【0001】 本発明は、腐蝕に対して金属製基体を防護する方法、特に金属の可能な腐蝕生成物の形成を、腐蝕生成物に比し、よりネガティブな生成エンタルピーを有する生成物をもたらす種と金属との競合反応または相互作用によって、実質的または完全に防止する方法に関する。 【0002】 電位化学列中のその位置が、水と反応することを意味する金属は、特定の条件下で、水および/または酸素による浸食を妨げる防護コーティングを必要とすることがある。 この目的のために、従来技術は、非常に様々なプロセスを含む。 アルミニウムの場合、アノード酸化(エロキサルプロセス(Eloxalprozess))が普及した方法であるが、マグネシウムの場合は、不可能でないとしても困難である。 金属表面上の浸食を妨げる別の可能性は、コーティング材の全コート厚を通して腐蝕を生じる種の浸透を妨害することである。 この目的のために、50μm以上のコート厚を使用することが必要である。 別の公知の防蝕方法においては、多孔性のゾルゲル・コートを基体に塗布し、続いて、ポリマーで、この場合シリコーンで繰返し含浸し、高い比率の無機構造により、比較的優れた拡散バリヤーを提供する。 しかしながら、この方法の不利な点は、多重含浸を必要とすることである。 その結果、この種の防護システムは、操作が複雑になり非常に高価になり、そのため、その原理は市場において確立されたものとはならなかった。 鉄金属の場合、腐蝕抑制顔料が一般に添加される。 【0003】 従って、本発明の目的は、好ましくは非常に高い耐摩耗性と組合せて、非常に広範囲な金属製基体のための効果的な防蝕を提供する(好ましくは透明な)コーティングシステムを開発することであった。 【0004】 本発明に従うと、この目的は、ケイ酸(ヘテロ)重縮合物に、金属(イオン)と結合または少なくとも相互作用することが可能であり、その間に自由界面エンタルピーが充分に低下されるような特定の種を供給し、無機ネットワークによりコーティング構造中に強固にこの種を封入または固定することによって、達成され得ることが見い出された。 該無機ネットワークにより、得られたコーティングは、高い耐摩耗性をも有し、該耐摩耗性は、ナノスケール粒子を混入することによって更に強化され得る。 ナノスケール粒子を混入する別の効果は、そのようなコートが透明に維持されることである。 【0005】 慣用されている防蝕コーティングの場合に、不動態化工程としてリン酸塩処理(Phosphatierung)またはクロメート処理(Chromatierung)を必要とする従来技術とは対照的に、本発明により使用される種が(ヘテロ)ポリシロキサン構造中に分子分散形態で混入される場合は、この工程は省かれても良い。 拡散プロセスにより、それらは湿式コーティング作業の間に界面に到達し、それらの安定化活性をそこで発揮する。 その結果、これら種は、従来技術の抗腐蝕顔料とも異なる。 透明なコートが望まれない場合は、勿論、系には、(本来の主要な防蝕活性を損なうことなく)顔料を追加配合することができる。 さらなる(別の)可能性は、弗素化側鎖の組込みであり(例えば、対応する加水分解性シランを介して)、それにより、そのようなコートは低い表面エネルギーを同時に提供する。 【0006】 従って、本発明は、金属由来の、種Xを生成する腐蝕から金属製基体を防護する方法を提供し、ここで、加水分解および縮合プロセスにより調製された(ヘテロ)ポリシロキサンに基づくコーティング組成物が、上記基体に塗布されて硬化され、該方法は、該コーティング組成物が少なくとも1つの種Zを含み、該種Zは金属と反応または相互作用して、種Xに比し、よりネガティブな生成エンタルピーを有する種Yを形成することを特徴とする。 【0007】 以下の記載において、本発明を、その好ましい実施態様を参照しつつ更に説明する。 【0008】 下記で使用される用語「腐蝕」は、種Xの生成を伴って対応する金属カチオンへの酸化(変換)をもたらす、金属のあらゆる変化を指す。 そのような種Xは、一般に、(必要に応じて水和された)金属の酸化物、炭酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩または硫化物(例えば、Agに対するH 2 Sの作用の場合)である。 【0009】 本明細書および請求の範囲中で使用される用語「金属製基体」は、全体として金属からなる又はその表面上に少なくとも1種の金属層を有する、あらゆる基体を指す。 【0010】 本明細書において、用語「金属」および「金属製」は、純粋な金属のみならず、金属および金属合金の混合物をも包含し、これらの金属および金属合金は、腐蝕に対して感受性を有することが好ましい。 【0011】 従って、本発明の方法は、鉄、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、銀および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属製基体に特に有利に適用され得るが、本発明の適用範囲は、これら金属に制限されるものではない。 