【0001】 【 発明の属する技術分野 】 本発明は、可動接触子を開閉する開閉機構部を絶縁ケース内に収納した回路遮断器に関するものである。 【0002】 【 従来の技術 】 従来、例えば特開平11−120888号公報には、可動接触子をハンドル操作により接離させるとともに、過電流が通電したとき、引き外し部が作動し可動接触子を開離させる開閉機構部を絶縁ケース内に収納した回路遮断器が開示されている。 開閉機構部の大部分は冷間圧延鋼板を窒化処理した鉄材により形成されており、その摺動部にはFe 3 O 4膜又はめっきが設けられその表面に鉱油や脂肪族合成炭化水素油を基油とする潤滑油やグリースが注油又は塗布されている。 【0003】 【 発明が解決しようとする課題 】 ところで、昨今、回路遮断器は小形化の要求に伴い開閉機構部及び絶縁ケースが小形化される傾向にある。 また、回路遮断器の高性能化の要求に伴い、例えば新たな機能を達成するための電子部品等を絶縁ケース内に収納する必要があり、従来と同一寸法の絶縁ケース内に収納される開閉機構部は従来に比較し小形化される傾向がある。 そして、絶縁ケースが小形化すると同一定格の従来の回路遮断器に比較し、通電時の絶縁ケース内部及び開閉機構部の温度が高くなり、鉱油、又は脂肪族合成炭化水素油を基油とする潤滑油やグリースは酸化劣化されやすくなる。 また、開閉機構部を小形化するとその構成部品は小形化され構成部品間は狭くなり、その結果潤滑油やグリースが薄くなり、酸化劣化されやすくなり、さらに酸化劣化時には固着しやすくなる。 【0004】 また、特開平7−190518号公報には、コンプレッサを備えた冷凍サイクルが開示されている。 そして、コンプレッサ用の潤滑油として、コンプレッサ用の冷媒に非相容性なポリフェニルエーテル、その添加剤として二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオトエチレン等を添加することが開示されている。 しかしながら、コンプレッサは回路遮断器と技術分野が異なるだけでなく、コンプレッサ用の潤滑油は回路遮断器の機構部に要求される特性、特に高温使用時における耐酸化性が異なるので本発明を導くことはできない。 【0005】 この発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、開閉機構部の潤滑の耐熱性及び耐酸化性に優れ、長期的に動作の安定した回路遮断器を得ることを目的とする。 また、開閉機構部の潤滑剤として、耐熱性及び耐酸化性に優れた潤滑オイルのみを使用し、組み立て効率のよい回路遮断器を提供することを目的とする。 【0006】 【発明の開示】 この発明に係る回路遮断器は、絶縁ケースと、この絶縁ケースに収納され、可動接触子を固定接触子に対して開閉する開閉機構部と、この開閉機構部と係合する係合部を有し、電路の過電流を検出したとき、当該係合部の係合を開放させ、上記可動接触子を上記固定接触子から離間させる引き外し機構部とを備え、上記開閉機構部の一部が鉄又は鉄化合物を含む材料により形成された回路遮断器において、上記鉄又は鉄化合物を含む材料の摺動部に、酸化防止剤及び二硫化モリブデンが添加されたフェニルエーテル系の潤滑オイルが設けられたので、開閉機構部の潤滑の耐熱性及び耐酸化性が優れ、長期的に動作が安定する。 さらに、油膜が厚膜保持されやすく、耐酸化性に一段と優れるとともに、耐荷重性、持続性などの潤滑性にも優れる。 また、鉄又は鉄化合物を含む材料の摺動部に、Fe 3 O 4膜又はメッキ膜が設けられているので、鉄の金属触媒作用によるフェニルエーテル系潤滑剤に対する酸化劣化促進作用が抑制される。 また、二硫化モリブデンが1.0〜5.0w%であるので、耐酸化性に優れる油膜厚保持と二硫化モリブデンの分散安定性が両立できる。 また、係合部と付勢部の係合部にフェニルエーテル系オイルが設けられたので、潤滑の耐酸化性に優れ、長期的に動作が安定する。 【0007】 【 発明の実施の形態 】 以下本発明の実施の形態について詳細に説明する。 実施の形態1 . 第1図は本発明の実施の形態1に係る回路遮断器の斜視図、第2図は第1図の回路遮断器をII−II線断面で切った断面図である。 