【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、微生物固定化担体用のオリゴマー及び微生物固定化担体用のオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルに係り、特に廃水中の無機及び/又は有機の化合物を生物学的に処理する微生物を包括固定するための固定化担体用のオリゴマー及びそれを重合したオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルに関する。 【0002】 【従来の技術】 廃水や下水の生物学的処理は、 化学的、物理的処理に比べて比較的低コストであることから広く採用されている。 しかし、 微生物によっては、 増殖速度が遅いものや、 被毒し易いもの、又はその環境中に増殖し難いものがあり、 必ずしも効率的な処理方法とはいえない。 そこで、 微生物が繁殖しやすい環境を積極的に形成するために、 微生物を表面に担持する担体を廃水中に添加したり、 特定の微生物を予め内部に包括固定した担体を廃水中に投入する処理法がすでに実用化されている。 微生物を担持するゲル材料としては、 自然環境に対して無害であること、 微生物によって変質又は分解されないこと、 機械的強度が高いこと、 微生物を多量に保持できることなどが要求される。 これまでに実用化されているゲル材料としては、 特願昭60─44131号公報に記載のポリエチレングリコール系又はポリビニルアルコール系のオリゴマーがあり、オリゴマーを重合して微生物固定化担体用の含水ゲルを製造する。 そして、代表的なオリゴマー構造は、ポリエチレングリコールの主骨格部とその両端部に重合性二重結合基を備えたものである。 従来のオリゴマーを重合した微生物固定化担体用の含水ゲルは、アンモニア性窒素処理用の硝化菌の固定化物として優れており、広く利用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、昨今、 環境汚染物質の種類が多様化し、 有機塩素系物質、 環境ホルモン関連物質、 ダイオキシンなどの物質を生物学的に分解することが必要になってきた。 これらの物質は特定の微生物によって分解されるが、これらの微生物は分解速度が遅かったり、あるいは増殖速度が遅かったりするため、分解効率を上げるためには、 微生物を高濃度に保持することが必要である。 そして、微生物を高濃度に保持する技術としては、微生物を含水ゲル中に包括固定化する包括固定化技術がある。 【0004】 しかしながら、環境ホルモン関連物質等の物質を分解する微生物の場合には、従来の保持可能な微生物濃度よりさらに菌体を高濃度に固定化できる含水ゲルでなければ対応が難しいという問題がある。 【0005】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微生物の保持量を顕著に増大させることができ、しかも微生物によって変質又は分解されず、機械的強度が高く、自然環境に対して無害な微生物固定化担体用のオリゴマー及びそのオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルを提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明の請求項1は前記目的を達成するために、次の構造式、 (AA-O)kBO(EO)p(PO)q-UA-[O(EO)m(RO)n-UA]eO(PO)q(EO)pB-(O-AA)k ここで、 AA: アクリロイル基又はメタクリロイル基 k : 1又は2 B : C2 〜 C6 のアルカンポリオールの水酸基を除いた残基 EO: -CH2-CH2-O- p : 2〜15の整数 PO: -CH2-CH(CH3)-O- q : 1〜14の整数 UA: -OCHN-I-NHCO- で示す基で、 -I- は有機ジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基 m : 20〜100の整数 e : 1〜2 n : 10〜50の整数 R : C3 〜 C4 のアルキレン基 を備えたオリゴマーを、微生物の存在下で重合して成ることを特徴とする微生物が包括固定化された微生物固定化担体を提供する。 