断熱膜、および断熱膜構造

申请号 JP2015549180 申请日 2014-11-13 公开(公告)号 JP6423360B2 公开(公告)日 2018-11-14
申请人 日本碍子株式会社; 发明人 小林 博治; 冨田 崇弘; 織部 晃暢;
摘要
权利要求

アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.1〜50μmであり、気孔率が20〜90%である多孔質板状フィラーが、前記多孔質板状フィラーを結合するためのマトリックスに分散しており、 膜厚方向に平行な断面において、前記多孔質板状フィラーの最大長辺と前記最大長辺の中心から基材へ下ろした垂線との度であるフィラー角度が45°以下である前記多孔質板状フィラーの個数割合が50%以下であり、 前記多孔質板状フィラーは、金属酸化物を含み、前記金属酸化物がZr、Y、Al、Si、Ti、Nb、Sr、La、Hf、Ce、Gd、Sm、Mn、Yb、Er、及びTaからなる群から選ばれる1の元素の酸化物あるいは2以上の元素の複合酸化物である断熱膜。前記フィラー角度が30°以下の個数割合が30%以下で、かつ前記フィラー角度が60°以下の個数割合が70%以下である請求項1に記載の断熱膜。前記多孔質板状フィラーは、熱伝導率が1W/(m・K)以下である請求項1または2に記載の断熱膜。前記多孔質板状フィラーは、熱容量が10〜3000kJ/(m3・K)である請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱膜。前記多孔質板状フィラーは、ナノオーダーの気孔、またはナノオーダーの粒子もしくは結晶粒を含んで構成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の断熱膜。前記多孔質板状フィラーは、粒径が1nm〜10μmである粒子を含んで構成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱膜。熱容量が1500kJ/(m3・K)以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の断熱膜。熱伝導率が1.5W/(m・K)以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の断熱膜。請求項1〜8のいずれか1項に記載の断熱膜が、基材上に形成された断熱膜構造。前記断熱膜の表面に、セラミックスおよび/またはガラスを含み、気孔率が5%以下である表面緻密層を有する請求項9に記載の断熱膜構造。前記基材と前記断熱膜との間、および/または前記断熱膜と前記表面緻密層との間に、厚さが前記断熱膜よりも薄い緩衝接合層を備える請求項10に記載の断熱膜構造。

说明书全文

本発明は、断熱効果を向上させるための断熱膜、および断熱膜構造に関する。

表面に形成することにより、断熱効率や難燃性を向上させるための断熱膜が望まれている。特許文献1には、表面硬度が高く傷付きを防止できるコーティング膜が開示されている。コーティング膜は、シリカ殻からなる中空粒子をバインダーに分散してなる。シリカ殻からなる中空粒子の耐摩耗性及び高硬度によって、コーティング膜が形成された基材の耐摩耗性を向上させることができる。また、シリカ殻からなる中空粒子の断熱性によって難燃性を向上させることができる。

特許文献2には、断熱性能を向上させた構造部材を備える内燃機関が開示されている。特許文献2の内燃機関では、排気通路の内壁に隣接して断熱材が配置され、高温の作動ガス(排気ガス)が、断熱材が形成する流路に沿って流れるように構成されている。断熱材は、平均粒径が0.1〜3μmのMSS(球状メソポーラスシリカ)粒子の各粒子が接合材を介して粒子同士が密集した状態で積層されている。MSS粒子には、平均孔径1〜10nmのメソ孔が無数に形成されている。

特開2008−200922号公報

特開2011−52630号公報

特許文献1では、略30〜300nmの外径のシリカ殻からなる中空粒子が有機樹脂バインダーまたは無機高分子バインダーあるいは有機無機複合バインダー中に略均一に分散しているため、コーティング膜の断熱性が得られる。また、特許文献2では、平均粒径が0.1〜3μmで平均孔径1〜10nmのメソ孔を有するMSS(球状メソポーラスシリカ)粒子が密集した状態で積層されているため、断熱性能が高い。

特許文献1や2で用いられる中空粒子や多孔質粒子は、低熱伝導率であるため、それ以外のマトリックス部分(粒子間を結合する相)が主な伝熱経路となることが推察される。これらの粒子は、立方体状又は球状であるため、熱の経路が図7に示すように比較的短くなり、熱伝導率が十分に低くならない。

本発明の課題は、断熱効果を向上させた断熱膜、および断熱膜構造を提供することにある。

本発明者らは、多孔質板状フィラーが、多孔質板状フィラーを結合するためのマトリックスに分散するとともに、膜厚方向に平行な断面において、多孔質板状フィラーの度が所定の範囲内である個数割合を所定の範囲内とすることにより上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の断熱膜、および断熱膜構造が提供される。

[1] アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.1〜50μmであり、気孔率が20〜90%である多孔質板状フィラーが、前記多孔質板状フィラーを結合するためのマトリックスに分散しており、膜厚方向に平行な断面において、前記多孔質板状フィラーの最大長辺と前記最大長辺の中心から基材へ下ろした垂線との角度であるフィラー角度が45°以下である前記多孔質板状フィラーの個数割合が50%以下であり、前記多孔質板状フィラーは、金属酸化物を含み、前記金属酸化物がZr、Y、Al、Si、Ti、Nb、Sr、La、Hf、Ce、Gd、Sm、Mn、Yb、Er、及びTaからなる群から選ばれる1の元素の酸化物あるいは2以上の元素の複合酸化物である断熱膜。

[2] 前記フィラー角度が30°以下の個数割合が30%以下で、かつ前記フィラー角度が60°以下の個数割合が70%以下である前記[1]に記載の断熱膜。

[3] 前記多孔質板状フィラーは、熱伝導率が1W/(m・K)以下である前記[1]または[2]に記載の断熱膜。

[4] 前記多孔質板状フィラーは、熱容量が10〜3000kJ/(m3・K)である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の断熱膜。

[5] 前記多孔質板状フィラーは、ナノオーダーの気孔、またはナノオーダーの粒子もしくは結晶粒を含んで構成される前記[1]〜[4]のいずれかに記載の断熱膜。

[6] 前記多孔質板状フィラーは、粒径が1nm〜10μmである粒子を含んで構成されている前記[1]〜[5]のいずれかに記載の断熱膜。

[7] 熱容量が1500kJ/(m3・K)以下である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の断熱膜。

[8] 熱伝導率が1.5W/(m・K)以下である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の断熱膜。

