糖液の製造方法

申请号 JP2014551868 申请日 2014-07-08 公开(公告)号 JPWO2015005307A1 公开(公告)日 2017-03-02
申请人 東レ株式会社; 发明人 宏征 栗原; 裕子 石塚; 勝成 山田;
摘要 【課題】バイオマスから得られる糖 水 溶液には種々の発酵阻害物質が含まれるが、グルコースおよびキシロースの資化性のない 微 生物 または該微生物由来の粗酵素物で糖水溶液を処理することで、簡便かつ低コストでバイオマス由来の発酵阻害物質を除去することができる。【選択図】図1
权利要求

バイオマスからの糖液の製造方法であって、バイオマスから得られる糖溶液に含まれる発酵阻害物質であるクマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラールおよび3−ヒドロキシメチルフルフラールからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない生物あるいは該微生物由来の粗酵素物で分解する工程を含む、糖液の製造方法。前記グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物がデルフチア属微生物(Delftia sp)である、請求項1に記載の糖液の製造方法。前記グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物が、デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)、デルフチア・ラクストリス(Delftia lacustris)、デルフチア・ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)およびデルフチア・リトペアエ(Delftia litopenaei)からなる群から選ばれる1種または2種以上である、請求項1または2に記載の糖液の製造方法。糖水溶液がセルロース含有バイオマスを加水分解して得られた糖水溶液である、請求項1から3のいずれかに記載の糖液の製造方法。セルロース含有バイオマスを酸処理、アルカリ処理、水熱処理および酵素処理からなる群から選ばれる1以上の処理によって糖水溶液を調製する工程を含む、請求項4に記載の糖液の製造方法。糖水溶液が廃糖蜜である、請求項1から3のいずれかに記載の糖液の製造方法。発酵阻害物質分解処理工程が単糖濃度100g/L未満での処理である、請求項1から6のいずれかに記載の糖液の製造方法。発酵阻害物質分解処理工程がpH6〜11の範囲での処理である、請求項1から7のいずれかに記載の糖液の製造方法。請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られた糖液を膜濃縮および/または蒸発濃縮により糖濃度を高める、請求項1から8のいずれかに記載の糖液の製造方法。請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られた糖液を膜濃縮および/または蒸発濃縮により糖固体を得る、糖固体の製造方法。請求項1〜9のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られた糖液。請求項10に記載の糖固体の製造方法で得られた糖固体。セルロース含有バイオマスまたは廃糖蜜由来の糖液または糖固体であって、不純物であるセリン、スレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、リジンおよびヒスチジンからなる群から選ばれる1種または2種以上の遊離アミノ酸の含量が検出限界以下である、糖液または糖固体。請求項1から9のいずれかに記載の糖液の製造方法によって糖液を得る工程、および得られた糖液を発酵原料として、微生物を培養して糖を化学品に変換する工程を含む、化学品の製造方法。請求項10に記載の糖固体の製造方法によって糖固体を得る工程、および得られた糖固体を発酵原料として、微生物を培養して糖を化学品に変換する工程を含む、化学品の製造方法。

说明书全文

本発明は、バイオマスから糖液を製造する方法に関する。

糖を原料とした化学品の発酵生産プロセスは、種々の工業原料生産に利用されている。この発酵原料となる糖として、現在、さとうきび、澱粉、テンサイなどの食用原料に由来するものが工業的に使用されているが、今後の世界人口の増加による食用原料価格の高騰、あるいは食用と競合するという倫理的な側面から、再生可能な非食用資源、すなわちセルロース含有バイオマスより効率的に糖液を製造するプロセス、あるいは得られた糖液を発酵原料として、効率的に工業原料に変換するプロセスの構築が今後の課題となっている。

セルロース含有バイオマスから糖液を製造する方法として、濃硫酸を使用してセルロースおよびヘミセルロースを酸加分解して糖液を製造する方法(特許文献1あるいは2)、セルロース含有バイオマスを希硫酸で加水分解処理した後に、さらにセルラーゼなどの酵素処理することより糖液を製造する方法が開示されている(非特許文献1)。また酸を使用しない方法として、250〜500℃程度の亜臨界水を使用してセルロース含有バイオマスを加水分解して糖液を製造する方法(特許文献3)、またセルロース含有バイオマスを亜臨界水処理したあとに、さらに酵素処理することにより糖液を製造する方法(特許文献4)、またセルロース含有バイオマスを240〜280℃の加圧熱水で加水分解処理した後に、さらに酵素処理することにより糖液を製造する方法(特許文献5)が開示されている。

しかしながら、セルロース含有バイオマスの加水分解においてセルロースあるいはヘミセルロース成分などの分解と同時に、生成したグルコース、キシロースなどの糖の分解物反応も進み、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラールなどのフラン化合物、あるいはギ酸、酢酸、レブリン酸など有機酸といった副産物も生成するという課題があった。また、セルロース含有バイオマスは、芳香族ポリマーであるリグニン成分を含むため、酸処理工程において、リグニン成分が分解され、低分子量のフェノール類などの芳香族化合物を同時に副産物として生成する。これらの化合物は、生物を利用した発酵工程で阻害的に作用し、微生物の増殖阻害を引き起こし、発酵産物の収率を低下させるため、発酵阻害物質と呼ばれ、セルロース含有バイオマス糖液を発酵原料として利用する際に大きな課題であった。

このような発酵阻害物質を糖液製造過程で除去する方法として、オーバーライミングといった方法が開示されている(非特許文献2)。この方法では、酸処理後のセルロースあるいは糖化液に対し、石灰を添加し中和する工程において、60℃付近まで加温しながら一定時間保持することで、フルフラール、HMFといった発酵阻害物質を石膏成分とともに除去する方法である。しかしながら、オーバーライミングでは、ギ酸、酢酸、レブリン酸といった有機酸の除去効果が少ないといった課題があった。

また、発酵阻害物質を除去する別の方法として、セルロース含有バイオマスからの糖液に水蒸気を吹き込むことで、発酵阻害物質を蒸発除去する方法が開示されている(特許文献6)。しかしながらこうした蒸発除去する方法では、発酵阻害物質の沸点に依存しており、特に沸点の低い有機酸などの発酵阻害物質の除去効率は低く、十分な除去効率を得るためには、多大のエネルギーを投入しなければならないといった課題があった。

また、発酵阻害物質をイオン交換で除去する方法もあるが(特許文献7)、コスト的に課題があり、木質系炭化物、すなわち活性炭などを使用して吸着除去する方法もあるが、除去対象が疎水性化合物に限定されるという課題があった(特許文献8)。

また、ナノ濾過膜または逆浸透膜を使用して発酵阻害物質を膜の透過液として除去する方法も考案されているが、除去のために追加の分離設備、エネルギー投入が必要であるといった課題があった(特許文献9)。

特表平11−506934号公報

特開2005−229821号公報

特開2003−212888号公報

特開2001−95597号公報

特許3041380号公報

特開2004−187650号公報

特表2001−511418号公報

特開2005−270056号公報

特許第4770987号公報

A. Adenら、“Lignocellulosic Biomass to Ethanol Process Design and Economics Utilizing Co-Current Dilute Acid Prehydrolysis and Enzymatic Hydrolysis for Corn Stover”NREL Technical Report (2002)

M. Alfred ら、“Effect of pH, time and temperature of overliming on detoxification of dilute-acid hydrolyzates for fermentation by Saccaromyces cerevisiase”Process Biochemistry, 38,515-522 (2002)

