iPS細胞由来の神経細胞を用いた蛋白質ミスフォールディング病の診断方法

申请号 JP2012540193 申请日 2011-03-03 公开(公告)号 JP5846608B2 公开(公告)日 2016-01-20
申请人 国立大学法人京都大学; 国立研究開発法人理化学研究所; 发明人 井上 治久; 北岡 志保; 八幡 直樹; 岩田 修永; 西道 隆臣;
摘要
权利要求

ヒト被験者がアルツハイマー病を発症していることまたは発症リスクを有していることを分析する方法であって、以下の工程を含み、 (a)単離されたヒト被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、 (b)前記iPS細胞から神経細胞を38日間以上で分化誘導する工程、 (c)前記神経細胞におけるアミロイドβ(Aβ)の量および/またはネプリライシンの活性もしくは発現量を測定する工程、および (d)前記測定値を対照細胞におけるAβの量および/または対照細胞におけるネプリライシンの活性値もしくは発現量と比較する工程; 前記対照細胞が、ヒト被験者と同年齢でアルツハイマー病を発症していないヒト対照者由来の単離された体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞であり、ヒト被験者由来の神経細胞における前記Aβの量が対照細胞における該Aβの量に比べて高い場合、および/またはヒト被験者由来の神経細胞における前記ネプリライシンの活性もしくは発現量が対照細胞における該ネプリライシンの活性もしくは発現量に比べて低い場合、ヒト被験者がアルツハイマー病を発症している、または発症リスクを有していると判定される、および/または 前記対照細胞が、ヒト被験者と同年齢でアルツハイマー病を発症しているヒト対照者由来の単離された体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞であり、ヒト被験者由来の神経細胞における前記Aβの量が対照細胞における該Aβの量に比べて高いもしくは同等であった場合、またはヒト被験者由来の神経細胞における前記ネプリライシンの活性もしくは発現量が対照細胞における該ネプリライシンの活性もしくは発現量に比べて低いもしくは同等であった場合、ヒト被験者がアルツハイマー病を発症している、または発症リスクを有していると判定される、前記方法。前記Aβの量が、Aβ40の量もしくはAβ42の量、またはAβ40の量に対するAβ42の量の比である、請求項1に記載の方法。前記神経細胞の分化誘導が、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを含む培地での培 養による分化誘導である、請求項1または2に記載の方法。ヒト被験者のアルツハイマー病の発症年齢を予測する方法であって、以下の工程を含み;(a)単離されたヒト被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、 (b)前記iPS細胞から神経細胞を38日間以上で分化誘導する工程、および (c)前記神経細胞におけるアミロイドβ(Aβ)の量および/またはネプリライシンの活性もしくは発現量を測定する工程、 前記測定値が、アルツハイマー病の発症年齢が既知であるヒト対照者由来の体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞における前記Aβの量および/または前記ネプリライシンの活性もしくは発現量と同等の場合、ヒト被験者が前記ヒト対照者の発症年齢でアルツハイマー病を発症すると判定される、方法。前記Aβの量が、Aβ40の量もしくはAβ42の量、またはAβ40の量に対するAβ42の量の比である、請求項4に記載の方法。前記神経細胞の分化誘導が、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを含む培地での培養による分化誘導である、請求項4または5に記載の方法。

说明书全文

本発明は、人工多能性幹細胞(iPS)細胞由来の神経細胞を用いた蛋白質ミスフォールディング病の発症および発症リスクを診断する方法ならびに該方法に用いられるキットに関する。また、本発明は蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢の予測方法および該方法に用いられるキットに関する。

蛋白質ミスフォールディング病は、異常に凝集した蛋白質(ミスフォールドした蛋白質)による細胞毒性により引き起こされる神経変性疾患として知られている(非特許文献1)。

アルツハイマー病は、アミロイドβ蛋白(Aβ)が脳の神経細胞外に沈着する代表的な蛋白質ミスフォールディング病である。アルツハイマー病は、可能な限り早期に治療を開始することが効果的な治療に繋がることから、早期診断法の開発が高齢化社会における重要な課題となっている。

現在、臨床診断基準としてNINCDS-ADRDA、DSM-IVが用いられているが、この規準では、アルツハイマー病の陽性を診断することには優れているものの、発病初期の段階では陰性と診断される可能性は否定できない。ましてや、発症前に診断を下すことは不可能である。

アルツハイマー病はAβの蓄積が発症の原因となることが明らかにされているが、これまでに脳脊髄液中のAβ42/Aβ40比の減少とリン酸化タウ蛋白質(p-tau)の上昇、さらにこれらを組み合わせたp-tau/(Aβ42/Aβ40)を診断指標とする報告がなされているものの、これらの診断指標の値が上昇している時期には神経細胞死がすでに進行している。したがって、これらの指標を用いても、早期診断や発病予測を行うことは難しい。

一方、近年、ネプリライシンが脳内におけるAβの分解プロテアーゼとして機能することが明らかになり(非特許文献2)、ネプリライシンを欠損させたアルツハイマー病モデルマウスでは、脳内Aβオリゴマーの早期蓄積と共に認知機能障害が現われることが報告されている(非特許文献3および4)。

さらに、アルツハイマー病患者では、老人斑が観察される海馬や側頭葉の脳回で、ネプリライシンの発現が低下しているとの報告があることから、ヒトにおいてもネプリライシンとアルツハイマー病との関係が示唆されている(非特許文献5)。

一方、再生医療の分野等では、生体材料として利便性のある細胞から所望の細胞型へ転換する技術が望まれており、最近においては、マウスおよびヒトのiPS細胞が相次いで樹立された。Yamanakaらは、ヒトの皮膚由来線維芽細胞にOct3/4, Sox2, Klf4及びc-Mycの4遺伝子を導入することにより、iPS細胞を樹立することに成功した(特許文献1および非特許文献6)。このようにして得られるiPS細胞は、治療対象となる患者由来の細胞を用いて作製された後、各組織の細胞へと分化させることができるため、in vitroで病態を再現することが可能と考えられている。実際、上記の方法で、神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症患者由来のiPS細胞が作製され、神経細胞への分化誘導が成功している(非特許文献7)。

しかし、現在のところiPS細胞由来の神経細胞を用いて、蛋白質ミスフォールディング病、特に、アルツハイマー病発症関連分子の発現や機能変化を解析し、病態を再現することにより、アルツハイマー病の早期診断を行った報告はない。

WO 2007/069666 A1

Bucciantini M, et al., Nature. 416:507-511 (2002)

Iwata, N, et al., Nature Med. 6:143-151 (2000)

Iwata, N, et al., Science. 292:1550-1552 (2001)

Huang, S. M. et al., J. Biol. Chem. 281:17941-17951 (2006)

Yasojima K, et al., Neuroscience Lett. 297:97-100 (2001)

Takahashi, K. et al., Cell. 131:861-872 (2007)

Dimos JT, et al., Science.321:1218-21 (2008)

