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金属複合酸化物とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、それを用いたリチウムイオン二次電池

阅读:368发布:2020-05-11

专利汇可以提供金属複合酸化物とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、それを用いたリチウムイオン二次電池专利检索,专利查询,专利分析的服务。并且【課題】 タングステンの歩留まりが良好な金属複合 水 酸化 物の製造方法を提供する。 【解決手段】 反応槽に前記金属元素を含む第1の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体とを供給し、前記反応槽内の反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行う、第1の晶析工程と、反応槽に前記金属元素を含み、かつ、前記第1の原料水溶液よりもタングステンを多く含む第2の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体とを供給し、前記反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行い、タングステン濃縮層を形成する、第2の晶析工程と、を備え、第1及び第2の晶析工程の粒子成長において、酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気、及び、前記非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気のいずれか一方の雰囲気から他方の雰囲気へ、反応雰囲気を切り替えることを2回以上行い、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を反応槽へ供給する時間が、第2の原料水溶液を反応槽へ供給する時間全体に対して、50%以上である、金属複合水酸化物の製造方法。 【選択図】図1,下面是金属複合酸化物とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、それを用いたリチウムイオン二次電池专利的具体信息内容。

ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、かつ、それぞれの金属元素の物質量比が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0 反応槽に前記金属元素を含む第1の原料溶液と、アンモニウムイオン供給体とを供給し、前記反応槽内の反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行う、第1の晶析工程と、 反応槽に前記金属元素を含み、かつ、前記第1の原料水溶液よりもタングステンを多く含む第2の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体とを供給し、前記反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行い、タングステン濃縮層を形成する、第2の晶析工程と、を備え、 前記第1の晶析工程と前記第2の晶析工程とをこの順で、1回以上行い、 1回目の前記第1の晶析工程は、核生成を行う核生成工程と、粒子成長を行う粒子成長工程とを備え、前記第2の晶析工程は、前記粒子成長工程に引き続き、粒子成長を行うことを含み、 前記第1及び第2の晶析工程の粒子成長において、酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気、及び、前記非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気のいずれか一方の雰囲気から他方の雰囲気へ、反応雰囲気を切り替えることを2回以上行い、 前記非酸化性雰囲気における前記第2の原料水溶液を反応槽へ供給する時間が、前記第2の原料水溶液を反応槽へ供給する時間全体に対して、50%以上である、 金属複合水酸化物の製造方法。前記第1の晶析工程における核生成は、前記非酸化性雰囲気で行い、 前記第1及び第2の晶析工程における粒子成長は、前記反応水溶液のpHを、前記核生成工程における前記反応水溶液のpH値より低くなるように調整し、かつ、前記非酸化性雰囲気から前記酸化性雰囲気への雰囲気の切り替えを2回以上行う、請求項1に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記非酸化性雰囲気から前記酸化性雰囲気への反応雰囲気の切り替えを4回行う、請求項1又は請求項2に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記金属複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は、前記二次粒子の中心から表面に向かって、前記一次粒子が密に配置された中心部と、前記一次粒子が前記中心部よりも疎に配置された空隙部と、前記一次粒子が密に配置された中実部とを含む、多層構造を有し、 前記金属複合水酸化物のタップ密度が0.75g/cm3以上1.35g/cm3以下である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記第2の晶析工程は、前記タングステン濃縮層を、前記金属複合水酸化物の表面から中心部に向かう方向において、厚さを100nm以下となるように形成することを含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記第2の晶析工程における第2の原料水溶液の添加は、前記第1及び第2の晶析工程において、粒子成長が行われる時間全体に対して、30%以上95%以下経過した時点で行う、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記第2の原料水溶液は、前記第1の原料水溶液と、タングステンを含む水溶液とを含み、前記第2の原料水溶液の供給は、前記第1の原料水溶液と、タングステンを含む水溶液とを別々に前記反応水溶液に供給して行う、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記タングステンを含む水溶液中のタングステン濃度は、前記タングステンを含む水溶液の全体に対して、18質量%以上である、請求項7に記載の金属複合水酸化物の製造方法。前記反応槽へのタングステンの供給量に対して、前記金属複合水酸化物に含まれるタングステンの含有量が70モル%以上である、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の金属複合水酸化物の製造方法。ニッケル、マンガン、及び、タングステン、並びに、任意にコバルト、及び、元素Mを含み、かつ、それぞれの金属元素の物質量比が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0 複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子の表層にタングステン濃縮層を有し、 前記二次粒子は、前記二次粒子の中心から表面に向かって、前記一次粒子が密に配置された中心部と、前記一次粒子が前記中心部よりも疎に配置された空隙部と、前記一次粒子が密に配置された中実部とを含む、多層構造を有し、 タップ密度が0.75g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、かつ、 タングステンが、前記空隙部より、前記中実部に高濃度で含有される、 金属複合水酸化物。前記タングステン濃縮層の厚みが100nm以下である、請求項10に記載の金属複合水酸化物。前記複合水酸化物の平均粒径が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、粒度分布の広がりを示す指標である[(d90−d10)/平均粒径]が0.65以下である、請求項10または請求項11に記載の金属複合水酸化物。請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法により得られる金属複合水酸化物及び前記金属複合水酸化物を熱処理して得られる金属複合酸化物の少なくとも一方と、リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る工程と、 前記リチウム混合物を焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る工程と、を備える、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。リチウム、ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、それぞれの金属元素の物質量比が、Li:Ni:Mn:Co:W:M=1+u:x:y:z:a:b(x+y+z=1、−0.05≦u≦0.50、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0 前記リチウム金属複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、 前記二次粒子は、前記二次粒子の中心から表面に向かって、前記一次粒子が密に配置された中心部と、前記一次粒子が前記中心部よりも疎に配置された空隙部と、前記一次粒子が密に配置された実質部とを少なくとも含む、多層構造を有し、 前記二次粒子の表面又は内部に存在する一次粒子の表層、及び、前記一次粒子間の粒界に、タングステン及びリチウムを含む化合物が濃縮されて存在し、 タップ密度が1g/cm3以上2g/cm3以下であり、かつ、 BET比表面積が1.45m2/g以上5.4m2/g以下である、 リチウムイオン二次電池用正極活物質。粉末X線回折測定によって得られた(003)面の結晶子径が110nm以上である、請求項14に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項14又は請求項15に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられる、リチウムイオン二次電池。

说明书全文

本発明は、金属複合酸化物とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、それを用いたリチウムイオン二次電池に関する。

近年、スマートフォンやタブレットPCなどの小型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電池式電気自動車などの車両駆動用電源として、高出の二次電池の開発が強く望まれている。

このような要求を満たす二次電池として、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。

リチウムイオン二次電池のうち、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として、現在、研究開発が盛んに行われており、一部では実用化も進んでいる。

このようなリチウムイオン二次電池の正極活物質として、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)などのリチウム金属複合酸化物が提案されている。

ところで、リチウムイオン二次電池の出力特性をより向上させるため、正極活物質の比表面積を大きくする方法が一般的に知られている。正極活物質の比表面積を大きくした場合、正極活物質を二次電池に組み込んだ際に電解液との反応面積を十分に確保することができる。そこで、正極活物質の粒子構造を制御することにより、出力特性を向上させる技術がいくつか提案されている。

例えば、特許文献1〜3では、二段階に分けて行う晶析工程により得られた複合水酸化物を前駆体として、正極活物質を製造する方法が提案されている。これらの特許文献に記載される正極活物質は、小粒径で粒度分布が狭く、粒子内部に中空構造又は空間部を有することにより、高い比表面積を有し、出力特性に優れるとされている。しかしながら、例えば、ハイブリット自動車などの車両駆動用電源としては、より高い出力特性を有する正極活物質が要求されている。

一方、より反応抵抗を低減して、より高い出力特性を有する正極活物質を実現する手段として、正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物への異種元素の添加が検討されている。このような異種元素として、例えば、Mo、Nb、W、Taなどの高価数を取ることのできる遷移金属が提案されている。

例えば、特許文献4では、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、焼成時の粒成長や焼結を抑制する添加剤の少なくとも1種以上を、主成分原料中の遷移金属元素の合計モル量に対して0.01モル%以上、2モル%未満の割合で添加した後、焼成されて得られるリチウム遷移金属系化合物粉体が記載されている。また、上記添加剤が、Mo、W、Nb、Ta、及びReから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含有する酸化物であり、一次粒子の表面部分のLi及び前記添加元素以外の金属元素の合計に対する該添加元素の合計の原子数比が、粒子全体の該原子数比の5倍以上であることが記載されている。

また、特許文献5では、リチウム金属複合酸化物粉末に、特定割合のタングステン化合物を溶解させたアルカリ水溶液を添加して混合することにより、この粉末の一次粒子の表面にWを分散させる工程と、混合したタングステン化合物を溶解させたアルカリ水溶液とリチウム金属複合酸化物粉末を100〜700℃の範囲で熱処理することによりLi2WO4、Li4WO5、Li6W2O9のいずれかで表せられるタングステン酸リチウムを含む微粒子を、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面もしくは該粉末の一次粒子の表面に形成する製造方法が提案されている。

また、特許文献6では、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質であって、一次粒子及び一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、電解液が浸透可能な空隙を二次粒子の表面近傍及び内部に有するとともに、リチウム金属複合酸化物の表面又は粒界にタングステンが濃縮されたリチウムを含む層厚が20nm以下の化合物層を有する正極活物質が提案されている。そして、該粉末を得るための好ましい方法としては複合水酸化物あるいは複合酸化物とリチウム化合物を混合する際にタングステン化合物を合わせて混合し、焼成することでリチウム金属複合酸化物を得ることができるが、当該方法ではタングステン化合物の粒径がマンガン複合水酸化物、あるいはマンガン複合水酸化物の平均粒径に対して1/5倍以下にすることが好ましいとされている。

また、特許文献7では、晶析反応において、pH制御により核生成工程と粒子成長段階を分離して、複合水酸化物粒子を製造する工程と、得られた複合水酸化物粒子の表面にタングステンを含む被覆物を形成する被覆工程とを備えた遷移金属複合水酸化物の製造方法、及び、その水酸化物を前駆体として用いた正極活物質が提案されている。

また、特許文献8には、集電体の表面にLix1Nia1Mnb1Coc1O2で表される第一の正極活物質の層が付設され、前記第一の正極活物質の表面にLix2Nia2Mnb2Coc2MdO2(MはMo、W、及びNb)で表される第二の正極活物質の層が付設されたリチウム二次電池用正極が提案されている。

また、特許文献9には、ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む溶液と、錯イオン形成剤と塩基性溶液と、を別々に且つ同時に一つの反応容器に供給することにより、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得る第一晶析工程と、前記第一晶析工程後さらに、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む溶液と、錯イオン形成剤と、塩基性溶液と、元素Mを含む溶液と、を別々に且つ同時に供給することにより、前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子にニッケル、コバルト、マンガン及び元素M(Al、Mg、Ca、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe,Cu、Si、Sn、Bi、Ga、Y、Sm、Er、Ce、Nd、La、Cd、Luからなる群より選択される少なくとも一種以上元素)を含む複合水酸化物粒子を晶析する第二晶析工程を含み、前記第一晶析工程において供給するニッケル、コバルト及びマンガンの合計のモルをMOL(1)、前記第二晶析工程において供給するニッケル、コバルト及びマンガンの合計のモルをMOL(2)としたとき、0.30≦MOL(1)/{MOL(1)+MOL(2)}<0.95である製造方法が提案されている。

特開2012−246199号公報

特開2013−147416号公報

特開2016−094307号公報

特開2008−305777号公報

特開2013−125732号公報

特開2014−197556号公報

特開2012−252844号公報

特開2012−079608号公報

特開2016−210674号公報

しかし、特許文献4に記載される方法では、Mo,Ta,Wなどの添加元素の一部が、結晶中において、層状に配置されているNiと置換してしまい、電池容量やサイクル特性などの電池特性が悪化してしまう問題があった。

