专利汇可以提供Mechanism of transfer to capital market of fishery risk in purse seine fisheries专利检索,专利查询,专利分析的服务。并且PROBLEM TO BE SOLVED: To provide the calculation method of return (expected profit ratio) for precisely predicting the fishery risk of a real purse seine fisheries, and for designing financial products with purse seine fisheries resources as original capital and the evasion method of a moral hazard risk accompanied with the transfer to a market of any fishery risk. SOLUTION: A lower limit is set by the minimum shoal size in a shoal of fish size distribution and pelagic fish resource quantity estimation method, so that it is possible to achieve the probability prediction of the catch of a real purse seine fisheries, and to achieve the measurement and quantification of any fishery risk by the computer simulation of a fishery process. Thus, it is possible to design financial products with purse seine fisheries resources as original capital. COPYRIGHT: (C)2007,JPO&INPIT,下面是Mechanism of transfer to capital market of fishery risk in purse seine fisheries专利的具体信息内容。
本発明は、まき網漁業における漁獲リスクの資本市場への移転の仕組み(ビジネス方法)に関する。
まき網漁業では、チーム(船団)を組んで海面近くを回遊する浮魚の群れを追う。 船団は、魚群を探す探索船2隻、網を積んだ本船1隻、獲った魚を港へ運ぶ運搬船2隻の計5隻が1船団で、この船団を「1カ統」という。 アジ、サバ、イワシを追う船の大きさは、網船本船が80トンまたは130トンで、1カ統の乗組員は50〜60人に及ぶ。
大中型まき網船団は一航海2〜3日で漁場を移動しながら1回の作業が2〜3時間の操業を2〜3回行なう。
網船と探索船は漁場で魚群を探し、群れを発見すると網船は長さ1000メートル程、深さ250メートル程の網で魚群を包囲し、素早く網を巻き上げる。 揚網が終りに近付くと運搬船が接近し、魚を魚艙へと積み込み、鮮度良く漁獲物を産地水産市場に揚げるため、運搬船は積み込み終了後直ちに漁港に向かい、漁場と漁港を往復する。
このようなまき網漁船団における乗組員給料は、漁獲高に応じて支払われるが、船主が最低額を保証するのが普通であり、不漁時の経済的損失が生じた場合は船主がすべて負担することとなる。
また、漁業生産者は市場価格の変動をきらい、できるだけ安定した価格で水産物が流通するよう、大型販売店との間で予約相対取引(定価売を含む)が行なわれているが、当事者の一方が事業を撤退せざるを得ない場合に取引契約の値洗い、つまり、転売あるいは買戻しの価格をどのように設定するかなどの問題があった。
一方、安定した漁業生産の維持を目的として様々な規制(漁業制度)や国庫による補助金の制度が設けられており、その一つが、国連海洋法条約が義務付けている、年間の総許容漁獲量(TAC)の設定である。
1997年から、資源を管理しながら漁業を行うため、アジ、サバ、イワシはTACの対象魚となっており、年間に漁獲できる量がそれぞれ定められている。 漁業者は操業のたび漁獲量を水産庁に報告し、漁獲できる量を超えそうなときは操業回数を減らしたり、出漁を見合せ、資源を大切にしながら漁業を行っている。
水産資源管理の科学的基礎は1950年代初頭に置かれ、資源の最大持続生産量(MSY)の概念が明らかにされた。 MSYは資源総量に対する漁獲率を定め、全ての漁業者による総水揚の許容量(TAC)を決めるものである。 TACは終漁の量設定であり、漁獲行為の中でこの終漁点へどのように到達するかが漁業管理とされるが、漁業経営の安定化という課題に取り組む上で量要な、漁獲リスクという概念を欠いていた。
TAC設定量漁獲の「ゼロ・サム」原理より、誰かが得(豊漁)をすれば誰かが損(不漁)をする。 漁業の経営は豊漁、不漁により大きな赤字が出ることも多く、漁業経営安定と採算性のためには、漁獲量変動から生じる損失(漁獲リスク)を回避する必要がある。
資源解析結果へ日々の漁獲量変動がどのような影響を与えるかについては、Sampsonが、確率過程に従う漁獲モデルを提出し、漁獲対象資源の行動生態や漁穫過程に関して単純なものから現実的なものまで幾つかの場合を想定してモデルを展開・解析している(非特許文献1)。 Sampsonの確率モデルは、操業当たり漁獲量を一定とし操業は時間的にランダムに発生するイベントと仮定している。 すなわち、Sampsonによる確率過程漁獲モデルは正規分布を前提とする平均・分散アプローチによるものである(以下これをSampsonモデルと呼び、Sampson漁獲モデルが成り立つ水産資源をガウス資源と呼ぶ。)。
しかしながら、操業当たり漁獲量が一定という仮定は、後述するように集群性浮魚資源を対象としたまき網漁業では受け入れ難いものであり、Sampsonのモデルによる漁獲量変動解析の限界となっており、日々の漁獲量変動の解析に当たっては魚群サイズ分布の統計的性質を正確に取り扱うことが求められていた。
図1には、北海道東沖を索餌回遊するマイワシ魚群の垂直厚さを通常の魚群探知機で計測したデータ(非特許文献2)を用い(単位はメートル)、これを尾数(一つの群れのバイオマス)へ変換したデータ(単位はトン)のヒストグラムが示されている(魚群の幾何的サイズから尾数サイズへの変換に関しては非特許文献7を参照)。 図中の破線は正規分布関数のデータへの当てはめを表している(片側正規分布の平均は群れデータの平均サイズに等しい)。
