【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、オートブレーカなどを実施対象とする回路しゃ断器に装備したバイメタル式の過負荷・欠相引外し装置に関する。 【0002】 【従来の技術】まず、頭記したオートブレーカを例に、 本発明の実施対象となる回路しゃ断器の構成を図4(a), (b) で説明する。 図において、1は回路しゃ断器の本体ケース(図示はカバーを外した状態を表している)、2 は電源側主回路端子、3は負荷側主回路端子、4は開閉操作用のハンドル、5は後記する熱動形過負荷/欠相引外し装置の定格電流を調整する調整ダイヤルであり、ケース1内には可動接触子8a,固定接触子8b,消弧室8cからなるしゃ断部8、しゃ断部8の可動接触子8a を開閉位置に駆動する開閉機構部9,熱動形過負荷・欠相引外し装置10,電磁形瞬時引外し装置11などを内装して回路しゃ断器を構成している。 【0003】ここで、熱動形過負荷・欠相引外し装置1 0は、主回路の各相に接続したヒータ付きの主バイメタル12と、各相(3相)の主バイメタルの動作端(先端)に連繋させてバイメタルの作動変位を検出する差動シフタ機構13と、差動シフタ機構13と開閉機構部9 に組み込んだラッチ受けとの間に介装して差動シフタ機構の出力信号をラッチ受けに伝達し、開閉機構部9をトリップ動作させる引外しレバーを兼ねた補償バイメタル14との組合せからなる。 【0004】また、差動シフタ機構13は、各相の主バイメタル12の配列に沿ってその左右両側に配した押しシフタ15および引きシフタ16と、押しシフタ15と引きシフタ16の上面側に跨がって揺動可能にピン結合したシフタ連動板17との組合せからなり、かつ押しシフタ15および引きシフタ16はケース1の相間隔壁1 bの上縁に形成した凹溝に嵌入してスライド可能に案内支持し、この位置で押しシフタ15,引きシフタ16から側方に突き出した腕部が各相の主バイメタル12を挟んでその両面に対峙している。 【0005】また、図示例の補償バイメタル14はバイメタル片をヘアピン状に折り曲げた形状で、その一端が調整ダイヤル5に連繋した軸受18に軸支されており、 他端側を前記した差動シフタ機構13のシフタ連動板1 7に対峙させ、さらに軸受側近くから開閉機構部9に向けて延在する動作片17aを開閉機構部のラッチ受けに対峙させている。 【0006】かかる構成になる過負荷引外し装置の動作は周知であり、主回路に過負荷電流が流れて各相の主バイメタル12が定方向に湾曲し、これに従動して差動シフタ機構13の押しシフタ15,引きシフタ16が矢印方向に変位すると、これに連動してシフタ連動板17が補償バイメタル14の先端を押す。 これにより、補償バイメタル14が軸受18の軸支点を中心に時計方向に回動してその動作片がラッチ受けを釈放位置に押し、これに連動して開閉機構部9がトリップ動作し、しゃ断部8 の可動接触子8aが開極して主回路電流をしゃ断する。 また、主回路に欠相が発生した場合は、差動シフタ機構13の押しシフタ15と引きシフタ16とが差動的に動作し、これによりシフタ連動板17が引きシフタとの連結ピンを支点に反時計方向に回動して補償バイメタル1 4を押し、前記と同様に回路しゃ断器をトリップ動作させる。 【0007】なお、主バイメタル自身の湾曲で補償バイメタル14を揺動させる駆動力,変位量は小さいことから、この変位,駆動力で開閉機構部9のラッチ受けを釈放させるために、ラッチ受けは軽い駆動力で釈放位置に移動するような構造としている。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】前記の構成で、差動シフタ機構13を構成している押しシフタ15,引きシフタ16およびシフタ連動板17は、しゃ断器内部の充電部近くに配備されるものであることから、所定の絶縁距離を確保するために絶縁物で作られており、かつ機械的な強度も確保するために、エポキシ樹脂,フェノール樹脂などに補強材としてガラス繊維を混入して成形した樹脂積層板を所定の形状にプレス打ち抜きして製作したものが採用されている。 【0009】ところで、回路しゃ断器の差動シフタ機構13に前記した樹脂積層板のシフタ部品を採用すると、 その引外し特性にばらつきが生じて製品によっては仕様通りの性能が発揮できないといった問題があり、その原因について発明者等が究明したところ次の点が明らかになった。 すなわち、前記の樹脂積層板からシフタ部品を打ち抜き加工すると、その切断面に補強材として混入したガラス繊維が露呈し、ミクロ的には歯ブラシ状の凹凸な破断面を呈するようになる。 このために、差動シフタ機構13の動作時には、押しシフタ15,引きシフタ1 6に穿孔したピン穴とシフタ連動板17の連結ピンとの間の摺動面、および押しシフタ15,引きシフタ16と該部品を案内支持するしゃ断器ケース相間隔壁1aの凹溝との間の摺動面には前記の凹凸による齧りが生じ、その結果として、主バイメタル12と補償バイメタル14 との間の機械的な信号伝達経路に大きな伝達ロス,および伝達ロスのばらつきが生じて回路しゃ断器の引外し特性に悪影響を及ぼす。 