鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法

申请号 JP2016041723 申请日 2016-03-04 公开(公告)号 JP2017154166A 公开(公告)日 2017-09-07
申请人 株式会社神戸製鋼所; 发明人 中野 聡志;
摘要 【課題】焼き付きが生じにくい鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法を提供する。 【解決手段】本発明の鋼線材は、塑性加工に用いられるものであって、鋼線材本体と、前記鋼線材本体の表面を被覆する皮膜とを備え、前記皮膜は、リンを含まない組成物によって形成されたものであり、前記鋼線材本体の表面側に 位置 する表面部と、前記表面部よりも前記鋼線材本体の内側に位置する内側部とを有し、前記表面部のビッカース硬度をH s とし、前記内側部のビッカース硬度をH i とすると、H s /H i が1.05以上1.3以下である。 【選択図】図1
权利要求

塑性加工に用いられる鋼線材であって、 鋼線材本体と、 前記鋼線材本体の表面を被覆する皮膜とを備え、 前記皮膜は、リンを含まない組成物によって形成されたものであり、 前記鋼線材本体の表面側に位置する表面部と、前記表面部よりも前記鋼線材本体の内側に位置する内側部とを有し、 前記表面部のビッカース硬度をHsとし、前記内側部のビッカース硬度をHiとすると、 Hs/Hiが1.05以上1.3以下である鋼線材。前記表面部のビッカース硬度Hsは、Hv105以上Hv420以下である請求項1に記載の鋼線材。前記内側部のビッカース硬度Hiは、Hv100以上Hv400以下である請求項1又は2に記載の鋼線材。塑性加工に用いられる鋼線材の製造方法であって、 鋼線材本体に対して0.3MPa以上0.7MPa以下の空気圧で研磨材を含むスラリーを噴射するウェットブラストを施すことにより前記鋼線材本体の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程と、 前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材本体に対し、リンを含まない組成物を塗布することによって前記鋼線材本体の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程と、を含み、 前記研磨材は、グリッド形状であって、粒子径75μm以上のものが占める割合が60%以上であり、かつ前記研磨材のビッカース硬度HaがHv500以上Hv1000以下である鋼線材の製造方法。請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼線材を用意する工程と、 前記鋼線材を引き抜き加工することによって鋼線を作製する工程とを含む鋼線の製造方法。

说明书全文

本発明は、鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法に関し、より特定的には、冷間圧造、引き抜き等の塑性加工を施したときに焼付きが生じにくい鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法に関する。

鋼線等の鋼製品は、ダイス、プラグ、パンチ等の加工工具によって鋼線材を塑性加工することによって作製される。塑性加工の例としては、引き抜き加工、伸線加工、圧造、鍛造等が挙げられる。このような塑性加工においては、加工工具と鋼線材との間に高圧がかかりながら相互が滑ることで摩擦熱が生じ、当該摩擦熱によって鋼線材が焼き付いてしまうことがある。

上記焼き付きを防止する手法として、鋼線材本体の表面をデスケーリングすることによって表面に付着したスケールを除去し、スケール除去後の鋼線材本体の表面に潤滑皮膜を被覆することが行われている。このような潤滑皮膜で鋼線材本体の表面を被覆することにより、鋼線材本体に滑り性が付与される。これにより鋼線材本体の表面に潤滑被膜を形成した鋼線材と加工工具との間の摩擦を低減することができ、焼き付きが生じにくくなる。

上記潤滑皮膜の構成としては、リン酸塩皮膜と石けん層との2層構造の複合皮膜(以下「化学反応型皮膜」とも記す)が一般に用いられる。上記リン酸塩皮膜は、鋼線材をリン酸で溶解させ、薬液中のリン酸塩を鋼線材表面に析出させることによって形成するものである。このような化学反応型皮膜は、潤滑性及び皮膜密着性に優れているので耐焼き付き性に優れている。このため、化学反応型皮膜を施した鋼線材は、冷間圧造加工の中でも特に加工度の高い過酷な加工に好適に用いられている。

上記化学反応型皮膜のデメリットとして、化学反応型皮膜を形成するために煩雑な処理液の管理と洗などの多くの工程が必要となること、及び処理液と被処理材との化学反応によって大量のスラッジが発生しその処理に多大な労と費用とを要すること等が挙げられる。また、化学反応型皮膜を施した鋼線材を加工して最終製品を製造すると、その加工時の熱処理で化学反応型皮膜中のリンが鋼線材の内部に拡散(浸リン)し、最終製品に遅れ破壊が発生することもある。

上記化学反応型皮膜のデメリットを回避するために、例えば特許文献1及び2では、上記化学反応型皮膜とは異なるメカニズムで皮膜を形成する物理付着型皮膜が用いられている。物理付着型皮膜は、鋼線材の表面に皮膜液を塗布することによって皮膜を形成することから塗布型皮膜とも呼ばれており、鋼線材表面の凹凸によるくさび効果によって鋼線材表面に保持されている。具体的には、特許文献1には、水溶性無機塩、ワックス、及び脂肪酸の金属塩を所定の比率で含有させた潤滑剤が開示されている。また特許文献2には、被加工材に潤滑剤溜まりを形成する表面処理を施した後、その表面に二層の物理吸着型皮膜を形成する方法が開示されている。