また、特許文献5に記載の製造方法で作製されたリチウム金属複合酸化物は、出力特性が向上されるものの、粒子表面に形成されるタングステン微粒子の厚みが均一でない場合、サイクル特性が十分でないことがあった。

また、特許文献6に記載の方法は、ナノオーダーのタングステン化合物を得るためにはタングステン化合物を一度粉砕する必要があるため工業的には適してはおらず、また、扱いが容易ではない。また、得られる微粒子の粒径に不均一が生じることで化合物層の厚さにはバラつきが出来るため、反応抵抗の低減が不十分であり出力特性の向上の効果は限定的である。また、該粉末を得るためにタングステンをマンガン複合水酸化物に添加元素として含有させることも記載されているが、当該方法ではタングステンが濃縮した化合物層をナノオーダーで形成させることは難しい。

また、特許文献7に記載の方法は、タングステンを被覆させる工程が追加されるため、ステップ数が増加し、工業的には好ましくない。また、当該被覆工程においてpHを制御することでタングステンを析出させているが、制御するpHの変動により被覆層の厚さは均一ではないため、均一に被覆するのは困難である。また、不均一にタングステンが被覆された複合水酸化物とリチウムとを混合して得られた複合酸化物を用いた場合においては抵抗となるため、かえって出力は低下する問題があった。

また、特許文献8に記載の方法で構成された正極活物質は、第一の正極活物質と第二の正極活物質とが異相であることから、二次電池に用いられた際、充放電反応時の構造変化に乖離があり、充放電を繰り返すうちにクラックが発生し、サイクル特性が悪化するという問題があった。

また、特許文献9に記載の方法で得られた複合水酸化物及び正極活物質は、半径方向への深さの割合が5%以上50%未満に存在する第二層に、SEM—EDXのスペクトルによる元素Mのピークを有することが記載されており、正極活物質中、タングステンを含む元素Mが二次粒子の表層より内部に含まれるため、結晶性が低下して、二次電池に用いられた際、電池特性が低下する可能性がある。

また、本発明者らは、鋭意検討した結果、晶析工程において、タングステンを含む原料水溶液を供給した場合、タングステンの供給量(仕込み量)に対して、得られる金属複合水酸化物(前駆体)に含まれるタングステン量が十分でない(タングステンの歩留まりが十分でない)ことがあるという問題を見出した。

本発明は係る問題点に鑑み、二次電池の正極に用いた場合、反応抵抗(正極抵抗)が低減され、より高出力であり、かつ、結晶性の高い正極活物質、及び、その前駆体である金属複合水酸化物とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の金属複合水酸化物の製造方法は、タングステンの歩留まりが向上した金属複合水酸化物を製造する方法を提供することを目的とする。

本発明の第1の実施形態では、ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、かつ、それぞれの金属元素の物質量比が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

また、第1の晶析工程における核生成は、非酸化性雰囲気で行い、第1及び第2の晶析工程における粒子成長は、反応水溶液のpHを、核生成工程における反応水溶液のpH値より低くなるように調整し、かつ、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気への雰囲気の切り替えを2回以上行う、ことが好ましい。また、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気への反応雰囲気の切り替えを4回行う、ことが好ましい。また、金属複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、二次粒子は、二次粒子の中心から表面に向かって、一次粒子が密に配置された中心部と、一次粒子が中心部よりも疎に配置された空隙部と、一次粒子が密に配置された中実部とを含む、多層構造を有し、金属複合水酸化物のタップ密度が0.75g/cm3以上1.35g/cm3以下である、ことが好ましい。また、第2の晶析工程は、タングステン濃縮層を、金属複合水酸化物の表面から中心部に向かう方向において、厚さを100nm以下となるように形成することを含む、ことが好ましい。また、第2の晶析工程における第2の原料水溶液の添加は、第1及び第2の晶析工程において、粒子成長が行われる時間全体に対して、30%以上95%以下経過した時点で行う、ことが好ましい。また、第2の原料水溶液は、第1の原料水溶液と、タングステンを含む水溶液とを含み、第2の原料水溶液の供給は、第1の原料水溶液と、タングステンを含む水溶液とを別々に反応水溶液に供給して行う、ことが好ましい。また、タングステンを含む水溶液中のタングステン濃度は、タングステンを含む水溶液の全体に対して、18質量%以上である、ことが好ましい。また、反応槽へのタングステンの供給量に対して、金属複合水酸化物に含まれるタングステンの含有量が70モル%以上である、ことが好ましい。

本発明の第2の実施形態では、ニッケル、マンガン、及び、タングステン、並びに、任意にコバルト、及び、元素Mを含み、かつ、それぞれの金属元素の物質量比が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

3以上1.35g/cm

3以下であり、かつ、タングステンが、空隙部より、実質部に高濃度で含有される、金属複合水酸化物が提供される。

また、タングステン濃縮層の厚みが100nm以下であることが好ましい。また、金属複合水酸化物の平均粒径が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65以下であることが好ましい。

本発明の第3の実施形態では、上記製造方法により得られる金属複合水酸化物及び前記金属複合水酸化物を熱処理して得られる金属複合酸化物の少なくとも一方と、リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る工程と、リチウム混合物を焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る工程と、を備える、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。

本発明の第4の実施形態では、リチウム、ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、それぞれの金属元素の物質量比が、Li:Ni:Mn:Co:W:M=1+u:x:y:z:a:b(x+y+z=1、−0.05≦u≦0.50、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

3以上2g/cm

3以下であり、かつ、BET比表面積が1.45m

2/g以上5.4m

2/g以下である、非水電解質二次電池用正極活物質が提供される。

また、上記正極活物質は、粉末X線回折測定によって得られた(003)面の結晶子径が110nm以上であることが好ましい。

本発明の第5の実施形態では、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備え、正極の正極材料として、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられる、リチウムイオン二次電池が提供される。

本発明によれば、二次電池の正極に用いられた場合、反応抵抗が低減され、高出力であり、かつ、結晶性の高い正極活物質、及び、その前駆体である金属複合水酸化物とその製造方法を提供することができる。また、本発明の金属複合水酸化物の製造方法は、タングステンの歩留まりが良好な金属複合水酸化物を製造する方法を提供することができる。また、本発明によれば、このような正極活物質を含む二次電池を提供することができる。さらに、本発明によれば、このような正極活物質および金属複合水酸化物を、工業的規模で、容易に製造可能な方法を提供することができる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。

図1は、金属複合水酸化物の製造方法の一例を示す図である。

図2は、金属複合水酸化物の製造方法の一例を示す図である。

図3は、金属複合水酸化物の製造方法の一例を示す図である。

図4(A)〜図4(B)は、金属複合水酸化物の一例を示す模式図であり、図4(C)は、金属複合水酸化物の断面SEM画像の一例である。

図5(A)、図5(B)は、リチウム金属複合酸化物の一例を示す模式図である。

図6は、リチウム金属複合酸化物の製造方法の一例を示す図である。

図7は、タングステン濃縮層を有する金属複合水酸化物のEDXを用いた面分析によるWの分布の一例を示す図面代用写真(上図)と、図面代用写真中のタングステン濃縮層を説明する説明図(下図)である。

図8は、実施例で用いた評価用コイン電池を示す模式図である。

以下、図面を参照して、実施形態に係る金属複合水酸化物とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、リチウムイオン二次電池について説明する。なお、本発明は以下説明する実施形態に限定されるものではない。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。

1.金属複合水酸化物の製造方法 本実施形態に係る製造方法は、ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、かつ、それぞれの金属元素の物質量比(モル比)が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

図1〜3に示すように、本実施形態に係る製造方法により得られる金属複合水酸化物10(二次粒子2)は、その表層(表面側)にタングステンが濃縮したタングステン濃縮層3を有する。また、金属複合水酸化物10は、複数の一次粒子1が凝集した二次粒子2を含む(図4(C)参照)。金属複合水酸化物10中にタングステン濃縮層3が存在することにより、二次電池の正極に用いた際、反応抵抗(正極抵抗)が非常に低減された、二次電池を得ることができる。また、本実施形態に係る製造方法により、このような金属複合水酸化物10を工業的規模で容易に製造することができる。

また、後述するように、本実施形態に係る製造方法は、第2の晶析工程(ステップS20)において、タングステンを非酸化性雰囲気下でより多く添加することによって、仕込み量分(供給した量分)のタングステンを二次粒子2(金属複合水酸化物10)の内部に効率よく析出させることが可能となり、タングステンの歩留まりが大幅に向上し、工業的規模の生産により適する。なお、第1の晶析工程(ステップS10)と第2の晶析工程(ステップS20)とは、この順で、1回のみ行ってもよく、2回以上繰り返し行ってもよい。以下、各工程について説明する。

[晶析反応] 図1に示すように、金属複合水酸化物10の製造方法では、反応槽内に、ニッケル(Ni)、及び、マンガン(Mn)と、任意に、コバルト(Co)、及び/又は、金属元素(M)とを含む第1の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、を供給し、反応槽内の反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行う、第1の晶析工程(ステップS10)と、反応槽に、ニッケル(Ni)、及び、マンガン(Mn)と、任意に、コバルト(Co)、及び/又は、金属元素(M)とを含み、かつ、第1の原料水溶液よりもタングステンを多く含む第2の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体と、を供給し、反応水溶液のpHを調整して晶析反応を行い、タングステン濃縮層を形成する、第2の晶析工程(ステップS20)と、を備える。

第1の晶析工程(ステップS10)により得られる粒子(以下、「第1の金属複合水酸化物粒子」ともいう。)は、タングステンを含まない、又は、タングステンの含有量が低い一次粒子で構成される。よって、第1の金属複合水酸化物粒子に由来する部位を有する金属複合水酸化物10を前駆体として用いたリチウム金属複合酸化物20(図5、6参照)は、高い結晶性を得ることができる。また、第2の晶析工程(ステップS20)により形成されるタングステン濃縮層3に由来するタングステン及びリチウムを含む化合物23が、リチウム金属複合酸化物20中の一次粒子21の表面、又は、一次粒子21間の粒界に存在することで出力特性に優れる。

図1に示すように、第1の晶析工程(ステップS10)は、さらに、主として核生成を行う核生成工程(ステップS11)と、主として粒子成長を行う粒子成長工程(ステップS12)とを含むことが好ましい。核生成工程(ステップS11)と粒子成長工程(ステップS12)とは、例えば、反応水溶液のpHを制御することにより、明確に分離することができ、粒度分布が狭く均一な粒子径を有する金属複合水酸化物10を得ることができる。なお、第2の晶析工程(ステップS20)は、粒子成長工程(ステップS12)に引き続き、主として粒子成長を行う工程である。

なお、このような2段階の晶析工程を含むニッケル複合水酸化物の製造方法については、例えば、特許文献2、特許文献3などに開示されており、詳細な条件についてはこれらの文献を参照して条件を適宜、調整することができる。また、本実施形態に係る金属複合水酸化物の製造方法は、後述するように、公知の晶析方法の条件を用いて、所望の膜厚を有するタングステン濃縮層3を形成することができるため、工業的規模の生産に容易に適用することができる。

以下、図1を参照して、核生成工程(ステップS11)と粒子成長工程(ステップS12)とを含む製造方法の一例について、説明する。なお、以下の説明は、金属複合水酸化物10の製造方法の一例であって、この方法に限定するものではない。

