限り細かい介在物までも除去する必要があり、フィルターは骨材粒子を細かくして気孔径を小さくしたものが使用される。 しかるに、上記した特開平 5-138339号に開示されたフィルターでは、結合材中の結晶成分が多く、粘性が高く、流動性が悪いため、骨材表面に結合材が偏在し、骨材表面に凹凸ができてしまう。 このため、骨材粒子が細かい場合、この凹凸によってフィルターの気孔が閉塞し、アルミニウム溶湯の通過が困難になる場合があった。 【0005】本発明は、前述したシリコンの溶出が抑えられ、しかも骨材粒子が細かくても気孔が閉塞せず、溶湯の通過が容易で効率の良いフィルターを提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明に係るフィルターは、電融アルミナ及び焼結アルミナの1種以上からなる骨材粒子100重量部を無機質結合材10〜20重量部にて結合してなり、該無機質結合材の原料組成がSiO 2が25重量%を超え〜35重量%、B 2 O 3が30〜4 0重量%、Al 2 O 3が20〜35重量%、残部MgOからなることを特徴とすることにより前記課題を解決したものである。 本発明フィルターでは粉末X線回折における、2θ=16.5°に現われる9Al 2 O 3・2B 2 O 3 のピーク高さが、2θ=43.4°に現われるα−Al 2 O 3のピーク高さに比較した百分率を結晶度とした場合に、その結晶度が10〜25%であり、またこの無機質結合材中に生成する9Al 2 O 3・2B 2 O 3の針状結晶の長さは10μm以下とする。 これら無機質結合材中に生成する9Al 2 O 3・2B 2 O 3の針状結晶はフィルターの焼成温度を1200〜1300℃とすることにより得られる。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明において、骨材粒子を電融アルミナ及び焼結アルミナの1種以上としたのは、これらが金属溶湯、特にアルミニウム溶湯に対し優れた耐食性を示すためである。 また、本発明のフィルターにおいて、無機質結合材を骨材粒子100重量部に対して、1 0〜20重量部としたのは、10重量部未満では骨材粒子の結合が不充分で、フィルターから骨材粒子が脱落する可能性があり、20重量部を超えると気孔を狭め、目詰まりを起こしやすくなるので好ましくないためである。 無機質結合材に含まれるSiO 2は、結合材の粘性を下げ、ガラス化を促進する作用があり、またこれによってフィルター強度を高める作用をする。 SiO 2が2 5重量%以下ではフィルターの強度が十分でなく、35 重量%を超えると、フィルター強度は高くなるものの、 結合材がアルミニウム溶湯に置換され溶湯を汚染する可能性がある。 B 2 O 3が30重量%未満では結合材の粘性が高く流動性が悪いため、結合材が骨材表面に偏在し、 気孔を狭めてしまい、さらにはフィルター強度も不充分となる。 逆にB 2 O 3が40重量%を超えると、結合材の粘性が低すぎるため、結合材が下方に流出してしまい均一なフィルターが得られなくなる。 【0008】本発明において、結合材中には、比較的多くのSiO 2が含まれているが、本発明のフィルターからアルミニウム溶湯への汚染はほとんど生じない。 これは、本発明のフィルターの結合材表面には、結合材成分のAl 2 O 3とB 2 O 3が反応し、硼酸アルミニウム(9A l 2 O 3・2B 2 O 3 )の針状結晶が生成して表面を覆っているためである。 この硼酸アルミニウムはアルミニウム溶湯に対し優れた耐食性を示す。 このため、フィルター結合材表面とアルミニウム溶湯とが接触しても溶湯を汚染することはない。 Al 2 O 3は20〜35重量%であることが必要である。 Al 2 O 3が20重量%未満では表面に析出する硼酸アルミニウム結晶の量が少なくなるため溶湯を汚染し易くなる。 また、Al 2 O 3が35重量%を超えると結合材中の結晶成分が多くなり過ぎ、結合材が骨材表面に偏在し、目詰まりを発生してしまう。 MgO は結合材の粘性を調整するするために添加される。 【0009】ここで、本発明フィルターの結合材中に生成される硼酸アルミニウムの結晶成分量は、フィルターの粉末X線回折の2θ=16.5°に現われる9Al 2 O 3・2B 2 O 3のピーク高さが、2θ=43.4°に現われるα−Al 2 O 3のピーク高さに比較した百分率を硼酸アルミニウムの結晶度とした場合に、その結晶度が1 0〜25%であることが好ましい。 ここで、上記結晶度の定義は以下の理由により硼酸アルミニウムの結晶の生成度の基準となる。 すなわち、本発明のフィルターは、 アルミナ(α−Al 2 O 3 )の骨材粒子を少量の無機質結合材で結合させたものなので、フィルターとしての成分はα−Al 2 O 3が主成分である。 ここで、無機質結合材は結晶とガラスで構成されているので、α−Al 2 O 3以外の成分のピークが検出された場合、それは結合材の結晶成分と考えられる。 本発明のフィルターの場合、結晶は硼酸アルミニウムが検出され、このピーク高さと骨材に起因するα−Al 2 O 3のピーク高さの比率から、硼酸アルミニウムの結晶度を定義したものである。 この結晶度が25%より大きくなると、結合材中の結晶成分が多くなり、アルミニウム溶湯に対する耐食性は良いが、結合材の粘性が高く、流動性が悪いため、結合材が骨材表面に偏在し、気孔を狭めてしまう。 