特許3984159号

特開2013−66901号公報

上記物理付着型皮膜を形成した鋼線材に対し、強い冷間圧造加工、引き抜き加工等の塑性加工を施すと、鋼線材から物理付着型皮膜が剥離して焼き付きが生じることがある。

本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼き付きが生じにくい鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法を提供することである。

本発明者らは上記焼き付きが生じる原因を調べたところ、焼き付きは、物理付着型皮膜が鋼線材本体から剥離することによっても生じるし、鋼線材の硬度が硬すぎて塑性加工時に鋼線材が加工工具に負けることによっても生じることが明らかとなった。

本発明者らは上記焼き付きの原因を踏まえ、その原因を解消し得る構成について鋭意検討を重ねることによって以下に示す本発明の鋼線材を完成させた。すなわち本発明の鋼線材は、塑性加工に用いられるものであって、鋼線材本体と、前記鋼線材本体の表面を被覆する皮膜とを備え、前記皮膜は、リンを含まない組成物によって形成されたものであり、前記鋼線材本体の表面側に位置する表面部と、前記表面部よりも前記鋼線材本体の内側に位置する内側部とを有し、前記表面部のビッカース硬度をHsとし、前記内側部のビッカース硬度をHiとすると、Hs/Hiが1.05以上1.3以下である。

本発明によれば、鋼線材本体の表面部の硬度を内側部よりも相対的に高くしているので、塑性加工時に鋼線材の表面に圧力がかかっても鋼線材本体の表面の凹凸がその加工時の圧力で潰れにくい。これにより塑性加工時にも凹凸によるくさび効果を持続させることができ、皮膜が鋼線材本体の表面から剥がれることを抑制することができる。しかも、鋼線材本体の内側部の硬度が表面部の硬度に比して相対的に低いので、塑性加工時に鋼線材本体の内側部が鋼線材本体の表面部よりも優先的に変形することにより鋼線材に焼き付きが生じることを抑制し得る。特に、Hs/Hiが1.05以上であることにより、塑性加工時に鋼線材本体の内側部が優先的に変形しやすくなるとともに、鋼線材本体の表面側の凹凸を潰れにくくすることができる。またHs/Hiが1.30以下であることにより鋼線材本体の内側部と表面部との硬度差が大きすぎることに起因して相互間で割れが生じることを抑制することができる。このような効果が相俟って鋼線材に焼き付きが生じることを防止することができる。上記皮膜はリンを含まない組成物によって形成されているので、本発明の鋼線材を塑性加工して最終製品を作製することにより、最終製品にリンが含まれなくなり、最終製品の遅れ破壊を抑制することも可能となる。

上記構成において、好ましくは表面部のビッカース硬度HsがHv105以上Hv420以下である。鋼線材本体の表面側のビッカース硬度HsがHv105以上であることにより塑性加工時に鋼線材本体の表面の凹凸が潰れにくくなるので、凹凸によるくさび効果を持続することができ、鋼線材本体から皮膜が脱落することを抑制することができる。また鋼線材本体の表面部のビッカース硬度がHv420以下であることにより、鋼線材本体の内側部との硬度差を小さくすることができるので、鋼線材本体の表面部が内側部に追随しやすくなり、表面部と内側部との硬度差に起因する相互間の割れを抑制することができる。

上記構成において、好ましくは、内側部のビッカース硬度HiがHv100以上Hv400以下である。鋼線材本体の内側部のビッカース硬度HiがHv100以上であることにより鋼線材本体の内側部と表面部との硬度差を小さくすることができるので、鋼線材本体の表面部が内側部の変形に追随しやすくなり、鋼線材本体の内側部と表面部との硬度差に起因する相互間の割れを抑制することができる。また鋼線材本体の内側部のビッカース硬度HiがHv400以下であることにより、塑性加工時に鋼線材本体の内側部が変形しやすくなるので、鋼線材の表面に焼き付きが生じるのを回避することができる。

本発明の鋼線材の製造方法は、塑性加工に用いられるものであって、鋼線材本体に対して0.3MPa以上0.7MPa以下の空気圧で研磨材を含むスラリーを噴射するウェットブラストを施すことにより前記鋼線材本体の表面に付着したスケールを除去するデスケーリング工程と、前記デスケーリング工程を終えた前記鋼線材本体に対し、リンを含まない組成物を塗布することによって前記鋼線材本体の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程と、を含み、前記研磨材は、グリッド形状であって、粒子径75μm以上のものが占める割合が60%以上であり、かつ前記研磨材のビッカース硬度HaがHv500以上Hv1000以下である。

