【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、水素化ニトリルゴムの製造方法における改善に関する。 【0002】 【従来の技術】水素化ニトリルブタジエンゴム(HNB R)は、そのユニークな性質の組合せ(高い引張強度、耐磨耗性、高い耐油性および耐酸化性を含む)が知られている有用なエラストマーである。 HNBRは、有機溶媒中での水素による、NBRの均質触媒化された選択的水素化によって製造することができる。 本発明において、 「選択的水素化」とは、炭素-窒素三重結合を無傷で残したまま、オレフィン性の炭素-炭素二重結合を水素化することを意味すると解される。 ここで、「炭素-窒素三重結合を無傷で残したまま」なる表現は、NBR中に初めに存在するニトリル基の7%未満、好ましくは5% 未満、より好ましくは3%未満、最も好ましくは1.5 %未満が水素化されることを意味する。 水素化は、IR またはNMRスペクトルによってモニターすることができる。 【0003】通常、ロジウムおよびルテニウム化合物を用いて、このような水素化を触媒させる(例えば、ドイツ特許DE-PS 2539132、ドイツ特許出願公開DE-OS 3337294、3433392、3529 252、3540918および3541689、欧州特許出願公開EP-A 134023および298386、 ならびに、米国特許No.3,700,637、4,464, 515、4,503,196および4,795,788を参照)。 【0004】好ましい触媒は、以下の式を有する: 【化1】(R m B) l RhX n [式中、各Rは、独立して、C 1 -C 8アルキル基、C 4 -C 8シクロアルキル基、C 6 -C 15アリール基またはC 7 -C 15アリールアルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、イオウまたはスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素または陰イオン、好ましくはハライド、より好ましくはクロリドまたはブロミドイオンであり、lは2、3または4 であり、mは2または3であり、nは1、2または3、 好ましくは1または3である]。 好ましい触媒は、トリス-(トリフェニルホスフィン)-ロジウム(I)-クロリド、トリス-(トリフェニルホスフィン)-ロジウム(III)- クロリドおよびトリス-(ジメチルスルホキシド)-ロジウム(III)-クロリド、および式:[(C 6 H 5 ) 3 P] 4 RhHで示されるテトラキス-(トリフェニルホスフィン)-ロジウム水素化物、ならびに、トリフェニルホスフィン部分がトリシクロヘキシルホスフィン部分によって置換されている対応する化合物である。 ポリマー重量を基準に、 0.01〜1.0%、好ましくは0.02〜0.6%、最も好ましくは0.06〜0.12%の範囲内の量が適している。 【0005】この水素化反応は溶液中で行うことができる。 溶媒は、ニトリルブタジエンゴムを溶解するものでなければならず、この制限は、未置換の脂肪族炭化水素の使用を除外する。 適当な有機溶媒は、芳香族化合物であり、6〜12個の炭素原子のハロゲン化アリール化合物を包含する。 好ましいハロゲンは塩素であり、好ましい溶媒はクロロベンゼン、特にモノクロロベンゼンである。 使用しうる他の溶媒には、トルエン、ハロゲン化脂肪族化合物(特に、塩素化脂肪族化合物)、ケトン(例えば、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン)、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドが含まれる。 溶媒中のポリマーの濃度は、特に限定されないが、1〜30重量%、好ましくは2.5〜20重量%、より好ましくは6〜15重量%、最も好ましくは1 0〜15重量%の範囲内が適している。 溶液の濃度は、 水素化しようとするコポリマーゴムの分子量に依存するであろう。 比較的高い分子量のゴムは、溶解が困難になるので、比較的低い濃度で使用される。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】最近になって、モノクロロベンゼン溶媒中でNBRを水素化するために上記のロジウム触媒を使用したときに、この方法を行うプラント装置においてかなりの量の腐食が存在することが観察された。 