関連出願の相互参照 本出願は、2008年12月18日出願の日本特願2008−322873号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
本発明は、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料及びその製造方法に関する。 さらに本発明は、前記本発明の清涼飲料の製造に用いる、優れた芳香性を有する3-メルカプトヘキサン-1-オール (以下3MHと略記することがある)の前駆体を豊富に含有するぶどう果皮抽出液及びその製造方法に関する。
ワインをテイスティングする際、その香りは、植物、野菜、果物、動物等を由来とする様々なタームで表現され、ブドウ品種ごとにそれぞれ違った言葉が用いられる。 これは、ブドウ品種に対応したワインの香り(品種香)の存在が大きく影響していることを示している。 ブドウ品種の個性を活かしたワイン醸造は、その土地の気候、風土を反映したワインの個性化に繋がる技術であり、世界的にも注目されている研究分野である。 近年、日本の甲州種にもそれらの知見が応用され、特徴的な品種香3-メルカプトヘキサン-1-オールをもつ新しいタイプの甲州ワインが誕生している(非特許文献1および2参照)。 3-メルカプトヘキサン-1-オールは、その分子構造内に-SH基を有するチオール化合物であり、その閾値は非常に低く(閾値60ng/L)、ワインにグレープフルーツやパッションフルーツのニュアンスを与えている。 3-メルカプトヘキサン-1-オールは、ブドウ果粒中でグルタチオンと抱合体S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン (以下、3MH-S-GSHと略記することがある)を形成し(非特許文献3参照)、ブドウの酵素によりシステイン抱合体、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システイン (以下3MH-S-Cysと略記することがある)となる(非特許文献4参照)。 これらが前駆体となり、発酵時に酵母のもつβ-リアーゼ様酵素の働きにより、ワイン中に3-メルカプトヘキサン-1-オールとして遊離される。 また、近年S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンが直接酵母に取り込まれ、3-メルカプトヘキサン-1-オールに変換されているという学説も発表されている(非特許文献5参照)。 遊離された3-メルカプトヘキサン-1-オールの一部は、酵母由来のアルコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素により酢酸エステル体である3-メルカプトヘキシルアセテートとなる。 3-メルカプトヘキシルアセテートはツゲやエニシダのニュアンスを与え、ワイン中でソーヴィニヨンブラン・ワインの果実香のひとつとして知られており、閾値4ng/Lと香りへの貢献度が高い物質である。 一般的に遊離された3-メルカプトヘキサン-1-オールの量が増加すれば、3-メルカプトヘキシルアセテートの量も増加する。 ソーヴィニヨンブラン種の果汁および果皮におけるS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システイン濃度は、果汁よりも果皮でおよそ8倍以上多いが、ブドウ果粒の組織中の重量分布を考慮した場合、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインは、果汁と果皮に均等に分布することが報告されている(非特許文献6参照)。 一方、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの果粒中の分布についての報告はない。 ワイン中の3-メルカプトヘキサン-1-オール含有量に影響を与える因子として果汁調製法(非特許文献7参照)、使用酵母、亜硫酸および酸素(非特許文献8参照)、保存容器および期間(非特許文献9参照)の影響等が検討されている。 つまり、スキンコンタクトや搾汁時の圧力コントロールによりブドウ果粒中に含まれるS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインのブドウ果汁中への移行が促進されること、VL-3酵母(Laffort社製)を用いることで3-メルカプトヘキサン-1-オールの遊離に効果があること、酸素の介在および亜硫酸の消費により3-メルカプトヘキサン-1-オールの分解が進むこと、コルク、スクリューキャップにかかわらずワイン中の3-メルカプトヘキシルアセテートは半年ほどで減少してしまうことが知られている。 3-メルカプトヘキサン-1-オールの遊離に関しては、大腸菌からシステイン-β-リアーゼ活性を有するトリプトファナーゼ遺伝子tnaAをクローン化し、これを導入した遺伝子組換酵母を作出し、3-メルカプトヘキサン-1-オールの遊離を驚異的に高めたというオーストラリアのグループからの報告もある(非特許文献10参照)。 また、ブドウが貴腐菌(Botrytis cinerea)に感染すると、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの量が増加することが報告されている(非特許文献11および12参照)。 このことはワインにも反映され、貴腐菌に感染したブドウから醸造されるワインは、通常のワインに比べ3-メルカプトヘキサン-1-オール含有量も多い(非特許文献13参照)。 これらのことから、3-メルカプトヘキサン-1-オール等の果実香を活かしたワインを醸造する為には、ブドウ果粒中に存在する前駆体の多い状態での収穫とブドウ果粒からの効率のよい抽出、および発酵条件を整えることによる変換能の向上、瓶内長期保存におけるノウハウ等が重要であるとされる。 このようにS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインがより多く含まれる果汁を得るために様々な方法が試みられているが、果汁にブドウ果皮を浸漬させ、果皮成分を抽出するスキンコンタクト法は、果汁には糖類や有機酸類等、成分が豊富に含まれているため、浸透圧差がほとんど無く、効率よい抽出が望めないという問題点があった。 またブドウを貴腐菌に感染させるには、湿度の高い朝と乾燥した日照のある午後という自然条件が必要であること、さらに果皮が薄めのブドウ品種であること等の条件が必要であり、そのような自然条件を人為的にコントロールすることは困難であり、かつブドウ品種が制限される。 この他、3-メルカプトヘキサン-1-オールの前駆体以外の有用物質のブドウ果皮からの抽出法としては、ブドウ果皮や種子を70℃以上の水で抽出するプロアントシアニジンの製造方法(特許文献1参照)、ブドウの圧縮搾汁粕の果皮を20〜40℃でエタノール水溶液または水で抽出する天然抗酸化剤の製造方法(特許文献2)が開示されている。 しかしながら、ブドウ果皮から3-メルカプトヘキサン-1-オールの前駆体を水により抽出したという報告はない。 また、近年、ノンアルコール飲料に対する需要が高まっており、ビールでは、ノンアルコールビールが多数市場に出回っている。 一方、ワインについては、これまでノンアルコールのワインは市場に出回っておらず、ほとんど開発もされていないのが実情である。 ノンアルコールのワインと銘打ったワイン風味の清涼飲料も知られていない。 さらに、近年、嗅覚の研究の中で、人が香りを感じる経路としてオルトネーザルとレトロネーザルという2つの経路の存在が明らかとなっている。 前者は、鼻先から鼻腔内に呼気に乗って入ってくる経路であり、後者は、食べ物を口に入れた際に喉から鼻に抜ける経路である。 このレトロネーザルの嗅覚は、口中香とも呼ばれ、食べ物を食べて、「おいしい」、「風味がいい」と表現するとき、それらのほとんどが口中香に由来すると言われている(非特許文献14)。 また、口中香の中には、食品を口中に入れたときに唾液中にある様々酵素と反応して新たな生成される香り、「もどり香」も含まれ、食品を口中に入れてから生成するまでに数秒程度の反応時間を要するため、食品の余韻に貢献すると言われている。 また、「もどり香」は口中で意図せずに発生することによって、食品を口に入れた人に驚きを体験させ、食品を記憶するきっかけを演出する可能性を秘めていると考えられる。 このように口中香は、食品にとって非常に重要な要素である。 しかしながら、このような口中香は、鼻で感じる香ではなく舌で感じる味として誤認されることが多いため、一般に認知度が低く、真に口中香、とくに「もどり香」に注目した食品開発はほとんど成されていないのが現状である。
日本特開平3-200781号公報
