高耐久性を有する熱可塑性樹脂組成物

申请号 JP2013507850 申请日 2012-03-29 公开(公告)号 JPWO2012133927A1 公开(公告)日 2014-07-28
申请人 ニッタ株式会社; 发明人 敏明 笠崎; 敏明 笠崎; 吉田 隆彦; 隆彦 吉田; 将司 清水; 将司 清水; 真介 上垣; 真介 上垣; 陽子 大西; 陽子 大西;
摘要 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)に変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比が1〜3.5であり、且つ平均分散粒子径が3μm以下である。前記変性エチレン共重合体(B)は、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性された、エチレンと、(i)エチレン以外のオレフィン成分、(ii)ジエン成分、及び(iii)エチレン性不飽和基を有するエステル成分から選択された少なくとも1種のモノマー成分との共重合体であるのが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐久性、特に、耐屈曲疲労性に著しく優れ、大きな負荷をかけた状態で長時間使用しても、または負荷を受けた時間が短時間であっても、摩耗、損傷、クラック、破断等が生じにくい。
权利要求
  • 熱可塑性樹脂(A)に変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比が1〜3.5であり、且つ平均分散粒子径が3μm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
  • 変性エチレン共重合体(B)が、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性された、エチレンと、(i)エチレン以外のオレフィン成分、(ii)ジエン成分、及び(iii)エチレン性不飽和基を有するエステル成分から選択された少なくとも1種のモノマー成分との共重合体である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリアセタール樹脂から選択された少なくとも1種である請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 熱可塑性樹脂(A)が熱可塑性エラストマー(A1)である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 熱可塑性エラストマー(A1)が、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)及びポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)から選択された少なくとも1種である請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 変性エチレン共重合体(B)と熱可塑性樹脂(A)との重量割合[(B)/(A)]が0.1/99.9〜60/40の範囲である請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)に変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)を分散含有させた熱可塑性エラストマーアロイである熱可塑性樹脂組成物。
  • 前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)とポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)の重量割合[(B1)/(A11)]が0.1/99.9〜60/40の範囲である請求項7記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)が、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性されたエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムである請求項7又は8記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 前記熱可塑性エラストマーアロイ中における前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)の平均分散粒子アスペクト比が1〜3.5であり、且つ平均分散粒子径が3μm以下である請求項7〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 硬度(JIS K6253 デュロメータタイプA)が60以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  • 請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品(但し、ベルトを除く)。
  • 成形品が、チューブ、ホース、吸着パッド、防振ダンパー、防振継ぎ手、ショックアブソーバ、キャスター、ローラー又はパッキンである請求項12記載の成形品。
  • 说明书全文

    本発明は、熱可塑性樹脂組成物、より詳しくは、耐久性、特に高耐屈曲疲労性を有する熱可塑性樹脂組成物、及び該熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品に関する。

    ウレタン系の熱可塑性エラストマー(TPE)である熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、良好な弾性を有するとともに、耐摩耗性、機械的強度、耐薬品性等に優れるため、ベルト製品、チューブ、ホース、その他各種成形品の材料として使用されている。

    しかしながら、熱可塑性ポリウレタンにより形成された成形品を大きな負荷を連続的あるいは断続的にかけた状態で長時間使用すると、損傷を受けたり、破断にいたる場合がある。 例えば、熱可塑性ポリウレタンにより形成されたベルト製品を長時間使用すると、ベルト部材等が摩耗したり、ベルト部材にクラックが入ることがある。

    特開平11−349804号公報には、熱可塑性ポリウレタンと、エチレン−プロピレンゴム(EPM)及び/又は変性エチレン−プロピレンゴム(変性EPM)とを、前者/後者(重量比)=3/1〜999/1の割合で含有するブレンドが開示されている。 しかしながら、このブレンドを用いた成形品を重負荷状態で長時間使用した場合の耐久性、特に、耐屈曲疲労性は必ずしも充分とは言えない。

    特開平11−349804号公報

    従って、本発明の目的は、大きな負荷をかけた状態で長時間使用しても、または負荷を受けた時間が短時間であっても、摩耗、損傷、クラック、破断等が生じない耐久性に極めて優れた熱可塑性樹脂成形品を得ることのできる熱可塑性樹脂組成物、及び該熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。
    本発明の他の目的は、特に、長時間損傷することなく使用できる耐久性の極めて高いベルト製品等の材料として有用な熱可塑性樹脂組成物、及び該熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。

    本発明者らは、上記目的を達成するため、熱可塑性樹脂に変性エチレン共重合体を分散含有させた熱可塑性樹脂組成物中の分散粒子の形状及び粒子径と耐屈曲疲労性との関連性について詳細に検討した結果、平均分散粒子アスペクト比及び平均分散粒子径を特定の範囲に調整すると、該熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品の耐久性(特に、耐屈曲疲労性)が著しく向上することを見出した。 また、これまでは架橋して工業用ゴム製品として利用することが多く、他の樹脂の改質剤としてはあまり用いられていなかった変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(変性EPDM)をポリウレタン系熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリウレタン)に配合すると、耐摩耗性だけでなく、耐屈曲疲労性が著しく向上し、耐久性に極めて優れた成形品が得られることを見出した。 本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成したものである。

    すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂(A)に変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた熱可塑性樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比が1〜3.5であり、且つ平均分散粒子径が3μm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。

    前記変性エチレン共重合体(B)としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性された、エチレンと、(i)エチレン以外のオレフィン成分、(ii)ジエン成分、及び(iii)エチレン性不飽和基を有するエステル成分から選択された少なくとも1種のモノマー成分との共重合体であるのが好ましい。

    前記熱可塑性樹脂(A)としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリアセタール樹脂から選択された少なくとも1種であるのが好ましい。

    また、前記熱可塑性樹脂(A)としては、熱可塑性エラストマー(TPE)(A1)であるのも好ましい。 前記熱可塑性エラストマー(A1)としては、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)及びポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)から選択された少なくとも1種であるのが好ましい。

    前記変性エチレン共重合体(B)と熱可塑性樹脂(A)との重量割合[(B)/(A)]は、例えば0.1/99.9〜60/40の範囲である。

    本発明は、また、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)に変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)を分散含有させた熱可塑性エラストマーアロイである熱可塑性樹脂組成物を提供する。

    前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)とポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)の重量割合[(B1)/(A11)]は、例えば0.1/99.9〜60/40の範囲である。 前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)は、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性されたエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムであるのが好ましい。 前記熱可塑性エラストマーアロイ中における前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)の平均分散粒子アスペクト比が1〜3.5であり、且つ平均分散粒子径が3μm以下であることが好ましい。

    前記の各熱可塑性樹脂組成物の硬度(JIS K6253 デュロメータタイプA)は、60以上であるのが好ましい。

    本発明は、さらに、前記の各熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品(但し、ベルトを除く)を提供する。

    前記成形品には、チューブ、ホース、吸着パッド、防振ダンパー、防振継ぎ手、ショックアブソーバ、キャスター、ローラー、パッキンが含まれる。

    なお、本明細書において、硬度は、JIS K6253(デュロメータタイプA)に準拠して測定された値である。 但し、実施例においては、デュロメータタイプDを用いて測定した場合もある(その旨明記している)。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐久性(特に、耐屈曲疲労性)に著しく優れ、大きな負荷をかけた状態で長時間使用しても、または負荷を受けた時間が短時間であっても、摩耗、損傷、クラック、破断等が生じにくく、該熱可塑性樹脂組成物が変形する場合や、変形する別個の材料の近傍で用いられて、その衝撃や影響を直接的や間接的に受ける場合でも耐久性に極めて優れた長寿命の熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。

    比較例4で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(EPDMとエーテル系TPUのアロイ)のペレット断面のSEM写真である。

    実施例4で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(無マレイン酸変性EPDMとエーテル系TPUのアロイ)のペレット断面のSEM写真である。

    比較例6で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(EPDMとエステル系TPUのアロイ)のペレット断面のSEM写真である。

    実施例7で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(無水マレイン酸変性EPDMとエステル系TPUのアロイ)のペレット断面のSEM写真である。

    熱可塑性樹脂組成物における変性エチレン共重合体の配合比と耐屈曲疲労性との関係を示すグラフである。

    実施例14〜18、比較例11〜15で得られた樹脂組成物の引張試験の結果を示すグラフである。

    比較例11で得られた樹脂組成物のシート断面のTEM写真である。

    比較例14で得られた樹脂組成物のシート断面のTEM写真である。

    実施例14で得られた樹脂組成物のシート断面のTEM写真である。

    実施例19で得られた樹脂組成物のシート断面のTEM写真である。

    比較例16で得られた樹脂組成物のシート断面のTEM写真である。

    実施例4で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(無水マレイン酸変性EPDMとエーテル系TPUのアロイ)のペレット断面のAFM写真である。

    実施例7で得られた熱可塑性エラストマーアロイ(無水マレイン酸変性EPDMとエステル系TPUのアロイ)のペレット断面のAFM写真である。

    [熱可塑性樹脂(A)]
    本発明において、熱可塑性樹脂(A)としては、公知の熱可塑性樹脂を使用できる。 熱可塑性樹脂(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。 なお、熱可塑性樹脂(A)には変性エチレン共重合体(B)に該当するものは含まれない。

    熱可塑性樹脂(A)として、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン)、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、塩化ビニル樹脂、ポリビニル系樹脂などが挙げられるが、変性エチレン共重合体(B)を分散含有可能であればよく、これらに限定されない。 また熱可塑性樹脂(A)としては単独でも複数でもよいし、共重合、添加、ブレンド、アロイなどの多成分系を単独で用いても複数で用いてもよい。 熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000である。

