【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、シートあるいはベッド等に採用されるクッション構造に関する。 【0002】 【従来の技術】従来の車両用シートは、シートフレームにばね材を乗せ、その上にフォーム材、ロック材あるいは綿等のパッド材を設け、さらにビニールレザー、織布、革等の表皮で上張りされたものが一般的である。 【0003】また、弾性力あるいは衝撃吸収力を高めるために、粘弾性材料をパッド材に埋設したものも提案されている。 【0004】一方、車両用シート以外のシートあるいはベッドは、フレームに乗せたパッド材を表皮で被覆したものや、クッション性を高めるためにばね材をさらに設けたものが一般的である。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】上記従来のシートあるいはベッドにおいては、ばね材やパッド材により所定のクッション性は付与されているが、肉厚が全体的に厚く、重たくて高価なものが多い。 【0006】本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、安価かつ薄型軽量で、種々のバネ定数を有し、所定のクッション性を確保したクッション構造を提供することを目的としている。 【0007】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1に記載の発明は、パッド材と、パッド材に埋設された3次元ネットとを備え、該3 次元ネットを上部メッシュ層と、下部メッシュ層と、該上部及び下部メッシュ層を結合する多数のパイルを有するパイル層とで構成し、上記3次元ネットを上記パッド材と一体発泡させたことを特徴とするクッション構造である。 【0008】また、請求項2に記載の発明は、上記3次元ネットの内部に上記パッド材を含浸させたことを特徴とする。 【0009】さらに、請求項3に記載の発明は、上記上部及び下部メッシュ層の少なくとも一方をパッド材含浸防止シートで被覆し、該パッド材含浸防止シートにより上記3次元ネットの内部へのパッド材の侵入を防止したことを特徴とする。 【0010】また、請求項4に記載の発明は、上記パッド材含浸防止シートに熱可塑性ポリウレタンエラストマ製シートを使用したことを特徴とする。 【0011】また、請求項5に記載の発明は、上記3次元ネットにワイヤを挿入した後、一体発泡させたことを特徴とする。 【0012】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。 図1乃至図3は、本発明の実施形態1にかかるクッション構造を採用したシートSを示しており、シートクッション2と、シートクッション2に傾倒自在に取り付けられたシートバック4 とを備えている。 【0013】図4に示されるように、シートクッション2は、ウレタン系パッド材6と、パッド材6の中心部に埋設された3次元ネット(以下、3Dネットと称する) 8とから成り、3Dネット8はパッド材6と一体発泡され、パッド材6は3Dネット8の内部まで侵入している。 【0014】図5及び図6は、3Dネット8を構成する立体メッシュニットを示しており、基布の織りをハニカム状(六角形)のメッシュに形成するとともに、上部メッシュ層10と下部メッシュ層12とを多数のパイル1 4からなるパイル層で結合した3層の立体的なトラス構造としている。 【0015】上部メッシュ層10と下部メッシュ層12 の各糸は、多数の細い糸をよったもので形成する一方、 パイル14の各々は1本の太い糸で形成し立体メッシュニットに剛性を付与している。 【0016】表1は、上部メッシュ層10、下部メッシュ層12、及び、パイル層を形成するパイル14として使用した材料の物性値を示している。 【表1】 【0017】表1において、「原着黒」とは材料を黒く着色したものである。 また、dはデニールを表し、1d は1グラムの糸を9,000m引っ張った時の太さの単位であり、210dは1グラムの糸を9,000/21 0=42.9m引っ張った時の太さの糸である。 さらに、fはフィラメントを表し、糸が何本の細い糸で構成されているかを示す単位で、60fは60本の細い糸で1本の糸を構成している。 また、引張強度のkg/5c mとは、5cm幅のメッシュを長手方向に引っ張った時の強度である。 また、パイル組織の「直行」とは上部メッシュ層10の六角形と下部メッシュ層12の六角形とが真上から見た場合に完全に重なった状態を示しており、「クロス」とは両者がズレている状態を示している。 【0018】なお、立体メッシュニットの材料としては熱可塑性樹脂が好ましく、繊維状に成形可能で、それを織物にした場合にシート地として要求される強度を発現しうるものであればよい。 