本発明の目的は、蛋白質ミスフォールディング病患者の体細胞から製造されたiPS細胞由来の神経細胞を用いた蛋白質ミスフォールディング病の発症および発症リスクを診断すること、もしくは蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢を予測することである。したがって、本発明の課題は、被験者由来の細胞から蛋白質ミスフォールディング病の発症および/又は発症リスクを診断するための方法ならびにそれに用いるキットを提供すること、さらに被験者由来の細胞から蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢を予測するための方法およびそれに用いるキットを提供することである。本発明において、蛋白質ミスフォールディング病は、望ましくは、アルツハイマー病である。

蛋白質ミスフォールディング病の診断において、発症が既知な対照者の原因蛋白質の量もしくは該蛋白質の分解機能(以下、原因蛋白質の量等と称す)と被験者の該蛋白質の量等を比較することが最も簡便であるが、病症の進行によるものと加齢によるものの区別がつかないため、発症が既知な対照者と被験者の年齢を一致させるなどの工夫が必要である。しかし、疾患の発症を確認してから遡って所望の年齢における該蛋白質の量等を測定することは不可能であるため、発症が既知な対照者の各年齢における原因蛋白質の量等を幅広い年齢において予め用意することは困難を極める。さらに、その発症年齢を予想するためには、幅広い発症年齢の対照者の原因蛋白質の量等を予め被験者と同じ年齢で測定していなければならないため、その困難性は言うまでもない。

また、蛋白質ミスフォールディング病の主な発症部位は神経細胞であることから、原因蛋白質の量等の測定は、神経細胞で行われることが望ましい。神経細胞を生検することは生体にとって負荷がかかるため、蛋白質ミスフォールディング病の診断のために予め各年齢での対照者を用意することは倫理的にも問題がある。

ところで、iPS細胞は、胚盤胞へ戻すことであらゆる組織へと分化することから、発生初期の細胞と同様の性質を有する細胞である。従って、iPS細胞から誘導された神経細胞は、由来となった体細胞を取得した個体の年齢にかかわらず、その個体のある年齢での神経細胞の状態となっていると考えられる。このため、iPS細胞からの分化誘導の条件や培養日数等を同一にして得られた神経細胞を比較することで、その由来となった個体の神経細胞における同年齢での個体差を知ることができる。

従って、本発明者らは、上記の課題を解決すべく、蛋白質ミスフォールディング病の一例 として、アルツハイマー病に着目し、対象由来の体細胞からiPS細胞を樹立し、分化誘導して得られた神経細胞の培養上清のAβの含有量を測定するとともに、Aβの分解酵素であるネプリライシンの活性に着目し、細胞溶解液におけるネプリライシンの活性を測定した。すると、iPS細胞から分化誘導した神経細胞においてもこれらのアルツハイマー病の指標を測定できることが確認された。

以上の結果から、本発明者らは、被験者由来のiPS細胞から分化誘導された神経細胞を用いて、Aβの量またはネプリライシンの活性もしくは発現量を測定し、アルツハイマー病の発症が既知の当該細胞における測定値と比較することで、アルツハイマー病の発症または発症リスクを診断することができることを見出した。他の態様として、アルツハイマー病の発症年齢が既知である対照者由来の細胞におけるAβの量またはネプリライシンの活性指数もしくは発現量と、被験者のiPS細胞から分化誘導された神経細胞のAβの量またはネプリライシン活性指数もしくは発現量を比較することで、被験者における発症年齢を予測することに有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明は以下の通りである。 [1]被験者が蛋白質ミスフォールディング病を発症していることまたは発症リスクを有していることを診断する方法であって、以下の工程を含む方法; (a)被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、 (b)前記iPS細胞から神経細胞を分化誘導する工程、 (c)前記神経細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定する工程、および (d)前記測定値を対照細胞における原因蛋白質の量、または対照細胞における原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性値もしくは発現量と比較する工程。 [2]前記対照細胞が、被験者と同年齢で蛋白質ミスフォールディング病を発症していない対照者由来の体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞であって、被験者の前記原因蛋白質の量が対照に比べて高い場合、または被験者の前記原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量が対照に比べて低い場合、被験者が蛋白質ミスフォールディング病を発症している、または発症リスクを有していると判定される、[1]に記載の方法。 [3]前記対照細胞が、被験者と同年齢で蛋白質ミスフォールディング病を発症している対照者由来の体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞であって、被験者の前記原因蛋白質の量が対照に比べて高いもしくは同等であった場合、または被験者の前記原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量が対照に比べて低いもしくは同等であった場合、被験者が蛋白質ミスフォールディング病を発症している、または発症リスクを有していると判定される、[1]に記載の方法。 [4]前記被験者が、ヒトである、[1]に記載の方法。 [5]前記蛋白質ミスフォールディング病が、アルツハイマー病である、[1]に記載の方法。 [6]前記原因蛋白質が、アミロイドβ(Aβ)である、[5]に記載の方法。 [7]前記Aβの量が、Aβ40の量もしくはAβ42の量、またはAβ40の量に対するAβ42の量の比である、[6]に記載の方法。 [8]前記原因蛋白質の分解に関与する酵素が、ネプリライシンである、[5]に記載の方法。 [9]前記神経細胞の分化誘導が、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを含む培地での培養による分化誘導である、[1]に記載の方法。 [10]被験者の蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢を予測する方法であって、以下の工程を含み、 (a)被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、 (b)前記iPS細胞から神経細胞を分化誘導する工程、 (c)前記神経細胞における原因蛋白質の量またはその分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定する工程、 前記測定値が、蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢が既知である対照者の体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞における前記原因蛋白質の量または前記原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量と同等の場合、被験者が前記対照者の発症年齢で蛋白質ミスフォールディング病を発症すると判定される、方法。 [11]前記被験者が、ヒトである、[10]に記載の方法。 [12]前記蛋白質ミスフォールディング病が、アルツハイマー病である、[10]に記載の方法。 [13]前記原因蛋白質が、Aβである、[12]に記載の方法。 [14]前記Aβの量が、Aβ40の量もしくはAβ42の量、またはAβ40の量に対するAβ42の量の比である、[13]に記載の方法。 [15]前記原因蛋白質の分解に関与する酵素が、ネプリライシンである、[12]に記載の方法。 [16]前記神経細胞の分化誘導が、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを含む培地での培養による分化誘導である、[10]に記載の方法。 [17]被験者が蛋白質ミスフォールディング病を発症していることもしくは蛋白質ミスフォールディング病を発症するリスクを有していることを診断するため、または、被験者の蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢を予測するためのキットであって、(a)iPS細胞を製造するための初期化物質、(b)神経細胞を分化誘導するための試薬、および(c)原因蛋白質の量を測定するための試薬、または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定するための試薬を含むキット。 [18]前記蛋白質ミスフォールディング病が、アルツハイマー病である、[17]に記載のキット。 [19]前記初期化物質が、OCTファミリー、MYCファミリー、KLFファミリーおよびSOXファミリーからなる群から選択される因子を含む、[17]に記載のキット。 [20]前記神経細胞を分化誘導するための試薬が、BDNF、GDNF、neurotensin-3からなる群から選択される因子を含む、[17]に記載のキット。 [21]前記原因蛋白質が、Aβ40もしくはAβ42である、[18]に記載のキット。 [22]前記原因蛋白質の分解に関与する酵素が、ネプリライシンである、[18]に記載のキット。 [23]前記原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性を測定するための試薬が、ネプリライシンの基質を含む、[22]に記載のキット。 [24]前記ネプリライシンの基質が、サクシニル−アラニル−アラニル−フェニルアラニン−4−メチルクマリン−7−アミドである、[23]に記載のキット。

iPS細胞由来の神経細胞の培養上清中のAβ40(A)、Aβ42(B)の含量を測定した結果およびAβ42/Aβ40の比(C)を示す。(D)は、ネプリライシン(NEP)特異的阻害剤であるチオルファンの存在下および非存在下でiPS細胞由来神経細胞のネプリライシン活性を測定し、ネプリライシン特異的酵素活性を算出した値を示す。横軸は、ニューロスフェア形成後、培養皿に接着させて神経分化誘導を行ってからの日数を示す。図中、N.D.は検出限界値以下であったことを示す。各実験は3つのロットを用いて2度行い、ロット間の平均値±SEを示す。