    熱可塑性樹脂(A)のより具体的な例としては、例えば、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド666、ポリアミド46、ポリアミド10T、ポリアミド6T、アラミド樹脂(全芳香族ポリアミド)等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリイミド;ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・� ��フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール等のポリビニル系樹脂などを挙げることができる。 これらの熱可塑性樹脂(A)には、ガラス繊維などの補強フィラーなどの添加物が入っていてもよい。 また、明確な融点を持たない非晶質系の材料(熱可塑性樹脂)も、熱可塑性樹脂成形機により成形できる場合は含むことができる。 化石原料から得られる樹脂や天然系樹脂などでもよい。

    上記の中でも、熱可塑性樹脂(A)として、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリアセタール樹脂から選択された少なくとも1種が好ましい。

    [熱可塑性エラストマー(A1)]
    熱可塑性樹脂(A)として、熱可塑性エラストマー(TPE)(A1)を用いることも好ましい。 熱可塑性エラストマー(A1)は、硬質相(ハードセグメント)と軟質相(ソフトセグメント)からなり、常温でゴムとしての性質を示すが、高温で熱可塑性を示すポリマーである。 熱可塑性エラストマー(A1)を用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の耐摩耗性、機械的強度、成形加工性を向上させることができる。

    また、熱可塑性エラストマー(A1)は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 熱可塑性樹脂(A)として、熱可塑性エラストマー(A1)と熱可塑性エラストマー以外の樹脂とを併用してもよい。

    熱可塑性エラストマー(A1)として、例えば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(A14)、フッ素ポリマー系熱可塑性エラストマー(A15)、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(A16)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A17)、ポリイミド系エラストマー(A18)などが挙げられるが、これらに限定されない。 熱可塑性エラストマー(A1)としては、樹脂とエラストマーやオリゴマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマーであってもよい。 熱可塑性エラストマー(A1)も、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせたものでもよい。 上記の熱可塑性エラストマー(A1)の中でも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)が好ましく、特に好ましいのはポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)である。

    [ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)]
    ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)としては、公知の熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用できる。 熱可塑性ポリウレタンは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。 熱可塑性ポリウレタンは、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。

    前記ポリイソシアネートとしては、分子内に少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されない。 ポリイソシアネートには、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが含まれる。 ポリイソシアネートは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。

    脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。

    芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、4,4´−ジフェニルジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネート、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシネート、4,4´−ジフェニルプロパンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる� �

    芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ω,ω´−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。

    ポリイソシアネートとしては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼンを好適に用いることができる。

    なお、ポリイソシアネートとして、前記例示の脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートによる二量体や三量体、反応生成物又は重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなど)なども用いることができる。

    前記長鎖ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオールなどが挙げられる。 長鎖ポリオールの数平均分子量は、通常、500以上であり、好ましくは500〜10000、より好ましくは600〜6000、さらに好ましくは800〜4000である。 長鎖ポリオールは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などのポリアルキレンエーテルグリコールの他、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体などのモノマー成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド−他のアルキレンオキサイド)共重合体などが挙げられる。 ポリエーテルポリオールの中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)が特に好ましい。

    ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物などを用いることができる。 多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物において、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4−シクロヘキサンジオールなど)、シクロヘキサンジメタノール類(1,4−シクロヘキサ� ��ジメタノールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)などを用いることができる。 一方、多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。 また、環状エステルの開環重合物において、環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。 3種類の成分による反応物において、多価アルコール、多価カルボン酸、環状エステルとしては、前記例示のものなどを用いることができる。 ポリエステルポリオールの中でも、アジピン酸と多価アルコール(例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数2〜6のアルカンジオールの一種又は二種以上)との縮合重合物であるアジペート系ポリエステルポリオール[例えば、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)などの、ポリ(C2−6アルキレンアジペート)等]、ε−カプロラクトンを開環重合させて得られるカプロラクトンポリオール、β−メチル−δ−バレロラクトンをエチレングリコール等の多価アルコールを用いて開環重合� ��せて得られるポリエステルポリオールなどが好ましい。

    ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲン、クロロギ酸エステル、ジアルキルカーボネート又はジアリールカーボネートとの反応物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネートなど)の開環重合物などが挙げられる。 具体的には、多価アルコールとホスゲンとの反応物において、多価アルコールとしては、前記例示の多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール等)を用いることができる。 また、環状炭酸エステルの開環重合物において、アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。 なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。 ポリカーボネートポリオールの代表的な例として、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールにラクトンを開環付加重合して得られるジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールとポリエステルジオール又はポリエーテルジオールとの共縮合物などが挙げられる。

    ポリオレフィンポリオールは、オレフィンを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)の成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有するポリオールである。 前記オレフィンとしては、末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等のα−オレフィンなど)であってもよく、また末端以外の部位に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン(例えば、イソブテンなど)であってもよく、さらにはジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)であってもよい。 ポリオレフィンポリオールの代表的な例として、ブタジエンホモポリマー、イソプレンホモポリマー、ブタジエン−スチレンコポリマー、ブタジエン−イソプレンコポリマー、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ブタジエン−2−エチルヘキシルアクリレートコポリマー、ブタジエン−n−オクタデシルアクリレートコポリマーなどのブタジエン若しくはイソプレン系ポリマーの末端をヒドロキシル基に変性したものが挙げられる。

    ポリアクリルポリオールは、(メタ)アクリレートを重合体又は共重合体の骨格(又は主鎖)の成分とし且つ分子内に(特に末端に)ヒドロキシル基を少なくとも2つ有するポリオールである。 (メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸C1−20アルキルエステルなど]が好適に用いられる。 また、ポリオールに関しては、ここに挙げられたもの以外のあらゆる材料を使用することができる。

    前記鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンの製造に通常用いられる鎖伸長剤を使用でき、その種類は特に制限されないが、低分子量のポリオール、ポリアミン等を用いることができる。 鎖伸長剤の分子量は、通常、500未満であり、好ましくは300以下である。 鎖伸長剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    鎖伸長剤の代表的な例として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのポリオール(特に、ジオール);ヘキサメチレンジアミン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4′−メチレンビス−2−クロロアニリンなどのポリアミン(特に、ジアミン)などが挙げられる。 これらの中でも、ジオールが特に好ましい。

    熱可塑性ポリウレタンとしては、ポリイシソアネート、長鎖ポリオール、鎖伸長剤とを、ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数と、長鎖ポリオール及び鎖伸長剤が有するイソシアネート反応性基(水酸基、アミノ基等)のモル数との比(NCO/イソシアネート反応性基)が、0.9〜1.3、特に0.95〜1.1となる範囲で反応させて得られたものが好ましい。 長鎖ポリオールと鎖伸長剤との割合[前者/後者(モル比)]は、熱可塑性ポリウレタンの物性等に応じて、例えば0.1〜10、好ましくは0.2〜2の範囲から適宜選択できる。 上記反応には、反応を促進するため、必要に応じて、第3級アミン、有機金属化合物、スズ化合物等の触媒を用いてもよい。

    熱可塑性ポリウレタンは、重量平均分子量Mwが、通常5,000〜1,000,000であり、明確な融点を示さないものもあるが熱可塑性を有しており、押出成形、射出成形、熱プレス成形などの一般的な熱可塑性樹脂用成形機にて成形加工できる。

    また、熱可塑性ポリウレタンの硬度は特に限定されないが、本発明の熱可塑性樹脂組成物(熱可塑性エラストマーアロイ等)の機械的特性を高くする観点から、JIS K6253(デュロメータタイプA)での硬度60以上(例えば、60〜96)が好ましく、より好ましくは78以上(例えば、78〜96)、さらに好ましくは89以上(例えば、89〜95)、特に好ましくは91以上(例えば、91〜94)である。 また、熱可塑性樹脂組成物(熱可塑性エラストマーアロイ等)に適度な柔軟性を持たせ、耐屈曲疲労性を高めるという点からは、熱可塑性ポリウレタンの硬度は、例えば60〜93、特に78〜91(中でも78〜88)の範囲が好ましい。

    熱可塑性ポリウレタンとしては、長鎖ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールを用いたものが好ましい。 中でも、長鎖ポリオールとしてアジペート系ポリエステルポリオールを用いたアジペート系TPU、長鎖ポリオールとしてカプロラクトンポリオールを用いたカプロラクトン系TPU、長鎖ポリオールとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を用いたPTMG系TPUが特に好ましい。

    熱可塑性ポリウレタンとしては、市販品を使用できる。 市販品として、例えば、硬度80のアジペート系TPU、硬度90のアジペート系TPU、硬度90のカプロラクトン系TPU、硬度92のPTMG系TPU、硬度92のアジペート系TPUなどが挙げられる。

    [ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)]
    ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)としては、公知のポリエステル系熱可塑性エラストマーを使用できる。 ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。 ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)は、エステル化反応、エステル交換反応等の公知の方法により製造できる。

    ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)としては、例えば、芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントを主たる構成単位とするポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましい。

    前記芳香族ポリエステル単位は、主として、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−4アルキルエステル、酸ハロゲン化物等)と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物、アルカリ金属塩等)とから形成される単位である。 芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。 ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール;1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール;キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2'−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4 '−ジヒドロキシ−p−ターフェニルなどの芳香族ジオールが挙げられる。 これらの芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体、ジオール又はそのエステル形成性誘導体は、それぞれ、2種以上併用してもよい。 好ましい芳香族ポリエステル単位には、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位とイソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなるものなどが含まれる。

    前記脂肪族ポリエーテル単位を構成する脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。 これらの中でも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましい。 また、脂肪族ポリエステル単位を構成する脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。 これらの中でも、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。

    脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において、300〜6000が好ましく、500〜4000が特に好ましい。

    ポリエステル系熱可塑性エラストマーにおける芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントとの比率は、特に制限はないが、例えば、前者/後者(重量比)=1/99〜99.5/0.5であり、好ましくは50/50〜99/1である。

    [ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)]
    ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)としては、公知のポリアミド系熱可塑性エラストマーを使用できる。 ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)としては、例えば、ポリアミド単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントを主たる構成単位とするポリアミド系熱可塑性エラストマーが好ましい。