上述の通り、バイオマス由来の糖液に含まれる発酵阻害物質は微生物の成育、代謝変換を阻害するため、これらの発酵阻害物質を除去するために、吸着処理、イオン交換、加熱蒸発、ナノ濾過膜などが使用されていたが、処理コストが高い、あるいは、除去可能な発酵阻害物質が特定化合物に限定されるという課題があった。

すなわち、本発明が解決しようとする課題は、簡便な処理で、低コストに、種々の発酵阻害物質を網羅的に除去する工程を含む糖液の製造方法を提供することである。

本発明者は、バイオマス由来の糖液に含まれる発酵阻害物質を特定の微生物の代謝機構を利用することで、その濃度を低減させることができ、得られた糖液を発酵原料として利用できることを見出し、本発明を完成した。

すなわち、本発明は以下の[1]から[15]で構成される。 [1]バイオマスからの糖液の製造方法であって、バイオマスから得られる糖水溶液に含まれる発酵阻害物質であるクマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラールおよび3−ヒドロキシメチルフルフラールからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物あるいは該微生物由来の粗酵素物で分解する工程を含む、糖液の製造方法。 [2]前記グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物がデルフチア属微生物(Delftia sp)である、[1]に記載の糖液の製造方法。 [3]前記グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物が、デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)、デルフチア・ラクストリス(Delftia lacustris)、デルフチア・ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)およびデルフチア・リトペアエ(Delftia litopenaei)からなる群から選ばれる1種または2種以上である、[1]または[2]に記載の糖液の製造方法。 [4]糖水溶液がセルロース含有バイオマスを加水分解して得られた糖水溶液である、[1]から[3]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [5]セルロース含有バイオマスを酸処理、アルカリ処理、水熱処理および酵素処理からなる群から選ばれる1以上の処理によって糖水溶液を調製する工程を含む、[4]に記載の糖液の製造方法。 [6]糖水溶液が廃糖蜜である、[1]から[3]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [7]発酵阻害物質分解処理工程が単糖濃度100g/L未満での処理である、[1]から[6]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [8]前記発酵阻害物質分解処理工程がpH6〜11の範囲での処理である、[1]から[7]のいずれかに記載の糖液の製造方法。 [9]前記[1]から[8]のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られた糖液を膜濃縮および/または蒸発濃縮により糖濃度を高める、糖液の製造方法。 [10]前記[1]から[8]のいずれかに記載の糖液の製造方法によって得られた糖液を膜濃縮および/または蒸発濃縮により糖固体を得る、糖固体の製造方法。 [11]前記[1]から[9]のいずれかに記載の糖液の製造方法で得られた糖液。 [12]前記[10]に記載の糖固体の製造方法で得られた糖固体。 [13]セルロース含有バイオマスまたは廃糖蜜由来の糖液または糖固体であって、不純物であるセリン、スレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、リジンおよびヒスチジンからなる群から選ばれる1種または2種以上の遊離アミノ酸の含量が検出限界以下である、糖液または糖固体。 [14]前記[1]から[9]のいずれかに記載の糖液の製造方法によって糖液を得る工程、および得られた糖液を発酵原料として、微生物を培養して糖を化学品に変換する工程を含む、化学品の製造方法。 [15]前記[10]に記載の糖固体の製造方法によって糖固体を得る工程、および得られた糖固体を発酵原料として、微生物を培養して糖を化学品に変換する工程を含む、化学品の製造方法。

本発明で得られた糖液は微生物の発酵原料として使用することができ、各種化学品の原料として利用することができる。

図1は、本発明の糖液の製造方法の実施手順を示したフロー図面である。

図2は、本発明の糖液の製造方法の好ましい実施手順を示したフロー図面である。

図3は、デルフチア・ツルハテンシスによるフェルラアミドの経時変化を追跡した図面である。

図4は、デルフチア・アシドボランスによるフェルラアミドの経時変化を追跡した図面である。

図5は、デルフチア・ツルハテンシスによるクマルアミドの経時変化を追跡した図面である。

図6は、デルフチア・アシドボランスによるクマルアミドの経時変化を追跡した図面である。

図7は、本発明の糖固体の経時変化を追跡した写真である。

本発明は、バイオマスからの糖液の製造方法である。バイオマスとは、糖あるいは多糖を含む製糖作物・穀物とセルロース含有バイオマスに分類される。製糖作物・穀物としては、サトウキビ、甘藷、コーン、甜菜、キャッサバ、米、小麦、大豆、などを例示することができる。セルロース含有バイオマスとしては、バガス、コーンストーバー、コーンコブ、樹木、樹皮、木質チップ、廃建材、EFB(Enmpty fruits bunch)、椰子ガラ、エレファントグラス、ネピアグラス、エリアンサス、スイッチグラス、麦藁、稲藁、暖竹、竹、コーヒー粕・茶粕、などを例示することができる。すなわち、本発明における糖水溶液とは、こうしたバイオマスを原料とする糖液であって、前述バイオマスから抽出、濃縮、加水分解、晶析などの工程を経て得られた糖水溶液であり、また少なくとも後述の糖および発酵阻害物質を含む糖水溶液のことを指す。

こうした糖水溶液としては、製糖作物・穀物からの製糖工程で得られる廃糖蜜(モラセス:砂糖晶析後の母液、あるいはその濃縮物)や、セルロース含有バイオマスを加水分解して得られた糖水溶液が好ましい例として挙げられる。

糖水溶液には不純物として発酵阻害物質が含まれる。発酵阻害物質とは、前述したバイオマスに含まれる成分に由来する、あるいは前述したバイオマスから化学変換されることで生成する化合物であって、微生物による発酵生産に対し阻害的な作用を引き起こす化合物群のことを指す。ここで言う阻害的とは、発酵阻害物質が存在することによって、1)微生物による糖消費が遅れること、あるいは、2)微生物の増殖が遅れること、3)微生物の発酵生産物の生産量が減少することを意味する。これら、1)〜3)については、発酵阻害物質を含まない培地を基準として比較することで、阻害の有無を確認することができる。また、具体的に、発酵阻害物質とは、フラン系化合物、芳香族化合物、有機酸などを例示することができるが、特に本発明では、フラン系化合物、芳香族化合物を分解することで低減させることができる。フラン系化合物とは、フラン骨格を有する化合物群のことを指し、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラールなどを例示することができ、前者はキシロースから後者はグルコースから変換することで生成する。芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であって、バニリン、バニリン酸、シリンガ酸、クマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミドなどを例示することができる。

本発明で使用する糖水溶液は、発酵阻害物質として、クマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラールおよび3−ヒドロキシメチルフルフラールからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含む糖水溶液である。これらの発酵阻害物質が糖水溶液に含まれるかどうかは、前述発酵阻害物質の標品を逆相クロマトグラフィー(HPLC)にて分離し、特定分離条件での保持時間により、糖液中に該当する発酵阻害物質が含まれるか否か決定することができる。逆相クロマトグラフィーにおいては、各保持時間における溶出液の180〜400nmの吸光度を測定することで、クロマトチャートを得ることができる。また発酵阻害物質の標品を使用して、検量線を予め作製しておき、糖液中の該当するピーク面積、あるいはピーク高さをもって、糖液中に含まれる発酵阻害物質の濃度を決定することができる。こうした分析は、糖液を濃縮あるいは希釈して、使用する分析手法あるいは装置にあわせて実施すればよい。

