温度応答性基材、その製造方法及びその評価方法

申请号 JP2015016046 申请日 2015-01-29 公开(公告)号 JP6312613B2 公开(公告)日 2018-04-18
申请人 ダイキン工業株式会社; 发明人 森田 正道; 久保田 浩治; 小泉 美子; 山口 央基;
摘要
权利要求

含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する、少なくとも一種のポリマー、及び 含フッ素モノマーに基づく構成単位の全モノマー構成単位に占める割合が0mol%〜1mol%である、少なくとも一種の温度応答性ポリマー のブレンドポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 含フッ素モノマーが、一般式(1): CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1) [式中、Xは、原子、炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1及びX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基又は置換若しくは非置換のフェニル基であり; Yは、−O−又は−NH−であり; Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基若しくは環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OZ)1)CH2−基(但し、Z1は水素原子又はアセチル基である。)、−(CH2)m−SO2−(CH2)n−基、−(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10である。)又は−(CH2)m−COO−基(mは1〜10である。)であり; Rfは、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。]で表されることを特徴とする、温度応答性接着細胞培養器材。温度応答性を示す前記ポリマーが、ポリマーの重量に対して2〜40重量%のフッ素を含有するものである、請求項1に記載の温度応答性接着細胞培養器材。一般式(1)で表される含フッ素モノマーにおいて、Rfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を有していてもよいフルオロアルキル基である、請求項1又は2に記載の温度応答性接着細胞培養器材。含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する前記ポリマーの少なくとも一種が、温度応答性ポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性接着細胞培養器材。前記ブレンドポリマーを構成するモノマー構成単位の合計に対する前記含フッ素モノマーに基づく構成単位の割合が0.5mol%〜10mol%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の温度応答性接着細胞培養器材。請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性接着細胞培養器材を製造するために用いられる、 含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する、少なくとも一種のポリマー、及び 含フッ素モノマーに基づく構成単位の全モノマー構成単位に占める割合が5mol%未満である、少なくとも一種の温度応答性ポリマー のブレンドポリマー。培養器材から接着細胞を剥離する方法であって、 請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性接着細胞培養器材の表面で培養された接着細胞を、温度応答性を示す前記温度応答性ポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法。接着細胞シートの製造方法であって、 請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性接着細胞培養器材の表面で培養されたシート状の接着細胞を、前記温度応答性ポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法。

说明书全文

本発明は、温度応答性基材、その製造方法及びその評価方法に関する。

温度応答性を有する基材が、各種用途に用いられている。例えば、以下に説明する細胞培養器材をはじめ、カラムクロマトグラフィーの充填剤、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム)、ハイドロゲル、イオン交換樹脂、膜分離システム、砂漠の緑化材料及び撥撥油剤等に用いられている。 従来、接着細胞の培養は、ガラス表面あるいは種々の処理を行なった合成樹脂表面の上に接着させることにより行われていた。例えば、ポリスチレンをグロー放電若しくはコロナ放電等により親水化処理したもの、又はポリスチレンをコラーゲン若しくはMPCポリマー等の生体親和性ポリマーによってコーティングしたもの等、様々な表面を有する培養容器が用いられている(特許文献1、非特許文献1)。

このような材料(細胞培養器材)の表面に接着させて培養した細胞を回収するためには、細胞を細胞培養器材表面から剥離する必要がある。この目的のために、細胞と細胞培養器材の間の結合を破壊する作用を有する物質、例えばトリプシンのようなタンパク質分解酵素、又は化学薬品が用いられる。しかしながら、酵素処理や化学薬品処理は煩雑であるだけでなく、不純物混入の可能性が高くなること、また細胞自体が変性し本来の機能が損なわれる場合があること等の欠点が指摘されている。

また、近年、再生医療分野や3D培養等において、細胞同士が細胞外マトリックスを介して結合したシート状の細胞集合体(細胞シート)が注目されている。ところが、いったん細胞培養器材表面上で細胞シートを形成したとしても、酵素処理や化学薬品処理では、細胞外マトリックスも破壊されるため、細胞をシート状のまま回収することが困難であるという問題があった。

これらの欠点を解消するために、酵素処理や化学薬品処理を行うことなく、水に対する上限臨界溶解温度(以後、UCSTと省略することがある)又は下限臨界溶解温度(以後、LCSTと省略することがある)が0〜80℃である温度応答性ポリマーで被覆した細胞培養器材を用い、温度変化によって細胞を剥離する技術が提案されている(特許文献2)。この温度応答性ポリマー被覆細胞培養器材は、細胞を損傷の少ない状態で回収できるだけでなく、細胞シートの作製にも有効である。

しかしながら、従来の温度応答性ポリマー被覆細胞培養器材には、細胞の剥離しやすさの点で、さらに向上させる余地があった。具体的には、従来の温度応答性ポリマー被覆細胞培養器材には、細胞シートを剥離する際に、細胞シートが破れてしまう場合があるという問題があった。この原因は、温度応答性ポリマー被覆が海島状になっているためであるとされる(特許文献3)。具体的には、島状の結晶部分はグラフト化が進みにくいため細胞剥離機能が弱い部分となり、海状のモノマー溶解液部分はグラフト化が進みやすいため細胞剥離機能が強い部分となる。このような温度応答性ポリマー被覆細胞培養器材では、細胞が均一に接着又は増殖できない。この問題を解決する目的で、放射線照射条件及び乾燥条件等を最適化するという提案がなされている(特許文献3)。

特開2008−297488号公報

特開平2−211865号公報

特開2013−116130号公報

細胞培養関連製品カタログ 2013、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社ラボプロダクツ事業本部、p.3

本発明は、従来よりも優れた温度応答性基材を提供することを課題とする。具体的には、温度応答性基材であって、(1)表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離がより容易であること、及び/又は(2)表面に付着したシート(例えば細胞シート)を、より損傷が少ない状態で剥離できること及び/又は(3)LCSTが従来よりも低く取扱性に優れる、という優れた特性を備える温度応答性細胞培養器材を提供することを課題とする。さらに、本発明は、(4)上記のような特性の点で温度応答性基材を評価できる方法を提供することも別の課題とする。

本発明者らは、少なくとも一種のポリマーであって、少なくとも一種が温度応答性を示すものであり、かつ少なくとも一種が含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有するものであるポリマーを用いることにより、上記課題(1)を解決できることを見出した。

また、本発明者らは、上記課題(2)の解決のために、基材上に温度応答性ポリマー層をより均一に形成することが重要であることを着想した。そして、本発明者らは、前照射法による放射線表面グラフト重合によって、温度応答性ポリマー層を前記基材の表面に形成することにより上記課題(2)を解決できることを見出した。

また、本発明者らは、フッ素濃度が所定範囲内である、含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有する温度応答性ポリマー(含フッ素温度応答性ポリマー)を用いることにより、上記課題(3)を解決できることを見出した。

さらに、本発明者らは、温度応答性ポリマーの、(a)所定温度間における対水接触の差、及び(b)示差走査熱量分析における中間水のピークの有無が、そのポリマーを温度応答性細胞培養器材として利用したときにおける、表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離し易さと関連していること、ひいてはかかる知見を応用することにより上記課題(4)を解決できることを見出した。

