Ni−Cr系合金製刃物

申请号 JP2004505400 申请日 2003-05-14 公开(公告)号 JPWO2003097887A1 公开(公告)日 2005-09-15
申请人 株式会社東芝; 发明人 新井 智久; 智久 新井; 六反田 貴史; 貴史 六反田; 貴戸 禎治; 禎治 貴戸;
摘要 32〜44質量%のCrと2.3〜6.0質量%のAlと残部Ni及び不純物及び微量添加元素とを含有する組成を有し、ロックウェルC硬度が52以上であるNi−Cr系 合金 から成ることを特徴とする刃物である。上記構成によれば、加工性に優れ製造工程を大幅に簡素化することができ、さらに使用時に加熱された場合においても硬度の低下が少なく、耐食性および耐低温脆性に優れ切断性能を長期にわたって良好に維持することが可能なNi−Cr系合金製刃物を提供することができる。
权利要求
  • 32〜44質量%のCrと2.3〜6質量%のAlと残部Ni及び不純物及び微量添加元素とを含有する組成を有し、ロックウェルC硬度が52以上であるNi−Cr系合金から成ることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項記載の刃物において、前記Ni−Cr系合金が非磁性であることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項記載の刃物において、前記Crの一部をZr,Hf,V,Ta,Mo,W,Nbから選択される少なくとも1種の元素で置換するとともに、上記Zr,Hf,V,Nbの合計置換量が1質量%以下であり、Taの置換量が2質量%以下であり、Mo,Wの合計置換量が10質量%以下であることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第3項記載の刃物において、前記Crの一部を置換するZr,Hf,Ta,Mo,W,Nbの元素名をそれぞれの元素の置換量とした場合に算式(Zr+Hf+V+Nb)×10+Ta×5+(Mo+W)で表される上記複数の元素の合計置換量が10質量%以下であることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項または第4項に記載の刃物において、前記Alの一部を1.2質量%以下のTiで置換したことを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項ないし第5項のいずれかに記載の刃物において、前記Niの一部を5質量%以下のFeで置換したことを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかに記載の刃物において、前記Ni−Cr系合金が不純物及び微量添加元素として:
    Cを0.1質量%以下、
    Mnを0.05質量%以下、
    Pを0.005質量%以下、
    Oを0.005質量%以下、
    Sを0.003質量%以下、
    Cuを0.02質量%以下、
    Siを0.05質量%以下含有し、
    且つ、P,OおよびSの合計含有量が0.01質量%以下であり、Mn,CuおよびSiの合計含有量が0.05質量%以下であることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかに記載の刃物において、前記Ni−Cr系合金が不純物及び微量添加元素として:
    Mgを0.025質量%以下、
    Caを0.02質量%以下、
    Bを0.03質量%以下、
    Yを含む希土類元素を0.02質量%以下含有し、
    且つ、Mg,CaおよびBの合計含有量が0.03質量%以下(但し、Mg,CaおよびBの合計含有量が0.015質量%以上である場合は、P,OおよびSの合計含有量が0.003質量%以下であり、Mn,CuおよびSiの合計含有量が0.03質量%以下である)であることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項ないし第8項のいずれかに記載の刃物において、前記Ni−Cr系合金が、Crリッチ相であるα相と、Niリッチ相であるγ相と、Ni Alを基本組成とする金属間化合物相であるγ'相との3相が混合した集合組織からなることを特徴とする刃物。
  • 請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかに記載の刃物において、前記Ni−Cr系合金の平均結晶粒径が1mm以下であることを特徴とする刃物。
  • 说明书全文