なお、糖水溶液にクマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラールおよび3−ヒドロキシメチルフルフラールからなる群から選ばれる1種または2種以上の発酵阻害物質が含まれるとは、これらの物質が検出可能な範囲で糖水溶液に含まれることであり、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、さらに好ましくは100mg/L以上含まれることである。また、本発明における糖液の製造方法では、これら発酵阻害物質が複数含まれていてもよく、2種以上、3種以上、4種以上含まれてもよい。

糖水溶液には、少なくとも糖が含まれる。糖とは、単糖、多糖の内、水に溶解する成分を指しており、こうした糖1個からなる単糖、あるいは二糖、三糖を少なくとも含んでいる。糖の具体例としては、グルコース、キシロース、アラビノース、キシリトール、アラビトール、スクロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、マンノース、セロビオース、セロトリオース、キシロビオース、キシロトリオース、マルトース、トレハロース、などを例示することができる。本発明の糖水溶液における糖濃度は、0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、さらに好ましくは1g/L以上、最も好ましくは10g/L以上含んだものであり、前述した糖を少なくとも1種以上含んでいる。

さらに糖水溶液には、前述した発酵阻害物質および糖に加え、無機塩、有機酸、アミノ酸、ビタミンなどが含まれる。無機塩としては、カリウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、などが例示できる。有機酸としては、乳酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、リンゴ酸、コハク酸などを例示することができる。アミノ酸としては、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アルギニン、メチオニン、システイン、ヒスチジン、ロイシン、イソロイシン、リジン、プロリン、セリン、スレオニン、バリンなどを例示することができる。

バイオマスがセルロース含有バイオマスである場合、糖水溶液はセルロース含有バイオマスを、酸処理、アルカリ処理、水熱処理、酵素処理の群から選ばれる1以上の処理において、加水分解を行うことで得られる。加水分解とは、セルロース含有バイオマスに含まれるセルロース、ヘミセルロースなどの多糖を単糖またはオリゴ糖へ加水分解する処理であり、加水分解物にはこれら単糖またはオリゴ糖に加え、発酵阻害物質が含まれる。

酸処理とは、硫酸、酢酸、塩酸、リン酸、などの酸をバイオマスに添加することで行う。また酸処理において、水熱処理を行ってもよい。硫酸処理の場合、硫酸の濃度は0.1〜15重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。反応温度は100〜300℃の範囲で設定することができ、120〜250℃で設定することが好ましい。反応時間は1秒〜60分の範囲で設定することができる。処理回数は特に限定されず前記処理を1回以上行えばよい。特に上記処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。

アルカリ処理とは、アンモニア、苛性ソーダ、水酸化カリウムなどアルカリをバイオマスに添加することで行う。またアルカリ処理において、水熱処理を行ってもよい。アンモニア処理は、特開2008−161125号公報または特開2008−535664号公報に記載の方法に準拠する。例えば、使用するアンモニア濃度はバイオマスに対して0.1〜15重量%の範囲で添加し、4〜200℃、好ましくは90〜150℃で処理する。添加するアンモニアは液体状態、あるいは気体状態のどちらであってもよい。さらに添加する形態は純アンモニアでもアンモニア水溶液の形態でもよい。処理回数は特に限定されず前記処理を1回以上行えばよい。特に前記処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。

水熱処理とは、セルロース含有バイオマスに対し、酸およびアルカリを添加せずに水のみを添加して、加熱することで処理する方法である。水熱処理の場合、バイオマスが、0.1〜50重量%となるよう水を添加後、100〜400℃の温度で、1秒〜60分処理する。こうした温度条件において処理することにより、セルロースの加水分解が起こる。処理回数は特に限定されず該処理を1回以上行えばよい。特に該処理を2回以上行う場合、1回目と2回目以降の処理を異なる条件で実施してもよい。

酵素処理とは、セルロース含有バイオマスに糖化酵素を添加することで加水分解処理する。糖化酵素による加水分解のpHは、pH3〜9の範囲が好ましく、pH4〜5.5がより好ましく、pH5がさらに好ましい。pH調整には、酸あるいはアルカリを所望のpHとなるように添加し調整することができる。また、適宜緩衝液を使用してもよい。酵素処理では、セルロースと酵素の接触を促進させるため、また加水分解物の糖濃度を均一にするため攪拌混合を行うことが好ましい。セルロースの固形分濃度は、1〜25重量%の範囲となるよう加水をすることが好ましく、5〜20重量%の範囲であることがより好ましい。

糖化酵素は糸状菌由来セルラーゼが好ましく使用できる。糸状菌としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、セルロモナス属(Cellulomonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、フミコラ属(Humicola)、アクレモニウム属(Acremonium)、イルペックス属(Irpex)、ムコール属(Mucor)、タラロマイセス属(Talaromyces)、ファネロカエーテ(Phanerochaete)属、白色腐朽金、褐色腐朽菌、などを例示することができる。こうした糸状菌由来セルラーゼの中でも、セルロース分解活性が高いトリコデルマ属由来セルラーゼを使用することが好ましい。

トリコデルマ属由来セルラーゼとは、トリコデルマ属微生物由来のセルラーゼを主成分とする酵素組成物である。トリコデルマ属微生物は特に限定されないが、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)が好ましく、具体的にはトリコデルマ・リーセイQM9414(Trichoderma reesei QM9414)、トリコデルマ・リーセイQM9123(Trichoderma reeseiQM9123)、トリコデルマ・リーセイRutC−30(Trichoderma reeseiRut C−30)、トリコデルマ・リーセイPC3−7(Trichoderma reesei PC3−7)、トリコデルマ・リーセイCL−847(Trichoderma reeseiCL−847)、トリコデルマ・リーセイMCG77(Trichoderma reesei MCG77)、トリコデルマ・リーセイMCG80(Trichoderma reeseiMCG80)、トリコデルマ・ビリデQM9123(Trichoderma viride9123)を例示することができる。また、前述のトリコデルマ属に由来する微生物であって、これらを変異剤あるいは紫外線照射などで変異処理を施し、セルラーゼ生産性が向上した変異株であってもよい。

トリコデルマ属由来セルラーゼは、セロビオハイドラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼなどの複数の酵素成分を含む、セルロースを加水分解して糖化する活性を有する酵素組成物である。トリコデルマ由来セルラーゼは、セルロース分解において複数の酵素成分の協奏効果あるいは補完効果により効率的なセルロースの加水分解を実施することができる。特に本発明に使用するセルラーゼは、トリコデルマ由来セロビオハイドラーゼおよびキシラナーゼを含むことが好ましい。

セロビオハイドラーゼとは、セルロースの末端部分から加水分解していくことを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.91としてセロビオハイドラーゼに帰属される酵素群が記載されている。

エンドグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の中央部分から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.4、EC3.2.1.6、EC3.2.1.39、EC3.2.1.73としてエンドグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。

エキソグルカナーゼとは、セルロース分子鎖の末端から加水分解することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.74、EC3.2.1.58としてエキソグルカナーゼに帰属される酵素群が記載されている。

βグルコシダーゼとは、セロオリゴ糖あるいはセロビオースに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.21としてβグルコシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。

キシラナーゼとは、ヘミセルロースあるいは特にキシランに作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.8としてキシラナーゼに帰属される酵素群が記載されている。