腐食の過程を開始しうる明らかな原因物質が存在しないので、このような腐食の出現は予想外である。 この腐食は、プラント装置の大きな損傷を導き、コストのかかる修復作業を必要とし、製造停止時間につながるので問題となる。 さらに、このような腐食は、生成物汚染の結果を導くこともあり、これは明らかに生成物の品質に重大な影響を及ぼす。 即ち、腐食の存在は、全体の生産性に重大な影響を有する。 従って、本発明の目的は、水素化ニトリルゴムの製造方法の改善を提供することであった。 【0007】 【課題を解決するための手段】水素化ニトリルゴムを製造するプラント装置における上記の腐食の出現は、比較的多量のHClの存在によるものであることがわかった。 反応混合物中にこの酸の明らかな供給源は存在しないので、その出現は全く予想外のことであった。 このH Clの生成は、NBRの水素化を行う特定の条件に独特の結果であることがわかった。 HClは、実際には、この反応条件下でのモノクロロベンゼン溶媒のヒドロ-脱ハロゲン化(hydro-dehalogenation)によって生成する。 【0008】この反応混合物に、エポキシ化大豆油(E SBO)などの適合性の弱塩基性添加剤を添加すると、 上記の重大な問題が軽減されることがわかった。 【0009】即ち、本発明は、以下の工程: (a)ニトリルブタジエンゴムを、ロジウムに基づく触媒を用いてモノクロロベンゼン溶媒中で接触水素添加する工程;および(b)所望の水素化度が達成された後に、反応混合物に適合性の弱塩基性添加剤を添加する工程;を含んでなる水素化ニトリルブタジエンゴムの製造方法を提供するものである。 【0010】さらに、本発明は、ニトリルブタジエンゴムを、ロジウムに基づく触媒を用いてモノクロロベンゼン中での接触水素添加によって水素化するプラント装置において腐食を軽減する方法であって、所望の水素化度が達成された後に、反応混合物に適合性の弱塩基性添加剤を添加することを含んでなる方法を提供するものである。 【0011】 【発明の実施の形態】本発明において、「適合性の弱塩基性添加剤」とは、水素化反応混合物において生成するHClを中和することができるが、ゴムそれ自体に、およびこのゴムから製造されるコンパウンドの性質に有害作用を持たない弱塩基である。 好ましくは、この添加剤は液体である(これが、プラント環境において使用するのが容易であるため)。 このような添加剤の非限定的な例には、第一芳香族アミン、例えばオクチルアミン、および好ましくは、脂肪酸グリセリドのエポキシ化誘導体 (これらは、当分野で既知の方法により、対応する油脂から製造される)が含まれる。 【0012】適当なエポキシ化脂肪酸グリセリドには、 エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油(ESBO)、エポキシ化コーン油、エポキシ化ヤシ油、エポキシ化綿実油、エポキシ化オリーブ油、エポキシ化パーム油、エポキシ化パーム核油、エポキシ化ピーナツ油、エポキシ化タラ肝油、エポキシ化桐油、エポキシ化牛脂、エポキシ化バターおよびこれらの混合物が含まれる。 【0013】好ましい添加剤は、エポキシ化亜麻仁油、 ESBO、エポキシ化コーン油、エポキシ化綿実油、エポキシ化オリーブ油、エポキシ化ピーナツ油、エポキシ化桐油およびこれらの混合物である。 最も好ましい添加剤はESBOである。 【0014】以下の表1[例えば、Organic Chemistry 第5版、Morrison and Boyd、Allyn and Bacon Inc.) は、対応する油脂を列挙するものであり、それぞれにおける構成脂肪酸の割合を示すものである。 【表1】 【0015】適合性の弱塩基性添加剤の添加量は、約0.01〜10phr(ポンド/100ポンドのゴム)、 好ましくは約0.05〜5phr、より好ましくは約0. 1〜2.0phrの範囲内である。 最も好ましくは、適合性の弱塩基性添加剤として、ESBOを約0.1〜2. 0phrの量で使用する。 【0016】本発明において、NBRなる表現は、(a) 85〜50重量%、好ましくは82〜52重量%の共役ジエン、(b)15〜50重量%、好ましくは18〜48 重量%の不飽和ニトリル、および(c)0〜10重量%、 好ましくは0〜8重量%の、共役ジエン(a)および不飽和ニトリル(b)と共重合しうる1またはそれ以上の他のモノマー、からなるコポリマーを包含すると解される。 