すなわち、本発明は、下記の温度応答性基材、その製造方法及びその評価方法を提供するものである。 項1. 少なくとも一種のポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 前記ポリマーの少なくとも一種のポリマーが温度応答性を示すものであり、かつ 前記ポリマーの少なくとも一種のポリマーが含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有するものであることを特徴とする、温度応答性基材。 項2. 温度応答性を示す前記ポリマーの下限臨界溶解温度(LCST)が0〜15℃である、項1に記載の温度応答性基材。 項3. 温度応答性を示す前記ポリマーが、ポリマーの重量に対して2〜40重量%のフッ素を含有するものである、項1又は2に記載の温度応答性基材。 項4. 前記含フッ素モノマーが、フルオロアルキル基を有する含フッ素モノマーである、項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性基材。 項5. 含フッ素モノマーが、一般式(1): CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1) [式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1及びX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基又は置換若しくは非置換のフェニル基であり; Yは、−O−又は−NH−であり; Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基若しくは環状脂肪族基、 −CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OZ)1)CH2−基(但し、Z1は水素原子又はアセチル基である。)、−(CH2)m−SO2−(CH2)n−基、−(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10である。)又は−(CH2)m−COO−基(mは1〜10である。)であり; Rfは、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。]で表される、項1〜4のいずれか一項に記載の温度応答性基材。 項6. 一般式(1)で表される含フッ素モノマーにおいて、Rfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状の、ヘテロ原子を有していてもよいフルオロアルキル基である、項5に記載の温度応答性基材。 項7. 前記層が、 含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する、少なくとも一種のポリマー、及び 含フッ素モノマーに基づく構成単位の全モノマー構成単位に占める割合が5mol%未満である、少なくとも一種の温度応答性ポリマー のブレンドポリマーを含有する、項1〜6のいずれか一項に記載の温度応答性基材。 項8. 含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する前記ポリマーの少なくとも一種が、温度応答性ポリマーである、項7に記載の温度応答性基材。 項9. 前記ブレンドポリマーを構成するモノマー構成単位の合計に対する前記含フッ素モノマーに基づく構成単位の割合が0.5mol%〜10mol%である、項7又は8に記載の温度応答性基材。 項10. 項1〜9のいずれか一項に記載の温度応答性基材を製造するために用いられる、含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有するポリマー。 項11. 温度応答性ポリマーである、項10に記載のポリマー。 項12. 項1〜9のいずれか一項に記載の温度応答性基材を製造するために用いられる、(a)それを重合することにより得られるホモポリマーが温度応答性を示すモノマー、及び (b)含フッ素モノマー を含有する組成物。 項13. 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 前照射法による放射線表面グラフト重合によって、前記層を基材の表面に形成することにより得られうるものであることを特徴とする、温度応答性基材。 項14. 細胞培養器材である、項1〜9及び13のいずれか一項に記載の温度応答性基材。 項15. 培養器材から細胞を剥離する方法であって、 項1〜9のいずれか一項に記載の温度応答性基材の表面で培養された細胞を、温度応答性を示す前記ポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法。 項16. 温度応答性を示す前記ポリマーのLCSTが0〜15℃である、項15に記載の方法。 項17. 温度応答性を示す前記ポリマーが、ポリマーの重量に対して2〜20重量%のフッ素を含有するものである、項16に記載の方法。 項18. 細胞シートの製造方法であって、 項1〜9のいずれか一項に記載の温度応答性基材の表面で培養されたシート状の細胞を、温度応答性を示す前記ポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法。 項19. 温度応答性を示す前記ポリマーのLCSTが0〜15℃である、項18に記載の方法。 項20. 温度応答性を示す前記ポリマーが、ポリマーの重量に対して2〜20重量%のフッ素を含有するものである、項19に記載の方法。 項21. 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材の製造方法であって、 前照射法による放射線表面グラフト重合によって、前記層を基材の表面に形成する工程を含むことを特徴とする、製造方法。 項22. 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 前記ポリマーが、 溶液重合により調製された場合に、5℃(前記ポリマーのLCSTが20℃未満の場合)又は20℃(前記ポリマーのLCSTが20℃以上37℃以下の場合)及び40℃における対水接触角の差△θが30°以上であり、かつ、 示差走査熱量分析法において中間水のピークを有する ものであることを特徴とする、温度応答性基材。 項23. 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材の評価方法であって、 溶液重合により調製された前記ポリマーを試料として用い、 (a)前記試料の、温度応答前後における対水接触角の差△θ、及び (b)前記試料の、示差走査熱量分析における中間水のピークの有無 に基づいて評価を行う、方法。

本発明によれば、温度応答性基材の特性を改良できる。具体的には、(1)表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離をより容易とし、及び/又は(2)表面に付着したシート(例えば細胞シート)を、より損傷が少ない状態で剥離できるようにし、及び/又は(3)LCSTを従来よりも低くして取扱性を改善することができる。さらに、本発明の別の態様によれば、(4)温度応答性基材を従来よりも適正に評価できる。

溶液重合で調製した「NIPAMホモポリマー −NIPAM/C2-SFMA(=90/10mol)共重合体」ブレンドポリマーの温度応答性を評価した結果を示すグラフである。

溶液重合で調製した「NIPAMホモポリマー −NIPAM/C2-SFMA(=70/30mol)共重合体」ブレンドポリマーの温度応答性を評価した結果を示すグラフである。

溶液重合で調製した「NIPAMホモポリマー −NIPAM/C6-SFMA(=90/10mol)共重合体」ブレンドポリマーの温度応答性を評価した結果を示すグラフである。

溶液重合で調製した「NIPAMホモポリマー −NIPAM/C6-SFMA(=70/30mol)共重合体」ブレンドポリマーの温度応答性を評価した結果を示すグラフである。

実施例33の培養実験の結果を示す写真である。

実施例33の培養実験の結果を示す写真である。

実施例33の培養実験の結果を示す写真である。

実施例33の培養実験の結果を示す写真である。

実施例33の培養実験の結果を示す写真である。

以下、本発明の温度応答性基材、その製造方法及びその評価方法について具体的に説明する。

1. 温度応答性基材 本発明の温度応答性基材は、温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材である。

本発明の温度応答性基材の一態様(態様1)は、 少なくとも一種のポリマーを含有する層(温度応答性ポリマー層ということがある。)を表面に有する温度応答性基材であって、 前記ポリマーの少なくとも一種のポリマーが温度応答性を示すものであり、かつ 前記ポリマーの少なくとも一種のポリマーが含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有するものであることを特徴とする、温度応答性基材である。

前記温度応答性ポリマー層は、二種以上のポリマーを含有する場合、これらのブレンドポリマーを含有する。

この本発明の温度応答性基材は、前記温度応答性ポリマー層が、含フッ素モノマーに基づく構成単位を含むものであるため、このことに起因して、表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離が容易であるという優れた効果を奏する。

また、本発明の温度応答性基材の別の態様(態様2)は、 上記温度応答性基材において、温度応答性を示す前記ポリマーのLCSTが0〜15℃であるものである。これにより、表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離が、従来よりも低い温度領域でのみ起こるように制御でき、有利である。例えば、本発明の温度応答性基材を、細胞培養器材として用いる場合には、培養器材からの細胞の剥離が室温付近では起こらず、意図的により低温としたときに限って剥離が生じるように制御できる。従来は、室温環境下で作業する場合、意図しない剥離を避けるのが困難であったが、本態様によればこれを回避でき、取扱性により優れたものとすることができる。

また、本発明の温度応答性基材の別の態様(態様3)は、 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 前照射法による放射線表面グラフト重合によって、前記層を前記器材の表面に形成することにより得られうるものであることを特徴とする、温度応答性基材である。

前照射法による放射線表面グラフト重合によって、基材の表面に重合開始点を形成した後、そこに温度応答性ポリマーを成長させることができる。これにより、温度応答性ポリマーを基材の表面に化学結合により固定することができ、基材上に温度応答性ポリマー層をより均一に形成することができるので好ましい。なお、本明細書において、「化学結合」には、特に断りのない限り、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合及びファンデルワールス結合が含まれる。

本発明の温度応答性基材のさらに別の態様(態様4)は、 温度応答性ポリマーを含有する層を表面に有する温度応答性基材であって、 前記ポリマーが、 溶液重合により調製された場合に、5℃(前記ポリマーのLCSTが20℃未満の場合)又は20℃(前記ポリマーのLCSTが20℃以上37℃以下の場合)及び40℃における対水接触角の差△θが30°以上であり、かつ、 示差走査熱量分析法において中間水のピークを有する ものであることを特徴とする、温度応答性基材である。

上記において、△θが、30°以上を示すとき、温度応答性ポリマーは、物質(例えば接着細胞)をある温度領域において良好に接着させることができ、ある別の温度領域において接着した物質(例えば細胞)を剥離することができるという基本的特性の点で良好であるといえる。

1.1 温度応答性ポリマー 本発明において、特定の温度で疎水性であるが、温度変化に応じて親水性に変わる特性のことを、「温度応答性」といい、そのような特性を有するポリマーのことを、「温度応答性ポリマー」ということがある。本発明の温度応答性基材を温度応答性細胞培養器材として用いる場合には、ある態様においては、細胞培養温度(特に限定されないが、通常は、37℃程度である。)と室温(通常は20〜25℃)の間の温度で応答することができる。その場合、LCSTは28〜35℃が好ましい。また、詳しくは後述する別の態様(態様2)においては、より低温領域(0〜15℃)で応答することとすることができる。その場合、LCSTは6〜15℃が好ましい。

温度応答性ポリマーは、水に対する臨界溶解温度(CST)において、疎水性(または親水性)から親水性(または疎水性)に変化する。温度応答性ポリマーとしては、(1)臨界溶解温度未満(このときの臨界溶解温度を特に「下限臨界溶解温度(LCST)」という。)の温度で親水性を示すが、同温度以上の温度で疎水性を示す温度応答性ポリマーと、(2)臨界溶解温度以上(このときの臨界溶解温度を特に「上限臨界溶解温度(UCST)」という。)の温度で親水性を示すが、同温度未満の温度で疎水性を示す温度応答性ポリマーのいずれも用いることができる。