第1図、第2図において、1は絶縁性の樹脂材料により形成された絶縁ケースであり、固定接触子2、開閉機構部A等が設置されるベース1aとハンドル22を外部に突出させる開口を有するカバー1bにより構成される。 2はベース1aに固定される固定接触子、3は開閉機構部により開閉駆動される可動接触子、4は絶縁性の樹脂材料により形成され、可動接触子2を保持するとともに貫通孔を挿通するトグルリンク15の連結ピン15aより力が伝達される絶縁ホルダ、11は一端がラッチ12に他端がトリップバー19に係合するカケガネ、12は転結ピン12aを中心に付勢バネ(図示しない)により常時反時計周りに付勢されレバー13と係合するラッチ、15は絶縁ホルダ4に連結された下リンクとレバー16及び連結ピン15bにより下リンクに連結された上リンクからなるトグルリンク、16は上リンクと下リンクの連結ピン15bとハンドル22を固定するハンドルアーム23との間に張架されたメインバネ、17は可動接触子3に接続された可とうより線25と外部端子26との間の電路に設けられ、電路の通電電流に応じた発熱により変形するバイメタル、18は可動接触子3に接続された可とうより線25と外部端子26との間の電路に設けられ、電路の通電電流が所定値を超えたとき、通電電流に応じた磁気力により作動する電磁装置、19は常時付勢バネにより反時計周り付勢され、電路に過電流が通電したとき、バイメタル17又は電磁装置18の作動により時計周りに回動するトリップバー、20は固定接触子2及び可動接触子3の一端に設けられた開閉接点である。 カケガネ11、ラッチ12及びレバー13がピンが軸ピン11a、12a、15a、15b、19aにより鉄板製フレームに回動自在に軸支されている。 【0008】 過電流の通電時には、バイメタル17又は電磁装置18がトリップバー19を回転させてカケガネ11とラッチ12の係止を外し、ラッチ12はレバー13の係止を外し、メインバネ16の蓄勢力が開閉接点20を開離させて電流遮断を行う。 回路遮断器のトリップ動作後は、リセット動作によりカケガネ11、ラッチ12、レバー13の係止を復帰して開閉接点20を閉じることにより、再度の電流遮断に備えられるように構成されている。 可動接触子3を開閉させる開閉機構部Aは、鉄板製フレーム、ハンドルアーム23、ハンドル22、レバー13、及び(トグルリンク15とメインバネ16からなる)トグルリンク機構により構成される。 また、開閉機構部Aとラッチにより係合する係合部Bは、カケガネ11及びラッチ12により構成され。 また、電路の過電流に応じて係合部Bのラッチ係合を引き外す引き外し部Cは、バイメタル17、電磁装置18、トリップバー18により構成される。 【0009】 上述したフレーム、カケガネ11、ラッチ12、レバー13、トグルリンク15等は、通常、低炭素鋼の冷間圧延鋼板(SPCC−SD)をプレス加工することにより形成され、表面硬化、強度向上および防錆を目的として、窒化処理(ガス軟窒化処理)が施されている。 そして、軸ピン11a、12a、15a、15b、19aによる軸受部や、カケガネ11、ラッチ12、レバー13、トグルリンク15における摺動部には、各部品間の摺動における摩擦を小さくし円滑に動作させるために、以下のフェニルエーテル系の潤滑油を注油している。 【0010】 [潤滑剤] 実施の形態1に使用される潤滑油は、基油としてアルキルジフェニルエーテルオイルが93〜98.9wt%、添加剤として二硫化モリブデンが1〜5wt%、及び添加剤として酸化防止剤が0.1〜2wt%である。 発明者らの実験によれば、驚いたことに、アルキルジフェニルエーテルオイルに無機化合物として二硫化モリブデンを1〜5wt%添加したとき、高温使用時における潤滑油の耐酸化性が著しく向上することが見出された。 しかしながら、二硫化モリブデンが1wt%未満となると、耐酸化性の向上効果が低下し、一方、5wt%よりも多くなると、潤滑油品質(均質性)が低下した。 【0011】 一方、発明者らの実験によれば、アルキルジフェニルエーテルオイルに無機化合物としてグラファイトを添加したときには、二硫化モリブデンのときと同様に油膜厚さの増加は認められたものの、耐酸化性は劣っていた。 【0012】 [基油] アルキルジフェニルエーテルオイルは、ジアルキルジフェニルエーテル、または、モノアルキルジフェニルエーテルのいずれかを主成分とするものであり、粘度80〜150mm 2 /s(40℃)の範囲のものである。 