    前記ポリアミド単位を構成するポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などが挙げられる。 また、前記脂肪族ポリエーテル単位を構成する脂肪族ポリエーテルとしては、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの項で例示した脂肪族ポリエーテルと同様のものが挙げられる。 中でも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましい。 前記脂肪族ポリエステル単位を構成する脂肪族ポリエステルとしては、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの項で例示した脂肪族ポリエステルと同様のものが挙げられる。 中でも、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。

    [他の熱可塑性エラストマー]
    ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(A14)、フッ素ポリマー系熱可塑性エラストマー(A15)、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(A16)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(A17)、ポリイミド系エラストマー(A18)としては、それぞれ公知の熱可塑性エラストマーを使用することができる。

    熱可塑性樹脂(A)としては、変性エチレン共重合体(B)との密着性の点で、該変性エチレン共重合体(B)が有する変性基(例えば、後述するカルボキシル基又はその塩、カルボン酸エステル基、酸無水物基、カルボン酸ハライド基、アミド基、イミド基、グリシジル基(エポキシ基)、ハロゲン原子、アミノ基、イミド基、ホスフィノ基、チオキシ基、ケイ素含有基)と加熱混合時に反応しうる官能基(又は、親和性を有する官能基)を分子内(例えば、ポリマーの主鎖、末端又は側鎖)に有する樹脂が好ましい。 このような樹脂として、ポリマー主鎖の末端にヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等の官能基を有している熱可塑性樹脂、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド;ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A11)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A12)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(A13)などが挙げられる。

    [変性エチレン共重合体(B)]
    本発明において、変性エチレン共重合体(B)としては、公知の変性エチレン共重合体を使用できる。 変性エチレン共重合体(B)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。 変性エチレン共重合体(B)の重量平均分子量は、例えば5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000である。

    変性エチレン共重合体(B)としては、エチレン共重合体を不飽和カルボン酸若しくはその誘導体又はその他の官能基で変性したものである。 エチレン共重合体としては、エチレンと、(i)エチレン以外のオレフィン成分、(ii)ジエン成分、及び(iii)エチレン性不飽和基を有するエステル成分から選択された少なくとも1種のモノマー成分との共重合体が挙げられる。 エチレン以外のオレフィン成分としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数3〜12のα−オレフィンが挙げられる。 ジエン成分としては、例えば、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンが挙げられる。 エチレン性不飽和基を有するエステル成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。

    前記エチレン共重合体の代表的な例として、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(エチレン−プロピレン−ジエンゴム;EPDM)、エチレン−プロピレン共重合体(エチレン−プロピレンゴム;EPM)、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。 これらの中でも、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(エチレン−プロピレン−ジエンゴム;EPDM)、エチレン−プロピレン共重合体(エチレン−プロピレンゴム;EPM)が特に好ましい。

    前記エチレン共重合体の変性に用いる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸などが挙げられる。 不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸のエステル[例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸エステル等]、酸無水物(無水マレイン酸等)、塩、酸ハライド、アミド、イミドなどが挙げられる。 不飽和カルボン酸若しくはその誘導体で変性されたエチレン共重合体は、分子内に、カルボキシル基又はその塩、カルボン酸エステル基、酸無水物基、カルボン酸ハライド基、アミド基、イミド基等を有している。

    前記エチレン共重合体の変性に用いるその他の官能基としては、エチレン共重合体を化学的修飾できるものであれば特に限定されることなく用いることができる。 例えば、グリシジル基(エポキシ基)、ハロゲン原子、アミノ基、イミド基、ホスフィノ基、チオキシ基、ケイ素原子含有基などを挙げることができる。 これらの官能基を1種あるいは2種類以上を有していてもよい。

    エチレン共重合体の変性は、例えば、エチレン共重合体と不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、グラフト重合開始剤[例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド等の過酸化物系開始剤等]の存在下で加熱、混練することにより行うことができる。 また、エチレン共重合体の変性は、エチレンと、エチレン性不飽和結合を有するエステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、酢酸ビニル等]等のコモノマーとを共重合させる際、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等)をさらに他のコモノマーとして用いることにより行うこともできる。 さらに、エチレン共重合体の前記その他の官能基による変性も公知の方法により行うことができる。 変性は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のように化学的反応によるものでもよいし、反応中間体のような状態でもよいし、添加、共存、発生などの物理的なものでもよい。

    変性エチレン共重合体(B)における、不飽和カルボン酸若しくはその誘導体又は前記その他の官能基による変性率は、不飽和カルボン酸若しくはその誘導体に由来する基を含む構造単位又は前記その他の官能基を含む構造単位の含有率として、例えば、変性エチレン共重合体全体に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜8重量%程度である。 この含有率が少なすぎると、熱可塑性樹脂(A)と配合した際の耐摩耗性、耐屈曲疲労性の改善効果が小さくなりやすい。 一方、この含有率が多すぎると、エチレン共重合体の本来の共重合体としての特性が低下しやすくなり、共重合体を維持することが難しくなり、特性の調整も困難となる。

    エチレン共重合体の変性は、熱可塑性樹脂とブレンドする前にエチレン共重合体単独に対して行ってもよく、また、変性前のエチレン共重合体を熱可塑性樹脂とブレンドする段階において同時に変性処理してもよい。 また、未反応のカルボン酸又はその誘導体を除去してもよいし、残存したまま使用してもよい。

    変性エチレン共重合体(B)としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性された、エチレンと、(i)エチレン以外のオレフィン成分(特に、少なくともプロピレンを含むα−オレフィン)、(ii)ジエン成分、及び(iii)エチレン性不飽和基を有するエステル成分から選択された少なくとも1種のモノマー成分との共重合体が好ましい。 なかでも、エチレンと、エチレン以外のオレフィン(特に、少なくともプロピレンを含むα−オレフィン)及び/又はジエンとの共重合体を、不飽和カルボン酸若しくはその誘導体(特に、無水マレイン酸)により変性したポリマーが特に好ましい。

    また、好ましい変性エチレン共重合体(B)には、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(変性EPDM)(B1)、変性エチレン−プロピレンゴム(変性EPM)(B2)、カルボン酸変性エチレンアクリルゴム(酸変性エチレンアクリルエラストマー)(B3)が含まれる。 これらの中でも、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(変性EPDM)(B1)が好ましい。

    [変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)]
    本発明において、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)(変性EPDM)としては、公知の変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムを使用できる。 変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)は、エチレンとプロピレンと非共役ジエンとの共重合体である。 ジエンとしては、例えば、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどが挙げられる。 本発明で用いられる変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(変性EPDM)(B1)は、このEPDMを、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル、酸無水物、塩、酸ハライド、アミド、イミド等)又はその他の官能基で変性することにより得られる。 不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、上記と同様、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸エステル、無水マレイン酸などが挙げられ、それらのエステル塩、金属塩等の構造でもよい。 これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が好ましく、特に、無水マレイン酸が好ましい。 前記その他の官能基として、例えば、グリシジル基、ハロゲン原子、アミノ基、イミド基、ホスフィノ基、チオキシ基などを挙げることができる。

    EPDMの変性は、例えば、EPDMと不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、グラフト重合開始剤[例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド等の過酸化物系開始剤等]の存在下で加熱、混練することにより行うことができる。 原料として用いるEPDMにおけるエチレンとプロピレンの比率は、エラストマーとしての特性等の観点から、例えば、前者/後者(重量比)=10/90〜95/5、好ましくは50/50〜85/15程度である。 また、EPDMにおけるジエン成分由来の構成単位の含有率は、例えば、EPDM全体の0.1〜25重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%程度である。

    変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)における不飽和カルボン酸又はその誘導体による変性率は、不飽和カルボン酸又はその誘導体に由来する構造単位の含有率として、例えば、変性EPDM全体に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜8重量%程度である。 この含有率が少なすぎると、熱可塑性樹脂(A)[例えば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(A1)]と配合した際の耐摩耗性、耐屈曲疲労性の改善効果が小さくなりやすい。 一方、この含有率が多すぎると、エラストマーとしての機能が低下しやすくなる。

    EPDMの変性は、TPUとブレンドする前にEPDM単独に対して行ってもよく、また、変性前のEPDMをTPUとブレンドする段階において同時に変性処理してもよい。 また、未反応のカルボン酸又はその誘導体を除去してもよいし、残存したまま使用してもよい。

    変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)のメルトフローレート(ASTM D1238 280℃/2.16kg)は、例えば、5〜80g/10min、好ましくは10〜40g/10minである。

    変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)としては、市販品を使用することもできる。 市販品として、例えば、商品名「フサボンド N416」(無水マレイン酸変性EPDM、デュポン社製)などが挙げられる。

    また、樹脂組成物としては分散体となる変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)は、架橋していてもよいし、未架橋であってもよい。 例えば、熱可塑性を保ったまま架橋する動的架橋手法も用いることができる。

    変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)は、これまでは架橋して工業用ゴム製品として利用することが多く、他の樹脂の改質剤としてはあまり用いられていなかったが、本発明により、熱可塑性樹脂に分散含有させることで、熱可塑性樹脂の特性を著しく改質できることが明らかとなった。

    なお、変性エチレン−プロピレン共重合ゴム(変性EPM)(B2)としても、公知の変性エチレン−プロピレン共重合ゴムを使用できる。 変性エチレン−プロピレン共重合ゴムは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。 エチレン−プロピレン共重合体(EPM)はエチレンとプロピレンとの共重合体であり、該EPMの変性は、前記EPDMの変性と同様にして行うことができる。 また、酸変性エチレンアクリルエラストマー(B3)としても、公知の酸変性エチレンアクリルエラストマーを使用できる。 酸変性エチレンアクリルエラストマー(B3)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。

    [熱可塑性樹脂組成物]
    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記のように、前記熱可塑性樹脂(A)に前記変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた樹脂組成物である。

