Compression coil spring and a method of manufacturing the same

申请号 JP2011175520 申请日 2011-08-11 公开(公告)号 JP5064590B1 公开(公告)日 2012-10-31
申请人 日本発條株式会社; 发明人 和也 井海; 芳樹 小野; 裕一郎 小野; 透 白石;
摘要 【課題】線材に適切な圧縮残留応 力 を付与することにより、安価な線材を用いて、高耐久性の圧縮コイルばねおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含む円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向における表面から0.2mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が100MPa以上である圧縮コイルばね。
【選択図】図4
权利要求
  • 重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含 み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向における表面から0.2mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が100MPa以上であることを特徴とする圧縮コイルばね。
  • 重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含 み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向における無負荷時の圧縮残留応力の値がゼロとなる表面からの深さをクロッシングポイントとし、表面からクロッシングポイントまでの領域における無負荷時の圧縮残留応力の積分値をI −σRと表したとき、I −σRが180MPa・mm以上であることを特徴とする圧縮コイルばね。
  • 重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%、Cr、B、Ni、Ti、Cu、Nb、V、Mo、Wのうち1種または2種以上を0.005〜4.5%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向における表面から0.2mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さでの無負荷時の圧縮残留応力が100MPa以上であることを特徴とする圧縮コイルばね。
  • 重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%、Cr、B、Ni、Ti、Cu、Nb、V、Mo、Wのうち1種または2種以上を0.005〜4.5%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向における無負荷時の圧縮残留応力の値がゼロとなる表面からの深さをクロッシングポイントとし、表面からクロッシングポイントまでの領域における無負荷時の圧縮残留応力の積分値をI −σR と表したとき、I −σR が180MPa・mm以上であることを特徴とする圧縮コイルばね。
  • コイルばね内径側において、無負荷時の最大圧縮残留応力が850MPa以上であることを特徴とする請求項1 〜4のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • Crを 0.5〜2.0重量%含むことを特徴とする請求項 3または4に記載の圧縮コイルばね。
  • ばね指数が3〜8であることを特徴とする請求項1〜 のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • 表面粗さRz(最大高さ)が20μm以下であることを特徴とする請求項1〜 のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • 圧縮残留応力がショットピーニング処理により付与されていることを特徴とする請求項1〜 のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • 前記ショットピーニング処理が、粒径0.6〜1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2〜0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02〜0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理であることを特徴とする請求項 に記載の圧縮コイルばね。
  • JIS G0551に規定される旧オーステナイト平均結晶粒度が、10番以上であることを特徴とする請求項1〜 10のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • SEM/EBSD法を用いたIPF Map(方位角度差5°以上の境界を粒界とする)における平均結晶粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜 11のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • ばね形状が、円筒形、または、円錐形、釣鐘形、鼓形、樽形等の異形であることを特徴とする請求項1〜 12のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • 連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、前記鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、前記鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切離するための切断手段とを有し、
    前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、
    さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間において前記鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段とを有するコイルばね成形機により成形され、ショットピーニング処理を施されていることを特徴とする請求項1〜 13のいずれかに記載の圧縮コイルばね。
  • 前記加熱手段が高周波加熱であり、前記ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくは前記ワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端と前記コイリングツールとの空間における鋼線材の通過経路上に前記鋼線材と同心となるよう高周波加熱コイルが配置されていることを特徴とする請求項 14に記載の圧縮コイルばね。
  • 連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、前記鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、前記鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切離するための切断手段とを有し、
    前記コイリング部は、前記フィードローラにより供給された鋼線材を適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、
    さらに、前記フィードローラの出口から前記コイリングツールの間において前記鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段とを有するコイルばね成形機により前記鋼線材を成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、前記コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行うことを特徴とする圧縮コイルばねの製造方法。
  • 前記加熱手段が高周波加熱であり、前記ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくは前記ワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端と前記コイリングツールとの空間における鋼線材の通過経路上に前記鋼線材と同心となるよう高周波加熱コイルが配置されていることを特徴とする請求項 16に記載の圧縮コイルばねの製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は、たとえば自動車のエンジンやクラッチ内で使用される圧縮コイルばねに関し、特に、高応下の使用環境においても優れた耐疲労性を有する圧縮コイルばねおよびその製造方法に関する。

    近年、環境問題を背景に自動車への低燃費化の要求が年々厳しくなっており、自動車部品に対する小型軽量化がこれまで以上に強く求められている。 この小型軽量化の要求に対し、たとえばエンジン内で使用されるバルブスプリングや、クラッチ内で使用されるクラッチトーションスプリングをはじめとする圧縮コイルばね部品においては、材料の高強度化や、表面処理による表面強化の研究が盛んであり、その結果をもってコイルばねの特性として重要な耐疲労性の向上や、耐へたり性の向上を図ってきている。

    一般に、コイルばねの製造方法は、熱間成形法と冷間成形法に大別される。 熱間成形法は、線径dが大きい、そしてコイル平均径Dと線径dとの比であるばね指数D/dが小さいなど、その加工性の悪さから冷間成形が困難であるコイルばねの成形に用いられ、コイルばね材としては炭素鋼やばね鋼が用いられている。 熱間成形法では、図1(A)に示すように、線材を加工し易いように高温に加熱して芯金に巻き付けてコイルばね形状にコイリングし、焼入れ・焼戻し後に、さらにショットピーニングやセッチングを施して、コイルばねの性能として主要となる耐疲労性や耐へたり性を得ている。 なお、熱間成形法においては、無芯金でのコイリングは技術的に非常に困難であるためこれまで実用化には至っていない。 よって、熱間成形法は芯金を用いることが従来の技術では必須であり、成形できるコイルばねとしては、無芯金でコイリング可能な冷間成形法と比べ形状の自由度が低い。

