【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、樹脂含有セメント成形体の製造方法、さらに詳しくは熱可塑性樹脂とセメントを主成分とし両者の中間的な物性を備えた、建築用材料や土木用材料などの用途に適した樹脂含有セメント成形体の成形方法に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、セメント系の成形体、例えば板状体、ブロック体、その他の形態からなる建築用、土木用の材料として、主成分であるセメントに熱可塑性樹脂を混合し加熱成形したのち、これを水により養生し硬化させて得た、いわゆる樹脂含有セメント成形体が賞用されている。 この成形体は、セメント材の本来の物性に加え、曲げ強度、圧縮強度が向上し、変形、収縮、亀裂などの欠陥が少なくなり、とりわけ成形体中への外部水の侵入を防ぎ凍結融解に対する抵抗性が高められるなどの利点を有する反面、その成形工程中の水和によるセメントの養生工程が、セメントと熱可塑性樹脂との混合物を熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度で加熱成形して得た中間成形物を水中に浸漬する方法からなる、いわゆる後水和方式によるものであるから、成形体の部位、例えば表層部と内部とで水和の度合にばらつきを生じ、均質な物性が得られないという欠点がある。 このような成形方法としては、例えば特開平4−114978号公報を挙げることができる。 【0003】また、上記の後水和方式による樹脂含有セメント成形体の成形技術を改良した成形方法として、主成分である熱可塑性樹脂とセメントに、さらに親水性物質を添加したり、吸水性繊維などを大量に添加して樹脂含有セメント成形体を得る方法が知られている。 これらの方法は、その成形工程中の水和によるセメントの養生工程が、これらの混合物を加熱成形したのちの中間成形物を水中に浸漬するものであり、前記添加物によって熱可塑性樹脂に水濡れ性を与え、養生工程で水和を効率的におこなわせるという点では有効であるが、所期する形状によってはセメントの硬化が部分的に過不足となり、 必ずしも十分かつ均質な物性が得られない。 このような成形方法としては、例えば特開平7−10626号公報が挙げられる。 【0004】この発明者らは、上記のような従来の問題点に鑑み鋭意研究した結果、この種の樹脂含有セメント成形体の製造において、このような後水和方式による中間成形物の硬化には、中間成形物中の熱可塑性樹脂が、 セメント養生に必須の水との接触を阻害しないようにすることが必要であり、これが膨潤ないしは溶解状態にあれば中間成形物の硬化を早めることができ、しかも物性が均質で、満足する機械的強度を有する樹脂含有セメント成形体が得られることを見出し、この発明を完成した。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】すなわち、この発明は、上記のような背景のもとに、原理的には従来の後水和方式による樹脂含有セメント成形体の製造方法を利用しつつ、熱可塑性樹脂とセメントよりなる中間成形物を短時間に硬化することができて、熱可塑性樹脂とセメントとの中間的な物性を備え、かつその物性が均質で安定した機械的強度を有する樹脂含有セメント成形体を得ることができる樹脂含有セメント成形体の製造方法を提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】上記の目的において、この発明の第1の発明は、熱可塑性樹脂と水硬性セメントよりなる中間成形物を、有機溶剤と水との混合溶液中に浸漬することにより、前記熱可塑性樹脂を膨潤させながら硬化させることを特徴とする樹脂含有セメント成形体の製造方法を要旨とする。 【0007】さらに、この発明の第2の発明は、熱可塑性樹脂と水硬性セメントよりなる中間成形物を、有機溶剤中に浸漬して前記熱可塑性樹脂を膨潤させた後、さらに水中に浸漬することにより硬化させることを特徴とする樹脂含有セメント成形体の製造方法を要旨とする。 【0008】すなわち、この発明においては、熱可塑性樹脂と水硬性セメントとの混合物を加熱混練して得た中間成形物を、有機溶剤と水との混合溶液に浸漬して水硬性セメントを水和させる(第1発明)か、または有機溶剤に浸漬した後にさらに水に浸漬して水硬性セメントを水和させる(第2発明)ものであり、中間成形物中に浸透する有機溶剤によって熱可塑性樹脂を膨潤させることにより、水の浸透を容易にして水硬性セメントの水による水和反応を促進して、中間成形物の全体を均一に硬化させるものである。 この場合、上記第1発明と第2発明を折衷して、有機溶剤と水との混合溶液に浸漬した後にさらに水に浸漬して水硬性セメントを水和させるようにしても差支えない。 【0009】つぎに、この発明において用いられる熱可塑性樹脂について述べると、熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、全種類の熱可塑性樹脂を適用可能である。 また、熱可塑性樹脂は同種のものに限らず、異種のものと混合して使用してもよい。 さらに、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の混在した、いわゆる合成樹脂廃材から、熱硬化性樹脂、金属、土、砂、その他のゴミ、異物を大まかに選別除去した残りの熱可塑性樹脂主体の合成樹脂廃材であっても適用可能である。 