神経細胞への分化誘導のプロトコールを示す。N2B27はN2とB27サプリメントを含む培地を意味する。

分化誘導52日後のFoxg1 (緑), Cux1(赤), Satb2(赤), Tbr1 (緑) およびCtip2 (緑)の免疫染色像を示す(上図:写真)。iPS細胞(253G4)に由来する神経細胞における、Foxg1, Cux1, Satb2, Tbr1 およびCtip2 のmRNAの相対的発現量の測定結果を示す(下図)。38日目の値を標準として使用している。3回の平均値±標準偏差を示す。

分化誘導25,38,45および52日後のTuj1 (赤)、GFAP (緑)およびTau(緑)の免疫染色像を示す(写真)。

iPS細胞(253G4)に由来する神経細胞における、各期間のTuj1 およびSynapsinのmRNAの相対的発現量の測定結果を示す。分化誘導0日目の値を標準として使用している。

分化誘導52日後のグルタミナーゼ, GAD, vGult1, Tuj1およびGABAの免疫染色像を示す(写真)。グルタミナーゼとGADはそれぞれ赤と緑で示される(左図)。vGult1 およびTuj1 はそれぞれ緑と赤で示される(中図)。GABA とTuj1 はそれぞれ緑と赤で示される(右図)。各図のスケールバーは50 μmを示す。

各期間におけるiPS細胞(253G4)由来の神経細胞における、全長APP(FL-APP)、可溶型APPα(APPsα)、可溶型APPβ(APPsβ)の相対的発現量の測定結果と、APPスプライシングバリアント(APP770, APP751およびAPP695)のmRNA発現比の測定結果を示す。38日目の値を標準として用いた。

各期間におけるiPS細胞(253G4)由来の神経細胞における、BACE1タンパク質の相対的発現量の測定結果を示す。38日目の値を標準として用いた。

各期間におけるiPS細胞(253G4)由来の神経細胞における、Presenilin 1, Nicastrin およびPen2タンパク質の相対的発現量とAph-1A およびAph-1B mRNAの相対的発現量の測定結果を示す。38日目の値を標準として用いた。

各期間におけるiPS細胞(253G4)由来の神経細胞における、ネプリライシン mRNA の相対的発現量の測定結果を示す。38日目の値を標準として用いた。

iPS 細胞(253G4)由来の神経細胞の培養上清における、Aβ40 (左)とAβ42 (中) の量およびAβ42/Aβ40 比(右)の測定結果を示す。

38日および52日でのiPS 細胞(253G4)由来の神経細胞の培養上清における、Aβ40 (左)とAβ42 (右) の量の測定結果を示す。横軸はγ-セクレターゼ阻害剤またはCompound Eの濃度を示す。DMSOはCompound Eの不存在を示す。

分化後38,45及び52日の、Tuj1 (赤)およびTau (緑) の免疫染色像を示す(写真)。

分化誘導から52日の、SATB2 (緑), CUX1 (赤), CTIP2 (緑)およびTBR1の免疫染色像を示す(写真)。

アルツハイマー病 (AD)-iPS細胞由来の神経細胞における、各期間でのAPPスプライシングバリアント(APP770, APP751およびAPP695)のmRNA発現比の結果を示す。

AD-iPS 細胞由来の神経細胞の培養上清における、Aβ40 とAβ42の量、Aβ42/Aβ40 比およびFL-APPの相対的発現量(38日目のFL-APPの値を標準として用いた)の測定結果を示す。

Aβ40/FL-APP比, Aβ42/FL-APP比, Aβ40/β-アクチン, Aβ42/β-アクチンおよび FL-APP/β-アクチンの測定結果を示す。38日目のFL-APPとβ-アクチンの値を標準として用いた。

38日および52日でのAD-iPS 細胞由来の神経細胞の培養上清における、Aβ40 (左)とAβ42 (右) の量の測定結果を示す。横軸はγ-セクレターゼ阻害剤またはCompound Eの濃度を示す。DMSOはCompound Eの不存在を示す。

本発明は、(a)被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、(b)前記iPS細胞から神経細胞を分化誘導する工程、(c)前記神経細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定する工程、および(d)前記測定値を対照細胞における原因蛋白質の量、または対照細胞における原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性値もしくは発現量と比較する工程を含む、被験者が蛋白質ミスフォールディング病を発症していることまたは発症リスクを有していることを診断する方法、または(a)被験者由来の体細胞からiPS細胞を樹立する工程、(b)前記iPS細胞から神経細胞を分化誘導する工程、(c)前記神経細胞における原因蛋白質の量、またはその分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定する工程、および(d)前記測定値が、蛋白 質ミスフォールディング病の発症年齢が既知である対照者の体細胞から製造されたiPS細胞を分化誘導して得られた神経細胞における前記原因蛋白質の量、または前記原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量と同等の場合、被験者が前記対照者の発症年齢で蛋白質ミスフォールディング病を発症すると判定する工程を含む、被験者の蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢を予測する方法、ならびに、前記方法のためのキットを提供する。

本発明において、蛋白質ミスフォールディング病とは、蛋白質が正常に折りたたまれていない、もしくは、蛋白質の本来の構造が変性(ミスフォールディング)することにより引き起こされる疾患群を称す。例えば、アルツハイマー病やパーキンソン病、レビー小体型認知症もしくは多系統萎縮症など、従来神経変性疾患と呼ばれている疾患が含まれるが、これらに限定されない。

本発明において、原因蛋白質は、細胞外に沈着する蛋白質と細胞内に蓄積される蛋白質のいずれでもよく、蛋白質ミスフォールディング病が、アルツハイマー病である場合、原因蛋白質は、Aβもしくはタウなどが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、パーキンソン病、レビー小体型認知症もしくは多系統萎縮症の場合、原因蛋白質は、α−シヌクレインなどが挙げられるが、これらに限定されない。

本発明において、原因蛋白質の分解に関与する酵素は、プロテアーゼであることが望ましい。特に限定されないが、原因蛋白質がアミロイドβである場合、ネプリライシンが例示される。

各工程ならびにキットの詳細を以下に示す。

I.iPS細胞の製造方法 人工多能性幹 (iPS) 細胞は、ある特定の核初期化物質を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676; K. Takahashi et al. (2007) Cell, 131: 861-872; J. Yu et al. (2007) Science, 318: 1917-1920; M. Nakagawa et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 101-106; 国際公開WO 2007/069666)。核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはそれらの遺伝子産物であれば良く、特に限定されないが、例えば、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, Nanog, EsrrbまたはEsrrgが例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。

