熱延鋼板

申请号 JP2016534425 申请日 2015-07-13 公开(公告)号 JPWO2016010005A1 公开(公告)日 2017-04-27
申请人 新日鐵住金株式会社; 发明人 洋志 首藤; 洋志 首藤; 龍雄 横井; 龍雄 横井; 前田 大介; 大介 前田; 栄作 桜田; 栄作 桜田; 武 豊田; 武 豊田;
摘要 本発明の熱延鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.03〜0.2%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.03%以下、Al+Si:0.2〜3.0%、N:0を超え0.01%以下、O:0を超え0.01%以下、残部:鉄および不純物であり、ミクロ組織が、フェライトを主体とし、面積分率で、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相が3%以上20%未満であり、板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものが60%以上を占め、板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さが20μm未満であり、フェライト粒の平均アスペクト比が5未満であり、圧延方向から見た 方位および 方位のX線ランダム強度比の和が3.5以上であり、かつ圧延方向から見た 方位のX線ランダム強度比が1.0以下である。
权利要求
  • 化学組成が、質量%で、
    C:0.03〜0.2%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    P:0.10%以下、
    S:0.03%以下、
    Al+Si:0.2〜3.0%、
    N:0%を超え、0.01%以下、
    O:0%を超え、0.01%以下、
    Ti:0〜0.3%、
    Nb:0〜0.3%、
    Mg:0〜0.01%、
    Ca:0〜0.01%、
    REM:0〜0.1%、
    B:0〜0.01%、
    Cu:0〜2.0%、
    Ni:0〜2.0%、
    Mo:0〜1.0%、
    V:0〜0.3%、
    Cr:0〜2.0%、
    残部:鉄および不純物であり、
    ミクロ組織が、フェライトを主体とし、面積分率で、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相が3%以上20%未満であり、
    板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものが60%以上を占め、
    板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さが20μm未満であり、
    フェライト粒の平均アスペクト比が5未満であり、
    圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和が3.5以上であり、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比が1.0以下である、熱延鋼板。
  • 質量%で、Ti:(0.005+48/14[N]+48/32[S])%以上0.3%以下、Nb:0.01〜0.3%から選択される一種以上を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
    ただし、[N]はNの含有量(質量%)、[S]はSの含有量(質量%)を意味する。
  • 質量%で、Mg:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.1%から選択される一種以上を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
  • 質量%で、B:0.0002〜0.01%を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
  • 質量%で、Cu:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、Mo:0.01〜1.0%、V:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜2.0%から選択される一種以上を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
  • 表面に溶融亜鉛めっき層、または合金化亜鉛めっき層を有する、請求項1に記載の熱延鋼板。
  • 说明书全文

    本発明は、熱延鋼板に関する。

    従来、自動車車体の軽量化を目的として、足回り部品または車体の構造用部品に高強度鋼板が多く使われている。 自動車の足回り部品には、切り欠きの無い材料の疲労特性および切り欠き疲労特性が要求されるが、従来の高強度鋼板では、これらの性能が不十分であり、部品の板厚を減少させられないという問題があった。

    切り欠きの無い材料の疲労特性を向上させるには、組織を微細化させることが有効である。 例えば、特許文献1および特許文献2には、熱延のままで平均粒径2μm未満の超微細フェライト粒を有する熱延鋼板が記載されており、この鋼板は、延性、靭性、疲労強度などに優れ、これらの特性の異方性が小さいとされている。 また、疲労き裂は、表面近傍から発生するため、表面近傍の組織を微細化することも有効である。 特許文献3には、ポリゴナルフェライトの平均結晶粒径が板厚中心から表層に向かい漸次小さくなる結晶粒径傾斜組織を有する熱延鋼板が記載されている。 更に、マルテンサイト組織の細粒化も疲労特性の向上に有効である。 特許文献4には、ミクロ組織の面分率の80%以上がマルテンサイトであり、マルテンサイト組織の平均ブロック径が3μm以下であり、かつ最大ブロック径が平均ブロック径の1倍以上3倍以下である機械構造鋼管が記載されている。 しかし、細粒化は切り欠きの無い材料の疲労特性を向上させるものの、き裂伝播速度の遅延効果がなく、切り欠き疲労特性の向上には寄与しない。

    切り欠き疲労特性の向上については、複合組織化によるき裂伝播速度の低減が効果的であることが報告されている。 特許文献5では、微細なフェライトを主相とした組織中に硬質なベイナイトまたはマルテンサイトを分散させることで、切り欠きの無い材料の疲労特性と切り欠き疲労特性を両立させている。 特許文献6および7では、複合組織中のマルテンサイトのアスペクト比を上げることでき裂伝播速度を低減できることが報告されている。

    特開平11−92859号公報

    特開平11−152544号公報

    特開2004−211199号公報

    特開2010−70789号公報

    特開平04−337026号公報

    特開2005−320619号公報

    特開平07−90478号公報

    特許文献5には、プレス成型性を向上させるための手法が記載されておらず、ベイナイトおよびマルテンサイトの硬度および形状に格別の注意を払っていないため、良好なプレス成型性を備えていないと考えられる。

    特許文献6および7には、プレス成型を行う際に必要となる延性および穴広げ性等の加工性について考慮されていない。

    本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、圧延方向の疲労特性および加工性に優れた熱延鋼板を提供することにある。

    本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ね、高強度熱延鋼板の化学組成および製造条件を最適化し、鋼板のミクロ組織を制御することによって、圧延方向の疲労特性および加工性に優れた鋼板の製造に成功した。 本発明の要旨は、以下のとおりである。

    (1)
    化学組成が、質量%で、
    C:0.03〜0.2%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    P:0.10%以下、
    S:0.03%以下、
    Al+Si:0.2〜3.0%、
    N:0%を超え、0.01%以下、
    O:0%を超え、0.01%以下、
    Ti:0〜0.3%、
    Nb:0〜0.3%、
    Mg:0〜0.01%、
    Ca:0〜0.01%、
    REM:0〜0.1%、
    B:0〜0.01%、
    Cu:0〜2.0%、
    Ni:0〜2.0%、
    Mo:0〜1.0%、
    V:0〜0.3%、
    Cr:0〜2.0%、
    残部:鉄および不純物であり、
    ミクロ組織が、フェライトを主体とし、面積分率で、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相が3%以上20%未満であり、
    板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものが60%以上を占め、
    板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さが20μm未満であり、
    フェライト粒の平均アスペクト比が5未満であり、
    圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和が3.5以上であり、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比が1.0以下である、熱延鋼板。

    (2)
    質量%で、Ti:(0.005+48/14[N]+48/32[S])%以上0.3%以下、Nb:0.01〜0.3%から選択される一種以上を含む、上記(1)の熱延鋼板。
    ただし、[N]はNの含有量(質量%)、[S]はSの含有量(質量%)を意味する。

    (3)
    質量%で、Mg:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.1%から選択される一種以上を含む、上記(1)の熱延鋼板。

