本発明は細胞の分離法に関し、詳細には、血液から有核赤血球を分離する方法に関する。
出生前の遺伝子診断のために、従来より羊水穿刺により羊水を採取し、羊水中の胎児細胞の染色体を調べる羊水検査が主に行われている。 従来の出生前の遺伝子診断法では、母体への肉体的・精神的な負担だけでなく、流産のリスクがあることが大きな問題であった。 このような中、母体を循環する血液に胎児細胞(胎児由来の有核赤血球)が移行していることが知られるようになった。 この母体血に含まれる胎児由来の有核赤血球を選択的に回収し、胎児の遺伝子を分析すれば、流産のリスク無く安全に出生前診断を行う事ができる。 また、この方法を利用する事で、妊娠の初期での胎児遺伝子の診断を実現し、早期治療への足掛かりとする事が期待される。 世界規模では、年間約500万件の出生前の遺伝子診断が実施されており、この安全な遺伝子診断法を実用化できれば、世界市場において高い占拠率を占めることが期待される。 しかし、母体血1mL中に1個程度しか存在しないといわれる胎児由来の有核赤血球を回収するのは容易ではない。 有核赤血球の表面の特殊な構造を認識する抗体を利用(抗原抗体反応)した回収方法や、蛍光標識した有核赤血球を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、各血球が発する蛍光を測定することで回収をする方法(FACS=fluorescence activated cell sorting)などが、各国の研究機関において行われたが、いずれも失敗している。 確実性の高い有核赤血球の回収方法として、光学顕微鏡で観察した画像を解析し、検出した有核赤血球を回収する方法が考えられる。 高林(金沢医科大学)のFDD−MB(登録商標)(Fetal DNA diagnosis from maternal blood)プロジェクトでは現在、Percollを用いた密度勾配遠心分離により母体血から胎児由来の有核赤血球を分離し、標本を作製し、これを自動的に画像処理することで、NRBCの回収を行っている(非特許文献1及び2を参照)。 しかし、有核赤血球を画像処理により検出するには、多くの時間を必要とするのが問題となる。 Ficoll、Percoll、Polymorphprep等を使った密度勾配遠心による希少細胞の分離が従来から行われている(特許文献1〜6を参照)。 しかしながら、それぞれの分離試薬を単独に使用した場合の問題点として、白血球や一部の赤血球と同様の密度(比重)を有核赤血球が持つ(1.07−1.08)為に、完全には分離できない事が挙げられる。
米国特許出願公開第2003/0134416号明細書
米国特許出願公開第2004/0142463号明細書
米国特許第5,714,325号明細書
米国特許第6,949,355号明細書
米国特許第7,166,443号明細書
国際公開第2008/048931号明細書 高林晴夫、遺伝子医学Vol. 5,No. 3(2001),p. 10−11 高林晴夫、遺伝子医学Vol. 5,No. 3(2001),p. 28−34
本発明は、母体血中に少量含まれる有核赤血球を、白血球を除いて分離する方法の提供を目的とする。 従来から用いられているFicoll、Percoll、Polymorphprep等のうち、最も濃縮効率の良かったPercollを用いた密度勾配遠心分離でも、有核赤血球は大部分の白血球と同様の比重の分画に出てきてしまい、有核赤血球を豊富に含む分画に、1x10 6個もの白血球が残存することを確認した。 これは、図1に示すように、有核赤血球の密度(おおよそ1.07−1.095)が、白血球や一部の赤血球と同様の密度を有するので、完全には分離できないためである。 遠心分離後の有核赤血球の豊富な分画に残存する白血球は、その後の赤血球分離チップや、画像処理の時に邪魔になる。 さらに、この分画への白血球の混入は、採血から時間が経つと増える傾向にあり、採血サンプルの保存可能時間を決める一つの要因にもなっている。 そのため、母体血中の有核赤血球を濃縮する際に、いかにして赤血球の大部分と、特に白血球を除くかが解決すべき課題となる。 本発明者らは、密度勾配遠心分離を用いて母体血から有核赤血球を濃縮し回収する方法について鋭意検討を行った。 有核赤血球は、白血球と赤血球の中間的性質を持つことが知られていた。 特に、有核赤血球は、パーコールに対しては白血球様の密度を持つことが知られていた。 本発明者等は、有核赤血球がフィコール及びPolymorphprep(PMP)に対しては、赤血球と同様に密度を変化させることを見出した。 そこで、有核赤血球の密度を変化させないパーコール法で一旦密度遠心分離を行い、これにより大部分の赤血球を除き、その後、有核赤血球の密度を変化させるフィコール液又はPMP液に作用させることで、有核赤血球の密度を変化させ、再度密度勾配遠心分離を行うことで、有核赤血球を白血球と分離して効率よく濃縮することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。 [1] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収する方法であって、 (i) 母体血を第1の密度勾配遠心分離に供し、有核赤血球を含む細胞画分を回収し、 (ii) 有核赤血球を含む細胞画分において、有核赤血球の密度を選択的に変化させるように処理し、有核赤血球と白血球との密度が重複しないようにし、 (iii) 処理した有核赤血球を含む細胞画分を第2の密度勾配遠心分離に供し、有核赤血球を含む画分を回収することを含む、有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [2] 工程(ii)の有核赤血球の密度を選択的に変化させる処理が、有核赤血球を含む画分を、第1の密度勾配遠心分離時よりも高張又は低張の液で処理することである、[1]の有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [3] 工程(i)の第1の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離媒体が有核赤血球と等張であり、工程(ii)の処理が高張液による処理であり、工程(iii)の第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離媒体が工程(ii)で用いる高張液と等張である、[2]の有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [4] 第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体として、有核赤血球の密度を選択的に変化させることができる液体を用い、工程(ii)と工程(iii)を同時に行う、[1]〜[3]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [5] 第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体として、有核赤血球の密度を選択的に変化させることができる高張液又は低張液を用い、工程(ii)と工程(iii)を同時に行う、[4]の有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [6] 工程(i)において、1.070〜1.095g/mLの密度範囲の血球を回収する[1]〜[5]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [7] 工程(ii)において、有核赤血球の密度を変化させ、1.095g/mLより大きくする、[1]〜[6]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [8] 密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体が、パーコール、フィコール、ショ糖、Nycodenz(登録商標)及びOPTIPrep(商標)からなる群から選択される媒体である、[1]〜[7]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [9] 