上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列並びに該cDNAにコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照すること、またL-Myc、Lin28、Lin28b、EsrrbおよびEsrrgのマウスおよびヒトのcDNA配列およびアミノ酸配列情報については、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。当業者は、当該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。 遺伝子名 マウス ヒト L-Myc NM_008506 NM_001033081 Lin28 NM_145833 NM_024674 Lin28b NM_001031772 NM_001004317 Esrrb NM_011934 NM_004452 Esrrg NM_011935 NM_001438

これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85, 348-62, 2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にloxP配列を有してもよい。さらに、上記ベクターには、染色体への取り込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するようにEBNA-1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40ori配列を含むこともできる。

核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA SmartpoolO (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIFまたはbFGFなどのサイトカイン、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat Methods, 6: 805-8 (2009))、mitogen-activated protein kinase signalling阻害剤、glycogen synthase kinase-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA (R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))、等を使用することができる。

iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGF又はSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)又は霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地、リプロセル、京都、日本)、などが含まれる。

培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地上で体細胞と核初期化物質 (DNA又はタンパク質) を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞 (たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5-10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい。

あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞 (たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上で10%FBS含有DMEM培地(これはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。

上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、通常、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。

マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。

本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞 (組織前駆細胞) 等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞 (体性幹細胞も含む) であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。

本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。より好ましくは、蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢が既知である患者および被験者から体細胞を採取することが望ましい。

II.神経幹細胞の分化誘導法 本発明において、神経幹細胞とは、神経細胞、アストロサイト(astrocyte)およびオリゴデンドロサイト(oligodendrocyte)に分化しうる能を有し、かつ自己複製能力を有する細胞を言う。本発明において、「神経細胞」という用語は、「ニューロン」または 「神経系細胞」という用語と区別されない。

前述のiPS細胞から、神経幹細胞を分化誘導する方法として、特に限定されないが、線維芽細胞フィーダー層上で高密度培養による分化誘導法(特開2008-201792)、ストローマ細胞との共培養による分化誘導法(SDIA法)(例えば、WO2001/088100、WO/2003/042384)、浮遊培養による分化誘導法(SFEB法)(WO2005/123902)およびそれらの組み合わせによる方法を利用することができる。

他の態様として、浮遊培養によりニューロスフェアを形成させることにより行うことができる。好ましくは、浮遊培養を行う前に、予めコーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で接着培養した細胞を用いる方法がある。

他の態様として、分化誘導は、フィーダー細胞の代替として、コーティング処理された培養皿にて接着培養を行うことによっても行うことができる。

ここで、ニューロスフェア形成前の接着培養に用いるコーティング剤としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、フィブロネクチン、ラミニンエンタクチンおよびコラーゲンIVならびにこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ポリ−L−リジンとラミニンの組み合わせまたはエンタクチン、コラーゲンIVおよびラミニンの組み合わせである。エンタクチン、コラーゲンIVおよびラミニンの組み合わせはMillipore社より“ECL Cell Attachment Matrix”として購入できる。

培地は、基本培地へ添加剤を加えて用いることができ、基本培地としては、例えば、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。より好ましくは、Neurobasal培地およびDMEM/F12の混合物である。添加剤として、血清、レチノイン酸、BMP阻害剤、TGFβ ファミリー阻害剤、bFGF、EGF、HGF、LIF、アミノ酸、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質が挙げられる。好ましい添加剤は、BMP阻害剤、アミノ酸としてのグルタミン、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントである。

本発明において、BMP阻害剤は、BMPのBMP受容体(タイプIまたはタイプII)への結合によって媒介されるBMPシグナル経路の阻害に関与する。そのような特性を有するBMP阻害剤の例としては、転写因子であるSMAD1, SMAD5またはSMAD8を活性化する、BMP2, BMP4, BMP6またはBMP7を阻害する化合物、例えば、Noggin, chordin, follistatin, Dorsomorphin (6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine) およびその誘導体 (P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116: II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4: 33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE (www. plozone. org), 3 (8): e2904),LDN-193189 (4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline) 及びその誘導体 (Yu PB et al. Nat Med, 14: 1363-9, 2008) が挙げられる。本発明において、好ましいBMP阻害剤はNogginである。

本発明において、TGFβファミリー阻害剤は、TGFβファミリーのシグナル経路を妨害する化合物である。TGFβファミリー阻害剤の例は、SB431542, SB202190 (R. K. Lindemann et al., Mol. Cancer 2: 20 (2003)), SB505124 (GlaxoSmithKline), NPC30345, SD093, SD908, SD208 (Scios), LY2109761, LY364947, LY580276 (Lilly Research Laboratorie s), およびA-83-01(WO 2009146408)を含有する。SB431542 が好ましい。

培養開始時のiPS細胞の濃度は、効率的に神経幹細胞を形成させるように適宜設定できる。培養開始時のiPS細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、約1×103〜約1×106細胞/ml、好ましくは約1×104〜約5×105細胞/mlである。 培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。

ニューロスフェアの形成は、上記の基本培地ならびに添加剤を用いて浮遊培養により形成させることができる。好ましい培地として、Neurobasal培地およびDMEM/F12の混合物が挙げられる。好ましい添加剤は、血清、BMP阻害剤としてのNoggin、bFGF、EGF、ヘパリン、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントである。

ニューロスフェアの形成開始時の細胞濃度は、効率的にニューロスフェアを形成させるように適宜設定できる。培養開始時の細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、約1×104〜約5×106細胞/ml、好ましくは約5×105〜約2×106細胞/mlである。

ニューロスフェアの形成において、その大きさが適度な大きさになれば継代することが可能である。形成日数は、特に限定されないが、15日から45日おきである、より好ましくは、30日おきである。継代において、細胞を完全に分離させなくてもよく、力学的方法もしくはプロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液を用いても良い。継代の回数は、特に限定されないが、1回以上である。好ましくは、継代の回数は神経細胞への分化誘導の前に2回である。

ニューロスフェアの形成において、培養器は細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、もしくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)したものを使用できる。

ニューロスフェアの形成時の温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。

ニューロスフェアを形成させずに接着培養を行う場合は、コロニーサイズの適当なiPS細胞を使用することができる。上述したコート剤、基本培地および添加剤を培養に使用する。培地の好ましい例はNeurobasal 培地とDMEM/F12の混合物を含む。好ましい添加剤の例は血清、BMP阻害剤としてのNoggin、TGFβファミリー阻害剤としてのSB431542、B27-supplementおよびN2-supplementを含む。添加剤としてNogginとSB431542を使用する期間は特に制限されないが、好ましくは10〜24日、より好ましくは17日ごとである。その後、添加剤はNogginとSB431542を含まないB27-supplementとN2-supplementに変えてもよい。神経幹細胞を誘導するための接着培養の期間はトータルで15〜30日が好ましく、より好ましくは24日である。コート剤は継代時に変えてもよい。好ましいコート剤は、最初はポリL-リジンとラミニンである。次に、コート剤は、ポリL-リジンとラミニンとエンタクチンとコラーゲンIVに変えてもよい。コート剤としてポリL-リジンとラミニンを使用する期間は特に制限されないが、好ましくは7〜14日、より好ましくは10日ごとである。コート剤としてポリL-リジンとラミニンとエンタクチンとコラーゲンIV を使用する期間は特に制限されないが、好ましくは4〜10日、より好ましくは7日ごとである。

