多層構造体、これを用いたインナーライナー及び空気入りタイヤ

申请号 JP2012536138 申请日 2010-11-30 公开(公告)号 JPWO2012042679A1 公开(公告)日 2014-02-03
申请人 株式会社クラレ; 株式会社ブリヂストン; 发明人 祐和 高橋; 祐和 高橋; 田井 伸二; 伸二 田井; 正雄 日笠; 正雄 日笠; 秀樹 北野; 秀樹 北野; 哲生 天本; 哲生 天本; 隆嗣 田中; 隆嗣 田中;
摘要 ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層とを有し、上記A層とB層が合計7層以上であり、上記A層の一層の平均厚みが0.001μm以上10μm以下、上記B層の一層の平均厚みが0.001μm以上40μm以下であり、活性エネルギー線が照射されてなる多層構造体この多層構造体を用いるインナーライナー及びこのインナーライナーを備える空気入りタイヤである。
权利要求
  • ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層とを有し、
    上記A層とB層とが合計7層以上であり、
    上記A層の一層の平均厚みが0.001μm以上10μm以下、上記B層の一層の平均厚みが0.001μm以上40μm以下であり、
    活性エネルギー線が照射されてなる多層構造体。
  • 上記A層とB層とが交互に積層されている請求項1に記載の多層構造体。
  • 厚みが0.1μm以上1,000μm以下である請求項1又は請求項2に記載の多層構造体。
  • 上記エラストマーが、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びフッ素樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多層構造体。
  • 上記A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中に金属塩を含み、
    この金属塩の含有量が、金属元素換算で1質量ppm以上10,000質量ppm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多層構造体。
  • 上記A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中にラジカル架橋剤を含み、
    活性エネルギー線照射前のこの樹脂組成物に対するラジカル架橋剤の含有量が、0.01質量%以上10質量%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多層構造体。
  • 上記ガスバリア樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多層構造体。
  • 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が、3モル%以上70モル%以下である請求項7に記載の多層構造体。
  • 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度が80モル%以上である請求項7又は請求項8に記載の多層構造体。
  • 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体が、下記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有し、
    これらの構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量が0.5モル%以上30モル%以下である請求項7、請求項8又は請求項9に記載の多層構造体。
    (式(I)中、R 、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R 、R 及びR のうちの一対が結合していてもよい(但し、R 、R 及びR のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
    式(II)中、R 、R 、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。 また、R とR 又はR とR とは結合していてもよい(但し、R とR 又はR とR が共に水素原子の場合は除く)。 また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。 )
  • 上記活性エネルギー線が電子線である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多層積層体。
  • 上記電子線が、電子線加速機により、加速電圧100kV以上500kV以下、照射線量5kGy以上600kGy以下で照射される請求項11に記載の多層積層体。
  • 180℃で15分間加熱後に、JIS−K6854に準拠して23℃、50%RH雰囲気下、引張り速度50mm/分によるT型剥離試験によって測定される層間の剥離抗力が、25N/25mm以上である請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多層構造体。
  • 請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の多層構造体を用いる空気入りタイヤ用のインナーライナー。
  • 請求項14に記載のインナーライナーを備える空気入りタイヤ。
  • 说明书全文

    本発明は、7層以上の層を有する多層構造体、これを用いた空気入りタイヤ用のインナーライナー、及びこのインナーライナーを備える空気入りタイヤに関する。

    従来、エチレン−ビニルアルコール共重合体層を有する積層フィルムが、その高いガスバリア性、熱成形性等を利用し、食品用及び医療用包装材料等の用途に使用されている。 最近では、ガスバリア性等の各種性能を向上させる目的で、1層の厚みがミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーの樹脂層が複数積層された種々の多層構造体が提案されている。

    かかるエチレン−ビニルアルコール共重合体の樹脂層が複数積層された従来の多層構造体としては、例えば(1)エチレン−ビニルアルコール共重合体等のバリア材料及び熱可塑性ポリウレタン等のエラストマー材料からなるミクロレイヤー高分子複合物が積層されるエラストマー性バリア膜(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)や、(2)エチレン−ビニルアルコール共重合体等の硬質ポリマー材料と可塑性ポリマー材料との交互の層を有する多層フィルム(例えば、特許文献3参照)などが開発されている。

    しかしながら、上記従来の多層構造体(1)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のバリア材料と熱可塑性ポリウレタン等のエラストマー材料との層間の接着性については特段考慮されていない。 また、上記従来の多層構造体(2)も、層間接着性に関してエチレン−ビニルアルコール共重合体等の硬質ポリマー材料自体やこれと可塑性ポリマー材料との組合せ等の工夫がなされておらず、単にホットメルト接着剤からなる繋ぎ層を使用して各層間の接着性を強化する技術のみが開示されている。 そのため、これら従来の多層構造体(1)及び多層構造体(2)によれば、層間の接着性が不十分であり、層間の剥離等によりバリア層にクラックが生じやすくなり、耐久性が低下するおそれがある。 その結果、従来の多層構造体(1)及び(2)では、高いガスバリア性が要求される用途においてはガスバリア性が不十分となり、使用しにくいという不都合がある。

    一方、空気入りタイヤの内面には、空気漏れを防止しタイヤ空気圧を一定に保つために従来、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等の低気体透過性ブチル系ゴムを主成分とするインナーライナー層が設けられている。 しかし、これらのブチル系ゴムの含有量を多くすると未加硫ゴムにより強度が低下し、ゴム切れやシート穴空きなどが生じやすい。 特に、インナーライナーを薄ゲージ化する場合には、タイヤ製造時に内面のコードが露出し易いという不都合を生じる。

    従って、上記ブチル系ゴムの含有量は自ずから制限され、このブチル系ゴムを配合したゴム組成物を用いる場合、空気バリア性の点からインナーライナー層には、1mm前後の厚さが必要となる。 そのため、タイヤに占めるインナーライナー層の質量は約5%程度となり、タイヤ質量の低減によって自動車燃費を向上するための障壁となっている。

    そこで、近年の省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車タイヤの軽量化を目的としてインナーライナー層を薄ゲージ化するための手法が提案されている。 このような手法としては、例えば、ナイロンフィルム層や塩化ビニリデン層をインナーライナー層として従来のブチル系ゴムの代えて用いる手法が開発されている(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)。 また、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした組成物のフィルムをインナーライナー層に用いる手法も開発されている(例えば、特許文献6参照)。

    しかしながら、これらのフィルムを用いる方法は、タイヤ軽量化はある程度可能であるとしても、マトリックスが結晶性の樹脂材料であるために、特に5℃以下の低温での使用時における耐クラック性や耐屈曲疲労性が、通常用いられるブチル系ゴム配合組成物層の場合より劣るという不都合があり、加えてタイヤ製造も煩雑な工程となる。

    一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、上述したようにガスバリア性に優れている。 エチレン−ビニルアルコール共重合体は、空気透過量がブチル系ゴムを配合したインナーライナーゴム組成物の100分の1以下であるため、50μm以下の厚さでも、内圧保持性を大幅に向上することができる上、タイヤを軽量化することが可能である。 したがって空気入りタイヤの空気透過性を低下させるために、エチレン−ビニルアルコール共重合体をタイヤインナーライナーに用いることは有効であり、エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるタイヤインナーライナーを有する空気入りタイヤが開発されている(例えば、特許文献7参照)。

    しかしながら、このエチレン−ビニルアルコール共重合体をインナーライナーとして用いた場合は、内圧保持性改良効果は大きいものの、弾性率が通常タイヤに用いられているゴムに比べ大幅に高く、耐屈曲性が優れていないため、屈曲時の変形で破断やクラックが生じることがある。 このため、エチレン−ビニルアルコール共重合体から形成されるインナーライナーを用いる場合、タイヤ使用前の内圧保持性は大きく向上するものの、タイヤ転動時の屈曲変形を受けた使用後のタイヤでは、内圧保持性が使用前に比べて低下することがある。

    この不都合を解決するために、例えば、エチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎性可塑剤1〜40重量%からなる樹脂組成物を用いてなるタイヤ内面用インナーライナーが開発されているが(例えば、特許文献8参照)、このインナーライナーの耐屈曲性については必ずしも十分に満足し得るものではない。

    したがって、優れたガスバリア性を保持したまま、高度な耐屈曲性を有し、かつ薄型化が可能な、空気入りタイヤ用のインナーライナー等に好適に用いることができる多層構造体の開発が望まれている。

    特表2002−524317号公報

    特表2007−509778号公報

    特表2003−512201号公報

    特開平7−40702号公報

    特開平7−81306号公報

    特開平10−29407号公報

    特開平6−40207号公報

    特開2002−52904号公報

    本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れかつ薄型化が可能な多層構造体、これを用いたインナーライナー並びにこのインナーライナーを備える空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。

    本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなる所定厚さの層と、エラストマーを含む樹脂組成物からなる所定厚さの層とを合計7層以上有すると共に、活性エネルギー線が照射されてなる多層構造体によって、上述の目的が達成されることを見出した。 本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。

    すなわち、本発明は、
    ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層とを有し、
    上記A層とB層とが合計7層以上であり、
    上記A層の一層の平均厚みが0.001μm以上10μm以下、上記B層の一層の平均厚みが0.001μm以上40μm以下であり、
    活性エネルギー線が照射されてなる多層構造体である。

    当該多層構造体は、ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなるA層を含む多層構造を有するため、優れたガスバリア性を有する。 また、当該多層構造体は、所定厚さのA層と共に、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層が積層されているため、ガスバリア樹脂自体の延性が低い場合でも、全体的な延性を高めることができる。 従って、当該多層構造体は、延性に優れ、高い耐屈曲性を発揮することができる。 そのため、当該多層構造体は屈曲などの変形をさせて使用する場合でも、高いガスバリア性等の特性を維持することができる。 さらに、当該多層構造体は、活性エネルギー線が照射されてなるため、層間の接着性が高まり、ガスバリア性及び耐屈曲性を高めることができる。 また、当該多層構造体は、A層及びB層が所定の平均厚みを有する薄層であるため薄型化及び軽量化を可能とする。