第1の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体が、浸透圧が280±30mOsmであるパーコールであり、第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体が浸透圧が300mOsm以上であるパーコールである、[1]〜[8]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [10] 第1の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体がパーコールであり、第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体がSodium diatrizoateを13.8%(w/v)、Dextran500を8.0%(w/v)含み、浸透圧が460±15mOsmである媒体である、[1]〜[8]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [11] 第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離用媒体が、Polymorphprep(商標)である、[1]〜[8]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [12] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収する方法であって、 母体血をパーコールを用いた第1の密度勾配遠心分離に供し、有核赤血球を含む細胞画分を回収し、 有核赤血球を含む細胞画分を、Polymorphprep(商標)を用いた第2の密度勾配遠心分離に供し、有核赤血球を含む画分を回収することを含む、有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [13] 有核赤血球が胎児由来有核赤血球である、[1]〜[12]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収する方法。 [14] [1]〜[13]のいずれかの方法で回収した有核赤血球を用いて胎児DNA診断を行う、胎児DNA診断方法。 [15] 胎児DNA診断が、PCR、FISH(fluorescence in situ hybridization)、PEP(primer extension preamplification)、TaqMan(登録商標)PCR、CGH(comparative genomic hybridization)、PRINS(PRimed IN Situ labeling)、cell recycling、DNA chip法、及びこれらの方法を組合せた方法からなる群から選択される方法により行われる、[14]の胎児DNA診断方法。 [16] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収するためのキットであって、 (a) 有核赤血球と等張の第1の密度勾配遠心分離用媒体、 (b) 有核赤血球の密度を選択的に変化させる液体、及び(c) (b)の液体と等張である第2の密度勾配遠心分離用媒体とを含む、有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [17] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収するためのキットであって、 (a) 有核赤血球と等張の第1の密度勾配遠心分離用媒体、及び(b) 有核赤血球の密度を選択的に変化させる液体からなる第2の密度勾配遠心分離用媒体とを含む、有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [18] 有核赤血球の密度を選択的に変化させる液体が、有核赤血球に対して高張である高張処理用液である、[16]又は[17]の有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [19] 密度勾配遠心分離用媒体が、パーコール、フィコール、ショ糖、Nycodenz(登録商標)及びOPTIPrep(商標)からなる群から選択される媒体である、[16]〜[18]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [20] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収するためのキットであって、 第1の密度勾配遠心分離用媒体として用いるパーコール、 第2の密度勾配遠心分離用媒体として用いるPolymorphprep(商標)とを含む、有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [21] 母体血より有核赤血球を濃縮し回収するためのキットであって、 第1の密度勾配遠心分離用媒体として用いる浸透圧が280±30mOsmであるパーコール、 第2の密度勾配遠心分離用媒体として用いる浸透圧が420±30mOsmであるパーコールとを含む、有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 [22] 有核赤血球が胎児由来有核赤血球である、[16]〜[21]のいずれかの有核赤血球を濃縮し回収するためのキット。 本発明の方法においては、密度勾配遠心分離を行う際に、母体血中の有核赤血球の密度を選択的に変化させる。 例えば、母体血より、胎児由来有核赤血球が濃縮して含まれるが、白血球が少ない画分を得ることができる。 該画分より胎児由来有核赤血球を容易に単離同定することが可能であり、単離した胎児由来有核赤血球を用いて胎児の出生前診断を行うことができる。 特に単離同定過程で、血球と核の画像より単離同定を行う場合は、本発明により全細胞数を減数せしめ、さらに特に有核赤血球と間違えやすい白血球を除くことは、単離同定過程における作業数や作業時間を大きく改善する効果がある。 また、胎児診断において、DNAの情報に基づく診断を行う場合は、白血球はDNAを持つため、白血球が混入すると、誤診断の率が上がる。 本発明により白血球を除くことは、誤診断のリスクを下げ、診断の質を向上させる効果がある。 また、通常、母体血を採血後、時間が経つと血球の密度の自然変化により、有核赤血球と同じ密度範囲に属する白血球が多くなり、従来の密度勾配遠心分離法を行った場合、有核赤血球を含む画分への白血球の混入が経時的に多くなる。 本発明においては、このような場合でも、有核赤血球の密度を選択的に変化させ白血球の密度範囲と重複しないように処理するため、白血球が混入していない有核赤血球を含む画分を得ることができる。 これは、採血後、処理を開始するまでの保存期間を延ばす効果がある。 さらに、従来の1回のみ密度遠心分離を行う方法では、白血球の混入をできるだけ避けるため、有核赤血球の回収層として狭い範囲、たとえば1.075〜1.085[g/mL]の密度範囲で回収を行っていた。 しかし有核赤血球は広い範囲にも分布している。 本発明により、白血球の混入なく、より広い密度範囲の有核赤血球が回収でき(図1)、トータルで回収できる有核赤血球の数が増え、診断の成功率や、診断の質を向上させる効果もある。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2010−185608号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1は、赤血球、有核赤血球(NRBC)及び各種白血球の密度範囲を示す図である。 図1中、「従来の回収領域」で示される密度範囲は、パーコール液を用いた1回の密度勾配遠心分離を行う従来法において有核赤血球を含む画分として回収する密度範囲を示し、「本発明の回収領域」で示される密度範囲は、2度の密度勾配遠心分離を行う本発明の方法において、有核赤血球を含む画分として回収する密度範囲を示す。 図2は、臍帯血を密度勾配遠心分離にかけ、それぞれの密度層の血球の数をカウントした結果を示す図である。 図3は、母体血をPercoll液を用いて密度勾配遠心分離をした場合の、分離を示す図である。 