【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は飛散を防止した生石灰または軽焼ドロマイトの粉末、すなわち取扱いや使用に当って粉塵の発生が少ない粉末の製造方法に関する。 以下の記載において、「生石灰」の語をもって、生石灰と軽焼ドロマイトの両者を代表させる。 【0002】 【従来の技術】ある種のフッ素樹脂とくにポリテトラフルオロエチレンを、飛散しやすい粉体に対してフィブリル化条件下に混合することにより、粉塵の発生を効果的に抑制することが提案され(特公昭52−32877 号)、ポルトランドセメント(特公平5−24872 号)など広い分野でこの方法が利用されつつある。 フィブリル化は圧縮−剪断下に起るが、温度が高いことがもちろん望ましく、この熱源として生石灰と水との水和反応を利用し、飛散を防止した消石灰粉末を製造することなどが試みられている(特開平5−213685 号)。 【0003】フッ素樹脂は高価なものであるし、多量に配合して粉末の物性を変えることは一般に許されないから、なるべく少量で間に合わせたい。 粉末の用途や所望する飛散防止効果の程度によっても異なるが、最小0.005重量%、最大0.05重量%使用され、通常は0.01〜0.02重量%程度が適切とされている。 【0004】いうまでもないが、このような低い含有量でフッ素樹脂を粉末に均一に混合することは、原理的にきわめて困難である。 そこで、フッ素樹脂を水性ディスパージョンの形で混合することが一般に行なわれている。 水性ディスパージョンであれば、許容される限度の水量に対し、任意の低い濃度の液を用意して使用することにより、上記した低いフッ素樹脂含有量をもつ粉末を、容易に調製することができる。 【0005】従来のフッ素樹脂配合による粉末の飛散防止法は、上記のように稀釈されたフッ素樹脂水性エマルジョンを使用するため、粉体にかなりの量の水分を添加することになるため生石灰に対しては適用できないとして、顧みられなかった。 粉末に対して添加する水分の量は、生石灰の消化による消石灰の製造のような場合を別にすれば、一般に、ゼロでなければならないか、そうでないとしてもできるだけ少ない方がよい。 しかし、 ある限度までは許容されることもあり、たとえば生石灰粉末でも、消石灰の含有をパーセントのレベルで許すグレードがある。 このことに注目して、発明者らは、稀釈しない濃厚なフッ素樹脂水性ディスパージョンを使用して生石灰の飛散防止を行なうことを着想して実験の結果、予想外の好成績を得た。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、微量のフッ素樹脂の配合により飛散を防止した生石灰粉末を製造する方法であって、水性ディスパージョンを使用するが粉末に与える水分の量はわずかであり、しかも配合に過大なエネルギーを必要とすることのない製造方法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】上記の目的を達する本発明の飛散を防止した生石灰(または軽焼ドロマイト)の粉末の製造方法は、生石灰(または軽焼ドロマイト)の粉末にフッ素樹脂の水性ディスパージョンを加え、剪断力を作用させながら混合し、局部的な水和により生成した水酸化物すなわち消石灰(または消石灰および水酸化マグネシウム)の微粉末に水和反応熱によりフィブリル化したフッ素樹脂がからんだ状態のものを生石灰(または軽焼ドロマイト)の粉末中に分散させることにより、 フッ素樹脂を0.005〜0.05重量%含有する粉末を得ることを特徴とする。 【0008】フッ素樹脂のディスパージョンは、生石灰製品中に許容される水分量に応じて、水で稀釈することができる。 たとえば、フッ素樹脂添加に伴う水分量の増大が1重量%まで許容されるのであれば、固形分濃度50%の水性ディスパージョンによりフッ素樹脂0.0 2%を混合しようとする場合、ディスパージョンを最高25倍まで稀釈することができる。 【0009】一方、生石灰またはドロマイトに与える水分の量をできるだけ低く抑えたい場合は、水性ディスパージョンを稀釈しないで使用する。 この場合は、フィブリル化に粉末自体がもっている熱を利用することが望ましい。 粉末自体がもっている熱とは、石灰石またはドロマイトを焼成して生石灰または軽焼ドロマイトを製造したとき、冷却途上にあるものが保有している熱である。 この焼成品は粗粒で、通常は粉砕機が耐える温度まで冷えたところで粉砕して製品としている。 