    上記A層とB層とが交互に積層されているとよい。 このようにA層とB層とを交互に積層することで、積層される各層間に上述の高い接着性を発現することができる。 その結果当該多層構造体の層間接着性、ひいてはガスバリア性、耐屈曲性等を格段に向上させることができる。

    当該多層構造体の厚みとしては0.1μm以上1,000μm以下が好ましい。 当該多層構造体の厚みを上記範囲とすることで、インナーライナー等各種用途への適用性を維持しつつ、また、良好な活性エネルギー線の照射効率を得ることができるため層間の接着性が高まり、ガスバリア性、耐屈曲性等をさらに向上させることができる。

    上記エラストマーが、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びフッ素樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種であるとよい。 エラストマーとして、上記各ポリマーを用いることで、当該多層構造体の延性を効果的に高めることができるため、耐屈曲性をさらに向上させることができる。

    当該多層構造体において、A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中に金属塩を含み、この金属塩の含有量が金属元素換算で1質量ppm以上10,000質量ppm以下であるとよい。 当該多層構造体によれば、樹脂組成物中に所定量の金属塩を含むことで隣接する他層との接着性がさらに高まるため、ガスバリア性や耐屈曲性をさらに向上させることができる。

    上記A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中にラジカル架橋剤を含み、活性エネルギー線照射前のこの樹脂組成物に対するラジカル架橋剤の含有量が、0.01質量%以上10質量%以下であるとよい。 当該多層構造体によれば、ラジカル架橋剤を含有する樹脂組成物からなる層を有する多層構造体に活性エネルギー線を照射することで、層間での架橋剤による化学結合が生じ、層間接着性をより高めることができる。 その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐屈曲性等をより向上させることができる。 また、樹脂組成物中にラジカル架橋剤を含むことで、照射される活性エネルギー線の量を低減し、生産性を向上させることができる。

    上記ガスバリア樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)であるとよい。 ガスバリア性樹脂として、EVOHを用いることで、当該多層構造体のガスバリア性をより高めることができる。

    上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量としては、3モル%以上70モル%以下が好ましい。 EVOHのエチレン単位含有量を上記範囲とすることにより当該多層構造体のガスバリア性が向上し、加えて溶融成形性を向上させることができ、この高い溶融成形性により層間接着性を向上させることができる。

    上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度としては、80モル%以上が好ましい。 EVOHのケン化度を上記範囲にすることによって、当該多層構造体のガスバリア性をさらに向上させることができ、加えて、B層との層間接着性を向上させることができる。

    上記エチレン−ビニルアルコール共重合体が、下記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有し、これらの構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量が0.5モル%以上30モル%以下であるとよい。

    (式(I)中、R 、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R 、R 及びR のうちの一対が結合していてもよい(但し、R 、R 及びR のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
    式(II)中、R 、R 、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。 また、R とR 又はR とR とは結合していてもよい(但し、R とR 又はR とR が共に水素原子の場合は除く)。 また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。 )

    A層のEVOHが上記構造単位(I)又は(II)を上記含有量範囲で有することによって、A層を構成する樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上し、当該多層構造体の層間接着性、耐屈曲性、熱成形性等を向上させることができる。

    上記活性エネルギー線が電子線であるとよい。 活性エネルギー線として電子線を用いることで、層間の架橋反応がより促進され、当該多層構造体の層間接着性をさらに向上させることができる。

    上記電子線が、電子線加速機により、加速電圧100kV以上500kV以下、照射線量5kGy以上600kGy以下で照射されるとよい。 電子線を上記条件にて照射することで、架橋反応がより効果的に進行し、当該多層構造体の層間接着性をさらに高めることができる。

    当該多層構造体において、180℃で15分間加熱後に、JIS−K6854に準拠して23℃、50%RH雰囲気下、引張り速度50mm/分によるT型剥離試験によって測定される層間の剥離抗が、25N/25mm以上であるとよい。 当該多層構造体が、このように優れた層間接着性を備えることで、耐屈曲性及び屈曲後のガスバリア性にも優れ、空気入りタイヤ用のインナーライナー等に好適に用いることができる。

    本発明の空気入りタイヤ用のインナーライナーは上記多層構造体を用いるものである。 当該インナーライナーは、上記多層構造体を用いているため、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、加えて、軽量化も可能とする。

    また、本発明の空気入りタイヤは、上記インナーライナーを備えるものである。 当該空気入りタイヤは、上記インナーライナーを備えているため、優れた内圧保持性能を有し、使用により屈曲変形を受けた後においてもその内圧保持性能を維持することができる。

    以上説明したように、本発明の多層構造体は、ガスバリア性に優れている。 また、本発明の多層構造体は、延性に優れ、高い耐屈曲性を有していることから、変形させて使用する場合でも、この優れたガスバリア性等の特性を維持することができる。 従って、当該多層構造体は、空気入りタイヤ用のインナーライナー等として好適に用いることができ、このインナーライナーを備える空気入りタイヤは、優れた内圧保持特性能を発揮することができる。

    本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す部分断面図である。

    以下、本発明の実施の形態を多層構造体、インナーライナー及び空気入りタイヤの順に詳説する。

    <多層構造体>
    本発明の多層構造体は、ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層とを有し、A層とB層とを合計7層以上有する。 また、当該多層構造体は、上記A層の一層の平均厚みが0.001μm以上10μm以下であり、上記B層の一層の平均厚みが0.001μm以上40μm以下であり、活性エネルギー線が照射されてなるものである。 なお、これらの樹脂組成物には、好ましくは、金属塩、ラジカル架橋剤等の添加剤が含有されているとよい。

    以下、当該多層構造体の層構造、A層、B層、樹脂組成物への添加物、A層とB層との関係及び製造方法に関し、この順に説明する。

    <層構造>
    当該多層構造体は、A層とB層とを合計7層以上備えている。 このように合計7層以上のA層及びB層を積層した構造により、ピンホール、割れなどの欠陥が連続して発生することを抑制できる結果、多層構造体の全層の破断を防ぐことができ、高いガスバリア性、耐屈曲性等の特性を有している。

    かかる観点と製造上の観点から、A層及びB層の合計の層数としては、17層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、48層以上がさらに好ましく、65層以上が特に好ましい。 当該多層構造体は、さらに多層の構造体としてもよく、A層及びB層の合計の層数として、128層以上、256層以上、512層以上、1,024層以上とすることもできる。 なお、この合計層数の上限は当該多層構造体の用途によって適宜選定される。

    本発明の多層構造体は、A層及びB層以外のC層等を有することも可能である。 また、A層及びB層の積層順としては、例えば、
    (1)A,B,A,B・・・A,B(つまり、(AB)
    (2)A,B,A,B・・・・・A(つまり、(AB) A)
    (3)B,A,B,A・・・・・B(つまり、(BA) B)
    (4)A,A,B,B・・・B,B(つまり、(AABB)
    等の積層順を採用することができる。 また、その他のC層を有する場合、例えば、
    (5)A,B,C・・・A,B,C(つまり、(ABC)
    等の積層順を採用することができる。

    特に、A層及びB層の積層順としては、上記(1)、(2)又は(3)のように、A層とB層とが交互に積層されていることが好ましい。 このようにA層とB層とが交互に積層された積層体に、活性エネルギー線を照射することにより、積層される各層間の結合性が向上し高い接着性を発現することができる。 その結果、当該多層構造体の層間接着性ひいてはガスバリア性、耐屈曲性等を格段に向上させることができる。 また、A層とB層とを交互に積層することで、A層が両面からB層に挟まれるため、A層の延性がより向上される。

    また、本発明の多層構造体は、このようなA層、B層及びその他のC層等からなる積層体の両面又は片面に、支持層が積層されてもよい。 この支持層としては特に限定されず、例えば、一般的な合成樹脂層、合成樹脂フィルム等も用いられる。

    本発明の多層構造体においては、上記A層及びB層の一層の平均厚みは、それぞれ0.001μm以上10μm以下、0.001μm以上40μm以下である。 A層及びB層の一層の平均厚みを上記範囲とすることで、多層構造体の全体の厚さが同じである場合でも数を増やすことができ、その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐屈曲性等をさらに向上させることができる。

    なお、当該多層構造体は、ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなり上記範囲の厚みを有するA層と共に、エラストマーを含む樹脂組成物からなるB層が積層されているため、ガスバリア樹脂自体の延性が低い場合でも、延性の低い樹脂組成物からなるA層の延性を高めることができる。 これは、延性に優れたB層に、延性の低い樹脂組成物からなるA層を薄く積層させることで、この延性の低い樹脂組成物が、延性の高い状態に転移するためと考えられる。 本発明は、上記事実に着目したものであり、A層は一般に延性が低い材料からなるが、このように各層の厚みを非常に薄くすることで、タイヤ用インナーライナー等に求められるガスバリア性と耐屈曲性とを高度に両立できる。 そのため、当該多層構造体は、屈曲などの変形をさせて使用する場合でも、高いガスバリア性等の特性を維持することができる。

    A層一層の平均厚みの下限としては、0.001μmであるが、0.005μmが好ましく、0.01μmがさらに好ましい。 一方、A層一層の平均厚みの上限としては、10μmであるが、7μmが好ましく、5μmがさらに好ましく、3μmがさらに好ましく、1μmがさらに好ましく、0.5μmがさらに好ましく、0.2μmさらには0.1μmが特に好ましく、0.05μmが最も好ましい。

    A層一層の平均厚みが上記下限より小さいと、均一な厚さで成形することが困難になり、当該多層構造体のガスバリア性及びその耐屈曲性が低下するおそれがある。 逆に、A層一層の平均厚みが上記上限を超えると、当該多層構造体全体の厚みが同じである場合、当該多層構造体の耐久性及び耐クラック性が低下するおそれがある。 また、A層一層の平均厚みが上記上限を超えると、上述したA層の延性向上が十分に発現しないおそれがある。 なお、A層の一層の平均厚みとは、当該多層構造体に含まれる全A層の厚みの合計をA層の層数で除した値をいう。

    B層一層の平均厚みの下限としては、0.001μmであるが、A層と同様の理由により0.005μmが好ましく、0.01μmがさらに好ましい。 一方、B層一層の平均厚みの上限としては、40μmであるが、30μmが好ましく、20μm以下がさらに好ましい。 B層一層の平均厚みが上記上限を超えると、当該多層構造体全体の厚みが同じである場合、当該多層構造体の耐久性及び耐クラック性が低下するおそれがある。 なお、B層の一層の平均厚みも、当該多層構造体に含まれる全B層の厚さの合計をB層の層数で除した値をいう。