図4は、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離を行い回収した有核赤血球を含む画分をさらにPolymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離をした場合の、分離を示す図である。 図5は、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離で得られた有核赤血球を含む画分の染色像(A)及びPercoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色の結果(B)を示す図である。 図6は、保存日数ごとで有核赤血球画分に混入する白血球数を示す図である。 図7は、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離のみを行った場合と、Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行った場合の回収できた有核赤血球数の比較を示す図である。 図8は、等張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、高張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色像を示す図である。 図9は、母体血を、Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色像を示す図である。 図10は、母体血を等張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、高張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った場合の等張Percoll液を用いた遠心分離後の試料に対する高張Percoll液を用いた密度勾配遠心分離後の試料の白血球の除去率を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。 本発明において、母体血とは、妊婦の末梢血を言う。 母体血中には、母体由来の好酸球、好中球、好塩基球、単核球、リンパ球等の白血球や成熟赤血球の他、胎児由来の未熟な有核赤血球(NRBC)、胎児由来の白血球が含まれている。 また、母体由来の未熟な有核赤血球も含まれていることがある。 胎児由来の有核赤血球は、妊娠4〜8週程度で母体血中に出現する。 従って、本発明も妊娠4〜8週以降の妊産婦を対象とし、好ましくは妊娠4〜37週の妊婦から採取する。 母体末梢血中に含まれる胎児由来有核赤血球は、母体血1ml中に1個程度と極めて少なく、母体血細胞中の胎児由来赤血球の数は血球10 7 〜10 9程度につき1個程度である。 本発明の方法により、母体血中の有核赤血球を含む画分を分離し、胎児由来有核赤血球を濃縮し回収することができる。 本発明において、単に「赤血球」という場合、成熟した赤血球を言い、有核赤血球とは区別される。 本発明において、濃縮し回収するとは、母体血から有核赤血球が濃縮された状態で含まれる画分を得ることをいい、濃縮する、回収する、分離する、分離し回収する、ということもできる。 有核赤血球が濃縮された状態で含まれる画分中には、母体血に存在していた赤血球の大部分が除かれており、また、白血球の数も大幅に減少している。 好ましくは白血球は実質的に含まれず、さらに好ましくは白血球は含まれない。 個体差はあるが、通常母体血(妊婦末梢血)10mL中に、有核赤血球約10個、赤血球約4×10 10個、白血球約8×10 7個程度含まれる。 パーコールのみを用いた1回の密度勾配遠心分離を行った場合(従来法)、有核赤血球が含まれる画分中に、約10個の有核赤血球、約4×10 6個の赤血球、約1×10 5個〜約2×10 7個の白血球が含まれる。 一方、本発明の方法により得られた有核赤血球を含む画分中には、条件によっても異なるが、約10個の有核赤血球、約4×10 6個の赤血球、約10個〜5×10 6個の白血球が含まれる。 すなわち、本発明の方法により、白血球数を約10〜10 7分の1程度に減らすことができ、従来法に比べても約2〜10 6分の1程度に減らすことができる。 胎児由来の有核赤血球を用いて遺伝子や染色体の解析を行う場合、胎児由来有核赤血球とそれ以外の血球とを区別し、胎児由来有核赤血球を血球群の中から単離同定する必要がある。 例えば、スライドガラスを用いて血液の塗沫標本を作成し、光学顕微鏡画像を得て、画像解析を行い、核染色や形態により母体の赤血球や白血球と区別し、有核赤血球を同定し、有核赤血球を単離する方法が知られていた。 しかしながら、白血球は核を有しており、また有核赤血球に類似した形態を有するものが存在し、画像解析では有核赤血球と白血球を完全に区別することは困難であった。 また、母体血をそのまま画像診断に供する場合、胎児由来の有核赤血球の少なさから、多数の血球の中から有核赤血球を同定するまで長大な時間を要していた。 本発明により、母体血から、大部分の赤血球を除き、少なくとも白血球を大幅に減少させ、好ましくは白血球を含まない、有核赤血球が濃縮されて含む画分を得ることができる。 この結果、得られた画分において、容易に有核赤血球を他の細胞と区別し、単離同定することが可能になる。 すなわち、本発明の方法により、母体血より胎児由来有核赤血球を分離回収することができる。 また、胎児由来有核赤血球が含まれる画分に母体由来の有核赤血球が含まれる場合、有核赤血球のDNAを解析することにより両者は容易に区別することができ、胎児由来有核赤血球を単離同定することが可能である。 母体血中の有核赤血球画分中には、胎児由来有核赤血球と同数程度の母体由来有核赤血球が含まれることがある(Sekizawa A.et al.,Prenat Diagn 2007;27:846−848)。 このように母体由来有核赤血球が含まれている場合でも、本発明の方法により、全体の細胞に対して、有核赤血球を濃縮し回収することができるので、得られた画分中の有核赤血球の数は飛躍的に大きくなり、その中から胎児由来有核赤血球を母体由来有核赤血球と区別して単離同定することは容易である。 母体の赤血球等の密度は、赤血球が1.070〜1.120g/mL程度、好酸球は1.090〜1.110g/mL程度、好中球は1.075〜1.100g/mL程度、好塩基球が1.070〜1.080g/mL程度、リンパ球が1.060〜1.080g/mL程度、単核球が1.060〜1.070g/mL程度である(図1)。 一方、胎児由来の有核赤血球の密度は、1.065〜1.095g/mL程度であり、胎児由来有核赤血球と母体由来の赤血球や一部の白血球の密度範囲が重なる。 血球の密度は、例えば、Percollを用いた密度勾配遠心分離により決定することができる。 なお、密度は特に指定の無い限り20℃のものを用いる。 最初に、母体血を密度勾配遠心分離にかけ、母体血に含まれる血球をその密度により分離する。 本発明においては、この最初の密度勾配遠心分離を第1の密度勾配遠心分離という場合がある。 密度勾配遠心分離法は、遠心管内の溶液に、通常は底部から上部に向かって密度を低下させ、その中で試料を遠心分離すると、目的とする物質や細胞が一定の密度溶液のところで層を形成することを利用して目的物を分取する方法をいう。 密度勾配遠心分離により、有核赤血球を含む画分を有核赤血球を含まない画分から分離することができる。 密度勾配遠心分離を行った後、有核赤血球を含む密度範囲の血球を回収することにより、胎児由来有核赤血球が濃縮されて含む画分を得ることができる。 有核赤血球の密度は、本発明者らの検討によると1.065〜1.095g/mL程度であるので、1.060〜1.100g/mL、好ましくは1.070〜1.095g/mL、さらに好ましくは1.070〜1.085g/mL、特に好ましくは1.075〜1.085g/mLの密度の血球を回収する。 この密度勾配遠心分離により有核赤血球を含む画分と密度の小さい白血球を含む画分及び密度の大きい赤血球や好酸球を含む画分を分離することができる。 特に最も数の多い母体由来赤血球の大部分を除くことができる。 回収は、例えばピペットを用いて行うことができる。 この際、回収する密度の範囲を大きくすると有核赤血球の回収率は高まるが、上記のように、胎児由来有核赤血球と母体由来の赤血球や白血球とは部分的に密度範囲が重なるので、母体由来の血球の混入も多くなる。 