【0007】 本発明の請求項2は前記目的を達成するために、次の構造式、 (AA-O)kBO(EO)p(PO)q-UA-[O(EO)m(RO)n-UA]eO(PO)q(EO)pB-(O-AA)k ここで、 AA: アクリロイル基又はメタクリロイル基 k : 1又は2 B : C2 〜 C6 のアルカンポリオールの水酸基を除いた残基 EO: -CH2-CH2-O- p : 2〜15の整数 PO: -CH2-CH(CH3)-O- q : 0〜14の整数 UA: -OCHN-I-NHCO- で示す基で、 -I- は有機ジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基 m : 20〜100の整数 e : 1〜2 n : 10〜50の整数 R : C3 〜 C4 のアルキレン基 を備えたオリゴマーを、微生物の存在下で重合して成ることを特徴とする微生物が包括固定化された微生物固定化担体を提供する。 【0014】 【発明の実施の形態】 以下、添付図面により本発明の微生物固定化担体用のオリゴマー及び微生物固定化担体用のオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルの好ましい実施の形態を詳説する。 【0015】 本発明では、環境ホルモン関連物質等の物質を分解する微生物の場合には、従来の保持可能な微生物濃度よりさらに菌体を高濃度に固定化できる含水ゲルでなければ対応が難しいという問題を解決するために、微生物を固定化する含水ゲルの内部空間を大きくし、 微生物のコロニーを大きくさせることにより、 微生物の保持量を増大させることを検討した。 この検討において、単に含水ゲルの内部空間を大きくして微生物を多量に保持できるだけでなく、微生物を担持する含水ゲルとして必要な、自然環境に対して無害であること、 微生物によって変質又は分解されないこと、 機械的強度が高いことをも満足できるように、原料であるオリゴマーの分子構造について以下の改良を行った。 (1)オリゴマーの主骨格部の改良従来のオリゴマーの主骨格部を構成するポリアルキレングリコールは、エチレンオキシ(-CH 2 CH 2 -O-)を主鎖とし、分子量が800〜1200程度であったが、これを数倍の分子量の大きさになるように主鎖を延長して内部空間の大きな含水ゲルが形成できるようにした。 この場合、微生物との親和性に優れたエチレンオキシの主鎖の長さを大きくしていくと、 微生物によって含水ゲルが劣化し易くなる。 この解決策として、本発明者は、エチレンオキシの劣化を防止するために疎水性のアルキレンオキシをー定の比率で組み込むと主鎖の長さを長くしても微生物による含水ゲルの劣化を防止でき、主鎖を強くすることができることを見いだした。 即ち、主骨格部を構成するポリアルキレングリコールをエチレンオキシのみで構成するよりも、エチレンオキシと炭素数が3(プロピレンオキシ)又は4(ブチレンオキシ、テトラヒドロフラン)の疎水性のアルキレンオキシとのブロック共重合又はランダム共重合から構成することが好ましい。 (2)オリゴマー末端部の改良主骨格部と重合性二重結合基との間に、ウレタン結合とエチレンオキシ(-CH 2 CH 2 -O-)p 、又はウレタン結合とエチレンオキシとプロピレンオキシ(-CH 2 -CH(CH 3 )-O-)から成る副骨格部を入れることにより、オリゴマー末端の改良を行った。 即ち、主骨格部と重合性二重結合基との間にウレタン結合を入れることにより、重合反応による含水ゲルの成形後に、 ウレタン二重結合部同士が結晶化構造を形成(ネットワーク化) し、 含水ゲルの柔軟性に加え、強度及び耐摩耗性を著しく増加させることができる。 しかし、主骨格部と重合性二重結合基との間に、単にウレタン結合を入れただけではウレタン部の疎水性が強く働き、微生物を付着、或いは固定化しようとしてもオリゴマーと微生物とが分離し、 付着或いは包括固定化できないという問題がある。 そこで、本発明者は、ウレタン結合と重合性二重結合基との間に、親水性のエチレンオキシを単独で又はエチレンオキシとプロピレンオキシとを適量の割合で入れることによってこの問題を解決した。 この場合、プロピレンオキシの配合比はエチレンオキシの配合比よりも小さくすることが必要である。 これにより、主骨格部と重合性二重結合基との間にウレタン結合があっても微生物との親和性を増すことができ、柔軟性に加え、強度及び耐摩耗性を維持しながら微生物保持量の大きな含水ゲルを得ることができる。 