これに対し、結晶度が10%より低いと、結晶成分量が少なくガラス量が多くなるため、アルミニウム溶湯に対する耐食性が悪くなり、溶湯を汚染する畏れが発生する。 【0010】また、本発明において、結合材中の硼酸アルミニウムの針状結晶はその長さが短く緻密であることが好ましい。 すなわち、アルミニウム溶湯と結合材が接触した時、溶湯は結合材中の硼酸アルミニウムの結晶とのみ接触するため、優れた耐食性が発揮される。 この時、硼酸アルミニムの針状結晶の長さは10μm以下が好ましい。 すなわち、結晶が粗大化し長さが10μmより長くなると、結合材中の結晶の密度が小さくなるため、アルミニウム溶湯は結合材中のガラスと接触しやすくなり、ガラスが溶湯に置換され、成分が溶出する畏れが大きくなる。 【0011】上記したような硼酸アルミニウムの針状結晶はフィルター焼成時の焼成温度を1200〜1300 ℃とすることにより得られる。 すなわち、焼成温度が1 200℃未満では硼酸アルミニウムの結晶が十分生成しないため、耐食性も低下する。 また、無機質結合材が十分溶融しないため、結合材の粘性が高く、流動性が悪いため、骨材粒子表面に結合材が偏在し、気孔が閉塞してしまう。 これに対し、焼成温度が1300℃を超えると、硼酸アルミニウムの針状結晶が成長し、粗大化するため、アルミニウム溶湯に対する耐食性が低下する。 また結合材中のB 2 O 3が揮発しやすくなるため、均一な組成のフィルターが得られないという問題も同時に発生してしまう。 【0012】かくして本発明に係るフィルターは、前記した特開平 5-138339号記載のフィルターのように、含有量を低めに抑えた所定量のSiO 2を含有させたものに比べ、むしろ強度的に問題がなくアルミニウム溶湯との濡れ性に優れており良好な濾過を行なえる25重量% を超えるSiO 2を含有しつつ尚かつその表面に緻密で耐食性に優れた針状の硼酸アルミニウム結晶をその結晶度を調整して析出せしめたものであるため、シリコンの溶出による溶湯の汚染が抑制されるのみならず、強度、 濾過性共に優れたものとなる。 【0013】以下に実施例を示す。 【実施例】骨材として電融アルミナ#24を用い、これに無機質結合材を表1に示す組成で、骨材100重量部に対し添加量を変えて添加し、これにデキストリン等の有機バインダーと水とを適量添加後、混練し、外径10 0mm、内径60mm、長さ850mmのパイプを成形後、乾燥し、所定の温度で焼成し、試験体を得た。 各試験体の特性を以下に示す試験方法で調べた。 【0014】(曲げ強度) 曲げ強度は試験体から100×20×18mmのテストピースを切り出し、これを雰囲気温度設定電気炉内にて800℃で20分間保持した後、2点支持1点荷重で支持スパン90mmで曲げ試験しその結果を測定した。 【0015】(成分溶出量) 740℃の高純度アルミニウム溶湯(99.99%以上)10重量部に対し試験体1重量部を浸漬し、55時間保持と通湯を繰返した後、サンプリングし、アルミニウム成分の分析を行ない、試験前の成分と比較し、その差を成分溶出量とした。 【0016】(Al浸透性) アルミニウム溶湯の通湯性をフィルターのAl含浸高さで評価した。 試験体をアルミ保持炉中に立てて予熱し、 そこへ730℃のアルミニウム溶湯を注湯し、所定のヘッド圧をかけ24時間保持した後、試験体を取り出した。 試験体を冷却後、縦方向に切断し、アルミニウムが浸透している高さを測定した。 アルミニウム溶湯のヘッドとこの高さの差をAl含浸高さとした。 【0017】(結晶度) 試験体を粉砕して粉末X線回折を行ない、結晶度を前述した定義に従って測定した。 すなわち、2θ=16.5 °に現われる9Al 2 O 3・2B 2 O 3のピーク高さを、2 θ=43.4°に現われるα−Al 2 O 3のピーク高さで割り、その百分率をもって結晶度とした。 【0018】(結晶の長さ) 試験体表面をSEMにて観察し、結合材表面の結晶の長さを測定した。 これらの結果を表1に併記する。 【0019】 【表1】 【0020】表1より、本発明で示された無機質結合材添加量及び無機質結合材の原料組成の試験体結果を示す実施例1〜9において、フィルター強度、アルミニウム溶湯に対する耐食性さらにアルミの通湯性の点で優れていることが分かった。 また、比較例1、2においては、 フィルターの焼成温度が1200〜1300℃の範囲からずれているため、評価が低下している。 比較例3〜9 より、本発明で示される無機質結合材添加量及び無機質結合材の組成からはずれている試験体では各種特性を調査した結果、評価は良好ではなかった。 【0021】 【発明の効果】以上のように、本発明によれば、無機質結合材の添加量と原料組成を適正にすることにより、強度と耐食性に優れ、且つアルミニウム溶湯の通湯性に優れたフィルターが得られる。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 甲斐 由紀夫 千葉県習志野市藤崎4−2−36 三井金 属鉱業株式会社習志野工場内 (56)参考文献 特開 平5−138339(JP,A) 特開 昭64−28285(JP,A) 特開 平3−254805(JP,A) 特開 平1−127168(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl. 6 ,DB名) B22D 43/00 B01D 39/20 B22C 9/08 C04B 35/101 C04B 35/63 |