    技術分野本発明はNi−Cr系合金製刃物に係り、特に加工性に優れ製造工程を大幅に簡素化することができ、さらに使用時に加熱された場合においても硬度の低下が少なく、耐食性および耐低温脆性に優れ切断性能を長期にわたって良好に維持することが可能なNi−Cr系合金製刃物に関する。
    背景技術飲食用ナイフ、調理用ナイフ、野外活動用ナイフを始めとし、はさみ、アイスピック、食品機械用刃物、冷凍食品切断用刃物、ペーパーカッター、錠剤などのプラスチックパッケージ用のミシン目(切込み)形成カッター、医療用刃物(メス、鑿、鋏)、プラスチック切断用刃物などの刃物の刀部構成材料として、従来から炭素工具鋼、高速度鋼(ハイス鋼)、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼などの合金材が広く使用されている。 また、特殊用途の刃物の構成材料としてはチタン合金が使用される場合がある。
    上記刃物用の合金材料として、通常は溶解材が一般に使用されているが、一部には粉末冶金法で製造された合金材料も使用されている。 上記特殊用途のチタン合金を除けば、これらの合金材料を用いた刃物としてのナイフは、後述するように、一般に鋼材をナイフ形状に成形した後に、この成形体に熱処理を実施してマルテンサイト組織中に高硬度の炭化物を微細に分散析出させることによって、刃物として必要な硬度を付与している。
    上記刃物の構成例として、例えば特開平10−127957号公報には、所定量のC,Si,Mn,P,S,Ni,Cr,Mo,Nを含有し、残部Feの組成を有し、かつビッカース硬度(Hv)が450以上のオーステナイト系ステンレス鋼から成る刀部と金属製の柄部とが一体に溶接された飲食用ナイフが開示されている。 上記の他にも、マルテンサイト系ステンレス鋼をはじめとするFe基合金材料を構成材とした刃物も広く普及している。
    例えば、最も汎用性があり大量に普及しているマルテンサイト系ステンレス鋼をはじめとするFe基合金材料を構成材として使用したナイフを例にとり、その製造方法を具体的に説明する。
    第8図は従来のステンレス鋼製ナイフの製造工程を示す斜視図である。 一般にステンレス鋼製ナイフは焼入れ硬化可能なマルテンサイト系ステンレス鋼の板材1から加工製造される。 このようなFe基合金材料を使用する場合、先ずは機械加工を容易にするために、予め焼鈍処理を施した板材1を用いている。 次に、この板材1を常温度での機械加工によって刃物の形状にするため、打ち抜き法によって所定形状にカッティングして成形体3としたり、切削、研削、研磨などの加工方法あるいは熱間鍛造法によって板材を刃物の最終形状に近い形状に加工したりして刃物素材4とする。 取手部にはボール盤等により柄固定用穴2を穿設しておく。
    次に、加工を完了した刃物素材4を所定の焼入れ温度まで加熱し、一定時間保った後、焼入れを実施して所定の硬度を付与する。 一般に刃物用の炭素鋼は大気中において、その他の金属材料は真空もしくは不活性ガス雰囲気中または非酸化性雰囲気中において、それぞれ合金材質に適した温度幅範囲内に所定時間保持された後に、焼入れ硬化処理される場合が多い。
    上記焼入れ温度は材質ごとに異なるが、炭素鋼では700〜900℃、ステンレス鋼では950〜1100℃程度であり、最適温度幅は40〜50℃である。 尚、焼入れは材料の種類に応じて焼入れ、油焼入れ、強制空冷といった方法が採用される。
    また必要に応じてサブゼロ処理と呼ばれる深冷処理を実施しても良い。 サブゼロ処理は液体窒素やドライアイスなどの低温度物質中に試料を浸漬し、試料を0℃以下の低温度に冷却する操作であり、ステンレス鋼組織内の残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態を進行させて、刃物の経年変化を防止する効果が得られる。
    ところが上記焼入れ硬化処理された刃物素材4は硬度が高くなっているため、そのままでは靭性が乏しく脆さがあり、切断操作時に刃こぼれや割れを生じやすい。 そのため、次に焼戻し処理を行う。 焼戻し処理条件は刃物の用途および材質によって異なるが、一般に炭素鋼では160〜230℃程度の温度範囲で、またステンレス鋼では100〜150℃程度の低温度範囲で焼戻しを行うことにより、所定の靭性が確保される。
    次に上記焼入れおよび焼戻しの熱処理で生じた酸化膜および変色部を除去するため、刃物素材4の表面の仕上げ研磨加工を実施して刀身部5を調製する。 場合によっては鏡面仕上げ加工まで実施することにより、刀身部の色調および光沢を調整して装飾性および審美性を高める場合もある。 さらに刀身部に柄6を取り付けた後、最後に刃付けが行われ、刃物製品としてのナイフ7が完成する。
    一般的に、上記刃物について使用者の立場から要求される機能特性としては、切れ味(鋭利性)、刃持ち(硬さ、靭性)の良さ、耐錆性、研ぎ易さ、装飾性(光沢、色合い)という項目があり、刃物を製造する立場から要求される特性としては、機械加工性(切削性、鏡面仕上げの容易さ、鍛造刃物であれば加工可能温度幅)、熱処理容易性(熱処理温度幅、臨界焼入れ速度、熱処理雰囲気、焼き歪・焼き割れの少なさ)等がある。 また、上記以外の要求特性として冷凍食品用ナイフや寒冷地用ナイフなどには低温脆化を起こさないという耐寒性も必須の特性として要求される。
    すなわち、ナイフ製造メーカーにとって素材としての鋼材の価格以上にナイフ形状への加工容易性、熱処理容易性、鏡面仕上げなどの表面の仕上げ加工が容易なことは製造コスト低減上の重要なファクターである。 またナイフのユーザーにとっては耐食性、切れ味、研ぎやすさはもちろんのこと、金属光沢に高級感があるといった装飾性も重要な要素である。 またごく特殊な用途、例えば冷凍食品用ナイフ、食品機械用刃物や寒冷地用ナイフでは低温での靭性が重要であり、食肉用ナイフでは獣脂の付着のしにくさが重要であり、磁場環境では帯磁しないことが重要であり、医療用のメス、食品機械用刃物などでは高温殺菌により切れ味が低下しないことが重要である。
    しかしながら、上記のような刃物に要求される特性のすべてを満足させる構成材料は現在までに実用化されておらず、現実には上記のいずれかの特性を犠牲にした材料を使用して刃物が製造され、不満足ながらも使用を余儀なくされている現状である。 例えば、刃持ちおよび切れ味を優先すれば、構成材として炭素工具鋼が選定される一方、耐食性を優先すればマルテンサイト系ステンレス鋼が選定される。 ところが前者の炭素工具鋼は錆び易く、経時劣化が顕著であるため、現在は後者のマルテンサイト系ステンレス鋼からなる刃物が市場では主流となっているが、刃持ちおよび切れ味の点では前者の炭素工具鋼より若干劣り、いずれにしても全ての要求特性を満足するには至っていない。
    また、上記のように刃持ちおよび切れ味という主要特性を改善したマルテンサイト系ステンレス鋼等が刃物材料として市場に投入されているが、これらの合金材料は一般に機械加工性が悪い上に、材料の熱処理温度を厳正精密に制御しないと所望の特性が得にくいなどの問題点があり、製造設備の運転管理に高度の技術と多大な労を要し、ナイフ等の刃物の製造コストを大きく押し上げる要因となっている。
    また従来のナイフ等の刃物は不銹鋼であるステンレス鋼で構成されているとはいえ、マルテンサイト系合金であるため、オーステナイト系合金と比較して耐食性は格段に劣り、使用後の手入れを怠った場合には、汗、塩水、血液などの付着や放置によって短時間内に切れ味が急激に低下するとともに、錆が発生しやすく、刃物の保守再生管理が煩雑になる問題点もあった。 特に高級ナイフ用鋼材として現在広く使われている14Cr−4Mo系ステンレス鋼などでは塩水等との接触により孔食が起き易く、耐久性(寿命)が短い上に食品衛生上の問題点もあった。
    さらに、従来のステンレス鋼などのFe基合金製の刃物では磁性体で構成されているため、MRIなどの医療施設等の磁界が形成された環境下で刃物を使用することは困難もしくは不可能である。 そのため、セラミックス製の刃物が使用されているが、金属製の刃物に比べて切れ味が悪く正確な切断作業が困難になる問題点もあった。
    さらに、使用者が不用意に刃先部に接触しないようにアウトドアナイフなどでは鍔状のヒルトを取り付ける場合があるが、取り付けの際に接合剤であるろう剤を溶融するために刀身部に加熱したりすると、加熱部分がなまり、その周辺部を含めて硬度が著しく低下し、特に刃先が摩耗し急激に切れ味が低下する問題点もあった。 また食品機械用刃物や医療用メスのように殺菌をする必要のある刃物においては繰り返して加熱殺菌する場合があるが、加熱部分がなまり、硬度が低下する恐れがあるため、低温で、場合によっては薬剤と併用して滅菌するしかなく、十分な殺菌が出来ないという問題点もあった。
    本発明は上記の問題点および技術的課題を解決するためになされたものであり、特に加工性に優れ製造工程を大幅に簡素化することができ、さらに使用時に加熱された場合においても硬度の低下が少なく、耐食性および耐低温脆性に優れ切断性能を長期にわたって良好に維持することが可能なNi−Cr系合金製刃物を提供することを目的とする。
    発明の開示本発明者らは上記目的を達成するため、従来の刃物用金属材料の組成を改善するという視点、つまり炭化物とマルテンサイト組織とによって硬さおよび靭性を確保している従来の鉄基合金系の刃物材料に限定せず、種々の合金材料を用いてナイフを試作し、その合金組成が刃物としての切れ味、刃持ち、耐食性、加工性といった一般的な特性のみならず、色調・光沢といった感能特性および耐寒特性さらには熱劣化特性に及ぼす影響を総合的に比較検討評価した。 その結果、特に特定組成を有するCr−Al−Ni系のニッケル基合金を刃物構成材として使用したときに、前記の問題点が効果的に解消でき、刃物としての要求特性を全て満足するナイフ等の刃物が初めて得られるという知見を得た。 本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
    すなわち、本発明に係る刃物は、32〜44質量%のCrと2.3〜6.0質量%のAlと残部Ni及び不純物及び微量添加元素とを含有する組成を有し、ロックウェルC硬度が52以上であるNi−Cr系合金から成ることを特徴とする。
    また上記刃物において、前記Ni−Cr系合金が非磁性であることが望ましい。
    また上記刃物において、前記Crの一部をZr,Hf,V,Ta,Mo,W,Nbから選択される少なくとも1種の元素で置換するとともに、上記Zr,Hf,V,Nbの合計置換量が1質量%以下であり、Taの置換量が2質量%以下であり、Mo,Wの合計置換量が10質量%以下であることが好ましい。
    さらに上記刃物において、前記Crの一部を置換するZr,Hf,Ta,Mo,W,Nbの元素名をそれぞれの元素の置換量とした場合に算式(Zr+Hf+V+Nb)×10+Ta×5+(Mo+W)で表される上記複数の元素の合計置換量が10質量%以下であることことが好ましい。
    また上記刃物において、前記Alの一部を1.2質量%以下のTiで置換することが好ましい。 さらに前記Niの一部を5質量%以下のFeで置換することが好ましい。
    さらに上記刃物において、前記Ni−Cr系合金が不純物及び微量添加元素として:Cを0.1質量%以下、Mnを0.05質量%以下、Pを0.005質量%以下、Oを0.005質量%以下、Sを0.003質量%以下、Cuを0.02質量%以下、Siを0.05質量%以下含有し、且つ、P,OおよびSの合計含有量が0.01質量%以下であり、Mn,CuおよびSiの合計含有量が0.05質量%以下であることが好ましい。
    また上記刃物において、前記Ni−Cr系合金が不純物及び微量添加元素として:Mgを0.025質量%以下、Caを0.02質量%以下、Bを0.03質量%以下、Yを含む希土類元素を0.02質量%以下含有し、且つ、Mg,CaおよびBの合計含有量が0.03質量%以下(但し、Mg,CaおよびBの合計含有量が0.015質量%以上である場合は、P,OおよびSの合計含有量が0.003質量%以下であり、Mn,CuおよびSiの合計含有量が0.03質量%以下である)であることが好ましい。
    さらに上記刃物において、前記Ni−Cr系合金が、Crリッチ相であるα相と、Niリッチ相であるγ相と、Ni Alを基本組成とする金属間化合物相であるγ'相との3相が混合した集合組織からなることが好ましい。
    また上記刃物において、前記Ni−Cr系合金の平均結晶粒径が1mm以下であることが好ましい。
    本発明に係る刃物を構成するNi−Cr系合金において、Crは刃物の耐食性および加工性を確保するために必須の成分であり、少なくとも32質量%以上の含有量が必要である一方、多量に含有させるとオーステナイト相の安定性を損なうため、その上限は44質量%である。
    またAlは、CrやNiとともに時効硬化処理によって金属組織のγ相を粒界から成長する形で分解してCr基α相、γ相、γ'相(Ni Al相)の微細析出混合層状組織を形成し、刃物の硬さを向上させるために2.3〜6質量%の範囲で含有される。 Alの含有量が2.3質量%未満の場合は上記刃物の硬さを向上させる効果が不十分である一方、その含有量が6質量%を超える場合には、刃物材料の加工性が低下してしまう。 そのため、Alの含有量は2.3〜6質量%の範囲とされるが、3〜5質量%の範囲がより好ましい。
    Niは刃物材の耐食性および加工性を良好にし、刃物材の構造強度を確保するための基材成分となる上に、オーステナイト相の安定性を向上させる成分であり、さらには良好な熱間加工性(鍛造性)および冷間加工性を与えるために有効な成分である。 但し、Niの原料コストは高価であり、刃物の製造コストを低減するために、Niの一部をFe等の安価な金属材料で置換することが好ましい。
    また刃物としての切れ味、刃持ち、耐食性、加工性といった一般的な特性のみならず、色調・光沢といった感能特性および耐寒特性さらには熱劣化特性を良好に確保するために、刃物を構成するNi−Cr系合金のロックウェルC硬度は52以上であることが必要である。 上記Ni−Cr系合金のロックウェルC硬度が52未満である場合には、刃物の切れ味などの刃持ち特性が低下してしまう。
    ここで、上記Ni−Cr系合金のロックウェルC硬度は、以下に示す国際規格またはJIS(日本工業規格)に規定する方法により測定される。 すなわち、ロックウェル硬さ測定はDIN/DIS6508−1:1997(JIS B 7726)に基づき下記要領にて行うものとする。 ロックウェルCスケール硬さ試験は平滑な平面を持つ被測定物に下記表1に示す圧子を押込み、深さを測ることで硬さを測定する。 深さの零点として初試験力を負荷した点を基準とし、更に試験力を負荷してから再び初試験力に戻す。 その前後2回の初試験力におけるくぼみ深さの差h(mm)を測定して硬さ値を算出する。 試験は周囲温度10〜30℃の範囲で行う。 初試験力の保持時間は3秒以内とする。 初試験力を加えた後、全試験力まで加圧し、2〜6秒保持し、初試験力に戻す。