    一方、比較的線径が細い、あるいはばね指数が大きいなどの要因から冷間成形が可能な形状のコイルばねについては、加工技術の容易さや、加工速度や設備費等に拠る量産性(タクト、寸法精度、コスト)の観点から、一般的に冷間成形法が採用されている。 また、無芯金での成形技術が確立されており、コイルばねの形状自由度が高いことも、冷間成形法が用いられる大きな一因となっている。 冷間成形法においては、ばね材としては、炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線といった硬引線が従来用いられてきた。 しかしながら、近年、軽量化の観点から材料の高強度化が求められており、高価なオイルテンパー線が広く用いられるようになってきている。

    冷間成形法では、図1(B)および(C)に示すように、線材を冷間でコイルばね形状にコイリングし、焼鈍後、ショットピーニングおよびセッチングを必要に応じて施す。 ここで、焼鈍は、コイルばねの耐疲労性向上の阻害要因となる加工によって生じた残留応力を除去することを目的としており、ショットピーニングによる表面への圧縮残留応力の付与と合わせ、コイルばねの耐疲労性向上に寄与する。 なお、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングのような高負荷応力で使用されるコイルばねについては、窒化処理をはじめとした表面硬化処理がショットピーニング前に必要に応じて施される。

    さらなる耐疲労性の向上を目指した研究が盛んに行われている。 たとえば、特許文献1には、冷間成形用のオイルテンパー線が記載されており、残留オーステナイトの加工誘起変態を利用して耐疲労性を向上させる技術が開示されている。 特許文献2には、窒化処理を施した線材の表面に、異なる投射速度での多段ショットピーニングを施すことで大きな圧縮残留応力を付与し、耐疲労性の向上を図る技術が開示されている。

    特許文献1においてコイリング後のコイルばねには残留応力が生じる。 この残留応力、特にコイル内径側表面に発生する線軸方向の引張残留応力は、コイルばねとしての耐疲労性向上の阻害要因である。 そして、通常はこの加工による残留応力を除去するために焼鈍を施すが、焼戻し軟化抵抗が高い特許文献1にある線材をもってしても、線材の強度を維持したうえでこの残留応力を完全に除去することが困難なことは容易に推定でき、当業者にとっては周知である。 したがって、その後ショットピーニングを施したところで、加工によってコイル内径側に発生した引張残留応力の影響により線材表面に十分な圧縮残留応力を付与することは困難であり、コイルばねとしての十分な耐疲労性を得ることができない。 また、焼戻し軟化抵抗の向上に寄与するV、Moといった元素は高価である。 よって、線材が非常に高価となり、当然、製品としてのコイルばねも高価なものとなる。

    また、特許文献2では、コイルばねの線材表面近傍(以下、「表面」と称す)の圧縮残留応力は1400MPa程度あり、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングクラスの高負荷応力下で使用するコイルばねとして、表面における亀裂発生抑制に対しその圧縮残留応力は十分である。 しかしながら、表面の圧縮残留応力を向上させた結果、線材内部での圧縮残留応力は小さくなり、介在物などを起点とする線材内部での亀裂発生に対しては、その圧縮残留応力の効果が乏しくなる。 つまり、特許文献2による手段では、ショットピーニングにより与えられるエネルギーに限りがあるため、すなわち圧縮残留応力分布の変化は与えられるものの圧縮残留応力の総和を大きく向上させることは困難である。 先述した加工による残留応力の影響を解消することなどは考慮されておらず、よって、同じ強度の線材に対してその耐疲労性の向上効果は乏しい。

    なお、表面圧縮残留応力を向上させる手段は様々実用化されているが、その結果、たとえば線径1.5〜9.0mm程度のコイルばねにおいては、線材表面からの深さ(以下、「深さ」と称す)0.1〜0.4mmの範囲に外部負荷による作用応力と残留応力との和である合成応力の最大値が存在し、その合成応力の最も高い部分が破壊起点となっているのが実情である。 したがって、深さ0.1mm〜0.4mmの範囲において大きな圧縮残留応力を確保することが、耐疲労性に対し重要である。

    また、冷間成形法においてコイリング加工により発生する残留応力をほぼ完全に解消し、かつ所望される線材としての強度を確保する手段としては、冷間成形後のコイルばねをオーステナイト域まで加熱し、その後焼入れ焼戻し処理を施す方法が考えられる。 しかしながら、この場合、コイルばね形状となったものを短時間で均一に加熱することが難しい。 その結果、組織の斑が発生し、すなわち強度の低い部分が存在することから所望する耐疲労性を得ることは難しく、また、製品としての信頼性を確保し難くなる。

    ここで、均一に加熱する手段としては加熱時間を長くすることが有効ではあるが、その場合は結晶粒が粗大化するため、やはり耐疲労性の低下を招いてしまう。 更に、冷間成形後のコイルばねには、大きな加工ひずみが残留しており、かつその残留している加工ひずみの量はコイルばね個体内で均一では無く、また、コイルばね個体間でのばらつきも大きい。 その結果、加工ひずみを加熱によって解放する際に大きく不均一な形状変化を伴い、また、その形状変化の個体間での大きなばらつきも避けられない。 よって、たとえばバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等において求められる寸法精度を確保することが難しく、このような加熱による残留応力解放手段を量産製品へ適用することは困難である。

    特許第3595901号

    特開2009−226523号公報

    上記のように、従来の製造方法や特許文献1、2等では、近年の高応力下での耐疲労性の更なる向上とコスト低減の両立を求めた要求に対し、その対応は困難を来す。 また、冷間成形用として現在主流となっているオイルテンパー線は高価であり、中でも性能向上のためにNi、V、Moといった高級元素を添加したオイルテンパー線は非常に高価である。 さらに、成形後の焼鈍処理で加工による残留応力を完全に解消できていないことから、線材の性能を十分に活用できていない。

    本発明は、このような背景の下、コイリング加工による残留応力の発生を防止すると共に、成形後の線材に適切な圧縮残留応力分布を付与することにより、安価な線材を用いて、高耐久性の圧縮コイルばねおよびその製造方法を提供することを目的とする。