【0016】 ここで、ウレタン結合を形成するウレタン架橋剤としては、トリレンジイソシアネート (Tolylene diisocyanate) 、4,4'- ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'-Diphenylmethane diisocyanate) 、ナフチレンジイソシアナート (Naphthylene diisocyanate)、水添加4,4'- ジフェニルメタンジイソシアネート(Hydrogenated 4,4'-diphenylmethane diisocyanate)、トリメチルへキサメチレンジイソシアネート(Trimethyl hexamethylene diisocyanate)、ヘキサメチレンジイソシアネート(Hexamethylene diisocyanate)、メタキシリレンジイソシアネート(m- Xylylene diisocyanate) 、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(Tetramethyl xylylene diisocyanate) 、イソホロンジイソシアネート(Isophorone diisocyanate)、ノルボルナンジイソシアネート(Norbornane diisocyanate) 等の有機ジイソシアネートがあり、 これらを単独で使用しても2種以上を併用してもよい。 【0017】 このように、本発明の微生物固定化担体用のオリゴマーは、上記したように、オリゴマーの主骨格部と末端部の改良によって成されたものであり、ポリアルキレングリコールの主骨格部と、主骨格部の両端に位置する重合性二重結合基と、主骨格部と重合性二重結合基との間に設けられ、ウレタン結合とエチレンオキシ、又はウレタン結合とエチレンオキシとプロビレンオキシから成る副骨格部と、から構成される。 この場合、ポリアルキレングリコールは、エチレンオキシ(EO)m と炭素数が3又は4のアルキレンオキシ(RO)n であって、m =20〜100の整数、n=10〜50の整数で成ることが好ましい。 また、重合性二重結合基は、アクリレート又はメタクリレートであることが好ましい。 【0018】 また、上記オリゴマーの主骨格部と末端部の改良した具体的な構造式の一例としては、式(1)に示すように、 (AA-O)kBO(EO)p(PO)q-UA-[O(EO)m(RO)n-UA]eO(PO)q(EO)pB-(O-AA)k…(1) ここで、 AA: アクリロイル基又はメタクリロイル基 k : 1又は2 B : C 2 〜C 6のアルカンポリオールの水酸基を除いた残基 EO: -CH 2 -CH 2 -O- p : 1〜15の整数 PO: -CH 2 -CH(CH 3 )-O- q : 0〜14の整数 UA: -OCHN-I-NHCO- で示す基で、-I- は有機ジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基 m : 20〜100の整数 e : 1〜2 n : 10〜50の整数 R : C 3 〜C 4のアルキレン基を備えて構成される。 【0019】 式(1)において、B が-CH 2 -CH 2 - であると共に、-I- がイソホロン残基であることが好ましい。 【0020】 そして、上記構造から成るオリゴマーに、重合促進剤、重合開始剤、重合抑制剤等を添加してラジカル反応により重合することにより、微生物を付着或いは包括固定化するためのオリゴマー重合含水ゲル(以下「担体」という)が形成される。 この担体の形成において、濃度5〜70%のオリゴマーの水溶液に、包括固定化するための微生物や活性汚泥を懸濁し、これに重合促進剤、重合開始剤、重合抑制剤等を添加してラジカル反応により重合することにより、微生物が包括固定化されたオリゴマー重合含水ゲル(以下、「微生物固定化担体)という)を得ることができる。尚、オリゴマーを重合する方法については、公知の方法を用いることができる。 【0021】 このように、微生物を包括固定化するための原料であるオリゴマーの主骨格部と末端部の改良により、 馴養後の微生物濃度が高く、 微生物によって変質又は分解されず、強度及び耐摩耗性に優れ、更には自然環境に対して無害な微生物固定化担体を得ることができる。 しかも、このオリゴマー構造は、アンモニア、 トリクレン、 ダイオキシン、これらの酸化物や代謝によって発生したガスや酸素等の透過性に優れ、 廃水処理用の微生物固定化担体のゲル材料として好適である。 【0022】 また、微生物の包括固定化では、オリゴマーに含まれる重合抑制剤、重合停止剤、重合禁止剤の濃度を300mg/L以下、好ましくは50〜200mg/Lの範囲のゲル材料を用い、微生物や活性汚泥を包括固定化すると、強度・活性が共に良好な微生物固定化担体を得ることができる。 