    本発明に係るナイフ等の刃物は前記したように、切れ味、刃持ち、耐食性、加工性といった一般的な特性のみならず、色調・光沢といった感能特性および耐寒特性さらには熱劣化特性などの、刃物としての要求特性を全て満足するものである。


    ナイフ等の刃物形状に加工する前段階の板材までの加工性は、特性改善のために添加される主成分以外の元素や不純物の種類および添加量によって大きな影響を受け、熱間加工時におけるスラブの割れなどの不具合が生じる場合があり、素材のコストを引き上げることになる。


    上記のコスト上昇を防止するとともに、ナイフ等の刃物の研磨加工時に発生する介在物などによる傷を低減するため、不純物及び微量添加元素の総量は0.3%以下とする必要がある。 特に管理すべき不純物としてはC,P,O,S,Cu,Siがあり、また不純物としてだけではなく、あえて積極的に効果を狙う目的で添加するものにMnがある。 なお、不純物とは原料中に不可避的に含有されるものと製造工程中に含有されるものとの両方を示すものとする。


    上記不純物等(不純物と微量添加元素の総称として「不純物等」と表記する)の種類と添加量の影響を把握するために、38%Cr−3.8%Al−残部Ni合金をベースにして、C,P,O,S,Cu,Si,Mnの元素のうち1種類を取り上げ、その添加量を段階的に変え、その他の不純物等の含有量を数ppmまで低減したサンプルを試作して熱間加工性を比較評価したところ、C単独では0.1質量%以下、Mn単独では0.05質量%以下、P単独では0.005%質量以下、O単独では0.005質量%以下、S単独では0.003質量%以下、Cu単独では0.02質量%以下、Si単独では0.05質量%以下とすることにより、加工時に発生する割れを効果的に低減できることが判明した。 なおSiの微量添加は合金の耐食性および硬度を改善する効果がある。 またMnについては、好ましくは0.005質量%以上0.02%質量以下の添加量範囲で熱間加工性の向上を図ることができる。 通常このような不純物等の元素は2種以上が混在することが多く、その場合、元素の組み合わせによっては熱間加工性を損なう相乗効果が発現する場合がある。 その相乗効果を回避するため、P,O,Sの合計含有量は0.005質量%以下とする一方、Mn,Cu,Siの合計含有量は0.05質量%以下にすることが好ましい。