日本特開平7-228868号公報 日本ブドウ・ワイン学会誌 15 (3) : 109-110 (2004). バイオサイエンスとインダストリー 64(4) : 36-37 (2006). J. Agric. Food Chem., 2002, 50, 4076-4079. J. Agric. Food Chem., 1998b, 46, 52151-5219. J. Agric. Food Chem., 2008, 56, 9230-9235. Am. J. Enol. Vitic., 53 :2 (2002). J. Agric. Food Chem., 2007, 55, 10281-10288. Am. J. Enol. Vitic., 2000, 51, 178-181. 8th International Symposium of Oenology-Bordeaux 2007, pp240. Yeast, 2007, 24(7), 561-574. J. Agric. Food Chem., 2007, 55, 1437-1444. J. Chromatogr. A, 2008, 1183, 150-157. J. Agric. Food Chem., 2006, 54, 7251-7255. 化学と生物Vol.45, No.8, 2007 564-569 上記特許文献1,2及び非特許文献1〜14の全記載は、ここに特に開示として援用される。
そこで、本発明の第1の目的は、ワイン風味の清涼飲料であって、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料とその製造方法を提供することにある。 さらに本発明の第2の目的は、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を多量に含むブドウ果皮抽出液、およびブドウ果皮抽出液をブドウ果皮から取得する製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々の検討を行い、その結果、特定の条件で製造したブドウ果皮抽出液が、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を多量に含むものであり、かつこのブドウ果皮抽出液を用いることで、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料を提供できることを見出して本発明を完成させた。 本発明は以下のとおりである。 [1] S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有し、かつ3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で1〜100nM含有する清涼飲料。 [2] S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有し、かつブドウ果皮抽出液を原料の少なくとも一部に使用して製造した清涼飲料。 [3] S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンを実質的に含有しない[1]または[2]に記載の清涼飲料。 [4] ブドウ果皮抽出液を含む水溶液を乳酸菌で発酵させたものを原料とするものである[1]〜[3]のいずれかに記載の清涼飲料。 [5] エタノールの含有量が1%未満である[1]〜[4]のいずれかに記載の清涼飲料。 [6] Brixが1〜20%であり、かつ滴定酸度が1〜5mLである[1]〜[5]のいずれかに記載の清涼飲料。 [7] ブドウ果皮抽出液を含み、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンをBrix20%換算で50nM以上含有する水溶液に乳酸菌を添加する工程、 前記水溶液を乳酸菌で発酵させて、前記S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの少なくとも一部をS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換して、Brix20%換算でS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50nM以上含有する発酵液を得る工程、 前記発酵液を原料の少なくとも一部に使用してS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有する清涼飲料を得る工程を含む、清涼飲料の製造方法。 [8] 前記発酵液の使用は、3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で1〜100nM含有する清涼飲料を得るように行う、[7]に記載の清涼飲料の製造方法。 [9] 前記発酵工程において、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの全量をS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換して、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンを実質的に含有しない清涼飲料を得る[7]または[8]に記載の清涼飲料の製造方法。 [10] 前記発酵は、エタノール含有量が1%未満である清涼飲料を得るように実施される、[7]〜[9]のいずれかに記載の清涼飲料の製造方法。 [11] 乳酸菌がラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)である、[7]〜[10]のいずれかに記載の清涼飲料の製造方法。 [12] 前記発酵液の使用工程において、発酵液を水と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下に調整する、[7]〜[11]のいずれかに記載の清涼飲料の製造方法。 [13] 前記発酵液の使用工程において、発酵液を、液糖、有機酸及び水と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下、Brixを1〜20%、及び滴定酸度を1〜5mLに調整する、[7]〜[11]のいずれかに記載の清涼飲料の製造方法。 [14] 前記発酵液の使用工程において、発酵液を、果汁と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下、Brixを1〜20%、及び滴定酸度を1〜5mLに調整する、[7]〜[11]のいずれかに記載の清涼飲料の製造方法。 [15] 3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体をBrix20%換算で、500nM以上含有するブドウ果皮抽出液。 [16] 3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体をBrix20%換算で、1000〜15500nM含有する[15]に記載のブドウ果皮抽出液。 [17] 総ポリフェノール濃度がBrix20%換算で、6000ppm以下である[15]または[16]に記載のブドウ果皮抽出液。 [18] 3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体をBrix20%換算で、500nM以上含有するブドウ果皮抽出液の製造方法であって、 (1)ブドウ果皮を、ブドウ果皮の湿重量に対して0.5〜3倍量の水に浸漬し、0〜20℃で0.5〜96時間保持し、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を抽出する工程、 (2)ブドウ果皮浸漬液を固液分離し、ブドウ果皮を除去してブドウ果皮抽出液を取得する工程、 を含む製造方法。 [19] 前記工程(1)において水に浸漬されるブドウ果皮が、ブドウを搾汁して得たブドウ果皮を搾汁後0.5〜24時間放置した後のものである[18]に記載のブドウ果皮抽出液の製造方法。 [20] 工程(1)の温度が5〜20℃である[18]または[19]に記載のブドウ果皮抽出液の製造方法。 [21] ブドウ果皮がソーヴィニヨンブラン種またはシャルドネ種のものである[18]〜[20]のいずれかに記載のブドウ果皮抽出液の製造方法。
本発明のブドウ果皮抽出液およびその製造方法を用いると、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料を提供できる。
図1a及び1bは、冷凍処理または冷蔵処理をしたブドウ果皮(シャルドネ種)の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出速度を比較した図である。