    (4)
    質量%で、B:0.0002〜0.01%を含む、上記(1)の熱延鋼板。

    (5)
    質量%で、Cu:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、Mo:0.01〜1.0%、V:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜2.0%から選択される一種以上を含む、上記(1)の熱延鋼板。

    (6)
    表面に溶融亜鉛めっき層、または合金化亜鉛めっき層を有する、上記(1)の熱延鋼板。

    本発明によれば、圧延方向の疲労特性と加工性に優れた熱延鋼板を提供することができる。 本発明は板厚8mm以下の鋼板に好適に利用できる。 本発明に係る熱延鋼板は、自動車用材料の足回り部品などの疲労寿命を延ばすことが可能となるため、産業上の貢献が顕著である。

    図1は、疲労試験に用いる試験片の形状および寸法を示す模式図であり、図1(a)は切り欠きが無い場合の疲労強度を測定する試験片の平面図および正面図を示し、図1(b)は切り欠きを有する場合の疲労強度を測定する試験片の平面図および正面図を示す。

    1. 熱延鋼板のミクロ組織 1−1. 熱延鋼板を構成する各相の面積分率 本発明の熱延鋼板は、フェライトを主体とし、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相が面積分率で3%以上20%未満存在することを要する。 ミクロ組織を主相であるフェライト中に第二相として硬質相を配した複合組織とすれば、フェライトが延性を向上させ、硬質相が強度を向上させるため、強度と延性のバランスが良好な鋼板となる。 更に、硬質相はフェライト中の疲労き裂伝播の障害となり、疲労き裂伝播速度を低減する効果があるので、上記の複合組織を有する鋼板は、打抜き疲労特性に優れる。 このことから、本発明の熱延鋼板は、フェライトを主体とし、第二相としてマルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相を分配したミクロ組織とすることとした。 フェライトが主体とは、熱延鋼板中の主相となるフェライトの面積分率が最も高いことを意味する。 フェライトの面積分率は70〜97%が好ましい。

    硬質相による疲労き裂伝播抑制効果は、硬質相の面積分率が3%以上で発現する。 一方、硬質相の面積分率が20%以上となると、硬質相がボイドと呼ばれる欠陥の起点となって穴広げ率を低下させ、自動車の足廻り部品に必要とされる、「(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000」を満たさなくなる。 よって、マルテンサイトまたはオーステナイトで構成される硬質相を、フェライトを主体とするミクロ組織中に面積分率で3%以上20%未満存在させることとした。 硬質相は、面積分率で5%以上存在させるのが好ましく、7%以上存在させるのがより好ましい。

    1−2. 板厚中央部に存在する硬質相のアスペクト比 次に、板厚中央部に存在する硬質相のアスペクト比について説明する。 打抜き疲労試験を軸疲労試験で行った際には板厚中央部から疲労き裂が発生し、き裂が板厚方向に伝播することで破断に至る。 このとき、き裂の発生と初期の伝播を抑制するには、板厚中央部の硬質相の形態が特に重要である。

    硬質相のアスペクト比は、(硬質相の長軸の長さ/硬質相の短軸の長さ)で定義される。 本発明の熱延鋼板において「硬質相の長軸の長さ」は「鋼板の圧延方向における硬質相の長さ」とし、「硬質相の短軸の長さ」は「鋼板の厚さ方向における硬質相の長さ」とする。 硬質相のアスペクト比が大きいほど、疲労き裂伝播の障害になる硬質相にき裂が当たる頻度が増えるのに加え、き裂の迂回・分岐距離が増大することから、疲労き裂伝播速度低下に有効である。 ここで、アスペクト比が3未満の硬質相は、き裂が硬質相に当たった際の迂回・分岐距離が小さいため、き裂伝播抑制効果は小さい。 このため、アスペクト比が3以上の硬質相を増加させるのが有効である。 よって、本発明の熱延鋼板では、板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものが60%以上を占めることとした。 板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものの存在比率は80%以上とすることが好ましい。

    1−3. 板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さ 板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さについて説明する。 フェライトと硬質相からなる複合組織鋼が変形する際には、軟質なフェライト側が優先的に塑性変形するため、変形に伴って硬質相が担う応が増大し、フェライト・硬質相界面には大きなひずみが生じる。

    硬質相が担う応力、またはフェライト・硬質相界面のひずみが一定以上になるとボイドと呼ばれる欠陥が鋼中に生じ、このボイドが連結することにより破断に至る。 ボイドが発生し易い材料は、局部変形に弱く、穴広げ性が低い。

    硬質相が圧延方向に伸びていると、変形時の応力およびひずみが硬質相に集中し、早期にボイドが発生するため、穴広げ性が劣化し易い。 また、表層部と比較して板厚中央部は塑性拘束が強く、ボイドが発生し易い傾向にあるため、板厚中央部の硬質相の長さは特に重要である。

    本発明者らの検討によれば、板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さを20μm未満に制御することで、ボイドの発生を抑制でき、自動車の足廻り部品に必要とされる、(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を達成できる。 そのため、本発明の熱延鋼板では、板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さを20μm未満と規定した。 板厚中央部の硬質相の圧延方向の長さは、18μm未満が好ましい。

    硬質相は、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される。 すなわち、マルテンサイトのみからなる硬質相、オーステナイトのみからなる硬質相、マルテンサイトとオーステナイトの両方からなる硬質相の3形態がある。 また硬質相は、単一の粒(マルテンサイト粒またはオーステナイト粒)からなる場合もあるし、複数の粒が集合して一体的に硬質相を構成する場合もある。 複数の粒が集合した硬質相には、複数のマルテンサイト粒の集合体、複数のオーステナイト粒、単一または複数のマルテンサイト粒と単一または複数のオーステナイト粒の集合体の場合がある。

    1−4. フェライト粒のアスペクト比 フェライト粒の平均アスペクト比について説明する。 フェライト粒のアスペクト比は、(フェライト粒の長軸の長さ/フェライト粒の短軸の長さ)で定義される。 本発明の熱延鋼板において「フェライト粒の長軸の長さ」は「鋼板の圧延方向におけるフェライト粒の長さ」とし、「フェライト粒の短軸の長さ」は「鋼板の厚さ方向におけるフェライト粒の長さ」とする。 オーステナイト域で仕上圧延を終了した場合には、フェライト粒の平均アスペクト比は5未満となる。 一方、最終段圧延温度が低く、オーステナイトとフェライトの二相域で圧延した場合には、フェライト粒が圧延方向に延伸するため、フェライト粒の平均アスペクト比は5以上となる。 フェライト粒の平均アスペクト比は5以上である場合、フェライト粒が加工硬化するため鋼板の延性が低下し、(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000を満たすことができない。 そのため、本発明の熱延鋼板では、フェライト粒の平均アスペクト比を5未満とすることとした。

    1−5. X線ランダム強度比 X線ランダム強度比について説明する。 切り欠きの無い材料の疲労寿命は、疲労き裂が発生するまでの寿命に大きく影響を受ける。 疲労き裂の発生は、(1)転位組織の飽和、(2)突き出し・入り込みの形成、(3)疲労き裂の形成、という3段階の過程を経ることが知られている。