    本発明において、前記(B)と(A)の重量割合[(B)/(A)]は、成分(A)及び(B)の種類によっても異なるが、一般に、0.1/99.9〜60/40の範囲である。 この割合(比率)の下限は、好ましくは1/99、より好ましくは3/97、特に好ましくは7.5/92.5であり、上限は、好ましくは55/45、より好ましくは50/50、さらに好ましくは30/70、特に好ましくは25/75(とりわけ22/78)である。 より具体的には、前記(B)と(A)の重量割合[(B)/(A)]は、好ましくは0.1/99.9〜30/70、より好ましくは1/99〜25/75、さらに好ましくは3/97〜22/78(特に、7.5/92.5〜22/78)である。 この割合が小さすぎると、耐摩耗性、耐屈曲疲労性の耐久性改善効果が小さくなる。 一方、この割合が大きすぎると、熱可塑性樹脂本来の特性(機械的強度等)が低下しやすくなる。

    なお、本発明者等は、前記熱可塑性樹脂(A)に前記変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた樹脂組成物においては、該樹脂組成物の成形品の耐屈曲疲労性などの耐久性が、各材料単体から期待される値よりも向上することを見出した。 すなわち、熱可塑性樹脂(A)と変性エチレン共重合体(B)とをブレンドした場合に加成性が成り立つとして計算される値よりも、実際に得られる耐屈曲疲労性は高くなり、相乗効果が得られることを見出した。 例えば、図5[後述の実施例、比較例のデータをもとに、変性エチレン共重合体(MAH−EPDM)の配合比(wt%)と耐屈曲疲労性との関係を示したグラフである]において、MAH−EPDMの配合比が0wt%と100wt%の場合での屈曲回数値を直線で結んだ線(図5の点線)が、加成性が成り立つとされる各配合比での屈曲回数の値を示している。 これに対して樹脂組成物の結果(図5の実線)は、点線よりもはるかに多い屈曲回数結果であり、この結果を相乗効果であるとしている。 この相乗効果は、熱可塑性樹脂(A)として熱可塑性エラストマー(A1)(例えば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)を用いた場合に大きく、特に、変性エチレン共重合体(B)として、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムを用いたときに顕著である。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の成分(A)、(B)のほか、必要に応じて添加剤を配合できる。 添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、安定剤、離型剤、界面活性剤、帯電防止剤、導電材、着色剤(顔料、染料)、難燃剤、発泡剤、滑剤、潤滑剤、充填剤、架橋剤、溶剤、展開液、増量剤、ワックス、オイル、グリース、加工助剤、加工剤、補強材、フィラー、ブロッキング防止剤、老化防止剤等が挙げられる。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の成分(A)、(B)のほか、必要に応じて補強成分を組み合わせることができる。 補強成分としては、例えば、繊維、粉末、クロス、基材、長繊維、短繊維、ガラスクロス、布、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト、カーボンブラック、シリカ、発泡体、ビーズ、無機フィラー、放熱フィラー、導電フィラー、セラミックス、ファインセラミックス、炭素繊維等が挙げられる。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)と変性エチレン共重合体(B)の総含有量は、例えば、60重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比(=長径/短径)は1〜3.5であり、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2である。 平均分散アスペクト比が1に近いということは、実際の熱可塑性樹脂組成物では分散する前記(B)の分散形状が真球に近いということを意味する。 ここで、平均分散アスペクト比は、熱可塑性樹脂組成物の任意の場所での材料の分散状態を、公知の手段(SEM、TEM、AFMなど)で観察した場合に、平面化される可視域での島相(分散相)の長径/短径より算出される。 また、本発明の熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子径は3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。 平均分散粒子アスペクト比は1に近いほど、すなわち真球に近いほど好ましい。 また、平均分散粒子径は小さいほど好ましい。 平均分散粒子アスペクト比が上記範囲にあると、異方性の度合いが極めて小さく方向性を持たないため、どの方向からの応に対しても高い剛性を示す。 その結果、分散粒子が補強フィラーとしてどの方向に対しても効果を発揮する。

    上記のような分散状態になった成形品は、例えば瞬間的な応力であっても、また長時間繰り返される応力に対しても、耐久性の向上が認められることになる。 摩耗やストレスクラック、ソルベントクラックという現象は、それらが生じる熱可塑性樹脂成形品で、生来存在している無数の目に見えない傷や切っ掛けが、外部からの刺激または応力や応力集中を受けることで、あるいは外部から直接受ける切れ込み等を起点とすることでクレーズ(ひび割れ)となり、さらに成長してクラック(き裂)になり、最終的に樹脂成形品の強度低下や破壊につながっていく現象である。 途中段階となるクレーズが少数の場合もあるものの、多くの場合は多数のクレーズがすでに成形品内の応力を受けた部位に存在しており、それらが合わさったりしてクラック(き裂)として成長する。 つまり微小な起点となるような切っ掛けが、成長、連結、分岐、深化などの現象を経て、クレーズやクラックに成長している。 クラック成長とは、応力に耐える成形品の弾性エネルギーが成形品の持つ表面エネルギーを超えた結果であるため、表面エネルギーで支えきれなくなって発現した物理現象がクラックである。 この際に、通常の単一材料から構成される成形品などの場合、切っ掛けや発生したクレーズの成長を抑制することは極めて困難であり、容易に応力に応じた成長を許し、破断に至ってしまう。 破断は、全体の大きな破壊を意味するだけでなく、微視的なエリアでの破壊も含める。 またクラック耐性となる表面エネルギーは球状のものが最も高く、分散体が球状であることが分散体の、そして結果的には被分散体である樹脂層のクラックに対する耐性が大きいことになる。 このような不均質構造を付与することが、均質構造のままよりも、切っ掛け、クレーズ、クラック、切れ込みなどが破壊、破断、欠け、割れなどの原因となるような変形、運動、仕事、負荷(これは摩耗試験、屈曲疲労試験、耐衝撃試験、破壊試験、実際の使用・仕様などの各種動的疲労での使用を意味する。)において、耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いると、球状に近い分散相を持つミクロ相分離構造であるため、微小領域の切っ掛け、クレーズ、クラック、切れ込み等が成長しようとする際の初期段階の応力集中を緩和、分散、吸収するなどの抵抗効果が得られるため、その成長が遅れることになり、成形品のき裂、破壊を遅らせたり、深刻なダメージを防ぐことができることになる。 以上より、ほぼ球状の島成分が微分散する海島構造というミクロな不均質状態である分散状態、且つ比較的柔軟性を持つ粘弾性体の微分散であるために、クラックの成長や連結などに対して、エネルギー吸収をしたり、エネルギー緩衝体となることができ、とくに初期でのクラック等の成長を抑えることに効果的であると考えられる。 本発明では、平均分散粒子径および平均分散粒子アスペクト比が上記の範囲にあると、エネルギー吸収効率が極めて高くなる。 そのため、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐屈曲疲労性などの耐久性に著しく優れ、該成形品を大きな負荷をかけた状態で長時間使用あるいは与負荷を繰り返しても、摩耗、クラック等の損傷が顕著に抑制され、寿命が著しく長くなる。 さらに島成分が微小球形粒子状であっても、その成分量が大きくなると島成分の拘束が進むことから、成形品が受ける応力や運動により発熱し易くなることから、長時間の繰り返し変形において海成分と島成分間に乖離が生じて、ここからクラックを発生することに繋がる。 以上より本発明の最も好ましいブレンドは、エラストマー状の(B)が、平均分散粒子アスペクト比が1〜1.6、平均分散粒子径が3μm以下で分散し、且つ[(B)/(A)]が3/97〜60/40である。 この範囲であると、特に、応力集中や繰り返し応力を受ける場合にも切っ掛け、クレーズ、クラック、切れ込み等の樹脂組成物でのの成長が抑えられ、動的用途に於いて耐久性の優れた成形品を得ることができる。

    なお、前記平均分散粒子アスペクト比及び平均分散粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)さらに原子間力顕微鏡(AFM)などにより測定することができる。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物の硬度は特に限定されないが、JIS K6253(デュロメータタイプA)での硬度60以上(例えば、60〜95)が好ましく、より好ましくは78以上(例えば、78〜95)、さらに好ましくは89以上(例えば、89〜95)、特に好ましくは91以上(例えば、91〜95)である。 また、適度な柔軟性を有し、耐屈曲疲労性を高めるという点からは、前記熱可塑性樹脂組成物の硬度は、例えば60〜93、特に77〜91(中でも77〜88)の範囲が好ましい。 熱可塑性樹脂組成物の硬度は、熱可塑性樹脂(A)の硬度、前記変性エチレン共重合体(B)と熱可塑性樹脂(A)の重量割合、添加剤の種類及び量などにより調整できる。