    尚、上記不純物等の大部分は溶解素材,ルツボおよび溶解時の雰囲気中に含有される不純物成分に由来するものである。


    さらに、不純物及び微量添加元素としてのMg,Ca,B,希土類元素については、添加量が少量であれば熱間加工性を改善する効果を発揮する。 これらの元素はいずれも脱酸・脱硫効果を発揮し、熱間加工性を改善するための添加剤として使用できる。 添加方法としては、MgについてはNi−Mg合金による添加、Caについてはカルシア(CaO)ルツボを用いた溶解、BについてはNi−B合金による添加,希土類元素についてはミッシュメタルをはじめとする希土類金属・合金での添加が好ましい。


    上記不純物等の種類と添加量の影響を把握するために、38%質量Cr−3.8質量%Al−残部Ni合金をベースにして、Mg,Ca,B,希土類元素のうち1種類を取り上げ、その添加量を段階的に変え、その他の不純物等の量を数ppmまで低減したサンプルを試作して熱間加工性を比較評価したところ、Mg単独では0.025質量%以下、Ca単独では0.02質量%以下、B単独では0.03質量%以下、希土類元素単独では0.02質量%以下とすることにより、熱間加工時に発生する割れを効果的に低減できることが判明した。


    但し、これらの不純物等の元素について2種類以上を同時に添加した場合には、熱間加工性を損なう相乗効果が出現する場合がある。 そのため、Mg,Ca,B,希土類元素の合計含有量は0.03質量%以下にする必要がある。 尚、これらの元素による熱間加工性の改善効果は酸素濃度、S濃度によっても異なるが、概ね0.005質量%以上の添加量で効果が見られる。


    またCrの一部をZr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wの1種もしくは2種以上の元素で置換することによって、刃物の硬度が向上し、刃持ち特性を改善することができる。 但し、置換元素がZr,Hf,V,Nbである場合は、置換することによって熱間加工性が悪化する傾向がある。 また過度の置換は靭性の大きな低下を招き、刃こぼれが増加するため、置換量は1質量%以下が望ましい。 ここで置換量は合金全体の中の質量%で示している。


    なお置換元素がTaである場合、置換量が2質量%以下であれば熱間加工性をほとんど損なわずに刃持ちの改善が出来る。 また置換元素がMo,Wである場合、置換量が10質量%以下であれば熱間加工性の向上が認められ、且つ刃持ちの改善が出来る。 特にWの場合については、他の元素に比べて500℃という低温度での時効処理が可能である。 尚、これらの元素については上記限度以下の添加量であれば、溶体化処理での機械特性は、無添加の場合とほとんど変化せず、加工性が損なわれることはない。


    なお上記のZr,Hf,V,Ta,Mo,W,Nbの加工性および刃物特性に及ぼす影響は強弱を有するために、同等量ずつ添加すると所定の特性が得られない場合がある。 そこで前記Crの一部を置換するZr,Hf,Ta,Mo,W,Nbの元素名をそれぞれの元素の置換量とした場合に算式(Zr+Hf+V+Nb)×10+Ta×5+(Mo+W)で表される上記複数の元素の合計置換量が10%質量以下であることが望ましい。


    またAlの一部を1.2質量%以下のTiで置換することによって、熱間加工性は低下するが、溶体化処理後における刃物の硬さを調整することができる。 尚、時効処理後の硬度については、無置換の場合と比べてほとんど変化がない。 ナイフ表面を鏡面仕上げする場合には、ある程度の硬さを有する方が仕上げ易いことがある。 特に、鏡面仕上げによって刃物の色調・光沢といった感能特性を向上せしめ、意匠性や高級感を高める要請がある場合には、Tiによる置換を行うことが好ましい。 なお0.02質量%以下の微量添加の場合には、熱間加工性の向上が認められる。 但し、1.2質量%を越える置換を行った場合には、熱間加工性が極度に低下し、好ましくない。


    さらに原料コストの低減を目的にしてNiの一部を最大5質量%までの範囲でFeで置換した場合には、刃物特性を大きく低下させずに製品コストを低減することが可能である。 しかし上記5質量%を越える置換量とした場合には、Cr基α相、γ相、γ'相(Ni

    Al相)の微細析出混合層状組織への分解反応が起き難くなり、硬さなどの所望特性が得にくくなる。


    ナイフ用の鋼材として製造する際の製造しやすさ、刃持ち、靭性などの特性に組成が大きく影響するため、成分を制御することが重要であり、また金属組織を制御することも重要である。


    本発明に係るナイフ等の刃物の構成材として使用される鋼材は、溶解法でインゴット状に製造された後に、熱間加工、冷間加工を施し、所望の厚さを有する板材に加工される。 その後、アルゴンもしくは窒素雰囲気下もしくは大気中で温度1000〜1300℃での溶体化処理を実施した後、油冷以上の冷却速度で急冷し、ナイフ加工用の素材となる。 この状態で素材組織の大部分が均一なNi基γ相単相になり、ビッカース硬さ(Hv)は300以下となり、機械加工性が最も好ましい状態になる。


    次に、上記のように処理された素材を刃物製造工場において最終仕上げ形状に近い状態まで機械加工を行い、次いで温度550〜800℃で加熱して時効硬化処理を実施する。 但し、Crの一部をWで置換した合金を使用する場合は、温度500〜850℃の範囲で時効硬化処理を行うことが好ましい。 この時効硬化処理はアルゴンもしくは窒素雰囲気下もしくは大気中で実施することができる。


    なお鏡面仕上げした刃物材を時効硬化処理する場合には、水素炉で光輝処理を実施することにより刃物材表面に変色層がほとんど生成しないため、最後の仕上げ研磨が極めて容易になる。 尚、時効硬化処理によって金属組織のγ相が粒界より成長する形で分解してCr基α相、γ相、γ'相(Ni

    Al相)の微細析出混合層状組織となり、金属組織の硬さが向上する。 尚、温度550℃以下の時効硬化処理では未変態のα相が大量に残留するため、十分な硬さが得られない。 また温度650℃前後の時効硬化処理により最も高い硬度が得られる。 しかし、刃物には靭性も必要であり、必要に応じ過時効となる700℃以上の温度域での時効処理または未変態のα相が若干残る600℃以下の時効処理を実施しても良い。 但し、組織制御の観点からは、過時効処理の方が容易である。


    すなわち、刃物素材を1000℃以上1300℃以下の温度で固溶化処理を行った後、その温度から急冷した素材について機械加工を実施した後、500℃以上850℃以下の温度で時効処理を行うことにより、機械加工性が良好であり、切れ味の持久性(刃持ち)が高い刃物が得られる。


