【0001】 【発明が属する技術分野】 本発明は電磁シールドコンクリート及びコンクリートパネルに関し、とくにコンクリート中に配設する鉄筋が劣化し難い電磁シールドコンクリート及びコンクリートパネルに関する。 【0002】 【従来の技術】 情報化の進展に伴い、オフィスビル等において電波通信の利用が進み、また無線LANシステム(Local Area Network System)や屋内PHS(Personal Handy Phone System)等の普及に応じて、コンピュータや精密機器の障害防止、機密保持・盗聴防止等のセキュリティ、混信の防止、電波の効率的利用等の面から、建造物の電磁シールドに対する要求が高まっている。 【0003】 従来の建造物の電磁シールドは、金属箔や金網等の導電性の電磁シールド部材により建造物又はその中の電磁シールド空間の床、天井、側壁等の全壁面を被覆する方法によることが多い。 電磁シールド部材としては、電解銅箔や銀メッキによる不織布、亜鉛メッキの鋼板や金網、デッキプレートなどの建築構造材料や、カーボン繊維等を混入した無機材料等が用いられる。 但し、電磁シールド部材で全壁面を被覆する方法は、部材の継目等から電波が漏洩し易いので、部材を隙間なく敷設するための施工に非常に手間を要する問題点がある。 とくに狭い隙間から漏洩し易い高周波数帯(例えばGHz帯)の電波のシールド施工には手間がかかっていた。 【0004】 電磁シールド部材で全壁面を被覆する方法に対し、電磁波損失材料を混練した電磁シールドコンクリート(以下、単にシールドコンクリートということがある。)を用い、建造物又は電磁シールド空間の壁や床自体に電磁シールド性能を持たせる方法が提案されている。 壁や床自体に電磁シールド性能を持たせることができれば、導電性部材の敷設の手間を省くことができ、シールド施工の簡易化・省力化が図れる。 【0005】 シールドコンクリートの一例は、例えば特開平11-012014号公報が開示するように、セメント5〜40重量%と砂鉄60〜95重量%とを必須成分とし、JIS K 6911(体積・表面抵抗率試験方法)による体積抵抗値が10 9 Ω・cm以下のセメント硬化物を与えるセメント組成物である。 このシールドコンクリートは、60〜95重量%という多量の砂鉄を入れてコンクリートの導電率を高める(抵抗率を低くする)ことにより、前記導電性の電磁シールド部材による被覆と同様の原理によって建造物内空間の電磁シールドを実現しようとするものである。 【0006】 また、鋼系材料や炭素系材料の混入により導電率を高めたシールドコンクリートも提案されている。 例えば特開平5-222785号公報は、図10に示すように、壁部11内に設けた電磁遮蔽部材12と、床部13に形成した炭素繊維等を混入した導電性コンクリート14と、導電性コンクリート14内に配設した金属メッシュ15とを備え、導電性コンクリート14を介して壁部11の電磁遮蔽部材12と床部13の金属メッシュ15とを電気的に接続する電磁遮蔽床を開示する。 【0007】 他のシールドコンクリートの一例として、例えば特開昭53-025898号公報は、製鉄プロセスに於いて高炉より発生するフェライト、マグネタイト、セメンタイト等を主成分とする磁性ダストをセメント等のボード材料に配合した電磁波吸収体を開示する。 このシールドコンクリートは、電波吸収特性があるフェライト等の磁性体の混練によりコンクリートに電磁波吸収特性を持たせたものである。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、従来の導電性コンクリートは、実際の建造物に適用した場合に、コンクリート中に配設した鉄筋等に腐食を生じさせ易く、建造物の強度劣化を招く危険性がある。 鉄筋腐食のメカニズムは、反応式(1)で表すように、コンクリート中の酸素と水とが鉄筋と反応して錆の原因になる水酸化第一鉄Fe(OH) 2が生成されることによると考えられている。 式(1)は反応式(2)及び(3)で構成され、式(2)及び(3)から電子の移動を伴うことが分かる。 コンクリート中に電子を流れ易くする物質が混入していると式(1)の反応が促進され、コンクリート中の鉄筋の腐食が進行する。 