上記形状及び硬度の研磨材を含むスラリーを用いてウェットブラストによって鋼線材本体の表面をデスケーリングすることにより、鋼線材本体の表面に適度な凹凸を形成することができるので、当該凹凸によるくさび効果によって皮膜が鋼線材本体から脱落することを防止することができる。しかも、上記ウェットブラストにより鋼線材本体の内側部よりも表面部の硬度を相対的に高めることができるので、鋼線材を塑性加工するときに上記凹凸が潰れることを抑制することができ、上記くさび効果が低下しにくくなる。このようにして塑性加工中に被膜が鋼線材本体の表面から脱落することを防止することにより、鋼線材の焼き付きを防止することができる。

本発明は、上記鋼線材を用意する工程と、前記鋼線材を引き抜き加工することによって鋼線を作製する工程とを含む鋼線の製造方法でもある。

上記方法で作製した鋼線材を用いて鋼線を作製することによりリンを含まない鋼線を作製することができるので、鋼線から製造された圧造部品に遅れ破壊が生じにくくすることができる。

本発明によれば、焼き付きが生じにくい鋼線材及びその製造方法並びに鋼線の製造方法を提供することができる。

本発明の鋼線材の構成を示す模式的な断面図である。

ビッカース硬さ測定方法を説明する鋼線材の側面図である。

図2のIII−III線断面図である。

本発明の鋼線材を作製する各工程を示す模式図である。

実施例の鋼線材を塑性加工する前後の形状を示す模式図及びその焼き付きの状態を示す写真である。

以下、本発明の鋼線材の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。

<鋼線材> 図1は、本実施形態の鋼線材の構成を示す模式的な断面図である。本実施形態の鋼線材10は、塑性加工に用いられるものであって、図1に示すように、鋼線材本体1と、鋼線材本体1の表面に形成された皮膜2とを備え、鋼線材本体1の表面側に位置する表面部3と、表面部3よりも鋼線材本体1の内側に位置する内側部4とを有し、表面部3のビッカース硬度をHsとし、内側部4のビッカース硬度をHiとすると、Hs/Hiが1.05以上1.3以下であることを特徴とする。なお、図1においては、発明の理解を促す趣旨で皮膜2の厚みを誇張して記載しており、このような皮膜2の厚みに限定されない。また図1には示していないが、鋼線材本体1の表面には微細な凹凸が形成されている。

本実施形態の鋼線材10は、長手方向に垂直な面で切断した断面の形状が円形の場合を説明するが、鋼線材10の上記断面形状は円形のみに限られず、例えばオーバル、平板、矩形、H形等の形状とすることができる。鋼線材10の断面が円形である場合には、その線径は特に限定されないが、5mm〜55mmの直径を有するものが好ましい。

本実施形態の鋼線材10は、所定の製品を得るための種々の塑性加工に適用することができ、例えば引き抜き、伸線、圧造又は鍛造に用いられる。本実施形態の鋼線材10に対し複数の塑性加工を行ってもよく、複数の塑性加工を行う場合、そのうちの1以上の塑性加工に対して本実施形態の鋼線材10を用いる。本実施形態の鋼線材10を用いた塑性加工の例として、例えば本実施形態の鋼線材10を引き抜き加工した後に圧造を行うことによってボルト、ナット等を製造することができるし、本実施形態の鋼線材10を引き抜き加工し、切断した後で鍛造することによって前方又は後方押し出し部品を製造することができる。本実施形態の鋼線材10は、上記各種の塑性加工に共通して生じがちな焼き付きが生じることを防止するものであり、耐焼付き性を向上させた本実施形態の鋼線材はあらゆる塑性加工の分野に適用可能である。

本実施形態の鋼線材10は、従来のそれに比して皮膜2が剥がれることを防止するものであるため、冷間圧造に使用することが好ましい。冷間圧造では、塑性加工後の皮膜2の残存程度が圧造時の加工性に影響を与えるためである。ここで、冷間圧造用鋼線とは、冷間で圧造・鍛造加工の用途に用いるものを意味し、鋼材成分で限定されるものではなく、炭素鋼、クロム鋼、モリブデン鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、マンガン鋼、マンガンクロム鋼、ボロン鋼、軸受鋼等が挙げられる。また本実施形態の鋼線材10は連続伸線を施す硬鋼線に適用することもできる。

(鋼線材本体) 本実施形態の鋼線材10において、鋼線材本体1は、鋼やステンレス鋼などの鉄鋼材料を熱間圧延機で長尺の線状に圧延されたものである。鋼線材本体1の材質は上記のものに限られず、一般的な材質のものを用いることができる。鋼線材本体1の表面には表面粗さRaが0.5μm以上3μm以下のサイズの凹凸が形成されている。当該凹凸は皮膜2を物理的に鋼線材本体1に固着させるくさび効果として機能するものであり、好ましくは1μm以上2μm以下である。鋼線材本体1の厚みに対して皮膜2の厚みが十分に薄いので、鋼線材本体1の直径をそのまま鋼線材10の直径とみなすことができる。よって、鋼線材10の断面が円形である場合には、鋼線材本体1の断面も同様に円形であり、その線径は5mm〜55mmの直径を有することが好ましい。