具体例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂類、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド樹脂類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン樹脂類、あるいは、これらの樹脂を2種類以上混合した樹脂などである。 【0019】また、各パイル14の繊維太さとしては3 80d以上で、好ましくは600d以上がよく、立体メッシュニットに加わる着座者の荷重を六角形メッシュの変形とパイルの倒れにより支持することができ、応力集中が起きない柔構造となる。 【0020】図7は、3Dネット8に採用された立体メッシュニットの荷重−たわみ曲線を示している。 この曲線は、立体メッシュニットを周囲長653mmに切り取ったものに、φ76の圧縮板を押圧することにより得られた曲線で、ウレタン等の弾性材に比べ非線形のきれいな曲線となっている。 また、ヒステリシスが大きいことから、自動車用シートに採用すると、外部からの振動エネルギを効率的に吸収することができる。 【0021】図8は、上部及び下部メッシュ層10,1 2として使用される種々の基布組織を模式的に示しており、(a)は図5に示されるハニカム状(六角形)メッシュを、(b)は菱形メッシュを、(c)は鎖挿入組織をそれぞれ示している。 【0022】また、図9は、上部及び下部メッシュ層1 0,12を結合するパイル組織を模式的に示しており、 (a)は図6に対応するストレート状組織を、(b)は8の字ストレート状組織を、(c)はクロス状組織を、 (d)は8の字クロス状組織をそれぞれ示している。 【0023】表2は、上部メッシュ層10、下部メッシュ層12、及び、パイル層を形成するパイル14として使用した材料及び他の種々の材料の物性値を示している。 【表2】 【0024】図10は、実施形態1の変形例を示しており、シートクッション2Aは、ウレタン系パッド材6 と、パッド材6の下部に埋設された3Dネット8とから成り、3Dネット8はパッド材6と一体発泡され、パッド材6は3Dネット8の内部まで侵入している。 【0025】図11は、本発明の実施形態2にかかるクッション構造を採用したシートクッション2Bを示している。 このシートクッション2Bは、ウレタン系パッド材6と、パッド材6の中心部に埋設された3Dネット1 6とから成り、3Dネット16はパッド材6と一体発泡されているが、パッド材6は3Dネット16の内部には侵入していない。 【0026】さらに詳述すると、シートクッション2B は、3Dネット8の上面及び下面を熱可塑性ポリウレタンエラストマ製のパッド材含浸防止シート18で被覆し、その全周を振動溶着により接合した後、ウレタンと一体発泡させたものである。 発泡時、パッド材の3Dネット8への侵入はパッド材含浸防止シート18により妨げられている。 【0027】パッド材含浸防止シート18としては、例えばポリウレタン弾性繊維100%の細い連続フィラメントをランダムに積層した構造のエスパンシオーネ(登録商標:鐘紡(株)製)と呼ばれる薄膜等を使用すると、 パッド材6と3Dネット16とが一体化し、シートクッション2Bに着座時、3Dネット16に違和感を感じることがない。 【0028】また、パッド材が3Dネット8の内部に侵入していないことから、後述するように、平衡点廻りを含む通常使用域におけるバネ定数が全体として小さくなる。 【0029】図12は、実施形態2の変形例を示しており、シートクッション2Cは、ウレタン系パッド材6 と、パッド材6の下部に埋設された3Dネット16Aとから成る。 このシートクッション2Cは、3Dネット1 6Aがパッド材6の下部に埋設された構成のため、発泡に際し、3Dネット8の上面のみシート18で被覆し、 下面は被覆されていない。 【0030】また、図13は、実施形態2の別の変形例を示しており、シートクッション2Dは、ウレタン系パッド材6と、パッド材6の上部に埋設された3Dネット16Bとから成る。 このシートクッション2Dは、3D ネット16Bがパッド材6の上部に埋設された構成のため、発泡に際し、3Dネット8の下面のみシート18で被覆し、上面は被覆されていない。 【0031】図14は、本発明の実施形態3にかかるクッション構造を採用したシートクッション2Eを示している。 このシートクッション2Eは、3Dネット8の周囲にU字状に折曲したワイヤ20を挿入した後、パッド材6と一体発泡することによりパッド材6の中心部に3 Dネット8を埋設している。 【0032】この構成は、3Dネット8の変形がワイヤ20により制約を受けるため、バネ感が増大して耐荷重域が増大し、底付き感が軽減される。 【0033】なお、上記実施形態において、3Dネット8,16,16A,16Bをウレタン系パッド材6と一体発泡させたが、図10あるいは図12に示されるようにパッド材6の下部に3Dネット8,16Aを埋設した構成にあっては、図15乃至図17に示されるように、 3Dネット8をウレタン系パッド材20と矩形状に一体発泡する一方、シート形状に発泡させたパッド材6の下部に矩形状凹部を形成し、この凹部にパッド材20を埋め込むこともできる。 