その粉砕中に、または粉砕後にフッ素樹脂の水性ディスパージョンを加えれば、余熱を利用してフィブリル化を行なうことができる。 【0010】 【作用】フッ素樹脂の水性ディスパージョンは、粒径2 0〜40μmで固形分濃度60%程度のものが市販されている。 このようなフッ素樹脂ディスパージョンまたはそれを適量の水で稀釈したものは、生石灰粉末に混合するとディスパージョン中の水分と生石灰のCaOとが直ちに水和反応してCa(OH) 2が生成する。 反応はディスパージョンに触れたCaO粒子の表面で起り、生成したCa(OH) 2は体積膨張により微粉末となってCaO 粒子表面を覆う。 水和に伴い局部的に熱が発生し、ディスパージョン中のフッ素樹脂は水を奪われるとともに熱を加えられるので、剪断的撹拌によりフィブリル化して、上記のCa(OH) 2微粉末にからみ、それらを連結したような状態になる。 【0011】ディスパージョンの量は、稀釈した場合でも生石灰粉末にくらべれば小量であるから、粒子表面がCa(OH) 2微粉末で覆われてそれらにフッ素樹脂フィブリルがからんだ状態は、すべてのCaO粒子においてみられるわけでないが、剪断的な混合により、孤立していたCaO粒子に対してもフッ素樹脂のフィブリルがからんで行くようになる。 このようにして、Ca(OH) 2微粉末をフィブリル化したフッ素樹脂がつないだネットワークの中にCaO粒子がとり込まれた状態が実現し、飛散防止が実現する。 【0012】水和反応の熱を利用する上で、水性ディスパージョン中の水分の形で生石灰に与える水の量は、適切にえらぶことが望ましい。 そこで、実際に使用するフッ素樹脂の水性ディスパージョン濃度は、製品生石灰中のフッ素樹脂濃度と粉末への添加が許容される水分の量を考え合わせて、決定する。 水性ディスパージョンに水を加えてうすめることは、とくに問題なく行なえる。 一例を挙げれば、固形分濃度6%のフッ素樹脂水性ディスパージョン(たとえば60%のものを10倍に稀釈して得られる)1gを生石灰CaO299gに混合した場合、フッ素樹脂添加量は0.06g(0.02 %)となり、このときディスパージョン中の水分が蒸発などのロスなしにCaOと反応したと仮定すると、反応にかかわるCaOは2.92g(全体の0.97%)、 生成するCa(OH) 2は3.87g(1.29%)である。 【0013】 【実施例】 〔実施例1〕下記の粒度分布(累積重量%)をもった生石灰粉末を用意した:10%粒径 0.9μm,50%粒径 24.5μm,90%粒径 73.2μm フッ素樹脂の水性ディスパージョンである「ポリフロン」TFEディスパージョン(ダイキン工業)D−1 (固形分濃度60%)を水で10倍に稀釈したもの1重量部を、上記の生石灰粉末299重量部に加え、ファインミキサー(ドラム内に低速で逆方向に回転する一対の撹拌羽根を有する構造)中で、剪断力を加えながら混合した。 これにより、フィブリル化したフッ素樹脂0. 02重量%を含有する生石灰粉末を得た。 【0014】この粉末の飛散性を、つぎのように試験した。 すなわち、内寸が34cm×34cmの正方形で長さが200cmの風洞を横に置いて、その一端から送風機で風を送り、他端においてベルトコンベアから落下する粉末を吹きとばし、落下位置に34cm×34cmの受板を置き、この板の外に飛ばされて落ちた粉末の量を「飛散率(%)」であらわす。 未処理のものおよびフッ素樹脂添加による飛散防止処理をしたものの飛散率は、それぞれ56.7%および2.7%であった。 【0015】〔実施例2〕軽焼ドロマイトを粉砕して、 下記の粒度分布の粉末を得た:10%粒径 1.3μm,5 0%粒径 29.0μm,90%粒径 81.3μm 実施例1で用いたものと同じフッ素樹脂の水性ディスパージョンを水で20倍に稀釈したもの1重量部を、上記の粉末199重量部に対して徐々に加え、化学ミキサーで剪断力を加えながら混合した。 フッ素樹脂0.01 5重量%をフィブリル化した状態で含有する軽焼ドロマイト粉末が得られた。 前記した方法で測定した飛散率は、未処理のもの53.9%、処理したもの3.5%であった。 【0016】 【発明の効果】本発明に従い、生石灰または軽焼ドロマイトの粉末にフッ素樹脂の水性ディスパージョンを剪断力を作用させながら混合することにより、全体として水分量の添加または増加が僅小で、かつエネルギーの消費も少ない条件で、飛散防止をした生石灰または軽焼ドロマイトの粉末を製造することができる。 |