図2の(●)は図1と同じデータを片対数スケールでプロットし直したもので、破線は図1で当てはめた正規分布である。 (○)はまき網漁業の一まき当たり漁獲量の頻度分布を表す(データは図3と同じ)。 視覚的にも分布の裾の厚さは明らかであるが、通常良く使われるガウス統計によると、サイズ階級860〜1030トンに属する魚群を見つける確率は、10億分の1となるのに対し、実際には、Hara(非特許文献2)は、500回に1回程度、このような巨大な群れを計測している。 このように、現実のマイワシの群れサイズ分布は正規分布に比べ100万倍も裾が厚いことがわかる。
このような集群性浮魚資源を漁獲あるいは調査計測するとき、データ処理に単純なガウス統計を適用した場合、この魚群サイズ分布の裾の厚さ故に、漁獲量の不確実性あるいは資源量の推定誤差は過小評価されることが予想される。
さらに、Hilborn(非特許文献3)は、カナダのブリティッシュコロンビアにおけるサケを対象としたまき網漁業で、各漁業者(まき網船団)間の漁獲量のバラツキを報告している。
図4は、一年間の漁業者毎の水揚量の分布を示すものであり(横軸は水揚金額、単位は不明)、水揚げは週に一回行なわれ、これが出漁回数となる。 水揚回数が正規分布で良く近似でき(図5の実線、平均16.7回、標準偏差3.9回)、しかも平均値の平方根の値(4.09)が標準偏差の値に極めて近いことから、水揚はポアソン過程と考えられる(図5の破線は平均16.7のポアソン分布を表す)。
また、一年間の累積水揚量は中心極限定理に従うものと期待されるが、実際には、水揚げ量は右に裾を引いた非対称なものとなっており、また、分布の幅も広い。
このように、Sampsonモデルのような正規分布を前提とする平均・分散アプローチでは、実際のまき網漁業の漁獲リスクを正確に解析することはできないことがわかる。
本発明者は、浮魚の群れサイズ分布のシミュレーション方法に関する発明を別途出願(特許文献1および2)し、マイワシなど浮魚類の群れサイズについて、一般に、その頻度分布の裾が正規分布に比べ極めて厚いことを、明らかにした。 このシミュレーション方法によれば、データから特定の指数を計算し、その数値を利用することによって実際のサイズ分布と極めてよく一致する魚群サイズ分布関数を求めることができるようになった。
図3は、1980〜1982年の7〜10月における道東沖のマイワシまき網漁業の一操業当たり漁獲量分布である。 図2及び図3の実線は、本発明者による式漁獲量分布の理論曲線で、データと良く一致していることを示している。
しかしながら、この方法では、実際の魚群サイズ分布を予測することができても、現実のまき網漁船が一まき当り漁獲する量を確率的に予測することができず、したがって、一まき当り平均漁獲量、すなわち平均群れサイズを予測することができなかった。
また、漁獲リスクの回避に関し、規制のような強制的手法ではなく資源・漁業を効率的に管理する機能を果たす市場メカニズム(経済的インセンティブ)が模索されている。
Sampson, DB, Fish capture as a stochastic process. J. Cons. Int. Explor. Mer 45, 39−60 (1988). Hara, I., Distribution and school size of Japanese sardine in the waters off the southeastern coast of Hokkaido on the basis of echo sounder surveys. 東海区水産研究所報告 第113号, 67−78 (1984). Hilborn, R., Fleet dynamics and individual variation: why some people catch more fish than others. Can. J. Fish. Aquat. Sci. 42, 2−13 (1985). Niwa, H.-S., School size statistics of fish. J. Theor. Biol. 195, 351−361 (1998). Niwa, H.-S., Power-law versus exponential distributions of animal group sizes. J. Theor. Biol. 224, 451−457 (2003). Niwa, H.-S., Space-irrelevant scaling law for fish school sizes. J. Theor. Biol. 228, 347−357 (2004). Niwa, H.-S., Power-law scaling in dimension-to-biomass relationship of fish schools. J. Theor. Biol. 235, 419−430 (2005). 全国漁業就業者確保育成センター, THE漁師, http://www.fishworld.or.jp/fisherman/ 北部太平洋まき網漁業協同組合連合会, 北部太平洋海区における大中型まき網漁業操業状況並びに水揚状況, http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~KITAMAKI/ 農林水産省統計部,平成14年漁業・養殖業生産統計年報(併載:漁業生産額), 農林統計協会 (2004) Kahneman, D.and Tversky, A., Prospect theory: an analysis of decisions under risk. Econometrica47, 263−292 (1979). Bernstein, PL, Against the Gods: The Remarkable Story of Risk, John Wiley & Sons, Inc., New York (1996). (ピーター・バーンスタイン/青山護(訳),リスク−神々への反逆,日本経済新聞社, 1998)
本発明の目的は、本発明者が提案した浮魚の群れサイズ分布関数(特許文献1,2)から、現実のまき網漁船が一まき当り漁獲する量を確率予測することができる手段を提供し、その結果得られる漁獲量分布を応用して漁獲リスクを正確に予測し、リスクを管理する金融手段を提供し、リスクを制御する保険やそれを資本市場に移転する仕組み、すなわち、「リスクを商品化する」ビジネスの展開を可能とすることである。
本発明では「漁獲リスク」を、同一の漁場、同一の資源を利用する漁業者の「水揚量の散らばり度合い(標準偏差)」と定義する。 漁獲リスクは、当該漁期の資源量豊度(あるいはTAC)から終漁時結果として期待される漁業者当たり累積漁獲量を達成できないことをいい、言い換えれば、水揚量について当初の期待が裏切られるリスクのことである。
本発明における、まき網漁業の漁獲過程のコンピュータ・シミュレーションを以下に説明する。
[一まき当たり漁獲確率関数の作成]
(1)資源豊度(現存資源密度)に比例する資源量指数〈N〉 Pを、群れサイズの二乗平均の平均サイズに対する相対値として求める。
〈N〉 P =E(N 2 )/E(N) (1)
ここで、Nは一まき当たり漁獲量あるいは魚群サイズ、E(X)はXの平均値を表す。