[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の断熱膜が、基材上に形成された断熱膜構造。

[10] 前記断熱膜の表面に、セラミックスおよび/またはガラスを含み、気孔率が5%以下である表面緻密層を有する前記[9]に記載の断熱膜構造。

[11] 前記基材と前記断熱膜との間、および/または前記断熱膜と前記表面緻密層との間に、厚さが前記断熱膜よりも薄い緩衝接合層を備える前記[10]に記載の断熱膜構造。

アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.1〜50μmであり、気孔率が20〜90%である多孔質板状フィラーを含み、多孔質板状フィラーの最大長辺と最大長辺の中心から基材へ下ろした垂線との角度であるフィラー角度が45°以下である多孔質板状フィラーの個数割合が50%以下である断熱膜は、球状や立方体状のフィラーを用いる場合と比べて、伝熱経路の長さが長くなり、熱伝導率を低くすることができる。このため、薄い断熱膜であっても、従来よりも断熱効果が高い。また、マトリックスを介した多孔質板状フィラー同士の結合面積が、球状フィラーなどを用いる場合と比べて広くなるため、強度を高めることができる。さらに、多孔質板状フィラーが板状であるため、断熱膜の最表面に凹凸が形成されにくく、多孔質板状フィラーの脱粒、すなわち、断熱膜の欠損を防止することができる。

多孔質板状フィラーの一実施形態を示す模式図である。

多孔質板状フィラーの他の実施形態を示す模式図である。

本発明の断熱膜、および断熱膜構造の一実施形態を示す模式図である。

フィラー角度について説明するための図である。

基材が平板でない場合のフィラー角度を説明するための図である。

エンジンの一実施形態を示す模式図である。

本発明の断熱膜、および断熱膜構造の他の実施形態を示す模式図である。

本発明の断熱膜、および断熱膜構造のさらに他の実施形態を示す模式図である。

実施例1を示すSEM写真である。

比較例1を示すSEM写真である。

比較例の断熱膜、および断熱膜構造を示す模式図である。

以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。

1.多孔質板状フィラー 図1に多孔質板状フィラー1の一実施形態を示す。多孔質板状フィラー1は、アスペクト比が3以上の板状で、その最小長が0.1〜50μmであり、気孔率が20〜90%である。気孔率は、より好ましくは40〜85%であり、さらに好ましくは50〜80%である。気孔率を20%以上とすることにより、多孔質板状フィラー1の熱伝導率を低くすることができ、気孔率を90%以下とすることにより、強度を確保することができる。本明細書において、気孔率は、次の式により求めたものである。 気孔率(%)=(1−(見かけ粒子密度÷真密度))×100 上記の式において、見かけ粒子密度は、銀を用いた液浸法により測定する。また、真密度は、多孔質板状フィラーを十分に粉砕した後、ピクノメータ法で測定する。

また、本明細書において、アスペクト比とは、多孔質板状フィラー1の最大長/最小長で定義される。ここで最大長とは、粒子(多孔質板状フィラー1)を一組の平行な面ではさんだときに最大となる長さである。また、最小長とは同様に粒子を一組の平行な面ではさんだときに最小となる長さのことであり、平板状である場合はいわゆる厚さに相当する。多孔質板状フィラー1の板状とは、アスペクト比が3以上でその最小長が0.1〜50μmであるものであれば、平板状(平らで湾曲していない板)のみならず、湾曲した板状のものや、厚み(最小長)が一定ではない板状ものも含まれる。また、繊維状、針状、塊状等の形状でもよい。このうち、多孔質板状フィラー1は、平板状であることが好ましい。また、板の面形状は、正方形、四角形、三角形、六角形、円形等のいずれの形状であってもよい。つまり、多孔質板状フィラー1は、平板状であれば、どのような形状であってもよい。

多孔質板状フィラー1のアスペクト比は、3以上であることが好ましい。大きければ大きいほど断熱膜3を形成した際に、伝熱経路が屈折して長くなり断熱膜3の熱伝導率が低くなる。しかしながら、アスペクト比が大きすぎると、製造上の取扱いが困難となり、歩留まりが悪くなることがある。例えば、アスペクト比を大きくするために最小長を短くすると、強度を十分なものとすることができなくなることがある。一方、最大長を長くすると、多孔質板状フィラー1が大きくなり、破損することがある。このためアスペクト比は、より好ましくは3以上50以下、さらに好ましくは3.5以上40以下、最も好ましくは4以上30以下である。

このような多孔質板状フィラー1が、後述するように断熱膜3に含まれることにより、断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1は、ナノオーダーの気孔を含むことが好ましい。ここで、ナノオーダーとは、1nm以上1000nm未満のものを言う。この範囲の気孔を含むことにより、断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1は、気孔径が10〜500nmの気孔を有することが好ましい。気孔は、1つのフィラーに1個(中空粒子)であってもよいし、多数(多孔質粒子)を有していてもよい。中空粒子とは、粒子の内部に1つの閉気孔が存在する粒子である。多孔質粒子とは、粒子の内部が多孔質の粒子、すなわち、前記中空粒子以外の気孔を含む粒子である。多孔質板状フィラー1は、多孔質粒子のみならず、中空粒子を含むものとする。すなわち、多孔質板状フィラー1に含まれる気孔の個数は、1個でも多数でもよく、気孔は、閉気孔であっても、開気孔であってもよい。このような気孔を有する多孔質板状フィラー1が断熱膜3に含まれると、気孔によって断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1の材料としては、例えば、中空の板状ガラス、中空の板状セラミックなどが挙げられる。また、メソポーラスシリカ、メソポーラスチタニア、メソポーラスジルコニア、シラスバルーンなどが挙げられる。あるいは、後述する製造方法で得られる多孔質板状フィラーも挙げられる。

多孔質板状フィラー1は、金属酸化物を含むことが好ましく、金属酸化物のみからなることがさらに好ましい。金属酸化物を含むと、金属の非酸化物(例えば、炭化物や窒化物)に比べて金属と酸素の間のイオン結合性が強いために熱伝導率が低くなりやすいためである。