キシロシダーゼとは、キシロオリゴ糖に作用することを特徴とするセルラーゼの総称であり、EC番号:EC3.2.1.37としてキシロシダーゼに帰属される酵素群が記載されている。

トリコデルマ由来セルラーゼとしては、粗酵素物が好ましく使用される。粗酵素物は、トリコデルマ属の微生物がセルラーゼを産生するよう調整した培地中で、任意の期間該微生物を培養した培養上清に由来する。使用する培地成分は特に限定されないが、セルラーゼの産生を促進するために、セルロースを添加した培地が一般的に使用できる。そして、粗酵素物として、培養液をそのまま、あるいはトリコデルマ菌体を除去したのみの培養上清が好ましく使用される。

粗酵素物中の各酵素成分の重量比は特に限定されるものではないが、例えば、トリコデルマ・リーセイ由来の培養液には、50〜95重量%のセロビオハイドラーゼが含まれており、残りの成分にエンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ等が含まれている。また、トリコデルマ属の微生物は、強なセルラーゼ成分を培養液中に生産する一方で、βグルコシダーゼに関しては、細胞内あるいは細胞表層に保持しているため培養液中のβグルコシダーゼ活性は低いため、粗酵素物に、さらに異種または同種のβグルコシダーゼを添加してもよい。異種のβグルコシダーゼとしては、アスペルギルス属由来のβグルコシダーゼが好ましく使用できる。アスペルギルス属由来のβグルコシダーゼとして、ノボザイム社より市販されているNovozyme188などを例示することができる。粗酵素物に異種または同種のβグルコシダーゼを添加する方法としては、トリコデルマ属の微生物に遺伝子を導入し、その培養液中に産生されるよう遺伝子組換えされたトリコデルマ属の微生物を培養し、その培養液を単離する方法でもよい。

前述した酸処理、アルカリ処理、水熱処理、酵素処理を適宜複数組み合わせることが好ましく、酸処理、アルカリ処理または水熱処理を行ったセルロース含有バイオマスに対し、さらに酵素処理を行うことがより好ましい。

本発明では、前述した糖水溶液に含まれる発酵阻害物質を、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物、好ましくはグルコースおよびキシロースの資化性のない微生物によって分解処理する。発酵阻害物質の分解処理とは、発酵阻害物質が微生物または酵素による作用によって化学的な構造変化を伴うことであり、発酵阻害物質の低分子量化や水酸化により微生物毒性を低減させることである。本発明では、発酵阻害物質の分解処理において、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物あるいは該微生物由来の粗酵素物が使用される。これにより広範囲の発酵阻害物質を効率的に分解除去することができる。

本発明でのグルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物とは、当該微生物が生育する培地および培養条件下(至適pH、至適温度、至適通気条件)において、キシロースおよび/またはグルコースを炭素源として実質消費しないことを特徴とする微生物である。また例えば、偏性好気性菌として知られる緑膿菌(Pseudomonasu aeruginosa)などは、嫌気条件下ではグルコースおよび/またはキシロースを資化し、好気条件下では消費するが、このような条件次第でグルコースおよび/またはキシロースを資化しないような微生物も、本発明でいう「グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物」に含まれる。なお、遺伝子組換えや遺伝子変異を導入することでグルコースおよび/またはキシロースの資化性を消失させた微生物であってもよい。

本発明で好ましく使用できるグルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物としては、デルフチア属(Delftia.sp)、コマモナス属(Comamonas.sp)、デルキソマイセス属(Derxomyces.sp)、フェロマイセス属(Fellomyces.sp)に属する微生物を例示することができるが、それらの中でも優れた発酵阻害物質分解能力を有するデルフチア属微生物がより好ましい。

デルフチア属微生物としては、デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)、デルフチア・ラクストリス(Delftia lacustris)、デルフチア・ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)、デルフチア・リトペアエ(Delftia litopenaei)を例示することができる。

なお、デルフチア属微生物であるかどうかの特定は、特定の対象となる微生物の16S rDNAの塩基配列を決定し、デルフチア・ラクストリス(Delftia・lacustris322株:Accession No.EU888308)の16S rDNAの塩基配列と配列比較を行い、配列同一性が93%以上あればデルフチア属であると特定することができる。

前述の特定方法により特定される微生物として、デルフチア属として帰属されておらず、属名が異なる微生物も存在するが、グルコースおよび/またはキシロースを資化しない特性、さらに発酵阻害物質を分解する特性を有する限り、本発明においてはデルフチア属微生物に含まれるものとして、本発明の糖液の製造方法に使用することができる。前記16S RNAの配列が、93%以上の微生物として含まれる可能性があり、かつ発酵阻害物質を分解する特性を有する微生物を含む具体的な微生物属名としては、コマモナス属(Comamonas)、アシドボラックス属(Acidovorax)、ギエスベルゲリア属(Giesbergeria)、シンプリシスピエラ属(Simpliciriera)、アリシックリフィラス属(Alicycliphilus)、ジアフォロバクター属(Diaphorobacter)、テピデセラ属(Tepidecella)、ゼノフィラス属(Xenophilus)、ブラキモナス属(Brachymonas)などを例示することができる。これらはいずれも、デルフチア属と近縁の微生物であって、本発明に利用できる可能性がある。

また、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物由来の粗酵素物とは、前記微生物に由来する酵素成分であって、2種以上の酵素成分を含む成分のことを指す。こうした粗酵素物は、グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物を適当な培地にて培養し、培養された菌体より粗酵素液を抽出することで調整することができる。また、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物の遺伝子を単離し、遺伝子を適当な宿主に導入し、遺伝子を発現させることで、異種組み換えタンパク質として生産させることもできる。好ましくは、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物を培養し、この微生物より酵素を抽出したものであることが好ましく、特段の精製操作を行っていないものであることが好ましい。粗酵素物には、2種以上の酵素成分が含まれるため、複数の発酵阻害物質を同時に、かつ阻害の低減した化合物まで分解することができる。

発酵阻害物質の分解処理は、前述した発酵阻害物質を含む糖水溶液と前記微生物または前記微生物由来の粗酵素物を混合して、前記微生物の生育至適温度または生育至適pH条件下でインキュベートされることで行われる。具体的な温度条件としては、20〜40℃の範囲が好ましく、25℃〜32℃の範囲がより好ましい。また、pH条件はpH6.5〜10の範囲であることが好ましく、pH7〜8.5の範囲の範囲であることがより好ましい。

分解される発酵阻害物質は、クマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラール、3−ヒドロキシメチルフルフラールの群から選ばれる1種以上であり、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上である。

本発明では糖溶液に含まれる固形物を予め固液分離によって除去してよい。固液分離の方法は特に限定されないが、スクリューデカンタなどの遠心分離、フィルタープレスや精密濾過膜(マイクロフィルトレーション)などによる膜分離が好ましく、膜分離がより好ましい。

また糖水溶液は、限外濾過膜(UF膜:Ultrafultration)処理されたものでもよい。限外濾過膜処理の方法は特に特に限定されないが、使用する限外濾過膜は、分画分子量は500〜200,000Da、好ましくは10,000〜50,000Daの限外濾過膜を使用することができる。特に使用する糖水溶液に、セルロース含有バイオマスの加水分解において使用した酵素が含まれる場合、その酵素の分子量に対して、分画分子量が小さな限外濾過膜を使用することで、加水分解に使用した酵素を分離回収することができる。