    今回、本発明者らが鋭意検討した結果、疲労試験時の応力負荷方向の結晶方位を適切に制御し、X線ランダム強度比を所定の条件を満たすようにすることで、3段階の過程のうち(1)の転位組織の飽和を遅らせることができ、切り欠きの無い材料の圧延方向の疲労寿命を向上させられることが見出された。 以下にそのメカニズムを説明する。

    鉄の結晶構造は体心立方構造(body-centered cubic、b.c.c.構造)であり、働くすべり系は{110}<111>系、{112}<111>系、{123}<111>系の42個であると言われている。 結晶方位の表記については後述する。 多結晶の場合、結晶方位によって変形し易さが異なり、変形の難易度はテイラー因子によって決定される。 テイラー因子は(F)式で定義される値である。
    dΣΓ =Mdε・・・(F)
    ただし、Γ はすべり系iのすべりの量、ΣΓ は活動したすべり全体のすべり量の総和、Mはテイラー因子、εは全体の塑性ひずみ量をそれぞれ意味する。

    テイラー因子が小さいほど、各すべり系のすべり量の総和が小さくとも全体の塑性ひずみ量が大きくなるため、小さいエネルギーで塑性変形できる。 テイラー因子は応力負荷方向に対する結晶方位で変化するため、テイラー因子が小さい方位の結晶粒は変形し易く、テイラー因子が大きい方位の結晶粒は変形しにくい。

    研究者らの計算により、b. c. c. 金属において上述の42個のすべり系を仮定すると、<001>方位、<011>方位および<111>方位を引張変形させた時のテイラー因子の値はそれぞれ2.1、3.2および3.2であり、<001>方位が最も変形し易く、転位組織の形成が早いことが知られている。 一方、<011>方位、<111>方位は変形しにくいため、転位組織の形成が遅い。 すなわち、応力負荷方向に対して<001>方位を向いている結晶粒は疲労き裂の発生寿命が短く、<011>方位、<111>方位を向いている結晶粒は疲労き裂の発生寿命が長い。

    本発明者らが検討したところ、圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和を3.5以上、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度を1.0以下に制御することで、圧延方向の疲労特性が(疲労限)/(引張強さ)が0.55以上の良好な値となることを知見した。 ここでいう「疲労限」とは、後述する切り欠きの無い疲労試験片で得られた1000万回時間強度である。

    この知見に基づき、本発明の熱延鋼板では、圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和を3.5以上とし、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比を1.0以下とすることとした。 圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和は、4.0以上であることが好ましい。 また、圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比は、0.8以下であることが好ましい。

    1−6. 熱延鋼板のミクロ組織、X線ランダム強度の測定方法 (1)フェライトと硬質相の面積分率の測定方法

    以上のような本発明の熱延鋼板の組織を構成するフェライトマルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される硬質相の面積分率は、鋼板の幅方向に垂直な断面を観察面として採取した試料を用いて測定する。 試料は観察面を研磨し、ナイタールエッチングする。 ナイタールエッチングした観察面の、板厚の1/4厚(鋼板の表面から鋼板の厚さ方向に鋼板の厚さの1/4の位置を意味する。以下同様。)、3/8厚、および1/2厚の範囲をFE−SEMで観察する。

    各試料の観察対象範囲について、1000倍の倍率で10視野観察し、各視野においてフェライトと硬質相の占める面積の割合を測定する。 硬質相の面積はマルテンサイトとオーステナイトの合計の面積である。 そして、フェライトと硬質相の占める面積の割合の全視野の平均値を、フェライトと硬質相の面積率とする。

    (2)板厚中央部に存在する硬質相のアスペクト比および圧延方向の長さ、フェライト相のアスペクト比 板厚中央部に存在する硬質相のアスペクト比および圧延方向の長さは、上述の試料中の板厚の1/2厚に位置する硬質相について求める。 上述の試料中の板厚1/2厚に位置する硬質相を、FE−SEMを用いて50個以上観察し、各硬質相の鋼板圧延方向の長さおよび鋼板厚さ方向の長さを測定する。 これらの長さの測定結果から、各硬質相のアスペクト比を算出する。 観察した硬質相のうち、アスペクト比が3以上のものの割合を算出する。 また、観察した硬質相の圧延方向の長さの平均値を板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さとする。

    板厚中央部とは、鋼板の表面から鋼板の厚さ方向に鋼板の厚さの1/2の位置である。 例えば板厚中央部において50μm×200μmの視野範囲内にある硬質相を任意に50個選択して、各硬質相の圧延方向の長さおよび鋼板厚さ方向の長さを測定する。 測定精度を高めるためには、任意に50個選択する代わりに、視野範囲内にある硬質相の全部について圧延方向の長さおよび厚さ方向の長さを測定しても良い。

    フェライト粒の平均アスペクト比は、上述の試料中の板厚の1/4厚から1/2厚に位置するフェライト粒について求める。 上述の試料中の板厚の1/4厚から1/2厚に位置するフェライト粒を、FE−SEMで50個以上観察し、各フェライト粒の鋼板圧延方向の長さおよび鋼板厚さ方向の長さを測定する。 これらの長さの測定結果から、各フェライト粒のアスペクト比を算出し、観察したフェライト粒のアスペクト比の平均値をフェライト粒の平均アスペクト比とする。

    (3)X線ランダム強度比 圧延方向から見た<001>方位、<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比は、X線回折によって測定される逆極点図から求めればよい。 X線ランダム強度比とは、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。

    ここで、熱延鋼板について、結晶の方位は通常、板面に垂直な方位を[hkl]または{hkl}、圧延方向に平行な方位を(uvw)または<uvw>で表示する。 {hkl}、<uvw>は等価な面の総称であり、[hkl]、(uvw)は個々の結晶面を指す。 本発明においてはb. c. c. 構造であるフェライトを主体とする熱延鋼板を対象としているため、例えば(111)、(−111)、(1−11)、(11−1)、(−1−11)、(−11−1)、(1−1−1)、(−1−1−1)面は等価であり区別がつかない。 このような場合、これらの方位を総称して<111>と称する。 なお、結晶学では方位について「−1」は正式には「1」の上に「−」を付して表記するが、ここでは記載の制約上「−1」と表記する。

    X線回折用試料の作製は次のようにして行う。 鋼板の圧延方向断面(圧延方向に対して垂直な断面)を機械研磨や化学研磨などによって研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨などによって歪みを除去する。 X線回折の範囲は板厚全体とする。 全体を一度に計測できない場合には板厚方向を数視野に分けて測定し、それらの結果を平均して求めてもよい。 また、X線回折による測定が困難な場合には、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法やECP(Electron Channeling Pattern)法などにより統計的に十分な数の測定を行い、各方位のX線回折ランダム強度比を求めてもよい。

    2. 鋼板の化学組成 本発明の熱延鋼板の化学組成は次の元素を含有する。 以下では、これらの元素の含有量の限定理由も併せて説明する。 元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。