<ブドウ果皮抽出液およびその製造方法> 以下、本発明のブドウ果皮抽出液およびその製造方法について詳細に説明する。 本発明のブドウ果皮抽出液は3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体をBrix20%換算で、500nM(およそ200ppbに相当)以上含有するものであり、本発明の清涼飲料の原料として利用される。 なお、本発明におけるBrix(%)とは屈折糖度計を用いて計測した可溶性固形分を表す数値であり、ブドウ果皮抽出液中の可溶性固形分を重量パーセント濃度で示したものである。 また、Brix20%換算時の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度とは、得られたブドウ果皮抽出液中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度を、同抽出液のBrix濃度を基準として、Brix20%に換算したときの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度を示す。 例えば、ブドウ果皮抽出液がBrixA%、その抽出液中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度がB nM(ppb)であるとき、Brix20%換算時の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度C nM(ppb)とは、以下の式で計算できる。 C = B × 20/A 本発明のブドウ果皮抽出液は、ブドウ果皮を、ブドウ果皮の湿重量に対して0.5〜3倍量の水に浸漬し、0〜20℃で0.5〜96時間保持し、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を抽出し、次いで固液分離し、ブドウ果皮を除去してブドウ果皮抽出液を取得することにより製造することができる。 また必要により減圧濃縮、膜処理等を用いて濃縮することもできる。 ブドウ果皮を浸漬する水の量はブドウ果皮の湿重量に対して0.5〜3倍量が適当である。 3倍を超えると、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体や糖分の濃度が薄くなり、そのままでは発酵原料として使用しにくくなるうえ、総ポリフェノール濃度が相対的に高まってしまう。 0.5倍より少ないと、抽出や固液分離の操作性が悪くなるからである。 また抽出効率向上、固液分離の操作性向上を目的として、浸漬中にペクチナーゼ等の酵素活性を有する酵素剤を使用することができる。 市販の酵素剤としては、スクラーゼ(三共(株)社製)、ペクチナーゼG、ペクチナーゼPL、ニューラーゼF、ペクチナーゼPL、ペクチナーゼG(以上天野エンザイム(株)社製)、LAFASE FRUIT、LAFAZYM PRESS(以上、LAFFORT社製)、SCOTTZYME BG、SCOTTZYME CINFREE、SCOTTZYME HC、SCOTTZYME KS、SCOTTZYME PEC5L(以上、SCOTT LABORATORIES社製)、LALLZYME EXV、LALLZYME EXV、LALLZYME BETA(以上、LALLEMAND社製)等を例示することができるが、特に限定されるものではない。 酵素の使用量は、酵素活性にもよるが、上記の浸漬条件では10ppm〜500ppmの使用で充分である。 同様な目的で、ブドウ果皮を冷凍した後に水に浸漬することで3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出効率が増し、浸漬時間を短縮することができる。 またブドウ果皮を浸漬し、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を抽出する温度は、0〜20℃が適当である。 0℃以上であれば3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を効率的に抽出できるが、0℃を下回ると浸漬中に凍結し、抽出や固液分離の操作性が悪くなり、20℃を超えると呈味性や発酵特性の点でマイナス要因となる総ポリフェノールの抽出量が相対的に多くなってしまうからである。 また抽出時のpHは、pH2〜11の範囲ではpHによる抽出効率の変動がほとんどないので、特にpHを調整する必要はない。 総ポリフェノールの抽出量が多くなると、渋味や苦味等、呈味性の著しい悪化、発酵性の悪化がみられる。 そのため、果皮抽出液中の総ポリフェノール濃度がBrix20%換算で6000ppm以下となるように抽出条件を決定することが好ましく、2000ppm以下に抑えられる条件とすることがより好ましく、600ppm以下に抑えられる条件とすることが最も好ましい。 浸漬水の量、温度、攪拌速度等の条件にもよるが、抽出時間は0.5〜96時間の範囲とすることができる。 抽出された3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の濃度を適宜測定し、その結果から抽出作業終了時間を決定できる。 抽出作業終了時間は、例えば、測定された濃度がほぼ一定になった時点とすることができる。 こうして抽出作業を終えた後、圧搾機(メンブランプレス、バスケットプレス)、遠心分離、フィルタープレス等の固液分離装置を用いて、抽出粕と分離し、清澄なブドウ果皮抽出液を取得することができる。 得られたブドウ果皮抽出液を濃縮する場合には、蒸発濃縮(例えば、減圧蒸発濃縮等)、膜濃縮、冷凍濃縮等の公知の濃縮方法を適用することができる。 蒸発濃縮であれば、循環式(液膜流下型)濃縮装置、ワンパス式(噴流薄膜型)濃縮装置、フラッシュエバポレーター等の通常の減圧蒸発濃縮装置等を用いることができる。 減圧蒸発濃縮は、品温30℃〜110℃、圧力0.04〜0.4bar等の条件で実施できる。 3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の分解を防ぐために比較的低い温度、例えば品温30〜60℃の条件が好ましい。 膜処理であれば逆浸透膜を利用し、操作圧力60〜150bar等の条件で、Brix10〜68%程度まで濃縮できる。 本発明の製造方法に用いられるブドウ果皮抽出液は、固液分離により得られたブドウ果皮抽出液(非濃縮品)及びその後濃縮されたブドウ果皮抽出液(濃縮品)のいずれをも包含する。 さらに、こうして得られたブドウ果皮抽出液(濃縮品及び非濃縮品)は、必要に応じて清澄化、殺菌をしてもよく、それらの処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適用すればよい。 本発明で用いるブドウ果皮は、厳密な意味でのブドウ果実の果皮だけに限定されるものでなく、ブドウ果汁やワインの製造工程中で多量に排出されるブドウ果実の搾汁粕のようにブドウ種子を含んでいてもよいものである。 通常のブドウ果汁やワインの製造工程中で得られるブドウ果皮の水分含量は、常圧加熱乾燥法で計測した場合、50%(w/w)〜80%(w/w)である。 酸化防止、微生物の繁殖防止のため、ブドウ果皮は搾汁後、比較的速やかに使用することが望ましい。 但し、搾汁後、ブドウ果皮を所定の時間放置することでブドウ果皮中の3MH前駆体が増加する。 そのため、所定時間放置後に水浸漬による抽出を行うことで3MH前駆体濃度が高くかつ総ポリフェノール濃度が低い抽出液が得られる。 搾汁後、0.5〜24時間放置後に水に浸漬することが好ましい。 放置時間が24時間を超えると雑菌による汚染などが発生する可能性があるため望ましくない。 搾汁後、水浸漬までの放置時間は、得られる抽出液の3MH前駆体濃度及び総ポリフェノール濃度を考慮すると1〜4時間程度がより好ましい。 尚、放置によるブドウ果皮中の3MH前駆体の増加は、ブドウ果皮中の酵素による反応であり、冷凍処理や加熱処理などの酵素の失活を伴う操作、水浸漬による酵素及び基質の拡散を伴う操作で反応が停止すると推察され、また放置によるブドウ果皮抽出液中の総ポリフェノール濃度の低下は、ポリフェノール類が酸化重合することによって不溶化し、沈殿するためと推察される。 また、作業の都合上一定期間ブドウ果皮を保存する場合は、例えば冷凍での保存、保存料を使用することによって酸化防止、微生物の繁殖を抑制することが適当である。 冷凍保存する場合には、上述の理由のため、冷凍保存する前に搾汁後のブドウ果皮を上述した範囲で所定の時間放置することが好ましい。 ブドウ果皮として用いることのできるブドウの品種は、特に制限はなく、甲州、巨峰、デラウエア、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・ヴェール、ソーヴィニヨン・グリ、リースリング、トンプソン・シードレス、セミヨン、ヴィオニエ、コロンバール、マスカット・オブ・アレキサンドリア、モスカテル・デ・アウストリア、モスカテル・ロサーダ、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、マルベック、ペドロ・ヒメネス、トロンテス・リオハーノ、トロンテス・メンドシーノ、トロンテス・サンファニーノ、トロンテル、シュナン・ブラン、ユニ・ブラン、セレサ、クリオージャ、レッドグローブ等の多くの品種を使用することができる。 但し、3MH前駆体を多く含む点においてソーヴィニヨン・ブラン種、シャルドネ種のブドウ果皮を用いることが好ましい。 上記方法で得られるブドウ果皮抽出液は、原料とするブドウ果皮の種類や抽出条件、さらには濃縮の有無や程度により、3MH前駆体の濃度は変化するが、Brix20%換算した場合、3MH-S-GSH濃度が300nM〜8000nMの範囲であり、3MH-S-Cys濃度が70nM〜11100nMの範囲であるものである。 さらに、上記方法で得られるブドウ果皮抽出液は、Brix20%換算した場合、3MH-S-GSH及び3MH-S-Cysの合計濃度が500nM〜15500nMの範囲である。 但し、3MH-S-GSH濃度、3MH-S-Cys濃度、両者の合計濃度は上記範囲より低いものも抽出や濃縮条件を変更することで、適宜調製することができる。 <清涼飲料及びその製造方法> 本発明の清涼飲料は、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有する。 S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインは、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の一種であり、β−リアーゼの作用によって3-メルカプトヘキサン-1-オールに変換される。 