限外濾過膜の素材としては、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロースなどの素材の膜を使用することができる。限外濾過膜形状は、チューブラー式、スパイラルエレメント、平膜などが好ましく使用できる。限外濾過膜の濾過は、クロスフロー方式、デッドエンド濾過方式が挙げられるが、膜ファウリング、フラックスの面でクロスフロー濾過方式が好ましい。

グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物または該微生物由来の粗酵素物は、発酵阻害物質の分解処理後の糖液から分離回収して再利用してもよい。前記分離回収においては、遠心分離、精密濾過膜、限外濾過膜など適宜選択、組み合わせることで実施することができる。なお、前記微生物または前記微生物由来の粗酵素物は、あらかじめ樹脂、ゲル、スポンジ、支持体などに固定化してあってもよい。固定化することにより、糖液からの微生物および粗酵素成分の分離と再利用が容易になるため好ましい。特に微生物の固定の場合は、グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物の付着性が優れるセルローススポンジであることが好ましい。

本発明で得られる糖液は、膜濃縮および/または蒸発濃縮工程に供して糖濃度を高めることが好ましい。糖濃度を高めることで、得られた糖液を原料とした化学品の製造に好ましく使用できるとともに、保存における安定性、輸送コストの削減などに繋がるため好ましい。

膜濃縮は、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜による濃縮であることが好ましい。さらに膜濃縮の好ましい例として、WO2010/067785号に記載される方法である、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜に通じて濾過することにより、非透過液として、糖成分が濃縮された濃縮糖液を得ることができる。

ナノ濾過膜とは、ナノフィルター(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。

逆浸透膜とは、RO膜とも呼ばれるものであり、「一価のイオンを含めて脱塩機能を有する膜」と一般に定義される膜である。数オングストロームから数ナノメートル程度の超微小空隙を有していると考えられる膜で、主として海水淡水化や超純水製造などイオン成分除去に用いられる。

本発明で使用されるナノ濾過膜および/または逆浸透膜の素材としては、酢酸セルロース系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。また、前記1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。

ナノ濾過膜は、スパイラル型の膜エレメントが好ましく使用される。好ましいナノ濾過膜エレメントの具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノ濾過膜エレメントであるGE Osmonics社製GEsepa、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜エレメントのNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜エレメントのNF−45、NF−90、NF−200、NF−270またはNF−400、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とする東レ株式会社製ナノ濾過膜のUTC60を含む同社製ナノ濾過膜エレメントSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、より好ましくはNF99またはNF99HF、NF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいはSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくはSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。

逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールである超低圧タイプのSUL−G10、SUL−G20、低圧タイプのSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720Pの他、逆浸透膜としてUTC80を含む高圧タイプのSU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製GE Sepa、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040、KOCH製TFC−HR、TFC−ULP、TRISEP製ACM−1、ACM−2、ACM−4などが挙げられる。

本発明で得られる糖液は、発酵阻害物質分解処理を行わない従来の糖液に比べ、ナノ濾過膜および/または逆浸透膜が容易であるという利点を有する。これは糖液中の発酵阻害物質が低減していることと関連するものと推察されるが詳細要因は不明である。

蒸発濃縮とは、糖液を加熱および/または減圧状態とすることで、糖液中の水分を気体化させて除去することで、糖液の濃度を高める手法である。一般的な装置として、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、多重効用缶、スプレードライ、凍結乾燥、などを例示することができる。

本発明で得られる糖液には、糖水溶液に含まれていた単糖あるいは多糖を含んでおり、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、シュクロース、セロビオース、ラクトース、キシロビオース、キシロトリオースなどが含まれる。これら糖液中の糖成分の分析方法としては、HPLCにより、標品との比較により定量することができる。

本発明の糖液は、膜濃縮および/または蒸発濃縮を行うことにより糖固体としてもよい。糖固体とは、本発明の糖液中の水分を除去することで、水分量10%未満、好ましくは5%未満にした固体状のものを指す。糖固体とすることにより、糖中の水分あるいは水分活性が低下し、微生物による汚染を低減できるという利点、さらに糖の輸送コストを削減できるという利点を有している。また本発明の糖液の製造方法で得られた糖液から得られた糖固体は吸湿性が低いという特徴を有している。吸湿性が低いことにより、保管・運搬時における品質変化が少ないため、工業原料としては安定して使用できるといった実用上の利点を有している。

本発明の糖液または糖固体は、不純物であるセリン、スレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、リジンおよびヒスチジンからなる群から選ばれる1種または2種以上の遊離アミノ酸の含量が検出限界以下である特徴を有する。これは本発明で使用するグルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物または該微生物由来の粗酵素物で発酵阻害物質を分解する結果によって、糖水溶液中に微量含まれていた遊離アミノ酸が微生物の増殖および/または代謝に使用されたためと考えられる。一方、ペプチドあるいはポリペプチド状態で含まれるアミノ酸に関しては、糖液あるいは糖固体中にある程度の量が残存しているという特徴を有している。このことから、本発明の糖液あるいは糖固体を発酵原料として、微生物を増殖させる際、ペプチドあるいはポリペプチド状態のアミノ酸が微生物増殖の栄養源として利用できる。

本発明の糖液あるいは糖固体中に含まれる遊離アミノ酸の定量は、ニンヒドリン法にて市販されているアミノ酸分析計を用いて測定することが好ましい。また遊離アミノ酸分析に際しては、糖固体あるいは糖液を乾燥した糖固体約2mgに対して、2%スルホサリチル酸250μLを添加・攪拌後、超音波処理を10分行い測定試料溶液を調整したあと、試料溶液25μLを用いてアミノ酸分析計にて分離定量することができる。アミノ酸分析計は、株式会社日立製作所製のものが好ましく、アミノ酸分析計L−8800A形が最も好ましい。

特に糖固体については、セリン、スレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、リジンおよびヒスチジンからなる群から選ばれる1種または2種以上の遊離アミノ酸の含量が検出限界以下であることにより、好ましくはこれら全ての遊離アミノ酸が検出限界以下であることにより、糖固体の吸湿性が顕著に少ないといった特徴がもたらされる。

本発明の糖液の製造方法で得られる糖液、あるいは糖固体は、これらを発酵原料として微生物を培養して、糖を化学品に変換することで、化学品を製造することができる。化学品の具体例としては、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。例えば、エタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロールなどのアルコール、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸などの有機酸、イノシン、グアノシンなどのヌクレオシド、イノシン酸、グアニル酸などのヌクレオチド、カダベリンなどのアミン化合物を挙げることができる。さらに、酵素、抗生物質、組換えタンパク質などの生産に適用することも可能である。

本発明で得られる糖液を化学品製造のための発酵原料に使用する場合、必要に応じて、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有させてもよい。さらに場合によっては、キシロースに加え、炭素源として、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、あるいは酢酸等の有機酸、あるいはエタノールなどのアルコール類、グリセリンなどを追加して、発酵原料として使用してもよい。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。

微生物の培養方法は、バッチ培養、フェドバッチ培養、連続培養など公知の発酵培養方法が利用できる。特に本発明の糖液および/または濃縮糖液は、限外濾過膜等によって固形物が完全に除去されているという特徴を有しており、発酵に使用した微生物を遠心分離、膜分離などの手法により分離回収し、再利用を行うことができる。こうした微生物の分離回収および再利用は、培養期間中に新たな糖液および/または濃縮糖液を添加しながら、連続的に微生物を分離回収してもよく、また、培養終了後に微生物を分離回収し、次バッチの培養に再利用してもよい。