多孔質板状フィラー1は、金属酸化物がZr、Y、Al、Si、Ti、Nb、Sr、La、Hf、Ce、Gd、Sm、Mn、Yb、Er、及びTaからなる群から選ばれる1の元素の酸化物あるいは2以上の元素の複合酸化物であることが好ましい。金属酸化物がこれらの元素の酸化物、複合酸化物であると、熱伝導の主因である格子振動(フォノン)による熱伝導が起こりにくくなるためである。多孔質板状フィラー1の具体的な材料としては、ZrO2−Y2O3にGd2O3、Yb2O3、Er2O3等を添加したものが挙げられる。さらに具体的には、ZrO2−HfO2−Y2O3、ZrO2−Y2O3−La2O3、ZrO2−HfO2−Y2O3−La2O3、HfO2−Y2O3、CeO2−Y2O3、Gd2Zr2O7、Sm2Zr2O7、LaMnAl11O19、YTa3O9、Y0.7La0.3Ta3O9、Y1.08Ta2.76Zr0.24O9、Y2Ti2O7、LaTa3O9等が挙げられる。

多孔質板状フィラー1は、無機材料、有機材料、あるいは無機材料と有機材料の複合材料であってもよい。中でも、ジルコニア、部分安定化ジルコニア(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア)、完全安定化ジルコニア(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア)、酸化イットリウム、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化ストロンチウム、酸化ランタン、ジルコニウム、イットリア、アルミニウム、ケイ素、チタン、ニオブ、ストロンチウム、ランタン、希土類ジルコン酸塩(例えば、ランタンジルコネート)、希土類ケイ酸塩(例えば、イットリウムシリケート)、ニオブ酸塩(例えば、ニオブ酸ストロンチウム)、ムライト、雲母、スピネル、ジルコン、マグネシア、セリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭酸ストロンチウム等の無機材料であることが好ましく、ジルコニア、部分安定化ジルコニア(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア)、完全安定化ジルコニア(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア)、酸化イットリウム、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化ニオブ、酸化ストロンチウム、酸化ランタン等の金属酸化物であることがより好ましい。これらは1種類だけでなく2種類以上を組み合わせて用いても良い。

多孔質板状フィラー1は、粒径が1nm〜10μmである粒子を含んで構成されていることが好ましい。粒子とは、一つの結晶粒からなる粒子(単結晶粒子)であっても良いし、多数の結晶粒からなる粒子(多結晶粒子)であっても良い。つまり、多孔質板状フィラー1がこの範囲の粒径の粒子の集まりであることが好ましい。粒径は、多孔質板状フィラー1の骨格を構成する粒子群のうちの1つの粒子の大きさ(球状であれば直径、そうでなければ最大径)を、電子顕微鏡観察の画像から計測したものである。粒径は、より好ましくは1nm〜5μmであり、さらに好ましくは50nm〜1μmである。このような範囲の粒径の多孔質板状フィラー1が断熱膜3に含まれると、断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1の最小長は、0.1〜50μmであり、より好ましくは0.5〜20μmであり、さらに好ましくは2〜15μm、最も好ましくは2〜10μmである。多孔質板状フィラー1の最小長が0.1μmより短いと、製造工程中に多孔質板状フィラー1の形状を保つことが困難となることがある。多孔質板状フィラー1の最小長が50μmより長いと、断熱膜3に含ませた際に多孔質板状フィラー1の積層数が減るため、伝熱経路が直線に近くなることで短くなり、断熱膜3の熱伝導率が高くなる。また、多孔質板状フィラー1の最小長が短いと、断熱膜3を薄くすることができる。すなわち、薄い断熱膜3であっても、断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1は、熱伝導率が1W/(m・K)以下であることが好ましい。熱伝導率は、より好ましくは0.7W/(m・K)以下、さらに好ましくは0.5W/(m・K)以下、最も好ましくは0.3W/(m・K)以下である。このような熱伝導率の多孔質板状フィラー1が断熱膜3に含まれると、断熱効果を向上させることができる。

多孔質板状フィラー1は、熱容量が10〜3000kJ/(m3・K)であることが好ましい。熱容量は、より好ましくは10〜2500kJ/(m3・K)、さらに好ましくは300〜2000kJ/(m3・K)、最も好ましくは400〜1500kJ/(m3・K)である。このような範囲の熱容量の多孔質板状フィラー1が断熱膜3に含まれると、断熱効果を向上させることができる。なお、本明細書において、熱容量は、一般的には容積比熱と呼ばれる単位体積当たりで議論することとするため、単位はkJ/(m3・K)である。

図2に示すように、多孔質板状フィラー1は、表面の少なくとも一部に、厚さ1nm〜1μmの被覆層7を有することが好ましい。さらに被覆層7は、熱伝達を抑制するおよび/又は輻射熱を反射するおよび/又は格子振動(フォノン)を散乱する、熱抵抗膜であることが好ましい。多孔質板状フィラー1の表面に数十nmの熱抵抗膜を形成させると、さらに断熱膜3の熱伝導率を下げることができるため好ましい。熱抵抗膜は、被覆される多孔質板状フィラーと同一の材料でなければよく、多孔質板状フィラー1を異種材料(例えば、アルミナ、酸化亜鉛)で被覆することが望ましい。熱抵抗膜は緻密であっても多孔質であっても問題ないが、緻密であることが好ましい。熱抵抗膜は、多孔質板状フィラー1の表面の一部に形成されていることで、熱伝導率を下げる効果が得られるが、多孔質板状フィラー1の表面の全てが熱抵抗膜に覆われているとさらに熱伝導率を下げる効果が得られる。

次に、多孔質板状フィラー1の製造方法について説明する。多孔質板状フィラー1の製造方法としては、プレス成形、鋳込み成形、押出成形、射出成形、テープ成形、ドクターブレード法等が挙げられ、いずれの方法であってもよいが、以下、ドクターブレード法を例として説明する。

まず、セラミックス粉末に、造孔材、バインダー、可塑剤、溶剤等を加えてボールミル等により混合することにより、グリーンシート成形用スラリーを調製する。

セラミックス粉末としては、ジルコニア粉末、部分安定化ジルコニア粉末(例えば、イットリア部分安定化ジルコニア粉末)、完全安定化ジルコニア粉末(例えば、イットリア完全安定化ジルコニア粉末)、アルミナ粉末、シリカ粉末、チタニア粉末、酸化ランタン粉末、イットリア粉末、希土類ジルコン酸塩粉末(例えば、ランタンジルコネート粉末)、希土類ケイ酸塩粉末(例えば、イットリウムシリケート粉末)、ニオブ酸塩粉末(例えば、ニオブ酸ストロンチウム粉末)、ムライト粉末、スピネル粉末、ジルコン粉末、マグネシア粉末、イットリア粉末、セリア粉末、炭化ケイ素粉末、窒化けい素粉末、窒化アルミニウム粉末等を用いることができる。これらは1種類だけでなく2種類以上を組み合わせて用いても良い。また、粉末は乾燥粉末に限らず、水や有機溶媒中に分散したコロイド状態(ゾル状態)のものを用いても良い。造孔材としては、ラテックス粒子、メラミン樹脂粒子、PMMA粒子、ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、カーボンブラック粒子、発泡樹脂、吸水性樹脂等を用いることができる。バインダーとしては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂等を用いることができる。可塑剤としては、DBP(フタル酸ジブチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)等を用いることができる。溶剤としては、キシレン、1−ブタノール等を用いることができる。