唾液中にはβ−リアーゼ活性を持つ酵素が含まれており、極微量のS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを含む飲食物を口に含むと、唾液中のβ−リアーゼ活性を持つ酵素の作用で数秒間の反応時間の後にもどり香として3-メルカプトヘキサン-1-オールが生成して、優れた果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻が与えられるとともに、口中で香りが意図せず発生したことによる驚きを体験することができる。 但し、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度が50nM未満では、優れた果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻は与えられない。 一方、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度が600nMを超えると、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻が強すぎてくどい印象を与える傾向がある。 そこで本発明の飲料では、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量を上記範囲とする。 上記範囲内であれば、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量は、清涼飲料の種類や消費者の嗜好に応じて適宜設定できる。 本発明の清涼飲料は、3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で1〜100nM含有することが好ましい。 3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートは、ワインにおいては、グレープフルーツやパッションフルーツのニュアンスを与える成分であり、本発明の清涼飲料においても、これらの成分が含まれることで、優れた果実香(フルーティーな香り)を与えることができる。 但し、3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方の合計濃度が1nM未満では、この効果を得るのは難しく、また100nMを超えると果実香(フルーティな香り)は与えるものの、その程度が強すぎ、清涼飲料の香味バランスが崩れるという問題がある。 本発明の清涼飲料は、後述するように、前記本発明のブドウ果皮抽出液を原料の少なくとも一部に使用して製造することができる清涼飲料である。 前記のように、本発明のブドウ果皮抽出液にはS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンが含まれ、本発明の清涼飲料を得るには、ブドウ果皮抽出液を含む水溶液を乳酸菌で発酵させて、ブドウ果皮抽出液に含まれるS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンをS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換する。 本発明の清涼飲料は、ブドウ果皮抽出液に含まれていたS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンがほとんどS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換され、本発明の清涼飲料が、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンを実質的に含有しないものになることが、ブドウ果皮抽出液に含まれていたS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの有効利用という観点から好ましい。 S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンを実質的に含有しないとは、本発明の清涼飲料のS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン濃度が、例えば20nM以下であることができる。 但し、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン濃度が20nMを超える場合であっても、清涼飲料としての品質に問題はなく、本発明の清涼飲料から排除される意図ではなく、本発明の範囲に含まれるものである。 さらに、本発明の清涼飲料は、上記のように、ブドウ果皮抽出液を含む水溶液を乳酸菌で発酵させたものを原料とするものであることができるが、乳酸菌発酵の際にアルコール(エタノール)の生成が抑制され、乳酸菌発酵液を用いて調製される清涼飲料中のエタノール含有量が1%未満に抑えられることが、ノンアルコール飲料の提供という観点からは好ましい。 本発明の清涼飲料は、少なくとも所定量のS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを含む以外に、好ましい香味を呈するという観点から、例えば、Brixが1〜20%であり、かつ滴定酸度が1〜5mLであることが好ましい。 Brix及び滴定酸度は、清涼飲料の種類や消費者の嗜好に応じて適宜設定できる。 但し、清涼飲料の種類や消費者の嗜好によっては、Brix及び/又は滴定酸度が、上記範囲外になることもあり得る。 本発明の清涼飲料の製造方法を説明する。 本発明の清涼飲料の製造方法は、ブドウ果皮抽出液を含み、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンをBrix20%換算で、50nM以上含有する水溶液に乳酸菌を添加する工程、前記水溶液を乳酸菌で発酵させて、前記S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの少なくとも一部をS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換して、Brix20%換算でS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50nM以上含有する発酵液を得る工程を含む。 さらに、前記発酵液を原料の少なくとも一部に使用してS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有する清涼飲料を得る工程を含み、発酵液がS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有する場合には、発酵液がそのまま清涼飲料になり得る。 ブドウ果皮抽出液としては、前記本発明のブドウ果皮抽出液または前記本発明の製造方法で得られたブドウ果皮抽出液をそのまま、または適宜濃縮若しくは希釈して用いることができる。 ブドウ果皮抽出液は、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンに加えてS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを含有するものであってもよい。 ブドウ果皮抽出液に乳酸菌添加し、発酵させると、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンはS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換される。 乳酸菌発酵に使用される乳酸菌は、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンのS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインへの変換能が高く、かつアルコール生成能が低いものであることが、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインへの変換が高く、かつアルコール(エタノール)濃度の低い発酵が得られることから好ましい。 そのような乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、及びラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)を挙げることができる。 但し、これらの乳酸菌に限定される意図ではなく、その他の乳酸菌も、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインへの変換能とアルコール生成能を考慮して、適宜選択できる。 乳酸菌の代表例は実施例において示す。 本発明においては、乳酸菌発酵の原料水溶液として、ブドウ果皮抽出液を含有する水溶液を用いる。 ブドウ果皮抽出液を含有する水溶液は、例えば、ブドウ果皮抽出液を、単独で、あるいは適宜水等で希釈して用いることができ、あるいは、例えば公知の糖液、果汁、麦芽汁、穀類を原料とした糖化液と混合して、3MH前駆体濃度等を調整して使用してもよい。 さらに、上記溶液に添加物を加えたものであることもできる。 