    C:0.03〜0.2%
    炭素(C)は本発明において重要な元素の一つである。 Cはマルテンサイトを生成させオーステナイトを安定化させるため、組織強化による熱延鋼板の強度向上に寄与するだけでなく、き裂伝播を抑制する効果がある。 ただし、C含有量が0.03%未満では所定の硬質相の面積分率を確保できないため、打抜き疲労特性の向上効果が確認できない。 一方、0.2%を超えて含有させると、第二相である硬質相を構成する低温変態生成物の面積分率が過剰となり穴広げ性が低下する。 したがって、C含有量は0.03%〜0.2%とする。 C含有量の下限は、0.06%とするのが好ましく、上限は0.18%とするのが好ましい。

    Mn:0.1〜3.0%
    マンガン(Mn)は、固溶強化に加え、焼入れ性を高め鋼板組織中にマルテンサイトまたはオーステナイトを生成させるために含有させる。 Mn含有量が3%超となるように含有させてもこの効果が飽和する。 一方、Mn含有量が0.1%未満では、冷却中のパーライトおよびベイナイトの生成抑制効果を発揮しにくい。 したがって、Mn含有量は0.1〜3.0%とする。 Mn含有量の下限は、0.3%とするのが好ましく、上限は2.5%とするのが好ましい。

    P:0.10%以下 リン(P)は、溶銑に含まれている不純物であり、粒界に偏析し、含有量の増加に伴い低温靭性を低下させる元素である。 このため、P含有量は、低いほど好ましい。 また、Pを0.10%超含有すると加工性および溶接性に悪影響を及ぼす。 したがって、P含有量は0.10%以下とする。 特に、溶接性を考慮すると、P含有量の上限は、0.03%が好ましい。

    S:0.03%以下 硫黄(S)は、溶銑に含まれている不純物であり、含有量が多すぎると、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、穴広げ性を劣化させるMnSなどの介在物を生成させる元素である。 このためSの含有量は、極力低減させるべきである。 しかし、0.03%以下ならば許容できる範囲である。 したがって、S含有量は0.03%以下とする。 ただし、ある程度の穴広げ性を必要とする場合には、S含有量の上限は、0.01%が好ましく、0.005%がより好ましい。

    Si+Al:0.2〜3.0%
    ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)はいずれも本発明において重要な元素の一つである。 SiおよびAlは鉄中の{112}<111>すべりを抑制し、転位組織形成を遅延させることにより疲労き裂の発生寿命を向上させる効果がある。 この効果はSiおよびAlの合計含有量(Si+Al)が0.2%以上で得られ、0.5%以上で顕著である。 また、3.0%を超えて含有させても効果が飽和し経済性が悪化する。 したがって、Si+Alは0.2〜3.0%とする。 Si+Alの下限は、0.5%とするのが好ましい。 なお、本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(所謂「sol.Al」)を指す。 SiとAlは、どちらか一方のみを0.2〜3.0%含有しても良いし、SiとAlの両方を合計で0.2〜3.0%含有しても良い。

    N:0%を超え、0.01%以下 窒素(N)は、鋼中にTiNとして存在することで、スラブ加熱時の結晶粒径の微細化を通じて、低温靭性向上に寄与する元素である。 そのため、含有させてもよい。 ただし、Nを0.01%よりも多く含有させることにより、鋼板の溶接時にブローホールを形成させ、溶接部の継ぎ手強度を低下させる懸念がある。 したがって、N含有量は0.01%以下とする。 一方、N含有量を0.0001%未満とすることは経済的に好ましくない。 そのため、N含有量の下限は、0.0001%以上とするのが好ましく、0.0005%とするのがより好ましい。

    O:0%を超え、0.01%以下 酸素(O)は、酸化物を形成し、成形性を劣化させることから、含有量を抑える必要がある。 特に、O含有量が0.01%を超えると、成形性の劣化傾向が顕著となる。 したがって、O含有量は0.01%以下とする。 一方、O含有量を0.001%未満とすることは経済的に好ましくない。 そのため、O含有量の下限は、0.001%以上とするのが好ましい。

    Ti:0〜0.3%
    Nb:0〜0.3%
    チタン(Ti)は、優れた低温靭性と析出強化による高強度を両立させる元素である。 そのため、必要に応じてTiを含有させてもよい。 Tiの炭窒化物、または固溶Tiが熱間圧延時の粒成長を遅延させるため、熱延鋼板の粒径を微細化でき、低温靭性向上に寄与する。 しかし、Ti含有量が0.3%を超えると上記効果は飽和して経済性が低下する。 したがって、Ti含有量は0〜0.3%とする。 また、Ti含有量が(0.005+48/14[N]+48/32[S])%未満であると上記効果を十分に得ることができないおそれがある。 そのため、Ti含有量は、0.005+48/14[N]+48/32[S](%)以上0.3%以下が好ましい。 ここで、[N]および[S]はそれぞれN含有量(%)およびS含有量(%)である。 さらに、Ti含有量が0.15%を超えると鋳造時にタンディッシュノズルが詰まりやすくなる恐れがある。 そのため、Ti含有量の上限は、0.15%とするのが好ましい。

    ニオブ(Nb)は、熱延鋼板の低温靭性を向上させる元素である。 そのため、必要に応じてNbを含有させてもよい。 Nbの炭窒化物、または固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延することで、熱延鋼板の粒径を微細化でき、低温靭性向上に寄与する。 しかし、Nb含有量が0.3%を超えて含有させても上記効果は飽和して経済性が低下する。 したがって、Nb含有量は0〜0.3%とする。 また、Nb含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができないおそれがある。 そのため、Nb含有量の下限は、0.01%とするのが好ましく、上限は0.1%とするのが好ましい。

    Mg:0〜0.01%
    Ca:0〜0.01%
    REM:0〜0.1%
    マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)および希土類元素(REM)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。 そのため、必要に応じてこれらのいずれか1種以上を含有させてもよい。 しかし、0.01%を超えるMg、0.01%を超えるCa、または、0.1%を超えるREMを含有させても上記効果は飽和して経済性が低下する。 したがって、Mg含有量は0〜0.01%、Ca含有量は0〜0.01%、REM含有量は0〜0.1%とする。 Mg、CaおよびREMは、それぞれの含有量が0.0005%以上となるように含有させることで上記効果が顕著になる。 そのため、Mg含有量の下限は0.0005%、Ca含有量の下限は0.0005%、REM含有量の下限は0.0005%がそれぞれ好ましい。 なお、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計量を意味する。

    B:0〜0.01%
    Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる元素である。 そのため、必要に応じて鋼板に含有させてもよい。 しかしながら、B含有量が0.01%を超えると上記効果が飽和するばかりでなく、経済性に劣る。 したがって、B含有量は0〜0.01%とする。 また、上記効果は、鋼板のB含有量が0.0002%以上となると顕著となる。 そのため、B含有量の下限は、0.0002%が好ましく、0.0005%がより好ましい。 B含有量の上限は、0.005%が好ましく、0.002%がより好ましい。