このように誘導された神経幹細胞は、N-CAM、ポリシアリル化N-CAM、A2B5、ネスチンおよびビメンチンなどの中間体フィラメントタンパク質および転写因子Pax-6などの原始的神経外胚葉および神経幹細胞の発現マーカーによって同定することができる。好ましくは、ネスチンの発現によって確認される。

III.神経細胞の分化誘導法 前述の方法で誘導された神経幹細胞を、任意の方法で分離し、コーティング処理された培養皿にて、任意の培地中で培養することで、神経細胞の誘導を行うことができる。好ましくは、神経細胞は、大脳皮質神経細胞である。

ここで、分離の方法としては、力学的方法を用いてもよいし、もしくはプロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)が挙げられる)を用いても良い。

コーティング剤としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、フィブロネクチン、ラミニンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、ポリ−L−リジン、フィブロネクチンおよびラミニンの組み合わせである。

培地は、基本培地へ添加剤を加えて用いることができる。ここで、基本培地は、例えば、Neurobasal培地、Neural Progenitor Basal培地、NS-A培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。好ましくは、Neurobasal培地およびDMEM/F12の混合物である。ここで、添加剤は、血清、レチノイン酸、Wnt、BMP、bFGF、EGF、HGF、Sonic hedgehog (Shh)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、インスリン様増殖因子1(IGF1)、アミノ酸、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質が挙げられる。好ましくは、レチノイン酸、Shh、BDNF、GDNF、NT-3、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントである。これらの添加剤は、段階的に変化させてもよく、好ましくは、レチノイン酸、Shh、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを添加した培地で培養後、BDNF、GDNF、NT-3、B27-サプリメントおよびN2-サプリメントを添加した培地で培養させることである。

培養開始時の神経幹細胞の濃度は、効率的に神経細胞を形成させるように適宜設定できる。培養開始時の神経幹細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、約1×103〜約1×106細胞/ml、好ましくは約1×104〜約5×105細胞/mlである。

培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。O2濃度は、1〜20%である。

培養時間は、特に限定されないが、ニューロスフェアを分離、培養皿へ接着後、5日以上であり、好ましくは、14, 21, 22または28日間である。

神経細胞は、BF1、βIIIチューブリン、TuJ1、NeuN、160kDaの神経フィラメントタンパク質、MAP2ab、グルタメート、シナプトフィジン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、チロシンヒドロキシラーゼ、GABA、セロトニン、GFAP、 Foxg1、Cux1、Satb2、Tbr1、Ctip2およびシナプシンを発現する能力によって特徴付けられるが、これに限定さ れない。

IV.原因蛋白質の量の測定方法 本発明において、原因蛋白質が、細胞内蛋白質である場合、iPS細胞由来の神経細胞の溶解液を用いて、該蛋白質の量を測定すればよい。一方、分泌型蛋白質の場合、培養液中に含まれる該蛋白質の量を測定すればよい。ここで、測定には自体公知の方法を使用することが出来る。以下に、原因蛋白質がAβである場合の測定法を例示する。

本発明において、Aβは、アミロイドβペプチドを意味し、アミロイド前駆タンパク質(APP)からβ-及びγ-セクレターゼにより切断されて産生するタンパク質断片であり、好ましくは、40アミノ酸長(Aβ40)または42アミノ酸長(Aβ42)で構成されるタンパク質を言う。従って、本発明において用いるAβの量は、培養液中に分泌されるAβ40もしくはAβ42の濃度でよく、好ましくは、Aβ40に対するAβ42の存在比(Aβ42/ Aβ40)であってもよいし、全長アミロイド前駆体タンパク質 (FL-APP)、ハウスキーピング遺伝子(例えば、β-アクチン, HPRT, GAPDH, HSP90) または神経細胞マーカー(例えば、βIII チューブリン, TuJ1, NeuN, 160kDa ニューロフィラメントタンパク質, MAP2ab, グルタミン酸, シナプトフィシン, GAD, チロシンヒドロキシラーゼ, GABA, セロトニン, GFAP, Foxg1, Cux1, Satb2, Tbr1, Ctip2 およびシナプシン)に対する比であってもよい。

本発明のアルツハイマー病の診断または発症年齢予測においては、前述のように得られたiPS細胞由来の神経細胞の培養液中におけるAβの濃度を測定すればよい。ここで、Aβの濃度の測定は、自体公知の方法を使用して測定できる。例えば、ELISA、ウエスタンブロット、免疫沈降、スロット或いはドットブロットアッセイ、免疫組織染色、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ、アビジン−ビオチン又はストレプトアビジン−ビオチン系を用いるイムノアッセイなどにより行うことができる。

前述のように得られたAβの量は、医師等によるアルツハイマー病の診断のための中間データとして利用することができる。

V.原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量の測定方法 本発明において、原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性の測定は、基質である原因蛋白質もしくはその断片の分解量を測定することで行うことができる。原因蛋白質の分解に関与する酵素が、細胞内蛋白質である場合、iPS細胞由来の神経細胞の溶解液を用いて、該基質と接触させ基質の分解量を測定すればよい。一方、原因蛋白質の分解に関与する酵素が、分泌型蛋白質の場合、培養液と該基質とを接触させ基質の分解量を測定すればよい。ここで、基質の分解量の測定には自体公知の方法を使用することが出来る。なお、原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性は、酵素をコードする遺伝子の発現量もしくは該遺伝子から翻訳された蛋白質量(これらを酵素の発現量という)に比例すると考えられるため、酵素の発現量を指標にすることもできる。酵素をコードする遺伝子の発現量はRT−PCRやノザンブロット法等により、該遺伝子から翻訳された蛋白質量はELISAやウエスタンブロット法等により測定することができる。

酵素活性は、好ましくは、単位細胞あたりで一定時間内に分解される該基質の量で提示することができる。ここで、細胞数は、細胞溶解液中の全蛋白質量に代替することも可能である。以下に、原因蛋白質の分解に関与する酵素がネプリライシンである場合の当該活性の測定法を例示する。

本発明において、原因蛋白質の分解に関与する酵素として例示されるネプリライシン(EC 3.4.24.11)は、動物の各種の組織に存在して、活性部位が細胞外に配向する膜結合型の中性エンドペプチダーゼであり、ラットの脳中ではエンケファリン分解ペプチダーゼとして 発見され、エンケファリナーゼとも呼ばれている。in vitro実験から、ネプリライシンの基質になる複数のペプチドが知られており、例えば、エンケファリン、サブスタンスP、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、エンドセリン等が挙げられる。

ネプリライシンの活性は、例えば、JP2002-34596またはJP2004-151079に記載の方法に従って測定することができる。好ましくは、ネプリライシンの活性は、一定時間に神経細胞抽出液中の一定量の蛋白量が人工基質を切断する量で提示される。詳細には、ネプリライシンの基質と前記神経細胞、固定した前記神経細胞、前記神経細胞の細胞溶解液、または該細胞溶解液から精製したネプリライシン等を反応させ、基質の分解量により算出することが出来る。

