【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、新規アゾ化合物およびその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術およびその課題】ジアミノアゾチオフェン環系の化合物は、農薬、医薬および染料の中間体として有用であるばかりでなく、それ自身色材として有用な化合物である。 【0003】しかしながら、アゾチオフェン環系の化合物は無置換の場合非常に不安定であり、アミノ基のような電子供与性の置換基を有する化合物はさらに不安定になるため、現在までのところジアミノアゾチオフェン環系の化合物は単離されておらず、わずかに電子吸引性の置換基により安定化されたアゾチオフェン環系の化合物の単離が報告されているのみである。 【0004】本発明は、農薬、医薬および染料の中間体として、およびそれ自身色材として有用なジアミノアゾチオフェン環系の化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、2−アミノチオフェンのジアゾ化反応によりジアミノアゾチオフェン環系の化合物が得られることを見出した。 【0006】即ち、本発明は一般式(I): 【0007】 【化3】 【0008】で表されるジアミノアゾチオフェン化合物、その塩およびその金属錯体を提供するものである。 【0009】また、本発明は2−アミノチオフェン、その塩またはその金属錯体と過剰のジアゾ化剤を反応させることを特徴とする一般式(I): 【0010】 【化4】 【0011】で表されるジアミノアゾチオフェン化合物の製造方法を提供するものである。 【0012】一般式(I)の化合物の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、過塩素酸塩等の鉱酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩などが挙げられる。 一般式(I)の化合物のこれらの塩は、化合物(I)の合成反応で直接得ることもできるが、一旦遊離塩基または上記の酸のいずれかとの塩として単離し、これを常法により塩形成または塩交換の操作を行うことにより得ることができる。 【0013】一般式(I)の化合物の金属錯体としては、亜鉛錯体、錫錯体、鉄錯体などが挙げられる。 金属錯体の形成も、例えば一般式(I)の化合物の遊離塩基または上記の酸のいずれかとの塩を用い、常法により行うことができる。 【0014】一般式(I)で表される化合物の合成経路を以下の反応工程式(A)に示す: <反応工程式(A)> 【0015】 【化5】 【0016】本発明のアゾ化合物(I)が得られるまでの反応機構は上記反応工程式(A)に示すように、2− アミノチオフェン、その塩またはその金属錯体が過剰のジアゾ化剤を用いてジアゾ化して中間体(1)となり、 この中間体(1)と2−アミノチオフェンとが反応して中間体(2)となり、この中間体(2)がアミノ化されて目的のジアミノアゾチオフェン化合物(I)になると考えられる。 【0017】上記反応において、ジアゾ化剤としては例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸イソアミル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチル、亜硝酸プロピルなどの亜硝酸化合物が例示される。 【0018】上記反応にハロゲン化金属を加えると、反応がより効果的に進行するので好ましい。 このハロゲン化金属としては、例えば塩化亜鉛、四塩化錫、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化鉄などが挙げられる。 ハロゲン化金属は、2−アミノチオフェンに対し2〜3当量、好ましくは2.2〜2.4当量添加される。 【0019】本発明の化合物を製造するための原料である2−アミノチオフェンは遊離塩基、塩酸、硫酸、臭化水素酸等の鉱酸塩または上記の錫錯体などの金属錯体が用いられる。 2−アミノチオフェンと亜硝酸ナトリウムのモル比は、2−アミノチオフェン1モル当たり亜硝酸ナトリウム1.5〜5モル程度であり、好ましくは1. 5〜2.5モル程度である。 【0020】本発明の反応では、通常酸を加える。 加える酸としては、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸などの鉱酸を例示でき、加える酸の量は例えば塩酸の場合、2− アミノチオフェン1モル当たり濃塩酸1000〜150 0ml程度である。 