以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。

(参考例1)糖濃度の測定 糖液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。 カラム:Luna NH2(Phenomenex社製) 移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分) 反応液:なし 検出方法:RI(示差屈折率) 温度:30℃。

(参考例2)発酵阻害物質の分析 加水分解物に含まれる芳香族化合物・フラン系化合物は下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なお各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。 カラム:Synergi HidroRP 4.6mm×250mm(Phenomenex製) 移動相:アセトニトリル−0.1% H3PO4(流速1.0mL/min) 検出方法:UV(283nm) 温度:40℃。

酢酸、ギ酸は下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なおなお各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。 カラム:Shim−PackとShim−Pack SCR101H(株式会社島津製作所製)の直列 移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min) 反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min) 検出方法:電気伝導度 温度:45℃。

(参考例3)トリコデルマ由来セルラーゼの調整 トリコデルマ由来セルラーゼは以下の方法で調整した。

[前培養] コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地にトリコデルマ・リーセイPC3−7を1×105個/mLになるように植菌し、28℃、72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO−SHAKER BR−40LF)。

[本培養] コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製 DPC−2A)容器に張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法にて液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイPC3−7を250mL接種した。その後、28℃、87時間、300rpm、通気量1vvmにて培養を行い、遠心分離後、上清を膜濾過(ミリポア社製 ステリカップ−GV 材質:PVDF)した。この前述条件で調整した培養液に対し、βグルコシダーゼ(Novozyme188)をタンパク質重量比として、1/100量添加し、これをトリコデルマ由来セルラーゼとして、以下、実施例に使用した。

(実施例1)セルロース含有バイオマス前処理物の調製 1.セルルース含有バイオマス前処理物1の調製(アンモニア処理) セルロース含有バイオマスとして稲藁を使用した。稲藁を小型反応器(耐圧硝子工業製、TVS−N2 30ml)に投入し、液体窒素で冷却した。この反応器にアンモニアガスを流入し、試料を完全に液体アンモニアに浸漬させた。リアクターの蓋を閉め、室温で15分ほど放置した。次いで、150℃のオイルバス中にて1時間処理した。処理後、反応器をオイルバスから取り出し、ドラフト中で直ちにアンモニアガスをリーク後、さらに真空ポンプで反応器内を10Paまで真空引きし乾燥させた。これをバイオマス前処理物1として以下実施例に使用した。

2.セルロース含有バイオマス前処理物2の調製(水熱処理) セルロース含有バイオマスとして稲藁を使用した。稲藁を水に浸し、撹拌しながら210℃で20分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。処理後は溶液成分(以下、水熱処理液)と処理バイオマス成分に遠心分離(3000G)を用いて固液分離した。得られた水熱処理液をバイオマス前処理物2として以下実施例に使用した。

(実施例2)セルロース含有バイオマス(実施例1の各前処理物)の加水分解 実施例1で調製したバイオマス前処理物1(0.5g)に蒸留水を加え、参考例3で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加し、pHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈硫酸あるいは希釈苛性ソーダで調整した。また、実施例1で調整した水熱処理液10gに対して、参考例3で調整したトリコデルマ由来セルラーゼ0.1mLを添加し、総重量が10.1gとなるように調整し、pHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈硫酸あるいは希釈苛性ソーダで調整した。

pHを調整した上記2種組成物を枝付試験管に移し(東京理化器械株式会社製 φ30 NS14/23)、本組成物を枝付反応容器に移し(東京理化器械株式会社製 φ30 NS14/23)、50℃にて24時間保温および攪拌し加水分解を行った(東京理化器械株式会社製:小型メカニカルスターラー CPS−1000、変換アダプター、三方コック付添加口、保温装置 MG−2200)。加水分解物を遠心分離(3000G、10分)にて固液分離し、溶液成分(6mL)と固形物に分離した。得られた溶液成分をさらに精密濾過膜(GE社製シリンジフィルター)で濾過し、得られた濾液を加水分解物1(バイオマス前処理物1由来)および加水分解物2(バイオマス前処理物2由来)とした。

また、希硫酸処理によるバイオマスの加水分解を実施した。バイオマスとしてコーンコブを硫酸水(0.5重量%)に浸し、撹拌しながら180℃で10分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。処理後は溶液成分(以下、希硫酸処理液)と処理バイオマス成分に遠心分離(3000G)を用いて固液分離した。この希硫酸処理液をさらに精密濾過膜(GE社製シリンジフィルター)で濾過し、得られた濾液を加水分解物3とした。

前記加水分解物1〜3の糖濃度(グルコースおよびキシロース濃度)および発酵阻害物質濃度は、参考例1および参考例2記載の方法で測定した。前処理バイオマス1から得られた加水分解を加水分解物1、水熱処理液から得られた加水分解物を加水分解物2、として以下実施例に使用した。また、加水分解物1〜3の糖分析、芳香族化合物の分析結果を表1にまとめる。

加水分解物1〜3の芳香族化合物の分析において、いずれの加水分解物も含まれている成分あるいは濃度に違いがあるものの、クマル酸、クマルアミド、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリン、バニリン酸、アセトバニロン、フルフラールおよび3−ヒドロキシメチルフルフラールの群から選ばれる1種または2種以上の発酵阻害物質を含んでいることが確認できた。

(実施例3)グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解 1.供試菌および前培養 グルコースおよび/またはキシロースの資化性のない微生物として、デルフチア属微生物(デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)NBRC14950、デルフチア・ツルハテンシス(Delftia tsuruhatensis)NBRC16741)を使用した。供試菌は、それぞれTB培地(pH7)にて培養し、24h振とう培養を行った。培養後、菌体は遠心分離にて回収した。

2.発酵阻害物質分解処理 実施例2で得られた加水分解物1、加水分解物2、加水分解物3をpH7に調整し、前記前培養した菌体をO.D.600=10となるよう添加した。30℃で、24時間保温した後、得られた糖液を遠心分離(15,000rpm、10min)し、得られた糖液上清中の糖濃度および発酵阻害物質濃度を測定した。測定結果を表2および表3に示す。なお加水分解物1、加水分解物2、加水分解物3、をデルフチア・アシドボランスで分解処理した糖液を、「糖液1DA」、「糖液2DA」、「糖液3DA」、として後述実施例に使用した。また加水分解物1、加水分解物2、加水分解物3をデルフチア・ツルハテンシスで分解処理した糖液を、「糖液1DT」、「糖液2DT」、「糖液3DT」とする。

表2および表3に示すように、デルフチア属微生物によって、発酵阻害物質であるフルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、クマル酸、クマルアミド、フェルラアミド、フェルラ酸の量が減少することが確認された。その一方で、糖液中のグルコースおよびキシロースについては減少しないことが確認できた。

(比較例1)グルコースおよびキシロース資化性のある微生物による比較 グルコースおよびキシロース資化性のある微生物として、大腸菌JM109株(タカラバイオ株式会社)、ワイン酵母OC2株を使用した。供試菌は、それぞれLB培地(pH7)にて培養し、24時間振とう培養を行った。24時間培養後、遠心分離にて菌体を回収した。

実施例2および実施例3で得られた加水分解物1、加水分解物2、加水分解物3に前記前培養した菌体をO.D.600=10となるよう添加した。30℃で、24時間保温した後、得られた糖液を遠心分離(15,000rpm、10min)し、上清中の糖濃度および発酵阻害物質濃度を測定した。測定結果を表4および表5に示す。

