【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、金属の熱処理に用いる熱処理炉、熱処理装置、及び、熱処理方法に関する。 詳細には、金属製品、例えば、アルミニウム合金からなる自動車用足回り部品の、機械的強度向上のために行う熱処理に用いられ、流動層と雰囲気層の複層からなる熱処理炉と、その熱処理炉を組み込んだ熱処理装置、 及び、その熱処理装置を用いた熱処理方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 金属では同じ固体であっても温度によって性質が変わる変態(広義の意味)を起こすことが知られ、加熱と冷却を組み合わせた処理によって材料の強度を向上させる等の熱処理が従来から行われている。 特に、複数の金属からなる合金の場合には、温度によって溶解度が異なるので、熱処理によって一方の金属に溶け込む他方の金属の量を異ならしめることによって、大きく性質を変えることが出来る。 【0003】 例えば、軽合金の中では比較的コストがかからず利用し易いアルミニウム合金(以下、Al合金とも記す)においては、航空機や自動車向け等の軽量化が望まれる用途によく用いられているが、このアルミニウム合金は、加熱、冷却を施すことによって、引っ張り強さ、伸び等の機械的特性を変えることが可能である。 これは、アルミニウム合金が、アルミニウムに、銅、マグネシウム、珪素、亜鉛等を加えた合金であって、熱処理によって、マトリックス中にこれらの元素を固溶させ、水冷後、時効硬化をさせることにより実現される。 【0004】 より具体例を挙げれば、鋳造材や展伸材用のアルミニウム合金の1つに、銅を含み、より強度が高いAl−Cu系合金があり、車両用足回り部品として多く使用されているが、このAl−Cu系合金において、銅の固溶率を変えることによって機械的性質を異なるものとすることが可能である。 【0005】 Al−Cu系合金では、銅の固溶度は常温で小さく、高温でα相領域になることが知られている。 従って、高温に加熱するとアルミニウム中に銅が固溶したα相が形成される。 そして、この後に、急な水焼き入れを行い冷却したときと、徐々に冷却したときでは、付される性質が相当異なってくる。 これは硬さを決定するアルミニウムと銅の化合物を析出したθ相の現れ方に差が生じるからである。 急冷したときはθ相を析出することなく、高温時と同じ量の銅を固溶したまま過飽和固溶体となる。 この処理が溶体化処理である。 【0006】 過飽和固溶体は不安定で、温度を上げたり常温で長く放置すると容易にθ相が現れ、安定した状態になる。 これを時効硬化といい、時効硬化を起こす処理が時効処理である。 通常は、温度を上げて時効硬化を起こす人口時効処理(以下、単に時効処理ともいう)を行う。 人口時効処理を行うのは、処理時間短縮のためであり、且つ、一般に特定の高い温度で時効処理した方が、常温で長く放置する自然時効処理よりも引っ張り強さ等がより向上するからである。 【0007】 このような溶体化−時効処理は、金属製品の機械的強度を向上するのに効果的な熱処理方法である。 しかしながら、金属製品によっては、その部分によって望まれる機械的性質が異なることがあって、金属の一部だけをより硬化させたり、より延性を持たせることが必要であったりすることがあるが、こういった要望に応えていくと、より熱処理工程が複雑になり製造コスト増加を招くので、通常は、その金属製品に、要求される機械的性質を損なう部分が生じない範囲で、熱処理温度を設定していた。 【0008】 例えば、図2に示すアルミニウムホイール20では、アウターリム21とスポーク22はより強度が高いことを重視するが、インナーリム23は強度とともに延性が重視される。 このとき、従来の雰囲気炉を用いた熱処理では、部分的に熱処理条件を変えることは困難であるので、通常、強度向上を主目的とし、且つ、 延性が一定以上に保たれるような条件下で、アルミニウムホイール20全体を熱処理していることが多い。 従って、金属製品の部分部分によって、熱処理条件を変えることが出来、それによって、金属製品の各部分に異なった機械的性質を付与することが可能な熱処理装置及び熱処理方法が求められていた。