【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、靴の製造工程におけるつり込み作業を容易にするため、靴の中底を靴の木型に着脱自在に取付けるようにした、靴の中底及び木型並びに靴の製造法に関する。 より詳しくは、当該着脱自在の取付け手段を、吸盤の具備された木型と該吸盤に相対する概平坦な面が具備された中底となる構成を採用することにより、簡単な構成であり、かつ、低コストの靴の中底及び木型並びに靴の製造法を提供することである。 【0002】 【従来の技術】従来の靴の製造工程の概略を図4に基づいて説明すると、まず、工程(a)において、本革、合成皮革などを縫製して甲革(アッパー)11を作る。 一方工程(b)で、木型12に中底13を釘打ち、糊付けなどの方法で取付ける。 【0003】そして、工程(c)で、甲革11を木型1 2に被せ、甲革11の下縁部を中底13の外周に縫着する作業、いわゆるつり込みを行う。 また、後工程における靴底の接着性を良くするため、甲革11の底面11a を起毛する。 【0004】この後の工程は、VP製法、CP製法等の採用する製法によっても異なるが、一例としてCP製法について説明すると、工程(d)で中底13に不踏芯1 4、先中芯15などの中物入れを行う。 また、工程(e)で、ゴム、革などでできた靴底16を製造する。 【0005】更に、工程(f)で、押圧機17を用いて、甲革11及び中底13の底面に靴底16を接着剤で接着する。 なお、靴の内部の中底13の上面には、通常中敷が挿入されて接着される。 こうして靴が完成する。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本願特許の出願人と同一の出願人による特願平6−093753には、釘打ち又は糊付けで行っていた従来の靴の製造工程を大幅に簡略化する画期的な発明が開示されている。 この発明には、靴の木型への取付けを着脱自在にする着脱手段として、磁気吸着性の材料又はホック若しくはマジックテープ等が開示されているが、それぞれに一長一短があり、 例えば、磁気吸着性の材料においては、本願発明の目的に適合した磁力を有する磁気吸着性材料はその入手価格が高く、一方、ホック又はマジックテープの場合には、 該着脱手段を構成する部材の内、中底に残留する部材により靴の履き心地が損なわれる可能性があった。 【0007】更に、一般に市販されている磁気吸着材料の磁力をもってしても、得られる磁束密度の制約により、靴の木型の底面に対して垂直方向の保持特性は好ましいものの、その底面と同一の平面内の方向の保持特性を実際の靴の製造工程に要求されるレベルにまで向上させるためには、磁気吸着材料を部分的に具備するだけでは十分でない場合もあり、中底全面に磁気吸着材料を具備する必要がある場合もあるが、このような場合には、 自ずとそのコストも高くなり、従って、その応用範囲も限られる。 【0008】したがって、本発明の目的は、中底を木型に取付ける作業を迅速に行えて、かつ、中底の位置がずれて取付けられた場合にも容易に修正可能で、釘の抜き忘れなどの危険性がなく、大幅な設備コストもかからないようにすることの可能な着脱自在の手段を提供することは勿論のこと、その着脱自在の手段により、靴の中底を木型の底面に着脱自在に取付けた場合にも、その底面と同一の平面内の方向における保持特性が靴の製造工程に十分な程得られる着脱手段及びその着脱手段を使用する靴の製造法を提供することにある。 【0009】更には、本願発明によれば、靴の木型に取付けられた中底が、所定の時間の経過後に、何ら操作をしなくても自動的に靴の木型から外れるようにすることも可能であって、従来技術による着脱自在の手段よりも、作業工程をより一層短縮することの可能な靴の製造法を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本願発明の靴の中底は、靴の木型への取付けを着脱自在にする概平坦な面を有していることを特徴とする。 【0010】また、本願発明の靴の木型には、靴の中底の取付けを着脱自在にする吸盤が具備されていることを特徴とするが、この場合、吸盤とそれにより吸着される概平坦な面との間の空間を減圧することにより保持する機能と同様な効果を奏する公知の吸引手段も当然のことながら使用可能である。 