例えば、大地を流れる迷走電流等が建造物の基礎部分から導電性コンクリートに流入すると、該コンクリートと鉄筋との間に電流が流れて鉄筋の腐食が進行する。 コンクリート中の鉄筋が腐食すると、腐食生成物の膨張により被りコンクリートがひび割れや剥離(コンクリートの浮き)を起こし、建造物の強度劣化に繋がる。 【0009】 【化1】 Fe+1/2・0 2 +H 2 0→Fe(OH) 2 ……………………………………(1) Fe - →Fe 2+ +2e - …………………………………………………(2) 1/2・0 2 +H 2 0+2e - →20H - ………………………………………(3) 【0010】 上述した磁性ダストを混練したシールドコンクリートも、磁性ダストに含まれるマグネタイト(Fe 3 O 4 )が導電性(4×10 -3 Ω・cm)であるため、やはりコンクリート中の鉄筋腐食のおそれがある。 このように従来のシールドコンクリートでは鉄筋腐食の問題が実用化上の障害となっており、実用化のためには鉄筋腐食の問題の解決が求められている。 【0011】 そこで本発明の目的は、鉄筋の腐食を生じさせ難い電磁シールドコンクリートを提供するにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】 コンクリートの鉄筋腐食に対する影響度(以下、腐食性という。)は、コンクリートの抵抗率(比抵抗)から把握することができる(防錆管理(1998-5)、p14-18、除村ほか、「コンクリート構造物の鉄筋腐食診断システム」)。 コンクリートの抵抗率は、単位長さ・単位面積当たりの抵抗値ρ(=R・S/L)として定義することができ、鉄筋を取り巻く環境の腐食性を示す。 通常、コンクリートの抵抗率は図9に示す四電極法(Wenner法)により求められる。 四電極法とは、コンクリート21の表面に4本の電極C 1 、C 2 、P 1 、P 2を一直線上に等間隔aで設置し(Wenner配置)、外側の電極C 1 、C 2の間に電流Iを流した時の内側の電極P 1 、P 2の間の電圧差Vを測定し、式(4)から抵抗率ρを求める方法である。 但し、式(4)ではコンクリート全体の抵抗率ρが一定であると仮定した。 図中の符号24は式(4)に基づく抵抗率測定器を示す。 【0013】 【数1】 ρ=2πa・V/I=2πa・R ……………………………(4) 【0014】 一般に、コンクリートの抵抗率が低い場合は腐食性が大きく、抵抗率が大きい場合は腐食性が小さい。 従来の塩分による鉄筋腐食の調査等から、コンクリートの腐食性と抵抗率との間には表1に示す関係があることが知られている(前記文献参照)。 表1によれば、抵抗率が5kΩ・cm未満の場合は腐食性が非常に大きく、20kΩ・cm以上であれば腐食性は非常に小さい。 更に、実際のコンクリート中の鉄筋腐食の目視観察結果と抵抗率との比較から、抵抗率が30kΩ・cm以上であれば鉄筋の腐食が全く認められないか又は腐食の程度が小さいことが報告されている(前記文献参照)。 【0015】 【表1】
【0016】 本発明者は、普通ポルトランドセメントと砂とを混練した普通のコンクリート(以下、普通コンクリートという。)のパネル、炭素繊維を2重量%混入した導電性コンクリートのパネル、鋼繊維を3.4重量%及び6.4重量%混入した導電性コンクリートのパネルをそれぞれ試作し、各々の抵抗率を四電極法により計測する実験を行った。 実験結果を表2に示す。 表2から、普通コンクリートのコンクリート抵抗率は57kΩ・cmであり、腐食性は非常に小さいのに対し、炭素繊維や鋼繊維を混入した導電性コンクリートのコンクリート抵抗率は5kΩ・cm未満であり、腐食性は非常に大きいことが確認できた。 本発明者は、表1において腐食性が非常に小さいとされた20kΩ・cm以上の抵抗率、好ましくは普通コンクリートと同程度の抵抗率を与える電磁シールドコンクリートの研究開発の結果、本発明の完成に至ったものである。
【0017】
【表2】
【0018】
本発明の電磁シールドコンクリートは、セメントに磁性粒体とヘマタイト(Fe