本発明の温度応答性基材は、物体(例えば接着細胞)が付着する表面[例えば細胞を培養する表面(「培養面」ということがある。)]が、特定の温度領域(例えば細胞培養温度)において疎水性であるため物体(例えば接着細胞)を付着させることができ、温度変化により親水性に変化するため、付着した物体(例えば接着細胞)を表面から容易に剥離させることができる(便宜上、このときの温度を「剥離温度」という。)。

本発明の温度応答性基材を細胞培養器材として用いる場合、特に限定されないが、培養細胞を培養面から剥離させた後の細胞回収操作の容易さの点では、剥離温度は細胞培養温度よりも低い温度であることが好ましい。言い換えれば、このときに用いる温度応答性ポリマーは、LCSTが細胞培養温度よりも低い温度である。このとき、LCSTは細胞に傷害を与えない程度の温度であることが好ましく、具体的には、0℃以上であることが好ましい。

なお、本発明の温度応答性基材を細胞培養器材として用いる場合、剥離温度は細胞培養温度よりも高い温度であってもよく、言い換えれば、このときに用いる温度応答性ポリマーは、UCSTが細胞培養温度よりも高い温度である。このとき、UCSTは細胞に傷害を与えない程度の温度であることが好ましく、具体的には、80℃以下、より好ましくは50℃以下である。

温度応答性ポリマーとしては、特に限定されないが、アクリル系ポリマー及びメタクリル系ポリマー等が挙げられる。特に限定されないが、具体例としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド(本明細書において、「NIPAM」と表記することがある。))(LCST=32℃)、ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)(LCST=21℃)、ポリ(N−n−プロピルメタクリルアミド)(LCST=32℃)、ポリ(N−エトキシエチルアクリルアミド)(LCST=約35℃)、ポリ(N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド)(LCST=約28℃)、ポリ(N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド)(LCST=約35℃)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)(LCST=32℃)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリジン)、ポリ(N−アクリロイルピペリジン)及びポリメチルビニルエーテル等が挙げられる。

温度応答性ポリマーとしては、他にも、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等のポリアルキレンオキサイドブロック共重合体、並びにポリアルキレンオキサイドブロック共重合体等も挙げられる。

これらの温度応答性ポリマーは、特に限定されないが、モノマーを放射線照射によって重合することにより、または、溶液重合することにより得られうるものである。溶液重合は、特に限定されないが、例えばフラスコ内で行うことができる。

モノマーとしては、それを重合することにより得られるホモポリマーが温度応答性を示すもの(便宜上、「温度応答性モノマー」ということがある。)を用いることができる。 温度応答性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体等が挙げられる。温度応答性ポリマーは、1種の温度応答性モノマーを重合することにより得られるホモポリマーであってもよいし、2種以上の温度応答性モノマーを重合することにより得られるコポリマーであってもよい。コポリマーは、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマーのいずれであってもよい。

また、温度応答性ポリマーは、必要に応じて、温度応答性モノマーに加えて、温度応答性を阻害しない範囲内において、それ自体は温度応答性モノマーに該当しないモノマー(便宜上、「非温度応答性モノマー」ということがある。)からなるモノマー成分を重合することにより得られる共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。本発明の「ランダム共重合体」は、統計連鎖配列により定義された狭義ではなく、精密重合ではない、混合した2種類以上のモノマーを同時に重合して得られる広義を指す。溶液重合により調製された場合に、5℃(前記ポリマーのLCSTが20℃未満の場合)又は20℃(前記ポリマーのLCSTが20℃以上37℃以下の場合)及び40℃における対水接触角の差△θが30°以上であり、かつ、示差走査熱量分析法において中間水のピークを有するポリマー(態様4)も広義のランダム共重合体である。本発明で使用されるモノマー群において、ランダム共重合体は、LCSTを下げる効果がある。

ブロックポリマーは、AB型ジブロックであってもよいし、ABA型トリブロックであってもよい。後者の場合、含フッ素モノマーからなるポリマーはAブロックであってもよいし、Bブロックであってもよい。また、特に限定されないが、グラフトポリマーは、Macromolecules、2010年、43、pp.1964−1974記載のように幹となるポリマーが直鎖であってもよいし、国際公開第WO/2014133168号に記載されているような分岐状であってもよい。その際、含フッ素モノマーは幹の部分を構成するモノマーと共重合してもよいし、グラフト部位を構成する温度応答性モノマーと共重合してもよい。ブロック共重合体及びグラフト共重合体は、後述する放射線照射のような工程を経ないでも、単に基材上に塗布するだけで、基材に固定化されうる。なお、上記「固定化」は、細胞培養時にポリマーが培地中に溶出することなく、細胞シートを剥離するときにも、ポリマーが細胞シートと一緒に剥離することがない程度吸着されている状態を示す。

上記において、非温度応答性モノマーのモノマー成分全体に占める割合は、温度応答性モノマーの温度応答性を阻害しない範囲内において適宜設定することができる。非温度応答性モノマーのモノマー成分全体に占める割合は、通常、好ましくは30mol%以下、より好ましくは10mol%以下である。

非温度応答性モノマーとしては、特に限定されないが、含フッ素モノマー等が挙げられる。非温度応答性モノマーとして含フッ素モノマーを用いて得られる場合、温度応答性ポリマーは、含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有する。この場合、(1)温度応答性ポリマーは、含フッ素ポリマーとしての特性、特に低表面自由エネルギー性を備えていることに起因して、その表面で物体(例えば接着細胞)を接触(細胞の場合は培養)させた際に非粘着性が良好となるという有利な特性を備えたものとなる。この点では、温度応答性ポリマーは、少なくとも一種の温度応答性モノマー及び含フッ素モノマーを含有するモノマー成分を表面グラフト重合することにより得られるグラフトコポリマーであれば、含フッ素ポリマーとしての特性がより強く付与されるため好ましい。非温度応答性モノマーとして含フッ素モノマーを用いて得られる温度応答性ポリマーは、さらに、(2)含フッ素ポリマーとしての特性、特に水不溶性を備えていることに起因して、基材表面に化学結合させなくとも、培地中への溶出や、細胞シート剥離時に細胞シートと一緒に剥離されるリスクを低減できるという別の有利な特性を備えたものとなる。。

含フッ素モノマーとしては、上記のような有利な特性を最終的に得られる温度応答性ポリマーに付与できるものであればよく、特に限定されない。

含フッ素モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸系単量体、アクリレート系単量体、アクリルアミド系単量体、スチレン系単量体、アクリロニトリル系単量体、ビニルピロリドン系単量体、ビニルエーテル系単量体及びピロール系単量体等において、少なくとも一つの水素原子がフッ素原子に置換されたものが挙げられる。

上記においてアクリル酸系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。

上記においてアクリレート系単量体としては、特に限定されないが、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;2−ヒドロキシルエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル;並びにジエチレングリコールメタクリレートのようなα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステル等が挙げられる。

上記においてアクリルアミド系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド、メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。

上記においてスチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、アルキルスチレン等が挙げられる。

含フッ素モノマーとして、例えば、カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合又はアミド結合したフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステル(以下、「フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル」と略記することがある。)、又は「フルオロアルキル基含有アクリルアミド」等が挙げられる。

フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル又はフルオロアルキル基含有アクリルアミドの好ましい具体例としては、下記一般式(1): CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)

[式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX1X2基(但し、X1及びX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基又は置換若しくは非置換のフェニル基であり; Yは、−O−又は−NH−であり; Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基若しくは環状脂肪族基、 −CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)、−CH2CH(OZ)1)CH2−基(但し、Z1は水素原子又はアセチル基である。)、−(CH2)m−SO2−(CH2)n−基、−(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10である。)又は−(CH2)m−COO−基(mは1〜10である。)であり; Rfは、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。]で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドを例示できる。

上記一般式(1)において、Rfで表されるフルオロアルキル基は、少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいアルキル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基も包含するものである。

上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドでは、Rfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。近年、EPA(米国環境保護庁)により、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有する化合物は、環境、生体中で分解して蓄積するおそれがある環境負荷が高い化合物であることが指摘されているが、一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドにおいてRfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である場合には、この様な環境問題が指摘されていないためである。

上記式(1)において、Rf基の例として、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2H、−CF2CF2CF3、−CF2CFHCF3、−CF(CF3)2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF3)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2等が挙げられる。