上記グリーンシート成形用スラリーに真空脱泡処理を施すことにより、粘度を100〜10000cpsに調整する。その後、ドクターブレード装置によって、焼成後の厚さが0.1〜100μmとなるようにグリーンシートを形成し、(0.5〜200)mm×(0.5〜200)mmの寸法に外形切断を行う。切断した成形体を800〜2300℃、0.5〜20時間にて焼成し、焼成後に適宜粉砕することにより、多孔質な薄板状フィラー(多孔質板状フィラー1)を得ることができる。なお、焼成前のグリーンシートの状態で所定の面形状(正方形、四角形、六角形、円形)などに切断や打ち抜きなどの加工をし、それを焼成し、焼成後に粉砕することなく、多孔質な薄板状フィラーを得ることもできる。

2.コーティング組成物 コーティング組成物は、上述の多孔質板状フィラー1と、無機バインダー、無機高分子、有機無機ハイブリッド材料、酸化物ゾル、及び水ガラスからなる群より選択される一種以上と、を含む。さらに、緻密質なフィラー、粘性調整剤、溶媒、分散剤等を含んでいてもよい。コーティング組成物を塗布、乾燥及び/又は熱処理することにより、断熱膜3を形成することができる。コーティング組成物に含まれる具体的な物質は、セメント、ベントナイト、リン酸アルミニウム、シリカゾル、アルミナゾル、ベーマイトゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、ポリシラザン、ポリカルボシラン、ポリビニルシラン、ポリメチルシラン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、シリコーン、ジオポリマー、ケイ酸ナトリウム等である。また、有機無機ハイブリッド材料の場合、アクリル−シリカ系ハイブリッド材料、エボキシ−シリカ系ハイブリッド材料、フェノール−シリカ系ハイブリッド材料、ポリカーボネート−シリカ系ハイブリッド材料、ナイロン−シリカ系ハイブリッド材料、ナイロン−クレイ系ハイブリッド材料、アクリル−アルミナ系ハイブリッド材料、アクリル−ケイ酸カルシウム水和物系ハイブリッド材料などが望ましい。

コーティング組成物の粘度は0.1〜800mPa・sが好ましく、0.1〜400mPa・sがさらに好ましい。粘度が0.1mPa・sより小さい場合は、塗布後に流動し塗膜の厚さが不均質になることがある。800mPa・sより大きい場合には流動性がなく均質に塗布しにくいことがある。

粘度を調整することにより、マトリックス3m中に多孔質板状フィラー1が均一に分散した断熱膜3とすることができる。例えば、粘度が高すぎると、多孔質板状フィラー1が均一に分散しにくく、断熱膜3の内部で多孔質板状フィラー1が少なくなっている部分が生じやすい。分散剤を添加することにより、コーティング組成物(スラリー)中の多孔質板状フィラー1の分散性を良くして、均質な断熱膜3を作ることができる。すなわち多孔質板状フィラー1の分散性を良くすることにより、均質な断熱膜3とすることができ、熱伝導率を低下させることができる。

3.断熱膜 図3Aを用いて、断熱膜3を説明する。本発明の断熱膜3は、上述の多孔質板状フィラー1が、多孔質板状フィラー1を結合するためのマトリックス3mに分散して配置されている。マトリックス3mとは、多孔質板状フィラー1の周囲やこれらの粒子間に存在する成分であり、これらの粒子間を結合する成分である。

本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1が層状に配置(積層)されていることが好ましい。ここで言う層状に配置とは、多孔質板状フィラー1の最小長の方向が、断熱膜3の厚さ方向と平行になる方向に、多数の多孔質板状フィラー1が配向した状態でマトリックス3m中に存在することを言う。なお、このとき、多孔質板状フィラー1の位置(重心の位置)は、断熱膜3のX、Y、Z方向(ただし、Z方向を厚さ(膜厚)方向とする)に整然と周期的に配置される必要はなく、ランダムに存在していても問題ない(ただし、後述するようなフィラー角度1kであることが必要。)。積層数は1以上であれば問題ないが、積層数が多い方が好ましく、5以上であることが望ましい。多孔質板状フィラー1が断熱膜3の中で、層状に積層されていることにより、伝熱経路が屈折して長くなり、断熱効果を向上させることができる。特に、多孔質板状フィラー1の位置は、図3Aに示すように、Z方向に整然と並んでいない方が(互い違いにずれている方が)、伝熱経路がより屈折して長くなるため、好ましい。

図3Aに示すように、熱伝導率が高いマトリックス3m部分が主な伝熱経路となるが、本発明の断熱膜3は、多孔質板状フィラー1を含み、伝熱経路は、熱を伝えたくない方向(膜厚方向)に対して迂回が多くなる。すなわち、伝熱経路の長さが長くなるため、熱伝導率を低くすることができる。また、マトリックス3mを介した多孔質板状フィラー1間の結合面積は、球状フィラー31(図7参照)よりも広くなるため、断熱膜全体の強度が高められ、エロージョンや剥離などが起こりにくくなる。

図3Bを用いてフィラー角度1kについて説明する。厚さ(膜厚)方向の断面において、多孔質板状フィラー1の最大長辺1mと最大長辺の中心から基材へ下ろした垂線1nとの角度をフィラー角度1kと呼ぶこととする。断熱膜3は、フィラー角度1kが45°以下である多孔質板状フィラー1の個数割合が50%以下であることが好ましい。

より好ましくは、フィラー角度1kが30°以下の個数割合が30%以下で、かつフィラー角度1kが60°以下の個数割合が70%以下である。さらに好ましくは、フィラー角度1kが30°以下の個数割合が20%以下で、かつフィラー角度1kが60°以下の個数割合が60%以下である。マトリックス3m中の多孔質板状フィラー1のフィラー角度1kが上記の範囲であると、多孔質板状フィラー1によって効果的に熱を遮断することができ、断熱膜3の熱伝導率を低下させることができる。すなわち、断熱効果を高めることができる。