(2)資源量指数〈N〉 pから魚群サイズ分布関数(特許文献1,2)を求める。
(3)一まき当たり漁獲する魚群の最小サイズN 0を、一まき当たり平均漁獲量E(N)を用い、魚群サイズ分布の理論曲線W(N)から次式を満足する積分の下限の値N 0として与える。
0は、魚群の要素サイズ(真の最小サイズ)ではなく、魚群サイズ分布の理論曲線W(N)から計算した平均値が、平均計測サイズあるいは一まき当たり平均漁獲量E(N)と等しくなることを保証する、サイズ分布関数W(N)の変数Nの定義域の下限の値であり、以下に述べる漁獲過程のシミュレーションにおいても数値計算結果がシミュレーションの設定と矛盾しない値を導くものである。 つまり、N
0は自己矛盾のない計算結果を導くための操作上の最小サイズである。
そして、式(2)をN=N
0 〜∞まで積分した時、∫
No
∞ W(N)dN=1と規格化することで、式(3)で求めたN
0を式(2)に適用し確率密度関数W(N)の定義域の下限とすることにより、現実のまき網漁船が一まき当り漁獲する量を予測することができる分布関数W(N)を確定することができる。
[まき網漁業における漁獲モデル(複合ポアソン過程)の作成]
(1)漁獲(魚群発見)をポアソン過程として扱い、次に漁獲(発見)するまでの時間λtを、平均(1/λ)の指数分布
(2)このポアソン過程において、航海当たり平均操業回数はλとなり、一年間の平均航海数がt回で漁獲する魚群の数(あるいは、網をまく回数)xはパラメータλtのポアソン分布
p(x)={(λt) x /x! }e −λt (5)
に従う。
(3)漁獲対象資源のTACの設定値をCトンとし、これを対象として操業するまき網漁船団の数をGカ統とすると、漁船団一カ統当たり一年間の平均操業回数(平均漁獲回数)は
λt=C/E(N)G (6)
となる。
同じ資源を他(まき網漁業以外)の漁業も漁獲している場合は、当該のまき網漁業の漁獲率および他の漁業の漁獲率をそれぞれ、F seine 、および、F otherとし、式(6)を
λt={F seine /(F seine +F other )}(C/E(N)G) (7)
で置き換える。
本発明者が提案した浮魚の群れサイズ分布のシミュレーション方法(特許文献1,2)に本発明の手段を適用すれば、まき網漁業における漁船団の漁獲量分布を正確に予測することが可能となり、当該漁船団の漁獲リスクを客観的な数値として表すことができるので、リスクを管理する金融手段および金融派生商品(デリバティブ)・保険デリバティブの設計が可能となり、新たなビジネスの展開が期待できる。
本発明により、「漁獲リスク」を資本市場に移転することができれば、法規制などの強制的手法によらず漁業経営を安定化させることができ、さらには、ITQ(譲渡可能個別割当制)の適正・公正な価格付けや、資源・漁業管理の資本市場への委譲、漁業のリアルオプション解析も可能となる。
[漁獲の複合ポアソン点過程のシミュレーション]
魚群発見確率と一まき当たり漁獲量は、資源豊度によって一意的に決まる。 この「一意的に」という意味は、資源豊度により、浮魚類の群れサイズ分布、すなわち、一まき当たり漁獲量分布が図2(実線)に示したように確定する、ということである。 資源豊度は特徴的な魚群サイズ〈N〉 Pの値を決め、〈N〉 Pは資源豊度に比例し、魚群サイズ分布の形は〈N〉 Pのみによる(詳細は特許文献1,2)。
以上のようにして求めた一まき当たり漁獲確率関数、まき網漁業における漁獲モデルを利用し、以下の手続きにより漁獲シミュレーションを実行する。
(1)一年間に漁船団一カ統が漁獲する魚群数xを、パラメータ(平均操業回数)の値を式(6)あるいは式(7)とするポアソン分布(式(5))に従う乱数によって与える。
(2)式(2)の魚群サイズ分布W(N)に従うN 0以上の乱数をx個求める。 すなわち、一まき当たり漁獲量Nの確率分布がW(N)となる乱数をx個求め、一年間でx回行なったまき網の各漁獲量を
N(j); j=1,・・・・,x (8)
とする。
(3)全航海の累積漁獲量Lを
(4)必要なシミュレーション回数(k回)だけ、(1)〜(3)の手続きを繰返し、k個の累積漁獲量
{L 1 ,L 2 ,・・・・・,L k } (10)
を数値計算し、これを漁獲シミュレーションのデータ・セットとすることにより、特定資源量指数の水産資源における、現実の一カ統当りの年間漁獲量の確率分布を求めることができる。
以上の漁獲シミュレーションをコンピュータで実施するには以下のようなステップで行う。
(a)一年間の平均創業回数λtを、式(6)より求めるステップ
(b)式(5)に従う確率で乱数xを1つ選ぶステップ
(c)ある数N(=1,2,…, N imax ; 単位はトン)を選ぶ確率W(N)が式(2)であるような数字群を作成し、その確率W(N)に対応する漁獲量Nとのテーブル{(W(N),N); N=1,2,…,N imax }を作成するステップ(ただし、シミュレーションの繰り返し回数をk回としたとき、N imaxの値はW(N imax )<1/kとなる十分大きな数とする)
(d)上記テーブルに従う確率W(N)で数字Nをランダムにx個選ぶステップ
(e)(c)のテーブルを利用して選んだx個の数字N(1),N(2),…N(x)を積算し、累積漁獲量L (=Σ j=1 x N(j))を求めるステップ
(f)(b)〜(e)をk回繰り返し、k個の数字L 1 , L 2 ,…, L kをシミュレーションにより数値計算し、このデータセットにより累積漁獲量Lの確率分布(および、平均値、標準偏差など)を求めるステップ なお、(c)と(d)のステップは、発生させた乱数の頻度分布が式(2)となるような乱数を発生させるコンピュータプログラムを利用すれば、x個の漁獲量Nを直接求めることができる。
次に、コンピュータ・シミュレーションによるまき網漁業の漁獲リスクの定量的予測と計量は、以下のとおりに行う。
[準備:漁獲データの解析]
(0)過去の漁獲データの解析から(漁期平均)資源量指数〈N〉 P 、一まき当たり平均漁獲量E(N)、および、最小群れサイズN 0を求める。
(1)資源量と資源量指数との比例関係(特許文献1,2)を利用し、過去の資源量データの漁期平均資源量と(漁期平均)資源量指数の線形回帰分析により、資源量から資源量指数を推定する比例関係式を求める。
(2)最小群れサイズN 0は、過去のデータから式(3)を用いて数値計算し、その平均値として与える。 あるいは、N 0は以下の手順により計算する。
図6(実線)に示した一まき当たり平均漁獲量と資源量指数との関係は、図1に示したマイワシ資源のデータに基づき、理論曲線W(N)を用いた数値計算により求めた、平均サイズE(N)と資源量指数〈N〉 Pとの関係を示した(このとき式(3)からN 0 =19.0トンと計算される)。 図中の黒丸(●)は1980年代豊漁期における漁期平均資源量と一まき当たり平均漁獲量の関係を与える。 非特許文献4によれば,漁場への来遊魚群数密度はln〈N〉 Pに概略比例するので、資源密度に比例する〈N〉 Pをln〈N〉 Pで除すことで、平均サイズE(N)の近似式が得られる(図6の破線):
