本発明はリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、それにより製造されたリチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用電極、及びリチウムイオン電池に関し、さらに詳しくは平均一次粒子系の制御を可能としたリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、それにより均一な平均一次粒径を有したリチウムイオン電池用正極活物質、放電容量の向上を図ったリチウムイオン電池用電極、及びリチウムイオン電池に関するものである。 本願は、2008年4月25日に、日本に出願された特願2008−115982号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
非水系リチウムイオン電池は、従来のNi−Cd、Ni−H電池などの水溶液系の電池と比較して高エネルギー密度を有し、小型化が容易である。 そのため、携帯電話、パソコンなどの携帯機器に広く用いられている。 また現在実用化されているリチウムイオン電池の正極材料としてはLiCoO 2が一般的に用いられている。 しかし、今後期待されるハイブリット自動車、電気自動車、無停電装置に用いられる大型電池などにLiCoO 2をそのまま適用すると、いくつかの問題が発生することが指摘されている。 例えば、資源的、コスト的な問題が指摘されている。 LiCoO 2はレアメタルであるコバルト(Co)を用いているため、これを大量に使用すると資源的、コスト的な問題が発生する。 また、爆発の危険性も指摘されている。 LiCoO 2は高温で酸素を放出するため、異常発熱時や電池が短絡した場合には爆発が起きる危険性がある。 そのため、LiCoO 2を大型電池に適用するにはリスクが大きい。 そこで近年、LiCoO 2を用いた正極材料に代わって、安価で危険性の低いリン酸骨格を持つ正極材料が提案されている。 その中でも、特許文献1や非特許文献1に示されているような、オリビン構造を持つLiFePO 4が、資源面、コスト面、安全面を満たす材料として世界的に注目されている。 LiFePO 4などの組成式で表されるオリビン系正極材料は、その組成から明らかなように鉄(Fe)を利用するものであり、資源的にはコバルト系、マンガン系正極材料と比較しても豊富に自然界に存在し、安価である。 そして、リンと酸素の共有結合性から、オリビン系正極材料はコバルト系正極材料のように高温時に酸素を放出することもなく、安全性にも優れた材料といえる。 しかしながら、LiFePO 4はこういった利点を持つ反面、特性面での問題点も指摘されている。 一つの問題点は導電性の低さである。 しかしこれは近年の改良、特にカーボンを複合化、もしくは表面をカーボン被覆することにより導電性を改良している報告が数々なされている。 もう一つの問題点は充放電時におけるリチウムイオンの拡散性の低さである。 LiCoO 2のような層状構造、LiMnO 2のようなスピネル構造を持つ化合物では、充放電時のリチウムの拡散方向が2方向若しくは3方向である。 これ対して、LiFePO 4のオリビン構造では、リチウムの拡散方向が1方向しかない。 加えて、充放電時の電極反応は、LiFePO 4とFePO 4の間の変換を繰り返す2相反応であることから、LiFePO 4は高速の充放電には不利だとされている。 この対策として最も有効だとされるのは、LiFePO 4粒子の小粒径化である。 拡散方向が1方向でも、小粒径化により拡散距離が短くなれば、速い充放電にも対応できると考えられる。 LiFePO 4の合成法として簡便なのは、固相法と呼ばれる方法である。 概略を説明すると、Li源、Fe源、P源を化学量論比で混合して不活性雰囲気で焼成処理するという方法である。 この方法は、焼成条件を上手く選ばないと生成物の組成が目的通りにならず、かつ粒子径の制御が難しいという問題点を有する。 また、水熱反応を利用した液相合成も研究されている。 水熱反応の利点は、固相反応にくらべてはるかに低温で、純度が高い生成物が得られることである。 しかしながら、こちらも粒径の制御は反応温度、時間などの調製条件に頼るところが大きい。 また、これらの調製条件で制御した場合には、製造装置自体の性能に左右される部分が多く、再現性には難がある。 LiFePO 4系材料の水熱合成において、反応制御により粒子を小粒径化する手段が、例えば特許文献2や非特許文献2に記載されている。 特許文献2や非特許文献2には、CH 3 COO − 、SO 4 2− 、Cl −等の有機酸やイオンを、溶媒に同時に添加して反応を行うとともに、この反応に過剰のLiを添加することによって、LiFePO 4単相の微粒子を得る方法が提案されている。 また、特許文献3には、反応中間体を機械的に粉砕することによって、小粒径のLiFePO 4を得ようという試みが記載されている。
特許第3484003号公報
特開2008−66019号公報
特表2007−511458号公報 AKPadhi et al., J.Electrochem.Soc., 144, 4, 1188 (1997) 白石圭介他 日本セラミックス協会学術論文誌、112、1305、S58(2004)