【0010】かかる問題の対策として、シフタ部品を打ち抜いた後にその切断面を精密研磨して平滑面に仕上げることも考えられるが、その研磨加工のコストが高くて実用的でない。 また、シフタ機構の摺動面(ピン連結部,摺動案内部)に潤滑材としてグリースを塗布することも試みたが、グリースは経年変化,低温(マイナス温度)での使用環境,および回路しゃ断器の電流しゃ断時に発生するアークの熱などで固化変質して潤滑機能が低下し、実用には供し得ないことか判った。 【0011】本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その目的は簡易な手段で前記課題を解決して、引外し特性の向上,安定化が図れるように改良した回路しゃ断器の過負荷・欠相引外し装置を提供することにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明によれば、主回路の各相に対応する主バイメタルと、該主バイメタルに連繋させた差動シフタ機構と、該差動シフタ機構の出力を開閉機構部に伝達する引外しレバー兼用の補償バイメタルとからなり、前記差動シフタ機構は、主バイメタルの動作端を挟んでその両側に配した押しシフタおよび引きシフタと、押しシフタと引きシフタに跨がって揺動自在に軸支連結したシフタ連動板とを組合せ、かつ押しシフタ, 引きシフタをしゃ断器ケースの相間隔壁に案内支持した回路しゃ断器の過負荷・欠相引外し装置において、前記の差動シフタ機構を構成する押しシフタ,引きシフタおよびシフタ連動板に対し、その摺動面部の一部ないし全部の領域に固体潤滑剤のコーティング処理面を形成する(請求項1)。 【0013】上記のように差動シフタ機構の摺動面部に固体潤滑剤をコーティングして処理することにより、樹脂積層板のプレス打ち抜きによって生じた凹凸破断面が固体潤滑剤に覆われてその表面が平滑面を呈し、かつ固体潤滑剤の機能でその摺動摩擦係数も小となる。 しかも、固体潤滑剤はグリースなどのように経年変化,周囲温度などで潤滑機能低下のおそれも殆どなく、これにより回路しゃ断器として伝達ロスを低く抑えて安定した引外し特性を確保できる。 【0014】また、樹脂積層板の打ち抜き加工品になる差動シフタ機構の押しシフタ,引きシフタに対して、固体潤滑剤は前記樹脂積層板と同種の樹脂をバインダに用いてコーティング処理面を形成する(請求項2)のがよく、これにより差動シフタ機構のシフタ部品と固体潤滑剤との間で強固な接着強度が確保できて信頼性が向上する。 【0015】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図示実施例に基づいて説明する。 なお、実施例の図中で図4 に対応する部材には同じ符号を付してその説明は省略する。 〔実施例1〕図1(a) の差動シフタ機構13において、 押しシフタ15,引きシフタ16とシフタ連動板17との間のピン結合部A,Bでは、(b) 図で示すように押しシフタ15にプレス打ち抜きで穿孔したした長穴15 a,および引きシフタ16に穿孔した軸穴16aにシフタ連結板17から突出したピン17aが嵌合している。 また、押しシフタ15,引きシフタ16とこの部材をスライド可能に案内支持するしゃ断器ケースの相間隔壁1 aとの間の摺動部Cでは、(c) 図で示すように相間隔壁1aの上縁に形成した凹溝に押しシフタ15が遊嵌している。 なお、引きシフタ16についても(c) 図と同様な構造で案内支持されている。 【0016】そして、かかる構成に対して、実施例では (d) 図で示すように、プレス打ち抜きによって各シフタ部品(押しシフタ15,引きシフタ17,シフタ連結板17)の基材19の加工面に生じた凹凸破断面19aを覆ってここに固体潤滑剤のコーティング処理面20が形成されている。 すなわち、この固体潤滑剤のコーティング処理面20は、4フッ化エチレン,2硫化モリブデン,グラファイトなどの固体潤滑剤(粉末)にバインダ,溶剤を加え、これをスプレー,刷毛塗り,デッピング,タンブリング法などによりシフタ部品の摺動面部にコーティングした後、常温硬化あるいは加熱硬化により形成する。 ここで、前記シフタ部品の基材19がエポキシ樹脂積層板,あるいはフェノール樹脂積層板である場合には、固体潤滑剤のバインダとして同種なエポキシ樹脂,あるいはフェノール樹脂を使用して固体潤滑剤と基材との接着性を高めるようにするのがよい。 なお、デッピング法ではシフタ部品の全面に固体潤滑剤がコーティングされるが、スプレー法では前記した摺動部A,B, Cを選択して局部的にコーティングできるので固体潤滑剤の消費量を節約できる。 