この場合の吸引手段の一例としては、公知の減圧ポンプと概空間とを連通させる手段がある。 【0011】本願発明による概平坦な面は、靴の中底の表面自体である場合もあり、また、靴の中底の一方の表面に別途概平坦な面を有する板が具備される場合もある。 この後者の場合に、靴の中底の一方の表面と概平坦な面を有する板とは、公知の手段により、好ましくは、 接着剤により接合され、場合によっては、靴の中底にかかる板を埋め込んだり、靴の中底の表面を別途平坦化する公知の手段、例えば、当該表面に接着剤等のような固化することにより流動体から固体に変化する材料を、塗布し、固化する等の公知の方法により概平坦化することもある。 【0012】更に、本願発明の靴の製造法では、靴の木型及び中底に着脱手段として吸盤及び概平坦な面がそれぞれ対応して具備されており、吸盤を平面に吸着させる公知の方法を使用して、この着脱手段により前記木型の底部に前記中底を着脱自在に取付け、前記木型に靴の甲革を被せてつり込み作業を行うことを特徴とする。 【0013】本発明において、靴の中底に具備する概平坦な面で、かつ、木型に具備された吸盤に相対する面には、吸盤による保持力、保持時間等を調節するために、 吸盤との間に形成される空間の減圧状態が保持される時間を制御できるように微少な凹凸が形成されたり、微少な溝が形成される場合もある。 【0014】本願発明によれば、吸盤によって中底を木型の底部に着脱自在に取付けることにより、従来技術に開示された磁気吸着材料又はチャック若しくはマジックテープによるものよりも、木型の底部表面と同一の表面内の方向の保持力がより優れており、かつ、従来の着脱自在の技術と同様な特徴、即ち、中底の位置がずれても、簡単に修正することが可能で、製品に傷や汚れが付く心配もなく、また、釘などを用いないので、釘の抜き忘れによるケガなどの危険が全く生じないと同時に、糊付け用の機械などが必要なく、設備コストも低減でき、 更には、釘打ち又は糊付け方法に比べて、釘打ち、釘抜き、糊付け、糊剥しなどの工程自体を省略することができること等は勿論のこと、吸盤とそれに相対する部分の中底の面に微少な凹凸、あるいは、溝を形成することにより、吸盤による吸着力を制御することも可能である。 【0015】なお、従来の着脱自在の技術によれば、釣り込み作業の後には、再度、中底と木型とを引き離すために必要な外力を何らかの方法で別途加える工程が必要となるのであるが、本願発明の着脱自在の場合には、吸盤に相対する部分の中底の面の表面特性を適宜選択することにより、吸盤による吸着力を制御したり、吸盤による吸着状態が自動的に解除されるようにすることも可能である。 【0016】 【発明の実施の形態】図1には、本願発明の一実施例である靴の中底及び木型が示されている。 【0017】この靴の中底21は、平面的に見て足形をした可トウ性の板22の爪先部及び踵部に、表面が概平坦な薄い板23、24が接着されてできている。 そして、上記板23,24の表面が本願発明の吸盤により吸着される面を形成している。 可トウ性の板22としては、吸盤と相対するその面との間に形成される空間が減圧状態にできるような表面を有するものであれば、材質は問わないが、好ましくは、中底と同様な可トウ性を有する材料から形成されている。 このような材料には、例えば、ゴム、ビニール等がある。 【0018】靴の中底21自体の表面と、それに相対する吸盤との間に、上記減圧状態の空間を形成できるのであれば、敢えて、板23,24を具備する必要はなく、 更に、板23,24を具備する代わりに、中底21の表面の凹凸がなくなるように、接着剤等を塗布し固化して、概平坦な表面とすることも可能である。 【0019】また、中底に接着する板として、図1に図示されたような相互に独立した板を使用するのではなく、中底の片面全面に亘って接着された板によっても本願発明を構成することが可能である。 【0020】一方、木型31の本体32は、靴のサイズ、形状に合わせて、合成樹脂や木によって作られる。 尚、本願発明においていう「木型」には、必ずしも木を材質とするものを意味するわけではなく、単に靴の製造に使用される型を意味している。 本願発明では、この木型31の本体32の底部32aに、2つの吸盤33,3 4が埋設されている。 