(1)第1の晶析工程(ステップS10) (核生成工程) まず、第1の原料水溶液とアンモニウムイオン供給体とを供給して、反応槽内の反応水溶液(核生成用水溶液)のpHを所定の範囲に制御して、核生成を行う(ステップS11)。第1の原料水溶液は、例えば、原料となる遷移金属を含む化合物を、水に溶解して調整される。なお、以下に説明する金属複合水酸化物の製造方法では、各工程で晶析により形成される金属複合水酸化物の組成比は、原料水溶液中の各金属の組成比と同様であるため、原料水溶液中の各金属の組成比は、目的とする金属複合水酸化物の遷移金属の組成比とすることができる。また、第1の原料水溶液は、少量のタングステンを含んでもよいし、タングステンを含まなくてもよい。

まず、反応槽内に、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体とを含む水溶液を供給および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が12.0以上14.0以下、アンモニウムイオン濃度が3g/L以上25g/L以下である反応前水溶液を調製することが好ましい。

反応槽内の反応雰囲気については、目的とする二次粒子2の構造により適宜調整することができる。二次粒子2の中心部を中実構造とする場合(一次粒子1を密に配置する場合)、非酸化性雰囲気とすることが好ましい。一方、二次粒子2の中心部を中空構造とする場合(一次粒子1を疎に配置する場合、酸化性雰囲気とすることが好ましい。雰囲気の制御は、例えば、窒素ガスを導入して調整する。なお、反応前水溶液のpH値はpH計により、アンモニウムイオン濃度はイオンメータにより測定することができる。

次いで、反応槽内の反応前水溶液を撹拌しながら、第1の原料水溶液を反応槽内に供給して、反応水溶液(核生用成水溶液)が形成される。なお、核生成工程(ステップS11)では、反応水溶液中の核生成に伴い、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、反応槽内液のpH値が液温25℃基準でpH12.0以上14.0以下の範囲に、アンモニウムイオンの濃度が3g/L以上25g/L以下の範囲に維持されるように制御することが好ましい。反応水溶液(核生成用水溶液)のpH値が上記範囲にある場合、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。

反応水溶液(核生成用水溶液)の液温25℃基準で測定されるpH値は、好ましくは12.0以上14.0以下、より好ましくは12.3以上13.5以下、さらに好ましくは12.5以上13.3以下の範囲である。pHが上記範囲である場合、核の成長を抑制し、核生成を優先させることができ、核生成工程で生成する核を均質かつ粒度分布の狭いものとすることができる。一方、pH値が12.0未満である場合、核生成とともに核(粒子)の成長が進行するため、得られる金属複合水酸化物の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。また、pH値が14.0を超える場合、生成する核が微細になりすぎて、反応水溶液(核生成用水溶液)がゲル化することがある。

なお、反応水溶液(核生成用水溶液)中のpH値の変動幅は、±0.2以内とすることが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合、核生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い金属複合水酸化物を得ることが困難となる。

反応水溶液(核生成用水溶液)のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L以上25g/L以下、より好ましくは5g/L以上20g/L以下の範囲内に調整される。反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満である場合、金属イオンの溶解度を一定に保持することができなかったり、反応水溶液がゲル化しやすくなったりして、形状や粒径の整った金属複合水酸化物を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超える場合、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となることがある。

なお、晶析反応中にアンモニウムイオン濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な金属複合水酸化物が形成されなくなる。このため、核生成工程(ステップS11)と粒子成長工程(ステップS12)を通じて、アンモニウムイオン濃度の変動幅を一定の範囲に制御することが好ましく、具体的には、±5g/Lの変動幅に制御することが好ましい。

核生成工程(ステップS11)では、反応水溶液(核生成用水溶液)に、第1の原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することにより、連続して新しい核の生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定量の核が生成した時点で、核生成工程(ステップS11)を終了する。この際、核の生成量は、核生成用水溶液に供給した原料水溶液に含まれる金属化合物の量から判断することができる。

核生成工程(ステップS11)における核の生成量は、特に限定されないが、粒度分布の狭い金属複合水酸化物を得るという観点から、晶析工程(第1の晶析工程及び第2の晶析工程を含む)を通じて供給する原料水溶液に含まれる金属化合物中の金属元素に対して、0.1原子%以上2原子%以下とすることが好ましく、0.1原子%以上1.5原子%以下とすることがより好ましい。

また、核生成工程において、反応水溶液(核生用成水溶液)の温度の上限は特に限定されないが、例えば60℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましい。反応水溶液(核生用成水溶液)の温度が60℃を超えると、一次結晶に歪が生じタップ密度が低くなり始める恐れがあるからである。

(粒子成長工程) 次いで、pHを特定の範囲に調整した反応水溶液(粒子成長用水溶液)中で粒子成長を行う(ステップS12)。反応水溶液(粒子成長用水溶液)は、生成された核を含む反応水溶液に、第1の原料水溶液と、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを供給して形成される。反応水溶液(粒子成長用水溶液)は、液温25℃基準で測定するpH値が10.5以上12.0以下、アンモニウムイオン濃度が3g/L以上25g/L以下に調整されることが好ましい。これにより、反応水溶液(粒子成長用水溶液)中で、核生成よりも、粒子成長が優位に行われる。

反応槽内の反応雰囲気については、一次粒子1の疎密が調整された多層構造を有する二次粒子2を主として含有する金属複合水酸化物10を得る場合、酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気と、この非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気とを、適宜切り替えながら行うことが好ましい。雰囲気の制御は、例えば、窒素ガスを導入して調整する。

例えば、核生成工程(ステップS11)終了後、反応槽内の核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5以上12.0以下に調整し、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を形成する。pH値の調整は、アルカリ水溶液のみ供給を停止することにより行うことができるが、粒径の均一性を高めるという観点から、一旦、すべての水溶液の供給を停止してpH値を調整することが好ましい。また、pH値の調整は、反応水溶液(核生成用水溶液)に、原料となる遷移金属を含む化合物を構成する酸と同種の無機酸、例えば、原料として遷移金属の硫酸塩を使用する場合には、硫酸を供給することで行ってもよい。

次に、反応水溶液(粒子成長用水溶液)を撹拌しながら、第1の原料水溶液の供給を再開する。この際、粒子成長用水溶液のpH値は上述した範囲にあるため、新たな核はほとんど生成せず、核(粒子)成長が進行し、所定の粒径を有する第1の金属複合水酸化物粒子を形成することができる。なお、粒子成長工程(ステップS12)においても、粒子成長に伴い、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度が変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、pH値およびアンモニウムイオン濃度を上記範囲に維持することが必要となる。

反応水溶液(粒子成長用水溶液)のpH値は、液温25℃基準で、10.5以上12.0以下、好ましくは11.0以上12.0以下、より好ましくは11.5以上11.9以下の範囲に制御する。pHが上記範囲である場合、新たな核の生成が抑制され、粒子成長を優先させることができ、得られる金属複合水酸化物を均質かつ粒度分布が狭いものとすることができる。一方、pH値が10.5未満である場合、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が悪化することがある。また、pH値が12.0を超える場合、粒子成長工程中の核生成量が増加し、得られる金属複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化することがある。

なお、反応水溶液(粒子成長水溶液)中のpH値の変動幅は、±0.2以内とすることが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合、核生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い金属複合水酸化物を得ることが困難となる。

また、粒子成長工程(ステップS12)のpH値は、核生成工程(ステップS11)のpH値より低い値に調整することが好ましく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程(ステップS12)のpH値を、核生成工程(ステップS11)のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、0.8以上低くすることがより好ましい。

例えば、反応水溶液(核生成工程及び/又は粒子成長工程)のpH値が12.0である場合、核生成と粒子成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程または粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。すなわち、核生成工程のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程のpH値を12.0とした場合、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先して起こり、粒径分布が狭い金属複合水酸化物粒子を得ることができる。一方、核生成工程のpH値を12.0とした場合、反応水溶液中に成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12.0より小さくすることで、生成した核が成長して良好な金属複合水酸化物粒子を得ることができる。

反応水溶液(粒子成長用水溶液)のアンモニウムイオン濃度は、上記反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニウムイオン濃度の好ましい範囲と同様とすることができる。また、アンモニウムイオン濃度の変動幅も上記反応水溶液(核生成用水溶液)中の好ましい範囲と同様とすることができる。

粒子成長工程(ステップS12)、及び、後述する第2の晶析工程(ステップS20)の反応雰囲気は、酸素濃度を調整することにより、適宜、切り替えてもよく、酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気、及び、この非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気のいずれか一方の雰囲気から他方の雰囲気へ、反応雰囲気を切り替えることを2回以上行ってもよい。反応雰囲気を切り替えることにより、得られる二次粒子2において、一次粒子1の疎密を所望の範囲に制御することができる。例えば、粒子成長工程(ステップS12)、及び、第2の晶析工程(ステップS20)における反応雰囲気の切り替えは、2回行ってもよく、3回行ってもよく、4回以上行ってもよい。反応雰囲気を切り替えることにより、一次粒子1の疎密が制御された二次粒子2を得ることができる。

例えば、二次粒子の中心部を中実構造とする場合、核生成工程(ステップS11)において、非酸化性雰囲気下で粒子成長を行った後、酸化性雰囲気に切り替えて(切り替え1回目)、粒子成長を行い、さらに、非酸化性雰囲気に切り替えて(切り替え2回目)、粒子成長を行ってもよい(図4(A)参照)。また、後述するように、さらに、酸化性雰囲気に切り替えた後(切り替え3回目)、非酸化性雰囲気に切り替え(切り替え4回目)てもよい。

(2)第2の晶析工程 次いで、第1の金属複合水酸化物粒子を含む反応水溶液に、金属元素を含み、かつ、第1の原料水溶液よりタングステンを多く含む第2の原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体とを供給して、晶析反応を行い、タングステン濃縮層3を形成する(ステップS20)。

粒子成長は、複数の一次粒子1が凝集した二次粒子2を核にして成長していくため、第2の晶析工程(ステップS20)においては、粒子成長工程(ステップS12)から連続して、第1の原料水溶液よりタングステンを多く含むタングステンを多く含む第2の原料水溶液、及び、アンモニウムイオン供給体を含む反応水溶液に供給して、第2の晶析工程(ステップS20)を行うことができる。これにより、第1の晶析工程(ステップS10)により得られる粒子の外周部分にタングステン濃縮層3が形成される。

本実施形態の金属複合水酸化物の製造方法は、例えば、第2の原料水溶液を添加し始めるタイミング(すなわち、第2の晶析工程を開示するタイミング)を調整することで、第1の晶析工程(ステップS10)で得られる粒子の外周に形成されるタングステン濃縮層3の厚み、特性等を、容易に制御することができる。

本発明者らは、第2の晶析工程(ステップS20)において、タングステンを多く含む第2の原料水溶液を、非酸化性雰囲気下で反応水溶液に供給することにより、タングステンの歩留まりが非常に向上することを見出した。例えば、第2の原料水溶液を非酸化性雰囲気下でより多く反応水溶液に供給することによって、仕込み量分(供給した量分)のタングステンを金属複合水酸化物10の二次粒子2の内部に効率よく析出させることが可能となり、タングステンの歩留まりが大幅に向上し、生産性を向上させることができる。

例えば、タングステンの歩留まりをより向上させるという観点から、第2の晶析工程(ステップS20)において、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を反応槽へ供給する時間が、第2の原料水溶液を供給する時間全体に対して、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。

また、本実施形態に係る製造方法では、反応槽へのタングステンの供給量(仕込み量)に対する、最終的に得られる金属複合水酸化物10に含まれるタングステンの含有量(タングステンの歩留まり)が好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。

また、第2の晶析反応(ステップS20)は、第1の原料水溶液中の金属元素を、第1の晶析工程及び第2の晶析工程において添加される全金属量に対して、例えば、10質量%以上の反応槽へ供給した時点で、第2の原料水溶液の供給を行うことにより、開始することができる。これにより、第1の金属複合水酸化物粒子の表面にタングステン濃縮層を容易に形成することができる。