2 O 3 )粒体とを 細骨材として混練し て四電極法によるコンクリート 表面の抵抗率を20kΩ・cm以上とし 、且つ、粗骨材としてポーラス状の多孔質骨材を混練してコンクリート内部に多数の空隙を形成してなるものである。 好ましくは、磁性粒体とヘマタイト粒体との混練によりコンクリート抵抗率を30kΩ・cm以上とする。 【0019】
【発明の実施の形態】
磁性粒体は、電波吸収特性がある各種の金属磁性粒体及び/又は金属酸化物磁性粒体とすることができる。 好ましくは磁性粒体の主成分をマグネタイト(Fe
3 O 4 、三四酸化鉄)とする。 後述するように、マグネタイトは鉄鉱石、砂鉄、製鉄所ダスト中に含まれており、経済的に且つ安定的に入手できる。 製鉄所ダストとは、高炉その他の製鉄所の作業施設から発生する煤塵、粉塵を乾式又は湿式集塵機にて捕集した環境集塵ダストであり、製鉄所の副産物として大量に排出されるのでシールドコストの低減が図れる。 但し、磁性粒体はマグネタイトに限定されず、各種のフェライト又はフェライトとマグネタイトとの混合粒体等を用いることができ、例えば上述した製鉄プロセスで発生するフェライト、マグネタイト、セメンタイト等の混合磁性ダストを磁性粒体として用いてもよい。 【0020】
本発明は、磁性粒体と共にヘマタイト(Fe
2 O 3 、酸化第二鉄)をコンクリート中に混練する。 本発明者は、導電性の磁性粒体を用いた場合であっても、磁性粒体と共にヘマタイトを混練することによりコンクリート抵抗率を20kΩ・cm以上となし得ることを実験的に見出した。 即ち、ヘマタイトは絶縁性であり、それのみを混練したコンクリートはシールド性能をほとんど有していないが、磁性粒体と共に混練した場合は磁性粒体によるコンクリートの抵抗率の低下を抑える働きがある。 磁性粒体に対するヘマタイト粒体の比率は、所要の電磁シールド性能及びコンクリート抵抗率が得られる範囲内において任意に選択可能であるが、磁性粉体としてマグネタイトを用いる場合は、マグネタイトに対するヘマタイトの比率を100〜500重量%とすることが好ましい。 100重量%未満の場合は、マグネタイトの導電性によりコンクリート抵抗率が20kΩ・cm未満となるおそれがある。 またヘマタイトの比率を余り大きくすると、シールド性能を担うマグネタイトの相対的割合が小さくなり、所要の電磁シールド性能が得られないおそれがある。 【0021】
【表3】
【0022】
磁性粒体及びヘマタイト粒体として、表3に示すように、マグネタイト及びヘマタイトを含み且つマグネタイトに対するヘマタイトの比率が150〜300重量%程度の鉄鉱石の粒体、砂鉄及び/又は製鉄所ダストを用いることができる。 同表の製鉄所ダストのようにマグネタイト及びヘマタイト以外の混合物(この場合は純鉄)を含む場合であっても、混合物の量がコンクリートの抵抗率やシールド性能に与える影響が無視できる程度であれば、とくに問題はない。
【0023】
セメントに対する磁性粒体及びヘマタイト粒体の混練割合は、所要のコンクリート抵抗率及び電磁シールド性能が得られる範囲内において任意に選択可能であるが、磁性粉体としてマグネタイトを用いる場合は、50〜500重量%とすることが望ましい。 50重量%未満では所要の電磁シールド性能が得られないおそれがあり、500重量%より大きくするとコンクリート抵抗率が20kΩ・cmより小さくなるおそれがある。 但し、電磁シールド性能及びコンクリート抵抗率は、セメントに対する磁性粒体及びヘマタイト粒体の混練割合によって変化するだけでなく、磁性粒体とヘマタイト粒体との比率によっても変化し得る。 なお、磁性粒体及びヘマタイト粒体を細骨材程度の粒径とし、細骨材として利用することができる。 必要に応じて、セメントに対し柔軟性向上に足る量の通常のコンクリート細骨材(例えば砂等)等を混練してもよい。
【0024】
本発明の電磁シールドコンクリートのシールド性能を確認するため、表3に示すロメラル鉱石の粒体を使用し、その鉱石粒体を表4に示すように16.2、25.2、及び33.5重量%(セメントに対して108、176、及び243重量%)の割合で混練した3種類の電磁シールドコンクリートA〜Cを調製した。 各コンクリートで厚さd=5cmの試験パネル体(以下、パネルA〜Cということがある。)を試作し、パネルA〜Cにより各電磁シールドコンクリートA〜Cのシールド性能を計測した。 なお、本実験で用いたロメラル鉱石粒体の粒径は数10μm〜数百μmであり、通常のコンクリート細骨材の粒径に比べて細かいものであったため、高性能AE減衰剤をセメントに対して2〜3重量%程度添加することによりコンクリートスランプ値を適当な値とした。