    なお、B層一層の平均厚みに関しては、B層一層の平均厚みのA層一層の平均厚みに対する比(B層/A層)が1/3以上であることが好ましく、1/2以上であることがよりこのましい。 また、上記比が1以上、すなわちB層一層の平均厚みがA層一層の平均厚みと同じ又はそれ以上であることがさらに好ましく、2以上であることが特に好ましい。 A層とB層との厚みの比をこのようにすることで、当該多層構造体が全層破断に至るまでの屈曲疲労特性が向上する。

    当該多層構造体の厚みとしては0.1μm以上1,000μm以下が好ましく、0.5μm以上750μm以下がより好ましく、1μm以上500μm以下がさらに好ましい。 当該多層構造体の厚みを上記範囲とすることで、上記のA層及びB層の一層の平均厚みを上記範囲とすることと相まって、空気入りタイヤのインナーライナー等への適用性を維持しつつガスバリア性、耐屈曲性、耐クラック性、耐久性、延伸性などをさらに向上させることができる。 ここで、多層構造体の厚みは、多層構造体の任意に選ばれた点での断面の厚みを測定することにより得られる。

    <A層>
    A層は、ガスバリア樹脂を含む樹脂組成物からなる層である。 A層を構成する樹脂組成物がガスバリア樹脂を含むことでガスバリア性に優れる多層構造体を得ることができる。

    ガスバリア樹脂とは、気体の透過を防止する機能を有する樹脂であり、具体的には20℃−65%RH条件下で、JIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した酸素透過速度が、100mL・20μm/(m ・day・atm)以下の樹脂をいう。 なお、本発明に用いられるガスバリア樹脂の酸素透過速度は、50mL・20μm/(m ・day・atm)以下が好ましく、10mL・20μm/(m ・day・atm)以下がさらに好ましい。

    このようなガスバリア樹脂としては、EVOH、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。

    これらのガスバリア性樹脂の中でも、ガスバリア性の点から、EVOH、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、ガスバリア性に加え、溶融成形性、B層との接着性などの点からEVOHが特に好ましい。

    <ポリアミド樹脂>
    上記ポリアミド樹脂は、アミド結合を有するポリマーであり、ラクタムの開環重合、又はアミノカルボン酸若しくはジアミンとジカルボン酸との重縮合等によって得ることができる。

    上記ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等を挙げることができる。

    上記アミノカルボン酸としては、例えば6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等を挙げることができる。

    上記ジアミンとしては、例えばテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノー3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等を挙げること� ��できる。

    上記ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等を挙げることができる。

    ポリアミド樹脂を合成する際の重縮合の方法としては、例えば、溶融状態において重縮合する方法や、一旦溶融状態で重縮合して低粘度ポリアミドを得た後、固相状態で加熱処理する方法(いわゆる固相重合)を挙げることができる。 溶融状態における重縮合方法としては、例えばジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法等を挙げることができる。

    上記化合物等の重縮合物である具体的なポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウロラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/12、11−アミノウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)等の脂肪族系ポリアミド樹脂や、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6IP)、メタキシレンジアミン/アジピン酸共重合体(ナイロンMXD6)、メタキシレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体等の芳香族系ポリアミド樹脂等を挙げることができる。 これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。

    これらのポリアミド樹脂の中でも、優れたガスバリア性を有するナイロンMXD6が好ましい。 このナイロンMXD6のジアミン成分としては、メタキシリレンジアミンが70モル%以上含まれることが好ましく、ジカルボン酸成分としては、アジピン酸が70モル%以上含まれることが好ましい。 ナイロンMXD6が上記配合範囲のモノマーから得られることで、より優れたガスバリア性や機械的性能を発揮することができる。

    <ポリエステル樹脂>
    上記ポリエステル樹脂とは、エステル結合を有するポリマーであり、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。 当該多層構造体のガスバリア性樹脂として用いられるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリグリコール酸(PGA)、芳香族系液晶ポリエステル等を挙げることができる。 これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。 これらのポリエステル樹脂の中でも、ガスバリア性の高さの点から、PGA及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましい。

    <PGA>
    PGAは、−O−CH −CO−で表される構造単位(GA)を有する単独重合体又は共重合体である。 PGAにおける上記構造単位(GA)の含有割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。 また、この上限としては100質量%が好ましい。 構造単位(GA)の含有割合が上記下限より小さいと、ガスバリア性が十分に発揮されないおそれがある。

    PGAの製造方法としては、(1)グリコール酸の脱水重縮合により合成する方法、(2)グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合により合成する方法、(3)グリコリド(1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)の開環重合により合成する方法等を挙げることができる。

    共重合体としてのPGAを合成する方法としては、上記の各合成方法において、コモノマーとして、例えば、
    シュウ酸エチレン(1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;
    乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;
    エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;
    等を、グリコリド、グリコール酸又はグリコール酸アルキルエステルと適宜組み合わせて共重合する方法を挙げることができる。

    上記(3)の開環重合の具体的方法としては、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸スズ、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下で約120℃〜約250℃の温度に加熱して行う方法が挙げられる。 この開環重合は、塊状重合法又は溶液重合法によることが好ましい。

    上記開環重合において、モノマーとして使用するグリコリドは、グリコール酸オリゴマーの昇華解重合法や、溶液相解重合法等によって得ることができる。

    上記溶液相解重合法としては、例えば(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも1種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、このオリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)このオリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、このオリゴマーを溶媒に溶解させ、(3)同温度でさらに加熱を継続してこのオリゴマーを解重合させ、(4)生成した2量体環状エステル(グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に留出させ、(5)留出物からグリコリドを回収する方法を挙げることができる。

    上記高沸点極性有機溶媒としては、例えばジ(2−メトキシエチル)フタレート等のフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレート等の芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェート等の芳香族リン酸エステル等を挙げることができる。 また、高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。

    <全芳香族系液晶ポリエステル>
    全芳香族系液晶ポリエステルは、モノマーである多価カルボン酸とポリオールとが共に芳香族系の化合物である液晶性のポリエステルである。 この全芳香族系液晶ポリエステルは、通常のポリエステルと同様、公知の方法で重合して得ることができる。

    芳香族系の多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸、3,3'−ビフェニルジカルボン酸、4,4'−メチレンジ安息香酸、ジフェン酸などを挙げることができる。 これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。

    芳香族系のポリオールとしては、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、レゾルシノール、フェニルヒドロキノン、3,4'−ビスフェノールA等を挙げることができる。 これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。

    また、全芳香族系液晶ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸等のヒドロキシ基及びカルボキシル基を有する芳香族化合物等を重合することにより、または上記芳香族系の多価カルボン酸及び芳香族系のポリオールと共重合することによっても得ることができる。

    <EVOH>
    以下、本発明の多層構造体のガスバリア樹脂として好適に用いられるEVOHについて詳説する。

    このEVOHは、構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有し、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化することにより得られる。

    EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、3モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましく、25モル%が特に好ましい。 一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、70モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。

    エチレン単位含有量を3〜70モル%の範囲にすることによって当該多層構造体のガスバリア性が向上し、加えて溶融成形性を向上させることができ、この高い溶融成形性により層間接着性を向上することができる。 EVOHのエチレン単位含有量が上記下限より小さいと、多層構造体の耐水性、耐熱水性、及び高湿度下でのガスバリア性が低下するおそれや、多層構造体の溶融成形性が悪化するおそれがある。 逆に、EVOHのエチレン単位含有量が上記上限を超えると、当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれがある。

    EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、80モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。 EVOHのケン化度を80モル%以上にすることによって、当該多層構造体のガスバリア性をさらに向上させることができると共に、耐湿性を向上させることができ、加えて、エラストマー層との層間接着性を向上させることができる。 EVOHのケン化度が上記下限より小さいと、溶融成形性が低下するおそれがあり、加えて当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれや、耐着色性や耐湿性が不満足なものとなるおそれがある。

    一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。 EVOHのケン化度が上記上限を超えると、EVOHの製造コストの増加に対するガスバリア性等の上昇もそれほど期待できない。 なお、EVOHは単独で用いることも可能であるが、ケン化度が異なる複数のEVOHを混合して用いることもできる。

    EVOHの1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式(1)を満たし、かつ固有粘度が0.05L/g以上0.2L/g以下となることが好ましい。 下記式(1)中、Eは、EVOH中のエチレン単位含有量(モル%)(但し、E≦64(モル%))である。
    G≦1.58−0.0244×E ・・・(1)

    A層の樹脂組成物がこのような1,2−グリコール結合構造単位の含有量G及び固有粘度を有するEVOHを含むことによって、得られる多層構造体のガスバリア性の湿度依存性が小さくなるという特性が発揮されると共に、良好な透明性及び光沢を有し、また他の熱可塑性樹脂との積層も容易になる。 なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量GはS. Aniyaら(Analytical Science Vol.1,91(1985))に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定することができる。

    EVOHは、上記構造単位(I)及び(II)の中からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。 上記構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限としては、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。 一方上記構造単位(I)又は(II)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。 A層の樹脂組成物が上記構造単位(I)及び/又は(II)を上記範囲の割合で有することによって、A層を構成する樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上する結果、当該多層構造体の延伸性及び熱成形性を向上することができる。

    上記構造単位(I)及び(II)において、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。

    上記構造単位(I)において、上記R 、R 及びR は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。 そのようなR 、R 及びR であることによって、当該多層構造体の延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。

    EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法などが挙げられる。 この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン:3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4� ��5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどの水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。 その中で、共重合反応性、及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。 具体的には、その中でも、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。 エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。

    上記構造単位(II)において、R 及びR は共に水素原子であることが好ましい。 特に、R 及びR が共に水素原子であり、上記R 及びR のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。 この脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。 当該多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R 及びR のうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。 また上記R 及びR のうちの一方が(CH OHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。 この(CH OHで表される置換基において、hは、1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。

    EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法については、特に限定されないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法などが用いられる。 一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が好適に用いられる。