    本発明者らは、コイルばねの耐疲労性について鋭意研究を行った。 その結果、加工により発生する残留応力は、焼戻し軟化抵抗を向上させる高級元素を添加するといった鋼成分の調整や、その後の焼鈍条件の調整によってある程度の低減は可能であるが、負荷応力に対する耐疲労性や耐へたり性に必要な鋼の強度を維持しつつ、その加工により生じた残留応力を完全に解消することは根本的に困難であるとの考えに至った。 そこで、コイルばね線材をオーステナイト域まで加熱した状態でコイリング加工を行い、加工時の残留応力の発生を抑制して作製することにより、後に行うショットピーニングやセッチングの効果を効率的に得ることができることを見出した。

    また、オーステナイト域までの加熱段階において、その加熱をより短時間で行うことは、旧オーステナイト結晶粒径(以下、「結晶粒径」と称す)の粗大化抑制、或いは、微細化に繋がる。 そしてこの結晶粒径は耐疲労性と密接な関係にあり、結晶粒径の微細化は耐疲労性の向上に有効である。 よって、短時間で加熱された線材を用いて熱間加工することで、加工に起因する残留応力の発生を抑制することと相まって、より耐疲労性に優れたばねの製作が可能となる。

    すなわち、本発明の圧縮コイルばねは、重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねにおいて、任意の線材横断面における硬さが570〜700HVであり、コイルばね内径側において、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向において、表面から0.2mm深さにおける無負荷時の圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さにおける無負荷時の圧縮残留応力が100MPa以上であることを特徴とする。 ここで、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向とは、線材の軸方向に対し略+45°方向を示す。 そして、この最大主応力方向はコイルばね形状(特にピッチとの関係)により変化するものであり、その方向は軸方向に対し+45°〜+60°の範囲に存在する。

    また、本発明の圧縮コイルばねは、重量%で、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材を用いた圧縮コイルばねであり、線材の任意の横断面における硬さが570〜700HVであり、ばねの内径側において、I −σRが180MPa・mm以上であることを特徴とする。 ここで、I −σRとは、深さと残留応力の関係図における、表面からクロッシングポイントまでの無負荷時の圧縮残留応力の積分値である。 なお、クロッシングポイントとは、線材内部において、無負荷時に表面からの圧縮残留応力がゼロになる深さであり、クロッシングポイントが大きいことは、圧縮残留応力が表面から深くまで入っていることを示唆している。 また、圧縮残留応力は、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向、すなわち、線材の軸方向に対し略+45°方向におけるものである。

    以下に、本発明に規定する数値範囲の限定理由を説明する。 まず、本発明に用いる鋼線材の化学成分の限定理由について説明する。 本発明においては、Cを0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%を含み、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼線材を用いる。 なお、以下の説明において、「%」は「重量%」を意味する。

    (1)材料成分C:0.45〜0.85%
    Cは、強度向上に寄与する。 Cの含有量が0.45%未満では、強度向上の効果が十分に得られないため、耐疲労性、耐へたり性が不十分となる。 一方、Cの含有量が0.85%を超えると、靭性が低下して割れが発生し易くなる。 このため、Cの含有量は0.45〜0.85%とする。

    Si:0.15〜2.5%
    Siは、鋼の脱酸に有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与する。 Siの含有量が0.15%未満では、これらの効果が十分に得られない。 一方、Siの含有量が2.5%を超えると靭性が低下して割れが発生し易くなると共に、脱炭を助長し線材表面強度の低下を招く。 このため、Siの含有量は0.15〜2.5%とする。

    Mn:0.3〜1.0%
    Mnは焼入れ性の向上に寄与する。 Mnの含有量が0.3%未満では、十分な焼入れ性を確保し難くなり、また、延靭性に有害となるSの固着(MnS生成)の効果も乏しくなる。 一方、Mnの含有量が1.0%を超えると、延性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。 このため、Mnの含有量は0.3〜1.0%とする。

    なお、これら添加元素は本発明を構成するうえで最低必要な元素であって、他元素の添加を限定するものではない。 すなわち、本発明においては、ばね鋼の成分組成として一般的に用いられているCr、B、Ni、Ti、Cu、Nb、V、Mo、W等の元素のうち1種または2種以上を0.005〜4.5%、その目的に応じて適宜添加することが可能であり、その結果、より高性能、若しくは、用途により適したコイルばねの製造も可能となる。 たとえば、Crを添加する場合について以下に述べる。

    Cr:0.5〜2.0%
    Crは脱炭を防止するのに有効であると共に、強度向上や焼戻し軟化抵抗向上に寄与し、耐疲労性の向上に有効である。 また、温間での耐へたり性向上にも有効である。 このため、本発明においてはさらに、Crを0.5〜2.0%含有することが好ましい。 Crの含有量が0.5%未満では、これらの効果を十分に得られない。 一方、Crの含有量が2.0%を超えると、靭性が低下し、割れや表面キズが発生し易くなる。

    (2)硬さ 高負荷応力下で使用されるバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等としては、要求される耐疲労性と耐へたり性を満足するために、コイルばねとしては後述の圧縮残留応力分布と共に線材自体の強度も重要である。 すなわち、線材の任意の横断面における平均ビッカ−ス硬さが、570〜700HVの範囲であることが必要であり、570HV未満の場合は、その材料強度の低さから十分な耐疲労性と耐へたり性が得られない。 また、700HVを超えた場合は、靭性の低下に伴う切欠き感受性の高まりから、コイリング時にツール類との擦れにより発生した表面キズや、ショットピーニングで形成される線材表面粗さの谷部を起点とした亀裂発生による早期折損の危険性が増大し、信頼性が重要な自動車部品として用いるには不適となる。