【0025】
先ず、各パネルA〜Cのコンクリート抵抗率を四端子法で計測した。 計測結果を表5に示す。 表5は、鉄鉱石粒体を16.2〜33.5重量%(セメントに対し108〜243重量%)の割合で混練したコンクリートの抵抗率が何れも40kΩ・cm以上であることを示す。 また本発明者は、更なる実験により、ロメラル鉱石の混練量が増えるとコンクリート抵抗率は小さくなる傾向があり、ロメラル鉱石を80重量%(セメントに対し540重量%)混練するとコンクリート抵抗率が1kΩ・cm程度にまで小さくなることを確認した。
【0026】
【表4】
【表5】
【0027】
シールド性能の測定装置として、図3に示すように、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)34と電波発信器35及び受信器(ホーンアンテナ)36とを用いた。 発信器35及び受信器36を隔壁32で仕切られたシールドルーム31a、31bにそれぞれ隔壁32の所定位置と対向させて配置し、その隔壁32の所定位置に設けた試験用開口部33に試験パネル体30を嵌め込み、試験パネル体30と隔壁32との間を電波が漏れないように密着させて固定した。 シールドルーム31a、31bの内面と隔壁32の両面とを電波吸収部材で被覆することにより、外部からの進入電波やシールドルーム内面での反射電波が受信器36で受信されるのを防止した。
【0028】
電波周波数として1〜5GHz帯域を使用し、発信器35から試験パネル体30の面に対して垂直となるように電波を送出し、試験パネル体30を透過した電波を受信器36で受信し、アナライザー34で透過電波の振幅を測定した。 また隔壁32の開口部33から試験パネル体30を取り外し、開口部33の空隙を介して受信した電波の振幅を測定し、パネル30の透過電波の振幅との比(透過係数T)から試験パネル体30のシールド性能(電磁波減衰量)を求めた。 なおシールド性能と透過係数Tとの関係は下記(5)式で表される。 この実験結果を図1に示す。
【0029】
【数2】
シールド性能=-20・log(透過係数T)…………………………(5)
【0030】
図1から分かるように、電磁シールドコンクリートA、B及びCは周波数が高くなるほどシールド性能が大きくなる。 また、ロメラル鉱石の混練量が増えるほどシールド性能が大きくなる傾向がある。 この傾向は、コンクリート中のマグネタイトの混練量が増大したことによると考えられる。 要するに、ロメラル鉱石の混練量を増やすとコンクリート抵抗率は減少するが、シールド性能は増大する。 従って、コンクリート抵抗率を20kΩ・cm以上とする範囲内において、シールド対象周波数の電波に対して所要のシールド性能を与えるように、セメントに対するロメラル鉱石の混練量を定めることができる。
【0031】
また本発明者は、表3に示す砂鉄や製鉄所ダストについても、セメントに対する混練量が増加するとコンクリート抵抗率は減少し、シールド性能が増大することを実験的に確認した。 すなわち、マグネタイトに対するヘマタイトの比率がロメラル鉱石と異なる場合であっても、20kΩ・cm以上のコンクリート抵抗率と所要のシールド性能とを与えるように、セメントに対するマグネタイト及びヘマタイトの混練量を定めることができる。 なお、抵抗率が20kΩ・cmより小さくなるため混練量を増やせず、所要のシールド性能が得られない場合は、後述するように多孔質骨材の混練やコンクリート厚の調整によって電磁シールドコンクリートのシールド性能を高めることができる。
【0032】
本発明の電磁シールドコンクリートは、抵抗率を20kΩ・cm以上とするので腐食性が非常に小さく、コンクリート中に配設した鉄筋が腐食し難い。 鉄筋建造物の壁やスラブに使用した場合でも、鉄筋腐食により強度劣化を招くおそれが小さい。 磁性材料及びヘマタイトの混練量の調節により、更に腐食性が小さい30Ω・cm以上の抵抗率、好ましくは普通コンクリートと同程度の抵抗率とすることも容易に可能である。 しかもGHz帯電波に対するシールド性能が大きいので、実用的な電磁シールドコンクリートといえる。