図3Cは、基材8が平板でない場合のフィラー角度1kを説明するための図である。基材8が平板でない場合でも同様にしてフィラー角度1kを定義することができる。この場合も、フィラー角度1kが上記の範囲であれば、多孔質板状フィラー1によって効果的に断熱することができる。

断熱膜3は、多孔質板状フィラー1が、多孔質板状フィラー1を結合するためのマトリックス3mに分散しており、多孔質板状フィラー:マトリックスの体積割合が50:50〜95:5であることが好ましい。より好ましくは、60:40〜90:10、さらに好ましくは、70:30〜85:15である。多孔質板状フィラー1とマトリックス3mとの体積割合がこの範囲であると、熱伝導率をさらに下げることができる。これにより、断熱膜3の厚みを減らすことができる。したがって、断熱膜3を配設するスペースが少なくてすみ、コストを低減することもできる。また、多孔質板状フィラー1を結合する働きのあるマトリックス3mが十分な結合を発揮しやすく、多孔質板状フィラー1の剥離を防止することができる。つまり、膜の強度を向上させることができる。さらに、異種材料との接合時に熱応力を下げることができる。以上のように、多孔質板状フィラー1が多ければ断熱効果を向上させ、マトリックス3mが多ければ膜の強度を向上させることができる。多孔質板状フィラー1とマトリックス3mとの体積割合を上記の範囲とすることにより、断熱性と膜の強度とを両立させることができる。

断熱膜3は、多孔質板状フィラー1が板状であるため、球状フィラーの場合と比較して、断熱膜3の最表面に凹凸が形成されにくい。そのため、断熱膜部分に衝撃が加わった場合であっても、多孔質板状フィラー1の脱粒、すなわち、断熱膜3の欠損を防止することができる。

本発明の断熱膜3は、マトリックス3mとして、セラミックス、ガラス、および樹脂の少なくとも一種を含むことが好ましい。耐熱性の観点から、セラミックスまたはガラスがより好ましい。より具体的には、マトリックス3mとなる材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、窒化けい素、酸窒化けい素、炭化けい素、酸炭化けい素、カルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、リン酸アルミニウム、アルミノシリケート、カリウムアルミノシリケート、ガラス等を挙げることができる。これらは熱伝導率の観点から非晶質であることが好ましい。あるいは、マトリックス3mの材料がセラミックスの場合は、粒径が500nm以下の微粒子の集合体であることが望ましい。粒径が500nm以下の微粒子の集合体をマトリックス3mとすることにより、熱伝導率をさらに低くすることができる。また、マトリックス3mとなる材料が樹脂の場合は、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。

断熱膜3は、断熱膜3の全体の気孔率が10〜90%であるとともに、多孔質板状フィラー1の気孔率が20〜90%であり、マトリックス3mの気孔率が0〜70%であることが好ましい。

本発明の断熱膜3は、厚さが1μm〜5mmであることが好ましい。このような厚さとすることにより、断熱膜3によって被覆される基材8の特性に悪影響を与えることなく、断熱効果を得ることができる。なお、断熱膜3の用途に応じてその厚さは上記範囲内で適宜選択することができる。

本発明の断熱膜3は、熱容量が1500kJ/(m3・K)以下であることが好ましく、1300kJ/(m3・K)以下であることがより好ましく、1000kJ/(m3・K)以下であることがさらに好ましく、500kJ/(m3・K)以下であることが最も好ましい。低熱容量であると、例えば、エンジン燃焼室20に断熱膜3を形成した場合(図4参照)、燃料の排気後、断熱膜3の温度が冷えやすい。これにより、エンジン10の異常燃焼などの問題を抑制することができる。

本発明の断熱膜3は、熱伝導率が1.5W/(m・K)以下であることが好ましい。断熱膜3は、1W/(m・K)以下がさらに好ましく、0.5W/(m・K)以下が最も好ましい。低熱伝導率であることにより、伝熱を抑制することができる。

断熱膜3は、上述のコーティング組成物を基材8上に塗布し、乾燥して形成させることができる。また、乾燥後に熱処理して形成させることもできる。このとき、塗布と乾燥あるいは熱処理を繰り返し行うことで厚い断熱膜3を形成することができる。あるいは、断熱膜3を仮の基材上に形成させた後、仮の基材を除去することで、単独で薄板状に形成させた断熱膜3を別途作製し、この断熱膜3を、基材8に接着あるいは接合させてもよい。基材8としては、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木材、布、紙等を用いることができる。特に、基材8が金属の場合の例として、鉄、鉄合金、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル合金、コバルト合金、タングステン合金、銅合金などが挙げられる。

4.断熱膜構造 図3A、及び図4を用いて本発明の断熱膜構造を説明する。本発明の断熱膜構造は、図3Aに示すように、上述の断熱膜3が、基材8上に形成された断熱膜構造である。さらに、図4は、断熱膜構造の一実施形態のエンジン燃焼室構造である。

図4に示すように、本発明の断熱膜構造の一実施形態であるエンジン燃焼室構造は、エンジン構成部材21(基材8)のエンジン燃焼室20を構成する表面上に形成された断熱膜3を備える。本発明の断熱膜3を備えることにより、エンジン燃焼室20の断熱性能を向上させることができる。

断熱膜3は、エンジン燃焼室20を構成するエンジン構成部材21の表面(内壁)に備えられる。具体的には、ピストン14の上面14s、吸気バルブ16、排気バルブ17のバルブヘッド16s,17s、シリンダヘッド13の底面13s等が挙げられる。

エンジン10は、シリンダ12が形成されたシリンダブロック11と、シリンダブロック11の上面を覆って取り付けられたシリンダヘッド13とを有して構成されている。シリンダブロック11のシリンダ12内には、ピストン14が上下方向に摺動可能に備えられている。

シリンダヘッド13には、点火プラグ15が取り付けられている。また、吸気バルブ16、排気バルブ17が取り付けられており、吸気バルブ16は、シリンダヘッド13に形成された吸気通路18を、排気バルブ17は、排気通路19を開閉するように構成されている。

図4に示すように、ピストン14の上面14sに、断熱膜3が備えられている。また、吸気バルブ16、排気バルブ17のバルブヘッド16s,17s、シリンダヘッド13の底面13sにも同様に、断熱膜3が備えられている。これらの面は、エンジン燃焼室20を形成する面であり、これらの面に、断熱膜3を備えることにより、断熱性能を向上させることができる。