さらに、含フッ素モノマーは、非テロマーであることが好ましく、この点で、Rf基としては、炭素数1〜2のフルオロアルキル基、又はヘテロ原子によって介在された二以上の炭素数1〜3のフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)−、(CF3)2NCnF2n−(n=1〜6)等が挙げられる。

上記した一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドの具体例は、次の通りである。

CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−C6H4−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−CH3)SO2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−C2H5)SO2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OH)CH2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OCOCH3)CH2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−C6H4−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2N(−CH3)SO2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2N(−C2H5)SO2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−CH2CH(−OH)CH2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−CH2CH(−OCOCH3)CH2−Rf

CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CH3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf

CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf

CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)3−Rf

CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf [上記式中、Rfは、炭素数1〜6、好ましくは、1〜3のフルオロアルキル基である。]

C3F7OCF(CF3)CF2O-CF(CF3)CH2-MAc C3F7OCF(CF3)CF2O-CF(CF3)CH2-Ac (CF3)2CH-Ac C2F5CH2-MAc C2F5CH2-Ac [上記式中において、Acはアクリレート、MAcはメタクリレートを、それぞれ表す。]

上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル及びフルオロアルキル基含有アクリルアミドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。

特に、本発明の温度応答性基材は、表面の層が、(i)含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する、少なくとも一種のポリマー、及び(ii)含フッ素モノマーに基づく構成単位の全モノマー構成単位に占める割合が5mol%未満である、少なくとも一種の温度応答性ポリマーのブレンドポリマーを含有するものである場合、特に優れた剥離性を示すので好ましい。このとき、ポリマー(i)を構成するモノマー構成単位の合計に対する含フッ素モノマーに基づく構成単位の割合が5mol%〜45mol%であることが好ましい。特に限定されないが、他の範囲としては、例えば10mol%〜45mol%、10mol%〜40mol%、10mol%〜30mol%等が挙げられ、適宜設定できる。また、温度応答性ポリマー(ii)を構成するモノマー構成単位の合計に対する含フッ素モノマーに基づく構成単位の割合は特に限定されないが、少なければ少ないほど好ましく、0mol%であってもよい。特に限定されないが、例えば、0mol%〜3mol%の範囲内であってもよいし、0mol%〜2mol%、あるいは0mol%〜1mol%範囲内であってもよい。

さらに、剥離性の点で、ブレンドポリマーを構成するモノマー構成単位の合計に対する含フッ素モノマーに基づく構成単位の割合が0.5mol%〜10mol%、特に0.5mol%〜5mol%であることが特に好ましい。または代替的に、ポリマー(i)のガラス転移点(Tg)を指標とすることもできる。すなわち、ポリマー(i)が、ガラス転移点(Tg)が20〜130℃であれば剥離性の点で好ましく、50〜120℃であればより好ましい。ガラス転移点は、JIS K7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」で規定される補外ガラス転移終了温度(Teg)とする。

1.2 温度応答性ポリマー層 温度応答性ポリマーを含有する層(温度応答性ポリマー層)は、温度応答性ポリマーを必須成分として含有するが、必要に応じて、さらに温度応答性を示さないポリマー(「非温度応答性ポリマー」ということがある。)を含有していてもよい。

そのような非温度応答性ポリマーとしては、特に限定されず、幅広く選択することができる。特に限定されないが、温度応答性ポリマーについて説明した前記非温度応答性モノマーに基づく構成単位を含有するポリマーであってもよい。この非温度応答性ポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。この非温度応答性ポリマーは、コポリマーである場合、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマーのいずれであってもよい。

なお、非温度応答性ポリマーは、温度応答性を示さないポリマーであればよいので、その限りにおいて、温度応答性ポリマーについて説明した前記温度応答性モノマーに基づく構成単位を含有していてもよい。

非温度応答性ポリマーは、含フッ素モノマーに基づく構成単位を含有するものであってもよい。含フッ素モノマーとしては、特に限定されないが、温度応答性ポリマーについて説明した前記含フッ素モノマーを用いることができる。この場合、非温度応答性ポリマーは、含フッ素モノマーに基づく構成単位のみからなるものであってもよい。

温度応答性ポリマー層が温度応答性ポリマーのみからなる場合、温度応答性ポリマー層は、温度応答性ポリマーを、特に限定されないが、通常、基材表面に、1〜10μg/cm2吸着させる。吸着量が1μg/cm2以上であれば、温度応答して親水性に変化した場合に温度応答性ポリマー上の物体(例えば細胞)を剥離し易い。10μg/cm2以下であれば、温度応答前の疎水性の状態で物体(例えば細胞)が付着し易い。

本発明の温度応答性基材を細胞培養器材として用いる場合には、温度応答性ポリマー層の表面にさらに細胞接着性タンパク質を被覆すれば、基材表面の温度応答性ポリマーがたとえ10μg/cm2以上であってもよく、その際の温度応答性ポリマーの量は50μg/cm2以下が好ましい。細胞接着性タンパク質を被覆した場合、温度応答性ポリマーの量が50μg/cm2以下であれば細胞が付着し易くなり好ましい。被覆方法は常法にしたがえばよく、通常、細胞接着性タンパク質の水溶液を基材表面に塗布し、その後その水溶液を除去しリンスする方法がとられている。

そのような細胞接着性タンパク質の種類は何ら限定されるものではないが、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5及びフィブロネクチン等が挙げられる。これらを一種又は二種以上用いてもよい。また、細胞外マトリックスタンパク質を含有する調製品[例えばマトリゲル(登録商標)等]も使用できる。

温度応答性ポリマー層が非温度応答性ポリマーをさらに含有するものである場合は、温度応答性ポリマー層が温度応答性ポリマーのみからなる場合の上記含有量を参考にして、ポリマー全体に占める温度応答性ポリマーの割合に応じて温度応答性ポリマーの含有量を適宜調整すればよい。

なお、温度応答性ポリマー層中における温度応答性ポリマーの量の測定は、FT−IR−ATRを用いて行うこととする。細胞接着性タンパク質の被覆量の測定も同様とする。

1.3 温度応答性ポリマーの製造方法 特に限定されないが、温度応答性ポリマーは、少なくとも一種の前記温度応答性モノマー、及び必要に応じて少なくとも一種の前記非温度応答性モノマーからなるモノマー成分を重合させることによって、得ることができる。

より具体的には、 (1)上記モノマー成分を溶媒に溶解させる工程、及び (2)前記工程(1)により得られた溶媒中のモノマー成分を重合させる工程 を含む方法により、温度応答性ポリマーを得ることができる。

工程(1)において、上記モノマー成分を溶解させる溶媒は、特に限定されないが、例えば、常温下において沸点120℃以下、特に60〜110℃のものが好ましい。具体例として、メタノール、エタノール、n(又はi)−プロパノール、2(又はn)−ブタノール及び水等が挙げられる。上記モノマー成分を溶解させる溶媒として、一種の溶媒のみを用いてもよいし、二種以上の溶媒を混合して用いてもよい。二種以上を混合する場合には、例えば、1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2−ブトキシエタノール及びエチレン(若しくはジエチレン)グリコール又はそのモノエチルエーテル等からなる群より選択される少なくとも一種の溶媒をさらに混合してもよい。溶媒には、さらに必要に応じて添加剤を添加して用いてもよい。特に限定されないが、添加剤としては、硫酸等の酸類、及びモール塩等が挙げられる。

また、モノマーに対して、(i)温度応答性ポリマー、又は(ii)温度応答性モノマーと含フッ素モノマーから成る共重合体を、例えば、0.1〜90重量%、好ましくは、0.1〜50重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%の範囲で溶解させておいてもよい。

重合工程(2)において、溶媒中に溶解させたモノマー成分で基材の表面を被覆してから重合を行って表面上で温度応答性ポリマーを形成してもよいし、予め重合を行って温度応答性ポリマーを形成しておいてから、得られた温度応答性ポリマーで基材の表面を被覆してもよい。

重合の方法としては、特に限定されないが、例えば、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理及び有機重合反応等でラジカル重合する方法が挙げられる。

予め形成しておいた温度応答性ポリマーで基材の表面を被覆する方法は、特に限定されず、塗布及び混練等の単なる物理的吸着により行ってもよいし、さらに電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理及びコロナ処理等を行うことにより、化学結合を介して温度応答性ポリマーを基材の表面に固定してもよい。

溶媒中に溶解させたモノマー成分で基材の表面を被覆してから重合を行って表面上で温度応答性ポリマーを形成する方法として、表面グラフト重合によって温度応答性ポリマー層を基材の表面に形成することもできる。この場合、前照射法及び同時照射法のいずれも採用できる。