【0034】
磁性粒体及びヘマタイトを混練した電磁シールドコンクリートは、一般に普通コンクリートより比重が大きくなる。 例えば、普通コンクリートの比重が2.20であるのに対し、鉄鉱石粒体を25.2重量%の割合で混練した電磁シールドコンクリートB(表4参照)の比重は2.60程度となる。 本発明では電磁シールドコンクリートの軽量化を図るため、粗骨材を多孔質骨材とすることが好ましい。 多孔質骨材としては、内部がポーラス状の人工軽量骨材、例えば岩石を高温加熱処理したバーミキュライト、パーライト、ロックウール、メサライト(日本メサライト株式会社製)等を用いることができる。
【0035】
本発明者は、粗骨材として内部がポーラス状の人工軽量骨材を用いた電磁シールドコンクリートD(表4参照)を調製し、その試験パネル体(以下、パネルDという。)を試作した。 このパネルDのコンクリート抵抗率はパネルBと同程度であり、比重は2.18であった。 この実験から、粗骨材として多孔質骨材を用いることにより、磁性粒体及びヘマタイトの混練にも拘わらず、電磁シールドコンクリートの比重を普通コンクリートと同等にできることが確認できた。
【0036】
また、パネルDの強度は40N/mm
2であり、普通コンクリートと同程度であった。 すなわち、多孔質骨材を使用した場合は一般的に強度が低下するが、多孔質骨材を粒径が細かい磁性粒体及びヘマタイト粒体と混練することにより、電磁シールドコンクリートの強度を普通コンクリートと同等にできることが確認できた。 【0037】
更に、パネルDのシールド性能を測定したところ、図2に示すように、パネルBよりも高いシールド性能を示した。 このことは、粗骨材として多孔質骨材を使用することにより、通常のコンクリート粗骨材を用いた場合に比し、電磁シールドコンクリートのシールド性能が高まることを示す。 多孔質骨材の使用によってシールド性能が高まる原理の詳細は不明であるが、多孔質骨材の混練によってコンクリート中に多数の微小空隙が形成され、空隙内の空気とコンクリートとの境界面で電波の反射が起こり、反射された電波がコンクリートに吸収されるからと考えられる。 つまり、多孔質骨材の混練によりコンクリート中の電波伝播距離が長くなり、電波の反射と吸収の効率が高まると考えられる。 多孔質骨材の混練によりどの程度シールド性能が高まるかは微小間隙の散在の状態によって異なり得るが、多孔質骨材の混練割合の調節によりシールド性能を増減させることも考えられる。
【0038】
以上の実験により、粗骨材として多孔質骨材を使用した電磁シールドコンクリート(以下、軽量電磁シールドコンクリートという。)は、普通コンクリートと同等の抵抗率、比重及び強度を有し、高い電磁シールド性能を示すことが確認できた。 つまり、この軽量電磁シールドコンクリートは、建造物構造上に特別な対策を施すことなく普通コンクリートに代えて使用することが可能であり、建造物の壁やスラブに所要の電磁シールド性能を付与することができる。 しかも抵抗率が高いので鉄筋腐食のおそれがなく、極めて実用的な電磁シールドコンクリートである。
【0039】
但し、磁性粒体及びヘマタイトを混練した電磁シールドコンクリートは、一般に普通コンクリートより電波反射率が若干大きくなる。 本発明者は、ロメラル鉱石を33.5重量%(セメントに対して243重量%)混練した電磁シールドコンクリートC(表4参照)と普通コンクリートとを用いて厚さ15cmのパネル体を製作し、無線LANで用いる2.4GHz帯の電波に対する反射特性を確認する実験を行った。 実験結果を図11及び図12に示す。 図11は普通コンクリートのパネルの反射特性を示し、電波入射角=0のときの反射係数|R|が0.38(反射減衰量8.4dB)であることを示す。 これに対し、図12は電磁シールドコンクリートCのパネルの反射特性を示し、電波入射角=0のときの反射係数|R|が0.58(反射減衰量4.7dB)であり、普通コンクリートに比し電波の反射が若干大きいことを示す。 電波反射が大きくなると反射波の対策等が必要となる場合があるので、本発明の電磁シールドコンクリートの反射特性を普通コンクリートと同程度以下とすることが望ましい。