    (3) 残留応力 本発明者等は、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングとして要求される作用応力と、疲労折損起点と成りうる様々な要因(延靭性、非金属系介在物、不完全焼入れ組織等の異常組織、表面粗さ、表面キズ等々)との関係における破壊力学的計算、及び、実際の耐久試験等による検証から、コイルばねの線材表面近傍に必要な圧縮残留応力について次の結論を得た。 なお、本発明における圧縮残留応力は、ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向、すなわち、線材の軸方向に対し+45°方向におけるものである。

    ばねにおける線材表面から内部に亘る圧縮残留応力分布は、ショットピーニングおよびセッチングにより与えられる。 上述のように、ばねとしての耐疲労性向上に対しては、線材表面の圧縮残留応力向上はもとより、内部における圧縮残留応力をより大きく深く導入することが必要であり、特に、実質的に破壊起点となっている深さ0.1〜0.4mm程度の範囲の圧縮残留応力を更に大きくすることが重要である。 そして、その線材内部での圧縮残留応力分布を示す指標としては、深さ0.2mmにおける無負荷時の圧縮残留応力を200MPa以上、かつ深さ0.4mmにおける無負荷時の圧縮残留応力を100MPa以上とする。 深さ0.2mmの位置での無負荷時の圧縮残留応力が200MPa未満、および/または深さ0.4mmにおける無負荷時の圧縮残留応力が100MPa未満であると、内部起点の疲労破壊を抑制するには不十分である。

    また、圧縮残留応力の内部における大きさ、あるいは深さを示す他の指標であるI −σRについては、180MPa・mm以上とする。 また、さらにもう一つの指標であるクロッシングポイントについては、たとえば線径1.5〜9.0mmの線材を用いた場合は、表面から深さ0.45mm以上であることが好ましい。 いずれの場合も、ばねの内径側における表面の無負荷時の最大圧縮残留応力としては、高負荷応力が作用するバルブスプリングやクラッチトーションスプリングを対象とした場合は、850MPa以上であることが好ましい。 このように圧縮残留応力分布を設定することにより、耐疲労性に優れた圧縮コイルばねを得ることができる。

    本発明における圧縮残留応力分布は、ショットピーニング処理とその後のセッチング処理により形成されることが好ましい。 ショットピーニング処理において多段ショットピーニングを施す場合は、後に実施するショットピーニングに用いるショットの球相当直径は、先に実施するショットピーニングに用いるショットの球相当直径より小さいことが好ましい。 具体的には、ショットピーニング処理は、粒径0.6〜1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2〜0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02〜0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理であることが好ましい。 これにより、先に実施したショットピーニングにより増加した表面粗さを後に実施するショットピーニングによって低減することができる。

    なお、ショットピーニング処理におけるショット径や段数は上記に限らず、要求性能に応じて、必要とする残留応力分布や表面粗さ等が得られれば良い。 したがって、ショット径や材質、段数等は適宜選択する。 また、投射速度や投射時間によっても導入される圧縮残留応力分布は異なってくるため、これらも必要に応じて適宜設定する。

    (4)コイルばね形状 本発明は、コイリング時の加工度が大きく、高い耐疲労性と耐へたり性の両立が必要とされる、次に挙げる仕様の圧縮コイルばねに好適である。 本発明は、線材の円相当直径(線材横断面積から算出した真円とした場合の直径、角形や卵形をはじめとした非円形断面も含む)が1.5〜10mm、ばね指数が3〜20である、一般的に冷間成形されている圧縮コイルばねに利用できる。

    中でも、コイリング時の加工度が大きく(すなわち、冷間成形ではコイリング加工により発生するコイル内径側の引張残留応力が大きい)、かつ、高い耐疲労性が必要とされるバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等で使用される円相当直径が1.5〜9.0mm、ばね指数が3〜8である圧縮コイルばねに対し好適である。

    また、従来の熱間成形法とは異なり、後述するコイルばね成形機を用いるため、本発明におけるコイリング加工では芯金が不要である。 したがって、成形できるばね形状の自由度が高い。 すなわち本発明におけるコイルばね形状としては、コイルばねとして代表的な全巻目でコイル外径にほぼ変化がない円筒形をはじめ、これ以外の形状のコイルばねにも適用できる。 たとえば、円錐形、釣鐘形、鼓形、樽形等の異形ばねの成形も可能である。

    (5)表面粗さ 高負荷応力下で使用されるバルブスプリングやクラッチトーションスプリング等としては、要求される耐疲労性を満足するために、上述の圧縮残留応力分布と共に表面粗さも重要である。 本発明者らが破壊力学的計算とその検証実験を行った結果、表面起点による亀裂の発生・進展に対しては、表面キズの深さ(すなわち、表面粗さRz(最大高さ))を20μm以下とすることで、その影響を無害化できることが判明している。 このため、表面粗さRzが、20μm以下であることが好ましい。 Rzが20μmを超える場合、表面粗さの谷部が応力集中源となり、その谷部を表面起点とした亀裂の発生・進展が起こり易くなるため、早期折損を招く。

    (6)旧γ(オーステナイト)結晶粒の平均結晶粒度 旧γ結晶粒の平均結晶粒度測定方法はJIS G0551に規定されており、耐疲労性向上には旧γ平均結晶粒度番号Gが10番以上であることが好ましい。 この場合、旧γ結晶粒が微細であることから疲労亀裂先端の応力集中部におけるすべりの移動を防ぐことができるため、亀裂進展を抑制する効果が大きく、所望の耐疲労性を得ることができる。 そして、10番未満の場合には、亀裂進展抑制効果が乏しく、十分な耐疲労性を得難くなる。

    (7)平均結晶粒径 また、SEM/EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法を用いたIPF Map(方位角度差5°以上の境界を粒界とする)による平均結晶粒径が1μm以下であることが好ましい。 平均結晶粒径が1μmを超えた場合には、十分な耐疲労性を得難くなる。 そして、平均結晶粒径が小さいこと、すなわち、旧γ粒内のブロックやラスが微細であることは、亀裂進展に対する抵抗が大きいため、耐疲労性の向上に対し好適である。