    Cu:0〜2.0%
    Ni:0〜2.0%
    Mo:0〜1.0%
    V:0〜0.3%
    Cr:0〜2.0%
    銅(Cu)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)およびクロム(Cr)は、析出強化もしくは固溶強化により熱延鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。 そのため、必要に応じてこれらの元素のいずれか1種以上を含有させてもよい。 しかし、Cu含有量が2.0%を超え、Ni含有量が2.0%を超え、Mo含有量が1.0%を超え、V含有量が0.3%を超え、Cr含有量が2.0%を超えて含有させても上記効果は飽和して経済性が低下する。 したがって、Cu含有量は0〜2.0%、Ni含有量は0〜2.0%、Mo含有量は0〜1.0%、V含有量は0〜0.3%、Cr含有量は0〜2.0%とする。 また、Cu、Ni、Mo、VおよびCuは、それぞれの含有量が0.01%未満では上記効果を十分に得ることができない。 そのため、Cu含有量の下限は0.01%が好ましく、0.02%がより好ましい。 Ni含有量の下限は0.01%、Mo含有量の下限は0.01%、V含有量の下限は0.01%、Cr含有量の下限は0.01%がそれぞれ好ましい。 また、Cu含有量の上限は1.2%、Ni含有量の上限は0.6%、Mo含有量の上限は0.7%、V含有量の上限は0.2%、Cr含有量の上限は1.2%がそれぞれ好ましい。

    以上が本発明の熱延鋼板の基本的な化学組成である。 本発明の熱延鋼板の化学組成の残部は、鉄および不純物からなる。 なお、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。

    なお、上記の元素以外の元素として、鉄の一部に代えて、Zr、Sn、Co、ZnおよびWの1種以上を合計で1%以下含有させても本発明の熱延鋼板の優れた圧延方向の疲労特性および加工性は損なわれないことを確認している。 これらの元素のうちSnは、熱間圧延時に疵が発生する恐れがあるのでSn含有量の上限は0.05%が好ましい。

    以上のような組織と組成を有する本発明の熱延鋼板は、表面に溶融亜鉛めっき処理による溶融亜鉛めっき層、さらには、めっき後合金化処理をして合金化亜鉛めっき層を備えたものとすることで、耐食性を向上することができる。 また、めっき層は、純亜鉛に限るものでなく、Si、Mg、Al、Fe、Mn、Ca、Zr等の元素を含有させ、更なる耐食性の向上を図ってもよい。 このようなめっき層を備えることにより、本発明の熱延鋼板の優れた打抜き疲労特性および加工性を損なうものではない。

    また、本発明の熱延鋼板は、有機皮膜形成、フィルムラミネート、有機塩類/無機塩類処理、ノンクロ処理等による表面処理層の何れを有していても本発明の効果が得られる。

    3. 本発明の熱延鋼板の製造方法 前述のミクロ組織を有する熱延鋼板が得られるのであれば、その製造方法は特に制約がないが、たとえば、以下の工程[a]〜[h]を備える製造方法によれば、本発明の熱延鋼板を安定して得ることができる。 以下では各工程の詳細を一例として説明する。

    [a]スラブ鋳造工程 熱間圧延に先行するスラブの製造方法は特に限定するものではない。 すなわち、高炉や電炉などによる鋼の溶製に引き続き、各種の2次製錬を行って上述した化学組成となるように調整し、次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法でスラブを鋳造すればよい。 その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップを使用しても構わない。

    [b]スラブ加熱工程 鋳造されたスラブは、熱間圧延に当たり所定の温度に加熱される。 連続鋳造の場合には一旦低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、特に冷却することなく連続鋳造に引き続き、直接加熱して熱間圧延してもよい。 スラブの加熱時間は、(A)式で規定する時間t 1 (s)以上とする。
    1 (s)=1.4×10 -6 ×Exp{3.2×10 4 /(T 1 +273)}・・・(A)
    ただし、T 1 (℃):均熱帯におけるスラブの平均温度である。

    加熱時間をこのように規定した理由は以下の通りである。 鋳造後のスラブの組織中では、スラブの中央にMnの偏析が存在する。 そのため、スラブの加熱が十分でない場合、圧延により得られた熱延鋼板の板厚中央部にMnの偏析が残る。 Mnはオーステナイトを安定化させるため、圧延後の冷却中にMn偏析に沿ってオーステナイトが残留し易い領域ができる。 よって、低温でオーステナイトから変態したマルテンサイトまたは残留したオーステナイトが、Mn偏析に沿って存在し易くなり、熱延鋼板の板厚中央部の硬質相の圧延方向の長さを増大させる。

    本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、硬質相の圧延方向の長さを20μm以下とするには、スラブの加熱時間を(A)式で規定される時間t 1 (s)以上とする必要があることを知見した。 スラブの加熱時間を十分に長くすることにより、Mnの拡散を促進でき、硬質相の圧延方向の長さを低減できたものと考えられる。 スラブ加熱温度の上限は特に定めなくても本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくない。 このことから、スラブ加熱温度は1300℃未満とすることが好ましい。 また、スラブ加熱温度の下限は1150℃とするのが好ましい。 スラブの加熱時間は、加熱開始からの経過時間ではなく、スラブを所定の加熱温度(例えば1150℃以上、1300℃未満の温度)に保持している時間である。

    [c]粗圧延工程 スラブ加熱工程の後は、加熱炉より抽出したスラブに対して特に待つことなく熱間圧延の粗圧延工程を開始し粗バーを得る。 粗圧延工程においては、粗圧延中の合計圧下率を50%以上とし、かつ粗圧延中に2回以上、好ましくは3回以上スラブ表層を下記(B)式で表わされるAr 3変態点以下に冷却する。 具体的には、粗圧延工程を多パス熱間圧延とし、先のパスを経たスラブの表層をAr 3変態点以下に一旦冷却し、Ar 3変態点よりも高い温度に復熱させる。 表層が復熱したスラブを後のパスで圧延し、スラブの表層をAr 3変態点以下に再び冷却する。 この過程を繰り返す。 なお、本発明におけるスラブ表層の温度とは、スラブ表面から深さ方向に1mmの部分におけるスラブの温度であり、例えば伝熱計算から推測可能である。 スラブ最表面のみでなく、スラブ内部の温度をAr 3点以下に冷却することで、複熱の効果が大きくなる。
    Ar 3 (℃)=901−325×C+33×Si+287×P+40×Al−92×(Mn+Mo+Cu)−46×Ni ・・・ (B)
    ただし、各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

    粗圧延条件を以上のように規定した理由は次のとおりである。 圧延方向の疲労特性が良好な熱延鋼板を得る本発明の効果を得るには、熱延鋼板において、圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和が3.5以上であり、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比が1.0未満であることが必須である。 このように結晶方位を制御するには、鋼板に剪断力を作用させることにより、<011>方位および<111>方位をなるべく強く、板厚の中心に近い部分まで発達させることが重要である。 通常、粗圧延中の剪断力の作用によって形成される組織の影響は、粗圧延後の再結晶によって排除されてしまう。 しかし、本発明者らの検討によると、粗圧延中に一旦スラブ表層をAr 3変態点以下に冷却することで、粗圧延中の組織が最終組織に好ましい影響を及ぼすことが明らかになった。 以下に考えられるメカニズムを記す。