    また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の破断強度(JIS K7311)は連続相(海成分)となる樹脂に強く依存するが、例えば、25〜100MPa、好ましくは30〜80MPa、さらに好ましくは35〜75MPaであり、破断伸び(JIS K7311)は、例えば、300〜1000%)、好ましくは350〜800%、さらに好ましくは400〜700%である。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の熱可塑性樹脂(A)、変性エチレン共重合体(B)、及び必要に応じて用いられる前記添加剤を、通常のポリマーアロイ或いはポリマーブレンドを調製する場合と同様の方法で混合することにより製造できる。 例えば、熱可塑性樹脂(A)、変性エチレン共重合体(B)、及び必要に応じて用いられる添加剤を所定の割合で予備混合した後、単軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、バッチ式混練機、反応機、反応成形機、射出成形機などを用いて、加熱下、加圧下や溶媒存在下などで混練することにより製造できる。 押出機を用いて加熱混練を行う場合には、ストランド状に押し出し、適当な長さに切断してペレットなどの粒状物としてもよい。 また、前記方法のほか、熱可塑性樹脂(A)の製造中に、変性エチレン共重合体(B)及び/又は添加剤を入れ、混合することで、前記熱可塑性樹脂組成物を得ることもできる。 熱可塑性樹脂(A)として、熱可塑性ポリウレタン(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)等の熱可塑性エラストマー(A1)を用いた場合には、熱可塑性エラストマーアロイが得られる。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物中における前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比及び平均分散粒子径は、熱可塑性樹脂(A)及び変性エチレン共重合体(B)の種類や架橋度合い、熱可塑性樹脂(A)と変性エチレン共重合体(B)の粘度比及び体積比、及び、熱可塑性樹脂(A)と変性エチレン共重合体(B)を含む混合物を混練する際に加える剪断力の大きさ等により調整できる。 より詳しくは、熱可塑性樹脂(A)および変性エチレン共重合体(B)が例えば共に流動可能になる温度および剪断速度において、熱可塑性樹脂(A)および変性エチレン共重合体(B)のそれぞれの量(体積%)やせん断粘度そして成形方法等を調整することで、その組成物における分散状態を制御することができる。 基本的には完全に相溶しないブレンド系では、一方の体積%が他方より高い場合もしくは一方のせん断粘度が他方よりも低い場合に海島構造をとり、体積%の高い、及び/又はせん断粘度の低い方が海側(連続相)を形成する。 そしてそれぞれの体積%やせん断粘度が近接した場合に、両方が微小な連続相となる構造が得られる。 一方、混練中に成分が反応するなど海成分のせん断粘度が島成分のせん断粘度より高くなる場合に、混練中に海島構造が逆転するような場合があり、その相転換途中にも非常に複雑な構造であるが両連続相は現れる。 ここでいう反応は一方成分の架橋(硬化)であったり、エステル交換や加水分解などの他方成分の分子量低下現象による粘度減少であってもよい。 そして両連続相の時は平均分散粒子アスペクト比は大きくなるが、最も両成分に剪断力を伝えることができるため、このプロセスを経て混練すると微小分散を得ることができる。 さらには、海島構造において、島側の形状は両成分のせん断粘度が近接する場合よりも、むしろ島側に比べて相対的に低いせん断粘度の海側樹脂中で、強く、早く島側樹脂を混練した場合に球状に近い形状が得られることになる。 つまり微小分散化と球状分散形状は、それらを得るための両成分の粘度条件や体積比条件などが異なることが一般的である。 例えば反応型ポリマーブレンドにおいて、混練条件や添加条件を適正化することにより、球状分散と微分散とを両立することができた。 例えば、前述の樹脂混練装置を用い、材料等に合わせた適当な時間(例えば、30秒〜15分)、適宜な剪断力をもって混練することにより、前記変性エチレン共重合体(B)の平均分散粒子アスペクト比及び平均分散粒子径を前記範囲とすることができる。 この際、各成分のせん断粘度に応じて、投入量や投入タイミングを決めている。 さらにこれらの分散状態を崩さないように、なるべく急冷に近い速度で常温に戻してやる。 これらにより所望の分散状態を固定化した熱可塑性樹脂組成物が得られることになる。 以上のように、球状分散と微分散の両立は難しい。 しかし、本発明では樹脂組成物の成分の粘度、量、種類、混練方法や成形条件を設計することにより、その両立を達成して、耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を得ることができた。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、溶融成形、加熱加工、プレス成形等が可能であり、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、注型、塗工、シーティング、ラミネート、などの任意の成形法により、種々の成形品を得ることができる。

    また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品の製造方法に特に制限はなく、あらかじめ熱可塑性樹脂組成物を作製してから成形を行ってもよいし、成形を行うのと同時に本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する(例えば、サイドフィード方式、ドライブレンド方式など)ことも可能である。 サイドフィーダ方式とは、ポリマーブレンドにおいてブレンドする互いの溶融状態を調整するために、例えば二成分を別のフィーダから押出機に投入する方法である。 またドライブレンド方式とは、ブレンドに供する樹脂材料などをペレットなどの形態であらかじめ混ぜて、その状態で成形加工機(押出機、射出成形機などの樹脂成形機)に投入するものである。 そして本発明の熱可塑性樹脂組成物は、組成物作製時に熱可塑性を保っていればよく、作製後は熱可塑性を有していても、なくしていてもよい。 例えば架橋剤を添加することで、最終製品が熱可塑性のない樹脂組成物になっている場合もある。

    [熱可塑性エラストマーアロイ]
    本発明の熱可塑性エラストマーアロイである熱可塑性樹脂組成物(以下、単に「本発明の熱可塑性エラストマーアロイ」と称する場合がある)は、例えば、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリウレタン)(A11)に、前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)を分散含有させたものである。 このような熱可塑性エラストマーアロイから得られる成形品は、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐屈曲疲労性に著しく優れ、該成形品を大きな負荷をかけた状態で長時間使用しても、摩耗、クラック等の損傷が顕著に抑制され、寿命が著しく長い。 なお、熱可塑性エラストマーアロイに用いる熱可塑性エラストマー(TPE)が、ウレタン系に限定されないのは、前述の通りである。

    本発明において、前記(B1)と(A11)の重量割合[(B1)/(A11)]は、一般に、0.1/99.9〜60/40の範囲である。 この割合(比率)の下限は、好ましくは1/99、より好ましくは3/97、特に好ましくは7.5/92.5であり、上限は、好ましくは55/45、より好ましくは50/50、さらに好ましくは30/70、特に好ましくは25/75(とりわけ22/78)である。 より具体的には、前記(B1)と(A11)の重量割合[(B1)/(A11)]は、好ましくは0.1/99.9〜30/70、より好ましくは1/99〜25/75、さらに好ましくは3/97〜22/78(特に、7.5/92.5〜22/78)である。 この割合が小さすぎると、耐摩耗性、耐屈曲疲労性の耐久性改善効果が小さくなる。 一方、この割合が大きすぎると、熱可塑性樹脂本来の特性(機械的強度等)が低下しやすくなる。

    前記のように、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリウレタン)(A11)に変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)を分散含有させた熱可塑性エラストマーアロイにおいては、ブレンドによる耐屈曲疲労性の相乗的効果が特に顕著である。

    なお、本発明の熱可塑性エラストマーアロイの成形品断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、熱可塑性ポリウレタン(A11)からなるマトリックス中に、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)が高度に微分散していることが分かる(図2、図4参照)。 例えば、2000倍のSEM写真によれば、変性EPDMとエーテル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイでは、凹凸はかすかに見られるものの、粒子形状は確認できず、変性EPDMとエステル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイでは、凹凸もほとんど観察されない。 一方、変性EPDMの代わりに無変性のEPDMを用いた場合には、EPDMの粒子がはっきりと確認でき、特に、EPDMとエステル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイでは、EPDMの球状の粒子がエステル系TPUのマトリックス中に分散しているのが明確に観察される。 その際に観察される粒子の平均粒子径は3μmを超える値となっている。 変性EPDMとTPU(特に、エステル系TPU)からなる熱可塑性エラストマーアロイにおいて分散性が著しく向上するのは、変性EPDMにおける変性部位の極性がTPUの極性部位と親和性を有するためと推測される。

    さらに、本発明の熱可塑性エラストマーアロイの成形品断面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察すると、SEMでは観察されなかったマトリックス(熱可塑性ポリウレタン)中の変性EPDMの粒子が観察され、高度に微分散していることが分かる[図12(実施例4)、図13(実施例7)参照]。 これらのAFM写真によれば、変性EPDMとエーテル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイや変性EPDMとエステル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイのいずれも平均分散粒子径が1μm以下で分散していることが分かる。 これらの結果と前述のSEM写真での結果を合わせると、変性部位によるマトリックスとの親和性が分散に及ぼす効果は明確である。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイ中における前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)の平均分散粒子アスペクト比は、例えば、1〜3.5であり、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2である。 また、本発明の熱可塑性エラストマーアロイ中における前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)の平均分散粒子径は、例えば、3μm以下であり、好ましくは1μm以下である。 前記平均分散粒子アスペクト比は1に近いほど、すなわち真球に近いほど好ましい。 そして前記平均分散粒子径は小さいほど好ましい。 それらが同時に実現していることが、なお好ましいといえる。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイは、上記の成分(A11)、(B1)のほか、必要に応じて添加剤を配合できる。 添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、安定剤、離型剤、界面活性剤、帯電防止剤、導電材、着色剤(顔料、染料)、難燃剤、発泡剤、滑剤、潤滑剤、充填剤、架橋剤、溶剤、展開液、増量剤、ワックス、オイル、グリース、加工助剤、加工剤、補強材、フィラー、ブロッキング防止剤、老化防止剤等が挙げられる。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイにおいて、熱可塑性ポリウレタン(A11)と変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)の総含有量は、例えば、85重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイの硬度は特に限定されないが、JIS K6253(デュロメータタイプA)での硬度60以上(例えば、60〜95)が好ましく、より好ましくは78以上(例えば、78〜95)、さらに好ましくは89以上(例えば、89〜95)、特に好ましくは91以上(例えば、91〜95)である。 また、適度な柔軟性を有し、耐屈曲疲労性を高めるという点からは、熱可塑性エラストマーアロイの硬度は、例えば60〜93、特に77〜91(中でも77〜88)の範囲が好ましい。 熱可塑性エラストマーアロイの硬度は、熱可塑性ポリウレタン(A11)の硬度、前記変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)と熱可塑性ポリウレタン(A11)の重量割合、添加剤の種類及び量などにより調整できる。

    また、本発明の熱可塑性エラストマーアロイの破断強度(JIS K7311)は連続相(海成分)となる熱可塑性エラストマーに依存するが、例えば、25〜100MPa、好ましくは30〜80MPa、さらに好ましくは35〜75MPaであり、破断伸び(JIS K7311)は、例えば、300〜1000%)、好ましくは350〜800%、さらに好ましくは400〜700%である。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイは、上記の熱可塑性ポリウレタン(A11)、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)、及び必要に応じて用いられる前記添加剤を、通常のポリマーアロイ或いはポリマーブレンドを調製する場合と同様の方法で混合することにより製造できる。 例えば、熱可塑性ポリウレタン(A11)、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)、及び必要に応じて用いられる添加剤を所定の割合で予備混合した後、単軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、バッチ式混練機、反応機、反応成形機、射出成形機などを用いて、加熱下、加圧下や溶媒存在下などで混練することにより製造できる。 押出機を用いて加熱混練を行う場合には、ストランド状に押し出し、適当な長さに切断してペレットなどの粒状物としてもよい。 また、前記方法のほか、熱可塑性ポリウレタン(A11)の製造中に、変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(B1)及び/又は添加剤を入れることで、本発明の熱可塑性エラストマーアロイを得ることもできる。