また、より結晶性が高く、二次電池の正極に用いられた場合、反応抵抗をより低減する正極活物質を得るという観点から、第1の原料水溶液中の金属元素を、第1の晶析工程及び第2の晶析工程において添加される全金属量に対して、好ましくは30質量%以上95質量%以下の範囲で反応槽へ供給した時点で、第2の原料水溶液の供給を行い、第2の晶析工程(ステップS20)を開始することができる。

第2の晶析工程(ステップS20)は、粒子成長工程(ステップS12)と同様に、粒子成長が行われる工程であるため、反応水溶液のpH、温度、アンモニウムイオン濃度や、反応槽内の雰囲気などは、粒子成長工程(ステップS12)と同様の条件とすることができる。粒子成長工程(ステップS12)と同様の条件で、連続して第2の晶析工程(ステップS20)を行うことにより、簡便に生産性高く、第1の金属複合水酸化物粒子の表面にタングステン濃縮層の形成を行うことができる。

また、第2の原料水溶液の供給は、タングステン以外の金属元素を含む原料水溶液と、タングステンを含む水溶液とを別々に準備して、それぞれを反応槽に供給して行ってもよい。タングステンを含む水溶液を別に供給することにより、より簡便に、かつ、均一にタングステン濃縮層を形成することができる。また、図1に示すように、第2の原料水溶液は、第1の原料水溶液と、タングステン(W)とを含む水溶液とを含み、それぞれの水溶液を別々に反応水溶液に供給してもよい。これにより、タングステンを含む水溶液の濃度や、タングステンを含む水溶液を反応槽へ供給する際の流速を変更することで、タングステンの濃縮層を均一に形成することができ、且つ、容易にタングステンの濃縮層の厚さを調節することが可能となる。

タングステンを含む水溶液は、例えば、タングステン化合物を水に溶かして調整することができる。用いられるタングステン化合物は、特に限定されず、リチウムを含まずに、タングステンを含む化合物を用いることができるが、好ましくはタングステン酸ナトリウムを用いることができる。

タングステンを含む水溶液のタングステン(W)濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1mol/l以上0.5mol/l以下、好ましくは0.2mol/l以上0.4mol/l以下である。また、タングステンを含む水溶液の添加流量は、特に限定されないが、例えば、5L/min以上20L/min以下、好ましくは10L/min以上15L/min以下である。

タングステン濃縮層の厚みは、タングステンを含む水溶液の濃度を調整したり、前記水溶液の添加流量を調整したりすることによっても、制御することができる。例えば、タングステンを含む水溶液の濃度及び添加流量を一定とした場合、タングステンを含む水溶液の添加開始の時点を調整することにより、形成されるタングステン濃縮層の厚みや濃度をより正確かつ容易に調整することができる。

図2、3は、本実施形態の製造方法の好適な一例を示す図である。以下、図2、3を参照して、第1の晶析工程(ステップS10)が、核生成工程(ステップS11)と、粒子成長工程(ステップS12)とを、分離して備え、かつ、上記粒子成長工程(ステップS12)と連続して、第2の原料水溶液を供給して第2の晶析工程(ステップS20)を行う場合における、反応雰囲気の切り替えのタイミング一例を示す。

図2は、第1の晶析工程(ステップS10)及び第2の晶析工程(ステップS20)の粒子成長において、反応雰囲気の切り替えを4回行った場合の一例を示す図である。このように反応雰囲気の切り替えを4回行うことにより、例えば、図4(B)に示すような、二次粒子2の中心から表面に向かって、一次粒子1が密に配置された中心部4、及び、一次粒子1が中心部4よりも疎に配置された空隙部5と、一次粒子1が密に配置された中実部6とを交互に2層含む、多層構造を有する二次粒子2(金属複合水酸化物10)を得ることができる。このような多孔構造を有する二次粒子2(金属複合水酸化物10)を用いて得られた正極活物質は、高い比表面積を有するため、二次電池の正極に用いた際、反応抵抗(正極抵抗)をより低減することができる。

また、図2において、第2の原料水溶液は、粒子成長工程(ステップS12)の開始時点から粒子成長の終了時点(晶析工程の終了時点)までの粒子成長が行われる時間全体に対して、75%経過した時点から粒子成長の終了時点まで、供給される。この場合、図2の下方に示すように、タングステン濃縮層3は、二次粒子2(金属複合水酸化物10)の表層(外周)に一層として形成される。なお、粒子成長の開始時点から終了時点までの全体の工程で、タングステン化合物の水溶液を添加した場合は、タングステン濃縮層3は形成されない。

図2において、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間は、粒子成長が行われる時間全体に対して20%であり、酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間は、粒子成長が行われる時間全体に対して5%である。よって、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間は、第2の原料水溶液を供給する時間全体に対して80%となる。

非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間が、第2の原料水溶液を供給する時間全体に対して50%以上である場合、金属複合水酸化物10における、タングステンの歩留まりが向上する(実施例4参照)。また、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間が、100%に近くなるほど、タングステンの歩留まりはより向上する。

タングステンを含む水溶液(第2の原料水溶液)の供給(第2の晶析工程:ステップS20)は、複数回に分けて行ってもよい。タングステンを含む水溶液(第2の原料水溶液)の供給を複数回行った場合、図3に示すように、二次粒子2の表層に形成されるタングステン濃縮層3以外に、さらに、内部にタングステン濃縮層3を形成することができる。例えば、二次粒子2の表層以外に、二次粒子2の内部にも、少なくとも一層のタングステン濃縮層3が形成される場合、金属複合水酸化物10を用いて得られる正極活物質を二次電池に用いた際、反応抵抗(正極抵抗)をより低減することができる。

図3は、図2と同様に、第1の晶析工程(ステップS10)及び第2の晶析工程(ステップS20)の粒子成長において、4回雰囲気の切り替えを行った場合の他の例を示す図である。図3においては、第1の晶析工程(ステップS10)と第2の晶析工程(ステップS20)とを複数回行っており、第2の原料水溶液の供給は、粒子成長が行われる時間全体に対して、40%経過した時点から60%経過した時点まで、及び、80%経過した時点から粒子成長の終了(100%)時点までの2回行っている。

図3では、非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間は、粒子成長が行われる時間全体に対して40%であり、酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間が、粒子成長が行われる時間全体に対して0%である。よって、図3における非酸化性雰囲気における第2の原料水溶液を供給する時間は、第2の原料水溶液を供給する時間全体に対して100%となる。

また、図3に示すように、タングステンを含む第2の原料水溶液の供給を、非酸化性雰囲気の時のみ、かつ、複数回(例、2回)に分けて行う場合、タングステンの歩留まりが非常に良好となり、かつ、金属複合水酸化物10を用いて得られる正極活物質を二次電池に用いた際、反応抵抗(正極抵抗)をより低減することができる(実施例1、2参照)。

なお、第2の原料水溶液の供給は、二次粒子2の表層にタングステン濃縮層3を好適に形成するという観点から、粒子成長全体おいて、最後に非酸化性雰囲気へ切り替えた時点から粒子成長が終了する時点まで、継続することが好ましい。

また、タングステンを含む水溶液(第2の原料水溶液)の供給は、第1及び第2の晶析工程における粒子成長の開始から終了までの時間全体に対して、例えば、10%以上経過した時点、好ましくは30%以上95%以下経過した時点から行うことができる。供給を開示する時間が上記範囲である場合、タングステン濃縮層3を容易に、生産性よく得ることができる。また、上記範囲内において、タングステンを含む水溶液の添加を開示する時点がより遅い場合、得られる正極活物質の結晶子径を大きくすることができる傾向がある。

また、第2の原料水溶液を供給する時間の下限は、粒子成長の開始から終了までの時間全体に対して、5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよい。また、第2の原料水溶液を供給する時間の上限は、粒子成長の開始から終了までの時間全体に対して、90%以下であってもよく、80%以下であってもよく、60%以下であってもよく、50%以下であってもよい。

以下、上記晶析工程に好ましく用いられる各原料、条件について、説明する。 (第1及び第2の原料水溶液) 第1の原料水溶液、及び、第2の原料水溶液は、ニッケル、及び、マンガンと、任意にコバルト、元素M、及び、タングステンを含む。また、第1の原料水溶液は、タングステンを含まなくてもよい。第2の晶析工程において、第2の原料水溶液として、第1の原料水溶液とタングステンを含む水溶液とを用いる場合、第1の原料水溶液中の金属元素の比率が、最終的に得られる金属複合水酸化物の組成比(タングステンを除く)となる。このため、第1の原料水溶液は、目的とする金属複合水酸化物の組成に応じて、各金属元素の含有量を適宜調整することができる。たとえば、上述した比(A)で表される金属複合水酸化物粒子を得ようとする場合、原料水溶液中の金属元素の比率を、Ni:Mn:Co:M=x:y:z:b(ただし、x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦b≦0.1)となるように調整することができる。なお、第1の晶析工程及び第2の晶析工程で用いられる第1の原料水溶液及び第2の原料水溶液の組成は、異なってもよい。この場合、それぞれの晶析工程で用いられる原料水溶液中の各金属元素の含有量の合計が、得られる金属複合水酸化物の組成比とすることができる。 第1の原料水溶液、及び、第2の原料水溶液の調整に用いられる金属元素(遷移金属)の化合物は、特に限定されないが、取扱いの容易性から、水溶性硝酸塩、硫酸塩および塩酸塩などを用いることが好ましく、コストやハロゲンの混入を防止する観点から、硫酸塩を好適に用いることが特に好ましい。

また、金属複合水酸化物中に元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素)を含有させる場合、元素Mを供給するための化合物としては、同様に水溶性の化合物が好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。

第1の原料水溶液、及び、第2の原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で、好ましくは1mol/L以上2.6mol/L以下、より好ましくは1.5mol/L以上2.2mol/L以下とする。原料水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。

なお、上述した金属化合物は、必ずしも1種類の原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合、全金属化合物の水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物の水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。

また、第1の原料水溶液、及び、第2の原料水溶液の供給量は、晶析工程の終了時点において、反応溶液(粒子成長水溶液)中の生成物(第2の金属複合水酸化物粒子)の濃度が、好ましくは30g/L以上200g/L以下、より好ましくは80g/L以上150g/L以下となるようにする。生成物の濃度が30g/L未満である場合、一次粒子の凝集が不十分になる場合がある。一方、生成物の濃度が200g/Lを超える場合、反応槽内に、核生成用水溶液または粒子成長用水溶液が十分に拡散せず、粒子成長に偏りが生じる場合がある。

(アルカリ水溶液) 反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、20質量%〜50質量%とすることが好ましく、20質量%〜30質量%とすることがより好ましい。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い金属複合水酸化物粒子を効率的に得ることができる。

なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはない。たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。

(アンモニウムイオン供給体を含む水溶液) アンモニウムイオン供給体を含む水溶液も、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。

アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合、その濃度は、好ましくは20質量%〜30質量%、より好ましくは22質量%〜28質量%とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることができる。

なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。

(反応雰囲気) 本実施形態の製造方法における反応雰囲気は、目的とする二次粒子2の構造に応じて、適宜調整することができる。例えば、一次粒子1が密に配置された構造とする場合、酸素濃度が5容量%以下、好ましくは酸素濃度が1容量%以下の非酸化性雰囲気に制御することが好ましい。一方、一次粒子1が疎に配置された構造とする場合、上記の非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気とすることができる。

例えば、金属複合水酸化物のタップ密度が0.75g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、かつ、多層構造を有する二次粒子2を主として形成する場合、第1の晶析工程(ステップS10)、及び、第2の晶析工程(ステップS20)における、粒子成長では、酸素濃度が1容量%以下の非酸化性雰囲気と、非酸化性雰囲気よりも高い酸素濃度を有する酸化性雰囲気とを、適宜切り替えながら行うことが好ましい。