本発明から特に恩恵を被り得る金属合金としては、特に、スチールおよび黄銅並びにアルミニウム合金が言及され得る。 【0012】 本発明で使用される加水分解および縮合プロセスによって調製される(ヘテロ)ポリシロキサンに基づくコーティング組成物は、好ましくは、下記一般式(I) R 4-X SiR' x (I) [式中、基Rは、同一または異なっていてもよく(好ましくは同一である)、加水分解により除去し得る基であり、好ましいのはアルコキシ(特に1〜6個の炭素原子を有するもの、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよびブトキシ)、ハロゲン(特にClおよびBr)、水素、アシルオキシ(好ましくは、例えばアセトキシのような2〜6個の炭素原子を有するもの)および−NR'' 2 (ここで、基R''は同一または異なっていてもよく、好ましくは水素またはC 1-4アルキル基である)であり、特に好ましいのは、メトキシまたはエトキシである;R'は、アルキル、アルケニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アリールアルケニル、アルケニルアリール(好ましくは、それぞれの場合、1〜12個、特に1〜8個の炭素原子を有するものであり、環式形態を含む)であり、これらの基は、その骨格中に酸素、硫黄または窒素原子または基−NR''を含んでいてもよく、また、ハロゲンおよび置換もしくは非置換のアミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、イソシアナト、ヒドロキシル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、リン酸、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、アルケニル、エポキシおよびビニル基からなる群から選ばれる1以上の置換基を有していてもよい;xは、1、2または3(好ましくは、1または2、特に1)である。 ] で表される少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物から誘導される。 【0013】 特に好ましいケイ素出発物質化合物は、Rがメトキシまたはエトキシであり、xが1であり、R'が重付加反応(付加重合を含む)および/または重縮合反応に服し得る部分を含む基で置換されているアルキル基(好ましくは、2〜6個の特に好ましくは2〜4個の炭素原子を有するもの)である上記一般式(I)の化合物である。 特に好ましくは、上記重付加および/または重縮合反応に服し得る部分は、エポキシ基である。 【0014】 従って、上記の一般式(I)中のR'は、特に好ましくは、ω−グリシジルオキシ−C 2-6アルキル基、より好ましくはγ−グリシジルオキシプロピル基である。 特に好ましいケイ素化合物の具体例は、従って、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランおよびγ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランである。 【0015】 上記の加水分解性ケイ素化合物に加えて、本発明に従い使用される(ヘテロ)ポリシロキサンは更に、他の加水分解性ケイ素化合物(当業者に公知)、例えば、上記一般式(I)中のxが0である化合物(例えば、テトラエトキシシラン)から、また他の加水分解性化合物、特にTi、Zr、Al、B、SnおよびVからなる群から選ばれる元素、特にアルミニウム、チタンおよびジルコニウムから選ばれる元素を含有する加水分解性化合物から誘導し得る;しかしながら、そのような化合物(モノマー基準で)は、使用される全ての(モノマー性)加水分解性化合物の50モル%以下であることが好ましい。 【0016】 本発明に従い使用されるコーティング組成物の更なる(必要に応じて使用される及び好ましい)成分は、下記に示される。 【0017】 より更に向上した耐磨耗性を防蝕コートに与えるために、コーティング組成物に、ナノスケール粒子を含有させてもよい。 これらナノスケール粒子(所望ならば、表面修飾されていて良い)は、好ましくは、ケイ素、アルミニウムおよびホウ素、さらに遷移金属(特にTiおよびZr)の酸化物、酸化物水和物ならびに炭化物から選ばれるものを含む。 これらのナノスケール粒子は、1〜100、好ましくは2〜50、特に好ましくは5〜20nmの範囲のサイズを有する。 コーティング組成物の調製に関連して、ナノスケール材料は、粉末の形態で使用してもよいが、水性またはアルコール性のゾルの形態で使用するのが好ましい。 