ここで、ネプリライシンの基質は、前述の基質に加え、ベンジルオキシカルボニル−アラニル−アラニル−ロイシル−パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル−アラニル−アラニル−フェニルアラニル−パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル−グリシル−グリシル−ロイシル−パラニトロアニリド、ベンジルオキシカルボニル−グリシル−グリシル−フェニルアラニル−パラニトロアニリド、グルタリル−アラニル−アラニル−フェニルアラニル−4−メトキシ−2−ナフチルアミド、グルタリル−アラニル−アラニル−フェニルアラニル−2−ナフチルアミド、サクシニル−アラニル−アラニル−フェニルアラニン− 4−メチルクマリン−7−アミド等の合成基質が挙げられるが、これらに限定されない。

反応条件は、使用する基質に応じて当業者が適宜選択できる。例えば、基質の濃度は、用いる基質により異なるが、0.1〜1000μg/mlとして反応を行えばよい。基質の濃度は反応系において、1〜100μg/mlであることが好ましく、3〜30μg/mlであるのが更に好ましい。反応温度は、20℃〜45℃が好ましく、20℃〜40℃が更に好ましい。反応時間は使用する基質および濃度等の反応系の条件により異なるが、例えば、5分〜24時間の間で適宜選択すればよく、迅速性という点からは、5分〜60分という短時間で測定できるような反応系を設定することが好ましい。反応は中性のpH、すなわちpH6〜9で行うことが好ましく、pH7〜8で行うことが更に好ましい。

基質の分解量は、分解して得られる化合物の濃度を測定することでよい。方法は特に限定されないが、分解して得られた化合物が蛍光を発する、もしくは分解して得られた化合物と試薬が反応して蛍光を発する場合、その蛍光強度を測定することで分解された量を測定することができる。他の態様として、薄層クロマトグラフィー、HPLC等により分析することもできる。このとき、阻害剤(例えば、チオルファン)を加えた測定値により分解量を補正してもよい。ネプリライシンの活性は、単位細胞量あたりの基質の分解量としてもよい。

前述のように得られたネプリライシンの活性は、医師等によるアルツハイマー病の診断のための中間データとして利用することができる。

IV. 蛋白質ミスフォールディング病の発症および発症リスクの診断方法 被験者から得られたiPS細胞由来の神経細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量と対照細胞の当該量または当該活性もしくは発現量をそれぞれ比較することで、蛋白質ミスフォールディング病の発症および/または発症リスクを判定することができる。

対照細胞は、蛋白質ミスフォールディング病の発症が確認されていない対象由来の体細胞から得られたiPS細胞より分化誘導された神経細胞、もしくは、蛋白質ミスフォールディ ング病の発症が確認された患者由来の体細胞から得られたiPS細胞より分化誘導された神経細胞が例示される。

対照細胞が、蛋白質ミスフォールディング病の発症が確認されていない対象由来の体細胞から得られたiPS細胞より分化誘導された神経細胞であった場合、被験者由来の当該細胞における原因蛋白質の量が対照細胞の当該値より高い、または被験者由来の当該細胞における原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量が対照細胞の当該値より低い場合に、被験者は、蛋白質ミスフォールディング病を発症している、および/または発症リスクを有していると判定することができる。

一方、対照細胞が、蛋白質ミスフォールディング病の発症が確認されている対象由来の体細胞から得られたiPS細胞より分化誘導された神経細胞であった場合、被験者由来の当該細胞における原因蛋白質の量が、対照細胞の当該値と同等もしくはそれ以上、または被験者由来の当該細胞における原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量が対照細胞の当該値と同等もしくはそれ以下の場合に、被験者は、蛋白質ミスフォールディング病を発症している、または発症リスクを有していると判定することができる。

本発明において、発症および/または発症リスクの診断される蛋白質ミスフォールディング病は、アルツハイマー病であることが例示され、家族性または孤発性のアルツハイマー病のいずれも対象とできるが、より例示的には、家族性のアルツハイマー病である。さらに好ましい態様として、早期発症型アルツハイマー病(若年性アルツハイマー病)である。

本発明において、蛋白質ミスフォールディング病がアルツハイマー病である場合、原因蛋白質であるAβの量は、被験者の体細胞から樹立されたiPS細胞を分化誘導した神経細胞の培養上清中の量を測定することが望ましい。同様に、原因蛋白質の分解に関与する酵素であるネプリライシンの活性は、細胞融解液等を用いて測定することが望ましい。

この他の態様として、予め対照細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定し、表1または表2を作成し、この表1または表2に示す感度および特異性の値が共に0.9以上、好ましくは0.95以上、より好ましくは0.99以上になるように設定した基準値を判定に用いてもよい。特に好ましくは、感度および特異性の値は、共に1である。ここで、感度および特異性が共に1を示すということは、偽陽性および偽陰性が全くない理想的な対照値である事を意味する。判定に際しては、被験者由来の当該細胞の培養上清中のAβなどの原因蛋白質の量が基準値より高い場合に、被験者は、蛋白質ミスフォールディング病を発症しているまたは発症リスクを有していると判定することができる。同様に、被験者由来の当該細胞の原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量が、基準値より低い場合に、被験者は、蛋白質ミスフォールディング病を発症しているまたは発症リスクを有していると判定することができる。

蛋白質ミスフォールディング病の診断にあたり、他の診断法、例えば、被験者のPET、MRI検査の所見、またはWMS-R logical memory score, MMSE,ADAS-Jcog, 等の認知機能の神経心理検査などと併用してもよい。

V.蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢の予測方法 被験者の体細胞から樹立されたiPS細胞から分化誘導した神経細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量と対照細胞の当該量または当該活性もしくは発現量を比較し、同等であった場合、被験者が、対照細胞と同じ年齢で蛋白質ミスフォールディング病を発症すると判定することができる。

本発明において、発症年齢の予測される蛋白質ミスフォールディング病は、アルツハイマー病であることが例示され、家族性または孤発性のアルツハイマー病のいずれも対象とできるが、より例示的には、家族性のアルツハイマー病である。さらに好ましい態様として、早期発症型アルツハイマー病である。

本発明において、蛋白質ミスフォールディング病がアルツハイマー病である場合、原因蛋白質であるAβの量は、被験者の体細胞から樹立されたiPS細胞を分化誘導した神経細胞の培養上清中の量を測定することが望ましい。同様に、原因蛋白質の分解に関与する酵素であるネプリライシンの活性は、細胞融解液等を用いて測定することが望ましい。

蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢の判定において、対照細胞は蛋白質ミスフォ ールディング病の発症年齢が既知である患者の体細胞から樹立されたiPS細胞を分化誘導した神経細胞であることが望ましい。

同等とは、厳密に同一の値である場合のほか、測定された値に対して、好ましくは±5%以下の範囲での誤差をも含む。同様に、同じ年齢とは、その年齢から±5%以下の範囲での誤差または10年以内で誤差をも含む。

この他の態様として、予め対照細胞における原因蛋白質の量または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定することで、10歳ごと、好ましくは5歳ごと、より好ましくは1歳ごとの各発症年齢単位における測定値の基準範囲を選定しておき、その基準範囲と被験者における測定値を照らし合わせて発症年齢を判定することが望ましい。