非酸化性雰囲気とは、反応雰囲気中における酸素濃度が5容量%以下、好ましくは1容量%以下の雰囲気である。非酸化性雰囲気は、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御することにより、上記範囲に調整できる。また、酸化性雰囲気は、反応雰囲気中における酸素濃度が非酸化性雰囲気よりも高ければよく、例えば、酸素濃度が1容量%を超える雰囲気であってもよく、酸素濃度が5容量%を超える雰囲気であってもよく、大気雰囲気であってもよい。

上述のように、反応雰囲気(反応槽内の雰囲気)を、酸化性雰囲気、又は、非酸化性雰囲気に制御すること、及び、反応雰囲気の切り替え回数を制御することで、金属複合水酸化物の粒子構造、比表面積、及びタップ密度が制御される。例えば、より大きなBET比表面積を有する正極活物質を得るという観点から、反応雰囲気の切り替えは、4回以上であることが好ましく、生産性の観点から、4回であることが好ましい。また、反応雰囲気の切り替えのタイミングは、多層構造における各層の所望する厚さに応じて、適宜、調整することができる。

(反応温度) 反応水溶液の温度(反応温度)は、晶析工程(核生成工程と粒子成長工程、第2の晶析工程)全体を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃以上60℃以下の範囲に制御する。反応温度が20℃未満の場合、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる金属複合水酸化物の平均粒径や粒度分布の制御が困難となることがある。なお、反応温度の上限は、特に制限されることはないが、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進され、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加し、生産コストが増加する。更に、60℃を超えると、先述した通り、核生成工程において、一次結晶に歪が生じタップ密度が低くなり始める恐れがある。

(製造装置) 本実施形態に係る金属複合水酸化物の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置、たとえば、バッチ反応槽を用いることが好ましい。このような装置であれば、オーバーフロー方式によって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されることがないため、粒度分布が狭い金属複合水酸化物粒子を容易に得ることができる。

また、本実施形態の金属複合水酸化物の製造方法では、晶析反応中の反応雰囲気を制御することが好ましいため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を使用することが好ましい。このような装置であれば、核生成工程(ステップS11)や粒子成長工程(ステップS12、S20)における反応雰囲気を適切に制御することができるため、上述した粒子構造を有し、かつ、粒度分布が狭い金属複合水酸化物10を容易に得ることができる。

以下、本実施形態の製造方法により得ることができる金属複合水酸化物10の一例について説明する。

2.金属複合水酸化物 金属複合水酸化物10(二次粒子2)は、図1〜図3に示すように、その表層(表面側)にタングステンが濃縮したタングステン濃縮層3を有する。タングステン濃縮層3は、二次粒子2の内部よりもタングステンが濃縮されて存在する、二次粒子2の表面側に配置される層状の領域をいう。タングステン濃縮層3を有する金属複合水酸化物10を前駆体として用いて得られる正極活物質は、高い結晶性を有し、かつ、二次電池の正極に用いられた際、反応抵抗(正極抵抗)が低減されて、高出力を有する。タングステン濃縮層3は、例えば、図8に示すように、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた面分析で、W分布を検出することにより確認できる。

タングステン濃縮層3は、後述するように、リチウム金属複合酸化物20(図5参照)において、タングステン及びリチウムを含む化合物23(例えば、タングステン酸リチウムなど)を形成する。タングステン及びリチウムを含む化合物23は、金属複合水酸化物10(前駆体)とリチウム化合物とを混合し、焼成してリチウム金属複合酸化物20を得る工程(ステップS40、図6参照)で形成される。

リチウム金属複合酸化物20(正極活物質)において、タングステン及びリチウムを含む化合物23は、一次粒子21の表層、又は、一次粒子21間の粒界に形成される。タングステン及びリチウムを含む化合物23は、イオン伝導度が高いため、リチウム金属複合酸化物20(正極活物質)が二次電池の正極に用いられた場合、電解液と接触する一次粒子21の表層、又は、一次粒子21間の粒界にタングステン及びリチウムを含む化合物23が存在することにより、正極活物質の反応抵抗を低減させて、出力向上に大きく寄与することができる。

なお、従来の金属複合水酸化物の製造方法を用いた場合、金属複合水酸化物(前駆体)に含有されるタングステンが、焼成時に、一次粒子1間の焼結を抑制することがある。このため、従来のタングステンを含む前駆体は、得られる正極活物質中のタングステンが反応抵抗の低減に寄与する一方で、正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物の結晶性が低下するといった背反する問題があった。よって、二次電池の正極に用いた場合、出力特性に優れ、かつ、高い結晶性を有するリチウム金属複合酸化物の実現は困難であった。

一方、本実施形態に係る金属複合水酸化物10は、表層にタングステン濃縮層3を形成するため、焼成(ステップS40)の際、タングステンの焼結を抑制する影響は殆ど発生することなく、反応抵抗を低減させ、かつ、得られるリチウム金属複合酸化物20の結晶性を高めることができる。

また、第2の晶析工程(ステップS20、図2参照)において、タングステンを非酸化性雰囲気下でより多く添加することによって、仕込み量分のタングステンを金属複合水酸化物10(二次粒子2)内に効率よく析出させることが可能となる。

(タングステン濃縮層) タングステン濃縮層3の厚さは、金属複合水酸化物10の表面から中心部に向かう方向において、例えば、200nm以下とすることができ、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは10nm以上100nm以下である。タングステン濃縮層3の厚さが100nm以下である場合、リチウム金属複合酸化物20の結晶性をより高くすることができ、かつ、リチウム金属複合酸化物20を二次電池の正極に用いた場合、より反応抵抗を低減し、出力特性を向上させることができる。

なお、タングステン濃縮層3の厚さは、金属複合水酸化物10を樹脂などに埋め込んだものを切断して、二次粒子2断面の試料を作製し、EDXを用いたWの分布の面分析を行って測定する。具体的には、二次粒子2断面の試料において、レーザ光回折散乱式粒度分析計を用いて測定された体積平均粒径(MV)の80%以上となる二次粒子2断面を無作為に20個選択して、選択したそれぞれの二次粒子2において、金属複合水酸化物10の表面から中心部に向かう方向において、Wが濃く検出される部位(タングステン濃縮層3)の厚さ(幅)を5箇所以上で測定して、それぞれの二次粒子2における、タングステン濃縮層3の厚さの平均を求める。そして、選択した20個の二次粒子2のそれぞれの厚さの平均値を算出することにより、タングステン濃縮層3の厚さを得ることができる。

タングステン濃縮層3の厚さが100nmを超える場合、焼成の際に、タングステンによる焼結抑制の効果が大きくなり、一次粒子の成長が阻害されることがある。よって、得られるリチウム金属複合酸化物は、結晶子径の小さい一次粒子が多数形成され、結晶粒界が多く発生するため、正極における反応抵抗が増加することがある。また、一次粒子の成長が抑制されることに伴い、リチウム金属複合酸化物20の結晶性が低下することがある。

一方、タングステン濃縮層3の厚さが10nm未満である場合、比表面積が高くなり、焼成時に金属複合水酸化物10同士が容易に凝集するため、得られる正極活物質の充填密度が低下して、容積当りの電池容量が低下することがある。また、リチウム金属複合酸化物20中にタングステン及びリチウムを含む化合物23が十分に形成されずリチウムイオン伝導性が十分ではないことがある。

また、タングステン濃縮層3の厚さは、金属複合水酸化物10の平均粒径に対して、二次粒子2表面から二次粒子2の中心部に向かう方向において、例えば、3%以下とすることができる。タングステン濃縮層3の厚さは、リチウム金属複合酸化物20の結晶性をより向上させ、かつ、より反応抵抗を低減させるという観点から、好ましくは2%以下であり、より好ましくは0.1%以上2%以下であり、より好ましくは0.1%以上1%以下あり、さらに好ましくは0.1%以上0.5%以下である。なお、金属複合水酸化物10の平均粒径は、体積平均粒径(MV)をいう。

(二次粒子の構造) 図4(A)〜図4(C)は、本実施形態に係る金属複合水酸化物10の粒子構造の一例を示す模式図であり、図4(C)は、多層構造を有する金属複合水酸化物を示す断面SEM画像の一例を示す図面代用写真である。金属複合水酸化物10は、図4(C)に示すように、複数の一次粒子1が凝集して形成された二次粒子2を含む。なお、金属複合水酸化物10は、単独の一次粒子1を少量含んでもよい。以下、金属複合水酸化物10の詳細について、図4(A)〜図4(C)を参照して、説明する。

金属複合水酸化物10は、図4(C)に示すように、複数の一次粒子1が凝集した二次粒子2を含む。一次粒子1の形状は、特に限定されないが、例えば、板状、針状などの形状であってもよく、これらよりも小さな微細一次粒子であってもよい。また、二次粒子2の粒子構造は、特に限定されず、粒子に空隙が殆ど見られない中実構造をはじめ、粒子の中央部に中空部を有する中空構造のほか、複数の空隙を有する空隙構造や、本実施形態のように層状の空隙を有する多層構造など、従来公知の粒子構造を有することができる。

以下、図4(A)、(B)を参照して、二次粒子2の粒子構造の好ましい例について説明する。二次粒子2(金属複合水酸化物10)は、図4(A)、(B)に示すように、二次粒子2の中心Cから表面に向かって、一次粒子1が密に配置された中心部4と、一次粒子1が中心部4よりも疎に配置された空隙部5と、一次粒子が密に配置された中実部6とを少なくとも含む、多層構造を有することが好ましい。

また、二次粒子2は、図4(A)に示すように、二次粒子2の中心Cから表面に向かって、空隙部5と中実部6とを、少なくとも一層を有すればよく、図4(B)に示すように、交互に2層有してもよい。二次粒子2が多層構造を有する場合、得られるリチウム金属複合酸化物20(正極活物質)の比表面積を大きくして、出力特性を向上させることができる。

タングステン濃縮層3は、少なくとも、二次粒子2の最表面に配置される中実部6の表面部分に形成される。また、タングステン濃縮層3は、二次粒子2の表面に形成されるだけでなく、その内部に存在する空隙部5や、中実部6にも形成されてもよく、中実部6にもタングステン濃縮層3が形成される場合、この金属複合水酸化物10を用いて得られた正極活物質は、二次電池における反応抵抗(正極抵抗)をより低減することができる。

上述したように、タングステンを含む第2の原料水溶液を、非酸化性雰囲気において、より多く添加することにより、空隙部5よりも中実部6にタングステンを高濃度で含有することができる。なお、二次粒子2の粒子構造は、晶析反応において、粒子成長工程における反応雰囲気を複数回、切り替えることにより、多層構造とすることができる。

(タップ密度) 金属複合水酸化物10のタップ密度は、特に限定されないが、例えば、二次粒子2が多層構造を有する場合、好ましくは0.75g/cm3以上1.35g/cm3以下であり、より好ましくは1g/cm3以上1.35g/cm3以下である。金属複合水酸化物10のタップ密度は、金属複合水酸化物10を前駆体としてリチウム金属複合酸化物20(正極活物質)のタップ密度と相関し、金属複合水酸化物10が、多層構造を有する場合、得られるリチウム金属複合酸化物20のタップ密度は、金属複合水酸化物10のタップ密度より上昇する傾向がある。このため、金属複合水酸化物10のタップ密度を、上記範囲に制御することで、金属複合水酸化物10を前駆体とするリチウム金属複合酸化物20(図5参照)のタップ密度を後述する範囲に制御することが可能となる。このリチウム金属複合酸化物20を正極に用いた場合、高い電池容量を有する二次電池を得ることができる。一方、金属複合水酸化物10のタップ密度が0.75g/cm3未満である場合、例えば、正極活物質を製造する際の焼成工程(ステップS40、図6参照)において、匣鉢に盛る際に盛り高さが高くなり、十分に焼成されずに結晶性を低下することがある。