    本発明の熱可塑性エラストマーアロイは、溶融成形、加熱加工が可能であり、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形、注型などの任意の成形法により、種々の成形品を得ることができる。

    また、本発明の熱可塑性エラストマーアロイの成形品の製造方法に特に制限はなく、あらかじめ熱可塑性エラストマーアロイを作製してから成形を行ってもよいし、成形を行うのと同時に本発明の熱可塑性エラストマーアロイを製造する(例えば、サイドフィード方式、ドライブレンド方式など)ことも可能である。 そして本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、組成物作製時に熱可塑性を保っていればよく、作製後は熱可塑性を有していても、なくしていてもよい。 例えば架橋剤を添加することで、最終製品が熱可塑性のないエラストマー組成物になっている場合もあることは熱可塑性樹脂組成物の場合と同様である。 配合、組成やメカニズムなどは樹脂(A)、変性エチレン共重合体(B)の場合での説明と同じである。

    [成形品]
    本発明の熱可塑性樹脂組成物及び本発明の熱可塑性エラストマーアロイから得られる成形品は、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐屈曲疲労性に著しく優れ、大きな負荷のかかる状態で連続的あるいは断続的に長時間使用しても、摩耗、損傷、クラック、破断等が生じにくく、耐久性に極めて優れ、長寿命である。 このため、平ベルトやVベルト等のベルト、チューブ、ホースを始め、吸着パッド、防振ダンパー、防振継ぎ手、ショックアブソーバ、キャスター、パッキン、靴底ソール、スイッチ、バルブ、弁、フィルタ、ロール、ローラー(排紙用ローラー、給紙用ローラー等)、クリップ、フィルム、シート、タイヤ、キャスター、マット、手袋、絆創膏、ローブ、表皮、バッグ、インパネスノーチェーン、スキーブーツ、バネカバー、ポンプ、身体機能材料(人工心臓等)などの部材として特に有用である。 中でも、本発明の成形品としては、耐屈曲疲労性が極めて高いことから耐久性が著しく向上する、平ベルトやVベルト等のベルト、チューブ、ホース、吸着パッド、防振ダンパー、防振継ぎ手、ショックアブソーバ、キャスター、ローラー(排紙用ローラー、給紙用ローラー等)、パッキンなどが好ましい。

    [ベルト]
    搬送用ベルトや伝動ベルトは、例えば、平ベルト、Vベルト等として、耐屈曲疲労性、耐摩耗性、耐熱性、耐久性等が要求される。 通常はベルトに張力を与え、伸長状態で使用される。 また高速回転する樹脂製や金属製のプーリーと組み合わせて用いられ、ベルトとプーリーとの接触、巻き付きや摺合せが生じたり、搬送物との衝突、擦れなどにも晒されることになる。 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特に耐屈曲疲労性に優れることから複数のプーリの組み合わされたレイアウト、小プーリ径のレイアウト等、ベルトの曲げ疲労の激しいレイアウトなどに使用されるベルトとして効果的に使用できる。 ベルトは柔らか過ぎてもクリープ変形などを起こして寿命が短くなるし、かた過ぎても摩耗量が多くなるなどでやはり寿命が短くなる。 適度な柔軟性と耐摩耗性や耐屈曲疲労性を有することが最もベルトとして高性能になる。 ベルトは、樹脂やエラストマーを押出成形等の熱可塑性成形機にて繊維や織物などと積層されて長尺状に製造される。 そのままで製品として用いられることもあるが、通常はエンドレス加工を行い、ベルト背面が連続している状態で使用される。

    [チューブ]
    チューブは樹脂やエラストマーの単管状製品であり、通常は両端に継手部を有している。 チューブは柔軟性を持つため、配管の自由度が高く、さらに取付部の運動に合わせて変形できることなどが特徴である。 チューブ材には耐屈曲疲労性、耐摩耗性、柔軟性、耐空気透過性、難燃性、継手との噛み合わせでのシール性等を要求される。 変形や運動に合わせて接触や擦れなども多く、耐摩耗性や耐屈曲疲労性に優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂材やエラストマー材を使用した場合は、摩耗量や屈曲によるクラック発生などが抑えられて製品の長寿命化に寄与することになる。 またチューブの柔軟性が継手部との間でシール効果として働き、且つチューブが柔軟過ぎないことが、かしめ部での長時間変形を抑えることになる、チューブは、押出成形等により製造される。

    [ホース]
    ホースは流体移送用途に使用されるが、耐油性、耐薬品性、耐疲労性、そして耐衝撃性、耐摩耗性、耐圧性、局部的な曲げ等の特性が要求される。 チューブとも使用方法が重なるが、ホースは補強層を組み合わせた積層構造であるため、内部流体の圧力が高くなることが多い。 耐屈曲疲労性の優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物の樹脂材を使用した場合は、耐屈曲疲労性、繰り返し曲げ等の要求される用途には効果的である。 ホースは、繊維を編んだ層を補強層として、それらを樹脂やエラストマーで積層し、一体化するために押出成形等により製造される。

    [吸着パッド]
    吸着パッドは、被吸着物を固定、搬送、移動させるために用いられる接触治具である。 例えば、真空吸着などにより吸着パッド内部を減圧して、被吸着物を持ち上げたり移動させたりする。 被吸着物と接触する部分の吸着性、被吸着物の過度な変形を生じさせないための柔軟性と効率的な吸着のための気密性、そして繰り返し使用されるための耐久性が要求される。 耐屈曲疲労性の優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、耐久性向上を図ることができる。 本製品は、射出成形、ブロー成形等によって製造される。

    [防振ダンパー]
    防振ダンパーは、例えば、精密機器、音響機器、工作機械、自動車等振動の発生する 機器等や他からの振動を嫌う機器等において、その振動を吸収して機器等から振動が出て行かなかったり、あるいはそれらの機器に振動が伝わり難くするものである。 このような用途においては、常に振動に晒されながらも運動エネルギーを変換するような高減衰性、あるいは振動周期の共振を変更させるような制振性、それらの繰り返し運動に対する耐久性、高強度等が要求される。 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような要求特性に適合するものである。 また負荷を支える支点に用いられることが多いため、常に重量を受けることから、圧縮永久歪みや永久伸びが生じやすくなる。 これを解消するために、架橋構造にしたり、金属板との積層構造にされることがある。 防振ダンパーばねとして用いる粘性シートとしても用いることができる。 防振ダンパーは、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形等の成形方法により製造される。

    [防振継ぎ手]
    防振継ぎ手は、振動発生源からの振動の伝達を抑える動力伝達装置等に使用される。 防振継ぎ手を介することで、チューブ・ホースや配管等に発生している振動や装置振動などを減衰させることになる。 このような用途においては、圧縮永久歪みが低く、高減衰性、耐久性、高強度等が要求される。 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような要求特性に適合するものである。 防振継手は、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形等の成形方法により製造される。

    [ショックアブソーバ]
    ショックアブソーバは、機械構造の振動や建築物に生じる振動を減衰する装置である。 防振ダンパーや防振継ぎ手の上位概念となる。 エラストマー成分が用いられる要件にて、受ける振動エネルギーを異なる周期の振動に変換したり、熱に変換したりという効果を持っている。 その際の変形運動の過程で連続的な屈曲疲労を受けるため、それに対して耐屈曲疲労性を有することが、耐久性に優れる製品を提供できることになる。

    [キャスター]
    キャスターは、機械装置や運搬車、ワゴンなどの接地面に設けられているコロや車輪のことである。 装置重量に耐えるために機械的強度が高く、耐グリップ性、耐久性、衝撃性、耐熱性等の特性が要求される。 耐グリップ性は床面や地面などとの摩擦抵抗を高めるために柔軟性が要求される場合があり、そのためキャスターの接地点を中心に部分的に小変形と変形回復を繰り返す場合がある。 これに耐えるために耐屈曲疲労性が必要となる。 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐摩耗性、耐屈曲性等に優れることからキャスターに要求される性能を満足する。 キャスターは、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形等により製造される。

    [ローラー]
    給紙用又は排紙用ローラーなどのローラー類は、耐摩耗性、摩擦係数安定性、圧縮永久歪が小さいこと等が要求される。 耐屈曲疲労性、耐摩耗性に優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐摩耗性、圧縮永久歪特性に改善するのに効果的であり、耐久性に優れるローラーを提供することができる。 本特性は紙移送以外の用途の例えばグリップ力を付与したローラーにも好適である。 本製品は、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、ラミネート等によって製造される。

    [パッキン]
    パッキンは、機器、軸、部材などの運動部分や可動部分の気密性や潤滑油・グリス等化学物質、液体、固体のシール、封止およびその運動の緩衝化、円滑化などを目的として使用されるが、機器等が回転運動や往復運動をしたり、繰り返し着脱する場合は、パッキンがその運動に晒されることになり、耐屈曲疲労性に優れる本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用すれば長期に亘ってパッキン特性を確保することができる。 本製品は、射出成形、押出し成形、プレス成形等によって製造される。

    以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。 本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。 なお、熱可塑性樹脂組成物(熱可塑性エラストマーアロイ等)中の分散粒子の平均分散粒子アスペクト比及び平均分散粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。