更に、場合によっては、木型の底部の摩耗を防止するために、当該吸盤の外側には鉄板3 2bが貼り付けられている。 図1に図示された実施例によれば、吸盤33,34は、中底21に具備された板2 3,24に相対する位置、即ち、爪先部及び踵部に配置されている。 【0021】場合によっては、図2に図示されているように、木型に具備される吸盤は、該吸盤に相対する一つの面に対して複数の吸盤からなることもある。 このように、複数の吸盤を使用することにより、吸盤に吸着後、 つり込み作業中に、中底が木型の底面と同一の平面内で並行移動するその距離を少なくすることが可能である。 この理由は、吸盤の円錐状の吸着部のサイズが大きくなればなる程、その円錐状の部分の横方向のフレキシビリティが増大するからである。 このように一箇所に複数の吸盤を使用する場合のその吸盤の数、大きさ等については、つり込み作業に要求される許容範囲等から、適宜選択することが可能である。 【0022】更には、場合によっては、図3に図示されているように、木型31の本体32自体の中に、吸引ポンプと連通する通路41であって、その一端が該木型3 1の底面に達し、更に、鉄板32bにまで貫通して、当該鉄板32bで開口された通路41を形成することにより、本願発明の構成とすることも可能である。 この場合の通路41の形状、サイズ、開口42の数、位置等については、その目的に応じて適宜変更することが可能である。 【0023】更に、開口42のそれぞれには、吸引ポンプによる吸着を容易にするために、吸盤に使用されている材料と同様な材料、あるいは類似の材料特性を有する材料を使用して、吸盤の円錐状の吸着部と同様な形状を有する円錐部を、該開口42の外側に向かって開くように具備することもある。 【0024】本願発明の靴の製造法の一例が図3に図示されているが、この製法においては、上記中底21を木型31の底部32aに、板23,24の表面と吸盤3 3,34との間の吸着力によって固定する。 その状態で甲革を木型31に被せて、甲革の下縁部を中底21の外周に縫着する(つり込み作業)。 【0025】つり込み作業において、中底21は、木型31に単にとめられていればよく、局部的な力が働かないので吸盤による固着力でも十分である。 そして、中底21を吸盤の吸着力で木型31に固定することにより、 中底21の取付けが容易でかつ迅速に行えると共に、吸盤と相対する表面の凹凸を適宜選択することにより、所定の時間が経過した段階で、吸盤から中底が自然に離れる現象が得られ、従来の着脱手段による場合よりも、更に、取り外しが容易となる。 【0026】尚、中底21に取付けられた板23,24 は、つり込み作業が終わった後に剥がしてもよいが、そのまま中敷との間に残してもよい。 この板23,24を比較的薄いものとすれば、靴の履き心地に対する影響は少なく、靴底の補強効果も得られて、むしろ好ましいものとなる。 【0027】なお、上記実施例において、中底に概平坦な表面を有する板を部分的に具備するのではなく、中底に概平坦な面を有する板を全面に亘って接着したり、板を接着あるいは埋設するのではなく、中底の表面自体に接着剤等の樹脂を塗布し固化させることにより、凹凸を有するその表面自体を概平坦にすることも可能である。 【0028】 【実験1】本願発明の吸盤による吸着力と、従来技術の着脱手段による保持力とを比較するために、吸盤の吸着面責と、従来技術の着脱手段による保持面責とを同一にして保持力の比較実験を行った。 使用した部材は下記のとおりである。 吸盤:(市販されている吸盤) 円錐状吸着部の最外周の直径 25 mm 材質 塩化ビニール 吸盤に吸着させる板: 表面性状 工場からの出荷状態 材質 ラバーマグネット:(市販されているシート状マグネット) 磁束密度 ガウス 厚さ 0.5mm 直径 25 mm ラバーマグネットに吸着させる板: 材質 鉄板 厚さ 0.2mm 結果: 吸盤 ラバーマグネット 面に垂直方向 最大150g 最大20g 面内に並行な方向 最大200g 最大 5g 吸着有効時間 最大 24時間 ほぼ半永久 (注)上記の測定は、吸盤の場合には、吸盤を板に吸着させた後、吸盤の後部中心部に具備された突起に固定された細い紐の端に荷重を順次載荷することにより行い、 ラバーマグネットの場合には、ラバーマグネットを鉄板に吸着させた後、ラバーマグネットの裏面に接着剤で固定された細い紐の端に荷重を順次載荷することにより行った。 