    上記式(III)〜(IX)中、R 、R 、R 10 、R 11及びR 12は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。 また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。

    上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘ� ��サン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、6−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4� �エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エ ポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−� ��ポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。

    上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばメチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポ� ��シ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5� �エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。

    上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。

    上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。

    上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ� ��5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキ� �−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。

    上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。

    上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。

    上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。 特に、化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOHとの反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。 また一価エポキシ化合物は上記式のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。 具体的には、EVOHとの反応性及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、その中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。

    次に、EVOHの製造方法を具体的に説明する。 エチレンとビニルエステルとの共重合方法としては、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。 また、連続式、回分式のいずれであってもよい。

    重合に用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどを用いることができる。

    上記重合において、共重合成分として、上記成分以外にも共重合し得る単量体、例えば上記以外のアルケン:アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等:アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル:アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド:ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩:アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共重合させることもできる。

    また、共重合成分として、ビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有することができる。 ここで、ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。 この中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。

    重合に用いられる溶媒としては、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。 そのような溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール:ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。 その中で、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。

    重合に用いられる触媒としては、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤:イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。

    重合温度としては、20〜90℃程度であり、好ましくは40〜70℃である。 重合時間としては、2〜15時間程度であり、好ましくは3〜11時間である。 重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10〜90%程度であり、好ましくは30〜80%である。 重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85質量%程度であり、好ましくは20〜70質量%である。

    所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルを除去する。 未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から上記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。

    次に、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、上記共重合体をケン化する。 ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。 このアルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。

    ケン化の条件としては、例えば回分式の場合、共重合体溶液濃度が10〜50質量%程度、反応温度が30〜65℃程度、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル程度、ケン化時間が1〜6時間程度である。

    ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。 ここで、ケン化反応後の(変性)EVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。

    <A層を形成する樹脂組成物中の添加物>
    A層を形成する樹脂組成物に、実施態様に応じ、リン酸化合物、カルボン酸及びホウ素化合物から選ばれる1種又は複数種の化合物等の添加物を含有させるとよい。 かかるリン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をA層の樹脂組成物中に含有することによって、当該多層構造体の各種性能を向上させることができる。

    具体的には、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にリン酸化合物を含有することで、当該多層構造体の溶融成形時の熱安定性を改善することができる。 リン酸化合物としては、特に限定されず、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が挙げられる。 リン酸塩としては、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としても特に限定されないが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。 特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウムが、熱安定性改善効果が高い点で好ましい。

    リン酸化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、30質量ppmがさらに好ましい。 一方、リン酸化合物の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、300質量ppmがさらに好ましい。 リン酸化合物の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時の着色が激しくなるおそれがある。 特に、熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるために、上記樹脂組成物ペレットを成形して得られた成形物が回収性に乏しいものとなるおそれがある。 逆に、リン酸化合物の含有量が上記上限を超えると、成形時のゲル・ブツが発生し易くなるおそれがある。

    また、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にカルボン酸を含有することで、樹脂組成物のpHを制御し、ゲル化を防止して熱安定性を改善する効果がある。 カルボン酸としては、コストなどの観点から酢酸又は乳酸が好ましい。

    カルボン酸の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)の下限としては1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、50質量ppmがさらに好ましい。 一方、カルボン酸の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、500質量ppmがさらに好ましい。 このカルボン酸の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時に着色が発生するおそれがある。 逆に、カルボン酸の含有量が上記上限を超えると、層間接着性が不十分となるおそれがある。

    さらに、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にホウ素化合物を含有することで、熱安定性向上の効果がある。 詳細には、EVOH等からなる樹脂組成物にホウ素化合物を添加した場合、EVOH等とホウ素化合物との間にキレート化合物が生成すると考えられ、かかるEVOH等を用いることによって、通常のEVOH等よりも熱安定性の改善、機械的性質を向上させることが可能である。 ホウ素化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ酸類等が挙げられる。 具体的には、ホウ酸類としては、例えばオルトホウ酸(H BO )、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては、上記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。 これらの中でもオルトホウ酸が好ましい。

    ホウ素化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、50質量ppmがさらに好ましい。 一方、ホウ素化合物の含有量の上限としては、2,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、500質量ppmがさらに好ましい。 ホウ素化合物の含有量が上記下限より小さいと、ホウ素化合物を添加することによる熱安定性の改善効果が得られないおそれがある。 逆に、ホウ素化合物の含有量が上記上限を超えると、ゲル化しやすく、成形不良となるおそれがある。

    上記リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をEVOH等を含む樹脂組成物に含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えばEVOH等を含む樹脂組成物のペレット等を調製する際に樹脂組成物に添加して混練する方法が好適に採用される。 この樹脂組成物に添加する方法も、特に限定されないが、乾燥粉末として添加する方法、溶媒を含浸させたペースト状で添加する方法、液体に懸濁させた状態で添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法などが例示される。 これらの中で均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法が好ましい。 これらの方法に用いられる溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コスト的メリット、取り扱いの容易性、作業環境の完全性等の観点から水が好適に用いられる。 これらの添加の際、後述の金属塩、EVOH等以外の樹脂やその他の添加剤などを同時に添加することができる。

    また、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物を含有させる方法として、それらの物質が溶解した溶液に、上記ケン化の後押出機等により得られたペレット又はストランドを浸漬させる方法も、均質に分散させることができる点で好ましい。 この方法においても、溶媒としては、上記と同様の理由で、水が好適に用いられる。 この溶液に後述する金属塩を溶解させることで、リン酸化合物等と同時に金属塩を含有させることができる。

    A層の樹脂組成物は、分子量1,000以下の共役二重結合を有する化合物を含有することが好ましい。 このような化合物を含有することによって、A層の樹脂組成物の色相が改善されるので、外観の良好な多層構造体とすることができる。 このような化合物としては、例えば少なくとも2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造のトリエン化合物、それ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ポリエン化合物、2,4,6−オクタトリエンのような共役トリエン化合物等が挙げられる。 また、この共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も含まれる。

    上記共役二重結合を有する化合物は、例えばカルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の他の各種官能基を有していてもよい。 かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよく、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。 官能基中の多重結合は上記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えばフェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシ基を有するソルビン酸などもここでいう共役二重結合を有する化合物に含まれる。 この化合物の具体例としては、例えば2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等を挙げることができる。

    この共役二重結合を有する化合物における共役二重結合とは、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸のような脂肪族同士の共役二重結合のみならず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテンのような脂肪族と芳香族との共役二重結合も含まれる。 但し、外観がより優れた多層構造体を得る観点からは、上記脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が好ましく、またカルボキシ基及びその塩、水酸基等の極性基を有する共役二重結合を含む化合物も好ましい。 さらに極性基を有しかつ脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が特に好ましい。

    この共役二重結合を有する化合物の分子量としては、1,000以下が好ましい。 分子量が1,000を超えると、多層構造体の表面平滑性、押出安定性等が悪化するおそれがある。 この分子量が1,000以下の共役二重結合を有する化合物の含有量の下限としては、奏される効果の点から、0.1質量ppmが好ましく、1質量ppmがより好ましく、3質量ppmがさらに好ましく、5質量ppm以上が特に好ましい。 一方、この化合物の含有量の上限としては、奏される効果の点から、3,000質量ppmが好ましく、2,000質量ppmがより好ましく、1,500質量ppmがさらに好ましく、1,000質量ppmが特に好ましい。

    上記共役二重結合を有する化合物の添加方法としては、上述のように重合した後、かつ上記ケン化の前に添加することが、表面平滑性と押出安定性を改善する点で好ましい。 この理由については必ずしも明らかではないが、共役二重結合を有する化合物が、ケン化の前及び/又はケン化反応中のEVOH等の変質を防止する作用を有することに基づくものと考えられる。

    A層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記添加物以外にEVOH等以外の他の樹脂、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。 A層の樹脂組成物が上記添加物以外の添加剤を含む場合、その量は樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。

    A層の樹脂組成物は、その融点より10〜80℃高い温度の少なくとも1点における溶融混練時間とトルクの関係において、粘度挙動安定性(M 100 /M 20 、但しM 20は混練開始20分後のトルク、M 100は混練開始から100分後のトルクを表す)の値が0.5〜1.5の範囲であることが好ましい。 粘度挙動安定性の値は1に近いほど粘度変化が少なく、熱安定性(ロングラン性)に優れていることを示す。

    <B層>
    B層は、エラストマーを含む樹脂組成物からなる層である。 B層を構成する樹脂組成物がエラストマーを含むことで、当該多層構造体の延性を高め、耐屈曲性を向上させることができる。 さらに、所定厚さのA層と共にこのエラストマーを含む樹脂組成物からなるB層を積層させることで、A層の樹脂組成物の延性が低い場合でも、A層の延性を高めることができる。

    エラストマーとは、常温付近で弾性を有する樹脂をいい、具体的には、室温(20℃)の条件下で、2倍に伸ばし、その状態で1分間保持した後、1分以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する性質を有する樹脂をいう。 また、エラストマーは、構造的には、通常、重合体鎖中にハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体である。

    このようなエラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びフッ素樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。 これらの中でも、成形容易性の観点から、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー及びポリアミド系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、ポリウレタン系エラストマーがより好ましく用いられる。

    また、このようなエラストマーとしては、特に限定されず、公知の熱可塑性エラストマー、非熱可塑性エラストマーの中から適宜選択して用いることができるが、溶融成形のためには熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。

    この熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー及びフッ素樹脂系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。 これらの中でも、成形容易性の観点から、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーがより好ましく用いられる。

    <ポリスチレン系熱可塑性エラストマー>
    ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。

    このポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、その中のソフトセグメントの配列様式により、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、さらにはポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロ� ��ク共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体などがある。 なお、これらのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸変性等の変性物であってもよい。

    これらの中で、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性などのバランスの面から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が好適である。

    <ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー>
    ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンを、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムなどを用いた熱可塑性エラストマーを挙げることができる。 これには、ブレンド型とインプラント化型がある。 また、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレンなども挙げることができる。

    <ポリジエン系熱可塑性エラストマー>
    ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系TPE及びトランス1,4−ポリイソプレン系TPE、水添共役ジエン系TPE、エポキシ化天然ゴム、これらの無水マレイン酸変性物などを挙げることができる。