    実施例等で用いた材料を下記に示す。

    <熱可塑性樹脂(A)>
    (1)TPU−1:硬度90のアジペート系TPU(熱可塑性ポリウレタン)
    (2)TPU−2:硬度90のカプロラクトン系TPU(熱可塑性ポリウレタン)
    (3)TPU−3:硬度92のPTMG系TPU(熱可塑性ポリウレタン)
    (4)TPU−4:硬度92のアジペート系TPU(熱可塑性ポリウレタン)
    (5)TPU−5:硬度80のアジペート系TPU(熱可塑性ポリウレタン)
    (6)TPEE:商品名「ハイトレル 4777」(熱可塑性ポリエステルエラストマー、東レ・デュポン社製)
    (7)TPAE:商品名「UBESTA XPA 9040X1」(熱可塑性ポリアミドエラストマー、宇部興産製)
    (8)POM:商品名「ジュラコン M90−44」(ポリアセタール樹脂、ポリプラスチックス社製)
    (9)PEN:商品名「テオネックス TN8065S」(ポリエチレンナフタレート樹脂、帝人化成社製)

    <変性エチレン共重合体(B)>
    (1)MAH−EPDM:商品名「フサボンド N416」(無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、デュポン社製)
    (2)X−EA:商品名「ベイマック」(酸変性エチレンアクリルエラストマー、デュポン社製)
    (3)MAH−EPM:商品名「タフマー MP0610」(無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合ゴム、三井化学社製)

    <エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム>
    EPDM:商品名「EP21」(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、JSR社製)

    実施例1
    TPU−1 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とを、二軸押出機(テクノベル社製、商品名「KZW20TW−30」)を用いて混練した。 押出機はバレル温度200℃(但し、フィーダー部160℃)に設定し、スクリュー回転数を300rpmとして、前記樹脂を溶融混練し、ペレタイザーを通してペレットを作製した。 得られたペレットを射出成形機(日精樹脂工業社製、商品名「NEX110−18E」)を用いて射出成形し、試験片[100mm×100mm×厚み2mm(摩耗試験用)、120mm×10mm×厚み4mm(デマチャ屈曲試験用)]を作製した。

    比較例1
    原料樹脂を、TPU−1 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    実施例2
    原料樹脂を、TPU−2 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例2
    原料樹脂を、TPU−2 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    実施例3
    原料樹脂を、TPU−3 100重量部と、MAH−EPDM 5重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.23、平均分散粒子径は0.35μmであった。

    実施例4
    原料樹脂を、TPU−3 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.11、平均分散粒子径は0.42μmであった。

    実施例5
    原料樹脂を、TPU−3 100重量部と、MAH−EPDM 20重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.08、平均分散粒子径は0.52μmであった。

    比較例3
    原料樹脂を、TPU−3 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した、

    比較例4
    原料樹脂を、TPU−3 100重量部と、EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるEPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.1、平均分散粒子径は5.8μmであった。

    実施例6
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部と、MAH−EPDM 5重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1、平均分散粒子径は0.62μmであった。

    実施例7
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.08、平均分散粒子径は0.52μmであった。

    実施例8
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部と、MAH−EPDM 20重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるMAH−EPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.85、平均分散粒子径は0.77μmであった。

    実施例9
    原料樹脂を、TPU−5 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例5
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例6
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部と、EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。 得られた熱可塑性エラストマーアロイにおけるEPDM粒子の平均分散粒子アスペクト比は1.1、平均分散粒子径は3.2μmであった。

    評価試験 <テーバー(Taber)摩耗試験>
    JIS K7311に準じ、テーバー摩耗試験機を使用して、100mm×100mm×厚み2mmの試験片について、摩耗輪H−22、荷重9.8Nにて1000回の回転後の摩耗量(mg)を測定した。 結果を表1に示す。

    <屈曲疲労試験(屈曲亀裂成長試験)>
    JIS K6260に準じてデマチャ屈曲試験を実施した。 120mm×10mm×厚み4mmの短冊状の試験片に対して、長辺の中間部分(長手方向の端から60mmの位置)に、幅方向のほぼ全長に亘って深さ0.5mmの切り欠き(切れ込み)を入れたものを試験に供した。 つかみ具間の最大距離80mm、つかみ具間の運動距離70mm、屈曲速度97回/minの条件で試験を行い、試験片の切り欠きからの亀裂の深さが3.5mmに達するまでの屈曲回数(屈曲疲労回数)を測定した。 結果を表1に示す。

    <硬度>
    JIS K6253(デュロメータタイプA)に準じて硬度を測定した。 ペレットを射出成形機(日精樹脂工業社製、商品名「NEX110−18E」)を用いて射出成形し、試験片100mm×100mm×厚み2mmを作製し、それを三枚重ねた6mmの厚さの試験片を用いて硬度の測定を実施した。 結果を表1に示す。

    <引張試験>
    JIS K7311に準じて引張試験を実施し、破断強度(MPa)及び破断伸び(%)等を求めた。 結果を表1に示す。 なお、引張試験用試験片は、摩耗試験用試験片を打ち抜いて作製した。

    <分散状態確認試験(SEM観察及びAFM観察)>
    二軸押出機で得られたペレットの断面を凍結ミクロトームで切り出し、走査型電子顕微鏡(株式会社日立テクノロジー社製、商品名「S−4300」)を用いて、2000倍で前記断面を観察した。 比較例4で得られたペレットの断面のSEM写真を図1に、実施例4で得られたペレットの断面のSEM写真を図2に、比較例6で得られたペレットの断面のSEM写真を図3に、実施例7で得られたペレットの断面のSEM写真を図4に示す。 また、上記ペレットの断面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。 実施例4で得られたペレットの断面のAFM写真を図12に、実施例7で得られたペレットの断面のAFM写真を図13に示す。

    表1に示す評価結果から、本発明に係る熱可塑性エラストマーアロイから形成された成形品は、熱可塑性ポリウレタンのみから形成された成形品、熱可塑性ポリウレタンと無変性のエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムからなる熱可塑性エラストマーアロイから形成された成形品と比較して、テーバー摩耗量だけでなく、耐屈曲疲労性に著しく優れることが分かる。 変性のエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムを添加した場合、熱可塑ポリウレタンの材料特性を損なわず、耐摩耗性と屈曲疲労性を改善できている。 無変性のエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムを添加した場合でも屈曲疲労性の改善効果がある程度見られることがあるが、耐摩耗性と屈曲疲労性を共に大幅に改善できるのは変性のエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムにてアロイ化した場合である。 また、分散状態確認試験(SEM観察)の結果から、分散状態は、エステル系TPU−EPDM<エーテル系TPU−EPDM<エーテル系TPU−無水マレイン酸変性EPDM<エステル系TPU−無水マレイン酸変性EPDMの順に良好になっていることが分かる。 さらに、AFM写真によれば、変性EPDMとエーテル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイや変性EPDMとエステル系TPUからなる熱可塑性エラストマーアロイのいずれも平均分散粒子径が1μm以下で分散していることが分かる。

    テーバー摩耗及び屈曲回数における著しい改善が見られた理由は、エネルギー吸収効果を有する変性エチレン共重合体成分の微分散化によるクラック伸長の遅延効果により、TPUの凝着摩耗と呼ばれるシビアな摩耗進行からマイルドな進行へと状態変化したことなどが考えられる。 これは、本発明において、TPU中に変性エチレン共重合体成分(エラストマー成分)がミクロ相分離構造の様に球状に近く且つ微分散する組合せとして得られたためである。 通常、相溶化やせん断粘度を考慮せずに単にブレンドした状態では、島(分散体)の形状がいびつであったり、機械的に粉砕した様な形状であることが多く、島層(分散相)と海層(連続相)の間の接着力が弱く、成形物に応力がかかると界面で剥離を生じ易くなり、また島形状からもクラック発生に対する耐性に乏しくなる。 これらが原因となり耐久性に劣ることがある。 しかし、本発明の熱可塑性樹脂組成物や熱可塑性エラストマーアロイでは、島層(分散相)と海層(連続相)の接着面積の増大化と接着力を高めることにより、島層(分散相)の微分散化と真球に近い形状での分散形態が得られ、繰返し荷重、応力、変形などがかかる運動条件下での耐久性を著しく向上することができている。 このような特性を発現させ、効果を確認した者は今まで無く、本発明者らが鋭意工夫することにより見出したものである。

    実施例10
    原料樹脂を、TPU−4 100重量部と、MAH−EPDM 150重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例A
    原料樹脂を、MAH−EPDM 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    実施例11(ポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いた例)
    原料樹脂を、TPEE 100重量部と、MAH−EPM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例7
    原料樹脂を、TPEE 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    実施例12(ポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いた例)
    原料樹脂を、TPAE 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例8
    原料樹脂を、TPAE 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    実施例13(ポリアセタール樹脂を用いた例)
    原料樹脂を、POM 100重量部と、MAH−EPDM 10重量部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    比較例9
    原料樹脂を、POM 100重量部のみとした以外は実施例1と同様の操作を行い、ペレット及び試験片を作製した。

    上記実施例10〜13、比較例A、比較例7〜9で得られた試験片を用い、上記の評価試験を行った。 なお、実施例11、比較例7においては、硬度は、JIS K6253(デュロメータタイプD)に準拠して測定された値である。 結果を表2に示す。

    上記で得られた比較例5(MAH−EPDM:0重量%)、実施例7(MAH−EPDM:9重量%)、実施例8(MAH−EPDM:17重量%)、実施例10(MAH−EPDM:60重量%)、比較例A(MAH−EPDM:100重量%)の各評価結果(屈曲回数)を用いて、熱可塑性樹脂組成物(熱可塑性エラストマーアロイ)における変性エチレン共重合体(MAH−EPDM)の配合比(重量%)と耐屈曲疲労性との関係をグラフ(片対数グラフ)に表した(図5参照)。 図5において、横軸はMAH−EPDMの配合比(重量%)、縦軸は屈曲回数である。 図5の(a)は、比較例5と比較例Aのデータをプロットし、この2点を直線(破線)で結んだグラフである。 図5の(b)は、比較例5、実施例7、実施例8、実施例10、比較例Aのデータをプロットし、各点を直線(実線)で結んだグラフである。 図5の(c)は、図5の(a)と(b)とを重ね合わせたグラフである。

    図5に示されるように、熱可塑性樹脂(A)に前記変性エチレン共重合体(B)を分散含有させた樹脂組成物においては、該樹脂組成物の成形品の耐屈曲疲労性は、各材料単体から期待される値よりも向上し、相乗効果が得られる。