    また、本発明の圧縮コイルばねは、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切離するための切断手段とを有し、コイリング部は、フィードローラにより供給された鋼線材を適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、さらに、フィードローラの出口からコイリングツールの間において鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段とを有するコイルばね成形機により成形され、ショットピーニング処理を施されていることが望ましい。

    本発明の圧縮コイルばねにおいては、加熱手段が高周波加熱であり、ワイヤガイド内における鋼線材の通過経路上若しくはワイヤガイドにおける鋼線材出口側末端とコイリングツールとの空間における鋼線材の通過経路上に鋼線材と同心となるよう高周波加熱コイルが配置されていることが好ましい。 なお、鋼線材を短時間でオーステナイト域まで昇温できれば良いため、高周波加熱以外の通電加熱やレーザ加熱によって加熱を行っても良い。

    本発明の圧縮コイルばねの製造方法は、連続的に鋼線材を供給するためのフィードローラと、鋼線材をコイル状に成形するコイリング部と、鋼線材を所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材とを切離するための切断手段とを有し、コイリング部は、フィードローラにより供給された鋼線材を適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングピンもしくはコイリングローラからなるコイリングツールと、ピッチを付けるためのピッチツールとを備えており、さらに、フィードローラの出口からコイリングツールの間において鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温する加熱手段とを有するコイルばね成形機により鋼線材を成形するコイリング工程と、コイリングした後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れする焼入れ工程と、コイルを調質する焼戻し工程と、線材表面に圧縮の残留応力を付与するショットピーニング工程と、セッチング工程とを順に行うことを特徴とする。

    本発明において、焼戻し工程は、焼入れ工程によって硬化されたコイルを適切な硬さと靭性を有するコイルに調質するために行う。 よって、焼入れままで所望の硬さと靭性とが得られる場合には、焼戻し工程は省略しても良い。 そして、ショットピーニング工程では、多段ショットピーニングを行っても良く、更に、表面弾性限の回復を目的とした低温時効処理を必要に応じ組み合わせても良い。 ここで、低温時効処理はショットピーニング工程後、あるいは多段ショットピーニングの各段の間にて行うことができ、多段ショットピーニングにおける最終段として粒径0.02〜0.30mmのショットによるショットピーニングを施す場合には、その前処理として行うことが、最表面の圧縮残留応力をより高める上で好適である。 なお、セッチング工程においてへたり防止処理としてコイルに施すセッチングとしては、コールドセッチング、ホットセッチング等種々方法はあるが、所望する特性により適宜選択する。

    上記コイルばね成形機で熱間コイリングすることにより、加工による残留応力の発生を防止することができる。 そして、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域まで昇温するため、結晶粒の粗大化を防ぐことができ、優れた耐疲労性を得ることができる。 また、熱間コイリングを行うため、窒化処理のような表面強化処理を施さなくても、優れた耐疲労性を得ることができ、製造コストの低減を図ることができる。

    本発明は、ばね材として使用される炭素鋼線、硬鋼線、ピアノ線、ばね鋼線といった硬引線や、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、シリコンクロムバナジウム鋼オイルテンパー線といったオイルテンパー線等に対して適用が可能である。 特に、安価な硬引線に適用することが好適である。 これは、高周波加熱を利用した熱間成形によるため、安価な線材を利用しても高級元素が添加された高価なオイルテンパー線を使用した従来の冷間成形ばねよりも優れた耐疲労性のばねを得ることができるためである。

    本発明によれば、線材に適切な圧縮残留応力を付与することにより、安価な線材を用いて高耐久性の圧縮コイルばねを得ることができる。

    コイルばねの製造工程の一例を示す図である。

    本発明の実施形態におけるコイリングマシンの成形部の概略図である。

    本発明の実施形態における高周波加熱コイル設置位置を示す概略図である。

    実施例で用いたコイルばねの残留応力分布を示すグラフである。

    以下、本発明の一実施形態を具体的に説明する。 本発明においては、コイリング時に加熱を行うため、図1(A)に示すような熱間成形法を用いる。 本実施形態では、線出機によって鋼線材をコイリングマシンへ供給し、コイリングマシンにおいて鋼線材を急速加熱後、コイル状に成形し、焼入れ槽において焼入れを行い、さらに焼戻しを行う。

    図2にコイリングマシンの成形部の概略を示す。 図2に示すように、コイリングマシン成形部1は、連続的に鋼線材Mを供給するためのフィードローラ10と、鋼線材Mをコイル状に成形するコイリング部20と、所定巻数コイリングした後に後方より連続して供給されてくる鋼線材Mとを切り離すための切断刃30aおよび内型30bを備えた切断手段30と、フィードローラ10の出口からコイリングツール22の間において鋼線材Mを加熱する高周波加熱コイル40とを有する。 コイリング部20は、フィードローラ10により供給された鋼線材Mを適切な位置へ誘導するためのワイヤガイド21と、ワイヤガイド21を経由して供給された鋼線材Mをコイル形状に加工するためのコイリングピン(もしくはコイリングローラ)22aからなるコイリングツール22と、ピッチを付けるためのピッチツール23とを備えている。

    コイリングマシンでの急速加熱は、高周波加熱コイル40によって行い、鋼線材を2.5秒以内でオーステナイト域に昇温させる。 図3に高周波加熱コイル設置位置を示す。 高周波加熱コイル40はワイヤガイド21の近傍に設置されており、鋼線材Mを加熱後、直ぐに成形出来るようにコイリング部20が設けられている。 なお、高周波加熱コイルの設置位置は、鋼線材Mを加熱後、直ぐに成形できれば良いので、本実施形態で示した位置以外でも良い。