【0023】 オリゴマーに含まれる重合停止剤、重合禁止剤、重合抑制剤の種類としては下記のものが該当し、 これらは1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。 【0024】 ハイドロキノン(Hydroquinone)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(Hydroquinone Monomethylether)、ベンゾキノン(p-Benzoquinone)、メチルベンゾキノン(Methyl-p-benzoqinone)、メチルハイドロキノン(Methyl-hydroquinone) 、ターシャリブチルハイドロキノン(tert-Butyl-hydroquinone) 等のキノン系重合抑制剤、フェノチアジン(Phenothiazine) 、ナフチルフェニレンジアミン(N,N' -Di-2-naphthyl-p-phenylenediamine)等のアミン化合物、ブチルヒドロキシトルエン(2, 6-Di-tert-butyl-4-methylphenol) 、メテレンビスメチルtertブチルフェノール 2,2'-Methylenebis(4-methyl-6-tert-butyl phenol) 等のフェノール系化合物、トリフェニルホスファイト(Triphenyl phosphite) 、トリスノニルフェニルフォスファイト(Trisnonylphenyl phosphite) 等のリン系化合物がある。 【0025】 図1は、本発明の(AA-O)kBO(EO)p(PO)q-UA-[O(EO)m(RO)n-UA]eO(PO)q(EO)pB-(O-AA)kの構造式を有するオリゴマーを使って、主骨格部(- (EO)m (RO)n -) の分子量と硝化菌を包括固定化したときの微生物保持量相対比との関係、及び主骨格部[- (EO)m (RO)n -] の分子量と担体の劣化を表す担体容積比との関係を示したものである。 【0026】 図2は、副骨格部を、ウレタン結合とエチレンオキシ(EO)p とで構成した場合に、エチレンオキシ(EO)p のp の数と微生物保持量相対比との関係、及びp の数と結晶化構造率との関係を示したものである。 ここで、結晶化構造率とは、担体の物性的な安定性を表すもので、結晶化構造率が低いと担体が磨耗し易くなる等問題がある。 【0027】 そして、微生物保持量相対比〔A〕、担体容積比〔B〕、結晶化構造率〔C〕は以下の式で表される。 尚、図1と図2では、微生物保持量相対比の分母となる基準が異なり、図1では、横軸の分子量(主骨格部)8400の材料で固定化した担体での菌数を100として相対比較したものである。 また、図2では、横軸のp=18の材料で固定化した担体での菌数を100として相対比較したものである。
図1から分かるように、主骨格部(- (EO)m (RO)n -) を構成するポリアルキレングリコールの分子量を大きくしていくと、 分子量が4000程度までは微生物保持量相対比が急激に増大し、その後、緩いカーブを描きながら上昇する。 また、図2から分かるように、端部に結合したエチレンオキシ(- (EO)p -) のp の数を増やした場合も微生物保持量相対比が増大する。 これにより、担体に保持する微生物の保持量を増大させることができる。 【0028】
しかしながら、分子量が大きくなると担体容積比が低下してくることから分かるように、担体が劣化し易くなったり(図1参照)、p の数を増やすと、 結晶化構造率が低下してくることから分かるように担体が磨耗し易くなる(図2参照)。
【0029】
このことから、主骨格部のポリアルキレングリコールの分子量は1500〜7000程度が好ましい。 また、副骨格部を、ウレタン結合とエチレンオキシ(EO)p とで構成した場合には、エチレンオキシ(- (EO)p -) のP の数は2〜15の範囲が好ましい。 更には、副骨格部を、ウレタン結合とエチレンオキシとプロピレンオキシとで構成した場合、即ち、エチレンオキシ(- (EO)p -) に適量のプロピレンオキシ(-(PO)q-) を混在させた場合には、結晶化構造率の低下を抑制するので、P の数を更に増加させることが可能である。 但し、この場合には、プロピレンオキシの配合比はエチレンオキシ量より少なくすることが必要である。
【0030】