    1,2−ポリブタジエン系TPEは、分子中に1,2−結合を90%以上含むポリブタジエンであって、ハードセグメントとしての結晶性シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、ソフトセグメントとしての無定形1,2−ポリブタジエンとからなっている。

    一方、トランス1,4−ポリイソプレン系TPEは、98%以上のトランス1,4−構造を有し、ハードセグメントとしての結晶性トランス1,4−セグメントと、ソフトセグメントとしての非結晶性トランス1,4−セグメントからなっている。

    <ポリ塩化ビニル(PVC)系熱可塑性エラストマー>
    ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)は、一般に、下記の3種のタイプのものが挙げられる。 なお、このTPVCも、無水マレイン酸変性PVC等の変性物を用いてもよい。

    (1)高分子量PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
    このタイプのTPVCは、ハードセグメントに高分子量のPVCを用いて微結晶部分で架橋点の働きを持たせ、ソフトセグメントに、可塑剤で可塑化されたPVCを用いたものである。

    (2)部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
    このタイプのTPVCは、ハードセグメントに部分架橋又は分岐構造を導入したPVCを、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いたものである。

    (3)PVC/エラストマーアロイ型TPVC
    このタイプのTPVCは、ハードセグメントにPVCを、ソフトセグメントに部分架橋NBR、ポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPEなどのゴム、TPEを用いたものである。

    <塩素化ポリエチレン(CPE)系熱可塑性エラストマー>
    塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンを水性懸濁液といて、あるいは四塩化炭素等の溶媒中で、塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂である。 CPEは、ハードセグメントには結晶性ポリエチレン部が、ソフトセグメントには塩素化ポリエチレン部が用いられる。 CPEには、両部がマルチブロック又はランダム構造として混在している。

    CPEは、原料ポリエチレンの種類、塩素化度、製造条件などによって、塩素含有量、ブロック性、残存結晶化度などの分子特性がかわり、その結果、樹脂からゴムまでの広範囲な硬度をもつ、多岐にわたる性質が得られている。 CPEは、また架橋することによって加硫ゴムと同じような性質も可能であり、無水マレイン酸変性などによる変性物とすることもできる。

    <ポリエステル系熱可塑性エラストマー>
    ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。 TPEEは分子構造によって以下のようなタイプがあるが、その中でも(1)ポリエステル・ポリエーテル型及び(2)ポリエステル・ポリエステル型が一般的である。

    (1)ポリエステル・ポリエーテル型TPEE
    このタイプのTPEEは、一般的には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてはポリエーテルを用いたものである。

    (2)ポリエステル・ポリエステル型TPEE
    このタイプのTPEEは、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントに脂肪族系ポリエステルを用いたものである。

    (3)液晶性TPEE
    このタイプのTPEEは、特別なものとして、ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いたものである。

    <ポリアミド系熱可塑性エラストマー>
    ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテルやポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。 ポリアミド成分は、ナイロン6、66、610、11、12などから選択され、ナイロン6又はナイロン12が一般的である。

    ソフトセグメントの構成物質には、ポリエーテルジオール又はポリエステルジオールの長鎖ポリオールが用いられる。 ポリエーテルの代表例は、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコールなどである。 ポリエステルジオールの代表例は、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコールなどである。

    <フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー>
    フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのフッ素樹脂と、ソフトセグメントとしてのフッ素ゴムとからなるABA型ブロックコポリマーである。 ハードセグメントのフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合ポリマー又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)が用いられ、ソフトセグメントのフッ素ゴムには、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合ポリマーなどが用いられる。 より具体的には、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、フォスファゼン系フッ素ゴムや、フルオロポリエーテル、フルオロニトロソゴム、パーフルオロトリアジンを含むものが挙げられる。

    フッ素樹脂系TPEは、他のTPEと同じようにミクロ相分離してハードセグメントが架橋点を形成している。

    <ポリウレタン系熱可塑性エラストマー>
    ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコール(低分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタンと、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコール(高分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタンとの、直鎖状のマルチブロックコポリマー等である。 ここでポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)の重付加反応(ウレタン化反応)で得られる、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。

    本発明の多層構造体では、エラストマーとしてTPUを含む樹脂組成物からなるB層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上することができるため好ましい。 また、当該多層構造体では、このB層と上記A層との層間接着性を強固にすることができるので、耐久性が高く、変形させて使用してもガスバリア性や延伸性を維持することができるため好ましい。

    TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。 この高分子ポリオールは、複数の水酸基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加などによって得られる。 高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えば、ポリエステル−エーテル−ポリオール)などが挙げられる。 これらの高分子ポリオールは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 これらの中で、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。

    上記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステル形成性誘導体と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造することができる。

    ポリエステルポリオールを構成するジカルボン酸としては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されるものを用いることができる。 このジカルボン酸としては、具体的にはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸:シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸:テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。 これらのジカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 この中でも、A層中のEVOH等の水酸基とより反応し易いカルボニル基を有し、当該多層構造体の層間接着性がより高くなる点で、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸が特に好ましい。

    低分子ポリオールとしては、特に限定されず、一般的に使用されているものを用いることができる。 この低分子ポリオールとしては、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シ� ��ロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコールなどが挙げられる。 これらの低分子ポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 この中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどの側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが、ポリエステルポリオール中のエステル基とA層中のEVOH等の水酸基との反応が起こり易く、得られる多層構造体の層間接着性がより高くなる点で好ましい。 また、低分子ポリオールとして2種以上を混合して用いる場合は、かかる側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールを低分子ポリオールの全量に対して50モル%以上の割合で用いることがより好ましい。 さらに、上記低分子ポリオールと共に、少量の3官能以上の低分子ポリオールを併用することができる。 3官能以上の低分子ポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。

    上記ラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。

    ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコールなどが挙げられる。 これらのポリエーテルポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 この中でもポリテトラメチレングリコールが好ましい。

    ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物に炭酸ジフェニル若しくはホスゲンなどを作用させて縮重合して得られるものが好適に用いられる。

    上記高分子ポリオールの数平均分子量の下限としては、500が好ましく、600がより好ましく、700がさらに好ましい。 一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限としては、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。 高分子ポリオールの数平均分子量が上記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が良すぎて得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られる多層構造体の延伸性などの力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。 逆に、高分子ポリオールの数平均分子量が上記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。 なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS−K−1577に準拠して測定し、水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。

    有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが用いられる。 この有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族又は脂環族ジイソシアネートなどを挙げることができる。 この中でも、得られる多層構造体の強度、耐屈曲性が向上できる点で、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。 これらの有機ジイソシアネートは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。

    鎖伸長剤としては、TPUの製造に一般的に使用される鎖伸長剤が使用され、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。 鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどが挙げられる。 この中でも、得られる多層構造体の延伸性及び熱成形性がさらに良好になる点で、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。 これらの鎖伸長剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。

    TPUの製造方法としては、上記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して製造され、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いても製造することができる。 その中でも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合することが好ましい。

    TPUにおいて、高分子ポリオールと鎖伸長剤の合計質量に対する有機ポリイソシアネートの質量の比(イソシアネート/(高分子ポリオール+鎖伸長剤))が、1.02以下であることが好ましい。 該比が1.02を超えると、成形時の長期運転安定性が悪化するおそれがある。

    TPUの窒素含有量は、高分子ポリオール及び有機ジイソシアネートの使用割合を適宜選択することにより決定されるが、実用的には1〜7質量%の範囲が好ましい。

    また、B層の樹脂組成物は、必要に応じて有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとの反応を促進する適当な触媒等を用いてもよい。 さらに、B層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、エラストマー以外の樹脂、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。 B層の樹脂組成物が添加剤を含む場合、その量としては樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。

    TPU等、B層の樹脂組成物中のエラストマーの硬度は、ショアーA硬度として50〜95が好ましく、55〜90がより好ましく、60〜85がさらに好ましい。 硬度が上記範囲にあるものを用いると、機械的強度及び耐久性に優れ、且つ柔軟性に優れる積層構造体が得られるので好ましい。

    <金属塩>
    当該多層構造体においては、A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中に金属塩を含むことが好ましい。 このようにA層及びB層の少なくとも一方に金属塩を含むことによって、非常に優れたA層及びB層の層間接着性が発揮される。 このような非常に優れた層間接着性により、当該多層構造体が高い耐久性を有している。 かかる金属塩が層間接着性を向上させる理由は、必ずしも明らかではないが、例えば、A層の樹脂組成物中のEVOH等と、B層の樹脂組成物中のTPU等との間で起こる結合生成反応が、金属塩の存在によって加速されることなどが考えられる。 そのような結合生成反応としては、TPUのカーバメート基とEVOHの水酸基との間で起こる水酸基交換反応や、TPU中の残存イソシアネート基へのEVOHの水酸基の付加反応などが考えられる。 なお、金属塩はA層の樹脂組成物とB層の樹脂組成物の両方に含有されていてもよく、A層の樹脂組成物又はB層の樹脂組成物のどちらか一方に含有されていてもよい。

    金属塩としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属塩が層間接着性をより高める点で好ましい。 この中でも、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がさらに好ましく、特にアルカリ金属塩が好ましい。

    アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。 このアルカリ金属塩としては、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。 この中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。

    アルカリ土類金属塩としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ベリリウムなどの酢酸塩又はリン酸塩が挙げられる。 この中でも、マグネシウム又はカルシウムの酢酸塩又はリン酸塩が、入手容易である点から特に好ましい。 かかるアルカリ土類金属塩を含有させると、溶融成形時における熱劣化した樹脂の成形機のダイ付着量を低減できるという利点もある。

    周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属の金属塩としては、特に限定されないが、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などのカルボン酸塩、リン酸塩、アセチルアセトナート塩等が挙げられる。

    金属塩の含有量(当該多層構造全体を基準とする金属元素換算の含有量)の下限としては、1質量ppmが好ましく、5質量ppmがより好ましく、10質量ppmがさらに好ましく、20質量ppmが特に好ましい。 一方、この金属塩の含有量の上限としては、10,000質量ppmが好ましく、5,000質量ppmがより好ましく、1,000質量ppmがさらに好ましく、500質量ppmが特に好ましい。 金属塩の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。 逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。