特に、前照射法による放射線表面グラフト重合によって、温度応答性ポリマー層を基材の表面に形成することが好ましい。この方法によれば、基材の表面に重合開始点を形成した後、そこに温度応答性ポリマーを成長させることができる。温度応答性ポリマーを基材の表面に化学結合により固定することができる点で、好ましい。

先述したように、本発明の温度応答性基材は表面の層が、(i)含フッ素モノマーに基づく構成単位を全モノマー構成単位中5mol%以上含有する、少なくとも一種のポリマー、及び(ii)含フッ素モノマーに基づく構成単位の全モノマー構成単位に占める割合が5mol%未満である、少なくとも一種の温度応答性ポリマーのブレンドポリマーを含有するものであるときに、特に優れた剥離性を示すので好ましい。このような温度応答性基材は、特に限定されないが、例えば、フッ素を含有しない温度応答性モノマー(及び必要に応じて少量の含フッ素モノマー)並びに温度応答性ポリマー(i)を表面に共存させた状態で、重合反応を生じさせることによって得ることができる。これにより、フッ素を含有しない温度応答性モノマー(及び必要に応じて少量の含フッ素モノマー)が重合することによって温度応答性ポリマー(ii)が表面上で得られ、ポリマー(i)と温度応答性ポリマー(ii)のブレンドポリマーが表面に生成する。さらに、このブレンドポリマーを、化学結合を介して表面に結合した状態とすることが好ましい。

本発明の温度応答性基材は、表面の層が、上記ポリマー(i)及びポリマー(ii)のブレンドポリマーを含有するものである場合、特に、上記ポリマー(i)及びポリマー(ii)をフラスコ等における溶液重合等の方法でそれぞれ得てから、両者をブレンドした状態で表面に塗布又は混練し、必要に応じてこのブレンドポリマーを表面に固定化する処理を行うことにより得られたものであれば、温度応答性がより良好となるため好ましい。

上記において、塗布又は混練の方法は、特に限定されないが、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、刷毛塗り法等を利用できる。塗布又は混練は、必要に応じて適当な溶媒に各ポリマーを溶解した上で行うことができる。

上記において、溶媒としては、特に限定されず、ポリマーの物性に応じて適宜選択できるが、例えば、イソプロピルアルコール、エタノールなど「1.3 温度応答性ポリマーの製造方法」の例示と同じ溶媒を使用できる。この際の溶媒中に溶解させるポリマーの量は、特に限定されないが、総量で0.1〜20重量%とすることができ、好ましくは1〜10重量%である。

ブレンドポリマーを表面に固定化する処理としては、特に限定されないが、加熱、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理及びコロナ処理等を利用できる。 これらの処理により、化学結合を介して各ポリマーが表面に固定される。

1.4 態様2 態様2は、上記温度応答性基材において、温度応答性を示すポリマーのLCSTが0〜15℃であるものである。これにより、表面に付着した物体(例えば細胞)の剥離が、従来よりも低い温度領域でのみ起こるように制御でき、有利である。

特に限定されないが、LCSTが0〜15℃を示す温度応答性ポリマーの例としては、ポリマーの重量に対してフッ素含有量が2〜20重量%、好ましくは2〜10重量%のものが挙げられる。 る。

LCSTが0〜15℃を示す、フッ素を含有する温度応答性ポリマーとしては、上記「1.1 温度応答性ポリマー」で説明した構造を有するものを使用することができる。 特に限定されないが、LCSTが0〜15℃を示す温度応答性ポリマーの例としては、フッ素を含有しない温度応答性モノマーと、フッ素を含有する非温度応答性モノマーとの共重合体が挙げられる。この場合、ポリマーの重量に対するフッ素の割合は、フッ素を含有する非温度応答性モノマーに占めるフッ素含有割合、及び/又はモノマー全体に占める、フッ素を含有する非温度応答性モノマーの含有割合を調整することにより適宜調整できる。

一例として、フッ素を含有しない温度応答性モノマーとしてNIPAMを用い、フッ素を含有する非温度応答性モノマーとして(パーフルオロエチル)メチルメタクリレートを共重合して温度応答性ポリマーを得る場合には、(パーフルオロエチル)メチルメタクリレートのモノマー全体に占める割合を2〜20mol%とすることにより、限臨界溶解温度が0〜15℃の温度応答性ポリマーを得ることができる。

フッ素を含有しない温度応答性モノマーと、フッ素を含有する非温度応答性モノマーとの共重合体としては、フッ素を含有する非温度応答性モノマーとして少なくとも一部フルオロアクリレートを用いたものが好ましい。特に限定されないが、フルオロアクリレートとして、上記「1.1 温度応答性ポリマー」で説明した構造を有するものを使用することができる。

1.5 基材 本発明の温度応答性基材は、先述のとおり、基材の表面に温度応答性ポリマーを含有する層が設けられたものである。本発明において用いる基材は、通常用いられるものであればよく、例えば、基板、粉体、繊維及び膜等が挙げられ、特に限定されない。

基材は、少なくともその表面が、放射線照射により重合開始点を形成し得る材料を含むものであれば、前述の表面グラフト重合によって、温度応答性ポリマー層を基材の表面に形成することができる点で好ましい。この場合、基材は、重合開始点を形成し得る材料を表面にのみ含んでいてもよいし、全体がそのような材料を含むものであってもよい。

重合開始点を形成し得る材料としては、特に限定されないが、ガラス類、プラスチック類、セラミックス及び金属等が挙げられる。具体的には、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリウレタン、ウレタンアクリレート及びポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、並びにポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、共役結合を持つ天然ゴム、共役結合を持つ合成ゴム及びシリコーンゴム等が挙げられる。材料はこれらを2種以上含むブレンドポリマー又はポリマーアロイであってもよい。

基材は、本発明の効果を妨げない限り必要に応じて、表面処理がされていてもよいし、表面にさらに他の層を有していてもよい。

基材の形状は、特に限定されないが、通常、細胞培養器材として用いられるディッシュ、ウェルプレート、チューブ、ボトル、フラスコ形状や、細胞培養・薬液バッグとして用いられるフィルム形状等とすることができる。

2. 温度応答性基材の評価方法 本発明の温度応答性基材の評価方法は、 溶液重合により調製された前記ポリマーを試料として用い、 (a)前記試料の、温度応答前後における対水接触角の差△θ、及び (b)前記試料の、示差走査熱量分析における中間水のピークの有無 に基づいて評価を行う、方法である。

物質(例えば接着細胞)をある温度領域において良好に接着させることができ、ある別の温度領域において接着した物質(例えば細胞)を剥離することができるというのは、温度応答性基材に求められる基本的特性である。なお、細胞培養器材として用いる場合であれば、細胞培養時に疎水性、剥離時に親水性をそれぞれ示すことが求められる。この評価方法により、この温度応答性基材に求められる基本的特性を評価することができる。

放射線表面グラフト重合により得られうる前記温度応答性基材においては、グラフトした温度応答性ポリマーの吸着量が非常に少なく、膜厚が非常に薄くなるため、吸着させた温度応答性ポリマー層表面の接触角の温度応答性が基材の影響を大きく受け、このため明瞭には観察されないという問題があることを本発明者らは見出した。本発明者らは、この評価方法を用いることにより、そのような問題を有する温度応答性細胞培養器材であっても、物質(例えば接着細胞)の剥離性をスクリーニングできることを見出した。なお、この評価はあくまでスクリーニングであり、これを満たす器材がすべて良好な剥離性を示すとは限らない。

2.1 溶液重合により調製された、試料用の温度応答性ポリマー 本発明の温度応答性基材の評価方法は、溶液重合により調製された前記ポリマーを試料として用いる。

溶液重合の方法については特に限定はないが、「1.2 温度応答性ポリマーの製造方法」と同様の溶媒中で行うことが好ましい。

モノマー成分を溶媒中で重合させる方法としては、例えば、モノマー成分を溶媒に溶解させ、脱酸素後、得られた溶液を攪拌しながらラジカル重合開始剤を添加することによって、重合反応を進行させる方法等を挙げることができる。

重合開始剤としては、公知のラジカル重合反応用の重合開始剤であれば特に限定なく使用できる。例えば、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体などを用いることができる。これらの重合開始剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。

重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、通常、モノマー成分100重量部に対して、0.01〜10重量部程度とすることが好ましく、0.1〜1重量部程度とすることがより好ましい。