    また、500℃以上850℃以下の温度範囲で時効硬化処理を行った後の刃物の硬さがロックウェル硬度Cで52以上であれば、刃持ちが良好な刃物が得られる。


    さらに、550℃以上800℃以下の温度で時効硬化処理を実施した後の硬度がロックウェル硬度Cで55以上である場合には、刃持ち特性をさらに改善することができる。


    また刃物素材を1000℃以上1300℃以下の温度から急冷した際の硬さがビッカース硬度300以下である場合に、機械加工性が最も好ましい状態になり、この状態で機械加工を実施し、次いで時効硬化処理を実施することにより、刃物の製造工程が大幅に簡略化される。


    本発明で使用されるNi−Cr系合金材料は、平均結晶粒径が1mm以下となるように結晶粒径を微細化することによって、いわゆる超塑性現象を示し、1段階の熱間加工操作によってナイフ等の最終刃物形状に近い形状に成形するニアネット成形が可能になるという特徴もある。 すなわち、通常の合金材料では加工を繰り返すと硬くなり、さらなる加工が困難になるが、本発明で使用するNi−Cr系合金材料では、下記条件のような限られた条件下では加工硬化が極めて小さいため、原料板材から最終形状の刃物まで連続加工する超塑性加工が可能である。


    さらに、加工途中での焼きなまし操作も不要となることから、刃物の製造工程を大幅に簡素化することができる上に、刃物の製造コストも大幅に削減できる。 なお成形操作を実現するために推奨されるNi−Cr系合金素材の平均結晶粒径は1mm以下であり、また成形条件としては、成形温度が1000〜1300℃であり、成形時の歪速度は10

    −4 〜10

    −2 /秒の範囲である。


    本発明に係る刃物によれば、所定量のCrとAlとを含有する組成を有し、ロックウェルC硬度が52以上であるNi−Cr系合金から構成されているため、特に加工性に優れ刃物の製造工程を大幅に簡素化することができ、さらに使用時に加熱された場合においても刃物の硬度の低下が少なく、耐食性および耐低温脆性に優れ切断性能を長期にわたって良好に維持することが可能になる安価な刃物が得られる。


    発明を実施するための最良の形態次に本発明の実施形態について添付図面および以下の実施例および比較例を参照して具体的に説明する。 なお本発明は以下に示す実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施することが可能である。


    実施例1


    真空溶解法を用いて38%Cr−3.8%Al−Bal. Niなる組成を有するNi−Cr系合金を溶解、鋳造した。 次に得られた合金に鍛造加工および圧延加工を施すことにより、第1図に示すような縦300mm×横2000mm×厚さ4.4mmの素材板1を調製した。 この素材板1をアルゴン雰囲気に調整した真空熱処理炉にて温度1200℃で固溶化熱処理を実施した後、油中に浸漬し焼入れ処理を実施した。 次に素材板1表面を0.2mm研削することにより、焼入れ処理で生じた変質層を除去した。


    こうして得られた素材板1(縦300mm×横2000mm×厚さ4mm)について、レーザー切断機を用いてナイフ形状に切断することにより、刃部寸法が160mm×40mmであり、柄部寸法が80mm×20mmである成形体3を調製した。 この成形体3の柄部にボール盤を用いて柄固定用穴2を穿孔した。 さらに、成形体3の刃先部をベルトグラインダーにて楔状断面形状に加工し、刃部先端厚さが0.5mmである刃物素材4を調製した。 さらに、この刃物素材4の表面をベルトグラインダーとポリッシャーにて鏡面が得られるまで研磨仕上げを実施した。 次いで、この刃物素材4を真空炉に挿入し、雰囲気を真空脱ガス後、アルゴン雰囲気下で温度700℃にて2時間の時効熱処理を実施し、引き続き温度150℃付近まで冷却されるように、一時間かけてArガス中で冷却した後に、真空炉から取り出した。


    刃物素材4は上記時効熱処理により、その表面に幾分曇りを生じたが、ポリッシャーにて仕上げ研磨を実施することによって簡単に鏡面状態が得られ、審美性が高い刀身部5が得られた。


    この刀身部5に柄6を取り付けた後、第2図(B)に示すようにオイルストーンを用いて刃部に15度の度で刃付けを行うことにより、実施例1にかかる刃物としてのナイフ7を調製した。 なお、ロックウェル硬度試験機を使用してナイフ7の平面部の硬さを測定したところ、ロックウェルC硬度(H

    RC )で59であった。


    また、この時点におけるナイフ7の不純物含有量をX線マイクロアナライザー(EPMA)により測定したところ、それぞれSiは0.01質量%,Mgは0.013質量%,Mnは0.01質量%,Caは0.005質量%,Cは0.03質量%,Oは0.002質量%であった。


    こうして調製した実施例1にかかる刃物としてのナイフ7の刃持ち(切れ味の持続性)を評価するために、第2図(A)(B)に示すようなロープ切断試験装置10を用意した。 このロープ切断試験装置10は、縦横に溝11,12を形成した固定治具13と、一方の溝11に挿通されて固定された被切断物14と、この溝11に直交する方向に形成された幅4.1mmの溝12に挿通され、刃先が被切断物14に押圧された状態で水平方向に往復動する刃物7としてのナイフとから構成される。


    そして上記ロープ切断試験装置10を使用し、被切断物14としての太さ10mmの麻ロープに上記ナイフの直線状の刃部を押圧して切断試験を実施した。 なお、麻ロープ14を固定するため、切断部を挟んで4.1mmの幅で固定治具13に固定し、その間にナイフ7を挿入し、切断試験を実施した。 また、切断に際しては、第2図(B)に示すように、ナイフ7に2kgの荷重を印加した状態で、ナイフ7を水平方向に往復動せしめ、麻ロープ14が完全に切断されるまでのナイフ7の水平方向における移動距離Lを繰り返して測定した。 第3図に測定結果を示す。


    第3図に示す結果から明らかなように、実際にロープ切断までに至るナイフ7の移動距離Lの測定値は、切断操作(切断回数)毎に測定データが大きくばらつくため、ばらつき幅の中心値を以って上記切断までの水平移動距離Lとした。 第3図に示す結果から、所定の組成およびロックウェルC硬度に調整したCr−Ni合金から成る実施例1に係る刃物では、10万回の切断操作後においてもロープ切断に要するナイフの移動距離Lが、初期の2倍程度しか増加せず、長期間にわたって優れた切れ味を持続できることが確認できた。


    比較例1


    市販の14Cr−4Mo系ステンレス鋼を用いて実施例1に係るナイフと同一形状となるように加工して比較例1に係る従来の刃物としてのナイフを調製した。 すなわち第8図にその製造工程を示すように、14Cr−4Mo系ステンレス鋼合金に鍛造加工および圧延加工を施すことにより、第8図に示すような素材板1を調製した。 この素材板1について、レーザー切断機を用いてナイフ形状に切断することにより、刃部寸法が160mm×40mmであり、柄部寸法が80mm×20mmである成形体3を調製した。 この成形体3の柄部にボール盤を用いて柄固定用穴2を穿孔した。 さらに、成形体3の刃先部をベルトグラインダーにて楔状断面形状に加工し、刃部先端厚さが0.5mmである刃物素材4を調製した。 さらに、この刃物素材4の表面をベルトグラインダーとポリッシャーにて鏡面が得られるまで鏡面研磨仕上げを実施した。