E(N)〜〈N〉 P /ln〈N〉 P (11)
これにより、式(11)に資源量指数〈N〉 Pの推定値を代入し、一まき当たり平均漁獲量E(N)の近似値を求め、この〈N〉 PとE(N)を用い式(3)から最小群れサイズN 0を数値計算する。
図6および式(11)から、一まき当たり平均漁獲量は資源密度あるいは資源量指数にほぼ比例することがわかる。
[始漁時:漁獲リスクの予測]
(1)水産資源調査結果に基づく対象魚種の総資源量(漁期平均資源量)推定値から、まき網漁場の資源量指数を〈N〉 P推定する(具体的な作業は上記準備の線形回帰分析から得られた比例関係式を利用する)。 あるいは、魚群計測データから〈N〉 Pを直接推定する。
(2)上記により求めたN 0および〈N〉 Pを用い魚群サイズ分布(一まき当たり漁獲確率)を作成する(式(2)および図2)。
(3)漁獲対象資源のTACの設定値(Cトン)、および、これを対象するまき網漁船団数(Gカ統)から漁船団一カ統一年当たり平均操業回数を、式(6)あるいは式(7)により求める。
(4)複合ポアソン過程により漁獲シミュレーションをk回実行し、累積漁獲量のデータ・セット{L n ;n=1,2,・・・・,k}を求める。
(5)このシミュレーション・データ・セットから、漁業者(船団)当たりまき網回数、終漁時累積漁獲量Lを確率予測することが可能となる。
[終漁時:漁獲成績から損益の確定]
(1)漁業者による漁獲報告に基づき公表された漁獲実績により、実際の累積漁獲量および操業回数の分布を調べる。
(2)注目する漁業者(船団)の実現漁獲実績がまき網回数分布および累積漁獲量分布のどこに位置するかを調べ、平均漁獲回数および平均累積漁獲量からの偏差を知ることができる。
(3)終漁時の実際の漁獲成績分布を用いた漁獲シミュレーションを実行することにより、後述するモラルハザードの検証を行うことができる。
[漁獲リスクの金融商品化]
以上のような漁獲リスク予測に基づいて、まき網漁業資源を原資産とし、漁獲リスクを金融商品化する方法について説明する。
期待収益率(リターン)および標準偏差(リスク)の計算は、宝くじの当選確率・配当金(表1)の計算と類似して理解できる。 資源に設定されたTAC(総許容漁獲量)がトータルの払い戻し金額(表1では掛金総額の90%)に相当し、掛金総額が水産資源の総量に相当する。 また、宝くじでは発行団体が当選確率と配当金を決めているが、集群性浮魚類では資源豊度が魚群発見確率と一まき当たり漁獲量を一意的に決めている。
漁獲リスクを資本市場へ移転するための、まき網漁業における漁獲水揚量を原資産とする金融商品(あるいは、まき網漁船団への投資)の期待収益率(リターン)とリスク、および、金融派生商品のプレミアムの計算は以下のように行えばよい。
(1)始漁時、資源調査による漁期平均資源量の予測値およびTAC設定値に基づき、終漁時の漁獲成績分布をシミュレーション予測(累積水揚量を確率予測)する。
(2)水揚量予測分布に漁期平均水揚単価の期待値を掛け、まき網漁船団の年間累積水揚金額の確率予測を行なう(水揚量の水揚金額へのスケール変換)。
(3)まき網漁船団への投資リスク(累積水揚金額が期待収益)、あるいは、累積水揚量を原資産とする金融派生商品の価格など、リスクプレミアムやデリバティブのオプションプレミアムなどを、水揚金額の確率分布に基づいて計算する。
漁獲水揚量を原資産とする、漁獲リスク回避の手段としての「商品」を設計するためには、投資額(元本)に対するリターン(期待収益率)が計算できなければならない。
投資家は、無リスクの資産と、リスクのある資産が同じリターンであった場合、無リスクの資産を選択するので、投資家がリスクのある資産への投資を行うようにするためには、リスクのある資産のリターンは、無リスクの資産のリターンを上回ることが必要である。
リスクプレミアムとは、そのリスクのある資産に対して投資家が要求するリターンと、無リスク資産のリターンとの差を指す。
なお、累積水揚量の金融証券化(まき網漁船団への投資契約)とそのリスクプレミアムの計算は[実施例2]で、まき網漁獲物を原資産とするデリバティブのプットオプションのプレミアムの計算は[実施例3]で、その投資契約の漁期途中における値洗いと転売(あるいは買戻し)は[実施例4]で、それぞれ具体的に示す。
つぎに漁獲リスクの資本市場への移転につきまとうモラルハザードリスクの回避ついて、説明する。
漁獲リスクを資本市場へ委ねるとき、モラルハザードに陥る可能性がある。 モラルハザードは保険、あるいはリスク回避のための手段や仕組が抱えるシステム的な問題であり、回避策もシステマティックなものでなければならない。
モラルハザードとは保険用語で、火災保険ををかけておいて家に火をつけるような行為=保険金詐欺という犯罪を「不道徳」と呼んだところからきている。 保険や保障によるリスク移転の効用とリスク回避のインセンティブとの間のディレンマを「モラルハザード」という言葉によって表現しているともいえる。
モラルハザードの可能性に対し、漁獲リスクの管理では、イベントの発生(漁獲回数、累積漁獲量)は正確に計測でき、それを記述する定量的方法も存在するので、リスクを取る投資家につきまとうモラルハザードリスクは回避が可能である。
モラルハザードは、終漁時の実際の漁獲成績分布を用いた漁獲シミュレーションにより、検証できる。
(1)同じ海区で操業した各まき網漁船団から報告された漁獲量から、一まき当たり漁獲確率の分布関数(図2あるいは図3)を作成する。
(2)操業回数を漁業者の申告した回数に固定して漁獲シミュレーションを行ない、結果の漁獲成績分布を求める。
(3)終漁時までに平均的な回数のまき網操業を行なった(例えば50回と申告した)にも関わらず、実際に達成した累積漁獲量(申告した水揚量)が、50回に操業回数を固定して行なった漁獲シミュレーション結果の漁獲成績分布から見て、極めて確率の小さい出来事であることがわかった場合、このまき網漁業者の申告した操業回数は真実でない確率が高い。
すなわち、平均回数λt(tは平均の航海回数、λは航海当たり平均操業回数)に操業回数を固定して行なった上記の終漁時漁獲シミュレーションにおいて、シミュレーション結果の漁獲成績分布の、たとえば、第100分の2.5分位数以下(これは2.5%の頻度で、漁業者40人に一人、あるいは、40年に1回の出来事)であるとしたら、この漁獲成績は極めて確率の小さい出来事である。
このイベント発生は、当事者の一漁期のまき網回数が、実際は、同じ海区で操業した各まき網船団から報告された平均回数より大きく下回っていた(例えば正規分布の2σに相当する2.5%の頻度である漁業者40人に一人、あるいは、40年に1回の出来事)、つまり、獲れなかったのではなく獲らなかったとした方が自然である。
終漁時にこのような確率の小さいイベント発生を条件にリスク移転は無効となる、という契約を予め盛り込むことにより、モラルハザードリスクを回避することが可能である。 モラルハザードの検証は[実施例5]で具体的に説明する。