図1及び図2では、微生物を入れて固定化した場合で評価したものであるが、微生物を入れない担体を作製して、担体容積比、結晶化構造率を測定した場合にも図1及び図2と同様の傾向が得られた。
【0031】
このことは、主骨格部のポリアルキレングリコールの分子量1500〜7000、エチレンオキシのpの数が2〜15の担体は、担体容積比、結晶化構造率が高く、担体の劣化が少なく、磨耗しにくい担体であると言える。 従って、本発明の担体は、微生物を入れた包括固定化用担体に限らず、微生物を表面に付着させる付着用担体としても有効である。
【0032】
【実施例】
(実施例1)
ビスフェノールA分解細菌(Sphingomanas sp. 細菌濃度が5×10
6 cells /mL)を、本発明の担体で包括固定化した微生物固定化担体を使用して、環境ホルモン関連物質であるビスフェノールAを処理したときの実施例を示す。 【0033】
実施例1で使用したオリゴマーのモデル構造及び製造方法は、次の通りである。
【0034】
モデル構造式:AA-O(EO)p-UA-O(EO)m(RO)n-UA-(EO)pO-AA
ここで、 p≒8, m≒54, n ≒11、AA :メタクリロイル、EO :エチレンオキシ、PO :プロピレンオキシ、UA :-OCHN-I-NHCO-(I:イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基)である。
【0035】
このオリゴマーの製造方法は、攪拌機、温度計、空気冷却管を備えた5Lのフラスコに、プロピレンオキシとエチレンオキシとから成るポリエーテルポリオール〔商品名:アデカプルロニック25R−2(旭電化工業(株)〕3100g(1モル)、イソホロンジイソシアネート444g(2モル)を取り攪拌し、その状態で更にジ−n−ブチルスズジラウレート1.3gを添加した。この際、反応熱がでるが、反応温度を80〜90°Cに保ち3時間合成反応を行った。その後、70°Cまで攪拌しながら冷却し、その状態でハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.44g(100ppm)を添加後、ポリアルキレングリコールモノメタクリレート〔商品名:ブレンマー−PE−350(日本油脂(株)〕868g(2モル)を30分かけて攪拌しながら添加した。この際、反応熱がでるが、反応温度を80〜90°Cに保ち4時間反応させた。反応系内の内容物をサンプリングし、赤外線分析計(IR)にてイソシアネート基の波長(2270cm
-1 ) が全く見られなかったので反応終了とした。合成物は、淡黄色の液体であった。 【0036】
そして、上記構造から成る濃度10%のオリゴマー水溶液に、包括固定化するためのビスフェノールA分解細菌を懸濁し、これに重合促進剤、重合開始剤、重合抑制剤等を添加してラジカル反応により重合することにより、ビスフェノールA分解細菌が包括固定化された微生物固定化担体を得た。
【0037】
一方、比較例1としての従来のオリゴマー構造は、
AA-O(EO)m-AAでm=16のものを使用し、ビスフェノールA分解細菌の包括固定化方法は実施例1と同様である。
【0038】
そして、実施例1及び比較例1について培養液中で1 ケ月間培養した後の細菌数と圧縮強度(機械的強度)を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、本発明のオリゴマーを重合してビスフェノールA分解細菌を包括固定化した実施例1の微生物固定化担体は、従来のオリゴマー重合してビスフェノールA分解細菌を包括固定化した比較例1の微生物固定化担体に比べて、細菌の保持量が多く、圧縮強度も高くなった。 また、比較例1の微生物固定化担体は、8か月間の長期運転により担体の変形や加水分解等が発生し、圧縮強度の減少も観られたが、実施例1の微生物固定化担体は、担体の変形や加水分解もなく、圧縮強度の減少もなかった。
【0041】
図3は、実施例1の微生物固定化担体と比較例1の微生物固定化担体とで、ビスフェノールAを含有する廃水を処理した処理結果である。 この処理条件としては、反応容器への微生物固定化担体の充填率を10%とし、滞留時間を18時間とした。
【0042】
図3にプロットした○は、流入廃水におけるビスフェノールA濃度の経時変化を示したもので、濃度が100〜110mg/Lで推移した。 また、△は実施例1の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のビスフェノールA濃度であり、▲は比較例1の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のビスフェノールA濃度である。