本発明においては、上記の第1の密度勾配遠心分離によって、母体血中の血球が混入したとしても、その後の分離工程で胎児由来有核赤血球を含む画分から除くことが可能である。 第1の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離媒体としては、20℃において密度が1.050〜1.100g/mL程度である媒体を用いることができる。 このような媒体として、パーコール(ポリビニルピロリドンの被膜を有するコロイド状シリカ製品)、フィコール(ショ糖とエピクロロヒドリンの共重合物)、ショ糖、Nycodenz(登録商標)(N,N'−Bis(2,3−dihydroxypropyl)−5−[N−(2,3−dihydroxypropyl)acetamido]−2,4−6−triiodo−isophthalamide)、OPTIPrep(商標)(Iodixanolの60%水溶液)、等を用いることができる。 パーコールとしては、Percoll(商標)(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、フィコールとしては、例えば、Ficoll(商標)−Paque PLUS、Ficoll−Hypaque(ファルマシアバイオテク株式会社)、Histopaque(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、リンフォプレップ(Lymphoprep)(登録商標)(ニコメッド)等の市販の製品を用いることができる。 この中でも、パーコールを好適に用いることができる。 第1の密度勾配遠心分離の際には、血球と密度勾配遠心分離媒体を混合したときに有核赤血球の密度(比重)が変化しないことが必要である。 従って、媒体は、浸透圧が有核赤血球等の血球と等張になるように調節して用いる。 この際の浸透圧は約280mOsmである。 浸透圧は例えば塩化ナトリウムを用いて調節することができ、媒体としてパーコールを用いる場合、あらかじめ生理食塩水の浸透圧より高い浸透圧になるように高い濃度で調製した塩化ナトリウム溶液やリン酸緩衝食塩水をパーコールに浸透圧が生理食塩水の浸透圧(約280mOsm、例えば、280±20mOsm又は280±10mOsm)と同じになるように混合すればよい。 また、用いる媒体の密度も適宜調節することができる。 例えば、パーコールを用いる場合、パーコールの密度を調節し、1.070g/mLのパーコール液と1.095g/mLのパーコール液を調製し、両者を重層して遠心分離した場合、1.070g/mLの層と1.095g/mLの層の中間に有核赤血球を含む画分の層ができるので、この層を回収すればよい。 この場合、母体由来赤血球は密度が大きいので底に沈み、白血球の多くは密度が小さいので、媒体表面に層ができ、有核赤血球を含む層と分離することができる。 一方、例えば、1.095g/mLのパーコール液のみを重層せずに用いてもよい。 この場合、母体由来赤血球は底に沈み、白血球と有核赤血球は媒体表面に層を形成する。 有核赤血球と白血球は分離できないが、本発明のその後の分離工程で有核赤血球と白血球を分離することができる。 遠心分離は、媒体上に母体血を重層して行えばよい。 遠心分離は、例えば1440〜2400Gで、好ましくは750〜1800Gで、さらに好ましくは780Gで、20〜40分行う。 密度勾配遠心分離に用いる遠心チューブは、例えば市販のディスポーザブル遠沈管等を用いることができる。 次いで、密度勾配遠心分離により回収した有核赤血球を含む画分中に含まれる血球(有核赤血球、(無核の)成熟赤血球及び白血球)のうち、選択的に有核赤血球の密度を変化させる。 無核の赤血球の密度は同時に変化しても良いが、白血球の密度はなるべく変化しないような条件を選択することが好ましい。 有核赤血球の密度は、密度勾配遠心分離により回収した画分を有核赤血球の密度を変化させ得る液体に接触させることにより、選択的に変化させることができる。 有核赤血球の密度を変化させ得る液体としては、例えば、有核赤血球に対して高張又は低張の高張液又は低張液が挙げられ、有核赤血球を含む画分を高張液又は低張液に接触させ、高張処理又は低張処理を行うことにより、有核赤血球の密度を選択的に変化させることができる。 有核赤血球は、膜を通して水が移動し易いので、高張液(生理食塩水より浸透圧が大きい液)に接触させた場合、血球内から水が排出され密度が上昇し、低張液(生理食塩水より浸透圧が小さい液)に接触させた場合、血球内に水が浸入し密度が低下する。 一方、白血球は高張液や低張液と接触させても、密度は変化しにくい。 密度は、密度勾配遠心分離により回収した画分中の有核赤血球の密度が該画分に混入している白血球の密度と変わるように変化させる。 好ましくは、高張液と混合し、有核赤血球の密度を上昇させる。 なお、この際に有核赤血球を含む画分には、成熟赤血球が混入している場合、該赤血球は高張液又は低張液処理した場合に有核赤血球と同様の挙動を示し、最終的に有核赤血球と同じ分画に含まれてくる。 ただし、成熟赤血球は有核赤血球と形態的にもあるいは核染色によっても容易に区別することができるので、量的に多過ぎなければその後の遺伝子解析等に対する問題とはならない。 有核赤血球の密度を変化させるために用いる液としては、塩化ナトリウム溶液やショ糖溶液を用いればよい。 例えば、高張処理を行う場合、第1の密度勾配遠心分離により回収した有核赤血球を含む画分を280mOsmを超える浸透圧、例えば300mOsm以上、好ましくは308mOsm以上、さらに好ましくは310mOsm以上、あるいは、300〜330mOsm、好ましくは308mOsm〜330mOsm、さらに好ましくは310〜330mOsm、あるいは350〜600mOsm、さ好ましくは400〜450mOsmの高張液で処理すればよい。 例えば、0.9%を超える塩化ナトリウム溶液、好ましくは1.0〜2.0%、さらに、好ましくは1.0〜1.5%の塩化ナトリウム溶液と混合し、数分〜数十分静置すればよい。 時間が長すぎると白血球の密度も変化するので、適切な時間を選ぶことが重要である。 なお第2の遠心分離の最中も、第2の遠心分離液の性質に応じて密度が変化することに注意する必要がある。 第2の遠心分離後に適切な結果が得られるように、浸透圧と時間を調整する。 また、有核赤血球の赤血球膜に、結合により有核赤血球の密度を変化させ得る物質を結合させることによっても、有核赤血球の密度を選択的に変化させることができる。 有核赤血球の密度を変化させ得る物質として、デキストラン又はその誘導体が挙げられる。 デキストランとして、例えば、デキストラン500が挙げられ、デキストラン誘導体として、硫酸デキストラン、カルボキシメチルデキストラン等が挙げられる。 デキストランを結合させるためには、例えば、有核赤血球を含む画分に、デキストラン濃度が1〜20%(w/v)、好ましくは2〜15%(w/v)になるようにデキストランを添加すればよい。 密度勾配遠心分離により回収した画分の有核赤血球の密度を選択的に変化させたのち、再度密度勾配遠心分離を行う。 本発明において、この2回目の密度勾配遠心分離を第2の密度勾配遠心分離という場合がある。 第2の密度勾配遠心分離に用いる密度勾配遠心分離媒体としては、第1の密度勾配遠心分離に用い得る媒体と同じ媒体を用いることができる。 また、実際に第1の密度勾配遠心分離に用いた媒体と同じ媒体を用いてもよい。 この際の媒体の浸透圧は、密度勾配遠心分離により回収した画分の有核赤血球の密度を選択的に変化させる際に用いた液の浸透圧と同等に調節するのが好ましい。 有核赤血球の密度が選択的に変化し、白血球の密度と変わっているため、密度勾配遠心分離により、有核赤血球と白血球を分離することができる。 このとき第1の密度勾配遠心分離により有核赤血球を含む画分として回収した細胞層の密度範囲と重複しないように変化させればよい。 例えば、第1の密度勾配遠心分離後に1.070〜1.095g/mLの密度範囲の細胞を有核赤血球を含む画分として回収した場合、高張処理又は低張処理により、1.070g/mLより小さい密度又は1.095g/mLより大きい密度に変化させればよい。 同様に、第1の密度勾配遠心分離後に1.070〜1.080g/mLの密度範囲の細胞を有核赤血球を含む画分として回収した場合、高張処理又は低張処理により、1.070g/mLより小さい密度又は1.080g/mLより大きい密度に変化させればよい。 