【0017】これにより、(d) 図で表すようにプレス打ち抜き加工によりその破断面に生じた凹凸面が固体潤滑剤のコーティング処理面20で覆われて平滑な面を呈するようになり、かつ固体潤滑剤の性状でその表面摩擦係数が小さくなる。 したがって、図4で述べた回路しゃ断器の過負荷・欠相引外し装置について、その差動シフタ機構13の摺動面部A,B,Cの一部あるいは全部に固体潤滑剤のコーティング処理面を形成することにより、 主バイメタル12と補償バイメタル14との間の信号伝達経路での伝達ロス,ばらつきが減少し、回路しゃ断器としての過負荷・欠相引外し特性が向上,安定する。 【0018】ここで、主回路に欠相電流が流れた際の引外し動作を図2で説明する。 図2において、3相(R, S,T)回路でR相が欠相状態になると、主バイメタル12Rと他の相の主バイメタル12S,12Tとの間に湾曲量の不平衡が生じ、欠相相の主バイメタル12Rは殆ど湾曲せずに、他相の主バイメタル12S,12Tが湾曲する。 これにより、引きシフタ16は主バイメタル12Rに拘束されたまま、押しシフタ15が主バイメタル12S,12Tに押されて左方向に移動する。 これにより、シフタ連動板17は引きシフタ16とのピン連結部を回転中心として、押しシフタ15とのピン連結部を介して反時計方向に揺動し、主バイメタルの変位量を補償バイメタル14に伝達する。 【0019】したがって、図1で述べたように差動シフタ機構13の摺動面部に固体潤滑剤のコーティング処理を施すことにより、信号伝達経路での伝達ロスを低く抑えて主バイメタルの信号(湾曲量)を的確に補償バイメタル14に伝達し、しゃ断器の開閉機構を引外し動作させることができる。 〔実施例2〕図3は差動シフタ機構の応用実施例を示すものである。 この実施例では、押しシフタ15,引きシフタ16にシフタのスライド方向に沿って長溝15b, 16bをプレス打ち抜き加工して形成しておき、この長溝にしゃ断器ケースの相間隔壁1aに形成したガイドピン1a-1を嵌入して案内支持するようにしている。 そして、前記長溝15b,16bとガイドピン1a-1との間の摺動面部Dに対して、実施例1で述べたと同様に固体潤滑剤のコーティング処理面を形成するものとする。 これにより、差動シフタ機構の伝達ロス,ばらつきを軽減できる。 【0020】 【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、押しシフタおよび引きシフタと、押しシフタと引きシフタに跨がって揺動自在に連結したシフタ連動板からなる差動シフタ機構を介して主バイメタルで検出した過負荷・ 欠相の信号(バイメタルの湾曲量)を補償バイメタルに伝達して開閉機構部を引外し動作させるようにした回路しゃ断器の過負荷・欠相引外し装置において、前記差動シフタ機構を構成する押しシフタ,引きシフタおよびシフタ連動板に対し、その摺動面部の一部ないし全部の領域に固体潤滑剤のコーティング処理面を形成したことにより、差動シフタ機構の各部品のプレス打ち抜き加工によって生じた凹凸な破断面の影響を受けることなしに、 主バイメタルと補償バイメタルとの間の信号伝達経路での伝達ロスおよびそのばらつきを低く抑えることができ、これにより回路しゃ断器の過負荷・欠相引外し特性の向上,および安定化が図れる。 【0021】また、絶縁材である樹脂積層板の打ち抜き加工品で作られた差動シフタ機構の押しシフタ,引きシフタに対して、固体潤滑剤は前記樹脂積層板と同種の樹脂をバインダとしてコーティング処理面を形成することにより、差動シフタ機構のシフタ部品と固体潤滑剤との間で強固な接着強度が確保できて耐久性が向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の実施例による過負荷・欠相引外し装置の構成図を示し、(a) は機構全体の平面図、(b),(c) はそれぞれ(a) 図における矢視X−X,Y−Y断面図、 (d) は(a) 図の摺動面部に形成した固体潤滑剤コーティング処理面の断面図 【図2】図1の装置による欠相引外し動作の説明図 【図3】図1の応用実施例を示す差動シフタ機構の平面図 【図4】本発明の実施対象となる回路しゃ断器の構成図で、(a) は上蓋を外した状態の内部機構を示す平面図、 (b) は(a) 図の断面側視図 【符号の説明】 1 しゃ断器ケース 1a 相間隔壁 8 しゃ断部 9 開閉機構部 12 主バイメタル 13 差動シフタ機構 14 補償バイメタル 15 押しシフタ 16 引きシフタ 17 シフタ連動板 20 固体潤滑剤のコーティング処理面 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 志塚 隆 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 Fターム(参考) 5G030 FC02 XX01 |