【0013】 [添加剤] 油膜保持用に二硫化モリブデン(平均粒径0.5μm)が含まれる。 二硫化モリブデンは固体潤滑剤としても作用するので好適である。 また、酸化防止剤は、芳香族アミン系又はフェノール系であり、例えばアミン系であれば、フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、フェノール系であれば2,6−ジ−tert−ブチルパラクレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、6−tert−ブチル−0−クレゾール等である。 【0014】 以上のように、軸ピン11a、12a 15a、15b、19aによる軸受部や、カケガネ11、ラッチ12、レバー13、トグルリンク15における摺動部に従来回路遮断器の潤滑油として採用されなかったフェニルエーテル系の潤滑油を注油するので、短時間で容易に潤滑油を付することができ回路遮断器の組立効率がよいとともに、潤滑油の耐熱性及び耐酸化性に優れ動作の安定した回路遮断器を提供することができる。 【0015】 実施の形態2 . 以下この発明の実施の形態2について説明する。 実施の形態2では、回路遮断器は、軸ピン11a、12a、15a、15b、19aによる軸受部や、カケガネ11、ラッチ12、レバー13、トグルリンク15による摺動部に以下のフェニルエーテル系のグリースを塗布する。 なお、グリースとは液状潤滑剤(基油)と増ちょう剤からなる半固体状の潤滑剤である。 【0016】 [潤滑剤] 本実施の形態に使用される潤滑剤は、基油としてアルキルジフェニルエーテルオイルが77.0〜97.8wt%、増ちょう剤としてウレア系石鹸が2〜20wt%、添加剤として酸化防止剤が0.2〜3wt%、好ましくは基油としてアルキルジフェニルエーテルオイルが88.0〜94.0wt%、増ちょう剤としてウレア系石鹸が5〜10wt%、添加剤として、酸化防止剤が1.0〜2.0wt%である。 【0017】 発明者らの実験によれば、フェニルエーテル系のグリース、特にウレア系石鹸を使用したグリースは高温での耐酸化性が優れることが見出された。 これは、ウレア系石鹸は高温での形状保持性に優れるため、耐熱性に劣る汎用的なリチウム系石鹸に比較し、形状が崩れにくく膜厚が薄くなりにくいためと推測される。 即ち、塗布膜厚が厚いと、実体積が大きくなるため、酸化時間が長くなり、耐酸化性が向上すると推測される。 また、酸化膜厚が厚いほど基油を構成する分子が移動しやすくなり、分子が滞留しやすい薄膜に比較し、耐酸化劣化性に優れることも推測される。 【0018】 [グリース] グリースは、アルキルジフェニルエーテルオイルを基油としウレア系石鹸を増ちょう剤とするグリースである。 アルキルジフェニルエーテルオイルは、ジアルキルジフェニルエーテル、または、モノアルキルジフェニルエーテルのいずれかを主成分とするものである。 【0019】 [添加剤] 酸化防止剤は、芳香族アミン系又はフェノール系であり、例えばアミン系であれば、フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、フェノール系であれば2,6−ジ−tert−ブチルパラクレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、6−tert−ブチル−O−クレゾール等である。 【0020】 以上のように、軸ピン11a、12a、15a、15b、19aによる軸受部や、カケガネ11、ラッチ12、レバー13、トグルリンク15における摺動部に従来回路遮断器の潤滑油として採用されなかったフェニルエーテル系のグリースを塗布したので(特に高荷重が作用するラッチ12とレバー13との係合部に塗布したので)、高荷重下での潤滑性能に優れるとともに潤滑の耐酸化性に優れ、長期的に動作の安定した回路遮断器を提供することができる。 また、グリースは高荷重下での潤滑性能に優れるので、可動接触子を保持する絶縁ホルダと回路遮断器のベースとの間の潤滑剤として用いると好適である。 この場合には、機構部の潤滑剤と絶縁ホルダ及びベース間の潤滑剤とを共用でき塗布効率がよく、異なる成分の潤滑剤を用いたときのように互いに特性変化することもない。 