遠心分離後、密度を変化させた有核赤血球が存在する密度範囲の血球層を回収することにより、有核赤血球が濃縮され多く含まれる画分を得ることができる。 この際、用いる密度勾配遠心分離媒体の密度を調節し、密度を変化させた有核赤血球が遠心管の底に沈むようにしてもよい。 第2の遠心分離の最中にも、血球の密度は変化する。 選択性を最大にするには、第2の遠心分離の時間も重要である。 第2の遠心分離の時間は、密度を変化させる液に依存するが、420mOsmの高張液を用いた場合は、密度を変化させる処理と合わせた時間が10〜60分、好ましくは20〜40分である。 また、300mOsm以上の高張液を用いた場合も、密度を変化させる処理と合わせた時間が10〜60分、好ましくは20〜40分である。 また、第2の密度勾配遠心分離に用いる媒体として、上記の有核赤血球の密度を選択的に変化させ得る性質を持った媒体を用いることもできる。 この場合、媒体上に第1の密度勾配遠心分離で回収した有核赤血球を含む分画を、必要に応じて洗浄処理を行った後、第2の密度勾配遠心分離媒体に重層し、第2の密度勾配遠心分離を開始すればよい。 このような媒体を用いることにより、第1の密度勾配遠心分離の後の、有核赤血球の密度を変える工程と第2の密度勾配遠心分離工程を同時に行うことができる。 ここで、同時とは血球の回収操作等を行うことなしに、密度の変化と密度勾配遠心分離を行うことをいう。 例えば、有核赤血球に対して高張の高張Percoll液を調節し、該高張Percoll液に有核赤血球を含む画分を重層した後、密度勾配遠心分離を行えばよい。 この際、NaCl添加量により浸透圧を調節することができる。 このときの浸透圧は280mOsmを超える浸透圧、例えば300mOsm以上、好ましくは308mOsm以上、さらに好ましくは310mOsm以上、あるいは、300〜330mOsm、好ましくは308mOsm〜330mOsm、さらに好ましくは310〜330mOsm、あるいは、350〜600mOsm、好ましくは400〜450mOsmである。 さらに、この際、Polymorphprep(商標)(AXIS−SHIELD社)を用いてもよい。 Polymorphprepは、Sodium diatrizoateを13.8%(w/v)、Dextran500を8.0%(w/v)含む媒体であり、浸透圧は460±15mOsm、密度は20℃で1.113±0.001g/mLである。 Polymorphprepは、有核赤血球よりも高張なため、有核赤血球の密度を高くなるように変化させ得る。 或いは、Polymorphprepは、デキストランを含むためデキストランが有核赤血球の膜に結合し、有核赤血球の密度を変化させ得る。 具体的には、第1の密度勾配遠心分離後に回収した胎児由来有核赤血球を含む画分を、Polymorphprep液上に重層する。 前記画分中の有核赤血球は遠心分離中に画分中を沈み下層のPolymorphprep液と接触し、密度が変化する。 これにより、有核赤血球と白血球を分離することができる。 有核赤血球は遠心管の底に沈降するので容易に回収することができる。 なお、このトータル2工程で行う方法では、上層に均一に存在している血球は、遠心分離を開始してから沈降を始め、下層と接触して初めて密度を変化させるため、上層の上部にいた血球は上層の下部にいた血球より、密度を変化させる液に接している時間が短くなるため、結果のばらつきにつながる。 第2の密度勾配遠心分離を行う前に、浸透圧を調節した液と混合し、密度を変化させるトータル3工程で行う場合、密度を変化させる時間を正確に一定に保つことができるので、再現性が良くなる。 上記方法により得た画分には、胎児由来の有核赤血球が濃縮され高密度で含まれる。 胎児由来の有核赤血球の密度は、処理前の母体血中の胎児由来有核赤血球よりはるかに高い。 例えば、本発明の方法により得られた画分中の総血球数に対する有核赤血球数の比は、元の母体血の4千倍〜数万倍である。 得られた有核赤血球を高密度で含む分画から胎児由来有核赤血球を単離同定し、該胎児由来有核赤血球を用いて、胎児のDNA情報や染色体情報を得ることができる。 これらのDNA情報や染色体情報に基づいて胎児の出生前診断を行う。 ここで、DNA情報とは一塩基多型(SNP)に代表されるDNA多型等のDNA配列情報をいい、染色体情報はトリソミー等の染色体の異常などをいう。 該画分が胎児由来有核赤血球のみを含む場合は、含まれている細胞をそのまま出生前診断に用いればよい。 母体血由来の赤血球や白血球が含まれている場合は、前記画分中の血球から有核赤血球を同定し、又はさらに単離すればよい。 単離同定した胎児由来有核赤血球は、PCR、FISH(fluorescence in situ hybridization)、PEP(primer extension preamplification)、TaqMan(登録商標)PCR、CGH(comparative genomic hybridization)、PRINS(PRimed IN Situ labeling)、cell recycling、DNA chip法やこれらの方法を組合わせた方法により単一細胞レベルでDNA分析することができる。 例えば、得られた有核赤血球を含む画分をスライドガラス上に塗付して塗沫標本を作製し、必要に応じてMay−Grunwald Giemsa染色等により染色し、画像処理を行い、血球の形状や染色状況からスライドガラス上に存在する有核赤血球を同定することができる。 このようにして同定した有核赤血球についてスライドグラス上でFISH(fluorescence in situ hybridization)法により遺伝子や染色体の解析を行うことができる。 また、同定した有核赤血球より遺伝子を単離し、SNP等の変異解析を行うこともできる。 これらの解析手法は、例えば、高林晴夫、遺伝子医学Vol. 5,No. 3(2001),p. 10−11や高林晴夫、遺伝子医学Vol. 5,No. 3(2001),p. 28−34に記載の方法に従って行うことができる。 得られた有核赤血球を高密度で含む画分をスライドガラス上に塗布し塗沫標本を作製し画像処理をする場合、従来の方法に比べて、調製するスライドガラスの枚数が減る。 また、白血球の混入がほとんどないので、容易に有核赤血球を見つけることができるので、目視により有核赤血球を見つける場合も、ソフトウェアにより見つける場合も、有核赤血球の同定にかかる時間を大幅に短縮することができ、例えば、従来法に比べ10倍以上短縮することができる。 上記のような、母体血から得られた胎児有核赤血球を含む画分を用いて、胎児のDNA分析を行う手法を母体血による胎児DNA診断(Fetal DNA Diagnosis from Maternal Blood:FDD−MB(登録商標))という。 通常、母体血を採血後、時間が経つと血球の密度の自然変化により、有核赤血球と同じ密度範囲に属する白血球が多くなり、従来の密度勾配遠心分離法を行った場合、有核赤血球を含む画分への白血球の混入が経時的に多くなる。 本発明の方法により、有核赤血球の密度を選択的に変化させ白血球の密度範囲と重複しないようにできるため、採血後、処理を開始するまでの、血液試料の保存期間を延ばすことができる。 本発明は、血液試料の保存期間を延ばす方法をも包含する。 本発明は、母体血より有核赤血球を分離回収するためのキットを包含し、該キットを用いて上記の母体血より有核赤血球を分離回収する方法を行うことができる。 該キットは、有核赤血球と等張の第1の密度勾配遠心分離用媒体、有核赤血球の密度を選択的に変化させ、有核赤血球と白血球との密度が重複しないようにするための液体、及び第2の密度勾配遠心分離用媒体とを含む。 ここで、当該有核赤血球の密度を選択的に変化させ、有核赤血球と白血球との密度が重複しないようにするための液体は、第2の密度勾配遠心分離用媒体と兼ねることもできる。 胎児由来有核赤血球と母体由来白血球との密度が重複しないようにするための液体としては、例えば、有核赤血球に対して高張である高張処理用液を用いることができる。 また、結合により有核赤血球の密度を変化させ得る物質の溶液であってもよい。 第1の密度勾配遠心分離用媒体は有核赤血球に対して等張であり、第2の密度勾配遠心分離用媒体は、好ましくは高張処理用液と等張である。 さらに、有核赤血球の密度を変化させ得る物質として、デキストラン又はその誘導体が挙げられる。 