本発明で使用する特に好ましいナノスケール粒子は、SiO 2 、TiO 2 、ZrO 2 、AlOOHおよびAl 2 O 3 、特にSiO 2および酸化アルミニウム(特にベーマイトの形態)のナノスケール粒子である。 これら粒状の材料は、粉末として及びゾルとして市販されている。 高い耐引掻性に価値が置かれるときは特に、ナノスケール粒子は、マトリックスの固形分含量に対して50重量%までの量で使用され得る。 一般に、ナノスケール粒子含量は、それが本発明に従い使用される組成物中に混入されるなら、マトリックス固形分含量に対して3〜50、特に5〜40重量%の範囲内である。 【0018】 加水分解性の出発シランが、少なくとも1種の上記一般式(I)の化合物(ここで、R'は、重付加および/または重縮合反応に服し得る部分を有する)を含む場合、コーティング組成物に有機ネットワーク形成成分を含有させることが有利であり得る。 重付加および/または重縮合反応に服し得る部分がエポキシ基の場合、これらの有機ネットワーク形成成分は、(芳香族)ポリオールあるいは脂肪族および/または芳香族のモノおよび/またはポリエポキシドを含むのが好ましい。 芳香族ポリオールとしては、そのフェニル環の少なくとも2つの上にヒドロキシル基を有するポリフェニレンエーテル、さらに一般的に、芳香環が単結合、−O−、−CO−、−SO 2 −などで互いに結合されており、少なくとも(および、好ましくは)2つのヒドロキシル基が芳香族基に結合している化合物(またはオリゴマー)である。 特に好ましい芳香族ポリオールは、芳香族ジオールである。 これら芳香族ジオールの中で、特に好ましいのは、一般式(II)および(III)で表される化合物: 【0019】 【化1】
【0020】 [式中、Xは、C
1 −C 8アルキレンまたはアルキリデン基、C 8 −C 14アリーレン基、−O−、−S−、−CO−、−SO 2 −であり、nは0または1である]である。 一般式(II)中のXの好ましい定義は、C 1 −C 4アルキレンまたはC 1 −C 4アルキリデン、特に−C(CH 3 ) 2 −、および−SO 2 −である。 一般式(II)および(III)の化合物において、芳香環は、OH基に加えて、例えば、ハロゲン、アルキルおよびアルコキシのような4または3個の更なる置換基を有していてもよい。 【0021】
一般式(II)および(III)の化合物の具体例は、ビスフェノールA、ビスフェノールSおよび1,5-ジヒドロキシナフタレンである。
【0022】
脂肪族および芳香族のモノ-およびポリエポキシドの中で、特に好ましいのは、一般式(IV)〜(VIII)の化合物:
【0023】
【化2】
【0024】
[式中、Xは、C
1 −C 20アルキレンまたはアルキリデン基、C 9 −C 14アリーレン基、または20個までの、好ましくは12個までの炭素原子を有するアルケニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アリールアルケニルまたはアルケニルアリール基であり、これらの基は、骨格中に酸素、硫黄または窒素原子または基−NR''(前記に同じ)を含んでいてもよく、また、ハロゲンおよび置換もしくは非置換のアミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、イソシアナト、ヒドロキシル、リン酸、アクリルオキシ、メタクリルオキシ、アルケニル、エポキシおよびビニル基からなる群から選ばれる1以上の置換基を有していてもよい]である。 【0025】
一般式(IV)〜(VIII)の化合物の具体例は、2,3-エポキシプロピルフェニルエーテル、4-ビニル-1-シクロヘキセンジエポキシド、1,3-ブタジエンジエポキシド、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールビス(2,3-エポキシ-プロピルエーテル)およびビス[4-[ビス(2,3-エポキシプロピル)-アミノ]フェニル]メタンである。
【0026】
必要に応じて(および好ましくは)、コーティング組成物は、有機架橋(そのような架橋が、使用される出発化合物に基づいて可能な場合)のための開始剤を含有していてもよい。 この開始剤は、例えば、上記のエポキシ含有化合物の場合、アミン、チオール、酸無水物またはイソシアネートを含み得る。 好ましくは、それはアミンであり、特に窒素複素環である。
【0027】
開始剤の具体例は、1-メチルイミダゾール、ピペラジン、エタンチオール、無水コハク酸および4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)である。 しかしながら、開始剤として、(好ましくは、加水分解性の)アミノ官能性シランを使用することも可能であり、その例は、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランまたはN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0028】