シリンダ12、シリンダヘッド13、ピストン14によって囲まれたエンジン燃焼室20に、吸気バルブ16の開弁により燃料が供給され、点火プラグ15によって点火されることにより、燃焼される。この燃焼により、ピストン14が押し下げられる。燃焼により発生した排気ガスは、排気バルブ17が開弁されることにより排気される。

エンジン10(図4参照)は、吸気→燃焼→膨張→排気のサイクルにおいて、燃焼時にエンジン燃焼室20の断熱性を確保する必要があり、そのため、エンジン燃焼室20に断熱膜3を設ける場合、断熱効果を得ることができる程度の厚さとする必要がある。しかし、吸気時に新たに吸入した空気が、断熱膜3にたまった熱を奪ってガス温度が高くなると、異常燃焼などの問題が生じることがある。そこで、断熱膜3は、断熱効果を得ることができる程度の厚さを有しつつ熱容量が小さいことが好ましい。そのため、断熱膜3の厚さは、1μm〜5mmの範囲がより好ましく、10μm〜1mmの範囲がさらに好ましい。断熱膜3の厚さをこの範囲とすることにより、断熱効果を十分なものとしつつ、異常燃焼などの問題の発生を抑制することができる。

図5Aに断熱膜構造の他の実施形態を示す。図5Aの実施形態は、基材8上に緩衝接合層4(第一緩衝接合層4a)、断熱膜3、表面緻密層2が形成された断熱膜構造の実施形態である。

図5Aに示すように、本発明の断熱膜構造は、断熱膜3の表面に、セラミックスおよび/またはガラスを含み、気孔率が5%以下である表面緻密層2を備えることが好ましい。自動車などのエンジンの燃焼室や配管の内表面に断熱膜3を形成する場合には、断熱膜3の最表面に表面緻密層2を形成すると、燃料の吸収や燃えカスの付着を防止することができる。

さらに、断熱膜3の表面に表面緻密層2を有すると、エンジン燃焼室20に断熱膜3を備えた場合には、エンジン燃焼室20内における燃料の燃焼時には、表面緻密層2により輻射を反射し、排気時には、表面緻密層2から熱を放射することができる。また、断熱膜3は、表面緻密層2から、エンジン構成部材21への伝熱を抑制することができる。このため、燃料の燃焼時には、エンジン構成部材21の内壁(エンジン燃焼室20を構成する壁面)の温度が、エンジン燃焼室20のガス温度に追従して上昇しやすくなる。

本発明の断熱膜構造は、基材8と断熱膜3との間(図5A)、および/または断熱膜3と表面緻密層2との間(図5B参照:第二緩衝接合層4b)に、厚さが断熱膜3よりも薄い緩衝接合層4を備えることが好ましい。基材8の上に断熱膜3を形成し、緩衝接合層4を設けると、高温で使用、あるいは熱サイクルを受ける環境下で使用する場合には、基材8と断熱膜3との反応や熱膨張のミスマッチによる剥離を抑制することができる。

以下、表面緻密層2や緩衝接合層4について詳しく説明する。

(表面緻密層) 表面緻密層2は、多孔質な構造の断熱膜3の表面に形成された断熱膜3よりも緻密なセラミックスを含む層である。表面緻密層2は、気孔率が5%以下であり、0.01〜4%であることが好ましく、0.01〜3%であることがより好ましい。このような緻密層により、燃料の燃焼時のガス(燃料)の対流による熱伝達を防止することができる。また緻密なため、燃料の吸収やスス、燃えカスが付着しにくい。

表面緻密層2の材質は断熱膜3と類似のものが好ましく、同一組成で気孔率が5%以下であるものがさらに好ましい。表面緻密層2は、セラミックスで形成することができ、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、窒化けい素、酸窒化けい素、炭化けい素、酸炭化けい素、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、ガラスなどが挙げられる。

表面緻密層2は、燃料の燃焼時には、熱源である燃焼炎からの輻射伝熱を抑制する材料で構成される。また、表面緻密層2は、燃料の排気時には、自身の熱を放射しやすいものであることが好ましい。これには、ウイーンの変位則(λmT=2898[μm・K]:ここで、λmは最大放射強度を示す波長、Tは温度を示す。)から予想される波長領域での反射率、輻射率を制御することが望ましい。すなわち、反射率は2μmより小さい波長において大きいことが好ましく、輻射率は2μmより大きい波長において大きいことが好ましい。

気孔率が5%以下の表面緻密層2により、燃焼開始直後〜燃焼前期にはエンジン燃焼室20を構成する内壁への輻射伝熱を抑制することができる。また、燃焼後期〜排気工程で、低温になると表面緻密層2から排気ガスへと熱を放射することで、次に導入される吸気ガスが高温になることを防止することができる。

表面緻密層2は、波長2μmにおける反射率が、0.5より大きいことが好ましい。このような反射率を有することにより、断熱膜3への熱の伝導を抑制することができる。

表面緻密層2は、波長2.5μmにおける輻射率が、0.5より大きいことが好ましい。また、このような輻射率を有することにより、熱せられた表面緻密層2を冷めやすくすることができる。

表面緻密層2は、薄いほど好ましいが、厚さが10nm〜100μmの範囲が適当である。また、表面緻密層2の熱容量は3000kJ/(m3・K)以下であることが好ましく、1000kJ/(m3・K)以下であることがより好ましい。厚さが上記範囲であること、また、低熱容量(薄膜、小体積)であることにより、エンジン燃焼室20に断熱膜3、表面緻密層2を備えた場合には、エンジン構成部材21の内壁の温度がエンジン燃焼室20内のガス温度に追随しやすくなる。ガス温度と表面緻密層2との温度差が小さくなり、冷却損失を低減することができる。

表面緻密層2は、熱伝導率が3W/(m・K)以下であることが好ましい。熱伝導率をこの範囲とすることにより、断熱膜3への熱の伝導を抑制することができる。

(緩衝接合層) 緩衝接合層4は、基材8(エンジン構成部材21)と断熱膜3との間、および/または断熱膜3と表面緻密層2との間にある、厚さが断熱膜3よりも薄い層である。緩衝接合層4により、これに接する両層の熱膨張やヤング率のミスマッチを解消し、熱応力による剥離を抑制することができる。