【0043】
図3から分かるように、比較例1では、処理水のビスフェノールA濃度が50〜70mg/Lの範囲で推移し、ビスフェノールAの除去率としては約50%と悪かった。
【0044】
これに対し、実施例1では、処理が安定するまでに10日間程度を要したものの、その後は処理水のビスフェノールA濃度は5mg/L以下の低レベルで安定した。 ビスフェノールAの除去率としては90%以上と良好であった。
(実施例2)
ダイオキシン分解細菌(Pseudomonas sp.細菌濃度が5×10
6 cells /mL)を、本発明の担体で包括固定化した微生物固定化担体を使用して、各種のダイオキシンを処理したときの実施例を示す。 【0045】
実施例2で使用したオリゴマーのモデル構造は、次の通りである。
【0046】
モデル構造式:AA-O(EO)p-UA-O(EO)m(RO)n-UA-(EO)pO-AA
ここで、 p≒6, m≒61, n ≒26、AA :メタクリロイル、EO :エチレンオキシ、PO :プロピレンオキシ、UA :-OCHN-I-NHCOで示す基で、I はトリレンジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基である。
【0047】
そして、上記構造から成る濃度10%のオリゴマー水溶液に、包括固定化するためのダイオキシン分解細菌を懸濁し、これに重合促進剤、重合開始剤、重合抑制剤等を添加してラジカル反応により重合することにより、ダイオキシン分解細菌が包括固定化された微生物固定化担体を得た。
【0048】
尚、オリゴマーの製造方法は、基本的に実施例1と同様である。
【0049】
一方、比較例2としての従来のオリゴマー構造は、
AA-O(EO)m-AAでm=16のものを使用し、ダイオキシン分解細菌の包括固定化方法は実施例2と同様である。
【0050】
そして、実施例2及び比較例2について培養液中で1 ケ月間培養した後の細菌数と圧縮強度を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から分かるように、本発明のオリゴマーを重合してダイオキシン分解細菌を包括固定化した実施例2の微生物固定化担体は、従来のオリゴマー重合してダイオキシン分解細菌を包括固定化した比較例2の微生物固定化担体に比べて、細菌の保持量が多く、圧縮強度も高くなった。 また、比較例2の微生物固定化担体は、8か月間の長期運転により担体の変形や加水分解等が発生し、圧縮強度の減少も観られたが、実施例2の微生物固定化担体は、担体の変形や加水分解もなく、圧縮強度の減少もなかった。
【0053】
図4は、実施例2の微生物固定化担体と比較例2の微生物固定化担体とで、各種のダイオキシンを含有する廃水を処理した処理結果である。 この処理条件としては、反応容器への微生物固定化担体の充填率を10%とし、滞留時間を24時間とした。 また、ダイオキシンの種類としては、図4に示した10種類のダイオキシンについて行った。
【0054】
図4では、流入廃水のダイオキシン濃度、比較例2の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のダイオキシン濃度、実施例2の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のダイオキシン濃度の3本の棒グラフを1組として示した。
【0055】
図4から分かるように、比較例2の場合には、処理水のダイオキシン濃度が流入廃水のダイオキシン濃度に比べて10〜30%程度しか除去されておらず、ダイオキシンの除去性能が悪かった。
【0056】
これに対し、実施例2の処理水のダイオキシン濃度は、除去されにくいダイオキシンの場合でも、流入廃水のダイオキシン濃度の約1/2まで低下し、除去され易いダイオキシンの場合には、1/10以下まで除去することができた。
(実施例3)
下水処理場で採取した活性汚泥(MLSS:20000mg/L)を、本発明の担体で包括固定化した微生物固定化担体を使用して、アンモニア窒素を含有する廃水を処理したときの実施例を示す。
【0057】
実施例3で使用したオリゴマーのモデル構造は、次の通りである。
【0058】
モデル構造式:
(AA-O)kBO(EO)p(PO)q-UA-[O(EO)m(RO)n-UA]eO(PO)q(EO)pB-(O-AA)k