本発明に従い使用される防蝕組成物が、さらに、疎水性、疎油性および汚れ防止(schmutzabweisende)特性を与えられるべき場合は、上記の加水分解性シランに、Siから少なくとも2原子離れた炭素原子(複数)に5〜30個の弗素原子が結合している少なくとも1種の非加水分解性基を有するものを補足することが有利である。 そのようなシランは、例えば、DE-A-41 18 184に記載されている。 その具体例は、以下の通りである:
C
2 F 5 CH 2 −CH 2 −SiY 3 、 n−C
6 F 13 CH 2 CH 2 −SiY 3 n−C
8 F 17 CH 2 CH 2 −SiY 3 n−C
10 F 21 CH 2 CH 2 −SiY 3 (Y=OCH
3 , OC 2 H 5またはCl) i−C
3 F 7 O−(CH 2 ) 3 SiCl 2 (CH 3 ) n−C
6 F 13 CH 2 CH 2 SiCl 2 (CH 3 ) n−C
6 F 13 CH 2 CH 2 SiCl(CH 3 ) 2 。 【0029】
本発明に必須であり、本発明コーティング組成物に組込まれなければならない種Zは、腐蝕に対して防護されるべき金属(単数または複数)と反応または少なくとも相互作用する種を含み、その間に、本発明による処理のための金属製基体の金属(単数または複数)の腐蝕生成物になると予想されるであろう種Xに比し、よりネガティブな生成エンタルピーを有する種Yを形成する。 換言すれば、それぞれの金属は、腐蝕を惹起する種(例えば、酸素、水、H
2 Sなど)とよりも、本発明に従い使用される種Zと、より熱力学的に安定な化合物を形成する。 【0030】
本発明によれば、種Zは、(ヘテロ)ポリシロキサンまたはコーティング組成物の任意の他の成分に結合(例えば、共有結合を介して結合)されていてもよく、或いは、単にコーティング組成物中に分子的に分散した形態で存在していてもよく、この組成物の硬化の過程で無機骨格中に包囲され得る。 種Zと金属とが直接接触し、且つ金属と種Zとが反応または相互作用してYを形成することが可能である限り、コーティング組成物中に種Zを組込むための他のいかなる想像し得る方法も勿論、可能である。
【0031】
種Yは、例えば、対応する金属カチオンの錯体化合物または低溶解性塩を含み得る。
【0032】
単に例示として、アルミニウムに関して、種Yとしての好適な化合物は、例えば、一般にアルミニウム酸化物(腐蝕生成物=種X)よりも低い自由エンタルピーを有するケイ酸アルミニウム(Si−O−Al結合)、およびリン酸塩等である。 リン酸塩は、マグネシウムまたは鉄基体にも同様に、特に好適である(この場合、特に亜鉛化合物と組合せるのが好ましい)。
【0033】
低溶解性塩の中では、例えば、ヨウ化銀およびシアン化銀、ムライト(3Al
2 O 3・2SiO 2 )、リン酸アルミニウム、硫化鉄(FeS)、リン酸鉄(FePO 4 )など、リン酸マグネシウム、マグネシウムアンモニウムホスフェート(Magnesiumammoniumphosphat)、ドロマイト(CaMg(CO 3 ) 2 )、ケイ酸マグネシウム(MgSiO 3 )、スピネル(MgAl 2 O 4 )、リン酸亜鉛(Zn 3 (PO 4 ) 2 )、ケイ酸亜鉛(ZnSiO 3 )、硫化亜鉛、ヒ酸亜鉛(Zn 3 (AsO 4 ) 2 )、酸化アルミニウム亜鉛(Aluminium-Zinkoxid)(ZnAl 2 O 4 )などが挙げられる。 【0034】
非常に一般的なこととして、錯体リガンドとして代替的に機能し、金属と不溶性化合物を形成し、または金属と他の熱力学的に(より)安定な化合物−どのような種類であってもよい−を形成し得る好適な種Zの具体例は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨード、ヒドロキソ、オキソ、ペルオキソ、ニトリト-O、テトラヒドロフラン、シアナト、フルミナト-O(Fulminato-O)、チオシアナト、チオ、ジスルフィド、メルカプト、メルカプトベンゾチアゾール、トリチオン(Trithion)、アンミン、アミド、イミド、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ニトロシル、ニトリト-N、シアノ-N、ニトリル、イソシアナト、イソチオシアナト、ピリジン、α,α-ビピリジル、フェナントロリン、トリフルオロホスフィン、ホスファン(Phosphan)、ホスホナト、ホスファト、アンモニウムホスファト、エチレンジアミンテトラアセテート、アセチルアセトネート、ヒ酸塩、ベンゾエート、カルボニル、シアナト-C、イソニトリルおよびフルミナト-Cさらに酸化マグネシウム、亜鉛および酸化亜鉛である。
