【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、樹皮状シート及び木板状シート、なわち樹皮状若しくは木板状の表面外観を有するシートを成形するための注型成形用組成物に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来、たとえば擬木を製造するには、製造しようとする擬木と同じような樹皮の表面形状を有する型にセメント・モルタルを流し込み、硬化させたのち脱型し、塗料を塗布する方法が一般的に用いられている。 この場合に、セメント・モルタルに樹脂水性エマルジョンを併用することもあるが、その樹脂分量はセメントに対して5〜15重量%程度の少量であった。 これは、擬木のような直径10cmもあるものを成形する場合に、樹脂分を多く混合すると、硬化物中の水分が逃げずに残り、充分に硬化しない傾向があるためである。 【0003】また、前記のセメント・モルタルを主成分とするものを成形した擬木等を硬化させるには、室温〜 60℃の温度で、高湿度雰囲気中又はオートクレーブ中で行なわせる必要があり、かつその硬化には半日から1 0日程度の長時間を要する。 【0004】また、前記のセメント・モルタルを主成分として用いて成形した擬木等は、外観はともかくとして、主成分がセメント・モルタルの硬化物であるので素地が硬く、触感が悪いし、表面にセメント・モルタルの微細な突起等が形成されていて、触れるとけがをするなどの欠点があった。 また、生地が硬いため丈夫で耐久性に富んではいるが、その反面において衝撃により割れや表面の欠けなどが発生しやすく、その場合に素地のセメント層が現われ、外観を損なう欠点もあった。 【0005】また、前記のセメント・モルタルを主成分として用いて成形した擬木等は、表面塗装されていても、エフロレッセンスにより外観が損なわれやすい(なお、エフロレッセンスとは、セメント硬化物の表面に水に溶けて運ばれてきて析出した析出物をいう。)。 特に、完全に硬化する前の(なお、セメントの完全硬化には通常、28日程度の日数がかかる)、表面アルカリ強度の高いものや、エフロレッセンスの発生しているものの上に塗装をすると、塗装の剥離を起しやすい。 また、 使用中にも、ピンホールや傷等から新たにエフロレッセンスが発生し、外観を損なうこともある。 【0006】さらに、前記のセメント・モルタル系のものは、素地が硬いために脱型の際に樹皮状の外観を表現した複雑な突起部分や繊細な模様の部分等が壊れてしまうので、松や杉のようなほりが深く、複雑な凹凸等のある樹皮状の外観を忠実に表現した成形体が得られないし、また逆に、桜や白樺、さらに焼杉板のような表面が平滑に近いが、繊細な模様を有する樹皮の外観を忠実に表現した成形体も得られない。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、シート成形時の離型性(脱型性)が良好で、樹皮若しくは木板の外観によく似た表面外観を有し、弾性及び触感等も樹皮や木板に似ており、しかも折り曲げ抵抗性に富む樹皮状及び木板状シートを容易に成形することのできる樹皮状及び木板状シート注型成形用の組成物を提供しようとするものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明の樹皮状及び木板状シート注型成形用組成物は、(a)ガラス転移点が5 ℃以下の樹脂の水性エマルジョン100重量部(樹脂固形分量)、(b)水硬性無機質セメント粉末140〜3 00重量部、(c)発泡体粒子20〜120重量部及び(d)非水硬性無機質粉末0〜200重量部を含有してなる組成物である。 【0009】本発明の樹皮状及び木板状シート注型成形用組成物調製用の(a)ガラス転移点が5℃以下の樹脂の水性エマルジョンとしては、たとえばアクリル酸2− エチルヘキシル〔そのホモ重合体のガラス転移点が−8 5℃である(これをここでは「Tg −85℃」のように略記することとする。)〕、アクリル酸n・ブチル(Tg −54℃)、アクリル酸エチル(Tg −22 ℃)、塩化ビニリデン(Tg −18℃)、アクリル酸イソプロピル(Tg −5℃)、メタクリル酸2エチルヘキシル(Tg −5℃)、アクリル酸n・プロピル(Tg 8℃)、メタクリル酸n・ブチル(Tg 20 ℃)、酢酸ビニル(Tg 30℃)、アクリル酸(Tg 87℃)、メタクリル酸n・プロピル(Tg 81 ℃)、スチレン(Tg 100℃)、アクリロニトリル(Tg 100℃)、メタクリル酸メチル(Tg 10 5℃)、メタクリル酸(Tg 130℃)、無水マレイン酸、イタコン酸(Tg 130℃)、アクリル酸アミド(Tg 153℃)、メタクリル酸エチル(Tg 6 5℃)、塩化ビニル(Tg 79℃)、エチレン、ブタジエンなどより選ばれた不飽和単量体の1種又は2種以上を乳化重合させて得られるガラス転移点が5℃以下の、好ましくは0℃以下のホモ重合体又は共重合体のエマルジョン、さらにはこれらの重合体エマルジョンの2 種以上の混合物が用いられる。 さらに、これらのエマルジョンより製造された水再分散性の樹脂粉末を水性媒体中に再分散せしめて得た樹脂エマルジョン(俗称パウダーエマルジョン)も使用することができる。 