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来方式の熱処理装置を改良し、設備コストを上げずに、金属製品の各部分に異なって求められる、好ましい機械的性質を与え得る熱処理炉と、その熱処理炉を含む熱処理装置、及び、その熱処理装置を用いた熱処理方法を提供することにある。 より望ましい機械的性質を有する金属製品は、薄肉化が可能となり、製造コストが低減される。 特に、軽量化を目的として採用されることが多いアルミニウム合金を用いた製品においては、薄肉化によってより軽量化が図られるので、需要の増大を導くことにも貢献する。 【0010】 本出願人は、上記した課題を解決するために、金属の熱処理方法及び熱処理装置について、研究を積み重ねた結果、熱処理装置を構成する熱処理炉を複層構造とし、一の層を、粒状体からなり、熱効率、及び、熱分布の均一性に優れた流動層とし、流動層の上部のフリーボード部分にガスからなる雰囲気層を他の層として形成して、それぞれの温度を異なるものとし、望まれる機械的性質に応じて、被熱処理体たるワークピースの一の部分を所定の温度の流動層に浸漬し、他の部分を所定の温度の雰囲気層に露出して熱処理することによって、上記の目的を達成出来ることを見出した。 【0011】 【課題を解決するための手段】 即ち、本発明によれば、金属からなるワークピースの性質を改善する熱処理に用いる熱処理炉であって、容器内に粒状物が充填され、その粒状物が容器内に吹き込まれる熱風により流動化されて形成される流動層と、流動層の上部に備わり、 空気を熱媒体とした雰囲気層とを有し、ワークピースが、一の部分を流動層内に浸漬し、他の部分を雰囲気層中に露出して熱処理されることを特徴とする複層熱処理炉が提供される。 【0012】 上記の複層熱処理炉においては、ワークピースを複層熱処理炉内で移動して熱処理する移動手段を有し、流動層内に浸漬するワークピースの一の部分と雰囲気層中に露出するワークピースの他の部分との比率が、0:100%〜100:0%の間で可変として熱処理されることが好ましい。 又、複数のワークピースを1 基の複層熱処理炉で同時に熱処理することも可能である。 【0013】 本発明の複層熱処理炉においては、熱風を吹き込む熱風管は、ヘッダー管及び分散管からなり、 少なくとも分散管が、流動層内に配設されることが好ましい。 又、雰囲気層温度低減手段を備えることが好ましい。 更には、流動層界面自動調節機構、あるいは又、温度自動調節機構をも備えることも好ましい。 本発明の複層熱処理炉は、アルミニウム合金製車両足回り部品を好ましく熱処理出来る。 【0014】 又、本発明によれば、上記した複層熱処理炉を、時効処理炉として用いた熱処理装置であって、 溶体化処理炉と時効処理炉の他に、耐熱集塵機、熱交換器を備え、溶体化処理炉から出る排ガスを耐熱集塵機により除塵した後、熱交換器によって排ガスの持つ廃熱を回収し、時効処理炉の熱源として再利用することを特徴とする熱処理装置が提供される。 【0015】 更に、本発明によれば、金属からなるワークピースを溶体化処理し、次いで時効処理を行い、ワークピースの性質を改善する熱処理方法であって、容器内に粒状物が充填され、その粒状物が容器内に吹き込まれる熱風により流動化されて形成される流動層と、流動層の上部に備わり、空気を熱媒体とした雰囲気層と、を有する複層熱処理炉を用いて、ワークピースの一の部分を流動層内に浸漬し、他の部分を雰囲気層中に露出して熱処理し、一の部分と他の部分とで、異なる熱処理効果を得ることを特徴とする熱処理方法が提供される。 少なくとも時効処理に用い、ワークピースの部分によって時効硬化を調節することが可能である。 【0016】 上記した熱処理方法を用いた時効処理においては、流動層の温度を時効温度に調節することが好ましく、又、雰囲気層の温度が狙った時効温度になるように流動層の温度を制御することも好ましい。 この時効温度は、ワークピースの材料がアルミニウム合金であれば、概ね150〜210℃であることが好ましい。 【0017】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。 但し、本発明が以下の実施の形態に限定されるものでないことはいうまでもない。 【0018】 本発明の複層熱処理炉は、金属からなるワークピースの性質を改善する熱処理に用いられる。 