[実施例]
大中型まき網漁業における漁獲シミュレーションとその応用
[本発明の漁獲シミュレーションとガウス資源(Sampsonモデル)との対比]
図7にまき網漁業における漁獲のポアソン点過程の一例を示す。 縦棒でイベントの発生(まき網操業)を表し、棒の長さが漁獲量を表す。 ここでは、パラメータをλ=2.5、航海数をt=35回とした。
また、一まき当たり漁獲量の確率分布は、1980年代豊漁期の北海道東沖合におけるマイワシ資源を想定し(一まき当たり平均漁獲量E(N)=118トン)、図2の実線の魚群サイズ分布で与えた(ここでは、式(1)を用い資源量指数は〈N〉 P =260トン、また、式(3)を用い最小群れサイズはN 0 =19.0トンと計算される)。
これらのパラメータ値を用い段落[0021]〜[0023]に記述されている本発明の複合ポアソン過程による漁獲シミュレーションを行なった。
λtが十分大きいので、ポアソン分布に従うまき網回数は平均λt=87.5回、標準偏差√λt=9.35回の正規分布に帰着する(図8)。 数値計算結果は実在魚群(本発明)に関しては(●)で、ガウス魚群に関しては(○)で示してある(シミュレーションの繰返し回数は10,000回)。 漁獲回数の分布はHilbornの報告(非特許文献3)と一致しており、これは魚群発見と漁獲をポアソン過程とモデル化したことを正当化するものである。
なお、実在資源の漁獲シミュレーション(この時系列の一例を図7aに示す)
に加え、比較のためにガウス浮魚資源についてのシミュレーションも示す。 この場合、一まき当たり漁獲量は正規分布に従う乱数で与え、一まき当たり平均漁獲量は、実在資源と同じE(N)とした(ガウス浮魚資源:図2の破線)。
ガウス資源の漁獲シミュレーションの時系列の一例を図7bに示す。
以下のシミュレーションでは実在資源、ガウス資源とも漁場における魚の総数(ポピュレーション)は同じである。 また、まき網漁船団の漁獲能率の違いは無視し、一年間の漁期を通してまき網漁場における資源豊度は一定(資源現存量は漁期の平均値)という単純化を行なった。
揚網と船への魚の積み込みのための処理時間は漁獲した魚群の大きさに依存すると考えられるが、ここでは、まき網漁業のハンドリグ・タイムを考慮しない。 また、各船団の航海数は同じとした。
図7からも見てとれるが、実在浮魚資源では漁獲量のバラツキがガウス資源に比べかなり大きい。
図9は累積漁獲量の時系列(サンプル経路)をいくつか例示したものである(実線は実在資源、灰色線はガウス資源を表す)。
漁獲の平均時間間隔は実在・ガウス資源ともに変わりないが、この図を見ると、ガウス魚群の漁獲では一網当たりの漁獲量はかなり安定している。
一方、実在魚群の漁獲では一網で大漁となることがある反面、不漁が続くことも多い。
また、漁業者間の累積漁獲量は、ガウス漁業に比べ実在漁業のほうがバラツキが大きい。 これは、実在漁業の漁獲リスクは、正規分布を前提とする漁業解析(Sampsonモデル)が予想するものよりかなり大きいことを示している。
累積漁獲量の平均値と標準偏差から、漁業ビジネスは「ハイリスク」であることがわかる。
シミュレーションにおける終漁時点で、実在およびガウス漁業の平均累積漁獲量は、それぞれ、E(L)=10700トンおよびE(L) Gauss =10300トンとなり、理論上の期待値λtE(N)=10300トンにほぼ等しい(実在資源では魚群サイズ分布の裾が厚い(長い)ために、シミュレーション結果の累積漁獲量は、理論期待値λtE(N) から若干の偏差が生じている)。
標準偏差はそれぞれ、σ L =2900トンおよびσ Gauss =1380トンとなり、その比はほぼ2倍の値となっている。
図10は終漁時における累積漁獲量分布である。
図10aの実在資源では分布は右に裾を長く引いており、Hilborn(非特許文献3)の報告を再現している。
図11は図10に示したヒストグラム・データを累積確率分布として示したものである。 実線は、実在漁獲のデータから計算した平均値(E(L)=10700トン)と標準偏差(σ L =2900トン)を用いた正規分布の累積密度関数(CDF)であり、実在資源のデータ(●)に小さな漁獲量の範囲では一致しているが、累積漁獲量が大きくなると乖離が甚だしくなる。
正規分布に比べ、実在資源の終漁時累積水揚量の分布は右に長く裾を引いていることが分かる。 シミュレーション結果は実在漁業の累積漁獲量が中心極限定理を満足しないことを示している。
以上説明したように、本発明で提示したN 0を式(2)に適用した分布関数W(N)利用した漁獲シミュレーションにより、現実のまき網漁船が一まき当り漁獲する量を予測することができる。
さらに、漁獲シミュレーションは漁獲リスクに関して一種のギャンブルの様相を呈する結果が予想できる。
すなわち、一漁期間の期待水揚量E(L)を越える生産をあげる船団は45.3%であるのに対し、過半数の54.7%のまき網船団は平均に満たない漁獲成績しか達成できない。 これは、典型的なまき網船団の漁獲成績(水揚量分布の最頻値)はL mode ≒9300トン程であり、期待待水揚量Lを0.5σ L以上も下回っている。 一方、典型的な水揚量L modeをσ L以上も上回って大儲けする確率も26.7%ある(水揚量分布の第4分の3分位L 3/4 =12400トンに対しL mode +σ L =12200トン)。
一方、ガウス資源では終漁時における累積漁獲量分布はモードに関しほぼ左右対称になっている(図10b)。
図11の破線はガウス漁獲のデータから計算した平均値(10300トン)と標準偏差(1380トン)を用いた正規分布のCDFであるが、これはデータ(○)に極めて良く一致しており、ガウス資源の複合ポアソン漁獲過程は、当然のことながら、水揚量の正規分布を導く。
正規分布を前提とする平均・分散アプローチと本質的に同一であるSampsonモデルは、まき網漁業の漁獲リスクの解析には適切でないことが解る。
[比較例]
複合ポアソン漁獲過程の時系列をコンピュータにより以下のとおり計算した結果を図7aに示す。 この図において、漁獲のイベントが起きる棒と棒の間隔が式(4)の指数分布に従い、棒の長さが漁獲量で式(2)の確率密度W(N)に従っている。
#0:シミュレーション終了時刻Teの設定
#1:時刻 T=0 シミュレーション開始
#2:j=1回目のまき網操業 式(4)により乱数λt(j=1)の発生 時刻 T=λt(j=1)
式(2)により最小群れサイズN 0以上の乱数N(j)の発生 漁獲量N(j=1)
#3:T>=Te の場合、シミュレーション終了
T<Te の場合、j=j+1回目のまき網操業 式(4)により乱数λt(j)の発生 時刻 T=λt(1)+λt(2)+...=Σ j λt(j)
式(2)により最小群れサイズN 0以上の乱数N(j)の発生 漁獲量 N(j)
#4:T>=Teになるまでシミュレーション手続き(#3)を繰り返す
#5:時刻 T>=Te:シミュレーション終了