吸着有効時間は、それぞれ、面に垂直方向の最大荷重の50%の荷重を載荷した状態で放置した場合に吸着状態が維持できる時間である。 【0029】 【実験2】本願発明の吸盤と板との吸着力と、その吸着有効時間を制御するために、実験1と同じ吸盤と板とを使用し、吸着される板の表面性状を変化させて、これらの特性を測定した。 その結果を下記に示す。 使用した板の表面性状は、入手された板の表面をサンドペーパーを使用して指先で所定の回数擦ったり、あるいは、ナイフの刃を使用して手の力で所定の本数の表面傷を作成することにより変化させた。 表面1: 使用サンドペーパー 番号 擦る回数 1回 2回 5回 表面2: 使用ナイフ 剃刀の刃 表面傷の本数 1本 2本 5本 表面傷の深さ 約0.01mm 結果:吸着力及び吸着有効時間(%)(対実験1) 表面1 表面2 1回 2回 5回 1本 2本 5本 面に垂直方向 70 50 10 85 60 10 面内に並行な方向 60 30 0 75 45 0 吸着有効時間 40 10 0 55 35 0 (注)表面傷の深さは、サンドペーパーによる表面傷の深さとの指の感触による相対的な比較から推定したものである。 【0030】 【発明の効果】本願発明によれば、中底を木型の底部に着脱自在に取付ける一手段として、木型に具備された吸盤とそれと相対する中底の表面に概平坦な平面を具備する構成とすることにより、従来の着脱自在の手段と比較して、木型の底部の表面と同一の表面内に中底が移動することに対する抵抗力が大幅に改善されたと共に、従来の着脱自在の手段の特徴、即ち、中底を木型に容易かつ迅速に取付けることができ、製造工程も大幅に短縮され、中底の位置がずれても、比較的容易に修正することができ、製品に傷や汚れが付く心配もなく、また、釘などを用いないので、釘の抜き忘れによるケガなどの危険性が全くなく、糊付け用の機械なども必要なく、設備コストも低減できる等の特徴を兼ね備えている。 更には、 吸盤とそれに相対する表面との組み合わせを適宜選択することにより、所定の時間の経過後に、その吸盤と表面とが自然に離れるという特徴も得られる。 【0031】 【図面の簡単な説明】 【図1】(a) 本願発明による靴の木型の一実施例を示す斜視図である。 (b) 本願発明による靴の中底の一実施例を示す斜視図である。 (c) 本願発明による吸盤の一実施例を示す斜視図である。 【図2】本願発明による靴の木型と中底の他の実施例を示す斜視図である。 【図3】(a) 本願発明による靴の木型と中底の一実施例の内、着脱手段として吸盤の代わりに、吸引ポンプに連通された開口を有する実施例を示す斜視図である。 (b) 図3(a)に図示された靴の木型の底面の平面図である。 (c) 本願発明の靴の中底の全面に亘って概平坦な表面を有する中底の一実施例を示す斜視図である。 【符号の説明】 23,24 概平坦な面を有する板 25 吸盤 26 吸盤の円錐状吸着部 31 靴の木型 32 木型本体 32a 木型の底部 32b 鉄板 33,34 吸盤 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【手続補正書】 【提出日】平成10年3月2日 【手続補正1】 【補正対象書類名】明細書 【補正対象項目名】図面の簡単な説明 【補正方法】変更 【補正内容】 【図面の簡単な説明】 【図1】(a) 本願発明による靴の木型の一実施例を示す斜視図である。 (b) 本願発明による靴の中底の一実施例を示す斜視図である。 (c) 本願発明による吸盤の一実施例を示す斜視図である。 【図2】本願発明による靴の木型と中底の他の実施例を示す斜視図である。 【図3】(a) 本願発明による靴の木型と中底の一実施例の内、着脱手段として吸盤の代わりに、吸引ポンプに連通された開口を有する実施例を示す斜視図である。 (b) 図3(a)に図示された靴の木型の底面の平面図である。 (c) 本願発明の靴の中底の全面に亘って概平坦な表面を有する中底の一実施例を示す斜視図である。 【図4】靴の一般的な製造工程を示す斜視図である。 【符号の説明】 23,24 概平坦な面を有する板 25 吸盤 26 吸盤の円錐状吸着部 31 靴の木型 32 木型本体 32a 木型の底部 32b 鉄板 33,34 吸盤 |