鋼線材本体1は、最表面から中心に向けて徐々に硬度が低くなるように(つまり、最表面が最も高硬度となるように)構成されており、鋼線材本体1の表面側に位置する表面部3と、表面部3よりも鋼線材本体1の内側に位置する内側部4とを有している。言い換えると、内側部4の外周を取り囲むように表面部3が設けられている。5mm〜55mmの直径の鋼線材本体1を用いる場合、表面部3は、当該鋼線材本体1の表面の凹凸近傍の領域を意味し、具体的には例えば表面から30μm未満の深さ領域である。内側部4は、当該表面部3よりも鋼線材10の内側に位置する領域、例えば鋼線材本体1の表面から30μm以上の深さ領域である。

表面部3は内側部4よりも相対的に硬度が高い領域であるが、表面部3と内側部4との境界に顕著な硬度差が存在するわけではなく、表面部3の表面側から内側部4のさらに内側まで硬度が徐々に減少している。上記のように鋼線材本体1の表面部3の硬度を内側部4の硬度よりも相対的に硬くすることによって、鋼線材10の塑性加工時に表面部3に形成された凹凸が押し潰されるのを抑制することができる。また内側部4の硬度を表面部3のそれよりも相対的に低くすることによって鋼線材10の変形性を確保することができる。

表面部3のビッカース硬度HsはHv105以上Hv420以下であることが好ましく、より好ましくはHv150以上Hv350以下である。また内側部4のビッカース硬度HiはHv100以上Hv400以下であることが好ましく、より好ましくはHv150以上Hv350以下である。表面部3のビッカース硬度Hsは、鋼線材10の表面からの深さdが10μmにおけるビッカース硬度Hvを測定したものであり、内側部4のビッカース硬度Hiは、鋼線材の表面からの深さdが100μmにおけるビッカース硬度Hvを測定したものである。各ビッカース硬度Hvは、特開平8−53737号公報に開示されるコード法で測定される値を採用するものとする。

図2はビッカース硬さ測定方法を説明する鋼線材の側面図であり、図3は図2のIII−III線断面図である。ここで、コード法とは、R.H.Gassner, Metal Progress, March, 59(1978)に示された方法であり、図2に示すように、鋼線材の端部を研磨することにより鋼線材の表面から端部に向かって次第に深くなるように傾斜する研磨面11が形成され、この研磨面11における測定点Yを含む断面(図3)において、当該測定点Yを含む弦の端部から測定点Yまでの長さΔの地点におけるビッカース硬さを測定する。前記断面における弦の長さをC、鋼線材の半径をrとすると、測定点の深さdはd=r−{r2−Δ・(C−Δ)}1/2で表される。コード法は、鋼線材の表面近傍の硬さを比較的大きな荷重で測定できるため、従来法に比して誤差が非常に小さいという利点がある。

表面部3のビッカース硬度Hsと内側部4のビッカース硬度Hiとの比(Hs/Hi)が1.05以上であり、好ましくは1.10以上である。このような硬度(Hs/Hi)に調整することにより、鋼線材本体1の表面部3の硬度Hsが内側部4の硬度Hiよりも相対的に高くなるので、塑性加工時に鋼線材10の表面に圧力がかかっても鋼線材本体1の表面の凹凸がその加工時の圧力で潰れにくくなる。これにより塑性加工時にも凹凸によるくさび効果を持続させることができ、塑性加工後の皮膜2の残膜量(残存した皮膜2の付着量)を増加させることができる。つまり塑性加工時に皮膜2が剥がれにくくなるので、鋼線材10の表面の摩擦係数が低い状態を維持することができ、鋼線材10の耐焼付き性を向上させることができる。しかも、鋼線材10の内側部4の硬度が鋼線材10の表面部3の硬度に比して相対的に低いので、塑性加工時に鋼線材10の内側部4が鋼線材10の表面部3よりも優先的に変形し、鋼線材10に焼き付きが生じることを抑制することができる。

また上記内側部4に対する表面部3のビッカース硬度の比(Hs/Hi)は1.3以下であり、好ましくは1.2以下である。このように表面部3と内側部4との硬度差を小さくすることにより表面部3と内側部4との変形能の差が少なくなるので、内側部4の変形に表面部3が追随しやすくなり、鋼線材10の表面に割れや焼付きが生じることを防止することができる。纏めると、表面部3は硬度が高いので凹凸が潰れにくくなっており、かつ内側部4は硬度が低いので変形性に優れている。このような効果が相俟って鋼線材10の変形性と皮膜2の剥がれにくさとを両立することが可能となる。

(皮膜) 皮膜2は、鋼線材本体1の表面の凹凸とのくさび効果によって互いに物理的に付着している物理付着型皮膜であり、リンを含まない組成物を鋼線材本体1の表面に塗布することによって形成されたものである。このような皮膜2は、鋼線材本体1を構成する材料よりも潤滑性が高い材料で構成されるものであり、当該皮膜2で鋼線材本体1を被覆することによりリンを含有する化学反応型の皮膜と同等以上の潤滑性を鋼線材10に付与することができ、鋼線材10に焼き付きが生じることを抑制することができる。

