【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、ホブによる歯切り加工する場合における歯車素材の回転駆動方法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、ホブによる歯切り加工時に歯車素材を回転駆動する方法としては、例えば歯車素材の外周にケレーをボルトで固定し、このケレーを介して歯車素材を回転駆動する方法、あるいはホブ盤の駆動軸の端面にその軸線に対して放射状に延びる楔状の複数の突条を形成し、この突条を歯車素材の端面に食い込ませ、突条を介して駆動軸の回転力を歯車素材に伝達させる方法が採用されていた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】前者の方法においては、ケレーと歯車素材との間の回転力の伝達が、ボルトの締付力による摩擦によってのみ行われるため、歯車素材に大きな回転駆動力を伝達することが困難である。 このため、ホブによる重切削を行うことができず、歯切り加工の能率が悪いという問題があった。 一方、後者の方法においては、歯車素材に突条を食い込ませているので、歯車素材に大きな回転力を伝達することができるが、歯車素材の端面に突条の食い込み跡としての凹部が残るのみならず、凹部の周囲が盛り上がってしまう。 このため、例えば特表平6−502713号公報に記載された差動歯車装置の遊星歯車のように、端面が使用される歯車のような場合には、盛り上がりを除去する必要があり、その分だけ工数が増えて歯車の製造効率が低下する。 しかも、盛り上がりを除去したとしても凹部が残ってしまう。 この凹部を除去するには、多大の工数を必要とし、製造効率が大幅に低下してしまう。 【0004】 【課題を解決するための手段】上記の問題を解決するために、請求項1に係る発明は、ホブで歯車素材の外周面を歯切り加工するために歯車素材を回転駆動する方法であって、上記歯車素材の一端面にその軸線上を延びる駆動孔を形成し、この駆動孔に断面非円形の軸体を駆動孔の内周面を塑性変形させるようにして圧入し、この軸体を介して上記歯車素材を回転駆動することを特徴としている。 この場合、上記駆動孔を断面円形に形成し、上記軸体を断面多角形状に形成し、かつその軸線から各角部までの距離を上記駆動孔の半径より大きく設定するのが望ましい。 また、上記駆動孔の開口部側の端部には、駆動孔より内径の大きい逃げ孔を形成するのが望ましい。 また、請求項4に係る発明は、請求項2または3に記載の回転駆動方法によって駆動された歯車素材をホブで歯切り加工することによって製造され、上記断面円形の駆動孔の内周面に上記断面多角形の軸体の角部による塑性変形に対応する凹溝が形成されていることを特徴としている。 【0005】 【発明の実施の形態】以下、この発明の一実施の形態について図1〜図4を参照して説明する。 図1には、この発明に係る駆動方法を採用したホブ盤のセンタ1および駆動軸2並びに歯車素材3が示されている。 【0006】まず、歯車素材3について説明すると、この歯車素材3は、上記公報に記載された差動歯車装置の遊星歯車の素材として用いられるものであり、ネック部3aを間にした一端部と他端部とには、互いに同一外径で長さが異なる大径部3b,3cが形成されている。 各大径部3b,3cには、長さを除いて互いに同一である歯車部が形成される。 なお、形成される歯車部の歯底円を想像線で示してあり、その直径はネック部3aの外径より若干大径になっている。 【0007】歯車素材3の一端面3dには、センタ孔3 1がその軸線を歯車素材3の軸線Lと一致させて形成されている。 歯車素材3の他端面3eには、テーパ孔3 2、逃げ孔33および駆動孔34が一端側へ向かって順次形成されている。 これらの孔32、33,34はいずれも断面円形であり、それぞれの軸線を軸線Lと一致させて配置形成されている。 テーパ孔32は、一端側へ向かって先細りに形成されており、その先端部の内径が逃げ孔33の内径と同一になっている。 逃げ孔33の内径は、駆動孔34の内径より若干大きくなっている。 【0008】次に、ホブ盤について説明すると、センタ1は、歯切り加工時にセンタ孔31に挿入され、歯車素材3の一端部を回転自在に支持するものであり、駆動軸2に対して接近離間する方向へ移動可能になっている。 【0009】一方、駆動軸2は、その軸線をセンタ1の軸線と一致させて配置されており、回転駆動されるようになっている。 この駆動軸2の内部には、センタ1と対向する先端面2aから内部に向かってガイド孔21とそれよりも大径の摺動孔22とが順次形成されている。 これらの孔21,22は、いずれも断面円形であり、駆動軸2の軸線上に配置形成されている。 【0010】ガイド孔21には、軸体4が摺動自在に、 かつ相対回転自在に挿入されている。 軸体4の一端部は、ガイド孔21から外部に突出している。 その突出長さは、歯車素材3の端面3eから逃げ孔33の奥側の端部までの距離と同等かそれより若干短く設定されている。 軸体4の他端部は、摺動孔22内に入り込んでおり、そこには係合部41が形成されている。 【0011】上記駆動孔22には、押しロッド5が回転不能に、かつ摺動自在に挿入されており、シリンダ機構(図示せず)等によって軸線方向へ移動させられるようになっている。 この押しロッド5の先端部には、係合凹部51が形成されている。 そして、この係合部51に軸体4の係合部52が係止されることにより、押しロッド5と軸体4とが一体に、つまり相対移動不能に、かつ相対回転不能に連結されている。 したがって、軸体4は、 駆動軸2により押しロッド5を介して回転駆動されることになる。 