溶媒中におけるモノマー成分の濃度については特に限定的ではないが、通常、10〜50重量%程度とすることが好ましく、20〜40重量%程度とすることがより好ましい。

重合温度、重合時間などの重合条件は、モノマー成分の種類、その使用量、重合開始剤の種類、その使用量などに応じて適宜調整すればよいが、通常、50〜100℃程度の温度でモノマー転化率60〜100%程度の重合反応を行えばよい。なお、モノマー転化率はガスクロマトグラフィー法により測定される重合前後のモノマーピーク面積から算出することができる。

2.2 対水接触角差△θ このようにして得られた試料の、温度応答前後における対水接触角の差△θを測定する。

特に限定されないが、好ましくは、前述のようにして得られた試料をスピンコートした膜を得て、この膜についての対水接触角を測定することにより算出する。

スピンコートの条件は特に限定されないが、得られたポリマーを所定濃度となるように溶媒で希釈し、特定の基材上にスピンコートし、必要に応じて熱処理を行う。

上記において、スピンコート時のポリマー濃度は、特に限定されないが、例えば1重量%とすることができる。

溶媒としては、特に限定されないが、例えばイソプロピルアルコール等が挙げられる。

基材としては、特に限定されないが、シリコンウエハ等が挙げられる。特に限定されないが、シリコンウエハとして、例えば、自然酸化膜付きシリコンウエハ[表面粗さRa(算術平均粗さ)0.5nm以下]を使用することができる。

スピンコート条件としては、特に限定されないが、例えば2000rpmの条件等が挙げられる。

熱処理の条件としては、特に限定されないが、例えば110℃、3分間という条件等が挙げられる。また、熱処理しない場合は、スピンコート膜中に残留する溶剤を留去するために、真空ポンプで連続的に減圧しながら真空デシケータ中で1時間以上保存する。

△θが、30°以上を示すとき、温度応答性ポリマーは、先述の基本的特性の点で良好であるといえる。△θが40°以上を示すとき、基本的特性の点でより良好であるといえ、△θが50°以上を示すとき、基本的特性の点でさらにより良好であるといえる。

温度応答性ポリマーは、本発明の温度応答性基材が細胞培養器材として用いられる場合、(1)通常の細胞培養温度である37℃近辺で疎水性を示し、(2)温度変化により親水性を示すようになるが、好ましくは20℃以内の範囲内で変化したときに、親水性を示す。したがって、このような温度応答性ポリマーを評価する際には、上述のようにして得られた試料について、(1)培養温度領域として30〜50℃と、(2)温度変化領域として温度領域(1)を基準として±20℃以内、すなわち10〜30℃(低温側)又は50〜70℃(高温側)をそれぞれ設定して、温度領域(1)[30〜50℃]と温度領域(2)[10〜30℃(低温側)又は50〜70℃(高温側)]の間における対水接触角の差△θを測定する。上記において、温度応答性ポリマーが培養温度未満のLCSTを示すものである場合には、低温側で親水性となるため、温度領域(2)では低温側の対水接触角を測定する。同様に、温度応答性ポリマーが培養温度を超えるUCSTを示すものである場合には、高温側で親水性となるため、温度領域(2)では高温側の対水接触角を測定する。

好ましくは、温度応答性ポリマーのLCSTが20℃未満の場合、5℃及び40℃における対水接触角の差△θを測定する。また、温度応答性ポリマーのLCSTが20℃以上37℃以下の場合、20℃及び40℃における対水接触角の差△θを測定する。

対水接触角の測定方法は、特に限定されないが、具体例として以下が挙げられる。

試料をスピンコートした膜の表面に水滴容量2μLを滴下し、5℃と20℃では60秒後、40℃では5秒後の静的接触角を、全自動接触角計DropMaster 701(協和界面科学製)又はその同等品を用いて測定する。

2.3 中間水のピーク 上記2.1のようにして得られた試料の、示差走査熱量分析における中間水のピークの有無を調べる。

中間水とは、合成高分子表面に弱く相互作用する水分子であり、この存在が例えば細胞及びタンパク質の付着性防止に寄与するとされる。

中間水は、示差走査熱量分析法(DSC)を用いて水和ポリマーを-75℃から昇温する際の低温結晶形成に由来する発熱ピーク(−50〜0℃)として観測される。

本発明者らは、温度応答性ポリマーに中間水が存在すれば、それを用いた温度応答性細胞培養器材における表面に付着した物体(例えば接着細胞)の剥離性が良好となることを見出した。

中間水の測定は、上記2.1のようにして得られた試料を用いて行う。特に限定されないが、具体例としては、以下のような方法が挙げられる。

上記2.1のようにして得られた試料0.1gを水50gに室温(20〜25℃)で一昼夜浸漬し、過剰の水分を濾紙で取り除いた後、5mgのポリマーをアルミパンに充填し、DSC822e(Mettler Toledo社製)又はその同等品により、測定する。−75℃から50℃まで昇温したときに−50〜0℃の範囲で検出される低温結晶形成ピークが中間水である。冷却〜昇温の条件は、特に限定されないが、例えば以下のとおりとすることができる。 25℃ → −75℃ (液体窒素で冷却) −75℃ (30分 保持) −75℃ → 50℃ (2.5℃/分 昇温)

3. 温度応答性基材の用途 本発明の温度応答性基材は、表面に物体を付着させ、剥離する用途のために幅広く用いることができる。基材の種類は特に限定されないが、基板、粉体、繊維及び膜等である。 用途は特に限定されないが、例えば、細胞培養器材、カラムクロマトグラフィーの充填剤、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム)、ハイドロゲル、イオン交換樹脂、膜分離システム、砂漠の緑化材料及び撥水撥油剤等として使用することができる。

本発明の温度応答性細胞培養器材を用いて、種々の細胞、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、種々組織に存在する幹細胞、さらには骨髄細胞、ES細胞等から細胞シートを作製することができる。こうして作製された細胞シートは表面の接着因子が損なわれていないことに加えて、細胞培養面に接した部分が均一な品質を有することから、再生医療などへの利用に適したものである。また、細胞シートを利用することでバイオセンサー等の検出デバイスへの応用へも展開できる。

4. 培養器材から細胞を剥離する方法 本発明には、培養器材から細胞を剥離する方法であって、 本発明の温度応答性基材の表面で培養された細胞を、温度応答性を示すポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法が含まれる。

細胞は、足場依存性の細胞(接着性の細胞)であればよく、特に限定されない。由来も特に限定されず、医療用(再生医療含む)から実験用に至るまで幅広い用途において使用される細胞を使用できる。幹細胞、初代培養細胞及び株化細胞のいずれであってもよい。

細胞の例として、特に限定されないが、繊維芽細胞、表皮細胞、上皮細胞(角膜上皮細胞、膀胱上皮細胞等を含む)、筋芽細胞、平滑筋細胞、肝細胞、内皮細胞、神経細胞、口腔粘膜細胞、羊膜細胞、脂肪細胞(脂肪前駆細胞を含む)、樹状細胞(単核球由来を含む)、破骨細胞、腫瘍細胞、各種幹細胞(骨髄幹細胞、間葉系幹細胞、ES細胞及びiPS細胞を含む)等が挙げられる。

細胞の培養条件は、細胞の種類に応じて公知の方法にしたがって適宜設定することができる。

本発明の温度応答性基材の表面は、温度応答性を示すポリマーのLCSTの上下で、細胞培養時の疎水性から剥離時の親水性へと変化する。これにより、該表面から細胞を容易に剥離することができる。細胞の種類や培養条件等にもよるが、単に温度変化のみにより自然と剥離することができる場合もあり、また、振とう、基板の拡張収縮等の学的刺激及び/又はトリプシン等の化学的作用により剥離を適宜促すこともできる。

温度応答性を示すポリマーのLCST未満の環境下に細胞を置く時間は、特に限定されず、適宜設定することができる。

5. 細胞シートの製造方法 本発明には、細胞シートの製造方法であって、 本発明の温度応答性基材の表面で培養されたシート状の細胞を、温度応答性を示すポリマーのLCST未満の環境下で該表面から剥離する工程 を含む方法が含まれる。

細胞については、上記「4. 培養器材から細胞を剥離する方法」で説明したものを使用できるが、シート状となることが必要であるので、培養条件に応じてそのような細胞を適宜選択すればよい。

細胞シートを作成するために特に好ましい細胞の具体例としては、特に限定されないが、例えば、繊維芽細胞、表皮細胞、上皮細胞(角膜上皮細胞、膀胱上皮細胞等を含む)、筋芽細胞、平滑筋細胞、口腔粘膜細胞、羊膜細胞、脂肪細胞(脂肪前駆細胞を含む)、樹状細胞(単核球由来を含む)、破骨細胞、腫瘍細胞、各種幹細胞(間葉系幹細胞、ES細胞及びiPS細胞を含む)等が挙げられる。