デキストランとして、例えば、デキストラン500が挙げられ、デキストラン誘導体として、硫酸デキストラン、カルボキシメチルデキストラン等が挙げられる。 デキストラン溶液は、例えば、有核赤血球を含む画分に混合したときに、デキストラン濃度が1〜20%(w/v)、好ましくは2〜15%(w/v)になるような濃度で用いればよい。 密度勾配遠心分離用媒体としては、パーコール(ポリビニルピロリドンの被膜を有するコロイド状シリカ製品)、フィコール(ショ糖とエピクロロヒドリンの共重合物)、ショ糖、Nycodenz(登録商標)(N,N'−Bis(2,3−dihydroxypropyl)−5−[N−(2,3−dihydroxypropyl)acetamido]−2,4−6−triiodo−isophthalamide)、OPTIPrep(商標)(Iodixanolの60%水溶液)、等を用いることができる。 パーコールとしては、Percoll(商標)(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、フィコールとしては、例えば、Ficoll(商標)−Paque PLUS、Ficoll−Hypaque(ファルマシアバイオテク株式会社)、Histopaque(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、リンフォプレップ(Lymphoprep)(登録商標)(ニコメッド)等の市販の製品を用いることができる。 これらの密度勾配遠心分離用媒体は、NaCl溶液を添加する等により浸透圧を調節することができる。 有核赤血球と等張の液の浸透圧は生理食塩水の浸透圧と同じであり、約280mOsmである。 また、これらの媒体の密度も適宜調節することができる。 例えば、パーコールを第1の密度勾配遠心分離用媒体として用いる場合、1.070g/mLのパーコール液と1.095g/mLのパーコール液を用いれば、密度勾配遠心分離後両者の中間層に有核赤血球が存在する。 また、例えば、1.095g/mLのパーコール液のみを重層せずに用いれば、有核赤血球は媒体表面に存在する。 有核赤血球の密度を選択的に変化させ、有核赤血球と白血球との密度が重複しないようにするための有核赤血球に対して高張である高張処理用液としては、塩化ナトリウム溶液やショ糖溶液が挙げられる。 この場合、280mOsmを超える浸透圧、例えば300mOsm以上、好ましくは308mOsm以上、さらに好ましくは310mOsm以上、あるいは、300〜330mOsm、好ましくは308mOsm〜330mOsm、さらに好ましくは310〜330mOsm、あるいは、350〜600mOsm、さらに好ましくは400〜450mOsmの高張液を用いればよく、例えば、0.9%を超える塩化ナトリウム溶液、好ましくは1.0〜2.0%、さらに、好ましくは1.0〜1.5%の塩化ナトリウム溶液が挙げられる。 第2の密度勾配遠心分離用媒体としては、上記の第1の密度勾配遠心分離用媒体として用い得る媒体を適宜浸透圧密度を調節して用いればよい。 また、上記の有核赤血球の密度を選択的に変化させ、有核赤血球と白血球との密度が重複しないようにするための液体が第2の密度勾配遠心分離用媒体であってもよい。 このような第2の密度勾配遠心分離用媒体として、例えば、Polymorphprep(商標)(AXIS−SHIELD社)を用いることができる。 Polymorphprepは、Sodium diatrizoateを13.8%(w/v)、Dextran500を8.0%(w/v)含む媒体であり、浸透圧は460±15mOsm、密度は20℃で1.113±0.001g/mLである。 また、浸透圧を調節したパーコール、フィコール、ショ糖、Nycodenz(登録商標)、OPTIPrep(商標)等を用いることもできる。 さらに、本発明のキットにより、採血後、処理を開始するまでの、血液試料の保存期間を延ばすことができる。 本発明は、血液試料の保存期間を延ばすためのキットも包含する。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
有核赤血球の密度の決定 本実施例においては、サンプルとして有核赤血球が多く含まれている臍帯血を用いた。 臍帯血とは出産時に臍帯から回収した胎児の血液をいい、有核赤血球が大量に含まれる。 本方法の有用性を確認するため、胎児由来有核赤血球の含有量が少ない妊婦の末梢血の代わりに胎児由来の有核赤血球を多く含む臍帯血を用いた。 妊婦の末梢血である母体血中の有核赤血球の数は臍帯血よりは少ないが、臍帯血をサンプルとして用いて有核赤血球を濃縮し回収する方法により、母体血を用いた場合でも同様に有核赤血球を濃縮し回収することができる。 Percoll原液(1.132g/mL、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社、Cat.No.:17−0891−01)を用いて、1.065g/mL〜1.119g/mLの勾配を形成し、密度勾配遠心分離を行った。 各層の間の細胞層を採取し、各細胞層の成熟赤血球、好中球、リンパ球及び有核赤血球をカウントした。 図2に結果を示す。 有核赤血球は密度1.065〜1.095g/mLの層に含まれていた。
Percoll液及びPolymorphprep液を用いた有核赤血球の分離Percoll液及びPolymorphprep液の調製 Percoll原液(1.132g/mL、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社、Cat.No.:17−0891−01)4.848ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水4.152mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.070g/mlの等張(280mOsm)Percoll液を調製し、Percoll原液6.742ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水2.258mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.095g/mlの等張Percoll液を調製した。 Polymorphprep原液(1.113g/mL、AXIS−SHIELD社、Cat.No.:1114683)8.348ml及び0.9%NaCl 1.652mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.095g/mlのPolymorphprep液(PMP液)を調製した。 サンプルとしては、出産時に妊婦より同意を得て、出産後の臍帯血を入手して用いた。 Percoll液による分離 臍帯血1mLを0.9%NaCl 1mLで2倍希釈した。 15mLコニカルチューブに、1.095g/mLのPercoll液を2ml入れた。 トランスファーピペットを用いて、1.070g/mLのPercoll液を2ml重層した。 2倍希釈した臍帯血を2ml重層した。 20℃、3000rpm(1750G)で30分間遠心分離した。 沈降しているのは主に母体由来成熟赤血球及び密度の大きい白血球であり、表面に存在するのは密度の小さい白血球である。 実際には、有核赤血球を含む画分に母体由来の白血球が一部混入している。 なお、コントロールとしてPercoll液を用いた密度勾配遠心分離のみによる分離も行ったが、この場合、1.085g/mLのPercoll液と1.075g/mLのPercoll液を重層して用いた。 Percollによる分離の原理を図3に示す。 図3の原理図においては、1.085g/mLのPercoll液と1.075g/mLのPercoll液を重層して用いた場合を示し、図3中、右図の1.075g/mLと1.085g/mLの間の層に有核赤血球が含まれる。 Percoll後の洗浄 マイクロピペットで1.095g/mLのPercoll液と1.070g/mLのPercoll液の中層(境界付近)を回収し(有核赤血球含有層)、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 PMPによる分離 上清をアスピレートし、0.9%NaClを添加し、1mLまでメスアップし、懸濁した。 丸底遠心管に1.095g/mLのPMP液を2mL入れ、サンプルを重層する。 