勿論、軸体4を駆動軸2に回転不能に設け、 駆動軸2によって直接回転駆動させるようにしてもよい。 その場合には、軸体4と押しロッド5とを相対回転自在に連結してもよい。 【0012】上記軸体4は、歯車素材を構成する金属より硬度の高い金属からなるものであり、図3に示すように、断面正六角形状に形成されている。 軸体4の軸線から各辺までの距離は、駆動孔34の半径より小さく設定されている。 一方、軸体4の軸線から各角部までの距離は、駆動孔34の半径より大きく設定されている。 したがって、軸体4を駆動孔34に挿入すると、各角部が駆動孔34の内周面に食い込んで塑性変形させる。 これにより、軸体4と歯車素材3とが相対回転不能に連結される。 なお、軸体4の軸線から各角部までの距離は、逃げ孔33の半径より小さくなっている。 【0013】次に、歯車素材3をホブ盤でホブ切り加工する場合について説明する。 まず、歯車素材3のセンタ孔31にセンタ1を挿入するとともに、それらの軸線を一致させる。 次に、センタ1を歯車素材3と共に駆動軸2側へ移動させ、歯車素材3の端面3eを駆動軸2の先端面2aに突き当てる。 この場合、歯車素材3が加工中に上下方向へ移動したり、あるいは中心がずれたりするのを阻止するために、所定の圧力をもって突き当てる。 また、素材の移動に伴い、軸体4の外側の端部がテーパ孔32を貫通し、逃げ孔33内に挿入される。 その後、 押しロッド5によって軸体4を駆動孔34に圧入する(図2参照)。 すると、軸体4の各角部が駆動孔3の内周面を塑性変形させた状態で食い込むので、歯車素材3 が軸体4に回転不能に連結される。 したがって、駆動軸2を回転駆動させると、歯車素材3が軸体4を介して回転駆動される。 そして、歯車素材3を回転駆動させつつホブ(図示せず)によって大径部3b,3cを歯切り加工する。 なお、ホブにより歯切り加工は周知のものと同様に行われるのでその説明は省略する。 【0014】ホブ切り加工が完了したら、押しロッド5 を後退移動(図1において下方へ移動)させ、軸体3を駆動孔34から引き抜く。 その後、センタ1を元の位置まで後退移動させ、歯車素材3を歯切り加工して得られた歯車をホブ盤から取り外す。 この歯車の駆動孔34の内周面には、軸体4の各角部によって塑性変形された部分が軸線L方向に延びる溝として残る。 【0015】上記のように、この発明の駆動方法によれば、歯車素材3の駆動孔34に断面六角形の軸体4を圧入して駆動孔34の内周面を塑性変形させ、これによって歯車素材3と軸体4とを回転不能に連結しているから、歯車素材3と軸体4とが相対回転することがない。 したがって、歯車素材3に大きな回転力を伝達することができる。 よって、ホブによる重切削加工が可能になり、歯切り加工の能率を向上させることができる。 【0016】また、歯車素材3の内部に形成された駆動孔34に軸体4を圧入するものであるから、軸体4の圧入による塑性変形分が歯車素材3の端面3eその他の外面に現出することがない。 例えば、この実施の形態であれば、軸体4の各角部が駆動孔34の内周面に食い込むことによる塑性変形分は、軸体4の各辺部と対向する駆動孔34の内周面に突出部として現出し、外部には現出しない。 したがって、後加工が全く不要になる。 したがって、歯切り加工の能率をより一層向上させることができる。 【0017】ところで、歯車素材3により大きな回転力を伝達するためには、軸体4の各角部の駆動孔34の内周面に対する食い込み量を大きくする必要がある。 ところが、軸体4の角部を駆動孔34の内周面に大きく食い込ませると、図4に示すように、駆動孔34の内周面の塑性変形分が駆動孔34の開口部側に突出することがある。 この場合、仮に駆動孔34を端面3eに直接開口させたり、あるいはテーパ孔32に連続させるようにしていると、そのような突出部が端面3eまたはテーパ孔3 2の内周面を盛り上げる。 このため、端面3eまたはテーパ孔32を後加工する必要が生じる。 なお、テーパ孔32は、歯車部の精度を測定する場合に用いられるものであり、そのような盛り上がり部があると測定精度に狂いが生じてしまう。 【0018】この点、この実施の形態においては、駆動孔34の開口部側にそれより大径の逃げ孔33を形成しているので、駆動孔34の内周面の塑性変形分は、逃げ孔33の奥側の端部を盛り上げるだけであり、端面3e あるいはテーパ孔32の内周面を盛り上げることがない。 したがって、端面3e、テーパ孔32を後加工する必要がない。 【0019】なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、適宜変更可能である。 例えば、上記の実施の形態においては、軸体4を断面正六角形状にしているが、断面非円形であれば他の形状、例えば八角形、楕円形等にしてもよい。 【0020】 【発明の効果】以上説明したように、請求項1〜4に係る発明によれば、ホブによる重切削加工を可能にすることができ、しかも後加工を不要にすることができる。 よって、ホブによる歯切り加工の能率を向上させることができるという効果が得られる。 特に、請求項3に係る発明によれば、歯車素材に伝達する回転力をより大きくするために、駆動孔の内周面に対する軸体の食い込み量を大きくしたとしても、後加工を確実に不要にすることができるという効果が得られる。 【図面の簡単な説明】 【図1】この発明が適用されたホブ盤のセンタおよび駆動軸並びに歯車素材を示す概略構成図である。 【図2】歯車素材の駆動孔に軸体を圧入した状態を示す断面図である。 【図3】図2のX−X拡大断面図である。 【図4】図3のY−Y拡大断面図である。 【符号の説明】 3 歯車素材 4 軸体 33 逃げ孔 34 駆動孔 |