細胞シートは、単層のシートであってもよいし、積層シートであってもよい。

以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。

1. 実施例1〜32、比較例1〜4 1.1 材料 細胞培養器材(細胞培養ディッシュ)は、米国コーニングインターナショナル社(旧ベクトン・ディキンソン・ラブウェア社)製ファルコン(Falcon)(登録商標)3001ペトリディッシュ(直径3.5cm)を用いた。

1.2 前照射法 ディッシュに100kGyの線量の電子線を照射した。次に、表1に記載のモノマーをイソプロピルアルコール(以下、IPAと省略)(比較例3及び4のみ、HCFC225を使用)を用いて40重量%または60重量%に希釈した溶液0.12mLをディッシュに注入し、室温で一晩放置して、表面グラフト重合させた。

1.3 同時照射法 ディッシュに表1に記載のモノマーをIPA(比較例3及び4のみ、HCFC225を使用)を用いて40重量%または60重量%に希釈した溶液を0.12mL注入した。次に100kGyの線量の電子線を照射した後、室温で一晩放置して、表面グラフト重合させた。

1.4 表面グラフト重合後の洗浄 表面グラフト重合後のディッシュを市販の洗浄液を用いて洗浄し、室温にて乾燥させた。

1.5 溶液重合によるポリマーの調製 重合溶剤は、NIPAM系の場合はIPAを、フッ素系モノマー単体の場合はHCFC225を用いた。モノマー濃度は20重量%とし、重合開始剤として1mol%(対モノマー)のアゾビスイソブチルニトリルを使用し、NIPAM系の場合は70℃、フッ素系モノマー単体の場合は50℃で重合した。

1.6 X線光電子分光分析法 (X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)による表面分析 ESCA3400(島津製作所製)を用いて、放出角90°の条件にてN1s/C1s、F1s/C1sを測定することにより、基材表面にポリマーがグラフトしていることを確認した。

1.7 ディッシュの温度依存性接触角の測定 全自動接触角計DropMaster701(協和界面科学製)を用い、基材表面に水滴容量2μLを滴下して1秒後の静的接触角を、5℃、20℃と40℃で測定した。5℃における測定は5℃に温度調整した冷蔵室で、20℃における測定は、室温(20℃)で、40℃における測定は、試験片を40℃加温したホットプレート上に置き、試験片全体を覆う大きさのケースでフタをし、30分以上放置した後、温調ステージ(40℃)に移動させて測定した。

1.8 溶液重合で調製したポリマーの温度依存性接触角の測定 溶液重合で調製したポリマーを濃度が1重量%となるようにIPA(比較例3及び4のみ、HCFC225を使用)で希釈し、自然酸化膜付きシリコンウエハ[表面粗さRa(算術平均粗さ)0.5nm以下]上に2000rpmの条件でスピンコートした後、真空デシケータで2時間乾燥したものをサンプルとした。温度依存性接触角の測定は、基材表面に水滴滴下後、5℃と20℃は60秒後、40℃は5秒後の静的接触角を測定する以外は前述のディッシュと同様の方法で行った。

1.9 溶液重合で調製したポリマーのガラス転移点の測定 10mgのポリマー粉末をDSC822e[米国Mettler Toledo社製]により、温度範囲−50〜150℃、昇温速度10℃/minの条件で測定したときの2ndサイクル目のサーモグラムより、補外ガラス転移終了温度(JIS K7121-1987)を読み取った。

1.10 溶液重合で調製したポリマーの分子量の測定 溶離液に10mMのLiBrを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを使用し、ポリマー濃度を0.2重量%として、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリエチレングリコール換算で求めた。

1.11 中間水の測定 溶液重合で調製したポリマー0.1gを水50gに室温(20〜25℃)で一昼夜浸漬し、過剰の水分を濾紙で取り除いた後、5mgのポリマーをアルミパンに充填し、DSC822eにより、 室温 → −75℃ (液体窒素で冷却) −75℃ (30分 保持) −75℃ → 50℃ (2.5℃/分 昇温) の温度条件で測定した。−75℃から50℃まで昇温したときに−50〜0℃の範囲で検出される低温結晶形成ピークが中間水である。

各種モノマー溶液の表面グラフト重合により調製したポリマーについての評価結果を表1に示す。

なお、表中の略号はそれぞれ以下の化合物名を指している。

Cn-SF(M)A:(パーフルオロアルキル)メチルメタクリレート又は(パーフルオロアルキル)エチル(メタ)クリレート(nはパーフルオロアルキル基の炭素数を表す) C2-SFMA:(パーフルオロエチル)メチルメタクリレート C4-SFMA:(パーフルオロブチル)メチルメタクリレート C6-SFMA:(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート C2-SFA:(パーフルオロエチル)メチルアクリレート C6-SFA:(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート また、 (CF3)2CH-Ac C3F7OCF(CF3)CF2O-CF(CF3)CH2-Ac C3F7OCF(CF3)CF2O-CF(CF3)CH2-MAc のAcはCH=C(H)COO-を、MAcはCH=C(CH3)COO-を表す。

なお、実施例1〜8と、実施例9〜18は表1に示すように、それぞれ同一のモノマーを使用しているが、実施例1〜8では表面グラフト重合を同時照射法で行った実験結果を、実施例9〜16では表面グラフト重合を前照射法で行った実験結果をそれぞれ示している。なお、溶液重合の結果に関しては実施例1〜8の欄にのみ示してある。

前照射法で調製した表面をXPSで測定したときのN1s/C1s及びF1s/C1sは、同じモノマーを同じ量用いて同時照射法で調製した表面の測定値よりも高いため、より多くのポリマーが吸着したと考えられる。

溶液重合で調製したNIPAM/Cn−SF(M)A共重合体、および、NIPAM/n−ブチルメタクリレート(BMA)共重合体のモル比と重量比の関係、含フッ素濃度と各種物性を表2に示す。

NIPAMに表2のNIPAM/Cn−SFMA共重合体(n=2, 6)をブレンドしたときの温度応答性に及ぼす効果を表3〜6及び図1〜4に示す。表3〜6の表面グラフト重合の条件は、モノマー濃度40重量%の同時照射法(実施例1.3参照)とし、表面グラフト重合後の洗浄は、実施例1.4と同様の方法で行った。

溶液重合の条件は、上記1.5と同様とし、温度依存性接触角の測定は、上記1.8と同様とした。

表3に示すように、NIPAMに、所定量のNIPAM/C2−SFMA(=90/10mol)共重合体をブレンドすることにより、NIPAMの温度応答性が増強された。

表4に示すように、NIPAM/C2−SFMA(=70/30mol)共重合体をNIPAMに所定量ブレンドすることにより、NIPAMの温度応答性が増強された。

表5に示すように、NIPAMに、所定量のNIPAM/C6−SFMA(=90/10mol)重合体をブレンドすることにより、NIPAMの温度応答性が増強された。

表6に示すように、NIPAM/C6−SFMA(=70/30mol)共重合体をNIPAMに所定量ブレンドすることにより、NIPAMの温度応答性が増強された。

なお、図1〜4に示したのはあくまで特定条件下(例えば、特定の温度から特定の温度への変化である点等)における温度応答性増強効果である。図1〜4には、この特定条件下において、所定量のNIPAM/含フッ素モノマー共重合体をNIPAMにブレンドすることにより温度応答性が極大化することが示されている。別の条件下では温度応答性が極大化するNIPAM/C2−SFMA(=90/10mol)共重合体のブレンド量は異なってくるものの、全体的な傾向としては、NIPAM/含フッ素モノマー共重合体をブレンドすることにより温度応答性が増強する傾向が見られることが観察されている。したがって、所望の条件において増強効果が得られるよう、ブレンド量を適宜設定することができる。

2. 試験例1(線維芽細胞シートの作成) 初代線維芽細胞を、公知の手順(Z.Yablonka-Reuveni, M.Nameroff. Skeletal muscle cell populations.Separation and partial characterization of fibroblast-like cellsfrom embryonic tissue using density centrifugation. Histochemistry. 1987;87:27-38)に従って調製する。要約すると、これは、8週齢のLewisラットの脚の筋肉由来の細胞懸濁物を、Percoll(登録商標)(AmershamBiosciencesSweden)密度遠心分離により、線維芽細胞と筋細胞とに分離するという手順である。