ここで、k ≒1 、-B-:-CH
2 -CH 2 - 、p ≒4, q≒2 、m ≒70, n ≒30、e ≒1.2 、AA :メタクリロイル、EO :エチレンオキシ、PO :プロピレンオキシ、UA :-OCHN-I-NHCOで示す基で、I はトリレンジイソシアネートのイソシアネート基を除いた残基である。 【0059】
そして、上記構造から成る濃度10%のオリゴマー水溶液に、包括固定化するための活性汚泥を懸濁し、これに重合促進剤、重合開始剤を添加してラジカル反応により重合することにより、硝化菌が包括固定化された微生物固定化担体を得た。
【0060】
尚、オリゴマーの製造方法は、基本的に実施例1及び2と同様である。
【0061】
一方、比較例3としての従来のオリゴマー構造は、
AA-O(EO)m-AAでm=14のものを使用し、活性汚泥の包括固定化方法は実施例3と同様である。
【0062】
そして、実施例3及び比較例3について培養液中で1 ケ月間培養した後の細菌数と圧縮強度を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3から分かるように、本発明のオリゴマーを重合して活性汚泥を包括固定化した実施例3の微生物固定化担体は、従来のオリゴマーを重合して活性汚泥を包括固定化した比較例3の微生物固定化担体に比べて、細菌の保持量が多く、圧縮強度も高くなった。 また、比較例3の微生物固定化担体は、6か月間の長期運転により担体の変形や加水分解等が発生し、圧縮強度の減少も観られたが、実施例3の微生物固定化担体は、担体の変形や加水分解もなく、圧縮強度の減少もなかった。
【0065】
図5は、実施例3の微生物固定化担体と比較例3の微生物固定化担体とで、アンモニア性窒素を含有する廃水を処理した処理結果である。 この処理条件としては、反応容器への微生物固定化担体の充填率を10%とし、滞留時間を1.2時間とした。 また、廃水の水温は13〜15°Cであった。
【0066】
図5にプロットした○は、流入廃水におけるアンモニア性窒素濃度の経時変化を示したもので、濃度が38〜60mg/Lで推移した。 また、△は実施例3の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のアンモニア性窒素濃度であり、▲は比較例3の微生物固定化担体を使用した場合の処理水のアンモニア性窒素濃度である。
【0067】
図5から分かるように、比較例3では、処理水のアンモニア窒素濃度が10mg/L程度で推移した。 これに対し、実施例1では、処理水のアンモニア窒素濃度が1〜2mg/L程度の低レベルで推移し、低温廃水中でも安定した硝化反応を行うことができた。
【0068】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の微生物固定化担体用のオリゴマー及びそのオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルによれば、微生物の保持量を顕著に増大させることができ、しかも微生物によって変質又は分解されず、機械的強度が高く、自然環境に対して無害な微生物固定化担体用のオリゴマー及びそのオリゴマー重合含水ゲル並びに微生物が固定化されたオリゴマー重合含水ゲルを得ることができる。
【0069】
これにより、アンモニア性窒素のみならず、有機塩素系物質、環境ホルモン関連物質、ダイオキシンなどの物質を生物学的に効率良く分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のオリゴマー構造式を有するオリゴマーを使って、主骨格部の分子量と微生物保持量相対比との関係、及び主骨格部の分子量と担体容積比との関係を示した説明図【図2】副骨格部を、ウレタン結合とエチレンオキシとで構成した場合に、エチレンオキシの数と微生物保持量相対比との関係、及びエチレンオキシの数と結晶化構造率との関係を示した説明図【図3】実施例1の微生物固定化担体と比較例1の微生物固定化担体とで、ビスフェノールAを含有する廃水を処理した処理結果を説明する説明図【図4】実施例2の微生物固定化担体と比較例2の微生物固定化担体とで、各種のダイオキシンを含有する廃水を処理した処理結果を説明する説明図【図5】実施例3の微生物固定化担体と比較例3の微生物固定化担体とで、アンモニア性窒素を含有する廃水を処理した処理結果を説明する説明図
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