しかしながら特許文献2や非特許文献2に記載のLiFePO 4を小粒径化する手法では、原料系以外の成分を添加しなければならず、反応後の不純物の分離操作が複雑となる。 よって、これらの手法は、大量生産における工業化には不向きである。 また、特許文献3には1次粒子の粒径と電池性能の関連が詳細に記載されていない。 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、LiFePO 4の小粒径化、及びLiFePO 4の粒径の簡便な制御が可能なリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、水熱反応系内におけるLiFePO 4の生成機構を明らかにし、LiFePO 4の小粒径化を試みた。 LiFePO 4を合成する際に、原料のLi塩中のLi元素およびFe塩中のFe元素を水熱反応に必要とされる理論量よりも過剰に添加することで、結晶粒径の小型化、結晶粒径の制御が可能であると考えた。 LiFePO 4をリチウムイオン電池用正極活物質に用いた場合、上述のように粒子径が充放電特性に影響を与える。 本発明者等は、これらの考えに基づいて鋭意検討を行った結果、P源に対してLi源及びFe源の添加量を調節することで、得られるLiFePO 4の結晶粒径の小型化及び結晶粒径の制御が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、水熱反応でLiFePO 4を製造する際に、原料のLi塩中のLi元素およびFe塩中のFe元素を前記水熱反応に必要とされる理論量よりも過剰に添加して反応させ、平均一次粒子径が30nm以上かつ100nm以下の範囲でLiFePO 4を合成する工程を少なくとも有し、 前記水熱反応は、Li塩及びリン酸塩を反応させてリン酸リチウムスラリーを得て、前記リン酸リチウムスラリーにFe塩と還元剤とを混合し、得られた混合物に対して行い、 前記Fe塩の前記理論値は、Fe元素比でP元素に対して1モル当量、前記Li塩の前記理論値は、Li元素比でP元素に対して3モル当量であり、 前記Fe塩を、P元素1モルに対してFe元素が1.25モル以上2.00モル以下となるように添加し、かつ、前記Li塩をP元素1モルに対してLi元素が3.1モル以上4.50モル以下となるように添加する 。 なお、本明細書中、Li塩として水酸化リチウムを含むものとする。 また、本発明は以下のように言い換えることができる。 すなわち、本発明は、原料としてLi塩、Fe塩、及びリン酸源を用いて水熱反応を行い、LiFePO4を合成する工程を有し、 Li塩中のLi元素及びFe塩中のFe元素が前記水熱反応に必要とされる理論量よりも過剰に反応系に添加され、 合成されたLiFePO4の平均一次粒子径が30nm以上かつ100nm以下の範囲であるリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法である。
前記Li塩は、塩化物、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩及びシュウ酸塩からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。 前記Fe塩は、塩化物、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩及びシュウ酸塩からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。 本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法により得られる。 本発明のリチウムイオン電池用電極は、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質が炭素被覆されてなる。 本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極を正極として備える。
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、LiFePO 4の合成における各反応において、Li及びFeが不足することがなくなる。 ゆえに、反応速度の低下、及び反応初期に生成された微結晶粒子上へのエピタキシャル成長が抑制される。 したがって、平均一次粒子径を小さくできると共に、粒径分布の少ない均一な粒径のLiFePO 4を合成することができる。 さらに、原料のLi塩、Fe塩を添加する比率を変えることで、LiFePO 4の粒径を制御することが可能となる。
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を示す流れ図である。 実験例1におけるリチウムイオン電池用正極活物質のSEM画像である。 実験例5におけるリチウムイオン電池用正極活物質のSEM画像である。 実験例6におけるリチウムイオン電池用正極活物質のSEM画像である。