また、機構部のうち軸ピン11a、12a、15a、19aによる軸受部の摺動部には潤滑油(例えば実施の形態1で説明した潤滑油)を注油してもよく、この場合作業効率に優れる。 【0021】 実施例 以下、本発明の実施の形態を実施例によりさらに詳しく説明する。 実施例1 機構部品間の潤滑油及びグリース劣化時の固着を模擬するため、下表1(潤滑油)、下表2(グリース)に示すような各種の潤滑剤を、酸化皮膜が施された鉄基板に挟み、高温保持後のせん断力を評価した。 【0022】 [試料基板] 基板1:縦10mm、横10mm、厚さ2mm 基板2:縦30mm、横30mm、厚さ2mm 冷間圧延鋼板(SPCC−SD) 窒化処理:580℃、アンモニア、炭酸ガス、窒素の混合ガス雰囲気中に1.5時間保持し、厚さ10〜15μmの窒化層を形成する。 窒化処理の後、次の水蒸気処理を行う。 水蒸気処理:550℃、水蒸気中に0.5時間保持し、窒化層表面に厚さ2μmのFe 3 O 4膜を形成する。 【0023】 [潤滑剤] ・潤滑油(αオレフィン系潤滑油:比較例) 従来の潤滑油として次の組成のものを本実験の比較例として用いた。 A01:アルファオレフィン系基油99.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5 wt% 【0024】 (フェニルエーテル系潤滑油) B01:アルキルジフェニルエーテル系基油99.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt% B02:アルキルジフェニルエーテル系基油98.5wt%、二硫化モリブデン1.0wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt% B03:アルキルジフェニルエーテル系基油97.0wt%、二硫化モリブデン2.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt% B04:アルキルジフェニルエーテル系基油94.5wt%、二硫化モリブデン5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt% B05:アルキルジフェニルエーテル系基油97.0wt%、グラファイト2.5wt%フェノール系酸化防止剤0.5wt% 【0025】 【表1】
【0026】 ・グリース(αオレフィン系グリース)
従来のグリースとして次の組成のものを本実験の比較例として用いた。
C01:アルファオレフィン系基油84.5wt%、リチウム石鹸7.0wt%、二硫化モリブデン8.0wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%
(フェニルエーテル系グリース)
D01:アルキルジフェニルエーテル系基油88.0wt%、リチウム石鹸10.0wt%、酸化防止剤2.0wt%
D02:アルキルジフェニルエーテル系基油88.0wt%、ウレア石鹸10.0wt%、酸化防止剤2.0wt%
【0027】
【表2】
【0028】
[140℃熱劣化試験(せん断試験)]
(試験条件)
試料基板1、2の間に、各種潤滑剤を塗布し、140℃の大気雰囲気の恒温槽に保持する。 塗布量はオイルの場合は17mg、グリースの場合は7mgである。 所定の時間(1、3、5、7、10、20、30、50、70、100、200、300、500、700、1000、2000、3000時間)経過後、取り出した試料基板間のせん断力を測定した。 せん断力は試料基板間の潤滑剤の酸化劣化に起因する固着力である。
【0029】
(評価基準)
せん断力の測定は、島津製作所製精密万能試験機AG−1000Bを使用して行った。 せん断力は、基板1を固定し、基板2を基板1に対して面方向にスライドさせるに必要な最大の力である。
そして、回路遮断器の機構部に潤滑剤を注油又は塗布したとき、その機構部が円滑に動作できる所定のせん断力以下(実施例1に対応する回路遮断器では2N以下)であったものを合格とし、寿命範囲内とした。 ここで、この試験結果による寿命とは、耐熱及び耐酸化性に関し潤滑剤が所望の潤滑特性を得られる範囲のことを言う。
【0030】
[試験結果]