    コイリング部20では、ワイヤガイド21を抜けた鋼線材Mをコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げ、さらに下流のコイリングピン22aに当接させて所定の曲率で曲げる。 そして、ピッチツール23に鋼線材Mを当接させて、所望のコイル形状となるようにピッチを付与する。 所望の巻数となったところで、切断手段30の切断刃30aによって内型30bの直線部分との間でせん断によって切断して、後方より供給される鋼線材Mとばね形状の鋼線材Mとを切り離す。

    まず、重量%で、 Cを 0.45〜0.85%、Siを0.15〜2.5%、Mnを0.3〜1.0%含み、残部が鉄および不可避不純物からなる円相当直径が1.5〜9.0mmの鋼線材Mを用意する。 この鋼線材Mを線出機(図示省略)によりフィードローラ10へ供給し、高周波加熱コイル40によって鋼線材Mを2.5秒以内でオーステナイト域に加熱後、コイリング部20においてコイリングを行う(コイリング工程)。

    次に、コイリング後に切離され温度が未だオーステナイト域にあるコイルをそのまま焼入れ槽(図示省略)において焼入れ(焼入れ溶媒としては、たとえば60℃程度の油)を行い(焼入れ工程)、さらに焼戻し(たとえば200〜450℃)を行う(焼戻し工程)。 焼入れを行うことにより、マルテンサイト組織からなる高硬さ組織となり、さらに焼戻しを行うことにより、靭性に優れた焼戻しマルテンサイト組織とすることができる。 ここで、焼入れ・焼戻し処理は一般的な方法を用いればよく、その焼入れ前の線材の加熱温度や焼入れ溶媒の種類・温度、そして焼戻しの温度や時間は、鋼線材Mの材質によって適宜設定する。

    さらに、鋼線材Mにショットピーニング処理(ショットピーニング工程)やセッチング処理(セッチング工程)を施すことにより、所望の耐疲労性を得ることができる。 オーステナイト域に加熱した状態でコイリングを行うため、加工による残留応力の発生を防ぐことができる。 このため、冷間成形法によって作製した従来のコイルばねに比べて、本発明におけるコイルばねは、ショットピーニングによって圧縮残留応力を付与し易く、ばねの内径側において表面から深くかつ大きい圧縮残留応力を効果的に付与することができる。 さらに、セッチング処理を行うことにより、ばねとして使用した場合の最大主応力方向により深い圧縮残留応力分布が形成され、耐疲労性を向上することができる。

    本実施形態においては、粒径0.6〜1.2mmのショットによる第1のショットピーニング処理と、粒径0.2〜0.8mmのショットによる第2のショットピーニング処理と、粒径0.02〜0.30mmのショットによる第3のショットピーニング処理からなる多段ショットピーニング処理を行う。 後に実施するショットピーニング処理において、先に実施するショットピーニング処理よりも小さいショットを用いるため、線材の表面粗さを平滑にすることができる。

    ショットピーニングで使用するショットは、スチールカットワイヤやスチ−ルビーズ、FeCrB系をはじめとした高硬度粒子等を用いることができる。 また、圧縮残留応力は、ショットの球相当直径や投射速度、投射時間、および多段階の投射方式で調整することができる。

    また、本実施形態では、セッチング処理としてホットセッチングを行い、100〜300℃に加熱し、かつ線材表面に作用するせん断ひずみ量がばねとして実際に使用する場合の作用応力でのせん断ひずみ量以上となるようにばね形状の鋼材に対して塑性ひずみを与える。

    以上のような工程によって作製した本発明の圧縮コイルばねは、ばね素線の任意の横断面において、硬さが570〜700HVであり、ばね内径側において、表面から0.2mm深さにおける無負荷時の圧縮残留応力が200MPa以上であるとともに表面から0.4mm深さにおける無負荷時の圧縮残留応力が100MPa以上である。 したがって、本発明の圧縮コイルばねは、耐疲労性に優れている。

    [コイリング性評価]
    まず、高周波加熱コイルを備えたコイリングマシン(図2、図3参照)を用いてコイリング性の評価を行った。 表1に記載の化学成分からなり、線径が1.0〜10.0mmのオイルテンパー線を用意し、コイリングマシンにより線材を900℃に加熱し、表2に示す線径dとばね指数D/dの組み合わせ条件にてコイリングを行った。

    コイリング性の評価結果について表2に併記する。 表中○は異常変形等が無く略円形のコイルばねの製作が可能であったもの、▲は異常変形等が無く略円形のコイルばねの製作が可能であったが線材横断面中心部近傍において所望の組織が得られなかったもの、△はコイルばねの製作(切断刃による切離)は可能であったがコイリング中に線材の座屈が僅かに発生したため異常変形したコイルばねとなったもの、×はコイリング中に線材の座屈が発生し、座屈によって線材がワイヤガイドもしくはコイリングツールから脱離してコイルばねの製作ができなかったものを示す。

    表2から分かるように、線径dとばね指数D/dの組み合わせによってコイリング性が異なる。 特に、線径dが1.5〜9.0mmの場合は、ばね指数D/dが3〜8の範囲で、コイリング性が良好であった。 また、実験例13の中心部近傍は、その組織と硬さからオーステナイト域まで十分に加熱されていなかったものと判断される。 これは、線径dの太さに起因しており、所望する短時間での加熱において、線径dが10mm以上では線材内部全体に亘っての均質な加熱が困難であることが示唆される。 ただし、実験例13におけるその中心部近傍の組織は、線材中心から直径約2mmの範囲に限られており、すなわちコイルばねとして使用した場合に殆ど応力の掛らない範囲であることから、コイルばねとして実用上問題ないものであった。

    なお、コイリング性が○、▲、△であったサンプルについては、切離後に温度が未だオーステナイト域にある状態で、60℃の油によって焼入れを行った。 そして焼入れ後のコイルばねについてコイル内径側における線軸方向の残留応力を測定した。 残留応力の測定は、X線回折型残留応力測定装置(リガク製)を用いて、管球:Cr、コリメータ径:0.5mmで行った。