発酵を助成促進する目的で、原料水溶液に酸類(例えば乳酸、リンゴ酸、酒石酸等)、塩類(例えば、食塩、リン酸水素カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム等)、除酸剤(例えば、炭酸カルシウム、アンモニア等)、酵母発酵助成剤(不活性酵母、酵母エキス、酵母細胞壁、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、チアミン塩酸塩、葉酸、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、ビオチンの全部又は一部で構成されるもの)等の添加物を加えてもよい。 乳酸菌発酵の条件は、Brix20%換算でS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50nM以上含有する発酵液を得ることができる条件とする。 目的物がS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインを50〜600nM含有する清涼飲料だからである。 その他の乳酸菌発酵の条件は、乳酸菌の種類やブドウ果皮抽出液の組成等を考慮して適宜設定でき、発酵温度は、例えば、15〜40℃の範囲、発酵時間は、例えば、12〜96時間の範囲、初発pHは例えば、3〜10の範囲で適宜設定できる。 さらに、乳酸菌発酵の条件は、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンの全量をS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換して、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンを実質的に含有しない(例えば、20nM以下)清涼飲料が得られる条件とすることが好ましい。 発酵液は、水等で希釈されることを考慮すると、発酵液中のS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン濃度が、例えば、200nM以下となるように、乳酸菌発酵の条件を設定することができる。 但し、発酵液中のS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン濃度は、原料となるブドウ果皮抽出液のS-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン濃度も考慮して設定されるものである。 本発明の清涼飲料の製造方法は、得られた発酵液を飲用可能でアルコール1%未満の水溶液と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下に調整する工程をさらに含むことができる。 そのような水溶液としては、水を挙げることができる。 あるいは、そのような水溶液としては、例えば、糖類、有機酸及び水の混合物を挙げることもでき、その場合、得られた発酵液を、糖類、有機酸及び水と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下、Brixを1〜20%、及び滴定酸度を1〜5mLに調整する工程をさらに含むことができる。 糖類としては、食品用に用いられる糖類であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、乳糖等を挙げることができる。 有機酸としては、食品用に用いられる有機酸であれば特に限定されないが、例えば、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等を挙げることができる。 あるいは、前記飲用可能でアルコール1%未満の水溶液としては、例えば、果汁を挙げることもでき、その場合、得られた発酵液を、果汁と混合して、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度を600nM以下、Brixを1〜20%、及び滴定酸度を1〜5mLに調整する工程をさらに含むこともできる。 果汁としては、飲用に用いられる果汁であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、リンゴ果汁、カンキツ果汁( オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライムなどの果汁) 、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、チェリー、カキ、スモモ、アンズ、ビワ、モモ、ナシ、ウメ、ベリー、キウイフルーツ、イチゴ、メロンの各果汁などが挙げられる。 特にワイン風味の清涼飲料を作る目的ではブドウ果汁を好適に用いることができる。 また、本発明の清涼飲料においては、水や糖類、有機酸、果汁の他にも、通常飲料に配合するような香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤、二酸化炭素などを配合することができる。 本発明の製造方法で得られる清涼飲料は、3-メルカプトヘキサン-1-オール及び3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で1〜100nM含有することが、果実香(フルーティな香り)を有し、香味が優れているという観点から好ましい。 なお、本明細書における3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体とは、酵母による発酵の過程中で3-メルカプトヘキサン-1-オール(分子量134)を遊離する性質をもつ物質を意味し、具体的には、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオン(分子量407)およびS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システイン(分子量221)である。 また3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の量は、これら2物質を以下の分析方法を用いて測定し、それらの量の和で示したものである。 尚、3-メルカプトヘキシルアセテートの分子量は176である。 (分析法) 試料を0.1%(v/v)蟻酸を含む10%(v/v)メタノール水溶液を用いて適当な倍率で希釈し、0.45μmのフィルターでろ過したものをLC/MS/MSシステムを用いて定量する。 検量線を引くために用いた標品は、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンはCP des Gachons、T. Tominagaらの方法(J. Agric. Food Chem., 2002, 50, 4076-4079.)に従い、またS-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインはC. Thibon、S. Shinkaruk らの方法(J. Chromatogr. A, 2008, 1183, 150-157.)に従い、有機合成することで得た。 [使用機器] 3200 QTRAP LC/MC/MSシステム(アプライドバイオシステムズ社) [LC/MS/MS条件] インターフェース:Turbo V source イオン化モード:ESI(positiveモード) イオン源パラメーター:curtain gas 15psi、collision gas 3psi、ionspray voltage 5500V、temperature 700℃、ion source gas 170psi、ion source gas 270psi、interface heater ON 測定モード:MRMモード選択イオン:3MH-S-GSH m/z 408.2→162.1(collision energy 27V)、3MH-S-Cys m/z 222.2→83.2(collision energy 19V) [LC条件] カラム:アトランティス(Atlantis)T3、3μm、2.1×150mm(ウォーターズ社) カラム温度:40℃ 注入量:10μL 移動相 A:0.1%(v/v)蟻酸を含む水移動相 B:0.1%(v/v)蟻酸を含むアセトニトリル流速:0.2mL/min グラジエント:移動相Aと移動相Bの混合率を移動相A:移動相B=90:10から移動相A:移動相B=0:100まで10分かけて上げ、その後移動相A:移動相B=90:10に戻し、5分間キープした。 また本明細書における総ポリフェノール濃度とは、SingletonとRossiらの方法(Am. J. Agric. Enol. Vitic. 16: 144 (1965).)に従い、ガリック酸換算で算出した数値である。 この方法は、ガリック酸に含まれる水酸基換算で定量を行うため、フラボノイド系のみならず、非フラボノイド系(ヒドロキシシンナム酸類等)も含めた全てのフェノール化合物が定量される。 アルコール濃度(%v/v)は、国税庁所定分析法(改正平成19年国税庁訓令第6号)p5−7、アルコール分の項に記載のガスクロマトグラフ分析法に基づいて測定した。 滴定酸度(mL)は、国税庁所定分析法(改正平成19年国税庁訓令第6号)p28−29、総酸(遊離酸)の項に記載の分析法に基づいて測定した。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 実施例1 「各種ブドウの果汁および果皮(果汁搾汁粕)中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の含有量」 表1に記載した各種ブドウを手動の圧搾式ジューサーで搾汁し、果汁と果皮(果汁搾汁粕)を得た。 果皮からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出は、果皮20gに対して2.5倍量の水(50g)を加え、10℃で24時間浸漬することにより行った。 各種ぶどうの果汁、果皮100g当りに含有する3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の含有量(μg)を測定した。 結果を表1に示す。