    しかる後に、この刃物素材4を真空炉に挿入し、雰囲気を真空脱ガス後、一般の刃物製造業界における熱処理条件である焼入温度1050℃まで昇温した後に、油焼入れを実施し、次いで刃物素材4を液体窒素中に浸漬することによりサブゼロ処理を実施した。 さらに温度150℃にて焼き戻し熱処理を実施した後に、空冷した。 上記熱処理によって生じた刃物素材4表面の曇りを、ポリッシャーにて研磨し、鏡面状態とした。 柄を取り付けた後、オイルストーンを用いて刃部に同じく15度の角度で刃付けを行うことにより、比較例1に係る従来の刃物としてのナイフを製造した。 なお、加工に用いた研磨ベルト、砥石等の設備は実施例1と同一の設備を使用した。


    比較例1に係るナイフの平面部の硬度を測定したところ、ロックウェルC硬度(H

    RC )で62であった。 また調製した比較例1にかかるナイフ7の刃持ち(切れ味の持続性)を評価するために、実施例1と同様に第2図(A)(B)に示すようなロープ切断試験装置10を使用し、被切断物14としての太さ10mmの麻ロープに上記ナイフの直線状の刃部を押圧して切断試験を実施した。 なお、切断に際しては2kgの荷重を印加した状態で、ナイフを水平方向に往復動させて、被切断物としての麻ロープが完全に切断されるまでのナイフの水平方向での移動距離Lを繰り返して測定した。 第4図に前記実施例1の場合とも併せて、比較例1の測定結果を示す。


    第4図に示す結果から明らかなように、比較例1に係るナイフは実施例1に係る刃物と比較してロックウェルC硬度(H

    RC )は62とやや高い値であったが、合金組成が全く異なるため、切断回数の増加にともなってロープ切断までのナイフの水平方向移動距離Lが急増し、刃物としての切れ味が急激に悪化することが判明した。


    一方、所定の組成およびロックウェルC硬度に調整したCr−Ni合金から成る実施例1に係る刃物では、10万回の切断操作後においてもロープ切断に要するナイフの移動距離Lが、初期の2倍程度しか増加せず、切れ味の低下が少なく長期間にわたって優れた切れ味を持続できることが確認できた。


    また実施例1および比較例1で素材からの加工性を評価すると、ベルトグラインダーで楔状断面に加工するのに要した研磨作業時間は実施例1のCr−Ni合金製のナイフと比較して、比較例1の14Cr−4Mo系ステンレス鋼製ナイフの場合は2.5倍を要し、ナイフ製造工程が煩雑であった。 また比較例1において熱処理前の鏡面仕上げに要した時間は実施例1の3倍であり、鏡面加工性も悪化していた。 ただし、刃付けに要した時間はほぼ同等であり、有意差はなかった。 また熱処理後に鏡面まで再仕上げをするために要する時間は、比較例1は実施例1の2倍であった。


    実施例2〜3および比較例2〜3


    真空溶解法を用いて組成が31〜45%Cr−3.8%Al−Bal. Ni合金を溶解、鋳造した。 実施例1と同様にして鍛造、圧延、固溶化熱処理、焼入れ、研削、時効熱処理を実施して刃物素材をそれぞれ調製し、さらに実施例1と同様の組立方法で柄と組み合わせることにより、各実施例および比較例に係るナイフをそれぞれ製作した。


    なお、各実施例および比較例に係るナイフの時効処理後における表面硬度は、Cr含有量により異なり、31%Cr(比較例2)ではH

    RC 39であり、33%Cr(実施例2)ではH

    RC 53あり、38%Cr(実施例1)ではH

    RC 63あり、43%Cr(実施例3)ではH

    RC 55あり、45%Cr(比較例3)ではH

    RC 43であった。


    こうして調製した各実施例および比較例に係るナイフの刃持ち(切れ味の持続性)を評価するために、実施例1と同一条件で第2図に示すロープ切断試験装置10を使用し、麻ロープの切断試験を実施した。 麻ロープ切断までのナイフの移動距離Lを測定して、前記実施例1の場合とも併せて第5図に示す測定結果を得た。


    第5図のグラフに示すように、Cr含有量が38質量%付近で最も刃持ちが良いナイフが得られている一方、Cr含有量が32%より少ない場合あるいは44%を超える場合は刃持ちが悪化している。 この傾向は硬度の大小からも推察でき、刃持ちが良いナイフを得るためには、H

    RCで52以上のロックウェル硬度が最低限必要であることが明確である。


    実施例4〜6および比較例4〜5


    次に刃物を構成する合金のAl組成を種々変化させた場合における刃物特性について以下の実施例および比較例に基づいて説明する。 すなわち、真空溶解法を用いて組成が38%Cr−2.1〜6.3%Al−Bal. Niである合金をそれぞれ溶解・鋳造した。 調製した各合金インゴットを実施例1と同様な条件で鍛造・圧延処理、固溶化熱処理、焼入れ、研削、時効熱処理を実施して刃物素材をそれぞれ調製し、さらに実施例1と同様の組立方法で柄と組み合わせることにより、各実施例および比較例に係るナイフをそれぞれ製作した。


    なお、各実施例および比較例に係るナイフの時効処理後における表面硬度は、Al含有量により異なり、2.2質量%Al(比較例4)ではH

    RC 48であり、2.4%AlではH

    RC 55であり、3.8%Al(実施例1)ではH

    RC 63であり、5.3%AlではH

    RC 60であり、6.3%Al(比較例5)ではH

    RC 49であった。


    こうして調製した各実施例および比較例に係るナイフの刃持ちを評価するために、実施例1と同一条件で麻ロープの切断試験を実施した。 麻ロープ切断までのナイフの移動距離Lを測定して、前記実施例1の場合とも併せて第6図に示す測定結果を得た。


    第6図のグラフに示すように、Al含有量が3.8質量%付近で最も刃持ちが良良いナイフが得られている一方、Al含有量が2.2%より少ない場合あるいは6.0%を超える場合は刃持ちが悪化している。 またAl含有量が6.0%を超える場合は、刃物硬度はH

    RCで52以上はあり、ロープ切断試験でもある程度の刃持ちは得られるものの、刃が欠けて切れ味が悪化し易くなる。 またAl含有量が5.0%より多い場合は、熱間加工工程で刃物素材に割れが生じやすい。 これらの知見から、ナイフ用鋼材成分としてのAl量は2.3〜6.0質量%の範囲が好適であり、更に好ましくは2.8〜4.8質量%の範囲である。