例えば、Al合金において、機械的性質をより好ましいものとするために施される、溶体化処理及び時効処理としては、一般に、空気を熱媒体としたトンネル炉などの雰囲気炉が多く用いられているが、昇温速度が遅い他、温度の振れが約±5℃と大きく、そのため、より高い温度での溶体化処理が出来ない等の問題があり、又、従来のトンネル炉などの雰囲気炉では、処理装置が大型となり装置初期コストが高価となるので、最近になり、Al合金の溶体化処理及び時効処理として、流動層を備えた熱処理炉が用いられ始めている。 【0019】 本発明は、その流動層とともに、流動層上部に雰囲気層を形成した複層を有する熱処理炉に関するものであり、更に、その複層熱処理炉を、時効処理炉として用いた熱処理装置と、その熱処理装置を用いた熱処理方法に関する発明である。 【0020】 本発明においては、容器内に粒状物が充填され、その粒状物が容器内に吹き込まれる熱風により流動化されて形成される流動層と、流動層の上部に備わり、ガスを熱媒体とした雰囲気層とからなる複層の熱処理炉であって、熱処理されるワークピースが、一の部分を流動層内に浸漬し、他の部分を雰囲気層中に露出して熱処理される点に特徴を有する。 流動層は、珪素酸化物等の粒状物からなり、雰囲気層は、空気を代表とするガスからなるので、例えば、流動層のみを加熱する方法をとった場合に、熱処理炉の流動層と雰囲気層の間に、ガスの熱伝導率により異なる温度差を生じさせることが可能である。 このとき、ワークピースの各部分によって接する層を変えて熱処理すれば、熱処理温度が変わることになり、ワークピースの各部分毎に異なる機械的性質を与えることが可能となる。 【0021】 以下に、本発明の複層熱処理炉を、図面に基づいて更に詳細に説明する。 図1は、本発明に係る複層熱処理炉の一実施例を示す断面図である。 本発明の複層熱処理炉1においては、ヘッダー管5及び分散管4 からなる熱風管を通して、熱風を、直接流動層2内に吹き込む形式の加熱方法を用いることが好ましい。 この加熱方法を用いた流動層2は、容器内に充填された粉粒体などの粒状物が容器内に吹き込まれた熱風により加熱され、且つ、流動されることにより均一に混合されて形成されることになり、流動層2内部の温度が略均一になるとともに伝熱効率に優れる。 このとき流動層2を囲む容器は、無駄な放熱を防ぐために、断熱性に優れた材料を用いることが好ましい。 【0022】 流動層2の加熱は、例えば、ブロワより送られる空気をバーナ等で加熱する熱風発生装置(図示しない)を用いて700〜800℃等の所定温度まで暖めた熱風が、ヘッダー5を経て、分散管4から、内部に粒状物が充填・収容された流動層2内に吹き込まれることによって行われる。 流動層2内には、熱風管が配設されている。 ここで、熱風管は、圧力調整用のヘッダー5 と、圧力調整用のヘッダー5から分岐する複数の分散管4から構成されている。 又、分散管4には、多数の吹出口が形成されており、これらの吹出口は、例えば、それそれ下向きに開口している。 熱風は流動層2内部に吹き込まれ、粒状物を流動化させるとともに粒状物を加熱する。 このようにして、流動層2内は、例えば、Al合金の溶体化処理の場合には540〜550℃に加熱され、 ワークピースは迅速に加熱される。 【0023】 本発明は、この流動層2の上部に形成されるガス層を雰囲気層3として用いる。 雰囲気層3に直接熱風を吹き込み、流動層2とは独立して加熱しても構わないが、上記したように流動層2を断熱性の高い容器で構成しながら、雰囲気層2側を開放するか、若しくは、断熱性の低い材料の壁で構成することによって、流動層2の熱が雰囲気層3側に逃げ易くすれば、必然的に雰囲気層3が加熱され昇温する。 熱源使用効率の点から、雰囲気層3の昇温は、このような流動層2から熱が伝搬して加熱される間接加熱方法により行われることが好ましい。 【0024】 雰囲気層3を、間接加熱方法で昇温すると、雰囲気層3の上部を一部大気開放した上壁を有する複層熱処理炉1においては、雰囲気層3と熱風で直接加熱される流動層2とは、雰囲気層3を構成するガスの種類によって決定される一定の温度差を形成する。 例えば、この複層熱処理炉1の雰囲気層3を空気で構成すれば、流動層2で時効温度の190℃としたときに、雰囲気層3は概ね130℃前後となり、約60℃低い温度で安定する。 60℃前後の温度差で、充分に、熱処理効果を変えられるので、雰囲気層3を構成するガスは、最も安価な空気とすることが好ましい。 