上記皮膜2の厚みとして、鋼線材本体1の表面積(m2)に対する皮膜2の付着量(g)が2g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは4g/m2以上である。このような皮膜2の付着量を確保することにより鋼線材本体1の表面全体を覆うことができ、塑性加工時にも鋼線材本体1の表面と加工工具とが直接的に接触することを抑制し得る。皮膜2の付着量の上限は特に限定されないが、15g/m2以下であることが好ましい。15g/m2を超える程度の厚みで皮膜2を形成しても耐焼付き性を向上させる効果は少ないので経済的に無駄になるし、加工工具に皮膜のカスとして残存して加工時の寸法精度を低下させる点、生産性や作業性が低下する点等の不都合があるため好ましくない。皮膜2の厚みは、100nm以上50μm以下であることが好ましい。

皮膜2は、ステアリン酸ナトリウム、水酸化カルシウム、脂肪酸カルシウム等を含む石灰石けん皮膜であることが好ましく、耐焼き付き性をさらに高めるという観点から、皮膜2を形成する塗布液に、無機系固体潤滑剤、水溶性無機金属塩、ワックス成分、及び樹脂成分からなる群より選択される1種以上を必要に応じて添加することが好ましい。上記無機系固体潤滑剤の具体例としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、バリウム化合物、亜鉛化合物、ホウ素化合物(ただしホウ酸塩を除く)、珪酸化合物等が挙げられる。水溶性無機金属塩の具体例としては、例えばホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等が挙げられる。

<鋼線材の製造方法> 図4は、本実施形態の鋼線材10の製造工程の一例を示す模式図である。本実施形態の鋼線材10の製造は、まず、図4に示すように、鋼線材本体に対して熱間圧延を行う(P1)。次に、熱間圧延を行った鋼線材本体をコイル状に巻き取る。そして、コイル状の鋼線材本体に対して酸性溶液で洗浄する(酸洗工程P2)。そして酸洗した鋼線材本体を球状化焼鈍をする(球状化焼鈍工程P3)。次に、球状化焼鈍したコイル状の鋼線材本体1を巻き出して、巻き出した鋼線材本体に付着したスケールを除去する(デスケーリング工程P4)。次に、スケールを除去した前記鋼線材本体の表面に皮膜を形成する(皮膜形成工程P5)。なお、デスケーリング工程P4後の鋼線材本体を一旦コイル状に巻き取ってから当該コイル状に巻き取った鋼線材本体に対して皮膜形成工程P5を実施してもよいし、デスケーリング工程P4を終えた後に、鋼線材本体をコイル状に巻き取らずに皮膜形成工程P5を連続して実施してもよい。以下に各工程の詳細を説明する。

(熱間圧延工程P1) まず、鋼線材本体に対して熱間圧延を行う。熱間圧延は従来公知の方法により実施することができる。なお、予め熱間圧延された鋼線材本体を用いてもよい。

(酸洗工程P2) 次に、熱間圧延された鋼線材本体の表面を、硫酸又は塩酸等の酸性溶液で洗浄する。なお、酸性溶液で洗浄する他に、ショットブラスト等の機械的なデスケーリング法によって鋼線材本体の表面に付着したスケールを除去してもよい。

(球状化焼鈍工程P3) 上記酸洗を終えた鋼線材本体に対して650℃以上850℃以下で2〜20時間程度、球状化焼鈍を行う。目的とする鋼線材の硬さに応じて、複数回の球状化焼鈍を行ってもよいし、熱間圧延後の鋼線材本体に対して球状化焼鈍工程P3を行わずに以下の工程を行ってもよい。

(デスケーリング工程P4) 次に、コイルから球状化焼鈍された鋼線材本体を巻き出す。鋼線材本体の巻出しは、鋼線材本体をコイルの上方または製造ラインの下流側に向かって引き抜くように巻き解くか、コイル自体を水平面内に回転させながら鋼線材本体を巻き出すことによって行われる。

デスケーリング工程P4では、鋼線材本体の表面に対して湿式ブラスト(JIS Z0310:2004)の処理の一つであるウェットブラストを施す。ウェットブラストは、水と研磨材とを混合したスラリーを高圧のエアで対象物に向けて複数のノズルから噴射する操作であり、当該操作により鋼線材本体の表面にスラリーを衝突させて当該鋼線材本体の表面を切削及び打撃することを以って鋼線材本体の表面に付着したスケール(酸化物及び付着物)を削りとるとともに当該表面に表面粗さRaが0.5μm〜3μm、好ましくは1μm〜2μmの微細な凹凸を形成し、さらにその鋼線材本体1の硬度を上昇させる。ブラスト処理の中でもウェットブラストは、水が緩衝材となることで研磨材が鋼線材本体に衝突したときの衝撃を和らげることができ、鋼線材本体1の表面側ほど硬度を高めることができる。このようにして鋼線材本体1の表面に凹凸を形成し、しかもその表面側の硬度を高めるとともに鋼線材本体1の内側部4の硬度は低いままに維持し得るので、後々、鋼線材を塑性加工するときに鋼線材本体の内側部4が優先的に変形して鋼線材本体1表面の凹凸が潰れにくくなり、鋼線材本体1表面の凹凸によるくさび効果を維持しやすい。これにより鋼線材10から皮膜2が剥がれることを抑制することができ、鋼線材10表面の摩擦係数を低いままに維持できるので、焼き付きが生じることを防止し得る。しかも、ウェットブラストは、研磨材のサイズなどを適宜設定することで、鋼線材本体の表面に付着したスケールを効率よく除去できるし、また水によって粒子の飛散を抑えることができるため粉じんが発生しにくい。