    金属塩を含有する各樹脂組成物に対する金属塩の含有量の下限としては、5質量ppmが好ましく、10質量ppmがより好ましく、20質量ppmがさらに好ましく、50質量ppmが特に好ましい。 一方、この金属塩の含有量の上限としては、5,000質量ppmが好ましく、1,000質量ppmがより好ましく、500質量ppmがさらに好ましく、300質量ppmが特に好ましい。 金属塩の含有量が上記下限より小さいと、隣接する他層に対する接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。 逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。

    この金属塩をA層やB層の樹脂組成物に含有する方法は、特に限定されるものではなく、上述のようなA層の樹脂組成物中にリン酸化合物等を含有する方法と同様の方法が採用される。

    <ラジカル架橋剤>
    本発明の多層構造体においては、A層及び/又はB層を構成する樹脂組成物が、ラジカル架橋剤を含有していることが好ましい。 ラジカル架橋剤を含有する樹脂組成物からなるA層及び/又はB層を有する多層構造体に活性エネルギー線を照射することで、この活性エネルギー線照射時における架橋効果が促進され、A層とB層との層間接着性がさらに向上し、ガスバリア性がさらに高まる。 また、活性エネルギー線の照射量を、ラジカル架橋剤が存在しない場合に比べて少なくすることが可能となる。

    このラジカル架橋剤としては、特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオフェニレングリコールジアクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなどを挙げることができる。 これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

    活性エネルギー線照射前における、ラジカル架橋剤を含有する樹脂組成物に対するラジカル架橋剤の含有量としては、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上9質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上8質量%以下が架橋効果と経済性のバランスの観点から好ましい。

    ラジカル架橋剤を樹脂組成物に含有する方法としては、特に限定されず、例えば二軸押出機等を用いて、樹脂組成物に対して溶融混練する方法などを用いることができる。

    <A層とB層との関係>
    本発明の多層構造体における、A層とB層との剥離抗力としては、180℃で15分間加熱後に、JIS−K6854に準拠し、23℃、50%RH雰囲気下、引張り速度50mm/分での測定において、好ましくは25N/25mm以上、より好ましくは27N/25mm以上、さらに好ましくは30N/25mm以上、特に好ましくは50N/25mm以上である。 このように、A層とB層とは、非常に優れた層間接着性を有している。

    当該多層構造体の層間関係に関しては、活性エネルギー線の照射によって、A層とB層との界面で分子間の架橋反応が生じ、強固に結合していると考えられ、高い層間接着性が発現される。 なお、例えば、上述のように金属塩の含有によりA層の樹脂組成物中のEVOH等と、B層の樹脂組成物中のTPU等の間で結合生成反応(例えば、TPUのカーバメート基とEVOHの水酸基との間で起こる水酸基交換反応、TPU中の残存イソシアネート基へのEVOHの水酸基の付加反応など)を生じさせることで、より高い層間接着性が発揮され、当該多層構造体のガスバリア性、耐久性等をより向上させることができる。 さらに、上述したように、A層及び/又はB層にラジカル架橋剤を含有させ、活性エネルギー線を照射することにより、架橋反応がより促進され、上記層間接着性をさらに向上させることができる。

    <多層構造体の製造方法>
    本発明の多層構造体の製造方法は、A層とB層とが良好に積層・接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着などの公知の方法を採用することができる。 当該多層構造体の製造方法としては、具体的には(1)A層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用い、多層共押出法によりA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法や、(2)A層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用い、接着剤を介して複数の積層体を重ね合わせ、延伸することでA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法などが例示される。 この中でも、生産性が高く、層間接着性に優れる観点から、(1)のA層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形する方法が好ましい。

    多層共押出法においては、A層形成用の樹脂組成物とB層形成用の樹脂組成物とは加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、当該多層構造体が形成される。 この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサーなどを用いることができる。

    当該多層構造体においては、このようにして得られた多層積層体に、上述のように活性エネルギー線を照射して、架橋反応を促進させ、A層とB層との層間接着性をさらに向上させる。 当該多層構造体は、このように活性エネルギー線が照射されてなるため、層間の接着性が高まる結果、ガスバリア性及び耐屈曲性を高めることができる。

    上記活性エネルギー線とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、具体的には、紫外線、γ線、電子線などをいう。 これらの活性エネルギー線の中でも、層間接着性の向上効果の観点から、電子線が好ましい。 活性エネルギー線として電子線を用いることで、層間の架橋反応がより促進され、当該多層構造体の層間接着性をさらに向上させることができる。

    電子線を照射する場合、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用い、通常加速電圧100〜500kVで、照射線量5〜600kGyの範囲で照射するのがよい。

    また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを照射するのがよい。 紫外線源としては、特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。

    本発明の多層構造体は、上述のように層間接着性に優れ、高いガスバリア性、延伸性、熱成形性及び耐久性を有している。 そのため、当該多層構造体は、高いガスバリア性が要求される用途に使用することができ、例えば、レトルト容器、食品用及び医療用包装材料、空気入りタイヤのインナーライナー等に用いることができる。 これらの中でも、特に高いガスバリア性、延伸性、耐クラック性、耐久性等が要求される空気入りタイヤのインナーライナーに好適に使用される。

    本発明の多層構造体は、上記実施形態に限定されるものではない。 例えば、A層及びB層以外に他の層を含んでいてもよい。 この他の層を構成する樹脂組成物の種類は、特に限定されないが、A層及び/又はB層との間の接着性が高いものが好ましい。 他の層としては、A層中の例えばEVOHの有する水酸基や、B層中の例えばTPUの分子鎖中のカーバメート基又はイソシアネート基と反応して、結合を生成する官能基を有する分子鎖を有しているものが特に好ましい。

    <空気入りタイヤ用のインナーライナー>
    本発明の空気入りタイヤ用のインナーライナーは上記多層構造体を用いるものである。 当該インナーライナーは、上記多層構造体を用いているため、ガスバリア性、層間接着性及び耐屈曲性に優れ、加えて、軽量化も可能とする。

    当該インナーライナーの厚さとしては0.1μm以上1,000μm以下が好ましく、0.5μm以上750μm以下がさらに好ましく、1μm以上500μm以下が特に好ましい。 当該インナーライナーは、このように厚さが薄くとも、優れたガスバリア性、耐屈曲性を備え、層間剥離抗力に優れている。 また、当該インナーライナーは、このように薄く形成できるため軽量化を可能とする。

    <空気入りタイヤ>
    本発明の空気入りタイヤの一実施形態である図1の空気入りタイヤは、ビードコア1、このビードコア1とビードフィラー7との周りに巻回され、コード方向がラジアル方向に向くカーカスプライを含むカーカス層2、カーカス層2のタイヤ半径方向内側に配設されるインナーライナー3、カーカス層2のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配設された2枚のベルト層4を有するベルト部、ベルト部の上部に配設されたトレッド層5、及びトレッド層5の左右に配置されたサイドウォール層6を有している。 上記インナーライナー3として、上述の本発明のインナーライナー(多層構造体)が用いられている。

    空気入りタイヤ1におけるインナーライナー3は、上述のとおり合計7層以上のA層及びB層を備えている多層構造体であり、高いガスバリア性、耐屈曲性等の特性を有している。 従って、本発明のインナーライナー3を備える空気入りタイヤ1は、内圧保持性に優れ、使用により屈曲変形を受けた後においても、その内圧保持性能を維持することができる。 さらには、インナーライナー3は薄型化が可能であるので、空気入りタイヤ1が軽量化され、ひいては、このタイヤ1を備えた乗用車等の燃費を向上させることができる。

    なお、本発明の空気入りタイヤには、充填気体として空気、窒素などの不活性ガスを用いることができる。

    空気入りタイヤとしては、上記構成の本発明のインナーライナーを備えていればその他の構造については特に限定されず、種々の態様をとることができる。 また、この空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型タイヤ、オフザロード用タイヤ、二輪車用タイヤ、航空機タイヤ、農業用タイヤなどに好適に適用できる。

    次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。

    [製造例1]EVOHペレット(A−1a)の製造 冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル20,000質量部、メタノール1,020質量部、重合開始剤として2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)3.5質量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換後、エチレンを導入、内温60℃、エチレン圧力5.9MPaに調節し、4時間、その温度及び圧力を保持、攪拌し重合させた。 次いで、ソルビン酸(SA)10質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.05質量%)をメタノールに溶解し、1.5質量%溶液にして添加した。 重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して30%であった。 この共重合反応液を追出に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去した後、この共重合体の40質量%のメタノール溶液を得た。 この共重合体はエチレン単位含有量44.5モル%、酢酸ビニル単位含有量55.5モル%であった。

    この共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、次いで水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、さらにメタノールを添加して共重合体濃度が15質量%になるように調整した。 反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。 その後、酢酸で中和し反応を停止させ内容物を反応器より取り出し、常温に放置し粒子状に析出した。 析出後の粒子を遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返し、ケン化度99.5%のEVOH(A−1)を得た。

    得られたEVOH(A−1)を酢酸及びオルトホウ酸(OBA)を含む水溶液(水溶液1L中、酢酸0.3g、リン酸0.06g、オルトホウ酸0.35g溶解)を用いて、浴比20で処理し、乾燥後、押出機にてペレット化し、EVOHペレット(A−1a)を得た。 ペレット(A−1a)のMFRは4.6g/10分(190℃、21.18N荷重下)であった。 また、ペレット(A−1a)の酢酸含有量は90質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で43質量ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素換算値で260質量ppmであった。

    [製造例2]EVOHペレット(A−1b)の製造 製造例1で得られたEVOHペレット(A−1a)に対し、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(A−1b)を製造した。

    [製造例3]EVOHペレット(A−2a)の製造 製造例1で得られたケン化度99.5%のEVOH(A−1)を酢酸及びリン酸水素ナトリウムを含む水溶液(水溶液1L中、酢酸0.05g、リン酸水素ナトリウム0.02g、オルトホウ酸0.03g溶解)を用い、浴比20で処理し、乾燥してEVOH組成物粒子を得た。 このEVOH組成物粒子のMFRは4.6g/10分(190℃、21.18N荷重下)であった。 また、このEVOH組成物粒子の酢酸含有量は40質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で20質量ppmであった。

