【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】この発明は振動子の製造方法に関し、特にたとえば、振動ジャイロの振動体として用いられる振動子の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来の振動子としては、たとえば鉄系合金からなる金属材料を3角柱状に形成したものがある。 この振動子は、たとえば回転角速度センサなどに用いられ、その場合振動子の側面に圧電素子が取り付けられる。 このような振動子を製造する方法としては、引抜加工によって、円柱状の金属材料を断面三角形の柱状に形成する方法がある。 回転角速度センサの振動子として使用するためには、振動子が恒弾性特性を有していることが望ましく、恒弾性特性の発現のために、振動子の製造過程において振動子にある特定量の弾性ひずみが付与される。 【0003】図4および図5を参照しながら、従来の引抜加工による振動子の製造方法について説明する。 まず、金属材料からなる線材1が準備される。 線材1は、 たとえば4.2mmの直径を有する丸線状に形成され、 ロール状に巻き取られて準備される。 線材1は、引抜加工装置2によって伸線される。 引抜加工装置2は、線材1を伸線しながら断面三角形状に形成するための4個の三角ダイス3a〜3dを含む。 図5は4個の三角ダイス3a〜3dの成形孔の形状を示すための平面図解図である。 図5に示すように、三角ダイス3a〜3dの成形孔は、順に、たとえば11.2562mm 2 ,9.141 4mm 2 ,7.4332mm 2 ,5.9067mm 2の断面積を有するように形成される。 したがって、減面率はそれぞれ約19%となる。 【0004】三角ダイス3a〜ダイス3cは、連続して作用して、線材1を断面三角形状に形成する。 三角ダイス3a〜3cのそれぞれの下流には、ドラム4a〜4d がそれぞれ配置される。 線材1は、三角ダイス3a〜3 cをそれぞれ通過したのち、ドラム4a〜4dにたとえば1重巻きにされながら、所定の張力で巻取リール5に巻き取られる。 巻取リール5に巻き取られた線材1は、 たとえば表面皮膜処理などがされた後、三角ダイス3d に通過され、断面形状が三角形状に仕上げられる。 そして、三角ダイス3dを通過した線材1は、たとえば長さ4000mmに切断される。 さらに、この線材1は、引っ張り矯正された後、たとえば40mmずつに切断されて、次工程に送られる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の振動子の製造方法では、引抜加工中にドラム4a〜4d や巻取リール5による線材1の曲げ工程が存在した。 そのため、線材1の各辺における歪分布が、線材1の断面の重心と頂点とを結ぶ線に対して対称とならずに不均一になった。 また、線材1の断面の頂点付近での塑性変形が小さいため、頂点付近の弾性歪が恒弾性特性の出る範囲内に入らなかった。 その結果、図6に示すように、従来の振動子の製造方法では、製造された振動子の固有振動数の温度ドリフトの差が、サンプル毎に大きくばらつき、歩留りが低くなるという問題があった。 また、振動子としても温度ドリフトが大きく、雰囲気温度により特性が変動しやすいという問題があった。 【0006】それゆえに、この発明の主たる目的は、歩留りが高く、温度ドリフトの小さな振動子の製造方法を提供することである。 【0007】 【課題を解決するための手段】上述のような課題を解決するために、請求項1の振動子の製造方法は、金属材料からなる線材の引抜工程を含む振動子の製造方法において、少なくとも引抜工程以後は、線材を巻き取らずに直線状のまま加工することを特徴とする。 【0008】また、請求項2の振動子の製造方法は、金属材料を所定の長さの直線状に切断してなる線材を準備する工程と、線材をダイスに通して真っ直ぐに引き抜く工程とを含む振動子の製造方法であって、線材の歪分布が、線材の断面の重心と頂点とを結ぶ線に対して対称となり、かつ線材の表面付近の歪分布が、恒弾性特性の出る弾性歪範囲に入るようにダイスが形成されることを特徴とする。 【0009】 【作用】この発明の振動子の製造方法によれば、少なくとも引抜工程以後は、線材が巻き取られずに直線状のまま加工されるので、線材の歪分布が、線材の断面の重心と頂点とを結ぶ線に対して対称となり、歪分布が均一化される。 また、線材の断面の頂点付近での塑性変形が大きくなる。 【0010】 【発明の効果】この発明の振動子の製造方法によれば、 線材の歪分布が、線材の断面の重心と頂点とを結ぶ線に対して対称となり均一化されるので、温度ドリフトが安定化し、従来の製造方法では得られなかった高い歩留りを得ることができる。 