【0017】適当な共役ジエン(a)は、例えば、1,3- ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンおよび1,3-ペンタジエンであり、適当な不飽和ニトリル(b)は、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルである。 【0018】適当な他のモノマー(c)は、芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、o-、m-もしくはp-メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンおよびビニルピリジン、3〜5個の炭素原子を含むα,β-不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸、ならびに、4〜5個の炭素原子を含むα,β-不飽和ジカルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸およびイタコン酸、さらに、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N-メチロールアクリルアミドおよびビニルアルキルエーテル(アルキル部分に1〜4個の炭素原子を含む)である。 【0019】好ましいニトリルゴムは、0℃以下のガラス転移温度、通常は10〜150(好ましくは15〜1 00)のムーニー粘度(ASTM 1646;ML1+4 /100℃)、ならびに、重量平均Mwとして測定して5 00〜500,000、好ましくは5,000〜400, 000、より好ましくは10,000〜350,000、 最も好ましくは15,000〜300,000の範囲内の平均分子量を有する。 分子量Mwは、ポリスチレンを標準として用いて、ゲル透過クロマトグラフィーによって測定することができる。 【0020】ニトリルゴムの水素化を制御して、異なる水素化度を有するポリマーを得ることができる。 例えば、残留するオレフィン性の炭素-炭素二重結合の含量が20%、10%、5%、あるいは5%未満であるポリマーを製造することができる(即ち、最初に存在していたオレフィン性の炭素-炭素二重結合の80%、90 %、95%、あるいはそれ以上が水素化されたポリマー)。 水素化度は、IRまたはNMRスペクトルによって測定することができる。 【0021】NBRが水素化されるプラント装置の腐食は、大きな損傷を引き起こし、コストのかかる修復作業を必要とし、それがなければ連続法で行う製造を停止させる結果になる。 腐食は、特に、触媒回収領域において見られる。 この腐食の問題は、水素化反応混合物における比較的多量のHClの存在によるものであること、ならびに、このHClがモノクロロベンゼン溶媒のヒドロ- 脱ハロゲン化によって生成すること(反応混合物中のベンゼンの検出によって確認した)がわかった。 これまで、このような触媒系がHClを生成しうることは報告されていなかったので、この発見は予想外である。 我々は、相当な量のHClの生成を導くのは、ロジウムに基づく触媒、モノクロロベンゼン溶媒、水素およびNBR の組合せであることを示した(即ち、相当な量のHClが生成するためには、4つの成分の全てが存在することが必要である)。 【0022】いずれの特定の理論または作用機構に拘束されるものではないが、HClは、以下の反応式1に示す機構によって生成するものと考えられる。 反応式1 は、NBRの水素化中の副反応として、ベンゼンおよびHClが生成することを示す。 【化2】 【0023】我々は、この問題を、水素化が完了した後 (即ち、所望の水素化度が達成された後)、ポリマーセメントをさらに加工する前に[即ち、アフターブレーク(af ter-break)において]、ポリマーセメントに適合性の弱塩基性添加剤(例えば、ESBO)を添加することによって解決しうることを示した。 適合性の弱塩基性添加剤の例は、上記した通りであり、その添加量は、約0.01 〜10phr(ポンド/100ポンドのゴム)、好ましくは約0.05〜5phr、より好ましくは約0.1〜2. 0phrの範囲内である。 最も好ましくは、適合性の弱塩基性添加剤として、ESBOを約0.1〜2.0phr の量で使用する。 HNBRセメントに対して1.2ph rのESBOを添加すると、約2pH単位のpHの増加が引き起こされる。 【0024】実際的には、水素化反応が完了した後に、 過剰の水素を反応器から除去し、セメントを保持タンクに移し、ここで適合性の弱塩基性添加剤をセメントに添加する。 