その結果、表1に示すように果皮には果汁と比較して1.6倍〜19.2倍も多く3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を含有しており、中でもソーヴィニヨンブラン種、シャルドネ種が多く含有していることが示された。 実施例2 「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-浸漬水量依存性」 ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、50〜1000g(0.5〜10倍量)の範囲のいずれかの量の水を加え、5℃で72時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。 結果を表2に示す。
表2に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体はブドウ果皮に対して0.5倍量〜3倍量の水で浸漬することで充分量抽出された。 一方、ブドウ果皮に対して5倍量以上の水で浸漬すると相対的に総ポリフェノール濃度が高くなった。 実施例3 「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-pH依存性」 ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加えた後、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpHを1〜11の範囲のいずれか に調整を行った。 5℃で96時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体含量および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。 結果を表3に示す。
表3に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体はブドウ果皮の浸漬中のpHは2〜11の範囲で充分量抽出された。 一方ブドウ果皮の浸漬中のpHが1になると相対的に総ポリフェノール濃度が高くなった。 実施例4 「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-抽出温度依存性」 ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加え、5〜120℃の範囲のいずれかの温度で2〜48時間の範囲いずれかの時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。 結果を表4に示す。
表4に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出は5〜20℃の浸漬温度で十分であり、それ以上の浸漬温度となると総ポリフェノール濃度が高くなり、呈味性が悪化していた。 実施例5 「ブドウ果皮(トンプソンシードレス種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」 ブドウ(トンプソンシードレス種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁し、果汁1200mLと水分含量70%(w/w)の果皮(果汁搾汁粕)800gを得た。 得られたブドウ果皮800gに対して、2000g(2.5倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix4.8%のブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液を、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix55%まで濃縮した。 得られた果汁およびブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。 結果を表5に示す。
表5に示したとおり、果汁中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体は検出が不可能なほど少量しか含まれていなかった。 一方、果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度は5000.1nM(1866.7ppb)であり、多量に含有していた。 実施例6 「ブドウ果皮(ソーヴィニヨンブラン種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」 ブドウ(ソーヴィニヨンブラン種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量68.6%(w/w)のブドウ果皮を1ヶ月間冷凍保存した。 冷凍状態のブドウ果皮1kgに対して、2500g(2.5倍量)の水を加え、20℃で72時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix4%のブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液にベントナイトを500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。 上澄みを珪藻土濾過した後、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix50%まで濃縮した。 ブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した結果、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンが4398.0nM(1790ppb)(A)、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインが11086.0(2450ppb)(B)であり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の濃度は15484.0nM(4240ppb){(A)+(B)}、総ポリフェノール濃度は1780ppmであった。 実施例7 「ブドウ果皮(シャルドネ種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」 ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%(w/w)のブドウ果皮を30〜50日間冷凍保存した。 冷凍状態のブドウ果皮8tに対して、16t(2倍量)の水を加え、15〜20℃でメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)内で回転させながら3時間浸漬した後、圧搾し、Brix4.6%のブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液に混濁成分の沈降促進のため、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)1000ppmとベントナイト500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。 上澄みを遠心(4000rpm)し、95℃で加熱殺菌した後、真空薄膜式循環濃縮機にて品温30〜40℃で減圧濃縮して、Brix50%まで濃縮した。 ブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した結果、S-(3-ヘキサン-1-オール)グルタチオンが1960.8nM(800ppb)(A)、S-(3-ヘキサン-1-オール)-L-システインが5203.6nM(1150ppb)(B)であり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の濃度は7164.4nM(1950ppb){(A)+(B)}、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。 実施例8 「冷凍処理、冷蔵処理をしたブドウ果皮(シャルドネ種)の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出速度比較」 ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%(w/w)のブドウ果皮を一方は−30℃で24時間冷凍し、他方は5℃で24時間冷蔵した。 