この終了時刻をTeに設定したシミュレーションを膨大な回数(例えば1万回)実行し、それぞれのシミュレーションで得られる累積漁獲量 L=N(1)+N(2)+...+N(Te)=Σ j=1 Te N(j)を計算し、その平均値E(L)(Te)と漁場で操業している漁船団の数(Gカ統)との積がTACの設定値(Cトン)と一致するように、つまり
C=G×E(L)(Te) (12)
となるように、シミュレーション終了後に本当の漁獲シミュレーションの終了時刻が決まる。 具体的には、式(12)が成立するまでシミュレーション・データの後ろの部分を切り詰めていくということになる。
例えば、シミュレーション・データ
T=λt(1)+λt(2)+...+λt(y-1)+λt(y)
L=N(1)+N(2)+...+N(y-1)+N(y)
の後ろの部分を落してシミュレーションの終了時刻の設定値をTe→Te'(<Te)に短縮し、式(12)が成立するか調べることになる。
最初の設定値Teで式(12)において左辺の方が大きくなってしまう場合、つまり、C>G×E(L)(Te)となってしまう場合は、終了時刻の設定値を大きくしてシミュレーションを最初からやり直す。 したがって、設定値Teは大きめに決める必要がある。
このように個々の漁獲時系列をシミュレーションして累積漁獲量分布を求める単純かつ自然な数値計算方法では、シミュレーション終了の条件(終了時刻Te)の設定に恣意性が避けられない。 これに対し、本発明の漁獲過程のシミュレーション(主要な計算ステップは段落[0021]〜[0023]に記述されている)では、式(5)を利用することにより終了時刻Teなどの曖昧なパラメータ設定の必要がなく、上に述べた単純ではあるが手間のかかる計算方法と同値な累積漁獲量分布をはるかに効率的に数値計算することができる。
[漁獲リスクの金融商品化の可能性の検討]
北部太平洋まき網漁業協同組合連合会によると、北部太平洋海区における大中型まき網漁業の許可隻数は平成14年1月現在で一そうまき81カ統、二そうまき9カ統で、いわし、
さば、かつお、まぐろ等35万トン、308億円(平成16年)を生産している(非特許文献9)。
大中型まき網漁船団(網船、魚群探索船、運搬船)一カ統、4〜5隻、乗組員50〜60人が、一年間操業した時、水揚する漁獲物の金額は如何程になろうか。 また、同じ海区、あるいは、同じまき網漁業協同組合に属する船団の水揚金額のバラツキは如何程になろうか。
ここで、北部太平洋海区とは、千葉県安房郡白浜町野島崎灯台を通る経線と東経180度の線との両線間における海域(オホーツク海及び日本海の海域を除く)をいう。
平成14年、全国では、かつお・まぐろ以外の魚種を漁獲対象とする大中型一そうまき網漁船団は85カ統あり、529,650トンの生産量、588.27億円の生産額をあげている(非特許文献10)。 船団一カ統当たりの漁業生産統計は以下のとおりである。
平均航海数 70.55回 平均出漁日数 175.16日 一航海当たり出漁日数 2.4827日 一カ統当たり平均生産量 6231.2トン 一カ統当り平均生産額 6.9208億円 一カ統・一航海当たり平均生産量 88.319トン 一カ統・一航海当たり平均生産額 981万円
1,000トン当たりの水揚げ単価 1.11億円
上記の統計値をもとに下記の設定値を使い本発明の漁獲シミュレーションを行なう。 ここでは、かつお・まぐろ以外の全ての漁獲対象魚種をただ一種の資源とみなし、まき網漁場の資源量は漁期平均資源量とし年間を通じて一定と仮定した。
航海数(t) 70回 航海当たり平均操業回数(λ) 2.5回 一まき当たり平均漁獲量E(N) 35.3トン 資源量指数(〈N P 〉) 70.6トン 一まき当たり最小漁獲量(N 0 ) 6.77トン シミュレーション回数(k) 10,000回
また、航海当たり平均操業回数をλ=2.5と仮定し一まき当たり平均漁獲量E(N)を決め、また資源量指数を〈N〉 P =2E(N)と仮定し(図2の道東沖マイワシ資源では〈N〉 P /E(N)=2.20)、式(1)を満足するように魚群の最小サイズN 0を決めた。
まき網漁船団の魚群発見および漁獲はポアソン過程に従い、t=70回の航海で操業回数の頻度分布は図12に示した正規分布に帰着する(平均λt=175回、標準偏差√λt=13.2回)。
この設定の資源状況は図13の実線で表され、シミュレーションによる一まき当たり漁獲量の頻度分布は図中の点(●)で示されている。
図14は一年間の漁獲成績(まき網漁業生産量)を累積確率分布として表したものである(横軸は水揚量、単位は1,000トン)。
実線はシミュレーション・データから計算した平均値(E(L)=6.26×10 3トン)と標準偏差(σ L =1.15×10 3トン)を持つ正規分布の累積密度関数であり、平均まき網回数が175回あるにも関わらず累積漁獲量は中心極限定理を満足していない。
また、シミュレーションによる大中型まき網漁業生産額は図15に示すように分布し(横軸は水揚金額、単位は10億円)、船団一カ統の平均水揚金額はE(S)=6.95億円となる。
こうして得られたシミュレーション結果は、漁業生産統計(表3)の一カ統当たり平均生産量および平均生産額に極めて近い。
図15の一年間の漁業生産額の確率分布から、25%の船団が6.07億円以下の水揚額に留まる一方、7.72億円以上の生産をあげる船団も25%おり、標準偏差(船団毎の年間水揚額のバラツキ)は1.27億円に達する。 同じ努力量で漁獲しているまき網漁船団であるが、1/4の確率で水揚金額は5.44億円(不漁船団の平均)に留まり、1/4の確率で水揚金額は8.64億円(大漁船団の平均)に達する。 大漁船団と不漁船団では水揚金額に一年間で3.2億円もの差が出る。
漁獲リスクを金融商品化した「漁業証券」の現物取引を考える。
証券は次のような契約とする:
「まき網漁業経営者(船団)にある額面の投資をすることと引き替えに、一年後、当該の取引契約漁船団による累積水揚金額を受けとる」
この取引契約は、始漁時に株式を発行して会社を設立し、終漁時に会社を解散して資産を株主に返還する、という事態と同じ効用を持っている。
さて、発行する漁業証券の価額をS bとし、終漁時累積水揚額のシミュレーションによる予測(図15)から期待される漁業者当たり水揚金額をE(S)とすると、投資家のリターンr bは
r b ={期待水揚額(E(S))−証券価額(S b )}/証券価額(S b ) (13)
となる。
この漁業証券の契約では、当該漁業者の累積漁獲量が期待値を下回るイベントが発生したら所期のリターンは達成されず、終漁時累積水揚額が証券価額を割り込んだ場合、元本は毀損する。
なお、予想水揚額の確率分布は累積漁獲量分布に適当な係数(平均水揚単価)を乗ずることによって得られるものと考えられる。
累積漁獲量分布から予想水揚額の確率分布への変換は産地卸売価格の変動(価格変動リスク)を考慮するともう少し複雑になり、例えば、取引価格が正規分布に従う(加法過程)、あるいは、価格の一日当たり相対変化率が正規分布に従う(乗法過程)と仮定し、日々の予測水揚量にこの仮定された確率過程に従って予測される当日の取引価格を乗じて水揚金額を算出することとなる。