    粗圧延中に十分剪断力を加え、一旦スラブ表層をAr 3変態点以下に冷却すると、表層周辺の組織は一部オーステナイトからフェライトに変態する。 このときのフェライトは粗圧延中の剪断力の影響を受けているため、圧延方向から見て、<111>方位と<011>方位が増大し、<001>方位が減少する。

    次のパスまでに表層のフェライトは復熱してオーステナイトに逆変態する。 その際、オーステナイトは変態前のフェライトの結晶方位と一定の方位関係を有する方位に逆変態する。 逆変態した表層オーステナイトが更に粗圧延され、再度Ar 3変態点以下に冷却されると、表層組織の一部は再度オーステナイトからフェライトに変態する。 変態前のオーステナイトの結晶方位は、以前のフェライトの結晶方位の影響を受けているため、変態後のフェライトの<111>方位と<011>方位は前パス後よりさらに増大する。

    このように、粗圧延中に、各パスにおいて十分な剪断力を加え、かつAr 3変態点以下に冷却して表層を変態させることを繰り返せば、表層近傍の<111>方位と<011>方位は増大し、<001>方位は減少する。 この効果を十分に発揮するには、粗圧延中の圧下率を50%以上として十分に剪断力を加えることが必要であり、本工程においては、スラブ表層をAr 3変態点以下に2回以上、好ましくは3回以上冷却する。

    [d]仕上圧延工程 粗圧延工程に続く仕上圧延工程では、下記(C)式から求められる形状比Xが2.3以上である圧延を2パス以上、1100℃以下のスラブ表層温度で行い、合計圧延率を40%以上とする。

    ただし、L:圧延ロールの直径、h

    in :圧延ロール入側の板厚、h

    out :圧延ロール出側の板厚である。

    本発明者らは、1100℃以下の圧延で、熱間圧延の剪断力を鋼板の奥深くまで作用させるためには、熱間圧延の全パス数のうち、少なくとも2パスで、上記(C)式で規定する形状比Xが2.3以上を満足する必要があることを見出した。 形状比Xは、下記(C1)〜(C3)式で表されるように、圧延ロールおよび鋼鈑の接触弧長l dと平均板厚h mとの比である。
    X=l d /h m・・・(C1)
    d =(L×(h in −h out )/2) 1/2・・・(C2)
    m =(h in +h out )/2・・・(C3)

    上記(C)式によって求められる形状比Xが2.3以上であっても、圧延のパス数が1パスでは、剪断歪みの導入深さが不十分である。 剪断歪みの導入深さが不十分であると、圧延方向から見たフェライトの<111>方位と<011>方位への配向が弱くなり、その結果、圧延方向の疲労特性が低下する。 したがって、形状比Xが2.3以上であるパス数を2パス以上とする。

    仕上圧延工程における圧延のパス数は多いほど好ましい。 パス数を3以上とする場合には全パスにおいて形状比Xを2.3以上としてもよい。 剪断層の厚みを増加させるためには、形状比Xの値も大きい方が好ましい。 形状比Xの値は2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。

    形状比Xが2.3以上である圧延は、高温で行うと、その後の再結晶によってヤング率を高める集合組織が破壊されることがある。 そのため、形状比Xを2.3以上とするパス数を限定する圧延は、スラブ表層温度が1100℃以下の状態で行う。 また、剪断歪の導入量が大きい程、鋼板の圧延方向の疲労特性を向上させる、圧延方向から見て<111>方位および<011>方位の結晶粒が発達する。 この効果は1100℃以下の合計圧下率が40%以上のときに顕著であるため、1100℃以下の合計圧下率は40%以上とする。

    仕上圧延の最終パスでの圧下は(T 2 −100)℃以上(T 2 +20)℃未満、好ましくは(T 2 −100)℃以上T 2 (℃)未満とし、その圧下率は3%以上40%未満とする。 圧下率は、10%以上40%未満が好ましい。 T 2は下記(D)式で規定される温度である。
    2 (℃)=870+10×(C+N)×Mn+350×Nb+250×Ti+40×B+10×Cr+100×Mo+100×V・・・(D)
    ただし、各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

    この最終パスでの圧下条件は、板厚中央部の硬質相のアスペクト比を制御する為に極めて重要である。 (T 2 −100)℃以上(T 2 +20)℃未満の温度域で圧延を行うことで、板厚中央部の硬質相のアスペクト比が増大する原因は、再結晶が抑制された状態で圧延を行うことで、オーステナイトのアスペクト比が増大し、その形状が硬質相にも受け継がれたためと考えられる。 この硬質相のアスペクト比を増大する効果を発揮するためには、最終圧下の圧下率を3%以上にする必要がある。 40%以上の圧延は、圧延機に大きな負担がかかるため、3%以上40%未満の圧下率が好ましい。

    最終パスでの圧下を(T 2 −100)℃未満の温度域で行った場合、フェライトとオーステナイトの二相域での圧延となり、フェライトが加工硬化する結果、鋼板の延性が低下する。 また、(T 2 +20)℃以上の温度域で行った場合、板厚中央部の硬質相のアスペクト比が小さくなる。 これは、オーステナイトの再結晶が促進され、オーステナイトのアスペクト比が減少することが、硬質相の形態にも影響するものと考えられる。 そのため、最終パスでの圧下は(T 2 −100)℃以上(T 2 +20)℃未満の温度域で行う。 この条件で圧下することにより、硬質相のアスペクト比は3以上となる。

    [e]第1冷却工程 仕上圧延工程に続く第1冷却工程では、仕上圧延の最終圧下温度から750℃までの平均冷却速度を60℃/s以上とする。 これは、冷却速度が60℃/s未満では、板厚中央部の硬質相の板厚方向の長さが20μm以上となる場合があるからである。 冷却速度と硬質相の板厚方向の長さとが関連する原因は定かではないが、冷却速度60℃/s以上では仕上圧延の最終圧下で導入された転位が回復しにくく、フェライト変態の核として働くため、板厚中央部の未変態オーステナイトがフェライトにより分断され、結果として硬質相の板厚方向の長さが低減した可能性がある。

    鋼板の厚板分野においては、硬質相のアスペクト比制御による疲労き裂伝播の抑制を指向した例があるものの、穴広げ性などの加工性との両立を報告した文献は無かった。 これは、厚板分野においては板厚中央部まで圧延ひずみが届きにくいことと、板厚が厚いため板厚中央部の冷却速度が確保できず、転位の回復が進んだ結果、フェライト変態の核が十分に導入できず、硬質相の長さを低減できなかったことが一因と推察される。

    [f]均熱工程 第1冷却工程に続く均熱工程では、600℃以上750℃未満の温度域で5s以上保持する。 均熱工程はフェライトを主体とするミクロ組織を得るために必須の工程である。 保持時間を5s以上とするのは、保持時間が5s以下ではフェライトがミクロ組織の主体にならず、または硬質相の面積分率が20%以上となるため、延性および穴広げ率が低下するからである。