【0035】
これらの種Zの中で、特に好ましいのは、リン酸塩またはリン酸塩形成前駆体および、イソシアネート、アミン、ベンゾエートのような錯生成剤(Komplexbildner)、さらにMgO、ZnおよびZnOである。
【0036】
勿論、種Zの選択は、防護されるべき特定の金属および対応する種Xに、常に依存する。
【0037】
下記の表1〜4(イシャン バリン(Ishan Barin):"サーモケミカル データ オブ ピュア サブスタンシズ"("Thermochemical Data of Pure Substances"), クナッケ、クバシェウスキー、ヘッセルマン(Knacke, Kubaschewski, Hesselmann):"サーモダイナミカル プロパティーズ オブ イノーガニック サブスタンシズ"("Thermodynamical Properties of Inorganic Substances")および"ハンドブック オブ ケミストリー アンド フィジックス"("Handbook of Chemistry and Physics")より)は、生成エンタルピーおよび生成エネルギーの概観ならびにAl、Mg、ZnおよびFeに由来する種XおよびYの熱水中での溶解度の概観を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表1から、アルミニウムの可能な腐蝕生成物(酸化物)は、例えば、リン酸アルミニウムまたはケイ酸アルミニウムに比し、よりポジティブな生成エンタルピーを有することが明らかである。 これは、可能な腐蝕生成物Xが、本発明に従い生成される種Yよりも低い熱力学的安定性を有することを意味する。 この特性は、原則として、電気分解プロセスによってアノード的に産生された酸化アルミニウム層に基づく防蝕コーティングの製造に関しても活用される(コランダムのΔH
fを他の酸化アルミニウムのΔH fと比較のこと)。 しかしながら、本発明の利点は、当該プロセスでは、プロセスの電気的援助を排除することが可能であるという点である(当該プロセスは、化学的に電流のないプロセスである)。 さらに、コーティング組成物へのナノスケール材料の混入により特に、磨耗に対する非常に効果的な防護を達成することができる。 【0043】
表2は、マグネシウムの可能な腐蝕生成物X(酸化物、ベーシッククロライド)が、例えば、マグネシウムのリン酸塩、スピネルおよびケイ酸塩(Y)よりも定量的に小さい生成エンタルピーを示すことも示している。 更なるファクターは、熱水および酸中で一番最後に挙げた化合物の、より低い溶解度である。
【0044】
同様の結論は、亜鉛化合物および鉄化合物の場合に、表3および4から引出され得る。
【0045】
本発明に従い使用される組成物は、この分野において慣用されている方法で調製される。 好ましくは、上記一般式(I)の加水分解性ケイ素化合物(一種または複数種)(ここで、xは1、2または3である)を、加水分解性基の1モル当り一般に0.25〜3モルの、好ましくは0.5〜1モルのH
2 Oを用いて、および好ましくは(好ましくは酸性の)触媒、特に好ましくは希リン酸を用いて、先ず(室温で)加水分解する。 これに続いて、例えば、他の成分が任意の順序で付加される;使用される場合、有機架橋のための(好ましい)開始剤は、合成の終わりに加えるのが好ましい。 なぜなら、当該コーティング組成物のポットライフに影響を及ぼす場合があるからである。 【0046】
或いは、ナノスケール粒子を使用するとき、加水分解は、例えば、ナノスケール粒子の存在下に行なってもよい。
【0047】
もし(就中)、xが0である一般式(I)のケイ素化合物が使用される場合、その加水分解は、例えば一般式(I)の他のシランを加水分解する間に、上記の条件下で該シランを共に加水分解することにより起こり得る。 しかしながら、それは、他の加水分解性シランの加水分解とは別に、加水分解性基の1モル当り0.25〜3モルの、特に好ましくは0.5〜1モルのH
2 Oを用いて、且つ鉱酸、好ましくはHClを加水分解触媒として用いて、行なうのが好ましい。 【0048】
コーティング組成物の流動学的特性を確立するために、所望ならば組成物に、不活性溶媒を、調製の任意の段階で加えてもよい(好ましくは、これらの溶媒は、室温で液体であるアルコール−該アルコールは、好ましくは使用されるシランの加水分解の間にも形成される−を含み、および/または室温で液体であるエーテルアルコールを含む)。
【0049】
本発明に従い使用されるコーティング組成物には、例えば、着色剤、均展剤、UV安定化剤、光開始剤、光増感剤(組成物の光化学的硬化が意図される場合)および熱重合触媒(例は、有機架橋のための上述の開始剤である)のような慣用されている添加剤を添加することも可能である。
【0050】