リスクプレミアムとは、リスク資産(漁業証券)のリターンr bと無リスク金利r 0 (たとえば、銀行預金の固定金利)との差、Δr=r b −r 0である。
投資家が、漁業証券という、漁獲成績に応じて収益率が変動するものに投資をするために、収益が確定しているものと比較をして、どのくらい見返りが大きければ、投資をする気になるのか、その度合いをリスクプレミアムが表している。
仮想の金融機関が設計したこの仮想証券のリターンr bは、収益率の変動、つまり、漁獲リスクをコンピュータ・シミュレーションで数値計算し、金融機関が金融商品の開発に当たって想定する、投資額のリターンに関する効用(満足度)を一定とする無差別曲線から、このリスクに見合うリターンを具体的に決めることができる(銀行は過去の実績値を確率的に延長してリスクの許容量を計算する)。
ここでは、以下の効用関数を導入する:
(効用)=(リターン)−(リスク拒否度)×(標準偏差) 2
=r−ασ r 2 (14)
パラメータαはリスク拒否度を表し、リスク回避者には正の値を用い、リスク中立者にはゼロとする。
リスク回避漁業者を仮定しα=2.5と置くと、無リスク金利(r 0 =0.1%と置く)と期待効用が一定の値をとるリスクとリターンの軌跡(無差別曲線)は図16に示したようになる。
図16からプレミアムΔrは予測される漁獲リスク、すなわち、漁業証券の収益率の標準偏差σ rとともに大きくなる。
上述の仮想的なまき網漁業の水揚状況では、収益率([S-S b ]/S b )の変動(確率)は累積水揚額Sの確率分布(図15)と相似形になる。
この仮想漁業における漁獲リスクはσ r =20.2%であり、このリスクに見合う漁業証券投資のリターンはr b =10.3%となる(式(14)を数値解析することにより、σ rとr bが同時に得られる)。 このリスクとリターンは図16に(●)で示してある。
リスクプレミアムはΔr=10.2%である。
発行する漁業証券の価額S bは、漁業者当たり水揚金額の期待値E(S) に対し
S b =E(S)/(1+r 0 +Δr) (15)
であり、図15からS b =6.30億円となる。
期待リターンr bを上回る収益をあげる確率は46.2%あるが、元本割れする確率も32.2%ある。
こうして、漁業証券は、まき網漁業における漁獲量変動から生じる損失を制御可能なリスクへと変換する。
すなわち、漁業証券により漁獲リスクは資本市場に移転し、漁業者の将来の損益は確定する。
ところで、投資家はこの証券を購入するであろうか。
漁獲証券の元本割れというイベントが生じる確率が、例えば、同じ格付けの社債と比べてあまりかわらない場合、投資家はまき網漁業の漁獲リスクを取るということは、十分考えられる。
さらに、漁獲リスクは、株価変動、金利変動、為替変動など他の経済リスクから独立であるので、投資家のポートフォリオから見て組み入れた方がリスク分散とリターンを上げる効果があると見る発想が考えられる。
例えば、金融機関は金利や為替の変動に影響されやすいので、証券会社や漁業協同組合がテイラー・メードした漁業者向け取引に対して、銀行やその他の金融機関が契約に際して手数料を取ることで投機者の役割を引き受けることが考えられる。
この場合、銀行や金融機関は保険会社の機能を果たす。
ここで漁業者のリスク選好について考える。
漁業者がリスク回避的であれば漁獲成績の証券化によって終漁時の収入の確定(確実な利益)を望むはずである。
ところが、将来の確定よりも稀に得られる大きな利得を好み、リスク回避は退屈で漁獲は娯楽の一種であるという、漁獲をギャンブルとみなす漁業者もいるかもしれない。
リスクと不確定性を管理する方法についてのKahnemanとTversky(非特許文献11)による研究は、「予測理論」と呼ばれ、それはファイナンスおよび証券投資分野の研究者や実務家の間で熱烈な支持を集めている(非特許文献12)。
予測理論によれば、リスクの評価と意志決定(ギャンブルか回避か)は、利得あるいは損失のいずれかが生じるかという「参照基準点」に大きく依存する。
非特許文献12に引用されている、当初時点の富の金額を変化させる例証実験を、漁獲リスク選好の仮想実験に喩えると以下のようになる(漁獲シミュレーションによる漁獲成績は図15)。
先の漁獲シミュレーションにおける累積水揚額の中央値S 1/2 =6.83億円(当初所持金)を予め預けた上で、漁業者に次の選択が与えられる。
コイン投げをする
(勝つ)表が出れば0.89億円受取る
(負ける)裏が出れば0.76億円失う コイン投げをしない
非特許文献12では被験者の70%がコイン投げを選んだ。
別の被験者には次の選択肢を与える。
漁業者の当初所持金はゼロ。 次の選択と勝負に応じた利得が生じる。
コイン投げをする
(勝つ)第4分の3分位S 3/4以上の水揚:大漁船団の平均8.64億円
(負ける)第4分の1分位S 1/4以下の水揚:不漁船団の平均5.44億円 コイン投げをしない 中央値S 1/2 =6.83億円を獲得する
非特許文献12によると、今度は、コイン投げを選択した被験者はわずか43%であった。
両方の被験者集団に与えられた最終利得の選択は同じである、すなわち、漁獲シミュレーションにおける累積水揚額分布(図15)の第4分の3分位S 3/4以上の大漁船団の平均8.64億円か、第4分の1分位S 1/4以下の不漁船団の平均5.44億円、もしくは確実な中央値S 1/2 =6.83億円である。
それにもかかわらず、当初所持金のある漁業者はギャンブルを選択し、ゼロから始める漁業者はギャンブルを拒否する。
漁業者は始めのケースではS 1/2 、2番目のケースではゼロという参照基準点の額に基づいて意志決定を行う。
実際の漁獲では始漁時の参照基準点の額はゼロなので、予測理論によると、実際の漁業者の大半はリスク回避的ということになるが、43%の強気なリスク愛好漁業者はギャンブルを拒否しないと考えられる。
[プットオプションの設計]
漁獲リスクの移転により、終漁時結果の経済的損失の可能性が回避できるかわりに、大漁時の大儲けも放棄することになる。
シミュレーション(図15)では、一年間の漁業生産額が9.74億円以上となるのは2.5%と発生確率が低く、漁業者40人に一人、あるいは、40年に1回の出来事である。
漁業者、投資家の多様なリスク選好と受容能力に合った多様な金融商品・デリバティブの設計と開発により、漁業のインセンティブ向上のためにも、このようなデメリットを補うような、リスク移転の仕組み、すなわち、オプションも考えられる。
まき網漁船団の乗組員は給料の最低額が保障されているので、不漁時の経済的損失は船主が全て背負い込むことになる。
この漁獲リスクを回避し、漁獲成績に応じて歩合給を支払うために、経営者はまき網漁業資源を原資産とするデリバティブの「プットオプション」の購入を希望するだろう。
これにより大漁時の大儲けの可能性を放棄せずに漁獲リスク(不漁時の経済的損失)の回避が可能となる。