    実施例7


    38質量%Cr−3.8%Al−残部Niである合金組成を基本にして、表1〜2に示すように、Crの一部をZr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wで置換したり、Alの一部をTiで置換したり、不純物及び微量添加元素としてのC,Mn,P,O,S,Cu,Siの各含有量、P,OおよびSの合計含有量、Mn,CuおよびSiの合計含有量、Mg,Ca,B,希土類元素(RE)の各含有量、およびそれらの合計含有量を変化させたりして、各種合金を調製した。


    次に、これらの合金を使用して実施例1と同様の方法で鍛造、圧延、固溶化熱処理、焼入れ、研削、時効熱処理を実施して刃物素材をそれぞれ調製し、さらに実施例1と同様の組立方法で柄と組み合わせることにより、実施例7に係るナイフをそれぞれ製作した。


    また、各実施例7に係るナイフの固溶化熱処理(溶体化熱処理)後におけるビッカース硬度(Hv0.5;試験荷重4.903N)および時効処理後における表面硬度(H

    RC :ロックウェル硬度)を各硬度試験装置で測定するとともに、熱間加工性を評価した。 この熱間加工性については、加工中に割れや亀裂を生じた不良材料を投入材料から差し引き、製品化された素材重量の投入材料重量に対する割合を製造歩留りとして算出し、この製造歩留りが70%以上の場合は◎と評価し、歩留りが69〜50%までを○と評価し、歩留りが49〜40%までを△と評価し、歩留りが39以下の場合を×と評価した。


    また各実施例7に係るナイフの刃持ち(切れ味の持続性)を評価するために、実施例1と同一条件で麻ロープの切断試験を実施した。 切断回数が1000回目の時点での麻ロープ切断までのナイフの水平移動距離Lを測定した。 この切断試験における測定結果および前記熱間加工性の評価結果を下記表2〜表3に示す。


    上記表2〜表3に示す結果から明らかなように、適度な量のZr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,WでCr成分の一部を置換することによって、合金の硬度が上昇し刃持ちが改善される。 すなわち、麻ロープの切断操作を1000回繰り返した後においても、ロープ切断までに要するナイフの水平移動距離が小さく切れ味が良好に維持されている。 しかしながら、過度の置換は刃物素材の熱間加工性を阻害するとともに、刃毀れの増加に繋がり、刃持ちが低下することも判明した。


    また、表2の試料19〜21から明らかなように、38%Cr−3.8%Al−Bal. Niから成る合金組成を基本にして、Alの一部をTiで置換した場合には、溶体化処理後の合金硬さの上昇が認められ、切削加工はしにくくなるが、鏡面仕上げ用の研磨加工では傷がつきにくくなる効果が認められる一方、硬さについての大幅な改善効果は認められない。 但し、過度のTi添加は熱間加工性の低下を引き起こす上に溶体化処理後の機械加工性を損うような必要以上の硬化を引き起こすため、Ti置換量は1.2質量%以下が好ましい。 より好ましくは0.5質量%以下である。


    本発明の各実施例に係るナイフは従来の炭化物を微細に分散させたマルテンサイト組織からなるステンレス鋼製ナイフと異なり、400℃以下の温度であれば、高い温度に長時間晒されても硬度の低下はほとんど見られないため、刃物特性の経時劣化が少ない。 これに対してステンレス鋼製の従来のナイフは200℃以上の温度に晒されると徐々に硬度の低下をきたす難点がある。 ちなみに温度400℃で3時間保持した後において、本発明に係るナイフではほとんど硬度の変化は観察されないのに対して、従来のステンレス鋼製ナイフでは硬度が約20%低下することが確認された。 このような耐熱劣化特性に着目すると、本発明に係る刃物は、特に繰り返して高温度の殺菌処理を必要とする手術用メスなどの医療用刃物や調理用刃物、食品機械用刃物、理容用はさみに好適であると言える。 また、本発明に係る刃物を木工用刃物、ドリル刃、エンドミル刃、旋削刃物のように処理対象物との摩擦により高熱に晒される用途に使用した場合においても、熱による硬度の低下および切れ味の低下が少なく好適である。


    実施例8


    38質量%Cr−3.8%Al−残部Niなる組成を有する合金のNiの一部を各種割合のFeで置換した合金をそれぞれ作製し、各合金を実施例1と同様の機械加工条件および熱処理条件で処理して実施例1と同一寸法のナイフをそれぞれ調製した。 各ナイフ表面の硬度をロックウェル硬度試験機にて測定し、Fe置換量がナイフの硬度に及ぼす影響を調査して第7図に示す結果を得た。


    第7図に示す結果から明らかなように、Fe置換量が5質量%以下であれば、本発明で規定した硬度(H

    RC 52以上)を維持できる一方、5質量%を超えるとナイフの硬度が著しく低下し刃持ちなどの基本特性が低下し好ましくない。 したがって、Fe置換量が5質量%以下であれば、刃物特性を損なうことなく高価なNiの使用量を低減できるため、刃物の材料コストを大幅に削減できる。


    次に本発明に係る刃物の耐寒特性を評価するために、実施例1で調製した刃物としてのナイフの常温度(25℃)および低温度(−30℃)におけるシャルピー衝撃値を測定し、下記表3に示す結果を得た。 ここでシャルピー衝撃値の測定は、シャルピー衝撃試験(JIS−Z−2242)に準じる3号試験片(U字欠き試験片)を用いて測定した。


    上記表4に示す結果から明らかなように、実施例1に係るナイフによれば、極地などの極低温度(−30℃)下で使用した場合においても、シャルピー衝撃値の低下が少ないことから、特殊な用途、例えば冷凍食品用ナイフ、低温機械用刃物や寒冷地用ナイフのように低温での強度や靭性等が不可欠で重要な場合において極めて有効である。


    また各実施例で調製した刃物を磁石に接触させたが、いずれも磁力による磁石への付着は起こらず、全ての刃物がほぼ非磁性(79.6kA/m印加時の比透磁率:10以下)であることが確認された。 したがって、各実施例に係る刃物は磁界中で使用しても磁界の影響を受けることがなく、正確な切断作業が可能となる。


    即ち、従来のステンレス鋼などのFe基合金製の刃物では磁性体で構成されているため、医療施設等の磁界が形成された環境下で刃物を使用することは困難であるため、このような環境ではセラミックスの刃物、非磁性超硬合金刃物などが使用されているが、Fe基合金製の刃物に比べて切れ味が悪く正確な切断作業が困難になる問題点もあった。


    具体的には、磁界コイルを装備した超伝導MRI(核磁気共鳴イメージング)装置を使用して人体の断層像を観察しながら、手術を実施する場合に、本実施例のような非磁性の合金材で形成したメスや解剖はさみを使用すれば、磁界によるメスや解剖はさみの着磁によって、これら刃物の動きが影響を受けることがなくなり正確な切断作業が可能になるという顕著な効果が発揮される。