それらの果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加え、20℃で0時間、1時間、24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体含量を測定し、Brix20%換算で算出した。 結果を図1a及び1bに示す。 図1a及び1bに示したとおり、冷蔵処理をしたブドウ果皮を24時間浸漬した場合のブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度と冷凍処理をしたブドウ果皮を1時間浸漬した場合のブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度は同等であった。 実施例9 「放置時間毎の3MH前駆体と総ポリフェノール量の試験(シャルドネ種)」 ブドウ(シャルドネ種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁して得た水分含量およそ70%の新鮮なブドウ果皮を1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜4時間放置した。 それぞれ0、0.5、1、2、4時間毎にブドウ果皮を50gずつ採取し、200mL容のビーカーに入れ、100g(2倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。 このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定した。 結果を表6に示す。
結果、放置時間を0.5〜4時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。 さらに乳酸菌の生育阻害や苦味の要因となる総ポリフェノール量が放置時間を0.5〜4時間置くことによって減少した。 実施例10 「3MH前駆体からみた放置時間上限の試験(シャルドネ種)」 ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量およそ67%のブドウ果皮をそれぞれ200gずつ採取し、1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜2時間したもの、およそ25℃で5時間放置後、およそ5℃で19時間放置し、合計24時間放置したものをそれぞれ用意した。 それぞれ0、0.5、1、2、24時間経過したブドウ果皮に400g(2倍量)の水を加え、15℃で1時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。 このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度を測定した。 結果を表7に示す。
結果、放置時間を0.5〜24時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。 実施例11 「放置時間毎の3MH前駆体と総ポリフェノール量の試験(甲州種)」 ブドウ(甲州種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁して得た水分含量およそ70%の新鮮なブドウ果皮を1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜5時間放置した。 それぞれ0、0.5、1、2、4、5時間毎にブドウ果皮を50gずつ採取し、200mL容のビーカーに入れ、100g(2倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。 このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定した。 結果を表8に示す。
結果、放置時間を0.5〜5時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。 さらに乳酸菌の生育阻害や苦味の要因となる総ポリフェノール量が放置時間を0.5〜5時間置くことによって減少した。 実施例12 「合成培地中での各種乳酸菌による変換1」 Lactobacilli MRS Broth(Difco社)55gを1000mLのイオン交換水と混合し、オートクレーブを用いて滅菌(120℃、15分)し、MRS培地(pH6.5)を調製した。 これに有機合成により調製した3MH-S-GSHを1250nMとなるように溶解させ、次いで滅菌済み15mLファルコンチューブに15mLずつ分注した。 これに表9記載の各種乳酸菌を約1.0×10 6 cfu/mL接種し、30℃で3日間静置培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を、前記実施例の直前に記載した分析方法に基づいて分析した。 結果を表9に示す。
実施例13 「合成培地中での各種乳酸菌による変換2」 実施例12と同様にMRS培地(pH6.5)を調製し、有機合成により調製した3MH-S-GSHを1000nMにとなるように溶解させ、次いで滅菌済み15mLファルコンチューブに10mLずつ分注した。 これに表10記載の各種乳酸菌を約1.0×10 6 cfu/mL接種し、30℃で3日間静置培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12と同様の方法で分析した。 結果を表10に示す。
実施例14 「果皮抽出液中での各種乳酸菌による変換1」 ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%のブドウ果皮を1ヶ月間冷凍保存した。 冷凍状態のブドウ果皮1.5kgに対して、3.0kg(2倍量)の水を加え、20℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix5%のブドウ果皮抽出液を得た。 得られたブドウ果皮抽出液にベントナイトを500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。 上澄みを珪藻土濾過した後、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix50%まで濃縮した。 ブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出したところ、ブドウ果皮抽出液中に含まれる3MH前駆体濃度9014.2nM(3MH-S-Cys:2895.8nM、3MH-S-GSH:6118.4nM)、総ポリフェノール濃度は1414ppmであった。 このブドウ果皮抽出液をBrix20%に調整し、発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は9014.2nM(3MH-S-Cys:2895.8nM、3MH-S-GSH:6118.4nM)、総ポリフェノール濃度は1414ppmであった。 これに発酵助成剤Fermaid K(Lallemand社)100mg/l、リン酸二水素アンモニウム1g/lを加え、100mLずつ180mL容のガラス容器に分注した。 このとき、pHは4.4であった。 表11記載の乳酸菌をそれぞれ約1.0×10 7 cfu/mL添加し、20℃で2日間静置培養した。 培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12におけると同様の方法で分析した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表11に示す。
実施例15 「果皮抽出液中での各種乳酸菌による変換2」 実施例7で調製したブドウ果皮抽出液をおよそBrix20%(pH4.2)に調整し、これを発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は7164.4nM(3MH-S-Cys:5203.6nM、3MH-S-GSH:1960.8nM)、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。 この発酵原料を300mLずつ360mL容のガラス容器に分注し、表12記載の乳酸菌を約1.0×10 7 cfu/mL添加し、30℃で2日間静置培養した。 培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12におけると同様の方法で分析した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表12に示す。
実施例16 「果皮抽出液中でのViniflora plantarum(クリスチャンハンセン社)による経時的な変換」 実施例15と同様に、ブドウ果皮を水で抽出し、濃縮することで得たブドウ果皮抽出液をおよそBrix22%(pH4.2)に調整し、これを発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は8028.1nM(3MH-S-Cys:6244.3nM、3MH-S-GSH:1783.8nM)、総ポリフェノール濃度は625ppmであった。 発酵原料500mLを750mL容のガラス容器に分注し、乳酸菌(Lactobacillus plantarum:Viniflora plantarum(クリスチャンハンセン社製))を3.5×10 6 cfu/mL添加し、20℃で144時間静置培養した。 経時的にサンプリングを行い、乳酸菌による3MH-S-GSHから3MH-S-Cysへの変換推移を調査した。 サンプリングした発酵液は3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12におけると同様の方法で分析した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表13に示す。