大腸菌を使用した場合、芳香族化合物のほとんどが減少しないことが確認された。またワイン酵母においては、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラールが若干減少することが確認されたが、クマルアミド、クマル酸、フェルラ酸、フェルラアミド、バニリンはほとんど減少しないことがわかった。また加水分解物1〜3に含まれるグルコースおよびキシロースについても大幅に減少することが確認できた。

(実施例4)エタノール発酵試験 実施例3にて得られた糖液を使用して、化学品の1種であるエタノール発酵評価を実施した。大腸菌KO11株(ATCC55124株)をLB培地(2mL)にて、30℃、24h、試験管にて前培養を行った。糖液1DA、糖液2DA、糖液3DA、糖液1DT、糖液2DT、糖液3DT、に対し、酵母エキス(5g/L)、ペプトン(10g/L)、塩化ナトリウム5g/L、pH7.0に調整し、発酵培地(2mL)を調整した。各発酵培地に対して、前記前培養した前培養液を100μL添加し、30℃で24時間培養を行った。24時間培養後、各糖液中に生成したエタノール蓄積濃度を、ガスクロマトグラフ法(Shimadzu GC−2010キャピラリーGC TC−1(GL science) 15 meter L.*0.53mm I.D.,df1.5μmを用いて、水素炎イオン化検出器により検出・算出して評価。)で測定した。

(比較例2)エタノール発酵試験 加水分解物1〜3(実施例2)を使用して、化学品の1種であるエタノール発酵評価を実施した。

実施例4のエタノール発酵の結果(表6)と比較例2のエタノール発酵結果(表7)を比較すると、工程(2)で発酵阻害物質が低減したことにより実施例4のエタノール発酵の方がエタノール生産量が顕著に高い結果となった。

(実施例5)デルフチア属微生物のフェルラアミドおよびフェルラ酸の代謝分解 実施例3の加水分解物中の芳香族化合物の分解がデルフチア属微生物による分解によるものなのかどうかを確認するために、フェルラアミドを添加したモデル反応系にて、その分解産物の特定と生成量の変化を追跡した。

デルフチア・アシドボランス(Delftia・acidovorans)NBRC14950およびデルフチア・ツルハテンシス(Delftia・tsuruhatensis)NBRC16741をTB培地(pH7)で培養し、64時間侵とう培養を行った。培養後、各菌体は遠心分離にて回収した。フェルラアミドをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した溶液を、10mM Tris−HClバッファーで希釈し1g/Lフェルラアミド溶液を調整し、水酸化ナトリウムでpH10に調整した。前記前回収した各菌体をO.D.600=10となるよう添加し、30℃で72時間保温し、経時的に反応液を回収した。得られた反応液を遠心分離(15,000rpm、10min)し、得られた反応液上清中の参考例1の方法で芳香族化合物濃度を測定した。デルフチア・ツルハテンシスの結果を図3に、デルフチア・アシドボランスの結果を図4に示す。図3および図4に示すように、どちらのデルフチア属においても、保温開始とともにフェルラアミド濃度が急激減少するとともに、6時間後にフェルラ酸の生成量がピークに達した。また、さらにフェルラ酸はその後、36時間以内に消失し、バニリン酸に変換されていることが確認された。さらにバニリン酸はさらに保温時間とともに減少することが確認された。以上の結果よりデルフィア属の微生物においては、フェルラアミド、フェルラ酸、バニリン酸に順に変換され、最終的にバニリン酸も分解されていくことが確認された。

(実施例6)デルフチア属微生物のクマルアミドおよびクマル酸の代謝分解 実施例3の加水分解物中の芳香族化合物の分解がデルフチア属微生物による分解によるものなのかどうかを確認するために、クマルアミドを添加したモデル反応系にて、その分解産物の特定と生成量の変化を追跡した。

実施例5と同じ手順で、フェルラアミドをクマルアミドに変更して、代謝経路の特定を行った。デルフチア・ツルハテンシスの結果を図5に、デルフチア・アシドボランスの結果を図6に示す。図5および図6に示すようにいずれのデルフチア属においても、保温開始からクマルアミドは48時間以上かけて徐々に濃度が減少していくことが判明した。またクマルアミドの減少に伴いクマル酸濃度が上昇していき保温24時間でピークに達した。また、図5に示すようにデルフチア・ツルハテンシスにおいては、クマル酸の減少に伴いp−ヒドロキシ安息香酸の生成が確認された。同じく、デルフチア・アシドボランスにおいてもp−ヒドロキシ安息香酸の生成が微量ながら確認された。以上の結果よりデルフィア属の微生物においては、クマルアミド、クマル酸、p−ヒドロキシ安息香酸の順に変換され、最終的にp−ヒドロキシ安息香酸も分解されていくことが確認された。

(実施例7)デルフチア属微生物による発酵阻害物質分解におけるpHの影響 実施例2の加水分解物1をpH4、pH8.5、pH10、pH12に調整して、実施例4と同じ手順で発酵阻害物質分解処理を実施した。供試菌はデルフチア・ツルハテンシス(Delftia・tsuruhatensis)を使用して実施した。結果を表8に示す。

pH5、pH12においては、芳香族化合物の減少が少ないことが確認された。一方、pH8、pH10においては、pH7(実施例3)よりも芳香族化合物の量が減少していることが確認され、特にクマルアミド、フェルラアミドにおいて顕著な減少が確認された。参考例5に示すように、デルフチア属微生物はpH10では生育しないことが確認されており、pH10ではデルフチア属微生物は増殖しないものの、デルフチア属微生物が保有する芳香族変換酵素は機能しており、芳香族化合物の分解が進んだものと推定された。

(参考例4)デルフチア属微生物の生育最適温度 デルフチア属の生育最適温度を検討した。実施例3のデルフチア・ツルハテンシスを供試菌として使用し、本菌をLB培地(5mL)にて、30℃、180rpm、24時間、試験管にて前培養を行った。その後、TB培地(5mL、pH7)に対して、前記前培養した前培養液を50μL添加し、30℃から50℃、180rpm、24時間培養を行った。24時間培養後、OD600を測定した。結果を表9に示す。

温度20℃〜35℃の範囲では増殖することが確認できた。但し、40℃を超えると増殖しないことが確認された。

(参考例5)デルフチア属微生物の生育最適pH デルフチア属微生物の生育最適pHを検討した。デルフチア・ツルハテンシスを供試菌として使用し、本菌をLB培地(5mL)にて、30℃、180rpm、24時間、試験管にて前培養を行った。その後、TB培地(5mL、pH7)および塩酸および水酸化ナトリウムでpHを4.0、8.5、10にそれぞれ調整したTB培地に対して、前記前培養した前培養液を50μL添加し、30℃で、180rpm、24時間培養を行った。24時間培養後、OD600を測定した。結果を表10に示す。

pH8.5まではデルフチア属は増殖するものの、pH10では全く生育しないことが確認できた。また、pH4でも同じく増殖は確認できなかった。

(実施例8)糖液を膜濃縮(逆浸透膜)する工程 実施例3に記載の糖液1DA、糖液2DA、糖液3DAをそれぞれ1300mLずつ、0.22μmの孔径を有する精密濾過膜(ステリカップ−GV、ミリポア社製)に供することにより、含まれる微粒子を除去した。得られた液を、逆浸透膜(UTC−80、東レ株式会社製)を用いて、平膜小型クロスフロー濾過ユニット(SEPA CF−II、GEオスモニクス社製、有効膜面積140cm2)にて、30℃で濾過した。濾過は、クロスフロー濾過にて膜間差圧が常時4MPaとなるよう随時調節して行い、液量がおよそ1/4まで膜濃縮(4倍濃縮)した。濃縮に要した時間、濃縮終了時点の濾過速度、濃縮後の糖濃度を測定した結果を表8に示す。また、比較例として(比較例3)、実施例3記載の加水分解物1〜3を使用(グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解する工程を実施しない)して、前記方法により膜濃縮を前述と同様の手順により膜濃縮を行った結果を同じく表11に示す。