研磨材を構成する材質は特に限定されないが、鋼線材本体の加工効率の観点から鋼線材本体の硬度よりも硬度の高い材質を用いることが好ましく、鋼線材本体の表面への刺込み残留を防止する観点から、靭性に優れる鋼又はステンレス鋼を用いることが好ましい。このような研磨材の硬度Haは、ビッカース硬度でHv500以上Hv1000以下が好ましく、より好ましくはHv700以上Hv900以下である。研磨材の硬度HaがHv500であることにより、研磨材が鋼線材本体に衝突する際に研磨材が塑性変形することを抑制することができ、また鋼線材本体1の表面部3の硬度を高めることができる。一方、研磨材の硬度Haがビッカース硬度でHv1000以下であることにより、靱性の低下を抑制することができるし、研磨材同士の干渉により研磨材が割れて小径化することを防止することも可能となり、鋼線材10の表面部3に所望の硬さを付与し得る。

上記研磨材は、グリット状の研磨粒子を用いる。ここで、グリット状の研磨粒子とは、JIS Z 0311にブラスト処理用金属系研磨材として規定されるグリットを意味し、JIS Z 0311:2004に規定される「使用前の状態で稜をもつ角張った形状であり、その表面のうちの丸い部分がその粒子の全表面に占める割合が1/2未満の粒子」のことである。従って、このグリット状の研磨粒子は、JIS Z 0311で規定されたショット処理用金属系研磨材、すなわち「使用前の状態で、稜角、破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく、長径が短径の2倍以内の球形状の粒子」とは形状が大きく異なるものである。このようなグリット状の研磨粒子を用いてウェットブラストを実行することにより、グリットの鋭角部が鋼線材本体の表面に数μm〜数十μm程度突入し、突入した表面の近傍が特に大きく変形するので、鋼線材本体1の表面側のみを選択的に加工硬化することができる。一方、ショット処理用金属系研磨材は、表面が滑らかな球状であるため、鋼線材の表面が一様に加工されることになり、鋼線材本体の表面から内部まで全体に硬さが上昇するものとなるため本発明の効果を得にくい。

ウェットブラストの処理条件として、スラリーを噴射する空気圧、ノズルと鋼線材本体との距離、研磨材の形状及び材質、砥粒濃度等が挙げられ、これらの各パラメータを適宜調整することが好ましい。ウェットブラストの空気圧は0.3MPa以上0.7MPa以下が好ましく、より好ましくは0.4MPa以上0.6MPa以下である。空気圧が0.3MPa以上であることにより研磨材の運動エネルギーを確保することができ、鋼線材本体1の表面部3の硬度を高めることができる。また空気圧が0.7MPa以下であることにより、鋼線材本体1の内側部4の硬度が高くなることを抑制することができ、鋼線材本体1の内側部4に適度な変形性を確保することができる。

ウェットブラスト時のノズルと鋼線材本体との距離は、20mm以上200mm以下が好ましく、ウェットブラストの砥粒濃度は、5体積%以上25体積%以下が好ましく、より好ましくは10体積%以上22体積%以下である。砥粒濃度が5体積%以上であることにより鋼線材本体の表面部の硬度を高めやすくなり、砥粒濃度が25体積%以下であることによりノズル詰まりを防止することができる。

スラリーに含まれる研磨材のうちの粒径75μm以上のものが占める割合Pは60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。75μm未満の粒径の研磨材の割合が40%を超えると鋼線材本体に衝突する研磨材の運動エネルギーが低くなって鋼線材本体の表面近傍の硬度を高めにくくなる。また粒径75μm以上の研磨材が占める割合Pは高いほど好ましいが、粒径分布の管理が複雑になることを避けるという観点から上記割合Pは95%以下であることが好ましい。研磨材の粒径75μm以上200μm以下のものが占める割合Qが60%以上90%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以上85%である。ここで研磨材の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(Leads and Northrup製マイクロトラックFRA9220)を用いて研磨材の粒度分布を測定し、全研磨材の質量に対する体積平均粒子径が75μm以上の粒子径の質量割合(質量%)を算出した値である。