    上記で得られたEVOH組成物粒子を用い、東芝機械社製二軸押出機「TEM−35BS」(直径37mm、L/D=52.5)を使用し、下記押出条件にて触媒添加下でEVOHにエポキシプロパンを反応させ、未反応のエポキシプロパンをベントより除去し、次いで触媒失活剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム水和物8.2質量%水溶液を添加し、ペレット化を行った後、乾燥を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(II)として下記の構造を有するエポキシプロパン変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体EVOH(A−2)を含むペレット(A−2a)を得た。

    (押出条件)
    シリンダー、ダイ温度設定:
    樹脂フィード口/シリンダー部入口/アダプター/ダイ =160/200/240/240(℃)
    スクリュー回転数:400rpm
    エチレン−ビニルアルコール共重合体フィード量:16kg/hr
    エポキシプロパンフィード量:2.4kg/hrの割合(フィード時の圧力6MPa)
    触媒溶液フィード量:0.32kg/hr
    触媒調製:亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を、1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合溶液を得た。 得られた混合溶液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。 すなわち、亜鉛アセチルアセトナート一水和物1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸1モルを混合した溶液を調製した。
    触媒失活剤水溶液フィード量:0.16kg/hr

    得られたペレット(A−2a)のMFRは3.2g/10分(190℃、21.18N荷重下)であった。 また、ペレット(A−2a)の酢酸含有量は420質量ppm、亜鉛イオン含有量は120質量ppm、ナトリウム含有量は130質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で20質量ppm、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量は280質量ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素換算値で12質量ppmであった。 またEVOH(A−2a)のエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(II)の導入量(エポキシブタン変性量)は H−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)の測定より、5.8モル%であった。

    [製造例4]EVOHペレット(A−2b)の製造 製造例3で得られたEVOHペレット(A−2a)に対し、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(A−2b)を製造した。

    [製造例5]EVOHペレット(A−3)の製造 冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル20,000質量部、メタノール2,000質量部、重合開始剤として2,2'−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)10質量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換後、エチレンを導入、内温60℃、エチレン圧力4.5MPaに調節し、4時間、その温度及び圧力を保持、攪拌し重合させた。 次いで、ソルビン酸(SA)10質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.05質量%)をメタノールに溶解し、1.5質量%溶液にして添加した。 重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して45%であった。 この共重合反応液を追出に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去した後、この共重合体の40質量%のメタノール溶液を得た。 この共重合体はエチレン単位含有量32.5モル%、酢酸ビニル単位含有量67.5モル%であった。

    この共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、次いで水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、更にメタノールを添加して共重合体濃度が15質量%になるように調整した。 反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。 その後、酢酸で中和し反応を停止させ内容物を反応器より取り出し、常温に放置し粒子状に析出した。 析出後の粒子を遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返し、ケン化度99.5%のEVOH(A−3)を得た。

    得られたEVOH(A−3)を酢酸、リン酸及びオルトホウ酸(OBA)を含む水溶液(水溶液1L中、酢酸0.3g、リン酸0.06g、オルトホウ酸0.35g溶解)を用い、浴比20で処理し、乾燥後、押出機にてペレット化し、EVOHペレット(A−3)を得た。 ペレット(A−3)のMFRは1.6g/10分(190℃、21.18N荷重下)であった。 また、ペレット(A−3)の酢酸含有量は90質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で43質量ppm、ホウ素化合物の含有量はホウ素換算値で260質量ppmであった。

    上記製造例1、3及び5にて、それぞれ得られたペレット(A−1a)、ペレット(A−2a)及びペレット(A−3)の性状を表1に示す。

    [製造例6]ナイロンMXD6ペレット(A−4)の製造 攪拌機、分縮器を備えた反応槽に、精製アジピン酸600質量部を添加し、窒素気流下にて加熱し内容物を溶融させた。 その後、180℃まで加熱したところで、常圧下でさらに昇温しながら、純度が99.93質量%のメタキシリレンジアミンを560質量部滴下した。 内温が250℃に達したところでメタキシリレンジアミンの滴下を終え、内温が255℃に達してから常圧でさらに1時間攪拌した。 その後、反応生成物を取り出し、空冷した後に粉砕し、粒状のポリメタキシリレンアジパミドを得た。 得られた粒状物を転動式真空固相重合装置に仕込み、10rpmで回転させながら、200Pa以下まで減圧してから、99容量%以上の窒素で常圧に戻す操作を繰り返し3回行った。 その後、固相重合装置の内温を50℃/時間の昇温速度で室温から220℃まで昇温して、粒状物を加熱し固相重合を行った。 この固相重合は、具体的には、粒状物の温度が135℃に到達してから減圧操作を開始し、粒状物の温度が150℃に到達してから360分経過後に窒素常圧にして冷却を開始した。 その後、窒素気流下、粒状物温度が80℃以下になったところで、粒子物表面に付着した微粉末を除去して粒状物のサイズを6〜10meshに揃えた。 得られた粒状物を二軸押出機を用い260℃でストランド状に溶融押出後、ペレット化し、ナイロンMXD6のペレット(A−4)を得た。 得られたペレット(A−4)のビカット軟化温度は225℃であった。

    [製造例7]PGAペレット(A−5)の製造 オートクレーブ反応器に、グリコール酸(和光純薬工業社製)を仕込み、撹拌しながら、200℃まで約2時間かけて加熱昇温し、生成水を留出させながら縮合させた。 次いで、20kPaに減圧し2時間保持して、低沸分を留出させて、グリコール酸オリゴマーを調製した。 このグリコール酸オリゴマー120質量部を反応槽に仕込み、溶媒としてベンジルブチルフタレート500質量部(純正化学社製)及び可溶化剤としてポリプロピレングリコール(純正化学社製、#400)15質量部を加え、窒素ガス雰囲気中、5kPaの圧力下、約270℃に加熱し、グリコール酸オリゴマーの溶液相解重合を行い、生成したグリコリドをベンジルブチルフタレートと共留出させた。 得られた共留出物に約2倍容のシクロヘキサンを加えて、グリコリドをベンジルブチルフタレートから析出させてから、濾別した。 濾取物を酢酸エチルを用いて再結晶し、減圧乾燥して精製グリコリドを得た。 上記の合成グリコリド100質量部、オクタン酸スズ0.006質量部及びラウリルアルコール0.05質量部を反応槽に投入し、220℃で3時間重合した。 重合後、冷却してから生成ポリマーを取り出して、粉砕し、粒状のポリマーを得た。 この粒状物をアセトンで洗浄してから、30℃で真空乾燥し、得られた粒子物のサイズを調整した。 得られた粒状物を二軸押出機を用い240℃でストランド状に溶融押出後、ペレット化し、ポリグリコール酸(PGA)のペレット(A−5)を得た。 得られたペレット(A−5)のビカット軟化温度は204℃であった。

    [製造例8]全芳香族系液晶ポリエステル樹脂ペレット(A−6)の製造 撹拌機、減圧口及び窒素導入口を備えた反応器に、p−アセトキシ安息香酸108質量部、およびフェノール/テトラクロロエタン等重量混合溶媒を用いて30℃で測定した極限粘度が0.70デシリットル/gのポリエチレンテレフタレート76.8質量部を仕込み、反応系内を3回窒素置換したのち、窒素気流下、280℃で約1時間攪拌加熱したところ、理論留出量の約90%の酢酸が留出した。 次に系内を徐々に減圧にし、最終的に1mmHg以下で8時間反応させ、重合反応を終了した。 得られた反応生成物をノズルからストランド状に押出して切断し、円柱状の全芳香族系液晶ポリエステルのペレット(A−6)を得た。 得られたペレット(A−6)のビカット軟化温度は193℃であった。

    [製造例9]TPUペレット(B−1a)の製造 1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを反応させることによって得られた1分子あたりの水酸基数が2.0であり、数平均分子量が1,000であるポリエステルジオール68.8質量%、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート27.5質量%、及び1,4−ブタンジオール3.7質量%の混合物を、多軸スクリュー型押出機(ダイス温度260℃)で20分間溶融混練することによって、熱可塑性ポリウレタン樹脂TPU(B−1)(ショアーA硬度:85)を製造した。 次いでペレット化してTPUペレット(B−1a)を得た。

    [製造例10]TPUペレット(B−1b)の製造 製造例9で得られたTPUペレット(B−1a)に対し、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように、二軸押出機を用い230℃で溶融混合し、ペレット(B−1b)を製造した。

    [製造例11]TPUペレット(B−2a)の製造 製造例9で得られたTPU(B−1)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部を、二軸押出機を用い230℃で溶融混合し、TPUペレット(B−2a)(ショアーA硬度:90)を製造した。 ペレット(B−2a)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppmであった。

    [製造例12]TPUペレット(B−2b)の製造 製造例11において、ステアリン酸ナトリウムと共に、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように添加し、溶融混合してペレット(B−2b)を製造した。

    [製造例13]TPUペレット(B−3a)の製造 エーテル型のTPU(クラレ社製 商品名「クラミロン9180」、ショアーA硬度:80)100質量部に対しステアリン酸マグネシウム0.27質量部を、二軸押出機を用い230℃で溶融混合し、ペレット(B−3a)を製造した。 ペレット(B−3a)中のマグネシウムイオン含有量は110質量ppmであった。

    [製造例14]TPUペレット(B−3b)の製造 製造例13において、ステアリン酸マグネシウムと共に、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように添加し、溶融混合してペレット(B−3b)を製造した。