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池の最良の形態について説明する。 なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。 「リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法」 本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、第一工程ないし第九工程を有する。 第一工程(SP1)は、溶媒にLi源及びリン酸源を投入して反応させ、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を生成し、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )スラリーを得る工程である。 第二工程(SP2)は、Li 3 PO 4スラリーにFe源と還元剤とを混合し、混合物を得る工程である。 第三工程(SP3)は、第二工程で得られた混合物を高温高圧の条件下にて反応(水熱合成)させ、LiFePO 4を含む反応物を得る工程である。 第四工程(SP4−1)は、第三工程で得られたLiFePO 4を含む反応物を洗浄、濾過して、LiFePO 4とLi含有廃液(未反応のLiを含む溶液)に分離する工程である。 第四工程(SP4−2)は、第四工程(SP4−1)で分離されたLiFePO 4を乾燥させ、粉砕等を施すことにより平均一次粒径が30nm以上100nm以下のLiFePO 4粒子を得る工程である。 第五工程(SP5)は、第四工程(SP4−1)で分離されたLi含有廃液からFe成分やPO 4成分等の不純物を除去してLi含有溶液を得る工程である。 第六工程(SP6)は、第五工程で得られたLi含有溶液にリン酸を添加し、Li及びPO 4含有溶液を得る工程である。 第七工程(SP7)は、第六工程で得られたLi及びPO 4含有溶液から、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を含む溶液を生成する工程である。 第八工程(SP8)は、第七工程で得られたリン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を含む溶液からリン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を洗浄および分離する工程。 第九工程(SP9)は、第八工程で生成されたリン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を含む溶液からリン酸リチウムスラリーを得る工程である。 本発明では、水熱反応で一般式LiFePO 4を製造する際に、第一工程及び第二工程で原料のLi塩中のLi元素およびFe塩中のFe元素を、水熱反応に必要とされる理論量よりも過剰に添加して反応させ、平均一次粒径が30nm以上100nm以下の範囲でLiFePO 4を合成する。 水熱反応でLiFePO 4を合成する場合には、Li塩、Fe(II)塩、PO 4塩を合成原料に用いるか、Li源またはFe源とP源とを複合させたLi 3 PO 4やFe 3 (PO 4 ) 2を用いる方法がある。 ただしFe 3 (PO 4 ) 2は酸化に弱く取り扱いが難しいのでLi 3 PO 4とFe(II)塩を原料とするのが望ましい。 またLi塩、PO 4塩を別々の塩で添加しても反応初期でLi 3 PO 4を生成するので、Li 3 PO 4を原料とする場合と同等となる。 よって、最初からLi 3 PO 4を原料として用いるのが望ましい。 この水熱反応系の反応経路を発明者らが調べた結果、下記化学式1に示すような反応経路であることを明らかにした。
この化学式1に示す反応は大まかに2段階に分けられ、1段階目の反応では下記化学式2に示すFe 3 (PO 4 ) 2の生成、2段階目の反応では、下記化学式3に示すLiFePO 4の生成となることが分かった。
つまり、水熱合成においては原料比を理論組成値に設定すると、この反応の反応率は100%にはならず、加えて反応速度が遅くなるために反応初期に生成した微結晶粒子上へのエピタキシャル成長を促し、結果として粗大粒子が生成してしまうと考えられる。 反応を速やかに進行させるためには、上記化学式2で示した1段階目の反応の促進のためにFe塩を過剰に添加すること、及び上記化学式3で示した2段階目の反応の促進のためにLi塩を過剰に添加することが必要である。 また、過剰に加えるFe塩とLi塩の働きが違うために、それぞれの好適な添加量も異なることが明らかになった。 本発明は、以上のような考えに基づいてなされたものである。 以下、それぞれの工程について図1を参照して詳細に説明する。 <第一工程> まず、水を主成分とする溶媒にLi源及びリン酸源を投入し、これらLi源及びリン酸源を反応させてリン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を生成させ、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )スラリーとする(図1中、SP1)。 Li源としては、Li塩が好ましく、例えば、水酸化リチウム(LiOH);炭酸リチウム(Li 2 CO 3 )塩化リチウム(LiCl)、硫酸リチウム(Li 2 SO 4 )リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )等のリチウム無機酸塩;ギ酸リチウム(HCOOLi)、酢酸リチウム(CH 3 COOLi)、クエン酸リチウム(Li 3 (C 6 H 5 O 7 ))、蓚酸リチウム((COOLi) 2 )等のリチウム有機酸塩;並びにこれらのリチウム無機酸塩及びリチウム有機酸塩の水和物からなる群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。 