    実施例14〜20および比較例10〜16(他の変性エチレン共重合体を用いた例)
    熱可塑性樹脂としてポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、変性エチレン共重合体としてX−EAを用い、この合計を100重量部として(両成分の比率は表3参照)、そこに硬化剤として脂肪酸金属塩(ステアリン酸マグネシウム)、フェノール樹脂、金属酸化物(酸化マグネシウム)を表3の通り、可変量加え、さらに老化防止剤(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)1重量部を添加して、ラボプラストミル(東洋精機社製、商品名「4C150」)を用いて混練した。 まず樹脂同士を十分に溶融混練した後で硬化剤を加え、その硬化(架橋)反応後に老化防止剤を加えている。 反応は混練トルク値の変化挙動で確認した。 混練温度は260℃に設定し、合計10分間混練した。 その後プレス成形により、試験片[100mm×100mm×厚み2mm(摩耗試験用)]を作製した。 その試験片より引張試験サンプル等の各種評価試験片を打ち抜いている。 また屈曲疲労試験片は射出成形により作製している。 なお、比較例10は老化防止剤以外の添加剤を加えていないPEN樹脂そのものであり、射出成形によりシートを得ている。 また比較例16は、PEN樹脂と変性していないEPDMをラボプラストミルでPENの融点近傍の温度で混練したものである。 実施例19及び20はPENとX−EAの配合割合を変えて、ラボプラストミルの代わりに二軸押出機で混練している。 それ以外は実施例15と同じである。 得られた熱可塑性樹脂組成物の特性および分散粒子(X−EA粒子等)の平均分散粒子アスペクト比を前記と同様の方法で測定、評価した。 その結果を表3に示す。 なお、引張弾性率、20%伸長時のモジュラス強度、引張強度、引張伸度(引張伸び)、永久伸びは、JIS K7311に準じた引張試験により測定した。 また、表3中の硬度(ショアーA)は、JIS K6253(デュロメータタイプA)に準拠して測定された値、硬度(ショアーD)は、JIS K6253(デュロメータタイプD)に準拠して測定された値である。

    また、実施例14〜18、比較例11〜15で得られた樹脂組成物の引張試験の結果(引張伸度及び引張強度)を図6に示す。 図6のグラフにおいて、横軸は引張伸度(%)、縦軸は引張強度(MPa)である。 また、グラフ中の符号のaは比較例11、bは比較例12、cは比較例13、dは比較例14、eは比較例15、fは実施例14、gは実施例15、hは実施例16、iは実施例17、jは実施例18のデータである。

    表3の結果からPEN樹脂とX−EAを混ぜた場合は、PEN樹脂の融点以上の温度であっても、X−EAのせん断粘度が低いためX−EAが連続相となり、PEN樹脂が分散相として真球に近い形状で分散している(比較例11)。 比較例11の樹脂組成物のTEM写真を図7に示す[1万倍の写真(112mm×161mmのサイズで)]。 この際にPEN樹脂に対するX−EAのエステル成分や酸変性成分の親和性が高く、相溶化が促進されるため、分散X−EAの平均粒径は約0.41μm以下と非常に小さくなる。 しかし、この状態では組成物の粘着性は強く、引張伸度は大きくなるものの引張強度はほとんどでないために、樹脂成形品として使用することはできない。 そして、この系にX−EAと反応する硬化剤を添加していくと、混練中にも迅速な硬化反応が生じて、X−EAのせん断粘度が上昇していく。 X−EAに対する硬化剤の量を増して、X−EAの硬化反応を促進すると、混練中のPEN樹脂とX−EAのそれぞれのせん断粘度が接近してくることになり、その体積分率にも依存するが、ある硬化剤添加量で両成分のせん断粘度が相当になり、両成分が連続相になる(比較例14、15)。 比較例14の樹脂組成物のTEM写真を図8に示す[1万倍の写真(112mm×161mmのサイズで)]。 この時に分散粒子のアスペクト比は最大となるが、引張伸びは最低となる(図6参照)。 異方性もあるため、耐久性を求められるような用途では使用できなくなる。

    さらにX−EAに対する硬化剤量を増していくと、混練時の硬化反応によりX−EAのせん断粘度が増加し、相対的にPEN樹脂よりも高くなる。 樹脂の融点以上の温度で、混練しながら硬化反応を完結すると、X−EAが島相(分散相)、PEN樹脂が海相(連続相)に相転移する(実施例14)。 実施例14の樹脂組成物のTEM写真を図9に示す[1万倍の写真(112mm×161mmのサイズで)]。 相変換が混練反応途中で起きると、それぞれの相が相互に侵入するような非常に複雑で、強固にポリマー相がからみついた分散が導入される。 そのプロセスを経て、X−EAがなお高粘度化することで、PEN樹脂を内包したX−EAが真球状の分散状態になっていく。 この場合、海相(連続相)がPEN樹脂であるため、組成物は高粘度でありながら、全体として熱可塑性を保っている。 そしてプレスによるシート成形性も改善してくることから、引張強度と引張伸度は共に増してくる(実施例14〜18;図6参照)。 TEM像から求められる分散粒子径が0.3μm以下と、非常に細かい分散状態であるため、この樹脂組成物は、フィルム状としても180°折り曲げても曲げ部分が白化することはなく、繰り返し疲労に対しても優れた耐性を示した。 実施例19は、PEN成分量が増しており、混練も二軸押出機で行っているため、一概に比較できないが、非常に細かい分散粒子径が得られている。 実施例19の樹脂組成物のTEM写真を図10に示す[1万倍の写真(112mm×161mmのサイズで)]。 表3の結果は、比較例11〜13の海相(連続相)は変性エチレン共重合体であり、架橋を十分に施さない限り機械的性質は不足している。 比較例11や比較例12は耐久性に優れた熱可塑性樹脂組成物として取り扱えない。 比較例14、15では両ポリマー成分が連続相となる、アスペクト比が10よりも大きい分散状態であり、機械的強度に劣り、屈曲疲労性も低いものであった。 実施例14〜20の樹脂組成物が、熱可塑性を保ちながらも、機械的強度や耐摩耗性、耐久性(屈曲疲労性)に優れた分散状態を有したものであった。

    表3の比較例16は、PEN樹脂とEPDMをラボプラストミルで混練したものである。 この組み合わせでは、混練中のせん断粘度はEPDMの方がPEN樹脂よりも高くなっているため、樹脂組成物としてはPEN樹脂を海相(連続相)として、EPDMの破砕物が島相(分散相)となり海相中に分散しているような分散状態となる。 比較例15の樹脂組成物のTEM写真を図11に示す[1万倍の写真(112mm×161mmのサイズで)]。 これはEPDMに官能基がなく、樹脂との相溶化を促進するような処理がされていないためである。 この組み合わせの平均分散粒子径は4μmを超しており、アスペクト比も2付近と大きくなっている。 このシートを折り曲げると、折り曲げ部が白化してしまう。 微小なクラックが大量に発生していると考えられ、屈力疲労試験においても試験回数は少なくなっていた。 以上のように、樹脂組成物の分散状態が耐久性に大きな影響を及ぼしており、何もブレンドしないそのままの樹脂(均質構造)よりも、理想的なミクロ相分離構造(設計された不均質構造)を実現した樹脂組成物の方が耐久性は向上する結果が得られた。

    表3に示す樹脂組成物は、テーバー摩耗試験、屈曲疲労試験、そして永久伸び試験などの各試験で、応力の負荷時間に依存せずに耐性を示している。 これらの評価試験は応力負荷のタイミングが異なり、且つ曲げ変形の程度も異なるが、評価における運動挙動は程度の差はあるものの応力負荷変形であり、本発明でいう耐久性(屈曲疲労性)の概念に含まれている運動、変形、あるいは仕事である。 そして実際の製品として、負荷される応力や負荷の受け方は様々であるが、本発明の樹脂組成物は耐久性材料として使用できるものとなる。

    樹脂組成物の分散状態は、各成分の体積分率、せん断粘度、硬化剤の種類・量、硬化反応の時間、混練温度・時間などが複雑に関係し合い決まる関係にある。 混練に関するせん断速度を増すことにより、分散粒径は小さくなることと、島相(分散相)のせん断粘度が海相(連続相)のせん断粘度に比べて相対的に大きければ大きいほど、島相(分散相)は球状となる傾向がある。 また成形条件により、樹脂組成物の流動により島相(分散相)の形状が伸長し(アスペクト比が大きくなり)、混練状態での分散状態も異なることもある。 とくに島相(分散相)と海相(連続相)が複雑に絡み合うような分散状態では、島相(分散相)の形状は、樹脂組成物の流動の影響を受けやすくなる。 例えば一度シート化したものを再度溶融し再加工する場合に、この溶融部分の分散状態が異なる可能性がある。 適正な分散状態を維持するためには、加熱成形後、迅速に冷却することで、分散した島相(分散相)の再凝集を最小限化する必要がある。 つまり樹脂組成物としては、熱履歴やせん断履歴を受けながらも本発明でいう分散状態を維持することが重要である。 以上より、最終的に供される製品を構成する素材(樹脂組成物)において、本発明の分散粒子径およびアスペクト比を満足することが、耐久性に優れた製品を提供することになる。

    本発明の樹脂組成物は、製品全体に使用されていてもよいし、製品の一部に使用されていてもよい。 応力が集中して加わる部位にのみ本発明の樹脂組成物を用いることでも耐久性は確実に向上する。

    本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐摩耗性に優れるだけでなく、耐久性、特に、耐屈曲疲労性に著しく優れ、大きな負荷をかけた状態で長時間使用しても、または負荷を受けた時間が短時間であっても、摩耗、損傷、クラック、破断等が生じにくい。 そのため、ベルト、チューブ、ホース、吸着パッド、防振ダンパー、防振継ぎ手、ショックアブソーバ、キャスター、ローラー、パッキン等の成形品の成形用樹脂組成物として有用である。

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