単離した線維芽細胞を、本発明の温度応答性細胞培養器材上で培養する。培養には、6%FBS、40%Medium199(Gibco(登録商標)BRL)、0.2%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液、2.7mmol/Lグルコース及び54%平衡塩類溶液(116mmol/LNaCl、1.0mmol/LNaH2PO4、0.8mmol/LMgSO4、1.18mmol/LKCl、0.87mmol/LCaCl2及び26.2mmol/KNaHCO3を含む)を含む培養培地を使用する。2日間培養した後、温度を変化させることによって、細胞シートとして剥離する。

3. 実施例33 (1)細胞培養器材の調製 NIPAM/C2−SFA(=95/5mol)共重合体の1×10−4重量%IPA溶液を用意し、市販の細胞培養器材[Falcon3001ペトリディッシュ(3.5cm径)]の培養面に所定量塗布することで、NIPAM成分量として2.0μg/cm2となるように当該ポリマーを溶媒キャスト法により製膜した。

製膜後に電子線(200kGy)を照射し、ポリマーを器材表面に固定した。

次に、この培養面で以下の手順に従い、細胞培養を行った。 使用細胞:マウス線維芽細胞 使用培地:DMEM/10%FCS 細胞播種密度:1×105cells/ディッシュ(3.5cm径)

(2)培養初期における細胞剥離試験 培養を1日行い、細胞の付着性を顕微鏡により観察した(図5)。このとき、細胞の培養面への接着が確認された。

その後に、20℃環境下に細胞が培養された培養器材を静置し、15分経過時の様子を観察した(図6)。このとき、細胞の培養面への接着が維持されていることが確認された。

さらに、5℃環境下に細胞が培養された培養器材を静置し、15分経過時の様子を観察した(図7)。このとき、細胞が培養面から剥離されていることが確認された。

(3)長期培養後の細胞剥離試験 培養を4日行い、細胞の付着性を顕微鏡により観察した(図8)。このとき、細胞がコンフルエントの状態で培養面へ接着していることが確認された。

その後に、20℃環境下に細胞が培養された培養器材を静置し、15分経過時の様子を観察した。このとき、細胞の培養面への接着が維持されていることが確認された。

その後に、5℃環境下に細胞が培養された培養器材を静置し、15分経過時の様子を観察した(図9)。このとき、シート状の細胞が培養面から剥離されていることが確認された。

4. 実施例34〜36、比較例5〜7 実施例33のNIPAM/C2−SFA(=95/5mol)共重合体を、NIPAM/C2−SFA(=90/10mol)、NIPAM/C6−SFA(=98/2mol)、NIPAM/C6−SFA(=96/4mol)に変更したものを、それぞれ実施例34〜36とし、NIPAM/BMA(=95/5mol)、NIPAM/BMA(=90/10mol)、NIPAMホモポリマーに変更したものを、それぞれ比較例5〜7とした。いずれも処理ポリマーを変更した以外は、同じ方法で試験した。結果を表7に示す。

実施例33〜36のLCST15℃以下のNIPAM/フッ素モノマー共重合体で表面処理したディッシュを使用することにより、20℃では細胞シートが剥がれず、5℃で剥がれることが確認された。一方、比較例5〜7は、室温の20℃に冷却した時点で細胞シートが剥がれた。細胞培養には種々の操作が必要であるが、その多くが室温下で行わる。室温での操作中に、温度応答性器材上で培養した細胞が剥離しないことは工業的に大きなメリットがある。

5. 実施例37 以下のようにして、NIPAM及びC2−SFAのAB型ジブロック共重合体[P(NIPAM−block−C2−SFA)]を調製した。

(1) ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)[P(NIPAM)]の調製 重合管を窒素雰囲気下にし、撹拌子、塩化銅(I)(以下、CuClと表記する。) 29.7 mg(0.300 mmol)、2,2’−ビピリジル(以下、bpyと表記する。) 93.7 mg(0.600 mmol)を入れ、窒素パージを行い、NIPAM 8.49 g(75.0 mmol)、IPA 21.5gを投入し、凍結脱気を行い、重合開始剤であるα−ブロモイソ酪酸エチル 58.5 mg(0.300 mmol)を投入し、凍結脱気を行い、窒素雰囲気下で25℃にて撹拌した。

6時間後反応液を大量の50℃の水に投入することにより白色の固体を得た。混合溶液の温度を20℃にすることで白色固体を溶解させ、その液をアルミナカラムに通すことでCuCl、bpyを除去し、液が適量になるまで溶媒留去し、凍結乾燥することで再び白色固体を得た。

得られたポリマー(白色固体)の分子量を1H−NMR(数平均)、GPC(重量平均)にて測定したところ数平均分子量22,600、重量平均分子量28,300、分子量分布1.25のP(NIPAM)であることを確認した。1H−NMRはCDCl3を測定溶溶媒とした。なお、GPC測定は溶離液にテトラヒドロフランを、標準ポリマーにポリメタクリル酸メチルを用いた。

(2) P(NIPAM−block−C2−SFA)の調製 重合管にCuCl19.8 mg(0.200 mmol)、bpy 62.4 mg(0.400 mmol)を入れ、窒素パージを行い、C2−SFA 8.16 g(40.0 mmol)、IPA 17.5 gを投入し、凍結脱気を行った。その後、上記にて調製したP(NIPAM) 4.46 g(0.200 mmol)を投入し、凍結脱気を行い、窒素雰囲気下で70℃にて撹拌した。

6時間後反応液を大量の50℃の水、メタノール混合溶媒[水:メタノール=1:1(w/w)]に投入することにより白色の固体を得た。白色固体をIPA、ノベック7200[住友スリーエム製のフッ素系溶剤(以下、HFE7200と表記)]の混合溶液[IPA:HFE7200=1:1(w/w)]に溶解させ、液をアルミナカラムに通すことでCuCl、bpyを除去した後、溶媒留去し、ベンゼンを用いて凍結乾燥することで再び白色固体を得た。

得られたポリマー(白色固体)を1H−NMR、GPCにて評価したところ数平均分子量52,800、重量平均分子量78,100、分子量分布1.48のP(NIPAM−block−C2−SFA)であることを確認した。

(3) 試験方法 NIPAM/C2−SFA(=95/5mol)共重合体をP(NIPAM−block−C2−)SFA)に変更することと、電子線を照射しないこと以外は実施例33と同じ方法で試験した。結果を表7に示す。NIPAMとC2−SFAをブロック共重合することにより、電子線照射なしで、基材表面にポリマーを固定化できることが判った。

6. 実施例38 以下のようにして、NIPAM及びC2−SFAのABA型トリブロック共重合体[P(NIPAM−block−C2−SFA−block−NIPAM)]を調製した。

(1) P(NIPAM)の調製 実施例37(1)と同様の方法にて重合を行い、数平均分子量24,300、重量平均分子量29,700、分子量分布1.22のP(NIPAM)を得た。

(2) P(NIPAM−block−C2−SFA)の調製 投入したP(NIPAM)の量を4.46 gから4.86 gに変更すること以外は実施例37(2)と同様の方法にて重合を行った。その結果、数平均分子量51,500、重量平均分子量80,400、分子量分布1.56のP(NIPAM−block−C2−SFA)を得た。

(3) P(NIPAM−block−C2−SFA−block−NIPAM)の調製 重合管にCuCl9.90 mg(0.100 mmol)、bpy 31.2 mg(0.200 mmol)を入れ、窒素パージを行い、NIPAM 3.39 g(30.0 mmol)、IPA21.5gを投入し、凍結脱気を行った。その後、上記実施例37(2)にて調製したP(NIPAM−block−C2−SFA) 5.15 g(0.100 mmol)を投入し、凍結脱気を行い、窒素雰囲気下で70℃にて撹拌した。

6時間後反応液を大量の50℃の水、メタノール混合溶媒[水:メタノール=1:1(w/w)]に投入することにより白色の固体を得た。その後、白色固体をIPA、HFE7200の混合溶液[IPA:HFE7200=1:1(w/w)]に溶解させ、液をアルミナカラムに通すことでCuCl、bpyを除去した後、溶媒留去し、ベンゼンを用いて凍結乾燥することで再び白色固体を得た。

白色固体を1H−NMR、GPCにて評価したところ数平均分子量82,900、重量平均分子量115,000、分子量分布1.39のP(NIPAM−block−C2−SFA−block−NIPAM)であることを確認した。

(4) 試験方法 実施例33のNIPAM/C2−SFA(=95/5mol)共重合体をP(NIPAM−block−C2−SFA−block−NIPAM)に変更することと、電子線を照射しないこと以外は同じ方法で試験した。結果を表7に示す。NIPAMとC2−SFAをブロック共重合することにより、電子線照射なしで、基材表面にポリマーを固定化できることが判った。

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