(平均粒径) 金属複合水酸化物10の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは4.0μm以上であり、より好ましくは4μm以上9.0μm以下であり、好ましくは4.0μm以上7μm以下である。金属複合水酸化物10の平均粒径は、金属複合水酸化物10を前駆体とするリチウム金属複合酸化物20(正極活物質)の平均粒径と相関する。このため、金属複合水酸化物10の平均粒径を、上記範囲に制御することで、金属複合水酸化物10を前駆体とするリチウム金属複合酸化物20(図5参照)の平均粒径も上記範囲に制御することが可能となる。

金属複合水酸化物10の平均粒径が4μm未満である場合、比表面積が高くなり、正極活物質を製造する際の焼成工程(ステップS40、図6参照)において、金属複合水酸化物10の粒子同士が容易に凝集し、得られる正極活物質の充填密度が低下して、容積当りの電池容量が低下することがある。なお、本明細書において、平均粒径とは、体積平均粒径(MV)を意味し、例えば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。

金属複合水酸化物10は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65以下である。リチウム金属複合酸化物20(正極活物質)の粒度分布は、その前駆体である金属複合水酸化物10の影響を強く受ける。このため、微細粒子や粗大粒子を多く含む金属複合水酸化物10を前駆体とした場合、リチウム金属複合酸化物20にも微細粒子や粗大粒子が多く含まれる。このようなリチウム金属複合酸化物20を正極活物質として用いた二次電池では、熱安定性、サイクル特性、出力特性などの電池特性が低下することがある。そこで、金属複合水酸化物10の〔(d90−d10)/平均粒径〕を上記範囲に調整した場合、これを前駆体として得られるリチウム金属複合酸化物20の粒度分布を狭くして、微細粒子や粗大粒子の混入を抑制することができる。

また、金属複合水酸化物10の〔(d90−d10)/平均粒径〕の下限値は、特に限定されないが、コストや生産性の観点から、0.25以上程度とすることが好ましい。工業的規模の生産を前提とした場合、〔(d90−d10)/平均粒径〕が過度に小さい金属複合水酸化物10を使用することは現実的ではない。

なお、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味し、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。また、d10およびd90は、平均粒径と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。

(組成) 金属複合水酸化物10の組成は、特に限定されないが、例えば、金属複合水酸化物10が、Ni、Mn及びW、並びに、任意にCo、及びMを含み、それぞれの金属元素の原子数の比(A)が、Ni:Mn:Co:W:M=x:y:z:a:b(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

なお、金属複合水酸化物10中のそれぞれの金属元素の原子数の比(A)は、リチウム金属複合酸化物20中でも維持されるため、上記金属元素の比(A)で表される金属複合水酸化物10において、これを構成するニッケル、マンガン、コバルト、タングステンおよび元素Mの組成範囲およびその臨界的意義は、後述する、比(B)で表される正極活物質と同様である。このため、これらの事項について、ここでの説明は省略する。

また、金属複合水酸化物10は、一般式(A1):NixMnyCozWaMb(OH)2+α(x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

上記一般式(A1)中、得られる正極活物質を用いた二次電池の容量特性のさらなる改善を図るという観点から、その組成を、一般式(A2):NixMnyCozWaMb(OH)2+α(x+y+z=1、0.7

上記一般式(A1)中、得られる正極活物質を用いた二次電池の熱安定性のさらなる改善を図るという観点から、その組成を、一般式(A3):NixMnyCozWaMb(OH)2+α(x+y+z=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

3.リチウムイオン二次電池用正極活物質 本実施形態に係る正極活物質は、リチウム、ニッケル、マンガン、及び、タングステンと、任意にコバルト、及び、元素Mと、を含み、それぞれの金属元素の物質量比(モル比)が、Li:Ni:Mn:Co:W:M=(1+u):x:y:z:a:b(x+y+z=1、−0.05≦u≦0.50、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

図5(A)、図5(B)は、本実施形態に係るリチウム金属複合酸化物20の一例を示す模式図である。リチウム金属複合酸化物20は、図5(A)に示すように、複数の一次粒子21が凝集して形成された二次粒子22を含む。なお、リチウム金属複合酸化物20は、単独の一次粒子21を少量含んでもよい。以下、リチウム金属複合酸化物20の詳細について、図5(A)及び図5(B)を参照して、説明する。

(タングステン及びリチウムを含む化合物) リチウム金属複合酸化物20は、図5(A)に示すように、二次粒子22の表面又は内部に存在する一次粒子21の表層、及び、一次粒子21間の粒界に、タングステン及びリチウムを含む化合物23が濃縮されて存在する。タングステン及びリチウムを含む化合物23の存在部位は、例えば、図9に示すように、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた面分析でW分布を検出することにより確認できる。また、タングステン及びリチウム含む化合物23は、二次粒子22の内部よりも表面(表層)により多く存在することが好ましい。

正極活物質の表層を異種化合物が被覆する場合、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物の持つ高容量という長所が十分に発揮できないことがある。これに対して、タングステン及びリチウムを含む化合物23(例えば、タングステン酸リチウムなど)は、リチウムイオンの伝導性が高いためリチウムイオンの移動を促す効果があるため、本実施形態に係るリチウム金属複合酸化物20は、その表面付近の一次粒子21の表層、及び、一次粒子21間の粒界に、タングステン及びリチウムを含む化合物23を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することにより、正極活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させることができる。タングステン及びリチウムを含む化合物23は、例えば、リチウム金属複合酸化物20の表面付近に微粒子の形態で存在することができる。

タングステン及びリチウム含む化合物23としては、特に限定されず、例えば、Li2WO4、Li4WO5、Li2W2O7などのタングステン酸リチウムが挙げられる。これらのタングステン酸リチウムが、二次粒子22の表面又は内部に存在する一次粒子21の表層、及び、一次粒子21間の粒界に濃縮して形成されることにより、リチウム金属複合酸化物20のリチウムイオン伝導度がさらに高まり、二次電池の正極に用いられた場合、反応抵抗の低減がより大きなものとなる。

(粒子構造) 本実施形態におけるリチウム金属複合酸化物20は、金属複合水酸化物10の特徴である多層構造を引き継いでおり、十分な粒子強度を維持しつつ、電解液との接触面積を増加させており出力特性にも優れている。

リチウム金属複合酸化物20の二次粒子22の構造は、特に限定されないが、図5(A)に示すように、二次粒子22の中心から表面に向かって、一次粒子21が密に配置された中心部24と、一次粒子21が中心部24よりも疎に配置された空隙部26と、一次粒子21が密に配置された実質部25とを少なくとも含む、多層構造を有することが好ましい。また、実質部25は、中心部24と電気的に導通可能であることが好ましい。

上記のような空隙部26を有するリチウム金属複合酸化物20を二次電池の正極として用いた場合、二次粒子22内部に電解液が浸透して、二次粒子22内部の一次粒子21と電解液との接触面積が増加するため、二次粒子22の表面ばかりでなく、二次粒子22の内部においても、リチウムの脱離および挿入が可能となる。また、二次粒子22の内部に電気的に導通可能な経路を多数有するため、二次粒子22内部の抵抗を低減し、出力特性を向上させることができる。したがって、このリチウム金属複合酸化物20を用いて二次電池の正極を構成した場合、容量特性やサイクル特性を損なうことなく、出力特性を大幅に向上させることが可能となる。

また、リチウム金属複合酸化物20において、空隙部26は、中心部24と実質部25との間や、複数の実質部25の間に全体的に層状に形成されてもよく、部分的に形成されてもよい。また、中心部は、板状一次粒子が凝集して形成された凝集部が複数連結した状態であってもよい。なお、本明細書において、「電気的に導通する」とは、リチウム金属複合酸化物の高密度部同士が、直接的に、構造的に接続され、電気的に導通可能な状態であることを意味する。

なお、多層構造を有する二次粒子は、上述した核生成工程(ステップS11)、粒子成長工程(ステップS12)における各条件を適宜調整することにより形成することができ、例えば、特許文献2、3などに記載の条件を用いてもよい。なお、実質部25は、複数存在してもよく、例えば、特許文献3に記載されるように、外殻部、又は、外殻部と内殻部とから構成されてもよい。また、中心部24は、中空構造を有してもよい。

本実施形態に係る正極活物質は、上述した金属複合水酸化物10を前駆体として用いることにより、一次粒子21の表層及び一次粒子21間の粒界にリチウム及びタングステンを含む化合物23が存在するリチウム金属複合酸化物20を得ることができる。リチウム金属複合酸化物20は、多層構造を有する二次粒子22を含む正極活物質の結晶性を維持したまま、出力特性のさらなる向上を実現することができる。

(BET比表面積) 正極活物質のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、1.45m2/g以上5.40m2/g以下であることが好ましく、2m2/g以上5.40m2/g以下であることがより好ましく、2.5m2/g以上5.40m2/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が上記範囲である場合、二次電池の正極用いた際に電解液との接触面積を増加させることができ、正極抵抗を低減させ、出力特性も向上することができる。

(タップ密度) 正極活物質のタップ密度は、特に限定されないが、例えば、二次粒子2が多層構造を有する場合、好ましくは1g/cm3以上2g/cm3以下であり、より好ましくは1.2g/cm3以上2g/cm3以下である。正極活物質のタップ密度が上記範囲である場合、単位容積あたりの電池容量を向上させつつ、電解液との接触面積が増えることによって出力特性が向上される。一方で、タップ密度が2g/cm3を超える場合は、粒子構造において空隙を有する部分が少なく、また、平均粒径が大きくなる傾向があり、反応面積の低下にともない出力特性が低下する。また、粒度分布の広がりが大きい場合、タップ密度が大きくなる傾向があるが、この場合、微細粒子が選択的に劣化してサイクル特性が低下することがある。一方で、タップ密度が1g/cm3未満である場合、粒子構造において空隙を有する部分が多くなり粒子強度が低下するためサイクル特性は低下することがある。また、正極活物質の充填性が低下し、単位容積あたりの電池容量を増加することが難しい。

(平均粒径) 本実施形態の正極活物質の平均粒径(MV)は、特に限定されないが、例えば、3μm以上9μm以下となるように調整することができる。平均粒径が上記範囲である場合、この正極活物質を用いた二次電池の単位容積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、熱安定性や出力特性も改善することができる。これに対して、平均粒径が4μm未満である場合、正極活物質の充填性が低下し、単位容積あたりの電池容量を増加することが難しい。一方、平均粒径が9μmを超える場合、正極活物質の反応面積が低下し始めるので、出力特性が十分とならないことがある。

なお、正極活物質の平均粒径とは、上述した金属複合水酸化物と同様に、体積平均径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。

(粒度分布) 本実施形態の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.65以下であることが好ましい。〔(d90−d10)/平均粒径〕が上記範囲である場合、粒度分布が非常に狭いリチウム金属複合酸化物20により構成されることができる。このような正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少なく、これを正極に用いた二次電池は、熱安定性、サイクル特性および出力特性が優れたものとなる。

一方、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.65を超える場合、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。粒度分布の広がりの大きい正極活物質を用いた二次電池は、例えば、微細粒子の局所的な反応に起因して、発熱し、熱安定性が低下するとともに、微細粒子が選択的に劣化し、サイクル特性が低下することがある。また、粒度分布の広がりの大きい正極活物質を用いた二次電池は、粗大粒子の割合が多いため、電解液と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が低下することがある。

なお、工業的規模の生産を前提とした場合、正極活物質として、〔(d90−d10)/平均粒径〕が過度に小さいものを用いることは現実的でではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90−d10)/平均粒径〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。また、〔(d90−d10)/平均粒径〕におけるd10およびd90の意味、ならびに、これらの求め方は、上述した金属複合水酸化物と同様である。