遠心分離は重層20分後に開始した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 この際の細胞の分離の様子を図4に示す。 有核赤血球は混入している母体由来成熟赤血球と共に沈降している。 白血球はそれよりも低密度の層に存在し、有核赤血球と白血球はほぼ完全に分離できる。 PMPによる分離後の洗浄 最下層(有核赤血球及び赤血球を含む層)をマイクロピペットで回収し、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 0.9%NaClで適度に希釈し、スメア標本を作製し、May−Grunwald Giemsa染色を行った。 また、得られた有核赤血球を含む画分にRed cell Lysis Bufferを添加し、赤血球を破壊し、残った白血球を血球計算盤を用いてカウントした。 この際、当日採血した血液、採血後1日及び2日保存した血液を用いた。 図5に、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離で得られた有核赤血球を含む画分の染色像(A)及びPercoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色の結果(B)を示す。 図中、矢印で示す細胞が有核赤血球であり、図5Aにおいて有核赤血球以外の染色細胞は白血球である。 また、図5A及びBの他の細胞は母体由来の赤血球である。 図5Aに示すように、Percoll液のみを用いた密度勾配遠心分離では、有核赤血球を含む画分に大量に白血球が混入していた。 一方、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離を行った後に、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行った場合、白血球の混入は認められなかった。 図6に、保存日数ごとで有核赤血球画分に混入する白血球数を示す。 白血球数の測定結果を示す。 Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた画分で、Percoll液のみを用いて密度勾配遠心分離を行った場合に比べ、当日採血した血液では28%、1日保存した血液では82%、2日保存した血液では84%白血球が減少していた。 この結果は、Percoll液のみを用いた密度勾配遠心分離を用いた場合には、採取血液を保存すると有核赤血球画分への白血球の混入が増加するが、Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行った場合、採取血液を保存しても、有核赤血球画分に白血球の混入は増加しないことを示す。 血液を保存すると白血球の密度が変化し、白血球と有核赤血球の密度がより重複するようになる可能性があり、本発明の方法によれば、このような場合でも、効果的に有核赤血球と白血球を分離することができる。 May−Grunwald Giemsa染色後、有核赤血球数をカウントした結果を図7に示す。 図7に示すようにPercoll液を用いて密度勾配遠心分離(1.070−1.095g/ml画分回収)を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行った場合(Percoll法+PMP法)、Percoll液を用いた密度勾配遠心分離(1.075−1.085g/ml画分回収)のみを行った場合(Percoll法)に比べ、1.4倍多くの有核赤血球が回収できた。 Percoll液を用いた密度勾配遠心分離では、有核赤血球を多く回収するためには、密度範囲を広げる必要があり、回収する血球層の密度範囲を広げることにより白血球も多く混入してしまう。 一方、Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行う場合、最初のPercoll液を用いて密度勾配遠心分離の際に回収する細胞層の密度範囲を広げて、白血球が混入してしまっても、Polymorphprep液を用いて密度勾配遠心分離を行うことにより、有核赤血球と白血球を分離することができる。
Percoll液及びNaCl溶液を用いた有核赤血球の分離等張Percoll液及び高張Percoll液の調製 Percoll原液4.848ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水4.152mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.070g/mlの等張(280mOsm)Percoll液を調製し、Percoll原液6.742ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水2.258mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.095g/mlの等張Percoll液を調製した。 さらに、Percoll原液6.529ml、1.5M NaCl 1.470ml及び滅菌水2.0011mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.095g/mlの高張(420mOsm)Percoll液を調製した。 サンプルとしては、出産時に妊婦より同意を得て、出産後の臍帯血を入手して用いた。 等張Percoll液による分離 臍帯血1mLを0.9%NaCl 1mLで2倍希釈した。 15mLコニカルチューブに、1.095g/mLのPercoll液を2ml入れた。 トランスファーピペットを用いて、1.070g/mLのPercoll液を2ml重層した。 2倍希釈した母体血を2ml重層した。 20℃、3000rpm(1750G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 マイクロピペットで1.095g/mLのPercoll液と1.070g/mLのPercoll液の中層(境界付近)を回収し(有核赤血球含有層)、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離した(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 洗浄後、以下のA〜Dの条件で第2の密度勾配遠心分離を行った。 A〜Dのいずれの条件においても、第1の密度勾配遠心分離に用いた分離媒体の浸透圧は280mOsmであり、第2の密度勾配遠心分離に用いた分離媒体の浸透圧は420mOsmであった。 A 0.9%NaClに懸濁後、Polymorphprep液を用いて第2の密度勾配遠心分離 洗浄後、上清をアスピレートした。 0.9%NaClで1mLまでメスアップし、懸濁した。 丸底遠心管に1.095g/mLのPolymorphprep液を2mL入れ、サンプルを重層した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 遠心分離は重層20分後に開始した。 B 0.9%NaClに懸濁後、高張Percoll液を用いて第2の密度勾配遠心分離 洗浄後、上清をアスピレートした。 0.9%NaClで1mLまでメスアップし、懸濁した。 丸底遠心管に1.095g/mLの高張Percoll液(420mOsm)を2mL入れ、サンプルを重層した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 C 0.9%NaClに懸濁後、高張PercollとPolymorphprep液の混合液を用いて第2の密度勾配遠心分離 洗浄後、上清をアスピレートした。 0.9%NaClで1mLまでメスアップし、懸濁した。 丸底遠心管に1.095g/mLの高張Percoll液(420mOsm)と1.095g/mLのPolymorphprep液を容積比1:1で混合した混合液2mL入れ、サンプルを重層した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 D 1.3%NaClに懸濁後、Polymorphprep液を用いて第2の密度勾配遠心分離 洗浄後、上清をアスピレートした。 1.39%NaClで1mLまでメスアップし、懸濁した。 