VI.蛋白質ミスフォールディング病の診断用もしくは発症年齢予測用キット 本発明に係る蛋白質ミスフォールディング病の診断用もしくは発症年齢予測用キットは、(a)iPS細胞を製造するための初期化物質、(b)神経細胞を分化誘導するための試薬、および(c)原因蛋白質を測定するための試薬、または原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性もしくは発現量を測定するための試薬が含まれる。

iPS細胞を製造するための初期化物質は、上述のiPS細胞の製造で例示された初期化物質を用いることができる。核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、他の因子を含んでもよい。好ましくは、初期化物質は、OCTファミリー、MYCファミリー、KLFファミリーおよびSOXファミリーからなる群から選択される因子を少なくとも一つ含む。

神経細胞を分化誘導するための試薬は、上述の神経幹細胞の分化誘導法ならびに神経細胞の分化誘導法に記載の試薬を用いることができる。好ましくは、神経細胞の分化誘導法に記載の試薬であり、さらに好ましくは、BDNF、GDNF、neurotensin-3からなる群から選択される因子を少なくとも一つ含む。

原因蛋白質を測定するための試薬は、好ましくは、Aβの量を測定するための試薬であり、該試薬は、上述のAβの量の測定方法に記載の試薬を用いることができる。好ましくは、ELISA法の際に、用いるAβ40および/もしくはAβ42に対する特異的な抗体である。

原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性を測定するための試薬は、好ましくは、プロテアーゼの活性を測定するための試薬であり、さらに好ましくは、プロテアーゼの基質である原因蛋白質もしくはその断片を含む。例えば、原因蛋白質の分解に関与する酵素の活性を測定するための試薬は、ネプリライシンの活性を測定するための試薬であり、上述のネプリライシンの活性の測定方法に記載の試薬を用いることができる。この時、試薬はネプリライシンの基質を含むことが好ましく、さらに好ましくは、サクシニル−アラニル−アラニル−フェニルアラニン−4−メチルクマリン−7−アミドを含む試薬である。また、ネプリライシン活性を測定するための試薬には、対照値を測定するためのネプリライシンの阻害剤もしくは促進剤をさらに含んでもよく、好ましくは、阻害剤はチオルファンである。

原因蛋白質の分解に関与する酵素の発現量を測定するための試薬は、好ましくは、酵素に対する抗体や酵素遺伝子に特異的なPCR用プライマーやハイブリダイゼーション用プローブを含む。

本発明の蛋白質ミスフォールディング病の診断用もしくは発症年齢予測用キットには、判別分析手段、例えば、判別分析の手順を記載した書面や説明書、判別分析の手順をコン ピューターに実行させるためのプログラム、当該プログラムリスト、当該プログラムを記録した、コンピューターに読み取り可能な記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、光ディスク、CD-ROM、CD-R、及びCD-RWなど)、判別分析を実行する装置又はシステム(コンピューターなど)を含んでもよい。

以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。

<実施例1> iPS細胞 iPS細胞は、Nakagawa M, et al., Nat Biotechnol. 2008 Jan;26(1):101-6.に記載の253G4を用いた。簡潔には、36歳、コーカサス人種の女性由来の線維芽細胞へOct3/4、Sox2およびKlf4を導入することでiPS細胞を樹立した。

ニューロスフェア形成 ニューロスフェアの形成は、Wada T, et al, PLoS ONE 4(8), e6722, 2009に記載の方法に少し変更を加えて行った。詳細には、iPS細胞を小さい塊に分け、1:1でDMEM/F12とNeurobasal medium A を混ぜた培養液へ1% N2、2% B27および200 μMグルタミンを添加したN2B27培地(Gibco社)を用いて、poly-L-lysine/laminin (PLL/LM)(Sigma-Aldrich社)をコーティングしたディッシュにて培養した。さらに、この培地へ100 ng/ml のNoggin (R&D systems)を加えた。3日おきに100 ng/mlのNogginを含む培地に交換し、培養10日後に、PLL/LMコーティングディッシュに継代した。その後、1日おきに100 ng/mlのNogginを含む培地へ交換し、7日後に、1,000,000 cells/mlの濃度で、2-hydroxyethylmetacrylate (HEMA) コーティングディッシュに蒔いた。 この時、20 ng/ml EGF(R&D systems)、20 ng/ml bFGFおよび50 ng/ml heparin(Sigma-Aldrich社)を添加したN2B27培地を用いた。これらの培養は、すべて37℃、5% CO2、加湿雰囲気下でインキュベートすることで行った。継代は、30日おきに、ピペッティングを伴って行い、培地は7日おきに交換した。

神経細胞分化誘導 前述のニューロスフェアを一度継代して再度形成させた2次ニューロスフェアをAccutase(Innovative Cell Technologies)を用いて分離し、1μMのレチノイン酸(Sigma-Aldrich社)および100 ng/mlのsonic hedgehog (R&D systems)を添加したN2B27培地中に15,000 cells/mlの濃度でPLL/LM/ fibronectinをコーティングしたディッシュ上へ蒔いた。培地は、1日おきに交換した。7日後に10 ng/mlのbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)(R&D systems)、10 ng/mlのglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)(R&D systems)および10 ng/mlのneurotensin-3 (NT-3)(R&D systems)を添加したN2B27培地に交換した。この方法により、TuJ1陽性の細胞が得られ、神経細胞への分化誘導が確認された。

神経細胞中のAβ濃度の解析 上記のように2次ニューロスフェアを分離後、ディッシュに接着させてから4日または22日間培養した後、神経細胞の培養上清を回収した。培養上清は、4℃、3,000 rpmで5分間遠心して沈殿を除去して用いた。Aβのペプチド内部配列(17-24)を認識するcapture抗体とカルボキシル末端を認識する検出用抗体を組み合わせたELISA(和光純薬工業)によりAβ(1-40)ならびにAβ(1-42)の含有量を3つのロットにつき各2回測定した。Aβの濃度は、Aβ(1-40)ならびにAβ(1-42)合成品を用いて作成した検量線を基に算出した。神経細胞のロット間の平均値±SEで示した測定結果を図1のAからCに示した。また、その値は、以下の通りであった。 ・4日間培養 Aβ(1-40):平均28.5 pM (28.4 pM、38.1 pM、19.1 pM) Aβ(1-42):検出限界以下。 ・22日間培養 Aβ(1-40):平均67.5 pM(95.7 pM、52.5 pM、54.1 pM) Aβ(1-42):平均8.4 pM(11.0 pM、5.6p M、8.6 pM) Aβ(1-42)/ Aβ(1-40):0.124