【0034】なお、図15乃至図17の構成に代えて、 図18乃至図20に示されるように、3Dネット16A をパッド材20と矩形状に一体発泡させたものも使用できる。 【0035】また、図11あるいは図13の構成において、3Dネット8の上部メッシュ層10として図8(a) に示されるハニカム状メッシュの基布組織を採用する一方、下部メッシュ層12として図8(c)に示される鎖挿入組織の基布組織を採用することもできる。 この場合、 ハニカム状メッシュの基布組織に比べ、鎖挿入基布組織は目が細かいため、パッド材6との一体発泡に際し、3 Dネット8の下面をシート18で被覆しなくても、3D ネット8の内部にパッド材6が侵入することはない。 【0036】図21は、表2に示される品番09002 Dの3Dネットを採用し、パッド材を含浸させた本発明にかかるクッション構造の静特性を示すグラフで、図2 2及び図23は品番90012−2の3Dネットを採用し、パッド材を含浸させたクッション構造と、パッド材を含浸させなかったクッション構造の静特性をそれぞれ示すグラフである。 このグラフは、φ98の圧縮板を5 0mm/分の速度で24.8mm圧縮することにより得られたものである。 図中、k1〜k6はバネ定数を示しており、表3、表4、表5のバネ定数は、図21、図2 2、図23の静特性にそれぞれ対応している。 【0037】また、図24は、3Dネットを埋設した位置、及び、図21乃至図23の静特性を測定した部位(Hポイント)を示しており、Hポイントは着座者の坐骨結節部に略対応する。 【表3】 【表4】 【表5】 【0038】図25は、図21乃至図23の静特性を示すクッション構造と、ウレタンのみで作製したクッションの動特性を示すグラフであり、3軸加振機を使用してランダム波を入力することにより得られたものである(被験者体重:94kg)。 【0039】図25のグラフからわかるように、3Dネットにウレタンを含浸させたクッション構造はバネ定数が全体として大きく、特に品番09002Dを採用したクッション構造は、高周波領域における減衰性は劣るが、大荷重に対応でき低周波領域の減衰性に優れている。 一方、3Dネットにウレタンを含浸させなかったクッション構造はバネ定数が全体として小さく、高周波対応の構造である。 【0040】本発明にかかるクッション構造は、種々の3Dネットとウレタンとの組み合わせにより任意のバネ定数を提供できるので、車両用シートに採用する場合、 「あしまわり」の剛性に応じて適切なクッション構造を選択することができる。 【0041】なお、図21乃至図23の静特性は、3D ネットをパッド材の下部に埋設した場合のものであるが、パッド材の上部に埋設したものにあっては、シートの通気性を向上させることができるとともに、パッド材の中心部に埋設したものにあっては、3Dネットの選択によりストローク量を調整することができる。 【0042】立体メッシュニットを3Dネットとして使用した本発明にかかるクッション構造は、上部あるいは下部メッシュ層をハニカム状に形成するとともに、多数のパイル28の各々を1本の太い糸で形成し、かつ、トラス構造にしていることから、次のような特徴を有している。 (1)個々のパイルが弾性機能を有しているので、材質、繊維太さ、組織、機械的特性を変えることにより硬度、弾力、フィット性をコントロールすることができる。 (2)ハニカム形状の形状記憶機能を利用することにより、復元性を高め、へたりにくくすることができる。 (3)トラス構造により、へたりにくい薄型の弾性構造物を形成し、圧力分散と吸収及びフィット性の向上を図ることができる。 (4)ハニカム・トラス構造の各部が独立した均一なクッション部材であるため、体圧分散(低圧で均一な体圧分布)に優れ、体格差を吸収するとともに、やせ形で肉付きの悪い人に対しては比較的疲労に対して鈍感な座骨結節部に低圧で体圧集中させることにより前ズレを防止することができる。 さらに、体重移動性に優れ、姿勢変化が容易で、かつ、対応しやすく、摩擦剪断力も低減する。 (5)ハニカム・トラス構造により、ハンモック状態(局部的に圧力が集中し側圧感が強い状態)にならず、 自然な姿勢支持が可能となり、ハニカム各部の弾性効果により異物感も減少する。 (6)ウレタンを含浸させない場合、ハニカム・トラス構造の内部に空気層が形成され、透湿性と通気性に優れている。 (7)ハニカム・トラス構造により強度アップになっている。 【0043】 【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。 