    [g]第2冷却工程 均熱工程に続く第2冷却工程では、下記(E)式で規定される温度T 3 (℃)に対し、T 3 (℃)以上600℃未満の温度域における平均冷却速度を50℃/s以上とする。 平均冷却速度を50℃/s以上とするのは、平均冷却速度が50℃/s未満である場合、組織中にベイナイトおよびパーライトが生成し、硬質相の分率を確保することが難しく、切り欠き疲労特性の劣化が生じるからである。
    3 (℃)=561−474×C−33×Mn−17×Ni−17×Cr−21×Mo・・・(E)
    ただし、各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

    [h]巻取り工程 第2冷却工程の後、鋼板の巻き取りを行う。 巻き取り時の鋼板の温度(巻き取り温度)は上記(E)式で規定するT 3 (℃)以下とする。 T 3 (℃)を超えて高い温度で巻き取った場合、組織中にベイナイトおよびパーライトが生成し、硬質相の分率を確保することが難しく、打抜き疲労特性の劣化が生じるからである。

    以上の製造工程により、本発明の熱延鋼板が製造される。

    なお、上記工程[a]から[h]までの全工程終了後においては、鋼板形状の矯正や可動転位導入などにより延性の向上を図ることを目的として、圧下率0.1%以上2%以下のスキンパス圧延を施すことが好ましい。 また、全工程終了後は、得られた熱延鋼板の表面に付着しているスケールの除去を目的として、必要に応じて得られた熱延鋼板に対して酸洗してもよい。 更に、酸洗した後には、得られた熱延鋼板に対してインラインまたはオフラインで圧下率10%以下のスキンパスまたは冷間圧延を施しても構わない。

    本発明の熱延鋼板は、本発明で規定する圧延工程の他に、通常の熱延工程である連続鋳造、酸洗等を経て製造されるものであるが、本発明で規定する工程以外の工程は、その一部を抜いて製造を行ったとしても本発明の効果である優れた圧延方向の疲労特性および加工性を確保可能である。

    また、一旦、熱延鋼板を製造した後、延性の向上を目的に、オンラインあるいはオフラインで、100〜600℃の温度範囲で熱処理を行ったとしても、本発明の効果である優れた圧延方向の疲労特性および加工性は確保可能である。

    上記工程を経て製造された熱延鋼板に、溶融亜鉛めっき処理または合金化溶融亜鉛めっき処理を行う、あるいは、有機皮膜形成、フィルムラミネート、有機塩類/無機塩類処理、ノンクロ処理等による表面処理を行う、といった工程を付加しても良い。

    4. 熱延鋼板の特性の評価方法 (1)引張強度特性 熱延鋼板の機械的性質のうち引張強度特性(引張強さ、全伸び)は、JIS Z 2241 2011に準拠して評価する。 試験片はJIS Z 2241 2011の5号試験片とし、鋼板の板幅の1/4W(鋼板の幅方向端部から鋼板の幅方向に鋼板の幅の1/4の長さの位置を意味する。以下同様)または3/4W位置から圧延方向を長手として採取する。

    (2)穴広げ率 熱延鋼板の穴広げ率は、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠した穴広げ試験により評価する。 試験片は引張試験片採取位置と同様の位置から採取し、円筒パンチで打ち抜き穴を設ける。 本発明における加工性に優れた鋼板とは、(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000かつ(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を満たす鋼板を指す。

    (3)疲労特性 図1は、疲労試験に用いる試験片の形状および寸法を示す模式図であり、図1(a)は切り欠きが無い場合の疲労強度を測定する試験片の平面図および正面図を示し、図1(b)は切り欠きを有する場合の疲労強度を測定する試験片の平面図および正面図を示す。

    熱延鋼板の圧延方向の疲労特性の評価には、図1に示す形状および寸法の試験片を使用する。 試験片は、引張試験片採取位置と同様の位置から圧延方向が長辺になるように採取する。 図1(a)に示す試験片は切り欠きが無い場合の疲労強度を得るための試験片である。 図1(b)に示す試験片は切り欠き材の疲労強度を得るための打抜き試験片であり、自動車部品の実使用での疲労特性評価に近付けるために打抜きは穴広げ試験片同様に打抜き穴1を円筒パンチで打抜く。 打抜きクリアランスは10%とする。 いずれの疲労試験片にも、最表層より0.05mm程度の深さまで、表面粗さ仕上記号で三山仕上の研削を施す。

    この試験片を用いて応力比R=0.1、周波数15〜25Hzの条件で、応力制御の引張―引張疲労試験を行う。 本発明における圧延方向の疲労特性に優れた鋼板とは、上述の切り欠きの無い疲労試験片で得られた1000万回時間強度を、引張試験で得られた引張強さで除した値(疲労限度比)が0.55以上であり、打抜き疲労試験で得られた1000万回時間強度を、引張試験で得られた引張強さで除した値(打抜き疲労限度比)が0.30以上の鋼板を指す。

    以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。

    表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。

    表1を参照して、鋼A〜Iの化学組成は本発明で規定する化学組成の範囲内であった。 一方、鋼aはC含有量が低すぎ、鋼bはC含有量が高すぎた。 鋼cはP含有量が高すぎ、鋼dはS含有量が高すぎた。 アンダーラインは、成分量が発明範囲外であることを示す。

    鋼A〜Jおよび鋼a〜dの化学組成の溶鋼を用いて、上述の工程[a]〜[h]により熱延鋼板を製造した。 各工程の実施条件は、表2および表3に示す条件とした。 工程[d]では、1100℃以下での圧延をP1〜P6の6パスとした。 表2および表3に示す鋼A〜Jおよび鋼a〜dは表1に示す化学組成の溶鋼に対応し、使用した溶鋼を意味する。 T 1 (℃)は、加熱炉均熱帯の平均温度を測定し、均熱帯におけるスラブの平均温度とした。 P1〜P6は、仕上圧延工程における第1パス〜第6パスを意味する。

    製造した熱延鋼板について、フェライト、硬質相(マルテンサイトおよびオーステナイト)およびその他の組織の面積分率を求め、フェライト粒、硬質相の形状、X線ランダム強度比を測定した。 また、引張強度特性、穴広げ率および疲労特性を測定した。 これらの各特性の測定条件は、上述の測定条件を適用した。 疲労試験片は、図1に示す形状および寸法とし、試験片の厚さは3mmとした。 各特性の測定結果を表4および表5に示す。 熱延鋼板の鋼種はめっきを施さない熱延鋼板(HR)、めっき後合金化処理を施さない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)または合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)とした。

    表2〜5に示すように、鋼A−1、B−1、C−1、C−3、C−5、C−7、D−1、E−1、E−3、E−5、E−7、E−9、E−10、E−13、E−14、E−17、E−18、F−1、G−1、H−1、I−1およびJ−1は、鋼の化学組成およびミクロ組織が本発明の規定を満たす例であり、一方、鋼C−2、C−4、C−6、C−8、E−2、E−4、E−6、E−8、E−11、E−12、E−15、E−16、a−1、b−1、c−1およびd−1は、鋼の化学組成またはミクロ組織が本発明の規定を満たさなかった例である。 C−6〜C−8の「その他の組織」はいずれもベイナイトであった。