【0025】 必要に応じて、複層熱処理炉1を密閉しガスの種類を変更して、温度差を変更することも好ましい。 又、雰囲気層温度低減手段を備えることも好ましい。 雰囲気層温度低減手段とは、例えば、冷風を吹き込んだり、複層熱処理炉1の上面を所定の時間だけ、あるいは、所定の面積だけ、開放又は密閉する等の手段である。 雰囲気層3を構成するガスの種類を変更することと組み合わせれば、流動層2と雰囲気層3との温度差を、 上記したガスの種類によって決定される温度差に加えて、種々に変更することが可能となる。 【0026】 上記のような温度差のある流動層2と雰囲気層3からなる複層熱処理炉1に、被熱処理体たるワークピースの一の部分を流動層2内に浸漬し、他の部分を雰囲気層3中に露出して、熱処理、例えば、時効処理を施せば、ワークピースの各部分によって、異なる温度条件下で処理されることが可能になり、ワークピースの各部分に望まれる異なった機械的性質を付与し得る。 流動層内で処理された部分は、昇温が速く、又、温度も高いため、同一加熱時間でも最も時効硬化が進み、引っ張り強さは最大となる。 雰囲気層中で処理された部分は、 昇温が遅く、又、温度も低いため、同一加熱時間でも時効硬化が進まず、亜時効状態となるため伸びが大きくなる。 【0027】 上記したように図2に示すアルミニウムホイール20では、アウターリム21とスポーク22はより強度が高いことを重視するが、インナーリム23は強度とともに延性が重視される。 従って、例えば、図3 に示すように、アウターリムとスポークを流動層2内に浸漬し、インナーリムを雰囲気層3中に露出するか、若しくは、図4に示すように、インナーリムを流動層2内に浸漬し、アウターリムとスポークを雰囲気層3中に露出して熱処理すれば、それぞれの要求に応じた機械的性質を付与可能となる。 図3に示す方法では、流動層2の温度及び時間を、最高時効となるように調整すればインナーリムは亜時効となる。 又、図4に示す方法では、流動層2の温度及び時間を、過時効となるように調整すれば、インナーリムは過時効となって延性が期待出来、雰囲気層3中のアウターリムとスポークは最高時効に近い条件となる。 【0028】 又、加えて、複層熱処理炉1内でワークピースを移動可能とする移動手段を備えれば、流動層2 内に浸漬するワークピースの一の部分と雰囲気層3中に露出するワークピースの他の部分との比率が、0:10 0%〜100:0%の間で可変となり、熱処理条件を更に細かく調節可能となるので好ましい。 例えば、移動手段として、ワークピースを載置して上下する昇降機を備えれば、ワークピースの一の部分が、所定の時間だけ、 より高温である流動層2内で熱処理され、又、所定の時間だけ、より低温である雰囲気層3内で熱処理されるといったことが可能となり、例えば、引っ張り強さと伸びに関わる時効硬化をより細かく調節することが出来得る。 【0029】 更に、本発明の複層熱処理炉1を使用した熱処理においては、温度の異なる流動層2と雰囲気層3を備えているので、複数のワークピースを、1基の熱処理炉で同時に熱処理することが可能となる。 例えば、 異なる溶体化処理温度を有する複数のワークピースを、 それぞれのワークピースに適する温度に調節された流動層2と雰囲気層3を用いて、一のワークピースを流動層2内に浸漬し、他のワークピースを雰囲気層3中に露出して溶体化処理することが出来る。 この同時熱処理によって、スループットの向上が図られ、金属製品の製造コストがより低減され得る。 【0030】 本発明においては、流動層界面自動調節手段を有することが好ましい。 流動層界面自動調節手段とは、必要に応じて、あるいは、意に反する界面変動が生じたときに、流動層2の界面を自動で好ましい界面に調節する手段をいう。 流動層界面自動調節手段としては、例えば、複層熱処理炉1の炉体が概ね直方体であって水平断面が概ね四角形のときに、四角形の何れかの隅に1基の流動層界面計測器(図示しない)を備え、計測界面を基に、炉体上部に備えた粒状物供給機(図示しない)によって粒状物を補給する機構を備えることが好ましい。 更に詳細には、流動層界面計測器とは、例えば、 透明な耐熱ガラスを通して光電管にて流動層を構成する粒状体の界面を計る機器である。 