    [製造例15]アミド系エラストマーペレット(B−4)の製造アミド系エラストマーペレット(DAICEL EVONIK社製 商品名「E40−S1」)100質量部に対しステアリン酸マグネシウム0.27質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い240℃で溶融混合し、ペレット(B−4)を製造した。 ペレット(B−4)中のマグネシウムイオン含有量は110質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例16]ポリアミド12エラストマーペレット(B−5)の製造 ポリアミド12エラストマーペレット(宇部興産社製 商品名「UBESTA XPA」)100質量部に対しステアリン酸マグネシウム0.27質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い240℃で溶融混合し、ペレット(B−5)を製造した。 ペレット(B−5)中のマグネシウムイオン含有量は110質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例17]無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体エラストマーペレット(B−6)の製造 無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体エラストマーペレット(三井化学社製 商品名「タフマーMH7010」)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(B−6)を製造した。 ペレット(B−6)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例18]無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体エラストマーペレット(B−7)の製造 無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体エラストマーペレット(三井化学社製 商品名「タフマーMP0610」)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(B−7)を製造した。 ペレット(B−7)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例19]変性ポリプロピレン系エラストマーペレット(B−8)の製造 変性ポリプロピレン系エラストマーペレット(日本ポリオレフィン社製 商品名「アドテックスER320P」)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(B−8)を製造した。 ペレット(B−8)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例20]変性ポリエチレン系エラストマーペレット(B−9)の製造 変性ポリエチレン系エラストマーペレット(三井化学社製 商品名「アドマーNB508」)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、ペレット(B−9)を製造した。 ペレット(B−9)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例21]変性スチレン系エラストマーペレット(B−10)の製造 変性スチレン系エラストマーペレット(JSR社製 商品名「ダイナロン8630P」)100質量部に対しステアリン酸マグネシウム0.27質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い240℃で溶融混合し、ペレット(B−10)を製造した。 ペレット(B−10)中のマグネシウムイオン含有量は110質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例22]変性スチレン系エラストマーペレット(B−11)の製造 変性スチレン系エラストマーペレット(JSR社製 商品名「ダイナロン4630P」)100質量部に対しステアリン酸マグネシウム0.27質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い240℃で溶融混合し、ペレット(B−11)を製造した。 ペレット(B−11)中のマグネシウムイオン含有量は110質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例23]エポキシ化天然ゴムペレット(B−12)の製造 エポキシ化天然ゴム(Mu−ang.Mai Guthrie Public Company社製 商品名「EPOXY PRENE25」)100質量部に対しステアリン酸ナトリウム0.37質量部およびラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート4質量部を、二軸押出機を用い210℃で溶融混合し、押出して得られたストランドを切断してペレット(チップ)(B−12)を製造した。 ペレット(B−12)中のナトリウムイオン含有量は140質量ppm、ラジカル架橋剤含有量は4質量%であった。

    [製造例24]イソシアネート変性SBRペレット(B−13)の製造 窒素置換された内容積5Lの反応器に、シクロヘキサン2000g、1,3−ブタジエン450g、スチレン50g、及びテトラヒドロフラン25gを仕込んだ後、n−ブチルリチウム0.32gを加えて断熱下30〜90℃で重合反応を行なった。 重合転化率が100%に達した後、ジフェニルメタンジイソシアネートをn−ブチルリチウムに対して2当量加え反応させた。 更に、老化防止剤としてジ−tert−ブチル−p−クレゾールを重合体100gに対して0.7g添加して、常法にて脱溶・乾燥を行なった。

    得られたイソシアネート変性SBRに対し、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように、二軸押出機を用い230℃で溶融混合し、押出して得られたストランドを切断してペレット(チップ)(B−13)を製造した。

    [製造例25]イソシアネート変性BRペレット(B−14)の製造 窒素置換された反応器に、シクロヘキサン2,000g、ブタジエン500g、テトラヒドロフラン10gを仕込んだ後、n−ブチルリチウムを添加し、断熱下30〜90℃で重合反応を行った。 重合転化率が100%に達した後、ジフェニルメタンジイソシアネートをリチウム原子に対し2当量加えて反応させた。 次いで、2,6−ジ−ターシャリーブチル−p−クレゾールを添加後、シクロヘキサンを加熱除去してイソシアネート変性BRを得た。

    得られたイソシアネート変性BRに対し、ラジカル架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレートを、ペレット中の含有量が4質量%となるように、二軸押出機を用い230℃で溶融混合し、押出して得られたストランドを切断してペレット(チップ)(B−14)を製造した。

    [実施例1]
    EVOHペレット(A−1a)及びTPUペレット(B−1a)を用い、それぞれペレットを構成する樹脂組成物によって交互にA層が16層及びB層が17層の多層構造体が形成されるように、33層フィードブロックにて、共押出機に210℃の溶融状態として供給し、共押出を行い合流させることによって、多層の積層体とした。 合流するペレット(A−1a)及びペレット(B−1a)の溶融物は、フィードブロック内にて各層流路を表面側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、押出された多層構造体の各層の厚さが均一になるように押出された。 また、隣接するA層とB層の層厚さはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。 このようにして得られた計25層からなる積層体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急固化した。 急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。 なおペレット(A−1a)及びペレット(B−1a)の溶融物が合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。

    上記のようにして得られたキャストフィルムはDIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE社製)及び電子顕微鏡VE−8800(KEYENCE製)にて断面観察を行った結果、A層及びB層それぞれの平均厚みが0.5μm、全体の厚みが12.5μmであった。 なお、各厚みはランダムに選択された9点での測定値の平均値とした。

    次いで、このキャストフィルムに、電子線加速機[日新ハイボルテージ社製、機種名「キュアトロンEB200−100」]により、加速電圧200kV、照射線量200kGyの電子線を照射して多層構造体を得た。

    [実施例2〜41]
    表2〜表5に示すペレットの種類、ペレット中の添加剤の種類と量、積層状態、共押出成形温度及び所定の電子線照射量を採用した以外は、実施例1と同様にして多層構造体を製造した。

    なお、層数が129層以上の実施例の多層構造体は、それぞれのペレットを210℃で溶融し、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、フィードブロックにて合流させて3層積層としたものをスタティックミキサーに供給して、厚み方向に交互に積層された積層体を得た。

    [比較例1]
    EVOHペレット(A−1a)と、エラストマーとしてTPUペレット(B−1a)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(TPU(B1a)層/EVOH(A−1a)層/TPU(B−1a)層)を作製した。 各層の厚みは、EVOH(A−1a)層は6.4μm、TPU(B−1a)層は各々3.4μmである。

    次いで、このフィルムに、電子線加速機[日新ハイボルテージ社製、機種名「キュアトロンEB200−100」]により、加速電圧200kV、照射線量200kGyの電子線を照射して多層構造体を得た。

    なお、共押出成形条件は以下のとおりである。
    ・層構成:TPU(B−1a)/EVOH(A−1a)/TPU(B−1a)(厚み3.4/6.4/3.4:単位はμm)
    ・各樹脂の押出温度:樹脂フィード口/シリンダー部入口/アダプター/ダイ=170/170/220/220℃
    ・各樹脂の押出機仕様:
    TPU(B−1a):25mmφ押出機 P25−18AC(大阪精機工作社製)
    EVOH(A−1a):20mmφ押出機 ラボ機ME型CO−EXT(東洋精機社製)
    ・Tダイ仕様:500mm幅2種3層用 (プラスチック工学研究所社製)
    ・冷却ロールの温度:50℃
    ・引き取り速度:4m/分

    [比較例2〜5]
    電子線を照射しなかったこと以外は、それぞれ実施例1及び実施例39〜41と同様にして多層構造体を得た。

    [比較例6〜8]
    表5に示すペレットの種類、ペレット中の添加剤の種類と量、積層状態、共押出成形温度及び所定の電子線照射量を採用した以外は、比較例1と同様にして多層構造体を製造した。

    (評価)
    実施例1〜41、比較例1〜8で得られた多層構造体の諸特性を、下記の方法に従って評価した。 その結果を、A層及びB層に関するデータと共に、表2〜表5に示す。

    (1)ガスバリア性 多層構造体を、20℃−65%RHで5日間調湿し、調湿済みの多層構造体のサンプルを2枚使用して、モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20型」を用い、20℃−65%RH条件下でJIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて空気透過速度を測定した。 その平均値を求め(単位:mL/m ・day・atm)、比較例1の平均値を100として指数表示し、ガスバリア性を評価した。 指数値が低いほどガスバリア性に優れる。

    (2)層間の剥離抗力 多層構造体を180℃で15分間加熱後に、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、JIS−K6854に準拠し、23℃、50%H雰囲気下、引張り速度50mm/分によるT型剥離試験により、層間の剥離抗力を測定した。

    (3)室内ドラム評価 多層構造体をインナーライナーとして用い、常法により、断面構成が図1に示されるような乗用車用空気入りタイヤ(195/65R15)を作製した。

    (3−1)ドラム走行試験後の亀裂の有無 上記作製のタイヤについて、空気圧140kPaで80km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付けて、1,000km走行を実施した。 ドラム走行後のタイヤのインナーライナー外観を目視観察して、亀裂の有無を評価した。

    (3−2)ドラム走行試験後のガスバリア性 さらに、タイヤ側面部を10cm×10cmの大きさに切り取り、20℃−65%RHで5日間調湿し、調湿済みのタイヤ側面部の切片のサンプルを2枚使用して、モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20型」を用い、20℃−65%RH条件下でJIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて、空気透過速度を測定し、その平均値を求め(単位:mL/m ・day・atm)、比較例1の多層構造体のサンプルの空気透過速度の平均値を100として指数表示し、ガスバリア性を評価した。 指数値が低いほど、ガスバリア性に優れる。

    表中、ペレット中の金属塩における( )内数値は、金属塩を構成する金属元素の含有量を示し、単位は質量ppmである。

    表2〜5から明らかなように、A層又はB層、あるいはその両方に金属塩を含む場合、両方の層に金属塩を含まないものに比べて、層間の剥離抗力が高くなる。 また、ラジカル架橋剤をいずれかの層に含む場合、ラジカル架橋剤及び金属塩を両方の層に含まないものに比べて、層間の剥離抗力が高くなり、特に両方の層に金属塩を含むと共に、一方の層にさらにラジカル架橋剤を含むものは、この剥離抗力が高い。

    一方、三層構造又は電子線を照射していない各比較例の多層構造体は、層間接着力が低く、耐屈曲性も十分でないことが示された。

    本発明の多層構造体は、ガスバリア性、耐屈曲性等に優れ、ガスバリア性が要求される各種フィルム、特に空気入りタイヤのインナーライナーとして好適に用いられる。

    1 ビードコア2 カーカス層3 インナーライナー4 ベルト層5 トレッド層6 サイドウォール層7 ビードフィラー

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