【0001】 【発明の属する技術分野】 この出願の発明は、粘性制御方法に関するものである。 さらに詳しくは、この出願の発明は、マイクロ全分析等に有用で、粘性が支配的な流動域における液体溶媒の粘性を任意に制御可能とする方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術とその課題】 近年、医用、環境、生体等の分野において、μ−TAS(Micro-Total Analytical System:マイクロ全分析システム)による研究および開発が盛んに行われている。 たとえば、DNAの分析では、1つのDNAチップから、多数の遺伝子の発現や変異、多型性を、さまざまな分析装置を用いて、同時に解析するようにしている。 【0003】 このDNAチップは、一枚のスライドガラスやシリコン等の基板上に、一万種類以上にものぼる微量のDNA断片を再現性よく高密度にスポットして、整列固定させたものである。 配列には、DNAチップの基板表面に微細レーザー技術等を応用してチャンネル(試料溝)を形成し、試料DNAをチャンネルに配置させた後、電気泳動法等により流通させながら、順次、蛍光色素等による標識、各種薬剤等との反応あるいは複合化等を施し、試料片としてμ−TASに供するようにしている。 このようにして得られる分析結果は、疾病関連遺伝子のセレクション、ターゲット代謝経路の探究、リード化合物のスクリーニング、薬剤毒性・薬剤選択性(特異性)・薬効・薬剤感受性等の研究に極めて重要である。 【0004】 しかしながら、たとえば上記のDNAチップなどにおけるチャンネルの幅は、数10〜数100μm程度と極端に狭いため、このチャンネル内をDNAゲル、血液等の液体が流通する場合、その流れは粘性の支配を大きく受けてしまっていた。 そのため、マイクロチャンネル内の流動を、抑制したり、促進したりすることのできる技術の開発が望まれている。 【0005】 そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、マイクロ全分析等に有用で、粘性が支配的な流動域における液体溶媒の粘性を任意に制御可能とする方法を提供することを課題としている。 【0006】 【課題を解決するための手段】 そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。 【0007】 すなわち、まず第1には、この出願の発明は、マイクロチャンネルを流通する液体溶媒に強磁性微粒子を分散させ、交流磁場を、 角周波数を制御して印加することで、該液体溶媒の見かけ粘性を変化させることを特徴とする粘性制御方法を提供する。 【0008】 そして、この出願の発明は、上記第1の発明において、第2には、液体溶媒がコロイド溶液であることを特徴とする粘性制御方法を、第3には、強磁性微粒子が界面活性剤で覆われていることを特徴とする粘性制御方法を、第4には、強磁性微粒子の粒径が、2〜100nmの範囲であることを特徴とする粘性制御方法を、第5には、強磁性微粒子が、Fe、Co、Niあるいはそれらの合金あるいは金属間化合物の粒子であることを特徴とする粘性制御方法を提供する。 【0009】 さらに、この出願の発明は、上記いずれかの発明において、第6には、液体溶媒の見かけ粘性係数を負にすることを特徴とする粘性制御方法を、第7には、マイクロチャンネルは、幅が10〜200μmであることを特徴とする粘性制御方法や、第8には、マイクロチャンネルがマイクロ全分析システムにおける試料プレートであることを特徴とする粘性制御方法等も提供する。 【0010】 【発明の実施の形態】 この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。 【0011】 一般に、液体溶媒に微粒子が分散している流体において、液体溶媒の見かけの粘性は、微粒子の種類および濃度等によって変化することが知られている。 たとえば、水や油などの液体溶媒に微粒子を混ぜてコロイド状にすると、一般に液体溶媒の見かけの粘性は上昇する。 また一方で、強磁性体は自発磁化を形成しており、外部磁場が印加された場合、エネルギーを低くしようとその磁場方向に自発磁化の方向を揃えるという性質が知られている。 【0012】 この出願の発明者らは、上記の知見をもとに創意研究をかさねた結果、強磁性を示す微粒子が分散している液体溶媒からなる磁性流体に、磁場を印加することで、液体溶媒の見かけの粘性が影響を受けることを見出した。 