本発明のうちで請求項1に記載の発明によれば、3次元ネットを上部メッシュ層と、下部メッシュ層と、上部及び下部メッシュ層を結合する多数のパイルを有するパイル層とで構成し、3次元ネットをパッド材と一体発泡させたので、パッド材のバネ性を3次元ネットで補填することができ、薄型で軽量のクッション構造でも所定のクッション性を確保することができる。 【0044】また、請求項2に記載の発明によれば、3 次元ネットの内部にパッド材を含浸させたので、3次元ネットを構成する各パイルにパッド材が付着して剛性が増大することから、バネ定数の大きいクッション構造を提供することができる。 【0045】さらに、請求項3に記載の発明によれば、 パッド材含浸防止シートにより3次元ネットの内部へのパッド材の侵入を防止したので、3次元ネットの内部が気孔構造となることから、バネ定数の小さいクッション構造を提供することができる。 【0046】また、請求項4に記載の発明によれば、パッド材含浸防止シートに熱可塑性ポリウレタンエラストマ製シートを使用したので、パッド材含浸防止シートが硬化することなくパッド材と一体化し、着座時、違和感を感じることがない。 【0047】また、請求項5に記載の発明によれば、3 次元ネットにワイヤを挿入した後、一体発泡させたので、バネ感が増大して耐荷重域が増大し、底付き感が軽減される。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施形態1にかかるクッション構造を採用したシートの斜視図である。 【図2】 図1のシートの側面図である。 【図3】 図1のシートの正面図である。 【図4】 図1のシートを構成するシートクッションの部分断面斜視図である。 【図5】 図4のシートクッションに埋設された3Dネットの部分拡大正面図である。 【図6】 図5の3Dネットの部分断面側面図である。 【図7】 3Dネットとして使用された立体メッシュニットの荷重−たわみ曲線である。 【図8】 3Dネットの上部及び下部メッシュ層に使用される種々の基布組織を模式的に示しており、(a)は図5に示されるハニカム状(六角形)メッシュを、 (b)は菱形メッシュを、(c)は鎖挿入組織をそれぞれ示している。 【図9】 上部及び下部メッシュ層を結合するパイル組織を模式的に示しており、(a)は図6に対応するストレート状組織を、(b)は8の字ストレート状組織を、 (c)はクロス状組織を、(d)は8の字クロス状組織をそれぞれ示している。 【図10】 実施形態1の変形例にかかるシートクッションの部分断面斜視図である。 【図11】 本発明の実施形態2にかかるクッション構造の部分断面斜視図である。 【図12】 図11の変形例にかかるクッション構造の部分断面斜視図である。 【図13】 図11の別の変形例にかかるクッション構造の部分断面斜視図である。 【図14】 本発明の実施形態3にかかるクッション構造を示しており、(a)はパッド材に埋設される3Dネットの分解斜視図であり、(b)は埋設後のクッション構造の部分断面斜視図である。 【図15】 3Dネットをパッド材と矩形状に一体発泡させたクッション材の部分断面斜視図である。 【図16】 図15のクッション材の平面図である。 【図17】 図16の線XVII−XVIIに沿った断面図である。 【図18】 図15の変形例にかかるクッション部材の部分断面斜視図である。 【図19】 図18のクッション材の平面図である。 【図20】 図19の線XX−XXに沿った断面図である。 【図21】 表2に示される品番09002Dの3Dネットを採用し、パッド材を含浸させたクッション構造の静特性を示すグラフである。 【図22】 表2に示される品番90012−2の3D ネットを採用し、パッド材を含浸させたクッション構造の静特性を示すグラフである。 【図23】 表2に示される品番90012−2の3D ネットを採用し、パッド材を含浸させなかったクッション構造の静特性を示すグラフである。 【図24】 3Dネットを埋設した位置、及び、図21 乃至図23の静特性を測定した部位を示すシートクッションであり、(a)はその平面図を、(b)その側面図である。 【図25】 図21乃至図23の静特性を示すクッション構造と、ウレタンのみで作製したクッションの動特性を示すグラフである。 【符号の説明】 2 シートクッション 4 シートバック 6 パッド材 8,16 3Dネット 10 上部メッシュ層 12 下部メッシュ層 14 パイル 18 パッド材含浸防止シート 20 ワイヤ S シート ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 川崎 誠司 広島県広島市安芸区矢野新町一丁目2番10 号 株式会社デルタツーリング内 (72)発明者 榎 芳美 広島県広島市安芸区矢野新町一丁目2番10 号 株式会社デルタツーリング内 (72)発明者 小倉 由美 広島県広島市安芸区矢野新町一丁目2番10 号 株式会社デルタツーリング内 Fターム(参考) 3B084 CA06 |