【0040】
本発明者は、電磁シールドコンクリートの電磁波入射面側に磁性粒体及びヘマタイトの含まれない普通コンクリートの薄層を設けることにより、電波の反射が抑えられることを実験的に見出した。 図13は、電磁シールドコンクリートC(表4参照)の厚さ14cmのパネル表面に普通コンクリートの厚さ1cmの薄層を塗布したパネル体の反射特性を示す。 同図から、普通コンクリートの薄層を設けることにより、電磁シールドコンクリートの反射係数|R|を普通コンクリートより小さい0.25(反射減衰量12dB)とすることができることが確認できた。 反射係数が普通コンクリートより小さくなる理由は、普通コンクリートではコンクリート透過時にも電波反射が起こるのに対し、電磁シールドコンクリートに進入した電波は吸収され反射が起こり難いからからと考えられる。
【0041】
以上の実験により、磁性粒体及びマグネタイトが混練した電磁シールドコンクリートの表面に、磁性粒体及びヘマタイトの含まれない普通コンクリートの薄層を設けることにより、抵抗率、比重及び強度だけでなく、電波反射特性をも普通コンクリートと同等以下とすることができる。 前記コンクリート薄層は、例えば現場打ちした電磁シールドコンクリート壁の表面に普通コンクリートを所定厚さで塗布することにより形成することができる。 前記コンクリート薄層の厚さは、電磁シールドコンクリート壁の厚さと所望の反射特性とに基づいて、適宜調節することが可能である。
こうして本発明の目的である「鉄筋の腐食を生じさせ難い電磁シールドコンクリート」の提供が達成できる。 【0042】
【実施例】 本発明の電磁シールドコンクリートによりパネルを形成し、そのパネルを用いて建造物の壁やスラブ、仕切壁等に所要の電磁シールド性能を持たせることもできる。 電磁シールドコンクリートをPCパネルや室内仕切壁等に応用した場合のパネル接続部の電磁シールドを確認するため、表6に示す組成の電磁シールドコンクリートE及びFを用いてパネル(以下、パネルE、Fという。)を試作した。 コンクリートEは普通の粗骨材を用いたもの、コンクリートFは多孔質骨材を用いたものである。 また、磁性粒体及びヘマタイト粒体として、表3に示すロメラル鉱石の粒体を使用した。
【0043】
【表6】
【0044】
先ずパネルEについて、図4(A)に示すような長さLの1枚の矩形パネルと、同図(B)に示すような長さL/2の2枚の矩形パネルとを用い、突合せ部分におけるシールド性能を計測した。 同図(B)のパネルは、突合せ面を突合せ方向に対して直交向きとしたもの(以下、直交突合せ面パネルという。)である。 2枚の直交突合せ面パネルEを0mm、3mm、5mm、及び10mmの間隙tで突合せたものを図3の試験用開口部33に嵌め込み、それぞれのシールド性能を測定した。 測定結果を図5のグラフに示す。 また図5には、長さLの1枚のパネルのシールド性能も併せて示す(同図の点線グラフ)。
【0045】
また、図4(C)のように、突合せ面を突合せ方向に対して斜交する傾斜面としたパネル(以下、傾斜突合せ面パネルという。)を用い、2枚の傾斜突合せ面パネルEを0mm、3mm、5mm、及び10mmの間隙tで突合せたものを図3の試験用開口部33に嵌め込み、それぞれのシールド性能を測定した。 測定結果を図6のグラフに示す。 図5及び6の比較から、突合せ間隙tが0〜3mm程度である場合は、直交突合せに比し傾斜突合せの方が突合せ間隙tからの電波漏洩を有効に防止することができ、特に3GHz以上の高周波帯において1枚のパネルと同程度のシールド性能が得られることが確認できた。
【0046】
但し、傾斜突合せ面の構造は図4(C)の例に限定されず、例えば隣接パネルとの突合せ部位に凹部又は凸部を設け、隣接パネルの突合せ部位に設けた凸部又は凹部と相互に嵌合させることにより、突合せ間隙tからの電波漏洩を防止することも可能である。
【0047】