以下、主な熱可塑性樹脂を具体的に列挙すると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−ビニルアセテート共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン−ブタジエン共重合体、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ウレタン系熱可塑性エラストマー、 ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、 ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、アスファルトなどである。 【0010】さらに、この発明で用いられるセメントについては、主として水硬性セメントであり、例えば普通ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、白色セメント等のポルトランドセメント系の水硬性セメント、またアウイン系の超早強セメント、アルミナセメント、オキシクロライドセメント、耐酸セメント、石膏等の水硬性セメントであり、また2成分以上の成分からなり、水によって反応して水硬性となるような成分、例えば活性シリカと水酸化カルシウム、活性アルミナと水酸化カルシウムも適用可能であり、さらにまた上記各セメントの2種以上を混合して適用することも可能である。 【0011】また、この発明において、中間成形物を硬化させるために使用する有機溶剤は、前記の熱可塑性樹脂から選択使用される熱可塑性樹脂を膨潤し、ないしは溶解することのできる1種または2種以上の有機溶剤であり、かつ少なくともそのうちの1種は水と相溶性のある有機溶剤とし、2種類以上の有機溶剤からなる混合溶液では、これが水と良く相溶する混合比を選ぶものとする。 例えばポリ塩化ビニル樹脂を膨潤させる有機溶剤にはアセトン、ジオクチルフタレート(DOP)、ヂブチルフタレート(DBP)等が挙げられ、またポリ塩化ビニル樹脂を溶解する有機溶剤にはテトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、ニトロベンゼン、ジオキサン、ジクロロメタン、四塩化炭素等が挙げられる。 そして、水との相溶性のある有機溶剤としてはテトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。 なお、ここで水と相溶性のある有機溶剤とは、それ自体が水と相溶するものの他、 単独では水と相溶しないが相溶性のある他の有機溶剤と混合して用いると相溶するものを含むものとする。 例えば、水と相溶するアセトン70容量%、単独では水と相溶しないシクロヘキサノン10容量%、及び水20容量%からなる混合溶液である。 【0012】ここで、有機溶剤と水の混合割合については、水に対する有機溶剤の割合を、熱可塑性樹脂が膨潤する範囲内の割合とする。 すなわち、有機溶剤と水の混合溶液によって、熱可塑性樹脂が膨潤するのに十分であり、かつ熱可塑性樹脂が溶解しない範囲の混合割合とするものである。 この場合、有機溶剤の割合の上限は、必ずしも厳密ではなく、熱可塑性樹脂の若干部分が溶解する程度の割合まで許容されるものとする。 【0013】ついで、熱可塑性樹脂と有機溶剤の組み合わせの具体例としては、ポリ塩化ビニル樹脂に対してはテトラヒドロフラン(THF)またはアセトンが望ましく、さらにこれにシクロヘキサノン、ニトロベンゼン、 メチルエチルケトン(MEK)、ジオキサン等あるいはジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のいわゆる可塑剤等から選ばれたものを1種以上添加したものが好適に用いられる。 【0014】また、この発明における、熱可塑性樹脂とセメントの混合比率は、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、その範囲は熱可塑性樹脂100重量部に対して水硬性セメント50〜900重量部の割合とする。 【0015】なお、この発明における中間成形物を得るための混合物として、熱可塑性樹脂とセメントの他に、 セメントの脆さを改良するためのガラス繊維や金属繊維を添加したり、また用途に応じて、発泡剤、顔料、光安定剤、熱安定剤等を添加することができる。 そして、前記混合物を加熱混練して板状の中間成形物とするほか、 さらにこれをガラスネットや金属ネットと相互に加熱積層手段により積層一体化させた中間成形物としてもよい。 【0016】つぎに、この発明における混合及び中間成形物の成形手段について述べると、まず熱可塑性樹脂と水硬性セメントを混合するための手段としては、一般に使用されるモルタル用のミキサー、またはブレンダーが適用される。 この場合、熱可塑性樹脂と水硬性セメント以外の前記添加物との混合度合をよくするために、熱可塑性樹脂の溶融温度未満の温度、好ましくは熱変形温度未満の温度に加熱してもよい。 ついで前記混合物を加熱成形して中間成形物を得るための手段としては、使用する熱可塑性樹脂の種類、混合割合、添加物の種類と量等によって発現する、混合物の加熱成形時における熱的性質に適合する手段であれば、熱可塑性樹脂の加熱成形手段としての全ての公知の手段を選択することができ、射出成形、押出成形、プレス成形、圧縮成形等の成形方法が適用できる。 