参考例1 「果皮抽出液中でのCY3079株による経時的な変換」 実施例16と同じ発酵原料500mLを750mL容のガラス容器に分注し、酵母(Saccharomyces cerevisiae:CY3079(Lallemand社製))を1.0×10 6 cfu/mL添加し、20℃で144時間静置培養した。 経時的にサンプリングを行い、乳酸菌による3MH-S-GSHから3MH-S-Cysへの変換推移を調査した。 サンプリングした発酵液は3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12におけると同様の方法で分析した。 結果を表14に示す。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表14に示す。
実施例17 「pH依存性の検討」 実施例15と同様に、ブドウ果皮を水で抽出し、濃縮することで得たブドウ果皮抽出液をおよそBrix20%に調整し、これを発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は5669.4nM(3MH-S-Cys:4416.3nM、3MH-S-GSH:1253.1nM)、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。 この発酵原料各500mLを水酸化ナトリウム、塩酸を用いて初発pH2〜9のいずれかのpHに調整した後、750mL容のガラス容器に分注し、発酵温度20℃で乳酸菌(Lactobacillus plantarum:Viniflora plantarum(クリスチャンハンセン社製))を約6.0×10 7 cfu/mL接種し、48時間静置培養した。 培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12におけると同様の方法で分析した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表15に示す。
実施例18 「温度依存の検討」 実施例15と同様に、ブドウ果皮を水で抽出し、濃縮することで得たブドウ果皮抽出液をおよそBrix22%(pH4.2)に調整し、これを発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は6216.5nM(3MH-S-Cys:4796.4nM、3MH-S-GSH:1420.1nM)、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。 この発酵原料各500mLを750mL容のガラス容器に分注し、10〜40℃の各発酵温度で乳酸菌(Lactobacillus plantarum:Viniflora plantarum(クリスチャンハンセン社製))を約6.0×10 7 cfu/mL接種し、48時間静置培養した。 培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を実施例12に記載した方法で分析した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表16に示す。
実施例19 飲料の調製及び官能評価 [発酵液の製造] 実施例15と同様に、ブドウ果皮を水で抽出し、濃縮することで得たブドウ果皮抽出液をおよそBrix22%(pH4.2)に調整し、これを発酵原料とした。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH-S-Cys濃度は5203.6nM、3MH-S-GSH濃度は1752.5nM、総ポリフェノール量は625ppmであった。 この発酵原料1400Lを2000L容のステンレス製タンクに入れ、乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×10 6 cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置発酵させた。 そのうち4Lを採取し、遠心分離によって乳酸菌を除去し、加熱滅菌することで発酵液を得た。 このとき、発酵液中に含まれる3MH-S-Cys濃度は6221.7nM、3MH-S-GSH濃度は0nM、総3MH濃度445.0nM(3MH:436.8nM、3MHA:8.2nM)であった。 これらの結果は、乳酸菌によって発酵原料中に含まれていた3MH-S-GSHが全て3MH-S-Cysに変換され、またその変換の過程で3MH前駆体の一部から3MH、3MHAが生じたものと考えられる。 [飲料の調製] 上記の発酵液を水に0〜20v/v%混合し、果糖ブドウ糖液糖(フジフラクトH-100(日本食品化工社製)、高果糖液糖(フジフラクトL-95(日本食品化工社製)を1:1の割合でおよそBrix7%となるように添加したのち、酒石酸を添加し、滴定酸度がおよそ2.2mLの飲料をそれぞれ調製した。発酵液を含まないものを比較例1、1〜20v/v%含むものをそれぞれ実施例19a〜19fとした。 [官能評価] 調製した比較例1および実施例19a〜19fの飲料について、7名の専門パネラーにより、「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」(評価項目A)、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」(評価項目B)、「嗜好性」(評価項目C)をそれぞれ5段階で評価した。 その結果、本発酵液を混合した実施例19a〜19fで「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」が向上し、「嗜好性」が増すと評価された。 なかでも実施例19b、19cが果実香、果実香の余韻の強さのバランスが優れていた。 また実施例19d〜19fでは果実香、果実香の余韻が強すぎると評価された。 結果を表17に示す。
実施例20 ブドウ果汁を用いた飲料の調製と官能評価[飲料の調製] 白ブドウ濃縮果汁(Brix68%)を水で希釈し、およそBrix20%に調整した。 これを白ブドウ濃縮還元果汁飲料(比較例2)とした。 このとき、白ブドウ濃縮還元果汁飲料の滴定酸度は4.8mLであった。 次に実施例19で用いた発酵液を前述の白ブドウ濃縮還元果汁に5v/v%混合し、本発明の飲料(実施例20)を調製した。 このとき、本発明の飲料のBrix(%)はおよそ20%、滴定酸度は4.9mLであった。 [官能評価] 調製した比較例2および実施例20の飲料について、7名の専門パネラーにより、「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」、「嗜好性」をそれぞれ5段階で評価した。 その結果、本発酵液を混合した実施例20で「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」が向上し、「嗜好性」が増すと評価された。 結果を表18に示す。
実施例21 総ポリフェノール濃度が3MH前駆体変換に及ぼす影響調査実施例15と同様に、ブドウ果皮を水で抽出し、濃縮することで得たブドウ果皮抽出液(Brix50%)150gと含水結晶ぶどう糖(日本食品化工社製)45gを混合したものを水で希釈し、およそBrix22%の発酵原料を500mL(pH4.6)調整した。 このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は4147.7 nM(3MH-S-Cys: 3054.3nM、3MH-S-GSH: 1093.4nM)、総ポリフェノール濃度は421ppmであった。 この発酵原料を各100mLに対してそれぞれポリフェノールの1種であるガリック酸を加え、総ポリフェノール濃度を421、803、1222、2414、4851ppmにそれぞれ調整したのち、180mL容のガラス容器に移し、発酵温度30℃で乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×10 6 cfu/mL接種し、2日間静置培養した。 培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を前記分析方法で測定した。 また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。 結果を表19に示す。
本発明により、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を多量に含むブドウ果皮抽出液を得ることができ、これを原料とすることで、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料を得ることができる。 |