HClの中和を確実にするのに十分な時間撹拌した後、セメントを通常のように処理する。 【0025】コンパウンド化の研究は、ESBOの添加が、セメントから調製した生成物のコンパウンド物理特性または硬化挙動に有意の作用を持たないことを示す。 【0026】 【実施例】以下に非限定的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。 実施例1 :NBRの水素化 この典型的な実験において、固体含量が15%のポリマーを、モノクロロベンゼンに溶解した。 このセメント溶液に窒素を導入し、次いで、完全撹拌下に1200ps iで水素加圧した。 反応器の温度を約110℃まで上昇させ、モノクロロベンゼン中のトリス-(トリフェニルホスフィン)-ロジウム(I)クロリド触媒およびトリフェニルホスフィン共触媒の溶液を、水素下に反応器に添加した。 反応期間中は、温度を138℃に、圧力を1200 psiに維持した。 水素化度を、反応期間中に採取した試料のFTIR分析によってモニターした。 【0027】この実施例においては、反応混合物にES BOを添加しなかった。 即ち、この実施例は、比較目的のためだけに挙げたものである。 【0028】 実施例2 :NBRの水素化後のESBOの添加 この実施例においては、NBRの水素化を上記と全く同様に行ったが、反応の完了後に、反応器に窒素を導入した(過剰の水素を除去するため)。 次いで、この混合物を第2の容器に移し、ESBOを添加した。 【0029】以下の表2からわかるように、この反応に由来するセメントの代表的試料にESBOを添加すると、約2単位のpHの増加が引き起こされた。 【0030】 【表2】 【0031】スチームの注入(モノクロロベンゼンを除去するため)によって、上記実施例の両方からゴム片を得た。 このゴム片を、オーブン中80℃で乾燥し、以下のコンパウンド化の研究において使用した。 【0032】 実施例3 :物理特性に及ぼすESBOの効果 以下の実施例において、Carbon Black IRB#7は、Indust ry Reference Black #7(N330タイプ)であり;Naugard 4 45は、Uniroyal Chemicalから入手し;Vulkanox ZMB-2/ C5は、Bayerから入手し;Vulkacit CZ/EG-Cは、Bayerから入手し;Vulkacit Thiuram/Cは、Bayerから入手し;P lasthall TO TMは、CPHallから入手し;Diak #7は、Du pontから入手し;Vulcup 40KEは、Herculesから入手した。 【0033】表3に示すように0、0.8または1.2p hrのESBOを含有するHNBRを用い、表4および表5に示した配合に従って、一連のコンパウンドを調製した(イオウおよびペルオキシドの両硬化系を用いた)。 これらのコンパウンドを通常の試験操作にかけ、その結果を表6〜表8に示した。 【0034】 【表3】 【0035】 【表4】 【0036】 【表5】 【0037】 【表6】 【0038】イオウおよびペルオキシド硬化させたコンパウンドの両方において、コンパウンドのムーニースコーチ(これは、ゴムコンパウンドが硬化する速度を測定する)は、各タイプの硬化系についてほぼ一致することがわかった。 【0039】 【表7】 【0040】全てのコンパウンドが、コンパウンドの硬化特性を測定するための別の方法であるMDR試験において同等の硬化挙動を示した。 この試験を用いて、粘度、スコーチ特性、硬化速度およびモデュラスの情報を得ることができる。 【0041】 【表8】 【0042】未エージングの応力-歪データは、全ての加硫物が、同じ硬度、極めて類似した引張強度ならびに伸びおよびモデュラスを呈することを示した。 【0043】結論として、一部の物理特性にわずかの相違が観察されたが、全体としての結果は、NBRの水素化後の水素化反応混合物へのESBOの添加が、ポリマーに対して有害作用を持たないことを裏付けるものであった。 フロントページの続き (72)発明者 カール・ウォルター・ボン・ヘレンズ カナダ、エヌ7エス・3ダブリュー2、オ ンタリオ、ブライツ・グローブ、ポスト・ オフィス・ボックス484、ウィンズロー 1953番 Fターム(参考) 4J100 AM02Q AS04P CA31 DA01 DA09 DA25 HA04 HC05 HC39 HC43 HC90 HD22 HE14 HE41 HF01 |