反応溶媒としては、水、酢酸またはこれらの混合溶媒などを使用することができ、ジアゾ化剤として亜硝酸ナトリウムを用いた場合の反応溶媒としては水を用いるのが好ましい。 単離方法としては、反応終了後溶液を冷却または塩析するだけで高純度のジアミノアゾチオフェン(I)が得られる。 【0021】上記反応において、反応時間は1.5〜4 時間程度、好ましくは2〜3時間程度であり、反応温度は−5〜6℃程度、好ましくは0〜5℃程度である。 【0022】 【発明の効果】本発明により得られるジアミノアゾチオフェン(I)は、農薬、医薬および染料の中間体として有用である。 【0023】また、本発明のジアミノアゾチオフェン(I)は、λ maxが487nmで鮮やかな赤色を呈し、 色材としても優れている。 【0024】さらに、本発明のジアミノアゾチオフェン(I)を重合して得られるフィルムは、可逆的に酸化反応を行う性質があり、本発明のジアミノアゾチオフェン(I)は、導電性高分子原料としても有用である。 【0025】 【実施例】以下、本発明を実施例および比較例を用いてより詳細に説明する。 【0026】 【実施例1】 5,5´−ジアミノ−2, 2´−アゾチオフェン(I ) の合成不活性ガス導入管、攪拌装置および冷却管を備えた3ツ口フラスコに、アルゴンガスを流しながら2−アミノチオフェンの錫錯体4.0g(7.6mmol)、水40 ccおよび35%塩酸20ccを加え、均一になるまで室温で攪拌した。 この溶液の温度を約3℃に保ちながら、亜硝酸ナトリウム1.26g(18.5mmol) を水56ccに溶かした溶液を15分かけて滴下した。 30分間攪拌した後塩化亜鉛1.24g(9.0mmo l)を加え、さらに2時間反応させた。 反応液を吸引濾過し、濾液をドライアイス−メタノールで冷却し、1時間静置して、析出した沈殿を濾取し、目的とするジアミノアゾチオフェン(I)を二塩酸塩として1.00g得た。 濾液を塩化ナトリウムで塩析することにより、さらに0.36gの目的物の二塩酸塩を得た。 これらを合わせた収率は、61%であった。 【0027】得られたジアミノアゾチオフェン(I)の元素分析およびその他のスペクトルデータの結果を以下に示す。 【0028】 (1)元素分析(分子式:C 8 H 10 N 4 S 2 Cl 2 ) 計算値(%) C:32.2, H:3.4, N:1 8.8 実測値(%) C:31.7, H:3.4, N:2 0.1 (2) 1 H−NMR(CD 3 OD)δ(ppm): 7.52(2H,d,H3及びH3´), 7.95(2H,d,H4及びH4´) (3) 13 C−NMR(CD 3 OD)δ(ppm): 133(d),149.5(d),154(s),18 8(s) (4)IR(KBr)ν max :1605,1413,1 307 (5)UV(溶媒 水)λ max (nm):321,48 9 なお、上記のデータは、以下の測定機器を用いて測定した。 【0029】 1 H−NMR:JNM−GX270型(2 70MHz、JEOL社製) 13 C−NMR:JNM−GX270型(270MHz、 JEOL社製) IR:20S×C型(Nicolet社製) UV:U−3140型(株式会社日立製作所製) また、ジアミノアゾチオフェン(I)の錫錯体の紫外(UV)、赤外(IR)、 1 H−NMRおよび13 C−N MRスペクトルのデータを図1〜図5に各々示す。 【0030】 【実施例2】塩化亜鉛1.24g(9.0mmol)の代わりに四塩化錫2.34g(9.0mmol)を加える以外は実施例1と同様にして、目的とするジアミノアゾチオフェン(I)を1.63g(収率72%)得た。 【0031】得られたジアミノアゾチオフェン(I)のスペクトルデータは、実施例1で得られたものと同様であった。 【図面の簡単な説明】 【図1】ジアミノアゾチオフェン(I)の塩酸塩の赤外吸収スペクトルを示す。 【図2】ジアミノアゾチオフェン(I)の塩酸塩の紫外可視吸収スペクトルを示す。 【図3】ジアミノアゾチオフェン(I)の塩酸塩の1 H −NMRスペクトルを示す。 【図4】ジアミノアゾチオフェン(I)の塩酸塩の13 C −NMRスペクトル(ノイズ・デカップリング)を示す。 【図5】ジアミノアゾチオフェン(I)の塩酸塩の13 C −NMRスペクトル(オフレゾナンス・デカップリング)を示す。 フロントページの続き (72)発明者 関 建司 大阪府大阪市中央区平野町四丁目1番2号 大阪瓦斯株式会社内 |