コーティング組成物は、例えば、浸漬、スプレディング、ブラッシング、ナイフコーティング、ローリング、噴霧、スピンコーティング、スクリーン印刷およびカーテンコーティングのような標準的コーティング方法によって、金属製基体に塗布され得る。
【0051】
予め室温で乾燥(溶媒の部分的除去)してすぐに又は後で、硬化を続いて行なう。 硬化は、好ましくは、50〜300℃の、特に70〜220℃の、特に好ましくは90〜130℃の範囲の温度で熱的に起こる。
【0052】
コーティング組成物は、金属製基体に、好ましくは1〜50μm、特に2〜20μm、特に好ましくは5〜10μmの乾燥コート厚で塗布される。
【0053】
高い透明性に加えて、本発明に従い塗布されるコーティングは、特に非常に高い耐引掻性(ナノスケール粒子の使用により更に強化される)、汚れ防止(schmutzabweisende)特性(弗素化シランが追加的に使用される場合)および優れた腐蝕抑制特性において卓越している。 特に言及すべきは、コートされるべき金属表面を清浄(脱脂)するだけでよいという事実である。 例えば、クロメートまたはリン酸塩のような付着促進剤を使用する必要はない。
【0054】
本発明の具体的適用分野および使用例は、以下を含む:
建設 、例えば、スチール製の基体および型枠材料、表面支持体(Strebausbau)、ピット打ち機(Grubenstempel)、トンネルおよびシャフトの内張建築物、絶縁建築エレメント、2枚の金属プロファイルシートおよび1つの絶縁金属層を含む複合シート、シャッター、フレームワーク建築物、屋根構造材、取付および供給導管、スチール防護板、街路灯および街路信号、スライディングおよびローリング式保護格子戸(Scheren- und Rollgitter)、ゲート、ドア、窓およびそれらのフレームとパネル、スチールまたはアルミニウム製のゲートシールまたはドアシール、防火扉、タンク、収集容器、ドラム、鉄、スチールまたはアルミニウム製のバットおよび類似の容器、加熱ボイラー、ラジエータ、スチームボイラー、内装を有する又は有しないホール、建物、ガレージ、ガーデンハウス、スチールまたはアルミニウム製シートからなる化粧材、化粧材のためのプロファイル、窓枠、化粧材エレメント、亜鉛ルーフ;
乗り物 、例えば、自動車、ローリーおよびトラックのマグネシウム製の車体パーツ、アルミニウムを含有し含む道路用乗り物、電気物品、リム、アルミニウム(クロムメッキを含む)またはマグネシウム製の車輪、エンジン、道路用乗り物のための駆動エレメント、特にシャフトおよびベアリングシェル、多孔性ダイカストコンポーネントの含浸、航空機、船舶スクリュープロペラ、船、ネームプレートおよび識別プレート。 【0055】
家庭およびオフィス用品 、例えば、スチール、アルミニウム、ニッケル−銀または銅製の家具、棚ユニット、衛生用設備、台所設備、照明装置(ランプまたはライト)、太陽光装置、錠前、建具、ドアおよび窓ハンドル、調理器具、フライ用食器および食卓用食器、レターボックスおよび箱様構造物、鋼鉄製金庫(Panzerschranke)、安全金庫(Sicherheitskasseten)、ソーティング、ファイリングおよびファイルカード箱、ペントレー、スタンプホルダー、フロントプレート、スクリーン、識別プレート、スケール;
日常使用の用品 、例えば、タバコケース、シガレットケース、コンパクト、口紅ケース、武器、例えば、ナイフおよび銃、ナイフのためのハンドルおよびブレードまたは大ばさみ及びハサミブレード、工具、例えば、スパナ、プライヤーおよびドライバー、ねじ、釘、金属メッシュ、スプリング、チェーン、鉄またはスチールウール及びスポンジ、バックル、リベット、カット用製品、例えば、カミソリ、安全カミソリ、カミソリの刀、マグネシウム製メガネレンズ、刃物類(Besteck)、スキ、シャベル、クワ、オノ、手オノ(Beile)、楽器、時計および腕時計の針、装身品および指輪、ピンセット、クリップ、フック、留め環、グラインディングボール(Mahlkugeln)、汚物カゴ(Schmutzkorbe)および排水グリル、ホースおよびパイプささえ、スポーツ器具、例えば、スクリューインスパイク(Schraubstollen)およびゴールフレーム(Torgestelle)。 【0056】
耐摩耗性を強化するためのコーティングは、例えば、鉄およびスチール製製品、特に、鉄製、非合金、ステンレスもしくは他の合金鋼製プロファイル、ストリップ、プレート、シート、コイル、ワイヤおよびパイプ、非合金、ステンレスもしくは他の合金鋼製の光輝、亜鉛メッキまたは他のメッキを施した半仕上げ鍛造物品;
アルミニウム、特にホイル、薄いストリップ(dunne Bander)、シート、プレート、ダイキャスト、半製品(Halbzeug)、または圧縮、孔開けもしくは引き延ばされたパーツ(Ziehteile);