なお、本明細書中では、水酸化リチウムもLi塩として記載する。 Li塩はLi元素比でP元素に対して3.1モル当量以上添加するのが望ましい。 最初にLi塩はリン酸と反応してLi 3 PO 4を生成するため3モル当量は消費してしまう。 そのため、上記した化学式(3)に示した2段階目の反応促進のためには、過剰のLi分が必要となる。 上限については、反応濃度や目的とする粒径により適宜調整できるが、4.0モル当量以上では生成したLiFePO 4粒子径に変化が見られない。 これは、反応速度が飽和に達しているためと推測される。 よって、Li塩の添加量は、P元素に対して好ましくは3.1モル当量以上4.0モル当量以下であり、より好ましくは3.2モル当量以上3.7モル当量以下である。 リン酸源としては、オルトリン酸(H 3 PO 4 )、メタリン酸(HPO 3 )等のリン酸;並びにリン酸二水素アンモニウム(NH 4 H 2 PO 4 )、リン酸水素二アンモニウム((NH 4 ) 2 HPO 4 )、リン酸アンモニウム((NH 4 ) 3 PO 4 )及びこれらの水和物からなる群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。 中でも、比較的純度が高く組成制御が行い易いことから、オルトリン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムが好適である。 また、水を主成分とする溶媒としては、純水、水−アルコール溶液、水−ケトン溶液、水−エーテル溶液等が挙げられ、中でも純水が好ましい。 その理由は、水は安価であり、しかも、温度、圧力の操作により容易に各物質に対する溶解度等の溶媒物性を制御することができるからである。 <第二工程> 次いで、第一工程で得られたLi 3 PO 4スラリーに、Fe源、及び還元剤を混合し、混合物とする(図1中、SP2)。 Fe源としては、Fe塩が好ましく、例えば、塩化鉄(II)(FeCl 2 )、硫酸鉄(II)(FeSO 4 )、ギ酸鉄(II)((HCOO) 2 Fe)、酢酸鉄(II)(Fe(CH 3 COO) 2 )、クエン酸鉄(II)(Fe(C 6 H 5 O 7 ) 1− )、蓚酸鉄(II)((COO) 2 Fe 2 )、及びこれらの水和物からなる群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。 Fe塩の添加量としては、P元素に対して1.01モル当量以上が望ましい。 最初にFe塩はLi 3 PO 4と反応してFe 3 (PO 4 ) 2を生成するために、過剰のFe分が必要となる。 上限については反応の濃度や目的とする粒径により適宜調整できるが、1.5モル当量の領域では生成したLiFePO 4粒子径に変化が見られなくなる。 これは、反応速度が飽和に達しているためと推測される。 よって、Fe塩の添加量は、P元素に対して好ましくは1.01モル当量以上1.50モル当量以下であり、より好ましくは1.10モル当量以上 1.30モル当量以下である。 これらLi源とFe源との混合比は、後述する水熱合成時に不純物が生成しない限り制限されないが、Li源のLiイオンは、Fe源のFeイオン1モルに対して1.5モル以上4.5モル以下が好ましく、より好ましくは2.0モル以上4.0モル以下である。 ここで、Liイオンが1.5モルより少ないと、反応に関与するLiがFe源に含まれる陰イオンと対イオンを形成する確率が高くなり、その結果、反応時間が長くなる、不純物が生成する、粒子が粗大化する等の不具合が生じる。 一方、Liイオンが4.5モルより多いと、反応液のアルカリ性が強くなるため不純物が生成し易くなる等の問題が生じる虞がある。 よって、Feイオン1モルに対するLiイオンの好ましいモル数を、上記の範囲に限定した。 第二工程にあっては、過剰量のFe塩を添加することに代わって、リン酸と水に対して難溶性の塩を形成するカチオン種を添加する方法も可能である。 すなわち、Fe塩を、LiFePO 4の各元素の理論組成と同等量添加し、更にカチオン種を添加する方法である。 この方法には添加するカチオン種により2種類に分けられる。 一つ目は、カチオン種として、例えばNa、K塩等のアルカリ金属塩、Ca、Mg塩等のアルカリ土類金属塩、希土類元素の塩、Al塩、アンモニウム塩、もしくはこれら2種以上を組み合わせたものを添加する方法である。 ここにいう希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15元素のことである。 これによりカチオン種により形成される塩が、上記した化学式(2)で示される反応においてP含有化合物を消費し、結果的に反応系のFe過剰の状態を作り出すことができる。 もう一つは過剰分のFe塩をMn、Ni、Cu、Zn等の遷移金属塩と置き換える方法がある。 つまりFe塩の過剰分をこれら遷移金属塩に置き換えた場合にもFe塩を過剰に添加した場合と同等の効果を得ることができる。 これらの方法は異種のカチオン種をドーパントとして導入し、且つ小粒径のLiFePO 4を得たい場合には有効な手段となる。 なお、最終生成物としては、LiFePO 4中に上述した元素が含まれることがある。 