プットオプションの権利行使価格は船員の最低保障給料額に応じて設定すべきであるが、例えば、以下を契約するプットを漁業者が買ったとする:
「権利行使水揚額をS 1/4 =6.07億円(まき網漁船団の漁獲成績分布(図15)の第4分の1分位)とする」
オプションの一方の当事者、すなわち売り手は、オプションの買い手により支払われるプレミアムの収益の代わりにリスクを請け負う。
プレミアムは漁獲成績がふるわない不漁時に発生するリスクをプットの売り手に保証することになる。
こうして、終漁時累積漁獲量がS 1/4に達しない場合、権利行使すれば、終漁時漁獲成績の第4分の1分位水揚金額S 1/4が確保でき、船主は債務を負うこと無く船員に給料の最低保障額を支給できる。
一方、まき網漁の成績が良好であればプットオプションを買う時に支払ったプレミアムは「掛捨て」にして、産地卸売市場でせり売りで利益が決まり、船員に歩合を支給できる。
オプションの価格、プレミアムを適正・公正に決めることは、漁獲リスクの定量化と金融工学の手法により行なう。
プットオプションを買うと、そのオプションが行使される状況になれば差益を得る権利を持つ。
オプションが行使されない状況では、オプションは無価値で放棄される。
オプションの場合にも、その権利の値段であるオプション・プレミアムは、オプションを持っている時の期待利益を反映して決まる。
図17aには、プットオプション取引の損益図(単位は10億円)である。
これは、権利行使価格S 1/4と終漁時の実現水揚額の差(による利益)をグラフにしたものである。
その下の図bは漁獲成績の予想確率分布である(図15と同じグラフ)。
この二つのグラフにより、実現水揚額それぞれの損益ごとに予想確率を掛けて、それ(図c:実現水揚額に対する支払の期待額)を合計すれば期待利益(ヒストグラムの黒い部分の面積)が計算できる。
オプション・プレミアム、すなわち、プットオプションの価値はS put =1950万円となり、これで不漁時にS 1/4 =6.07億円を確保する権利が購入でき、まき網漁船団一カ統の乗組員50人程の人件費の保障額と船の燃料代などの費用が賄える。
図17で説明したオプション・プレミアムの計算方法は、終漁時に累積水揚額Sを実現する確率をf(S)と表すと、次式によって与えられる。
0で契約日の現在価値に割り引いた値である。
[まき網漁船団との取引契約]
水産業では、安定した価格での魚の出入荷を求め、漁業生産者と大型販売店との間で予約相対取引(定価売を含む)が行なわれているが、まき網漁業者と産地仲買人や水産物加工あるいは販売業者が次のような、仮想的な約定取引を契約したとする。
「仲買人・加工販売業者は、まき網船団一カ統当たり年間の期待水揚金額を約定価格S 0とし、契約漁業者が一年間に水揚する漁獲物(現物)を買受ける」
通常、契約価格は水揚金額の期待値より低いと考えられる。 これは売り手(漁業者)がリスク回避のために支払うコスト、投機家(仲買人)がリスクを負担することへの報酬となる。
ところが、漁期半ば(契約日よりT日目)、仲買人・加工販売業者は事業を撤退あるいは縮小するため、約定取引を中途で手仕舞いすることになった。
この場合、取引契約を「転売」するためのこの時点における適正・公正な「契約の価格」はいくらかということ(値洗い)が問題となる。
この時点で新たに評価替えを行なった約定値段(すなわち時価評価額)は、始漁期の契約当初の価格に換算すると(契約日現在の換算価格をS T )、この時点までの累積漁獲量の実現値Δ R S(0,T)と以降、契約満期日(T=365)までの累積水揚量の期待値ΔS(T,365)との和(契約日現在の価値)、S T =Δ R S(0,T)+ΔS(T,365)、とすることが適正・公正と考えられる。
ここで、Δ R S(0,T)はT日目までの累積水揚金額を契約日現在の価値に換算した金額、ΔS(T,365)はT日目から終漁日までの累積水揚金額を契約日現在の価値に換算した金額である。
したがって、この時点までの漁獲成績の良し悪しによって時価評価損益が生じ、契約日現在に換算した金額で損益は、S T −S 0となる(契約漁船団の漁獲成績が良く、期待を大きく上回る水揚量が終漁時に見込まれたとき、差益が生じる)。
この時点Tで仲買人・業者は水揚から金額Δ R S(0,T)に相当する現物を既に受け取っているので、転売価格(の契約日現在に換算した価値)は、S T −Δ R S(0,T)=ΔS(T,365)となり、終漁日が近づくにつれてゼロに近づいて行く。
この契約の手仕舞いは、漁業者の「買戻し」による取引終了の場合でも、同様の値洗いの問題となる。
転売または買戻しの価格決定には、その中途時点から終漁時までのまき網漁獲量を予測する必要がある。
これは、本発明の複合ポアソン過程による漁獲シミュレーションによって行なうことができる。
[モラルハザードの検証]
図12より、一年間に70回出漁し、まき網回数が150回以下となる確率は2.5%であり、これは漁業者40人に一人、あるいは、40年に1回の出来事である(これは正規分布の2σに相当する)。
一年間の平均まき網回数である175回、および、150回に操業回数を固定して漁獲シミュレーションを行なった結果の漁獲成績分布を図18に示した。
このシミュレーションは図13の一網当たり漁獲確率を用い実行したが、実際にも、同じ海区で操業する各まき網船団から報告された漁獲量データから漁獲確率分布図は作成できる。
さて、175回操業した場合、漁獲量(単位は1,000トン)の中央値はL 1/2 (#175)=6.15、平均値はL(#175)=6.26である。
また、漁獲量がL 1/40 (#175)=4.51以下となるのは2.5%であり、これは漁業者40人に一人、あるいは、40年に1回の出来事である(これは分布の第100分の2.5分位数に相当)。
一方、150回操業した場合、漁獲量の中央値はL 1/2 (#150)=5.23、平均値はL(#150)=5.36である。
また、第100分の2.5分位数はL 1/40 (#150)=3.76となる。
図19には、まき網回数175回(実線)、および、150回(点線)の場合の水揚量の累積確率分布を示した。
終漁時までに平均的な回数のまき網操業を行なった(例えば175回と報告した)にも関わらず、達成した累積漁獲量がL 1/40 (#175)=4.51以下であるとしたら、この漁獲成績は極めて確率の小さい出来事である。
このイベント発生は、当事者の一漁期のまき網回数が、実際は、同じ海区で操業した各まき網船団から報告された平均回数より大きく下回っていた(例えば150回以下)、とした方が自然である。
したがって、契約時に、終漁時の累積漁獲量が、本発明の漁獲シュミレーション法により計算されたある一定値以下の確率となった場合はリスクの移転をしない旨の免責事項を設定することにより、モラルハザードを回避することができる。
P =260トン)。
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