潤滑油における熱劣化試験(寿命試験)結果を第3図に示す。 第3図は、各試料毎の熱劣化試験の結果を比較例A01の寿命を1とする相対的な関係を示している。 グリースにおける熱劣化試験(寿命試験)結果を第4図に示す。 第4図は、各試料毎の熱劣化試験の結果を比較例B01の寿命を1とする相対的な関係を示している。
【0031】
以下、各試料について説明する。
・潤滑油(αオレフィン系潤滑油)
A01:アルファオレフィン系基油99.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性及び耐酸化性で劣っていた。
(フェニルエーテル系潤滑油)
B01:アルキルジフェニルエーテル系基油99.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性に劣り、耐酸化性でやや優れていた。
B02:アルキルジフェニルエーテル系基油98.5wt%、二硫化モリブデン1.0wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性に優れるとともに、耐酸化性でも優れていた。
B03:アルキルジフェニルエーテル系基油97.0wt%、二硫化モリブデン2.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性に優れるとともに、耐酸化性でも優れていた。
B04:アルキルジフェニルエーテル系基油94.5wt%、二硫化モリブデン5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性に優れるとともに、耐酸化性でも優れていた。
B05:アルキルジフェニルエーテル系基油97.0wt%、グラファイト2.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性は優れ、耐酸化性はやや優れていた。
【0032】
以上の結果についてまとめる。 比較例である基油がアルファオレフィン系で酸化防止剤のみを添加したA01に対して、基油がアルキルジフェニルエーテルであるB01〜B05は耐酸化性に優れていた。 基油がアルキルジフェニルエーテルで酸化防止剤のみを添加したB01は、A01の約5倍の寿命を示し、さらに二硫化モリブデンを添加したB02〜B04はA01の約20倍、B01の約4倍の寿命を有し、耐酸化性に非常に優れることが判明した。 これに対して、二硫化モリブデンの代わりにグラファイトを添加したB05の寿命はB01と同等であり、寿命延長効果は全く認められなかった。 つまり、酸化防止剤が添加されたアルキルジフェニルエーテルは、特に所定量の二硫化モリブデンを添加したものは、窒化処理後、この窒化層表面に厚さ2μmのFe
3 O 4膜を形成した鉄系材料の高温使用時における耐酸化性に非常に優れるものであった。 【0033】
このことから、以下のことが考察される。
酸化防止剤が添加されたアルキルジフェニルエーテルは、窒化層表面に厚さ2μmのFe
3 O 4膜を形成した鉄系材料による何らかの化学反応や触媒作用を受けることが少なく、高温使用時における当該鉄系材料との相性がよい。 【0034】
また、アルキルジフェニルエーテルに親油性を有する比表面積の大きい二硫化モリブデン粉末を添加することにより、油膜が厚くなり、実体積が大きくなるため、酸化時間が長くなり、耐酸化性がさらに向上することが推測される。 加えて、窒化層表面に厚さ2μmのFe
3 O 4膜を形成した鉄系材料による何らかの化学反応や触媒作用を受けることが少なく、高温使用時における当該鉄系材料との相性がよいものと推測される。 そして、油膜が厚いとオイルを構成する分子が移動しやすくなり、分子が滞留しやすい薄膜(例えば添加剤なしの油膜)に比較し、酸化を受けている表層部への酸化防止剤の移動が容易になるため耐酸化性が向上することが推測される。 しかしながら、二硫化モリブデンが1wt%未満となると、上記の耐酸化性の向上効果が低下するが、これは油膜が薄くなったためと考えられ、一方、5wt%よりも多くなると、潤滑油品質(均質性)が低下するが、これは二硫化モリブデンの分散安定性が低下するためと考えられる。 【0035】