注型により、または電気分解もしくは化学的方法により作製された金属コーティング;およびコーティング、グレージングまたはアノード酸化により強化された金属表面に適している。
【0057】
耐摩耗性を強化するためのコーティングは、例えば、宝石類、時計およびそのパーツ、並びに金および白金製の指輪に好適である。
【0058】
拡散バリヤー層は、例えば、釣り用鉛製重り、重金属汚染を防ぐためのステンレススチール上の拡散バリヤー、送水管、ニッケルまたはコバルトを含む道具、または宝石類(抗アレルギー)に好適である。
【0059】
表面均展/摩擦摩耗減少コートは、例えば、シール、ガスケットまたはガイドリングに好適である。
【0060】
以下に示す実施例は、本発明を例示する役割を果たすが、その範囲を制限するものではない。
【0061】
参考例1 a) コーティングゾルの調製
236.35gのγ-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GPTMS)を、1000mlの2口フラスコに投入し、攪拌下、54.0gの0.1M オルトリン酸(H
3 PO 4 )と混合した。 反応混合物を、室温で終夜(14時間)攪拌した。 その後に97.21gのSiO 2ゾル(IPA-ST、日産化学工業から入手可能; 2-プロパノール中30重量%、粒度:10nm)を加えた後、攪拌を室温で10分間続けた。 混合物を、2000mlのガラス製ボトルに移し、その後、437.5gのイソプロポキシエタノール(IPE)中91.31gのビスフェノールA(BPA)溶液を、加水分解生成物に加え、攪拌をさらに10分間続けた。 その後、2.05gの1-メチルイミダゾール(MI)および8.97gの3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)を、攪拌しながら滴下した。 コーティングゾルの粘度は、8〜25mPa・sであった。 b) 金属の脱脂 アルミニウム構造部材(AlSi12)の表面を、界面活性剤含有アルカリ性クリーナー(P3-Almeco18(登録商標)、ヘンケル(Henkel)製、3%強度の水溶液)を用いて、50℃で脱脂した。 該構造部材を、洗浄用製品の浴に3分間浸漬し、続いて、脱イオン水を流してすすぎ落とした(時間:1分)。 その後、該部材を、熱対流炉(70℃)中で10分間乾燥した。
c) コーティングゾルの塗布 脱脂した基体(b)を参照)を、コーティングゾルに浸漬した。 1分後、それらを取出し、過剰のコーティング材料をスピニングにより金属表面から除去した。 その後、コーティングを、熱対流炉(180℃)中に30分間貯蔵することによって硬化させた。 透明なコートは、コート厚7〜30μmで優れた付着性を示した。 コートされた試験片を、塩水噴霧環境(Salzspruhnebelklima)(DIN 50021、CASS)に供した。 120時間さらしたところ、表面損傷は無かった;引掻き傷クリープ(Unterwanderung am Ritz)は、1mm未満であった。
【0062】
実施例1 a) コーティングゾルの調製
23.64gのGPTMSをフラスコに投入し、7.7gのシリカゾル(200S、バイエル(Bayer)製、水中30重量%;粒度:7-8nm)中に安息香酸ナトリウム7.8mgを含む溶液を、攪拌下、加えた。 最初曇っていた2相混合物を、室温で5時間攪拌し、その後、9.2gのエタノール中9.13gのBPA混合物を加え、合せた混合物を更に18時間攪拌した。 その後、0.41gのMIを加え、攪拌を40分間続けた。 得られた透明なゾルは、6日間より長いポットライフを有していた。
b) コーティングゾルの塗布 アルミニウム・パネル(Al 99.5)を、1 b)に記載されるように脱脂し、試験片を、アルカリ浴中に浸漬した直後、20%強度の硝酸中に10秒間さらに浸漬した。 塗料を、5mm/秒の引出し速度(Ziegeschwindigkeit)を用いて、浸漬法により金属パネルに塗布した。 硬化は、130℃、60分間で起きた。 コートの乾燥厚は、約9μmであった。 塩水噴霧ミスト環境(CASS)に240時間さらした後、表面損傷は無かった;引掻き傷クリープは、0.4mm未満であった。 スチール(ST 37)上に同様にして形成されたコーティングは、CASS中の120時間暴露に耐え、腐蝕の発生は無かった。
【0063】
実施例2 a) コーティングゾルの調製
5.4gの0.1N HClを、47.2gのGPTMS中に導入し、混合物を室温で2時間攪拌した。 その後、18.26gのBPAを、40gのエタノールおよび20gのブチルグリコール中に溶解し、プレ加水分解産物に加えた。 22.7gのMgOを加えた後、ガラス製ビーズをゾルに加え、続いて、それをプラスチック製ボトル(レッド デビル(Red Devil); MgOの分散)中で振とうした。 最後に、3.58gのAPTSを、攪拌下に、加えた。 APTSを添加後、ポットライフは1時間以上である。