すなわち、本発明の電磁シールドコンクリートによりPCパネルや室内仕切壁を製作する場合は、突合せ面を突合せ方向に対して斜交する傾斜面とすることが好ましい。 図10に示すように、導電性コンクリートパネルにより建造物のスラブ13等を構築する場合は、パネルの接続部に1mm程度の突合せ間隙が生じることが避けられないため、パネルの継目16を電磁シールドテープで塞ぐ等の電波漏れ対策が別途必要であった。 本発明のコンクリートパネルでは、突合せ面を傾斜面とすることにより、特に3GHz以上の高周波帯において突合せ間隙からの電波漏洩の防止が期待できるので、施工の容易化・迅速化を図ることができる。
【0048】
また、パネルFについても図4(A)に示す1枚の矩形パネルと、同図(B)に示す2枚の直交突合せ面パネルと、同図(C)に示す傾斜突合せ面パネルを試作し、接続部のシールド性能を確認した。 直交突合せの場合の測定結果を図7のグラフに示し、傾斜突合せの場合の測定結果を図8のグラフに示す。 これらのグラフから、多孔質骨材を混入した傾斜突合せ面のコンクリートパネルは、2GHz以上の高周波帯に対して突合せ間隙からの電波漏洩の防止できることが確認できた。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電磁シールドコンクリートは、セメントに磁性粒体とヘマタイト粒体とを
細骨材として混練し て四電極法によるコンクリート抵抗率を20kΩ・cm以上と し、且つ、粗骨材としてポーラス状の多孔質骨材を混練してコンクリート内部に多数の空隙を形成するので、次の顕著な効果を奏する。 【0050】
(イ)抵抗率が大きく、鉄筋に対する腐食性が非常に小さいので、鉄筋建造物の強度劣化を招くおそれが少ない。
(ロ)従来の電磁シールド部材を敷設する方法に比し、電磁シールド施工の工期短縮と省力化を図ることができる。
(ハ)多孔質骨材の混練により軽量化を図ることができ、建造物構造上の特別な対策を必要とせずに普通コンクリートと同様に使用することができる。
(ニ)多孔質骨材の混練により、抵抗率、比重及び強度を普通コンクリートと同等に維持しつつ、シールド性能を高めることができる。
(ホ)パネルとして使用する場合は、電磁シールドコンクリートの表面に普通コンクリートの薄層を設けることにより、抵抗率、比重、強度電及び電波反射率が普通コンクリートパネルと同程度である電磁シールドパネルを製作することができる。
(ヘ)パネルとして使用する場合は、隣接パネルとの突合せ面を突合せ方向に対して斜交する傾斜面とすることにより、突合せ間隙からの電波漏洩の防止も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の電磁シールドコンクリートのシールド性能を示すグラフである。
【図2】は、多孔質骨材を混練した電磁シールドコンクリートのシールド性能を示すグラフである。
【図3】は、シールド性能の測定方法の説明図である。
【図4】は、本発明のコンクリートパネルの接続部の説明図である。
【図5】は、普通の骨材を用いたコンクリートパネルの接続部のシールド性能を示すグラフの一例である。
【図6】は、普通の骨材を用いたコンクリートパネルの接続部のシールド性能を示すグラフの他の一例である。
【図7】は、多孔質骨材を用いたコンクリートパネルの接続部のシールド性能を示すグラフの一例である。
【図8】は、多孔質骨材を用いたコンクリートパネルの接続部のシールド性能を示すグラフの他の一例である。
【図9】は、四電極法の説明図である。
【図10】は、従来の導電性コンクリートを用いた電磁シールド方法の説明図である。
【図11】は、普通コンクリートパネルの反射特性を示すグラフの一例である。
【図12】は、本発明の電磁シールドコンクリートパネルの反射特性を示すグラフの一例である。
【図13】は、図12の電磁シールドコンクリートパネルの表面に普通コンクリート薄層を設けたパネル体の反射特性を示すグラフの一例である。
【符号の説明】
11…壁部 12…電磁遮蔽部材
13…床部 14…導電性コンクリート
15…金属メッシュ 16…コンクリート継目
21…コンクリート 22…鉄筋
24…抵抗率測定器
31…電磁シールドルーム 32…隔壁
33…試験用開口部 34…ネットワークアナライザー
35…電波発信器 36…電波受信器C、P…電極
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