(皮膜形成工程P5) 皮膜形成工程P5では、鋼線材本体1に対して物理付着型の皮膜処理によって潤滑性を有する皮膜2を形成する。このような皮膜2を形成することにより鋼線材に潤滑性(加工性)を付与することができ、鋼線材を引き抜き加工しても鋼線材に焼き付きが生じにくい。物理付着型の皮膜処理は、石灰石けん等の皮膜剤に鋼線材本体を浸漬させるか、又はスプレー噴射によって鋼線材本体に皮膜剤を塗布することにより行われる。

皮膜剤が液体の場合、固形分濃度は3〜30%が好ましい。固形分濃度が3%以上であることにより、所定の付着量の皮膜を得ることができる。また固形分濃度が30%以下であることにより、皮膜剤を容易に撹拌及び混合することができるし、皮膜の付着量が過度に多くなることを抑制し得る。かかる皮膜剤の温度は、50℃以上90℃以下であることが好ましい。皮膜剤の温度が50℃以上とすることにより皮膜剤を乾燥しやすくすることができる。皮膜剤の温度が90℃以下であることにより皮膜成分の変質が生じにくい上に、水分の蒸発を抑制することができるので、皮膜剤の固形分濃度及び皮膜剤の液面を管理しやすくなる。このようにして鋼線材本体1の表面に皮膜2を形成することにより本実施形態の鋼線材を作製することができる。皮膜形成工程P5は、デスケーリング工程P4の後に連続的に行ってもよいし、デスケーリング工程P4の後に、一旦鋼線材本体をコイル状に巻き取ってから行ってもよい。上記皮膜形成工程P5で用いる皮膜剤が液体の場合、当該皮膜剤を乾燥させるための乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥はドライヤー等の乾燥機により熱風を吹き付ける方法を挙げることができる。デスケーリング工程P4の後に連続的に皮膜形成工程P5を実施する場合は、短時間で皮膜を乾燥させるため、乾燥温度は100℃以上250℃以下であることが好ましく、乾燥時間は1秒以上60秒以下が好ましい。デスケーリング工程P4の後に一旦コイル姿に巻き取ってから皮膜形成工程P5を実施する場合は、皮膜の熱による変質を少なくするため、乾燥温度は60℃以上120℃以下であることが好ましく、乾燥時間は1分以上60分以下が好ましい。

<鋼線の製造方法(伸線工程P6)> 本実施形態の鋼線材を引き抜き加工することによって鋼線を作製することができる。引き抜き加工の速度は、10m/分以上200m/分以下が好ましい。引き抜き速度が10m/分以上であることにより工業的な生産性を確保することができる。200m/分以下であることにより、伸線時のダイス及び鋼線材の温度上昇を抑制することができ、鋼線材に焼き付きが生じることを抑制し得る。必要に応じてダイスボックスに粉末又は半固体若しくは液体の伸線潤滑剤を投入することが好ましい。これによりダイス穴に伸線潤滑剤を引き込ませることができ、鋼線の表面に伸線潤滑剤を付着させることができる。本実施形態の鋼線材を用いて引き抜き加工した鋼線はリンを含まないので、当該鋼線によって製造された最終製品に遅れ破壊が生じることを抑制することができる。

以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

<実施例1> 以下の製造方法によって実施例1の鋼線材を作製した。

(酸洗工程P2) 本実施例では、サプライスタンドに固定されたコイルから線径12.5mmの機械構造用合金鋼鋼材SCM435:JIS G4053:2008からなる熱間圧延線材(以下「鋼線材本体」とも記す)約500kgを、濃度15%、温度70℃の硫酸に5分間浸漬させた後に、濃度15%、室温の塩酸に5分間浸漬させることにより酸洗し、この鋼線材本体の表面を水洗した。

(球状化焼鈍工程P3) 水洗後の鋼線材本体に対し、均熱720℃×6時間の球状化焼鈍処理を行った。

(デスケーリング工程P4) 上記で球状化焼鈍した鋼線材本体を巻出し、球状化焼鈍を行った鋼線材本体に対し、汎用ウェットブラスト装置(マコー株式会社製)を用いてステンレス製で平均粒径φ0.15mmのグリッド形状の研磨材(製品名:VULKAN INOX GmbH.製 GRITTAL GH10)を含むスラリーを空気圧0.5MPaで噴射することにより鋼線材本体の表面に衝突させた。このようにして鋼線材本体の表面に付着したスケールを除去するとともに鋼線材本体の表面に凹凸を形成し、さらに鋼線材本体の表面側の硬度を高めた。上記スラリーは、工業用水に対して20体積%の砥粒濃度で研磨材を分散させたものを用いた。上記研磨材は、ビッカース硬度がHv783のものであって、かつ粒子径75μm以上のものが占める割合が72%のものを用いた。

(皮膜形成工程P5) 上記デスケーリング工程後の鋼線材本体を、容積4m3の皮膜処理槽に浸漬させた。そして、固形分濃度10%、液温65℃の石灰石けん(製品名:CS−20(共栄社化学株式会社製))に5分間浸漬させた後に引き上げて、60℃で30分間乾燥させることにより鋼線材本体の表面に皮膜を形成し、実施例1の鋼線材を作製した。