緩衝接合層4としては接着機能を有するもの、あるいは、薄膜として形成させることが可能な材料が好ましい。緩衝接合層4としては、例えば、無機バインダー、無機高分子、酸化物ゾル、水ガラス、ろう材、めっき膜からなる層などが挙げられる。あるいは、緩衝接合層4としては、これらの材料に断熱膜3と類似の物質を複合化させた層であってもよい。また、単独で薄板状に形成させた断熱膜3を上記の材料により基材8(エンジン構成部材21)等に接合して得ることもできる。

緩衝接合層4は、隣接する他の2層のいずれか一方より熱膨張係数が大きく、他方より熱膨張係数が小さいことが好ましい。また、緩衝接合層4は、隣接する他の2層よりヤング率が小さいことが好ましい。このように構成すると、層間のミスマッチを解消し、熱応力による剥離を抑制することができる。

緩衝接合層4は、熱抵抗が大きいことが好ましく、具体的には、熱抵抗が10−6m2K/W以上であることが好ましい。さらに、10−6〜10m2K/Wであることが好ましく、10−5〜10m2K/Wであることがより好ましく、10−4〜10m2K/Wであることがさらに好ましい。このような緩衝接合層4を形成することにより、断熱効果をさらに十分なものとすることができる。また、緩衝接合層4を形成することにより、被接合体の熱膨張のミスマッチを緩衝し、耐熱衝撃性・耐熱応力性を向上させることができる。

さらに、緩衝接合層4は、それぞれ接する層の相互の反応を抑制するような材料組成とすることが好ましく、これにより、耐酸化性や耐反応性が向上し、断熱膜3の耐久性が向上する。

本発明の断熱膜は、エンジン燃焼室20に備える以外に、配管、調理器具、建材等にも利用することができる。

(製造方法) 次に、断熱膜構造の製造方法についてエンジン燃焼室構造を例として説明する。

エンジン燃焼室20を構成する内壁(エンジン構成部材21)と断熱膜3との間に、第一緩衝接合層4aを有するように構成する場合は、エンジン構成部材21の上に、第一緩衝接合層4aとなる材料を塗布(例えば、無機バインダーあるいは無機高分子、酸化物ゾル、水ガラス、ろう材の場合)、あるいは、めっき製膜して形成し、その上に断熱膜3を形成する。

断熱膜3は、多孔質板状フィラー1を無機バインダーあるいは無機高分子、酸化物ゾル、水ガラスなどに分散させたコーティング組成物を、所定の基材8の上に塗布し、乾燥、さらには、熱処理して形成させることができる。乾燥・加熱後に存在するマトリックス3mと多孔質板状フィラー1の体積を考慮して、コーティング組成物の調合組成を決定する。具体的には、作製したい割合の体積から、密度を介して重量比を求め、多孔質板状フィラー1、マトリックス3mの重量を秤量することで、所望の体積比にすることができる。

フィラー角度1kが45°以下である多孔質板状フィラー1の個数割合を50%以下とするためには、コーティング組成物の粘度が0.1〜800mPa・sであるように作製し、基材8上に塗布することが好ましい。粘度は、0.1〜400mPa・sであることがさらに好ましい。コーティング組成物の粘度は、溶媒量、溶媒の種類によって調整することができる。粘度をこの範囲とすることにより、多孔質板状フィラー1がマトリックス3m中でフィラー角度1kが45°を超えやすくなる。また、粘度は、膜厚にも影響する。

その他の角度を調整する方法として、乾燥をゆるやかにし、溶媒が乾燥する際に対流を起こさないようにする方法がある。早く乾燥させるとコーティング組成物内に対流が起こり、フィラー角度1kが乱れる。高温で短時間に乾燥させることは好ましくなく、低温で長時間かけて乾燥させることが好ましい。例えば、80℃以下で2時間以上かけて乾燥させることが好ましい。より好ましくは60℃以下で4時間以上、さらに20℃で24時間以上である。

断熱膜3と表面緻密層2との間に、第二緩衝接合層4bを有するように構成する場合は、断熱膜3上に、第二緩衝接合層4bを第一緩衝接合層4aと同様にして形成し、その上に表面緻密層2を形成する。

表面緻密層2は、断熱膜3を形成した上に(または第二緩衝接合層4bを形成した上に)、スパッタ法、PVD法、EB−PVD法、CVD法、AD法、溶射、プラズマスプレー法、コールドスプレー法、めっき、湿式コーティング後の熱処理などで形成することができる。または、表面緻密層2として緻密な薄板を別途作製し、断熱膜3を形成する材料を結合材として下地材(第一緩衝接合層4a、あるいは、エンジン構成部材21)と結合して形成させてもよい。あるいは、表面緻密層2として緻密な薄板を別途作製し、第二緩衝接合層4bにより断熱膜3と結合して形成させてもよい。

以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

<実施例1〜12,比較例1〜2> まず、イットリア部分安定化ジルコニア粉末に、造孔材(ラテックス粒子あるいはメラミン樹脂粒子)、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(PVB)、可塑剤としてのDOP、溶剤としてのキシレンおよび1−ブタノールを加え、ボールミルにて30時間混合し、グリーンシート成形用スラリーを調製した。このスラリーに真空脱泡処理を施すことにより、粘度を4000cpsに調整した後、ドクターブレード装置によって焼成後の厚さが10μmとなるようにグリーンシートを形成し、50mm×50mmの寸法に外形切断を行った。この成形体を1100℃、1時間にて焼成し、焼成後に粉砕して多孔質な薄板状フィラー(多孔質板状フィラー1)を得た。

この多孔質板状フィラー1は、気孔径が50nmの気孔を含み、厚さ(最小長)が10μmであった。また、任意の多孔質板状フィラー20個についてアスペクト比を計測したところ、その値は4であった。また、多孔質板状フィラーの熱伝導率は0.3W/(m・K)、気孔率は60%、熱容量は1000kJ/(m3・K)、粒径は0.13μmであった。

なお、多孔質板状フィラー1と同材料を別途、0.5mm×5mm×30mm程度に成形したものを焼成し、光交流法により熱拡散率を、同材料をDSC法により比熱を測定し、熱拡散率、比熱、密度(見かけ粒子密度)の積を熱伝導率とした。また、気孔率は、下記式で求めた。 気孔率(%)=(1−(見かけ粒子密度÷真密度))×100 上記の式において、見かけ粒子密度は、水銀を用いた液浸法により測定した。また、真密度は、多孔質板状フィラーを十分に粉砕した後、ピクノメータ法で測定した。

多孔質板状フィラーの熱容量は、以下のようにして算出した。DSC法により比熱を測定し、比熱、密度(見かけ粒子密度)の積を多孔質板状フィラー1の熱容量とした。見かけ粒子密度は、水銀を用いた液浸法により測定した。