【0031】 このような流動層界面自動調節手段を備えれば、1基の複層熱処理炉1において、必要に応じて任意に、流動層2と雰囲気層3の容積を変更可能となるので、様々な大きさのワークピースに対応し易い。 又、 単独で、あるいは、上記した複層熱処理炉1内でワークピースを移動可能とする移動手段と併せれば尚更に、ワークピースの各部分に応じた熱処理条件を調節し易くなる。 更には、異常な界面変動が防止出来るので、望まれる熱処理が施されず、金属製品の品質が劣化したり歩留まりが低下するという問題も起こり難い。 【0032】 本発明においては、流動層温度自動調節手段を有することが好ましい。 流動層温度自動調節手段として、例えば、複層熱処理炉1の炉体が概ね直方体であって水平断面が概ね四角形のときに、四角形の四隅に各々温度計測器(図示しない)を備え、計測温度を基に、熱風管に繋がる配管に備えたガス量調節弁等によって流動層2へ吹き込む熱風温度を制御する機構を用いることが出来る。 このような流動層温度自動調節手段を備えれば、省マンパワーとなり、又、異常な温度変動が生じ難くなり、熱処理によって期待される効果を発揮しないといった問題の発生を防止出来る。 【0033】 この流動層温度自動調節手段を用いれば、例えば、時効処理において、流動層2の設定温度を時効温度とする制御を、より容易に行うことが出来る。 流動層2の設定温度を170℃の時効温度とした場合には、空気を熱媒体として用いる雰囲気層3では、流動層2より温度が低くなる。 【0034】 又、空気を熱媒体として用いる雰囲気層3の温度を、流動層2の設定温度によって調節することも可能である。 この制御は、予め、承知の流動層2と雰囲気層3との温度差を考慮して流動層2の設定温度を決めてもよいが、雰囲気層3にも温度計測器を備えて、その計測温度を基に、流動層2の設定温度を調節するカスケード制御を行うことがより好ましい。 【0035】 ワークピースとして、アルミニウム合金製車両足回り部品、例えばホイールを好適に熱処理することが出来るが、ワークピースの材料がアルミニウム合金の場合には、時効温度は概ね150〜210℃である。 【0036】 次に、上記した複層熱処理炉を用いた熱処理装置(図示しない)について説明する。 本発明の熱処理装置は、複層熱処理炉を時効処理炉として用いて構築される。 この熱処理装置の特徴は、溶体化処理炉で用いた熱風の熱エネルギーを下流側の時効処理炉において再利用して、熱エネルギーの有効利用を図った点にある。 熱処理装置は、溶体化処理炉、時効処理炉の他に、 熱風発生装置と、溶体化処理炉と時効処理炉を結ぶ配管系内に耐熱集塵機、及び、耐熱性の誘引・押込ファンを備える。 熱風発生装置は、自身に送風ファンを備え、送風ファンから送られる空気と燃料とを熱風炉で混合燃焼し、高温の熱風を発生する。 熱風は、溶体化処理炉に導入され、溶体化処理に熱を使用して、少し温度を下げて溶体化処理炉から排出され、しかし高温のまま耐熱集塵機に通され集塵される。 集塵された熱風(溶体化処理炉の排ガス)は、次いで、耐熱性の誘引・押込ファンを介して時効処理炉に導入され、時効処理炉の熱源として再利用される。 その後、熱風(時効処理炉の排ガス)は、 必要に応じ集塵された後、誘引ファンを介して大気に放出される。 尚、熱交換器を、溶体化処理炉と時効処理炉との間の耐熱集塵機の上流側に設置して、溶体化処理炉の排ガスに対して熱交換を行い、時効処理炉に送る熱風の熱源とすることも、温度調節の容易さ、集塵機の能力、長期の運転安定性を考慮すると望ましいものである。 【0037】 【実施例】 以下、本発明を実施例に基づき、更に具体的に説明する。 (実施例)複層熱処理炉を用いて、Al合金の溶体化処理を実施した後、時効処理を行った。 熱処理に用いた複層熱処理炉は、一辺が1500mm×1500mmの角タンク状で直胴部高さが750mm、下方部が台形状の容器から構成されている。 流動層の粒状物としては、平均粒径が50〜500μmの砂を用いた。 【0038】 被熱処理体たるワークピースとしては、 鋳造されたアルミホイール(車両用:14kg)を用い、テストピースの採取位置は、アウターリム(フランジ)、インナーリム(フランジ)及びスポークの3ヶ所とした。 上記アルミホイールの組成は、Siを7.0質量%、Mgを0.34質量%含有し、残部がAlであった。 【0039】 熱処理条件としては、次の通りとした。 