すなわち、この出願の発明が提供する粘性制御方法は、マイクロチャンネル(微細経路)を流通する液体溶媒に強磁性微粒子を分散させ、磁場を印加することで、該液体溶媒の見かけ粘性を変化させるようにしている。 マイクロチャンネル内の液体溶媒の流動特性を支配する粘性を、磁場の印加によって制御する試みは今までに知られておらず、この出願の発明者らによって初めて実現されるものである。 【0013】 この出願の発明において、マイクロチャンネルは、各種の材料に形成された溝や貫通孔、さらには疎水性領域と親水性領域にパターン化された表面等であってよい。 また、マイクロチャンネルを構成する材質等に特に制限はなく、その幅および深さに関しては、チャンネル内の流動特性に粘性が寄与する程度の範囲のものを対象とすることができる。 具体的には、たとえば、半導体技術を応用してシリコン板やガラスプレートに形成されたマイクロチャンネルや、キャピラリーカラム等を用いること等が例示される。 流動特性に対する粘性の影響と粘性制御の点を考慮すると、この出願の発明は、特に、幅が数μm〜数100μm程度の、たとえば毛細血管モデルや、微細分析用のマイクロチャンネルを対象とすると効果的である。 【0014】 また、液体溶媒についても各種のものを対象とすることができ、具体的には、たとえば、水、血液、各種のゲル等であっても良い。 好適には、液体溶媒中に微粒子が分散されたコロイド溶液であることが好ましい。 【0015】 強磁性微粒子としては、強磁性を示す、Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホルミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)やそれらの合金あるいは金属間化合物、Cu 2 MnAl,CrO 2 ,CrTe等の微粒子を用いることができる。 なかでも、Fe,Co,Niやそれらの合金あるいは金属間化合物等の微粒子であることが好ましい。 なお、この出願の発明において、強磁性とは、原子が持つ磁気モーメントが全て同じ方向にそろった状態を意味しているまた、強磁性微粒子の粒径としては、2〜100nmの範囲、さらには、5〜10nmの範囲であることを望ましい。 強磁性微粒子の粒径が100nmよりも大きくなると、液体溶媒の粘性制御効果が大きくなりすぎ、微細な粘性制御を行うことができなくなってしまう。 また、粒径が2nmよりも小さくなると、逆に液体溶媒の粘性制御効果が得られなくなってしまう。 また、一般に粒径が100nm以下の粒子を超微粒子といい、その粒径が各種の物性の特徴的な大きさよりも小さくなると、超微粒子はバルクの性質とは異なった物性を示すようになる。 強磁性微粒子の場合には、粒径が5〜10nm程度の臨界値付近になると、1つの微粒子中の自由電子の数や磁壁の厚さ等が、それらに起因する特性に及ぼす影響が顕著になり、より精密に粘性制御を行うことが可能となる。 【0016】 この出願の発明においては、以上のような強磁性微粒子を液体溶媒に分散させてマイクロチャンネル内を流通させ、この系に磁場を印加する。 ここで、超微粒子は凝集する性質があるため、たとえば、強磁性微粒子を界面活性剤で被覆などすることで、液体溶媒中に均一に分散させることができる。 この出願の発明においては、界面活性剤としては、広く一般に使用されている各種のものを適宜用いることができる。 また、液体溶媒中に分散させる強磁性微粒子の量は、対象とする液体溶媒の粘性や、用いる強磁性微粒子の特性等によって、適宜調整することができる。 液体溶媒の流通方法も、たとえば、ポンピングや電気泳動等の公知の方法を適宜利用することができる。 【0017】 上記の系に印加する磁場は、直流であっても、交流であってもよいが、この出願の発明においては、特に有用な粘性制御方法として、交流磁場を印加するようにしている。 その印加手段に制限はない。 また、磁場はマイクロチャンネル全体に印加しても良いが、たとえば図1のように、基板(1)上に形成されたマイクロチャンネル(2)の一部をはさむように磁場発生機能(3)を有する装置を設置し、磁場を印加することが簡便な例として示される。 なお、参考のために 、直流磁場を印加することでも液体溶媒の見かけ粘性を変化させることができる。 