b) コーティングゾルの塗布 マグネシウム構造部材(AZ91, AM50)を、上記1 b)に記載されるように脱脂した。 上述のように調製されたゾルを、市販されているコーティング・ガン(SATA-Jet)を用いて該部材に塗布した。 硬化は、熱対流炉(170℃)中、30分間で起きた。 続いて、幾つかのコートされたサンプルを、釘の半分が上記部材中に残るようにスチール製釘で孔をあけた。 これは、塩水噴霧ミストテスト(CASS)暴露内での接触腐蝕をシミュレートするために行った。 48時間の暴露時間後、いかなる腐蝕損傷も金属表面上に観察されなかった。 スチール製釘からのクリープは、1 mm未満であった。
【0064】
参考例2 a) 粒状ゾルの調製
37.3gのテトラエトキシシラン(TEOS)および23.3gのSiO
2ゾル(バイエル(Bayer)シリカゾル300/30)を、119.3gのメチルトリエトキシシラン(MTEOS)に、室温で攪拌しながら加えた。 充分に攪拌しながら、23.3gの二重蒸留水を添加し、1.2gの濃塩酸をゆっくり滴下して、シランを加水分解した。 この反応の間、多量の熱が発生され、透明な無色のゾルは、ミルキーホワイトまでの変化を示し、無色に戻るのが観察された。 b) マトリックスの調製
236.3gのGPTMSを、27gの(0.1M)H
3 PO 4を加えることによって、室温でプレ加水分解した。 c) コーティングゾルの調製
68.5gのエタノールおよび68.5gのブチルグリコールに溶解させた、50.06gの2,2'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS、以下BPSという)を、GPTMSプレ加水分解物に加えた。 粒状ゾル(a)を参照)を添加後、透明な無色のコーティングゾルが形成され、その有機架橋のために開始剤として1.64gのMIを加えた。
d) コーティングゾルの塗布 上記c)で調製されたコーティングゾルを、金属表面(アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、銀;1b)と同様にして脱脂)に標準的コーティング技術(例えば、スピンまたはディップコーティング)で塗布した。 ゾルを、130℃で熱処理して硬化した(硬化時間:1時間)。 これにより、5〜20μmのコート厚が得られた。 コートされた亜鉛構造部材を、塩水噴霧ミストテスト(DIN 50021, SS)に供した。 48時間の暴露時間後、腐蝕による損傷は無かった。 これら試験片の熱サイクル安定性(thermische Wechselbestandigkeit)を、−40℃〜100℃でテストした;200サイクル後、コーティングに損傷は無かった。 加湿条件下(95℃、95%RH)で120時間貯蔵した後、亜鉛基体は、損傷を示さなかった。 コートされた銀試験片は、曇ることなく、H
2 S雰囲気で48時間の貯蔵期間を耐えた。 【0065】
参考例3 a) マトリックスの調製
94gの0.01M HClを、2000mlの丸底フラスコ中で、1524gのγ-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)に加えて、混合物を先ず室温で4時間攪拌した。 次に、2相の反応混合物を還流下に加熱し、約100℃でさらに2.5時間攪拌した。 得られた単一相の混合物を、室温に冷却し、5 lのガラスボトルに移し、順次、1000gのSiO
2ゾル(IPA-ST)および2.5gの水酸化テトラヘキシルアンモニウム(THAH)と混合した。 b) コーティングゾルの調製
3.24gの2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールビス(2,3-エポキシプロピルエーテル)および0.28gのピペラジン(開始剤として)を、上記a)で調製された14.76gのゾルに加えた。 10gのエタノールおよび10gのイソプロポキシエタノールを、得られた混合物に加え、続いて、それを室温で30分間攪拌した。
c) コーティングゾルの塗布 アルミニウム・パネル(Al 99.5)を、上記1 b)と同様にして脱脂した。 コーティングを、引出し速度5mm/秒で浸漬法により、金属パネルに塗布した。 硬化は、130℃、2時間で起きた。 コート厚は、約7μmであった。 太陽光暴露テストにおける500時間のUV暴露後、無色の透明なコートは、可視光線の波長範囲で吸収損失を示さなかった。 コーティングのスコアリング硬度(修飾されたエリクセン(Erichsen)試験)は、50gであった。 塩水噴霧ミスト環境(CASS)中で120時間の暴露後、表面損傷は無かった。 引掻き傷クリープは、1.0mm未満であった。
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