還元剤としては、二酸化イオウ(SO 2 )、亜硫酸(H 2 SO 3 )、亜硫酸ナトリウム(Na 2 SO 3 )、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO 3 )、亜硫酸アンモニウム((NH 4 ) 2 SO 3 )、亜リン酸(H 2 PHO 3 )の群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。 <第三工程> 次いで、第二工程で得られた混合物を高温高圧の条件下にて反応(水熱合成)させ、LiFePO 4を含む反応物を得る(図1中、SP3)。 この高温高圧の条件は、LiFePO 4を生成する温度、圧力及び時間の範囲であれば特に限定されるものではなく、反応温度は例えば120℃以上かつ250℃以下が望ましく、150℃以上かつ220℃以下がより望ましい。 反応時の圧力は例えば0.2MPa以上が望ましく、0.4MPa以上がより望ましい。 反応時間は、反応温度にもよるが、例えば1時間以上かつ24時間以下が望ましく、3時間以上かつ12時間以下がより望ましい。 <第四工程> 次いで、第三工程で得られたLiFePO 4を含む反応物を、デカンテーション、遠心分離、フィルター濾過等の一般に知られる簡便な洗浄方法により、LiFePO 4とLi含有廃液(未反応のLiを含む溶液)とに分離する(図1中、SP4−1)。 分離されたLiFePO 4は、乾燥器等を用いて40℃以上にて3時間以上乾燥し、平均一次粒径が30nm以上100nm以下のLiFePO 4粒子となる(図1中、SP4−2)。 <第五工程> 第四工程で分離されたLi含有廃液に第1のアルカリを添加し、この廃液に含まれるFe成分やPO 4成分等の不純物を除去する(図1中、SP5)。 この除去されたFe成分やPO 4成分等の不純物は、廃棄処分される。 第1のアルカリとしては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH) 2 )、アンモニア(NH 3 )、アンモニア水(NH 4 OH)及びアミン類からなる群から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。 アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等が好適に用いられる。 このLi含有廃液は、Fe成分やPO 4成分等の不純物を除去することにより精製されてLi含有溶液(不純物が除去された溶液)となる。 <第六工程> 次いで、このLi含有溶液にリン酸を添加し、Li及びPO 4含有溶液とする(図1中、SP6)。 このリン酸の添加量としては、第一工程のリン酸源と等モル量のリン酸を添加することが好ましい。 等モル量のリン酸を添加することで、LiFePO 4が得られる。 <第七工程> 次いで、このLi及びPO 4含有溶液に、第一工程と同様にLi元素がP元素に対して3.1モル当量以上となるようにLi源を添加し、さらに第2のアルカリを添加する。 これにより、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )を含む溶液が生成される(図1中、SP7)。 第2のアルカリとしては、中和時に副生成物が生成し難い、すなわち、副生成物がすべて水に易溶であり、水で洗浄する際に容易にリン酸リチウムと分離することができるものが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、アンモニア(NH 3 )及びアンモニア水(NH 4 OH)からなる群から選択された1種または2種以上が好適である。 <第八工程> 次いで、このLi 3 PO 4を含む溶液を静置させてLi 3 PO 4を沈降させ、その後、純水を用いてこの溶液を洗浄し、濾過等を用いてLi 3 PO 4と廃液に分離する(図1中、SP8)。 <第九工程> 次いで、このLi 3 PO 4を純水に分散させてリン酸リチウム(Li 3 PO 4 )スラリーとする(図1中、SP9)。 このように、第一工程〜第九工程を繰り返し行うことにより、廃液として排出される余剰のLiを廃棄することなく、Li 3 PO 4として回収、再利用することができる。 また、Liにかかるコストを削減し、安価にLiFePO 4を得ることが可能になる。 本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、原料のLi塩中のLi元素およびFe塩中のFe元素を前記水熱反応に必要とされる理論量よりも過剰に添加して反応を行うので、LiFePO 4の合成反応における各反応において、Li及びFeが不足することがなくなる。 ゆえに、反応速度の低下、及び反応初期に生成された微結晶粒子上へのエピタキシャル成長が抑制される。 したがって、平均一次粒子径を小さくできると共に、粒径分布の少ない均一な粒径のLiFePO 4を合成することができる。 さらに、原料のLi塩、Fe塩を添加する比率を変えることで、LiFePO 4の粒径を制御することが可能となる。 このLiFePO 4の平均一次粒子径は、30nm以上100nmである。 このように粒子径が小さいLiFePO 4をリチウムイオン電池用正極活物質として用いることで、Liの拡散距離が短くなる。 また、該リチウムイオン電池用正極活物質を備えたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池において、高速充放電特性の向上が図れる。 ここで、平均一次粒子径が30nm未満であると、Liの挿入・脱離に伴う構造変化により粒子が破壊する虞がある。 