表11に示すように、グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解する工程を行った糖液の方が糖液を4倍濃縮に要する時間が短縮された。また、濃縮終了時点の濾過速度もグルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解する工程を行った場合の方が速かった。このことから各加水分解物をグルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解する工程に供することにより糖液の膜濃縮時の濾過性が改善されることが判明した。

(実施例9)糖固体の調製 実施例8に記載の膜濃縮後の糖液1DA、および、比較のため、同じく実施例8に記載の膜濃縮後の加水分解物1を各15mL分取し、丸底ガラスフラスコに移した後、−70℃で冷凍した。冷凍した前記糖液および加水分解物1は、凍結乾燥機(EYLA:東京理科機械株式会社)にて、−45℃設定で48時間凍結乾燥した。乾燥後の重量は、膜濃縮後の糖液1DAが1.41g、加水分解物1が1.37gであった。

得られた糖固体0.5g(糖固体1DA:膜濃縮後の糖液1DAを凍結乾燥したもの、糖固体加水分解物1(膜濃縮後の加水分解物1を凍結乾燥したもの)をガラスバイアル瓶(13.5mL容量)にそれぞれ回収した。その後、バイアル瓶の蓋を開放したまま、室温(およそ25℃)にて24時間放置し、外観変化を比較した。結果を図7に示す。糖固体加水分解物1では、凍結乾燥物を丸底フラスコからバイアル瓶への分取過程で吸湿が開始し、開放直後の写真では、色調が濃くなり塊状態になっている(図7A右側)。一方、糖固体1DAでは、粉体のままであった(図7A左側)。その後、バイアル瓶の蓋を開放して24時間後の写真を図7Bに示すが、糖固体加水分解物1では完全に吸湿し、粉体ではなくなり、粘着質の糖蜜に変化した(図7B左側)。一方で、糖固体1DAでは、24時間後も、若干の見た目上の嵩高さの低下は見られ、吸湿が起きたことが推察されるが、粉体状態を保っているという顕著な差が確認された。すなわち、本発明の糖固体は、吸湿性が低いため、空気開放下での形態安定性が極めて高いことが示され、実用上利点を有していることが確認できた。

(実施例10)アミノ酸分析 実施例9で得られた糖固体加水分解物1および糖固体1DAに含まれるアミノ酸分析を下記手順で実施した。アミノ酸分析において遊離アミノ酸濃度の測定を行った。分析装置は、アミノ酸分析計L−8800A形(株式会社日立製作所)を使用し、測定条件はニンヒドリン法を用いて、検出波長:440nm(プロリン、ヒドロキシプロリン)、570nm(プロリン、ヒドロキシプロリン以外のアミノ酸)で実施した。

実施例9で得られた凍結乾燥物、糖固体加水分解物1(1.41g)および糖固体1DA(1.37g)から、それぞれ2.05mgをチューブに採取し、2%スルホサリチル酸250μLを添加・攪拌後、超音波処理を10分行なった。この溶液を0.22μmフィルターでろ過し、測定用試料溶液とした。この試料溶液の25μLを用いて前記装置条件で分析を行なった。分析値を表12に示す。

検出濃度は、分析した糖固体重量g当たりに含まれる各遊離アミノ酸濃度(mg)である。濃縮糖液中濃度換算とは、凍結乾燥に供した各膜濃縮糖液15mL中に存在する濃度に換算した値である。糖固体加水分解物1においては、すべてのアミノ酸が含まれていることが分析値より確認できた。一方で、グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解を行った糖固体1DAにおいては、セリン、スレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、フェニルアラニン、リジン、ヒスチジンの遊離アミノ酸が検出できなかった(検出できず)。したがって、凍結乾燥する前の濃縮糖液中の遊離アミノ酸濃度は0mg/Lであることが確認できた。すなわち本発明の糖液および糖固体は、前述した遊離アミノ酸濃度が検出限界以下であることが確認できた。

次に、各糖固体に含まれるアミノ酸総量について同じく分析を行った。アミノ酸総量については、遊離アミノ酸に加え、ペプチドあるいはポリペプチドの状態で存在しているアミノ酸も含む。したがって、実施例9で得られた凍結乾燥物、糖固体加水分解物1(1.41g)および糖固体1DA(1.37g)から、それぞれ2.05mgをチューブに採取し、6mol/L塩酸250μLを添加、窒素置換・減圧封管後110℃で22時間加水分解を行なった。これを減圧乾固した残渣に0.02mol/L塩酸200μLを添加し溶解した。この溶液を0.22μm遠心ろ過ユニットでろ過し、測定用試料溶液とした。この試料溶液の25μLを用いて前述装置条件にて分析を行なった。分析結果を表13に示す。

糖固体加水分解物1およびグルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解を行った糖固体1DAのいずれにおいても、すべてのアミノ酸が含まれていることが分析値より確認できた。但し、糖固体1DAの方が、少ないことが確認された。すなわち、グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物によって消費されているのは、遊離アミノ酸が主体であり、ペプチドあるいはポリペプチドの状態で存在しているアミノ酸については未消費で糖液中に残されていることが確認できた。こうしたペプチドあるいはポリペプチドで存在するアミノ酸が含まれるということは微生物での発酵生産において重要であり、微生物増殖の窒素源として利用される。

(実施例11)グルコースおよびキシロースの資化性のない微生物による発酵阻害物質の分解2:廃糖蜜(モラセス)の処理 発酵阻害物質を含む糖水溶液として、廃糖蜜(モラセス:Molasses−Agri、オーガニックランド株式会社)を使用して調整した。使用した廃糖蜜は、バイオマスとしてサトウキビ由来廃糖蜜約90%、甘藷約10%廃糖蜜を使用した混合物である。本廃糖蜜をRO水で6倍希釈し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌した。滅菌後水酸化ナトリウムを添加し、pH6.7に調整した。発酵阻害物質を含む糖水溶液として使用した(廃糖蜜糖水溶液)。芳香族化合物の分析結果を、表14に示す。廃糖蜜糖水溶液中には、グルコース、フルクトース、スクロースを糖として含み、発酵阻害物質として、3−ヒドロキシメチルフルフラールを含むことが確認できた。本糖水溶液を、実施例3記載に準じて、デルフチア・ツルハテンシスにて処理を行った。得られた糖液を廃糖蜜DTとして、その分析値(糖および芳香族化合物)を表14に示す。発酵阻害物質として含まれていた3−ヒドロキシメチルフルフラールが完全に分解して廃糖蜜DT中から消失したことが確認できた。

本発明における糖液の製造方法は、バイオマスから発酵阻害が低減した糖液を製造することに使用できる。また本発明で製造した糖液あるいは糖固体は、各種化学品の発酵原料として使用することができる。

QQ群二维码
意见反馈