    その結果、全サンプルにおいてその線軸方向における残留応力は−75〜50MPaの範囲にあり、加工に起因する残留応力の発生が抑制されていた。 また、比較として、冷間成形によりコイリングを行ったコイルばね(材質:表1と同じ、d=4.0mm、D/d=6.0)の残留応力を測定したところ、コイル内径側における線軸方向の残留応力は750MPaであった。 このことからも、熱間成形によって加工に起因する残留応力の発生を抑制できることがわかる。
    [耐疲労性評価]

    次に、各製造工程によってコイルばねのサンプルを作製し、耐疲労性の評価を行った。 まず、表3に記載の化学成分からなり、線径が4.1mmの硬引線およびオイルテンパー線を用意した。 そして、硬引線またはオイルテンパー線に対して、図1(A)〜(D)に示す製造工程(それぞれ、製造工程A〜Dと表す)にしたがって、熱間成形法または冷間成形法によりばね指数6、有効部ピッチ角9°、有効部巻数3.25巻のコイルばねを作製した。

    製造工程Aの熱間成形法では、高周波加熱コイルを備えたコイリングマシン(図2、3参照)により鋼線を900℃に加熱し、コイリングを行った後、60℃の油によって焼入れした。 その後、表4に記載の条件で焼戻し処理を行った(発明例1〜8、比較例1、4)。 また、製造工程Bの冷間成形法では、コイリング後、表4に記載の条件で焼鈍処理を行った(比較例2、5)。

    製造工程Cの冷間成形法では、コイリング後、表4に記載の条件で焼鈍処理を行い、次いで窒化処理を行った。 窒化処理では線材表面に深さ0.04mmの硬質層を形成した(比較例6)。 さらに、製造工程Dの冷間成形法では、コイリング後、コイルばねを昇温速度約30℃/minで加熱炉において900℃まで加熱し、その温度において5分間保持した後に60℃の油によって焼入れした。 その後、表4に記載の条件で焼戻し処理を行った(比較例3)。

    次に、各サンプルに対してショットピーニング処理およびセッチング処理を施した。 ショットピーニング処理では、球相当直径1.0mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第1のショットピーニング処理と、球相当直径0.5mmのスチール製ラウンドカットワイヤによる第2のショットピーニング処理と、球相当直径0.1mmのスチールビーズによる第3のショットピーニング処理とを順に行った。 セッチングはホットセッチングとし、コイルばねの加熱温度200℃、負荷応力1500MPaで行った。

    このようにして得られたサンプルに対し、以下の通り諸性質を調査した。 その結果を表5に示す。

    (1)硬さ(HV)
    ビッカース硬さ試験機(フューチャテック FM−600)を用いて測定荷重を200gfとして、コイルばねの高さ方向における中央部の横断面d/4円周上任意の位置5箇所で測定し、その平均値を算出した。

    (2)深さ0.2mmの圧縮残留応力(−σ R0.2 )、深さ0.4mmの圧縮残留応力(−σ R0.4 )、最大圧縮残留応力(−σ Rmax )、圧縮残留応力積分値(I −σR )、クロッシングポイント(CP)
    コイルばねの内径側線材表面において、線材の線軸方向に対し+45°方向(ばねに圧縮荷重を負荷した場合の略最大主応力方向)の圧縮残留応力を、X線回折型残留応力測定装置(リガク製)を用いて測定した。 測定は、管球:Cr、コリメータ径:0.5mmとして行った。 また、コイルばねに対して塩酸を用いて線材表面の全面化学研磨後上記測定を行い、これを繰返すことで深さ方向の残留応力分布を求め、その結果から表面から0.2、0.4mmの深さにおける無負荷時の圧縮残留応力、最大圧縮残留応力、クロッシングポイントを求めた。 また、圧縮残留応力積分値は、深さと残留応力の関係図における、表面からクロッシングポイントまでの圧縮残留応力を積分することにより算出した。 なお、一例として発明例6の残留応力分布を図4に示す。

    (3)旧γ粒平均結晶粒度(G)
    前処理として、コイルばねのサンプルを500℃で1時間加熱した。 そして、コイルばねの横断面のd/4の位置において、視野数を10箇所として、光学顕微鏡(NIKON ME600)を用いて倍率:1000倍でJIS G0551に準拠して測定を行い、旧γ粒平均結晶粒度番号Gを算出した。

    (4)表面粗さ(Rz(最大高さ))
    接触三次元形状測定装置(MITAKA NH−3)を用いてJIS B0601に準拠して表面粗さの測定を行った。 測定条件は、測定倍率:100倍、測定距離:4mm、測定ピッチ:0.002mm、カットオフ値:0.8mmとした。

    (5)平均結晶粒径(d GS
    FE−SEM/EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)法により、JEOL JSM−7000F(TSLソリューションズ OIM−Analysys Ver.4.6)を用いて、平均結晶粒径を測定した。 ここで、測定はコイルばねの線材横断面における表面から0.1mmの深さで行い、観察倍率:10000倍、方位角度差5°以上の境界を粒界としてIPF Mapを作成し、平均結晶粒径を算出した。

    (6)耐疲労性(折損率)
    油圧サーボ型疲労試験機(鷺宮製作所)を用いて室温(大気中)において疲労試験を行った。 試験応力:735±637MPa、周波数:20Hz、試験数:各8本であり、2千万回加振時の折損率(折損数/試験本数)で耐疲労性を評価した。

    (1)硬さ 表5から分かるように、熱間成形法による本発明では、硬さが570〜700HVであると、高い耐疲労性を得ることができる。 また、570HV〜690HVであるとより好ましい。 硬さがこのような範囲であると、破壊起点となる0.1〜0.4mmの深さにおける圧縮残留応力を十分に得ることができる。 このため、内部起点の破壊が防止され、高い耐疲労性が得られたと考えられる。 また、比較例4の結果から、熱間成形法によって作製したコイルばねでも、硬さが570HV未満の場合は十分な耐疲労性が得られない。 したがって、本発明においては、硬さは570〜700HVが好ましく、570〜690HVがより好ましい。