強磁性微粒子が分散している液体溶媒の流体において、磁場が印加されていない状態では、強磁性粒子は流れの影響を受けて回転運動を行い、公知と同様のレベルで粘性を高める効果を示すことになる。 そこで、たとえば、その系に直流磁場を印加すると、図2に示したように、磁性粒子の自発磁化の方向が磁場方向に揃うために回転運動が抑えられるため、液体溶媒の流れが抑制されて、見かけの粘性がさらに上昇される。 【0018】 一方で、この出願の発明においては、交流磁場を印加することで粘性を制御する。 交流磁場を印加する場合、たとえば、まず、その系に印加する交流磁場の角周波数を低くすると、磁場によって強磁性粒子の磁化方向が変動し、強磁性粒子の回転運動が影響を受けて、液体溶媒の見かけ粘性が上昇される。 【0019】 また、交流磁場の角周波数を十分高くすると、強磁性粒子の磁化方向の変動は磁場変化に追随できず、強磁性粒子の回転運動および見かけの粘性は磁場によって影響を受けない。 【0020】 そして、交流磁場の角周波数を上記の中間領域に設定すると、磁性粒子の磁化方向の変動と磁性粒子の回転運動とが共鳴し、磁性粒子はスムーズな回転運動を行うため、液体溶媒の見かけ粘性は減少される。 さらに、交流磁場の各周波数を中間領域内のある特定の範囲に制御すると、磁場変化による粒子の回転周波数が、外部剪断流による回転周波数よりも高くなり、液体溶媒の流れを促進させることができる。 すなわち、見かけの粘性は負とされる。 【0021】 以上の外部磁場の印加条件について、たとえば、直流磁場を印加する場合の強度や、交流磁場を印加する場合の強度および各周波数等は、マイクロチャンネルに対する液体溶媒の粘性や、強磁性微粒子の粒径、比重等の各種の特性に応じて、所望の見かけ粘性が得られるように調整することができる。 このように、外部磁場を制御して印加することで、液体溶媒の見かけ粘性を、任意に変化させることができる。 【0022】 以上のような液体溶媒の粘性制御は、たとえば、DNAチップの調整、血中の蛋白などの生化学成分や、癌マーカやホルモン、尿中成分等を自動分析する際の試料調整、飲料水の水質試験用試料の調整に有用である。 【0023】 特に、マイクロ全分析システムで使用するDNAチップ等に設けられるマイクロチャンネルには複雑な形状のものがあり、液体試料を流動、配置させる際等に、この出願の発明の方法を効果的に利用することができる。 【0024】 以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。 【0025】 【実施例】 強磁性微粒子として平均粒径10nmのコバルト粉末を、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用い、これらを液体溶媒としてのコロイダルシリカにいれて十分に攪拌し、均一に分散させた。 この系に対し、磁場を印加しない場合と、角周波数を変化させて交流磁場を印加した場合の液体溶媒の見かけ粘性を測定し、その結果を図3に示した。 【0026】 図3から、この系の場合、角周波数0.02ω/γの交流磁場印加すると液体溶媒の見かけ粘性は0.13まで高くなり、角周波数を大きくするにつれて見かけ粘性が減少していくことがわかった。 また、角周波数を20ω/γ程度に高くすると、液体溶媒の見かけ粘性は0と、磁場の印加による影響を受けないことがわかった。 また、角周波数が0.9〜10ω/γ程度の範囲では、液体溶媒の見かけ粘性が負の値をとることがわかった。 【0027】 以上のことから、強磁性微粒子を分散させた液体溶媒に磁場を印加することで、液体溶媒の見かけ粘性を制御できることが示された。 【0028】 もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。 【0029】 【発明の効果】 以上詳しく説明した通り、この発明によって、マイクロ全分析等に有用で、粘性が支配的な流動域における液体溶媒の粘性を任意に制御可能とする方法が提供される。 【図面の簡単な説明】 【図1】マイクロチャンネルチャンネルに磁場を印加する様子を例示した図である。 【図2】外部磁場中の強磁性微粒子の様子を例示した模式図である。 【図3】実施例における、液体溶媒の粘性の変化を例示した図である。 【符号の説明】 1 基板2 マイクロチャンネル3 磁場発生機能 |