<実施例2> 皮膜形成工程で用いた石灰石けんに代えて、固形分濃度10%、液温65℃の無機系固体潤滑剤とワックスと水溶性無機金属塩とを含有した皮膜剤(製品名:KZコート(大同化学工業株式会社製))を用いて皮膜を形成したことが異なる他は実施例1と同様にして鋼線材を作製した。

<実施例3〜8、比較例3〜7> デスケーリング工程の条件(空気圧、研磨材の粒径比率、研磨材の硬度及び形状)を、後掲の表1に示すように変更したことが異なる他は実施例1と同様にして実施例3〜8及び比較例3〜7の鋼線材を作製した。なお、比較例5では、研磨材としてスチール製のもの(ビッカース硬度Hv310)を用いた。比較例7では、研磨材の形状がショットのものを用いた。

<比較例1> デスケーリング工程におけるウェットブラストに代えて酸洗を行ったことが異なる他は実施例1と同様にして比較例1の鋼線材を作製した。ここでの酸洗は、まず、鋼線材本体を濃度15%、温度70℃の硫酸に15分間浸漬させた。次に、鋼線材本体を濃度15%、室温の塩酸に15分間浸漬させた。最後に酸洗後の鋼線材本体の表面を水洗した。

<比較例2> デスケーリング工程におけるウェットブラストに代えてショットブラストを行ったことが異なる他は実施例1と同様にして比較例2の鋼線材を作製した。ここでのショットブラストは、平均粒径φ0.3mmのショットの研磨材を鋼線材本体に対して投射速度80m/秒で投射することにより行なった。

上記で作製した各実施例及び各比較例の鋼線材のビッカース硬度を、図2に示すコード法によって測定した。表1中の「Hs」及び「Hi」はそれぞれ、コード法によって鋼線材の表面からの深さdが10μm(表面部)及び100μm(内側部)におけるビッカース硬度Hvを測定した値である。

表1中の「付着量」は、各実施例及び各比較例の鋼線材に付着している皮膜の重量を重量法に基づいて算出したものであり、具体的には、各実施例及び各比較例の鋼線材からランダムに長さ100mmの試験片を3本ずつ切り出し、各試験片を100℃で5重量%のクロム酸水溶液に20分間浸漬することにより鋼線材の皮膜を溶解するか又は剥離した上で、当該試験片の重量変化を試験片の表面積で除した値を3回平均することによって得た値である。

各実施例及び各比較例の鋼線材を、図5に示すように、直径φ12.5mmからφ11.05mmに伸線パウダーなしで伸線速度53m/分で伸線し、さらに軸絞り56%の前方押し出し加工で冷間圧造を行うことにより前方部分が直径φ7.2mmの圧造部品を作製した。この圧造部品の軸部全体の表面を目視観察し、金属光沢が生じている部分を焼付き部分として軸部全体に占める焼き付き部分の面積率S(%)を算出した。その結果を表1の「面積率」の欄に示すとともにこの面積率を以下の評価基準で判定した。判定結果を表1の「判定」の欄に記載した。なお、図5の写真は、焼き付きの状態を示す例である。

(評価基準) ◎:面積率S=0 ○:面積率Sが0を超え、かつ5未満 ×:面積率Sが5以上 <効果> 上記各実施例の焼き付きの評価結果から、表面部のビッカース硬度Hsと内側部のビッカース硬度Hiとの比(Hs/Hi)が1.05以上1.3以下であることにより、皮膜が鋼線材本体の表面から剥がれることを抑制することができ、鋼線材に焼き付きが生じにくくし得ることが示された。特に上記比(Hs/Hi)が1.1以上1.2以下であることにより焼き付きの発生を完全に防ぎ得ることが明らかとなった。

比較例1、3〜5及び7では、上記比(Hs/Hi)が1.05未満であることにより、つまり内側部4に対する表面部3の硬度が十分でないことに起因して表面部3の凹凸が塑性加工時に潰れてくさび効果が低下し、鋼線材から皮膜が脱落して焼き付きが生じやすくなったものと考えられる。逆に、比較例2及び6では、上記比(Hs/Hi)が1.3を超えていることにより、つまり内側部4に対する表面部3の硬度が高すぎることに起因して表面部3が内側部4の変形に追従できずに鋼線材本体内で割れが生じ、焼き付きが生じやすくなったものと考えられる。

上記Hs/Hiの数値範囲を満たすための鋼線材本体のデスケーリングの処理条件として、スラリーを噴射する空気圧が0.3MPa以上0.7MPa以下であること、研磨材の粒径75μm以上が占める割合Pが60%以上であること、研磨材のビッカース硬度HaがHv500以上Hv1000以下であること、研磨剤の形状がJIS Z 0311:2004に規定されるグリッド形状であることが必要であることも明らかとなった。

今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。

1 鋼線材本体 2 皮膜 3 表面部 4 内側部 10 鋼線材 11 研磨面

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