    鋼A−1等、本発明例の熱延鋼板は、いずれも硬質相の面積分率、板厚中央部に存在する硬質相のうちアスペクト比が3以上のものの割合、板厚中央部に存在する硬質相の圧延方向の長さ、フェライト粒の平均アスペクト比、およびX線ランダム強度比がいずれも本発明の規定を満足していた。 また、本発明例の熱延鋼板は、いずれも(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000かつ(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を満たし、疲労限度が0.55以上かつ打ち抜き疲労限度が0.30以上であった。

    比較例である鋼C−2は、工程[e]の最終圧下温度から750℃までの平均冷却速度が43℃/sと低すぎた。 そのため、板厚中央部の硬質相の圧延方向が22.9μmと長く、(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を満たさなかった。

    鋼C−4は、工程[f]の600℃以上750℃未満の温度域での保持時間が3.1sと短すぎたため、硬質相の面積分率が83.0%と高く、フェライトがミクロ組織の主体とならなかった。 そのため、延性が低く、(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000を満たさなかった。

    鋼C−6は、工程[g]のT 3 (℃)以上600℃未満の温度域における平均冷却速度が低すぎた。 また、鋼C−8は、工程[h]の巻き取り温度が513℃であり、T 3 (494℃)よりも高かった。 そのため、熱延鋼板の組織中にベイナイトが生成し、硬質相の面積分率が3%未満と低かった。 その結果、圧延方向の打ち抜き疲労限度比が0.3未満と低い値であった。

    鋼E−2は、工程[b]のスラブ加熱時間が1168sであり、(A)式で規定する時間t 1 (1244s)よりも短かった。 そのため、板厚中央部の硬質相の圧延方向が25.5μmと長く、(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を満たさなかった。

    鋼E−4は、工程[c]の粗圧延中の合計圧下率が46%と低かった。 鋼E−6は、工程[c]の粗圧延中にスラブ表層をAr 3変態点以下に冷却した回数が1回だけであった。 鋼E−8は、工程[d]での6回の圧延パスのうち、形状比Xが2.3以上を満たしたものが1パスだけであった。 鋼E−11は、工程[d]での1100℃以下の圧延の圧下率が35%と低かった。 そのため、これらの鋼では、圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和が3.5未満と低く、一方、圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度が1.0よりも大きかった。 その結果、いずれも圧延方向の疲労限度比が0.55未満と低い値であった。

    鋼E−12は、工程[d]での仕上げ圧延の最終パスでの圧下温度が762℃と、(D)式で規定するT 2 (877℃)よりも100℃を超えて低かった。 そのため、フェライト粒の平均アスペクト比が6.3と大きく、引張試験時にフェライト粒が加工硬化して鋼板の延性が低下した。 その結果、(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000を満たさなかった。

    鋼E−15は、工程[d]での仕上げ圧延の最終パスでの圧下温度が913℃と、(D)式で規定するT 2 (877℃)よりも20℃を超えて高かった。 鋼E−16は、工程[d]での仕上げ圧延の最終パスでの圧下率が2%と低かった。 そのため、いずれも板厚中央部の硬質相のうち、アスペクト比が3以上のものの割合が60%未満と低く、圧延方向の打ち抜き疲労限度比が0.3未満と低い値であった。

    鋼a−1は、C含有量が0.018%と低すぎたため、圧延方向の打ち抜き疲労限度比が0.3未満と低い値であった。

    鋼b−1は、C含有量が0.254%と高すぎた。 また、鋼d−1はS含有量が0.0361%と高すぎた。 そのため、いずれも穴広げ性が低く、(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000を満たさなかった。

    鋼c−1はP含有量が0.155%と高すぎたため、加工性が低く、(引張強さ(MPa))×(全伸び(%))≧18000および(引張強さ(MPa))×(穴広げ率(%))≧35000のいずれも満たさなかった。

    本発明によれば、圧延方向の疲労特性と加工性に優れた熱延鋼板を提供することができる。 本発明は板厚8mm以下の鋼板に好適に利用できる。 本発明に係る熱延鋼板は、自動車用材料の足回り部品などの疲労寿命を延ばすことが可能となるため、産業上の貢献が顕著である。

    1. 疲労試験片の打抜き穴

    硬質相は、マルテンサイトおよび/またはオーステナイトで構成される。 すなわち、マルテンサイトのみからなる硬質相、オーステナイトのみからなる硬質相、マルテンサイトとオーステナイトの両方からなる硬質相の3形態がある。 また硬質相は、単一の粒(マルテンサイト粒またはオーステナイト粒)からなる場合もあるし、複数の粒が集合して一体的に硬質相を構成する場合もある。 複数の粒が集合した硬質相には、複数のマルテンサイト粒の集合体、複数のオーステナイト粒の集合体 、単一または複数のマルテンサイト粒と単一または複数のオーステナイト粒の集合体の場合がある。

    各試料の観察対象範囲について、1000倍の倍率で10視野観察し、各視野においてフェライトと硬質相の占める面積の割合を測定する。 硬質相の面積はマルテンサイトとオーステナイトの合計の面積である。 そして、フェライトと硬質相の占める面積の割合の全視野の平均値を、フェライトと硬質相の面積分率とする。

    粗圧延条件を以上のように規定した理由は次のとおりである。 圧延方向の疲労特性が良好な熱延鋼板を得る本発明の効果を得るには、熱延鋼板において、圧延方向から見た<011>方位および<111>方位のX線ランダム強度比の和が3.5以上であり、かつ圧延方向から見た<001>方位のX線ランダム強度比が1.0 以下であることが必須である。 このように結晶方位を制御するには、鋼板に剪断力を作用させることにより、<011>方位および<111>方位をなるべく強く、板厚の中心に近い部分まで発達させることが重要である。 通常、粗圧延中の剪断力の作用によって形成される組織の影響は、粗圧延後の再結晶によって排除されてしまう。 しかし、本発明者らの検討によると、粗圧延中に一旦スラブ表層をAr 3変態点以下に冷却することで、粗圧延中の組織が最終組織に好ましい影響を及ぼすことが明らかになった。 以下に考えられるメカニズムを記す。

    鋼A〜 および鋼a〜dの化学組成の溶鋼を用いて、上述の工程[a]〜[h]により熱延鋼板を製造した。 各工程の実施条件は、表2および表3に示す条件とした。 工程[d]では、1100℃以下での圧延をP1〜P6の6パスとした。 表2および表3に示す鋼A〜 および鋼a〜dは表1に示す化学組成の溶鋼に対応し、使用した溶鋼を意味する。 T 1 (℃)は、加熱炉均熱帯の平均温度を測定し、均熱帯におけるスラブの平均温度とした。 P1〜P6は、仕上圧延工程における第1パス〜第6パスを意味する。

    QQ群二维码
    意见反馈