    さらに、本実施例のような非磁性の合金材で形成したナイフ本体と方位磁石とを一体に結合した野外活動用ナイフを形成した場合には、ナイフ本体の着磁によって方位磁石が経時的に狂うことがないため、信頼性が高いナイフ道具が初めて実現する。 また、磁気探知式の地雷撤去用の掘削ナイフとして、本実施例のような非磁性の合金材で形成した掘削ナイフを用いることにより、磁気による地雷の爆発を回避でき、撤去作業の安全性を大幅に高めることができる。


    また、金属箔やプラスチックフィルム、包装パッケージにミシン目を形成する刃物や、釘などの金属片が混入しやすい穀物などを繰り返して処理する刃物においては、着磁によって刃先に金属片等の侠雑物が吸着したまま、次の切断操作を実施すると刃こぼれや切れ味の低下を生じてしまうが、本実施例のような非磁性の合金材で形成した刃物を用いることにより、上記侠雑物による刃こぼれや切れ味の低下の問題は解消できる。


    以上の実施例および比較例では、本発明で採用した合金組成と刃物特性との関係を説明したが、従来の高級ナイフである14Cr−4Mo系ステンレス鋼製ナイフと本実施例の合金ナイフとの特性を対比してまとめたものを表5に示す。


    上記表5に示すように、従来のステンレス鋼製ナイフと本実施例のナイフと比較すると、常温度における硬度(H

    RC )に関しては大きな差異はないが、実施例における組成と硬度との組み合わせによってナイフの靭性や切れ味の持続性、砥ぎの容易性が改善されている。


    また、従来のステンレス鋼製ナイフでは、海水・塩水浸漬試験において孔食や錆を発生させることがあるが、本実施例では孔食や発錆が少ないという特徴を有する。 したがって、本実施例の刃物を構成する合金で水産機械用刃物やダイバーナイフ、調理用ナイフを形成した場合には、隙間腐食や孔食といった発錆が少なく衛生面で極めて有利である。 また孔食を含めた発錆が少ないため、衛生面で有利であり、また金属光沢が持続し審美性が優れている。


    さらに本実施例のナイフを構成する合金では、適度の硬度と粘りを有しているため、研削・研磨が円滑に進行し、鏡面仕上げも容易である。 また従来のナイフ用ステンレス鋼素材は、温度800〜870℃で焼鈍後に徐冷して素材工場から出荷される一方、本実施例用の合金材は1200℃の固溶化熱処理後に急冷して出荷されるため、素材段階での工程も簡素である。


    さらに従来のステンレス鋼製ナイフの製造工程では、焼入れ操作と焼戻し操作との少なくとも2回の熱処理が必須であり、焼き割れや焼歪み等の不良が発生し易い難点がある。 これに対して本実施例のナイフの製造工程では、焼入れ操作が不要であり、焼き割れや焼歪み等の不良の発生がほとんどなく、一度の時効硬化処理により所定の硬度を確保できるため、製造工程が極めて簡素になり、刃物の製造コストを大幅に削減できる。


    また、本発明の刃物を構成するNi−Cr系合金は、温度640〜660℃で熱処理することにより、最も高い硬度が得られ刃先部の切れ味の持続性が良好になる一方、温度670〜800℃で熱処理することにより、硬度は低下するが靭性値が向上し、刃こぼれが低減する。 また、刃物の刃先部分の熱処理温度を640〜660℃の範囲とする一方で、上記刃先以外の刀身部(峰部)の熱処理温度を670〜800℃とすることによって、切れ味および構造強度が共に優れた刃物も得られる。


    また、前記のように極低温度(−30℃)下で使用した場合においても、シャルピー衝撃値の低下が少ないことから、寒冷地用途、冷凍食品用ナイフ、低温機械用刃物に好適であるが、従来のステンレス鋼製ナイフでは低温脆性が顕著なため、寒冷地では使用できない場合が多い。


    さらに従来のステンレス鋼製ナイフでは、本実施例の素材価格より2〜3割安価であるという利点はあるが、鏡面加工時に銀灰色を呈し装飾性に乏しい難点がある。 これに対して、本実施例のナイフでは高級感を有する銀白色を呈しており、色および光沢が優れ、需要者の購買意欲を高められる。


    さらに、本発明の刃物を構成するNi−Cr系合金は、脂肪や粘着物質が付着しにくく切れ味が長期間維持されるという特異な性質を有する。 したがって、上記合金製の刃物を食肉加工用刃物、手術用メス、解剖はさみ、粘着テープ切断用刃物、粘着テープ切断用はさみ、野外活動用ナイフとして使用した場合には、良好な切れ味が長期間に渡って維持できる。


    また、上記各実施例では硬度が高いNi−Cr系合金の中実材で刃物を形成した例を示しているが、本発明は上記実施例に限定されず、例えば上記高硬度のNi−Cr系合金を心材とし、その少なくとも一方の側面に耐食性が良好で高靭性の異種金属材を合せ材として一体に接合したクラッド材で刃物を形成しても良い。 具体的には上記Ni−Cr系合金製の心材の側面に、オーステナイト系ステンレス鋼またはチタン合金から成る合せ材を一体に接合したクラッド材で刃物を構成することもできる。 上記高靭性の異種金属材を合せ材として一体に接合したクラッド材で刃物を形成することにより、刃物全体の靭性が高まり、刃物への加工性、刃物の耐久性を大幅に改善することができる。


    産業上の利用可能性以上説明の通り、本発明に係る刃物によれば、所定量のCrとAlとを含有する組成を有し、ロックウェルC硬度が52以上であるNi−Cr系合金から構成されているため、特に加工性に優れ刃物の製造工程を大幅に簡素化することができ、さらに使用時に加熱された場合においても刃物の硬度の低下が少なく、耐食性および耐低温脆性に優れ切断性能を長期にわたって良好に維持することが可能になる安価な刃物が得られる。


    【図面の簡単な説明】


    第1図は、本発明に係る刃物としてのナイフの製造工程を示す斜視図である。


    第2図は、(A)はロープ切断試験装置の構成を示す斜視図であり、(B)はロープ切断試験装置において切断時の状態を示す断面図である。


    第3図は、ロープ切断試験において切断回数と切断までに要する刃物の水平移動距離の測定値例との関係を示すグラフである。


    第4図は、実施例1および比較例1に係る刃物を使用したロープ切断試験において、切断回数と切断までに要する刃物の水平移動距離の測定値との関係を示すグラフである。


    第5図は、実施例2〜3および比較例2〜3に係る刃物を使用したロープ切断試験において、切断回数と切断までに要する刃物の水平移動距離の測定値との関係を示すグラフである。


    第6図は、実施例4〜6および比較例4〜5に係る刃物を使用したロープ切断試験において、切断回数と切断までに要する刃物の水平移動距離の測定値との関係を示すグラフである。


    第7図は、実施例8に係る刃物を構成する合金において、Feの置換量と刃物としてのナイフの硬度との関係を示すグラフである。


    第8図は、従来の一般的なステンレス鋼製ナイフの製造工程を示す斜視図である。


    [符号の説明]


    1…板材、2…柄固定用穴、3…成形体、4…刃物素材、5…刀身部、6…柄、7…ナイフ(刃物)。

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