一方、無機化合物としてグラファイトを添加したときには、二硫化モリブデンのときと同様に油膜厚さの増加は認められたものの、耐酸化性は劣っていた。 これは、窒化層表面に厚さ2μmのFe
3 O 4膜を形成した鉄系材料による何らかの化学反応や触媒作用を受けた、或は、二硫化モリブデンに含まれる不純物が非金属である酸化珪素が主であるのに対し、グラファイトに含まれる不純物には金属触媒作用を有する鉄および鉄化合物が含まれていることによるものと推測する。 【0036】
・グリース(αオレフィン系グリース)
C01:アルファオレフィン系基油84.5wt%、リチウム石鹸7.0wt%、二硫化モリブデン8.0wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%は潤滑性に優れるものの耐酸化性で劣っていた。
(フェニルエーテル系グリース)
D01:アルキルジフェニルエーテル系基油88.0wt%、リチウム石鹸10.0wt%、酸化防止剤2.0wt%は潤滑性に優れ、耐酸化性にやや優れていた。
D02:アルキルジフェニルエーテル系基油88.0wt%、ウレア石鹸10.0wt%、酸化防止剤2.0wt%は潤滑性に優れるとともに、耐酸化性も優れていた。
【0037】
以上の結果についてまとめる。 D01及びD02はC01の3〜5倍の寿命であり、増ちょう剤としてウレア石鹸を含むD02は増ちょう剤としてリチウム石鹸を含むD01の約1.7倍増しの寿命であった。
【0038】
このことから以下のことが考察される。
酸化防止剤が添加されたアルキルジフェニルエーテル系基油とするグリースは、窒化層表面に厚さ2μmのFe
3 O 4膜を形成した鉄系材料による何らかの化学反応や触媒作用を受けることが少なく、高温使用時における当該鉄系材料との相性がよい。 また、ウレア石鹸は高温での形状保持性に優れるため、耐熱性に劣る汎用的なリチウム石鹸に比較し、形状が崩れにくく膜厚が薄くなりにくく、実体積が大きくなるため、酸化時間が長くなり、耐酸化性が向上すると推測される。 また、膜厚が厚いほど基油を構成する分子が移動しやすくなり、分子が滞留しやすい薄膜に比較し、耐酸化劣化性に優れることも推測される。
【0039】
したがって、基油をアルキルジフェニルエーテル、増ちょう剤をウレア系石鹸とすることが好ましい。
【0040】
実施例2.
次のような条件で下表3に示すような潤滑油とグリースの潤滑特性(耐荷重性能)を比較した。
【0041】
【表3】
【0042】
(試験条件)
潤滑剤を塗布した直径19.05mmの固定鋼球3個に対して回転鋼球1個を0.049MPa刻みの荷重で押し付けながら750r. p. m. で回転させ、焼き付きを生じない油圧荷重を求める曽田式四球試験機を用いて合格限界荷重を求めた。
【0043】
(試験結果)
合格限界荷重の試験結果を第5図に示す。
・潤滑油B03:アルキルジフェニルエーテル系基油97.0wt%、二硫化モリブデン2.5wt%、フェノール系酸化防止剤0.5wt%の潤滑油は、合格限界荷重が0.2Mpaであった。
・グリースD02:アルキルジフェニルエーテル系基油88.0wt%、ウレア石鹸10.0wt%、酸化防止剤2.0wt%のグリースは、合格限界荷重が0.34MPaであった。
【0044】
以上のことから、耐酸化性に優れる潤滑油とグリースの耐荷重性を比較した場合、グリースの方が耐荷重性に優れることがわかる。 したがって、回路遮断器の機構部の必要荷重性能が大きい場合はグリースを適用することが好ましい。
【0045】
【産業上の利用の可能性】
本発明の回路遮断器は、可動接触子を開閉する開閉機構部を絶縁ケース内に収納したもので、高温や多湿下においても動作の安定し好適なものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の実施の形態1に係る回路遮断器の斜視図である。
第2図は第1図の回路遮断器をII−II線断面で切った断面図である。
第3図は本発明の実施例1に係る潤滑油の評価結果を示す図である。
第4図は本発明の実施例1に係るグリースの評価結果を示す図である。
第5図は本発明の実施例2に係る潤滑油とグリースの耐荷重時における潤滑特性を示す図である。
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