神経細胞中のネプリライシンの活性測定の解析 上記のように2次ニューロスフェアを分離後、ディッシュに接着させてから4日または22日間培養した後、細胞を回収し、50μLの1% triton/50mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, Complete (EDTA free), Z-Leu-Leu-Leu-H (aldehyde) [MG132], pepstatin A, pH 7.4を用いて溶解させた。細胞溶解液を人工基質(Succinyl-Ala-Ala-Phe-MCA:Bachem AG.)と混合し、37℃で1時間インキュベートした。得られた反応混合物にロイシンアミノペプチダーゼ(L-5006; Sigma, St Louis, MO, USA)とホスフォラミドン(Peptide Institute, 大阪、日本)を加え、37℃でさらに30分インキュベートしてPhe-AMCの中性エンドペプチダーゼによる分解によって生じたフェニルアラニン残基を除いた。遊離したAMC (7-amino-4-methylcoumarin)の蛍光強度を測定した。分解物の量は、AMCを標準品として、その希釈系列を基に作成した蛍光強度-濃度の検量線を基に決定した。得られた値とネプリライシンの特異的阻害剤であるチオルファンを加えて同様に測定した値との差をネプリライシンの活性として算出した。また、細胞溶解液の蛋白質濃度は、BCAキットを用いて決定した。酵素活性の単位は、神経細胞抽出液の一定蛋白量が人工基質を切断する量(nmol/mg protein/min)として表した。このようにして算出される酵素活性値は、ほとんどの場合ネプリライシン蛋白の存在量と相関することが判っている。測定は神経細胞の3つのロットにつき各2回行い、図1のDに示した。その値は、4日目は、検出限界以下の値であったが、22日目の平均値は、1.831(nmol/mg protein/min)であった。このように、培養日数の増加に伴って分化した神経細胞数が増加するため、4日目よりも22日目で全体的に高い値が得られる。 以上より、iPS細胞から分化誘導した神経細胞のAβの分泌量とネプリライシンの活性を測定することができる。また、遺伝的背景が異なればこれらの測定値も変化すると容易に想像できることから、アルツハイマー病の発症とiPS細胞から分化誘導した神経細胞の各マーカーの測定値を相関させることができることが示唆された。

<実施例2> 神経細胞への分化方法 ヒトiPS細胞株253G4 を、bFGF (Wako)を添加した霊長類ES培地(ReproCELL)中で、mitomycin Cで処理したマウスの胎仔線維芽細胞とともに培養した。iPS細胞株由来の神経を得るために、報告されている方法(Wada, T. et al 2009, Chambers, S. M. et al 2009)を改変して用いた。具体的には、iPS細胞コロニーの小さい塊(直径40〜100μm)をCell Strainer (BD Falcon)を用いて選択し、それをpoly-L-lysine (Sigma)/ Laminin (BD Falcon) (PLL/LM) でコートされた培養皿において、100ng/ ml ヒト組換えNoggin (R&D systems) と1μM SB431542 (Sigma)を添加したN2B27 培地 [DMEM/F12, Neurobasal, N2 supplement, B27 supplement, L-Gln]中で10日間培養した。次に、コロニーをCaCl2を加えた200 U/ml コラゲナーゼで小さな塊に解離させ、PLL/ECL (Millipore)でコートされた培養皿に移した。7日間培養した後、細胞をAccutase (Innovative Cell Technologies) で解離させ、PLL/ECLでコートした培養皿で7日間培養した(24d)。最後に、Accutaseで解離させ、40 μm cell strainer (BD Falcon)で選択した細胞を計数し、PLL/LM/Fibronectin (Millipore)でコートされた培養皿において、10 ng/ml BDNF, GDNF, およびNT-3 (R&D systems) を添加したN2B27培地を用いて、14日間(38d), 21日間(45d) または27日間 (52d)培養した。分化誘導のプロトコールを図2に示す。

iPS細胞由来の神経細胞の評価 上記の分化方法によって得られた神経細胞を免疫細胞化学および定量リアルタイムPCR (q-PCR)によって評価した。これらの方法はこの分野では周知である。q-PCR に用いたプライマーのリストを表3に示す。Foxg1, Cux1, Satb2, Tbr1, Ctip2, Tuj1, GFAP, Synapsin I, Glutaminase, GAD, vGult1, GABA およびTauの発現は図3,4,5および6に示す。これらの結果から、iPS 細胞から分化させた細胞(52d)はグルタミン酸およびGABAを産生する細胞を含む神経であることが分かった。

38日、45日、および52日における分化細胞において、FL-APP (全長アミロイドβタンパク質前駆体), APPs アルファ (APPsα) および APPs ベータ (APPsβ)のレベルを6E10または22C11抗体を用いたウェスタンブロット解析により定量した(図7)。 さらに、3種類のAPPスプライシングバリアント (APP770, APP751 and APP695) の発現比を、同一のウェスタンブロット膜上の各バリアントの分子サイズの違いから見積もった。神経優位型 (APP695) は神経由来iPS細胞における主要なスプライシングバリアントであった。β−セクレターゼ(BACE1) とγ−セクレターゼ構成遺伝子 (Presenilin 1, Nicastrin and Pen-2) の発現をウェスタンブロットにより測定し、他のγ−セクレターゼ構成遺伝子(Aph-1A and Aph-1B) およびネプリライシンについては表4に記載のプライマー対を用いた定量PCRによって測定した。これらの結果、γ−セクレターゼ構成遺伝子は分化38日で飽和したが、β−セクレターゼおよびネプリライシンは分化に更なる期間を要した。

神経細胞におけるAβ濃度の解析 iPS細胞由来の神経細胞におけるAβ (1-40) と Aβ (1-42) の量を実施例1に記載のELISA法によって測定した。Aβ40と Aβ42の濃度と比(Aβ42/ Aβ40)を図11に示す。Aβの分泌がAPPのC末端側断片のγ-セクレターゼ依存性切断によって生じているかどうかを確認するためにγ-セクレターゼ阻害剤(compound E) を試験した(図12)。その結果、γ-セクレターゼはiPS細胞由来の神経においてもAβの分泌に重要な役割を担っていることがわかった。

<実施例3> iPS 細胞 高橋らの文献(Cell. 131:861-72, 2007.)に記載の方法によってアルツハイマー病(AD)-iPS 細胞株を樹立した。すなわち、ApoE 3/4アイソフォームを有し、50代で疾患を発症した孤発性アルツハイマー病患者に由来する線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4 およびc-Mycを導入することでiPS 細胞を樹立した。

神経細胞への分化方法 AD-iPS 細胞株由来の神経を得るために、実施例2に記載の方法を用いた。神経はTuj1, Tau, SATB2, CUX1, CTIP2 および TBR1の発現で評価した (図13 および14)。その結果、AD-iPS 細胞株における神経関連遺伝子群の発現は実施例2に記載の正常iPS細胞株と区別されなかった。

神経細胞におけるAβ濃度の解析 AD-iPS細胞由来の神経細胞におけるAβ40と Aβ42の量を実施例1に記載のELISA法によって測定した。Aβ40と Aβ42の濃度と比(Aβ42/ Aβ40)およびFL-APPの相対量を図16に示す。FL-APPまたはβ−アクチンの量で補正したAβ40と Aβ42の値を図17に示す。これらの値は50代でのアルツハイマー病の発症リスクの評価や発症年齢の予測に使用できる。

本発明を用いることで、蛋白質ミスフォールディング病患者のiPS細胞由来の神経細胞を用いた、蛋白質ミスフォールディング病の発症および発症リスクの診断ならびに蛋白質ミスフォールディング病の発症年齢の予測が可能となる。従って本発明は、蛋白質ミスフォールディング病の早期治療または予防のために極めて有用である。

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