そのため、回転角速度センサの振動子として使用した場合には、雰囲気温度の変動に対して安定した特性を得ることができる。 さらに、線材の断面の頂点付近での塑性変形が大きくなるため、振動子として良好な恒弾性特性を発現させることができる。 【0011】この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。 【0012】 【実施例】図1はこの発明の一実施例を示す図解図である。 まず、金属材料からなる線材10が準備される。 金属材料としては、たとえば鉄系合金、特に好ましくは鉄−ニッケル−クロム系合金が使用される。 図1(a)に示すように、この線材10は、丸ダイス12により引抜加工される。 この丸ダイス12は、たとえば直径5mm の円形の成形孔を有する。 したがって、線材10は、直径5mmの丸線状に形成され、さらに、長さ500mm ずつに切断される。 【0013】次に、この線材10は、図1(b)に示すように、水素雰囲気中、800°Cで2時間熱処理される。 熱処理された線材10は、後工程の引抜加工に備えてその表面を粗すため、たとえば塩化第2鉄などの酸により洗浄される。 【0014】さらに、この線材10は、三角ダイス1 4,16,18,20により、外形を形成されながら引抜加工される。 三角ダイス14,16,18,20は、 図2に示すように、三角形状の成形孔14a,16a, 18a,20aを有する。 成形孔14aは、たとえば1 4.7584mm 2の面積を有する。 成形孔16aは、 たとえば11.0044mm 2の面積を有する。 成形孔18aは、たとえば8.0967mm 2の面積を有する。 さらに、成形孔20aは、たとえば6.1024m m 2の面積を有する。 したがって、減面率はそれぞれ約25%となる。 線材10は、約500kg・fの引き抜き力で三角ダイス14,16,18,20の順で引き抜かれて、図1(c)に示すように、断面三角形状に形成される。 【0015】こうして、断面三角形状に形成された線材10は、図1(d)に示すように、たとえば40mmずつの長さに切断されて、次工程に送られる。 【0016】この発明の振動子の製造方法によれば、少なくとも引抜工程以後は、線材が巻き取られずに直線状のまま加工されるので、線材の歪分布が、線材の断面の重心と頂点とを結ぶ線に対して対称となり均一化する。 【0017】また、図5に示す従来のダイス3a〜3d による引抜加工では、線材10の断面三角形の頂点近傍においては塑性変形量が低く、恒弾性特性が発現しない場合があった。 この実施例によれば、線材10の直径を従来より太くし、また、三角ダイス14,16,18, 20による成形時の減面率を従来より大きくし、かつそれらの成形孔の形状を図2に示すようにしたことにより、断面三角形の線材10の頂点近傍においても塑性変形量を大きくすることができる。 その結果、断面三角形の線材10の頂点近傍においても、塑性変形量が恒弾性特性の出る弾性歪範囲に入ることとなる。 この場合、恒弾性特性の出る弾性歪範囲とは、線材に使用される金属材料の組成により最適な範囲が選択される。 【0018】図3は、この実施例により製造された振動子の断面の重心と頂点とを結ぶ3つの方向の、固有振動数の温度ドリフトの差について、試料毎のばらつきを示すグラフである。 図3に示すように、この実施例の製造方法によれば、固有振動数の温度ドリフトの差のばらつきが低くなり安定化する。 したがって、この振動子の製造方法によれば、従来の製造方法では得られなかった高い歩留りを得ることができる。 また、雰囲気温度の変動に対しても安定した特性を有する振動子を得ることができる。 なお、ダイスに形成される成形孔の面積および減面率は、線材に使用される金属材料の組成および振動子に要求される特性精度により最適な値が選択される。 【図面の簡単な説明】 【図1】この発明の一実施例を示す図解図である。 【図2】図1に示す実施例に用いられる三角ダイスを重ねて示す平面図解図である。 【図3】図1に示す実施例の固有振動数の温度ドリフト差について試料毎のばらつきを示すグラフである。 【図4】従来の振動子の製造方法の一例を示す図解図である。 【図5】図4に示す従来例に用いられる三角ダイスを重ねて示す平面図解図である。 【図6】図1に示す実施例の固有振動数の温度ドリフト差について試料毎のばらつきを示すグラフである。 【符号の説明】 10 線材 12 丸ダイス 14〜20 三角ダイス 14a〜20a 成形孔 |