例えば、プレス成形では、まず加熱混練用の装置として通常の熱可塑性樹脂の混練に利用されるミキシングロールにより、前記混合物を熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度で加熱混練してこれをシート状に圧延したのち、さらにこのシートを単層でまたは積層状態としてプレス機を使用し加熱しながら圧縮成形することにより、板状の樹脂含有セメント成形体を得る。 加熱成形における加熱温度は、使用する熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度とすることが必須であるが、さらに混合物の各成分の種類、混合割合、加熱成形手段などに合わせて設定温度を変化させることができる。 例えば熱可塑性樹脂が塩化ビニル樹脂である場合は、プレス機による加熱成形温度を120〜180℃の範囲の温度とする。 【0017】上記で得られた中間成形物は、有機溶剤と水との混合溶液中に浸漬することによって前記熱可塑性樹脂を膨潤させながら硬化させるか、または有機溶剤に浸漬した後にさらに水に浸漬することによって、水硬性セメントを水和させ、中間成形物を全体に硬化させるのであるが、このとき、中間成形物の表面から内部に浸入する有機溶剤によって、成形物中の熱可塑性樹脂が膨潤され、その結果、有機溶剤と共にまたは有機溶剤の後から、水が中間成形物の内部にまで容易にかつ短時間に浸入し、成形物中の水硬性セメントと接触してこれを短時間に水和させることとなる。 【0018】上記の中間成形物の水和工程は、有機溶剤ないしは有機溶剤と水の混合溶液を、有機溶剤が気化しない程度の温度(例えば20〜60℃)の比較的低温度に加熱し、さらに5〜6kg/cm 2程度の比較的低圧力に加圧することにより、水硬性セメントの水和を、より効果的にすることができる。 また、この発明の方法により水和させた樹脂含有セメント内に、有機溶剤が残存すると、機械的物性の低下の原因となる。 したがってこれら余剰の有機溶剤を取り除くことが望ましい。 この除去方法は、成形体を加熱状態もしくは減圧状態に置くことによって行うことができる。 【0019】 【実施例】以下、この発明における実施例を比較例とともに説明する。 なお、各実施例及び比較例によって得られる樹脂含有セメント成形体の評価は、セメントが水和されると白化現象を生じ、その部分についてX線解析をすると水和がなされた証拠となる水酸化カルシウム(C a(OH) 2 )の存在が認められるという事実に基づいて、成形体の表面部と内部について観察し、いずれの部分でも白化状態が同程度となったときに適度な水和がなされたものとし、その状態となる時間の長短をもって評価した。 【0020】実施例1 塩化ビニル樹脂(重合度700、粒径100μm)10 0重量部に、普通ポルトランドセメント200重量部、 錫系安定剤3重量部をミキサーに投入し、ミキサーのジャケットを40℃に加熱し、撹拌混合した。 この混合物をミキシングロールにより170℃、10分間加熱混練し、圧延して厚さ1mmのシートとしたのち、このシートを5枚積層してプレス機により、温度170℃で加熱加圧することにより積層一体化して、厚さ5mmの中間成形物を得た。 得られた板状の中間成形物を、テトラヒドロフラン(THF)を30%含む水溶液中に45℃の温度で24時間浸漬した。 その後、余剰のテトラヒドロフラン(THF)を除去する目的で75℃の温度で12 時間乾燥した。 こうして得られた成形体は、表面から中心部にかけて均一に水和が進行したした樹脂含有セメント成形体であった。 この成形体の曲げ弾性率は6000 [N/mm 2 ]であった。 【0021】実施例2 実施例1と同様にして厚さ5mmの中間成形物を得た後、これを室温のアセトン溶液中に12時間浸漬し、その後さらに45℃の温水中に12時間浸漬した。 得られた成形体は、表面から中心部にかけて均一に水和が進行した樹脂含有セメント成形体であった。 この成形体の曲げ弾性率は6500[N/mm 2 ]であった。 【0022】実施例3 実施例1と同様にして厚さ5mmの中間成形物を得た後、テトラヒドロフラン(THF)を30%含む水溶液中に45℃の温度で6時間浸漬し、その後さらに45℃ の温水中に12時間浸漬した。 得られた成形体は、表面から中心部にかけて均一に水和が進行した樹脂含有セメント成形体であった。 この成形体の曲げ弾性率は650 0[N/mm 2 ]であった。 【0023】比較例1 実施例1と同様にして厚さ5mmの中間成形物を得た後、これを80℃の温水中に72時間浸漬した。 得られた成形体は、表層から約0.5mmまでが水和し、それより内部は水和が不完全なものであった。 この成形体の曲げ弾性率は3000[N/mm 2 ]であった。 【0024】以上の結果から明らかなように、この発明による樹脂含有セメント成形体は、表層部も内部も均一に水和され、曲げ弾性率が十分に維持されたものであった。 【0025】 【発明の効果】以上のように、この発明は、熱可塑性樹脂と水硬性セメントとの混合物を加熱混練して得た中間成形物を、有機溶剤と水との混合溶液に浸漬して水硬性セメントを水和させるか、または有機溶剤に浸漬した後にさらに水に浸漬して水硬性セメントを水和させて、中間成形物中に浸透する有機溶剤によって熱可塑性樹脂を膨潤させることにより、水の浸透を容易にして水硬性セメントの水による水和反応を促進させようとするものであるから、物性が均質で安定した機械的強度を有する樹脂含有セメント成形体を容易にかつ短時間で製造することができるという効果がある。 |