【0010】本発明で用いられる(b)水硬性無機質セメント粉末としては、ポルトランドセメントと称されるもの(たとえば普通セメント、白色セメント、早強セメント、超早強セメントなど)、混合セメントと称されるもの(たとえば高炉セメント、シリカセメント、フイッシュアイセメントなど)、その他アルミナセメント、水硬性の石こうなどがあるが、一般的には普通セメント、 白色セメントが好ましい。 【0011】(b)水硬性無機質セメント粉末は、 (a)樹脂の水性エマルジョンの樹脂固形分100重量部に対して140〜300重量部、好ましくは160〜 240重量部使用される。 その使用割合が少なすぎると得られる樹皮状及び木板状シートは弾性が低下してくるし、樹皮表面等の複雑な凹凸などや繊細な模様等を表現できなくなるし、多すぎると得られる樹皮状シート等は硬くてもろくなり、特に水に対して著しくもろくなる。 【0012】本発明におけるれる(c)発泡体粒子としては、シラスバルーン、発泡ガラス球などのような無機発泡体粒子、発泡ポリスチレンのような有機発泡体粒子があげられるが、製品の難燃性や混和性を考慮すると無機発泡体粒子が好ましい。 発泡体粒子の配合割合は、 (a)樹脂水性エマルジョンの樹脂固形分100重量部に対して20〜120重量部、好ましくは40〜80重量部である。 その配合割合が少なすぎると、樹皮状シート等の触感、特に木のコルク質感が得られなくなるし、 樹皮状シート等成形時の硬化・乾燥時間、特に硬化後乾燥に要する時間に長時間を要し、生産性が低下する。 また、その配合割合が多くなりすぎると、樹皮シート等が硬くてもろくなる。 【0013】本発明におけるれる(d)非水硬性無機質粉末としては、たとえば炭酸カルシウム、硅砂、タルク、クレー、セラミック粒子、その他各種の無機質体質顔料、無機質着色用顔料等があげられる。 非水硬性無機質粉末は、必須成分ではないが配合するのが好ましい。 すなわち、その配合割合は、(a)樹脂水性エマルジョンの樹脂固形分100重量部に対して0〜200重量部、好ましくは80〜150重量部である。 その配合割合が多くなりすぎると、得られる樹皮状シート等が硬くてもろい、セメントモルタルの硬化物状のものとなり、 木質感が失なわれるし、特に水に浸漬すると著しく硬いものとなる。 【0014】本発明の樹皮状及び木板状シート注型成形用組成物を用いて樹皮状及び木板状シートを成形するには、その組成物を、必要に応じてさらに水を加えてから充分に混練して適度の含水状態のスラリー状にしたのち、 樹皮状や木板状の凹凸や模様を有する型(たとえばシリコーン樹脂型等を利用して樹皮から樹皮状表面のネガ模様等を形成せしめた型)の中に、そのスラリーを流し込み、上から型押しして成形したのち硬化させる。 【0015】その場合の型に流し込んだスラリー上に、 その硬化前に透水性の基布を乗せてから圧着して硬化させると、基布で裏打ちされた樹皮状シート等が得られ、 その強度を向上させることができるとともに、接着剤等で他のものに貼り合わせたり、シートを型枠にしてモルタル等を流し込み一体成形するときの接着性が向上する。 【0016】用いられる透水性の基布としては、種々の合成繊維、たとえばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの繊維のスパンボンド、不織布、雑フェルト、織布、織物等;木綿、 麻、羊毛などの織布、ガラス繊維布等があげられる。 【0017】成形する樹皮状及び木板状シートの厚さは、好ましくは2〜30mm、より好ましくは3〜15 mmである。 厚くなりすぎると、硬化・乾燥に長時間を要し、好ましくない。 また、薄すぎると、樹皮等の感触が失なわれやすい。 【0018】成形された樹皮状及び木板状シートは、さらに樹皮や木板らしさを高めたり、強度を向上させたりする目的で、その表面に適宜の粉末状の着色剤を撒布したり、着色塗料やクリヤー塗料等を塗布することができる。 粉末状の着色剤は成形シートを型から離型するための離型剤としての役割をさせるために、樹皮シート等を成型するための型に予め撒布しておくことができる。 【0019】以上のようにして製造された樹皮状及び木板状シート(以下において、「樹皮状シート」と略記することがある。)は、種々の態様で用いることができる。 たとえば、鉄パイプ、コンクリートパイル、プラスチック棒やパイプ、木材丸太、紙管等のような筒状や棒状のものに、この樹皮状シートを貼り合わせ、そのシートのつぎ目及び筒や棒の上端に、本発明の樹皮状シート成形用組成物と同じ組成物の水性スラリー(樹脂モルタル)をハケやコテを用いて充填若しくは塗布してから、 その表面に顔料粉を撒布して固化させ、さらにその上からクリヤー樹脂溶液を塗布すると、擬木が得られる。 また、円筒の内側面に樹皮状シートを設置し、その中にモルタル等を流し込んで一体化させて擬木としてもよい。 【0020】 【実施例】以下に実施例及び比較例をあげてさらに詳述する。 これらの例に記載の「部」は重量部を意味する。 