(結晶子径) 本実施形態に係る正極活物質は、従来の製造方法のように、晶析工程全体でタングステンを均一に添加して得られる金属複合水酸化物を前駆体とした正極活物質と比較して、粉末X線回折測定により得られる(003)面の結晶子径をより大きくすることができる。正極活物質の(003)面の結晶子径は、例えば、110nm以上とすることができ、好ましくは、120nm以上に調整される。正極活物質の(003)面の結晶子径が120nm以上である場合、結晶性が高く、かつ、この正極活物質を正極として用いた二次電池は、反応抵抗が少なくなるために出力特性が向上し、また、熱安定性も合わせて向上する。一方、(003)面の結晶子径が110nm未満である場合、二次電池の熱安定性が低下することがある。なお、(003)面の結晶子径の上限は、特に限定されないが、例えば、200nm以下とすることができ、110nm以上150nm以下であることが好ましい。本実施形態の正極活物質では、上述のようにタングステン濃縮層3を表面に有する金属複合水酸化物10を前駆体として用いることにより、高い結晶性を維持できるため、(003)面の結晶子径を上記範囲とすることができる。

(組成) 本実施形態の正極活物質は、上述した特性を有する限り、その組成は、特に限定されないが、例えば、一般式(B):Li1+uNixMnyCozWaMbO2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

上記一般式(B)中、リチウム(Li)の量を示すuの値は、好ましくは−0.05以上0.50以下、より好ましく0以上0.50以下、さらに好ましくは0以上0.35以下である。uの値が上記範囲である場合、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および容量特性を向上させることができる。これに対して、uの値が−0.05未満である場合、二次電池の正極抵抗が大きくなり、出力特性を向上させることができない。一方、uの値が0.50を超える場合、初期放電容量が低下したり、正極抵抗が大きくなったりすることがある。

上記一般式(B)中、ニッケル(Ni)の含有量を示すxの値は、好ましくは0.3以上0.95以下、より好ましくは0.3以上0.9以下である。ニッケルは、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素である。xの値が0.3未満である場合、この正極活物質を用いた二次電池の容量特性を向上させることができない。一方、xの値が0.95を超える場合、他の元素の含有量が減少し、他の元素の効果を得ることができない。

上記一般式(B)中、マンガン(Mn)の含有量を示すyの値は、好ましくは0.05以上0.55以下、より好ましくは0.10以上0.40以下である。マンガンは、熱安定性の向上に寄与する元素である。yの値が0.05未満である場合、この正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を向上させることができない。一方、yの値が0.55を超える場合、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化することがある。

上記一般式(B)中、コバルト(Co)の含有量を示すzの値は、好ましくは0以上0.4以下、より好ましくは0.10以上0.35以下である。コバルトは、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素である。zの値が0.4を超える場合、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が大幅に低下することがある。

上記一般式(B)中、タングステン(W)の含有量を示すaの値は、Ni、Co及びMnのモル数の合計を1とした場合、0を超え0.1以下であり、好ましくは0.001以上0.01以下、より好ましくは、0.0045以上0.006以下である。aの値が上記範囲である場合、正極活物質は、結晶性を高く維持したまま、より出力特性、サイクル特性に優れる。また、Wは、上述したように、正極活物質中、主に二次粒子22の表面付近の一次粒子21の表層、又は一次粒子21間の粒界に含まれる。

本実施形態の正極活物質では、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、上述した金属元素に加えて、元素Mを含有してもよい。このような元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、及び、タンタル(Ta)から選択される1種以上を用いることができる。

上記一般式(B)中、元素Mの含有量を示すbの値は、Ni、Co及びMnのモル数の合計を1とした場合、好ましくは0以上0.1以下、より好ましくは0.001以上0.05以下である。bの値が0.1を超える場合、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下することがある。

上記一般式(B)で表される正極活物質において、二次電池の容量特性のさらなる改善を図るという観点から、その組成を、一般式(B1):Li1+uNixMnyCozWaMbO2(−0.05≦u≦0.20、x+y+z=1、0.7

また、熱安定性のさらなる改善を図るという観点から、その組成を、一般式(B2):Li1+uNixMnyCozWaMbO2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0

4.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 図6は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示す図である。本実施形態の製造方法は、上述したリチウム金属複合酸化物20を含む正極活物質を工業的規模で、容易に製造することができる。なお、リチウム金属複合酸化物20を含む正極活物質は、上記の特定の構造、平均粒径および粒度分布を備える限り、特に限定されず、公知の製造方法を用いて得ることができる。

図6に示すように、本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、上述の製造方法により得られた金属複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る工程(ステップS30)と、リチウム混合物を焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る工程(ステップS40)と、を備える。なお、必要に応じて、上述した工程以外に、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。

金属複合水酸化物の表層に形成されたタングステン濃縮層中のタングステンは、リチウム化合物との混合工程(ステップS30)及び焼成工程(ステップS40)において、リチウム化合物と反応して、リチウム金属複合酸化物20中の一次粒子の表層、及び、一次粒子間の粒界にタングステンとリチウムとを含む化合物23を形成する。以下、図6を参照して、本実施形態に係る正極活物質の製造方法について説明する。

(混合工程) まず、金属複合水酸化物、及び、金属複合水酸化物を熱処理して得られる金属複合酸化物の少なくとも一方(以下、これらをまとめて「前駆体」ともいう。)と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る(ステップS30)。

ステップS30では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガンおよび元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95以上1.5以下、好ましくは1.0以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.35以下、さらに好ましくは1.0以上1.2以下となるように、前駆体とリチウム化合物を混合する。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、前駆体とリチウム化合物を混合する。なお、Li/Meは、タングステン及びリチウムを含む化合物23を十分に形成させるという観点から、1を超えてもよく、1.1を超えてもよい。

混合工程で使用するリチウム化合物は、特に限定されないが、入手の容易性の観点から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。

前駆体とリチウム化合物とは、微粉が生じない程度に、十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。

(熱処理工程) また、混合工程(ステップS30)の前に、任意に、金属複合水酸化物を熱処理する工程(熱処理工程)を設けてもよい。熱処理により得られた前駆体と、リチウム化合物と混合してもよい(不図示)。ここで、熱処理後に得られる前駆体としては、熱処理工程において余剰水分の少なくも一部が除去された金属複合水酸化物、熱処理工程により金属複合水酸化物が酸化物に転換された前駆体(金属複合酸化物)、又は、これらの混合物が含まれてもよい。

熱処理工程は、金属複合水酸化物を、加熱して熱処理することにより、金属複合水酸化物に含有される水分の少なくとも一部を除去する工程である。これにより、焼成工程(ステップS40)後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成がばらつくことを抑制できる。

熱処理温度は、例えば、105℃以上750℃以下である。熱処理温度が105℃未満である場合、金属複合水酸化物中の余剰水分が十分に除去できず、ばらつきを十分に抑制することができないことがある。一方、熱処理温度が700℃を超える場合、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。

なお、熱処理工程では、正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての金属複合水酸化物を複合酸化物に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするという観点から、400℃以上で熱処理して、すべての金属複合水酸化物を、複合酸化物に転換することが好ましい。なお、熱処理条件による金属複合水酸化物に含有される金属成分の原子数を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。 なお、熱処理を行う雰囲気は、特に制限されず、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行えるという観点から、空気気流中が好ましい。

また、熱処理時間は、特に制限されないが、金属複合水酸化物中の水分を十分に除去するという観点から、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは5時間以上15時間以下である。

(焼成工程) 次いで、混合工程(ステップS30)で得られたリチウム混合物を、焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る(ステップS40)。本工程では、所定条件の下で焼成し、前駆体中にリチウムを拡散させて、リチウム金属複合酸化物を得る工程である。得られたリチウム金属複合酸化物は、そのまま正極活物質として用いてもよく、後述するように、解砕工程により、粒度分布を調整した後、正極活物質として用いてもよい。

[焼成温度] リチウム混合物の焼成温度は、650℃以上980℃以下とすることが好ましい。焼成温度が650℃未満である場合、前駆体中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の金属複合水酸化物または金属複合酸化物が残存したり、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性が不十分になったりする。一方、焼成温度が980℃を超える場合、リチウム複合酸化物粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することがある。

なお、上述した一般式(B1)で表される正極活物質を得ようとする場合には、焼成温度を650℃以上900℃以下とすることが好ましい。一方、一般式(B2)で表される正極活物質を得ようとする場合には、焼成温度を800℃以上980℃以下とすることが好ましい。

焼成温度までの昇温速度は、2℃/分以上10℃/分以下とすることが好ましく、5℃/分以上9℃/分以下であってもよい。さらに、焼成工程(ステップS40)において、用いたリチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間以上5時間以下、より好ましくは2時間以上5時間以下保持してもよい。これにより、前駆体とリチウム化合物とをより均一に反応させることができる。

[焼成時間] 上記焼成温度での保持時間(焼成時間)は、少なくとも2時間以上とすることが好ましく、4時間以上24時間以下とすることがより好ましい。また、焼成温度の保持時間(焼成時間)は、2時間以上15時間以下であってもよく、2時間以上10時間以下であってもよい。焼成温度における保持時間が2時間未満である場合、前駆体中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の金属複合水酸化物または金属複合酸化物が残存したり、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶性が十分でなかったりすることがある。

[冷却速度] 焼成時間(保持時間)終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分以上10℃/分以下とすることが好ましく、3℃/分以上7℃/分以下とすることがより好ましい。冷却速度を上記範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することを防止することができる。

[焼成雰囲気] 焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。

[焼成炉] 焼成工程(ステップS40)に用いられる炉は、特に限定されず、大気、又は、酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。また、炉内の雰囲気を均一に保つという観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式、又は、連続式の電気炉であってもよい。また、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても、炉内の雰囲気を均一に保つという観点から、同様の炉を選択することができる。

(仮焼工程) なお、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程(ステップS30)後、焼成工程(ステップS40)の前に、仮焼を行ってもよい。仮焼は、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃以上800℃以下、好ましくは450℃以上780℃以下で仮焼する工程である。これにより、前駆体中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム複合酸化物粒子を得ることができる。

なお、上記温度での保持時間は、1時間以上10時間以下とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、前述した焼成工程(ステップS40)と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。

(解砕工程) 焼成工程(ステップS40)によって得られたリチウム金属複合酸化物20は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、リチウム金属複合酸化物20の二次粒子22の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の体積平均粒径(MV)や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子22間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子22からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子22自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。

解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、例えば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。

5.リチウムイオン二次電池 本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述した正極活物質を含む正極と、負極と、電解質とを備える。リチウムイオン二次電池は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素により構成されることができ、例えば、正極、負極、及び、非水系電解液を備えた非水電解液二次電池であってもよい。また、二次電池は、例えば、正極、負極、及び、固体電解質を備えた全固体二次電池であってもよい。以下、各構成要素について、説明する。

なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良した形態で実施することができる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定するものではない。

(正極) 正極活物質を含む正極合剤ペーストを用いて、例えば、以下のようにして、リチウムイオン二次電池の正極を作製してもよい。

正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。

(負極) 負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。

負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。

(セパレータ) 正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。

(非水系電解質) 非水系電解質としては、非水系電解液、固体電解質などが用いられる。

非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。

支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。

固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質などが用いられる。

酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4−Li3PO4、Li4SiO4−Li3VO4、Li2O−B2O3−P2O5、Li2O−SiO2、Li2O−B2O3−ZnO、Li1+XAlXTi2−X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2−X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3−XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。

硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S−P2S5、Li2S−SiS2、LiI−Li2S−SiS2、LiI−Li2S−P2S5、LiI−Li2S−B2S3、Li3PO4−Li2S−Si2S、Li3PO4−Li2S−SiS2、LiPO4−Li2S−SiS、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li3PO4−P2S5等が挙げられる。

なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N−LiI−LiOH等を用いてもよい。

有機固体電解質としては、イオン電導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。なお、固体電解質を用いる場合は、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させてもよい。

(電池の形状、構成) 以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解質で構成される本実施形態のリチウムイオン二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。

また、固体電解質を用いる場合には、正極および負極を、固体電解質を介して積層させて、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。

(3)リチウムイオン二次電池の特性 本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、容量特性、出力特性およびサイクル特性に優れる。しかも、従来のリチウムニッケル系酸化物粒子からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性において優れているといえる。

(4)用途 本発明のリチウムイオン二次電池は、上述のように、容量特性、出力特性およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや県電話端末など)の電源に好適に利用することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、熱安定性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。

以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、金属複合水酸化物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。また、核生成工程および粒子成長工程を通じて、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(日伸理化製、NPH−690D)により測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、各工程における反応水溶液のpH値の変動幅を±0.2の範囲に制御した。

(実施例1) (a)金属複合水酸化物の製造 [第1の晶析工程] (核生成工程) はじめに、反応槽内に、水を1.2L入れて790rpmで撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。この際、反応槽内に、窒素ガスを導入し、30分間流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が1容量%以下の非酸化性雰囲気とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で12.5、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなるように調整することで反応前水溶液を形成した。

同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを、各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr=38:30:32:0.2となるように水に溶解し、2mol/Lの第1の原料水溶液を調製した。

次に、第1の原料水溶液を、反応前水溶液に13ml/分で供給することで、核生成工程用水溶液を形成し、2.5分間の核生成を行った。この際、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。

(粒子成長工程) 核生成終了後、一旦、すべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、硫酸を反応槽へ加えて、pH値が、液温25℃基準で11.6となるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成した。pH値が所定の値になったことを確認した後、第1の原料水溶液を反応槽へ供給し、核生成工程で生成した核(粒子)を成長させた。

[雰囲気の切り替え] 第1の晶析工程、及び、第2の晶析工程の粒子成長工程において、非酸化性雰囲気と酸化性雰囲気との切り替えを4回行った。具体的には、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気へ切り替えた後(1回目)、非酸化性雰囲気へ切り替えた(2回目)。さらに、酸化性雰囲気へ切り替えた後(3回目)、非酸化性雰囲気へ切り替えた(4回目)。非酸化雰囲気としては、窒素ガスを導入し、酸素濃度が1容量%以下の雰囲気を用い、酸化性雰囲気としては、大気雰囲気を用いた。また、反応雰囲気の切り替えのタイミングは、粒子成長が行われる時間全体に対して、20%、40%、60%、及び、80%経過した時点で行った。

[第2の晶析工程] 第2の原料水溶液として、第1の原料水溶液とタングステンを含む水溶液とを用いた。タングステンを含む水溶液として、タングステン酸ナトリウム二水和物を、得られる水酸化物の各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr:W=38:30:32:0.2:0.6となるように水に溶解し、タングステン酸ナトリウム水溶液を調製した。

第1の水溶液を供給するとともに、前記タングステン酸ナトリウム水溶液の反応槽への供給(第2の原料水溶液の供給)を以下の2回に分けて行った(図3参照)。 (i)粒子成長を行う時間全体に対して、2/5時間(40%)経過した時点から3/5時間(60%)経過した時点まで (ii)粒子成長を行う時間全体に対して、4/5時間(80%)経過した時点から5/5時間(100%)経過した時点(粒子成長終了時点)まで

すべての水溶液の供給を停止することで、粒子成長工程を終了した。その後、得られた生成物を、水洗、ろ過および乾燥させることにより、粉末状の金属複合水酸化物を得た。

なお、第1の晶析工程における粒子成長工程、及び、第2の晶析工程において、これらの工程を通じて、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。なお、第1の原料水溶液の供給速度は、晶析工程の全体において、一定(13ml/分)とした。

(b)金属複合水酸化物の評価 ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所島津製作所製、ICPE−9000ICPE−9000)を用いた分析により、この金属複合水酸化物は、一般式:Ni0.38Mn0.30Co0.32Zr0.002W0.006(OH)2で表されることが確認された。

また、レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて、金属複合水酸化物の平均粒径を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を算出した。その結果、金属複合水酸化物の平均粒径は5.4μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は0.45であることを確認した。

また、金属複合水酸化物中のタングステン濃縮層の存在の有無、及び、その厚さを確認するため、走査型透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、HD−2300A)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、金属複合水酸化物断面の面分析を行った。その結果、金属複合水酸化物の表層においてタングステンが濃縮して存在する部位(タングステン濃縮層)の形成を確認し、その平均厚さは65〜70nmの範囲であることを確認した。

また、タップ密度は、振とう比重測定器(株式会社蔵持科学器械製作所製、KRS−409)を用いて、得られた金属複合水酸化物を20mlメスシリンダーに充填後、該メスシリンダーについて、高さ2cmからの自由落下を500回繰り返す方法で密に充填させてから測定を行った。その結果、タップ密度は、1.15g/cm3であるであることを確認した。

(c)正極活物質の作製 上述のようにして得られた金属複合水酸化物をLi/Meが1.14となるように、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて炭酸リチウムと十分に混合し、リチウム混合物を得た。

このリチウム混合物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、昇温速度を2.5℃/分として900℃まで昇温し、この温度で4時間保持することにより焼成し、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却した。このようにして得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じていた。このため、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した。

(d)正極活物質の評価 ICP発光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、一般式:Li1.14Ni0.38Mn0.30Co0.32Zr0.002W0.006O2で表されるものであることが確認された。また、レーザ光回折散乱式粒度分析計を用いて、リチウム金属複合酸化物の平均粒径を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕を算出した。その結果、リチウム金属複合酸化物の平均粒径は5.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕は0.43であることを確認した。

また、X線回折装置(スペクトリス株式会社製、X‘Pert PRO)を用いて、(003)面の結晶子径の測定を行ったところ1,185Å(118.5nm)であった。また、走査型透過電子顕微鏡を用いてリチウム金属複合酸化物におけるタングステンの分布を確認するため、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、リチウム金属複合酸化物断面の面分析を行った。その結果、リチウム金属複合酸化物においてタングステンが、二次粒子の表面付近の一次粒子の表層及び一次粒子間の粒界に多く含有していることを確認した。

また、タップ密度は、金属複合水酸化物と同様の条件で評価し、BET比表面積は、流動方式−窒素ガス吸着法を採用した比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ1200シリーズ)によって評価した。

(e)二次電池の作製 図7は、電池特性の評価に用いた2032型コイン電池CBAを示す図である。以下、図7を参照して、二次電池の作製方法について説明する。

上述のようにして得られた正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTEE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極PEを作製した。

次に、この正極PEを用いて2032型コイン電池CBAを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池の負極NEには、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータSEには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、2032型コイン電池CBAは、ガスケットGAを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン状の電池に組み立てられたものである。

(f)電池評価 [抵抗] 上記で組み立てたコイン電池CBAを用いてSOC20%における交流インピーダンス法による抵抗値を測定し、比較例1を基準とした相対値を、Reference(Ref.)に対する抵抗値として算出したところ70.0%であった。これらの結果を表1に示す。

(実施例2) タングステンを含む水溶液として、タングステン酸ナトリウム二水和物を、得られる水酸化物の各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr:W=38:30:32:0.2:0.5となるように調製した以外は実施例1と同様の条件で、金属複合水酸化物を得た。得られた金属複合水酸化物の評価結果を表1に示す。次に、得られた金属複合水酸化物を前駆体としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、正極活物質および二次電池を得た。得られた正極活物質の評価結果を表2に示す。

(実施例3〜5) 表1に示すように、粒子成長中におけるタングステンを含む水溶液の添加のタイミング(添加時間)を変更した以外は実施例1と同様の条件で、金属複合水酸化物を得た。得られた金属複合水酸化物の評価結果を表1に示す。

また、走査型透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、HD−2300A)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、実施例で得られた金属複合水酸化物の断面の面分析を行い、得られたWの分布を解析した。その結果、実施例で得られた金属複合水酸化物は、二次粒子の表層にタングステンが濃縮して存在する部位(タングステン濃縮層)が検出され、その厚さは、20nm以上100nm以下であることが確認された。

次に、得られた金属複合水酸化物を前駆体としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、正極活物質および二次電池を得た。得られた金属複合水酸化物、及び、正極活物質の評価結果を表2に示す。また、走査型透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、HD−2300A)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて、実施例2〜8で得られたリチウム金属複合酸化物の断面の面分析を行い、得られたWの分布を解析した。その結果、実施例で得られたリチウム金属複合酸化物は、二次粒子の表面付近の一次粒子の表層、及び、一次粒子間の粒界にタングステンが多く存在していることが確認された。

(比較例1) 粒子成長工程開始時点からタングステン化合物を添加した(添加範囲は100%となる)以外は実施例1と同様の条件で、金属複合水酸化物を得た。得られた金属複合水酸化物の評価結果を表1に示す。次に、得られた金属複合水酸化物を前駆体としたこと以外は、実施例1と同様の条件で、正極活物質および二次電池を作製した。得られた正極活物質及び二次電池の評価結果を表1に示す。

(比較例2) タングステンを含有しない金属複合水酸化物(Ni0.38Mn0.30Co0.32Zr0.002(OH)2)を用いたこと、及び、金属複合水酸化物と炭酸リチウムと混合する際に、酸化タングステンをあわせて添加して、混合して、リチウム混合物を得たこと(外添)以下は、実施例1と同様の条件で、正極活物質(Li1.14Ni0.38Mn0.30Co0.32Zr0.002W0.005O2)、及び、二次電池を作製した。得られた正極活物質及び二次電池の評価結果を表1に示す。

(比較例3) 晶析工程の際、第2の晶析工程において、タングステン酸ナトリウム水溶液を供給しない以外は、実施例1と同様の条件で、金属複合水酸化物、正極活物質及び二次電池を作製した。得られた金属複合水酸化物、正極活物質及び二次電池の評価結果を表1に示す。

(評価結果) 実施例で得られた金属複合水酸化物は、その表面にタングステン濃縮層を形成することが確認された。また、実施例で得られた正極活物質は、晶析工程全体でタングステンを添加した比較例1と比較して、より大きな結晶子径を有し、かつ、二次電池の正極として用いた際、低い正極抵抗値を示した。

また、実施例で得られた金属複合水酸化物は、厚さが100nm以下のタングステン濃縮層が形成され、これらの金属複合水酸化物を前駆体として得られた正極活物質は、タングステン化合物を外添した比較例2と比較して同程度の結晶子径を有し、かつ、二次電池の正極として用いた際、より低い正極抵抗値を示した。

さらに、実施例1で得られた金属複合水酸化物は、厚さが100nm以下のタングステン濃縮層が形成されるだけでなく、Wの仕込み量に対するWの歩留まりが良く金属複合水酸化物中のW濃度が高いため、これらの金属複合水酸化物を前駆体として得られて正極活物質は、他の実施例と比較しても低い正極抵抗値を示した。

一方、タングステンを添加しない比較例3で得られた正極活物質は、タングステンを添加した他の実施例及び比較例と比較して、結晶子径は比較的大きいものの、二次電池の正極として用いた際、正極抵抗値が大きく、出力特性に劣ることが示された。

10…金属複合水酸化物 1…一次粒子 2…二次粒子 3…タングステン濃縮層 4…中心部 5…空隙部 6…中実部 20…リチウム金属複合酸化物 21…一次粒子 22…二次粒子 23…タングステン及びリチウムを含む化合物 24…中心部 25…実質部 26…空隙部 CBA……コイン電池 CA……ケース PC……正極缶 NC……負極缶 GA……ガスケット PE……正極 NE……負極 SE……セパレータ

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