    (2)残留応力分布 熱間成形法により作製した発明例6、7は、同等組成であり、同等の温度で熱処理を行った比較例2と比べて、表面から深い位置での圧縮残留応力(−σ R0.4 )が大きい。 このことは、冷間コイリングにおいて発生する引張残留応力(コイル内径側に残存)が、熱間コイリングにおいてはほとんど発生しないためと考えられる。 つまり、冷間コイリングによって引張残留応力が発生した比較例2と比べ、発明例6および7では、ショットピーニングによる圧縮残留応力が表面から深くまで入り易いことがわかる。

    発明例1〜8については、−σ Rmaxは850MPa以上、I −σRは180MPa・mm以上、CPは0.45mm以上であり、深く大きな圧縮残留応力が得られ、耐疲労性が良好である。 比較例2〜5の折損品について破面観察を行った結果、その破壊起点は表面から深さ0.15〜0.35mmの範囲であり、非金属系介在物を起点とする内部起点であった。 この深さは、合成応力(作用応力−残留応力)の最大値が現れる領域近傍に相当し、その領域(指標として−σ R0.2 、−σ R0.4 )での圧縮残留応力が大きいことが、耐疲労性に対し重要であると分かる。 このため、−σ R0.2が200MPa以上かつ−σ R0.4が100MPa以上である発明例1〜8では、高級元素が添加された高価な線材を用い、かつ窒化処理が施された比較例6とほぼ同等以上の高い耐疲労性を得ることができている。

    なお、比較例1も熱間成形法により作製したが、焼戻し温度が低過ぎたため、700HVを超える高硬さとなり、圧縮残留応力が表面から深くまで入り難くなった。 硬さが高く靭性が乏しいことから比較例1は切り欠き感受性が高く、さらに、−σ R0.2 、−σ R0.4が小さいため、耐疲労性が低くなっている。 また、比較例4は、焼戻し温度が高過ぎたため、硬さが低くなり、−σ R0.2および−σ R0.4は大きい値であったが、所定の−σ Rmax 、I −σRが得られず、耐疲労性は低くなった。

    これらのことから、従来のコイルばねの製造方法(冷間成形法)と比べ、本発明の圧縮コイルばねの製造方法(熱間成形法)によれば、焼戻し温度を適切に設定し、所定の硬さを得ることにより、表面から深くまでかつ大きな圧縮残留応力を得られ、耐疲労性を向上できることを確認できた。

    (3)旧γ粒平均結晶粒度 単純組成の材質A、C、またはDからなる発明例1、3〜7では、Gは10以上であり、高級鋼(結晶粒微細化効果のあるV量が高い)を用いた比較例5、6と同等程度の微細結晶粒が得られている。 一方、冷間成形後に炉加熱により調質した比較例3では、Gは9.5と結晶粒が粗大化している。 単純組成からなる材質を用いてこのような微細結晶粒が得られているのは、高周波加熱による急速加熱によるものである。 すなわち、高周波加熱によって短時間で加熱を行うことで旧オーステナイト粒の粗大化抑制、或いは微細化に繋がり、単純組成からなる発明例1、3〜7において、Gが10以上の微細結晶粒を得ることができ、耐疲労性が良好である。

    (4)表面粗さ 高い耐疲労性の得られた発明例1〜8について、表面粗さRz(最大高さ)は9.5μm以下であり、所望する表面粗さRz20μm以下を十分に満足している。 ここで、Rzが20μmを超えた場合は、表面粗さにおける谷部が応力集中源となり、その谷部を起点として亀裂が発生・進展し、その結果として早期折損を招く。 また、この表面粗さは、コイリング時におけるツール類との擦れや、ショットピーニング処理により形成されるものである。 そしてショットピーニング処理により形成される表面粗さについては、線材の硬さと、ショットの粒径・硬さ・投射速度といった条件との組み合わせによりその大きさが決まる。 よって、線材の硬さに対し、Rzが20μmを超えぬようショットピーニングの条件は適宜設定する必要がある。

    (5)平均結晶粒径 単純組成の材質A、C、Dからなる発明例1、3〜7について、d GSは、0.73〜0.95μmであり、高級鋼を用いた比較例5、6と同程度の平均結晶粒径であった。 この理由は、前述のように、高周波加熱によって短時間で加熱を行うことが組織の粗大化抑制、あるいは微細化に繋がったためであり、その結果、発明例1、3〜7では微細な平均結晶粒径が得られ耐疲労性が向上している。

    なお、製造工程Dにより作製した比較例3については、寸法精度に問題が生じた。 たとえば、焼入れ後のコイルばね50個で評価したコイル径の標準偏差は0.072mmであり、バルブスプリングやクラッチトーションスプリングとして要求される標準偏差0.05mm以下を満足できていない。 これは、冷間成形後のコイルばねには大きな加工ひずみが残留しており、かつその残留している加工ひずみがコイルばね個体内で均一ではないと共に、個体間でのばらつきも大きいことに起因する。 このコイルばねをオーステナイト域に加熱、そして焼入れすることにより、加工ひずみの解放と変態応力を伴なった一様でない変形、すなわち形状のばらつきを招いている。 一方、比較例3以外のサンプルは、そのコイル径の標準偏差は最大でも0.035mmであり、十分な工程能力が得られている。

    以上より、本発明の圧縮コイルばねの製造方法によれば、安価な線材を用いても、高級鋼を使用した従来の冷間成形ばねよりも耐疲労性に優れた圧縮コイルばねを得ることができる。

    1…コイリングマシン成形部、10…フィードローラ、20…コイリング部、21…ワイヤガイド、22…コイリングツール、22a…コイリングピン、23…ピッチツール、30…切断手段、30a…切断刃、30b…内型、40…高周波加熱コイル、M…鋼線材。

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