【0021】実施例1 アクロナールS−400(三菱油化バーディッシェ株式会社商品名、アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂の水性エマルジョン、樹脂固形分濃度57%、樹脂のTgが0℃以下)900部、白色セメント100部、シラスバルーン(イヂチ化成株式会社商品名 ウイニライトSB−9011)20部、水15部、及び酸化鉄赤1 部を混合して充分に混練してスラリーとした。 【0022】このスラリーを、シリコーン樹脂で作成したくぬぎの樹皮外観を有する凹型に流し込み(平均湿潤厚さ5mm、最大湿潤厚さ10mm)、その上にポリエステルスパンボンド基布(三井石油化学工業株式会社商品名 シンテックスR−24、坪量69g/m 2 )を乗せ、押圧して充分に接触させた。 次いでシリコーン型面側から140℃に加熱した。 60分間加熱後脱型し、くぬぎ樹皮状の外観表面を有するシートを得た。 【0023】実施例2〜7 比較例1〜2 シート用組成物の組成、及びシート製造条件を表1及び表2にそれぞれ示したように変更し、そのほかは実施例1の方法に準じてシートを製造した。 【0024】実施例8及び9 シート用組成物の組成、及びシート製造条件を表2に示すように変更し、さらに樹皮模様型を焼杉板模様型に変え、そのほかは実施例1の方法に準じてシートを製造した。 【0025】 【表1】 【0026】 【表2】 【0027】表1〜表2の注: *1・・・ 三菱油化バーディッシェ株式会社商品名、アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂の水性エマルジョン、樹脂固形分濃度57%、樹脂のTgが0℃以下 *2・・・ イヂチ化成株式会社商品名、ウイニライトSB −9011 *3・・・ 三井石油化学工業株式会社商品名、ポリエステル製のスパンボンド(坪量69g/m 2 ) *4・・・ 三菱油化バーディッシェ株式会社商品名、アクロナールYJ−3042D、アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂の水性エマルジョン、固形分50%、 樹脂のTgが3℃ *5・・・ 三菱油化バーディッシェ株式会社商品名、アクロナールYJ−1560D、アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂の水性エマルジョン、固形分48%、 樹脂のTgが10℃ *6・・・ 三井石油化学工業株式会社商品名、ポリプロピレン製のスパンボンド(坪量40g/m 2 ) 【0028】上記実施例1〜9、及び比較例1〜3で得られた各シートについて、脱型性、折り曲げ性、弾力性、並びに20℃又は60℃の水中に浸漬後のそれぞれの場合のシート外観を調べ、評価した結果は表3に示すとおりであった。 【0029】 【表3】 【0030】表3の注: *1・・・ 硬化・乾燥のシートの離型性は下記の基準で評価した。 ○・・・ シリコーン型枠中にシート用組成物の残留物を全く残さずに簡単に離型でき、シートの表面に全く異常がない。 △・・・ その離型時にシート用組成物の一部が型枠に付着して残り、シート表面の10%以内にシートの異常が認められる。 ×・・・ 同じくシート表面の10%を越えて、シートに破れ、割れ等の異常が認められる。 【0031】*2・・・ 折り曲げ性は、樹皮状シートの表面上に直径20mmの円筒を置き、その円筒に沿ってシートを180°折り曲げたときの状態を目視により調べ、下記の基準によって評価した。 ◎・・・ シートに全く異常なし ○・・・ シートの曲げ部分が元の状態に戻るのに若干の時間がかかる △・・・ シートの曲げ部分にクセが残ったり、白化したりする。 ×・・・ シートが折れたり、クラックが入ったりする。 【0032】*3・・・ 弾力性は、樹皮状シートの裏面を上にして合板(厚さ10mm)の上に置き、2Kg/c m 2で押圧してから放圧した後の圧縮変形を調べ下記の基準によって評価した。 ◎・・・ 圧縮変形あり ○・・・ 圧縮変形が多少ある △・・・ 圧縮変形が殆んどない ×・・・ 圧縮変形が全くない 【0033】*4・・・ 外観は下記の基準で評価した。 ◎・・・ 目視で異常が認められない ×・・・ 目視でエフロレッセンスが認められる 【0034】表3から明らかなように、実施例のシートは、比較例のシートに較べて脱型性、折り曲げ性、弾性、及び水浸漬後の外観がバランスよく優れている。 【0035】 【発明の効果】本発明の樹皮状及び木板状シート注型成<br>形用組成物は、成形シートの成形時の離型性に優れ、得られるシートは折り曲げに対する抵抗性があり、弾性に富み、かつ樹皮や木板の外観を忠実に表現した樹皮や木板によく似た表面外観と触感を有しており、かつ風雨にさらされてもその外観や触感があまり変わらない。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 6識別記号 FI // B44F 9/02 B44F 9/02 (C04B 28/02 24:26 14:16 14:02) (56)参考文献 特開 昭63−315546(JP,A) 特開 平4−114943(JP,A) 特公 平1−48236(JP,B2) |