また、粒径は多孔質板状フィラーの微構造(FE−SEM)を観察し、粒子一粒の大きさを画像処理で測定し、10個の平均値を求めた。多孔質板状フィラー1について、表1に示す。

次に、マトリックス3mとなるポリシロキサン、多孔質板状フィラー1、水を含むコーティング組成物を調製し、基材8であるSUS基板(直径10mm、厚さ1mm)上に塗布し、乾燥後、200℃の熱処理により、断熱膜3とした。このときの断熱膜3は多孔質板状フィラー1が厚さ方向に5枚以上積層されており、その厚さは全てにおいておよそ100μmであった。

(面積による体積割合の規定) 断熱膜3の厚さ方向に平行な断面をSEMで観察した。断面における多孔質板状フィラー1、マトリックス3mの面積から、多孔質板状フィラー1とマトリックス3mの体積割合を算出した。

(フィラー角度) 断熱膜の膜厚方向における断面の微構造をSEMにて観察した。図6Aに実施例1、図6Bに比較例1のSEM写真を示す。観察範囲の全ての多孔質板状フィラー1について、フィラー角度1kを算出した。フィラー角度1kは、多孔質板状フィラーの最大長辺と最大長辺の中心から基材へ下ろした垂線との角度である。

(熱伝導率) レーザーフラッシュ2層モデルにて断熱膜3の厚さ方向に平行な断面における熱伝導率を測定した。熱伝導率について、1.0W/(m・K)以下を優として◎で、1.1〜1.5W/(m・K)を良として○、1.6W/(m・K)以上を不可として×で示す。

(熱容量) 断熱膜3の熱容量は、断熱膜3を粉砕した後、DSC法で比熱を測定し、比熱×密度(見かけ粒子密度)の積から算出した。

実施例1〜12,比較例1〜2の断熱膜に係る面積による体積割合の規定、フィラー角度、熱伝導率の評価、熱容量の結果を表2に示す。

<実施例13〜22> 実施例1〜12,比較例1、2と同様の工程で多孔質板状フィラー1を得た。その後、実施例1〜12,比較例1、2と同様の方法で多孔質板状フィラーのアスペクト比、気孔率、粒径、熱伝導率、熱容量を求め、表1に示した。

次に、ポリシロキサン、多孔質板状フィラー1、水を含むコーティング組成物(ペースト)を粘度が5mPa・s、多孔質板状フィラー1とマトリックス3mの体積割合が、多孔質板状フィラー1が85%、マトリックス3mが15%になるように調製し、基材8であるSUS基板(直径10mm、厚さ1mm)上に塗布し、20℃で24時間乾燥後、200℃の熱処理により、断熱膜3とした。その後、実施例1〜12,比較例1、2と同様の方法で、断熱膜3のフィラー角度、熱伝導率、並びに熱容量を求めた。この結果を表2に示す。

実施例1〜22の断熱膜3は、フィラー角度1kが45°以下である多孔質板状フィラー1の個数割合が50%以下であり、熱伝導率が1.5W/(m・K)以下となった。フィラー角度1kが30°以下の個数割合が30%以下で、かつフィラー角度1kが60°以下の個数割合が70%以下の実施例2〜5,8〜11,13〜22は、特に熱伝導率が低かった。なお、熱伝導率や熱容量がこの範囲であれば、断熱膜として断熱効果や難燃性が良いと言える。

実施例13と実施例5を比較すると、実施例13の方が多孔質板状フィラー1のアスペクト比が大きく、断熱膜3のフィラー角度1kが45°以下の個数割合とフィラー角度1kが60°以下の個数割合が低い。このために、実施例13の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率が低かった。また、実施例14の多孔質板状フィラー1は実施例13よりもさらにアスペクト比が大きいため、実施例14の断熱膜3はさらに熱伝導率が低かった。

実施例16と実施例5を比較すると、実施例16の方が多孔質板状フィラー1の最小長が短く、フィラー角度1kが45°以下の個数割合とフィラー角度1kが60°以下の個数割合が低い。このために、実施例16の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率が低かった。実施例15は、実施例16よりもさらに多孔質板状フィラー1の最小長が短いために、実施例15の断熱膜3は実施例16よりもさらに熱伝導率が低かった。

実施例17と実施例5を比較すると、実施例17の方が多孔質板状フィラー1の最小長が長く、フィラー角度1kが45°以下の個数割合とフィラー角度1kが60°以下の個数割合が低い。このために、実施例17の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率が高かった。

また、実施例18と実施例5を比較すると、実施例18の方が多孔質板状フィラー1の気孔率が低く、熱伝導率と熱容量が高い。このために、実施例18の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率と熱容量が高かった。

その一方で、実施例19と実施例5を比較すると、実施例19の方が多孔質板状フィラー1の気孔率が高く、熱伝導率と熱容量が低い。このために、実施例19の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率と熱容量が低かった。実施例20は実施例19よりもさらに多孔質板状フィラー1の気孔率が高く、熱伝導率と熱容量が低い。このために、実施例20の断熱膜3は実施例19よりもさらに熱伝導率と熱容量が低下した。

実施例21と実施例5を比較すると、実施例21の方が多孔質板状フィラー1の粒径が小さく、熱伝導率と熱容量が低い。このために、実施例21の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率が低かった。一方で、実施例22と実施例5を比較すると、実施例22の方が多孔質板状フィラー1の粒径が大きく、熱伝導率が高く、熱容量は低い。このために、実施例22の断熱膜3は実施例5よりも熱伝導率が高かった。

本発明の断熱膜、および断熱膜構造は、自動車等のエンジン、配管、建材、調理器具等に適用することができる。

1:多孔質板状フィラー、1k:フィラー角度、1m:(フィラーの)最大長辺、1n:垂線、2:表面緻密層、3:断熱膜、3m:マトリックス、4:緩衝接合層、4a:第一緩衝接合層、4b:第二緩衝接合層、7:被覆層、8:基材、10:エンジン、11:シリンダブロック、12:シリンダ、13:シリンダヘッド、13s:(シリンダヘッドの)底面、14:ピストン、14s:(ピストンの)上面、15:点火プラグ、16:吸気バルブ、16s:バルブヘッド、17:排気バルブ、17s:バルブヘッド、18:吸気通路、19:排気通路、20:エンジン燃焼室、21:エンジン構成部材、31:球状フィラー。

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