また、比表面積が著しく大きくなることから接合剤を多く必要とする。 その結果、正極の充填密度が著しく低下し、導電率が大きく低下する等の問題が生じる虞がある。 一方、平均一次粒子径が100nmを越えると、正極活物質の内部抵抗が高くなり、Liイオンの移動も遅延する。 そのため、放電容量が低下する等の問題が生じる虞がある。 より高出力を可能にするためには、正極活物質の内部抵抗への影響が小さい80nm以下の粒子が好ましい。 「リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用及びリチウムイオン電池」 本発明の製造方法で得られたリチウムイオン電池用正極活物質は、リチウムイオン電池、特にリチウムイオン2次電池に、正電極の正極活物質として好適に用いられる。 リチウムイオン2次電池の正極活物質として用いることで、上述したようにLiの拡散距離が短くなり、放電容量の増加が図れる。 正極活物質として用いる場合には、LiFePO 4の表面にカーボン成分をコーティングする方法によって導電性を高めることが望ましい。 この処理をしないと、先に述べたLiFePO 4の問題点である導電性が改善されず、電池特性として良好な結果が得られない。 カーボンコーティングの好適な例としては、先ず、LiFePO 4粒子と、水溶性の単糖類、多糖類、若しくは水溶性の高分子化合物とを混合し、蒸発乾固法、真空乾燥法、スプレードライ法、フリーズドライ法等の乾燥方法を用いて粒子表面に有機物を均質にコーティングする(複合化)。 続いて有機物の分解・カーボン生成の温度である500℃〜1000℃の焼成温度で不活性雰囲気内において焼成する。 焼成温度は、選択されるカーボン源の有機物にも依存するが、700℃〜800℃の範囲であることが好ましい。 500℃以下の低い温度では、有機物の分解が不十分且つ導電性カーボンの組成が不十分となり、電池内での抵抗要因となり、悪影響を及ぼす。 一方、1000℃以上の高い温度域では、LiFePO 4の1次粒子の焼結が促進されてしまい、粒子が粗大化する。 その結果、Li拡散速度に依存する高速充放電特性が著しく悪化する。
以下、実験例として本発明の具体例を説明するが、これにより本発明が制限されるものではない。 なお実験例1〜14のうち、実験例1〜3が比較例であり、実験例4〜14が本発明の実施例である。 <実験例1> 純水1Lに3molの塩化リチウム(LiCl)と、1molのリン酸(H 3 PO 4 )を加えて攪拌し、リン酸リチウム(Li 3 PO 4 )のスラリーを得た。 そしてこのスラリーと1molの塩化鉄(II)FeCl 2を添加し、水を加えて総量2Lの原料液とした。 なお、この原料液をLiFePO 4に換算すると0.5mol/Lとなる。 次に、得られた原料液をオートクレーブに投入し、不活性ガスを導入後、200℃にて6時間加熱反応させた。 その後、濾過し固液分離した。 その後、分離した固形物重量と同量の水を添加して懸濁させ、濾過により固液分離をする操作を3回行い、洗浄した。 固液分離したLiFePO 4を乾燥して、FE―SEMでLiFePO 4粒子径を測定したところ、平均一次粒子径が30nm以上100nm以下であった。 次に、固液分離で得られたケーキ状のLiFePO 4 (固形分換算で150g)に対し、ポリエチレングリコール5g、純水150gを加えて、5mmΦのジルコニアビーズボールミルにて12時間粉砕・分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。 次いで、このスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒径が約6μmの造粒体を得た。 得られた造粒体を不活性雰囲気下で750℃にて1時間焼成し、実験例1のリチウムイオン電池用正極活物質を得た。 <実験例2> オートクレーブ反応仕込み時に、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例2の正極活物質を作製した。 <実験例3> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.50mol添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例3の正極活物質を作製した。 <実験例4> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.10mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例4の正極活物質を作製した。 <実験例5> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.25mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例5の正極活物質を作製した。 <実験例6> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.50mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例6の正極活物質を作製した。 <実験例7> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して4.00mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例7の正極活物質を作製した。 <実験例8> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して4.50mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例8の正極活物質を作製した。 <実験例9> オートクレーブ反応仕込み時に、Li 2 SO 4をP元素に対して3.25mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例9の正極活物質を作製した。 <実験例10> オートクレーブ反応仕込み時に、CH 3 COOLiをP元素に対して3.25mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.01mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例10の正極活物質を作製した。 <実験例11> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.10mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.10mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例11の正極活物質を作製した。 <実験例12> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.10mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.25mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例12の正極活物質を作製した。 <実験例13> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.10mol添加し、FeCl 2をP元素に対して0.50mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例13の正極活物質を作製した。 <実験例14> オートクレーブ反応仕込み時に、LiClをP元素に対して3.10mol添加し、FeCl 2をP元素に対して1.00mol過剰に添加したこと以外は実験例1の手順に従って、実験例14の正極活物質を作製した。 (リチウムイオン2次電池の作製) 上記で作製した実験例1〜14の正極活物質を90wt%、導電助剤としてアセチレンブラックを5wt%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を5wt%、及び溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を混合した。 その後、3本ロールミルを用いてこれらを混練し、実験例1〜14の各々からなる14種の正極活物質ペーストを得た。 次いで得られたそれぞれの正極活物質ペーストを、厚み30μmのアルミニウム集電体箔上に各々塗布し、100℃にて減圧乾燥を行い、厚みが50μmの正極を得た。 次いで、この正極を2cm 2の円板状に打ち抜き、減圧乾燥後、乾燥アルゴン雰囲気下でステンレススチール製2016型コイン型セルを用いてリチウムイオン2次電池の作製を行った。 ここで負極には金属リチウム、セパレーターには多孔質ポリプロピレン膜、電解液にはLiPF 6の炭酸エチレン(EC)と炭酸エチルメチル(EMC)とが1:1で混合された、1Mの溶液を用いた。 (電池充放電試験) 上記で作製した実験例1〜14の正極活物質を有するリチウムイオン電池を用いて、充放電試験を行った。 充放電試験はカットオフ電圧を2.0Vから4.0Vの範囲とした。 初期容量の測定では、Cレートで0.1Cで充電を行い、0.1Cで放電した。 その他のレート特性評価では、0.2Cで充電し、任意のレート(1C,3C,5C)で放電し、放電容量を測定した。 その結果を表1に示す。 (一次粒子径の評価) 5万倍のFE−SEM像より不作為に抽出した20点の平均を示した。 その結果を表1に示す。 また、実験例1,5,6のリチウムイオン電池用正極活物質のSEM画像を図2〜図4に示す。
表1、および図2〜4の結果から、Li塩およびFe塩を実験例1で示したLiFePO 4の理論組成よりも多く添加して反応を行うことで、正極活物質の平均一次粒径を30nm〜100nmの範囲で制御できることが確認された。 また、表1から、実験例4〜14のリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池においては、実験例1〜3のリチウムイオン電池用正極活物質を有するリチウムイオン電池と比較し、比表面積が増加していたが、0.2Cで充電を行い、1C,3C,5Cでそれぞれ放電した際では、放電容量の増加が見られ、放充電特性の向上が観測された。
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法で得られたリチウムイオン電池用正極活物質を、リチウムイオン2次電池などの電極の材料に適用することで、放電容量の向上を図ることが可能となる。 |