熱処理スケジュールを図5に示す。 溶体化処理は、アルミホイールを流動層内に全て浸漬し、溶体化処理温度を550℃、溶体化処理時間51を60分間継続とした。 時効処理は、図3に示すようにアルミホイールを、アウターリムとスポークが流動層に浸漬されインナーリムが雰囲気層中に露出するようにして、時効処理温度を19 0℃とし、時効処理時間52を60分間継続とした。 尚、上記した溶体化処理温度、時効処理温度はともに流動層内の温度である。 【0040】 上記のようにして熱処理されたアルミホイールからテストピースを採取し(n=4)、それぞれ引張試験(引張強さ、0.2%耐力、伸び)、衝撃試験(衝撃値)及び硬さ試験(硬度)を行った。 得られた結果を図7、図9に示す。 尚、衝撃試験としては、JIS で規定されたシャルピー試験法を用いて衝撃値を測定した。 又、硬さ試験としては、JIS Z2245に規定された試験法を用い、ロックウェル硬さを測定した。 引張強さ、0.2%耐力、及び、伸びという機械的特性は、JIS Z2201で規定されている試験法に従って求めた。 【0041】(比較例)時効処理において、アルミホイールを流動層内に全て浸漬した以外は、実施例と同一条件下で熱処理を行った。 上記のようにして熱処理されたアルミホイールからテストピースを採取し(n=4)、 それぞれ引張試験(引張強さ、0.2%耐力、伸び)、 衝撃試験(衝撃値)及び硬さ試験(硬度)を行った。 得られた結果を図6、図8に示す。 【0042】(考察)実施例及び比較例における引張試験、衝撃試験及び硬さ試験の結果から、実施例により得られたアルミホイールは、比較例により得られたアルミホイールと比べて、インナーリムの0.2%耐力が低下し、伸びが大きく向上したことが確認された。 又、衝撃値が大きくなり、硬度は低下した。 アウターリム及びスポークについては、全ての試験項目について大きな変化は見られなかった。 本試験結果より、それぞれ温度が異なる流動層と雰囲気層を有する複層熱処理炉を用いれば、1基の熱処理炉を用いた1回の熱処理であっても、 同一のワークピースの各部分によって異なる望ましい機械的性質を与え得ることは明らかである。 【0043】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、金属製品の各部分に好ましい機械的性質を与え得る熱処理炉と、その熱処理炉を含む熱処理装置、及び、その熱処理装置を用いた熱処理方法が提供される。 そして、薄肉化が可能となり、より製造コストが低減された金属製品の生産が可能となる。 特に、軽量化材料たるアルミニウム合金を用いた製品においては、コストを抑えながら薄肉化によってより軽量化が図られるので、需要の増大を導くことにも貢献する。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明に係る複層熱処理炉の一実施例を示す断面図である。 【図2】 被熱処理体たるワークピースの一例であるアルミニウムホイールの断面図である。 【図3】 本発明の複層熱処理炉を用いた熱処理装置の一実施例を示す説明図である。 【図4】 本発明の複層熱処理炉を用いた熱処理装置の他の一実施例を示す説明図である。 【図5】 熱処理スケジュールを示すグラフである。 【図6】 比較例における引張試験結果を示すグラフである。 【図7】 実施例における引張試験結果を示すグラフである。 【図8】 比較例における衝撃及び硬さ試験結果を示すグラフである。 【図9】 実施例における衝撃及び硬さ試験結果を示すグラフである。 【符号の説明】 1…複層熱処理炉、2…流動層、3…雰囲気層、4…分散管、5…ヘッダー管、20…アルミニウムホイール(ワークピース)、21…アウターリム、22…スポーク、23…インナーリム、51…溶体化処理(有効)時間、52…時効処理(有効)時間。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 7識別記号 FI テーマコート゛(参考) F27B 15/18 F27B 15/18 F27D 17/00 101 F27D 17/00 101A 105 105A 19/00 19/00 A // C22F 1/00 630 C22F 1/00 630A 630B 631 631A 691 691B |