丸底遠心管に1.095g/mLのPolymorphprep液を2mL入れ、サンプルを重層した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 遠心分離は重層20分後に開始した。 第2の密度勾配遠心分離後の洗浄 最下層(有核赤血球及び赤血球を含む層)をマイクロピペットで回収し、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 0.9%NaClで適度に希釈し、スライドガラス上でスメア標本を作製し、May−Grunwald Giemsa染色を行った。 上記のA〜Dのいずれの条件でも、得られた有核赤血球画分において、白血球はほとんど認められなかった。 また、スライドガラス上の血球の総数もほぼ同じであった。 1スライドガラス上の有核赤血球の数は、上記A、B、C及びDでそれぞれ222個、213個、277個及び257個と同等であった。 図8に等張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、高張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球(上記B)を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色の結果を示す。 図中、矢印で示す細胞が有核赤血球である。 図8に示すように、得られた画分には、白血球はほぼ存在せず、母体由来の成熟赤血球と有核赤血球が観察された。 図に示すように、成熟赤血球と有核赤血球は核染色の有無で容易に区別することができる。 実施例3の結果より、第1の密度勾配遠心分離に用いる分離用媒体及び第2の密度勾配遠心分離に用いる分離用媒体の密度及び浸透圧を調節することにより、母体血中の有核赤血球を濃縮した状態で回収できることが判明した。
母体血を用いた分離 母体血(妊婦末梢血)を用いて実施例3に記載の等張Percoll液及び高張Percoll液を用いた分離方法(条件B)により有核赤血球の分離を行った。 母体血では、有核赤血球の数が非常に少ないが、本法において分離できることが確認できた。 図9に等張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行った後、高張Percoll液を用いて密度勾配遠心分離を行って得られた有核赤血球を含む画分のMay−Grunwald Giemsa染色の結果を示す。
等張Percoll液及び高張Percoll液を用いた有核赤血球の分離等張Percoll液及び高張Percoll液の調製 Percoll原液4.848ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水4.152mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.070g/mlの等張(280mOsm)Percoll液を調製し、Percoll原液6.742ml、1.5M NaCl 1.000ml及び滅菌水2.258mlを混合し(トータル10.000ml)、密度1.095g/mlの等張Percoll液を調製した。 さらに、Percoll原液32.59ml、1.5M NaCl 5.20ml及び滅菌水12.21mlを混合し(トータル50.000ml)、密度1.090g/mlの高張(312mOsm)Percoll液を調製した。 さらに、Percoll原液32.48ml、1.5M NaCl 5.45ml及び滅菌水12.07mlを混合し(トータル50.000ml)、密度1.090g/mlの高張(330mOsm)Percoll液を調製した。 サンプルとしては、妊婦より同意を得て、採血した末梢血を母体血として用いた。 等張Percoll液による分離(第1の密度勾配遠心分離) 母体血1mLを0.9%NaCl 1mLで2倍希釈した。 15mLコニカルチューブに、1.095g/mLのPercoll液を2ml入れた。 トランスファーピペットを用いて、1.070g/mLのPercoll液を2ml重層した。 2倍希釈した母体血を2ml重層した。 20℃、3000rpm(1750G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 マイクロピペットで1.095g/mLのPercoll液と1.070g/mLのPercoll液の中層(境界付近)を回収し(有核赤血球含有層)、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離した(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 5本の試験管を用い上記操作を行い、60μlの体積の有核赤血球を含む画分を得た。 5μLを評価用に回収し、95μLのFCS(Fetal Calf Serum)を加え(試料:FCS=1:19)、懸濁し、2.5μLを用いスライドガラス上でスメア標本を作製し、May−Grunwald Giemsa染色を行った。 高張Percoll液による分離(第1の密度勾配遠心分離) Percoll処理後の試料32.5μLを、0.9%NaClで1mLまでメッスアップした。 コニカルチューブに(A)高張Percoll液(1.099g/mL,330mOsm)又は(B)高張Percoll液(1.090g/mL,312mOsm)を2mL入れ、等張Percoll液を用いて分離した試料1mLを重層した。 20℃、2000rpm(780G)で30分間遠心分離した(SLOW→SLOW)。 第2の密度勾配遠心分離後の洗浄 最下層(有核赤血球及び赤血球を含む層)をマイクロピペットで回収し、新しい15mLコニカルチューブに移した。 0.9%NaClを添加し、15mlまでメスアップし、懸濁し、20℃、1500rpm(440G)で5分間遠心分離(FAST→FAST)し、上清をアスピレートした。 同様の作業を繰り返し、2回洗浄した。 それぞれ、5本の試験管を用い上記操作を行い、6(A)高張Percoll液(1.099g/mL,330mOsm)を用いた場合も(B)高張Percoll液(1.090g/mL,312mOsm)を用いた場合も、30μLの有核赤血球を含む画分が得られた。 それぞれ、5μlを評価用に回収し、96μLのFCSを加え(試料:FCS=1:19)、懸濁し、2.5μLを用いスライドガラス上でスメア標本を作製し、May−Grunwald Giemsa染色を行った。 上記の方法は、312mOsm及び330mOsmの浸透圧の高張Percoll液を用いた場合の方法であるが、その他、母体血を用いて第2の密度勾配遠心分離を308mOsm、322mOsm、353mOsm及び383mOsmの高張Percoll液を用いて行った。 回収できた有核赤血球を含む画分の体積、及びNRBCの濃度は実験により異なっていた。 等張Percoll液を用いた第1の密度勾配遠心分離で得られた試料中の白血球数うに対して、高張Percoll液を用いた第2の密度勾配遠心分離で得られた試料中の白血球数を顕微鏡観察により計測し、第1の密度勾配第1の密度勾配遠心分離で得られた試料中の白血球の何%の白血球が第2の密度勾配遠心分離で除去されたかを計算し、白血球(WBC)除去率として表した。 図10に結果を示す。 図10においては、実験Run、用いた血液、第2の密度勾配遠心分離後の白血球のバンドの有無(バンドが出現した場合は該バンドを取り除いた)、並びに高張Percoll液として種々の浸透圧のPercoll液を用いた場合の白血球除去率を示す。 白血球除去率は、90%以上又は95%以上が好ましく、さらには97%以上が好ましく、さらには98%以上が好ましく、特には99%以上が好ましい。 第2の密度勾配遠心分離の際に用いる高張Percoll液の浸透圧が310〜330mOsmの時にWBCの除去率が高かった。 この結果は、第2の密度勾配遠心分離の際に用いる高張Percoll液の浸透圧が310〜330mOsmの時に高密度で有核赤血球を回収できることを示す。
本発明により、母体血中から胎児由来の有核赤血球を濃縮し回収することができ、回収した有核赤血球を用いて胎児の遺伝子や染色体を解析することができ、出生前遺伝子診断を容易に行うことができるようになる。
1 有核赤血球2 赤血球3 白血球 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。 |